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▶ エボルブ バイオロジクス インコーポレイテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】アルブミンの精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/765 20060101AFI20221214BHJP
   C07K 1/34 20060101ALI20221214BHJP
   C07K 1/30 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
C07K14/765
C07K1/34
C07K1/30
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019550743
(86)(22)【出願日】2018-03-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-02
(86)【国際出願番号】 CA2018050321
(87)【国際公開番号】W WO2018165766
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-02-19
(31)【優先権主張番号】62/472,007
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522285288
【氏名又は名称】エボルブ バイオロジクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】セオ ジン ソグ
(72)【発明者】
【氏名】ミラー デイビッド
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-232524(JP,A)
【文献】特開平06-078994(JP,A)
【文献】特表平06-503231(JP,A)
【文献】特開2009-112319(JP,A)
【文献】米国特許第03992367(US,A)
【文献】米国特許第06022954(US,A)
【文献】米国特許第02705230(US,A)
【文献】特開昭57-095997(JP,A)
【文献】西独国特許出願公開第03019456(DE,A1)
【文献】中国特許出願公開第105384791(CN,A)
【文献】A. Aghaie et al.,Preparation of albumin from human plasma by heat denaturation method in plasma bag,Transfusion Medicine,2012年,Vol.22,pp.440-445
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)血漿をカプリル酸ナトリウム(NaCP)と接触させる工程であって、NaCPの量が、該血漿中の総タンパク質1グラム当たり0.8~1.3mmol NaCPである、工程、
(b)該血漿を60~70℃の温度で加熱する工程、
(c)非アルブミン相からアルブミンを分離する工程、および
(d)血漿から少なくとも75%のアルブミンを回収する工程
を含み、(a)の該血漿中の該総タンパク質が50~80g/Lの濃度である、
血漿からアルブミンを精製するための方法。
【請求項2】
前記血漿が、部分的に精製された血漿、クリオ プア(cryo poor)血漿血漿タンパク質の溶液、またはこれらの混合物である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
血漿の前記加熱が、6.0~8.0pHで実行される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
加熱の間の前記血漿の導電率が、9mS/cm未満ある、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
血漿の前記加熱が、60~70℃温度で、0.5~24時間期間にわたり実行される、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
血漿の前記加熱が、6.7~6.9のpH、62~65℃の温度で、少なくとも4時間の期間にわたり実行され、前記NaCPの量が総タンパク質1グラム当たり0.8~1.3mmol NaCPであり、該総タンパク質が50~80g/Lの濃度である、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
総タンパク質の濃度が水の添加により調整される、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
非アルブミン相からのアルブミンの前記分離が、非アルブミンタンパク質および脂質不純物を沈殿させることを含む、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
非アルブミン相からのアルブミンの前記分離が、前記血漿を30℃より低い温度に冷却することを含む、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
非アルブミン相からのアルブミンの前記分離が、深層濾過、カセットを用いるタンジェンシャルフロー濾過(TFF)または中空繊維TFFを通じた濾過を行うこと含む、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
非アルブミン相からのアルブミンの前記分離が、血漿のpHを4.8~5.4調整することを含む、請求項1~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
血漿のpHの前記調整が、酸の添加により実行される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記酸が、有機酸および/または無機酸を含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記有機酸が、クエン酸、酢酸およびトリフルオロ酢酸から選択される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記有機酸が酢酸である、請求項13または14記載の方法。
【請求項16】
前記無機酸が、塩酸、硫酸およびリン酸から選択される、請求項13記載の方法。
【請求項17】
非アルブミンからのアルブミンの前記分離が、1m2当たり1~10L/分フィード流量での濾過を含む、請求項10~16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
線形に規模を拡大縮小可能であり得る、請求項1~17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
前記精製されたアルブミンが、質量として少なくとも90%純粋である、請求項1~18のいずれか一項記載の方
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年3月16日に出願された米国仮出願第62/472,007号の恩典を主張し、該仮出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本開示は、血漿からのアルブミンの精製のための新規の方法に関する。方法は、血漿を、血漿中の総タンパク質濃度およびカプリル酸ナトリウム(NaCP)-対-総タンパク質比に依存する量のNaCPと接触させること、中性付近のpH範囲において血漿を低温殺菌すること、ならびに非アルブミン相からアルブミンを分離することを伴う。前記方法は、高い収率および純度のアルブミン溶液を提供する。
【背景技術】
【0003】
背景
ヒトおよび動物の血液は、治療的特性を有する分子の供給源である。これらの分子の多くは、血漿または血清中に見出され得るタンパク質である。これらのタンパク質は、ヒト治療剤として使用するための分子の精製および標準化の目的での特異的単離のための標的とされてきた。例えば、アルブミン、免疫グロブリンG、第VIII因子およびアルファ-1-プロテイナーゼ阻害剤はいずれも、単離された治療用生成物として利用可能である。
【0004】
血漿または血清タンパク質の分別のために従来使用されている方法の1つは米国特許第2,390,074号明細書(特許文献1)に記載されており、該明細書には、エタノール沈殿を利用することならびに温度、pH、イオン強度および時間を調節してヒト血漿からのある特定のタンパク質の沈殿を制御することによる大規模な血漿または血清タンパク質の分別方法が開示されている。分別方法は、異なる濃縮タンパク質溶液を含むいくつもの画分および対応する上清を得るために血漿原材料に段階的にエタノールを加えることを伴う。
【0005】
