(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04225 20160101AFI20221214BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20221214BHJP
H01M 8/04302 20160101ALI20221214BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20221214BHJP
H01M 8/043 20160101ALI20221214BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20221214BHJP
H01M 8/04955 20160101ALI20221214BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20221214BHJP
【FI】
H01M8/04225
H01M8/00 A
H01M8/04302
H01M8/04537
H01M8/043
H01M8/04858
H01M8/04955
H01M8/00 Z
H01M8/04 Z
(21)【出願番号】P 2019111769
(22)【出願日】2019-06-17
【審査請求日】2021-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100195006
【氏名又は名称】加藤 勇蔵
(74)【代理人】
【識別番号】100212657
【氏名又は名称】塚原 一久
(72)【発明者】
【氏名】河迫 恵莉加
(72)【発明者】
【氏名】下簗 祐介
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-143026(JP,A)
【文献】特開2006-254610(JP,A)
【文献】特開2004-253189(JP,A)
【文献】特開2013-114909(JP,A)
【文献】特開2017-091922(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110390(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電する燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックが発電する際に必要とされる補助機能を有する機器である補機と、
前記燃料電池スタックの発電により充電され、前記補機に電力を供給する補機蓄電装置と、
前記燃料電池スタックを発電状態と停止状態とに制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記補機蓄電装置の充電量と放電量、及び、起動の指示を受けた後であって前記燃料電池スタックが発電を開始する前の前記補機蓄電装置の起動前電圧を稼働データに保持し、
前記燃料電池スタックの停止状態において、前記稼働データを参照し、前記起動前電圧の最新の値が閾値以下である場合、前記燃料電池スタックを停止状態から発電状態にして、前記補機蓄電装置を充電
し、
前記燃料電池スタックの停止状態において、前記稼働データを参照し、前記補機蓄電装置の放電量が充電量より多い状態での稼働が所定日数以上連続し、前記起動前電圧の最新の値が閾値以下である場合、前記燃料電池スタックを停止状態から発電状態にして、前記補機蓄電装置を充電する
燃料電池システム。
【請求項2】
前記制御部は、
前記補機蓄電装置の特性情報を前記稼働データに保持しており、
前記燃料電池スタックの停止状態において、前記稼働データに含まれる前記特性情報を参照し、
前記燃料電池スタックを起動して発電状態にすることができる状態を一定期間保つことが可能となる前記補機蓄電装置の充電目標電圧を求め、
前記補機蓄電装置の前記起動前電圧と前記充電目標電圧とから前記補機蓄電装置の充電時間を算出し、
前記燃料電池スタックを停止状態から発電状態にして、算出された前記充電時間の充電を前記補機蓄電装置にする
請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記補機蓄電装置に充電した後に、前記燃料電池スタックを発電状態から停止状態にする、
請求項1
または請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
産業車両の主負荷に電力を供給する経路に、前記主負荷と並列に接続された主蓄電装置を更に備え、
前記主蓄電装置はキャパシタである
請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
