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特許7194114シクロデキストリンに包接されたステロイドの脱包接に用いるための処理液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】シクロデキストリンに包接されたステロイドの脱包接に用いるための処理液
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20221214BHJP
   G01N 33/74 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
G01N33/53 A
G01N33/74
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019554301
(86)(22)【出願日】2018-11-16
(86)【国際出願番号】 JP2018042415
(87)【国際公開番号】W WO2019098314
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2017222240
(32)【優先日】2017-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306008724
【氏名又は名称】富士レビオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉見 達成
(72)【発明者】
【氏名】照山 杏子
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-326046(JP,A)
【文献】特表平11-510598(JP,A)
【文献】特表2005-503534(JP,A)
【文献】特開2011-117779(JP,A)
【文献】特開昭64-085081(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0194784(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤を有効成分とする、シクロデキストリンに包接されたステロイドの脱包接に用いるための処理液であり、
前記界面活性剤が、N-オクタノイル-N-メチルグルカミンおよび3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルフォネートからなる群より選択される少なくとも1つである、処理液
【請求項2】
前記シクロデキストリンが、βシクロデキストリン、ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン、およびγシクロデキストリンからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の処理液。
【請求項3】
前記ステロイドが、アルドステロン、プロゲステロン、25-ヒドロキシビタミンD、およびエストラジオールからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1又は2に記載の処理液。
【請求項4】
ステロイドおよびシクロデキストリンを含むステロイドの免疫学的な定量のための標準溶液において、前記シクロデキストリンに包接された前記ステロイドの脱包接に用いるための、請求項1~のいずれかに記載の処理液。
【請求項5】
ステロイドを免疫学的に定量する方法であって、
被検試料、およびステロイドとシクロデキストリンとを含む標準溶液のそれぞれに抗ステロイド抗体を反応させ、前記被検試料および前記標準溶液における抗原抗体反応のシグナル強度をそれぞれ測定し、前記被検試料におけるシグナル強度と前記標準溶液におけるシグナル強度とを比較することを含み、
前記標準溶液における抗原抗体反応の反応系に、請求項に記載の処理液が添加されている方法。
【請求項6】
ステロイドを免疫学的に定量するためのキットであって、少なくとも下記(a)~(c)を含むキット。
(a)抗ステロイド抗体
(b)ステロイドおよびシクロデキストリンを含む標準溶液
(c)請求項の処理液
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、界面活性剤を有効成分とする、シクロデキストリンに包接されたステロイドの脱包接に用いるための処理液に関する。また、本発明は、ステロイドの免疫学的な定量における当該処理液の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
検体(被検試料)に含まれる目的物(抗原)を免疫学的に定量する場合、一般的に、検体における抗原抗体反応のシグナル強度と所定濃度の目的物が含まれる標準溶液における抗原抗体反応のシグナル強度とをそれぞれ測定し、それら測定値の比較を行う。この定量を高い精度で行うためには、検体と標準溶液とにおける抗原抗体反応の挙動を極力一致させることが必要となる。
【0003】
例えば、ステロイドを免疫学的に定量する場合、検体(被検試料)として、通常、ヒト血清が用いられるが、検体と標準溶液とにおける抗原抗体反応の挙動が乖離しないよう、標準溶液の調製にも血清が用いられることが多い。しかしながら、血清をベースとした標準溶液を用いる場合、原料由来のロット差や感染リスクを排除することができない。
【0004】
このため、標準溶液の調製においては、血清の代わりに、ウシ血清アルブミンなどの蛋白質を含む緩衝液も利用されているが、この場合、標準溶液に含まれるステロイドが時間とともに分解する傾向を示し、測定時に、そのシグナル強度が低下することが問題となる。また、疎水性であるステロイドは、標準溶液の構成成分や容器へ吸着し易く、これも測定時におけるシグナル強度の低下を引き起こす。
【0005】
そこで、このようなシグナル強度の低下を抑制するために、標準溶液にシクロデキストリンを添加し、シクロデキストリンの疎水性内部に、ステロイドを包接させて安定化させることが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第1997/005491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、本発明者らが、シクロデキストリンに包接されたステロイドを含む標準溶液を用いて、検体(被検試料)に含まれるステロイドの免疫学的な定量を試みたところ、検体と標準溶液とにおける抗原抗体反応の挙動が大きく異なり、引いては、正確なステロイドの定量が困難となることが判明した(実施例1-1を参照のこと)。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、シクロデキストリンに包接されたステロイドを含む標準溶液を用いて、ステロイドを免疫学的に定量する方法において、ステロイドの定量の精度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、シクロデキストリンに包接されたステロイドを含む標準溶液を界面活性剤で処理することにより、シクロデキストリンからステロイドを脱包接させることができることを見出した。
【0010】
この脱包接効果は、特に、炭素数8のアシル基もしくはアルキル基を有する界面活性剤、およびステロイド骨格を有する界面活性剤において優れており、シクロデキストリンに包接されたアルドステロン、プロゲステロン、25-ヒドロキシビタミンD、およびエストラジオールのいずれに対しても認められた。また、これら界面活性剤は、緩衝液ベースの標準溶液を用いた場合のみならず、血清ベースの標準溶液を用いた場合でも、優れた効果を示した。