エタノール沈殿法は、一部のタンパク質はエタノールの存在下で変性する傾向があり、単離すべきタンパク質の収率の減少および許容される治療用生成物を得ることができる前に除去する必要がある凝集物による汚染を結果としてもたらすという欠点を抱えている。さらには、沈殿したタンパク質はさらなる処理のために再可溶化を必要とし、これは有意なレベルの不溶性タンパク質および脂質材料に繋がり、それが最終生成物の精製を妨げて、収率のさらなる低減を結果としてもたらす。
【0006】
さらには、ヒト血清アルブミン(HSA)は特に、様々な分別方法により血漿から精製されている。アルブミンはヒト血漿中に最も豊富に存在するタンパク質であり、血清タンパク質の最大60%を構成する。治療用アルブミンは製薬ガイドラインに従うことにより配合される。規制ガイドラインの下で、配合物は、ウイルス不活性化の目的のために60±0.5℃で10.5±0.5時間の低温殺菌をした後にN-アセチルトリプトファンおよびカプリル酸塩を含有する。安定化剤としての両方の試薬の量はHSAの量に基づいて決定され、HSAタンパク質1g当たり0.08±0.016mmolに設定される。
【0007】
HSAの完全性は、カプリル酸塩/トリプトファンレジメンの存在により低温殺菌の間に維持される。カプリル酸イオンは、HSAに結合することにより非可逆的な沈殿に繋がる経路における1つの工程を阻害することにより、可逆的な部分的変性の速度を減少させると考えられている。FaroongsarngおよびKongprasertkit(2014年)は、HSAの変性温度はHSA1グラム当たり0.08mmolのNaCPの存在下で67.23℃から72.85℃に増加することを観察した。
【0008】
アルブミン単離の分野における基本概念および先行技術は、例えば、米国特許第2,705,230号明細書(特許文献2)、米国特許第3,992,367号明細書(特許文献3)、米国特許第4,156,681号明細書(特許文献4)、米国特許第5,118,794号明細書(特許文献5)、米国特許第6,022,954号明細書(特許文献6)、および米国特許第6,504,011号明細書(特許文献7)に記載されている。これらの文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0009】
米国特許第6,022,954号明細書(特許文献6)は、血漿または血漿画分のようなヒトまたは動物の生理溶液から精製されたアルブミンを調製する方法に関する。この文献は、陰イオン性界面活性剤、およびイオン交換樹脂を使用する2つのクロマトグラフィー分離ステージを使用する脱脂方法を教示する。脱脂処理は、第1のクロマトグラフィーステージからのアルブミン溶液を、安定化剤として少量のNaCPの存在下で界面活性剤と60℃で約1時間接触させることからなる。低温殺菌処理は、少なくとも10時間にわたり60℃より高い温度で溶液を加熱することからなる。
【0010】
米国特許第5,118,794号明細書(特許文献5)は、界面活性剤の添加を伴う容器中での熱処理の間のヒトアルブミンの安定化のための方法に関する。この文献は、アルブミン1g当たり0.08~0.64mmolのNaCPの量の少量のNaCPを含むpH7.0の溶液を低温殺菌することを伴う方法を開示する。この文献は、60℃で10時間の生成物の最終の低温殺菌をさらに開示する。
【0011】
米国特許第3,992,367号明細書(特許文献3)では、アルブミンの精製方法は、溶液が15%~30%の質量のNaCPからなる4.8~5.25のpHである加熱工程を伴う。米国特許第2,705,230号明細書(特許文献2)では、アルブミン単離は、50mMおよび500mMのNaCPを使用してpH8で実行された低温殺菌熱処理を伴う。
【0012】
米国特許第4,156,681号明細書(特許文献4)は、血液から血清アルブミンを分離する方法であって、血液の固体成分から血漿を分離する工程、溶解した非アルブミン成分を血漿から単離する工程、およびアルブミン安定化剤を加える工程およびそのような液体を低級脂肪族アルコールを用いて処理する工程を含む、方法に関する。方法は、アルブミン精製のために少量のNaCPを大容量の血漿に加えることおよび4.5~7.5のpHでの熱処理を実行することを伴う。
【0013】
米国特許第6,504,011号明細書(特許文献7)は、陰イオン交換吸着剤とのインキュベーション、およびその後の疎水性の固相を用いかつ水相中の脱着剤として水溶性脂質陰イオンを使用するアフィニティークロマトグラフィーにより、組換えにより製造された血清アルブミンを精製する方法に関する。この文献は、低温殺菌ステージおよびアルブミンの回収のための溶出緩衝液中のNaCPの使用を伴わないクロマトグラフィーによるアルブミン精製を教示する。
【0014】
先行する報告は、アルブミンの精製のために低温殺菌中の血漿中の総タンパク質濃度とNaCP-対-総タンパク質比との間の複雑な関係性を理解することに適していなかった。本開示の方法により達成される高い収率および純度は、回収されるアルブミンの品質および量を最大化するという利点を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】米国特許第2,390,074号明細書
【文献】米国特許第2,705,230号明細書
【文献】米国特許第3,992,367号明細書
【文献】米国特許第4,156,681号明細書
【文献】米国特許第5,118,794号明細書
【文献】米国特許第6,022,954号明細書
【文献】米国特許第6,504,011号明細書
【発明の概要】
【0016】
概要
本開示は、血漿からのアルブミンの精製のための改善された方法を記載する。
【0017】
したがって、本開示は、血漿からアルブミンを精製する方法であって、
(a)血漿をカプリル酸ナトリウム(NaCP)と接触させる工程であって、NaCPの量が、血漿中の総タンパク質1グラム当たり0.1~5mmol NaCPである、工程、
(b)血漿を60~70℃の温度で加熱する工程、および
(c)非アルブミン相からアルブミンを分離する工程
を含む、方法を提供する。
【0018】
一態様では、血漿は、工程(a)の前に20~150g/L、好ましくは45~65g/Lの総タンパク質濃度に濃縮される。
【0019】
別の態様では、NaCPの量は、総タンパク質1グラム当たり0.2~3、任意で0.5~2、任意で0.8~1.3mmol NaCPである。
【0020】
別の態様では、加えられるNaCPは、20~140mM、任意で40~100mM、任意で50~90mM、任意で60~85mMの濃度である。
【0021】
別の態様では、工程(b)における血漿の加熱は、6.0~8.0、任意で6.5~7.5、任意で6.7~7.3、任意で6.7~6.9のpHで実行される。
【0022】
別の態様では、血漿の導電率は、9mS/cm未満、任意で5mS/cm未満である。
【0023】
別の態様では、血漿の加熱は、60~70℃、任意で62~65℃の温度で、0.5~24時間、任意で2~12時間、任意で3~12時間、任意で4~6.5時間の期間にわたり実行される。
【0024】
別の態様では、工程(c)における非アルブミン相からのアルブミンの分離は、非アルブミンタンパク質および脂質不純物を沈殿させることを含む。
【0025】
別の態様では、非アルブミン相からのアルブミンの分離は、血漿を30℃より低い温度に冷却することを含む。
【0026】
別の態様では、血漿は、工程(c)において濾過され、任意で、Harborlite濾過助剤(2% w/vのH900、2% w/vのH1900)の存在下でのPall Seitz K700Pデプスフィルター、カセットを用いるタンジェンシャルフロー濾過(TFF)、または中空繊維TFFを通じて濾過され、好ましくは、中空繊維TFFを通じて濾過される。
【0027】
別の態様では、非アルブミン相からのアルブミンの分離は、血漿のpHを4.8~5.4、任意で5.1~5.3に調整することを含む。
【0028】
別の態様では、血漿のpHの調整は、酸の添加により実行される。
【0029】
別の態様では、アルブミンの精製方法は、線形に規模を拡大縮小可能であり得る。
【0030】
加えて、本開示は、タンパク質の少なくとも90%(w/w)、任意でタンパク質の少なくとも92%(w/w)、任意でタンパク質の少なくとも94%(w/w)、任意でタンパク質の少なくとも96%(w/w)、任意でタンパク質の少なくとも98%(w/w)、任意でタンパク質の少なくとも99%(w/w)のアルブミン含有量を有する回収されたアルブミン溶液を含む。
【0031】
[本発明1001]
(a)血漿をカプリル酸ナトリウム(NaCP)と接触させる工程であって、NaCPの量が、該血漿中の総タンパク質1グラム当たり0.1~5mmol NaCPである、工程、
(b)該血漿を60~70℃の温度で加熱する工程、および
(c)非アルブミン相からアルブミンを分離する工程
を含む、血漿からアルブミンを精製するための方法。
[本発明1002]
