(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】非金属構造物の切断装置及び切断方法
(51)【国際特許分類】
B26F 3/06 20060101AFI20221214BHJP
E04G 23/08 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
B26F3/06
E04G23/08 H
(21)【出願番号】P 2019037519
(22)【出願日】2019-03-01
【審査請求日】2021-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000150981
【氏名又は名称】日酸TANAKA株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000122689
【氏名又は名称】岡谷酸素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石丸 達朗
(72)【発明者】
【氏名】山崎 輝士
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信也
(72)【発明者】
【氏名】下坂 賢二
(72)【発明者】
【氏名】松岡 明彦
(72)【発明者】
【氏名】成田 修英
(72)【発明者】
【氏名】井戸 康浩
(72)【発明者】
【氏名】右田 周平
(72)【発明者】
【氏名】小阪 宏之
(72)【発明者】
【氏名】馬場 朝之
(72)【発明者】
【氏名】田中 高広
(72)【発明者】
【氏名】工藤 真温
(72)【発明者】
【氏名】武田 隆志
(72)【発明者】
【氏名】狩野 智也
(72)【発明者】
【氏名】前田 健作
(72)【発明者】
【氏名】沼田 慎治
(72)【発明者】
【氏名】小林 英亮
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-044888(JP,A)
【文献】特開昭49-071731(JP,A)
【文献】特開2004-330286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26F 3/06
E04G 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非金属構造物
12に対して連続的に移動可能な切断トーチ
13と、
該切断トーチ
13を連続的に移動させるためのハンドリング装置
14と、
前記切断トーチ
13に接続する供給ホース
15と、
該供給ホース
15を介して前記切断トーチ
13の火炎口
16側に供給する燃焼ガス、酸素、金属粉及び冷却水と、
該燃焼ガス、酸素、金属粉及び冷却水をそれぞれ収納する調整器
17と、を少なくとも
備え、
前記切断トーチ13は、火炎口16側の筒部18に連通する燃焼ガス供給路19、酸素供給路20及び金属粉供給路21が設けられていると共に、当該切断トーチ13を冷却するための冷却水路22が設けられ、
該冷却水路22は、一方側22aから冷却水を送水して他方側22bから冷却水を排出できる構成であり、
前記ハンドリング装置14は、複数本のアーム25が複数のピン26を介して回動自在に設けられ、基部27が台車23に設置され、先端部28が前記切断トーチ13に接続しており、
適宜の前記ピン26には操作アーム29が設けられて、該操作アーム29を作業者30が操作して前記切断トーチ13を自在に移動できる構成であること
を特徴とする非金属構造物の切断装置。
【請求項2】
前記燃焼ガスは、水素リッチガスであること
を特徴とする請求項1に記載の非金属構造物の切断装置。
【請求項3】
請求項1の切断装置を使用した非金属構造物の切断方法であって、
操作アーム29を作業者30が操作して切断トーチ13を移動し、
非金属構造物
12に対して
前記切断トーチ
13を相対し、
該切断トーチ
13の火炎口
16を前記非金属構造物
12に対して連続的に移動させて、前記火炎口
16の火炎
16aによって当該非金属構造物
12に裂開部
24を形成し、
該裂開部
24に対して前記火炎口
16を連続的に移動させると共に、徐々に挿入して当該裂開部
24を深化させて、前記非金属構造物
12を切断すること
を特徴とする非金属構造物の切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスコンや地下外壁等の切断が可能なコンクリート等の非金属構造物の切断装置及び切断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、スクラップアンドビルドにより建物の更新が行われる機会が多いが、そのため既存コンクリート構造物の解体作業にともなう騒音や振動の発生が社会問題となっている。
