(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】冷却液
(51)【国際特許分類】
C09K 5/10 20060101AFI20221214BHJP
B01J 39/17 20170101ALI20221214BHJP
B01J 39/04 20170101ALI20221214BHJP
B01J 41/04 20170101ALI20221214BHJP
B01J 41/09 20170101ALI20221214BHJP
B01J 39/05 20170101ALI20221214BHJP
B01J 49/12 20170101ALI20221214BHJP
B01J 49/14 20170101ALI20221214BHJP
【FI】
C09K5/10 F
B01J39/17
B01J39/04
B01J41/04
B01J41/09
B01J39/05
B01J49/12
B01J49/14
(21)【出願番号】P 2020004992
(22)【出願日】2020-01-16
【審査請求日】2021-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100144510
【氏名又は名称】本多 真由
(72)【発明者】
【氏名】橋本 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】矢野 一久
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇史
(72)【発明者】
【氏名】福井 健二
(72)【発明者】
【氏名】布施 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】笠松 伸矢
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-057088(JP,A)
【文献】特開2004-281106(JP,A)
【文献】特開2014-185838(JP,A)
【文献】特開2010-260947(JP,A)
【文献】特開2021-17453(JP,A)
【文献】特表2005-533646(JP,A)
【文献】特開昭57-140644(JP,A)
【文献】特開昭50-70288(JP,A)
【文献】特開昭57-82116(JP,A)
【文献】特表2016-527076(JP,A)
【文献】特開2008-111985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00- 33/193
C01B 33/20- 39/54
C09K 5/00- 5/20
B01J 39/00- 49/90
H01M 8/04- 8/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却液であって、
ベース液体と、
複数の細孔を有する多孔質微粒子であって、前記ベース液体中に含有され、イオンを捕獲可能な多孔質微粒子と、
を含み、
前記多孔質微粒子は、
前記複数の細孔の内部に陽イオンを捕獲可能な第1多孔質微粒子と、
前記複数の細孔の内部に陰イオンを捕獲可能な第2多孔質微粒子であって、前記第2多孔質微粒子の表面のゼータ電位が前記第1多孔質微粒子の表面のゼータ電位と同符号である第2多孔質微粒子と、
から成り、
絶縁性である、
冷却液。
【請求項2】
請求項1に記載の冷却液であって、
前記第1多孔質微粒子と前記第2多孔質微粒子の少なくともいずれか一方は、
自身の内部にイオンを捕獲可能な核部と、
前記核部の外周に形成され、酸性度または塩基性度が前記核部より低い外層部と、
を備える、
冷却液。
【請求項3】
請求項1に記載の冷却液であって、
前記第1多孔質微粒子と前記第2多孔質微粒子のいずれか一方は、
自身の内部にイオンを捕獲可能な核部と、
前記核部の外周に形成され、前記核部と異符号の電荷に帯電しており、かつ酸性度または塩基性度が前記核部より低い外層部と、
を備える、
冷却液。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の冷却液であって、
前記ベース液体中の前記多孔質微粒子のゼータ電位の絶対値が16.2mV以上である、
冷却液。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の冷却液であって、
前記多孔質微粒子は、シリカ系メソ多孔体である、
冷却液。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の冷却液であって、
前記多孔質微粒子は、ゼオライト、およびシリカゲルの少なくともいずれか一方である、
冷却液。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の冷却液であって、
前記多孔質微粒子の濃度は、10vol%以下である、
冷却液。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の冷却液であって、
前記多孔質微粒子の直径は、10nm以上3000nm以下である、
冷却液。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の冷却液であって、
前記第1多孔質微粒子および前記第2多孔質微粒子の少なくともいずれか一方は、前記細孔内部が修飾されている、
冷却液。
【請求項10】
請求項2に記載の冷却液であって、
前記第1多孔質微粒子の前記核部の前記細孔内部は、スルホン酸基を含有する官能基によって修飾されており、
前記第2多孔質微粒子の前記核部の前記細孔内部は、アミノ基を含有する官能基によって修飾されている、
冷却液。
【請求項11】
請求項9および請求項10のいずれか一項に記載の冷却液であって、
前記第1多孔質微粒子と前記第2多孔質微粒子の少なくともいずれか一方は、
自身の内部にイオンを捕獲可能な核部と、
前記核部の外周に形成され、酸性度または塩基性度が前記核部より低い外層部と、
を備え、
前記核部の前記細孔内部を修飾する官能基の重量分率は、2wt%以上50wt%以下である、
冷却液。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の冷却液であって、
前記第1多孔質微粒子と、前記第2多孔質微粒子とが、等量含まれる、
