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  • 特許-電力変換装置、及びその脱調判定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】電力変換装置、及びその脱調判定方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20221214BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M7/48 F
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019017610
(22)【出願日】2019-02-04
(65)【公開番号】P2020127275
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高貫 晃洋
(72)【発明者】
【氏名】田島 清巳
【審査官】土井 悠生
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-017195(JP,A)
【文献】特開平04-190687(JP,A)
【文献】特開2014-040786(JP,A)
【文献】特開2011-017346(JP,A)
【文献】特開2001-313192(JP,A)
【文献】国際公開第2015/029147(WO,A1)
【文献】特開2007-006698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00-7/98
F04B 49/00-51/00
F04D 15/00-15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源の交流電圧を直流電圧に変換する整流器と、
前記整流器が整流した直流電圧を平滑する平滑コンデンサと、
前記平滑コンデンサの両端の直流電圧を交流電圧に変換するインバータ部と、
前記インバータ部を制御するインバータ制御部と、
を備え、
前記インバータ制御部は、
前記インバータ部のスイッチング動作を制御するPWM制御部と、
前記インバータ部の出力によって駆動される回転機に接続された流体機械の流体機械上位装置が要求する圧力指令を基に速度指令を生成する速度指令部と、
前記平滑コンデンサの電圧の直流電圧検出値と、前記圧力指令と、前記速度指令とを基に前記回転機の脱調判定を行う脱調判定部と、
を具備し、
前記脱調判定部の脱調判定によって前記PWM制御部のPWM制御信号を遮断する、
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記速度指令部は、前記圧力指令を基に前記速度指令を生成する際に、比例制御または積分制御を行うこと、
を特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記平滑コンデンサの直流電圧を検出する直流電圧検出部を備え、
前記直流電圧検出部は、複数の抵抗素子を有する分圧抵抗器と、前記抵抗素子に並列に接続されたコンデンサを具備する、
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項1において、
インバータ制御部は、
外部より設定される脱調判定処理設定値群の判定速度指令、判定圧力指令、脱調判定電圧、脱調判定時間を記憶する記憶部を具備し、
前記脱調判定部は、前記記憶部に格納された前記脱調判定処理設定値群の設定値を参照して、脱調判定を行う、
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記記憶部は、前記脱調判定処理設定値群の脱調判定回数を記憶し、
前記脱調判定部は、前記記憶部に格納された前記脱調判定回数を参照して、脱調判定を行う、
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項4において、
前記記憶部は、前記脱調判定処理設定値群の脱調判定積算値を記憶し、
前記脱調判定部は、前記記憶部に格納された前記脱調判定積算値を参照して、脱調判定を行う、
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項4乃至請求項6のいずれか一項において、
前記インバータ制御部は、設定入力部を具備し、
該設定入力部を介して、前記脱調判定処理設定値群を前記記憶部に設定する、
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項8】
請求項4乃至請求項6のいずれか一項において、
前記記憶部は、不揮発メモリで構成され、前記脱調判定処理設定値群を前記電力変換装置の外部で記憶されて前記インバータ制御部に具備される、
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項9】
請求項4乃至請求項6のいずれか一項において、
前記脱調判定部は、前記速度指令と前記圧力指令が前記記憶部に設定された前記判定速度指令と前記判定圧力指令とをそれぞれ超えた場合に、前記記憶部に設定された脱調判定電圧と脱調判定時間に従って、脱調判定を行う、
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項10】
請求項4乃至請求項6のいずれか一項において、
前記脱調判定部は、前記脱調判定処理設定値群の脱調判定電圧を受電電圧変動に伴い補正することを特徴とする電力変換装置。
【請求項11】
請求項1において、
前記インバータ部は、3相交流電圧を出力する、
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項12】
請求項1において、
前記インバータ制御部は、マイクロコンピュータ内部の処理で実施される、
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項13】
電力変換装置に備えられた速度指令部が、前記電力変換装置が駆動する回転機に接続された流体機械の流体機械上位装置が要求する圧力指令に基づき、速度指令を生成し、
前記電力変換装置に備えられた記憶部が、設定入力部より設定される脱調判定処理設定値群の判定速度指令、判定圧力指令、脱調判定電圧、脱調判定時間の諸判定条件を記憶し、
前記電力変換装置に備えられた脱調判定部が、電力変換装置の平滑コンデンサの電圧の直流電圧検出値と、前記記憶部に記憶された前記諸判定条件と、前記圧力指令と、前記速度指令とを参照して、前記回転機の脱調判定を行う、
ことを特徴とする電力変換装置の脱調判定方法。
【請求項14】
請求項13において、
前記脱調判定部の脱調判定によって、前記回転機の回転を制御するために前記電力変換装置に備えられたPWM制御部のPWM制御信号を遮断する、
ことを特徴とする電力変換装置の脱調判定方法。
【請求項15】
請求項13または請求項14おいて、
前記速度指令部は、前記圧力指令を基に前記速度指令を生成する際に、比例制御または積分制御を行うこと、
を特徴とする電力変換装置の脱調判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置、及びその脱調判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の誘導電動機に比べ高効率である永久磁石同期電動機が、産業分野へ普及している。永久磁石同期電動機は、回転子内の永久磁石の磁極位置に同期するように回転磁界を入力することで回転する。磁極位置と回転磁界が同期しない状態では回転せず、脱調状態となり制御不能となる。したがって、永久磁石同期電動機を運転制御するためには磁極位置検出が可能な電力変換装置が必要となる。
磁極位置検出の手段としては、例えば磁極位置センサがある。磁極位置センサとしてはエンコーダ、レゾルバ、ホール素子などがある。回転子の1回転あたり、少なくとも2回の位置情報を磁極位置センサにより検出し、電力変換装置に入力し磁極位置を認識しながら運転制御している。
【0003】
一方、近年では磁極位置センサを省いた磁極位置センサレス方式で運転制御している場合もある。磁極位置センサレス方式の場合、磁極位置を例えば検出電流の位相から推定しながら永久磁石同期電動機を制御しているため、負荷変動や重負荷時に電力変換装置の作る回転磁界に永久磁石同期電動機の回転子が同期できなくなり脱調状態となることがある。
磁極位置を推定する磁極位置センサレス方式で脱調状態となると、脱調を推定できない場合があるため、磁極位置センサレス方式を用いる場合には、確実に脱調を検出可能な電力変換装置が必要である。
【0004】
