(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】レーダー装置
(51)【国際特許分類】
G01S 13/76 20060101AFI20221214BHJP
G01S 7/292 20060101ALI20221214BHJP
G01S 13/30 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
G01S13/76
G01S7/292 200
G01S13/30
(21)【出願番号】P 2019013806
(22)【出願日】2019-01-30
【審査請求日】2021-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【氏名又は名称】山下 未知子
(72)【発明者】
【氏名】石橋 達也
(72)【発明者】
【氏名】中谷 文弥
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/129459(WO,A1)
【文献】特開2016-024173(JP,A)
【文献】特開2011-013183(JP,A)
【文献】特開平10-054873(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108693527(CN,A)
【文献】特開2011-153959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
13/00 - 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1パルス信号と、前記第1パルス信号よりもパルス幅の広い第2パルス信号とを送信する送信部と、
前記第1パルス信号の反射信号を含む第1受信信号と、前記第2パルス信号の反射信号を含む第2受信信号とを受信する受信部と、
距離方向の少なくとも一部の第1区間において、前記第1受信信号の信号強度と前記第2受信信号の信号強度とを比較し、前記比較の結果に基づいて、表示信号を生成する映像生成部と
を備
え、
前記映像生成部は、さらに、前記第1区間よりも送信位置に近い第2区間において、前記第1受信信号と前記第2受信信号とを重み付け加算して生成した合成信号の信号強度と、前記第1受信信号の信号強度とを比較し、前記比較の結果に基づいて、前記表示信号を生成する、
レーダー装置。
【請求項2】
前記映像生成部は、前記第1区間において、前記第1受信信号及び前記第2受信信号のうち信号強度の大きい方に基づいて、前記表示信号を生成する、
請求項1に記載のレーダー装置。
【請求項3】
前記合成信号は、前記第1受信信号と前記第2受信信号とのそれぞれに距離に応じた重みを付けて両者を加算することにより生成された信号である、
請求項1又は2に記載のレーダー装置。
【請求項4】
前記映像生成部は、前記第2区間において、前記合成信号及び前記第1受信信号のうち信号強度の大きい方に基づいて、前記表示信号を生成する、
請求項3に記載のレーダー装置。
【請求項5】
前記第1パルス信号は、トランスポンダが応答信号を返す2μs未満のパルス幅を有し、前記第2パルス信号は、2μs以上のパルス幅を有する、
請求項1から4のいずれかに記載のレーダー装置。
【請求項6】
前記送信部は、設置面上に設置され、前記設置面に対して平行な面内を回転するアンテナを介して送信する、
請求項1から5のいずれかに記載のレーダー装置。
【請求項7】
前記レーダー装置は、固体化レーダーである、
請求項1から6のいずれかに記載のレーダー装置。
【請求項8】
第1パルス信号と、前記第1パルス信号よりもパルス幅の広い第2パルス信号とを送信することと、
前記第1パルス信号の反射信号を含む第1受信信号と、前記第2パルス信号の反射信号を含む第2受信信号とを受信することと、
距離方向の少なくとも一部の第1区間において、前記第1受信信号の信号強度と前記第2受信信号の信号強度とを比較する
第1の比較を実施することと、
前記第1区間よりも送信位置に近い第2区間において、前記第1受信信号と前記第2受信信号とを重み付け加算して生成した合成信号の信号強度と、前記第1受信信号の信号強度とを比較する第2の比較を実施することと、
前記
第1および第2の比較の結果に基づいて、表示信号を生成することと
を含む、レーダー映像生成方法。
【請求項9】
第1パルス信号と、前記第1パルス信号よりもパルス幅の広い第2パルス信号とを送信することと、
