(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】サスペンション装置
(51)【国際特許分類】
B60G 17/015 20060101AFI20221214BHJP
【FI】
B60G17/015 B
(21)【出願番号】P 2019054289
(22)【出願日】2019-03-22
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】小林 僚馬
(72)【発明者】
【氏名】表 将也
(72)【発明者】
【氏名】窪田 友夫
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-255152(JP,A)
【文献】特開2015-064096(JP,A)
【文献】特開2009-132237(JP,A)
【文献】特開平5-50826(JP,A)
【文献】特開2000-272318(JP,A)
【文献】特開2007-40497(JP,A)
【文献】特開2011-25776(JP,A)
【文献】特開2006-327434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 17/015
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両におけるばね上部材とばね下部材との間に介装されるアクチュエータと、
前記アクチュエータを制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、前記アクチュエータの伸縮速度のばね下共振周波数以下の低周波成分から得た低周波制御指令と、前記ばね上部材の上下方向速度にスカイフックゲインを乗じて得たスカイフック制御指令とに基づいて路面追従制御指令を求め、前記アクチュエータを前記路面追従制御指令に基づいて制御する
ことを特徴とするサスペンション装置。
【請求項2】
前記コントローラは、前記伸縮速度を処理して前記低周波成分を得るローパスフィルタを有し、
前記ローパスフィルタの遮断周波数は、ばね上共振周波数以上であって前記ばね下共振周波数以下に設定されている
ことを特徴とする請求項1に記載のサスペンション装置。
【請求項3】
前記コントローラは、ばね上共振周波数帯およびばね下共振周波数帯において路面からの振動が前記ばね上部材へ伝達しにくくする制御指令である振動絶縁制御指令を求め、前記路面追従制御指令と前記振動絶縁制御指令とに基づいて最終制御指令を求め、前記アクチュエータを前記最終制御指令に基づいて制御する
ことを特徴とする請求項1または2に記載のサスペンション装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記路面追従制御指令と前記振動絶縁制御指令との配分を求める調整部を備え、前記路面追従制御指令と前記振動絶縁制御指令と前記配分から前記最終制御指令を求める
ことを特徴とする請求項3に記載のサスペンション装置。
【請求項5】
前記調整部は、前記ばね上部材の振動レベルと前記アクチュエータの振動レベルとに基づいて前記配分を求める
ことを特徴とする請求項4に記載のサスペンション装置。
【請求項6】
前記調整部は、前記ばね上部材の振動情報のばね上共振周波数帯の成分から前記ばね上部材の前記振動レベルを求め、前記伸縮速度の振動情報のばね上共振周波数帯の成分から前記アクチュエータの前記振動レベルを求める
ことを特徴とする請求項5に記載のサスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両におけるばね上部材とばね下部材との間に介装されるアクチュエータと、アクチュエータを制御するコントローラとを備えたサスペンション装置としては、走行中に路面から入力される振動が車体(ばね上部材)に伝達するのを抑制するスカイフック制御を行うものがある(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなサスペンション装置では、車体の上下方向速度にスカイフックゲイン(スカイフック減衰係数)を乗じて制御指令を求め、アクチュエータに制御指令が指示する制御力を出力させる。このようにスカイフック制御を行うサスペンション装置では、アクチュエータの制御力で車体の上下方向速度を0にするようにして車体の振動を抑制して車両における乗心地を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のサスペンション装置では、路面からの振動の伝達を絶縁して車体の振動を抑制できるが、高低差が大きく長大な凹凸がある路面を車両が走行すると、アクチュエータがフルストロークしてアクチュエータの伸び切り或いは縮み切りによる振動がばね上部材に伝達されて乗心地が悪化する場合がある。
【0006】
また、車両が坂道を走行する場合には路面が傾斜しているにも関わらずアクチュエータが車体を水平に保とうとするために車体が傾かず、車体の傾きと路面の傾斜が不一致の状態となったまま車両が坂道を走行するので、車両搭乗者に違和感を知覚させてしまう。
【0007】
そこで、本発明の目的は、高低差が大きく長大な凹凸のある路面や坂道を車両が走行しても車両における乗心地を向上させ得るサスペンション装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の課題解決手段におけるサスペンション装置は、車両におけるばね上部材とばね下部材との間に介装されるアクチュエータと、アクチュエータを制御するコントローラとを備え、コントローラは、アクチュエータの伸縮速度のばね下共振周波数以下の低周波成分から得た低周波制御指令と、ばね上部材の上下方向速度にスカイフックゲインを乗じて得たスカイフック制御指令とに基づいて路面追従制御指令を求め、アクチュエータを路面追従制御指令に基づいて制御する。
【0009】
このように構成されたサスペンション装置によれば、車両が高低差は大きいが長さが長い凹凸のある路面を走行する場合にアクチュエータがフルストロークするのを防止でき、車両が坂道に差し掛かる場合にばね上部材の傾きと路面の傾きとの不一致を緩和できる。
【0010】
また、サスペンション装置におけるコントローラは、アクチュエータの伸縮速度を処理して低周波成分を得るローパスフィルタを有し、ローパスフィルタの遮断周波数がばね上共振周波数以上であってばね下共振周波数以下に設定されてもよい。このように構成されたサスペンション装置によれば、ばね上部材の路面追従性の向上と車体のばね下共振周波数帯の振動の抑制とを両立できる。
