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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/02 20060101AFI20221214BHJP
   B22F 3/093 20060101ALI20221214BHJP
   B28B 3/02 20060101ALI20221214BHJP
   B30B 11/02 20060101ALI20221214BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20221214BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20221214BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20221214BHJP
【FI】
B22F3/02 A
B22F3/093
B28B3/02 C
B30B11/02 F
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M10/0562
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020039447
(22)【出願日】2020-03-09
(65)【公開番号】P2021139023
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2021-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 賢武
(72)【発明者】
【氏名】澤村 政敏
(72)【発明者】
【氏名】与語 康宏
(72)【発明者】
【氏名】金子 裕治
(72)【発明者】
【氏名】山村 英行
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-233299(JP,A)
【文献】特開昭54-032526(JP,A)
【文献】特開2015-193028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/02
B22F 3/093
B28B 3/02
B30B 11/02
H01M 4/139
H01M 4/62
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイとパンチによりキャビティに充填された原料粉末を圧縮する圧粉工程を備える成形体の製造方法であって、
該圧粉工程は、該パンチから該原料粉末へ振動を付与する加振過程と該パンチで該原料粉末を加圧する加圧過程とを併行にまたは逐次に行う工程であり、
該加振過程と該加圧過程は、該ダイと該パンチの隙間と、該パンチの成形面と該原料粉末の間とに、通気性を有するフッ素樹脂層を設けてなされ
該フッ素樹脂層は、両面間の差圧を水銀柱70cmとしたときの空気流量が1cm あたり1~100ml/minである成形体の製造方法。
【請求項2】
前記加振過程は、前記原料粉末に加圧方向の超音波振動を付与してなされる請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項3】
前記フッ素樹脂層の厚さ(t)は、前記隙間(c)に対する厚さ比(t/c)で0.9~2.5である請求項1または2に記載の成形体の製造方法。
【請求項4】
前記フッ素樹脂層は、フッ素樹脂フィルターからなる請求項1~3のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項5】
前記フッ素樹脂フィルターは、シート状である請求項4に記載の成形体の製造方法。
【請求項6】
前記フッ素樹脂層は、破断伸びが100%以上、連続使用温度が150℃以上、水との接触角が80°以上であるフッ素樹脂からなる請求項1~5のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項7】
前記フッ素樹脂層は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)またはエチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)からなる請求項1~6のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項8】