前記第1パルス信号の反射信号を含む第1受信信号と、前記第2パルス信号の反射信号を含む第2受信信号とを受信することと、
距離方向の少なくとも一部の第1区間において、前記第1受信信号の信号強度と前記第2受信信号の信号強度とを比較する
第1の比較を実施することと、
前記第1区間よりも送信位置に近い第2区間において、前記第1受信信号と前記第2受信信号とを重み付け加算して生成した合成信号の信号強度と、前記第1受信信号の信号強度とを比較する第2の比較を実施することと、
前記
第1および第2の比較の結果に基づいて、表示信号を生成することと
をコンピュータに実行させる、レーダー映像生成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダー装置、並びにレーダー映像生成方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電波資源の有効利用の観点から、マグネトロン等の電子管の代わりに、半導体増幅器(固体素子)を使用した固体化レーダー装置が開発されている。固体化レーダー装置は、狭帯域化の他に、小型化、メンテナンスフリー等の利点があることから、今後、普及することが想定される。固体化レーダー装置は、電子管を使用したレーダー装置に比べて送信電力が小さいので、遠位からの反射信号のS/N(信号対ノイズ)比が低下する(探知性能が劣化する)。この点を補うため、周波数変調されたパルス幅の大きいパルス信号(以下、「変調パルス信号」という)を送信し、目標からの反射信号をパルス圧縮処理することにより、遠位からの反射信号のS/N比を改善する処理が施される(非特許文献1)。
【0003】
一方、1つのアンテナで送受信を切り替える方式のレーダー装置の場合、送信パルス信号が直接受信機に回り込むので、送信中に受信を行うことができない。また、パルス幅が広いと、その分反射信号を受信できない不感地帯がレーダー装置の近傍領域に生じる。そこで、この近傍領域における探知性能を改善するため、パルス幅の広い変調パルス信号とパルス幅の狭い無変調パルス信号とを周期的に交互に送信する方法が考案されている。このようなレーダー装置の場合、自身から近距離の区間においては無変調パルス信号の反射信号に基づいてレーダー映像が生成され、自身から遠距離の区間においては変調パルス信号の反射信号に基づいてレーダー映像が生成される。
【0004】
ところで、狭水道や陸岸に接近した主要航路の航路ブイ等には、レーダビーコン(以下、「レーコン」という)が設置されている。レーコンは、船舶に搭載されたレーダー装置からパルス信号を受信すると、受信したパルス信号と同じ周波数の応答信号を送信する。この応答信号は、振幅変調によりモールス符号化されており、レーダー映像には、レーコンのエコーと共に、当該エコーから距離方向に当該モールス符号化された応答信号が表示される(
図1A参照)。そのため、船員は、輻輳する海況においても、レーダー映像から航路ブイ等を正確に把握することができる。以上のように、レーコンは、船舶の航行を補助する重要な役割を担っている。
【0005】
しかし、上記した変調パルス信号に対するレーコンからの応答信号に基づくエコーは、パルス圧縮処理によりレーダー映像上で距離方向に延びてしまい、正常に表示されない傾向がある。そのため、特許文献1に記載の固体化レーダー装置では、以下の手法を提案している。この固体化レーダー装置は、受信信号に含まれるレーコンからの応答信号の有無を検出し、レーコンの応答信号が含まれる方位に対しては、レーダー映像上でパルス幅の狭い無変調パルス信号に基づく領域を延長することで、レーコンの応答信号を正常表示させる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】吉田孝監修、「改訂 レーダ技術」、社団法人電気通信学会、平成11年5月25日発行、p275-280
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、レーコンは、仕様にもよるが、パルス幅の広いパルス信号、典型的には2μs以上のパルス幅を有するパルス信号には反応しないことがある。そのため、レーコンは、比較的パルス幅の狭い無変調パルス信号には反応するが、これよりもパルス幅の広い変調パルス信号には反応しないことがしばしばある。このような場合には、
