(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】燃料電池用触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/92 20060101AFI20221214BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20221214BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20221214BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20221214BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20221214BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20221214BHJP
B01J 23/89 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
H01M4/92
H01M4/90 M
H01M8/10 101
H01M4/88 K
B01J37/04 102
B01J37/16
B01J23/89 M
(21)【出願番号】P 2019136324
(22)【出願日】2019-07-24
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】桑木 聴
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 健作
(72)【発明者】
【氏名】加藤 久雄
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-206102(JP,A)
【文献】特表2013-536065(JP,A)
【文献】特開2018-034138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/92
H01M 4/90
H01M 4/86
H01M 8/10
H01M 4/88
B01J 37/04
B01J 37/16
B01J 23/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた燃料電池用触媒。
(1)前記燃料電池用触媒は、
導電性材料からなる担体と、
前記担体の表面に担持された触媒粒子と
を備えている。
(2)前記触媒粒子は、次の式(1)で表される組成を有し、中空ナノ粒子構造を持つ。
Pt
xM
z …(1)
但し、
Mは、Ptより卑な金属元素、
0≦z<0.2、
x+z=1。
(3)前記触媒粒子は、シェルの平均厚さが3nm未満である。
(4)前記燃料電池電極触媒は、
有効電気化学表面積(ECSA)が60m
2
/g
Pt
以上であり、
前記触媒粒子の平均粒径が10nm以上100nm以下であり、
白金重量活性(MA)が650A/g
Pt
以上であり、
白金表面積比活性(SA)が1100μA/cm
2
以上であり、
前記担体の単位表面積当たりのPtの重量が2.4×10
-4
g/m
2
以上1.1×10
-3
g/m
2
以下である。
【請求項2】
固体高分子形燃料電池のカソードに用いられる
請求項1に記載の燃料電池用触媒。
【請求項3】
以下の構成を備えた燃料電池用触媒の製造方法。
(1)前記電池用触媒の製造方法は、
Pt前駆体、Ptより卑な金属元素Mの前駆体、及び導電性材料からなる担体を、水を含む溶媒中に分散させ、分散液を攪拌する第1工程と、
前記分散液に還元剤を滴下し、攪拌する第2工程と、
前記分散液のろ過、洗浄、及び乾燥を行い、触媒前駆体を回収する第3工程と、
前記触媒前駆体を酸溶液で洗浄することにより前記金属元素Mからなるコアを溶出させ、
請求項1又は2に記載の燃料電池用触媒を得る第4工程と
を備えている。
(2)前記第1工程は、
前記金属元素Mの重量に対するPtの重量の比(合成時のPt/M比)が0.25以上1.0未満となり、かつ、
前記担体の単位表面積当たりの前記金属元素Mの前駆体の配合量が6.5×10