前記血漿が、20~150g/Lの濃度の総タンパク質を含む、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記血漿が、部分的に精製された血漿、クリオ プア(cryo poor)血漿、血漿中間物、血漿タンパク質の溶液、またはこれらの混合物である、本発明1001または1002の方法。
[本発明1004]
前記NaCPの量が、総タンパク質1グラム当たり0.2~3、任意で0.5~2、任意で0.8~1.3mmol NaCPである、本発明1001~1003のいずれかの方法。
[本発明1005]
前記総タンパク質が、30~100g/L、任意で35~80g/L、任意で45~65g/Lの濃度である、本発明1001~1004のいずれかの方法。
[本発明1006]
前記NaCPの量が総タンパク質1グラム当たり0.8~1.3mmol NaCPであり、該総タンパク質が45~65g/Lの濃度である、本発明1001~1005のいずれかの方法。
[本発明1007]
前記NaCPが、20~140mM、任意で40~100mM、任意で50~90mM、任意で60~85mMの濃度である、本発明1001~1006のいずれかの方法。
[本発明1008]
血漿の前記加熱が、6.0~8.0、任意で6.5~7.5、任意で6.7~7.3、任意で6.7~6.9のpHで実行される、本発明1001~1007のいずれかの方法。
[本発明1009]
加熱の間の前記血漿の導電率が、9mS/cm未満、任意で5mS/cm未満である、本発明1001~1008のいずれかの方法。
[本発明1010]
血漿の前記加熱が、60~70℃、任意で62~65℃の温度で、0.5~24時間、任意で2~12時間、任意で3~12時間、任意で4~6.5時間の期間にわたり実行される、本発明1001~1009のいずれかの方法。
[本発明1011]
血漿の前記加熱が、6.7~6.9のpH、62~65℃の温度で、少なくとも4時間の期間にわたり実行され、前記NaCPの量が総タンパク質1グラム当たり0.8~1.3mmol NaCPであり、該総タンパク質が45~65g/Lの濃度である、本発明1001~1010のいずれかの方法。
[本発明1012]
総タンパク質の濃度が水の添加により調整される、本発明1001~1011のいずれかの方法。
[本発明1013]
非アルブミン相からのアルブミンの前記分離が、非アルブミンタンパク質および脂質不純物を沈殿させることを含む、本発明1001~1012のいずれかの方法。
[本発明1014]
非アルブミン相からのアルブミンの前記分離が、前記血漿を30℃より低い温度に冷却することを含む、本発明1001~1013のいずれかの方法。
[本発明1015]
非アルブミン相からのアルブミンの前記分離が、深層濾過、カセットを用いるタンジェンシャルフロー濾過(TFF)または中空繊維TFFを通じた濾過を行うこと、好ましくは、中空繊維TFFを通じた濾過を行うことを含む、本発明1001~1014のいずれかの方法。
[本発明1016]
非アルブミン相からのアルブミンの前記分離が、血漿のpHを4.8~5.4、任意で5.1~5.3に調整することを含む、本発明1001~1015のいずれかの方法。
[本発明1017]
血漿のpHの前記調整が、酸の添加により実行される、本発明1016の方法。
[本発明1018]
前記酸が、有機酸および/または無機酸を含む、本発明1017の方法。
[本発明1019]
前記有機酸が、クエン酸、酢酸およびトリフルオロ酢酸から選択される、本発明1018の方法。
[本発明1020]
前記有機酸が酢酸である、本発明1018または1019の方法。
[本発明1021]
前記無機酸が、塩酸、硫酸およびリン酸から選択される、本発明1018の方法。
[本発明1022]
非アルブミンからのアルブミンの前記分離が、1m 2 当たり1~10L/分、任意で1m 2 当たり2~10L/分、任意で1m 2 当たり3~10L/分、任意で1m 2 当たり8~9L/分のフィード流量での濾過を含む、本発明1015~1021のいずれかの方法。
[本発明1023]
線形に規模を拡大縮小可能であり得る、本発明1001~1022のいずれかの方法。
[本発明1024]
タンパク質の少なくとも90%(w/w)、任意でタンパク質の少なくとも92%(w/w)、任意でタンパク質の少なくとも94%(w/w)、任意でタンパク質の少なくとも96%(w/w)、任意でタンパク質の少なくとも98%(w/w)、任意でタンパク質の少なくとも99%(w/w)のアルブミン含有量を含む、本発明1001~1023のいずれかの方法により回収されたアルブミン溶液。
本開示の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。しかしながら、詳細な説明および特定の例は、本開示の好ましい態様を指し示すが、それは説明のためにのみ与えられることが理解されるべきであり、本開示の精神および範囲内で様々な変更および改良がこの詳細な説明から当業者に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
これより本開示を図面との関連で説明する。
【0033】
図1図1は、各精製工程後のHSAの純度および回収の図解を示す。
図2図2は、加熱された試料のサイズ排除クロマトグラフィーのクロマトグラムを示す。
図3図3は、非還元SDS-PAGEゲルを示す。
図4図4は、低温殺菌時間の関数としてHSA純度を示す。
図5図5は、各低温殺菌時間におけるPAS2試料のサイズ排除クロマトグラフィーのクロマトグラムを示す。
図6図6は、非還元SDS-PAGEゲルを示す。
図7図7は、各精製工程後のHSAの純度および回収の図解を示す。
図8図8は、各処理工程後のPAS1試料のサイズ排除クロマトグラフィーのクロマトグラムを示す。
図9図9は、非還元および還元SDS-PAGEゲルを示す。
図10図10は、各処理後のHSAの純度を示す。
図11図11は、サイズ排除クロマトグラフィーのクロマトグラムの重ね合わせ図を示す。
図12図12は、各精製工程後のHSAの純度および回収の図解を示す。
図13図13は、各精製工程後の試料のサイズ排除クロマトグラフィーのクロマトグラムを示す。
図14図14は、SDS-PAGEゲル、8%のInvitrogen Gel(200V×22分)を示す。
図15図15は、HSAのウエスタンブロッティングを示す。
図16図16は、各精製工程後の試料のサイズ排除クロマトグラフィーのクロマトグラムを示す。
図17図17は、試料のサイズ排除クロマトグラフィーのクロマトグラムを示す。
図18図18は、非還元条件下での7.5%のInvitrogen Gel(200V×22分)でのウエスタンブロットを示す。
図19図19は、SDS-PAGEゲル、7.5%のInvitrogen Gel(200V×22分)を示す。
図20図20は、異なる電導率の試料のサイズ排除クロマトグラフィーのクロマトグラムを示す。
図21図21は、異なる酸を用いてpH調整した試料のサイズ排除クロマトグラフィーのクロマトグラムを示す。
図22図22は、異なる電導率の試料の純度および回収プロファイルを示す。
図23図23は、pH調整において異なる酸を使用した試料の純度および二量体形成プロファイルを示す。
図24図24は、還元されたSGS-PAGEゲルを示す。
図25図25は、PAS3試料を含む異なる試料からの試料の純度、二量体および凝集物形成プロファイルを示す。
図26図26は、7.5%のゲルおよび還元条件下のSDS-PAGEを示す。
図27図27は、試料の純度、二量体および凝集物形成プロファイルを示す。
図28図28は、試料の非還元および還元ゲルを示す。
図29図29は、SEC HPLCの重ね合わせ図を示す。
図30図30は、SEC HPLCの重ね合わせ図を示す。
図31図31は、SDS-PAGEゲルで回収されたHSA純度を示す。
図32図32は、HSA回収に対する低温殺菌の間の総タンパク質濃度([TP])およびNaCP-対-総タンパク質比の効果を図解する輪郭プロットを示す。
図33図33は、HSA純度に対する低温殺菌の間の総タンパク質濃度([TP])およびNaCP-対-総タンパク質比の効果を図解する輪郭プロットを示す。
図34図34は、低温殺菌の間の材料中の(A)総タンパク質濃度([TP])および(B)NaCP-対-総タンパク質比に関するHSA回収についての標準化効果のパレート図を示す。
図35図35は、低温殺菌の間の材料中の(A)総タンパク質濃度([TP])および(B)NaCP-対-総タンパク質比に関するHSA純度についての標準化効果のパレート図を示す。
図36図36は、焦点を当てたパラメーターについての最適な操作領域を指し示すHSA回収および純度の重ね合わせ輪郭プロットを示し、実行不可能な領域を灰色で指し示している。
【発明を実施するための形態】
【0034】
詳細な説明
