(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】レーザ装置、光学装置及び方法
(51)【国際特許分類】
H01S 3/098 20060101AFI20221214BHJP
H01S 3/082 20060101ALI20221214BHJP
H01S 3/083 20060101ALI20221214BHJP
G01N 21/65 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
H01S3/098
H01S3/082
H01S3/083
G01N21/65
(21)【出願番号】P 2019561780
(86)(22)【出願日】2018-05-11
(86)【国際出願番号】 GB2018051283
(87)【国際公開番号】W WO2018206980
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-05-06
(31)【優先権主張番号】102017000051935
(32)【優先日】2017-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】501308812
【氏名又は名称】ケンブリッジ エンタープライズ リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】501193001
【氏名又は名称】ポリテクニコ ディ ミラノ
【氏名又は名称原語表記】POLITECNICO DI MILANO
【住所又は居所原語表記】Piazza Leonardo da Vinci,3220133 MILANO-Italy
(73)【特許権者】
【識別番号】511248238
【氏名又は名称】フォンダジオン イスティチュート イタリアーノ ディ テクノロジア
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】ポパ ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】セルロ ジュリオ
(72)【発明者】
【氏名】スコピーニョ トゥリオ
(72)【発明者】
【氏名】ポーリ ダリオ
(72)【発明者】
【氏名】フェラーリ アンドレア
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105826801(CN,A)
【文献】特開2008-177484(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0178439(US,A1)
【文献】特開2017-108017(JP,A)
【文献】特開2010-026027(JP,A)
【文献】特開2015-158482(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0280263(US,A1)
【文献】特開2010-093246(JP,A)
【文献】M. Zhang et al.,"Passive synchronization of all-fiber lasers through a common saturable absorber",OPTICS LETTERS,Vol. 36, No. 20,米国,Optical Society of America,2011年10月15日,pages 3984-3986
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 - 3/02
H01S 3/04 - 3/0959
H01S 3/098- 3/102
H01S 3/105- 3/131
H01S 3/136- 3/213
H01S 3/23 - 4/00
G01N 21/62 -21/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタリングされた光パルスを出力するレーザ装置であって、
第1の利得媒体を備える第1の光キャビティと、
前記第1の利得媒体とは異なる第2の利得媒体を備える第2の光キャビティと、前記第1の利得媒体及び前記第2の利得媒体は、それぞれ励起光源によって励起可能であり、それぞれ波長範囲の異なる光を生成し、
前記第1の光キャビティ及び前記第2の光キャビティの双方に光学的に接続され、前記第1の光キャビティ及び前記第2の光キャビティから出力された光を同期させ、モード同期させるように構成されたシンクロナイザと、
前記第1の光キャビティ及び前記第2の光キャビティから出力された光をそれぞれフィルタリングするように構成され、フィルタリングされた第1の光パルスを第1の所定の波長範囲で出力し、フィルタリングされた第2の光パルスを第2の所定の波長範囲で出力する第1の光フィルタ及び第2の光フィルタと
を備え、
前記第1の光フィルタ又は前記第2の光フィルタの少なくとも一方は、波長可変光フィルタであり、前記第1の所定の波長範囲又は前記第2の所定の波長範囲を、それぞれ変更するように構成され、
前記シンクロナイザは、可飽和吸収体を備え、前記第1の光キャビティ及び前記第2の光キャビティから出力された光パルスの同期及び受動モード同期を行うように構成され
ており、
前記第1の光フィルタ及び前記第2の光フィルタは、それぞれ前記第1の光キャビティ及び前記第2の光キャビティの外部に配置され、
前記第1の光キャビティ及び前記第2の光キャビティは、それぞれ第1の光出口及び第2の光出口から光を出力する、
レーザ装置。
【請求項2】
前記波長可変光フィルタは、エタロンを用いた光ファイバの波長可変光フィルタを含む、請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
光又はフィルタリングされた光パルスを増幅するために、
