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特許7194075橋脚およびそれを用いた構造物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】橋脚およびそれを用いた構造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/02 20060101AFI20221214BHJP
   E01D 21/00 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
E01D19/02
E01D21/00 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019093948
(22)【出願日】2019-05-17
(65)【公開番号】P2020186627
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】509338994
【氏名又は名称】株式会社IHIインフラシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100183276
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 裕三
(72)【発明者】
【氏名】山本 伸一
(72)【発明者】
【氏名】松下 政弘
(72)【発明者】
【氏名】川野 晴弥
(72)【発明者】
【氏名】岡田 誠司
(72)【発明者】
【氏名】吉川 真路
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-061736(JP,A)
【文献】特開2012-117328(JP,A)
【文献】特開平10-306408(JP,A)
【文献】特開2006-283467(JP,A)
【文献】特開2010-106614(JP,A)
【文献】特開2006-328866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/02
E01D 21/00
E04C 3/04
E04C 3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
箱型断面を有する外板と、前記外板の内壁面のそれぞれに橋脚の長さ方向に延びるように複数設けられたリブと、前記外板で囲まれる空間内に少なくとも部分的に充填されたコンクリートとを備える、コンクリート充填橋脚であって、
前記外板と前記リブに同一規格(道路橋示方書に準拠)の鋼材を用いるとともに、前記外板の鋼材の方が前記リブの鋼材よりもYRの値が小さいものを用い、あるいは、前記リブの鋼材の方が前記外板の鋼材よりもYSの値が大きいものを用いて、
前記外板として、YRの値が、前記規格におけるYS下限値をTS上限値で除した値を1とした場合に1.00以上1.32以下となる鋼材を用いた、コンクリート充填橋脚。
【請求項2】
前記外板の鋼材の方が前記リブの鋼材よりもYRの値が小さいものを用いた、請求項1に記載のコンクリート充填橋脚。
【請求項3】
前記リブの鋼材の方が前記外板の鋼材よりもYSの値が大きいものを用いた、請求項1又は2に記載のコンクリート充填橋脚。
【請求項4】
前記リブとして、YSの値が、前記規格におけるYS下限値を1とした場合に1.27以上となる鋼材を用いた、請求項に記載のコンクリート充填橋脚。
【請求項5】
箱型断面を有する外板と、前記外板の内壁面のそれぞれに橋脚の長さ方向に延びるように複数設けられたリブと、前記外板で囲まれる空間内に少なくとも部分的に充填されたコンクリートとを備える、コンクリート充填橋脚を設計する設計方法であって、
前記外板と前記リブに同一規格(道路橋示方書に準拠)の鋼材を用いるとともに、前記外板の鋼材の方が前記リブの鋼材よりもYRの値が小さいものを選択する、あるいは、前記リブの鋼材の方が前記外板の鋼材よりもYSの値が大きいものを選択するコンクリート充填橋脚の設計方法。
【請求項6】