【0011】
さらに、サスペンション装置におけるコントローラは、ばね上共振周波数帯およびばね下共振周波数帯において路面からの振動がばね上部材へ伝達しにくくする制御指令である振動絶縁制御指令を求め、路面追従制御指令と振動絶縁制御指令とに基づいて最終制御指令を求め、アクチュエータを最終制御指令に基づいて制御してもよい。このように構成されたサスペンション装置によれば、良路走行の際に乗心地を向上できる路面追従制御指令と、悪路走行の際に乗心地を向上できる振動絶縁制御指令とを適宜使い分けして、車両が走行する路面の良悪によらず車両における乗心地を向上できる。
【0012】
また、サスペンション装置におけるコントローラは、路面追従制御指令と振動絶縁制御指令との配分を求める調節部を備え、路面追従制御指令と振動絶縁制御指令と配分から最終制御指令を求めてもよい。このように構成されたサスペンション装置によれば、ばね上部材とアクチュエータの振動情報や、路面状況(路面粗さ)に応じて、適宜、路面追従制御指令と振動絶縁制御指令の配分を求めて車両が走行する路面の良悪によらず車両における乗心地を向上できる。
【0013】
さらに、サスペンション装置における調整部は、ばね上部材の振動レベルとアクチュエータの振動レベルとに基づいて配分を求めてもよい。このように構成されたサスペンション装置によれば、配分を求めるのに別途のセンサが不要であり、車体とアクチュエータの振動の大きさを正確に把握でき、路面追従制御指令と振動絶縁制御指令との配分を最適化でき、車両が走行する路面の良悪によらず車両における乗心地を向上できる。
【0014】
また、サスペンション装置における調整部は、ばね上部材の振動情報のばね上共振周波数帯の成分からばね上部材の振動レベルを求め、伸縮速度の振動情報のばね上共振周波数帯の成分からアクチュエータの振動レベルを求めてもよい。このように構成されたサスペンション装置によれば、ばね上部材が大きく振動する周波数帯にてばね上部材とアクチュエータの振動レベルを精度よく得ることができ、振動絶縁制御指令と路面追従制御指令との最適な配分を求めて車両が走行する路面の良悪によらず車両における乗心地をより一層向上できる。
【発明の効果】
【0015】
以上より、本発明のサスペンション装置によれば、高低差が大きく長大な凹凸のある路面や坂道を車両が走行しても車両における乗心地を向上させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施の形態におけるサスペンション装置の構成図である。
【
図2】一実施の形態のサスペンション装置におけるコントローラの構成図である。
【
図3】コントローラにおける路面追従制御部の制御ブロックを示した図である。
【
図4】路面追従制御における路面の入力から車体へ伝達される振動の振動伝達ゲイン特性を示した図である。
【
図5】振動絶縁制御における路面の入力から車体へ伝達される振動の振動伝達ゲイン特性を示した図である。
【
図6】コントローラにおける振動絶縁制御部の制御ブロックの第一例を示した図である。
【
図7】コントローラにおける振動絶縁制御部の制御ブロックの第二例を示した図である。
【
図8】コントローラにおける調整部の制御ブロックを示した図である。
【
図9】コントローラにおける最終指令演算部の制御ブロックを示した図である。
【
図10】コントローラにおける処理手順の一例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。
図1に示すように、一実施の形態におけるサスペンション装置Sは、車両Vのばね上部材である車体Bとばね下部材である車輪Wとの間に介装されるアクチュエータAと、アクチュエータAを制御するコントローラCとを備え、車体Bの振動を抑制する。
【0018】
アクチュエータAは、懸架ばねSPに並列されて車体Bと車輪Wとの間に介装されており、たとえば、油圧や空圧を利用したテレスコピック型のシリンダや電動リニアアクチュエータ等とされている。なお、アクチュエータAは、
図1中では一つのみ示されているが、車両Vが四輪自動車であれば各車輪Wと車体Bとの間の4か所に設けられる。アクチュエータAは、油圧によって駆動する場合には、図示はしないが、たとえばポンプ、圧力制御弁や切換弁、これらを駆動するためのドライバを備えており、コントローラCからドライバへ入力される制御指令によって伸縮駆動する。よって、アクチュエータAは、コントローラCが求めた最終制御指令F_refの入力を受けると、最終制御指令F_refが指示する方向と大きさの推力を発揮して伸縮し車体Bおよび車輪Wを上下方向へ加振する。なお、
図1中で車輪Wと路面との間に記載されているばねはタイヤが持つばね要素を示している。
【0019】
コントローラCは、ばね上部材としての車体Bの上下方向加速度αを検知する加速度センサGと、アクチュエータAの変位Xを検出するストロークセンサHと、上下方向加速度αおよび変位Xから最終制御指令F_refを求める制御演算装置Uとを備えている。図示したところでは、コントローラCが1つのアクチュエータAを制御するようになっているが、アクチュエータAが車両Vに4つ設けられている場合、1つのコントローラCで4つのアクチュエータAを制御してもよい。一つのコントローラCで複数のアクチュエータAを制御する場合、加速度センサGおよびストロークセンサHをアクチュエータAの設置数に対応して設ければよい。
【0020】
加速度センサGは、車体Bの制御対象であるアクチュエータAの直上に設けられており、検知した車体Bの上下方向加速度αを制御演算装置Uに入力する。ストロークセンサHは、アクチュエータAの伸縮方向の変位Xを検知して制御演算装置Uに入力する。なお、車体Bを剛体とみなせば、同一直線上に並ばないように配慮して3つの加速度センサGを車体Bに設置すれば、3つの加速度センサGで検出した加速度から車体Bの4つのアクチュエータAの直上の上下方向加速度を演算によって求め得る。よって、1つのコントローラCで4つのアクチュエータAを制御する場合、加速度センサGは3つ車体Bに設ければよい。
【0021】
制御演算装置Uは、
図2に示すように、路面追従制御指令FCを求める路面追従制御部U1と、振動絶縁制御指令FIを求める振動絶縁制御部U2と、路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIの配分を求める調整部U3と、路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIと調整部U3が求めた配分から最終制御指令F_refを求める最終指令演算部U4とを備えて構成されている。