冷却液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の冷却系では、液体の熱輸送流体(以下、「冷却液」と称する)を用いた熱輸送システムが採用されている。冷却液を長期間に亘り使用すると、冷却液に混入したイオンにより絶縁性が低下するおそれがある。これに対し、従来、冷却系がイオン交換器を備えることにより、冷却液の絶縁性を確保する技術が用いられている(例えば、特許文献1参照)。また、硬度成分の吸着能力を向上させたイオン交換膜が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
ところで、多孔質構造をもつ物質は高い表面積を有するため、触媒担体、酵素や機能性有機化合物等の固定化担体として広く使用されている。そして、均一で微細な細孔を有する多孔体として、メソ細孔構造を有しポリマーを包含する複合シリカ粒子、メソ細孔構造を有する中空シリカ粒子が提案されている(例えば、特許文献3参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-214348号公報
【文献】特開2018-176051号公報
【文献】特許第5480461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、冷却液の絶縁性の低下を抑制する他の技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
本発明の一形態によれば、冷却液が提供される。この冷却液は、ベース液体と、複数の細孔を有する多孔質微粒子であって、前記ベース液体中に含有され、イオンを捕獲可能な多孔質微粒子と、を含み、前記多孔質微粒子は、前記複数の細孔の内部に陽イオンを捕獲可能な第1多孔質微粒子と、前記複数の細孔の内部に陰イオンを捕獲可能な第2多孔質微粒子であって、前記第2多孔質微粒子の表面のゼータ電位が前記第1多孔質微粒子の表面のゼータ電位と同符号である第2多孔質微粒子と、から成り、絶縁性である。この構成によれば、冷却液において、ベース液体中に第1多孔質微粒子および第2多孔質微粒子が含まれているため、冷却液中に溶出した陽イオン(カチオン)および陰イオン(アニオン)を、多孔質微粒子により捕獲することができる。そのため、冷却液の使用に伴う冷却液の絶縁性の低下を抑制することができる。また、第2多孔質微粒子の表面のゼータ電位が第1多孔質微粒子の表面のゼータ電位と同符号であるため、多孔質微粒子の単分散性を良好にすることができる。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、冷却液が提供される。この冷却液は、ベース液体と、複数の細孔を有する多孔質微粒子であって、前記ベース液体中に含有され、イオンを捕獲可能な多孔質微粒子と、を含み、前記多孔質微粒子は、前記複数の細孔の内部に陽イオンを捕獲可能な第1多孔質微粒子と、前記複数の細孔の内部に陰イオンを捕獲可能な第2多孔質微粒子であって、前記第2多孔質微粒子の表面のゼータ電位が前記第1多孔質微粒子の表面のゼータ電位と同符号である第2多孔質微粒子と、を含む。
【0008】
この構成によれば、冷却液において、ベース液体中に第1多孔質微粒子および第2多孔質微粒子が含まれているため、冷却液中に溶出した陽イオン(カチオン)および陰イオン(アニオン)を、多孔質微粒子により捕獲することができる。そのため、冷却液の使用に伴う冷却液の絶縁性の低下を抑制することができる。また、第2多孔質微粒子の表面のゼータ電位が第1多孔質微粒子の表面のゼータ電位と同符号であるため、多孔質微粒子の単分散性を良好にすることができる。
【0009】
(2)上記形態の冷却液であって、前記第1多孔質微粒子と前記第2多孔質微粒子の少なくともいずれか一方は、自身の内部にイオンを捕獲可能な核部と、前記核部の外周に形成され、酸性度または塩基性度が前記核部より低い外層部と、を備えてもよい。このようにすると、外層部より核部の細孔内部にイオンが捕獲されやすく、多孔質微粒子の表面の電荷状態が変更されにくいため、多孔質微粒子がイオンを捕獲した後も、分散性の低下を抑制することができる。
【0010】
(3)上記形態の冷却液であって、前記第1多孔質微粒子と前記第2多孔質微粒子のいずれか一方は、自身の内部にイオンを捕獲可能な核部と、前記核部の外周に形成され、前記核部と異符号の電荷に帯電しており、かつ酸性度または塩基性度が前記核部より低い外層部と、を備えてもよい。このようにすると、表面のゼータ電位が同符号である第1多孔質微粒子と第2多孔質微粒子を、容易に製造することができる。
【0011】
(4)上記形態の冷却液であって、前記ベース液体中の前記多孔質微粒子のゼータ電位の絶対値が16.2mV以上であってもよい。このようにすると、ベース液体中の多孔質微粒子の単分散性を、より良好にすることができる。
【0012】
(5)上記形態の冷却液であって、前記多孔質微粒子は、シリカ系メソ多孔体であってもよい。シリカ系メソ多孔体は孔径が比較的一定であるため、このようにすると、より安定して冷却液の絶縁性の低下を抑制することができる。
【0013】
(6)上記形態の冷却液であって、前記多孔質微粒子は、ゼオライト、およびシリカゲルの少なくともいずれか一方であってもよい。このようにしても、冷却液の絶縁性の低下を抑制することができる。また、冷却液のコストの上昇を抑制することができる。
【0014】
(7)上記形態の冷却液であって、前記多孔質微粒子の濃度は、10vol%以下であってもよい。このようにすると、圧力損失の上昇を抑制しつつ、熱伝達率を向上させることができる。
【0015】
(8)上記形態の冷却液であって、前記多孔質微粒子の直径は、10nm以上3000nm以下であってもよい。このようにすると、沈殿しにくくなり、多孔質微粒子の分散性を向上させることができる。
【0016】
(9)上記形態の冷却液であって、前記第1多孔質微粒子および前記第2多孔質微粒子の少なくともいずれか一方は、前記細孔内部が修飾されていてもよい。このようにすると、修飾されていない多孔質微粒子と比較して、イオン捕獲性能を向上させることができる。
【0017】
(10)上記形態の冷却液であって、前記第1多孔質微粒子の前記核部の前記細孔内部は、スルホン酸基を含有する官能基によって修飾されており、前記第2多孔質微粒子の前記核部の前記細孔内部は、アミノ基を含有する官能基によって修飾されていてもよい。スルホン酸基は強酸性、アミノ基は強塩基性であるため、イオン捕獲能が高い。そのため、このようにすると、多孔質微粒子の細孔を修飾する官能基を少量にして、孔径の減少を抑制することができ、より多くのイオンを捕獲することができる。
【0018】
(11)上記形態の冷却液であって、前記第1多孔質微粒子と前記第2多孔質微粒子の少なくともいずれか一方は、自身の内部にイオンを捕獲可能な核部と、前記核部の外周に形成され、酸性度または塩基性度が前記核部より低い外層部と、を備え、前記核部の前記細孔内部を修飾する官能基の重量分率は、2wt%以上50wt%以下であってもよい。このようにすると、より絶縁性を良好に維持することができる。