フォークリフト、トーイングトラクタといった産業車両において、燃料電池システムを搭載したものが実用化されている。たとえば、燃料電池システムを搭載したフォークリフトは、電力供給源として燃料電池スタックを備え、主負荷として車両モータと荷役モータを備え、燃料電池スタックの補機としてコンプレッサ、水素供給弁、及び燃料電池スタックのラジエータなどを備えている。
【0003】
そして、補機と制御部に電力を供給するため、燃料電池スタックにより充電される補機バッテリを備えている。補機バッテリは、補機としてのコンプレッサ、水素供給弁、ラジエータに付随するラジエータファンと冷却水ポンプ、制御部のほか、燃料電池システムの各部に設けられたリレーを駆動する。
【0004】
このような産業車両の使用頻度が低い場合、または、補機バッテリへの充電量よりも放電量が多い状態での使用が多い場合、補機バッテリの電圧が低下し、上述したリレーを駆動できなくなり、燃料電池システムを起動できない状態に陥ることがある。
【0005】
燃料電池システムを備える車両において、バッテリを充電することについて、以下の特許文献1に各種の提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載の燃料電池システムは、走行モータと荷役モータとに電力を供給する主バッテリを効率よく充電するものである。このため、使用状況によって充電量が不足することがあり、非稼働状態で各部の暗電流により徐々に電圧が低下する補機バッテリについて、システムを起動することができる状態に保つことについては何ら配慮されていない。
【0008】
この発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、起動可能な状態を維持することができる燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明に係る燃料電池システムは、発電する燃料電池スタックと、燃料電池スタックが発電する際に必要とされる補助機能を有する機器である補機と、燃料電池スタックの発電により充電され、補機に電力を供給する補機蓄電装置と、燃料電池スタックを発電状態と停止状態とに制御する制御部とを備え、制御部は、補機蓄電装置の充電量と放電量、及び、起動の指示を受けた後であって燃料電池スタックが発電を開始する前の補機蓄電装置の起動前電圧を稼働データに保持し、燃料電池スタックの停止状態において、稼働データを参照し、起動前電圧の最新の値が閾値以下である場合、燃料電池スタックを停止状態から発電状態にして、補機蓄電装置を充電する。
【0010】
制御部は、補機蓄電装置の特性情報を稼働データに保持しており、燃料電池スタックの停止状態において、稼働データに含まれる特性情報を参照し、燃料電池スタックを起動して発電状態にすることができる状態を一定期間保つことが可能となる補機蓄電装置の充電目標電圧を求め、補機蓄電装置の起動前電圧と充電目標電圧とから補機蓄電装置の充電時間を算出し、燃料電池スタックを停止状態から発電状態にして、算出された充電時間の充電を補機蓄電装置にするようにしてもよい。
【0011】
制御部は、燃料電池スタックの停止状態において、稼働データを参照し、補機蓄電装置の放電量が充電量より多い放電状態での稼働が所定日数以上連続し、起動前電圧の最新の値が閾値以下である場合、燃料電池スタックを停止状態から発電状態にして、補機蓄電装置を充電するようにしてもよい。
【0012】
制御部は、補機蓄電装置に充電をした後に、燃料電池スタックを発電状態から停止状態にしてもよい。
【0013】
産業車両の主負荷に電力を供給する経路に、主負荷と並列に接続された主蓄電装置を更に備え、主蓄電装置はキャパシタとしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係る燃料電池システムによれば、燃料電池システムを起動可能な状態に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態1における燃料電池システムを適用した産業車両の構成を示す構成図である。
【
図2】本発明の実施の形態1における燃料電池システムの動作を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の実施の形態1における燃料電池システムに含まれる補機バッテリの特性を示す特性図である。
【
図4】本発明の実施の形態1における燃料電池システムの他の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明による燃料電池システムを産業車両に適用した実施の形態につき、図面を用いて説明する。なお、各図において、同一部分には同一符号を付している。
【0017】
実施の形態1.