脱調を検出する従来技術として、特許文献1の請求項1の部分として、「前記磁極位置センサの検出信号に基づき求めた前記回転子の磁気軸の角度位置と前記回転磁界角の角度差が予め定めた設定値を越えたか否かを検出する脱調検出部」と記載され、モータの速度制御装置における脱調検出の技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2の請求項1の部分として、「該電圧指令と前記電流検出器で検出した電流とに基づいて制御軸と該同期電動機の回転子磁極軸との軸誤差を推定する軸誤差推定器と、前記軸誤差推定器で推定した軸誤差の任意の周波数成分を抽出する周波数成分抽出器と、前記周波数成分抽出器で抽出した周波数成分に基づいて脱調か否かを判断する脱調判断部」と記載され、電力変換装置における脱調判断に関する技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献3の請求項1の部分として、「始動時にロータの位置に対して最大のトルクを発生可能な位相の始動励磁パターンを初期通電時間だけ前記ブラシレスモータに通電して前記ロータの回転速度を除々に増大した後に、該通電を前記パルス変調信号のデューティを0%にすることにより停止して前記ブラシレスモータの前記ロータをフリーランさせる通電パターン決定手段と、フリーラン中にモータ端子に発生する誘起電圧からロータ位置を検出して励磁タイミングを決定する励磁切り替えタイミング演算手段」と記載され、ブラシレスモータの駆動装置における起動方法の技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献4の請求項1には、「回転機がフリーラン状態における該回転機の誘起電圧に基づき該回転機の回転速度、回転方向及び磁極位置の情報を持つデジタル信号を生成する周波数検出部と、前記周波数検出部にて生成した前記デジタル信号に基づき該回転機の回転速度、回転方向及び磁極位置を推定する速度再現器と、前記速度再現器にて推定した回転速度、回転方向及び磁極位置に基づき該回転機の脱調状態を判定する脱調判定部と、を備える電力変換装置」と記載され、電力変換装置を用いたフリーラン状態における脱調状態を判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-295886号公報
【文献】特開2014-147239号公報
【文献】特開2014-33616号公報
【文献】特開2017-28922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、脱調を検出するために磁極位置センサからPu、Pv、Pwの3つの信号を検出しており、三相の磁極位置が検出可能なセンサが必要となって、コストアップが避けられないという課題(問題)がある。
【0010】
また、特許文献2に開示された技術では、例えば印加電圧指令周波数の高調波成分により回転子が少しでも回転している場合、脱調を検出できない可能性があるという課題(問題)がある。
【0011】
また、特許文献3に開示された技術では、起動を安定化させるものであって起動時にインパクト負荷が加わった場合や、起動時以外の負荷変動により脱調が発生する可能性があるが、その検出手段を持っていない。また誘起電圧検出回路のコンパレータを3つ要しておりコストアップとなる課題(問題)がある。
【0012】
また、特許文献4に開示された技術は、起動、停止、フリーラン状態にて誘起電圧を検出し、再加速をするものであって、高速運転領域での再加速失敗時には誘起電圧が高いことから出力電流が高くなり設計値とおりの過電流レベルに収まらない恐れがある。そのため、有効な検出領域は低速運転領域に限定されるという課題(問題)がある。
【0013】
本発明は、前記した課題に鑑みて創案されたものであって、高速運転領域において、磁極位置検出センサや誘起電圧の検出回路を用いることなく、信頼性の高い脱調検出を可能にする電力変換装置、および電力変換装置の制御方法を提供することを課題(目的)とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の課題を解決するために、本発明を以下のように構成した。
すなわち、本発明の電力変換装置は、交流電源の交流電圧を直流電圧に変換する整流器と、前記整流器が整流した直流電圧を平滑する平滑コンデンサと、前記平滑コンデンサの両端の直流電圧を交流電圧に変換するインバータ部と、前記インバータ部を制御するインバータ制御部と、を備え、前記インバータ制御部は、前記インバータ部のスイッチング動作を制御するPWM制御部と、前記インバータ部の出力によって駆動される回転機に接続された流体機械の流体機械上位装置が要求する圧力指令を基に速度指令を生成する速度指令部と、前記平滑コンデンサの電圧の直流電圧検出値と、前記圧力指令と、前記速度指令とを基に前記回転機の脱調判定を行う脱調判定部と、を具備し、前記脱調判定部の脱調判定によって前記PWM制御部のPWM制御信号を遮断する、ことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の脱調判定方法は、電力変換装置に備えられた速度指令部が、前記電力変換装置が駆動する回転機に接続された流体機械の流体機械上位機器が要求する圧力指令に基づき、速度指令を生成し、前記電力変換装置に備えられた記憶部が、設定入力部より設定される脱調判定処理設定値群の判定速度指令、判定圧力指令、脱調判定電圧、脱調判定時間の諸判定条件を記憶し、前記電力変換装置に備えられた脱調判定部が、電力変換装置の平滑コンデンサの電圧の直流電圧検出値と、前記記憶部に記憶された前記諸判定条件と、前記圧力指令と、前記速度指令とを参照して、前記回転機の脱調判定を行う、ことを特徴とする。
【0016】
また、その他の手段は、発明を実施するための形態のなかで説明する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高速運転領域において、磁極位置検出センサや誘起電圧の検出回路を用いることなく、信頼性の高い脱調検出を可能にする電力変換装置、および電力変換装置の脱調判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態に係る電力変換装置の構成例と、交流電源、回転機、流体機械、流体機械上位装置、圧力検出部との関連の一例を示す図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る電力変換装置における直流電圧検出部の回路構成例を示す図である。
図3A】本発明の第1実施形態に係る直流電圧検出部において、回転機が定格負荷時で正常に動作している場合における直流電圧検出部の出力電圧の電圧波形例を示す図である。
図3B図3Aの電圧波形のリプル成分の部分を拡大して示した図である。
図4A】本発明の第1実施形態に係る直流電圧検出部において、回転機が定格負荷時で脱調して動作している場合における直流電圧検出部の出力電圧の電圧波形例を示す図である。
図4B図4Aの電圧波形のリプル成分の部分を拡大して示した図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る電力変換装置における脱調判定部の内部処理のフローチャート例を示す図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る電力変換装置における脱調判定部の内部処理のフローチャート例を示す図である。
図7】本発明の第3実施形態に係る電力変換装置における脱調判定部の内部処理のフローチャート例を示す図である。
図8A】本発明の第4実施形態に係る直流電圧検出部において、回転機が定格負荷時で正常に動作している場合における直流電圧検出部の出力電圧の電圧波形例を示す図である。
図8B図8Aの電圧波形のリプル成分の部分を拡大して示した図である。
図9A】本発明の第4実施形態に係る直流電圧検出部において、回転機が定格負荷時で脱調して動作している場合における直流電圧検出部の出力電圧の電圧波形例を示す図である。
図9B図9Aの電圧波形のリプル成分の部分を拡大して示した図である。
図10】本発明の第4実施形態に係る電力変換装置における脱調判定部の内部処理のフローチャート例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態(以下においては「実施形態」と表記する)を、適宜、図面を参照して説明する。
なお、以下の説明では、電力変換装置の説明と、その脱調判定方法の説明を兼ねる。
【0020】
≪第1実施形態・電力変換装置≫
本発明の第1実施形態に係る電力変換装置について、図1図5を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る電力変換装置1の構成例と、交流電源201、回転機(M:モータ)202、流体機械203、流体機械上位装置204、圧力検出部213との関連の一例を示す図である。
【0021】
《電力変換装置1と関連機器との関係》
図1において、電力変換装置1は、3相の交流電源201から交流電圧(交流電力)を入力して、所定の周波数と電圧の3相交流電圧(3相交流電力)に変換する。この変換された3相交流電圧(3相交流電力)で回転機(M)202が駆動され、回転機202に連結されたポンプや圧縮機などの流体機械203が動作する。
また、流体機械203には、流体機械203の圧力を検出するための圧力検出部213が設置されている。圧力検出部213で検出された圧力検出値2101は、流体機械上位装置204に送られる。そして、流体機械上位装置204に備えられた圧力指令部214において、圧力検出値2101は圧力指令2001に変換される。なお、流体機械上位装置204は、流体機械203を制御するための上位装置である。
流体機械上位装置204から出力された圧力指令2001は、電力変換装置1のインバータ制御部14に入力している。