前記第1の利得媒体を用いてドープ処理された第1のファイバ増幅器を前記第1の光出口にさらに備え、
前記第2の利得媒体を用いてドープ処理された第2のファイバ増幅器を前記第2の光出口にさらに備える、請求項
1又は2に記載のレーザ装置。
【請求項4】
前記シンクロナイザは、グラフェン又は炭素同素体を含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載のレーザ装置。
【請求項5】
前記レーザ装置は、ファイバーレーザである、請求項1~
4のいずれか1項に記載のレーザ装置。
【請求項6】
前記レーザ装置は、オールファイバーレーザである、請求項
5に記載のレーザ装置。
【請求項7】
前記第1の光キャビティ及び前記第2の光キャビティは、それぞれ等方性の光ファイバを含む、請求項
5又は
6に記載のレーザ装置。
【請求項8】
前記第1の光キャビティ及び前記第2の光キャビティは、それぞれ
シングルモードの光ファイバを含む、請求項
5~
7のいずれか1項に記載のレーザ装置。
【請求項9】
前記第1の光キャビティ及び前記第2の光キャビティの一方が、前記第1の光キャビティ及び前記第2の光キャビティの長さを合わせるための光遅延線を備える、請求項1~
8のいずれか1項に記載のレーザ装置。
【請求項10】
前記光遅延線は、ファイバピッグテールを備えた光遅延線を含む、請求項
9に記載のレーザ装置。
【請求項11】
前記利得媒体は、イッテルビウム又はエルビウムの一方を含む、請求項1~
10のいずれか1項に記載のレーザ装置。
【請求項12】
前記所定の波長範囲は、1040nm~1080nm及び/又は1535nm~1600nmの範囲を含む、請求項1~
11のいずれか1項に記載のレーザ装置。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか1項に記載のレーザ装置と、
フィルタリングされた光パルスを平行にするように構成された2つのコリメータと
を備える、光学装置。
【請求項14】
前記2つのコリメータの双方から出力された平行な光パルスを重ねるように構成された2つのダイクロイックミラーをさらに備える、請求項
13に記載の光学装置。
【請求項15】
フィルタリングされた光パルスをレーザ装置から出力する方法であって、
第1の利得媒体を備える第1の光キャビティと、前記第1の利得媒体とは異なる第2の利得媒体を備える第2の光キャビティにより、それぞれ波長範囲の異なる光を生成するステップであって、前記第1の利得媒体及び前記第2の利得媒体は、励起光源によって励起される、ステップと、
前記第1の光キャビティ及び前記第2の光キャビティの双方に光学的に接続されたシンクロナイザを用いて、第1の光キャビティ及び第2の光キャビティから出力された光を同期させ、モード同期させるステップと、
第1の光フィルタ及び第2の光フィルタを用いて、前記第1の光キャビティ及び前記第2の光キャビティから出力された光を、それぞれフィルタリングするステップと、
第1の所定の波長範囲のフィルタリングされた第1の光パルスを前記第1の光フィルタから出力し、第2の所定の波長範囲のフィルタリングされた第2の光パルスを前記第2の光フィルタから出力するステップと、
前記シンクロナイザを用いて、前記第1の光キャビティ及び前記第2の光キャビティから出力された光の同期及び受動モード同期を行うステップと
を含み、
前記シンクロナイザは、可飽和吸収体を備え、
前記第1の光フィルタ又は前記第2の光フィルタの少なくとも一方は、波長可変光フィルタであり、
前記フィルタリングするステップは、前記波長可変光フィルタを調整して、前記第1の所定の波長範囲又は前記第2の所定の波長範囲を変更するステップを含
み、
前記第1の光フィルタ及び前記第2の光フィルタは、それぞれ前記第1の光キャビティ及び前記第2の光キャビティの外部に配置され、
前記方法はさらに、前記第1の光キャビティの第1の光出口から光を出力し、前記第2の光キャビティの第2の光出口から光を出力するステップを含む、
方法。
【請求項16】
前記波長可変光フィルタは、エタロンを用いた光ファイバの波長可変光フィルタを含む、請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
前記第1の利得媒体でドープ処理された第1のファイバ増幅器を用いて、光又はフィルタリングされた光パルスを、前記第1の光キャビティの第1の光出口において増幅するステップと、
前記第2の利得媒体でドープ処理された第2のファイバ増幅器を用いて、光又はフィルタリングされた光パルスを、前記第2の光キャビティの第2の光出口において増幅するステップと
をさらに含む、請求項
15又は16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ装置に関し、特に、コヒーレントラマン散乱で使用するレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ラマン分光法により、ラベルを使用しない組織や細胞の化学的なサインが可能となる。これは、単一の連続波レーザを用いた分子のラマン散乱効果を利用する。このような自然のラマン散乱は弱いため、ラマン分光法は、通常、時間がかかる。コヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS)や誘導ラマン散乱(SRS)等のコヒーレントラマン散乱(CRS)は、分子の非線形的な励起に依存しており、ラマン強度を大幅に高めることができる。理論的には、このようにラマン強度を高めることにより、ビデオレートのイメージング速度で測定を行うことができ、これは、理論的には、様々な分野においてCRSを応用できることを意味する。
【0003】
