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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】クラックセンサシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/20 20060101AFI20221214BHJP
【FI】
G01N27/20 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019034786
(22)【出願日】2019-02-27
(65)【公開番号】P2020139814
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100210572
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 太一
(72)【発明者】
【氏名】吉野 良
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102253087(CN,A)
【文献】特開2005-283196(JP,A)
【文献】特開2007-292747(JP,A)
【文献】特開2014-190761(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1509743(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00 - G01B 7/34
G01N 17/00 - G01N 19/10
G01N 27/00 - G01N 27/10
G01N 27/14 - G01N 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ壁面に沿って延びるように設けられており、それぞれの一端が端子とされて他端が互いに接続された複数の主素線、
及び、前記複数の主素線のうち少なくとも一の前記主素線に対応して設けられて、当該一の主素線に沿う近接素線部、及び、該近接素線部に接続されて当該一の主素線から前記近接素線部よりも離間した離間素線部を有する副素線、
を有するき裂検出配線と、
前記複数の主素線の一対の端子間の導通状態、及び、前記副素線の導通状態に基づいて論理演算をすることで、前記主素線の断線箇所を特定する演算装置と、
を備えるクラックセンサシステム。
【請求項2】
それぞれ壁面に沿って延びるように設けられており、それぞれの一端が端子とされて他端が互いに接続された複数の主素線、
及び、前記複数の主素線のうち少なくとも一の主素線に対応して設けられて、当該一の主素線に沿って延びるとともに、当該一の主素線と断線強度の異なる副素線
を有するき裂検出配線と、
前記複数の主素線の一対の端子間の導通状態、及び、前記副素線の導通状態に基づいて論理演算をすることで、前記主素線の断線箇所を特定する演算装置と、
を備え
前記副素線は、前記複数の主素線のうち少なくとも一の主素線に沿う近接素線部、及び、該近接素線部に接続されて当該一の主素線から前記近接素線部よりも離間した離間素線部を有するクラックセンサシステム。
【請求項3】
前記主素線は、前記壁面にクラックが発生した際に同時に断線する程度の断線強度を有し、
前記副素線は、前記一の主素線よりも高い断線強度を有する請求項2に記載のクラックセンサシステム。
【請求項4】
前記主素線は、前記壁面にクラックが発生した際に同時に断線する程度の断線強度を有し、
前記副素線は、前記主素線よりも低い断線強度を有するとともに、前記壁面にせん断力が生じた場合に、クラックの発生に先立って前記せん断力によって断線する程度の断線強度を有する請求項2に記載のクラックセンサシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラックセンサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属やコンクリートで形成された部材・装置では、経年使用や、想定外の熱・力の作用による材料の疲労に伴ってクラック(ひび割れ)が発生することが知られている。このようなクラックが成長すると、部材の破壊に至る虞がある。そこで、このようなクラックの発生を直ちに検知することが可能な技術がこれまでに種々提唱されている。
【0003】