【0022】
《電力変換装置1の構成》
電力変換装置1は、整流器11、平滑コンデンサ12、インバータ部(インバータ回路、直流交流変換器)13、インバータ制御部14、直流電圧検出部15を備えている。なお、インバータ制御部14の詳細な構成については、後記する。
整流器11は、複数のダイオードによって、3相分のダイオードブリッジが構成され、3相の交流電圧(交流電力)を直流電圧(直流電力)に整流する。平滑コンデンサ12は、前記の整流された直流電圧を平滑する。
インバータ部(インバータ回路)13は、複数のスイッチング素子(不図示)を備えて構成され、前記の複数のスイッチング素子を後記するインバータ制御部14におけるPWM(Pulse Width Modulation)を用いたPWM制御部145のPWM制御信号2008を介して、統括制御される。
【0023】
このPWM制御部145の制御動作によって、インバータ部13は、整流器11と平滑コンデンサ12から供給(入力)される直流電圧(直流電力)を所定の周波数と電圧の3相交流電圧(3相交流電力)に変換して出力する。
前記したように、インバータ部13から出力された3相交流電圧(3相交流電力)によって回転機202が駆動される。
また、直流電圧検出部15は、平滑コンデンサ12の両端の電圧を入力して、分圧し、平均化して、変動する直流電圧の情報を直流電圧検出値2005として、インバータ制御部14の脱調判定部143に入力している。なお、直流電圧検出部15の詳細な構成については、図2を参照して後記する。
【0024】
《インバータ制御部14》
インバータ制御部14は、電力変換装置1が備える例えばマイコン(microcomputer)で構成されており、マイコン内部の処理によって動作する。
インバータ制御部14は、設定入力部141、記憶部142、脱調判定部143、遮断部144、PWM制御部145、速度指令部146を備えて構成される。
【0025】
設定入力部141は、外部情報信号2013に基づき、脱調判定部143の判定動作に必要な後記する脱調判定処理設定値群2003などの情報を記憶部142に入力する機能を有している。
記憶部142には、前記の設定入力部141を介して、脱調判定処理設定値群2003に含まれる例えば、判定速度指令A、判定圧力指令B、脱調判定電圧(上限側)C、脱調判定電圧(下限側)D、脱調判定時間Eなどの設定諸条件2004が記憶される。
前記したように、インバータ制御部14には、流体機械上位装置204に備えられた圧力指令部214から圧力指令2001が入力する。
圧力指令2001は、速度指令部146と脱調判定部143とに入力する。
速度指令部146は、前記の圧力指令2001に基づき速度指令2002を演算し、脱調判定部143とPWM制御部145とに速度指令2002を出力する。
PWM制御部145は、この速度指令2002に基づきPWM制御信号2008を生成し、インバータ部13を制御する。
【0026】
なお、速度指令部146は、前記のように、圧力指令部214の圧力指令2001を基に速度指令2002を演算して生成する。
速度指令部146は、この圧力指令2001から速度指令2002を演算する際に、流体機械上位装置204が前記の圧力指令2001を満足するように生成する。具体的には、速度指令部146は、比例制御(P制御)、または積分制御(I制御)を用いて速度指令2002を生成する。
【0027】
脱調判定部143には、圧力指令2001と速度指令2002が入力する。また、脱調判定部143は、記憶部142に記憶された、例えば前記の判定速度指令A、判定圧力指令B、脱調判定電圧(上限側)C、脱調判定電圧(下限側)D、脱調判定時間Eなどの設定諸条件(判定条件および閾値)2004を、適宜、参照する。なお、設定諸条件2004の各設定値は、受電電圧、回転機202や流体機械203の負荷の大きさ、コンデンサ152の静電容量値、流体機械203の効率などにより、適宜、調整されるものとする。
また、脱調判定部143には、直流電圧検出部15からの変動する直流電圧の情報である直流電圧検出値2005が入力する。
脱調判定部143は、前記の圧力指令2001、速度指令2002、脱調判定処理設定値群2003の設定諸条件2004、直流電圧検出値2005を基に、回転機202が脱調しているか否かを判定する。
【0028】
なお、脱調の判定の詳細については、図3A図3B図4A図4Bの電圧波形の特性図、および図5に示すフローチャートを参照して後記する。
脱調判定部143は、回転機202が脱調していると判定した場合には、遮断部144に脱調判定信号2006を送る。
遮断部144は、脱調判定部143から脱調判定信号2006が来た場合には、PWM制御部145に遮断信号2007を送る。
PWM制御部145は、遮断信号2007を受信した場合には、PWM制御動作を停止する。
【0029】
《直流電圧検出部15について》
直流電圧検出部15の詳細な構成について図2を参照して説明する。
図2は、本発明の第1実施形態に係る電力変換装置1における直流電圧検出部15の回路構成例を示す図である。
図2において、直流電圧検出部15は、分圧抵抗器151とコンデンサ152を備えて構成される。
分圧抵抗器151は、抵抗素子151A、抵抗素子151B、抵抗素子151Cの直列回路で構成されている。
平滑コンデンサ12(図1図2)の両端の電圧は、抵抗素子151A,151B,151Cで分圧され、抵抗素子151Cの両端の電圧がコンデンサ152で平滑化(平均化)されている。
【0030】
コンデンサ152の両端の電圧Vdetが、直流電圧検出値2005(電圧Vdet)として検出される。なお、電圧Vdet(直流電圧検出値2005)は、コンデンサ152で平滑化(平均化)され、直流電圧化されているが、後記する図3A図3B図4A図4Bに示すように、リプル成分(アナログ信号)を含んでいる。
直流電圧検出部15は、前記の回路構成による機能によって、平滑コンデンサ12の充放電電圧を検出して、脱調判定部143で脱調判定に用いる直流電圧検出値2005を、脱調判定部143(図1)に出力している。
【0031】
<脱調検出(判定)原理について>
次に、脱調判定部143における脱調検出(判定)の原理について、図3A図3B図4A図4Bを参照して説明する。
【0032】
《回転機が正常動作の場合の直流電圧検出部の電圧波形》
図3A図3Bは、本発明の第1実施形態に係る直流電圧検出部15(図2)において、回転機202(M:図1)が定格負荷時で正常に動作している場合における直流電圧検出部15の出力電圧である電圧Vdet(2005:図2、3001:図3A図3B)の電圧波形例を示す図である。
図3A、および図3Bにおいて、横軸は時間[t]であり、縦軸は、電圧[Vdc]である。なお、電圧[Vdc]とVにdcを添え字したのは直流電圧を示すものである。
【0033】
図3Aに示す電圧波形の特性線3001(Vdet)は、交流電源201(図1)が整流器11(図1)で整流され、平滑コンデンサ12で平滑化された電圧波形である。
特性線3001で示した電圧波形が平滑コンデンサ12の両端の電圧波形である。なお、参考として破線で示している特性線3002は、平滑コンデンサ12がない場合における平滑コンデンサ12(図2)の両端の電圧である。
特性線3001は、図2における平滑コンデンサ12の電圧波形を反映している。
特性線3001は、直流電圧検出部15(図2)に入力し、直流電圧検出部15において、分圧抵抗器151(図2)で分圧され、コンデンサ152(図2)でさらに平滑化(平均化)されているので、Vdetは特性線3001よりもリプル成分が減少している。
また、特性線3002は、電圧の絶対値は異なるが、図2における平滑コンデンサ12の両端の電圧波形を概ね反映している。すなわち、整流器11が整流し、平滑コンデンサ12が平滑して、インバータ部13に入力するリプル成分を含む直流電圧の波形を反映している。
【0034】
また、実線で示した特性線3001、および破線で示した特性線3002には、交流電源201のリプル成分が電圧波形に残っている状態を表している。なお、このリプル成分の1区間である区間Tcは、交流電源201が50Hzの場合には(1/(50×2×3))秒であり、60Hzの場合には(1/(60×2×3))秒である。また、前記の分数における分母の(2×3)は、整流器11(図1)の構成を反映している。
また、特性線3002は、前記したように、平滑コンデンサ12(図2)の両端の電圧波形を参考として示している。特性線3001は、コンデンサ152がない場合の電圧波形であるので、リプル成分の変動が、Vdetに比較して、大きい表示がされている。
【0035】
また、図3Aにおいて、コンデンサ152(図2)の両端の電圧波形である特性線3001の中心値(typ)がΔVtyp(3010)であり、最大値(max)がΔVmax(3011)であり、最小値(min)がΔVmin(3012)である。
なお、ΔVmax、ΔVmin、ΔVtypは、交流電源201の電圧の変動に関連するとともに、回転機202が正常に動作しているか、脱調しているかにも関連する。つまり、詳しくは後記するように、回転機202が正常動作か脱調かによって、消費する電力(エネルギー)が異なり、電圧波形にも影響を与えるからである。
【0036】
図3Bは、図3Aの電圧波形のリプル成分の部分を拡大して示した図である。