血漿中の総タンパク質濃度および総タンパク質1グラム当たりのNaCPの量に依存する濃度のNaCPを中性付近のpHで使用した後、冷却させかつ低温殺菌された血漿のpHを減少させることによりアルブミンおよび非アルブミン相を分離することにより、血漿および部分的に分画された血漿からHSAを精製した。エタノールまたは大規模な処理工程の使用なしで精製方法を実行した。最終の回収されたHSAは、並外れた純度で高い収率である。
【0035】
したがって、本開示は、血漿からアルブミンを精製する方法であって、
(a)血漿をカプリル酸ナトリウム(NaCP)と接触させる工程であって、NaCPの量が、血漿中の総タンパク質1グラム当たり0.1~5mmol NaCPである、工程、
(b)血漿を60~70℃の温度で加熱する工程、および
(c)非アルブミン相からアルブミンを分離する工程
を含む、方法を提供する。
【0036】
別に指し示さない限り、このセクションおよび他のセクションに記載される定義および態様は、当業者により好適であると理解されるであろう本明細書に記載される全ての態様および本開示の局面に適用できることが意図される。
【0037】
本開示の範囲の理解において、「含む」(comprising)という用語およびその派生形は、本明細書で使用される場合、記載された特性、構成要素、成分、基、整数、および/または工程の存在を特定するが、他の記載されていない特性、構成要素、成分、基、整数、および/または工程の存在を除外しないオープンエンドの用語であることを意図する。以上はまた、「含む」(including)、「有する」およびそれらの派生形といった用語のような類似の意味を有する語に適用される。「からなる」という用語およびその派生形は、本明細書で使用される場合、記載された特性、構成要素、成分、基、整数、および/または工程の存在を特定するが、他の記載されていない特性、構成要素、成分、基、整数、および/または工程の存在を除外する閉じた用語であることを意図する。「本質的になる」という用語は、本明細書で使用される場合、記載された特性、構成要素、成分、基、整数、および/または工程の他に、特性、構成要素、成分、基、整数、および/または工程の基本的かつ新規の特徴に実質的に影響しないものの存在を特定することを意図する。
【0038】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、内容が明らかにそうでないことを規定しない限り、複数の指示対象を含む。「追加の」または「第2の」成分を含む態様では、本明細書で使用される第2の成分は、他の成分または第1の成分と異なる。「第3の」成分は、他の、第1、および第2の成分と異なり、さらに数え上げられたまたは「追加の」成分は同様に異なる。
【0039】
そうでないことを何ら指し示さなければ、本明細書の全体を通じて「%」での含有量への言及は、% w/v(質量/体積)を意味するものとして解釈されるべきである。
【0040】
本明細書で使用される場合、「精製された」という用語およびその派生形は、血漿、分画された血漿、クリオ プア(cryo poor)血漿、血漿中間物、血漿タンパク質の溶液、またはこれらの混合物中に存在する他の一般的な成分から精製されていることを意味する。例えば、精製されたアルブミンは、血漿 分画された血漿、クリオ プア血漿、血漿中間物、血漿タンパク質の溶液、またはこれらの混合物中に存在する他のタンパク質、核酸、脂質および小代謝物から精製されている。精製されたアルブミンは、血漿、部分的に分画された血漿、クリオ プア血漿、血漿中間物、血漿タンパク質の溶液、またはこれらの混合物中に存在する他のタンパク質、核酸、脂質、または小代謝物から、質量として、少なくとも60%純粋であり、任意で、少なくとも75%、80%、85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%またはさらには100%純粋である。
【0041】
本明細書で使用される場合、「血漿」という用語およびその派生形は、部分的に分画された血漿、クリオ プア血漿、血漿中間物、血漿タンパク質の溶液、またはこれらの混合物を含む。部分的に分画された血漿、クリオ プア血漿、血漿中間物、血漿タンパク質の溶液、またはこれらの混合物を得る方法は、当業者に容易に明らかとなる。例えば、部分的に分画された血漿は、Seitz(登録商標)EK1フィルター(0.45~0.65μm)を通じた濾過から調製されてもよい。
【0042】
本開示の方法は、原理的に、ヒト、非ヒト霊長動物、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ロバ、イヌ、ネコ、ウサギ、齧歯動物、ハムスター、モルモットおよび家禽に由来するアルブミンのような任意の公知のアルブミンを精製するために使用されてもよい。
【0043】
血漿中の総タンパク質は、NaCPの添加の前に濃縮させることができる。濃縮は、水または当業者に公知の任意の好適な緩衝液の添加などの当該技術分野において公知の技術を使用して行うことができる。NaCPは、好ましくは6.6~7.2のpH範囲、最も好ましくは6.7~6.9のpH範囲で血漿に加えられる。
【0044】
血漿中の総タンパク質を調節することは重要である。特に、血漿中の総タンパク質は、少なくとも20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、または70g/L、および多くて45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、または150g/Lのような20~150g/Lの濃度であるべきである。特定の態様では、総タンパク質は、35~80g/L、または45~65g/Lの濃度である。
【0045】
使用されるNaCPの量の調節は、方法の重要な局面である。特に、NaCPの量は、血漿中の総タンパク質1グラム当たり0.1~5mmol NaCP、例えば、血漿中の総タンパク質1グラム当たり少なくとも0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.65、0.66、0.67、0.68、0.69、0.7、0.75、0.8、0.85、0.9、0.95、1、1.1、1,05、1.15、1.2、1.3または1.4mmol NaCP、および血漿中の総タンパク質1グラム当たり多くて0.9、0.95、1、1.05、1.1、1.15、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.8、2、2.5、3、3.5、4または5mmol NaCPである。特定の態様では、NaCPの量は、血漿中の総タンパク質1グラム当たり0.2~3、0.5~2、または0.8~1.3mmol NaCPである。値は、質量、モル量、モル濃度などの濃度、またはこれらの組合せに関して変換および表現され得ることが当業者に容易に明らかとなる。
【0046】
別の態様では、NaCPは、少なくとも20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、80、または85mM、および多くて65、70、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、または140mMのような20~140mMの濃度で加えられる。特定の態様では、NaCPは、40~100mM、50~90mM、または60~85mMの濃度である。
【0047】
NaCPを加えた後、血漿は熱処理または低温殺菌される。血漿の低温殺菌または加熱処理は、少なくとも60、61、62、63、64、65、66、または67℃、および高くて64、65、66、67、68、69、または70℃のような60~70℃の温度で実行される。特定の態様では、血漿の低温殺菌または加熱処理は、60~65℃、または62~65℃の温度で実行される。温度を調節する方法は当業者には容易に明らかであり、例えば低温殺菌器を使用することにより行われる。
【0048】
血漿の低温殺菌または加熱処理は、好ましくは、少なくとも6.0、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9または7.0および高くて6.7、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.5または8.0のような6.0~8.0のpHで実行される。特定の態様では、血漿の低温殺菌または加熱処理は、6.5~7.5、6.7~7.3、または6.7~6.9のpHで実行される。
【0049】
血漿の導電率もまた、方法における重要な因子であり得る。一態様では、導電率は、9、8、7、6、5、4、3、2または1mS/cm未満である。血漿の導電率は、電気導電率(EC)計により測定されてもよい。
【0050】
血漿の低温殺菌または加熱処理は、好ましくは、少なくとも0.5、1、2、3、4、5または6時間、および長くて5、6、6.5、7、8、9、10、11、12、16、20または24時間のように、0.5~24時間にわたり実行される。特定の態様では、血漿の低温殺菌または加熱処理は、0.5~12時間、2~12時間、3~12時間、または4~6.5時間の期間にわたり実行される。
