(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】窒化物半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/338 20060101AFI20221214BHJP
H01L 29/778 20060101ALI20221214BHJP
H01L 29/812 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
H01L29/80 H
H01L29/80 L
(21)【出願番号】P 2019561669
(86)(22)【出願日】2018-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2018047351
(87)【国際公開番号】W WO2019131546
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2017253202
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 範和
(72)【発明者】
【氏名】田中 岳利
(72)【発明者】
【氏名】中原 健
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-057158(JP,A)
【文献】特開2015-060987(JP,A)
【文献】特開2016-115705(JP,A)
【文献】特表2015-536570(JP,A)
【文献】特開2014-110345(JP,A)
【文献】特開2013-123047(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0091706(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/778
H01L 29/812
H01L 21/338
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al
1-xGa
xN(0<X≦1)系材料からなり、価電子帯からのアクセプタ準位の深さ(E
T-E
V)が0.3eV以上、0.6eV未満となる第1不純物を含有する第1不純物層と、
前記第1不純物層上に形成された電子走行層と、
前記電子走行層上に形成された電子供給層と、
前記電子走行層上に配置されたゲート電極と、
前記ゲート電極を挟むように配置され、前記電子供給層に電気的に接続されたソース電極およびドレイン電極と
、
前記電子供給層と前記ゲート電極との間に配置され、かつZnのみを不純物として含有する窒化物半導体からなるゲート層とを含
み、
前記ゲート層の厚さが60nm以上であり、前記ゲート層のZn濃度が1×10
19
cm
-3
以上である、窒化物半導体装置。
【請求項2】
ホール放出時間が1s以下である、請求項1に記載の窒化物半導体装置。
【請求項3】
前記電子走行層は、アンドープの第1窒化物半導体層を含む、請求項1または2に記載の窒化物半導体装置。
【請求項4】
前記アンドープの第1窒化物半導体層は、アンドープのAl
1-xGa
xN(0<X≦1)系材料からなる層を含む、請求項3に記載の窒化物半導体装置。
【請求項5】
前記電子供給層がAlN層であり、
前記ゲート層がZnのみを不純物として含有するGaN層である、請求項4に記載の窒化物半導体装置。
【請求項6】
前記アンドープの第1窒化物半導体層がGaN層である、請求項5に記載の窒化物半導体装置。
【請求項7】
前記電子走行層は、0.3μm以下の厚さを有する、請求項1~
6のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項8】
前記第1不純物層と前記電子走行層との界面から前記電子走行層側に0.05μm以下の厚さで、前記第1不純物の濃度が1桁減少している、請求項1~
7のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項9】
前記第1不純物は、Znである、請求項1~
8のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項10】
前記第1不純物層のZn濃度が5×10
17cm
-3~5×10
19cm
-3であり、かつ前記第1不純物層は、Cを5×10
17cm
-3未満の濃度で含有している、請求項
9に記載の窒化物半導体装置。
【請求項11】
前記ゲート層は、Al
1-xGa
xN(0<X≦1)系材料からなり、価電子帯からのアクセプタ準位の深さ(E
T-E
V)が0.3eV以上、0.6eV未満とな
るゲート層を含み、
前記
ゲート層上に形成されたアンドープの第2窒化物半導体層
をさらに含む、請求項1~
10のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項12】
前記アンドープの第2窒化物半導体層および前記
ゲート層に跨る壁面を有するメサ積層部を含み、
前記電子供給層は、前記メサ積層部に対して前記メサ積層部の積層方向に交差する方向に延びる延出部を含み、
前記ソース電極および前記ドレイン電極は、前記延出部に接続されている、請求項
11に記載の窒化物半導体装置。
【請求項13】
前記アンドープの第2窒化物半導体層は、アンドープのAl
1-xGa
xN(0<X≦1)系材料からなる層を含み、Zn濃度が5×10
16cm
-3以下である、請求項
11または12に記載の窒化物半導体装置。
【請求項14】
前記ゲート層の厚さは、60nm~165nmである、請求項
1~13のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項15】
前記ゲート層の厚さは、80nm以上である、請求項
1~14のいずれか一項に記載の窒化物半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、特許文献1は、支持基板と、支持基板上のバッファ層と、バッファ層上の電子走行層と、電子走行層上の電子供給層と、電子供給層に形成され、電子走行層に達するゲートリセスと、ゲートリセスの壁面および電子供給層上に形成された絶縁膜と、絶縁膜上に埋め込まれたゲート電極と、電子供給層にオーミック接触するように形成され、電子供給層を介して2次元電子ガス層と電気的に接続されたソース電極およびドレイン電極とを含む、HEMTを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