図3Bにおいて、脱調判定電圧(上限側)C、および調判定電圧(下限値)Dを、それぞれ判定値C(3021)、判定値D(3022)と簡略化して表記している。なお、以降においても、適宜、それぞれ判定値C、判定値Dと簡略化して表記する。
判定値C(脱調判定電圧(上限側)3021)、および判定値D(脱調判定電圧(下限値)3022)は、脱調判定部143(図1)で回転機202(図1)が脱調しているか否かを判定する際に用いられる判定基準である。
図3Bの場合は、ΔVminが判定値Dを下回っているので、回転機202は充分に回転して電力を消費してため電圧変動が大きい。すなわち脱調はしていないと判定される状況であることが示されている。
なお、図3Bにおいて、特性線3001、特性線3002、ΔVtyp、ΔVmax、ΔVmin、Tcについては、図3Aと同じであるので重複する説明は省略する。
【0037】
《回転機が脱調して動作している場合の直流電圧検出部の電圧波形》
図4A図4Bは、本発明の第1実施形態に係る直流電圧検出部15(図2)において、回転機202(M:図1)が定格負荷時で脱調して動作している場合における直流電圧検出部15の出力電圧である電圧Vdet(2005:図2、4001:図4A図4B)の電圧波形例を示す図である。
図4A、および図4Bにおいて、横軸は時間[t]であり、縦軸は、電圧[Vdc]である。
【0038】
図4Aに特性線4001で示す電圧波形は、図3Aで示したと同様に、交流電源201(図1)が整流器11(図1)で整流され、平滑コンデンサ12で平滑化された電圧波形である。前記特性線4001が、直流電圧検出部15(図2)に入力し、直流電圧検出部15の出力として取り出された検出電圧波形の電圧Vdetである。直流電圧検出部15では、分圧抵抗器151(図2)で分圧され、コンデンサ152(図2)でさらに平滑化されている。
特性線4001で示した電圧波形が平滑コンデンサ12の両端の電圧波形であって、検出電圧波形の電圧Vdetである。なお、この検出電圧波形の電圧Vdetは、変動してリプル成分を含んでいる。
【0039】
また、特性線4002は、平滑コンデンサ12がない場合における平滑コンデンサ12(図2)の両端の電圧波形を参考として示している。特性線4001は、コンデンサ152がない場合の電圧波形を示しているので、リプル成分の変動が、Vdetに比較して大きい。
コンデンサ152(図2)の両端の電圧波形である特性線4001の中心値(typ)がΔVtyp(4010)であり、最大値(max)がΔVmax(4011)であり、最小値(min)がΔVmin(4012)である。
なお、特性線4001、および特性線4002における電圧波形のリプル成分、およびこのリプル成分の1区間である区間Tcについては、図3Aと同じであるので重複する説明は省略する。
【0040】
図4Bは、図4Aの電圧波形のリプル成分の部分を拡大して示した図である。
図4Bにおいて、判定値C(脱調判定電圧(上限側)4021)、および判定値D(脱調判定電圧(下限値)4022)が示されている。
判定値C、および判定値Dは、脱調判定部143(図1)で回転機202(図1)が脱調しているか否かを判定する際に用いられる判定基準である。
図4Bの場合は、ΔVminが判定値Dを下回っていることはないので、回転機202は、電力(エネルギー)をそれほど多くは消費せずに、電圧変動も少なく回転していることを示している。すなわち、回転機202が脱調して動作していると判定される状況である。
【0041】
なお、前記の脱調判定電圧(上限側、下限側)である判定値C(上限側)、および判定値D(下限側)は、回転機202の実出力と、平滑コンデンサ12の静電容量と、受電電圧(交流電源201の電圧)に依存するものである。
また、図4Bにおいて、特性線4001、特性線4002、ΔVtyp、ΔVmax、ΔVmin、Tcについては、図4Aと同じであるので重複する説明は省略する。
【0042】
《脱調検出の詳細》
図3A図3B図4図4Bを参照して、脱調が起きていない場合と、起きている場合の直流電圧検出値(電圧Vdet)の電圧波形を説明した。次に、実際の電圧Vdetの電圧波形から脱調検出の詳細について、さらに説明する。
【0043】
前記の回転機202(図1)実出力は、有効電力P=√3×V×I×cosθと、無効電力Q=√3×V×I×sinθの和である。
そして、回転機202の正常運転時における有効電力Pと無効電力Qの割合は、有効電力Pがほぼ占めている。
また逆に、回転機202の脱調運転時における有効電力Pと無効電力Qの割合は無効電力Qがほぼ占めている。
そのため、回転機202の正常運転時における消費する電力(有効電力)は大きいので、その電力を供給するために、電圧Vdetは、ΔVmaxとΔVminとの間を比較的に大きく変動する。
【0044】
それに対して、図4A図4Bにおける脱調運転時の電力は、正常運転時(図3A図3B)に対して、ほぼ無いに等しいことから、平滑コンデンサ12(図1図2)の充放電によるリプル電圧の偏差は、正常運転時(図3A図3B)に対して、小さくなる。
すなわち、図3A図3Bに示すようなΔVmaxとΔVmin間のような大きなリプル電圧が発生せず、図4A図4Bに示すΔVmaxとΔVmin間のように、相対的にリプル電圧が小さく、平滑された電圧となる。
そこで、前記した脱調判定電圧にΔVmaxと、ΔVminに関連する上下限値(判定値C、判定値D)を、脱調判定部143(図1)が圧力指令2001、速度指令2002、脱調判定処理設定値群2003の設定諸条件2004を基に設け、直流電圧検出部15の電圧検出値(電圧Vdet)が常時、上限値(判定値C)と下限値内(判定値D)との間に収まっている場合は、脱調と判定する。すなわち脱調を検出することが可能となる。
【0045】
<回転機202の脱調判定について>
回転機202(図1)の脱調判定について、さらに詳しく説明する。
回転機202が脱調しているかを判定するには、ポンプ、または圧縮機などの流体機械203(図1)の流体機械上位装置204における圧力指令部214で検出した検出値を基に算出した圧力指令2001を脱調判定部143で参照する。
圧力指令2001が最大値となるとき、圧力指令2001を基に速度指令部146により生成される速度指令2002も最速値となる。この速度指令2002の最速値から回転機202の実出力を推定することが可能となって、回転機202の最大実出力時における平滑コンデンサ12(図1図2)の充放電よるリプル電圧が推定できる。
【0046】
そこで、圧力指令2001と速度指令2002が最大、最速値のときに、平滑コンデンサ12に充電した電圧を検出する直流電圧検出部15の直流電圧検出値と、脱調判定処理設定値群(2003)の脱調判定電圧(下限側の判定値D)、とを比較して、脱調を検出する。脱調している場合には、保護動作を行う。
脱調していないと判定された場合には、回転機202の運転を継続する。
なお、脱調を検出する条件である脱調判定処理設定値群(2003)は、あらかじめ記憶部142に設定、もしくは外部から設定入力部141によって任意の値を設定できるものである。それらの設定値は、前記したように、受電電圧(交流電源201)、回転機202やそれに接続される負荷の大きさ、平滑コンデンサ12の容量や、流体機械203の効率によって適宜、調整するものとする。
回転機202の脱調判定について、より詳しく説明するために、次に脱調判定部143の動作をフローチャートで説明する。
【0047】
<脱調判定部143の動作のフローチャート >
図5は、本発明の第1実施形態に係る電力変換装置における脱調判定部143の内部処理のフローチャート例を示す図である。次に、フローチャートのステップ(工程)ごとに説明する。
【0048】
〈ステップS20〉
脱調判定部処理をスタート(Start)すると、まず、ステップS20で脱調判定処理設定値群2003に含まれていた設定値の読み込み(設定値読込)を行う。
具体的には、設定入力部141から入力して、記憶部142に設定された判定速度指令A、判定圧力指令B、脱調判定電圧(上限値)C(判定値C)、脱調判定電圧(下限値)D(判定値D)、および脱調判定時間Eを脱調判定部143に読込む。
【0049】
〈ステップS21〉
ステップS21で、回転機(M)202および流体機械203を運転する。また、電力変換装置1が電力(電圧)を出力するようにPWM制御部145およびインバータ部13を動作させる。
なお、流体機械203が動作するに伴い、圧力検出部213から圧力検出値2101が流体機械上位装置204の圧力指令部214に送られる。圧力指令部214では圧力検出値2101を基に圧力指令2001が生成され、この圧力指令2001がインバータ制御部14に送られる。
【0050】
〈ステップS22〉
ステップS22で、流体機械203を制御する流体機械上位装置204の圧力指令2001を基に算出された速度指令2002が判定速度指令Aより大きいか、また圧力指令部214の圧力指令2001が判定圧力指令Bより大きいか、を脱調判定部143で判定する。つまり、『速度指令>A』および『圧力指令>B』の判定を行う。
なお、判定に用いる圧力指令2001と速度指令2002は、判定時における、それぞれ最大値と最速値を用いる。
いずれの判定も満たす場合(Yes)には、ステップS23に進む。