前記規格におけるYS下限値をTS上限値で除した値を1とした場合の少なくとも2種類の外板のYRの値と、耐震性との関係を表す近似式を算出し、前記近似式に基づいて、前記外板に用いるYRの値の上限値を設定する、請求項に記載のコンクリート充填橋脚の設計方法。
【請求項7】
前記外板として、YRの値が、前記規格におけるYS下限値をTS上限値で除した値を1とした場合に1.00以上1.32以下となる鋼材を用いる、請求項又はに記載のコンクリート充填橋脚の設計方法。
【請求項8】
前記外板の鋼材の方が前記リブの鋼材よりもYRの値が小さいものを用いる、請求項からのいずれか1つに記載のコンクリート充填橋脚の設計方法。
【請求項9】
前記リブの鋼材の方が前記外板の鋼材よりもYSの値が大きいものを用いる、請求項からのいずれか1つに記載のコンクリート充填橋脚の設計方法。
【請求項10】
前記リブとして、YSの値が、前記規格におけるYS下限値を1とした場合に1.27以上となる鋼材を用いる、請求項に記載のコンクリート充填橋脚の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋脚およびそれを用いた構造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、橋脚などの各種構造物を作るための構造材料として鋼材が用いられている。例えば、施工に要する期間が短く地震の多い場所の高架橋などには、鉄筋コンクリート製の橋脚に代えて、鋼材を用いた鋼製橋脚が採用されている。このような鋼構造物である鋼製橋脚では、大規模な地震時に鋼断面に倒壊等を生じず,地震後も供用可能な程度の塑性化することを想定して設計が行われる。例えば局部座屈を防止するために、中空鋼材の内側に、補剛板として平板状の板リブをより密に溶接して取り付けることが行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-97743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、日本では道路橋示方書において、橋脚の断面サイズに応じたリブのサイズ、本数などの橋脚の設計方法、および使用可能な鋼材が規定されており、原則的にはその規定に従わなければならない。道路橋示方書に記載のルール通り設計して鋼材を適用すれば、一定の耐震性を確保することができる。
【0005】
しかしながら、想定を上回る地震が発生した場合、例えば1回目の地震には耐えられても2回目の地震に耐えられないなど、耐震性が不十分な場合も考えられる。特許文献1の構成を含めて、耐震性をより向上させる技術の開発が求められている。
【0006】
従って、本発明の目的は、上記問題を解決することにあって、耐震性を向上させた橋脚およびそれを用いた構造物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の橋脚は、箱型断面を有する外板と、前記外板の内壁面のそれぞれに橋脚の長さ方向に延びるように複数設けられたリブと、前記外板で囲まれる空間内に少なくとも部分的に充填されたコンクリートとを備える、コンクリート充填橋脚であって、前記外板と前記リブに同一規格(道路橋示方書に準拠)の鋼材を用いるとともに、前記外板の鋼材の方が前記リブの鋼材よりもYRの値が小さいものを用いた、あるいは、前記リブの鋼材の方が前記外板の鋼材よりもYSの値が大きいものを用いた。
【0008】
また、本発明の構造物の製造方法は、箱型断面を有する外板と、前記外板の内壁面のそれぞれに橋脚の長さ方向に延びるように複数設けられたリブと、前記外板で囲まれる空間内に少なくとも部分的に充填されたコンクリートとを備える、コンクリート充填橋脚を用いて、構造物を製造する方法であって、前記外板と前記リブに同一規格(道路橋示方書に準拠)の鋼材を用いるとともに、前記外板の鋼材の方が前記リブの鋼材よりもYRの値が小さいものを用いた、あるいは、前記リブの鋼材の方が前記外板の鋼材よりもYSの値が大きいものを用いた。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐震性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】橋脚の斜視図(コンクリートの図示を省略。)