【0022】
路面追従制御部U1は、詳細には、
図3に示すように、ストロークセンサHが検知した変位Xを微分する微分器10と、伸縮速度dXの低周波成分dX_lowを抽出するローパスフィルタ11と、伸縮速度の低周波成分dX_lowに減衰係数を乗じる乗算器12と、上下方向加速度αを積分する積分器13と、上下方向速度Bvにスカイフックゲイン(スカイフック減衰係数)を乗じる乗算器14と、各乗算器12,14が出力した値を加算して路面追従制御指令FCを求める加算器15とを備えている。
【0023】
微分器10は、ストロークセンサHが検知した変位Xを微分してアクチュエータAの伸縮速度dXを求める。また、積分器13は、上下方向加速度αを積分して車体Bの上下方向速度Bvを求める。路面追従制御を行うために路面追従制御部U1で必要とする情報は、アクチュエータAの伸縮速度dXと車体Bの上下方向速度Bvである。アクチュエータAの伸縮速度dXは、ばね上部材としての車体Bとばね下部材としての車輪Wの上下方向の相対速度に等しいので、コントローラCは、車体Bの上下方向速度Bvと車輪Wの上下方向速度の差から伸縮速度dXを得てもよい。車輪Wの上下方向速度を得るには、車輪Wに加速度センサを設けて、車輪Wの上下方向加速度を得てから、上下方向加速度を積分すればよい。このように、ストロークセンサHの代わりに車輪Wに加速度センサを設けて伸縮速度dXを求めるようにしてもよい。また、車体Bの上下方向速度Bvは、車輪Wの上下方向速度にアクチュエータAの伸縮速度dXを加算すれば得られるので、コントローラCは、車体Bに設けた加速度センサGを廃止して車輪Wに加速度センサを設けて車体Bの上下方向速度Bvを求めてもよい。
【0024】
ローパスフィルタ11は、微分器10が出力する伸縮速度dXを濾波して伸縮速度の低周波成分dX_lowを抽出する。ローパスフィルタ11の遮断周波数fcutは、ばね下共振周波数をfwとすると、fcut≦fwとなるように設定されている。よって、ローパスフィルタ11は、伸縮速度dXからばね下共振周波数fwを含む高周波成分が除去される。より詳細には、本実施の形態のローパスフィルタ11の遮断周波数fcutは、ばね上共振周波数をfbとすると、fb≦fcut≦fwの範囲に収まるように設定されている。したがって、本実施の形態では、ローパスフィルタ11によって抽出した伸縮速度dXの低周波成分dX_lowは、伸縮速度dXからばね上共振周波数fbより高周波側が取り除かれた信号となる。
【0025】
乗算器12は、前述のローパスフィルタ11によって抽出された低周波成分dX_lowに減衰係数Clowを乗じて低周波制御指令Flowを求める。他方、乗算器14は、上下方向速度BvにスカイフックゲインCskyを乗じてスカイフック制御指令Fskyを求める。なお、上下方向加速度αを積分器13で積分すると高周波成分がある程度除去されるので、上下方向速度Bvをフィルタ処理していないが、スカイフック制御指令Fskyを得るために好ましい情報としてはばね上共振周波数帯の上下方向速度Bvであるため、バンドパスフィルタ或いはローパスフィルタで上下方向速度Bvを処理してばね上共振周波数帯の上下方向速度Bvを抽出してからスカイフックゲインCskyを乗じてスカイフック制御指令Fskyを得てもよい。そして、加算器15は、得られた低周波制御指令Flowとスカイフック制御指令Fskyとを加算して路面追従制御指令FCを求める。
【0026】
低周波制御指令Flowは、アクチュエータAの伸縮速度の低周波成分dX_lowに減衰係数Clowを乗じて得られる指令であるから、アクチュエータAが高周波で伸縮する際に発生する推力を小さくするが、アクチュエータAが低周波で伸縮する際に発生する推力を大きくする指令である。つまり、低周波制御指令Flowは、路面変位の周期が短い場合、アクチュエータAを伸縮しやすくさせて路面から入力される振動を車体Bに伝えにくくする。また、低周波制御指令Flowは、路面変位の周期が長い場合、アクチュエータAを伸縮しにくくさせて路面と車体Bとの距離を変動しないようにし、車体Bを路面変位に追従させようとする。
【0027】
他方、スカイフック制御指令Fskyは、上下方向速度BvにスカイフックゲインCskyを乗じて得られる指令であるから、車体Bの上下方向速度Bvに比例してアクチュエータAが発生する推力を大きくさせる指令である。つまり、スカイフック制御指令Fskyは、アクチュエータAに車体Bの振動の大きさに比例した推力を発揮させて車体Bを抑制させる。
【0028】
そして、路面追従制御指令FCは、低周波制御指令Flowとスカイフック制御指令Fskyを加算して得られる制御指令である。コントローラCが路面追従制御指令FCによってアクチュエータAを制御すると、アクチュエータAに車体Bを路面変位に追従させつつも車体Bの振動を低減する推力を発揮させる。
【0029】
なお、コントローラCが路面追従制御指令FCのみをアクチュエータAに与えてアクチュエータAを制御(路面追従制御)する際、路面入力から車体Bまでの振動伝達ゲインは、
図4に示すように、ばね上共振周波数帯でゲインが0dBとなり路面変位に車体Bが追従し、ばね下共振周波数帯ではゲインが下がって車体Bへの振動が絶縁されるような特性となっており、車体Bがばね上共振周波数帯では路面の変位に追従しつつもばね下共振周波数帯の振動が絶縁されているのがわかる。
【0030】
なお、低周波制御指令Flowを求める際の減衰係数Clowとスカイフック制御指令Fskyを求める際のスカイフックゲインCskyとの比によって低周波制御とスカイフック制御の割合を調節でき、減衰係数ClowとスカイフックゲインCskyは車両Vに適するよう設定される。また、
図4に示した振動伝達ゲインの特性は一例であって、低周波制御指令Flowとスカイフック制御指令Fskyとに基づいて路面追従制御指令FCを得て、路面追従制御指令FCによってアクチュエータAを制御すると、ばね上共振周波数帯では車体Bの変位が路面追従しつつ、ばね下共振周波数帯の振動の車体Bへの伝達を抑制できる。
【0031】
振動絶縁制御部U2は、振動絶縁制御指令FIを求める。コントローラCが振動絶縁制御指令FIのみをアクチュエータAに与えてアクチュエータAを制御する(振動絶縁制御)場合、路面入力から車体Bまでの振動伝達ゲインは、たとえば、
図5に示すように、ばね上共振周波数帯でゲインがマイナスの値を採り、その後、ばね下共振周波数帯を超えても下降して、ばね上共振周波数帯およびばね下共振周波数帯において路面から車体Bへの振動が絶縁されるような特性となっている。