【0051】
特定の態様では、血漿の低温殺菌または加熱処理は、62~65℃の温度で、4~6.5時間の期間にわたり実行される。
【0052】
特定の態様では、血漿の低温殺菌または加熱処理は、6.7~6.9のpH、62~65℃の温度で、少なくとも4時間の期間にわたり実行され、NaCPの量は総タンパク質1グラム当たり0.8~1.3mmol NaCPであり、総タンパク質は45~65g/Lの濃度である。
【0053】
工程(c)において、アルブミンは、血漿中の非アルブミンタンパク質から分離される。非アルブミン相からのアルブミンの分離は、非アルブミンタンパク質および脂質不純物を沈殿させることを伴う。特定の態様では、非アルブミン相からのアルブミンの分離は、低温殺菌された血漿を30℃より低い温度に冷却することを伴う。
【0054】
別の態様では、非アルブミン相からのアルブミンの分離は、血漿のpHを、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3または5.4のように、4.8~5.4に調整することを伴う。特定の態様では、非アルブミン相からのアルブミンの分離は、pHを4.9~5.3、任意で5.1~5.3に調整することを伴う。Celpure(登録商標)P1000、Celpure(登録商標)P300、またはこれらの組合せのような濾過助剤を濾過(すなわち、濾過を通じた非アルブミンからのアルブミンの分離)の前に低温殺菌された血漿に加えるなど、分離工程のために濾過助剤を用いることは当業者に容易に明らかとなるであろう。
【0055】
1つの局面では、非アルブミンからのアルブミンの分離は、デプスフィルター、カセットを用いるタンジェンシャルフロー濾過(TFF)、または中空繊維TFFにより実行することができる。中空繊維クロスフローフィルターは、濁った液体と共に使用するために理想的でありかつ40%(v/v)までの固体濃度を処理できるオープンチャネルのデバイスである。中空繊維フィルターは、粒子/コロイド/細胞、または粘性もしくは濃縮時に粘性となる液体のレベルのばらつきの影響を受けにくい。これらのフィルターは、多くの場合、フィルターからの生成物の回収が重要な場合(例えば、ワクチンの処理)に選択される。中空繊維フィルターは、滑らかかつ妨害されない内部流路を有するので、フィルターからの生成物の回収のために理想的である。それらは異なる流路幾何形状において利用可能である(名目上の繊維直径は0.5~1.75mmの内径(ID)、名目上の繊維長さのオプションは30、60または110cmの長さ)。中空繊維TFFの可変性は、非アルブミンからアルブミンを分離するために選択的に使用され得ることを当業者は理解するであろう。
【0056】
カセットは、最も多くの場合、「透明な」低い粘性の液体の濃縮およびダイアフィルトレーションのために使用される。スクリーン型乱流促進物質の使用は、膜表面における溶質の脱分極を増進させ、試料フラックスを増加させる。同じ処理条件、孔径およびフィルター面積の下で、カセットは、中空繊維フィルターの2倍までのフラックスを有し得る。しかしながら、カセットは、スクリーンスペーサーの「詰まり」/圧力低下に起因して、粒子を含有する溶液、コロイド懸濁液または高い粘性を有するものに対しては好適でない。
【0057】
一態様では、非アルブミンからのアルブミンの分離は、デプスフィルター、カセットを用いるタンジェンシャルフロー濾過(TFF)、または中空繊維TFFによる、好ましくは、中空繊維TFFによる、濾過または清澄化を含む。一態様では、デプスフィルター、カセットを用いるTFF、または中空繊維TFFによる非アルブミン相からのアルブミンの分離は、4.8~5.4、任意で5.1~5.3のpHで実行される。別の態様では、濾過または清澄化を通じた非アルブミンからのアルブミンの分離は、1m2当たり1、2、3、4、または5から6、7、8、9、または10L/分まで、任意で1m2当たり1~10L/分、任意で1m2当たり2~10L/分、任意で1m2当たり3~10L/分、任意で1m2当たり8~9L/分のフィード流量で実行される。別の態様では、濾過または清澄化を通じた非アルブミンからのアルブミンの分離は、1x~1.2xの初期容量低減濃縮、好ましくは1.2x、および3~4ダイア容量(diavolume)、好ましくは4ダイア容量を用いて実行される。一態様では、非アルブミンからのアルブミンの分離は濾過を含み、または清澄化は、4.8~5.4、任意で5.1~5.3のpHで、1m2当たり3~10L/分、任意で1m2当たり8~9L/分のフィード流量で、中空繊維TFFを用いて実行される。特定の態様では、非アルブミンからのアルブミンの分離は濾過を含み、または清澄化は、4.8~5.4、任意で5.1~5.3のpHで、1m2当たり3~10L/分、任意で1m2当たり8~9L/分のフィード流量で、1x~1.2x、任意で1.2xの初期容量低減濃縮、および3~4ダイア容量、任意で4ダイア容量で、中空繊維TFFを用いて実行される。
【0058】
血漿のpHの調整は、有機酸および/または無機酸のような酸の添加により実行されてもよい。特定の態様では、有機酸は、クエン酸、酢酸およびトリフルオロ酢酸から選択される。別の特定の態様では、有機酸は酢酸である。さらなる態様では、無機酸は、塩酸、硫酸およびリン酸から選択される。
【0059】
血漿は、Harborlite濾過助剤(2% w/vのH900、2% w/vのH1900)の存在下でPall Seitz K700Pデプスフィルターを通じて濾過することができる。結果として得られたアルブミン溶液の純度を評価する方法は当業者に容易に明らかとなる。例えば、サイズ排除クロマトグラフィー-HPLC(SEC-HPLC)またはキャピラリー電気泳動-SDS(CE-SDS)分析を実行してアルブミンの純度を評価してもよい。
【0060】
アルブミンの精製方法は、少なくとも40、50、60、70、75、80、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98または99%のアルブミンを血漿から回収する。
【0061】
別の態様では、アルブミンの精製方法は、線形に規模を拡大縮小可能であり得る。
【0062】
加えて、本開示は、本明細書に開示される方法により得られるタンパク質の少なくとも90%、92%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または99.9%(w/w)のアルブミン含有量を有するアルブミン溶液を含む。
【0063】
以下の非限定的な実施例により本開示を説明する。
【実施例
【0064】
実施例1
材料
出発溶液:血漿、部分的に分画された血漿(例えば、コーン分別または拡張床吸着クロマトグラフィー(expanded bed adsorption chromatography)のいずれかを使用したIgG欠損血漿)。
【0065】
NaCP:カプリル酸ナトリウム、0.6Mのストック溶液、pH7.5;酸:0.5M~1Mのストック溶液;P300:Celpure(登録商標)P300濾過助剤;P1000:Celpure(登録商標)P1000濾過助剤;NaOH:1Mのストック溶液;水:WFI;pH計:Mettler Toledo;デプスフィルター:Pall Seitz(登録商標)K700デプスフィルター;およびガラス繊維フィルター:Pall Seitz(登録商標)(10μm)。
【0066】
NaCPの存在下でのカラムD FT+W濃縮物の低温殺菌
カラムD FT+W濃縮溶液をNaCPと混合し、pH7に調整した後、60℃に加熱した。加熱した溶液を室温まで冷却した後、クエン酸を使用してpHを5.2に調整した。
【0067】
総タンパク質濃度(060716 SPTFF-2)を約1.1mMと想定した。アルブミンの割合はSEC HPLCにより約75%の面積であり、他のタンパク質の割合は明確に特定できなかったが不純物はほとんどが100kDa~1,500kDaのより高い分子量であるので、アルブミンの分子量(66,500Da)を使用することにより総タンパク質濃度を推定した。総タンパク質濃度(73g/L)を66,500g/molで割り、1.1mMの値を得た。
【0068】
NaCPの試験した濃度は、それぞれ、10、20、40および70mMのNaCPであった。総タンパク質およびNaCPの実際の濃度は、NaOH溶液を用いて溶液のpHを調整したので、低温殺菌の間に希釈された。クエン酸を用いる5.2へのpH調整は、65℃での4時間の低温殺菌後に行った。試料の調製を表1に要約する。実験の結果は、SEC HPLC分析に基づいてHSAの純度として表した(表2および表3、ならびに図1および図2)。図2は、より高分子量の不純物がリポソームまたはミセルの形成後に凝集物の保持時間(13分)をシフトさせたことを示す。脂質の量はpH調整後に低減された(表4)。65℃で4時間低温殺菌された試料のゲル分析も行った(図3)。
【0069】
(表1)NaCPの存在下でのカラムD FT+Wの低温殺菌の実験の設計
