(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】圧粉磁心の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20221214BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20221214BHJP
H01F 1/22 20060101ALI20221214BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20221214BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20221214BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20221214BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20221214BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20221214BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20221214BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20221214BHJP
【FI】
H01F41/02 D
H01F1/147 191
H01F1/22
B22F1/00 Y
B22F1/102 100
B22F1/14 500
B22F3/00 F
B22F3/02 M
B22F3/02 P
B22F3/24 B
B22F3/24 C
C22C38/00 303S
(21)【出願番号】P 2019221693
(22)【出願日】2019-12-06
【審査請求日】2021-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】大島 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 功太
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-016701(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158336(WO,A1)
【文献】特開2014-116527(JP,A)
【文献】特開2013-168648(JP,A)
【文献】特開2006-351946(JP,A)
【文献】特表2008-544520(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106409462(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/147、1/22-1/26、3/08、27/255
H01F 41/02
B22F 1/00、1/102、1/14、3/00-3/02、3/24
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粉末を絶縁材料で被覆する被覆工程と、
前記被覆工程を経た軟磁性粉末を、加圧成形処理して成形体を作製する成形工程と、
前記成形工程を経た成形体を大気雰囲気で熱処理する焼鈍工程と、
を有する圧粉磁心の製造方法において、
前記焼鈍工程における350℃
未満の昇温速度が7.8℃ /分未満であり、350℃に達した時点で、350℃以上の昇温速度が、7.8℃ /分以上であることを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項2】
前記軟磁性粉末に対して、潤滑剤を混合する混合工程を有することを特徴とする請求項1記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項3】
前記軟磁性粉末は、FeSiAl合金粉末であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の圧粉磁心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁心の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧粉磁心は、インダクタ及びリアクトルとも呼ばれるコイルのコアに用いられる磁性体である。圧粉磁心は軟磁性粉末により成る。軟磁性粉末としては、鉄を主成分とするパーマロイ(Fe-Ni合金)、Si含有鉄合金(Fe-Si合金)、センダスト合金(Fe-Si-Al合金)、アモルファス合金、純鉄粉等が挙げられる。この軟磁性粉末は、粉砕法、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、水ガスアトマイズ法等の手法によって作製される。近年では、水アトマイズ法は、もっとも入手性が良く低コストであり、ガスアトマイズ法は、ヒステリシス損失を効果的に低減でき、特に多用されている。