-6mol/m
2以上7.5×10
-6mol/m
2以下となるように、
前記Pt前駆体、前記金属元素Mの前駆体、及び前記担体を配合するものからなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用触媒及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、主成分としてPtを含み、かつ、中空ナノ粒子構造を持つ触媒粒子を備えた燃料電池用触媒、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面に触媒を含む電極(触媒層及びガス拡散層)が接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を備えている。MEAの両面には、さらに、ガス流路を備えた集電体(セパレータ)が配置される。固体高分子形燃料電池は、通常、このようなMEAと集電体からなる単セルが複数個積層された構造(燃料電池スタック)を備えている。
【0003】
固体高分子形燃料電池の電極触媒には、Pt触媒、Pt合金触媒、カーボンアロイ触媒、酸化物触媒などが用いられている。これらの内、Pt合金触媒は、純Pt触媒よりも高い効率点性能(低電流密度・高電圧作動条件)が得られることが広く知られている。そのため、Pt合金触媒の製造方法に関し、従来から種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、非特許文献1には、
(a)PtとNiとの前駆体を室温でNaBH4で還元して触媒粒子とし、
(b)触媒粉末を室温の1M硫酸水溶液中で12時間攪拌し、コア成分である卑金属を溶出させる
ことにより得られる中空PtNi/Cナノ触媒が開示されている。
【0005】
また、特許文献1には、
(a)塩化ニッケル水溶液にヒドラジン及びカーボンブラックを添加し、カーボンブラックの表面にニッケル粒子を析出させ、
(b)ニッケル粒子担持カーボンブラックを含む水溶液に塩化白金塩水溶液を添加し、ニッケル粒子の表面にPtを析出させ、
(c)水溶液をフィルターで濾過することにより、Pt部分被覆Ni粒子担持カーボン粉末(PtNi/C)を回収し、
(c)PtNi/Cを硫酸で処理することによりコア部のNi粒子を溶解させる
ことにより得られるPt中空粒子担持カーボン粉末(h-Pt/C)が開示されている。
【0006】
同文献には、このような方法により、電気化学的活性表面積(ECA)が28~58m2/g-Ptであり、質量活性が260~630mA/mg-Ptであり、面積比活性が910~1090mA/cm2-Ptであるh-Pt/Cが得られる点が記載されている。
【0007】
一般に、触媒粒子は、その表面にある原子のみが電極反応の触媒として機能することが知られている。そのため、非特許文献1や特許文献1に記載されているように、触媒粒子を中空構造とすると、触媒粒子の比表面積が大きくなるためにPtの利用率が向上し、高価なPtの使用量を低減することができる。
しかしながら、従来の中空Pt触媒粒子は、有効電気化学表面積(ECSA)が低い。一般に、ECSAが小さいと、Pt重量当たりの燃料電池セルの出力は低くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Raphael, Chattot et al., Nano Lett. 2017, 17, 2447-2453
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、主成分としてPtを含み、中空ナノ粒子構造を持ち、かつ、従来に比べてECSAが大きい触媒粒子を備えた燃料電池用触媒を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、このような燃料電池用触媒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明に係る燃料電池用触媒は、以下の構成を備えている。
(1)前記燃料電池用触媒は、
導電性材料からなる担体と、
前記担体の表面に担持された触媒粒子と
を備えている。