例えば下記特許文献1に記載されたクラックセンサ、及びクラック監視装置は、共通ラインと、この共通ラインに交差する方向の両側に向かって延びる複数のゲージリード線と、を備えている。これら共通ラインと、ゲージリード線とは、監視対象となる部材の表面に貼付されている。一のゲージリード線が通っている領域で部材にクラックが生じると、当該一のゲージリード線が断線する。この断線を検知することで、少なくとも当該一のゲージリード線が通る部分で部材にクラックが生じたことを認知できるとされている。
【0004】
また、下記特許文献2に記載されたクラックセンサは、上述の複数のゲージリード線(分岐ライン)にまたがってクラックが成長する際に、断線が生じたゲージリード線の順を追うことで、当該クラックの成長方向、及び成長速度を検出することが可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6189344号公報
【文献】特許第5971797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1、及び特許文献2に記載されたクラックセンサでは、断線したゲージリード線上でクラックが発生したことは検知できるものの、当該ゲージリード線上におけるクラックの正確な位置を特定することが難しい。ゲージリード線の数を増やすことも考えられるが、配線の複雑化を招くことから現実的とは言えない。このため、配線を過度に増やすことなく、より高い精度でクラックの発生箇所を特定することが可能な技術に対する要請が高まっている。
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、より高い精度でクラックの発生箇所を特定できるとともに、クラックの伸長の程度を評価することが可能なクラックセンサシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るクラックセンサシステムは、それぞれ壁面に沿って延びるように設けられており、それぞれの一端が端子とされて他端が互いに接続された複数の主素線、及び、前記複数の主素線のうち少なくとも一の前記主素線に対応して設けられて、当該一の主素線に沿う近接素線部、及び、該近接素線部に接続されて当該一の主素線から前記近接素線部よりも離間した離間素線部を有する副素線、を有するき裂検出配線と、前記複数の主素線の一対の端子間の導通状態、及び、前記副素線の導通状態に基づいて論理演算をすることで、前記主素線の断線箇所を特定する演算装置と、を備える。
【0009】
上記構成によれば、複数の主素線における一対の端子間の導通状態の組み合わせに基づいて演算装置が論理演算を行うことで、いずれの主素線が断線しているかを特定することができる。即ち、当該断線した主素線を特定することで、壁面におけるクラックの発生箇所を特定することができる。さらに、上記の構成では、一の主素線に対応して副素線が設けられている。副素線は、当該一の主素線に沿う近接素線部と、近接素線部よりも一の主素線から離間した離間素線部とを有している。演算装置は、複数の主素線に加えて、この副素線の導通状態も加味して論理演算を行う。例えば、壁面における近接素線部が通る部分でクラックが発生した場合、近接素線部と、一の主素線における当該近接素線部が沿う部分とが同時に断線する。したがって、近接素線部で断線が生じている場合には、主素線における当該近接素線部に沿う部分でクラックが生じていると判断することができる。一方で、近接素線部で断線が生じていない場合には、主素線における近接素線部に沿う部分とは異なる部分でクラックが生じていると判断することができる。このように、上記の構成によれば、主素線に加えて副素線を設け、当該副素線の一部が主素線に沿うように設けられていることにより、主素線上における断線の位置、即ち壁面におけるクラックの発生箇所を容易に特定することができる。
【0010】
本発明の一態様に係るクラックセンサシステムは、それぞれ壁面に沿って延びるように設けられており、それぞれの一端が端子とされて他端が互いに接続された複数の主素線、及び、前記複数の主素線のうち少なくとも一の主素線に対応して設けられて、当該一の主素線に沿って延びるとともに、当該一の主素線と断線強度の異なる副素線を有するき裂検出配線と、前記複数の主素線の一対の端子間の導通状態、及び、前記副素線の導通状態に基づいて論理演算をすることで、前記主素線の断線箇所を特定する演算装置と、を備え、前記副素線は、前記複数の主素線のうち少なくとも一の主素線に沿う近接素線部、及び、該近接素線部に接続されて当該一の主素線から前記近接素線部よりも離間した離間素線部を有する。
【0011】