いずれか、あるいはいずれも判定を満たさない場合(No)は、脱調はしていないとして、脱調判定部143の判定動作を終了(End)する。つまり、脱調検出を行わず、運転を続行する。
【0051】
なお、『速度指令>A』、『圧力指令>B』のいずれか、あるいはいずれも判定を満たさない場合(No)には、流体機械上位装置204は、流体機械203が所望の範囲で充分に稼働していることに相当する。この状況は、流体機械203および回転機202が所望の範囲で充分に稼働しているので、大きな圧力指令2001を出す必要がない状態である。すなわち、回転機202が充分に動作しているので脱調はしていないと判定することを意味している。また、圧力指令2001と速度指令2002は相関関係にある。速度指令が判定速度指令Aより小さい場合も、流体機械203および回転機202が所望の範囲で充分に稼働していることに相当する。
以上より、前記したように、圧力指令2001が判定圧力指令Bより小さいか、速度指令2002が判定速度指令Aより小さいかのいずれかである場合には、脱調はしていないとして、脱調判定部143の判定動作を終了する(End)。そして、運転を続行するのである。
【0052】
〈ステップS23〉
ステップS23で、直流電圧検出部15におけるΔVmax値、ΔVmin値を検出し、基準値のΔVtyp値を算出する。すなわち、直流電圧値基準ΔVtypを検出する(直流電圧値基準検出(ΔVtyp))。
そして、ステップS24に進む。
【0053】
〈ステップS24〉
ステップS24において、脱調判定部143で脱調判定に使用する脱調判定電圧(下限値)D、すなわち判定値Dを補正して判定値Dsを設定する。
直流電圧検出部15で検出される検出電圧波形の電圧Vdet(特性線3001、特性線4001)は、交流電源201の受電電圧条件により平滑コンデンサ12のリプル電圧が変動するので、コンデンサ152の両端の電圧である電圧Vdetも変動する。
そのため、交流電源201の受電電圧の変動に応じて、脱調判定電圧(下限値)Dを補正することが望ましい。具体的には、ステップS23で算出した直流電圧値基準(ΔVtyp)を基に、脱調判定電圧(下限値)Dである判定値Dを判定値Dsに補正する。なお、判定値Dを判定値Dsに補正する具体的な補正方法は、様々な要因を考慮して事前に設定しておく。
そして、ステップS25に進む。
【0054】
〈ステップS25〉
ステップS25においては、所定の時間をかけて、検出電圧波形の電圧Vdetが補正した判定値Dsより低いか否かを判定する。
ただし、図4Bに示すように、判定値Dは所定の定まった値であるので補正した判定値Dsも所定の定まった値である。それに対して、検出電圧波形の電圧Vdet(特性線3001、特性線4001)は、リプル波形を含み、電圧値が変動している。
したがって、検出電圧波形の電圧Vdetと補正した判定値Dsとの大小関係は、どのタイミングで、どの程度の時間をかけて比較をしたかによって変化する場合がある。
『Vdet<Ds』の関係が検出された(Yes)ならば、検出電圧波形の電圧Vdetは大きく変動している、すなわち、回転機202は正常に動作し、脱調はしていないと判定できる。つまり、正常に回転機202は動作しているとして、回転機202の運転を続行し、脱調判定部処理を終了(End)する。
【0055】
また、ステップS25において、『Vdet<Ds』の関係が判定されない場合(No)でも前記したように検出電圧波形の電圧Vdetは電圧値が変動しているので、判定したタイミングや計測が適正でなかった可能性がある。
この場合(No)には、ステップS26に進む。
【0056】
〈ステップS26〉
ステップS26においては、ステップS25における判定において、『Vdet>Ds』となっている時間tmを計測する。
すなわち、時間tmを、図3Bもしくは図4Bにおける電圧波形(特性線)3001,4001のリプルの周期時間のTcを考慮して比較するための計測である。
時間tmを計測したならば、ステップS27に進む。
【0057】
〈ステップS27〉
ステップS27においては、『時間tm>E』について判定する。なお、Eは脱調判定時間である。すなわち、時間tmが所定の脱調判定時間E(Tc以上の時間)を超しているか否かを比較する。
時間tmが脱調判定時間Eを超えていれば(Yes)、充分に長い時間、Vdet>Dsであったとして、脱調と判定する。そしてステップS28に進む。
時間tmが脱調判定時間Eを超えていなければ(No)、脱調はしていない、すなわち正常な動作をしているとして、回転機202の運転を続行する。
そして、脱調判定部143の判定動作を終了する(End)。
【0058】
〈ステップS28〉
ステップS28に至る過程において脱調と判定される条件が揃ったので、ステップS28では、脱調であるとのErr信号を出力する(Err出力)。
Err出力の信号を脱調判定部143が遮断部144(図1)に出す(脱調判定信号2006:図1)ことによって、脱調判定部143の判定動作を終了する(End)。
なお、脱調の信号を受けた遮断部144は、遮断信号2007でPWM制御部145の所定の動作を停止する。
また、脱調判定部143でErr出力信号が出力された場合には、Err出力信号を基に、その他の所定の脱調に対する保護動作を行う。
【0059】
<第1実施形態の総括>
電力変換装置1として、回転機202が脱調しているかを判定するには、ポンプ、または圧縮機などの流体機械203の圧力検出部213が検出した圧力検出値2101を基に流体機械上位装置204における圧力指令部214が圧力指令2001を電力変換装置1のインバータ制御部14に出力する。
圧力指令2001を基に速度指令2002がインバータ制御部14の速度指令部146で生成される。
速度指令2002、あるいは圧力指令2001がそれぞれの所定の設定値より大きいか否かを判定する。回転機202が正常に動作、回転していれば、圧力指令2001や速度指令2002は、大きな値を必要としない。速度指令2002、あるいは圧力指令2001がそれぞれの所定の設定値より小さい場合には、正常に動作していることを意味するので、それ以上の脱調判定の工程は必要ない。
【0060】
速度指令2002、あるいは圧力指令2001がそれぞれの所定の設定値より大きい場合には、脱調の可能性があるとして、直流電圧検出部15の検出した電圧Vdetの最大値であるΔVmax、最小値であるΔVminを検出し、また平均値のΔVtypを算出する。
このΔVtypを用いて、交流電源の電圧変動を脱調判定電圧(下限側)Dの判定値Dを補正して、補正した判定値Dsを生成し、直流電圧検出部15の検出した電圧Vdetを判定値Dsと比較することによって、脱調を検出する。
【0061】
脱調判定部143が脱調を検出した場合には、回転機202を停止するなどの保護動作を行う。
また、脱調が検出されない場合には、回転機202の運転を継続する。そして、引き続き脱調検出を行う。
なお、脱調を検出する条件である脱調判定処理設定値群2003は、あらかじめ記憶部142に設定、もしくは外部から任意の値を設定できるものであり、その設定値は、交流電源201からの受電電圧、回転機202やそれに接続される負荷の大きさ、平滑コンデンサ12の容量、流体機械203の効率により適宜、調整するものとする。
以上の構成、方法による脱調検出によって、信頼性の高い脱調検出が可能となる。
【0062】
<第1実施形態の効果>
本発明の第1実施形態によれば、高速運転領域において、磁極位置検出センサや誘起電圧の検出回路を用いることなく、信頼性の高い脱調検出を可能にする電力変換装置、および電力変換装置の脱調判定方法を提供することができる。
【0063】
≪第2実施形態・電力変換装置≫
本発明の第2実施形態に係る電力変換装置について、図6を参照して説明する。第2実施形態が第1実施形態と異なるのは、インバータ制御部14(図1)の制御の仕方が異なるものである。そのため、第2実施形態における脱調判定部143(図1)の動作をフローチャートで説明する。
図6は、本発明の第2実施形態に係る電力変換装置における脱調判定部143の内部処理のフローチャート例を示す図である。
図6においては、脱調の誤判定を防ぐために、脱調判定回数(上限側)F、脱調判定回数(下限側)Gを導入するとともに、上限側電圧判定S34、下限側電圧判定S35、回数カウントS41,S43、上限側超過回数判定S42、下限側超過回数判定S44を追加している。
【0064】
〈ステップS20~ステップS23〉
また、図6のフローチャートにおいて、ステップS20~ステップS23までは、第1実施形態で示した図5のフローチャートのステップS20~ステップS23と概ね同一である。
ただし、ステップS20の設定値読込においては、記憶部142に設定された判定速度指令A、判定圧力指令B、脱調判定電圧(上限値)C、脱調判定電圧(下限値)D、脱調判定時間Eの他に、脱調判定回数(上限側)Fと脱調判定回数(下限側)Gとを、さらに読込んでいる。
ステップS20~ステップS23における、その他の重複する説明は省略する。
【0065】
〈ステップS241〉
図6のフローチャートにおけるステップS241は、図5のフローチャートにおけるステップS24に対応している。図5におけるステップS24の判定電圧閾値補正では、脱調判定電圧(下限値)である判定値Dを補正して判定値Dsとする工程(ステップ)であった。