はじめに、本発明の実施の形態1における燃料電池システム110を備えた産業車両100の構成について、
図1を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態1における燃料電池システム110を適用した産業車両100の構成を示す構成図である。
【0018】
[産業車両の構成]
図1に示される産業車両100は、燃料電池システム110と、車両部120と、操作部130とを備える。
【0019】
燃料電池システム110は、燃料電池システム制御部111と、水素タンク112と、コンプレッサ113と、水素供給弁114と、燃料電池スタック115と、DCDC変換部116Aと、DCDC変換部116Bと、キャパシタ117と、補機バッテリ118と、補機119とを備える。
【0020】
燃料電池システム制御部111は、燃料電池システム110に関連する各種制御を行うコントローラである。なお、燃料電池システム制御部111は、車両部120内の車両制御部121と互いに通信することが可能である。水素タンク112は、充填されている水素を燃料電池スタック115に供給する。コンプレッサ113は、燃料電池システム制御部111に制御され、酸素を含む空気を燃料電池スタック115に供給する。水素供給弁114は、燃料電池システム制御部111に制御され、水素タンク112から燃料電池スタック115に供給する水素ガス量を調整する。燃料電池スタック115は、燃料電池システム制御部111の制御に基づいて、水素供給弁114を介した水素タンク112からの水素とコンプレッサ113からの空気に含まれる酸素とにより発電を行う。
【0021】
DCDC変換部116Aは、燃料電池スタック115の発電出力を一定の電圧に変換する。たとえば、DCDC変換部116Aは、電圧80ボルトを電圧48ボルトに変換する。DCDC変換部116Aの電圧変換後の出力は、主機系電力として車両部120に供給される。
【0022】
DCDC変換部116Bは、DCDC変換部116Aで電圧変換された電力を更に一定の電圧に変換する。たとえば、DCDC変換部116Bは、電圧48ボルトを電圧12ボルトに変換する。DCDC変換部116Bの電圧変換後の出力は、補機系電力として補機バッテリ118と補機119に供給される。
【0023】
キャパシタ117は、DCDC変換部116Aの出力と並列に接続されて充電され、車両部120に瞬間的な大電流が流れる際に放電する。すなわち、キャパシタ117は、主負荷に電力を供給する経路に、主負荷と並列に接続された主蓄電装置を構成する。キャパシタ117は、電気2重層キャパシタ、リチウムイオン・キャパシタなどにより構成される。
【0024】
補機バッテリ118は、鉛蓄電池、ニッケル水素電池、リチウムイオンバッテリなどで構成された補機蓄電装置であり、DCDC変換部116Bで変換された補機系電力により充電される。補機バッテリ118は、燃料電池システム制御部111、補機119、車両制御部121、及び図示されないリレーなどに補機系電力を供給する。
【0025】
補機119は、補機バッテリ118から補機系電力の供給を受け、燃料電池スタック115が発電する際に必要な補助機能によって、燃料電池スタック115の発電の実行を補佐する機器である。具体的には、補機119は、コンプレッサ113、水素供給弁114、燃料電池スタック115に設けられるラジエータに付随するラジエータファン、及び冷却水ポンプなどが該当する。従って、発電に必要な補助機能としては、発電に必要な酸素を含む空気と水素の燃料電池スタック115への供給、及び燃料電池スタック115の冷却などが該当する。
【0026】
車両部120は、車両制御部121と、車両負荷122とを有する。車両制御部121は、ECU(Electronic Control Unit)等により構成され、操作部130で受け付けた操作に対応し、車両負荷122の動作を制御する。車両部120において、走行モータと荷役モータとの車両負荷122は主負荷に相当し、燃料電池システム110から主機系電力の供給を受ける。
【0027】
走行モータは、操作部130での操作と車両制御部121の制御とにより、産業車両100の駆動輪を駆動し、産業車両100を走行状態にする。産業車両100がフォークリフトである場合、操作部130での操作と車両制御部121の制御とにより、荷役モータはフォークの上げ下げを駆動する。
【0028】