【0003】
リアクトルやインダクタ等のコイルは、用途に応じて求められる磁気的特性が異なる。例えば、商用電源用途等、低周波数領域での使用が想定される場合、コイルには高いインダクタンス値が求められることがあり、その場合、コイルに用いる圧粉磁心の初透磁率を向上させることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5023096号公報
【文献】特開2014-86672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧粉磁心の初透磁率を向上させるため、より低損失で、透磁率が高く、安価なFeSiAl合金粉末がよく用いられている。しかしながら、近年では、材料等の選択によらず、更に高い透磁率を有する圧粉磁心が要望されるところである。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、初透磁率の高い圧粉磁心の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、本発明の圧粉磁心は、軟磁性粉末を絶縁材料で被覆する被覆工程と、前記被覆工程を経た軟磁性粉末を、加圧成形処理して成形体を作製する成形工程と、前記成形工程を経た成形体を大気雰囲気で熱処理する焼鈍工程と、を有する圧粉磁心の製造方法において、前記焼鈍工程における350℃未満の昇温速度が7.8℃ /分未満であり、350℃に達した時点で、350℃以上の昇温速度が、7.8℃ /分以上である。
【0008】
なお、350℃未満の昇温速度が、350℃以上の昇温速度以下であること、前記軟磁性粉末に対して、潤滑剤を混合する混合工程を有すること、軟磁性粉末は、FeSiAl合金粉末であることも、それぞれ本発明の一形態である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、焼鈍工程における350℃以上の昇温速度を7.8℃/分以上とすることにより、初透磁率の高い圧粉磁心を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例の圧粉磁心の製造方法を示すフローチャート。
【
図2】昇温速度と初透磁率との関係を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態に係る圧粉磁心の製造方法について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
[圧粉磁心]
本実施形態により製造される圧粉磁心は、インダクタ及びリアクトルとも呼ばれるコイルのコアに用いられる磁性体である。この圧粉磁心は、軟磁性粉末を加圧成形及び焼鈍して成る。典型的には、この軟磁性粉末としては、鉄を主成分とするパーマロイ(FeNi合金)、Si含有鉄合金(FeSi合金)、センダスト合金(FeSiAl合金)、アモルファス合金、純鉄粉等が挙げられる。
【0013】
Si含有鉄合金には、Co、Al、Cr又はMnが含まれていてもよい。パーマロイ(FeNi合金)を用いる場合、Feに対するNiの比率は50:50や25:75が好ましいが、他の比率であってもよい。例えば、Fe-80Ni、Fe-36Niでもよい。FeとNiの他にSi、Cr、Mo、Cu、Nb、Ta等を含んでいても良い。FeSi合金粉末は、例えば、Fe-3.5%Si合金粉末、Fe-6.5%Si合金粉末が挙げられるが、Feに対するSiの比率は、3.5%や6.5%以外であっても良い。純鉄粉は、Feを99%以上含むものである。軟磁性粉末は1種類でなく、2種類以上の混合粉でも良い。
【0014】
この軟磁性粉末は、粉砕法により作製されたものでも、アトマイズ法により作製されたものでも良い。アトマイズ法は、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、水ガスアトマイズ法のいずれでも良い。水アトマイズ法は、現状、もっとも入手性が良く低コストである。水アトマイズ法を使用した場合は、その粒子形状がいびつであるので、それを加圧成形した粉末成形体の機械的強度を向上させやすいため、好ましい。ガスアトマイズ法は、ヒステリシス損失を効果的に低減でき、好ましい。