図1Bに示すように、レーダー映像上の変調パルス信号に対応する遠距離領域において、レーコンの応答信号が得られず、これが表示されない事態となる。なお、特許文献1に記載の固体化レーダー装置は、受信信号からレーコンの応答信号を検出することにより、レーコンの応答信号を正常表示させる技術であるため、そもそもレーコンから応答信号が返ってこないことで生じる以上の問題を解決することができない。
【0009】
本発明の目的の1つは、レーコンのようなトランスポンダからの応答信号をより確実に受信し、これをレーダー映像上に表示することができるレーダー装置、並びにレーダー映像生成方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
レーダー装置が提供される。前記レーダー装置は、第1パルス信号と、前記第1パルス信号よりもパルス幅の広い第2パルス信号とを送信する送信部と、前記第1パルス信号の反射信号を含む第1受信信号と、前記第2パルス信号の反射信号を含む第2受信信号とを受信する受信部と、距離方向の少なくとも一部の第1区間において、前記第1受信信号の信号強度と前記第2受信信号の信号強度とを比較し、前記比較の結果に基づいて、表示信号を生成する映像生成部とを備える。
【0011】
前記映像生成部は、前記第1区間において、前記第1受信信号及び前記第2受信信号のうち信号強度の大きい方に基づいて、前記表示信号を生成してもよい。
【0012】
前記映像生成部は、前記第1区間よりも送信位置に近い第2区間において、前記第1受信信号と前記第2受信信号との合成信号の信号強度と、前記第1受信信号の信号強度とを比較し、前記比較の結果に基づいて、前記表示信号を生成してもよい。
【0013】
前記映像生成部は、前記第2区間において、前記合成信号及び前記第1受信信号のうち信号強度の大きい方に基づいて、前記表示信号を生成してもよい。
【0014】
前記第1パルス信号は、トランスポンダが応答信号を返す2μs未満のパルス幅を有し、前記第2パルス信号は、2μs以上のパルス幅を有していてもよい。
【0015】
前記送信部は、設置面上に設置され、前記設置面に対して平行な面内を回転するアンテナを介して送信してもよい。
【0016】
前記レーダー装置は、固体化レーダーであってもよい。
【0017】
以下のことを含むレーダー映像生成方法、及び以下のことをコンピュータに実行させるレーダー映像生成プログラムが提供される。
・第1パルス信号と、前記第1パルス信号よりもパルス幅の広い第2パルス信号とを送信すること
・前記第1パルス信号の反射信号を含む第1受信信号と、前記第2パルス信号の反射信号を含む第2受信信号とを受信すること
・距離方向の少なくとも一部の第1区間において、前記第1受信信号の信号強度と前記第2受信信号の信号強度とを比較すること
・前記比較の結果に基づいて、表示信号を生成すること
【発明の効果】
【0018】
レーコンのようなトランスポンダは、パルス信号のパルス幅によっては、受信したパルス信号に反応せず、応答信号を発信しないことがある。この場合、レーダー装置は、トランスポンダからの応答信号を受信することができず、応答信号をレーダー映像上に表示することができない。しかし、本発明によれば、パルス幅の異なるパルス信号が送信され、それぞれの反射信号を含む受信信号どうしの信号強度が比較され、その比較の結果に基づいてレーダー映像の表示信号が生成される。つまり、レーダー装置が送信するパルス幅の異なるパルス信号に、レーコンのようなトランスポンダが反応しないものが含まれるとしても、トランスポンダからの応答信号を含む受信信号に基づいて表示信号を生成することができる。よって、レーダー装置において、レーコンのようなトランスポンダからの応答信号をより確実に受信し、これをレーダー映像上に表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】従来技術に係るレーコンの応答信号を表すレーダー映像を説明する図。
【
図1B】別の従来技術に係るレーコンの応答信号を表すレーダー映像を説明する図。
【
図2】本発明の一実施形態に係るレーダー装置の全体構成図。
【
図3】レーダー映像の生成処理に係る主要部分の構成図。
【
図4】第1映像データに基づくレーダー映像を示す図。
【
図5】(A)第1エコーデータの波形のグラフ。(B)第2エコーデータの波形のグラフ。(C)第1映像データの波形のグラフ。(D)第2映像データの波形のグラフ。
【
図6】第2映像データに基づくレーダー映像を示す図。
【
図7】レーダー映像の生成処理の流れを示すフローチャート。
【