操作部130は、キースイッチ131と、アクセルペダル132と、ブレーキペダル133と、リフトレバー134と、チルトレバー135とを備える。
【0029】
キースイッチ131がオンされると、燃料電池システム制御部111の制御により燃料電池システム110が起動して稼働状態になり、産業車両100が使用可能状態になる。また、キースイッチ131がオフにされると、燃料電池システム制御部111の制御により燃料電池システム110が停止して非稼働状態になり、産業車両100が使用停止状態になる。
【0030】
アクセルペダル132が操作されると、車両制御部121により車両負荷122中の走行モータに電力が供給され、産業車両100が走行状態になる。ブレーキペダル133が操作されると、車両制御部121により車両負荷122中の走行モータに電力供給が遮断され、産業車両100が停止状態になる。
【0031】
リフトレバー134が操作されると、車両制御部121により車両負荷122中の荷役モータに電力が供給され、フォークが上下方向に移動する。チルトレバー135が操作されると、車両制御部121により車両負荷122中の荷役モータに電力が供給され、フォークの傾きが変えられる。
【0032】
[燃料電池システム制御部の特徴]
以上の説明に加え、燃料電池システム制御部111は以下のような制御を行うことを特徴とする。
【0033】
燃料電池システム制御部111は、補機バッテリ118の充電量と放電量、及び、起動の指示を受けた後であって燃料電池スタック115が発電を開始する前の補機バッテリ118の起動前電圧を稼働データに保持する。燃料電池システム制御部111は、稼働データを参照し、起動前電圧の最新の値が閾値以下である場合、燃料電池システム110を非稼働状態から稼働状態、すなわち、燃料電池スタック115を停止状態から発電状態にして、補機バッテリ118を充電する。
【0034】
燃料電池システム制御部111は、補機バッテリ118の後述する特性情報を稼働データに保持しておく。燃料電池システム制御部111は、補機バッテリ118の特性情報を参照し、燃料電池システム110を起動して稼働状態にすることができる状態を一定期間保つ、すなわち後述するn日保てる補機バッテリ118の充電目標電圧を求める。燃料電池システム制御部111は、補機バッテリ118の起動前電圧と充電目標電圧とから補機バッテリ118の充電時間を算出する。燃料電池システム制御部111は、燃料電池システム110を稼働状態にして、算出された充電時間の充電を補機バッテリ118に実行する。
【0035】
燃料電池システム制御部111は、補機バッテリ118の放電量が充電量より多い放電状態での稼働が所定日数以上連続、すなわち、後述する複数m日以上連続している場合、燃料電池システム110を稼働状態にして、補機バッテリ118を充電する。
【0036】
燃料電池システム制御部111は、燃料電池システム110を稼働状態にして、算出された充電時間の充電を補機バッテリ118にした後に、燃料電池システム110を稼働状態から非稼働状態にする。
【0037】
[動作]
次に、本発明の実施の形態1における燃料電池システム110の動作について、
図2を参照して説明する。
図2は、本発明の実施の形態1における燃料電池システム110の動作を示すフローチャートである。
【0038】
前提として、燃料電池システム制御部111は、燃料電池システム110の起動から停止に至る稼働状態の各部の状況、補機バッテリ118の充電量と放電量、及び、キースイッチ131による起動の指示に基づいて各部がオン状態になって燃料電池スタック115が発電を開始する前の補機バッテリ118の起動前電圧、を時刻情報と共に稼働データに保持している。なお、燃料電池スタック115が発電を開始すると、補機バッテリ118の端子電圧はDCDC変換部116Bの出力電圧と同等になる。このため、燃料電池システム制御部111は、キースイッチ131による起動指示の後で、補機バッテリ118が各部に電力を供給し、燃料電池スタック115が発電を開始する前の補機バッテリ118の端子電圧、すなわち、起動前電圧を稼働データとして起動毎に保持する。
【0039】
燃料電池システム制御部111は、予め定められた時刻、または、過去の履歴により燃料電池システム110が他の時間帯よりも高い確率で非稼働状態になっている時間帯を、補機バッテリ確認タイミングとして定めておく。なお、後述する補機バッテリ118への充電に要する時間も考慮して補機バッテリ確認タイミングを定めることが望ましい。