CRSでは、2つのレーザ光源から出力された同期した超高速のレーザ、少なくともピコ秒のレーザを使用する必要があり、ラマン周波数及び帯域幅が一致する励起パルス及びストークスパルスを用いて、サンプル内に振動コヒーレンスを発生させて検出する。現在、光パラメトリック発振器を励起する固体レーザは、全てのラマンスペクトル(0~4000cm-1)を使用できるため、CRSのレーザ光源として広く利用されている。そのような固体レーザ装置は、ドープ処理された結晶又はガラスの塊を、利得媒体として備えるため、大きな光学素子を使用する必要がある。したがって、これらは調整不良や不安定になり易いだけでなく、それらを使用することで資本コストが高くなる。さらに、設置面積が大きいため、臨床現場で効果的に配置することが難しい。例えば、異なる病棟の間を簡単に移動させることができず、取り扱いが不便である。
【0004】
ファイバー型レーザは、設置面積が小さく、よりシンプルで費用対効果の高い励振源であるため、近年、その人気が高まっている。また、光パラメトリック発振器を励起する固体レーザと比べて信頼性が高く、調整が不要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】チャン(Zhang)等著、「共通の可飽和吸収体を用いたオールファイバーレーザの受動的な同期(Passive synchronization of all-fiber lasers through a common saturable absorber)」、オプティクスレター(Optics Letter)、2011年
【文献】チャン(Zhang)等著、「超高速のファイバーレーザ光源:最近の開発例(Ultrafast fibre laser sources: Example of recent developments)」、オプティカルファイバーテクノロジー(Optical Fiber Technology)、2014年
【文献】ソト(Sotor)等著、「共通のグラフェン可飽和吸収体によって改善された、エルビウム及びツリウムでドープ処理されたファイバモード同期レーザの受動的な同期(Passive synchronization of erbium and thulium doped fiber mode-locked lasers enhanced by common graphene saturable absorber)」、オプティクスエクスプレス(Optics Express)、2014年
【文献】スー(Su)等著、「コヒーレントラマン散乱のための単一ファイバーレーザを用いた波長可変励起(Single-fiber-laser-based wavelength tunable excitation for coherent Raman spectroscopy)」、ジェイ・オプト・ソック・エイエム・ビー(J.Opt.Soc.Am.B)、2013年
【0007】
特許文献1は、超短光パルスを生成可能なパルスファイバーレーザを開示している。パルスファイバーレーザは、利得媒体として希土類元素でドープ処理されたファイバを有する光リング共振器を備える。使用時には、利得媒体は、励起光源に応答して、共振器で光学利得を生成する。パルスの生成を促進するために、カーボンナノチューブ(CNT)が、非線形の光吸収体又は可飽和吸収体の材料として採用され、連続波レーザを超高速光パルス列に変換する。可飽和吸収体は、特定の光損失を有する光学素子であり、光損失は光強度が高いと減少する。パルスが、光リング共振器内を伝搬して可飽和吸収体に衝突する度に、可飽和吸収体による吸収を飽和させるため、光損失が一時的に減少する。光強度が僅かに高い光は、光強度の低い光よりも可飽和吸収体を僅かに多く飽和させるため、共振器における各周回において、可飽和吸収体は、光強度が僅かに高い光を好む。周回を重ねることにより、単一のパルスが残る。
【0008】
異なる2つのレーザ光源から同期した光パルスを生成するために、受動モード同期(passive mode locking)技術を利用した二波長の超高速レーザ光源の同期に関する分野における最新の研究がある。この技術では、2つのレーザ光源で共有する共通の可飽和吸収体を使用する必要があり、例えば、異なる希土類元素材料でドープ処理した2つのファイバーキャビティに、共通の可飽和吸収体を光学的に接続する。
【0009】
非特許文献1は、共有の単層のカーボンナノチューブ吸収体を用いて接続された、1μm及び1.54μmで動作する2つのオールファイバーモード同期レーザの同期について開示している。さらに、非特許文献2には、超高速の小型のオールファイバーレーザの分野における最近の開発が要約されている。より詳細には、非特許文献2は、グラフェン及び単層のカーボンナノチューブを受動素子として使用し、接続された2つの光キャビティにおいて、レーザパルスの同期と受動モード同期を行うことを開示している。光キャビティは、イッテルビウム又はエルビウムでドープ処理したファイバの利得媒体を備え、ポンププローブ分光法のための二波長光パルスを生成する。
【0010】
非特許文献3は、共通のグラフェンの可飽和吸収体を用いて、エルビウム及びツリウムの一方でドープ処理したファイバの利得媒体を備える2つのループ共振器から出力された光パルスを同期する方法について開示する。非特許文献3では、2μmの光パルスを生成するために、1569nmのレーザダイオードを用いて、ツリウムの利得媒体を励起する。波長分割マルチプレクサ(WDM)フィルタが配置され、吸収されなかった励起光のうち波長が1569nmのものを除去し、吸収されなかった励起光は、エルビウムループ共振器に送られ、1.5μmの光パルスとして出力される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特に、ファイバーレーザ及びオールファイバーレーザを使用することにより、CRSのレーザ光源が小型化され、移動可能な測定システム又は容易に持ち運び可能な測定システムが実現する。また、このようなレーザは、調整が不要である。重要なことは、これが、その潜在的な用途を様々な分野に応用できることである。しかしながら、ファイバーレーザで生成された、同期したモード同期の2重のレーザパルスは、通常、波長が広い。または、非特許文献3の場合では、レーザパルスには、所望しない波長でピークになる吸収されていない励起光が含まれる。その結果、CRSで使用すると、測定精度が大幅に低下してしまう。