たとえば、ノーマリオフ型のHEMTデバイスにおいては、確実なノーマリオフ動作を達成するために、ゲートしきい値電圧は低すぎない方が好ましい。この点、ゲートしきい値電圧を高めるために、アクセプタとして機能する不純物を半導体層にドープすることが検討される。たとえば、GaN系デバイスに使用できるアクセプタとして、C(炭素)やFe(鉄)が挙げられる。
【0005】
しかしながら、CやFeは、GaN層に深い準位を形成するため、ゲート電圧に対する応答性が高くなく、しきい値シフト(Vthシフト)や電流コラプスの要因になる場合がある。
【0006】
本発明の一実施形態は、ゲートしきい値電圧を比較的高くでき良好なノーマリオフ動作を達成できると共に、ゲート電圧に対して良好な応答性を達成できる窒化物半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、Al1-xGaxN(0<X≦1)系材料からなり、価電子帯からのアクセプタ準位の深さ(ET-EV)が0.3eV以上、0.6eV未満となる第1不純物を含有する第1不純物層と、前記第1不純物層上に形成された電子走行層と、前記電子走行層上に形成された電子供給層と、前記電子走行層上に配置されたゲート電極と、前記ゲート電極を挟むように配置され、前記電子供給層に電気的に接続されたソース電極およびドレイン電極とを含む、窒化物半導体装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る窒化物半導体装置の模式的な平面図である。
【
図2】
図2は、
図1の窒化物半導体装置の内部構造を示す模式的な平面図である。
【
図4】
図4は、
図3の半導体積層構造の層構成を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、半導体の価電子帯からのフェルミ準位の深さ(E
F-E
V)とホール濃度との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、価電子帯からのアクセプタ準位の深さ(E
T-E
V)とホール放出時間との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、電圧が印加されたとき、Cが形成するアクセプタ準位から正孔が放出するまでの時定数を示す図である。
【
図8】
図8は、電圧が印加されたとき、Znが形成するアクセプタ準位から正孔が放出するまでの時定数を示す図である。
【
図9】
図9は、Znのドープ量の制御性を説明するための図である。
【
図10】
図10は、不純物のドープ領域とアンドープ領域との界面部における濃度プロファイルを示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の他の実施形態に係る窒化物半導体装置の模式的な断面図である。
【
図13】
図13は、HEMTのゲート電圧-ドレイン電圧特性を示す図である。
【
図14】
図14は、Zn濃度およびC濃度とゲートしきい値電圧(Vth)との関係を示す図である。
【
図15】
図15は、本発明の他の実施形態に係る窒化物半導体装置の模式的な断面図である。
【
図16】
図16は、GaN(Zn)およびGaN(Mg)の各膜厚とドレイン電流との関係とを示すグラフである。
【
図17】
図17は、GaN(Zn)およびGaN(Mg)の各不純物濃度とドレイン電流との関係とを示すグラフである。
【
図18】
図18は、GaN(Zn)およびGaN(Mg)の各膜厚と相互インダクタンス(gm)との関係とを示すグラフである。
【
図19】
図19は、GaN(Zn)およびGaN(Mg)の各不純物濃度とドレイン電流との関係とを示すグラフである。
【
図20】
図20は、GaN(Zn)およびGaN(Mg)の各膜厚とゲートリーク電流との関係とを示すグラフである。
【
図21】
図21は、GaN(Zn)およびGaN(Mg)の各不純物濃度とゲートリーク電流との関係とを示すグラフである。
【
図22】
図22は、Zn,MgをGaNにドーピングしたときの立ち上がり挙動を示す図である。
【
図23】
図23は、ZnをGaNにドーピングしたときのドーピングプロファイルを示す図である。
【
図24】
図24は、ZnドープHEMTのTDDB測定の結果を示す図である。
【
図25】
図25は、ゲート電流と破壊時間との関係を示す図である(Znのみ)。
【
図26】
図26は、ゲート電流と破壊時間との関係を示す図である(ZnとMgとの比較)。
【
図27】
図27は、MgドープHEMTのId-Vg特性を示す図である。
【
図28】
図28は、MgドープHEMTのId-Vg特性を示す図である。
【
図29】
図29は、MgドープHEMTのId-Vg特性を示す図である。
【
図30】
図30は、MgドープHEMTのId-Vg特性を示す図である。
【
図31】
図31は、ZnドープHEMTのId-Vg特性を示す図である。
【
図32】
図32は、ZnドープHEMTのId-Vg特性を示す図である。
【
図33】
図33は、ZnドープHEMTのId-Vg特性を示す図である。
【
図34】
図34は、ZnドープHEMTのId-Vg特性を示す図である。
【
図35】
図35は、Zn濃度とゲートしきい値電圧との関係を示す図である。
【
図36】
図36は、GaN(Zn)の膜厚とゲートしきい値電圧との関係を示す図である。
【
図37】
図37は、ZnドープHEMTおよびMgドープHEMTそれぞれのVg-Ron特性を示す図である。
【
図38】
図38は、GaN(Zn)の膜厚とゲート印加電圧との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係る窒化物半導体装置1の模式的な平面図である。
図2は、
図1の窒化物半導体装置1の内部構造を示す模式的な平面図である。
図3は、
図2のIII-III断面を示す図である。
図4は、
図3の半導体積層構造5の層構成を模式的に示す図である。なお、
図4では、表面絶縁膜21を省略して示している。
【0011】
窒化物半導体装置1は、
図1に示すように、平面視四角形状に形成されたチップであってもよい。この実施形態では、窒化物半導体装置1は、平面視正方形状に形成されており、たとえば、時計回りに連続して、第1辺11、第2辺12、第3辺13および第4辺14を有している。
【0012】