図8】変形例に係る第1映像データを生成するための第1エコーデータ及び第2エコーデータの混合割合を説明するグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係るレーダー装置、並びにレーダー映像生成方法及びプログラムについて説明する。
【0021】
<1.レーダー装置の構成>
図2に、本実施形態に係るレーダー装置1の全体構成図を示す。レーダー装置1は、船舶の航行を支援するための装置であり、船舶に搭載される。本実施形態のレーダー装置1は、マグネトロン等の電子管の代わりに、半導体増幅器(固体素子)を使用した固体化レーダー装置であり、狭帯域化、小型化、メンテナンスフリー等の利点を有する。
【0022】
図2に示すように、レーダー装置1は、レーダーアンテナ10と、これにサーキュレータ11を介して接続される送信機2及び受信機3と、送信機2及び受信機3にさらに接続されるレーダー指示器20とを備える。レーダーアンテナ10は、レーダー装置1の設置面に対して平行な面内を回転しながら、パルス状の電波を送信してその物標での反射波を受信する動作を繰り返し行い、これにより自船の周囲を360°スキャンする。レーダーアンテナ10は、送受信で共用され、サーキュレータ11の3つのポートには、送信機2、レーダーアンテナ10、及び受信機3が接続される。レーダー指示器20は、表示部21、入力部22、記憶部23及び制御部24を備える。これらの部21~24は、相互にバス線を介して通信可能に接続されている。
【0023】
表示部21は、主として船員であるユーザーに対し各種情報を提示するための画面を表示するユーザーインターフェースであり、本実施形態では、液晶ディスプレイから構成される。入力部22は、ユーザーからのレーダー指示器20に対する各種操作を受け付けるユーザーインターフェースであり、キーボード、トラックボール及び表示部21上に重ねられるタッチパネル等から構成される。
【0024】
記憶部23は、ハードディスクやフラッシュメモリ等から構成される不揮発性の記憶装置である。制御部24は、CPU30、ROM31及びRAM32等から構成される。ROM31内には、CPU30に各種動作を実行させるプログラム40が格納されている。CPU30は、ROM31内のプログラム40を読み出して実行することにより、仮想的に送信制御部24a、信号処理部24b、パルス合成部24c、比較部24d及び描画部24e(
図3参照)として動作する。これらの部24a~24eの動作の詳細については、後述する。なお、プログラム40は、ROM31内ではなく記憶部23内に格納されていてもよいし、記憶部23及びROM31の両方に分散して記憶されていてもよい。
【0025】
固体化レーダー装置であるレーダー装置1は、電子管を使用したレーダー装置に比べて送信電力が小さい。よって、レーダー装置1は、遠位からの反射信号のS/N比が低下するのを補うため、周波数変調されたパルス幅の広い変調パルス信号を送信し、それによって得られた受信信号に対してパルス圧縮処理を施す。より具体的には、受信信号に対して変調パルス信号に対応したマッチドフィルタによって相関がとられ、相関値のピーク波形が検出される。ただし、パルス幅が広い変調パルス信号では、レーダー装置1の近傍が不感地帯になる。レーダー装置1は、この領域での探知性能を確保するため、パルス幅の広い変調パルス信号と、周波数変調されておらずこれよりもパルス幅の狭い無変調パルス信号とを周期的に交互に送信する。これに限定されないが、本実施形態では、無変調パルス信号は、P0Nと呼ばれる型式の電波として実装され、変調パルス信号は、Q0Nと呼ばれる型式の電波として実装される。これに限定されないが、本実施形態では、無変調パルス信号のパルス幅は、0.1μ秒から1μ秒程度であり、変調パルス信号のパルス幅は、数μ秒から数十μ秒程度である。例えば、変調パルス信号のパルス幅が10μ秒であれば、レーダー装置1から約1500mの範囲が不感地帯となる。詳細は後述するが、本実施形態で生成されるレーダー映像は、近距離領域については、主として無変調パルス信号の反射信号の信号強度に基づき、遠距離領域については、主として変調パルス信号の反射信号の信号強度に基づく。なお、ここでの説明において、「近い」及び「遠い」は、特に断らない限り、レーダー装置1(パルス信号の送信位置)を基準とする。
【0026】