【0015】
また、軟磁性粉末は、外側に絶縁材料が付着することによって、絶縁層によってコーティングされている。軟磁性粉末は、絶縁層が形成されていない軟磁性粉末又は絶縁層が形成された軟磁性粉末の何れをも含む意味である。絶縁材料は、軟磁性粉末の外側を全て覆うように付着していてもよく、一部を覆うように付着していてもよい。即ち、絶縁材料は、軟磁性粉末の各粒子表面への付着、軟磁性粉末の凝集体の表面への付着、又はこれらの両方の態様が混在するように、軟磁性粉末に付着する。また絶縁材料は、粒子表面又は凝集体表面の全周囲に付着していてもよいし、点状に分散して付着していてもよいし、更には塊状に分散して付着していてもよい。
【0016】
絶縁材料としては、シランカップリング剤、シリコーンオリゴマー、シリコーンレジン、又はこれらの混合が挙げられる。例えば、絶縁材料として、シランカップリング剤とシリコーンレジンが軟磁性粉末の外側に付着していてもよいし、シリコーンオリゴマーとシリコーンレジンが軟磁性粉末の外側に付着していてもよい。また、複数種の絶縁材料が軟磁性粉末の外側に付着する場合、その複数種の絶縁材料により成る絶縁層は、種類ごとに各層に分かれていてもよいし、各種類が混合された単層であってもよい。
【0017】
シランカップリング剤としては、アミノシラン系、エポキシシラン系、イソシアヌレート系のシランカップリング剤を使用することができ、特に、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、トリス-(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートが好ましい。シランカップリング剤の添加量は0.25~1.0wt%が望ましく、乾燥工程での温度は25~200℃で2時間程度の熱処理を行うことが望ましい。
【0018】
シリコーンオリゴマーとしては、アルコキシシリル基を有し、反応性官能基を有さないメチル系、メチルフェニル系のものや、アルコキシシリル基及び反応性官能基を有するエポキシ系、エポキシメチル系、メルカプト系、メルカプトメチル系、アクリルメチル系、メタクリルメチル系、ビニルフェニル系、又はアルコキシシリル基ではなく、反応性官能基を有する脂環式エポキシ系等を用いることができる。特に、メチル系またはメチルフェニル系のシリコーンオリゴマーを用いることで厚く硬い絶縁層を形成することができる。また、シリコーンオリゴマー層の形成のしやすさを考慮して、粘度の比較的低いメチル系、メチルフェニル系を用いてもよい。シリコーンオリゴマーの添加量は0.25~2.0wt%が望ましく、乾燥工程での温度は25~300℃で2時間程度の熱処理を行うことが望ましい。
【0019】
シリコーンレジンは、シロキサン結合(Si-O―Si)を主骨格に持つ樹脂であり、可撓性に優れた絶縁層を形成することができる。シリコーンレジンとしては、典型的には、メチル系、メチルフェニル系、プロピルフェニル系、エポキシ樹脂変性系、アルキッド樹脂変性系、ポリエステル樹脂変性系、ゴム系等を用いることができる。この中でも特に、メチルフェニル系のシリコーンレジンを用いた場合、加熱減量が少なく、耐熱性に優れた絶縁層を形成することができる。
【0020】
また、軟磁性粉末に対して、絶縁材料の被膜を形成した後、絶縁材料の被膜を形成する前、又は絶縁材料の被膜を形成する前後に、潤滑剤を混合してもよい。潤滑剤としては、ここで潤滑剤として、ステアリン酸、ステアリン酸塩、ステアリン酸石鹸、エチレンビスステアラマイド、エチレンビスステアレートアミドなどのワックスを使用することができる。
【0021】
[製造工程]
本発明の圧粉磁心の製造方法は、
図1に示すような次のような各工程を有する。
(1)軟磁性粉末に対して、潤滑剤を混合する第1混合工程(ステップS01)。
(2)第1混合工程を経た軟磁性粉末を含む混合物を、絶縁材料で被覆する被覆工程(ステップS02)。
(3)絶縁材料で被覆した混合物に対して、潤滑剤を混合する第2混合工程(ステップS03)。
(4)第2混合工程を経た混合物を、加圧成形処理して成形体を作製する成形工程(ステップS04)。
(5)成形工程を経た成形体を大気中で熱処理する焼鈍工程(ステップS05)。
以下、各工程を具体的に説明する。なお、本実施形態では、絶縁材料による軟磁性粉末の被覆の前後に、潤滑剤を混合する工程を経る。但し、本発明はこれには限定されない。絶縁材料による軟磁性粉末の被覆の前のみ、又は軟磁性粉末の被覆の後にのみ潤滑剤を混合する工程を経るようにしてもよい。また、上記のように、本発明の圧粉磁心に適用可能な材料は多岐に亘り、以下の各工程で示す材料は一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0022】