【0012】
非特許文献4は、コヒーレントラマン散乱のための単一のレーザ光源を開示する。非特許文献4では、励起パルスとストークスパルスとの周波数の違いは、非線形の光ファイバにおけるソリトン自己周波数シフトによって生成される(ソリトンは、一定の速度で伝搬する間、その形状を維持する波束である)。CRSスペクトル分解能を高めるための他の方法の1つとして、狭帯域の光フィルタを励起光及びストークス光の双方に適用することが開示されている。しかしながら、これにより、励起光及びストークス光の双方の光パワーが大幅に減少するため、光フィルタリングよりも、(信号の周波数が時間とともに変化する)チャーピングの方が優れていることについても開示されている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本出願人は、フィルタリングされた光パルスを出力して、サンプル内にコヒーレントラマン散乱を起こすレーザ装置を提供することにより、CRSの測定精度の改善に関する上記の問題を解決した。レーザ装置は、第1の利得媒体を備える第1の光キャビティと、第1の利得媒体とは異なる第2の利得媒体を備える第2の光キャビティとを備える。第1の利得媒体及び第2の利得媒体は、それぞれ励起光源によって励起され、波長範囲の異なる光を生成する。換言すれば、2つの光キャビティが提供される。また、レーザ装置は、第1の光キャビティ及び第2の光キャビティの双方に光学的に接続されたシンクロナイザと、第1の光フィルタ及び第2の光フィルタとを備え、シンクロナイザは、第1の光キャビティ及び第2の光キャビティから出力された光を、同期させ、モード同期(mode locking)するように構成され、第1の光フィルタ及び第2の光フィルタは、第1の光キャビティ及び第2の光キャビティから出力された光を、それぞれフィルタリングし、第1の所定の波長範囲のフィルタリングされた第1の光パルスを出力し、第2の所定の波長範囲のフィルタリングされた第2の光パルスを出力するように構成される。
【0014】
このようにして、非侵襲的でイメージング処理の速いCRSを可能にするレーザ装置が提供されることは、非常に意義がある。すなわち、CRSによって検出された振動応答に基づいて、詳細な分子組成を測定することにより、客観的で定量的な組織の情報を得ることができる。また、レーザ装置の例は、ポンププローブ実験に有用なツールを提供し、また、パラメトリックミキシングと、周波数のアップコンバージョン及びダウンコンバージョンに適した励起源を提供する。
【0015】
概して、説明するレーザ装置では、レーザ装置の各光キャビティは、利得素子と、等方性のシングルモードファイバとを備える。半分が挿入されたファイバピッグテールを備えた光遅延線を用いて、光共振器の長さを同じにすることができる。可飽和吸収体が使用され、光強度に応じた損失を用いてキャビティ内のパルスの強度を高め、吸収性の非線形接続によって同期を調整し、すなわち、パルス(プローブ)は、高エネルギーパルス(励起)によって損失が減少する。光キャビティ内又は光キャビティの出力の一方に配置された調整可能なフィルタステージを用いて、周波数を調整することができる。同期発振器に続いて、ファイバー増幅器が、2つの分岐の平均パワーを、適用例に必要な数百mWレベルに増加させる。すなわち、独立した2つのレーザ媒質が、同調してモード同期され、CRSのためのマルチカラーのパルスシーケンスが提供される。受動的な同期は、ナノ材料の可飽和吸収体を共用することによって実現される。周波数離調は、キャビティ内又はキャビティ外に配置された調整可能なフィルタステージによって実現される。
【0016】
具体的には、説明する例では、レーザ装置は、CRSのために、ナノ材料の超高速の同期式ファイバーレーザを使用する。ナノ材料、例えば、グラフェン、炭素同素体、層状結晶、ハイブリッドナノ材料等を用いた可飽和吸収体又はシンクロナイザの相互作用により、独立した2つのモード同期ファイバーレーザは、同期される(すなわち、パルスの繰り返し率が同じになる)。
【0017】
CRSの既知の実装、すなわち、必要とされる、周波数の異なる2つの独立したピコ秒のパルスのうちの一方が、パラメトリック増幅によって生成される実装とは対照的に、本明細書で説明するレーザ装置では、異なる周波数で放射する異なるレーザ媒質が、ナノ材料を用いて受動的に同期されるため、CRSに必要なマルチカラー(マルチ周波数)のパルスシーケンスの生成が大幅に簡素化される。
【0018】
説明する例では、共通のキャビティセグメント内のグラフェンを用いた高分子複合体の可飽和吸収体(GSA)の相互作用によって同期される、独立した2つのモード同期発信器又は光キャビティが提供される。GSAは、グラファイトの塊を緩やかな超音波処理によって剥離することにより作製される。単層のグラフェン及び数層のグラフェンを含む分散体は、ポリビニルアルコール水溶液と混合され、高分子複合体材料が生成される。各発振器は、利得素子と、イッテルビウム及びEbと、光アイソレータと、調整可能なバンドパスフィルタとを備える。ヒューズファイバー結合器は、各キャビティの出力をそれぞれ30%にする。共振器の長さは、レーザ装置のアーム又はループであるエルビウムの半分に挿入されたファイバピッグテールを備えた光遅延線を用いて同じにされ、これは、同期状態における18MHz以下のパルス繰り返し率に相当する。
【0019】