図3は、レーダー映像の生成処理を行う主要部分の構成図である。送信制御部24aは、送信機2の動作を制御して、変調パルス信号の送受信期間と無変調パルス信号の送受信期間とを制御する。送信機2は、D/A変換器、送信信号を所望の周波数帯域までアップコンバートするミキサ及びこれを増幅するアンプ等から構成される。送信機2により生成されたパルス信号は、サーキュレータ11を介してレーダーアンテナ10へ供給される。レーダーアンテナ10は、ビーム指向性を持って回転する。これにより、送信機2は、レーダーアンテナ10を介して、変調パルス信号と無変調パルス信号とを、レーダー装置1を中心とする周方向の様々な方位に順次交互に送信する。
【0027】
受信機3は、受信信号を増幅するアンプ、受信信号に含まれる所望の周波数帯域の信号をダウンコンバートするミキサ、ダウンコンバートされた信号を直交検波して複素信号を出力する各種フィルタ(LPF)及びA/D変換器等から構成される。受信機3は、レーダーアンテナ10を介して、無変調パルス信号の受信期間(以下、第1受信期間という)に受信される無変調パルス信号の反射信号を含む受信信号(以下、第1受信信号という)と、変調パルス信号の受信期間(以下、第2受信期間という)に受信される変調パルス信号の反射信号を含む受信信号(以下、第2受信信号という)とを、レーダー装置1を中心とする周方向の様々な方位から順次交互に受信する。なお、レーダーアンテナ10からのパルス信号を受信したレーコンが応答信号を発信した場合、受信機3へ入力される受信信号には、レーコンの応答信号が含まれる。ここで、周波数アジャイル型のレーコンは、レーダー装置からパルス信号を受信すると、受信したパルス信号と同じ周波数の応答信号を送信する。この応答信号は、振幅変調によりモールス符号化されている。レーコンは、仕様にもよるが、主として、典型的には2μs未満の狭いパルス幅を有するパルス信号には反応するが、2μs以上の広いパルス幅を有するパルス信号には反応しない。このようなレーコンは、本実施形態に係る無変調パルス信号には応答信号を返すが、これよりもパルス幅の広い変調パルス信号には応答信号を返さない。よって、第1受信期間の第1受信信号には、レーコンの応答信号が含まれるが、第2受信期間の第2受信信号の受信信号には、レーコンの応答信号が含まれないことが起こり得る。
【0028】
信号処理部24bは、無変調パルス信号のパルス幅の逆数程度に相当する周波数幅の通過帯域を有するフィルタ等(例えば、LPF又はBPF)を含む。信号処理部24bは、以上のフィルタ等により第1受信期間の第1受信信号に対し信号処理を施し、エコーデータを抽出する。第1受信信号に基づくエコーデータ(以下、第1エコーデータという)は、主として近距離領域の映像データを生成するために使用される。しかしながら、無変調パルス信号は、近距離領域だけでなく遠距離領域もカバーするように送受信され、第1エコーデータは、近距離領域だけでなく遠距離領域にも相当する長さ分、抽出される。
【0029】
また、信号処理部24bは、変調パルス信号と相関の高い係数が設定されたマッチドフィルタを含む。信号処理部24bは、マッチドフィルタ等により第2受信期間の第2受信信号に対しパルス圧縮を含む信号処理を施し、エコーデータを抽出する。第2受信信号に基づくエコーデータ(以下、第2エコーデータという)は、主として遠距離領域の映像データを生成するために使用される。パルス圧縮される第2受信信号は、変調パルス信号の反射波であるので、マッチドフィルタによって変調パルス信号のエコーに対してピークを示す。すなわち、変調パルス信号のパルス幅に相当する長いパルス幅を有するエコーがパルス圧縮された1つのピーク波形に変換される。パルス圧縮されたピーク波形は、変調パルス信号のパルス幅に応じたピークレベルを示す。変調パルス信号は、無変調パルスに比べてパルス幅が長いので、S/N比が改善される。
【0030】
パルス合成部24cは、信号処理部24bから出力される第1エコーデータと、第2エコーデータとを合成する。このとき、第1エコーデータが近距離領域用の映像データを形成し、第2エコーデータが遠距離領域用の映像データを形成するように、この2種類のエコーデータが合成される。パルス合成部24cは、各方位について、第1エコーデータ及び第2エコーデータのうち、距離方向の所定の近距離の区間においては第1エコーデータのみを用いて、距離方向に所定の遠距離の区間においては第2エコーデータのみを用いて、映像データV1(レーダー映像の表示信号)を生成する(