前記フッ素樹脂層の表面開孔の平均径は、前記原料粉末の平均粒径よりも小さい請求項1~7のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項9】
前記原料粉末は、前記隙間よりも粒径が小さい粒子を含む請求項1~8のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項10】
前記原料粉末は、全固体電池用粉末である請求項1~9のいずれかに記載の成形体の製造方法。
【請求項11】
前記全固体電池用粉末は、固体電解質粉末、活物質粉末または導電助剤粉末の一種以上からなる請求項10に記載の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料粉末を圧縮して得られる成形体の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
原料粉末を圧縮した成形体(圧粉体)は、複雑形状部材(例えば歯車)や機能部材(例えば圧粉磁心や全固体電池)などに用いられる。成形体は、冷間等方加圧法(CIP)やゴム型等方加圧法(RIP)等により製造されることもあるが、通常、ダイと、ダイに嵌挿されたパンチとを用いた金型成形により製造される。
【0003】
成形体からなる各部材(仮焼体、焼結体等を含む)の高強度化や高機能化等を図る場合、通常、成形体は緻密(高密度)で均質的なほど好ましい。成形圧力を単に過大にして成形体の緻密化(見掛密度・嵩密度の向上)を図ると、設備負担が増大したり、金型(ダイ内壁面等)や成形体(外周面等)にかじり等による損傷が生じ得る。そこで、成形圧力の増大を抑制しつつ、成形体の緻密化等を図る方法が、例えば、下記の特許文献1、2で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-64432号公報
【文献】特開2012-89388号公報
【文献】特開2010-142871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2では、全固体電池を構成する原料粉末に超音波振動を付与しつつ、その原料粉末を加圧成形している。超音波振動の加振により、原料粉末の充填率が向上し、粒子間の密着性や接合性が向上した緻密な成形体が得られる。
【0006】
ここで、ダイとパンチの間には、通常、成形中におけるダイとパンチの焼き付き等を抑止するため、少なくとも数十μm程度のクリアランス(隙間)が設けられる。また原料粉末は、(超)微粉でなくても、粒度調整をしない限り、通常、粒径が数μm~十数μm程度の粒子を含む。つまり原料粉末は、一般的に、ダイとパンチのクリアランスよりも小さい粒子を、その粒度分布に沿った割合で含んでいる。原料粉末を加振しない場合なら、そのクリアランスからの粉漏れはあまり生じず、また、原料粉末に内包されている気体(主に空気)は加圧成形の進行に伴ってそのクリアランスから排気される。
【0007】
しかし、本発明者が原料粉末を超音波加振しつつ成形したところ、ダイとパンチの隙間から多くの粉漏れが発生し、成形困難であることが新たに判明した。上記特許文献は、そのような粉漏れやその対策について、何らの提案も記載もしていない。
【0008】
特許文献3は、成形体の密度ムラ等を解消するために、原料粉末中に含まれる空気が成形中に滞留(残存)し易い中央付近(ニュートラルライン付近)に、その空気を排出する排気孔をダイスに設けることを提案している。また、その排気孔には、原料粉末を通過させず気体を通過させる(つまり通気性のある)多孔質フィルターが設けられる。
【0009】
しかし、特許文献3は、そもそも、原料粉末の加振を前提としておらず、原料粉末の加振に関連する記載等は特許文献3に一切ない。また、特許文献3は、多孔質フィルターとして、金属製メッシュ、多孔質セラミックス、多孔質超硬合金などを用いることを提案している。しかし、このような多孔質フィルターの設置には、専用のダイスを用意して、相応なスペースを確保する必要があり、金型費用の増大、成形体サイズの制約等を招く。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、原料粉末の加振と粉漏れ抑制を両立して、所望の成形体が安定して得られる成形体の製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、ダイとパンチの間に通気性を有するフッ素樹脂層を介在させることにより、加振した原料粉末の漏出(粉漏れ)を抑制しつつ、所望の圧粉体を得ることに成功した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0012】