【0019】
(12)上記形態の冷却液であって、前記第1多孔質微粒子と、前記第2多孔質微粒子とが、等量含まれてもよい。第1多孔質微粒子による陽イオン捕獲量と第2多孔質微粒子による陰イオン捕獲量が同じ場合に、冷却液における陰イオン捕獲量と陽イオン捕獲量が略同量になるため、冷却液の絶縁性の低下を適切に抑制することができる。
【0020】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、冷却液を用いる熱輸送システム、その熱輸送システムを備えるシステムなどの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1実施形態における熱輸送システムの概略構成を示す説明図である。
【
図2】第1熱交換器の配置を模式的に示す説明図である。
【
図3】本実施形態の冷却液を説明するための説明図である。
【
図4】第1多孔質微粒子を説明するための説明図である。
【
図5】第2多孔質微粒子を説明するための説明図である。
【
図6】ベース多孔質微粒子の断面形状を模式的に示す説明図である。
【
図7】第1多孔質微粒子および第2多孔質微粒子によるイオンの捕獲を概念的に示す説明図である。
【
図8】第1多孔質微粒子のSEM(走査電子顕微鏡)像の一例を示す図である。
【
図9】第2多孔質微粒子のSEM像の一例を示す図である。
【
図10】第1多孔質微粒子および第2多孔質微粒子の主要諸元の一例を示す図である。
【
図11】粒子濃度と圧力損失との関係を示す図である。
【
図12】粒子濃度と熱伝達比率との関係を示す図である。
【
図13】多孔質微粒子による導電率低下の実施例を示す図である。
【
図14】多孔質微粒子のゼータ電位と平均粒子径を示す図である。
【
図15】比較例の第1熱交換器の配置を模式的に示す説明図である。
【
図16】比較例のイオン交換樹脂粒子によるイオン交換を概念的に示す説明図である。
【
図17】比較例の微粒子の分散性を説明するための説明図である。
【
図18】第2実施形態の第1熱交換器を模式的に示す説明図である。
【
図19】第2多孔質微粒子の第2外層部の厚みと平均粒子径およびゼータ電位との関係を示す図である。
【
図20】
図19に示す各サンプルの第2外層部の厚みを概念的に示す説明図である。
【
図22】第1多孔質微粒子と第2多孔質微粒子を混合した冷却液中のゼータ電位と平均粒子径を示す図である。
【
図23】変形例の多孔質微粒子を説明するための説明図である。
【
図24】変形例の第1熱交換器を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態における熱輸送システム100の概略構成を示す説明図である。熱輸送システム100は、冷却液(液体の熱媒体)を用いて、熱源を放熱させるシステムである。本実施形態の冷却液は、ベース液体と、イオンを捕獲可能な多孔質微粒子とを含む。多孔質微粒子は、陽イオンを捕獲可能な第1多孔質微粒子と、陰イオンを捕獲可能な第2多孔質微粒子と、を含む(後に詳述する)。本実施形態では、ベース液体として、エチレングリコール水溶液を用いている。
【0023】
熱輸送システム100は、第1熱交換器10と、第2熱交換器20と、冷却液タンク30と、バルブ40と、冷却液を送液するポンプ50と、を備える。第1熱交換器10と、第2熱交換器20と、冷却液タンク30と、ポンプ50とは、配管62、63、64、65を介して環状に接続されている。冷却液は、ポンプ50によって、配管62、63、64、65を介して、第1熱交換器10、第2熱交換器20、冷却液タンク30の順に循環している。
【0024】
第1熱交換器10は、冷却液を用いて熱源を放熱させる。本実施形態では、熱源として、電気自動車に搭載された電池CEを例示する。
【0025】
第2熱交換器20は、第1熱交換器10の下流に配置されており、第1熱交換器10を通過した冷却液を放熱させる。本実施形態では、第2熱交換器20としてラジエータを例示する。
【0026】
冷却液タンク30は、内部に冷却液を有する。冷却液は、上述の通り、ベース液体と、第1多孔質微粒子と、第2多孔質微粒子と、を含んでいる。後述するように、第1多孔質粒子と第2多孔質粒子は、単分散性が高いため、ベース液体中に単分散されている。
図1では、冷却液に含まれる微粒子を拡大して図示している。
【0027】
配管64上にはバルブ40が設けられており、例えば、電気自動車の運転中に開弁される。
【0028】
図2は、第1熱交換器10の配置を模式的に示す説明図である。第1熱交換器10は、熱源である電池CEの下に、電池CEと接触して配置され、電池CEと共に絶縁性のケース12に内包されている。第1熱交換器10は、管状に形成された管体の内部を冷却液が流通する構成である。後述するように、本実施形態の冷却液は絶縁性の低下を抑制することができるため、第1熱交換器10をケース12内に配置することが可能である。そのため、第1熱交換器10をケース12の外に配する場合と比較して、第1熱交換器10による熱交換効率を向上させることができる。
【0029】
図3は、本実施形態の冷却液を説明するための説明図である。本実施形態の冷却液は、ベース液体Lと、ベース液体L中に含まれる多孔質微粒子Pを含む。多孔質微粒子Pは、複数の細孔を有し、イオンを捕獲可能である。多孔質微粒子Pとして、陽イオンを捕獲可能な第1多孔質微粒子P1と、陰イオンを捕獲可能な第2多孔質微粒子P2を含む(後に詳述する)。
図3では、第1多孔質微粒子P1に右肩上がりの斜線ハッチングを付し、第2多孔質微粒子P2に右肩下がりの斜線ハッチングを付している。本実施形態における多孔質微粒子は、シリカ系メソ多孔体の単分散球状メソポーラスシリカ(MMSS)であり、第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2とは、細孔内を修飾する官能基が互いに異なる。
【0030】
冷却液は、第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2とを等量含む。本実施形態の冷却液は、第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2を含むことにより、ベース液体L中の絶縁性の低下を抑制し、冷却液の絶縁性を10μS/cm以下に保持可能である。
図2、
図3に示すように、冷却液が第1熱交換器10内を流通する際に、電池CEと熱交換を行い、電池CEを冷却する。
【0031】