【0040】
ステップS100において、燃料電池システム制御部111は、現在時刻が補機バッテリ118を確認するタイミングであるかを確認する。現在時刻が補機バッテリ118を確認するタイミングに達した時点で、処理がステップS101へと進む。一方、現在時刻が補機バッテリ118を確認するタイミングでなければ、確認するタイミングが来るまで確認を続ける。
【0041】
ステップS101において、燃料電池システム制御部111は、直近の記録、例えば過去1週間の記録が稼働データに含まれているかを確認する。以下、過去の所定日数分の記録を「直近の記録」と言う。なお、補機バッテリ118の充放電状態を確認するためであり、過去5日~10日程度の記録であればよい。ここで、稼働データに含まれる記録としては、たとえば、補機バッテリ118の起動前電圧のデータが該当する。稼働データに直近の記録が含まれていれば、処理がステップS102へと進む。一方、稼働データに直近の記録が含まれていなければ、処理がステップS105へと進む。
【0042】
ステップS102において、燃料電池システム制御部111は、直近の稼働データに含まれる補機バッテリ118の起動前電圧が所定の閾値以下であるか否かを確認する。なお、この所定の閾値は、直近の稼働データに含まれる起動前電圧を参照して、補機バッテリ118に対して充電が不要な状態にあるか、充電が必要な状態にあるか、を確認するための値である。
【0043】
補機バッテリ118の起動前電圧が所定の閾値を超えていれば、燃料電池システム制御部111は、フローチャートに示される処理を終了する。一方、補機バッテリ118の起動前電圧が所定の閾値以下であれば、処理がステップS103へと進む。
【0044】
ステップS103において、燃料電池システム制御部111は、稼働データを参照し、稼働日1日あたりの補機バッテリ118の充電量と放電量とを比較する。この後、処理がステップS104へと進む。
【0045】
ステップS104において、燃料電池システム制御部111は、ステップS103での比較結果を参照し、補機バッテリ118の放電量が充電量より多い状態での稼働が所定日数、すなわち、複数m日数以上連続しているかを確認する。
【0046】
放電量が充電量より多い状態の稼働日が連続していると補機バッテリ118の電圧低下が進行する傾向があるため、放電量が充電量より多い状態の稼働日が複数日連続することを確認している。このため、m=2またはm=3とすることが望ましい。mを大きく設定すると充電する回数を減らすことができる。一方、mをあまり大きく設定すると補機バッテリ118の電圧低下が進行してしまって、燃料電池システム110を起動できず、後述する充電を実行できない可能性がある。
【0047】
ステップS104において、補機バッテリ118の放電量が充電量より多い状態での稼働が所定のm日数以上連続していると確認されれば、処理がステップS107へと進む。一方、ステップS104において、補機バッテリ118の放電量が充電量より多い状態での稼働が所定のm日数以上連続していると確認されなければ、フローチャートに示される処理を終了する。
【0048】
上述したステップS101において稼働データに直近の記録が含まれていない場合、処理がステップS105へと進む。ステップS105において、燃料電池システム制御部111は、稼働データに含まれる補機バッテリ118の起動前電圧の最終履歴を参照して現時点の起動前電圧を推定する。なお、燃料電池システム制御部111は、予め用意された計算式またはルックアップテーブルなどを用いて起動前電圧を推定する。この後、処理がステップS106へと進む。
【0049】
ステップS106において、燃料電池システム制御部111は、推定された起動前電圧が所定の閾値以下であるか否かを確認する。なお、このステップS106における所定の閾値は、ステップS102の閾値と同じであってもよいし、別の閾値を設けてもよい。推定された起動前電圧が閾値を超えていれば、燃料電池システム制御部111は、フローチャートに示される処理を終了する。一方、推定された現時点の起動前電圧が閾値以下であれば、処理がステップS107へと進む。
【0050】
ステップS107において、燃料電池システム制御部111は、稼働データに保持している補機バッテリ118の特性情報を参照し、以下の演算を行う。