《成形体の製造方法》
(1)本発明は、ダイとパンチによりキャビティに充填された原料粉末を圧縮する圧粉工程を備える成形体の製造方法であって、該圧粉工程は、該パンチから該原料粉末へ振動を付与する加振過程と該パンチで該原料粉末を加圧する加圧過程とを併行にまたは逐次に行う工程であり、該加振過程と該加圧過程は、該ダイと該パンチの隙間と、該パンチの成形面と該原料粉末の間とに、通気性を有するフッ素樹脂層を設けてなされる成形体の製造方法である。
【0013】
(2)フッ素樹脂層は、先ず、成形性を実質的に阻害せず、ダイとパンチの間に設けられた隙間(クリアランス)をシールして、その隙間からの原料粉末の漏出(単に「粉漏れ」という。)を安定的に抑制する。その結果、本発明の成形体の製造方法(単に「成形方法」ともいう。)によれば、原料粉末の加振と粉漏れ抑制を両立した圧粉が可能となり、成形圧力を過大にするまでもなく、高密度または高充填率の成形体が得られる。また粉漏れ抑止により、所望の寸法精度や特性を有する成形体が安定して得られる。
【0014】
次に、フッ素樹脂層は通気性を有するため、原料粉末に内在していた空気は、圧粉工程中にフッ素樹脂層を通じて排気され得る。これにより、残存空気による密度低下、亀裂・破壊の起点となる空孔の形成等が回避され、所望の密度や強度を有する成形体が得られる。なお、圧粉工程中におけるフッ素樹脂層からの排気は、ダイとパンチの隙間からの排気を抑制し、ひいては更なる粉漏れ抑止にもつながる。
【0015】
さらに、通気性を有するフッ素樹脂層は、圧粉体に張り付き難いか、張り付いても圧粉体からの引き剥がしが容易である。これにより、圧粉体の損傷や崩壊等を回避しつつ、金型(ダイまたはパンチ)から圧粉体を取り出したり、圧粉体に張り付いたフッ素樹脂層を容易に剥離することができる。なお、このような事情は、パンチにフッ素樹脂層が張り付く場合でも同様である。
【0016】
圧粉体やパンチからフッ素樹脂層を容易に剥離(引き剥し、離型)できる理由は、次のように考えられる。先ず、フッ素樹脂層の張り付きは、例えば、圧粉工程の終了前後の圧粉体等の温度差に起因した気圧差が、フッ素樹脂層の両面間に生じるためと考えられる。具体的にいうと、圧粉工程中の加振により原料粉末やその圧粉体は高温となる。圧粉工程後に圧粉体の温度が低下すると、フッ素樹脂層の両面間で気圧差が生じて、その一方面側(フッ素樹脂層が張り付いている内側)が陰圧となる。この陰圧がフッ素樹脂層を張り付かせていると考えられる。
【0017】
本発明の場合、フッ素樹脂層が有する通気性により、その陰圧も短時間内に低減または解消される。こうしてフッ素樹脂層の剥離が容易になったと考えられる。なお、通気性が有るフッ素樹脂層は、通常、通気性が無いフッ素樹脂層よりも、開孔面積分だけ表面積が小さい。このため、通気性が有るフッ素樹脂層は、その分、圧粉体等との貼着面積も小さくなり、張り付き難いとも考えられる。
【0018】
《成形体等》
本発明は、上述した成形方法により得られる成形体としても把握される。さらに本発明は、圧粉体を加熱処理した焼結体(仮焼体を含む。)、その圧粉体を加工(二次成形、鍛造、コイニング等)した各種部材としても把握される。
【0019】
《その他》
(1)本明細書でいう「隙間」は、例えば、嵌合するダイ(内周面等)とパンチ(外周面等)との対面間に形成される。隙間の大きさが一定でないとき、その最大値を隙間の指標値(クリアランス:c)とする。
【0020】
圧粉工程を構成する加振過程と加圧過程を「併行にまたは逐次に行う」とは、原料粉末の加振と加圧を、同時または部分的な重畳により行っても、交互に行ってもよいことを意味する。換言すると、原料粉末を加振しているとき(加振工程中)に、原料粉末を加圧しても、加圧していなくてもよい。加振と加圧をそれぞれ行う時期(タイミング)、重畳期間、間隔、繰返し回数等は適宜調整される。
【0021】
(2)特に断らない限り、本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。また特に断らない限り、本明細書でいう「x~yμm」はxμm~yμmを意味する。他の単位系(ml/min、kHz等)についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1A】フッ素樹脂層を介在させた圧粉工程を模式的に示す断面図と、その一部拡大図である。
図1B】従来の圧粉工程を模式的に示す断面図と、その一部拡大図である。
図2】フッ素樹脂フィルター(一例)の表面を観察したSEM像である。