説明する例では、GSAを用いてモード同期処理を開始及び促進し、グラフェンの特有の超広帯域の非線形な応答を利用して同期を調整する。イッテルビウム(励起)及びエルビウム(ストークス)波長の同期された2色のレーザの2つ出力が、イッテルビウム及びエルビウムでドープ処理されたファイバー増幅器において、平均パワーが100mWに増幅される。次に、2つの光が、平行にされ、同期され、ダイクロイックミラー配列を用いて重ねられた後、テスト用のメタノールサンプルに照射され、CARSを検出するために、バンドパスフィルタによってフィルタリングされる。共振器内の遅延線の光学距離を調整することにより、レージング特性が、受動的な同期のモード同期に変更される。レーザの動作波長は、キャビティ内の調整可能フィルタにより、レーザ装置の各アーム又はループについて、1040~1080nm(Yb)及び1535~1560nm(Er)の範囲で調整できる(~2750~3200cm-1の周波数離調に相当する)。
【0020】
本明細書で説明するレーザ装置は、ファイバーレーザを受動的に同期させ、CRSのための非常によりシンプルで低コストのレーザ光源を提供する。ファイバーレーザは、よりシンプルでコンパクトであり、設計の費用対効果が高く、調整が不要で大きな光学構成を必要としないため、ロバストで安定した光源を実現する。
【0021】
以下に説明するように、本明細書に記載のレーザ装置の例は、CARSに適用されるため、このコンセプトを証明している。説明する例は、小型であり、全光学的な同期が可能であるため、高波数領域におけるCRSの優れたソースである。
【0022】
様々な態様における本発明は、本明細書において参照すべき、以下の独立請求項によって規定される。任意の機能は、従属請求項に記載されている。
【0023】
以下、複数の配置について、より詳細に説明しており、フィルタリングされた光パルスを出力して、サンプル内にコヒーレントラマン散乱を起こすレーザ装置を採用する。レーザ装置は、第1の利得媒体を備える第1の光キャビティと、第1の利得媒体とは異なる第2の利得媒体を備える第2の光キャビティとを備える。第1の利得媒体及び第2の利得媒体は、それぞれ励起光源によって励起可能であり、波長範囲の異なる光を生成する。シンクロナイザは、第1の光キャビティ及び第2の光キャビティの双方に光学的に接続される。シンクロナイザは、第1の光キャビティ及び第2の光キャビティから出力された光を同期させ、モード同期するように構成される。また、レーザ装置は、第1の光フィルタと、第2の光フィルタとを備える。第1の光フィルタ及び第2の光フィルタは、それぞれ第1の光キャビティ及び第2の光キャビティから出力された光をフィルタリングし、第1の所定の波長範囲のフィルタリングされた第1の光パルス及び第2の所定の波長範囲のフィルタリングされた第2の光パルスを出力するように構成される。
【0024】
任意で、レーザ装置は、ファイバーレーザとすることができる。任意で、レーザ装置は、オールファイバーレーザとすることができる。任意で、第1の光キャビティ及び第2の光キャビティは、等方性の光ファイバを備えることができる。任意で、第1の光キャビティ及び第2の光キャビティは、それぞれシングルモードの光ファイバを備えることができる。
【0025】
シンクロナイザにより、超高速のレーザパルスの同期と位相同期(phase-locking)が可能になり、ファイバーレーザ光源から出力された2つのレーザパルスを重ねることができ、これにより、コヒーレントラマン散乱に必要な設置面積全体を削減することができる。光パルスは、既定の波長範囲内の光パルスのみがコヒーレントラマン散乱へ出力されるように、フィルタリングされ、より正確な測定値が得られる。さらに、同期され、モード同期された2つのレーザ光源を使用することにより、励起パルス及びストークスパルスの光パワーに対する光フィルタの影響が大幅に減少するため、CRSのための汎用性の高い選択肢となる。
【0026】
別の実施形態では、フィルタリングされた光パルスを出力してサンプル内にコヒーレントラマン散乱を起こすレーザ装置が提供される。レーザ装置は、第1の利得媒体を備える第1の光キャビティと、第2の利得媒体を備える第2の光キャビティと、第1の光キャビティ及び第2の光キャビティの双方に光学的に接続されたシンクロナイザと、第1の光フィルタと、第2の光フィルタとを備え、第1の利得媒体及び第2の利得媒体は、それぞれ励起光源によって励起可能であり、波長範囲の異なる光を生成し、シンクロナイザは、第1の光キャビティ及び第2の光キャビティから出力された光を同期させ、モード同期させるように構成され、第1の光フィルタ及び第2の光フィルタは、それぞれ第1の光キャビティ及び第2の光キャビティから出力された光をフィルタリングし、第1の所定の波長範囲のフィルタリングされた第1の光パルスを出力し、第2の所定の波長範囲のフィルタリングされた第2の光パルスを出力するように構成される。
【0027】
任意で、第1の光フィルタ又は第2の光フィルタの少なくとも1つは、波長可変光フィルタとし、第1の所定の波長範囲又は第2の所定の波長範囲を個別に変更するように構成することができる。
【0028】
任意で、第1の光フィルタ又は第2の光フィルタの双方は、波長可変光フィルタとし、第1の所定の波長範囲及び第2の所定の波長範囲を個別に変更するように構成することができる。波長可変光フィルタにより、ユーザーが波長範囲を指定できるため、測定対象のサンプルに応じて、励起光パルス及びストークス光パルスの波長範囲を変えることができる。
【0029】
任意で、波長可変光フィルタは、エタロンを利用する光ファイバの波長可変光フィルタ(etalon based fiber optic tunable filter)を含む。エタロンは、その特定の厚さと屈折率によって各透過ピークの帯域幅が決まる誘電体であり、最大の透過において1つの波長のみが透過する。エタロンを利用する光ファイバの波長可変光フィルタは、材料の媒質の屈折率を選択することにより、特定の共振波長を選択する。共振器の光路長と共鳴する波長は透過するが、他の波長は反射される。
