(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】コークス炉用れんが積体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C10B 29/02 20060101AFI20221214BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20221214BHJP
F27D 1/16 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
C10B29/02
F27D1/00 D
F27D1/00 K
F27D1/16 Q
(21)【出願番号】P 2019061251
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】首藤 翔
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-116144(JP,A)
【文献】特開2016-222758(JP,A)
【文献】特開2019-038885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 29/02
F27D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モルタルを介して複数のれんがを接合してなるコークス炉用れんが積体であって、
隣接するれんが間の
溝部分である隙間部に伸縮可能なスペーサーが装着され、
この伸縮可能なスペーサーを装着したれんがに対して、当該スペーサーの伸縮方向にバンドの締め付け力が掛かるように、外周にバンドが巻かれて締め付けられている、コークス炉用れんが積体。
【請求項2】
モルタルを介して複数のれんがを接合してなるコークス炉用れんが積体の製造方法において、
隣接するれんが間の
溝部分である隙間部に伸縮可能なスペーサーを装着し、その後、
この伸縮可能なスペーサーを装着したれんがに対して、当該スペーサーの伸縮方向にバンドの締め付け力が掛かるように、外周にバンドを巻いて締め付けることを特徴とする、コークス炉用れんが積体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉で使用されるれんが積体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コークス炉では、れんがをライニングする際に、作業能率向上のためにあらかじめ複数のれんがをモルタル目地で接合したれんが積体が使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、補修すべき壁体を複数の積層部分に分け、各積層部分と一致する形状に複数のれんがを組み合わせた耐火物集合体(れんが積体)を炉外で形成し、コークス炉の壁体補修部を解体除去した後、前記耐火物集合体で壁体を築造する補修方法が開示さている。
しかし、特許文献1の耐火物集合体は、コークス炉内に搬入して施工する際、その下面を、下側に配置される耐火物とモルタルを介して接合しなければならないため、吊り上げるときに下面全体を保持することが不可能である。一方、この耐火物集合体を例えば側面にフックを設けて吊り上げる場合には、複数の小形状の耐火物(れんが)が組み合わせられているため、れんががずれたり、脱落する可能性がある。
【0004】
また、特許文献2には、プレライニングブロック(れんが積体)の表面において目地部を含むように有機系のコーティング層を形成することが開示されている。このように有機系のコーティング層を形成することで、れんがのずれ抑制効果は高くなるものの、高コストになる問題がある。
【0005】
また、特許文献3には、大型ブロック(れんが積体)の外周にバンドを巻くことが開示されている。
【0006】
ところで、コークス炉において、れんがどうしの間にはモルタル目地が介在するが、この目地に亀裂が発生しやすく、目地に亀裂が発生するとガスリークが発生する問題がある
また、特許文献1や特許文献2のれんが積体には、隣接するれんが間に隙間があり、このようなれんが積体の外周にバンドを巻くと、そのバンドの締め付け力により、特に隣接するれんが間の隙間部において、れんががずれる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-19968号公報
【文献】特開2016-223647号公報
【文献】特開2016-222758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、隣接するれんが間に隙間があるコークス炉用れんが積体において、外周にバンドを巻いてもれんがのずれを抑制することができる技術手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、モルタル目地を使用したコークス炉用れんが積体において、隣接するれんが間の隙間部に伸縮可能なスペーサーを入れることで、れんが積体をバンドで巻いて締め付けてもスペーサーによってれんがのずれを抑制でき、しかもモルタル硬化後又はれんが積体の施工前にスペーサーを容易に取り外せることを知見した。
【0010】
すなわち、本発明の一観点によれば、次のコークス炉用れんが積体が提供される。
モルタルを介して複数のれんがを接合してなるコークス炉用れんが積体であって、
隣接するれんが間の溝部分である隙間部に伸縮可能なスペーサーが装着され、この伸縮可能なスペーサーを装着したれんがに対して、当該スペーサーの伸縮方向にバンドの締め付け力が掛かるように、外周にバンドが巻かれて締め付けられている、コークス炉用れんが積体。
【0011】
また、本発明の他の観点によれば、次のコークス炉用れんが積体の製造方法が提供される。
モルタルを介して複数のれんがを接合してなるコークス炉用れんが積体の製造方法において、