(1)第1混合工程(前混合工程)
第1混合工程では、鉄、珪素及びアルミニウムを主成分とする軟磁性粉末(FeSiAl合金粉末)と、この軟磁性粉末に対して0.2~0.7wt%の潤滑剤とを混合する。このような混合工程を、絶縁材料の被覆前の混合という意味で、前混合工程とも呼ぶ。潤滑剤を添加することにより、軟磁性粉末同士の滑りがよくなり、軟磁性粉末の密度が向上する。これにより、ヒステリシス損失を低下させることができる。混合する潤滑剤の量は、この軟磁性粉末に対して0.2~0.7wt%とする。これより少なければ、十分な効果を得ることができず、これより多いと、密度低下による最大磁束密度の低下、ヒステリシス損失の増加による磁気特性の低下する問題が発生する。
【0023】
(2)被覆工程
混合工程を経た混合物を絶縁材料で被覆する被覆工程は、混合工程を経た混合物と、軟磁性粉末に対して絶縁材料として、1.0~3.0wt%のシリコーンレジンを混合し、加熱乾燥を行う。すなわち、第1混合工程を経た混合物に対して、絶縁材料により、軟磁性粉末の表面に耐熱性絶縁皮膜を形成するためである。1.0~3.0wt%を適量としたのは、この適量よりも少なければ、成形体の強度が不足して、割れが発生するためである。また、適量より多いと、密度低下による最大磁束密度の低下、ヒステリシス損失の増加による磁気特性が低下する問題が発生するためである。
【0024】
(3)第2混合工程(後混合工程)
被覆工程を経た混合物に潤滑剤を混合する第2混合工程では、絶縁材料を被覆した混合物と、軟磁性粉末に対して0.1~0.7wt%の潤滑剤とを混合する。このような混合工程を、被覆後の混合という意味で、後混合工程とも呼ぶ。ここで潤滑剤としては、第1混合工程で使用したものと同様のものを使用できるが、必ずしも第1混合工程と第2混合工程で同一の潤滑剤を使用する必要はない。これらを添加することにより、混合物同士の滑りを良くすることができるので、混合時の密度を向上することができ、成形密度を高くすることができる。さらに、粉末が金型への焼き付くことも防止することが可能である。混合する潤滑樹脂の量は、第1及び第2混合工程あわせて、軟磁性粉末に対して0.1~0.8wt%とする。これよりも少なければ、十分な効果を得ることができず、これより多いと、密度低下による最大磁束密度の低下、ヒステリシス損失の増加による磁気特性が低下する問題が発生する。
【0025】
(4)成形工程
成形工程では、前記のようにして絶縁材料により被覆することにより絶縁層が形成された軟磁性粉末を加圧成形することにより、成形体を形成する。この時、加圧乾燥された絶縁材料は、成形時のバインダーとして作用する。成形時の圧力は従来の発明と同様で良く、本発明においては1600MPa程度が好ましい。
【0026】
(5)焼鈍工程
焼鈍工程では、成形工程を経た成形体を熱処理することにより焼鈍する。より具体的には、大気雰囲気などの酸素雰囲気において、熱処理を行うことで圧粉磁心が作製される。熱処理温度は、650~850℃とすることが好ましい。この温度範囲で加熱処理を行うのは、成形工程での歪みを除去すると共に、加熱処理時の熱により軟磁性粉末の周囲に被覆した絶縁層が破れることを防止するためである。一方、加熱温度がこの温度範囲よりも低いと、歪み除去効果が限定的となり、加熱温度がこの温度範囲よりも高いと、軟磁性粉末に被覆した絶縁層が破れることにより、絶縁性能の劣化から渦電流損失が大きく増加してしまう可能性がある。なお、以下に述べる温度上昇により到達させる温度は例示であり、上記の650~850℃の温度範囲であれば好ましい。
【0027】
また、本実施形態では、少なくとも350℃以上の昇温速度が、7.8℃/分以上である。このように、350℃以上の昇温速度を高くすることにより、初透磁率を高くすることができる。大気雰囲気中での加熱による酸化の進行は、まず、成形体の表面が酸化し、その後、成形体の内部にまで酸化が及ぶことになる。酸化は、加熱を継続するに従って進んで行くことになり、これにより透磁率が低下すると考えるのが技術常識と言える。
【0028】
しかし、発明者は鋭意研究の結果、一定の加熱温度に達するまでの昇温速度を高めることによって、初透磁率を高めることができることを見出した。つまり、例えば、700℃まで昇温させ、その後、700℃を維持する場合に、短時間で700℃に到達させることにより、初透磁率が高くなるという結果が得られた。また、350℃以上での昇温速度を高くすることにより、初透磁率を高めることができることを見出した。そして、700℃に維持した状態で、所定時間、加熱を継続しても、初透磁率が低下しないことを見出した。
【0029】