【0011】
さらに、本発明者らは、非競合法および競合法のいずれのステロイドの免疫学的測定系でも、界面活性剤の作用により、検体(被検試料)と標準溶液とにおける抗原抗体反応の挙動の乖離が抑制され、引いては定量の精度が顕著に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、シクロデキストリンに包接されたステロイドの脱包接に用いるための界面活性剤の利用、特に、ステロイドの免疫学的な定量における利用に関するものであり、より詳しくは、以下を提供するものである。
[1]界面活性剤を有効成分とする、シクロデキストリンに包接されたステロイドの脱包接に用いるための処理液。
[2]前記界面活性剤が、炭素数8のアシル基もしくはアルキル基を有するか、またはステロイド骨格を有する、[1]に記載の処理液。
[3]前記界面活性剤が、下記(a)から(e)からなる群より選択される少なくとも1つである、[2]に記載の処理液。
(a)オクタノイル基およびグルカミン基を有する界面活性剤
(b)オクチル基およびポリオキシエチレン基を有する界面活性剤
(c)オクチル基、スルホネート基、およびアンモニウム基を有する界面活性剤
(d)ステロイド骨格、スルホネート基、およびアンモニウム基を有する界面活性剤
(e)ステロイド骨格およびカルボキシレート基を有する界面活性剤
[4]前記界面活性剤が、N-オクタノイル-N-メチルグルカミン、ポリ(オキシエチレン)オクチルフェニルエーテル、N-オクチル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルフォネート、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルフォネート、およびデオキシコール酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1つである、[3]に記載の処理液。
[5]前記シクロデキストリンが、βシクロデキストリン、ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン、およびγシクロデキストリンからなる群より選択される少なくとも1つである、[1]~[4]のいずれかに記載の処理液。
[6]前記ステロイドが、アルドステロン、プロゲステロン、25-ヒドロキシビタミンD、およびエストラジオールからなる群より選択される少なくとも1つである、[1]~[5]のいずれかに記載の処理液。
[7]ステロイドおよびシクロデキストリンを含むステロイドの免疫学的な定量のための標準溶液において、前記シクロデキストリンに包接された前記ステロイドの脱包接に用いるための、[1]~[6]のいずれかに記載の処理液。
[8]ステロイドを免疫学的に定量する方法であって、
被検試料、およびステロイドとシクロデキストリンとを含む標準溶液のそれぞれに抗ステロイド抗体を反応させ、前記被検試料および前記標準溶液における抗原抗体反応のシグナル強度をそれぞれ測定し、前記被検試料におけるシグナル強度と前記標準溶液におけるシグナル強度とを比較することを含み、
前記標準溶液における抗原抗体反応の反応系に、[7]に記載の処理液が添加されている方法。
[9]ステロイドを免疫学的に定量するためのキットであって、少なくとも下記(a)~(c)を含むキット。
(a)抗ステロイド抗体
(b)ステロイドおよびシクロデキストリンを含む標準溶液
(c)[7]の処理液
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ステロイドの免疫学的測定系における抗原抗体反応中に界面活性剤を共存させることで、検体(被検試料)と標準溶液との挙動の乖離を抑制することが可能となった。これにより、血清ベースの標準溶液を用いる場合のみならず、緩衝液ベースの標準溶液(例えば、無血清かつ無タンパク質の標準溶液)を用いる場合でも、高い精度でステロイドを定量することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】アルドステロンに対するシクロデキストリンの包接効果の検証を行った結果を示すグラフである。シクロデキストリンとしては、αシクロデキストリン(αCD)、βシクロデキストリン(βCD)、ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン(HPβCD)、およびγシクロデキストリン(γCD)を用いた。
図2】アルドステロンに対するHPβCDの安定化効果の検証を行った結果を示すグラフである。
図3】各種界面活性剤における、HPβCDに包接されたアルドステロンの脱包接効果を示すグラフである。緩衝液ベースの標準溶液を用い、非競合法(2ステップ法)により測定した。
図4】各種界面活性剤における、HPβCDに包接されたアルドステロンの脱包接効果を示すグラフである。血清ベースの標準溶液を用い、非競合法(2ステップ法)により測定した。
図5】各種界面活性剤における、HPβCDに包接されたプロゲステロンの脱包接効果を示すグラフである。緩衝液ベースの標準溶液を用い、競合法(1ステップ法)により測定した。
図6】各種界面活性剤における、γCDに包接された25-ヒドロキシビタミンDの脱包接効果を示すグラフである。緩衝液ベースの標準溶液を用い、非競合法(2ステップ法)により測定した。
図7A】各種界面活性剤における、HPβCDに包接されたエストラジオールの脱包接効果を示すグラフである。緩衝液ベースの標準溶液を用い、競合法(1ステップ法)により測定した。
図7B】各種界面活性剤における、HPβCDに包接されたエストラジオールの脱包接効果を示すグラフである。緩衝液ベースの標準溶液を用い、競合法(1ステップ法)により測定した。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、界面活性剤を有効成分とする、シクロデキストリンに包接されたステロイドの脱包接に用いるための処理液を提供する。
【0016】
本発明において「包接」とは、シクロデキストリンが、その環状構造の中に分子を取り込むことを意味し、「脱包接」とは、シクロデキストリンに包接された分子がシクロデキストリンから脱離することを意味する。
【0017】
本発明における「シクロデキストリン」は、複数のグルコースが結合して環状構造をとった環状オリゴ糖である。本発明に適用されるシクロデキストリンとしては、ステロイドの包接作用がある限り、特に制限はないが、例えば、αシクロデキストリン、βシクロデキストリン、ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン、およびγシクロデキストリンが挙げられ、これらの中でも、βシクロデキストリン、ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン、およびγシクロデキストリンが好ましく、中でもヒドロキシプロピルβシクロデキストリンが特に好ましい。
【0018】