隣接するれんが間の溝部分である隙間部に伸縮可能なスペーサーを装着し、その後、この伸縮可能なスペーサーを装着したれんがに対して、当該スペーサーの伸縮方向にバンドの締め付け力が掛かるように、外周にバンドを巻いて締め付けることを特徴とする、コークス炉用れんが積体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、れんがのずれが生じにくいコークス炉用れんが積体を低コストで提供することができる。また、本発明のコークス炉用れんが積体を使用することで、コークス炉のガスリークのリスクを低減することができる。さらに、れんがの施工直後にモルタルが十分硬化していない段階でもれんが積体を移動することができるため、一つの作業場で多くのれんが積体を製造することができ、作業能率が大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1a】本発明の一実施例に係るコークス炉用れんが積体の正面図。
【
図1b】
図1aに示すコークス炉用れんが積体の右側面図。
【
図1c】
図1aに示すコークス炉用れんが積体の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を実施例に基づき説明する。なお、以下の説明では「コークス炉用れんが積体」を単に「れんが積体」という。
【0015】
図1a~cに、本発明の一実施例に係るれんが積体を示している。
このれんが積体1は1段当たり10個のれんが11を4段積上げることで製造され、れんが11どうしはモルタル14で接合されている。
図1cに示すように、れんが積体1の長手側の両側面には2つの溝12があり、また内側に貫通孔13がある。このれんが積体1は溝12や貫通孔13の位置を他のれんが積体などと合わせるため、これらの部分に高い寸法精度が要求されている。具体的には、れんが積体1の右側面を基準面として、溝12の右側面までは1240±1.5mm、溝12の左側面までは1300±1.5mm、貫通孔13の左側面までは700±2.0mm、全長は1650±1.5mmの寸法精度で設計されている。
なお、れんが11間のモルタル目地厚みは3mmで設計されている。また、各れんが11は凸ダボ15と凹ダボ16とを有している。
【0016】
図1c示すように、このれんが積体1の各段は1列目19と2列目20の2列の配列となっている。そして、
図1aに示す正面側(2列目側)において2段目と4段目の溝12部分にはターンバックル21が装着されている。また、図示を省略しているが、背面側(1列目側)においては1段目と3段目の溝12部分にターンバックル21が装着されている。すなわち、これらの溝12部分は隣接するれんが間の隙間部であり、この隙間部に伸縮可能なスペーサーとしてターンバックル21が装着されている。また、各段のれんがの側面にはバンド2が巻かれて締め付け固定されている。本実施例において各段のバンド2は、れんがの上部と下部にそれぞれ掛かるように巻かれており、これにより、各段のターンバックル21の伸縮方向にバンドの締め付け力が掛かるようになっている。
【0017】
次に、このれんが積体1を製造する手順について説明する。まず、1段目として10個のれんが11を、それぞれモルタルを介して配置する。2段目以降も同様にモルタルを介してれんが11を配置する。れんが11の配置が終わったあとはモルタルの強度をある程度確保するために12~24時間室温で養生する。養生後にこのれんが積体1の側面の隣接するれんがで構成される溝12部分にターンバックル21を装着してターンバックルが落下しない程度にその長さを調整する。その後、各段のれんがの側面にバンド2を巻いて締め付け固定する。
【0018】
このように本実施例では、各段において隣接するれんが間の隙間部である溝12部分にターンバックル21を装着してバンド2を締め付ける。したがって、バンド2による締め付け力で、れんが、特に隣接するれんが間の隙間部である溝12部分を構成する2個のれんががずれる(れんが間のモルタル目地が縮小する)ことを抑制することができ、溝12の寸法精度を高くすることができる。
【0019】
また、モルタルが十分乾燥して強度が発現するまでには、室温で1週間程度要するが、ターンバックル21を入れることで、バンドで強く締めることができるので、モルタルの強度が十分発現する前にれんが積体を移動することができ、作業場で次のれんが積体の製造にすぐに取り掛かることが可能となる。このため作業能率を大幅に向上することができる。
すなわち、次のれんが積体を製造するために作業場では、定盤、作業台、自動化の場合にはれんが積ロボットなどから、れんが積体を移動する必要があるが、本発明では、モルタルの強度が発現する前にれんが積体を移動することができることから、作業場で次のれんが積体の製造にすぐに取り掛かることが可能となり、作業能率が大幅に向上する。
【0020】
さらに、ターンバックル21は伸縮可能であることから、モルタルが硬化した後は、ターンバックル21を縮小することで容易に取り外すことができる。なお、ターンバックル21は、れんが積体1の製造過程においてモルタル硬化後に順次取り外してもよいし、れんが積体1をコークス炉内へ搬入後、その施工前にバンドとともに取り外してもよい。
【0021】
本実施例では、隣接するれんが間の隙間部として各段の溝12部分にのみ、ターンバックル21を装着したが、隣接するれんが間の他の隙間部である貫通孔13部分にもターンバックル21を装着することができる。ただし本発明では、隣接するれんが間の隙間部の全てに伸縮可能なスペーサーを装着する必要はなく、れんがのずれ(寸法精度の低下)が特に生じやすい隙間部に限定して伸縮可能なスペーサーを装着するようにすることができる。
【0022】
なお、本実施例では伸縮可能なスペーサーとしてターンバックルを使用したが、伸縮可能(長さ調整可能)なものであればターンバックル以外のスペーサーを使用することができる。
また、本実施例ではバンドをれんがの上部と下部に2本巻くようにしたが、これには限定されず、例えばれんがの中央部に1本巻くこともできる。また、れんが積体を運搬用のパレットと一体化するために、適宜箇所にバンドを巻くこともできる。
また、本実施例ではれんが積体の各段が2列の配列であったが、3列以上の配列であっても適用可能である。
また、れんが積体やれんが積体に使用するれんがの大きさに特に制約はなく、れんがが大きな場合には公知のれんが把持装置を利用することができる。
【符号の説明】
【0023】
1 れんが積体
2 バンド
11 れんが
12 溝
14 モルタル
15 凸ダボ
16 凹ダボ
19 1列目
20 2列目
21 ターンバックル