但し、加熱初期の温度から700℃に到達するまでの時間は、10分以上となるようにすることが好ましい。これは、推測であるが、昇温速度が速すぎると、材料の線膨張係数差により、又は潤滑剤が急速に揮発することにより、成形体に割れが発生する場合があるからである。例えば、昇温速度を23.3℃/分以下とすると、このような割れの発生を防ぐことができるが、本発明はこれには限定されない。
【0030】
また、350℃未満では、昇温速度を7.8℃/分未満としてもよい。これは、推測であるが、上記のように、加熱により潤滑剤は揮発するが、継続した加熱によって、大半が350℃に達する前に揮発していると考えられる。このため、加熱の開始から350℃未満の間は、昇温速度7.8℃/分未満に抑えることで、潤滑剤の急激な揮発による割れの発生を防止できる。その後、7.8℃/分以上で加熱することにより、軟磁性粉末の酸化を抑えて、初透磁率を高めることができる。
【0031】
また、本実施形態では潤滑剤の混合工程を行っている。このため、被膜樹脂内に潤滑剤が混合されている状態となる。この場合にも、上記の昇温速度の設定は、昇温過程で潤滑剤が急速に揮発することによる成形体の割れの防止に有効となる。
【0032】
さらに、軟磁性粉末として、鉄、珪素及びアルミニウムを主成分とする軟磁性粉末を使用して、大気中などの酸化雰囲気中で熱処理が行われると、焼鈍時の温度が350℃程度になるとSi基に直結しているメチル基が熱分解する。その後、シリカ(SiO2)層として、軟磁性粉末表面に残り、これが強固なバインダーかつ絶縁層となる。圧粉磁心の熱処理を大気中で行うことで、緻密で強固なシリカ層となるため、高温で熱処理をおこなっても絶縁性が劣化しないで、酸化などによるヒステリシス損失の増加が起きない。また、大気中で熱処理を行うことにより、熱分解してメチル基が炭素として残ることがないので、機械的強度が改善できる。さらに、上記のような昇温速度の設定により、初透磁率の低下を抑えることができる。これは、推測ではあるが、酸化膜が形成された後の成形体の内部の酸化の進行が抑えられている可能性があると考えられる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0034】
軟磁性粉末として、粉砕法のより得られた平均粒子経(D50)が91.2μmのFeSiAl合金粉末を用いた。平均粒子径は、特に断りがない限り、D50、すなわちメジアン径を指すものとする。以下、全ての実施例、比較例に共通の製造条件を、下表1に示す。
(表1)
【0035】
表1に示すように、第1混合工程では、FeSiAl合金粉末に、潤滑剤としてエチレンビスステアラマイド(Acrawax(登録商標))を、FeSiAl合金粉末全量に対して0.6w%、混合した。その後、被膜工程では、潤滑剤を混合したFeSiAl合金粉末に、シリコーンレジンを、FeSiAl合金粉末全量に対して1.2w%混合し、この混合物を150℃の温度環境下で2時間加熱することにより、乾燥させた。第2混合工程では、乾燥後の混合物を、目開き250μmの篩に通し、さらに潤滑剤としてエチレンビスステアラマイドを、FeSiAl合金粉末全量に対して0.1w%混合した。
【0036】
加圧工程では、第1混合工程、被膜工程及び第2混合工程を経た後、FeSiAl合金粉末に加成形処理を行った。つまり、金型を用いて、室温状況下において15ton/cm2で加圧成形した。その結果、外径26.0mm、内径15.2mm及び高さ13.0mmのトロイダル状、つまりリング状の圧粉磁心の成形体が得られた。
【0037】
成形工程を経た成形体は、熱処理条件を異ならせて焼鈍処理を行うために、複数用意した。焼鈍工程では、各成形体を大気雰囲気で加熱した。各成形体は、23.3℃/分(実施例1)、11.7℃/分(実施例2)、7.8℃/分(実施例3)、3.9℃/分(比較例1)、1.9℃/分(比較例2)の異なる昇温速度で、初期温度25℃から700℃まで昇温させ、その後、2時間温度を維持した。
【0038】
この焼鈍工程を経ることにより作製された圧粉磁心について、密度(g/cc)、透磁率μ、鉄損Pcv、ヒステリシス損失Ph及び渦電流損失Peを測定した。これら圧粉磁心は、焼鈍工程における昇温速度以外は、同一製法及び同一条件で作製された。
【0039】
密度(g/cc)は、見かけ密度である。圧粉磁心の外径、内径、及び高さを測り、これらの値から各圧粉成形体の体積(cm3)を、π×(外径2-内径2)×高さに基づき算出した。そして、圧粉磁心の重量を測定し、測定した重量を算出した体積で除して密度を算出した。
【0040】
また、透磁率、鉄損の測定に際し、圧粉磁心をコアとするリアクトルを作製した。透磁率の測定に際しては、圧粉磁心にφ0.5mmの銅線を18ターン巻回した。損失の測定に際しては、圧粉磁心にφ0.5mmの銅線を1次巻線として18ターン巻回し、また2次巻線として18ターン巻回した。