窒化物半導体装置1の第1辺11および第3辺13の長さL1は、たとえば、0.5mm~10mmであり、第2辺12および第4辺14の長さL2は、たとえば、0.5mm~10mmであってもよい。
【0013】
窒化物半導体装置1上の略中央部には、アクティブ領域44が形成されている。アクティブ領域44は、
図2に示すように、ゲート電極34と、ゲート電極34を両側から挟むように配置されたソース電極38およびドレイン電極39とのセットを1ユニットとして、当該ユニットが互いに平行に並んで配列された構造を有している。
【0014】
より具体的には、ソース電極38およびドレイン電極39はX方向に延びている。ゲート電極34は、互いに平行にX方向に延びた複数の電極部46と、これらの複数の電極部46の対応する端部どうしをそれぞれ連結する2つのベース部47とを含む。
【0015】
図2の例では、ソース電極38(S)、ゲート電極34の電極部46(G)およびドレイン電極39(D)は、Y方向にDGSGDGSの順に周期的に配置されている。これにより、ソース電極38(S)およびドレイン電極39(D)でゲート電極34の電極部46(G)を挟むことによって素子構造が構成されている。半導体積層構造5上の表面の領域は、当該素子構造を含むアクティブ領域44と、アクティブ領域44以外のノンアクティブ領域45とからなる。
図2Aおよび
図2Bにおいて、符号48は、アクティブ領域44とノンアクティブ領域45との境界線である素子分離線(isolation line)を示している。ゲート電極34のベース部47は、ノンアクティブ領域45において、複数の電極部46の対応する端部どうしをそれぞれ連結している。
【0016】
アクティブ領域44は、この実施形態では、第1辺11の長さL1とほぼ同等の大きさの幅を有する平面視長方形状に形成されている。
【0017】
アクティブ領域44の各ユニットのソース電極38、ドレイン電極39およびゲート電極34から引き出された電極として、ソース電極膜15、ゲート電極膜16およびドレイン電極膜17が配置されている。ソース電極膜15、ゲート電極膜16およびドレイン電極膜17としては、たとえば、Al膜等の金属膜を適用できる。なお、ソース電極膜15、ゲート電極膜16およびドレイン電極膜17は、それぞれ、構成材料に基づいて、ソースメタル、ゲートメタルおよびドレインメタルと称してもよいし、機能面に基づいて、単に、ソース電極、ゲート電極およびドレイン電極と称してもよい。
【0018】
ソース電極膜15は、アクティブ領域44に対して第3辺13側に配置されている。この実施形態では、ソース電極膜15は、アクティブ領域44よりも狭い幅を有する平面視長方形状に形成されている。
【0019】
窒化物半導体装置1上の領域には、アクティブ領域44とソース電極膜15との幅の差によって形成された段差からなる領域20が形成されている。領域20は、
図1に示すように、窒化物半導体装置1の第1辺11と第2辺12との交差部に形成されていてもよい。
【0020】
ゲート電極膜16は、アクティブ領域44とソース電極膜15との段差によって形成された領域20(この実施形態では、窒化物半導体装置1の第1辺11と第2辺12との交差部)に配置され、平面視四角形状に形成されている。
【0021】
ドレイン電極膜17は、アクティブ領域44と窒化物半導体装置1の第3辺13との間に配置され、第1辺11の長さL1とほぼ同等の大きさの幅を有する平面視長方形状に形成されている。つまり、ドレイン電極膜17は、第1辺11および第3辺13に沿う方向に長手な長方形状に形成されていてもよい。
【0022】
そして、ソース電極膜15、ゲート電極膜16およびドレイン電極膜17は、表面絶縁膜21で覆われている。表面絶縁膜21としては、たとえば、SiN等を適用できる。表面絶縁膜21には、ソース電極膜15、ゲート電極膜16およびドレイン電極膜17の一部を、それぞれ、ソースパッド22、ゲートパッド23およびドレインパッド24として露出させる開口25,26,27が形成されている。
【0023】
ソースパッド22は、たとえば、窒化物半導体装置1の第1辺11の近傍に、第1辺11に沿う略楕円形状に形成されている。略楕円形状のソースパッド22は、
図1に示すように、第1辺11に沿い、第1辺11に交差する方向に互いに対向する1対の直線と、当該1対の辺の各端部同士を繋ぐ半円とを含む形状であってもよい。
【0024】
ゲートパッド23は、窒化物半導体装置1の第1辺11に沿って、ソースパッド22と間隔を空けて配置されている。つまり、窒化物半導体装置1の第1辺11に沿って、ソースパッド22およびゲートパッド23が、並べて配置されていてもよい。また、ゲートパッド23の形状としては、ソースパッド22と同様に、第1辺11に沿う略楕円形状であってもよい。
【0025】
ドレインパッド24は、たとえば、窒化物半導体装置1の第3辺13の近傍に、第3辺13に沿う略楕円形状に形成されている。略楕円形状のドレインパッド24は、
図1に示すように、第3辺13に沿い、第3辺13に交差する方向に互いに対向する1対の直線と、当該1対の辺の各端部同士を繋ぐ半円とを含む形状であってもよい。この実施形態では、1対の直線の長さは、窒化物半導体装置1の第1辺11の長さL1とほぼ同等の大きさであってもよい。この場合、ドレインパッド24は、第1辺11に交差する方向において、ソースパッド22およびゲートパッド23の両方に対向していてもよい。
【0026】
なお、ソースパッド22、ゲートパッド23およびドレインパッド24の形状、配置、個数等について、上記の例はあくまでも一例であり、設計により適宜変更してもよい。
【0027】
次に、断面構造に関して、
図3および
図4に示すように、窒化物半導体装置1は、第1面2および第1面2の反対側の第2面3を有する基板4と、基板4の第1面2上に形成された半導体積層構造5とを含む。
【0028】
基板4としては、たとえば、サファイア基板等の絶縁性基板、Si基板、SiC基板、GaN基板等の半導体基板を適用できる。また、基板4の厚さは、たとえば、400μm~1000μmであってもよい。なお、基板4の第1面2および第2面3は、それぞれ、基板4の表面および裏面と称してもよい。また、基板4の第2面3は、電極や半導体積層構造等の構造物が形成されていない露出面であってもよい。
【0029】
半導体積層構造5は、互いに異なる組成からなる複数の半導体層で構成された積層構造である。この実施形態では、半導体積層構造5は、基板4の第1面2に近い側から順に、バッファ層6、第1不純物層7、電子走行層8、電子供給層9およびキャップ層10を含む。これらの層6~10は、基板4の第1面2に、原料をエピタキシャル成長させることによって形成されていてもよい。