図3】試料2に係る圧粉体を示す写真である。
図4】試料C0に係る圧粉中の様子と、その圧粉後の様子とを示す写真である。
図5】試料C1に係る圧粉中の様子と、それにより得られた圧粉体とを示す写真である。
図6】試料C2に係る圧粉体を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、成形体の製造方法のみならず、それにより得られた成形体や成形体(圧粉体)からなる部材(焼結体等)にも適宜該当し得る。方法的な構成要素でも物に関する構成要素ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0024】
《ダイとパンチ》
ダイ(ダイス)とパンチにより、原料粉末を充填するキャビティが形成される。パンチをダイに対して相対移動させることにより、キャビティ内の原料粉末が圧縮されて圧粉体が得られる。
【0025】
ダイとパンチの形態、キャビティの形状等は適宜選択される。ダイとパンチの隙間の大きさ(クリアランス:c)は、加振されていない状態にあるダイとパンチの対向面間の(最大)距離である。cは、例えば、10~200μm、30~150μmさらには50~120μmである。一例として、円筒状の内周面を有するダイと、そのダイに嵌挿される円柱状の外周面を有するパンチなら、その内周面(内径:D)とその外周面(外径:d)との半径方向の距離:(D-d)/2がcとなる。
【0026】
《原料粉末》
原料粉末は、種類、組成、混合の有無、配合等を問わない。例えば、原料粉末は、金属粉末の他、化合物粉末(例えばセラミックス粉末)等でもよい。また原料粉末は、組成や形態(粒径、粒子形状等)などが異なる複数種の粉末を混合した混合粉末でもよい。
【0027】
原料粉末は、ダイとパンチの隙間よりも粒径が小さい粒子を含んでもよい。その粒径は、構成粒子を顕微鏡観察したときの最大長(2面幅の最大値)である。原料粉末は、例えば、粒径が15μm以下、10μm以下さらには5μm以下の粒子を含む。ダイとパンチの隙間が一定でないとき、最大値であるクリアランス(c)と構成粒子の粒径とを比較する。
【0028】
粉末としての平均粒径は、メディアン径(d50)により指標する。メディアン径は、レーザー回析法による粒度分布計(例えば、日機装株式会社MT-3300)により測定される。
【0029】
原料粉末の一例として、全固体電池用粉末がある。全固体電池用粉末は、例えば、固体電解質粉末、活物質粉末または導電助剤粉末の一種以上からなる。勿論、原料粉末は、それら二種以上の粉末を混合した混合粉末でもよい。
【0030】
なお、正極層、固体電解質層(絶縁層)および負極層からなる全固体電池は、各層を個別に成形して積層したものでもよいし、各層を順次成形して積層したものでもよい。固体電解質層は、例えば、固体電解質粉末を加圧成形してなる。また正(負)極層は、例えば、正(負)極活物質粉末、固体電解質粉末および導電助剤粉末(および/またはバインダー粉末)の混合粉末を加圧成形してなる。
【0031】
正極活物質は、例えば、リチウム(Li)を含む酸化物系物質であり、負極活物質は、例えば、カーボン系物質であり、固体電解質は、例えば、リチウム(Li)を含む酸化物系物質または硫化物系物質である。また全固体電池は、正(負)極層の外側に正(負)集電体を備え得る。集電体は、例えば、金属(例えば、銅、ステンレス鋼、チタン等)からなる板体または箔体である。
【0032】
《フッ素樹脂層》
フッ素樹脂層は通気性を有する。通気性の程度は適宜選択される。通気性は、例えば、所定差圧下での空気流量により指標される。具体的にいうと、フッ素樹脂層は、両面間の差圧を水銀柱70cm(13.5PSi:0.95ml/cm)としたとき、空気流量(濾過)が1cmあたり、例えば、1~100ml/min、3~50ml/minさらには10~40ml/minであるとよい。なお、空気流量は、25℃における測定値である。
【0033】
通気性は、フッ素樹脂層に形成された微細な流路(「通気孔」という。)により生じる。フッ素樹脂層の一方面から他方面に至る通気孔は、直線状でも非直線状(例えば曲線状)でもよい。フッ素樹脂層の表面を顕微鏡で観察したときに観れる開孔(「表面開孔」という。)は、円形でもその他の異形状でもよい。
【0034】
各表面開孔の大きさ(開孔径)は、例えば、0.01~100μmさらには0.05~60μmである。その平均値(平均径)は、例えば、0.1~50μmさらには0.3~15μmである。なお、各開孔径は、開孔の最大長(2面幅の最大値)とする。平均径は、顕微鏡観察した視野(130μm×100μm)内にある各開孔の開口径の算術平均値とする。