【0051】
ここで、補機バッテリ118の特性情報とは、放電量が充電量より多い状態での経過日数と、バッテリ電圧とを示す特性図である。たとえば、
図3の特性図において、横軸は放電量が充電量より多い状態での経過日数であり、縦軸は経過日数に応じたバッテリ電圧を示している。
【0052】
図3において、Vlowは、燃料電池システム110を起動することができる最低電圧、すなわち使用可能最低電圧を示す。
図3の横軸は、使用可能最低電圧になる日を(0)として、1日前を-1、2日前を-2、のように逆算して示している。
図3の縦軸は、使用可能最低電圧になる日の電圧をVT(0)、使用可能最低電圧になる日の1日前の電圧をVT(1)、2日前の電圧をVT(2)、のように示している。なお、この
図3に示した電圧と日数とは、実施の形態1を説明するための一例に過ぎない。
【0053】
[演算(1)]
まず、燃料電池システム制御部111は、補機バッテリ118の放電量が充電量より多い状態が一定期間、すなわち所定のn日数以上連続しても、燃料電池システム110を起動して稼働状態にできる補機バッテリ118の充電目標電圧VT(n)を求める。
図3の特性図において、n=6とした場合、VT(6)が充電目標電圧になる。なお、補機バッテリ118の放電量が充電量より多い状態とは、具体的には、放電量が充電量より多い状態での稼働、及び非稼働のいずれかである。
【0054】
ここで、充電目標電圧を求めるのに用いる際に、「補機バッテリ118の放電量が充電量より多い状態が所定のn日数以上連続」と想定する「n」については、産業車両100の使用状況に応じて定めることが望ましい。例えば、以上のnは、稼働データに含まれる産業車両100の使用状況に応じて燃料電池システム制御部111が定めてもよいし、予め初期値により定めてもよいし、ユーザが自ら設定してもよい。
【0055】
ユーザの使用状況において、補機バッテリ118の放電量が充電量より多い状態が最大でd日連続する場合、n=d+1と設定することで、燃料電池システム110を起動して稼働状態できる状態を保つことが可能になる。なお、nを大きく設定する、本実施の形態1による充電回数を減らすことができる。一方、nを小さく設定すると、実施の形態1による充電1回あたりの充電時間を減らすことができる。
【0056】
[演算(2)]
次に、燃料電池システム制御部111は、直近の稼働データに含まれる補機バッテリ118の起動前電圧と、上述した演算(1)で求めた充電目標電圧とから、補機バッテリ118の充電時間を算出する。なお、燃料電池システム制御部111は、稼働データに保持している補機バッテリ118の特性情報を参照し、補機バッテリ118の充電時間を算出する。以上の演算(1)と演算(2)により充電時間が算出されると、処理がステップS108へと進む。
【0057】
ステップS108において、燃料電池システム制御部111は、燃料電池システム110を非稼働状態から稼働状態にして、燃料電池スタック115が発電するように制御する。燃料電池システム110が稼働状態になると、処理がステップS109へと進む。
【0058】
ステップS109において、燃料電池システム制御部111は、DCDC変換部116Bの出力により補機バッテリ118が充電されるように、燃料電池スタック115の発電状態を制御する。このステップS109において、燃料電池システム制御部111は、燃料電池スタック115の発電により補機バッテリ118に充電中であることを、表示部で表示してもよい。この発電状態において、処理はステップS110へと進む。
【0059】
ステップS110において、燃料電池システム制御部111は、算出された充電時間が経過するまで補機バッテリ118の充電が継続するように、監視している。すなわち、この充電状態において、燃料電池システム制御部111は、ステップS109の処理とステップS110の処理とを繰り返している。そして、算出された充電時間が経過すると、処理はステップS111へと進む。
【0060】
ステップS111において、燃料電池システム制御部111は、燃料電池スタック115の発電を停止させ、燃料電池システム110を稼働状態から非稼働状態にする。すなわち、燃料電池スタック115を発電状態から停止状態にする。そして、燃料電池システム制御部111は、フローチャートに示される処理を終了する。この際、燃料電池システム制御部111は、以上の補機バッテリ118の充電の情報を稼働データに記録しておく。