【0032】
振動絶縁制御指令FIは、ばね上共振周波数帯およびばね下共振周波数帯において車体Bへの振動を絶縁できる制御指令となっていればよく、振動絶縁制御指令FIでアクチュエータAを制御した際の振動伝達ゲインの特性が
図5に示したものと一致していなくともよい。このような特性を得るには、たとえば、
図6に示すように、振動絶縁制御部U2は、車体Bの上下方向速度Bvに減衰係数を乗じて第一指令を求める第一指令演算部21と、車輪Wが変位することで懸架ばねSPが車体Bを振動させる力を打ち消す第二指令を車輪Wの変位から求める第二指令演算部22と、これら第一指令および第二指令を加算して振動絶縁制御指令FIを求める加算部23とを備えるものでもよい。車輪Wの変位は、加速度センサGが検知した車体Bの上下方向
加速度αを二回積分して得た車体Bの上下方向の変位にストロークセンサHで検知したアクチュエータAの変位Xを加算して得てもよいし、上下方向加速度を加速度センサで検知してこの上下方向加速度を二回積分して得てもよい。なお、第一指令演算部21は、ばね上部材である車体Bの振動を抑制する第一指令を求めるものであるので、上下方向速度Bvをバンドパスフィルタ或いはローパスフィルタで処理してばね上共振周波数帯の上下方向速度Bvを抽出してから減衰係数を乗じて第一指令を得てもよい。また、第二指令演算部22は、ばね下部材である車輪Wの変位から第二指令を求めるので、車輪Wの変位をバンドパスフィルタ或いはローパスフィルタで処理してばね下共振周波数帯の変位を抽出してから第二指令を得てもよい。
【0033】
また、振動絶縁制御部U2は、たとえば、
図7に示すように、車体Bの上下方向速度Bvに減衰係数を乗じて第三指令を求める第三指令演算部24と、車輪Wの上下方向速度に減衰係数を乗じて第四指令を求める第四指令演算部25と、これら第三指令および第四指令を加算して振動絶縁制御指令FIを求める加算部26とを備えるものでもよい。なお、第三指令演算部24は、ばね上部材である車体Bの振動を抑制する第三指令を求めるものであるので、上下方向速度Bvをバンドパスフィルタ或いはローパスフィルタで処理してばね上共振周波数帯の上下方向速度Bvを抽出してから減衰係数を乗じて第一指令を得てもよい。また、第四指令演算部25は、ばね下部材である車輪Wの上下方向速度から第四指令を求めるので、車輪Wの上下方向速度をバンドパスフィルタ或いはローパスフィルタで処理してばね下共振周波数帯の上下方向速度を抽出してから減衰係数を乗じて第四指令を得てもよい。
【0034】
つづいて、調整部U3は、
図8に示すように、微分器10が出力するアクチュエータAの伸縮速度dXを濾波するバンドパスフィルタ31と、バンドパスフィルタ31で処理した伸縮速度dXの振動の強度である振動レベルを求めるレベル演算部32と、積分器13が出力する車体Bの上下方向速度Bvを濾波するバンドパスフィルタ33と、バンドパスフィルタ33で処理した上下方向速度Bvの振動の強度である振動レベルを求めるレベル演算部34と、各レベル演算部32,34が出力する値にそれぞれゲインを乗じるゲイン乗算部35,36と、ゲイン乗算部35,36が出力する値を加算する加算部37と、加算部37が出力した値に基づいて配分を求める配分算出部38とを備えている。
【0035】
バンドパスフィルタ31は、微分器10が出力する伸縮速度dXを濾波して伸縮速度dXのばね上共振周波数帯の成分を抽出する。具体的には、本実施の形態のバンドパスフィルタ31は、ばね上共振周波数帯として伸縮速度dXから1Hzから2Hzまで周波数成分を抽出する。なお、バンドパスフィルタ31の透過周波数帯は、サスペンション装置Sが適用される車両Vのばね上共振周波数帯に設定されればよい。
【0036】
レベル演算部32は、バンドパスフィルタ31で処理した伸縮速度dXの振動の大きさである振動レベルを求める。振動レベルは、バンドパスフィルタ31で処理した伸縮速度dXの波高値であり、アクチュエータAの振動の大きさを示している。なお、アクチュエータAの振動レベルを求めればよいので、調整部U3は、アクチュエータAの伸縮速度dX以外にも、アクチュエータAの伸縮変位或いは伸縮加速度といったアクチュエータAの振動情報から振動レベルを求めてもよい。
【0037】
レベル演算部32は、具体的には、バンドパスフィルタ31が出力した信号をオリジナル信号として、このオリジナル信号に対してゲインを変えずに位相のみ異なる信号を複数生成し、オリジナル信号と複数の位相の異なる信号の最大の値を振動レベルとする。オリジナル信号に対して位相が所定角度ずつずれた信号を複数生成して、これらの信号から最大値を選べば、この最大値がオリジナル信号の波高値に近似した値となるので、振動レベルをタイムリーに求めることができる。なお、レベル演算部32は、この他にも、ピークホールドやヒルベルト変換といった処理によって信号の振幅の包絡線を算出して振動レベルを求めてもよいし、伸縮速度dXと伸縮速度dXの微分値或いは積分値の合成ベクトルの長さを振動レベルとして求めてもよい。
【0038】
バンドパスフィルタ33は、積分器13が出力する車体Bの上下方向速度Bvを濾波して上下方向速度Bvのばね上共振周波数帯の成分を抽出する。具体的には、本実施の形態のバンドパスフィルタ33は、バンドパスフィルタ31と同様に、ばね上共振周波数帯として上下方向速度Bvから1Hzから2Hzまで周波数成分を抽出する。なお、バンドパスフィルタ33の透過周波数帯は、サスペンション装置Sが適用される車両Vのばね上共振周波数帯に設定されればよい。
【0039】
レベル演算部34は、バンドパスフィルタ33で処理した上下方向速度Bvの振動の大きさである振動レベルを求める。振動レベルは、バンドパスフィルタ33で処理した上下方向速度Bvの波高値であり、ばね上部材である車体Bの振動の大きさを示している。なお、車体Bの振動レベルを求めればよいので、調整部U3は、車体Bの上下方向速度Bv以外にも上下方向の変位或いは上下方向加速度といった振動情報から振動レベルを求めてもよい。
【0040】
レベル演算部34は、レベル演算部32と同様に、バンドパスフィルタ33が出力した信号をオリジナル信号として、このオリジナル信号に対してゲインを変えずに位相のみ異なる信号を複数生成し、オリジナル信号と複数の位相の異なる信号の最大の値を振動レベルとする。レベル演算部34は、レベル演算部32と同様に、ピークホールドやヒルベルト変換といった処理によって信号の振幅の包絡線を算出して振動レベルを求めてもよいし、伸縮速度dXと伸縮速度dXの微分値或いは積分値の合成ベクトルの長さを振動レベルとして求めてもよい。