【0035】
空気流量や開孔径(平均径)が過小では通気性が乏しくなり、圧粉体等に張り付いたフッ素樹脂層の引き剥がしに要する時間が長くなる。空気流量や開孔径(平均径)が過大では、フッ素樹脂層の機械的特性(強度、延性等)が低下したり、微細な粒子がフッ素樹脂層へ侵入し易くなる。例えば、フッ素樹脂層の表面開孔の平均径は原料粉末の平均粒径よりも小さいとよい。
【0036】
フッ素樹脂層は、少なくともダイとパンチの隙間に設けられ、原料粉末がその隙間からキャビティ外へ漏出することを抑止する。フッ素樹脂層の厚さが過小では粉漏れが多くなり、その厚さが過大ではパンチの駆動力が増大する。フッ素樹脂層の厚さ(t)は、例えば、クリアランス(c)に対する厚さ比(t/c)が0.9~2.5、1~2さらには1.5~2となるとよい。クリアランス(c)は加振されていないダイとパンチの対向面間の最大距離、厚さ(t)は圧粉工程前(無負荷)の最大厚さとする。
【0037】
フッ素樹脂層は、例えば、パンチの表面に形成された膜状(塗膜等)でもよいし、ダイとパンチの間に介挿されたシート状(フィルム状を含む。)でもよい。シート状のフッ素樹脂層を、適宜、「フッ素樹脂シート」という。フッ素樹脂シートを用いれば、定期的または成形毎に交換が容易であり、成形品質の安定化が図れる。通気性を有するフッ素樹脂シートとして、例えば、フッ素樹脂フィルターを用いるとよい。フッ素樹脂フィルターは、メンブレンフィルターの他、プレフィルター(繊維をシート状に結合させた不織布等からなる多孔質体)でもよい。
【0038】
フッ素樹脂は、一般的に、延性、耐熱性または離型性等に優れるため、上述した層またはシートの構成材として好適である。敢えていうなら、次のような特性を有するフッ素樹脂を用いるとよい。
【0039】
フッ素樹脂は、延性の指標として破断伸びが100%以上、135%以上 180%以上さらには200%以上あるとよい。圧粉工程に伴い、ダイとパンチの隙間や原料粉末とパンチ(成形面)の間にあるフッ素樹脂層には、大きな引張力、圧縮力またはせん断力が作用し得る。破断(破損)し難い高弾性または高延性なフッ素樹脂を用いると、圧粉工程を安定して行える。敢えていうと、破断伸びは、例えば、400%以下さらには300%以下でもよい。ここでいう破断伸びはISO527・JIS K7161に準拠して特定される。
【0040】
フッ素樹脂は、耐熱性の指標として連続使用温度が150℃以上、175℃以上さらには200℃以上あるとよい。原料粉末は、温間成形される場合は勿論、冷間成形される場合でも、加振により摩擦発熱し、ダイやパンチも高温となり得る。そこで、連続使用温度の高いフッ素樹脂を用いると、フッ素樹脂層の高特性(延性等)が維持されて好ましい。敢えていうと、連続使用温度は、例えば、400℃以下さらには300℃以下でもよい。ここでいう連続使用温度はUL746B(一定温度の大気中に40000時間放置した場合ときに、その物性値が初期値の50%劣化した温度)に準拠して特定される。
【0041】
フッ素樹脂は、離型性の指標として水との接触角(単に「水接触角」という。)が80°以上、85°以上、90°以上さらには95°以上あるとよい。濡れ難い(撥液性に優れる)フッ素樹脂を用いると、フッ素樹脂層とパンチまたは圧粉体との剥離が容易となる。敢えていうと、水接触角は、例えば、150°以下さらには130°以下でもよい。ここでいう水接触角は接触角計で測定した静的接触角である。
【0042】
そのようなフッ素樹脂として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレンークロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)、テトラフルオロエチレンーパーフルオロジオキソールコポリマー(TFE/PDD)、ポリビニルフルオライド(PVF)等がある。特に、PTFE、PFA、FEP、ETFEなどを用いるとよい。
【0043】
《圧粉工程》
圧粉工程は、原料粉末に振動を付与する加振過程と原料粉末を加圧する加圧過程とが併行的または逐次的になされる。
【0044】
加振過程は、原料粉末の種類、原料粉末の加圧力、成形体の仕様(密度、充填度合等)などに応じて、所望の特性(周波数、振幅、振動方向等)を有する振動が原料粉末へ付与される。加振は、例えば、超音波振動によりなされるとよい。超音波振動の周波数は、例えば、1~50kHz、5~45kHzさらには10~40kHzである。超音波振動の振幅は、例えば、1~200μm、5~150μmさらには20~100μmである。加振方向は、成形面に交差する方向、特に、原料粉末の加圧方向(パンチの移動方向)に沿っているとよい。