本発明における「ステロイド」は、ステロイド骨格(シクロペンタノヒドロフェナントレン骨格)を持つ化合物の総称である。ステロイドとしては、ステロイドホルモン、およびステロイド骨格を保持するその誘導体(例、タンパク質同化ステロイド、抗男性ホルモン剤および抗卵胞ホルモン剤等の合成ステロイド)が挙げられる。ステロイドホルモンとしては、例えば、男性ホルモン、卵胞ホルモン、黄体ホルモン(例、プロゲステロン)、コルチコイド(例、糖質コルチコイド、鉱質コルチコイド)が挙げられる。本発明に適用されるステロイドとしては、シクロデキストリンに包接される限り、特に制限はないが、例えば、アルドステロン、プロゲステロン、25-ヒドロキシビタミンD、およびエストラジオールが好ましい。
【0019】
アルドステロンは、副腎皮質の球状帯から分泌されるステロイドホルモンの一種(鉱質コルチコイド)であり、主に腎臓の尿細管でのナトリウムイオン再吸収とそれに伴う水分吸収、およびナトリウムイオンと交換的なカリウムイオンと水素イオンの排出を促進する。
【0020】
プロゲステロンは、卵巣の黄体で合成されるステロイドホルモンの一種(黄体ホルモン)であり、子宮内膜分泌期変化、妊娠維持、体温の上昇、排卵抑制、乳腺発育などの作用がある。
【0021】
25-ヒドロキシビタミンDは、肝臓でビタミンDをヒドロキシ化して作られるホルモン前駆物質であり、骨やミネラル代謝の維持に関与する。
【0022】
エストラジオールは、卵巣の顆粒膜細胞、外卵胞膜細胞、胎盤、副腎皮質、精巣間質細胞で作られるステロイドホルモンの一種(卵胞ホルモン)であり、乳腺細胞の増殖促進、卵巣排卵制御、脂質代謝制御、インスリン作用、血液凝固作用、中枢神経(意識)女性化、皮膚薄化、LDLの減少とVLDL・HDLの増加とによる動脈硬化抑制などの作用がある。
【0023】
本発明の処理液においては、包接されたステロイドをシクロデキストリンから脱包接させるために、界面活性剤を用いる。本発明における「界面活性剤」は、水溶液中で表面張力を低下させる化合物であり、分子内に親水性部分と疎水性部分をもつ。本発明に適用される界面活性剤としては、このような脱包接作用がある限り、特に制限はないが、炭素数8のアシル基もしくはアルキル基を有する界面活性剤、およびステロイド骨格を有する界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、前記群から選択されるいずれか1つであることがより好ましい。
【0024】
前記炭素数8のアシル基を有する界面活性剤としては、疎水性のオクタノイル基(C8(炭素数8、以下同様))と親水性のグルカミン基とを有するものが好ましく、例えば、N-オクタノイル-N-メチルグルカミン(非イオン性、MEGA8((株)同仁化学研究所製)等)が挙げられるが、これに制限されない。炭素数8のアルキル基を有する界面活性剤としては、疎水性のオクチル基(C8)と親水性のポリ(オキシエチレン)基とを有するものが好ましく、例えば、ポリ(オキシエチレン)オクチルフェニルエーテル(非イオン性、TritonX(TritonX705、TritonX100など(ナカライテスク株式会社製))等)が挙げられるが、これらに制限されない。炭素数8のアルキル基を有する他の界面活性剤としては、疎水性のオクチル基(C8)と、スルホネート基およびアンモニウム基を含む親水性部分とを有するものが好ましく、例えば、N-オクチル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルフォネート(両性、C8APS(東京化成工業株式会社製)等)が挙げられるが、これに制限されない。また、ステロイド骨格を有する界面活性剤としては、疎水性のステロイド骨格と、スルホネート基およびアンモニウム基を含む親水性部分とを有するものや、疎水性のステロイド骨格と、カルボキシレート基を含む親水性部分とを有するものが好ましく、例えば、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルフォネート(両性、CHAPS((株)同仁化学研究所製)等)やデオキシコール酸ナトリウム(陰イオン性)が挙げられるが、これらに制限されない。
【0025】
これらの中でも、疎水性のオクタノイル基(C8)と親水性のグルカミン基を有するN-オクタノイル-N-メチルグルカミン(MEGA8等)および3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルフォネート(CHAPS等)は、ステロイドの種類や免疫学的測定法の種類を問わず優れた脱包接効果を示すことから特に好ましく、N-オクタノイル-N-メチルグルカミンは特に好ましい。
【0026】
本発明の処理液に含まれる界面活性剤の濃度は、シクロデキストリンに包接されたステロイドを含む反応系に添加された際に、当該ステロイドの脱包接作用をもたらすことができる限り、特に制限はない。当該処理液が反応系に添加された後の濃度が、通常、0.005~5%、好ましくは0.01~2%となるように、当該処理液における界面活性剤の濃度は、適宜調整することができる。例えば、反応系に添加された際にn倍に希釈されることを意図しているのであれば、予め、n倍の濃度の界面活性剤を含む処理液として調製すればよい。
【0027】
本発明の処理液は、例えば、緩衝液をベースに調製することができる。前記緩衝液としては特に制限はなく、例えば、GOOD緩衝液(HEPES、MOPSなど)、トリス緩衝液(Tris塩酸緩衝液、TE緩衝液、TAE緩衝液、TBE緩衝液、トリス緩衝生理食塩水など)、リン酸緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水など)が挙げられる。緩衝液のpH値は、通常、5.0~9.0、好ましくは、6.0~8.0である。
【0028】
本発明の処理液はまた、血清をベースにしても調製することができる。前記血清としては特に制限はなく、例えば、動物由来の血清(ヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ラマ、イヌ、ニワトリ、ロバ、ネコ、ウサギ、モルモット、ハムスター、ラット、マウス等の動物由来の血清)、脱脂血清(DDC Mass Spect Gold(株式会社ベリタス製)等)が挙げられる。
【0029】
本発明の処理液には、必要に応じて、例えば、塩化ナトリウムなどの塩濃度調整用分子、アジ化ナトリウムなどの保存剤(防腐剤)を含んでもよい。また、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)などのタンパク質成分、ブロッキング剤、タンパク質安定化剤、増感剤、糖類、親水性ポリマー(例、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール)などを含んでもよい。
【0030】
本発明の処理液は、ステロイドを免疫学的に定量する方法に用いるための標準溶液中に存在する、シクロデキストリンに包接されたステロイドから、当該ステロイドを脱包接させるために利用することができる。ステロイドを免疫学的に定量する方法は、一般に、被検試料および標準溶液のそれぞれに抗ステロイド抗体を反応させ、当該被検試料および当該標準溶液における抗原抗体反応のシグナル強度をそれぞれ測定し、当該被検試料におけるシグナル強度と当該標準溶液におけるシグナル強度とを比較すること(工程)を含む。
【0031】
ここで、前記標準溶液中のステロイドがシクロデキストリンに包接された状態で抗体を添加して抗原抗体反応を行った場合には、遊離のステロイドを含む被検試料に対して抗原抗体反応を行った場合と比べて、反応系における遊離ステロイド濃度が異なるため、前記抗体に結合する抗原の分子数に乖離が生じてしまうが、本発明のステロイドを免疫学的に定量する方法においては、前記反応系に本発明の処理液を添加して、シクロデキストリンからステロイドを脱包接させることにより、このような抗体に結合する抗原の分子数に乖離が生じることを抑制することができる。