【0041】
ゲイン乗算部35は、レベル演算部32が出力した振動レベルにゲインを乗じて加算部37に入力する。ゲイン乗算部36は、レベル演算部32が出力した振動レベルにゲインを乗じて加算部37に入力する。この実施の形態の場合、伸縮速度dXと上下方向速度Bvからそれぞれ振動レベルを求めているので、振動レベルと求める元の情報の単位が速度で一致しているが、加速度では速度に対して角周波数分だけ値大きくなり変位では速度に対して角周波数分だけ値が小さくなる。ゲイン乗算部35とゲイン乗算部36は、レベル演算部32,34で用いる情報の単位が異なる場合であっても、ゲインを乗じて振動レベルの大きさを調整し、同じ大きさ振動に対して各振動レベルを一致させる。ゲイン調整が不要であれば、ゲイン乗算部35,36を省略してもよい。
【0042】
加算部37は、ゲイン乗算部35,36が出力した値を加算して配分算出部38へ出力する。配分算出部38は、加算部37が出力する値Nに基づいて0から1までの値を採る配分値Jを配分として出力する。具体的には、配分算出部38は、値Nが下限値Min未満である場合には0を出力し、値Nが上限値Max以上である場合には1を出力し、値Nが下限値Min以上で上限値Max未満である場合には配分値Jとすると、J=(N-Min)/(Max-Min)を演算して配分値Jを出力する。このように配分算出部38は、路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIの配分を0から1の値で決定する。上限値Maxは、振動絶縁制御指令FIを100%とする場合の境界を画する閾値であり、車両Vの搭乗者が不快と感じる車体Bの振動レベルおよびアクチュエータAの振動レベルの値に設定されており、車体Bの振動レベルとアクチュエータAの振動レベルのいずれか一方でも上記値に達すると配分値Jを1とするように設定されている。下限値Minは、路面追従制御指令FCを100%とする場合の境界を画する閾値であり、0或いは正の小さな値に設定される。
【0043】
以上より、調整部U3は、ばね上部材である車体Bの振動が大きくなるかまたはアクチュエータAの伸縮における振動が大きくなると配分値Jを大きくし、車体Bの振動とアクチュエータAの伸縮における振動が共に小さくなると配分値Jを小さくする。
【0044】
最終指令演算部U4は、
図9に示すように、1から配分値Jを引き算する減算部41と、減算部41が出力する値を路面追従制御指令FCとを乗じる乗算部42と、配分値Jと振動絶縁制御指令FIとを乗じる乗算部43と、乗算部42と乗算部43が出力した値を加算して最終制御指令F_refを求める加算部44とを備えている。
【0045】
よって、最終指令演算部U4は、配分値Jが0を超えて1未満の値である場合には、配分値Jの値が小さくなればなるほど振動絶縁制御指令FIよりも路面追従制御指令FCの配分を大きくし、配分値Jの値が大きくなればなるほど路面追従制御指令FCよりも振動絶縁制御指令FIの配分を大きくする。また、最終指令演算部U4は、配分値Jが0である場合、振動絶縁制御指令FIの配分を0とし、路面追従制御指令FCをそのまま最終制御指令F_refとする。他方、最終指令演算部U4は、配分値Jが1である場合、路面追従制御指令FCの配分を0とし、振動絶縁制御指令FIをそのまま最終制御指令F_refとする。
【0046】
以上より、最終指令演算部U4は、車体Bの振動が大きくなるかまたはアクチュエータAの伸縮における振動が大きくなると振動絶縁制御指令FIの割合を増やして路面追従制御指令FCに対して振動絶縁制御指令FIを優先するような最終制御指令F_refを求める。また、最終指令演算部U4は車体Bの振動とアクチュエータAの伸縮における振動が共に小さくなると、路面追従制御指令FCの割合を増やして振動絶縁制御指令FIに対して路面追従制御指令FCを優先するような最終制御指令F_refを求める。この最終制御指令F_refは、アクチュエータAが出力すべき推力の大きさと向きを指示する指令となっており、アクチュエータAに入力される。
【0047】
このように、本実施の形態におけるコントローラCは、車体Bの上下方向加速度αとアクチュエータAの変位Xとに基づいて最終制御指令F_refを求めてアクチュエータAの図外のドライバへ最終制御指令F_refを入力する。アクチュエータAは、最終制御指令F_refが指示する推力を発揮する。
【0048】
そして、コントローラCは、
図10に示すように、車両Vが走行中、加速度センサGで車体Bの上下方向加速度αを検出するとともに、ストロークセンサHでアクチュエータAの変位Xを検出する(ステップF1)。つづいて、コントローラCは、上下方向加速度αと変位Xに基づいて路面追従制御指令FCを求めて(ステップF2)、さらに、上下方向加速度αと変位Xとに基づいて振動絶縁制御指令FIを求める(ステップF3)。また、コントローラCは、上下方向加速度αと変位Xとに基づいて配分値Jを求めて(ステップF4)、路面追従制御指令FC、振動絶縁制御指令FIおよび配分値Jに基づいて最終制御指令F_refを求める(ステップF5)。そして、コントローラCは、最終制御指令F_refをアクチュエータAへ与えてアクチュエータAを制御する(ステップF6)。コントローラCは、繰り返してステップF1からステップF6までの処理を行ってアクチュエータAを制御する。
【0049】
なお、制御演算装置Uは、ハードウェア資源としては、図示はしないが具体的にはたとえば、加速度センサGおよびストロークセンサHが出力する信号を取り込むためのインターフェースと、上下方向加速度αおよび変位Xを取り込んでアクチュエータAを制御するのに必要な処理に使用されるプログラムが格納されるROM(Read Only Memory)等の記憶装置と、前記プログラムに基づいた処理を実行するCPU(Central Processing Unit)等の演算装置と、前記CPUに記憶領域を提供するRAM(Random Access Memory)等の記憶装置とを備えて構成されればよく、制御演算装置Uにおける各部は、CPUの前記プログラムの実行により実現できる。また、制御演算装置Uは、CPUの前記プログラムの実行による実現にかえて、アナログの電子回路によって実現されてもよい。
【0050】