【0045】
原料粉末の加振は、加振されたパンチを介して間接的になされる。加圧方向に原料粉末を加振する場合、パンチ(上パンチと下パンチの少なくとも一方)は、移動方向に沿って振動する。
【0046】
加圧過程は、原料粉末の種類、成形体の仕様(密度、充填度合等)などに応じて、成形圧力(圧縮力)が調整される。成形圧力は、例えば、0.5~1000MPa、1~500MPaさらには2~250MPaである。圧粉工程は、冷間状態でなされても温間状態でなされてもよい。金型(ダイとパンチ)の温度は、例えば、常温(室温)~200℃さらには30~150℃である。
【0047】
加振過程と加圧過程を併行して行う場合、ダイに対するパンチの相対移動速度は、例えば、0.01~1mm/sさらには0.05~0.5mm/sである。
【実施例
【0048】
加振された原料粉末の成形性に及ぼすフッ素樹脂層(フッ素樹脂シート)の影響を評価した。このような具体例を挙げつつ、本発明を以下にさらに詳しく説明する。
【0049】
《試料の成形》
(1)原料粉末
原料粉末として、全固体電池用粉末を用意した。粉末の粒子サイズ(粒子径)はいずれも10μm以下であった。これは粉末のSEM画像により確認した。なお、原料粉末には平均粒径(d50)よりも小さい粒径(例えば0.5μm程度)の粒子が原料粉末中に含まれていた。
【0050】
全固体電池用粉末は、正極活物質粉末(Li(Ni1/3Co1/3Mn1/3)O):75.4質量%、固体電解質粉末:(LiPSiCl):22.3質量%および導電助剤(VGCF):2.3質量%を混合した粉末である。各粉末の質量%は、全固体電池用粉末全体に対する配合割合を示す。
【0051】
(2)成形装置
先ず、図1Aまたは図1B(両者を併せて単に「図1」という。)に示す金型1を用意した。金型1は、ダイ10(内径φ18.7mm/試料C0のみ内径φ18.6mm)と、上パンチ11(外径φ18.5mm)および下パンチ12(外径φ18.6mm)からなり、円筒状(円盤状)のキャビティを構成する。ダイ10と上パンチ11との隙間(金型クリアランス:c)は、表1に示すように設定した。なお、ダイ10と下パンチ12との隙間は、後述する厚さ比(t/c)が1.0となるようにした。
【0052】
次に、上パンチ11に超音波振動加圧装置(IQサーボプレスシステム(デュケイン製)を接続した。これにより、上パンチ11が、加圧方向(図1の上下方向)に、超音波振動(周波数20kHz、振幅51~58μm)するようにした。
【0053】
原料粉末の圧縮(圧粉)は、上記の超音波振動加圧を用いて、上パンチ11を0.1mm/sで下降させて行った。加振されている原料粉末に最大6MPa(成形圧力)の圧縮力を加えた。圧粉雰囲気は、室温大気中とした。
【0054】
(3)圧粉工程
圧粉前に、キャビティに充填した原料粉末pの上方(ダイ10と上パンチ11の間)に、シート21を介装したまま、上パンチ11を下降させて、原料粉末pを圧粉した(図1A図5参照)。
【0055】
上パンチ11の下降により、シート21はダイ10の内周面10aと上パンチ11の外周面11aの間に介在した状態となり、内周面10aと外周面11aの隙間が充塞される。またシート21は、上パンチ11の下端面11b(成形面)を覆った状態となり、下端面11bと原料粉末pの間に介在する。
【0056】
シート21の仕様は表1に示すように、試料毎に変えた。表1には、その厚さ(t)とクリアランス(c)の比率(厚さ比:t/c)も併せて示した。
【0057】
なお、ダイ10と下パンチ12の間にも、シート21と同じシート22を介装して圧粉した。シート21とシート22を併せて「シート2」という。
【0058】
シート2を構成するフッ素樹脂(PTFE)の代表的な特性は、破断伸び:200~400%(中央値:300%)、連続使用温度:260℃、水接触角:119°であった。シート特性は、既述した方法(破断伸び:ISO527・JIS K7161、連続使用温度:UL746B、水接触角:接触角計で測定した静的接触角)により特定した。
【0059】
表1に示す試料1~5では、多孔質なフッ素樹脂シート(メンブレンフィルター:フロン工業株式会社製/試料1:FP-010、試料2:FP-022、試料3:FP-045、試料4:FP-100、試料5:FP-500)を用いた。試料C1、C2では、非多孔質なフッ素樹脂シート(ニチアス株式会社製ナフロンPTFEテープ TOMBONo.9001)を用いた。