【0032】
本発明のステロイドを免疫学的に定量する方法に用いられる「被検試料」としては、ステロイドが存在し得る試料である限り特に制限はない。ステロイドの異常が関連する疾患の診断の基礎となるステロイド濃度を測定する目的においては、一般的には、血液検体が用いられる。血液検体は、好ましくは血清または血漿である。また、前記被検試料としては、緩衝液または血清で希釈されていてもよく、ステロイドの安定化を主な目的として前記シクロデキストリンが添加されていてもよく、後述するように本発明の処理液が添加されていてもよい。なお、前記緩衝液および前記血清としては、前記処理液のベースとして挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0033】
本発明のステロイドを免疫学的に定量する方法に用いられる「標準溶液」としては、既定濃度のステロイド、および前記シクロデキストリンを含むものであれば特に制限はなく、緩衝液ベースのものであっても、血清ベースのものであってもよい。これらのベースとなる緩衝液および血清としては、前記処理液のベースとして挙げたものと同様のものが挙げられる。緩衝液ベースのものは、ウシ血清アルブミンなどのタンパク質成分が含まれていてもいなくてもよい。
【0034】
本発明のステロイドを免疫学的に定量する方法において、ステロイドを免疫学的に測定する方法としては、例えば、標識(標識物質)として酵素を用いるCLEIA法(化学発光酵素免疫測定法)やEIA法(酵素免疫測定法);標識として放射性同位元素を用いるRIA法(放射免疫測定法);標識として化学発光性化合物を用いるCLIA法(化学発光免疫測定法);ラテックス凝集法;イムノクロマトグラフィーなどの免疫学的手法が挙げられるが、これらに制限されない。これらの免疫学的な測定は、非競合的測定法であっても、競合的測定法であってもよい。
【0035】
前記免疫学的手法において使用する抗体は、例えば、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE、IgY等のいずれのアイソタイプであってもよい。このような抗体はまた、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体(例、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体)、それらの抗体断片であってもよい。抗体断片は、例えば、F(ab’)2、Fab’、Fab、Fv、単鎖抗体、ダイアボディーなどが挙げられるが、これらに限定されない。抗体は、好ましくは、モノクローナル抗体である。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法や組換えDNA法など公知の方法によって作製したものを用いることができる。
【0036】
上記のステロイドを免疫学的に測定する方法に用いられる抗ステロイド抗体としては、標識物質を結合させた抗体を使用することができる。前記標識物質としては、抗体に結合させて検出できるものであれば特に制限はないが、例えば、アルカリホスファターゼ(ALP)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、βガラクトシダーゼ(β-gal)などの酵素;フルオレセインイソチオシアネート(FITC)やローダミンイソチオシアネート(RITC)などの蛍光色素;125Iなどの放射性同位元素;アロフィコシアニン(APC)やフィコエリスリン(R-PE)などの蛍光蛋白質;アビジン;ビオチン;ラテックス;金粒子などが挙げられる。
【0037】
前記標識物質として酵素を用いた場合には、基質として、発色基質、蛍光基質、あるいは化学発光基質などを添加することにより、前記基質に応じて種々の検出を行うことができる。
【0038】
上記のステロイドを免疫学的に測定する方法としては、前記標識物質を結合させた抗ステロイド抗体を用いてステロイドを直接的に検出する方法以外に、前記抗ステロイド抗体には前記標識物質を結合させず、前記標識物質が結合した二次抗体などを利用して間接的に検出する方法を利用することもできる。ここで「二次抗体」とは、抗ステロイド抗体に対して反応性を示す抗体である。例えば、前記抗ステロイド抗体をマウス抗体として調製した場合には、当該二次抗体として抗マウスIgG抗体を使用することができる。前記二次抗体としては、ウサギ、ヤギ、マウスなどの様々な生物種に由来する抗体に対して、これらにそれぞれ使用可能な標識二次抗体が市販されており、前記抗ステロイド抗体の由来する生物種に応じて、適切な二次抗体を選択して使用することができる。また、前記二次抗体に代えて、前記標識物質を結合させたプロテインGやプロテインAなどを用いることも可能である。
【0039】
前記抗ステロイド抗体と前記標識物質、あるいは前記二次抗体と前記標識物質との結合には、従来公知の方法を適宜採用することができ、また、かかる結合には、ビオチン-アビジン系を利用することもできる。この方法においては、例えば、抗ステロイド抗体をビオチン化し、これに、アビジン化した標識物質を作用させ、ビオチンとアビジンとの相互作用を利用して、抗ステロイド抗体に標識物質を結合させる。
【0040】
前記免疫学的手法の検出原理としては、サンドイッチ法および競合法が好適である。前記サンドイッチ法においては、固相に固定した(固相化した)捕捉用抗体(例えば抗ステロイド抗体)で検出対象物質(例えば抗原(ステロイド))を捕捉し、それを標識物質が結合した検出用抗体(例えば標識物質が結合した二次抗体等)に認識させ、前記標識物質の種類に応じた検出を行う。前記固相としては、例えば、磁性粒子やラテックス粒子などの微小粒子、プラスチックプレートなどのプレート、あるいはニトロセルロースなどの繊維状物質を用いることができる。
【0041】
前記捕捉用抗体は前記固相に直接固定してもよいが、間接的に固定してもよい。例えば、前記捕捉用抗体に結合する物質を前記固相に固定し、当該物質に前記捕捉用抗体を結合させることにより、前記補足用抗体を前記固相に間接的に固定することができる。前記捕捉用抗体に結合する物質としては、例えば、上記の二次抗体、プロテインG、プロテインAなどが挙げられるが、これらに制限されない。前記固相への固定には、従来公知の方法を適宜採用することができ、また、前記捕捉用抗体がビオチン化されている場合には、アビジン化した固相を利用することができる。
【0042】
前記サンドイッチ法において、ステロイド(検出対象物質)とシクロデキストリンとを含む標準溶液を用いる場合には、例えば、前記標準溶液、本発明の処理液、および固相化した前記捕捉用抗体を混合して、第一抗原抗体反応(第一反応)を行い、前記ステロイドと前記補足用抗体との複合体(免疫複合体)を形成させ、この免疫複合体を分離洗浄後、これに前記標識物質が結合した検出用抗体を添加して、第二抗原抗体反応(第二反応)を行い、前記標識物質に応じて種々の検出を行うことが好ましい。
【0043】
前記検出用抗体としては、ステロイドのみに結合する抗体のみならず、ステロイドと抗体の複合体に特異的に結合する抗体を用いることもできる。従って、本発明における「抗ステロイド抗体」には、これら双方の抗体が含まれる。
【0044】
前記サンドイッチ法としては、例えば、CLIA法の一態様であるサンドイッチCLIA法、CLEIA法の一態様であるサンドイッチCLEIA法、RIA法の一態様であるIRMA法(免疫放射定量法)が好適である。
【0045】