図4参照)。ここでいう所定の近距離の区間とは、レーダー映像の中心を含む区間であり、凡そ変調パルス信号の不感地帯に一致するように設定される。一方、ここでいう所定の遠距離の区間とは、所定の近距離の区間に重ならず、距離方向に所定の近距離の区間の外側に隣接する区間である。以下、パルス合成部24cにより生成される映像データを、第1映像データV1という。
図4のレーダー映像では、船舶のエコーがE1として表され、レーコンのエコーがE2として表され、レーコンの応答信号がE3として表されている。
【0031】
図5(C)は、レーダー装置1を中心として
図4に矢印D1で示される方位の第1映像データV1の波形を示している。また、
図5(A)及び
図5(B)は、それぞれ、
図5(C)の第1映像データV1の基になった第1エコーデータ及び第2エコーデータの波形を示している。既に説明したとおりであるが、
図5(B)に示すように、第2エコーデータでは、近距離領域に存在する物標を捉えることができず、さらにレーコンの応答信号を捉えることができない。一方、
図5(A)に示すように、第1エコーデータでは、第2エコーデータに比べ、遠距離領域においてS/N比が低下し、物標が小さく写る。これに対し、第1映像データV1では、近距離領域の物標を写すことができるとともに、遠距離領域におけるS/N比が改善される。
【0032】
しかしながら、第1映像データV1では、
図4及び
図5(C)に示すとおり、遠距離領域においてレーコンの応答信号を捉えることができてない。
図4及び
図5(C)では、レーコンが応答信号を返していた場合に写ったはずの応答信号を点線で示している。よって、このままでは、遠位におけるレーコンの存在を船員が正確に把握することができない。
【0033】
そのため、本実施形態では、第1映像データV1と第1エコーデータとを合成した第2映像データV2(レーダー映像の表示信号)が生成される。より具体的には、比較部24dは、各方位について、遠距離の区間においては、第1映像データV1の信号強度と第1エコーデータの信号強度とを比較し、この比較の結果に基づいて、第2映像データV2を生成する。このとき、遠距離の区間における距離方向の各位置について、第1映像データV1の信号強度と第1エコーデータの信号強度とが比較され、両者のうち大きい方に基づいて表示信号が生成される。すなわち、遠距離の区間における距離方向の各位置について、第1映像データV1の信号強度又は第1エコーデータの信号強度のいずれが大きいかを判断し、大きい方の信号強度のデータを距離方向に連結することにより、遠距離の区間における第2映像データV2が生成される。一方、近距離の区間における第2映像データV2としては、同区間における第1映像データV1がそのまま流用される。
【0034】
なお、ここで比較される信号強度は、必ずしも絶対的な信号強度を意味するのではなく、エコー映像に変換したときのエコー映像の強さを基準とする相対的な信号強度を意味し得る。すなわち、無変調パルス信号と変調パルス信号とは、たとえ尖頭電力が同じであっても、後者はパルス圧縮される。例えばこのような事情から、異なる種類の信号間で絶対的な信号強度を比較しても、エコー映像の強さは比較できない。これに対し、ここでいう信号強度とは、比較される信号から変換される表示信号が表すエコー映像の強さを基準とする信号強度である。例えば、比較される信号を、0~255の表示信号に変換する場合を例にすると、この0~255の値により示されるエコー映像の強さに基づき比較することができる。また、S/N比のよりよい方を、信号強度が強いと判断することもできる。
【0035】
図5(D)は、
図5(A)及び(C)の第1エコーデータと第1映像データV1とを合成したときの第2映像データV2の波形を示す。また、
図6は、
図4の第1映像データV1に以上の処理を施した後の第2映像データV2に基づくレーダー映像を示す。
図5(D)及び
図6から分かるように、第2映像データV2では、第1エコーデータに基づいて近距離領域に存在する物標を捉えることができており、さらに近距離領域であるか遠距離領域であるかに関わらず、第1エコーデータに基づいてレーコンの応答信号を捉えることに成功している。一方、遠距離領域に存在する物標は第2エコーデータに基づいて捉えられるため、遠距離領域におけるS/N比が向上している。
【0036】
