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特許7194147工程設計の支援装置、支援方法および支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】工程設計の支援装置、支援方法および支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/418 20060101AFI20221214BHJP
   G06Q 50/04 20120101ALI20221214BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G06Q50/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020073231
(22)【出願日】2020-04-16
(65)【公開番号】P2021170239
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2021-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 文子
(72)【発明者】
【氏名】桑野 義正
(72)【発明者】
【氏名】西垣 英一
(72)【発明者】
【氏名】楯谷 洋介
(72)【発明者】
【氏名】桜井 豪人
(72)【発明者】
【氏名】山田 雄一
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-040106(JP,A)
【文献】特開2013-025509(JP,A)
【文献】特開2005-038081(JP,A)
【文献】特開平09-225784(JP,A)
【文献】特開2002-149220(JP,A)
【文献】特開2020-052663(JP,A)
【文献】特開2002-215220(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0220016(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
G06Q 50/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の作業を経て目的物を得る生産工程の設計を支援する工程設計支援装置であって、
各作業を行う順番である作業順序を擬似乱数列に基づいて無作為に仮定した仮候補を生成する仮候補生成手段と、
該仮候補の作業順序特定の作業間で予定されている順番である作業制約に整合させた作業順序へ並び替えた整合候補を生成する整合化手段と、
所定の指標による該整合候補の評価値を出力する出力手段と、
を備える工程設計支援装置。
【請求項2】
前記作業制約は、特定の作業間で予定されている順番の先後関係である順序制約を含み、
前記整合候補は、類似作業の順番を近接させた作業順序からなる請求項1に記載の工程設計支援装置。
【請求項3】
前記作業制約は、特定の作業群に予定されている順番の連続関係である連続制約を含み、
前記整合化手段は、該連続制約に係る作業群を一括して扱う請求項1または2に記載の工程設計支援装置。
【請求項4】
複数の作業を経て目的物を得る生産工程の設計を支援する工程設計支援方法であって、
各作業を行う順番である作業順序を擬似乱数列に基づいて無作為に仮定した仮候補を生成する仮候補生成ステップと、
該仮候補の作業順序特定の作業間で予定されている順番である作業制約に整合させた作業順序へ並び替えた整合候補を生成する整合化ステップと、
所定の指標による該整合候補の評価値を出力する出力ステップと、
を備える工程設計支援方法。
【請求項5】
請求項4に記載の各ステップをコンピュータに実行させる工程設計支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生産工程の設計に有用な支援装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
製品の生産性は、生産工程に大きく依存している。生産工程は、通常、複数の工程からなり、各工程は複数の作業からなる。作業数や工程数が膨大になると、人手のみで効率的な生産工程を設計することは困難となる。そこで、生産工程の設計を支援する装置(シミュレーション装置)が提案されており、例えば、下記の特許文献に関連する記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-15723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、自動車の生産ライン(組立ライン)のように、ワークが搬送されるラインに沿って直列的に配置されたステージ(工程)毎に種々の作業がなされる工程設計の支援装置(ビジュアル表示画面を利用する作業配分立案支援装置)を提案している。具体的にいうと、その支援装置は、各作業員毎(つまり各工程毎)に割り振られる作業時間と歩行時間の合計時間を画面表示して、工程設計者がそれらを画面上で変更できるようにしている。このような支援装置により、工程設計者の負荷が軽減され得る。