【0030】
任意で、第1の光フィルタ及び第2の光フィルタは、それぞれ第1の光キャビティ及び第2の光キャビティ内に配置でき、第1の光キャビティ及び第2の光キャビティは、それぞれフィルタリングされた光パルスを、第1の光出口及び第2の光出口から出力することができる。光フィルタを光キャビティ内に配置することにより、所望しない波長範囲の光パルスが生成直後に除去される。
【0031】
任意で、第1の光フィルタ及び第2の光フィルタは、それぞれ第1の光キャビティ及び第2の光キャビティの外部に配置でき、第1の光キャビティ及び第2の光キャビティは、それぞれ第1の光出口及び第2の光出口で光パルスを出力することができる。光フィルタを光キャビティの外部に配置することにより、再び周回するフィルタリングされた光パルスを繰り返しフィルタリングする必要がなくなり、シンプルでコンパクトな光キャビティを構築することができる。
【0032】
任意で、レーザ装置はさらに、光パルス又はフィルタリングされた光パルスを増幅するために、第1の利得媒体でドープ処理された第1のファイバ増幅器を第1の光出口に備え、第2の利得媒体でドープ処理された第2のファイバ増幅器を第2の光出口に備えることができる。これにより、増幅された光パルスが、正しい波長で増幅される。増幅器を用いることにより、光フィルタが設置された場合の光パワーの低下を抑制することができる。
【0033】
任意で、シンクロナイザは、グラフェン又は炭素同素体、例えばカーボンナノチューブを備えることができる。グラフェンは、赤外線の任意の波長においてレーザを同期させることができるため、シンクロナイザは、任意でグラフェンを備えることができる。
【0034】
任意で、シンクロナイザは、可飽和吸収体を備え、第1の光キャビティ及び第2の光キャビティから出力された光パルスの同期及び受動モード同期を行うように構成することができる。可飽和吸収体を用いることにより、異なるレーザ光源から、同期した超高速のモード同期レーザパルスを生成することができる。
【0035】
任意で、第1の光キャビティ及び第2の光キャビティの一方は、第1の光キャビティ及び第2の光キャビティの長さを合わせるための光遅延線を備えることができる。任意で、光遅延線は、ファイバピッグテールを備えた光遅延線を含む。光キャビティの一方で遅延線を用いて、光キャビティの長さを揃えることにより、異なる光キャビティのペアリングが可能になる。
【0036】
任意で、レーザ利得媒体は、イッテルビウム又はエルビウムを含み、レーザ利得媒体によって生成される所定の波長範囲は、0~4000cm-1の全てのラマンスペクトルに相当する。
【0037】
任意で、所定の波長範囲は、1040nm~1080nm及び/又は1535nm~1600nmの範囲とすることができる。
【0038】
別の実施形態では、光学装置と、フィルタリングされた光パルスを平行にするように構成された2つのコリメータが提供される。これにより、フィルタリングされた光パルスの発散を制限することができる。任意で、コリメータの1つは、測定サンプルにおける重ね合わせを実現するように構成された遅延ステージを備えることができる。
【0039】
任意で、光学装置は、2つのコリメータの双方から出力された平行な光パルスを重ねるように構成された2つのダイクロイックミラーをさらに備えることができる。
【0040】
任意で、レーザ装置は、CARSを検出する前に、フィルタリングされた一対の光パルスを除去するバンドパスフィルタ又はショートパスフィルタを備えることができる。
【0041】
別の実施形態では、サンプル内にコヒーレントラマン散乱を起こすために、フィルタリングされた光パルスをレーザ装置から出力する方法が提供される。この方法は、第1の利得媒体を備える第1の光キャビティと、第1の利得媒体とは異なる第2の利得媒体を備える第2の光キャビティを用いて、波長範囲の異なる光を生成するステップを含み、第1の利得媒体及び第2の利得媒体は、それぞれ励起光源によって励起可能である。換言すると、フィルタリングされた光パルスを出力して、サンプル内にコヒーレントラマン散乱を起こすには、2つの光キャビティが必要である。さらに、この方法は、第1の光キャビティ及び第2の光キャビティの双方に光学的に接続されたシンクロナイザを用いて、第1の光キャビティ及び第2の光キャビティから出力された光を同期させ、モード同期させるステップと、第1の光フィルタ及び第2の光フィルタを用いて、第1の光キャビティ及び第2の光キャビティから出力された光をそれぞれフィルタリングするステップと、第1の所定の波長範囲のフィルタリングされた第1の光パルスを第1の光フィルタから出力し、第2の所定の波長範囲のフィルタリングされた第2の光パルスを第2の光フィルタから出力するステップとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0042】
本発明の一例について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【
図1】本発明の一態様を具体化するファイバーレーザの構成の概略図である。
【
図2】
図1のファイバーレーザの構成から出力された、フィルタリングされていない同期したエルビウムレーザパルスのスペクトル及びパルス持続時間を示すグラフである。
【
図3】
図1のファイバーレーザの構成から出力された同期したイッテルビウムレーザパルスのスペクトルを示すグラフである。
【
図4】
図1のファイバーレーザの構成から出力された同期したエルビウムレーザパルスのスペクトルを示すグラフである。
【
図5】