図2】橋脚の切欠き斜視図(コンクリートの図示を省略。)
図3】橋脚の縦断面図
図4】実施例1の条件を示す図
図5】耐震性の算出方法を示す図
図6】実施例1の解析結果で、横軸に外板YR比、縦軸に耐震性をプロットした図
図7】実施例2の条件を示す図
図8】橋脚の横断面図
図9】実施例3の条件を示す図
図10】実施例4における橋脚に対する耐震性の試験状態を示す図
図11】実施例4における橋脚に付与される水平変位の時間変化を示す図
図12】実施例4で用いる橋脚の寸法を表す縦断面図
図13】実施例4で用いる橋脚の寸法を表す横断面図
図14】比較例で用いる橋脚と、実施例4で用いる橋脚における鋼材の特性を示す表
図15】比較例の実験結果を示すグラフ
図16】実施例4の実験結果を示すグラフ
図17】比較例と実施例4のそれぞれの橋脚によるエネルギー吸収量を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
(実施形態)
図1図2図3は、実施形態における橋脚2を示す。図1は、橋脚2の斜視図であり、図2は、橋脚2の半分を切り欠いた切欠き斜視図であり、図3は、橋脚2の縦断面図である。図1図2において、(a)は橋脚2の単なる外観図であり、(b)は後述の実施例1~3で用いるFEM解析のメッシュライン等を示した橋脚2の外観図である。また、図1図2では、コンクリート12の図示を省略している。
【0013】
図1図3に示すように、実施形態の橋脚2は、外板4と、リブ6と、ダイヤフラム8(図2)、コンクリート12(図3)とを備える。「橋脚」とは、桁橋などの一般的な橋梁の脚全般を指し、脚のタイプは単柱、門型なども含む。また、吊橋、斜張橋のタワーと呼ばれる上部構造も含む。
【0014】
外板4は、箱型断面を有する板状の部材である。本実施形態の外板4は矩形断面を有する。
【0015】
リブ6は、外板4の内壁面のそれぞれに複数設けられた補剛用の板状の部材である。それぞれのリブ6は鉛直方向、すなわち外板4の長手方向(橋脚2の長さ方向)Aに延びている。また複数のリブ6は水平方向、すなわち外板4の短手方向(橋脚2の幅方向)Bに間隔を空けて設けられている。
【0016】
ダイヤフラム8は、外板4の内周に橋脚断面を床のように仕切るように配置した補剛用の板状の部材である。
【0017】
コンクリート12は、外板4によって囲まれる空間に充填される部材である。本明細書では、橋脚2のように、コンクリート12が少なくとも部分的に充填された橋脚を「コンクリート充填橋脚」と称する。
【0018】
図3に示すように、コンクリート12は、橋脚2の中に部分的に充填されている。橋脚2の下端から上端までの全長Xのうち、コンクリート12は橋脚2の下端から高さX1の位置まで充填されている。本実施形態の高さX1は、4つのダイヤフラム8のうち、最も上方に位置するダイヤフラム8と重なる位置に設定されているがこのような場合に限らない。全長Xに対する高さX1の割合は任意の値に設定してもよく、例えば1/2以上に設定してもよい。
【0019】
外板4、リブ6およびダイヤフラム8はともに鋼材で構成される。特に外板4、リブ6は「道路橋示方書」に記載の同一規格の鋼材で構成される。道路橋示方書に記載の鋼材規格には例えば、SM400、SM490、SM490Y、SM520などがある。
【0020】
本発明者らは、図1(b)、図2(b)、図3に示す橋脚2に関して、特に外板4およびリブ6の耐震性に寄与する特性を見出すために解析を行った。具体的には、外板4とリブ6それぞれの降伏強度YS、引張強度TS、降伏比YR(=YS/TS×100)を規格の範囲内で変化させて、シミュレーション解析を行った。その結果に基づいて橋脚2の耐震性を評価した。以下、実施例について説明する。
【0021】
まず、橋脚2の寸法に関して2つのモデルを用いた。具体的には、次の表1に示すようなモデル1とモデル2の寸法を用いた。
【0022】
【表1】
【0023】
Bf、Bwは、図1(b)に示す外板4の短手方向Bの長さ、tf、twは、外板4の板厚、brは、リブ6の水平方向の長さ、trは、リブ6の板厚、Lは、外板4およびリブ6の長手方向Aの長さ、aは、ダイヤフラム8の間隔(図2(b))である。