これに対して、図6のステップS241では、脱調判定部143で脱調判定に使用する脱調判定電圧(上限値、下限値)である判定値(Cs,Ds)に補正して設定する。
すなわち、判定値Cを判定値Csに、判定値Dを判定値Dsにそれぞれ補正して、判定値(Cs,Ds)を設定する。
脱調判定電圧(上限値)Cについては、ステップS23で算出した直流電圧値基準ΔVtypを基に補正し、補正した判定値Csを設定する。
また、脱調判定電圧(下限値)Dについては、ステップS23で算出した直流電圧値基準ΔVtypを基に補正し、補正した判定値Dsを設定する。
【0066】
〈ステップS34〉
ステップS34では、検出電圧波形の電圧Vdetの上限側電圧を判定するものである。すなわち、ステップS241で補正して設定した判定値Csに対して、検出電圧波形の電圧Vdetを比較、判定する。
検出電圧波形の電圧Vdetが脱調判定電圧(上限側)である補正した判定値Cs以下である場合(Yes)には、ステップS35に進む。
また、検出電圧波形の電圧Vdetが判定値Csを超えた場合(No)には、ステップS41に進む。
ステップS35については後記する。まずステップS41について説明する。
【0067】
〈ステップS41〉
ステップS41では、検出電圧波形の電圧Vdetが上限側の判定値Csを超過した回数を回数カウントでカウントして、ステップS42に進む。
【0068】
〈ステップS42〉
ステップS42では、ステップS41で検出電圧波形の電圧Vdetが上限側の判定値Csを超過した回数である上限側超過回数が、所定の脱調判定回数(上限側)Fを超えているかを判定する。つまり、『上限側超過回数>F』の判定を行う。
上限側超過回数が脱調判定回数(上限側)Fを超えている場合(Yes)には、ステップS23に戻り、直流電圧検出部15にてΔVmax値、ΔVmin値の検出し、基準値のΔVtyp値の算出をやり直す。
すなわち、交流電源201の受電電圧が高くなって、ΔVmax値が上昇したため、適正な判定が行われていないと判定する。そのためΔVmax値およびΔVmin値の再検出し、基準値のΔVtyp値の再算出をする必要があると判定されたものである。
【0069】
ステップS42で上限側超過回数が脱調判定回数(上限側)Fを超えていない場合(No)には、ステップS35に進む。
ステップS35に進むのは、上限側電圧の判定のみでは、脱調の判定が困難であり、下限側電圧の判定が必要とされるからである。
【0070】
〈ステップS35〉
ステップS35においては、第1実施形態で示した図5におけるステップS25と概ね同様に、検出電圧波形の電圧Vdetが下限側の判定値Dsより低いか否かを判定する。
前記したように、下限側の判定値Dsは所定の定まった値であるのに対し、検出電圧波形の電圧Vdetは電圧値が変動している。したがって、検出電圧波形の電圧Vdetと下限側の判定値Dsとの大小関係は、どのタイミングで、どの程度の時間をかけて比較をしたかによって変化する。
検出電圧波形の電圧Vdetが下限側の判定値Dsより、低くない場合(No)には、ステップS36に進む。
また、検出電圧波形の電圧Vdetが下限側の判定値Dsより、低い場合(Yes)には、ステップS43に進む。
ステップS43については、後記する。
次に、ステップS36について説明する。なお、次のステップS36~ステップS38は、第1実施形態の図5で示したステップS26~ステップS28に概ね対応している。
【0071】
〈ステップS36〉
ステップS36では、ステップS35における判定において、『Vdet>Ds』となっている時間tmを計測する。この計測は、図3Bもしくは図4Bにおける電圧波形(特性線)3001,4001のリプルの周期時間のTcを考慮して比較するための計測である。
時間tmを計測したならば、ステップS37に進む。
【0072】
〈ステップS37〉
ステップS37においては、『時間tm>E』について判定する。なお、Eは脱調判定時間である。時間tmが脱調判定時間Eを超えていれば(Yes)、充分に長い時間、Vdet>Dsであったとして、脱調と判定する。そしてステップS38に進む。
判定に費やした時間tmが脱調判定時間Eを超えていなければ(No)、脱調はしていない、すなわち正常な動作をしているとして、回転機202の運転を続行する。
そして、脱調判定部143(図1)の判定動作を終了する(End)。
【0073】
〈ステップS38〉
ステップS38に至る過程において脱調と判定される条件が揃ったので、ステップS38では、脱調であるとのErr信号を出力する。
Err出力信号によって、脱調判定部143の判定動作を終了する(End)。
また、Err出力信号が出力された場合には、脱調に対する保護動作を行う。
【0074】
〈ステップS43〉
前記したステップS35の下限側電圧判定において、Noと判定された場合については、ステップS43に進む。このステップS43について説明する。
ステップS43では、検出電圧波形の電圧Vdetが下限側の判定値Dsを超過した回数を回数カウントでカウントして、ステップS44に進む。
【0075】
〈ステップS44〉
ステップS44では、ステップS43で検出電圧波形の電圧Vdetが下限側の判定値Dsを超過した回数である下限側超過回数が、所定の脱調判定回数(下限側)Gを超えているかを判定する。つまり、『下限側超過回数>G』の判定を行う。
下限側超過回数が脱調判定回数(下限側)Gを超えている場合(Yes)には、ステップS23に戻り、直流電圧検出部15でVmax値、ΔVmin値の検出し、基準値のΔVtyp値の算出をやり直す。
すなわち、交流電源201の受電電圧が低くなって、ΔVmin値が低下したため、正規の判定が適正に行われないと判定して、電圧の再検出からやり直すものである。
【0076】
また、下限側超過回数が脱調判定回数(下限側)Gを超えていない場合(No)には、交流電源201からの受電電圧は適正な範囲であるとして、フローチャートの判定動作を一旦、終了する(End)。そして、次の脱調判定のサイクルにおいて、再度、正常か脱調かの判定動作を行う。
【0077】
<第2実施形態の効果>
第2実施形態においては、第1実施形態の脱調判定処理ステップに加えて、上限側電圧判定のステップS34を加えた。また、上限側電圧判定、および下限側電圧判定において、回数カウントS41、S43と上限側超過回数判定S42、下限側超過回数判定S44を設けて、交流電源201の電圧変動とを考慮した計測を行っている。
そのため、交流電源201の電圧変動がある場合においても、脱調判定が適正に実施され、脱調判定の精度が向上するという効果がある。
【0078】
≪第3実施形態・電力変換装置≫
本発明の第3実施形態に係る電力変換装置について、図7を参照して説明する。第3実施形態が第2実施形態(および第1実施形態)と異なるのは、インバータ制御部14(図1)の制御の仕方が異なるものである。そのため、第3実施形態における脱調判定部143(図1)の動作をフローチャートで説明する。
図7は、本発明の第3実施形態に係る電力変換装置における脱調判定部143の内部処理のフローチャート例を示す図である。
図7に示すフローチャートにおいては、脱調の誤判定を防ぐ方法のステップとして、脱調判定積算時間(超過時間積算)S51、上限側積算時間判定S52、脱調判定積算時間(超過時間積算)S53、下限側積算時間判定S54が、図6(第2実施形態)のフローチャートにおける、それぞれ回数カウントS41、上限側超過回数判定S42、回数カウントS43、下限側超過回数判定S44の代わりに置き換わっている。
これら置き換わったステップ以外は、図7(第3実施形態)のフローチャートは、図6(第2実施形態)のフローチャートと概ね同じであるので、重複する説明は、適宜、省略する。
【0079】
〈ステップS20~ステップS23、ステップ241〉
図7のフローチャートにおいて、ステップS20~ステップS23、ステップS241までは、第2実施形態で示した図6のフローチャートのステップS20~ステップS23、ステップS241と概ね同一である。
ステップS20の設定値読込においては、記憶部142に設定された判定速度指令A、判定圧力指令B、脱調判定電圧(上限値)C、脱調判定電圧(下限値)D、脱調判定時間Eを同じように読み込んでいる。
ただし、脱調判定回数(上限側)F、脱調判定回数(下限側)Gの代わりに、それぞれ脱調判定積算値(上限側)H、脱調判定積算値(下限側)Iを、読込んでいる。
【0080】
〈ステップS34~ステップS38〉
図7のフローチャートにおいて、ステップS34~ステップS38までは、第2実施形態で示した図6のフローチャートのステップS34~ステップS38と概ね同一である。重複する説明は省略する。
【0081】
以下においては、図6に対して変更のある図7のステップS51~ステップS54について説明する。
【0082】
〈ステップS51〉
図7のステップS51の「超過時間積算」では、上限側電圧判定(S34)において上限側電圧判定がNoと判定した場合の検出電圧波形の電圧Vdetが、判定電圧閾値補正(S24)で補正した判定電圧(上限側)Csを超えた超過時間を積算する。
なお、図7におけるステップS51の超過時間積算の工程は、図6におけるステップS41の回数カウントの工程に対応しており、それに代わる工程(ステップ)である。
【0083】
〈ステップS52〉