サスペンション装置Sは、以上のように構成されており、以下のように動作する。凹凸がないか或いは凹凸があっても小さな凹凸しかない路面(良路)を車両Vが走行する場合、ばね下部材である車輪Wの上下方向の振動は穏やかであり、ばね上部材である車体Bも振動しない。この状況では、車体Bの振動レベルもアクチュエータAの振動レベルも十分小さく配分値Jは0或いは0近傍の値をとる。配分値Jが0或いは0近傍の値をとる場合、最終制御指令F_refに占める路面追従制御指令FCの割合が100%或いは100%に近くなるので、コントローラCは、路面追従制御指令FCでアクチュエータAを制御することになる。よって、車両Vが平坦或いは凹凸の少ない路面を走行する場合、最終制御指令F_ref中で路面追従制御指令FCが支配的となって、サスペンション装置Sは、ばね上共振周波数帯の振動に対してはアクチュエータAが伸縮しづらくなるように推力を発揮して車体Bを路面変位に追従させる。このように本実施の形態のサスペンション装置Sでは、車両Vが良路走行中は車体Bが路面に追従するように制御される。
【0051】
他方、車両Vが良路から長さが短く大きな凹凸のある荒れた路面(悪路)に突入すると、車輪Wの短周期で大きく上下動するようになる。そうすると、サスペンション装置Sは、それまで路面追従制御指令FCが支配的であった最終制御指令F_refでアクチュエータAを制御していたので、路面の凹凸に応じて車体Bも変位して車体Bが大きく振動するようになる。このように、車両Vが良路から悪路へ突入すると徐々に配分値Jが大きくなる。よって、調整部U3が出力する配分値Jは、徐々に1に向かって大きな値になって、車両Vが悪路を継続して走行して車体BとアクチュエータAの振動レベルが十分に大きくなると最終的には1となる。配分値Jが1或いは1近傍の値をとる場合、最終制御指令F_refに占める振動絶縁制御指令FIの割合が100%或いは100%に近くなるので、コントローラCは、振動絶縁制御指令FIでアクチュエータAを制御することになる。よって、車両Vが悪路を走行する場合、最終制御指令F_ref中で振動絶縁制御指令FIが支配的となって、サスペンション装置Sは、ばね上共振周波数帯およびばね下共振周波数帯の振動に対しては車体Bを振動させないようにアクチュエータAが推力を発揮し、車体Bの振動を抑制する。また、車両Vが良路から悪路へ突入すると徐々に配分値Jが大きくなっていくので、最終制御指令F_ref中で路面追従制御指令FCの割合が減っていき、その分、振動絶縁制御指令FIの割合が増えていく。このように、路面追従制御指令FCがフェードアウトしつつ振動絶縁制御指令FIがフェードインして最終制御指令F_refが生成されるので、最終制御指令F_refの値は急変することがなくシームレスに路面追従制御から振動絶縁制御へ切り替わる。
【0052】
振動絶縁制御指令FIが支配的となった最終制御指令F_refでコントローラCがアクチュエータAを制御すると路面からの振動が絶縁されて車体Bの振動が抑制される。そして、車両Vが悪路を継続して走行する場合、車体Bの振動が抑制されているので車体Bの振動レベルが小さくなる一方で、路面の凹凸が大きいアクチュエータAの振動レベルは大きなままとなる。すると、調整部U3が求める配分値Jは、アクチュエータAの振動レベルが上限値Maxに到達するか近い値となって、1或いは1近傍の値を採る。よって、路面の凹凸が多くなって車体Bが振動して振動絶縁制御指令FIが最終制御指令F_refの多くを占めることになり車体Bの振動が抑制されても、車両Vが悪路を継続して走行する場合にはコントローラCは、振動絶縁制御指令FIが支配的な最終制御指令F_refを用いてアクチュエータAを制御し車体Bの振動を抑制する。このように本実施の形態のサスペンション装置Sでは、車両Vが悪路を走行する場合であっても車体Bの振動が抑制されて車両における乗心地が損なわれない。
【0053】
その後、車両Vが悪路から良路に突入すると、振動が抑制されていた車体Bの振動レベルは小さいままであることに加えて、車輪Wの上下動も収束するのでアクチュエータAの振動レベルも徐々に小さくなる。よって、調整部U3が出力する配分値Jは、徐々に0に向かって小さな値になって、車両Vが良路を継続して走行して車体BとアクチュエータAの振動レベルが十分に小さくなると最終的には0となる。すると、最終制御指令F_refに占める路面追従制御指令FCの割合が100%或いは100%に近くなるので、コントローラCは、路面追従制御指令FCでアクチュエータAを制御し、サスペンション装置Sは、車体Bを路面変位に追従させるようになる。車両Vが悪路から良路へ突入すると徐々に配分値Jが小さくなっていくので、最終制御指令F_ref中で振動絶縁制御指令FIの割合が減っていき、その分、路面追従制御指令FCの割合が増えていく。このように、振動絶縁制御指令FIがフェードアウトしつつ路面追従制御指令FCがフェードインして最終制御指令F_refが生成されるので、最終制御指令F_refの値は急変することがなくシームレスに振動絶縁制御から路面追従制御へ切り替わる。
【0054】
また、車両Vが高低差は大きいが長さが長い(長大な)凹凸のある路面を走行する場合には、車輪Wが長周期で上下動するので、車体Bも振動する。しかしながら、この場合には、車体Bの振動周期が長く、乗心地を悪化させるような振動にはならない。このような場合、車体Bの振動レベルもアクチュエータAの振動レベルも大きくならないので、調整部U3が出力する配分値Jも比較的小さな値となって、最終制御指令F_refにおける路面追従制御指令FCの割合は振動絶縁制御指令FIよりも多くなる。このような路面状況では、最終制御指令F_refに占める路面追従制御指令FCの割合が多くなるので、サスペンション装置Sは、車体Bを路面に追従させるようにアクチュエータAを制御する。よって、本実施の形態のサスペンション装置Sでは、車両Vが高低差は大きいが長さが長い凹凸のある路面を走行する場合にアクチュエータAへ与える最終制御指令F_ref中の路面追従制御指令FCの割合を振動絶縁制御指令FIの割合よりも多くしてアクチュエータAを伸縮させ難くしてアクチュエータAがフルストロークするのを防止できる。
【0055】
また、車両Vが平らな良路から坂道に差し掛かる場合、車体B或いはアクチュエータAが継続して振動し続けることがないので車体Bの振動レベルもアクチュエータAの振動レベルも大きくならない。よって、車両Vが平らな良路から坂道に差し掛かる場合、最終制御指令F_ref中の路面追従制御指令FCの割合を振動絶縁制御指令FIの割合よりも多くしてアクチュエータAを伸縮させ難くさせる。このようにサスペンション装置Sが振舞うと、車体Bが路面に追従するので、車両Vが坂道を走行する場合に車体Bの傾きが路面の傾きと一致し、車両搭乗者に違和感を知覚させてしまうこともなくなる。