最も施工性が良い解体工法はジャイアントブレーカーを用いる工法であるが、振動が大きいため周辺への影響が危惧される場合は、ワイヤソーやコアドリルを用いて既存コンクリート構造物の解体が行われている。
しかし、この場合も既存コンクリート構造物の状態が明確でないことから、工程遅延やコストアップの要因となっている。
【0003】
一方、従来のコンクリート構造物の切断方法としては、特開昭49-71731号公報に開示されたコンクリート構造物を溶断する方法および装置が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
このコンクリート構造物の溶断方法は、(A)まず、溶断しようとするコンクリート構造物を可燃性ガスによる火炎で予熱して予熱部分を形成し、(B)予熱した部分を酸化反応熱の大きい金属粉末のほか、溶融スラグの流動を促進させる金属粉末の混合粉末による高温火炎ジェットで溶融させ、(C)その溶融スラグの外部流出をさらに早めるため高圧流体の噴流エネルギーを利用して吹き飛ばして、コンクリート構造物を溶断する方法である。
【0005】
また、コンクリート構造物を溶断する装置1は、
図4に示すように、3本のノズル2、3、4を備え、その第1のノズル2は金属粉末供給装置2aに接続されて高温の火炎ジェット2bを形成し、第2のノズル3は可燃性ガスボンベ3aに接続されて火炎ジェット3bを形成し、第3のノズル4は流体源4aに接続されて溶融したコンクリート構造物を吹き飛ばす構成である。
【0006】
このような構成のコンクリート構造物を溶断する装置1は、
図4に示すように、ノズル2、3、4が一緒に矢印X方向に移動する。(a)そして、ノズル3からの火炎ジェット3bによりコンクリート構造物5の表面5aに予熱部分6を形成する。(b)次に、予熱部分6にノズル2からの高温火炎ジェット2bが当たり、コンクリート構造物5の表面5aが溶融して溶融部分7を形成する。(c)さらに、ノズル4からの空気流4bによって溶融部分7を吹き飛ばす。
従って、溶融部分7は溶融スラグ8となって流出し、コンクリート構造物5に付着固化することがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この従来例のコンクリート構造物を溶断する方法および装置においては、数センチから数十センチ厚のコンクリート構造物を溶断することは可能であるが、例えば厚さ1メートル以上のマスコンを溶断することができない。
また、地下外壁や耐圧盤等の背面側に制限がある箇所では施工性に問題があり、その結果、工程遅延やコストアップのおそれがあるという問題点を有している。
【0009】
火炎口のノズルが3本必要なので、溶断作業時の作業性が悪いだけでなく、装置の製作コストが高くなるという問題点を有している。
【0010】
従って、従来例における場合においては、マスコンを切断できることと、地下外壁や耐圧盤等の背面側に制限がある場合でも施工性良く切断できることと、切断作業時の作業性を向上させること等に解決しなければならない課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記従来例の課題を解決するための本発明の要旨は、非金属構造物12に対して連続的に移動可能な切断トーチ13と、該切断トーチ13を連続的に移動させるためのハンドリング装置14と、前記切断トーチ13に接続する供給ホース15と、該供給ホース15を介して前記切断トーチ13の火炎口16側に供給する燃焼ガス、酸素、金属粉及び冷却水と、該燃焼ガス、酸素、金属粉及び冷却水をそれぞれ収納する調整器17と、を少なくとも備え、前記切断トーチ13は、火炎口16側の筒部18に連通する燃焼ガス供給路19、酸素供給路20及び金属粉供給路21が設けられていると共に、当該切断トーチ13を冷却するための冷却水路22が設けられ、該冷却水路22は、一方側22aから冷却水を送水して他方側22bから冷却水を排出できる構成であり、前記ハンドリング装置14は、複数本のアーム25が複数のピン26を介して回動自在に設けられ、基部27が台車23に設置され、先端部28が前記切断トーチ13に接続しており、適宜の前記ピン26には操作アーム29が設けられて、該操作アーム29を作業者30が操作して前記切断トーチ13を自在に移動できる構成であることである。
【0012】
また、前記燃焼ガスは、水素リッチガスであること、;
を含むものである。
【0013】