【0030】
バッファ層6としては、たとえば、基板4に対する電子走行層8の格子不整合を緩和できるものであれば特に制限されない。たとえば、基板4がSi基板であり、電子走行層8がGaN層である場合には、バッファ層6は、AlGaN層であってもよいし、AlN層およびGaN層を繰り返し積層した超格子構造を有する層であってもよい。また、バッファ層6の厚さは、たとえば、0.1μm~2μmであってもよい。
【0031】
第1不純物層7は、Al1-xGaxN(0<X≦1)系材料からなり、たとえば、GaN層またはAlGaN層であってもよい。また、第1不純物層7は、価電子帯からのアクセプタ準位の深さ(ET-EV)が0.3eV以上、0.6eV未満となる第1不純物を含有している。このような不純物としては、たとえば、Zn等を適用できる。第1不純物層7がZnを含有する場合、その濃度は、たとえば、5×1017cm-3~5×1019cm-3であってもよい。一方、第1不純物層7は、たとえば、Cを5×1017cm-3未満の濃度で含有していてもよい。
【0032】
つまり、第1不純物層7は、Cに比べて1桁以上大きい濃度でZnを含有している。この濃度差は、たとえば、第1不純物層7の結晶成長過程において、Znを意図的に第1不純物層7の不純物としてドープする一方、Cは、当該結晶成長過程において意図せずに混入したことに起因する。したがって、GaNにおいてアクセプタとして機能し得るCであるが、上記の濃度差に基づき、第1不純物層7においてアクセプタとして機能するものではない。
【0033】
また、第1不純物層7の厚さは、たとえば、0.5μm~5μmであってもよい。なお、第1不純物層7は、基板4に対する電子走行層8の格子不整合を緩和できる機能を有していてもよく、この場合、基板4に接するバッファ層6と電子走行層8との間の第2バッファ層と称してもよい。
【0034】
電子走行層8としては、たとえば、アンドープの窒化物半導体を適用でき、具体的には、アンドープのAl1-xGaxN(0<X≦1)系材料からなる層であってもよい。アンドープの窒化物半導体層とは、たとえば、電子走行層8の結晶成長過程において、意図的に不純物がドープされずに形成された半導体層を意味し、前述の第1不純物層7のCのように、電子走行層8を構成するAl、GaおよびNの他に、何種類かの別の元素が意図せずに混入していてもよい。
【0035】
たとえば、電子走行層8に接する第1不純物層7に含有されたZnが、電子走行層8における第1不純物層7の近傍領域に含有されていてもよい。この場合、電子走行層8におけるZnの濃度は、第1不純物層7のZn濃度に対して、第1不純物層7と電子走行層8との界面28から電子走行層8側に0.05μm以下の厚さで1桁減少していてもよい。たとえば、界面28におけるZn濃度が5×1017cm-3である場合に、当該界面28から電子走行層8側に0.05μmの深さ位置におけるZn濃度が5×1016cm-3以下であってもよい。
【0036】
また、電子走行層8の厚さは、たとえば、0.3μm以下であり、0.01μm以上であってもよい。なお、電子走行層8は、後述する二次元電子ガス29が形成され、窒化物半導体装置1のチャネルが形成される層であるから、チャネル層と称してもよい。
【0037】
電子供給層9としては、たとえば、電子走行層8とAl組成が異なるAl1-xGaxN(0≦X<1)系材料からなる層を適用できる。たとえば、電子走行層8がGaN層であり、電子供給層9がAlN層であってもよい。また、電子供給層9の厚さは、たとえば、電子供給層9がAlNであれば1nm~5nmであってもよく、電子供給層9がAl1-xGaxN(0<X<1)であれば10nm~100nmであってもよい。なお、電子供給層9は、バリア層と称してもよい。
【0038】
このように、電子走行層8と電子供給層9とは、Al組成の異なる窒化物半導体からなっており、それらの間には格子不整合が生じている。そして、この格子不整合に起因する分極のために、電子走行層8と電子供給層9との界面に近い位置(たとえば界面から数Å程度の距離の位置)には、その分極に起因する二次元電子ガス29が広がっている。
【0039】
キャップ層10は、たとえば、電子供給層9の酸化を抑制するために電子供給層9上に形成されるものであり、Alを含まない組成の窒化物半導体層からなっていてもよい。たとえば、キャップ層10は、GaN層からなっていてもよい。また、キャップ層10の厚さは、たとえば、0.5nm~10nmであってもよい。
【0040】
半導体積層構造5には、その表面から電子走行層8に向かって掘り込まれた凹部30が形成されている。凹部30は、キャップ層10および電子供給層9に跨る壁面31と、電子走行層8からなる底面32とを有している。凹部30において電子供給層9と電子走行層8の界面がないことから、二次元電子ガス29は、この凹部30を境界にして分布領域が分断されている。これにより、窒化物半導体装置1のノーマリオフ動作が達成されている。
【0041】
そして、凹部30の壁面31および底面32を覆うように絶縁層33が形成され、この絶縁層33上にゲート電極34が形成されている。ゲート電極34は、凹部30の底面32として露出する電子走行層8に対向するように配置されている。このゲート電極34の一部は、図示しない位置において、前述のゲート電極膜16として露出している。
【0042】
また、ゲート電極34は、凹部30に対してドレイン電極39(後述)寄りに偏って配置され、これにより、ゲート-ソース間距離よりもゲート-ドレイン間距離の方を長くした非対称構造となっている。この非対称構造は、ゲート-ドレイン間に生じる高電界を緩和して耐圧向上に寄与する。
【0043】
絶縁層33としては、たとえば、SiN等を適用でき、ゲート電極34としては、たとえば、TiN等を適用できる。また、絶縁層33の厚さは、たとえば、10nm~100nmであってもよく、ゲート電極34の厚さは、たとえば、50nm~200nmであってもよい。なお、絶縁層33は、ゲート絶縁膜と称してもよい。
【0044】
半導体積層構造5上には、ゲート電極34を覆うように第2絶縁層35が形成されている。第2絶縁層35としては、たとえば、SiO2等を適用できる。また、第2絶縁層35の厚さは、たとえば、500nm~3μmであってもよい。なお、第2絶縁層35は、層間絶縁膜と称してもよい。
【0045】