上記構成によれば、副素線の断線強度と主素線の断線強度とが異なっている。したがって、主素線と副素線とが通る部分で一つのクラックが生じる際には、主素線、及び副素線のいずれか一方に先に断線が生じる。例えば、副素線の断線強度を主素線の断線強度よりも高くした場合には、主素線が副素線に先立って断線する。これを検知することによって、クラックの発生を、発生直後の規模が小さい段階で早期に認知することができる。
また、上記構成によれば、壁面における近接素線部が通る部分でクラックが発生した場合、近接素線部と、一の主素線における当該近接素線部が沿う部分とが同時に断線する。したがって、近接素線部で断線が生じている場合には、主素線における当該近接素線部に沿う部分でクラックが生じているか、又は生じる予兆があると判断することができる。一方で、近接素線部で断線が生じていない場合には、主素線における近接素線部に沿う部分とは異なる部分でクラックが生じているか、又は生じる予兆があると判断することができる。このように、上記の構成によれば、主素線に加えて副素線を設け、当該副素線の一部が主素線に沿うように設けられていることにより、主素線上における断線の位置、即ち壁面におけるクラックの発生箇所を容易に特定することができる。
【0012】
上記クラックセンサシステムでは、前記主素線は、前記壁面にクラックが発生した際に同時に断線する程度の断線強度を有し、前記副素線は、前記一の主素線よりも高い断線強度を有してもよい。
【0013】
上記構成によれば、主素線がクラックの発生と同時に断線する程度の断線強度を有していることから、主素線と副素線とが通る部分で一つのクラックが生じる際には、その発生と同時に主素線のみが直ちに断線する。このように、主素線のみが断線し、副素線が断線していない状態を検知することで、発生と同時に即座にクラックを検知することができる。さらに、主素線が断線した後で、副素線が断線したことを検知することにより、すでに発生していたクラックがさらに伸長したことを検知することができる。
【0014】
上記クラックセンサシステムでは、前記主素線は、前記壁面にクラックが発生した際に同時に断線する程度の断線強度を有し、前記副素線は、前記主素線よりも低い断線強度を有するとともに、前記壁面にせん断力が生じた場合に、クラックの発生に先立って前記せん断力によって断線する程度の断線強度を有してもよい。
【0015】
上記構成によれば、副素線がクラックの発生に先立って断線する程度の断線強度を有していることから、主素線と副素線とが通る部分で一つのクラックが生じる際には、その発生に先立って、せん断力によって副素線のみが先に断線する。このように、副素線のみが断線し、主素線が断線していない状態を検知することで、発生に先立ってクラックの予兆を認知することができる。さらに、副素線が断線した後で、主素線が断線したことを検知することにより、予兆のあった部分で実際にクラックが発生したことを検知することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、より高い精度でクラックの発生箇所を特定することが可能なクラックセンサシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第一実施形態に係るクラックセンサシステムの構成を示す配線図である。
図2】本発明の第一実施形態に係るクラックセンサシステムにおける端子間の導通状態の一例を示す表である。
図3図2の表に対応する壁面の状態を示す説明図である。
図4】本発明の第一実施形態に係るクラックセンサシステムにおける端子間の導通状態の他の例を示す表である。
図5図4の表に対応する壁面の状態を示す説明図である。
図6】本発明の第一実施形態に係るクラックセンサシステムの第一変形例を示す配線図である。
図7】本発明の第一実施形態に係るクラックセンサシステムの第二変形例を示す配線図である。
図8】本発明の第一実施形態に係るクラックセンサシステムの第三変形例を示す配線図である。
図9】本発明の第二実施形態に係るクラックセンサシステムの構成を示す配線図である。
図10】本発明の第三実施形態に係るクラックセンサシステムの構成を示す配線図である。
図11】本発明の第一実施形態に係るクラックセンサシステムのさらなる変形例を示す配線図である。
図12】本発明の第一実施形態に係るクラックセンサシステムにおける端子間の導通状態の時間変化を示す表の一例である。
図13】本発明の第一実施形態に係るクラックセンサシステムにおける端子間の導通状態の時間変化を示す表の他の例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第一実施形態]