(2)前記触媒粒子は、次の式(1)で表される組成を有し、中空ナノ粒子構造を持つ。
PtxMz …(1)
但し、
Mは、Ptより卑な金属元素、
0≦z<0.2、
x+z=1。
(3)前記触媒粒子は、シェルの平均厚さが3nm未満である。
【0012】
本発明に係る燃料電池用触媒の製造方法は、以下の構成を備えている。
(1)前記電池用触媒の製造方法は、
Pt前駆体、Ptより卑な金属元素Mの前駆体、及び導電性材料からなる担体を、水を含む溶媒中に分散させ、分散液を攪拌する第1工程と、
前記分散液に還元剤を滴下し、攪拌する第2工程と、
前記分散液のろ過、洗浄、及び乾燥を行い、触媒前駆体を回収する第3工程と、
前記触媒前駆体を酸溶液で洗浄することにより前記金属元素Mからなるコアを溶出させ、本発明に係る燃料電池用触媒を得る第4工程と
を備えている。
(2)前記第1工程は、
前記金属元素Mの重量に対するPtの重量の比(合成時のPt/M比)が0.25以上1.0未満となり、かつ、
前記担体の単位表面積当たりの前記金属元素Mの前駆体の配合量が6.5×10-6mol/m2以上7.5×10-6mol/m2以下となるように、
前記Pt前駆体、前記金属元素Mの前駆体、及び前記担体を配合するものからなる。
【発明の効果】
【0013】
Pt前駆体、Ptより卑な金属元素Mの前駆体、及び担体を含む分散液に還元剤を滴下すると、まず、担体表面に金属元素Mからなるコアが析出する。次いで、金属元素Mからなるコアの表面にPtからなるシェルが析出する。
この時、相対的に多量の金属元素Mの前駆体を分散液に添加すると、担体表面に相対的に多量のコアが析出する。また、分散液に相対的に少量のPt前駆体を添加すると、多量のコアの表面にPtシェルが薄く析出する。その結果、シェルの平均厚さが3nm未満であるコアシェル粒子が得られる。得られたコアシェル粒子を酸溶液で洗浄し、コアを溶出させると、シェルの平均厚さが3nm未満である中空ナノ粒子が得られる。
【0014】
このようにして得られた触媒は、Ptシェルの厚さの平均値が3nm未満であるため、従来の触媒に比べて有効電気化学表面積(ECSA)が高くなる。そのため、これを燃料電池用触媒に適用すれば、Pt重量当たりの出力が大きい燃料電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1(A)は、比較例1で得られた触媒粒子(合成時のPt/Ni比=1)のSTEM像である。
図1(B)は、実施例1で得られた触媒粒子(合成時のPt/Ni比=0.5)のSTEM像である。
【
図2】実施例2で得られた触媒粒子(合成時のPt/Ni比=0.25)のSTEM像である。
【
図3】合成時のPt/Ni比とECSAとの関係を示す図である。
【
図4】最も薄いシェル層を備えた触媒粒子の拡大STEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 燃料電池用触媒]
本発明に係る燃料電池用触媒は、
導電性材料からなる担体と、
前記担体の表面に担持された触媒粒子と
を備えている。
【0017】
[1.1. 担体]
担体は、導電性材料からなる。担体の材料は、導電性を示し、かつ、燃料電池作動環境下において使用可能なものである限りにおいて、特に限定されない。担体の材料としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、活性炭、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ガラス状炭素粉末などがある。
【0018】
[1.2. 触媒粒子]
[1.2.1. 構造]
[A. 中空ナノ粒子構造]
本発明において、触媒粒子は、中空ナノ粒子構造を持つ。「中空ナノ粒子構造」とは、直径(粒子の幅の最大寸法)が1μm未満であり、内部に空洞を有する構造をいう。このような中空ナノ粒子構造は、Ptより卑な金属元素Mからなるコアの表面にPtを含むシェルを形成し、コアを酸溶液で溶出させることにより得られる。触媒の製造方法の詳細については、後述する。
【0019】
[B. シェルの平均厚さ]