【0005】
しかし、従来の支援装置を用いた工程設計では、担当者の力量(経験、知識等)内で、既存の工程や作業順序等が部分的に最適化されるに留っていた。
【0006】
本発明は、既存の工程に囚われない新たな工程の検討により全体的に好適な工程設計を可能にする支援装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、工程設計に際して、既存の工程や設計者の能力等に囚われず任意に生成された複数の作業順序(仮候補)をベースに、各作業間の順番等に関する作業制約を充足するように生成された作業順序(整合候補)を検討することを着想し、そのような作業順序の生成を具現化した。このような成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0008】
《工程設計支援装置》
(1)本発明は、複数の作業を経て目的物を得る生産工程の設計を支援する工程設計支援装置であって、各作業を行う順番である作業順序を無作為に仮定した仮候補を生成する仮候補生成手段と、該仮候補を特定の作業間で予定されている順番である作業制約に整合させた整合候補とする整合化手段と、所定の指標による該整合候補の評価値を出力する出力手段と、を備える工程設計支援装置である。
【0009】
(2)本発明の工程設計支援装置(単に「支援装置」という。)によれば、先ず、装置(システム、コンピュータ)により無作為(機械的、任意的、暫定的)な作業順序(仮候補)が仮設定される。次に、その仮候補をベースにして、作業制約に整合する作業順序(整合候補)が得られる。そして、整合候補は所定の指標で評価される。評価された整合候補(作業順序)は、それ以降の工程設計(作業順序に沿った作業の各工程への区割り等)に活用され得る。
【0010】
こうして本発明の支援装置によれば、従来の枠(既存の工程、設計者の能力等)に囚われない作業順序やそれに基づく工程についても、検討することが可能となる。この結果、単に、工程編成に要する時間(リードタイム)の短縮や工程設計者の負担軽減に留まらず、生産性の向上に貢献する好適さらには最適な作業順序や工程群の創出も可能になり得る。
【0011】
《工程設計支援方法》
本発明は、工程設計の支援方法(単に「支援方法」という。)としても把握できる。つまり本発明は、複数の作業を経て目的物を得る生産工程の設計を支援する工程設計支援方法であって、各作業を行う順番である作業順序を無作為に仮定した仮候補を生成する仮候補生成ステップと、該仮候補を特定の作業間で予定されている順番である作業制約に整合させた整合候補とする整合化ステップと、所定の指標による該整合候補の評価値を出力する出力ステップと、を備える工程設計支援方法でもよい。
【0012】
《工程設計支援プログラム》
本発明は、上述した各ステップをコンピュータに実行させる工程設計支援プログラム(単に「支援プログラム」という。)としても把握されてもよい。
【0013】
《その他》
(1)本発明による工程設計支援は、コンピュータと、そのコンピュータで実行させるプログラムとにより実現される。コンピュータは、通常、演算部(CPU等)、記憶部(メモリー等)、表示部(ディスプレー等)、入力部(キーボード等)を備える。コンピュータは、孤立したものでも、通信網により連携されたもの(例えばサーバーとクライアント)でもよい。
【0014】
(2)本発明に係る各手段または各ステップは、通常、そのコンピュータで実行されるプログラムにより構成または実現される。本明細書でいう「~手段」と「~ステップ」は、本発明の対象(物の発明か方法の発明)に応じて相互に言換えることができる。「~手段」は「~部」へ、「支援装置」は「支援システム」へ、それぞれ換言してもよい。また、連携した複数の装置(コンピュータ、記憶装置(サーバ等)、端末等)により構成される支援装置は「支援システム」としても把握される。
【0015】
(3)工程設計支援は、実際の作業(単に「実作業」という。)に対応して設定(データ化)された仮想の作業(解析モデル)に関して、数値解析(シミュレーション)してなされる。このため本明細書でいう「作業」は、特に断らない限り、実作業を反映したデータ群からなる。
【0016】