本発明の第一実施形態について、図1から図5を参照して説明する。本実施形態に係るクラックセンサシステムは、例えば金属やコンクリート等で形成された対象部材におけるクラック(ひび割れ)の発生を検知するための装置である。図1に示すように、クラックセンサシステム100は、き裂検出配線80と、演算装置90と、を備えている。き裂検出配線80は、対象部材の壁面Wに配置されている。演算装置90は、このき裂検出配線80に電気的に接続されており、当該き裂検出配線80の導通状態に基づいてクラックの有無、及びその位置を特定する。
【0021】
き裂検出配線80は、複数(3つ)の主素線A,B,Cと、副素線Dと、を有している。主素線A,B,Cは、壁面Wに沿って互いに間隔をあけて敷設されている。主素線A,B,Cは、例えば銅やアルミを含む電気伝導性を有する金属材料によって形成されている。壁面Wが平面であっても曲面であっても、主素線A,B,Cは、当該壁面Wの形状に追従した状態で敷設される。また、壁面Wにクラックが生じた場合、主素線A,B,Cにおける当該クラックと交差する部分に直ちに断線を生じる。言い換えると、主素線A,B,Cは、クラックの発生に伴って直ちに断線する程度の引っ張り強度(断線強度)を有している。
【0022】
主素線A,B,Cの一端にはそれぞれ端子a,b,cが設けられている。これら端子a,b,cには後述する演算装置90から延びる接続線91が接続されている。主素線A,B,Cの他端は互いに接続されることで、節点Pを形成している。これら端子a,b,c、及び節点Pも壁面W上に配置されている。端子a,b,c、及び節点Pは、壁面W上で互いに間隔をあけて配置されている。ここで、端子a,b,c、は壁面W上におけるクラックが発生しにくい領域に配置され、節点Pは、壁面W上でクラックが特に発生しやすいと想定される領域に設けられることが望ましい。また、端子a,b,cは、互いに間隔をあけて配置されることが望ましい。
【0023】
副素線Dは、上記の3つの主素線A,B,Cのうち、主素線Bに沿って延びている。副素線Dの一端は端子dとされ、他端は上述の節点Pに接続されている。副素線Dは、節点Pから延びるとともに、主素線Bに相対的に近接して配置された近接素線部D1と、近接素線部D1に接続されるとともに、当該近接素線部D1に比べて主素線Bから相対的に離間して配置された離間素線部D2と、を有している。近接素線部D1は、主素線Bと同一の方向に延びている。離間素線部D2は、近接素線部D1の一端側に接続され、主素線Bから離間した位置で近接素線部D1と同一の方向に延びている。主素線Bにおける近接素線部D1に沿う部分は第一部分B1とされ、この第一部分B1を除く部分(即ち、離間素線部D2に対応する部分)は第二部分B2とされている。第一部分B1でクラックが生じた場合、当該クラックによって近接素線部D1も第一部分B1と同時に断線する。言い換えると、同一のクラックによって同時に断線が生じる程度に、近接素線部D1は第一部分B1(主素線B)に近接している。なお、離間素線部D2と主素線Bとをまたぐ単一のクラックが生じない程度に、これら離間素線部D2と主素線部Bとが十分に離間している。
【0024】
主素線A,B,Cと同様に、副素線Dも銅やアルミを含む電気伝導性を有する金属材料によって形成されている。壁面Wが平面であっても曲面であっても、副素線Dは、当該壁面Wの形状に追従した状態で敷設される。また、壁面Wにクラックが生じた場合、副素線Dにおける当該クラックと交差する部分に直ちに断線を生じる。言い換えると、主素線A,B,Cと同様に、副素線Dは、クラックの発生に伴って直ちに断線する程度の引っ張り強度(断線強度)を有している。
【0025】
なお、主素線A,B,C、及び副素線Dを壁面W上に敷設するに当たっては、例えば金属材料を壁面W上に溶射する方法を用いてもよいし、予め壁面W上に積層された金属膜をレーザー照射によって部分的に除去することで所望の配線パターンを得る方法を用いてもよい。また、これら主素線A,B,C、及び副素線Dを、ごく細い線材によって実体配線として形成することも可能である。さらに、アディティブ・マニュファクチュアリング技術・AM技術のような3Dプリンタを用いた方法を用いることも可能である。
【0026】
演算装置90は、接続線91によって、上述の端子a,b,c,dに電気的に接続されている。演算装置90は、上記のき裂検出配線80を流れる電流の状態(導通状態)に基づいて論理演算を行う。例えば、図2に示す状態では、端子cと端子aとの間、及び端子dと端子aとの間が導通している。即ち、主素線Aと主素線Cとの間、及び主素線Aと副素線Dとの間が導通している。一方で、端子aと端子bとの間、及び端子bと端子cとの間が導通していない。即ち、主素線Aと主素線Bとの間、及び主素線Bと主素線Cとの間が導通していない。