【0024】
またモデル1、2では、鋼材の幅厚比パラメータRRを0.3~0.5の範囲とした。幅圧比パラメータRRは、以下の数1により算出される。
【0025】
【数1】
【0026】
br、trは、前述の通りである。σは鋼材の降伏応力、Eは鋼材のヤング率、μは鋼材のポアソン比(=0.3)である。nは、ダイヤフラム8によって区切られる橋脚2の区画数(パネル数)である。
【0027】
(実施例1)
実施例1では、図1(b)、図2(b)、図3に示した橋脚2においてコンクリート12を充填しないものを用いて、図4に示す条件のもとで耐震性の解析を行った。実施例1では特に、橋脚2における外板4の望ましい特性を調査した。耐震性の評価における方法はプッシュオーバーや正負交番の漸増型など様々あるが,本件では一番基礎的な方法であるプッシュオーバーを用いた。具体的には,FEM解析を用いて,橋脚2に対して,上端部に1方向に矯正変位P(図1(b))を付与した。
【0028】
なおコンクリート充填橋脚が地震などの外力を吸収するのは鋼材(外板およびリブ)であるので、鋼材特性の耐震性への寄与を評価するために、実施例1~3ではコンクリート12を充填しない橋脚を用いた。
【0029】
図4に示すように、実施例1では3つのパターンで解析を行った。パターン1では、橋脚2の鋼材規格としてSM400を用い、パターン2、3では、SM490Yを用いた。図4の各欄の内容について、左側から順に説明する。
【0030】
「鋼材規格」は、道路橋示方書に記載の鋼材の規格、すなわち鋼材の種類・記号である。
「YS下限値」は、道路橋示方書に記載の鋼材規格ごとに定められたYS値の下限値である(単位:MPa)。
「TS上限値」は、道路橋示方書に記載の鋼材規格ごとに定められたTS値の上限値である(単位:MPa)。
「YS下限値/TS上限値」は、YS下限値をTS上限値で除した値である(単位:%)。
「モデル」は、前述した橋脚2の寸法に関するモデル1、2のいずれを使用したかを示す。
【0031】
「適用鋼材」は、外板4とリブ6のそれぞれに関して、同じ鋼材規格の中で複数種類あるうちのどの種類の鋼材を適用したかを示す。図4に示すように、実施例1では、外板4は同じ鋼材規格の中でも複数種類の鋼材(A~K)、(A’~K’)を適用し、リブ6は同じ鋼材規格の1種類のみの鋼材(A)、(A’)を適用した。外板4とリブ6の両方に同じ種類(AとA)、(A’とA’)の鋼材を用いたものが比較例であり、網掛けで表示している。
【0032】
「特性(外板)」はそれぞれ、外板4の実際のYS値、TS値、YR値(=YS値/TS値)である(単位:MPa、MPa、%)。
「特性(リブ)」はそれぞれ、リブ6の実際のYS値、TS値、YR値である(単位:MPa、MPa、%)。
【0033】
「外板YR比」は、「特性(外板)」の「YR」の欄の値を、「YS下限値/TS上限値」の値で除したものである(単位なし)。すなわち、「外板YR比」は、鋼材規格におけるYS下限値をTS上限値で除した値を1とした場合の外板4のYRの値である。
【0034】
「耐震性」は、耐震性を示す指標の値であって(単位なし)、図5に示す方法により求められる。図5は、実施例1の解析結果より得られた橋脚2の上端部の水平変位δおよび水平荷重Pを、降伏水平変位δおよび降伏水変位荷重P(いずれも各パターンの外板4の降伏応力から算出)でそれぞれ除して無次元化し、プロットしたものである。これより、図5に示す水平荷重―水平変位曲線を得た。図5の曲線のうち実線が比較例であり、点線が実施例である。
【0035】
図5に示すように、横軸と縦軸の値がともに1.0の基準点に「●」をプロットし、ピークを過ぎた後のピーク荷重の95%まで荷重が低下した点に▲をプロットした。水平荷重―水平変位曲線がピークを過ぎ、ピーク荷重の95%まで荷重が低下した点の水平変位としてδ95を求め、同曲線におけるピーク荷重の際の水平変位としてδmaxを求めた。さらに、δ95maxを求め、その値の比較例に対する比δratioを、耐震性を示す指標とした。
【0036】