【0060】
試料1~5に示した各フッ素樹脂シート(フッ素樹脂フィルター)の平均径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した視野(130μm×100μm)内にある各表面開孔の開孔径(最大幅)の算術平均値とした。参考として、試料3で用いたフッ素樹脂フィルターの表面を観察したSEM像(一例)を図2に示した。
【0061】
試料1~5に係る各フッ素樹脂フィルターの空気流量は、両面間の差圧を水銀柱70cmとしたときの1cmあたりの測定値である。
【0062】
なお、試料C0は、シートを介装せず、ダイ10と上・下パンチ11、12とで原料粉末pを圧粉した(図1B図4参照)。
【0063】
《成形性》
各試料に係る成形性を評価して、その結果を表1に併せて示した。粉漏れ性は、圧粉工程中に、粉漏れが無かった場合を○、粉漏れが僅かであった場合を△、粉漏れや原料粉末の飛散を生じた場合を×として示した。
【0064】
引剥し性(離型性)は、圧粉工程後において、フッ素樹脂シートを容易に引き剥がせた場合を○、フッ素樹脂シートが強く圧粉体に張り付いていたが、圧粉体を崩壊させずに引き剥がせた場合を△、フッ素樹脂シートが強く圧粉体に張り付いており、引き剥がす際に圧粉体が崩壊等した場合を×として示した。
【0065】
なお、一部の試料については、フッ素樹脂シートの端部にデジタルフォースゲージを取り付けて、圧粉体からフッ素樹脂シートを引き剥がすときの最大荷重(N)を測定した。その結果を「引剥し力」として表1に併せて示した。
【0066】
圧粉体の状態は、崩壊させずに圧粉体が得られた場合を○、圧粉体の一部が崩壊した場合を△、圧粉自体ができなかった場合を×として示した。
【0067】
参考に、試料2に係る圧粉体(成形体)を図3に、試料C0に係る圧粉中の様子とその圧粉後の様子とを図4に、試料C1に係る圧粉中の様子と圧粉体(成形体)を図5に、試料C2に係る圧粉体の様子を図6にそれぞれ示した。
【0068】
《評価》
(1)試料1~5の場合、表1に示すように、粉漏れを生じることなく、加振した原料粉末を圧粉して、所望の圧粉体が得られた。また、圧粉工程後のフッ素樹脂シートは、圧粉体を崩壊させることなく容易に引き剥がせた。
【0069】
試料C0の場合、表1および図4に示すように、上パンチが原料粉末に接触した直後から原料粉末が飛散して、圧粉自体ができなかった。
【0070】
試料C1の場合、表1および図5に示すように、原料粉末の粉漏れはあまり生じることなく、圧粉体が得られた。但し、フッ素樹脂シートは圧粉体に強固に張り付いた状態であり、その引き剥がしに相応な時間を要した。
【0071】
試料C1に係る圧粉体が崩壊しなかった理由は、フッ素樹脂シートの厚さと金型の隙間が同程度であったため、圧粉工程中に、原料粉末p内の残存空気がダイ10の内壁面10aとフッ素樹脂シート21の隙間から徐放されたたためと推察される。
【0072】
試料C2の場合、表1および図6に示すように、原料粉末の粉漏れは生じなかったが、フッ素樹脂シートが圧粉体に強固に張り付いた状態となり、それを引き剥がす際に、圧粉体の層状割れが生じた。これは、フッ素樹脂シートの厚さが金型の隙間よりもかなり厚かったたため、原料粉末pのみならず、原料粉末p内の残存空気も外部へ徐放されなかったためと推察される。
【0073】
(2)表1からわかるように、フッ素樹脂フィルターの空気流量または表面開孔の平均径が大きいほど、引剥し力は小さくなる。従って、フッ素樹脂フィルターを透過した粉漏れを生じない範囲で、空気流量または表面開孔の平均径が大きいフッ素樹脂フィルターを用いると好ましいといえる。例えば、原料粉末の平均粒径よりも小さい範囲で、表面開孔の平均径が大きいフッ素樹脂フィルターを用いるとよい。
【0074】
(3)ちなみに、上述したシートに替えて、高粘度のワセリン、ゴムパッキン、ビニールテープ等をダイとパンチの隙間にそれぞれ設けた状態で、同様な圧粉工程を行った。しかし、いずれの場合も、原料粉末が飛散する粉漏れが生じて、圧粉ができなかった。
【0075】
以上のように、ダイとパンチの隙間にフッ素樹脂層を設けることにより、加振された原料粉末でも、粉漏れを生じることなく、所望の圧粉体が得られることが確認された。
【0076】
【表1】
【符号の説明】
【0077】
10 ダイ
11 上パンチ
12 下パンチ
21 フッ素樹脂シート(フッ素樹脂層)
p 原料粉末
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6