ステップS52の「上限側積算時間判定」では、ステップS51の超過時間積算の積算値が『積算値>脱調判定積算値(上限側)H』であるかを判定する。
『積算値>H』の場合(Yes)には、ステップS23に戻る。
すなわち、交流電源201の受電電圧が高くなったことにより、ΔVmax(図3A図3B図4A図4B)の値が上昇したと判定され、直流電圧値基準(ΔVtyp)を再検出するために、ステップS23に戻って判定値の再設定を行い、ステップS23以降を再実施するものである。
また、『積算値<H』の場合(No)には、ステップS35に進む。ステップS35~ステップS38については、前記したように説明が重複するので省略する。
【0084】
〈ステップS53〉
図7のステップS53の「超過時間積算」では、下限側電圧判定(S35)において下限側電圧判定がNoと判定した場合の検出電圧波形の電圧Vdetが、判定電圧閾値補正(S24)で補正した判定電圧(下限側)Dsを超えた超過時間を積算する。
なお、この図7におけるステップS53の超過時間積算の工程は、図6におけるステップS43の回数カウントの工程に対応しており、それに代わる工程(ステップ)である。
ステップS53の「超過時間積算」が済むとステップS54に進む。
【0085】
〈ステップS54〉
ステップS54の「下限側積算時間判定」では、ステップS53の超過時間積算の積算値が『積算値>脱調判定積算値(下限側)I』であるかを判定する。
『積算値>I』の場合(Yes)には、ステップS23に戻る。
すなわち、下限側積算時間判定(S54)では、検出電圧波形の電圧Vdetが判定電圧(下限側)Dsを超過した時間を超過時間積算(S53)にて積算した積算値が『積算値>I』の場合、受電電圧が低くなったことによりΔminの値が低下したと判定され、直流電圧値基準(ΔVtyp)を再検出し、判定値の再設定を行う。
また、『積算値<I』の場合(No)には、交流電源201からの受電電圧は適正な範囲であるとして、フローチャートの判定動作を一旦、終了する(End)。そして、次の脱調判定のサイクルにおいて、再度、正常か脱調かの判定動作を行う。
【0086】
<第3実施形態の効果>
第3実施形態においては、第2実施形態の回数カウントS41、上限側超過回数判定S42、回数カウントS43、下限側超過回数判定S44の代わりに、それぞれ脱調判定積算時間(超過時間積算)S51、上限側積算時間判定S52、脱調判定積算時間(超過時間積算)S53、下限側積算時間判定S54に置き換わっている。
そのため、採用する回路構成の特徴や特性によっては、脱調判定の精度が向上する場合があるという効果がある。
【0087】
≪第4実施形態・電力変換装置≫
本発明の第4実施形態に係る電力変換装置は、直流電圧検出部15(図2)の検出電圧(出力電圧)の最大値(max)であるΔVmaxに着目する方法である。第4実施形態の脱調判定について、図8A図8B図9A図9B、および図10を参照して説明する。
まず、直流電圧検出部15における正常時、および脱調時の電圧波形をそれぞれ図8A図8B、および図9A図9Bを参照して説明する。そして、このΔVmaxに着目して脱調を検出するフローチャートについて図10を参照して説明する。
【0088】
《回転機が正常動作の場合の直流電圧検出部の電圧波形》
図8A図8Bは、本発明の第4実施形態に係る直流電圧検出部15(図2)において、回転機202(M:図1)が定格負荷時で正常に動作している場合における直流電圧検出部15の出力電圧である電圧Vdet(2005:図2、3001:図8A図8B)の電圧波形例を示す図である。
図8A、および図8Bにおいて、横軸は時間[t]であり、縦軸は、電圧[Vdc]である。
図8A、および図8Bにおける特性線3001で示した電圧波形がコンデンサ152(図2)の両端の電圧波形である。また、特性線3011で示したのが電圧波形(3001)の最大値(max)であるΔVmaxである。
【0089】
図8Bは、図8Aの電圧波形(3001)のリプル成分の部分を拡大して示した図である。また、図8Bには、脱調判定電圧(上限側)である判定値C(3021)、および脱調判定電圧(下限側)である判定値D(3022)が示されている。
なお、特性線3002、リプル成分の区間Tcについては、図3A図3Bにおける説明と重複するので省略する。
【0090】
以上の図8A図8Bは、それぞれ図3A図3BにおけるΔVmaxに主として着目して記載し直したものである。
【0091】
《回転機が脱調して動作している場合の直流電圧検出部の電圧波形》
図9A図9Bは、本発明の第4実施形態に係る直流電圧検出部15(図2)において、回転機202(M:図1)が定格負荷時で脱調して動作している場合における直流電圧検出部15の出力電圧である電圧Vdet(2005:図2、4001:図9A図9B)の電圧波形例を示す図である。
図9A、および図9Bにおいて、横軸は時間[t]であり、縦軸は、電圧[Vdc]である。
図9A、および図9Bにおける特性線4001で示した電圧波形がコンデンサ152の両端の電圧波形である。また、特性線4011で示したのが、電圧波形(4001)の最大値(max)であるΔVmaxである。
【0092】
図9Bは、図9Aの電圧波形(4001、Vdet)のリプル成分の部分を拡大して示した図である。また、図9Bには、脱調判定電圧(上限側)の判定値C(4021)、および脱調判定電圧(下限側)の判定値D(4022)が示されている。
なお、特性線4002、リプル成分の区間Tcについては、図4A図4Bにおける説明と重複するので省略する。
以上の図9A図9Bは、それぞれ図4A図4BにおけるΔVmaxに主として着目して記載し直したものである。
【0093】
<脱調判定部143のフローチャート >
次に、第4実施形態の図10で示した脱調判定部143の動作をフローチャートで説明する。
図10は、本発明の第4実施形態に係る電力変換装置における脱調判定部143の内部処理のフローチャート例を示す図である。
【0094】
図10(第4実施形態)のフローチャートにおいては、脱調の誤判定を防ぐ方法のステップとして、直流電圧値基準検出S232、判定電圧閾値補正S242、上限側電圧判定S64、下限側電圧判定S65が、図7(第3実施形態)のフローチャートにおけるそれぞれ直流電圧値基準検出S23、判定電圧閾値補正S241、上限側電圧判定S34、下限側電圧判定S35の代わりに置き換わっている。
これらの変更点の詳細については、各ステップで説明する。
【0095】
なお、前記したように、ΔVtypは、ΔVmaxとΔVminから算出していた。したがって、ΔVtypの代わりにΔVmaxを用いれば、判定処理の演算を軽くする効果がある。
なお、前記の置き換わったステップ以外は、図10(第4実施形態)のフローチャートは、図7(第3実施形態)のフローチャートと概ね同じであるので、重複する説明は、適宜、省略する。
【0096】
〈ステップS20~ステップS22〉
図10のフローチャートにおいて、ステップS20~ステップS22第3実施形態で示した図7のフローチャートのステップS20~ステップS22と概ね同一である。
【0097】
〈ステップS232〉
図10のフローチャートにおいて、ステップS232として「直流電圧値基準検出(ΔVmax)」がある。このステップS232は、図7のフローチャートにおけるステップS23の「直流電圧値基準検出(ΔVtyp)」に置き換わったものである。このように、図10におけるステップS232は、図7におけるステップS23に概ね対応しており、直流電圧値基準検出の工程(ステップ)である。
ただし、図7におけるステップS23では、ΔVtypの検出と設定であった。それに対して、図10におけるステップS232は、ΔVmaxの検出と設定の工程である。
この変更は、図7(第3実施形態)では、直流電圧検出部15(図1図2)で直流電圧値基準検出としてΔVtypを基準値として検出していたが、図10(第4実施形態)では、直流電圧値基準検出としてΔVmaxを基準値として検出するようにしたものである。
【0098】
〈ステップS242〉
図10におけるステップS242は、図7におけるステップS241に概ね対応しており、判定電圧閾値補正の工程(ステップ)である。
ただし、図10におけるステップS242においては、脱調判定部143で脱調判定に使用する脱調判定電圧(上限値)である判定値Cs2に補正して設定する。また、脱調判定電圧(下限値)である判定値Ds2に補正して設定する。
この判定値(Cs2、Ds2)の変更は、直流電圧値基準検出の基準値がΔVtypからΔVmaxに変更したことに起因する。なお、判定値Cを判定値Cs2への補正、および判定値Dを判定値Ds2に補正する具体的な補正方法は、様々な要因を考慮して事前に設定しておく。
そして、ステップS64に進む。
【0099】
〈ステップS64〉
図10(第4実施形態)のフローチャートにおいて、ステップS64として上限側電圧判定S64は、検出電圧波形の電圧Vdetに対して、『Vdet<Cs2』の判定をする。
なお、図7(第3実施形態)のフローチャートにおいては、ステップS34として上限側電圧判定S34は、検出電圧波形の電圧Vdetに対して、『Vdet<Cs』の判定をしていた。
つまり、上限側電圧判定において、図7(第3実施形態)ではΔVtypに基づいていたものを、図10(第4実施形態)ではΔVmaxに基づいて実施するようにしている。
【0100】
〈ステップS65〉