図4において、δ95maxで求められる耐震性の値は、比較例の値である1.0よりも大きいほど、耐震性が高いことを意味する。「耐震性評価」の欄は、耐震性の値が1.00よりも大きい場合を「○」と記載し、1.00よりも小さい場合を「△」と記載した。
【0037】
図4の結果に示すように、特性(外板)のYRの値が特性(リブ)のYRの値よりも小さい場合には、耐震性の値が1.00よりも大きくなっており、高い耐震性が得られることがわかる。このように、外板4のYRの値をリブ6のYRの値よりも小さく設定することで、高い耐震性を実現することができる。
【0038】
また図4の結果に示すように、外板YR比と耐震性の間に強い相関性があることがわかった。具体的には、外板YR比の値が比較例の値である1.34又は1.48よりも小さい場合には、耐震性の値が1.00よりも大きくなり、高い耐震性が得られることがわかる。
【0039】
この点に関して、本発明者らはさらに鋭意検討を行った。具体的には図6を用いて説明する。図6は、実施例1の解析結果に関して、横軸に外板YR比、縦軸に耐震性をプロットした表である。図6に示すように、外板YR比の値が小さくなるにつれて耐震性が向上する傾向にあることがわかる。本発明者らは、プロットした値に関する近似式X1を算出した。本実施例1では、一般的な直線近似法により近似式X1を算出した。横軸をx、縦軸をyとしたとき、近似式X1はy=-1.086x+2.529であった。
【0040】
求められる耐震性の値はケースによって様々であり、その耐震性の値を満たすような外板4の材質を決定できるようにすることが望ましい。本実施例1では、近似式X1を算出することで、耐震性の値およびその値を達成するための外板YR比を算出することができる。すなわち、求められる耐震性y1の値に基づいて近似式X1から対応する外板YR比x1を算出することができる。算出した外板YR比x1よりも小さい外板YR比を有する外板4の材料を選択すれば、求められる耐震性の値を満足することができる。このような設計方法によれば、望ましい外板4の材料の種類を簡単に選択しながら、高い耐震性を実現することができる。
【0041】
例えば、求められる耐震性の値を1.1とした場合、図6に示す近似式X1に基づけば外板YR比を1.32以下に設定すればよい。また、求められる耐震性の値を1.15とした場合、外板YR比を1.27以下に設定すればよい。さらに、求められる耐震性の値を1.22とした場合、外板YR比を1.22以下に設定すればよい。このような外板YR比の設定によれば、簡便な方法で耐震性を向上させることができる。
【0042】
上述したように、本実施形態の橋脚2によれば、外板4とリブ6に同一規格(道路橋示方書に準拠)の鋼材を用いるとともに、外板4の鋼材の方がリブ6の鋼材よりもYRの値が小さいものを用いている。このような構成および方法によれば、橋脚2の耐震性を向上させることができる。
【0043】
また本実施形態の橋脚2およびその製造方法によれば、外板4として、YRの値が、規格におけるYS下限値をTS上限値で除した値を1とした場合に1.32以下、好ましくは1.27以下、より好ましくは1.22以下となる鋼材を用いている。このような構成および方法によれば、橋脚2の耐震性をさらに向上させることができる。
【0044】
また本実施形態の橋脚2の製造方法は、鋼材規格におけるYS下限値をTS上限値で除した値を1とした場合の外板4のYRの値と耐震性の関係を表す近似式を算出し、近似式に基づいて、外板4に用いるYRの値の上限値を設定する。このような方法によれば、外板4の材料を簡易な方法により選択しながら、高い耐震性を実現することができる。
【0045】
(実施例2)
次に、実施例2では、図1図3に示した橋脚2においてコンクリート12を充填しないものを用いて、図7に示す条件のもとで耐震性の解析を行った。実施例2では特に、橋脚2におけるリブ6の望ましい特性を調査した。評価方法については実施例1と同様であるため、説明を省略する。
【0046】
図7に示すように、実施例2では3つのパターンで解析を行った(パターン4-6)。
【0047】
「適用鋼材」の欄に示すように、実施例2では、外板4は同じ鋼材規格で1種類のみの鋼材(A)、(A’)を用い、リブ6は同じ鋼材規格の中でも複数種類の鋼材(A、F、H、J、M、N、O)、(A’、F’、H’、J’、M’、N’、O’)を用いた。外板4とリブ6の両方に同じ種類(AとA)、(A’とA’)の鋼材を用いたものが比較例であり、網掛けで表示している。