図4は、第1多孔質微粒子P1を説明するための説明図である。第1多孔質微粒子P1は、複数の核部細孔CHを備える第1核部C1と、複数の外層部細孔SHを備える第1外層部S1と、を備える、いわゆる「コアシェル構造」を有する。第1核部C1は、核部細孔CHが官能基によって修飾された単分散球状メソポーラスシリカ(MMSS)であり、第1外層部S1は、修飾されていないメソポーラスシリカ層である。以下の説明において、第1核部C1を構成する修飾されていない多孔質微粒子を、「ベース多孔質微粒子」とも呼ぶ。すなわち、第1多孔質微粒子P1は、ベース多孔質微粒子Mとして未修飾のシリカ系メソ多孔体の単分散球状メソポーラスシリカ(MMSS)を用いている。
【0032】
第1核部C1は、ベース多孔質微粒子Mの細孔(核部細孔CH)内を、スルホン酸基を含有する第1官能基R1で修飾したものであり、強酸性粒子である。第1多孔質微粒子P1は、核部細孔CH内に第1官能基R1を有するため、核部細孔CH内に陽イオンを捕獲可能である。第1官能基R1としては、例えば、アルキルスルホン酸基、フェニルスルホン酸基等、スルホン酸基を含有する種々の官能基を用いることができる。第1多孔質微粒子P1の第1核部C1における、官能基の重量分率は、2~50%が好ましい。
【0033】
第1外層部S1は、未修飾のメソポーラスシリカ層であり、弱酸性である。すなわち、第1多孔質微粒子P1の表面(第1外層部S1の表面)のゼータ電位の符号(電荷の符号)は、負(-)である。第1多孔質微粒子P1は、第1核部C1の電荷と第1外層部S1の電荷は共に負(-)であり、同符号であるものの、第1外層部S1の酸性度は第1核部C1の酸性度より低い。そのため、ベース液体L中の陽イオンは、第1核部細孔CH1に、より多く捕獲される。そのため、第1多孔質微粒子P1の表面の電荷状態が変更されにくく、第1多孔質微粒子P1の分散性の低下を抑制することができる。
【0034】
図5は、第2多孔質微粒子P2を説明するための説明図である。第2多孔質微粒子P2は、複数の核部細孔CHを備える第2核部C2と、複数の外層部細孔SHを備える第2外層部S2と、を備え、いわゆる「コアシェル構造」を有する。第2核部C2は、第1核部C1と異なる官能基によって核部細孔CH内が修飾された単分散球状メソポーラスシリカ(MMSS)であり、第2外層部S2は、修飾されていないメソポーラスシリカ層である。
【0035】
第2核部C2は、ベース多孔質微粒子Mの細孔(核部細孔CH)内を、アミノ基を含有する第2官能基R2で修飾したものであり、強塩基性粒子である。第2多孔質微粒子P2は、核部細孔CH内に第2官能基R2を有するため、核部細孔CHに陰イオンを捕獲可能である。第2官能基R2としては、例えば、アミノプロピル基、アミノエチルアミノプロピル基、アミノエチルアミノエチルアミノプロピル基等、アミノ基を含有する種々の官能基を用いることができる。第2多孔質微粒子P2の第2核部C2における、官能基の重量分率は、2~50%が好ましい。
【0036】
第2外層部S2は、未修飾のメソポーラスシリカ層であり、弱酸性である。すなわち、第2多孔質微粒子P2の表面(第2外層部S2の表面)のゼータ電位の符号(電荷の符号)は、負(-)である。第2多孔質微粒子P2は、第2核部C2の電荷が正(プラス)であり、第2外層部S2の電荷が負(-)であり、異符号である。第2外層部S2の酸性度は低く、第2核部C2の塩基性度は高いため、第2多孔質微粒子P2の核部細孔CHに、ベース液体L中の陰イオンを捕獲することができる。また、第2外層部S2の酸性度は低いため、第2多孔質微粒子P2の表面の電荷状態が変更されにくく、第2多孔質微粒子P2の分散性の低下を抑制することができる。なお、第2多孔質微粒子P2は、第2核部C2と第2外層部S2の電荷が異符号であるため、第2外層部S2の厚みを、第1多孔質微粒子P1の第1外層部S1の厚みより厚くすることにより、第2多孔質微粒子P2の表面におけるゼータ電位の絶対値を大きくしている。これにより、第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2の凝集を十分に抑制することができる。以下の説明において、第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2とを区別しない場合には、単に多孔質微粒子P、核部C、外層部Sとも称する。
【0037】
第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2は、例えば、特許第4936208号公報に記載された方法により製造することができる。その他、公知の種々の製造方法により製造することができる。
【0038】
上述の通り、本実施形態の冷却液では、第1多孔質微粒子P1の表面電荷と第2多孔質微粒子P2の表面電荷が同符号であるため、第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2の凝集を抑制することができ、多孔質微粒子Pの単分散性を良好にすることができる。
【0039】
図6は、ベース多孔質微粒子Mの断面形状を模式的に示す説明図である。本実施形態では、第1多孔質微粒子P1の第1核部C1および第2多孔質微粒子P2の第2核部C2共に、ベース多孔質微粒子Mとして、未修飾の単分散球状メソポーラスシリカ(MMSS)を用いて、ベース多孔質微粒子Mの細孔(核部細孔CH)内を官能基で修飾することにより形成されている。本実施形態のベース多孔質微粒子Mは、粒子径が150~1500nm、細孔径が1.5~20nm、比表面積が1100m
2/g以下である。第1核部C1および第2核部C2は、
図6に示すベース多孔質微粒子Mに対して、共重合法により細孔(核部細孔CH)内に第1官能基R1および第2官能基R2を、それぞれ導入することにより形成されている。第1核部C1および第2核部C2は、例えば、特許第4968431号、特許第5057019号、および特許第5057021号公報に記載された方法により製造することができる。また、グラフト法により、ベース多孔質微粒子に官能基を導入してもよい。
【0040】
本実施形態の冷却液は、ベース液体L中に、等量の第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2が分散されている。第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2とは、互いにイオンの吸着力(量)が等しいため、冷却液中に等量含まれると、冷却液に混入したイオンを吸着することにより絶縁性の低下を効率よく抑制ができる。また、第1官能基R1は酸性が強く、第2官能基R2は塩基性が強いため、ベース多孔質微粒子Mの細孔(核部細孔CH)内を修飾する官能基が少なくても、十分にイオンを吸着することができるため、ベース多孔質微粒子Mの細孔(核部細孔CH)の孔径の減少を抑制することができ、イオン吸着性能の低下を抑制することができるため、好ましい。