前記従来例の課題を解決するための本発明の要旨は、請求項1の切断装置を使用した非金属構造物の切断方法であって、操作アーム29を作業者30が操作して切断トーチ13を移動し、非金属構造物12に対して前記切断トーチ13を相対し、該切断トーチ13の火炎口16を前記非金属構造物12に対して連続的に移動させて、前記火炎口16の火炎16aによって当該非金属構造物12に裂開部24を形成し、該裂開部24に対して前記火炎口16を連続的に移動させると共に、徐々に挿入して当該裂開部24を深化させて、前記非金属構造物12を切断することである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る非金属構造物の切断装置によれば、切断トーチの火炎口を非金属構造物に対して連続的に移動することができる。そして、火炎口の火炎によって非金属構造物に裂開部を形成することができる。さらに、裂開部に対して火炎口を連続的に移動させると共に、徐々に挿入して裂開部を深化させて非金属構造物を切断することができる。
従って、マスコン等の大型な構造物を切断できるし、地下外壁や耐圧盤等の背面側に制限がある場合でも作業性良く切断できるという種々の優れた効果を奏する。
【0015】
切断トーチは、火炎口側の筒部に連通する燃焼ガス供給路、酸素供給路及び金属粉供給路が設けられていると共に、当該切断トーチを冷却するための冷却水路が設けられていることによって、切断作業時に切断トーチを冷却することができる。
従って、非金属構造物の裂開部から火炎口を挿入した時に、切断トーチの過熱を防止しながら切断作業を行えるという優れた効果を奏する。
【0016】
ハンドリング装置は、移動自在な台車に設置されていることによって、切断装置を自在に移動できるので、様々な場所で切断作業を行うことが可能であるという優れた効果を奏する。
【0017】
燃焼ガスは、水素リッチガスであることによって、切断作業時に切断対象物からの輻射熱を抑えることができるので、非金属構造物の裂開部から火炎口を挿入した時に、切断トーチの過熱を抑制することができるという優れた効果を奏する。
【0018】
本発明に係る非金属構造物の切断方法によれば、切断トーチの火炎口を非金属構造物に対して連続的に移動させて、火炎口の火炎によって非金属構造物に裂開部を形成し、さらに裂開部に対して火炎口を連続的に移動させると共に、徐々に挿入して裂開部を深化させて非金属構造物を切断するので、マスコン等の大型な構造物を切断できる。また、地下外壁や耐圧盤等の背面側に制限がある場合でも作業性良く切断できるという種々の優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る切断装置を使用した切断作業を説明する側面図である。
【
図2】本発明に係る切断装置を使用した切断作業を説明する側面図である。
【
図3】切断トーチの構造を説明する横断面図である。
【
図4】従来例に係るコンクリート構造物を溶断する装置を略示的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。まず、
図1及び
図2において、符号11は非金属構造物の切断装置を示し、この切断装置11は、非金属構造物12に対して連続的に移動可能な切断トーチ13と、切断トーチ13を連続的に移動させるためのハンドリング装置14と、切断トーチ13に接続する供給ホース15と、供給ホース15を介して切断トーチ13の火炎口16側に供給する燃焼ガス、酸素、金属粉及び冷却水と、これら燃焼ガス、酸素、金属粉及び冷却水をそれぞれ収納する調整器17とから構成される。
【0021】
切断対象物の非金属構造物12は、例えばマスコン、地下外壁あるいは耐圧盤等の大型のコンクリート構造物であるが、それら以外にも様々な大型又は小形の非金属の構造物が含まれる。
【0022】
切断トーチ13は、
図3に示すように、火炎口16側の筒部18に連通する燃焼ガス供給路19と、酸素供給路20と、金属粉供給路21とを有する。
また、切断トーチ13には、冷却水路22が設けられおり、冷却水路22の一方側22aから冷却水を送水して、他方側22bから冷却水を排出できる仕組みになっている。このように、切断トーチ13を冷却水で冷却することができるので、非金属構造物12の裂開部24から火炎口16を挿入した時に(
図1及び
図2参照)、切断トーチ13の過熱を防止しながら切断作業が行える。
【0023】
ハンドリング装置14は、
図1及び
図2に示すように、複数本のアーム25が複数のピン26を介して回動自在に設けられており、基部27が台車23に設置されて、先端部28が切断トーチ13に接続している。