【0056】
以上、本発明のサスペンション装置Sは、車両Vにおける車体(ばね上部材)Bと車輪(ばね下部材)Wとの間に介装されるアクチュエータAと、アクチュエータAを制御するコントローラCとを備え、コントローラCは、アクチュエータAの伸縮速度dXのばね下共振周波数fw以下の低周波成分から得た低周波制御指令Flowと、車体(ばね上部材)Bの上下方向速度BvにスカイフックゲインCskyを乗じて得たスカイフック制御指令Fskyとに基づいて路面追従制御指令FCを求め、アクチュエータAを路面追従制御指令FCに基づいて制御する。このように構成されたサスペンション装置Sは、アクチュエータAのばね下共振周波数よりも低周波数の振動に対してはアクチュエータAの推力を大きくしてアクチュエータAを伸縮し難くする低周波制御指令Flowと、車体(ばね上部材)Bの振動を抑制するスカイフック制御指令Fskyとに基づいて路面追従制御指令FCを求めるので、アクチュエータAに車体Bを路面変位に追従させつつも車体Bの振動を低減する推力を発揮させる。
【0057】
よって、本発明のサスペンション装置Sによれば、車両Vが高低差は大きいが長さが長い凹凸のある路面を走行する場合にアクチュエータAが車体Bを路面に追従させるように制御されて伸縮しにくくなり、アクチュエータAがフルストロークするのを防止できる。また、このように構成されたサスペンション装置Sによれば、車両Vが坂道に差し掛かる場合であってもアクチュエータAが車体Bを路面に追従させるように制御されるので、車両Vが坂道を走行する場合に車体Bの傾きと路面の傾きの不一致を緩和して車両搭乗者に違和感を知覚させてしまうことがない。
【0058】
以上より、本発明のサスペンション装置Sによれば、アクチュエータAのフルストロークを防止し、路面と車体Bの傾きのずれを緩和して搭乗者に違和感を与えないので、高低差が大きく長大な凹凸のある路面や坂道を車両Vが走行しても車両における乗心地を向上させ得る。なお、本実施の形態では、サスペンション装置Sは、路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとに基づいてアクチュエータAに与える最終制御指令F_refを算出しているが、路面追従制御指令FCのみでアクチュエータAを制御すれば高低差が大きく長大な凹凸のある路面や坂道を車両Vが走行しても車両Vにおける乗心地を向上させ得る。よって、高低差が大きく長大な凹凸のある路面や坂道を車両Vが走行しても車両における乗心地を向上させ得るという効果を得ることのみを目的とする場合、コントローラCにおける制御演算装置Uは、路面追従制御部U1のみを有して路面追従制御指令FCのみを求めてアクチュエータAを制御してよい。
【0059】
また、本実施の形態のサスペンション装置Sでは、コントローラCがアクチュエータAの伸縮速度dXを処理して低周波成分を得るローパスフィルタ11を有し、ローパスフィルタ11の遮断周波数fcutがばね上共振周波数fb以上であってばね下共振周波数fw以下に設定されている。よって、ローパスフィルタ11で処理された、伸縮速度dXの低周波成分dX_lowは、伸縮速度dXからばね上共振周波数fbより高周波側が取り除かれた信号となる。このように構成されたサスペンション装置Sによれば、前述のように設定されたローパスフィルタ11で処理した伸縮速度dXに基づいて低周波制御指令Flowを求めるので、アクチュエータAのばね上共振周波数帯の振動に対してはアクチュエータAの推力を高める一方でばね下共振周波数帯の振動に対してはアクチュエータAの推力を小さくして車体Bの路面追従性を高めつつばね下共振周波数帯の振動については車体Bへ振動の伝達を抑制できる。よって、このように構成されたサスペンション装置Sによれば、車体Bの路面追従性の向上と車体Bのばね下共振周波数帯の振動の抑制とを両立できる。
【0060】
さらに、本実施の形態のサスペンション装置Sでは、コントローラCは、ばね上共振周波数帯およびばね下共振周波数帯において路面からの振動が車体(ばね上部材)Bへ伝達しにくくする制御指令である振動絶縁制御指令FIを求め、路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとに基づいて最終制御指令F_refを求め、アクチュエータAを最終制御指令F_refに基づいて制御する。そして、本実施の形態のサスペンション装置Sでは、調整部U3を設けて路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとの配分を調節しているが、前述のように、路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとの一方を選択して最終制御指令F_refとするような制御も可能である。よって、路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとに基づいて最終制御指令F_refを求めてアクチュエータAを最終制御指令F_refに基づいて制御するサスペンション装置Sでは、良路走行の際に乗心地を向上できる路面追従制御指令FCと、悪路走行の際に乗心地を向上できる振動絶縁制御指令FIとを適宜使い分けし、或いは、両者の配分を調節して最終制御指令F_refを求めてアクチュエータAを制御できる。よって、本実施の形態のサスペンション装置Sによれば、路面状況に応じて路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとを使い分けて、車両Vが走行する路面の良悪によらず車両における乗心地を向上できる。なお、路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとの選択は、路面状況に応じて選択すればよいので、たとえば、車体Bの振動情報とアクチュエータAの振動情報とから路面状況を判断するか、或いは、路面変位を検知するセンサによって路面状況を把握すればよい。車体Bの振動情報とアクチュエータAの振動情報は、前述の振動レベルを求めてこれらの振動レベルから判断すればよいが、振動レベル以外のも車体BとアクチュエータAの振動の加速度、速度、変位のいずれかの平均値や所定時間中に得られた値の積分値を振動情報としてもよい。また、配分値J或いは値Nに閾値を設けて、配分値J或いは値Nが閾値以上であれば振動絶縁制御指令FIを選択し、配分値J或いは値Nが閾値未満であれば路面追従制御指令FCを選択してもよい。
【0061】