【0041】
図7は、第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2によるイオンの捕獲を概念的に示す説明図である。
図7では、第1多孔質微粒子P1の核部細孔CHと第2多孔質微粒子P2の核部細孔CHの断面を拡大して図示している。紙面左に図示された第1多孔質微粒子P1の核部細孔CH内は、第1官能基R1で修飾されているため、冷却液に溶出したカチオンCAが捕獲されている。一方、紙面右に図示された第2多孔質微粒子P2の核部細孔CH内は、第2官能基R2で修飾されているため、冷却液に溶出したアニオンANが捕獲されている。
【0042】
図8~
図10に、本実施形態の第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2の一実施例を示す。第1多孔質微粒子P1の実施例として、単分散球状メソポーラスシリカ(以下、「MMSS」とも呼ぶ)のスルホン酸基修飾体(第1核部C1)を、未修飾のメソポーラスシリカでコーティングした(第1外層部S1)微粒子を用い、第2多孔質微粒子P2の実施例として、MMSSのアミノ基修飾体(第2核部C2)を、未修飾のメソポーラスシリカでコーティングした(第2外層部S2)微粒子を用いた。
図8は、第1多孔質微粒子P1のSEM(走査電子顕微鏡)像の一例を示す図である。
図9は、第2多孔質微粒子P2のSEM像の一例を示す図である。
図10は、第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2の主要諸元の一例を示す図である。
図10に示す「平均粒子径」は、光散乱法により測定している。
図10に示す「単分散性」の値は、平均粒子径に対する粒子径分布の幅の割合(%)であり、±15%以下であると「単分散性」であるといえる。単分散性とは、粒子の大きさが略均一であって凝集せずに散らばりやすい状態のことをいう。
図8~
図10に示すように、本実施形態の第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2は、単分散性である。なお、第2多孔質微粒子P2における第2外層部S2の厚みは、第1多孔質微粒子P1における第1外層部S1の厚みの略5倍程度であり、厚い。外層部の厚みは、例えば、核部に対してシリカ原料をコーティングする際の溶媒の条件やシリカ原料の混合量等を適宜調整することで行うことができる。
【0043】
図11は、粒子濃度と圧力損失との関係を示す図である。
図11では、本実施形態の冷却液における多孔質微粒子のベース液体Lに対する割合を変更して、圧力損失を測定した結果を示す。測定条件は、温度80℃、流速2.0m/sである。圧損比率として、ベース液体Lに対する本実施形態の冷却液の圧損比率を記載している。図示するように、圧損比率は、粒子濃度が高くなるにつれ、大きくなる。そのため、圧力損失の上昇を抑制する観点から、粒子濃度は低い方が好ましい。
【0044】
図12は、粒子濃度と熱伝達比率との関係を示す図である。
図12では、本実施形態の冷却液における多孔質微粒子のベース液体Lに対する割合を変更して、熱伝達率を測定した結果を示す。測定条件は、温度80℃、流速2.0m/sである。熱伝達比率として、ベース液体Lに対する本実施形態の冷却液の熱伝達率比を記載している。図示するように、熱伝達率比は、粒子濃度が高くなるにつれ、大きくなる。固体粒子を含有する冷却液を循環させることにより、固体粒子の効果を利用して、冷却液の熱伝達率を促進することができる。
【0045】
図11、
図12に示すように、圧力損失、熱伝達率共に、粒子濃度が高くなるにつれ、大きくなる。冷却液の冷却性能と圧損とのバランスを考慮すると、冷却液中の多孔質微粒子の濃度(第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2を合わせた濃度)は、10vol%以下が好ましい。このようにすると、圧力損失の上昇を抑制しつつ、多孔質微粒子を含むことにより熱伝達率を向上させることができる。
【0046】
図13は、多孔質微粒子による導電率低下の実施例を示す図である。
図13は、多孔質微粒子の外層部(「シェル」とも呼ぶ)の有無による導電率の違いを示す。
図13において、シェル有と記載されたサンプルは、本実施形態の冷却液の実施例(
図10に多孔質微粒子の諸元を示す)であり、ベース液体L中に、第1多孔質微粒子P1を3.5wt%、第2多孔質微粒子P2を3.5wt%含む。一方、シェル無と記載されたサンプルは、ベース液体L中に、MMSSのスルホン酸基修飾体(第1核部C1に相当する)を3.5wt%、MMSSのアミノ基修飾体(第2核部C2に相当)を3.5wt%含む。すなわち、シェル無しのサンプルは、外層を備えない構成である。図示するように、外層部(シェル)がある場合(本実施形態の第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2)は、外層部(シェル)がない場合と略同等のイオン吸着性能を有する。
【0047】
図14は、多孔質微粒子のゼータ電位と平均粒子径を示す図である。サンプル1~3は「シェル無し」、サンプル4~6は「シェル有」である。サンプル1はMMSSのスルホン酸基修飾体、サンプル2はMMSSのアミノ基修飾体、サンプル3はMMSSのスルホン酸基修飾体とMMSSのアミノ基修飾体の混合である。「シェル有り」のサンプルは、本実施形態の第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2の実施例である。サンプル4である第1多孔質微粒子P1の第1核部C1はMMSSのスルホン酸基修飾体、第1外層部S1は未修飾のメソポーラスシリカ層であり、サンプル5である第2多孔質微粒子P2の第2核部C2はMMSSのアミノ基修飾体、第2外層部S2は未修飾のメソポーラスシリカ層である。サンプル6は第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2の混合である。