「シェルの厚さ」とは、電子顕微鏡観察下において粒子の空洞の中心付近を通る直線を無作為に選んだ方向へ引き、そこから粒子の幅と空洞の幅を測定し、(シェルの厚さ)={(粒子の幅)-(空洞の幅)}/2として得られた値をいう。
「シェルの平均厚さ」とは、無作為に選択された50個以上の触媒粒子について測定されたシェルの厚さの平均値をいう。
触媒粒子のシェルの平均厚さは、有効電気化学表面積(ECSA)に影響を与える。一般に、シェルの平均厚さが薄くなるほど、触媒として機能するPt原子数が多くなるので、ECSAが向上する。本発明に係る燃料電池用触媒は、後述す得る方法を用いて製造されるため、シェルの平均厚さが従来に比べて薄い。
【0020】
製造条件を最適化すると、シェルの平均厚さは、3nm未満となる。製造条件をさらに最適化すると、シェルの平均厚さは、2.5nm以下、あるいは、2.0nm以下となる。後述する方法を用いると、シェルの平均厚さが1.4nm程度の触媒粒子であっても製造することができる。
【0021】
[1.2.2. 組成]
触媒粒子は、次の式(1)で表される組成を有する。式(1)は、触媒粒子に含まれる各元素の平均組成を表す。
PtxMz …(1)
但し、
Mは、Ptより卑な金属元素、
0≦z<0.2、
x+z=1。
【0022】
[A. 金属元素M]
金属元素Mは、中空粒子を作るためのコアの成分である。本発明において、コアを酸で溶出させるため、コアは少なくともPtより卑な金属元素Mで構成されている必要がある。金属元素Mは、Ptより卑である限りにおいて、特に限定されない。
【0023】
金属元素Mとしては、例えば、Ni、Co、Mn、Fe、Cuなどがある。触媒粒子は、これらのいずれか1種の金属元素Mを含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
【0024】
[B. x]
xは、触媒粒子に含まれるPt及び金属元素Mの総原子数に対する、Ptの原子数の割合を表す。本発明において、Ptは、触媒粒子の主成分である。すなわち、触媒粒子は、所定量の金属元素Mを含み、残部がPt及び不可避的不純物からなる。
【0025】
[C. z]
zは、触媒粒子に含まれるPt及び金属元素Mの総原子数に対する金属元素Mの原子数の割合を表す。金属元素Mは、中空粒子を作るためのコアの成分である。中空粒子を作製する際に、コアを完全に溶出させても良い。すなわち、zは、ゼロでも良い。
【0026】
一方、zが大きくなりすぎると、燃料電池作動環境下で使用中に余分な金属元素Mが溶出し、燃料電池の性能を低下させる原因となる。従って、zは、0.20未満である必要がある。
【0027】
[1.2.3. 平均粒径]
触媒粒子の「粒径」とは、前記のように電子顕微鏡観察下で測定される粒子の幅をいう。
触媒粒子の「平均粒径」とは、無作為に選択された50個以上の触媒粒子の粒径の平均値をいう。
【0028】
触媒粒子の平均粒径が小さくなりすぎると、耐久性が低下する。従って、触媒粒子の平均粒径は、10nm以上が好ましい。
一方、触媒粒子の平均粒径が大きくなりすぎると、白金重量当たりの表面積が低下し、それによりセル出力が低下する。従って、触媒粒子の平均粒径は、100nm以下が好ましい。
【0029】
[1.3. 担体の単位表面積当たりのPt重量]
上述したように、本発明に係る燃料電池用触媒は、従来の触媒に比べてシェルの厚さが薄い。そのため、担体の単位表面積当たりのPtの重量もまた、従来に比べて少ない。後述する方法を用いて触媒を製造する場合において、製造条件を最適化すると、担体の単位表面積当たりのPt重量が2.4×10-4g/m2以上1.1×10-3g/m2以下である燃料電池用触媒が得られる。
【0030】
[1.4. 特性]
[1.4.1. 有効電気化学表面積(ECSA)]
後述する方法を用いて本発明に係る燃料電池用触媒を製造する場合において、製造条件を最適化すると、有効電気化学表面積(ECSA)が60m2/gPt以上である燃料電池用触媒が得られる。製造条件をさらに最適化すると、ECSAは、70m2/gPt以上、あるいは、75m2/gPt以上となる。
【0031】
[1.4.2. 白金重量活性(MA)]