一方、前記競合法としては、例えば、第一の態様においては、固相化した検出対象物質と試料中の検出対象物質とで、標識物質が結合した検出用抗体への結合を競合させる。ステロイド(検出対象物質)とシクロデキストリンとを含む標準溶液を用いる場合には、例えば、前記標準溶液、本発明の処理液、および前記標識物質が結合した検出用抗体を混合して、第一抗原抗体反応(第一反応)を行い、これに、固相化した前記検出対象物質を添加して、第二抗原抗体反応(第二反応)を行う。
【0046】
また、例えば、前記競合法の第二の態様においては、固相化した捕捉用抗体への結合に関して、試料中の検出対象物質と標識物質が結合した検出対象物質とを競合させる。ステロイド(検出対象物質)とシクロデキストリンとを含む標準溶液を用いる場合には、例えば、前記標準溶液、本発明の処理液、および前記標識物質が結合した検出対象物質を混合し、これに固相化した前記捕捉用抗体を添加して、抗原抗体反応を行う。
【0047】
前記競合法における検出対象物質や捕捉用抗体の固相への固定には、従来公知の方法を適宜採用することができ、かかる固定は、上記同様、直接的であってもよいが、間接的であってもよい。
【0048】
本発明のステロイドを免疫学的に定量する方法において、本発明の処理液は、前記標準溶液のみならず、前記被検試料に対して添加してもよい。本発明の処理液は、界面活性剤を含むことから、前記被検試料に対しても同様に添加することにより、前記標準溶液と界面活性剤濃度を一致させ、これにより、より近似した条件で抗原抗体反応を行うことができる。また、本発明の処理液としては、検出対象物質とその抗体との抗原抗体反応の反応系に前記界面活性剤の濃度が上記の所望の濃度となるように添加されていればよく、例えば、他の反応系に用いる溶液(前記競合法の第一の態様における標識物質が結合した検出用抗体、前記競合法の第二の態様における標識物質が結合した検出対象物質等)に前記処理液を予め添加して用いてもよく、これらの溶液に前記界面活性剤を予め添加して本発明の処理液を兼ねさせてもよい。
【0049】
前記被検試料において得られた測定値からのステロイド濃度の定量は、一般的に、各濃度のステロイドを含む標準溶液による測定値との比較により行う。この場合、例えば、標準溶液による測定値に基づいて作成された標準曲線上のどの位置に、前記被検試料において得られた測定値が位置づけられるかを調べることにより、試料中のステロイド濃度を求めることができる。
【0050】
本発明のステロイドを免疫学的に定量する方法は、ステロイドホルモンの分泌量異常に関連する疾患の診断(罹患やそのリスクの評価)に利用することができる。ここで「ステロイドホルモンの分泌量異常に関連する疾患」には、ステロイドホルモンの分泌量異常に起因する疾患および疾患の発症の結果としてステロイドホルモンの分泌量が異常となる疾患の双方を含む意である。例えば、原発性アルドステロン症、腎血管性高血圧、悪性高血圧、レニン産生腫瘍、バーター症候群、浮腫性疾患(肝硬変・心不全)などでは、血液中のアルドステロン濃度が高値を示し、アジソン病、21-ヒドロキシラーゼ欠損症、選択的低アルドステロン症などでは、同アルドステロン濃度が低値を示すことが知られている。また、先天性副腎過形成、クッシング症候群、副腎腫瘍などでは、血液中のプロゲステロン濃度が高値を示し、卵巣機能不全、黄体機能不全などでは低値を示すことが知られている。さらに、ビタミンD中毒症などでは、血液中の25-ヒドロキシビタミンD濃度が高値を示し、くる病、骨軟化症、骨粗鬆症などでは低値を示すことが知られている。また、肝疾患、エストロゲン産生腫瘍、先天性副腎皮質過形成、多胎妊娠、卵巣過剰刺激症候群などでは、血液中のエストラジオール濃度が高値を示し、卵巣機能不全、早発卵巣不全、低ゴナドトロピン症、Chiari-Frommel症候群などでは、低値を示すことが知られている。
【0051】
また、本発明は、上記の本発明のステロイドを免疫学的に定量する方法に用いることができる、ステロイドを免疫学的に定量するためのキットを提供する。本発明のキットは、少なくとも、抗ステロイド抗体(抗体標品)、ステロイドおよびシクロデキストリンを含む標準溶液(標準ステロイド試薬)、および本発明の処理液を含む。さらに、対照試薬、洗浄液、希釈液、希釈用カートリッジなどを組み合わせることができる。また、前記標識物質として酵素標識を利用する場合には、標識の検出に必要な基質や反応停止液などを含めることができる。
【0052】
前記サンドイッチ法を検出原理とする場合には、例えば、固相化したステロイド捕捉用抗体、あるいはステロイド捕捉用抗体に結合する物質を固定した固相を含めることができる。一方、前記競合法を検出原理とする場合には、例えば、これら固相の他、固相化した検出対象物質、あるいは検出対象物質に結合する物質を固定した固相を含めることができる。
【0053】
また、一次抗体(抗原に直接結合する抗体)や二次抗体を標識しない場合には、例えば、これらの抗体に結合する物質を標識したものをキットに含めることができる。また、抗ステロイド抗体がビオチン化されている場合には、例えば、アビジン化された標識物質をキットに含めることができる。本発明のキットには、さらに、当該キットの使用説明書を含めることができる。
【0054】
本発明のキットは、研究用としてのみならず、例えば、体外診断用医薬品として、上記ステロイドホルモンの分泌量異常に関連する疾患の診断の基礎となるステロイド濃度の定量に利用することができる。
【実施例
【0055】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例の各組成において、「%」は「重量%」を示す。
【0056】
(実施例1)
[実施例1-1] アルドステロンに対するシクロデキストリンの包接効果の検証
本実施例では、抗原としてアルドステロンを、標準溶液として緩衝液ベースのものを用いた。具体的には、まず、0%、1%、3%濃度のシクロデキストリン(αシクロデキストリン(αCD)、βシクロデキストリン(βCD)、ヒドロキシプロピルβシクロデキストリン(HPβCD)、γシクロデキストリン(γCD))をそれぞれ添加した希釈液にアルドステロンを添加した約500pg/mLアルドステロン溶液(標準溶液)を調製した。前記希釈液のベース組成は、「50mM MOPS(pH7.2)、150mM NaCl、0.1% NaN」とした。
【0057】
測定は、各アルドステロン溶液について、抗アルドステロン抗体結合粒子(従来法で調製した抗アルドステロン抗体結合磁性粒子(抗体結合粒子))およびアルカリホスファターゼ標識抗アルドステロン免疫複合体抗体(従来法で調製したアルカリホスファターゼ標識抗アルドステロン抗体(酵素標識抗体))を用いた2ステップ法で実施した。詳しくは、以下の(a)~(f)の工程で行った。
(a)抗体結合粒子約50μLに試料(前記アルドステロン溶液)約30μLを加えて攪拌し、37℃で8分間反応させる(第一反応)。
(b)磁気分離器を使用してB/F分離し、洗浄を行う。
(c)酵素標識抗体約50μLを加え攪拌し、37℃で8分間反応させる(第二反応)。
(d)磁気分離器を使用してB/F分離し、洗浄を行う。
(e)AMPPD(基質、3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’’-ホスホリルオキシ)フェニル-1、2-ジオキセタン・2ナトリウム塩)約200μLを加え攪拌し、37℃で4分間反応させる(酵素反応)。
(f)前記基質の分解に伴って放出される波長463nm付近に発光極大ピークをもつ光の発光量を測定する。
【0058】