図14に示すゼータ電位および平均粒径は、ベース液体L(エチレングリコール水溶液)中に各サンプルを混合して、測定している。図示するように、シェル無しの場合、サンプル1、2をそれぞれベース液体Lに混合した場合と比較して、それらを混合したサンプル3では平均粒子径が非常に大きくなっている。すなわち、サンプル3では、サンプル1の多孔質微粒子とサンプル2の多孔質微粒子とが凝集している。これに対し、シェル有りの場合、第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2を混合した場合(サンプル6)の平均粒子径は、サンプル4、5それぞれの平均粒子径と略同じである。すなわち、第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2は、外層部(シェル)を有することにより、混合した場合にも単分散性を維持することができる。本実施形態の第1多孔質微粒子P1は、第1外層部S1を備えると共に、第2多孔質微粒子P2は第2外層部S2を備える。第1外層部S1、第2外層部S2の外層部細孔SH内は官能基に修飾されておらず、第1外層部S1、および第2外層部S2の表面は弱酸性である。すなわち、本実施形態の第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2をベース液体Lに混合しても、第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2とが凝集しにくく、良好な単分散性を得ることができる。
【0048】
以上、説明したように、本実施形態の冷却液は、ベース液体L中に第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2が単分散されているため、冷却液中に溶出した陽イオン(カチオン)および陰イオン(アニオン)を、多孔質微粒子Pにより捕獲することができる。そのため、冷却液の使用に伴う冷却液の絶縁性の低下を抑制することができる。
【0049】
本実施形態の冷却液は絶縁性の低下を抑制することができるため、本実施形態の熱輸送システム100によれば、第1熱交換器10をケース12内に配置することができる。
図15は、比較例の第1熱交換器10Pの配置を模式的に示す説明図である。比較例の冷却液は、イオンを捕獲可能な多孔質微粒子Pを含まない。比較例の冷却液として、本実施形態の冷却液のベース液体であるエチレングリコール水溶液を例示する。比較例の冷却液は絶縁性が低いため、電池CEと冷却液との接触を防ぐために、比較例の第1熱交換器10Pは、図示するように、ケース12の外に配置される。このようにすると、本実施形態の熱輸送システム100の場合と比較して、熱交換の効率が低下する。すなわち、本実施形態の熱輸送システム100によれば、熱交換の効率を比較例より向上させることができる。
【0050】
また、本実施形態の熱輸送システム100によれば、イオン交換器を備えないため、イオン交換器を備える熱輸送システムと比較して、システムを簡素化および小型化でき、また、システムのコストを低減することができる。
【0051】
また、本実施形態の冷却液に用いられる第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2は、核部細孔CH内部が修飾されており、核部細孔CH内部にイオンを捕獲可能である。一方、外層部細孔SH内は官能基に修飾されていないため多孔質微粒子Pの表面にイオンが吸着されにくく、表面の電荷状態が変更されにくいため、多孔質微粒子Pの単分散性の低下を抑制することができる。
【0052】
図16は、比較例のイオン交換樹脂粒子によるイオン交換を概念的に示す説明図である。例えば、カチオン交換樹脂としてPCH(米国Graver社製)、アニオン交換樹脂としてPAO(米国Graver社製)を用いることができる。図示するように、これらのイオン交換樹脂粒子は、表面にイオンが吸着されるため、表面電荷が減少する。本実施形態の冷却液に含まれる第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2に替えて、比較例のイオン交換樹脂を用いた場合、冷却液が循環して時間が経過すると、カチオン交換樹脂粒子とアニオン交換樹脂粒子が凝集し、沈殿するため、イオン交換樹脂粒子の分散性を維持するのが困難である。これに対し、本実施形態の冷却液に含まれる第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2は、上述の通り、単分散性が高いため、冷却液に溶出したイオンを比較例と比較して長時間に亘り、吸着することができる。
【0053】
図17は、比較例の微粒子の分散性を説明するための説明図である。図示するように、酸性粒子と塩基性粒子とを、ベース液体Lに混合した場合、酸性粒子と塩基性粒子とが凝集するため、分散性を維持することが困難である。これに対し、本実施形態の冷却液に用いられる第1多孔質微粒子P1は核部細孔CH内部がスルホン酸基を含有する第1官能基R1で修飾されており、陽イオンを捕獲可能であり、第2多孔質微粒子P2は、核部細孔CH内部がアミノ基を含有する第2官能基R2で修飾されており、核部細孔CH内部に陰イオンを捕獲可能である。一方、第1多孔質微粒子P1の第1核部C1および第2多孔質微粒子P2の第2核部C2の外層部細孔SH内は官能基に修飾されていないため、第1多孔質微粒子P1の表面のゼータ電位と第2多孔質微粒子P2の表面のゼータ電位が同符号である。そのため、本実施形態の冷却液によれば、第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2の良好な単分散性を得ることができる。
【0054】
本実施形態において、多孔質微粒子Pは、官能基によって修飾されたMMSSであるため、孔径が比較的一定であり、また、分散性が良好であるため、絶縁性の低下をより抑制することができるため、好ましい。
【0055】
本実施形態において、第1多孔質微粒子P1は、スルホン酸基を含む官能基によって修飾されており、第2多孔質微粒子P2は、アミノ基を含む官能基によって修飾されている。スルホン酸基は強酸性、アミノ基は強塩基性であるため、イオン吸着能が高く、ベース多孔質微粒子Mの細孔(核部細孔CH)を修飾する官能基を少量にして、孔径の減少を抑制することができる。その結果、より多くのイオンを吸着することができる。
【0056】
本実施形態の冷却液は、第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2とを等量含む。第1多孔質微粒子P1による陽イオン吸着量と第2多孔質微粒子P2による陰イオン吸着量が同じ場合に、冷却液における陰イオン吸着量と陽イオン吸着量が略同量になるため、冷却液の絶縁性の低下を適切に抑制することができる。
【0057】
<第2実施形態>