第2絶縁層35の表面から、第2絶縁層35、絶縁層33およびキャップ層10を貫通して電子供給層9に達するソースコンタクトホール36およびドレインコンタクトホール37が形成されている。そして、ソースコンタクトホール36およびドレインコンタクトホール37には、それぞれ、ソース電極38およびドレイン電極39が埋め込まれている。
【0046】
ソース電極38は、たとえば、電子供給層9にオーミック接触する下層40と、下層40に積層された上層41とを有していてもよい。下層40はTiであってもよく、上層41はAl層であってもよい。上層41と下層40との界面は、ソースコンタクトホール36の深さ方向途中部に位置している。また、上層41は、ソースコンタクトホール36外の部分が、前述のソース電極膜15として露出している。
【0047】
ドレイン電極39は、たとえば、電子供給層9にオーミック接触する下層42と、下層42に積層された上層43とを有していてもよい。下層42はTiであってもよく、上層43はAl層であってもよい。上層43と下層42との界面は、ドレインコンタクトホール37の深さ方向途中部に位置している。また、上層43は、ドレインコンタクトホール37外の部分が、前述のドレイン電極膜17として露出している。
【0048】
次に、
図5~
図8を参照して、第1不純物層7を導入することによる効果について説明する。
【0049】
図5は、半導体の価電子帯からのフェルミ準位の深さ(E
F-E
V)とホール濃度との関係を示すグラフである。
図6は、価電子帯からのアクセプタ準位の深さ(E
T-E
V)とホール放出時間との関係を示すグラフである。
図7は、電圧が印加されたとき、Cが形成するアクセプタ準位から正孔が放出するまでの時定数を示す図である。
図8は、電圧が印加されたとき、Znが形成するアクセプタ準位から正孔が放出するまでの時定数を示す図である。
【0050】
電流は基板に負バイアスが印加されると、アクセプタ準位から正孔が放出され、アクセプタ準位が負帯電する。アクセプタ準位が負帯電することによって二次元電子ガス密度が減少し、ソース-ドレイン間の電流が減少する。
【0051】
図7では、1000秒程度かけて電流が減少しているのに対して、
図8では、1m秒程度で電流が減少している。つまり、電圧が印加されたときCが形成するアクセプタ準位(E
T-E
V=0.9eV)は1000秒かけて負帯電するのに対して、Znが形成するアクセプタ準位(E
T-E
V=0.3eV)は1m秒で負帯電する。
【0052】
前述のように、窒化物半導体装置1の第1不純物層7は、価電子帯からのアクセプタ準位の深さ(ET-EV)が0.3eV以上、0.6eV未満となる第1不純物(たとえば、Zn)を含有している。アクセプタ不純物がドープされたとき、不純物層のフェルミ準位は、ET-EV=EF-EVとなるようにアクセプタ準位に固定化される。
【0053】
まず、
図5に示すように、フェルミ・ディラク分布関数より、ホール濃度のE
F-E
V依存性を計算すると、E
F-E
Vが0.3eV未満では、ホール濃度が1×10
15cm
-3を超える結果となり、絶縁性が十分ではなくなる。たとえば、第1不純物層7に不純物としてMg(E
F-E
V=0.2eV)がドープされていると、第1不純物層7のホール濃度が1×10
16cm
-3程度となってしまう。
【0054】
これに対し、ET-EVが0.3eV以上(たとえば、Zn=0.3eV)であれば、ホール濃度を1×1015cm-3以下に抑え、絶縁性を向上することができる(高抵抗にすることができる)ので、電子走行層8から基板4へ向かうリーク電流を抑制することができる。つまり、第1不純物層7を高抵抗にできるため、半導体積層構造5の厚さを厚くせず、リーク電流を抑制することができる。
【0055】
一方、
図6に示すように、E
T-E
Vが0.6eV以上では、使用温度条件(300K、400Kまたは500K)によっては、ホール放出時間が1s(1×10
0s)を超える場合がある。このホール放出時間は、
図7および
図8に示す窒化物半導体構造を導通状態にしたときの電流値が安定するまでの時間に基づいて算出できる。たとえば、
図7に示すように、第1不純物層7に不純物としてC(E
T-E
V=0.6eV~0.9eV)がドープされていると、第1不純物層7に深い準位が形成されるため、電圧に対する応答性が1000s以上と高くなく、電圧を印加したときにデバイス内部の電荷状態が1000秒以上かけて変化するため、しきい値シフト(Vthシフト)や電流コラプス等、経時的なデバイス特性の変化の要因となる。これに対し、E
T-E
Vが0.6eV未満(たとえば、Zn=0.3eV)であれば、電圧に対する応答性が1ms以下であるため、デバイス特性の安定性はCを使用する場合に比べて遥かに優れていることが分かる。
【0056】
なお、しきい値シフト(Vthシフト)とは、たとえば、ゲート電圧やドレイン電圧を印加したときに生じるしきい値Vthの変動のことであり、しきい値シフトが小さければ、半導体装置としての動作が安定しているといえる。
【0057】
次に、
図9および
図10を参照して、第1不純物層7に含有される第1不純物の一例としてのZnのドープ特性について説明する。
【0058】
まず、
図9に示すように、ZnをドープしながらAlGaN層(3.5μm厚さ)を結晶成長させたところ、当該AlGaN層において、1×10
17cm
-3~1×10
19cm
-3の範囲で、Zn濃度を良好に調整できることが分かった。つまり、Al
1-xGa
xN(0<X≦1)系材料からなる第1不純物層7に対するZnのドープ量を良好に制御することができるので、窒化物半導体装置1の設計耐圧等の特性に合わせて、Znのドープ量を簡単に調整することができる。
【0059】
次に、
図10に示すように、不純物としてのZnは、たとえばMgに比べて、ドープ領域とアンドープ領域との界面部(不純物供給オフ時)における濃度プロファイルが急峻になる。たとえば、Mgは、供給をオフしてから、濃度が1桁減少する(
図10では、1×10
19cm
-3から1×10
18cm
-3まで減少)ために、0.15μm程度の厚さ(深さ)が必要である。
【0060】
これに対し、Znであれば、供給をオフしてから、濃度が1桁減少する(
図10では、3×10
19cm
-3から3×10
18cm
-3まで減少、または1×10
17cm
-3から1×10
16cm
-3まで減少)ために、0.02μm程度の厚さ(深さ)で十分である。そのため、第1不純物層7上に形成される半導体層の不純物特性に影響を与えることが少ない。
【0061】
したがって、上記第1不純物層7を同様の組成を有する窒化物半導体層上には、意図的に不純物を含有させないアンドープの窒化物半導体層を良好に形成することができる。