「作業」(データ)は、例えば、実作業毎に付される識別子(番号、符号等)と、実作業の特徴量(作業内容、作業位置、作業時間、使用する治具・工具等/「作業情報」という。)と、作業制約を有する。作業制約には、作業順序の生成に必要な情報であり、例えば、作業を行う順番の先後関係に関する情報(順序制約)、その順番の連続関係に関する情報(連続制約)、その順番の非連続(連続不可)に関する情報(断続制約)、その順番の順番位置を近づける情報(近傍制約)等がある。作業制約は、少なくとも、特定の作業間または作業群について、全作業に設定されていても、その一部の作業に設定されていてもよい。なお、本明細書でいう「作業順序」には、個別な作業(単体)の順序と、連続制約を充足するグループ化した作業群(一作業からなる場合を含む)の順序とがある。
【0017】
(4)工程設計の対象である目的物は、最終製品の他、中間製品(半製品や仕掛品)等でもよい。各作業の内容は問わず、部品の組立てや接合等の他、原材料の製造等でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】作業情報、順序制約および連続制約を例示した表である。
図2】作業IDからグループIDへの変換を例示した表である。
図3】グループIDに基づいて生成した作業順序の仮候補を例示した表である。
図4A】仮候補の一例を示したマトリックスである。
図4B】その仮候補に基づいて類似作業を集約したマトリックスである。
図4C】その集約した類似作業の集約過程を示した樹状図である。
図5A】その類似作業の集約をした整合候補を示すマトリックスである。
図5B】その類似作業の集約をしなかった整合候補を示すマトリックスである。
図6A】整合候補の作業順序と評価値を示した一覧表例である。
図6B】その作業順序と評価値を整合候補毎に表示したマトリックスである。
図7】作業順序の生成手順を例示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、工程設計の支援装置(システム)のみならず、その支援方法や支援プログラム等にも適宜該当する。
【0020】
《仮候補生成》
仮候補生成(「手段」または「ステップ」の表記は省略する。以下同様)は、各作業を行う順番である作業順序を無作為に仮設定した仮候補を生成する。仮候補は、一定のルール(アルゴリズム等)に沿って生成された作業順序でもよい。例えば、仮候補は、遺伝的アルゴリズム(GA:Genetic Algorithms)等の最適化アルゴリズムに基づいて生成されてもよい。無作為に仮定された作業順序は、全作業順序の一部でもよい。
【0021】
仮候補は、例えば、擬似乱数列に基づいて設定された作業順序からなってもよい。m個の作業があるとき、その作業順序は、m!(階乗)通りあり得る。作業数(m)が多くなると、その数(m!)は膨大になるため、全ての作業順序について検討することは不可能となる。
【0022】
そこで、例えば、識別子(ID/番号)を付与した各作業を擬似乱数列(単に「乱数列」という。)に基づいて配列すれば、無作為な作業順序(仮候補)群を所望数だけ生成することが可能となる。なお、作業順序(ID)の配列は、重複を排除した乱数列により生成されるとよい。仮候補の作業順序は、必ずしも乱数列自体である必要はない。
【0023】
《整合化》
整合化は、仮候補の作業順序を、特定の作業間で予定されている順番(作業制約)に整合した作業順序(整合候補)とする。作業制約の代表例として、特定の作業間で予定されている順番の先後関係である順序制約、特定の作業群に予定されている順番の連続関係である連続制約の他、特定の作業間の連続を禁止する非連続関係である(断続制約)、特定の作業間・作業群の順番を所定範囲内に収める(近傍制約)などがある。
【0024】
整合候補は、特に、類似作業を近接させた作業順序を生成するとよい。作業の類否は、例えば、各作業に付与・設定された情報(作業情報または作業制約)から求まる情報距離に基づいて判断される。この場合、情報距離が所定範囲内にある作業が類似作業となる。情報距離が所定範囲内にある作業(単に「近い作業」という。)は、例えば、利用する治具や工具、対象部品などが共通または関連する作業である。このように関連する類似作業が集約された作業順序により、生産性の向上を図れる工程設計が可能となる。
【0025】
連続制約に係る作業群は一括して整合化されて、整合候補(作業順序)が生成されるとよい。これにより、連続した一群の作業があるときでも、効率的な整合化がなされ得る。なお、一括処理された作業群は、作業順序の確定後に、個々の作業に分解(グループ解除)されるとよい。これにより、個々の作業が連続制約を充足する状態となった作業順序(整合候補)が得られる。
【0026】
《出力》
整合候補について、所定の指標に基づく評価値が出力されるとよい。評価値は、整合候補の識別子またはその作業順序と共に示されるとよい。さらに、その評価値に基づいて、ソートされた整合候補が表示されてもよい。