また、本実施の形態のサスペンション装置Sでは、コントローラCは、路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとの配分値(配分)Jを求める調整部U3を備え、路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIと配分値(配分)Jから最終制御指令F_refを求める。このように構成されたサスペンション装置Sでは、路面が良路である場合には最終制御指令F_refにおける路面追従制御指令FCの配分を多くし、路面が悪路の場合には最終制御指令F_refにおける振動絶縁制御指令FIの配分を多くできる。よって、本実施の形態のサスペンション装置Sによれば、車体BとアクチュエータAの振動情報や、路面状況(路面粗さ)に応じて、適宜、路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIの配分を求めて車両Vが走行する路面の良悪によらず車両における乗心地を向上できる。
【0062】
なお、本実施の形態のサスペンション装置Sでは、調整部U3は、車体(ばね上部材)Bの振動レベルとアクチュエータAの振動レベルとに基づいて配分値(配分)Jを求めている。このように調整部U3が上下方向速度Bvの振動レベルと伸縮速度dXの振動レベルとに基づいて配分値(配分)Jを求める場合、路面追従制御指令FCを求めるに当たって必要なアクチュエータの伸縮速度dXと車体(ばね上部材)Bの上下方向速度Bvをそのまま利用して配分値(配分)Jを求めることができるので、別途センサを設ける必要がなくなる。また、車体Bの振動レベルとアクチュエータAの振動レベルを用いることで、車体BとアクチュエータAの振動の大きさを正確に把握でき、路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとの配分を最適化でき、車両Vが走行する路面の良悪によらず車両における乗心地を向上できる。さらに、このように構成されたサスペンション装置Sでは、車体(ばね上部材)Bの振動が大きいか、或いは、アクチュエータAの振動が大きい場合には、振動絶縁制御指令FIの最終制御指令F_refに占める割合が多くなって車体Bの振動が抑制される。よって、最終制御指令F_refにおける振動絶縁制御指令FIが支配的になって車体Bの振動が抑制された後でもアクチュエータAの振動が大きい場合には振動絶縁制御指令FIの割合が多くなり車体Bの振動を抑制する制御が継続されて、路面追従制御指令FCによる路面追従制御には移行しない。よって、車両Vが悪路走行している場合に、振動絶縁制御によって車体Bの振動が抑制されると路面追従制御指令FCへ移行してしまい車体Bの振動が大きくなって今度は振動絶縁制御へ移行するといった、振動抑制制御と路面追従制御との制御の切り替えが頻繁に生じるハンチングを防止できる。また、調整部U3は、路面状況を検知して配分を求めてもよいが、本実施の形態のように車体Bの振動レベルとアクチュエータAの振動レベルとを用いて配分値(配分)Jを求めれば路面状況を検出するセンサが不要となる利点も享受できる。
【0063】
さらに、本実施の形態のサスペンション装置Sでは、車体(ばね上部材)Bの振動情報のばね上共振周波数帯の成分から車体(ばね上部材)Bの振動レベルを求め、伸縮速度dXの振動情報のばね上共振周波数帯の成分からアクチュエータAの振動レベルを求める。このように構成されたサスペンション装置Sによれば、車体(ばね上部材)Bが大きく振動する周波数帯にて車体(ばね上部材)BとアクチュエータAの振動レベルを精度よく得ることができ、振動絶縁制御指令FIと路面追従制御指令FCとの最適な配分を求めて車両Vが走行する路面の良悪によらず車両における乗心地をより一層向上できる。
【0064】
なお、調整部U3は、車体(ばね上部材)Bの振動情報のみに基づいて配分値(配分)Jを求めてもよい。この場合、調整部U3におけるアクチュエータAの伸縮速度dXを処理するバンドパスフィルタ31、レベル演算部32、ゲイン乗算部35および加算部37を廃止すればよい。このように構成されたサスペンション装置Sであっても、車体(ばね上部材)Bの振動が大きくなれば、最終制御指令F_refに占める路面追従制御指令FCの割合を減じて振動絶縁制御指令FIの割合を増加させ、反対に車体(ばね上部材)Bの振動が小さくなれば、最終制御指令F_refに占める路面追従制御指令FCの割合を増加させて振動絶縁制御指令FIの割合を減じさせることができる。よって、このように構成されたサスペンション装置Sによれば、車体(ばね上部材)Bの振動状況に応じて路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとの配分を調整して車両における乗心地を向上できる。なお、車体(ばね上部材)Bの振動情報は、車体Bの上下方向速度Bvの他、上下方向加速度或いは上下方向変位の値そのもの、或いは、これらの値の絶対値、絶対値の平均値或いは積分値、これらの値の最大値等といった振動状況を把握できる情報を振動情報として用いればよい。
【0065】
また、調整部U3は、車体(ばね上部材)Bの振動情報とアクチュエータAの振動情報に基づいて配分値(配分)Jを求めてもよい。このように構成されたサスペンション装置Sであっても、車体(ばね上部材)B或いはアクチュエータAの振動が大きくなれば、最終制御指令F_refに占める路面追従制御指令FCの割合を減じて振動絶縁制御指令FIの割合を増加させ、反対に車体(ばね上部材)B或いはアクチュエータAの振動が小さくなれば、最終制御指令F_refに占める路面追従制御指令FCの割合を増加させて振動絶縁制御指令FIの割合を減じさせることができる。よって、このように構成されたサスペンション装置Sによれば、車体(ばね上部材)BとアクチュエータAの振動状況に応じて路面追従制御指令FCと振動絶縁制御指令FIとの配分を調整して車両における乗心地を向上でき、路面追従制御と振動絶縁制御との制御の切り替えが頻繁するハンチングを防止できる。なお、アクチュエータAの振動情報は、アクチュエータAの伸縮速度dXの他、伸縮の加速度或いは伸縮の変位Xの値そのもの、或いは、これらの値の絶対値、絶対値の平均値或いは積分値、これらの値の最大値等といった振動状況を把握できる情報を振動情報として用いればよい。
【0066】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0067】
11・・・ローパスフィルタ、A・・・アクチュエータ、B・・・車体(ばね上部材)、C・・・コントローラ、S・・・サスペンション装置、V・・・車両、W・・・車輪(ばね下部材)