【0062】
そこで、
図11および
図12の窒化物半導体装置50は、電子走行層8上に形成されたAl
1-xGa
xN(0<X≦1)系材料からなり、価電子帯からのアクセプタ準位の深さ(E
T-E
V)が0.3eV以上、0.6eV未満となる第2不純物を含有する第2不純物層51と、第2不純物層51上に形成されたアンドープのコンタクト層52とを備えている。
【0063】
第2不純物層51に含有される不純物としては、第1不純物層7と同様に、たとえば、Zn等を適用できる。第2不純物層51がZnを含有する場合、その濃度は、たとえば、5×1017cm-3~5×1019cm-3であってもよい。また、第2不純物層51の厚さは、たとえば、60nm~100nmであってもよい。
【0064】
コンタクト層52としては、たとえば、アンドープのAl1-xGaxN(0<X≦1)系材料からなる層を適用でき、たとえば、アンドープGaN層またはアンドープAlGaN層であってもよい。また、コンタクト層52のZn濃度は、5×1016cm-3以下であってもよい。また、コンタクト層52の厚さは、たとえば、10nm以下であってもよい。
【0065】
また、窒化物半導体装置50は、半導体積層構造5の一部として、コンタクト層52および第2不純物層51に跨る壁面53を有するメサ積層部54を含み、電子供給層9は、メサ積層部54に対してメサ積層部54の積層方向に交差する方向に延びる延出部55,55を含み、ソース電極38およびドレイン電極39は、延出部55,55に接続されている。
【0066】
そして、ゲート電極34は、絶縁膜を介さずに、コンタクト層52に直接接合されている。コンタクト層52は、第2不純物層51に接するように形成されているが、
図10に示したZnの濃度プロファイルの急峻性によって、Znによる影響が少なくて済む。そのため、コンタクト層52を良好にアンドープ層として形成できるため、ゲート電極34をコンタクト層52に対して良好にショットキー接合させることができる。その結果、ゲート電極34とコンタクト層52との間にショットキー障壁を形成できるので、ゲート電極34へのリーク電流を低減することができる。
【0067】
次に、
図13および
図14を参照して、窒化物半導体装置1の動作特性について説明する。
【0068】
図13および
図14に示すように、第1不純物層7として、1×10
18cm
-3の濃度でCを含有する場合と、1×10
17cm
-3、1×10
18cm
-3および1×10
19cm
-3の濃度でZnを含有する場合とで、ゲートしきい値電圧がどの程度変化するかを比較した。
【0069】
図から明らかなように、Znを含有する場合では、Zn濃度に関わらず、Cを含有する場合に比べてゲートしきい値電圧を高くすることができた。また、
図14に示すように、Zn濃度が増加するほど、それに伴ってゲートしきい値電圧も高くなるが、1×10
19cm
-3台で収束するであると考えられる。
【0070】
このように、ゲートしきい値電圧を比較的高くできるので、窒化物半導体装置1においては、良好なノーマリオフ動作を達成することができる。
【0071】
図15は、本発明の他の実施形態に係る窒化物半導体装置60の模式的な断面図である。
図15において、
図3の窒化物半導体装置1の構成要素と共通する要素については、同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0072】
この実施形態に係る窒化物半導体装置60では、ゲート電極34の配置形態に関して、窒化物半導体装置1と異なっている。
【0073】
より具体的には、窒化物半導体装置1では、半導体積層構造5の凹部30の内面を覆う絶縁層33上に、ゲート電極34が形成されていた。これに対し、窒化物半導体装置60では、半導体積層構造5に凹部30が形成されていない。また、窒化物半導体装置70では、電子供給層9上にキャップ層10が形成されていない。代わりに、電子供給層9上には、ゲート層61が形成されており、このゲート層61上に、ゲート電極34が形成されている。
【0074】
ゲート層61は、たとえば、Al1-xGaxN(0<X≦1)系材料からなり、たとえば、GaN層であってもよい。この実施形態では、ゲート層61は、Znを不純物として含有している。
【0075】
また、ゲート層61の厚さは、たとえば、60nm以上であり、好ましくは、60nm~165nmであり、さらに好ましくは、80nm~165nmである。また、ゲート層61のZn濃度は、たとえば、1×1019cm-3以上であり、好ましくは、1×1019cm-3~9×1019cm-3である。
【0076】
窒化物半導体装置60では、電子供給層9における電子走行層8とのヘテロ界面付近に発生した正の分極電荷が、ゲート層61内に生じる自発分極によって打ち消され、結果として、ゲート電極34の直下の領域において選択的に二次元電子ガス29が消失する。これにより、二次元電子ガス29は、このゲート電極34の直下の領域を境界にして分布領域が分断され、窒化物半導体装置60のノーマリオフ動作が達成されている。
【0077】
次に、
図16~
図38を参照して、Znを含有するゲート層61の導入による効果について説明する。なお、以下に示す評価にあたっては、バッファ層6および第1不純物層7を備えていない点が窒化物半導体装置60と異なる構成の窒化物半導体装置を評価用デバイスとして使用し、各特性を測定した。
【0078】
図16は、GaN(Zn)およびGaN(Mg)の各膜厚とドレイン電流との関係とを示すグラフである。
図17は、GaN(Zn)およびGaN(Mg)の各不純物濃度とドレイン電流との関係とを示すグラフである。なお、GaN(Zn)は、Znのみを不純物として含有するGaNからなるゲート層を意味し、GaN(Mg)は、Mgのみを不純物として含有するGaNからなるゲート層を意味している(以下同じ)。なお、両ゲート層ともに、意図せずに混入する微量な不純物は含有していてもよい。
【0079】
図16および
図17に示すように、ゲート層61がZnを含有している場合は、膜厚およびZn濃度に関わらず、ドレイン電流が安定している。たとえば、ゲート層61の厚さが60nmから100nmへ増加しても(
図16参照)、ゲート層61のZn濃度が1×10
19cm
-3から1×10
20cm
-3へ増加しても(
図17参照)、ドレイン電流の大きさに与える影響はほとんど見受けられない。
【0080】