【0070】
(表2)NaCP/総タンパク質の比
【0071】
(表3)HSAの純度
【0072】
(表4)脂質分析の結果
【0073】
結論
低温殺菌の間のNaCPの存在は、カラムD FT+W濃縮物からより高分子量の不純物を除去した。脂質濃度は、低温殺菌された試料のpH調整後に10倍より大きく減少した。NaCP濃度の増加は、溶液からより多くの脂質を低減させた。顕著なことに、NaCP/TPの比が増加するにつれてHSAの純度も増加した。最良の純度は70mMのNaCPから得られた(NaCP/TP=63.6)。純度は、溶液の低温殺菌後に75%から91%に増加した。5.2へのpH調整は、不純物を沈殿させ、98.7%より高くまで純度を増加させた。NaCP量の増加もまた、純度を増加させた。
【0074】
実施例2
NaCPの存在下でのカラムD FT+W濃縮物の低温殺菌 - NaCP濃度の増加および可変の低温殺菌時間
pH調整前の溶液中で50、70および90mMのNaCPの最終濃度までのNaCPの3つの異なる濃度を使用した。次いで、溶液をpH7に調整した後、60~65℃で低温殺菌した。50mMおよび90mMのNaCP条件の低温殺菌は4時間であり、次いでクエン酸を用いてpHを調整した。70mMのNaCP条件をpH調整の0.5、1、2および4時間前にアリコート化した。
【0075】
総タンパク質濃度(060716 SPTFF-2)を約1.1mMと想定した。NaCP/総タンパク質の比は、50、70および90mMのNaCPについてそれぞれ45.5、63.6および81.8であった。試料の調製を表5および表6に要約する。実験の結果は、SEC HPLC分析に基づいてHSAの純度として表した(表7、ならびに図4および図5)。表7は、pH調整をより高いpHで停止させた場合、不完全な沈殿が起こり得ることを示す(サブ番号5:4時間、pH5.4を参照)。図5は、より高いpH(5.4)において、4時間の低温殺菌でのpH5.2と比較してより多くの不純物が残留したことを示す。試料のゲル分析も行った(図6)。NaCPの濃度が増加するにつれて、55kDaのバンドは消失した(レーン12)。pH調整の前後の比較は、凝集物およびより高分子量の不純物の除去を示した。
【0076】
(表5)固定した総タンパク質濃度に対する3つの異なるNaCP濃度の実験
クエン酸を用いてpHを調整した。
【0077】
(表6)NaCP/総タンパク質の比
【0078】
(表7)HSAの純度に対する低温殺菌時間の効果の結果
【0079】
結論
NaCP-対-総タンパク質(TP)比は、NaCP/TP比が増加した時にHSAの純度も増加することを示した。最も高い純度は、90mMのNaCPから得られた(NaCP/TP=81.8)。高純度のHSAを回収するための最短の低温殺菌期間は少なくとも4時間であった。低温殺菌後の5.2へのpH調整もまた純度を増加させた。pH調整を5.4で停止した場合、結果として得られるHSA純度はより低かった。
【0080】
実施例3
NaCP-対-総タンパク質比 - 固定された濃度の総タンパク質に対する3つのNaCP濃度
pH調整前の溶液中で70、90および110mMのNaCPの最終濃度に対して3つの異なるNaCPの濃度を使用した。次いで、溶液をpH7に調整した後、60~65℃で低温殺菌した。アリコートを3時間および6時間の時点で採取し、クエン酸を用いてpHを5.2に調整した。遠心分離の前に、pH調整した試料をP-1000濾過剤(最終0.7%)と混合した。
【0081】
総タンパク質濃度(071316 SPTFF-2)は約1.8mMと想定した。NaCP/総タンパク質の比は、70、90および110mMのNaCPについて、それぞれ、39、50および61であった。試料の調製を表8および表9に要約する。実験の結果は、SEC HPLC分析に基づくHSAの純度として表した(表10、ならびに図7および図8)。表9(図7の結果も参照)に示すように、PAS1は70mMのNaCP、PAS2は90mMのNaCP、PAS3は110mMのNaCPである。図9は、NaCPの濃度が増加するにつれて、70kDaのバンドが消失したことを示す(レーン8および10)。pH調整後に濾過助剤を用いる濾過の前後の比較は、凝集物およびより高分子量の不純物の除去を示した。
【0082】
(表8)固定した総タンパク質濃度に対する3つの異なるNaCP濃度の実験の設計
【0083】
(表9)NaCP/総タンパク質の比
【0084】
(表10)HSAの純度
【0085】
結論
NaCP-対-総タンパク質(TP)比が増加するにつれて、HSAの純度は増加した。最も高い純度は、110mMのNaCP(NaCP/TP比:61)から得られた。HSA純度は、溶液の低温殺菌後に77~78%から94%に増加した。低温殺菌後に5.2にpH調整することにより、HSA純度は98%より高くなることが示された。低温殺菌は、3時間程度の早さで完了させてもよい。濾過助剤の添加もまた純度を増加させた。
【0086】
実施例4
低温殺菌の間の2つの異なるpH
90mMのNaCPを用いて2つの溶液を調製した。次いで、溶液をpH7および7.3に調整した後、60~65℃で低温殺菌熱処理を行った。6.5時間後に低温殺菌を停止させ、試料を回収した後、クエン酸を使用してpH5.2に調整した。pH調整試料の一部を回収し、残りの試料を遠心分離し、上清を回収した後、7に調整した。各ステージ後、すなわち、低温殺菌後、5.2への第1のpH調整後、および7への第2のpH調整後にHSAの純度を評価した。
【0087】
NaCP/TPの比は両方の試料について50であった。試料の調製を表11に要約する。実験の結果は、SEC HPLC分析に基づくHSAの純度として表した(表12、ならびに図10および図11)。HSAの回収は、溶液の希釈係数を考慮して算出した。
【0088】
(表11)実験の設計
【0089】
(表12)SEC HPLC分析に基づく面積の%としてのHSAの純度
【0090】
結論
低温殺菌の間のより高いpHは、わずかにより高いHSAの純度をもたらした。しかしながら、遠心分離された溶液の上清のpHを7に戻すように調整した場合、純度は低下した。HSAの回収は100%である。6.5時間までの低温殺菌時間は純度の低下を引き起こさなかったことが分かる。
【0091】
実施例5
3つの異なる総タンパク質濃度および4つの異なるNaCP/TP比
6つの溶液を表13に示す通りに調製した。出発溶液を半分および4分の1に希釈することにより試験総タンパク質濃度を120、60および30mg/mLとした。NaCPの濃度は、表13に示す総タンパク質および実験の設計に基づいて決定した。実験は、HSAの回収に対する総タンパク質濃度およびNaCP/TP比の効果を調べるための設計である。
【0092】
(表13)実験の設計
【0093】
低温殺菌を4時間後に停止し、クエン酸を使用してpHを5.2に調整した。pH調整した試料を分析のために遠心分離した。
【0094】
実験の結果は、SEC HPLC分析に基づくHSAの純度として表した(表14、ならびに図12および図13)。図12のX軸において、PAS#の後の数はNaCP/TP比である。PAS1は120mg/mL、PAS2~PAS5は60mg/mL、PAS6は30mg/mLの総タンパク質で試験した。図13において、試料は、異なるNaCP濃度の60mg/mLの総タンパク質であった。PAS2は80mMのNaCP、PAS3は67.5mMのNaCP、PAS4は55mMのNaCP、PAS5は40mMのNaCPであった。試料のゲル分析を行った(図14)。HSAの存在をウエスタンブロッティングにより確認した(図15)。HSAの回収は希釈係数を考慮して算出した。
【0095】
(表14)SEC HPLC分析に基づく面積の%としてのHSAの純度
【0096】
結論
最良の結果は、60mg/mLのTPおよび60~75のNaCP/TP比で得られた。TP濃度が120mg/mLの場合、純度および回収は減少した。60mg/mLのTPで、より高いNaCP/TP比(89)は、不良な純度、不良な回収およびより多くの二量体をもたらした。より低いNaCP/TP比(44)は不良な純度をもたらしたが、100%のHSA回収であった。30mg/mLのTPで、純度は高かったが回収は不良であった。これは、不充分な量のNaCPは、沈殿により凝集物を除去できない可能性を示す。さらに、余剰量のNaCPは、より多くの二量体形成を引き起こした可能性がある。
【0097】
実施例6
2つの異なる総タンパク質濃度およびpHを調整するための2つの異なる酸
4つの溶液を表15の通りに調製した。出発溶液を60および80mg/mLに希釈した。NaCPの濃度を総タンパク質量および72のNaCP/TP比に基づいて決定した。実験は、HSAの回収に対する総タンパク質濃度、処理容量、低温殺菌後のpH調整のための酸の種類の影響力の効果について試験する。
【0098】
(表15)実験の設計
【0099】