そして、適宜のピン26には操作アーム29が設けられており、この操作アーム29を作業者30が操作することによって、切断トーチ13を自在に移動できる仕組みになっている。つまり、非金属構造物12に対して切断トーチ13を連続的に移動することが可能である。
切断トーチ13の連続的な移動は、非金属構造物12に対して上下方向又は遠近方向への移動と、切断トーチ13の一部を支点にした首振り移動又は揺動と、切断幅を広げるための横方向への移動とを意味する。
また、
図1において符号31は、作業者30が乗る作業台を示す。
【0024】
また、ハンドリング装置14は、移動自在な台車23に設置されている。従って、切断装置11を適宜に移動させて様々な場所で切断作業を行うことができる。
【0025】
供給ホース15は、調整器17に収納された燃焼ガス、酸素、金属粉及び冷却水をそれぞれ切断トーチ13に供給するためのゴム製又は樹脂製等のホースである。
【0026】
調整器17は、供給ホース15を介して切断トーチ13の火炎口16側に供給する燃焼ガス、酸素、金属粉及び冷却水をそれぞれの収納体に収納する。
【0027】
燃焼ガスは、可燃性ガスと支燃性ガスとの混合ガスである。また、燃焼ガスは水素ガスや種々なガスを使用できるが、特に水素リッチガスであることが望ましい。この場合、切断作業時に切断対象物からの輻射熱を抑えることができるので、非金属構造物12の裂開部24から火炎口16を挿入した時に、切断トーチ13の過熱を抑制することができる。
水素リッチガスは、水素ガス(100%)、又は水素ガスと炭化系ガスの混合ガス(水素混合比率が50%以上)である。
【0028】
酸素は、燃焼ガスを燃焼するため、金属粉を燃焼するため、及び非金属構造物粉等を排出するために切断トーチ13に供給する。
また、金属粉は、炎の温度を上げるために切断トーチ13に供給する。金属粉は、具体的には鉄とアルミの混合粉を用いるが、これ以外にも炎の温度を上げることのできる様々な種類の金属粉を用いてもよい。
【0029】
以上のように構成される非金属構造物の切断装置11は、切断トーチ13の火炎口16を非金属構造物12に対して連続的に移動することができる。そして、火炎口16の火炎によって非金属構造物に裂開部24を形成することができる。さらに、裂開部24に対して火炎口16を連続的に移動させると共に、徐々に挿入して裂開部24を深化させて非金属構造物12を切断することができる(
図1及び
図2参照)。
従って、マスコン等の大型な構造物を容易に切断できるし、地下外壁や耐圧盤等の背面側に制限がある場合でも作業性良く切断できる。
なお、切断トーチ13の火炎口16を非金属構造物12に対して連続的に移動することについては、上述したように、火炎口16を非金属構造物12に対して上下方向又は遠近方向へ移動することと、切断トーチ13の一部分を支点にした首振り移動又は揺動することと、切断幅を広げるための横方向へ移動することとを意味する。
【0030】
次に、非金属構造物の切断装置11を使用した非金属構造物の切断方法について説明する。まず、非金属構造物12に対して切断トーチ13を相対し、切断トーチ13の火炎口16を非金属構造物12に対して連続的に移動させて、火炎口16からの火炎16aによって非金属構造物12に裂開部24を形成する。そして、裂開部24に対して火炎口16を連続的に移動させると共に、徐々に挿入して裂開部24を深化させて、非金属構造物12を切断する(
図1及び
図2参照)。このとき火炎16aの切断温度は、2000~2500℃以上であると思われる。
【0031】
以上のように構成される非金属構造物の切断方法は、火炎口16の火炎16aによって非金属構造物12に裂開部24を形成し、さらに裂開部24に対して火炎口16を連続的に移動させると共に、徐々に挿入して裂開部24を深化させて非金属構造物12を切断するので、マスコン等の大型な構造物を切断できる。また、地下外壁や耐圧盤等の背面側に制限がある場合でも作業性良く切断できる。
【符号の説明】
【0032】
1 コンクリート構造物を溶断する装置
2 第1のノズル
2a 金属粉末供給装置
2b 高温の火炎ジェット
3 第2のノズル
3a 可燃性ガスボンベ
3b 火炎ジェット
4 第3のノズル
4a 流体源
4b 空気流
5 コンクリート構造物
5a 表面
6 予熱部分
7 溶融部分
8 溶融スラグ
11 非金属構造物の切断装置
12 非金属構造物
13 切断トーチ
14 ハンドリング装置
15 供給ホース
16 火炎口
16a火炎
17 調整器
18 筒部
19 燃焼ガス供給路
20 酸素供給路
21 金属粉供給路
22 冷却水路
22a一方側
22b他方側
23 台車
24 裂開部
25 アーム
26 ピン
27 基部
28 先端部
29 操作アーム
30 作業者
31 作業台