図10(第4実施形態)のフローチャートにおいて、ステップS65として下限側電圧判定S65は、検出電圧波形の電圧Vdetに対して、『Vdet<Ds2)』の判定をする。
なお、図7(第3実施形態)のフローチャートにおいては、ステップS35として下限側電圧判定S35は、検出電圧波形の電圧Vdetに対して、『Vdet<Ds』の判定をしていた。
つまり、下限側電圧判定において、図7(第3実施形態)ではΔVtypに基づいていたものを、図10(第4実施形態)ではΔVmaxに基づいて実施するようにしている。
【0101】
〈ステップS36~ステップS38〉
図10のフローチャートにおいて、ステップS36~ステップS38までは、第3実施形態で示した図7のフローチャートのステップS36~ステップS38と概ね同一である。重複する説明は省略する。
【0102】
〈ステップS51~ステップS54〉
図10(第4実施形態)のフローチャートにおいて、ステップS51~ステップS54までは、第3実施形態で示した図7のフローチャートのステップS51~ステップS54と概ね同一である。重複する説明は省略する。
【0103】
<第4実施形態の効果>
前記した図7の第3実施形態では、ΔVtypを用いていたのに対し、図10の第4実施形態では、ΔVmaxを用いている。
前記したように、ΔVtypは、ΔVmaxとΔVminから算出していた。したがって、ΔVtypの代わりにΔVmaxを用いれば、第4実施形態は、判定処理の演算が軽くなる効果がある。
【0104】
≪その他の実施形態≫
なお、本発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものでなく、さらに様々な変形例が含まれる。例えば、前記の実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために、詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成の一部で置き換えることが可能であり、さらに、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成の一部または全部を追加・削除・置換をすることも可能である。
以下に、その他の実施形態や変形例について、さらに説明する。
【0105】
《各実施形態の構成要素の組み合わせ》
第1実施形態から第4実施形態について、異なる構成要素をそれぞれ説明したが、これらの要素を組み合わせてもよい。
例えば、図10に示した第4実施形態においては、ステップS232の直流電圧値基準検出をΔVmaxとして、ステップS52の上限側積算時間判定、ステップS54の下限側積算時間判定とを組み合わせた。ただし、直流電圧値基準検出をΔVmaxとする方法は、図10に示した第4実施形態に限定されない。
この直流電圧値基準検出をΔVmaxを用いる方法を、図6に示した第2実施形態のステップS42の上限側超過回数判定、ステップS44の下限側超過回数判定と組み合わせる方法もある。
【0106】
《脱調判定電圧の読み込み》
第4実施形態の図10におけるステップS20の設定値読込において、第3実施形態の図7におけるステップS20と同様に、脱調判定電圧(上限側、下限側)として判定値C、判定値Dを読み込んでいる。しかしながら、第3実施形態のステップS241の判定電圧閾値補正としては、それぞれ判定値Cs、判定値Dsに補正しているのに対し、第4実施形態のステップS242の判定電圧閾値補正としては、それぞれ判定値Cs2、判定値Ds2に補正している。
この補正の仕方の違いは、第3実施形態の直流電圧値基準検出がΔVtypに基づくのに対し、第4実施形態の直流電圧値基準検出がΔVmaxに基づいていることに起因している。
【0107】
したがって、第4実施形態の直流電圧値基準検出がΔVmaxに基づくのであれば、前記の第4実施形態の図10におけるステップS20の設定値読込において、脱調判定電圧(上限側、下限側)をそれぞれ判定値C、判定値Dに限定されない。
直流電圧値基準検出がΔVmaxであることを前提に、それに適した脱調判定電圧(上限側、下限側)を読み込む方法でもよい。
【0108】
《脱調検出》
図5におけるステップS25の電圧判定や、図6および図7のステップS34の上限側電圧判定や下限側電圧判定においては、ただちに測定をして判定をする例を説明した。
しかし、判定の仕方については、様々にある。
例えば、測定開始後、複数の周期(Tc以上)をサンプリングして、安定している状況を確認した後に、脱調検出あるいは脱調判定をする方法もある。この方法は、例えば、電圧変換装置が設置されている近くの他の負荷による電流の変動を避けるためである。
【0109】
《記憶部》
図1の説明において、記憶部142には、設定入力部141を介して、脱調判定処理設定値群2003に含まれる、例えば、判定速度指令、判定圧力指令、脱調判定電圧、脱調判定時間などの設定諸条件2004を記憶すると説明した。
しかし、この方法に限定されない。例えば、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリに、電力変換装置1の外部において、判定速度指令、判定圧力指令、脱調判定電圧、脱調判定時間などの設定諸条件2004を書き込み、この設定諸条件2004が書き込まれた不揮発性メモリを電力変換装置1に挿入する方法をとってもよい。
【0110】
《脱調判定処理設定値群》
前記の《記憶部》では記憶部142の観点で説明した。また、脱調判定処理設定値群2003の観点で説明すれば、一部重複するが、以下のようになる。
第1~第4実施形態における脱調判定処理設定値群の判定速度指令A、判定圧力指令B、脱調判定電圧(上限側)C(判定値C)、脱調判定電圧(下限側)D(判定値D)、脱調判定時間E、脱調判定回数(上限側)F、脱調判定回数(下限側)Gは、図1の設定入力部141から記憶部142に書き込まれ、記憶部142から脱調判定部143に読み込むものであるが、設定入力部141を介することに限定されない。
記憶部142に前記した脱調判定処理設定値群の設定値の情報があればよい。例えば、記憶部142を不揮発性メモリとして、不揮発性メモリに脱調判定処理設定値群を記憶させ、不揮発性メモリごと交換してもよい。
【0111】
《圧力指令から速度指令の生成》
第1実施形態における速度指令部146において、圧力指令部214の圧力指令2001を基に速度指令2002を生成する際に、比例制御(P制御)または、積分制御(I制御)を用いることを説明した。しかし、比例制御(P制御)または、積分制御(I制御)に限定されない、比例積分制御(PI制御)や、さらに微分制御(D制御)を追加したPID制御を用いてもよい。
【0112】
《整流器》
整流器11は、3相分のダイオードブリッジを構成しているが、構成する素子はダイオードに限定されない。
ダイオードの代わりに、例えばMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)のスイッチング素子を用いて、複数のMOSFETのゲートを統括制御して、整流する方法を用いてもよい。
【0113】
《直流電圧検出部》
図2において、直流電圧検出部15は、3個の抵抗素子151A,151B,151Cからなる分圧抵抗器151とコンデンサ152の構成例で説明した。
しかし、抵抗素子の数は3個に限定されない。2個、あるいは4個以上で分圧抵抗器151を構成してもよい。
また、コンデンサ152も1個に限定されない。例えば、高周波には対応しにくいが大容量(静電容量)のコンデンサと、小容量(静電容量)ではあるが高い周波応答性を有するコンデンサを並列に用いてもよい。
【0114】
<その他の補足事項>
本発明の構成要素ではないが、関連する事項を以下に補足説明する。
【0115】
《流体機械》
図1において、流体機械203として、ポンプと圧縮機を例にあげたが、これらに限定されない。例えば、ファン(気体)やスクリュー(液体)などの用途においても、本発明の電力変換装置を用いて流体機械203を駆動する回転機202の脱調判定を適用することが有効である。
【0116】
《流体機械上位装置》
図1の第1実施形態においては、圧力検出部213は、流体機械上位装置204とは独立した機器として説明したが、これに限定されない。流体機械上位装置204に圧力検出部213を備える方法もある。
また、流体機械上位装置204に、圧力検出部213を備えた場合に、圧力検出部213と圧力指令部214を合体してもよい。すなわち、流体機械203の圧力を流体機械上位装置204が検出して、直ちに圧力指令2001を出力する構成もある。
【符号の説明】
【0117】
1 電力変換装置
11 整流器
12 平滑コンデンサ
13 インバータ部(インバータ回路、直流交流変換器)
14 インバータ制御部
15 直流電圧検出部
141 設定入力部
142 記憶部
143 脱調判定部
144 遮断部
145 PWM制御部
146 速度指令部
151 分圧抵抗器
151A,151B,151C 抵抗素子
152 コンデンサ
201 交流電源
202 回転機(モータM)
203 流体機械(ポンプ、圧縮機)
204 流体機械上位装置
213 圧力検出部
214 圧力指令部
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10