後述する方法を用いて本発明に係る燃料電池用触媒を製造する場合において、製造条件を最適化すると、白金重量活性(MA)が650A/gPt以上である燃料電池用触媒が得られる。製造条件をさらに最適化すると、MAは、700A/gPt以上、あるいは、750A/gPt以上となる。
【0032】
[1.4.3. 白金表面積比活性(SA)]
後述する方法を用いて本発明に係る燃料電池用触媒を製造する場合において、製造条件を最適化すると、白金表面積比活性(SA)が1100μA/cm2以上である燃料電池用触媒が得られる。製造条件をさらに最適化すると、SAは、1400μA/cm2以上となる。
【0033】
[1.5. 用途]
本発明に係る燃料電池用触媒は、固体高分子形燃料電池のカソード用触媒として好適であるが、アノード用触媒としても用いることができる。
【0034】
[2. 燃料電池用触媒の製造方法]
本発明に係る電池用触媒の製造方法は、
Pt前駆体、Ptより卑な金属元素Mの前駆体、及び導電性材料からなる担体を、水を含む溶媒中に分散させ、分散液を攪拌する第1工程と、
前記分散液に還元剤を滴下し、攪拌する第2工程と、
前記分散液のろ過、洗浄、及び乾燥を行い、触媒前駆体を回収する第3工程と、
前記触媒前駆体を酸溶液で洗浄することにより前記金属元素Mからなるコアを溶出させ、本発明に係る燃料電池用触媒を得る第4工程と
を備えている。
【0035】
[2.1. 第1工程]
まず、Pt前駆体、Ptより卑な金属元素Mの前駆体、及び導電性材料からなる担体を、水を含む溶媒中に分散させ、分散液を攪拌する(第1工程)。
【0036】
[2.1.1. Pt前駆体]
Pt前駆体は、Ptを含み、かつ、水溶性の化合物であれば良い。Pt前駆体としては、例えば、テトラアンミンクロリド白金水和物などがある。Pt前駆体には、これらのいずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0037】
[2.1.2. 金属元素Mの前駆体]
金属元素Mの前駆体は、金属元素Mを含み、かつ、水溶性の化合物であれば良い。金属元素Mの前駆体としては、例えば、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケルなどがある。金属元素Mの前駆体には、これらのいずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0038】
[2.1.3. 担体]
担体は、導電性材料からなる。担体の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0039】
[2.1.4. 分散媒]
原料を分散又は溶解させる分散媒には、水、又は、水と有機溶媒との混合物を用いる。有機溶媒は、水と相溶するものであれば良い。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノールなどがある。
【0040】
分散媒として、水と有機溶媒との混合物を用いる場合において、有機溶媒の含有量が多くなりすぎると、NaBH4の分解速度が遅くなる。従って、有機溶媒の含有量は、10wt%以下が好ましい。
【0041】
[2.1.5. 分散液の組成]
金属元素Mの前駆体の添加量、及び、金属元素Mの前駆体とPt前駆体の比率は、シェルの厚さに影響を与える。本発明において、担体表面に相対的に多量のコアを析出させ、コアの表面に相対的に少量のPtを析出させることにより、シェルの平均厚さを3nm未満にしている。そのためには、第1工程は、以下の条件を満たすように、前記Pt前駆体、前記金属元素Mの前駆体、及び前記担体の配合する必要がある。
【0042】
[A. 合成時のPt/M比]
一般に、金属元素Mの重量に対するPtの重量の比(合成時のPt/M比)が小さくなりすぎると、Pt量が相対的に不足し、コア粒子の表面を覆うようにシェルを形成するのが困難となる。従って、合成時のPt/M比は、0.25以上である必要がある。
【0043】
一方、合成時のPt/M比が大きくなりすぎると、シェルの厚さが厚くなりすぎる。シェルの厚さが厚くなると、触媒として機能するPt原子の割合が低下するために、ECSAが低下する。従って、合成時のPt/M比は、1.0未満である必要がある。
【0044】
[B. 金属元素Mの前駆体の配合量]