【0027】
評価値は、例えば、各作業情報(作業場所、作業時間等)に基づいて算出され得る。評価値の一例として、整合候補の作業順序に沿って作業者が移動する総距離(例えば、一作業の遂行に伴う移動距離と異なる作業場所間の移動距離との合計)がある。
【実施例
【0028】
本発明に係る工程設計の支援装置(システム)を説明するため、仮想事例(モデル)を示しつつ、本発明をより具体的に説明する。
【0029】
《装置構成》
本実施例に係る支援装置(システム)は、コンピュータと、そのコンピュータ上で実行されるプログラムとで構成される。コンピュータは、演算部(CPU等)、データやプログラムを一時的または長期的に保存する保存部(ROM、RAM、HDD、SSD等の記憶装置)、表示部(ディスプレー等)、入出力部(キーボード、マウス、通信インターフェース等)などを備える。コンピュータは、専用機でも汎用機(パーソナルコンピュータ(PC)等)でもよい。プログラムは、コンピュータに一時的または長期的にインストールされて、後述する工程設計の支援方法に係る各ステップを実行する。なお、本発明に係る各手段は、各ステップを実行するプログラム部分により構成される。
【0030】
《モデル》
工程設計を行う一事例として、自動車の組立ラインのように、膨大な作業要素(単に「作業」という。)からなる生産ライン(生産工程)を設計する場合を想定する。生産ラインは、直列状(直線状)のラインのみの場合もあるが、通常、上流側で分岐した多数のライン(支流ライン)が、下流側で合流して主たるライン(本流ライン)へ集約されていくことが多い。いずれのラインも、1以上の工程に区分(区画)され、各工程には1以上の作業(「作業群」という。)が割り振られる。
【0031】
あるラインの各工程に割り振る作業(群)を検討する際、そのライン上で処理されるべき全作業が、時系列に沿って順に配列された作業順序(候補)として与えられると、工程設計を効率的に行える。所定の指標(例えば一工程の所要時間、タクトタイム、作業性等)に基づいて、一連の作業順序を区切るだけで各工程が決定されるからである。
【0032】
このような状況を踏まえて、本実施例では、工程設計の際に必要となる作業順序の生成を支援する方法(装置、システム)について説明する。なお、理解を容易にすると共に説明の便宜を図るため、本実施例では、検討する作業数を敢えて少数とした。
【0033】
《作業順序の生成》
工程設計に有意義な作業順序の候補を生成する処理手順(フローチャート)を図7に示した。そのフローチャートに沿って、各手順(ステップ)について詳述する。
【0034】
(1)情報取得(入力)
ステップS1で、データベースから作業順序の生成に必要な各種の情報を取得する。具体的にいうと、ステップS11で作業情報を入力する。作業情報は、例えば、図1の表1Aに示すように、作業内容(作業名)、作業単体に要する時間(作業時間)、作業位置(X・Y座標)等である。
【0035】
各作業には、識別子である数字(ID)を付与した。各作業を区別するときは、そのIDに基づいて、「作業1」、「作業2」・・・のように表記(呼称)する。この点は、以下に説明するグループ、候補等についても同様である。
【0036】
ステップS12で作業制約を入力する。作業制約は、例えば、順序制約と連続制約である。順序制約は、図1の表1Bに示すように、各作業を行う順番の先後関係である。例えば、作業1には、先行する作業7が対応づけられている。この場合、作業1は作業7の後順となる。なお、本実施例では、全作業ではなく一部の作業にだけ、順序制約が設けられる場合を例示した。
【0037】
連続制約は、図1の表1Cに示すように、各作業を行う順番の連続関係である。連続制約毎に識別子が付与される。例えば、1番目の連続制約(単に「連続1」という。)は、作業6、作業8、作業9および作業10を、その順番で連続して行うことを規定している。
【0038】
ステップS13で、本実施例のシステムにより提示を望む作業順序の候補数(n:自然数)を入力する。ステップS11~S13をまとめてステップS1という。
【0039】
なお、後述するステップS8で示すように、作業順序の提示数(i:自然数/iはインクリメントされる。)が、その候補数(n)となるまで、ステップS3~S8の処理が繰り返される。
【0040】
(2)連続作業のグループ化
ステップS2で、連続制約に係る作業をグループ化して、それら作業の一括処理を可能にする。例えば、既述した一つの連続制約(連続1)に係る各作業(6、8、9、10)を一つのグループ1とする。本実施例では、連続制約がない作業IDにも、グループIDを付与した。その一例を図2の表2に示した。これにより、作業6、8、9、10はグループ6、作業1はグループ1、作業2はグループ2等として、全作業がグループIDにより画一的に処理される。