低温殺菌を4時間後に停止し、クエン酸またはリン酸を使用して溶液のpHを5.2に調整した。pH調整した試料を濾過助剤(P-1000)と混合した。分析試料を遠心分離し、バルクを100mLスケールの試料についてはデプスフィルター、10mLスケールの試料についてはガラス繊維フィルターを通じて濾過した。
【0100】
100mLスケールの試料はP-1000の添加後に131mLになった。混合物を予め湿らせたK700(60mm、Pendo Tech濾過管に取り付けた。WFIを用いて予め湿らせた。膜は8mLの容量を保持する)により濾過した。80mLの濾液が回収されるまで10psiで圧力を適用した後に濾液を回収した後、残りの容量について35psiで圧力を適用した。フィルターを30mMのクエン酸ナトリウム16mL、pH5.2によりチェイスした。
【0101】
10mLスケールの試料を、(WFIを用いて)予め湿らせたガラス繊維フィルターに負荷した。8mLの試料を負荷した後に各濾過を行った。チェイシングは行わなかった。
【0102】
深層濾過およびガラス繊維濾過の両方は透明な溶液をもたらした。
【0103】
実験の結果は、SEC HPLC分析に基づくHSAの純度として表した(表16ならびに図16および図17)。PAS#-1は5.2へのpH調整前の試料である(図16)。図16の挿入図は、試料のクロマトグラムの比較である:PAS#-2は5.2へのpH調整を表し、PAS#-3はP1000の添加を表す。PAS2試料は、クエン酸で処理した60mg/mLのTPおよび65mMのNaCP(NaCP/TP=72)からのものである。PAS3試料は、クエン酸で処理した80mg/mLのTPおよび87mMのNaCP(NaCP/TP=72)からのものである。PAS4試料は、リン酸で処理した80mg/mLのTPおよび87mMのNaCP(NaCP/TP=72)からのものである。PAS#-3試料は、P1000の添加およびその後の遠心分離により処理した(図17)。PAS1~3濾過試料は、P1000の添加およびその後の濾過により処理した。HSAの回収は、溶液の希釈係数を考慮して算出した。結果として得られた溶液はまた、二量体およびオリゴマーのようなHSA関連タンパク質の探索でSDS-PAGEゲルおよびウエスタンブロットにより分析した。図18のウエスタンブロットに見られるように、標準物質からは見られないバンドが存在した。ゲルを図19に示す。
【0104】
(表16)SEC HPLC分析に基づく面積の%としてのHSAの純度
【0105】
結論
この実施例では、NaCP/TP比を72に固定し、これは60~75であった。PAS1はPAS2の10倍のスケールアップであり、この10倍のスケールアップは、純度および回収に差がないことを示した。60mg/mL(PAS1およびPAS2)および80mg/mLのTP(PAS3およびPAS4)の両方はよく機能したので、TP濃度範囲を60~80mg/mLのTPに設定することができる。有機酸(PAS3)および無機酸(PAS4)の両方は、生成物の完全性を犠牲にすることなくpHを調整するために機能した。濾過助剤(P1000)の添加は、生成物の完全性に対して影響力を有しなかった。HSA回収は、フィルターの不完全なチェイシングに起因してスケールアップ試料を除いて100%に近かった。
【0106】
実施例7
導電率の効果、酸の影響および濾過助剤の量
溶液を表17の通りに調製した。出発溶液を60および80mg/mLに希釈した。NaCPの濃度を総タンパク質の量に基づいて決定し、NaCP/TP比を72に調整した。実験は、HSAの濾過性、回収および純度に対する低温殺菌の間の塩濃度(導電率)の効果、酸の種類の影響力、および濾過助剤の効果を試験する。
【0107】
(表17)低温殺菌の実験の設計
【0108】
2、5、10、20および50mS/cmの導電率の効果について試験するために試料を調製した。導電率が既知でない状態で塩溶液を加えて導電率を生成させた。溶液の最終の電導率は、5、9、14、27および47mS/cmであった(PAS1~PAS5)。低温殺菌を4時間後に停止し、クエン酸を使用してpHを5.2に調整した。pH調整した試料を1%の最終濃度までP-1000と混合した。分析試料を遠心分離し、バルクをデプスフィルターを通じて濾過した。
【0109】
5つの10mLのアリコートをPAS6から調製した。塩酸、硫酸、酢酸およびトリフルオロ酢酸を使用して各アリコートのpHを5.2に調整し、残りの容量をクエン酸を用いて調整した(PAS6~PAS10)。各pH調整したアリコートを1%の最終濃度までP1000と混合した。分析試料を遠心分離し、バルクをデプスフィルターを通じて濾過した。
【0110】
4つの10mLのアリコートをPAS10から調製した。各アリコートを表18に記載される通りに濾過助剤と混合した。分析試料を遠心分離し、バルクをデプスフィルターを通じて濾過した。
【0111】
(表18)pH調整および濾過助剤の量の効果について試験するための実験の設計
【0112】
濾過のために、予め湿らせたK700(WFIを用いて45mmのディスクを予め湿らせ、フィルターホルダーに取り付けた。有効フィルター面積は35mmからの9.6cm2であった)に溶液を負荷した。圧力計を用いて20mLのシリンジに溶液を充填した。
【0113】
実験の結果をSEC HPLC分析に基づくHSAの純度として表した(表19ならびに図20、21、22および23)。図24は、異なる酸処理後のタンパク質プロファイルを示し、酸処理試料をレーン6~10とした。HSAの回収は、溶液の希釈係数を考慮して算出した。
【0114】
(表19)SEC HPLC分析に基づく面積の%でのHSAの純度
【0115】
結論
この実施例において使用したNaCP/TP比は72であった。導電率が増加するにつれて二量体形成は増加し、HSA単量体の割合は減少した。無機酸および有機酸の両方は、NaCPおよび不純物の共沈殿物を沈殿させるためによく機能した。酸の種類は単離されるHSAの純度に影響を及ぼすことが発見され、酸が強酸の場合により多くの二量体形成が起こる。二量体形成は、トリフルオロ酢酸(TFA)>塩酸>硫酸>クエン酸>酢酸の順序であることが分かる。それゆえ、酢酸によるpHの調整は、最小量の二量体形成に繋がる。酸による沈殿が完了すると、濾過助剤の量は、純度および二量体形成を増加も減少もさせない。
【0116】
実施例8
NaCPの存在下での血漿の低温殺菌 - EK1濾液からの調製
NaCPの存在下60℃での濃縮溶液の低温殺菌後にカラムD FT+W濃縮物からのHSAの精製に成功した。ここで我々は、上流の試料を用いて同じ成功を達成できるかどうかを調べた。カラムA FT+WをEK1フィルターにより濾過し、これは血漿分別について1回目のカラム分別工程であった。EK1濾液を濃縮した(082316 ILC)。EK1濾液濃縮物を用いる部分的な低温殺菌作業を、同じインキュベーション時間および同じ温度でカラムD FT+W濃縮物と並行して行った。濃縮したEK1に104mMの最終濃度までNaCP溶液(0.6M)を加えた後、pHを7に調整し、試料を64℃で4時間加熱した。SEC HPLCおよびSDS-PAGEゲルにより試料を分析した。pH5.2の溶液の上清は、HSAの純度は98.7%であり、より高分子量のタンパク質は検出不可能であることを示した。
【0117】
低温殺菌後の試料を1Mの酢酸を用いて処理してpHを5.2に低下させた。SECクロマトグラフィーにより試料を分析し、重ね合わせ図にプロットした(表20および21、ならびに図25)。図25において、PAS1およびPAS2はカラムD FT+W試料からのものであり、PAS3はEK1試料からのものである。PAS#-1は低温殺菌後、PAS#-2はpH5.2の後、PAS#-3は濾過助剤の添加後の試料である。「A」と記した領域は、他の2つの試料からは観察されなかった不純物を指し示す。SDS-PAGEゲル分析も行った(図26)。
【0118】
(表20)低温殺菌の実験の設計
【0119】
(表21)低温殺菌後の試料の説明
【0120】
結論
この実施例は、カラムA精製血漿画分からHSAを精製できることを示す。したがって、カラムA工程とカラムD工程との間の中間画分ステージであるカラムC FT+Wから高度に純粋なHSAを回収することが実行可能であり得る。
【0121】
実施例9
NaCPの存在下での血漿の低温殺菌 - カラムC FT+Wからの調製
カラムC FT+Wは、血漿分別のための2回目のカラム分別工程である。ここで、カラムC FT+Wプール(Col C FT+W)を濃縮した(091916 ILC)。カラムC FT+W濃縮物を用いる部分的な低温殺菌を、ジャケット付きガラスビーカー中300mLスケールで行った。濃縮したカラムC FT+W(71mg/mL)に74mMの最終濃度までNaCP溶液(0.6M)を加えた後、pHを7に調整し、64℃で4時間加熱した。低温殺菌後の試料を1Mの酢酸を用いて処理してpHを5.2、次いで5.1に低下させた。濾過助剤(2%のP1000および1%のP300)の添加後に混合物をK700デプスフィルターにより濾過した。SEC HPLCおよびSDS-PAGEゲルにより試料を分析した。