【0048】
「リブYS比」は、「特性(リブ)」の「YS」の欄の値を、「YS下限値」の欄の値で除したものである(単位なし)。すなわち、「リブYS比」は、鋼材規格におけるYS下限値を1とした場合のリブ6のYSの値である。
【0049】
「耐震性」の欄は、実施例1と同様に耐震性の指標を示す欄であるが、実施例1とは算出方法が異なる。具体的には、図5に示すグラフにおいて、ピーク荷重発生点における最大荷重Pmaxに関して、比較例の値を1.00としてそれぞれのパターンの最大荷重Pmaxを耐震性として算出した(単位なし)。
【0050】
図7の結果に示すように、リブYS比と耐震性の間に強い相関性があることがわかった。具体的には、リブYS比の値を比較例の値である1.26よりも大きく、すなわち1.27以上に設定することで、耐震性の値が1.00よりも大きくなり、高い耐震性が得られることがわかる。特に、リブYS比の値を1.3以上に設定することで、材料のばらつきを考慮しながら、高い耐震性をより確実に得られる。
【0051】
また図7の結果に示すように、「特性(リブ)」の「YS」の欄の値が「特性(外板)」の「YS」の欄の値よりも大きい場合には、耐震性の欄の値が1.00よりも大きくなっており、高い耐震性が得られることがわかる。このように、リブ6のYSの値を外板4のYSの値よりも大きく設定することで、高い耐震性を実現することができる。
【0052】
上述したように、本実施形態の橋脚2およびその製造方法によれば、リブ6の鋼材の方が外板4の鋼材よりもYSの値が大きいものを用いている。このような構成・方法によれば、橋脚2の耐震性を向上させることができる。
【0053】
また本実施形態の橋脚2およびその製造方法によれば、リブ6として、YSの値が、鋼材規格におけるYS下限値を1とした場合に1.27以上、好ましくは1.3以上となる鋼材を用いることで、橋脚2の耐震性をより確実に向上させることができる。
【0054】
(実施例3)
次に、実施例3では、図1図3に示した橋脚2においてコンクリート12を充填しないものを用いて、図9に示す条件のもとで耐震性の解析を行った。実施例3では特に、橋脚2における外板4とリブ6の組合せについて調査した。評価方法については実施例1、2と同様であるため、説明を省略する。
【0055】
図9に示すように、実施例3では3つのパターンで解析を行った(パターン7-9)。
【0056】
「適用鋼材」の欄に示すように、実施例3では、外板4は同じ鋼材規格の中で複数種類の鋼材(A、B、H)、(A’、B’、H’)を用い、リブ6も同じ鋼材規格の中で複数種類の鋼材(A、J、M)、(A’、J’、M’)を用いた。外板4とリブ6の両方に同じ種類(AとA)、(A’とA’)の鋼材を用いたものが比較例であり、網掛けで表示している。これより、外板4およびリブ6の組合せと耐震性の関係を調査した。
【0057】
「外板」の「1.32以下」の欄は、「YR比」の欄の値が1.32以下を満たすかどうかを判定したものである。「YR比」の欄の値が1.32以下の場合は「○」と表記した。
「リブ」の「1.27以上」の欄は、「YS比」の欄の値が1.27以上を満たすかどうかを判定したものである。「YS比」の欄の値が1.27以上の場合は「○」と表記し、1.27未満の場合は「△」と表記した。
【0058】
「耐震性」の欄は、実施例1と同じ算出方法で算出した値を示す。
【0059】
図9の結果に示すように、外板YR比が1.32以下、かつ、リブYS比が1.27以上の鋼材を用いることで、実施例1、2の結果よりも耐震性をより向上できることがわかる。すなわち、実施例1で検証した外板YR比の好ましい値と、実施例2で検証したリブYS比の好ましい値を組み合わせることで、耐震性の相乗的な向上効果を奏することができた。
【0060】
(実施例4)
次に、実施例4では、図3に示したような、コンクリート12を充填した「コンクリート充填橋脚」である橋脚2を用いて、図10図14に示す条件のもとで耐震性の試験を行った。実施例4では特に、コンクリート12を充填した場合の橋脚2の耐震性について調査した。