【0027】
上記の状態では、「端子aと端子cとの間が導通しており、端子aと端子bとの間が導通しておらず、かつ端子bと端子cとの間が導通していない」との入力から、演算装置90は論理演算を行い、「主素線B上で断線が生じている」と判定する。さらに、「端子dと端子aとの間が導通している」ことから、「副素線D上には断線が生じていない」と判定する。これにより、演算装置90は、断線が生じている箇所は、「主素線B上であって、かつ副素線Dに断線を生じない位置」と判定する。即ち、断線が生じている箇所は、図3に示すように、「主素線Bにおける第二部分B2である」と特定される。
【0028】
さらに、図4に示す状態では、端子cと端子aとの間が導通している。即ち、主素線Aと主素線Cとの間が導通している。一方で、端子aと端子bとの間、端子bと端子cとの間、及び端子dと端子aとの間は導通していない。即ち、主素線Aと主素線Bとの間、主素線Bと主素線Cとの間、及び副素線Dと主素線Aとの間が導通していない。この状態では、「端子aと端子cとの間が導通しており、端子aと端子bとの間が導通しておらず、かつ端子bと端子cとの間が導通していない」との入力から、演算装置90は論理演算を行い、「主素線B上で断線が生じている」と判定する。さらに、「端子dと端子aとの間が導通していない」ことから、「副素線Dと主素線Bに同時に断線が生じている」と判定する。これにより、演算装置90は、断線が生じている箇所は、「主素線B上であって、かつ副素線Dにも断線を生じる位置」と判定する。上述のように、副素線Dにおける近接素線部D1は、主素線Bにおける第一部分B1に近接している。したがって、断線が生じている箇所は、図5に示すように、「主素線Bにおける第一部分B1である」と特定される。
【0029】
上記の構成によれば、複数(3つ)の主素線A,B,Cにおける一対の端子間の導通状態の組み合わせに基づいて演算装置90が論理演算を行うことで、主素線A,B,Cのいずれが断線しているかを特定することができる。即ち、当該断線した主素線を特定することで、壁面Wにおけるクラックの発生箇所を特定することができる。さらに、上記の構成では、一の主素線Bに対応して副素線Dが設けられている。副素線Dは、当該主素線Bに沿う近接素線部D1と、近接素線部D1よりも主素線Bから離間した離間素線部D2とを有している。演算装置90は、主素線A,B,Cに加えて、この副素線Dの導通状態も加味して論理演算を行う。例えば、壁面Wにおける近接素線部D1が通る部分でクラックが発生した場合、近接素線部D1と、主素線Bにおける当該近接素線部D1が沿う部分(第一部分B1)とが同時に断線する。したがって、近接素線部D1で断線が生じている場合には、主素線Bにおける第一部分B1でクラックが生じていると判断することができる。一方で、近接素線部D1で断線が生じていない場合には、主素線Bにおける近接素線部D1に沿う部分とは異なる部分(第二部分B2)でクラックが生じていると判断することができる。このように、上記の構成によれば、主素線A,B,Cに加えて副素線Dを設け、当該副素線Dの一部が主素線の一つに沿うように設けられていることにより、主素線上における断線の位置、即ち壁面Wにおけるクラックの発生箇所を容易かつ高い精度で特定することができる。
【0030】
以上、本発明の第一実施形態について説明した。なお、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、上記第一実施形態では、副素線Dにおける近接素線部D1が節点Pから延びている例について説明した。しかしながら、副素線Dの態様は上記に限定されず、図6のような構成(第一変形例)を採ることも可能である。同図の例では、副素線Daの近接素線部D1aが、節点Pから端子dにかけての中途位置に設けられている。近接素線部D1aの両端側には一対の離間素線部D2aがそれぞれ接続されている。このような構成によっても、上記と同様に、主素線B上における断線箇所を特定することができる。
【0031】
また、他の例(第二変形例)として、図7に示すような構成を採ることも可能である。同図の例では、副素線部Dbの両端に端子d1と端子d2とが設けられている。副素線Dbは、主素線Bと主素線Aとの間で、端子d1から端子d2にかけてU字状に延びている。副素線Dbのうち、主素線Bに近接する部分が近接素線部D1bとされている。また、端子d1、及び端子d2は上述の演算装置90にそれぞれ接続されている。このような構成によっても、上記と同様に、主素線B上における断線箇所を特定することができる。