図18は、第2実施形態の第1熱交換器10Aを模式的に示す説明図である。第2実施形態の第1熱交換器10Aは、電池CEを内包する筐体14と、筐体14内を流れる冷却液を含む。冷却液は、第1実施形態の冷却液と同一であり、絶縁性の低下を抑制することができるため、第2実施形態の第1熱交換器10Aを用いる場合は、筐体14内に電池CEを配置し、冷却液に電池CEを漬けて、電池CEを冷却している。そのため、本実施形態の第1熱交換器10Aによれば、第1実施形態の第1熱交換器10よりさらに、熱交換効率を向上させることができる。
【0058】
<外層部の厚みの検討結果>
図19~
図22を用いて、第2多孔質微粒子P2の第2外層部S2の厚みの検討結果について説明する。
図19は、第2多孔質微粒子P2の第2外層部S2の厚みと平均粒子径およびゼータ電位との関係を示す図である。
図20は、
図19に示す各サンプルの第2外層部S2の厚みを概念的に示す説明図である。
図21は、
図19に示す各サンプルのSEM画像である。
図22は、第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2を混合した冷却液中のゼータ電位と平均粒子径を示す図である。
【0059】
図19に示すサンプル0~サンプル5は、
図20に示すように、第2外層部S2の厚みが異なるものである。サンプル0は、第2外層部S2を備えない、すなわち「シェル無し」の多孔質微粒子である。サンプル1~サンプル5は、第2外層部S2を形成するためのシリカ原料の量を調節することにより第2外層部S2の厚さを変更している。
図19に示す1次粒子径は、
図21に示すSEM画像を用いて計測した値であり、平均粒子径はエチレングリコール水溶液中に混合した各サンプルを光散乱法により計測した値である。
図19に示すように、サンプル1はゼータ電位が小さい。また、サンプル1は、平均粒子径が1288nmであり、1次粒子径と比較して非常に大きく、サンプル1の第2多孔質微粒子P2がエチレングリコール水溶液中で凝集していることがわかる。
図19より、第2外層部S2の厚みが不十分な場合、凝集が生じることがわかる。但し、沈降を考慮すると、粒子径が小さい方が好ましいため、それらを考慮して第2外層部S2の厚みを設定するのが好ましい。
【0060】
図22では、酸性微粒子として第1実施形態の第1多孔質微粒子P1(
図10に諸元を示す)を用い、第2多孔質微粒子P2として
図19に示すサンプル0~サンプル5を用いている。なお、サンプル1~サンプル5が第2多孔質微粒子P2の実施例(シェル有り)である。エチレングリコール水溶液中に酸性粒子と塩基性粒子とを混合し、ゼータ電位と平均粒子径(光散乱法による)を測定している。
図22に示すように、塩基性粒子がサンプル0、サンプル1、サンプル2の場合は、ゼータ電位の絶対値が16.1mV以下であり、その場合は、平均粒子径から凝集が生じている。そのため、ベース液体L中の第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2のゼータ電位の絶対値が16.2mV以上であると、多孔質微粒子Pの凝集が抑制されるため、好ましい。
【0061】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0062】
・冷却液に含まれるベース液体Lは、上記実施形態に限定されず、例えば、水、アルコール水溶液等種々の液体を用いることができる。ベース液体Lは、水系クーラント、非水系クーラント、エマルション系クーラントの何れであってもよいが、冷却性能を向上させる観点から、水と、水と互溶する凝固点降下剤とを混合した、水系クーラントであることが好ましい。水の割合は任意だが、30~50wt%が好ましい。凝固点降下剤としては、アルコール系が好ましい。アルコールが経年劣化で酸となった場合であっても、多孔質微粒子により冷却液の導電率上昇が抑制される。粘性低減の観点からは、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノールなどが好ましく、低蒸気圧や実績の観点からは、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが好ましい。さらに、防錆剤を添加してもよい。水による金属腐食を抑制し、金属イオン溶出も抑制される。多孔質微粒子による対処負担が低減し、多孔質微粒子配合量を低減させることができ、低コスト化を図ることができる。防錆剤は、絶縁性の観点から、非イオン系防錆剤が好ましい。また、対Cu防錆の観点からは、トリアゾール系防錆剤などが好ましく、対Al防錆の観点からは、シリコン系防錆剤などが好ましい。
【0063】
・上記実施形態において、第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2の両方を、いわゆるコアシェル構造にする例を示したが、いずれか一方のみがコアシェル構造であってもよいし、両方ともコアシェル構造でなくてもよい。例えば、第1多孔質微粒子が修飾されていないMMSS(上記実施形態におけるベース多孔質微粒子M)、第2多孔質粒子が上記実施形態の第2多孔質微粒子P2であってもよい。また、第1多孔質微粒子の第1核部がスルホン酸基を含有する第1官能基R1で修飾したMMSS、第1外層部が弱い塩基を導入したメソポーラスシリカ層であり、第2多孔質粒子が上記実施形態の第2核部C2(アミノ基を含有する第2官能基R2で修飾したMMSS)であってもよい。メソポーラスシリカ層に弱い塩基を導入する方法としては、例えば、2-(2-PYRIDYLETHYL)TRIMETHOXYSILANEのような弱い塩基を有するシランカップリング剤を用いて、シェルに弱い塩基を導入することによって、合成することができる。コアシェル構造でない場合には、例えば、MMSSの細孔の官能基による修飾の官能基含有率が、表面近傍が低くなるようにしてもよい。また、第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2の表面電荷が同符号になるように、表面を官能基で修飾する等の処理を施してもよい。
【0064】
・冷却液に含まれる第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2は、上記実施形態に限定されず、イオンを捕獲可能な種々の多孔質微粒子を用いることができる。例えば、ベース多孔質微粒子として、ゼオライト、シリカゲル等、他の多孔質微粒子を用いることができる。ベース多孔質微粒子としてシリカ系メソ多孔体を用いると、孔径が一定であり、また、分散性がよいため、好ましい。
【0065】
図23は、変形例の多孔質微粒子を説明するための説明図である。
図23では、多孔質微粒子としてゼオライトを用いる例を示している。図示するように、アミノ基で修飾したゼオライトを用いて、第1多孔質微粒子および第2多孔質微粒子を生成することができる。この例において、ルイス塩基点が第1核部、ルイス酸点が第2核部である。