【0061】
図10は、橋脚2に対する耐震性の試験状態を示す図である。図10に示すように、橋脚2に対して第1ジャッキ13および第2ジャッキ14が取り付けられている。第1ジャッキ13は、橋脚2に対して下方の軸力Nを付与するための部材である。第2ジャッキ14は、橋脚2に対して水平変位δを付与するための部材である。橋脚2は土台部16に固定された状態で、第1ジャッキ13から一定の軸力Nが付与されるとともに、第2ジャッキ14から水平変位δが付与される。
【0062】
水平変位δの時間変化を図11に示す。図11に示すように、水平変位δは時間の経過とともにその方向と大きさが規則的に変化するように制御される。図11におけるδyは、実施例4では12.4mmである。
【0063】
図10では図示を省略しているが、水平変位δを計測する変位計と、水平変位δに伴う水平荷重を計測するロードセルとが設けられている。
【0064】
図12図13は、実施例4で用いる橋脚2の寸法を表す図である。図12は橋脚2の縦断面図であり、図13は橋脚2の横断面図である。図12図13における寸法の単位はmmである。寸法については図12図13に示す通りであり、説明を省略する。
【0065】
図12に示すように、橋脚2には、第1プレート部材20、第2プレート部材22および第3プレート部材24が取り付けられている。第1プレート部材20は、前述した第1ジャッキ13および第2ジャッキ14を橋脚2に固定するための部材である。第2プレート部材22および第3プレート部材24をボルトで実験床(図示せず)に固定し、第1ジャッキ13および第2ジャッキ14に載荷した。
【0066】
図14は、比較例で用いた橋脚と実施例4で用いた橋脚とにおける鋼材の特性を示す表である。
【0067】
比較例、実施例4ともに、図12図13で示したものと同寸法の橋脚2を用いているが、図14に示すように外板とリブの特性が異なっている。具体的には、比較例では、外板とリブともに同一規格かつ同じ種類の鋼材を用いているのに対して、実施例4では、同一規格であるが異なる種類の鋼材を用いている。
【0068】
図14に示すように、比較例では、外板、リブともに、YSの値が432(MPa)、TSの値が532(MPa)、YRの値が81(%)である。一方で、実施例4では、外板は、YSの値が384(MPa)、TSの値が565(MPa)、YRの値が68(%)であるのに対して、リブは、YSの値が492(MPa)、TSの値が609(MPa)、YRの値が81(%)である。
【0069】
また図14に示すように、比較例では、外板YR比が1.40であり、リブYS比は1.22であった。一方で、実施例4では、外板YR比が1.17であり、リブYS比は1.39であった。
【0070】
上記条件に基づいて試験を行った結果を図15図16に示す。図15は、比較例の実験結果を示すグラフであり、図16は、実施例4の実験結果を示すグラフである。図15図16では、横軸に橋脚の水平変位δ(単位:mm)を表し、縦軸に橋脚の水平荷重(単位:kN)を表している。
【0071】
図15図16に示すように、点(0.0)からスタートした後、図11に示した水平変位δの付与によって、時計回りのループを描く。橋脚に付与される荷重・変形が蓄積していくことにより、ループを重ねるごとにループの形が変形する。その後、橋脚が倒壊する前に水平変位δの付与を停止した。
【0072】
図15に示す比較例の結果において、水平荷重の最大値である最大水平荷重は922.6kNであった。最大水平荷重が生じたときの水平変位は72.25mmであった。一方で、図16に示す実施例4の結果では、最大水平荷重は845.4kNであり、そのときの水平変位は86.5mmであった。
【0073】
最大水平荷重は比較例の方が大きいが、最大水平荷重が大きくなりすぎると、橋脚の基部が折れる可能性がある。このため、最大水平荷重よりも、最大水平荷重が生じたときの水平変位が大きい方が構造としていわゆる「粘り」があり、耐震性に優れているといえる。最大水平荷重が生じたときの水平変位は実施例4の方が大きいため(72.25mm>86.5mm)、実施例4で用いた外板とリブの組合せの方が、比較例で用いた外板とリブの組合せよりも耐震性に優れているといえる。