図1に、シクロデキストリン濃度が0%のアルドステロン溶液を用いた際の発光量(0% CD)を100%としたときの、各シクロデキストリン濃度が1%または3%のアルドステロン溶液を用いた際の発光量の割合(発光量比[対0% CD])を示す。その結果、αCDの添加では発光量がほぼ変わらなかったが、他のシクロデキストリン(βCD、HPβCD、γCD)の添加により発光量が低下したことから、アルドステロンが包接されたと考えられた(図1)。シクロデキストリンの種類により、同一濃度において発光量低下率が異なることから、αCD<βCD<HPβCD<γCDの順で包接作用が強いと考えられた。
【0059】
[実施例1-2] アルドステロンに対するHPβCDの安定化効果の検証
本実施例では、抗原としてアルドステロンを、標準溶液として緩衝液ベースのものを用いた。具体的には、まず、0.1%、1%濃度のHPβCDを添加した希釈液にアルドステロンを添加した約300pg/mLアルドステロン溶液(標準溶液)を調製した。前記希釈液のベース組成は、「100mM HEPES(pH7.5)、150mM NaCl、0.5% BSA、0.1% NaN」とした。
【0060】
得られた各アルドステロン溶液(約300pg/mLアルドステロン溶液)は、-80℃、4℃、25℃、37℃でそれぞれ45日間保存後に測定に供した。測定は、各保存後のアルドステロン溶液について、抗アルドステロン抗体結合粒子(従来法で調製した抗アルドステロン抗体結合磁性粒子(抗体結合粒子))およびアルカリホスファターゼ標識抗アルドステロン免疫複合体抗体(従来法で調製したアルカリホスファターゼ標識抗アルドステロン抗体(酵素標識抗体))を用いた2ステップ法で実施した。詳しくは、以下の(a)~(f)の工程で行った。
(a)抗体結合粒子約250μLに試料(前記アルドステロン溶液)約40μLを加えて攪拌し、37℃で10分間反応させる(第一反応)。
(b)磁気分離器を使用してB/F分離し、洗浄を行う。
(c)酵素標識抗体約250μLを加え攪拌し、37℃で10分間反応させる(第二反応)。
(d)磁気分離器を使用してB/F分離し、洗浄を行う。
(e)AMPPD(基質、3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’’-ホスホリルオキシ)フェニル-1、2-ジオキセタン・2ナトリウム塩)約200μLを加え攪拌し、37℃で5分間反応させる(酵素反応)。
(f)前記基質の分解に伴って放出される波長447nm付近に発光極大ピークをもつ光の発光量を測定する。
【0061】
図2に、-80℃で45日間保存後のアルドステロン溶液を用いた際の発光量を100%としたときの、4℃、25℃、37℃で各45日間保存後のアルドステロン溶液をそれぞれ用いた際の発光量の割合(発光量比[対-80℃])を示す。その結果、HPβCD濃度が高い方が、温度負荷のかかった状態での測定値変動が小さいことから、HPβCDは標準溶液の安定性に寄与すると考えられた(図2)。
【0062】
[実施例1-3] HPβCDからのアルドステロンの脱包接効果-1
本実施例では、抗原としてアルドステロンを、標準溶液として緩衝液ベースのものを用いた。具体的には、まず、下記の標準液希釈液(HPβCDあり)にアルドステロンを添加して約1600pg/mLアルドステロン溶液(1600pg/mL CD(+)標準溶液)を、下記の脱脂血清を擬似被検試料希釈液とし、これにアルドステロンを添加して約1600pg/mLアルドステロン溶液(1600pg/mL検体(擬似被検試料))を、それぞれ調製した。前記標準液希釈液(HPβCDあり)としては、「50mM MOPS(pH7.2)、150mM NaCl、1% HPβCD、0.1% NaN」を用い、前記脱脂血清としては、「DDC Mass Spect Gold(ステロイド系ホルモンおよびコレステロール・TGがフリーな血清、株式会社ベリタス製)」を用いた。
【0063】
また、下記の処理液のベース組成に、12種類の界面活性剤[デオキシコール酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬工業株式会社製)、NLS(ナカライテスク株式会社製)、C12TAB(東京化成工業株式会社製)、C2APS(東京化成工業株式会社製)、C8APS(東京化成工業株式会社製)、C12APS(東京化成工業株式会社製)、CHAPS((株)同仁化学研究所製)、Tween20(富士フイルム和光純薬工業株式会社製)、Tween80(富士フイルム和光純薬工業株式会社製)、TritonX100(ナカライテスク株式会社製)、TritonX705(Sigma-Aldrich製)、MEGA8((株)同仁化学研究所製)]をそれぞれ添加した、または添加しない処理液を調製した。前記処理液のベース組成は、「20mM MOPS(pH7.2)、300mM NaCl、0.1% NaN」とした。各処理液における界面活性剤の濃度は、デオキシコール酸ナトリウムは1.2%、それ以外はそれぞれ2%とした。
【0064】
測定は、各試料(1600pg/mL CD(+)標準溶液または1600pg/mL検体)について、抗アルドステロン抗体結合粒子(従来法で調製した抗アルドステロン抗体結合磁性粒子(抗体結合粒子))、アルカリホスファターゼ標識抗アルドステロン免疫複合体抗体(従来法で調製したアルカリホスファターゼ標識抗アルドステロン抗体(酵素標識抗体))、および前記各処理液を用いた特殊2ステップ法で実施した。詳しくは、以下の(a)~(f)の工程で行った。
(a)抗体結合粒子約50μLおよび処理液約20μLに試料約30μLを加えて攪拌し、37℃で8分間反応させる(第一反応)。
(b)磁気分離器を使用してB/F分離し、洗浄を行う。
(c)酵素標識抗体約50μLを加え攪拌し、37℃で8分間反応させる(第二反応)。
(d)磁気分離器を使用してB/F分離し、洗浄を行う。
(e)AMPPD(基質、3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’’-ホスホリルオキシ)フェニル-1、2-ジオキセタン・2ナトリウム塩)約200μLを加え攪拌し、37℃で4分間反応させる(酵素反応)。
(f)前記基質の分解に伴って放出される波長463nm付近に発光極大ピークをもつ光の発光量を測定する。
【0065】
図3に、前記処理液として界面活性剤を添加しない処理液(界面活性剤(-))を用い、かつ前記試料として1600pg/mL検体を用いた際の発光量(対照)を100%としたときの、各処理液を用い、かつ前記試料として1600pg/mL CD(+)標準溶液または1600pg/mL検体を用いた際の発光量の割合(発光量比[対対照])を示す。その結果、脱包接効果(1600pg/mL検体の反応性は変えず、1600pg/mL CD(+)標準溶液の反応性を上げる効果)のある界面活性剤は、ステロイド骨格を有するデオキシコール酸ナトリウムおよびCHAPS、炭素数8のアルキル基を有するTritonX100、TritonX705、およびC8APS、ならびに炭素数8のアシル基を有するMEGA8であることが確認された(図3中の星印)。
【0066】
[実施例1-4] HPβCDからのアルドステロンの脱包接効果-2
本実施例では、抗原としてアルドステロンを、標準溶液として血清ベースのものを用いた。具体的には、まず、-HPβCDの脱脂血清(DDC Mass Spect Gold)にアルドステロンを添加して約2000pg/mLアルドステロン溶液(2000pg/mL検体(擬似被検試料))を、および+HPβCDの脱脂血清(前記-HPβCDの脱脂血清にHPβCDを1%濃度となるように添加したもの)にアルドステロンを添加して約2000pg/mLアルドステロン溶液(2000pg/mL CD(+)標準溶液)を、それぞれ調製した。