【0032】
さらに他の例(第三変形例)として、図8に示すような構成を採ることも可能である。同図の例では、第二変形例と同様に、副素線部Dcの両端に端子d1と端子d2とが設けられている。副素線Dcは、主素線Bと主素線Aとの間で、端子d1から端子d2にかけて環状に延びている。副素線Dcのうち、主素線Bに近接する部分が近接素線部D1cとされている。特に、本変形例では、第二変形例に比べて、近接素線部D1cの位置が節点P側に偏っている。近接素線部D1cの一端は端子d1に直接接続されている。また、端子d1、及び端子d2は上述の演算装置90にそれぞれ接続されている。このような構成によっても、上記と同様に、主素線B上における断線箇所を特定することができる。
【0033】
また、上記第一実施形態、及び第一変形例、第二変形例、並びに第三変形例に共通する変更点として、副素線Dを主素線Bではなく、主素線A、又はCに対応させて設けることも可能である。さらに、上記のき裂検出配線80を複数組み合わせることも可能である。これにより、さらに広い範囲でのき裂検出を実現することができる。
【0034】
[第二実施形態]
続いて、本発明の第二実施形態について、図9を参照して説明する。なお、上記の第一実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。本実施形態では、き裂検出配線280は、上述の主素線A,B,Cと、副素線Eと、を有している。副素線Eは、主素線A,B,Cのうち、主素線Bに沿って延びている。より具体的には、副素線Eは、主素線Bに近接した位置で同一の方向に延びている。さらに言い換えると、副素線Eは、壁面Wにおける主素線Bが通る領域で単一のクラックが生じた場合に、当該クラックの発生により引っ張り応力を受ける程度に、主素線Bに近接した位置に設けられている。
【0035】
副素線Eの一端は端子eとされ、他端は上述の節点Pに接続されている。副素線Eは、主素線A,B,Cを形成する材料とは異なる断線強度を有する材料によって形成されている。具体的には、副素線Eは、主素線A,B,Cを形成する材料に比べて高い引っ張り強度を有する金属材料によって形成されている。一方で、主素線A,B,Cは、壁面Wにクラックが発生した際に、その発生と同時に断線する程度の引っ張り強度(断線強度)を有している。
【0036】
上記の構成によれば、副素線Eの断線強度と主素線A,B,Cの断線強度とが異なっている。したがって、主素線Bと副素線Eとが通る部分で一つのクラックが生じる際には、主素線B、及び副素線Eのいずれか一方に先に断線が生じる。例えば、副素線Eの断線強度を主素線Bの断線強度よりも高くした場合には、主素線Bが副素線Eに先立って断線する。これを検知することによって、クラックの発生を、発生直後の規模が小さい段階で早期に認知することができる。
【0037】
さらに、上記の構成によれば、主素線Bがクラックの発生と同時に断線する程度の断線強度を有していることから、主素線Bと副素線Eとが通る部分で一つのクラックが生じる際には、その発生と同時に主素線Bのみが直ちに断線する。このように、主素線Bのみが断線し、副素線Eが断線していない状態を検知することで、発生と同時に即座にクラックを検知することができる。さらに、主素線Bが断線した後で、副素線Eが断線したことを検知することにより、すでに発生していたクラックがさらに伸長したことを検知することができる。
【0038】
以上、本発明の第二実施形態について説明した。なお、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、上記第二実施形態では、主素線A,B,Cと副素線Eの材料を違えることで、断線強度の差を確保する構成について説明した。しかしながら、断線強度を違える上では、これら主素線A,B,Cと副素線Eを同一の材料で形成しつつ、副素線Eの径を主素線A,B,Cの径よりも大きくする構成を採ることも可能である。また、副素線Eを主素線Bではなく、主素線A、又はCに対応させて設けることも可能である。さらに、上記のき裂検出配線280を複数組み合わせることも可能である。これにより、さらに広い範囲でのき裂検出を実現することができる。また、副素線Eが、上述の第一実施形態で説明した近接素線部と、離間素線部とを有する構成を採ることも可能である。