【0074】
さらに、図15図16に示す結果に基づいて、橋脚によるエネルギー吸収量を算出した結果を図17に示す。図17は、横軸に橋脚に付与された水平変位δを表し、縦軸に橋脚によるエネルギー吸収量を表す。橋脚によるエネルギー吸収量は、図15図16におけるループによって囲まれる内部面積の総和として計算することができる。
【0075】
図17に示すように、±90δyまでは、比較例、実施例4ともにほぼ同等の推移であるのに対して、比較例ではその後、橋脚によるエネルギー吸収量が減少し、一方で実施例4ではエネルギー吸収量が増大している。すなわち、実施例4で用いた橋脚の方が比較例で用いた橋脚よりもエネルギー吸収量が大きく、かつ、より大きな水平変位に対して耐えられる優れた耐震性を有しているといえる。
【0076】
図14に示したように、実施例4では実施例1、3と同様に、外板の鋼材の方がリブの鋼材よりもYRの値が小さいものを用いている(75%<87%)。また、実施例2、3と同様に、リブの鋼材の方が外板の鋼材よりもYSの値が大きいものを用いている(533MPa>421MPa)。このような鋼材を適用することによって、図15図17の結果で示したように、耐震性を向上できることが示された。すなわち、前述した実施例1~3と同様の鋼材種類の設定によって、コンクリート充填橋脚でも耐震性を向上できることがわかった。これより、実施例1~3の結果より導いたリブと外板の種類に関する知見を、実施例4の「コンクリート充填橋脚」に適用すれば、同様に耐震性を向上できるものと考えられる。
【0077】
また実施例4では、実施例1と同様に、外板として、YRの値が、鋼材規格におけるYS下限値をTS上限値で除した値を1とした場合に1.32以下となる鋼材を「コンクリート充填橋脚」に適用している(図14の例では1.17)。これにより、耐震性を向上させることができる。
【0078】
また実施例4では、実施例2と同様に、リブとして、YSの値が、鋼材規格におけるYS下限値を1とした場合に1.27以上となる鋼材を「コンクリート充填橋脚」に適用している(図14の例では1.39)。これにより、耐震性を向上させることができる。
【0079】
また実施例1で説明したように、鋼材規格におけるYS下限値をTS上限値で除した値を1とした場合の外板のYRの値と、耐震性との関係を表す近似式を、コンクリート充填橋脚においても算出してもよい。当該近似式に基づいて、外板に用いるYRの値の上限値を設定することにより、外板4の材料を簡易な方法により選択しながら高い耐震性を実現できる。
【0080】
その他にも、実施例1~3の結果から導かれる知見をコンクリート充填橋脚に適用することで、同様の効果を奏することができる。
【0081】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載等に基づいて上述の実施形態に種々の変更を加えてもよい。例えば、図1図3に示す橋脚2のサイズ、リブ6およびダイヤフラム8の枚数などはあくまで例示であって、これに限定されない。
【0082】
また実施例4では、図14に示すように、外板の鋼材の方がリブの鋼材よりもYRの値が小さいもの、かつ、リブの鋼材の方が外板の鋼材よりもYSの値が大きいものを用いたが、このような場合に限らない。例えば、外板の鋼材の方がリブの鋼材よりもYRの値が小さいもの、あるいは、リブの鋼材の方が外板の鋼材よりもYSの値が大きいものを用いてもよい。このような場合であっても、同様の効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、コンクリート充填橋脚およびそれを用いた構造物の製造方法であれば適用可能である。
【符号の説明】
【0084】
2 橋脚(コンクリート充填橋脚)
4 外板
6 リブ
6a 先端
8 ダイヤフラム
10 中立軸
12 コンクリート
13 第1ジャッキ
14 第2ジャッキ
16 土台部
20 第1プレート部材
22 第2プレート部材
24 第3プレート部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17