以上のとおり、第2映像データV2は、近距離領域においては、第1映像データV1に基づいて、遠距離領域においては、第1映像データV1及び第1エコーデータのうち信号強度が大きい方のデータに基づいて、生成される。なお、近距離の区間における第1映像データV1とは、第1エコーデータに他ならない。よって、実質的に、近距離の区間においては、第2エコーデータが使用されることなく、第1エコーデータの信号強度に基づいて、第2映像データV2が生成される。既に述べた通り、近距離の区間は、第2エコーデータの不感地帯に相当するからである。また、遠距離領域における第1映像データV1とは、第2エコーデータに他ならない。よって、実質的に、遠距離領域においては、第1エコーデータと第2エコーデータとが比較され、第1エコーデータと第2エコーデータのうち信号強度が大きい方に基づいて第2映像データV2が生成される。
【0037】
第2映像データV2が生成されると、描画部24eは、比較部24dから出力される第2映像データV2を、極座標系(rθ座標系)から直交座標系(XY座標系)のデータに変換しながら表示部21へ転送する。表示部21は、描画部24eから入力される第2映像データV2に基づいて、レーダー映像を表示する。
【0038】
<2.レーダー映像の生成処理>
以上のとおり、信号処理部24b、パルス合成部24c、比較部24d及び描画部24eは、協働して、受信機3により受信された第1受信信号及び第2受信信号に基づき、レーダー映像を生成する映像生成部26として動作する。以下、
図7を参照しつつ、上述した映像生成部26によるレーダー映像の生成処理の流れについてまとめる。
【0039】
まず、ステップS1として、信号処理部24bは、ある方位Dtに対応する第1受信期間に受信された第1受信信号を取得し、これに適宜信号処理を施し、第1エコーデータを生成する。ステップS1と実質的に並列に実行されるステップS2では、信号処理部24bは、実質的に同じ方位Dtに対応する第2受信期間に受信された第2受信信号を取得し、これに適宜信号処理を施し、第2エコーデータを生成する。
【0040】
続くステップS3では、パルス合成部24cが、方位Dtに対応する第1エコーデータ及び第2エコーデータに基づいて、方位Dtの距離方向に沿って延びる第1映像データV1を生成する。第1映像データV1のうち、方位Dtの距離方向に沿って近距離の区間に相当する表示信号は、第1エコーデータの信号強度に応じて決定される。一方、第1映像データV1のうち、方位Dtの距離方向に沿って遠距離の区間に相当する表示信号は、第2エコーデータの信号強度に応じて決定される。なお、表示信号の値は、その基になるエコーデータの信号強度が大きい程、画面上にはっきりと又は濃く表示されるように決定される。なお、既に述べたとおり、表示信号が同じ値になるとしても、その基になる第1エコーデータの信号強度と、第2エコーデータの信号強度の絶対値が同じであるとは限らない。
【0041】
続くステップS4では、比較部24dが、方位Dtに対応する第1映像データV1及び第1エコーデータに基づいて、方位Dtの距離方向に沿って延びる第2映像データV2を生成する。第2映像データV2のうち、方位Dtの距離方向に沿って近距離の区間に相当する部分は、同区間の第1映像データV1、すなわち、同区間の第1エコーデータが流用される。すなわち、第2映像データV2のうち、方位Dtの距離方向に沿って近距離の区間に相当する表示信号は、第1映像データV1の信号強度、すなわち、第1エコーデータの信号強度に応じて決定される値となる。一方、第2映像データV2のうち、方位Dtの距離方向に沿って遠距離の区間に相当する表示信号は、第1映像データV1の信号強度、すなわち、第2エコーデータの信号強度と、第1エコーデータの信号強度との比較により決定される。より具体的には、同表示信号は、両信号強度の比較の結果、より大きい方の信号強度に応じて決定される。なお、表示信号の値は、その基になる映像データの信号強度が大きい程、画面上にはっきりと又は濃く表示されるように決定される。
【0042】
続くステップS5では、描画部24eが、ステップS4で生成された方位Dtの第2映像データV2を、極座標系のデータから直交座標系のデータに変換する。そして、続くステップS6において、描画部24eは、変換後の方位Dtの第2映像データV2に基づいて、表示部21上に表示されるレーダー映像のうち方位Dtに沿って延びる領域の映像を更新する。
【0043】
以上のステップS1~S6の処理は、例えば入力部22を介してユーザーからレーダー映像の表示の終了が命令されるまで、次の方位に対して繰り返し実行される(ステップS7及びステップS8)。なお、次の方位とは、現在の方位からレーダーアンテナ10の回転方向に隣接する方位である。レーダー映像の表示の終了が命令されると、本処理は終了する。