一般に、担体の単位表面積当たりの金属元素Mの前駆体の量が少なすぎると、担体表面に析出するコアの数が少なくなる。コアの数が少なくなると、コアの単位表面積当たりのPt析出量が増加し、シェルが過度に厚くなる。従って、金属元素Mの前駆体の配合量は、6.5×10-6mol/m2以上である必要がある。
【0045】
一方、金属元素Mの前駆体の配合量が多くなりすぎると、担体表面に析出するコアの数が過度に多くなる。その結果、Pt量が相対的に不足し、コア粒子の表面を覆うようにシェルを形成するのが困難となる。従って、金属元素Mの前駆体の配合量は、7.5×10-6mol/m2以下である必要がある。
【0046】
[2.2. 第2工程]
次に、分散液に還元剤を滴下し、攪拌する(第2工程)。
還元剤は、Pt前駆体及び金属元素Mの前駆体を還元させることが可能なものであれば良い。還元剤としては、例えば、NaBH4などがある。還元剤には、これらのいずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0047】
分散液に滴下される還元剤の量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な量を選択することができる。分散液に適量の還元剤を滴下すると、最初に金属元素Mの前駆体が還元され、担体表面に金属元素Mからなるコアが析出する。次いで、コアの表面にPtからなるシェルが析出し、触媒前駆体(コアシェル粒子)が得られる。
【0048】
[2.3. 第3工程]
次に、前記分散液のろ過、洗浄、及び乾燥を行い、触媒前駆体を回収する(第3工程)。ろ過、洗浄、及び乾燥の方法及び条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法及び条件を選択することができる。
【0049】
[2.4. 第4工程]
次に、回収された前記触媒前駆体を酸溶液で洗浄することにより前記金属元素Mからなるコアを溶出させる(第4工程)。これにより、本発明に係る燃料電池用触媒が得られる。
酸は、コアを溶出させることが可能なのもである限りにおいて、特に限定されない。酸としては、例えば、硫酸、硝酸、過塩素酸などがある。
酸処理条件は、特に限定されるものではなく、目的とする組成に応じて最適な条件を選択することができる。すなわち、酸処理は、コアを完全に溶出させるものでも良く、あるいは、コアを部分的に溶出させるものでも良い。
【0050】
[3. 作用]
Pt前駆体、Ptより卑な金属元素Mの前駆体、及び担体を含む分散液に還元剤を滴下すると、まず、担体表面に金属元素Mからなるコアが析出する。次いで、金属元素Mからなるコアの表面にPtからなるシェルが析出する。
この時、相対的に多量の金属元素Mの前駆体を分散液に添加すると、担体表面に相対的に多量のコアが析出する。また、分散液に相対的に少量のPt前駆体を添加すると、多量のコアの表面にPtシェルが薄く析出する。その結果、シェルの平均厚さが3nm未満であるコアシェル粒子が得られる。得られたコアシェル粒子を酸溶液で洗浄し、コアを溶出させると、シェルの平均厚さが3nm未満である中空ナノ粒子が得られる。
【0051】
このようにして得られた触媒は、Ptシェルの平均厚さが3nm未満であるため、従来の触媒に比べて有効電気化学表面積(ECSA)が高くなる。そのため、これを燃料電池用触媒に適用すれば、Pt重量当たりの出力が大きい燃料電池が得られる。
【実施例】
【0052】
(実施例1~2、比較例1)
[1. 試料の作製]
[1.1. 比較例1]
非特許文献1に記載の方法を用いて、中空PtNi/Cナノ触媒を作製した。すなわち、Pt前駆体、Ni前駆体、及び担体を水・アルコール混合溶媒中に分散させ、攪拌した。この際、Niの重量に対するPtの重量の比(合成時のPt/Ni比)は、1.0とした。また、担体の単位表面積当たりのNi前駆体の配合量は、7×10-6mol/m2とした。
【0053】
この分散液に、還元剤としてNaBH4を滴下した。還元剤の滴下終了後、55分間攪拌を行った。分散液から回収した固形分の洗浄・ろ過を行い、100℃で乾燥させ、コアシェル粒子/C触媒を得た。さらに、室温の1M硫酸溶液中にコアシェル粒子/C触媒を加えて12時間攪拌した。酸処理後、処理液から回収した固形分の洗浄・ろ過を行い、100℃で乾燥することにより、中空PtNi/Cナノ触媒を得た。