図1に示すファイバーレーザの構成を用いて測定されたメタノールサンプルのCARSスペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図1~
図5を参照して、本発明の実施例に係るサンプル42内にコヒーレントラマン散乱を誘発するレーザ装置10と、当該レーザ装置からフィルタリングされた光パルスを出力する方法について、以下に説明する。
【0044】
初めに、
図1を参照すると、レーザ装置10は、CRSに適した波長範囲の異なる2セットの光パルスを、持続時間がピコ秒のオーダーで生成する、2つの独立したモード同期光キャビティ、発振器又は共振器20a,20bを備える。また、レーザ装置10と同様に、
図1の配置14は、レーザ装置から出力された光パルスを導いてサンプル42に照射する光学素子12を備え、当該サンプル42においてコヒーレントラマン散乱が誘発される。サンプルから出力された光の散乱は、分光計46に入る前に、ショートパスフィルタ又はバンドパスフィルタ44によってフィルタリングされる。
【0045】
より詳細には、
図1のレーザ装置10を続けて参照すると、
図1のレーザ装置の2つの光キャビティ20a,20bは、それぞれループ形状で配置される。光キャビティを構成する光ファイバの端部は、適切な結合器を用いて光学的に接続され、光パルスが各光キャビティの光出口26a,26bから放出するまで、光パルスをループ内を周回させる。さらに、各光出口は、ヒューズファイバー結合器を備え、各キャビティから約30%を出力する。モード同期式の光キャビティは、それぞれ光キャビティ20a,20bに対応する励起光源22a,22bを備え、光キャビティ20a,20bの内部に配置され又は堆積した利得素子24a,24bを励起する。この例では、利得素子24a,24bは、希土類元素の利得素子でドープ処理された光ファイバである。このような利得素子を使用するレーザ装置は、一般にファイバーレーザと呼ばれる。
【0046】
励起光源22a,22b及び利得素子24a,24bは、CRSに必要な光スペクトルに応じて選択される。
図1に示す例では、異なる2つの光ファイバを利得素子として使用する。一方の光ファイバは、希土類元素であるイッテルビウム(Yb)24aの利得素子によってドープ処理される。他方の光ファイバは、希土類元素であるエルビウム(Er)24bの利得素子によってドープ処理される。この例では、利得素子を励起する励起光源は、波長が976nmの励起光源22aであり、イッテルビウムでドープ処理されたファイバを励起し、波長が980nmの励起光源22bは、エルビウムでドープ処理されたファイバを励起する。イッテルビウム及びエルビウムの利得媒体から生成された光パルスは、励起波長及びストークス波長が、所望の範囲内になる。
【0047】
光アイソレータ28a,28bは、各光キャビティ20a,20b内の利得媒体22a,22bの光出口に光学的に接続される。これは、光キャビティの利得媒体22a,22bによって生成された光パルスが、光キャビティを形成するループ内で、単一方向、すなわち一方向にのみ伝搬することを保証するためである。すなわち、利得媒体22a,22bから生成された光パルスは、光出口に向かう。この例では、光アイソレータ28a,28bは、ファイバを用いたファラデーアイソレータである。
【0048】
各光キャビティ20a,20bで生成された一対の光パルスは、適切なシンクロナイザ30を用いて同期される。シンクロナイザは、光キャビティ20a,20bを形成する双方のループによって共有される。シンクロナイザは、双方のループの一部を構成する。この例では、シンクロナイザとして、可飽和吸収体30を採用する。可飽和吸収体の機能については、上記背景技術において説明している。可飽和吸収体は、高い光強度において吸収度が低下する光吸収体である。これにより、レーザ装置10では、受動的にモード同期されたパルスが、各光キャビティ内を周回することができる。より詳細には、可飽和吸収体は、モード同期動作を開始及び促進し、光パルスの同期を調整するように機能する。すなわち、受動モード同期により、フェムト秒の光パルスを生成することができる。飽和吸収体の回復時間は非常に短いため、損失変調の高速化を実現することができる。
【0049】
図1の可飽和吸収体30は、グラフェン高分子複合体の可飽和吸収体であり、回復時間が非常に短く、広帯域の動作が可能である。グラフェンは、電子がディラックポイントにおいてポイントバンドギャップで線形分散するため、赤外線の任意の波長においてレーザを同期する受動素子として使用される。ここで採用するグラフェン可飽和吸収体30は、グラファイトの塊を緩やかな超音波処理によって剥離することによって作製され、生成された単層のグラフェンと数層のグラフェンを含む最初の分散体をポリビニルアルコール水溶液と混合することにより、高分子複合体が生成される。代替的に、受動モード同期及び光パルスの同期を行うために、他の可飽和吸収体、例えば、単層のカーボンナノチューブ(CNT)を含む可飽和吸収体を用いてもよい。
【0050】
一対の光キャビティ20a,20bは、同じである必要はない。2つの光キャビティ20a,20bのキャビティ長の違いは、これらの光キャビティの一方に光遅延線32を追加することによって調整される。この例では、エルビウムを利得媒体として使用する光キャビティを備えるループ又は光キャビティ20bにおいて、光アイソレータ28bの後ろに光遅延線32を配置する。光遅延線32は、ファイバピッグテールを備えた光遅延線32である。ファイバピッグテールを備えた遅延線は、エルビウムを利得媒体として使用する光キャビティ内のアイソレータの光出口に光学的に接続される。これは、同期した状態で約18MHzのパルスの繰り返し率に相当する。
【0051】
各光キャビティ20a,20bで生成される光パルスの波長範囲は、各光キャビティで励起される利得媒体の種類によって決まる。例えば、