【0122】
試料の説明および重ね合わせ図におけるSECクロマトグラフィーによる分析結果を表22および図27に列記する。SDS-PAGEゲル分析を図28に示す。
【0123】
(表22)試料の説明および分析の結果
【0124】
結論
この実施例に示すように、カラムC精製血漿画分からHSAを精製することができる。低温殺菌後の試料のpHは、試料の純度に影響せずにpH5.1程度の低いものであり得る。300mLスケールであっても、この低温殺菌方法は、99%より高い純粋なHSAを提供することができる。PAS1~4aにおける濾液の緑色は、この特定の試料について追加の精製工程がさらに下流の処理で伴うべきであることを指し示す。
【0125】
実施例10
NaCPの存在下での血漿の低温殺菌 - クリオ プア血漿からの調製
クリオ プア血漿をFDAに承認された回収施設において回収した。解凍した血漿の部分的な低温殺菌を、同じインキュベーション時間および同じ温度でカラムC FT+W濃縮物と並行して行った。クリオ プア血漿に80mMの最終濃度に達するまでNaCP溶液(0.6M)を加えた後、pHを7に調整し、64℃で4時間加熱した。低温殺菌後の試料を1Mの酢酸を用いて処理してpHを5.1に低下させた。カラムC FT+W濃縮物を80~120mM(76~114のNaCP/TP比)と混合した後、低温殺菌した。SEC HPLCにより試料を分析し、重ね合わせ図にプロットした(表23、および図29)。表23に示すように、091916 ILCおよび092316 ILCはカラムC FT+Wからのものであった。ILCの濃度は53mg/mLであり、血漿の総タンパク質濃度を60mg/mLと推定した。濾過助剤の添加は、溶液から二量体の割合を低減させた(図29を参照)。多過ぎるNaCPを用いての低温殺菌は、より多くの二量体形成を引き起こした。緩衝液および水を用いる試料の希釈は純度の差異を生じさせない。
【0126】
(表23)試料の説明
【0127】
結論
この実施例は、クリオ プア血漿からHSAを精製できることを示す。濾過前の濾過助剤の添加は、二量体の割合を低減させることができる。緩衝液および水を用いる出発材料の希釈は、純度に影響しなかった。低温殺菌工程において多過ぎるNaCPを加えることは二量体形成の増加を引き起こすことが分かる。したがって、95未満のNaCP/TP比が理想的である。
【0128】
実施例11
NaCPおよびN-アセチルトリプトファンの存在下での低温殺菌の間のpH
低温殺菌の間の試料のpHを評価した。NaCPに加えてN-アセチルトリプトファン(NAcW)の存在下での低温殺菌も評価した。7、6.8および6.6のpHを調べた。表24に記載されるカラムC FT+W濃縮物の低温殺菌試料に等量のNaCPおよびNAcWを加えた。pHの効果および加えたNAcWの効果を区別し得るように加えるNaCPの量を少なくした。SEC HPLCにより試料を分析し、重ね合わせ図にプロットした(表24および表25、ならびに図30)。図30に示すような結果として得られた純度の要約を表25に要約した。
【0129】
(表24)試料の説明
092316 ILCはCol C FT+Wからのものであった。はNaCPおよびNAcWの両方の総タンパク質に対する比を表す。
【0130】
(表25)SEC HPLC分析からの凝集物の割合およびHSAの純度
【0131】
結論
低温殺菌のための最適化されたpHは6.6~6.8である。低温殺菌工程のためのNAcWの添加は、pH5.1においてさえ凝集物が完全に除去されなかったので推奨されない。
【0132】
実施例12
上記の実施例に示すように、アルブミンの回収および純度は、血漿中の総タンパク質濃度および総タンパク質1グラム当たりのNaCPのmmolを特定した条件下での低温殺菌を伴う精製方法により最大化された。開示した方法の下、中性付近のpHでの過剰なカプリル酸イオンの存在によりアルブミンは安定化され、不純物が選択的に沈殿する。
【0133】
熱沈殿の間の重要なパラメーターは、総タンパク質濃度および総タンパク質1グラム当たりのNaCPのmmolの他に、時間、温度、NaCP濃度、導電率およびpHである。不可欠な品質属性は、収率、純度、および単量体のパーセントとして定義される。この実施例では、部分的に精製したヒト血漿をNaCPを用いて処理し、4時間より長く60~65℃で加熱する。これは、多くの非標的タンパク質の分解を結果としてもたらすと同時に、HSAは安定なままである。その後に材料をpH5.2に調整した場合、非HSAタンパク質および脂質不純物が沈殿し、沈殿物は、深層濾過を介して生成物ストリームから除去される。
【0134】
この実施例では、部分的に精製したヒト血漿を45~65g/Lの標的総タンパク質濃度に濃縮し、結果として得られた材料を、中性付近のpHの総タンパク質1グラム当たり0.8~1.2mmolのNaCPの標的量までNaCP(0.6Mのストック溶液、pH7.50)を用いて処理した。材料を60~65℃で最低4時間インキュベートした。材料を室温(30℃未満)まで冷却し、1Mの酢酸ストック溶液を用いてpH5.2に調整し、Harborlite濾過助剤(2% w/vのH900、2% w/vのH1900)の存在下でPall Seitz K700Pデプスフィルターを通じて濾過した。回収した通過画分材料は、高い収率であり、凝集物の低い割合と共に高度に純粋なアルブミン溶液であった。
【0135】
実施例13
濾過または清澄化による非アルブミン相からのアルブミンの分離は、深層濾過またはカセットを用いるTFF、好ましくは中空繊維TFFにより実行することができる。中空繊維TFFを使用した場合の濾過または清澄化の間の回収は、pH5.1~5.3において改善される。好ましい孔径、入口圧力およびダイア容量の値を表26AおよびBに示す。中空繊維TFFについて、好ましい孔径は0.1μmであり、1m2当たり8~9L/分のフィード流量を有する。1m2当たり1~10L/分のフィード流量を非アルブミンからアルブミンを分離するために使用できることを当業者は理解するであろう。中空繊維TFFを使用した場合の初期容量低減濃縮は1x~1.2x、好ましくは1.2xであり、ダイア容量は3~4、好ましくは4ダイア容量である。本開示の方法により記載される低温殺菌および濾過/清澄化の前後の不純物の代表的な相対濃度を表27に示す。図31は、HSA20の研究からの低温殺菌および中空繊維TFFを使用する濾過/清澄化の後に回収されたHSAの純度を示す。
【0136】
(表26A)低温殺菌および濾過/清澄化のパラメーター
【0137】
(表26B)濾過/清澄化のパラメーター。低温殺菌および濾過/清澄化後のHSAの回収および純度
【0138】
(表27)低温殺菌およびカセットを用いるTFFによるその後の濾過/清澄化の前後の充分に特徴付けられたベースラインバッチの不純物
【0139】
本開示の方法は、特定の重要性を有するパラメーターは、低温殺菌の間の血漿中の総タンパク質濃度およびNaCP-対-総タンパク質比であることを示す。方法工程にわたるこれらの2つのパラメーターとHSA回収および純度との関係性は、それぞれ図32および図33に説明される。
【0140】
実験の分析は、HSAの回収は、低温殺菌の間の血漿中の総タンパク質1グラム当たりのNaCPの量、すなわち、NaCP-対-総タンパク質比に関係することを指し示した(図34を参照)。HSA純度は、総タンパク質濃度の他に、低温殺菌の間の総タンパク質濃度とNaCP-対-総タンパク質比との複雑な関係性に有意に依存することが決定された(図35を参照)。
【0141】
図32および図33に描写される輪郭プロットの傾向を合わせて1つの重ね合わせた輪郭プロットとした時に、HSA回収および純度を最大化するために最適な操作範囲が両方のパラメーター(すなわち、血漿の総タンパク質濃度および低温殺菌の間の血漿中のNaCP-対-総タンパク質比)について明らかとなる(図36を参照)。その範囲(すなわち、45~65g/Lの総タンパク質濃度および総タンパク質1グラム当たり0.8~1.2mmolのNaCPの量)のより低い部分での操作は、濾過性能を理想的に向上させながら最大のHSA回収および純度を結果としてもたらす。
【0142】
好ましい実施例と現在考えられるものに言及して本開示を記載したが、本開示は開示した実施例に限定されないことが理解されるべきである。反対に、本開示は、添付の特許請求の範囲の精神および範囲に含まれる様々な改変および均等の構成をカバーすることが意図される。
【0143】
全ての刊行物、特許および特許出願は、各個々の刊行物、特許または特許出願が参照によりその全体が組み込まれることを具体的かつ個々に指し示されたのと同じ程度まで、参照することによりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0144】
参考文献
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36