これに対し、ゲート層61がMgを含有している場合は、膜厚およびMg濃度の増加に伴い、ドレイン電流が減少している。たとえば、ゲート層61の厚さが80nmの場合、およびゲート層61のMg濃度が1×10
20cm
-3の場合は、ドレイン電流が非常に小さな値である。すなわち、
図16および
図17からは、ゲート層61がMgを含有している場合、膜厚およびMg濃度の増加に伴いデバイス特性が低下することが見受けられる。
【0081】
図18は、GaN(Zn)およびGaN(Mg)の各膜厚と相互インダクタンス(gm)との関係とを示すグラフである。
図19は、GaN(Zn)およびGaN(Mg)の各不純物濃度とドレイン電流との関係とを示すグラフである。
【0082】
図18および
図19に示すように、ゲート層61がZnを含有している場合は、膜厚およびZn濃度の増加に伴い、相互インダクタンス(gm)が下がる傾向にあるが、HEMTデバイスとしての動作を確認できた。たとえば、
図18に示すように、ゲート層61の膜厚が60nmから100nmへ増加すると、ゲート電極34と二次元電子ガス29との距離が長くなり、相互インダクタンス(gm)が下がる傾向にある。
【0083】
これに対し、ゲート層61がMgを含有している場合は、膜厚およびMg濃度の増加に伴い、相互インダクタンス(gm)が急激に低下するポイントが見受けられる。たとえば、ゲート層61の厚さが80nmの場合、およびゲート層61のMg濃度が1×10
20cm
-3の場合は、相互インダクタンス(gm)が0となり、HEMTデバイスとしての動作を確認できなかった。すなわち、
図18および
図19からも、ゲート層61がMgを含有している場合、膜厚およびMg濃度の増加に伴いデバイス特性が低下することが見受けられる。
【0084】
図20は、GaN(Zn)およびGaN(Mg)の各膜厚とゲートリーク電流との関係とを示すグラフである。
図21は、GaN(Zn)およびGaN(Mg)の各不純物濃度とゲートリーク電流との関係とを示すグラフである。
【0085】
図20に示すように、ゲート層61がZnを含有している場合は、膜厚の増加に伴い、ゲートリーク電流が減少することを確認できる。一方、
図21に示すように、ゲート層61のZn濃度の増減がゲートリーク電流の大きさに与える影響ついては、特に確認できない。
【0086】
これに対し、ゲート層61がMgを含有している場合は、
図20に示すように、ゲート層61の膜厚が60nmを境界にして、60nmより薄くても厚くても、ゲートリーク電流の増加が見受けられる。一方、
図21に示すように、ゲート層61のMg濃度の増減がゲートリーク電流の大きさに与える影響ついては、Znの場合と同様に、特に確認できない。すなわち、
図20から、ゲートリーク電流を減少させるには、Znを含有するゲート層61を採用し、さらに、ゲート層61の膜厚を大きくすることが好ましいことが分かる。
【0087】
また、
図22および
図23に示すように、Znは、GaNに対するドーピングの制御性が、Mgに比べて優れている。たとえば、
図22に示すように、ドーピングの立ち上がり挙動に関して、Mgは供給プロファイルに従った濃度でドーピングされず、濃度にばらつきが生じる。一方、Znは、ほぼ供給プロファイルに従ってドーピング濃度が安定している。
【0088】
さらに、
図23に示すように、GaN表面から段階的に供給濃度を増加させ、GaN表面から深くZnをドーピングする場合でも、ドーピングプロファイル形状が、供給プロファイル形状にほぼ一致している。すなわち、Mgは、メモリ効果の影響により、ドーピングプロファイルを制御することが、Znに比べて難しい。
【0089】
図24は、ZnドープHEMTのTDDB測定の結果を示す図である。
図25は、ゲート電流と破壊時間との関係を示す図である(Znのみ)。
図26は、ゲート電流と破壊時間との関係を示す図である(ZnとMgとの比較)。
【0090】
次に、GaN(Zn)およびGaN(Mg)それぞれのゲート層61を備えるHEMTに対して、TDDB(Time Dependent Dielectric Breakdown)試験を行い、ZnおよびMgドープのどちらのゲート層が短時間で破壊するかを比較した。なお、ゲート層61の厚さは100nmとし、ZnおよびMgそれぞれの濃度は5×1019cm-3とした。
【0091】
図24および
図25に示すように、ZnドープHEMTでは、ゲート電圧Vgを8.5V、9V、9.5Vおよび10Vと高くするほど、ゲートリーク電流が大きくなり、ゲート層61の破壊に至るまでの時間t
Bが短くなっている。そして、
図26に示すように、GaN(Zn)およびGaN(Mg)を比較すると、同じ大きさのゲートリーク電流が流れていても、GaN(Zn)の方が、GaN(Mg)よりも、破壊に至るまでの時間t
Bが短いことが分かる。すなわち、
図24~
図26から、ゲートの信頼性を高めるためには、Znを含有するゲート層61を採用し、さらに、ゲート層61の膜厚を大きくすることが好ましいことが分かる。
【0092】
図27~
図30は、Mgドープ(Mg含有ゲート層61を備える)HEMTのId-Vg特性を示す図である。
図31~
図34は、Znドープ(Zn含有ゲート層61を備える)HEMTのId-Vg特性を示す図である。
【0093】
次に、MgドープHEMTおよびZnドープHEMTのId-Vg特性が、ゲート層61の膜厚およびMg,Zn濃度にどのように依存しているかについて調べた。なお、Id-Vg特性の測定にあたっては、Vd=1.0Vとし、ゲート層61の膜厚およびMg,Zn濃度を変数とした。また、
図27~
図34において、ゲートしきい値電圧Vthは、ドレイン電流が1.0×10
-4(A)となる時点での電圧を意味している。
【0094】
図27~
図30に示すように、MgドープHEMTでは、ゲート層61の膜厚が60nmの場合に(
図28)ゲートリーク電流が低くなっているが、ゲート層61の膜厚が60nmを境界にして薄い側の40nm(
図27)や、厚い側の80nm(
図29,30)の場合に、ゲートリーク電流の増加が見受けられる。
【0095】
また、MgドープHEMT全般を通して、ノーマリオフ動作は達成されているが、いずれもゲートしきい値電圧Vthが1.0V以上であり、比較的しきい値が高いものである。さらに、ゲート層61の膜厚が80nmおよびMg濃度が9×10
19cm
-3の場合(
図29)には、ドレイン電流が全く安定せず、デバイスとしての機能がほぼ果たされていない。これらから、MgドープHEMTでは、膜厚=60nmおよびMg濃度=3×10
19cm