【0066】
・第1多孔質微粒子P1に含まれる官能基は、例えば、シラノール基、カルボキシル基等を含む他の酸性の官能基でもよい。第2多孔質微粒子P2に含まれる官能基は、例えば、ピリジン基等を含む他の塩基性の官能基でもよい。さらに、第1多孔質微粒子P1、および第2多孔質微粒子P2は、官能基で修飾されていなくてもよい。例えば、シリカ系メソ多孔体微粒子は、酸性の微粒子であるため、修飾されていなくても、陽イオンを捕獲することができる。酸性の官能基、塩基性の官能基で修飾されていると、イオン捕獲能が強化されるため、好ましい。
【0067】
・上記実施形態において、第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2が共にシリカ系メソ多孔体である例を示したが、例えば、第1多孔質微粒子P1がシリカ系メソ多孔体、第2多孔質微粒子P2がゼオライト等、異なる組み合わせであってもよい。また、多孔質微粒子として3種以上を用いてもよい。例えば、第1多孔質微粒子がシリカ系メソ多孔体とゼオライト、第2多孔質微粒子がシリカゲル等でもよい。
【0068】
・冷却液に含まれる多孔質微粒子の濃度は、上記実施形態に限定されない。濃度を10vol%以下にすると、圧損の増加を抑制しつつ、熱伝達率を向上させることができるため、好ましい。
【0069】
・上記実施形態において、第1多孔質微粒子P1と、第2多孔質微粒子P2とが、等量含まれる例を示したが、等量でなくてもよい。第1多孔質微粒子P1のイオン捕獲能と第2多孔質微粒子P2のイオン捕獲能が同一である場合に、第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2を等量にすると、バランスよく陽イオンと陰イオンとを捕獲できるため、絶縁性の低下を良好に抑制することができる。
【0070】
・冷却液に含まれる多孔質微粒子の平均粒子径は、上記実施形態に限定されず、種々の大きさの多孔質微粒子を用いることができる。多孔質微粒子の平均粒子径を、10~3000nmにすると、沈殿しにくいため、好ましい。
【0071】
・冷却液に含まれる多孔質微粒子の中心細孔直径は、適宜設定可能であるが、1~5nmが好ましい。ここで、中心細孔直径とは、細孔径分布曲線において、最大のピークを示した細孔直径をいう。細孔径分布曲線とは、細孔容積(V)を細孔直径(D)で微分した値(dV/dD)を細孔直径(D)に対してプロットした曲線をいう。
【0072】
・冷却液の絶縁性制御範囲は、上記実施形態に限定されず、適宜設定可能である。自動車用冷却液の場合、絶縁性制御範囲を10μS/cm以下に設定するのが好ましい。
【0073】
・第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2がイオンを捕獲する手段は、吸着、吸収、吸蔵、反応等、物理的または化学的な種々の公知の手段を適用することができる。
【0074】
・上記実施形態の冷却液として、ベース液体Lに第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2が単分散された冷却液を例示したが、ベース液体Lに第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2が含まれていればよい。ベース液体Lに第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2が単分散されていると、効率よくイオンを捕獲できるため、好ましい。
【0075】
・上記実施形態において、熱輸送システム100がイオン交換器を備えてもよい。イオン交換器を備えることにより、冷却液の使用期間を、イオン交換器を備えない場合より延長することができる。
【0076】
・上記実施形態において、電気自動車に搭載された電池CEの熱を放熱させる熱輸送システム100を例示したが、熱源として、例えば、燃料電池、インバータ、モータジェネレータを用いてもよい。また、冷却液は、空調設備、プラント等種々の物の冷却に用いることができる。
【0077】
・
図24は、変形例の第1熱交換器を模式的に示す説明図である。
図24(A)は、第1変形例の第1熱交換器10Bと示し、
図24(B)は第2変形例の第1熱交換器10Cを示す。熱源が複数のセルCLを備える電池CEである場合、
図24(A)に示すように、第1熱交換器10Bは、セルCL間を蛇行する流路16を備え、流路16に冷却液を流すことにより、セルCLが発する熱を受熱してもよいし、
図24(B)に示すように、第1熱交換器10Cが電池CEに内包され、セルCLが冷却液に浸漬されることにより、セルCLが発する熱を受熱してもよい。
【0078】
・上記実施形態において、第2熱交換器20としてラジエータを例示したが、冷凍サイクル低圧側のチラーを用いてもよい。すなわち、第2熱交換器20は、冷媒、空気を用いて、放熱することができる。第2熱交換器を構成する材料としては、高熱伝導と強度の両立の観点から金属が好ましい。冷却液へ金属イオンが溶出する場合であっても、多孔質微粒子により冷却液の導電率上昇が抑制される。金属としては、アルミニウム、メッキ鋼板、ステンレス鋼が好ましく、特に、低コスト、加工容易性の観点からアルミニウムが好ましい。アルミニウムが用いられる場合、第2熱交換器のろう付け工程において、フラックスを用いてもよいし、フラックスレス工程もよい。フラックスが用いられる場合、ろう付け工程後に内壁洗浄してもよいし、工程に洗浄を入れなくてもよい。第2熱交換器にフラックス残渣が存在する場合であっても、多孔質微粒子により冷却液の導電率上昇が抑制される。
【0079】
・配管は、フレキシブル式(ゴム・エラストマ)・リジット式(プラ・金属)いずれでもよい。配管の形成材料として、EPDMゴムや、金属アルミを用いる場合であって、金属イオンが溶出する場合であっても、多孔質微粒子により冷却液の導電率上昇が抑制される。
【0080】
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0081】
AN…アニオン
C1…第1核部
CA…カチオン
CE…電池
CH…核部細孔
CL…セル
L…ベース液体
P…多孔質微粒子
P1…第1多孔質微粒子
P2…第2多孔質微粒子
S1…第1外層部
SH…外層部細孔
10、10A、10B、10C、10P…第1熱交換器
12…ケース
14…筐体
16…流路
20…第2熱交換器
30…冷却液タンク
40…バルブ
50…ポンプ
62…配管
100…熱輸送システム
C…核部
C2…第2核部
CH1…第1核部細孔
M…ベース多孔質微粒子
R1…第1官能基
R2…第2官能基
S…外層部
S2…第2外層部