【0067】
また、下記の処理液のベース組成に、実施例1-3で用いたうちの5種類の界面活性剤(C12APS、CHAPS、Tween20、TritonX705、MEGA8)をそれぞれ添加した、または添加しない処理液を調製した。前記処理液のベース組成は、「20mM MOPS(pH7.2)、300mM NaCl、0.1% NaN」とした。各処理液における界面活性剤の濃度は、それぞれ3%とした。
【0068】
測定は、各試料(2000pg/mL CD(+)標準溶液または2000pg/mL検体)について、抗アルドステロン抗体結合粒子(従来法で調製した抗アルドステロン抗体結合磁性粒子(抗体結合粒子))、アルカリホスファターゼ標識抗アルドステロン免疫複合体抗体(従来法で調製したアルカリホスファターゼ標識抗アルドステロン抗体(酵素標識抗体))、および前記各処理液を用いた特殊2ステップ法で実施した。詳しくは、以下の(a)~(f)の工程で行った。
(a)抗体結合粒子約50μLおよび処理液約30μLに試料約30μLを加えて攪拌し、37℃で8分間反応させる(第一反応)。
(b)磁気分離器を使用してB/F分離し、洗浄を行う。
(c)酵素標識抗体約50μLを加え攪拌し、37℃で8分間反応させる(第二反応)。
(d)磁気分離器を使用してB/F分離し、洗浄を行う。
(e)AMPPD(基質、3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’’-ホスホリルオキシ)フェニル-1、2-ジオキセタン・2ナトリウム塩)約200μLを加え攪拌し、37℃で4分間反応させる(酵素反応)。
(f)前記基質の分解に伴って放出される波長463nm付近に発光極大ピークをもつ光の発光量を測定する。
【0069】
図4に、前記処理液として界面活性剤を添加しない処理液(界面活性剤(-))を用い、かつ前記試料として2000pg/mL検体を用いた際の発光量(対照)を100%としたときの、各処理液を用い、かつ前記試料として2000pg/mL CD(+)標準溶液または2000pg/mL検体を用いた際の発光量の割合(発光量比[対対照])を示す。その結果、脱包接効果(2000pg/mL検体の反応性は変えず、2000pg/mL CD(+)標準溶液の反応性を上げる効果)のある界面活性剤は、CHAPS、TritonX705、MEGA8であることが確認された(図4中の星印)。これにより、血清ベースの標準溶液でも、実施例1-3で示した緩衝液ベース標準溶液における結果と同様の結果が得られることが示された。
【0070】
(実施例2) HPβCDからのプロゲステロンの脱包接効果
アルドステロンの場合と同様に、プロゲステロンでも特定の界面活性剤種によってHPβCDからの脱包接が促進されることの確認を行った。
【0071】
本実施例においては、測定系として、1ステップ競合法を採用した。当該競合法においては、実施例1-1~1-4の2ステップ法(非競合法)とは対照的に、界面活性剤の作用により、HPβCDからのステロイドの脱包接が促進されると、標識抗体が抗原結合粒子に結合できなくなるため、より発光量が下がることになる。
【0072】
具体的には、抗原としてプロゲステロンを、標準溶液として緩衝液ベースのものを用い、まず、下記の標準液希釈液(実施例1-3の標準液希釈液と同一組成)にプロゲステロンを20ng/mL添加した20ng/mLプロゲステロン溶液(標準溶液)およびプロゲステロンを添加しないコントロール溶液を調製した。標準液希釈液としては、「50mM MOPS(pH7.2)、150mM NaCl、1% HPβCD、0.1% NaN」を用いた。
【0073】
別途の処理液は用いず、界面活性剤を用いた条件では、下記の酵素標識抗体に対し、次の界面活性剤をそれぞれ0.2%濃度となるように添加した。前記界面活性剤としては、実施例1-3で用いたうちのTween20、Tween80、C8APS、CHAPS、MEGA8、TritonX705、およびデオキシコール酸ナトリウム、ならびに、Brij58(ICI製)およびC16APS(東京化成工業株式会社製)をそれぞれ用いた。
【0074】
測定は、各試料(各標準溶液(20ng/mLプロゲステロン)および各コントロール溶液(0ng/mLプロゲステロン)について、アルカリホスファターゼ標識抗プロゲステロン抗体(従来法で調製したアルカリホスファターゼ標識抗プロゲステロン抗体(酵素標識抗体))、およびプロゲステロン結合粒子(従来法で調製したプロゲステロン結合磁性粒子(抗原結合粒子))を用いたディレイ1ステップ法で実施した。詳しくは、以下の(a)~()の工程で行った。
(a)酵素標識抗体約50μLに試料約10μLを加えて攪拌し、37℃で11分間反応させる(第一反応)。
(b)抗原結合粒子約50μLを加え攪拌し、37℃で8分間反応させる(第二反応)。
(c)磁気分離器を使用してB/F分離、洗浄を行う。
(d)AMPPD(基質、3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’’-ホスホリルオキシ)フェニル-1、2-ジオキセタン・2ナトリウム塩)約200μLを加え攪拌し、37℃で4分間反応させる(酵素反応)。
(e)前記基質の分解に伴って放出される波長463nm付近に発光極大ピークをもつ光の発光量を測定する。
【0075】
図5に、界面活性剤を用いない条件(界面活性剤(-))での標準溶液を用いた際の発光量とコントロール溶液を用いた際の発光量との比(標準溶液/コントロール溶液;対照)を100%としたときの、各界面活性剤を用いた条件での標準溶液を用いた際の発光量とコントロール溶液を用いた際の発光量との比の割合(発光量比[対対照])を示す。その結果、MEGA8およびCHAPSでは特に発光量が下がり、1ステップ競合法におけるHPβCDからのステロイドの脱包接の効果が認められ、特にMEGA8の効果が高かった(図5)。なお、TritonX705およびデオキシコール酸ナトリウムは反応系そのものに悪影響を及ぼしたことが示唆された。プロゲステロン測定系で効果のあった界面活性剤は、アルドステロン測定系(実施例1-3~1-4)で効果があったものと重複していた。
【0076】
(実施例3) γCDからの25-ヒドロキシビタミンDの脱包接効果
本実施例では、抗原として25-ヒドロキシビタミンDを、標準溶液として緩衝液ベースのものを、シクロデキストリンとしてγCDを、それぞれ用いた。具体的には、まず、下記の標準液希釈液(γCDなし)に25-ヒドロキシビタミンDを添加して約50ng/mL 25-ヒドロキシビタミンD溶液(50ng/mL CD(-)標準溶液)を、前記標準液希釈液にγCDを0.3%濃度となるように添加したものに25-ヒドロキシビタミンDを添加して約50ng/mL 25-ヒドロキシビタミンD溶液(50ng/mL CD(+)標準溶液)を、それぞれ調製した。前記標準液希釈液(γCDなし)としては、「50mM MOPS(pH7.2)、150mM NaCl、0.1% NaN」を用いた。
【0077】
また、下記の処理液のベース組成に、実施例1で用いたうちの8種類の界面活性剤(Tween80、Brij58、C8APS、C16APS、CHAPS、MEGA8、TritonX705、デオキシコール酸ナトリウム)をそれぞれ添加した、または添加しない処理液を調製した。前記処理液のベース組成は、「50mM Tris-HCl(pH7.2)、150mM NaCl、4.5% BSA、0.1% NaN」とした。各処理液における界面活性剤の濃度は、それぞれ0.5%とした。