図2に示すように、エルビウムから生成された光パルスは、約1500~1650nmの比較的広帯域のスペクトルであり、広帯域のCARSに利用できる。すなわち、100fs未満のパルスが生成される可能性がある。
【0052】
しかしながら、このような広帯域のスペクトルの光パルスは、広帯域のレーザパルスに対応していないCRSの精度に影響を与える可能性がある。したがって、
図1に示すように、光フィルタ34a,34bが、各光キャビティ20a,20bに配置され、所望の波長範囲以外の光パルスを光学的に除去する。この例では、第1の(Yb)光キャビティ20aでは、光フィルタが光アイソレータ28aの下流又は直後に配置され、第2の(Er)光キャビティ20bでは、光フィルタが光遅延線32の下流又は直後に配置される。この例では、光フィルタは、所望の波長範囲を調整してラマン分光法に利用することができる波長可変光フィルタである。しかしながら、光フィルタ34a,34bは、波長が固定の光フィルタ若しくは調整できない光フィルタ、又はバンドパスフィルタ、例えば、リオフィルタでもよい。
【0053】
各光キャビティ20a,20bは、第1の所定の波長範囲のフィルタリングされた第1の光パルスと、第2の所定の波長範囲のフィルタリングされた第2の光パルスを、レーザ装置10から出力する光出口26a,26bを備える。
図1の例では、光出口26a,26bは、光フィルタ34a,34bの下流に配置される。各光出口は、異なるファイバ増幅器36a,36bに接続される。関連するファイバ増幅器は、光パルスの生成に関与する利得媒体24a,24bに対応する利得素子でドープ処理される。
図1の例では、イッテルビウム及びエルビウムでドープ処理されたファイバ増幅器36a,36bは、それぞれ光キャビティ20a,20bに配置され、イッテルビウム(励起)及びエルビウム(ストークス)の波長の光パルスの平均パワーを100mWに増幅する。
【0054】
図1に示す配置又は構成14の光学素子12は、コリメータ38a,38bを備える。レーザ装置10は、各コリメータを介して、フィルタリングされた2つの光パルスを出力する。したがって、フィルタリングされた2つの光パルスが、各コリメータ38a,38bで平行にされると、後続の重ねるステップにおいて下記のダイクロイックミラー40a及び40bによって重ねられたときの発散が制限される。サンプル42において重ね合わる必要がある場合、2つのコリメータのうちの1つを、遅延ステージ38cに配置することができる。
【0055】
また、
図1に示す配置又は構成14の光学素子12は、ダイクロイックミラー40a,40bを備える。ダイクロイックミラーは、各コリメータ38a,38bの下流に配置される。ダイクロイックミラーは、異なる波長において反射特性及び透過特性が異なるミラーである。異なるキャビティから出力された2つの平行な光パルスは、ダイクロイックミラー40a,40bによって重ねられる。次いで、それらがサンプル42に照射される。ショートパスフィルタ44及び分光計46が、サンプルの下流に配置される。サンプルから出力された励起光パルス及びストークス光パルスは、ショートパスフィルタ44によって除去される。ショートパスフィルタは、透過から反射への急速な遷移が可能なフィルタである。生成されたCARSスペクトルは、分光計46で測定される。
【0056】
図1に示すレーザ装置の代替例では、各光キャビティ20a,20bから出力された同期したモード同期光パルスは、各光キャビティにおいてフィルタリングされない。より詳細には、
図2に示すようなフィルタリングされていない広帯域の光パルスが、各光キャビティから出力され、次いで、光キャビティの外に配置された光フィルタによってフィルタリングされる。例えば、生成された光パルスを増幅する前にフィルタリングするために、光出口26a,26bとファイバ増幅器36a,36bの入口との間に光フィルタを配置し、または、光フィルタを各増幅器の出口に接続して、増幅された光パルスをフィルタリングすることができる。光フィルタを備えない光キャビティの構成は、よりシンプルでコンパクトな光キャビティを構築することができる。
【0057】
図1に示す例では、上述したように、波長可変光フィルタ34a,34bは、イッテルビウム光パルス及びエルビウム光パルスの波長を、それぞれ1040~1080nm及び1535~1560nmの範囲に調整するように構成され、これは、約2750~3200cm
-1の周波数離調に相当する。
図3及び4には、フィルタリングされたイッテルビウム光パルス及びエルビウム光パルスの同期した状態のスペクトルの測定値が、それぞれ示されており、調整範囲における半値全幅(FWHM)のスペクトル幅は、それぞれ約1.2nm及び2nmである。
図2のフィルタリングされていないエルビウム光パルスのスペクトルと比較すると、
図4のフィルタリングされたエルビウム光パルスのスペクトルは、所望の波長を対象としているため、CARS測定の精度が向上する。さらに、2つの光パルスの一時的な出力は、バックグラウンドフリー強度自己相関器を用いて測定される。解析したイッテルビウム光パルス及びエルビウム光パルスの双方のFWHMパルス持続時間は、約5ピコ秒であり、それぞれ1060nm及び1550nmで測定される。これにより、CH(炭素水素結合)伸縮バンド(stretching band)について単一周波数のCARS顕微鏡検査が可能になる。
【0058】
図5は、測定されたテスト用のメタノールサンプルのCARSスペクトルを示す。放射における鋭い共鳴ピークが、~2840cm
-1の離調に見られ、これは、メタノール内のCH
3の伸縮に相当する。この測定は、本発明の実施例に係るレーザ装置が、コヒーレントラマン散乱用の光パルスの生成に適しており、高精度のCARS測定を実現することを示している。
【0059】
本発明の実施形態について説明した。本発明の範囲内において、説明した実施形態に変更及び修正を加えることができることは理解されるであろう。