【0061】
以上説明した燃料電池システム110は、産業車両100の車両負荷122に主機系電力を供給する経路に、キャパシタ117が接続されている。このキャパシタ117は、電気2重層キャパシタ、リチウムイオン・キャパシタなどで構成され、車両負荷122に瞬間的な大電流が流れる際に放電し、電圧降下が発生しないように作用する。
【0062】
一方、キャパシタ117は、鉛蓄電池、ニッケル水素電池、リチウムイオンバッテリなどの各種バッテリに比べて低容量である。したがって、キャパシタ117から補機バッテリ118を充電することはできない。このため、燃料電池システム110を稼働状態にして、燃料電池スタック115の発電によって補機バッテリ118を充電することが、キャパシタ117を有する産業車両100において重要である。
【0063】
以上説明したように、この発明の実施の形態1に係る燃料電池システム110では、定期的に補機バッテリ118の状態を確認し、非稼働状態にあっても必要に応じて燃料電池システム110を稼働状態にして、燃料電池スタック115の発電によって補機バッテリ118を充電する。これにより、補機バッテリ118の端子電圧が使用可能最低電圧以下になることを予防し、燃料電池システム110を起動可能な状態に維持し続けることができる。
【0064】
以上の補機バッテリ118の状態の確認と充電は、産業車両100が使用されていない期間に自動的に実行される。したがって、ユーザが何ら意識する必要がなく、補機バッテリ118が良好な状態に保たれる。
【0065】
その他の実施の形態.
本発明の実施の形態1における燃料電池システム110の他の動作について、
図4を参照して説明する。
図4は、本発明の実施の形態1における燃料電池システム110の他の動作を示すフローチャートである。
図4のフローチャートにおいて、既に説明した
図2のフローチャートと同じ処理内容については同じステップ番号を付している。よって、
図4のフローチャートの処理内容について、
図2のフローチャートと異なる部分を詳細に説明する。
【0066】
ステップS102において、燃料電池システム制御部111は、直近の稼働データに含まれる補機バッテリ118の起動前電圧が所定の閾値以下であるか否かを確認する。補機バッテリ118の起動前電圧が所定の閾値以下であって補機バッテリ118に充電が必要な状態であれば、処理がステップS107へと進む。
【0067】
ステップS107において、燃料電池システム制御部111は、直近の稼働データに含まれる補機バッテリ118の起動前電圧と、求めた充電目標電圧とから、補機バッテリ118の充電時間を算出する。
【0068】
この
図4のフローチャートに示す動作によると、
図2のフローチャートにおけるステップS103とS104の処理を省略できるため、補機バッテリ118を充電するか否かを少ない演算量で高速に判定することができる。一方、
図4のフローチャートに示す動作によると、ステップS103とS104の比較判定処理によって補機バッテリ118の充電の必要性を細かく判断することができるため、補機バッテリ118を充電する回数を減らすことができる。
【0069】
また、以上の実施の形態1により補機バッテリ118を充電中に、ユーザによりキースイッチ131の操作があった場合、燃料電池システム制御部111はユーザの操作を優先し、操作部130からの操作に応じて産業車両100の動作を実行する。したがって、ユーザは、補機バッテリ118の充電の実行と中断を何ら意識せず、通常の産業車両100の動作を開始することができる。この際、燃料電池システム制御部111は、以上の補機バッテリ118の充電の実行と中断の情報を稼働データに記録しておく。
【符号の説明】
【0070】
100 産業車両、110 燃料電池システム、111 燃料電池システム制御部(制御部)、112 水素タンク、113 コンプレッサ、114 水素供給弁、115 燃料電池スタック、116A DCDC変換部、116B DCDC変換部、117 キャパシタ(主蓄電装置)、 118 補機バッテリ(補機蓄電装置)、119 補機、120 車両部、121 車両制御部、122 車両負荷、130 操作部、131 キースイッチ、132 アクセルペダル、133 ブレーキペダル、134 リフトレバー、135 チルトレバー。