【0054】
[1.2. 実施例1~2]
Pt前駆体、Ni前駆体、及び担体を水・アルコール混合溶媒中に分散させ、攪拌した。この際、Niの重量に対するPtの重量の比(合成時のPt/Ni比)は0.5(実施例1)、又は、0.25(実施例)とした。また、担体の単位表面積当たりのNi前駆体の配合量は、いずれも、7×10-6mol/m2とした。以下、比較例1と同様にして中空ナノ粒子構造を備えたPtNi/C触媒を得た。
【0055】
[2. 試験方法]
[2.1. 走査型透過電子顕微鏡(STEM)観察]
得られた触媒粒子をSTEMで観察した。
[2.2. 組成分析]
各触媒について、ICP分析を行った。
【0056】
[2.3. 電気化学特性の評価]
回転ディスク電極(RDE)法にて電気化学特性を評価した。触媒を超純水、アルコール、及びナフィオン(登録商標)を含む混合溶媒中に分散させ、触媒インクを作製した。この触媒インクをグラッシーカーボン(GC)電極上に塗布し、乾燥させ、評価用電極を得た。
【0057】
RDE法のセルは三極式とし、電解液には0.1M過塩素酸水溶液を用いた。参照極には可逆水素電極(RHE)を用い、対極にはPt黒メッシュを用いた。
有効電気化学表面積(ECSA)は、サイクリックボルタモグラム(CV)の水素吸脱着波の電荷量から求めた。酸素還元反応(ORR)の白金重量活性(MA)及び白金表面積比活性(SA)は、リニアスイープボルタモグラム(LSV)の測定結果から求めた。
【0058】
[3. 結果]
[3.1. STEM観察]
図1(A)に、比較例1で得られた触媒粒子(合成時のPt/Ni比=1)のSTEM像を示す。
図1(B)に、実施例1で得られた触媒粒子(合成時のPt/Ni比=0.5)のSTEM像を示す。いずれの像においても、多くの粒子で中心部の輝度が弱く、粒子内部が空洞になっていることがうかがえる。シェル層の厚みは、これらの像及び別の視野の像から、粒子50個をランダムに選び、平均値を算出した。その結果、比較例1のシェルの平均厚みは3nmであるのに対し、実施例1のシェルの平均厚みは2nmであった。以上の結果から、本発明に係る触媒は、従来技術に比べ、シェル層を1nm薄層化できていることが分かった。
【0059】
[3.2. 組成分析]
表1に、ICP測定から得られた各触媒の組成を示す。実施例1で得られた触媒のPt、Niの存在比は、比較例1と同程度であることが分かった。この結果は、合成時のPt/Ni比によらず、合成時の酸処理において多くのNiが溶出し、最終的には同じPt、Niの存在比になることを示している。
【0060】
【0061】
[3.3. 電気化学特性の評価]
表2に、0.9V(vs. RHE)における各触媒の電気化学特性を示す。実施例1は、比較例1よりECSAが高い。これは、白金シェル層の薄層化(3nm→2nm)の効果によるものと考えられる。以上の結果から、本発明に係る触媒は、従来技術に比べ、シェル厚さが薄く、ECSAが高いことが分かった。
【0062】
【0063】
図2に、実施例2で得られた触媒粒子(合成時のPt/Ni比=0.25)のSTEM像を示す。中空粒子の存在は確認できるが、
図2中の矢印で示したような中実粒子の割合が多い。これは、コアのNi粒子を覆うようにシェルを形成するのにPt量が不足しかけているためと思われる。従って、この前駆体の配合比が中空構造を得るのに必要最小限の量と考えられる。
【0064】
図3に、合成時のPt/Ni比とECSAとの関係を示す。実施例1及び比較例1で得られたECSA値を外挿すると、実施例2のECSAは、79.4m
2/g
Ptと推定される。
図4に、最も薄いシェル層を備えた触媒粒子の拡大STEM像を示す。シェルの厚みは1.4nmであり、これが本発明に係る方法により実現可能な最小厚みと考えられる。
【0065】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る燃料電池用触媒は、自動車用動力源、定置型小型発電機等に用いられる固体高分子形燃料電池の空気極の電極触媒として用いることができる。