【0039】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態について、図10を参照して説明する。なお、上記の各実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。同図に示すように、本実施形態では、き裂検出配線380は、上述の主素線A,B,Cと、副素線Fと、を有している。副素線Fは、主素線A,B,Cのうち、主素線Bに沿って延びている。より具体的には、副素線Fは、主素線Bに近接した位置で同一の方向に延びている。さらに言い換えると、副素線Fは、壁面Wにおける主素線Bが通る領域で単一のクラックが生じつつある場合に、当該クラックの発生に先立って、せん断力(引っ張り応力)を受ける程度に、主素線Bに近接した位置に設けられている。
【0040】
副素線Fの一端は端子fとされ、他端は上述の節点Pに接続されている。副素線Fは、主素線A,B,Cを形成する材料とは異なる断線強度を有する材料によって形成されている。具体的には、副素線Fは、主素線A,B,Cを形成する材料に比べて低い引っ張り強度(断線強度)を有する金属材料によって形成されている。さらに詳細には、副素線Fは、壁面Wでクラックの原因となるせん断力が生じた際に、クラックの発生に先立って当該せん断力によって断線する程度の断線強度を有している。一方で、主素線A,B,Cは、壁面Wにクラックが発生した際に、その発生と同時に断線する程度の断線強度を有している。
【0041】
上記の構成によれば、副素線Fがクラックの発生に先立って断線する程度の断線強度を有していることから、主素線Bと副素線Fとが通る部分で一つのクラックが生じる際には、その発生に先立って副素線Fのみが先に断線する。このように、副素線Fのみが断線し、主素線Bが断線していない状態を検知することで、発生に先立ってクラックの予兆を認知することができる。さらに、副素線Fが断線した後で、主素線Bが断線したことを検知することにより、予兆のあった部分で実際にクラックが発生したことを検知することができる。
【0042】
以上、本発明の第三実施形態について説明した。なお、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。例えば、上記第三実施形態では、主素線A,B,Cと副素線Fの材料を違えることで、断線強度の差を確保する構成について説明した。しかしながら、断線強度を違える上では、これら主素線A,B,Cと副素線Fを同一の材料で形成しつつ、副素線Fの径を主素線A,B,Cの径よりも小さくする構成を採ることも可能である。また、副素線Fを主素線Bではなく、主素線A、又はCに対応させて設けることも可能である。さらに、上記のき裂検出配線380を複数組み合わせることも可能である。これにより、さらに広い範囲でのき裂検出を実現することができる。また、副素線Fが、上述の第一実施形態で説明した近接素線部D1と、離間素線部D2とを有する構成を採ることも可能である。
【0043】
さらに、上述の第一実施形態において、離間素線部D2に沿ってさらに他の離間素線部D3を設ける構成を採ることも可能である(図11参照)。この場合、離間素線部D2及びD3に断線が生じていないことに基づいて、主素線部Bの第一部分B1に断線が生じている、との判断をすることができる。つまり、この構成によれば、主素線部B上における断線位置をより正確に特定することができる。
【0044】
加えて、上記第一実施形態で説明した図2、及び図4の導通状態の判定に、時間変化を加味する構成を採ることも可能である。例えば、図12に示すように、主素線Bと副素線Dの断線のタイミングに時間的なずれがある場合、時刻t3に主素線Bの第二部分B2が断線し、時刻txに副素線Dが断線したと判別することができる。図12の場合、近接素線部D1と離間素線部D2のいずれが断線したかを特定することはできないが、図13に示すような導通状態を示した場合には、主素線Bと副素線Dとにおける断線のタイミングが同じであることから、時刻t3に主素線Bの第一部分B1、及び近接素線部D1に断線が生じたと判定することができる。
【符号の説明】
【0045】
100 クラックセンサシステム
80,280,380 き裂検出配線
90 演算装置
91 接続線
A,B,C 主素線
B1 第一部分
B2 第二部分
D,Da,Db,Dc,E,F 副素線
D1,D1a,D1b,D1c 近接素線部
D2,D2a,D2b,D2c,D3 離間素線部
P 節点
a,b,c,d,e、f,d1,d2,d3 端子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13