【0044】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0045】
<3-1>
上記実施形態では、映像生成部26によるレーダー映像の生成処理は、プログラム40を実行するCPU30によりデジタル処理された。しかしながら、これらの全部又は一部の処理は、CPUに限らず、FPGA(field-programmable gate array)により実行することもできるし、アナログ回路によりアナログ処理してもよい。
【0046】
<3-2>
上記実施形態では、近距離領域においては、第1エコーデータに基づいて第2映像データV2が生成され、遠距離領域においては、第1エコーデータと第2エコーデータとが比較され、第1エコーデータと第2エコーデータのうち信号強度が大きい方に基づいて第2映像データV2が生成された。しかしながら、距離方向の全区間において、第1エコーデータと第2エコーデータとが比較され、第1エコーデータと第2エコーデータのうち信号強度が大きい方に基づいて第2映像データV2が生成されてもよい。近距離領域においては、通常、第1エコーデータの信号強度が第2エコーデータの信号強度を上回るため、この場合も、最終的に実質的に同様のレーダー映像が得られる。
【0047】
<3-3>
上記実施形態では、第1映像データV1が、近距離の区間においては、第1エコーデータに基づき、遠距離の区間においては、第2エコーデータに基づき生成された。しかしながら、レーダー映像上で第1エコーデータに基づく映像と第2エコーデータに基づく映像とを突然切り替えると、両映像の境目が目立ち、全体として不自然なレーダー映像が生成され得る。そこで、この不自然な境目をなくするために、第1映像データV1を以下のように生成することができる。すなわち、第1映像データV1を、近距離の区間においては、第1エコーデータに基づき、中距離の区間においては、第1エコーデータと第2エコーデータとの合成信号に基づき、遠距離の区間においては、第2エコーデータに基づき生成することができる。なお、ここでいう中距離の区間は、距離方向に遠距離の区間よりもレーダー映像の中心に近く、近距離の区間よりもレーダー映像の中心から遠い区間であり、これらの3つの区間は互いに隣接しており、重ならない。中距離の区間用の第1エコーデータと第2エコーデータとの合成信号は、距離に応じた重みを付けて両データを加算することにより生成することができる。
図8は、この重み付け加算に使用可能な重み(混合比率)を表すグラフである。
【0048】
本変形例において、各方位の第2映像データV2(レーダー映像の表示信号)を生成するに際しては、例えば、比較部24dは、遠距離及び中距離の区間において、第1映像データV1の信号強度と第1エコーデータの信号強度とを比較し、大きい方の信号強度に基づいて、表示信号を生成することができる。この場合、中距離の区間においては、第1映像データV1の信号強度、すなわち、第1エコーデータと第2エコーデータとの合成信号の信号強度と、第1エコーデータの信号強度とのうち、大きい方に応じて第2映像データV2の表示信号が生成されることになる。一方、遠距離の区間においては、実質的に、上記実施形態と同様に、第1エコーデータの信号強度と、第2エコーデータの信号強度のうち、大きい方に応じて第2映像データV2の表示信号が生成されることになる。
【0049】
<3-4>
上記実施形態では、各方位の遠距離の区間の(変形例3-3では、これと中距離の区間の)第2映像データV2を生成するに際し、第1エコーデータと第1映像データV1の信号強度を比較し、大きい方取りを行うことにより表示信号が生成された。しかしながら、各方位の同区間について、第1エコーデータと第1映像データV1とを比較し、この比較の結果、大きい方の混合割合が大きくなるように両データを加算することにより、第2映像データV2の表示信号を生成してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 レーダー装置
2 送信機(送信部)
3 受信機(受信部)
10 レーダーアンテナ
11 サーキュレータ
20 レーダー指示器
21 表示部
22 入力部
23 記憶部
24 制御部
30 CPU
31 ROM
32 RAM
24a 送信制御部
24b 信号処理部
24c パルス合成部
24d 比較部
24e 描画部
26 映像生成部
E1 船舶のエコー
E2 レーコンのエコー
E3 レーコンの応答信号
V1 第1映像データ
V2 第2映像データ