-3の条件であれば、ゲートリーク電流を低減でき、Id-Vg特性も良好で、かつノーマリオフ動作も達成可能である。しかしながら、条件が非常に狭い範囲であり、また、前述のようにMgのGaNに対するドーピングプロファイルの制御性が低いという観点から、ゲート層61にMgを主として採用することは難しいと考えられる。
【0096】
これに対し、
図31~
図34に示すように、ZnドープHEMTでは、ゲートリーク電流を比較的低くでき、かつId-Vg特性も良好である。さらに、ノーマリオフ動作を達成できる範囲内で、ゲートしきい値電圧Vthを低く抑えることができる(この評価では0.45V以下)。特に、ゲート層61の膜厚が60nm以上で、ゲートリーク電流の低減効果が高くなり、膜厚が80nmでは、ゲートリーク電流を非常に低く抑えることができる。
【0097】
図35は、Zn濃度とゲートしきい値電圧との関係を示す図である。
図36は、GaN(Zn)の膜厚とゲートしきい値電圧との関係を示す図である。
【0098】
次に、Zn濃度およびGaN(Zn)の膜厚とゲートしきい値電圧との関係についても調べた。
図35に示すように、ゲートしきい値電圧Vthは、ゲート層61のZn濃度が増加すればするほど増加する一方、
図36に示すように、ゲート層61の膜厚の増減に対して相関していない。これから、ゲートしきい値電圧はZn濃度に依存するが、ゲート層61の膜厚には依存しないことが分かる。
【0099】
図37は、ZnドープHEMTおよびMgドープHEMTそれぞれのVg-Ron特性を示す図である。
図38は、GaN(Zn)の膜厚とゲート印加電圧との関係を示す図である。
【0100】
上記のように、ZnドープHEMTのゲート層61の膜厚が厚くなるほど、ゲートリーク電流の低減効果が顕著であった。一方で、ゲート層61の膜厚がオン抵抗に影響を与えないか否か調べた。
【0101】
より具体的には、ゲート層61の膜厚およびMg,Zn濃度が異なる複数のサンプルのId-Vg特性(ドレイン電圧Vd=1V)に基づいて、オン抵抗Ronを計算した。その結果、
図37に示すように、ZnドープHEMTのオン抵抗は、ゲート層61の膜厚およびZn濃度によらず、ゲート電圧の増加に伴って低下し、ほぼ一定値に収束することが分かる。ここで、オン抵抗Ron=100ohmの点に着目し、ゲート電圧のゲート層61の膜厚に対する依存性について調べた。
【0102】
その結果、
図38に示す相関関係が得られた。
図38から、ゲート層61の厚さの増加に伴って、100ohmのオン抵抗Ronを得ることができるゲート電圧が増加することが分かる。たとえば、電子走行層8がGaNであるGaN-HEMTは、一般的にゲート電圧=6V程度で動作させる。したがって、ゲート電圧が6Vでのオン抵抗を100ohm以下に留める必要がある。
図38から、ゲート層61の膜厚が165nm以下であれば、HEMTのオン抵抗Ronを100ohm以下に抑えることができることが分かる。よって、
図31~
図34の結果と合わせて、ゲート層61の膜厚は、60nm~165nmの範囲が適している。
【0103】
以上、この実施形態に係る窒化物半導体装置60のように、Znを含有するゲート層61を備えていれば、ゲートリーク電流を低減でき良好なノーマリオフ動作を達成することができる。
【0104】
また、ゲート層61の厚さを適切な範囲に設定することによって、オン抵抗Ronを低く抑えることもできる。
【0105】
なお、この実施形態では、第1不純物層7を備えていないHEMTを用いて、Znを含有するゲート層61の導入による効果を説明したが、第1不純物層7を備えていても何ら問題はない。むしろ、第1不純物層7を備えることによって、Znを含有するゲート層61の導入による効果に加えて、
図1~
図14を用いて示した効果も達成することができる。
【0106】
また、この実施形態の内容から、請求の範囲に記載した発明以外にも、以下のような特徴が抽出され得る。
(1)
電子走行層と、
前記電子走行層上に形成された電子供給層と、
前記電子走行層上に配置されたゲート電極と、
前記電子供給層と前記ゲート電極との間に配置され、かつZnを不純物として含有する窒化物半導体からなるゲート層と
前記ゲート電極を挟むように配置され、前記電子供給層に電気的に接続されたソース電極およびドレイン電極とを含む、窒化物半導体装置。
(2)
前記ゲート層の厚さが60nm以上であり、前記ゲート層のZn濃度が1×1019cm-3以上である、(1)に記載の窒化物半導体装置。
(3)
前記ゲート層の厚さは、60nm~165nmである、(2)に記載の窒化物半導体装置。
(4)
前記ゲート層の厚さは、80nm以上である、(2)または(3)に記載の窒化物半導体装置。
【0107】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0108】
たとえば、前述の実施形態では、第1不純物層7および第2不純物層51に含有される不純物の一例としてZnを挙げたが、価電子帯からのアクセプタ準位の深さ(ET-EV)が0.3eV以上、0.6eV未満である不純物であれば特に制限されない。
【0109】
その他、請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【0110】
本出願は、2017年12月28日に日本国特許庁に提出された特願2017-253202号に対応しており、この出願の全開示はここに引用により組み込まれるものとする。
【符号の説明】
【0111】
1 窒化物半導体装置
2 (基板)第1面
3 (基板)第2面
4 基板
5 半導体積層構造
6 バッファ層
7 第1不純物層
8 電子走行層
9 電子供給層
10 キャップ層
11 第1辺
12 第2辺
13 第3辺
14 第4辺
15 ソース電極膜
16 ゲート電極膜
17 ドレイン電極膜
20 領域
21 表面絶縁膜
22 ソースパッド
23 ゲートパッド
24 ドレインパッド
25 開口
26 開口
27 開口
28 界面
29 二次元電子ガス
30 凹部
31 壁面
32 底面
33 絶縁層
34 ゲート電極
35 第2絶縁層
36 ソースコンタクトホール
37 ドレインコンタクトホール
38 ソース電極
39 ドレイン電極
40 (ソース電極)下層
41 (ソース電極)上層
42 (ドレイン電極)下層
43 (ドレイン電極)上層
44 アクティブ領域
50 窒化物半導体層
51 第2不純物層
52 コンタクト層
53 壁面
54 メサ積層部
55 延出部
60 窒化物半導体装置
61 ゲート層