【0078】
測定は、各試料(50ng/mL CD(-)標準溶液または50ng/mL CD(+)標準溶液)について、抗25-ヒドロキシビタミンD抗体結合粒子(従来法で調製した抗25-ヒドロキシビタミンD抗体結合磁性粒子(抗体結合粒子))、アルカリホスファターゼ標識抗25-ヒドロキシビタミンD免疫複合体抗体(従来法で調製したアルカリホスファターゼ標識抗25-ヒドロキシビタミンD抗体(酵素標識抗体))、および前記処理液を用いた特殊2ステップ法で実施した。詳しくは、以下の(a)~(g)の工程で行った。
(a)試料約10μLと処理液約190μLとを混合して20倍に希釈した希釈試料を得る(前処理/希釈)。
(b)抗体結合粒子約50μLに前記希釈試料約20μLを加えて攪拌し、37℃で8分間反応させる(第一反応)。
(c)磁気分離器を使用してB/F分離し、洗浄を行う。
(d)酵素標識抗体約50μLを加え攪拌し、37℃で8分間反応させる(第二反応)。
(e)磁気分離器を使用してB/F分離し、洗浄を行う。
(f)AMPPD(基質、3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’’-ホスホリルオキシ)フェニル-1、2-ジオキセタン・2ナトリウム塩)液約200μLを加え攪拌し、37℃で4分間反応させる(酵素反応)。
(g)前記基質の分解に伴って放出される波長463nm付近に発光極大ピークをもつ光の発光量を測定する。
【0079】
図6に、前記処理液として界面活性剤を添加しない処理液(界面活性剤(-))を用い、かつ前記試料として50ng/mL CD(-)標準溶液を用いた際の発光量(対照)を100%としたときの、各処理液を用い、かつ前記試料として50ng/mL CD(-)標準溶液または50ng/mL CD(+)標準溶液を用いた際の発光量の割合(発光量比[対対照])を示す。その結果、CHAPSおよびMEGA8には特に、脱包接効果(50ng/mL CD(+)標準溶液の発光量(反応性)を上げ、50ng/mL CD(-)標準溶液の発光量のとの乖離を抑制する効果)が認められた(図6中の星印)。他方、Brij58、C8APS、およびC16APSでは、50ng/mL CD(-)標準溶液と50ng/mL CD(+)標準溶液との発光量の乖離を抑制することが確認されたが、反応系そのものに悪影響を及ぼし、一次反応が阻害されて発光量が低下してしまうことが示唆された。
【0080】
(実施例4) HPβCDからのエストラジオールの脱包接効果
本実施例においては、測定系として、実施例2の1ステップ競合法の別法を採用した。当該競合法においては、界面活性剤の作用により、HPβCDからのステロイドの脱包接が促進され、かつ、標識抗原の量に対する試料中のステロイドの量自体が多くなると、標識抗原が抗体結合粒子に結合できなくなるため、より発光量が下がることになる。
【0081】
また、本実施例では、抗原としてエストラジオール(E2)を、標準溶液として緩衝液ベースのものを、シクロデキストリンとしてHPβCDを、それぞれ用いた。具体的には、まず、下記の標準液希釈液(HPβCDなし)を「0pg/mL CD(-)標準溶液(コントロール)」とし、これにエストラジオールを添加して約50pg/mLエストラジオール溶液(50pg/mL CD(-)標準溶液)を、前記標準液希釈液にHPβCDを0.2%濃度となるように添加したものを「0pg/mL CD(+)標準溶液(コントロール)」とし、これにエストラジオールを添加して約50pg/mLエストラジオール溶液(50pg/mL CD(+)標準溶液)を、それぞれ調製した。前記標準液希釈液(HPβCDなし)としては、「50mM Tris-HCl(pH7.2)、150mM NaCl、5% BSA、0.1% NaN」を用いた。
【0082】
また、別途の処理液は用いず、界面活性剤を用いた条件では、下記の酵素標識抗原に対し、次の界面活性剤をそれぞれ1.0%濃度となるように添加した。前記界面活性剤としては、実施例1で用いたうちのTween20、Tween80、Brij58、C8APS、C16APS、CHAPS、MEGA8、およびTritonX705をそれぞれ用いた。
【0083】
測定は、各試料(0pg/mL CD(-)標準溶液、50pg/mL CD(-)標準溶液、0pg/mL CD(+)標準溶液、50pg/mL CD(+)標準溶液)について、抗E2抗体結合粒子(従来法で調製した抗E2抗体結合磁性粒子(抗体結合粒子))およびアルカリホスファターゼ標識E2(従来法で調製したアルカリホスファターゼ標識E2(酵素標識抗原))を用いた1ステップ法で実施した。詳しくは、以下の(a)~(d)の工程で行った。
(a)抗体結合粒子約50μL、試料約20μL、酵素標識抗原約50μLを順次加えて攪拌し、37℃で19分間反応させる。
(b)磁気分離器を使用してB/F分離し、洗浄を行う。
(c)AMPPD(基質、3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’’-ホスホリルオキシ)フェニル-1、2-ジオキセタン・2ナトリウム塩)液約200μLを加え攪拌し、37℃で4分間反応させる(酵素反応)。
(d)前記基質の分解に伴って放出される波長463nm付近に発光極大ピークをもつ光の発光量を測定する。
【0084】
図7Aに、界面活性剤を用いない条件(界面活性剤(-))で0pg/mL CD(-)標準溶液を用いた際の発光量(対照)を100%としたときの、各界面活性剤を用いた条件または用いない条件で0pg/mL CD(-)標準溶液または0pg/mL CD(+)標準溶液を用いた際の発光量の割合(発光量比[対対照])を示し、図7Bに、界面活性剤を用いない条件(界面活性剤(-))で50pg/mL CD(-)標準溶液を用いた際の発光量(対照)を100%としたときの、界面活性剤を用いた条件または用いない条件で50pg/mL CD(-)標準溶液または50pg/mL CD(+)標準溶液を用いた際の発光量の割合(発光量比[対対照])を示す。
【0085】
その結果、図7A図7Bとではほぼ同様の外形のグラフとなり、また、MEGA8およびCHAPSでは界面活性剤を用いない条件からの発光量の低下が抑制され、かつ、シクロデキストリン添加(CD(+))と無添加(CD(-))との間の発光量の乖離も抑制され、HPβCDからのステロイドの脱包接の効果が認められた(図7A図7Bの星印)。また、C8APSおよびTritonX705では、シクロデキストリン添加と無添加との間の発光量の乖離は抑制されたが、界面活性剤の添加により反応系そのものに悪影響を及ぼしたことが示唆された(図7A)。エストラジオール測定系で効果のあった界面活性剤は、アルドステロン測定系(実施例1-3~1-4)、プロゲステロン測定系(実施例2)、25-ヒドロキシビタミンD(実施例3)で効果があったものと重複していた。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上説明したように、本発明によれば、被検試料と標準溶液とにおける抗原抗体反応の挙動の乖離を抑制し、被検試料中のステロイド濃度を高い精度で定量することが可能となる。ステロイド活性は、様々な疾患と関連することから、本発明は、研究上の利用にとどまらず、疾患の診断においても大きく貢献しうるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B