【0041】
そして、LCRメータ(アジレントテクノロジー:4284A)を使用することで、10kHz、1.0Vにおけるインダクタンスから透磁率を算出した。また、磁気計測機器であるBHアナライザ(岩通計測株式会社:SY-8219)を用いて、周波数が100kHz及び最大磁束密度Bmが100mTの測定条件にて鉄損Pcv(kw/m3)の測定を行った。
【0042】
更に、鉄損Pcvの測定結果からヒステリシス損失Ph(kw/m3)と渦電流損失Pe(kw/m3)とを算出した。ヒステリシス損失Ph(kw/m3)と渦電流損失Pe(kw/m3)は、鉄損Pcvの周波数曲線を次の(1)~(3)式で最小2乗法により、ヒステリシス損失係数(Kh)、渦電流損失係数(Ke)を算出することで行った。
【0043】
Pcv =Kh×f+Ke×f2・・(1)
Ph =Kh×f・・・(2)
Pe =Ke×f2・・(3)
Pcv:鉄損
Kh :ヒステリシス損失係数
Ke :渦電流損失係数
f :周波数
Ph :ヒステリシス損失
Pe :渦電流損失
【0044】
作製された各圧粉磁心の透磁率、鉄損Pcv、ヒステリシス損失Ph及び渦電流損失Peを下表2に示す。
(表2)
【0045】
また、上表2に従って、
図2、
図3のグラフを作成した。
図2は、昇温速度℃/分と初透磁率の関係を示すグラフであり、
図3は、昇温速度℃/分と鉄損の関係を示すグラフである。なお、初透磁率は、直流印加磁界を限りなくゼロに近づけた状態における透磁率であり、表2では0kA/mとして、5kA/mの透磁率とともに示している。
【0046】
表2、
図2に示すように、比較例1、比較例2では、初透磁率は135しか得ることができないが、7.8℃/分の実施例3では143、11.0℃/分の実施例2では148と、急激に増大する。さらに、23.3℃/分の実施例1では、162にまで達する。これにより、7.8℃/分以上で加熱することにより、高い初透磁率が得られることがわかる。
【0047】
また、密度を高くすることにより、透磁率を上げることも可能であるが、実施例1~3は比較例1、2と密度はほぼ同様である。このため、密度を上げるために成形圧力を高める等の必要がなく、初透磁率を高めることができる。
【0048】
次に、焼鈍工程において、昇温速度を一定とせずに変化させた以外は、同様の条件で作成された成形体を複数用意した。作製された各圧粉磁心の透磁率、鉄損Pcv、ヒステリシス損失Ph及び渦電流損失Peを、下表3に示す。表3において、℃(ステップ1)は、昇温速度を変更した時の温度、℃(ステップ2)は到達温度である。
【0049】
【0050】
比較例3は、成形体を、初期温度25℃から11.7℃/分で昇温させ、350℃に達した時点で、1.9℃/分で700℃まで昇温させ、その後2時間温度を維持した。
【0051】
実施例4は、成形体を、初期温度25℃から1.9℃/分で昇温させ、350℃に達した時点で、11.7℃/分で700℃まで昇温させ、その後2時間加熱した。実施例5は、成形体を、初期温度25℃から1.9℃/分で昇温させ、350℃に達した時点で、11.7℃/分で700℃まで昇温させ、その後0.5時間加熱した。実施例6は、成形体を、初期温度25℃から11.7℃/分で昇温させ、450℃に達した時点で、1.9℃/分で700℃まで昇温させ、その後2時間加熱した。表2から、実施例4では初透磁率は154、実施例5では初透磁率は161、実施例6では142であり、比較例3と比較して、高い初透磁率が得られることがわかる。ここで、実施例6では、450℃に達した時点で、昇温速度を低下させてはいるが、350℃以上、450℃以下の間において、7.8℃/分以上の11.7℃/分となっている。つまり、焼鈍工程における350℃以上、450℃以下の昇温速度が、7.8℃/分以上であれば、高い初透磁率が得られることがわかる。
【0052】
また、鉄損Pcvについては、実施例1~6において相違があるが、ヒステリシス損失Ph、渦電流損失Peともに高周波で高くなるため、高周波での使用の場合と比較して、低周波での使用であれば影響は少ない。
【0053】
[他の実施形態]
本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0054】
また、例えば、本発明は、上記のような実施例1~6において作製されたリアクトルの圧粉磁心に限定されるものではなく、この圧粉磁心にコイルを巻回することによりチョークコイルを作製する実施形態も包含する。これにより、上述したような実施例1~6において得られた効果を当該チョークコイルにおいても同様に奏することが可能となる。