【0041】
(3)作業順序の仮候補生成
ステップS3で、各作業をグループIDに基づいて、無作為(アットランダム)に配列した作業順序からなる仮候補を生成する。こうして得られた各候補にも識別子(候補ID)を付与した。グループIDの無作為な配列には、擬似乱数列を利用した。
【0042】
こうして得られた仮候補の一例を図3の表3に示した。表3を見れば明らかなように、仮候補の作業順序は、基本的に、順序制約(表1B)を充足していない。
【0043】
(4)類似作業の集約
ステップS4で、仮候補として提示された各作業を、それらに属する情報距離に基づいて集約する。一例として、順序制約に基づいて類似作業を集約する場合を説明する。表3の候補1に示したグループID(作業順序)を、行と列にそれぞれ示したマトリックスを作成する。そのマトリックス中に、表1Bに示した順序制約(先行作業IDから変換された先行グループID)を、フラグ”1”として付加する。これにより、図4Aの表4Aに示すマトリックスが得られる。
【0044】
行に付したグループIDを見ると、例えば、グループ1(作業1)にはグループ7(作業7)が先行作業として存在することがわかる。但し、表4Aからもわかるように、順序制約を示す”1”はマトリックス全体に分散した状態となっている。
【0045】
この表4Aに示したマトリックスに対して、階層的クラスタリング処理を行うと、図4Bの表4Bに示すように、順序制約を示す”1”はマトリックスの対角線付近に配置される。そして各作業(グループ)は、マトリックスの左上側と右下側に集約される。その結果、全作業は、グループ1、2、7からなる集合と、グループ5、6、3、4からなる集合とに分類(クラスタリング)される。なお、表4Bを見れば明らかなように、この段階でも、グループIDの順序(行順)は順序制約(表1B)を充足していない。
【0046】
表4Bに示したマトリックスの生成過程(階層的クラスタリングの過程)を、樹状図として図4Cに示す。図4Cの下方は情報距離が近い(類似度が大きい)ことを示す。
【0047】
ここでは、説明を簡便にするために、順序制約に基づき類似作業を集約したが、作業位置、作業対象である部品の種類、材質、利用する治具や工具などに関する情報に基づいてなされてもよい。勿論、類似作業の集約は、複数種の情報を組み合わせてなされてもよい。また類似作業の集約は、階層的クラスタリング以外の手法を利用してもよい。さらには工程設計者が、予備実験により、集約の入力情報や手法を選択してもよい。
【0048】
いずれにしても、類似作業の集約を事前に行うことにより、類似する作業(例えば、同じ工具を使う作業等)がまとめられ、生産性に優れた作業順序(候補)が提案され易くなる。
【0049】
(5)作業制約の整合(順序制約の充足)
ステップS5で、類似作業を集約した作業順序の候補に基づいて、作業制約(順序制約)を満たすように再配列される。例えば、表4Bに示した作業順序を、表1Bに示す順序制約を満たすように並び替えると、表5Aに示す作業順序(整合候補)が得られる。具体的にいうと、マトリックスの第1行から順に、順序制約に違反していたグループIDの順序だけを、順に並び替える。逆にいえば、順序制約に違反していないグループIDは、その順序が維持される。このようなパーティショニング処理により、左から右に下がる対角線の下側にのみ、順序制約を示す”1”が表示されたマトリックス(表5A)が得られる。
【0050】
なお、整合候補の生成は、順序制約の充足のみに着目してなされてもよいし、他の評価指標(例えば、近傍制約:「作業Aと作業Bを順序が近い位置で実施する」)の充足等を加味してなされてもよい。ちなみに、上述した類似作業の集約を行わず、順序制約の整合のみを行うと、例えば、図5Bの表5Bに示すような作業順序(整合候補)が得られる。このような作業順序を検討対象とすることも可能である。但し、一般的に、類似する作業間の順番が離れている作業順序からは、高効率な生産工程が得られ難い。
【0051】
(6)連続作業のグループ解除
ステップS6で、一括して扱ってきた連続作業のグループを解除する。例えば、グループ6を解除して作業6、8、9、10に戻す。こうして、各作業全体について、整合候補である作業順序が得られる(図6Aの表6参照)。
【0052】
(7)整合候補と評価値の出力
ステップS7で、整合候補である作業順序全体と、その整合候補の評価値が出力される。その一例を表6に示した。
【0053】
評価値は、例えば、整合候補を構成する隣接作業間の移動距離の合計(総移動距離)である。隣接作業間の移動距離は、例えば、作業情報(表1A)に含まれる作業位置(座標)から求まる。
【0054】
出力形成は、表6に示すような一覧表形式でも良いし、図6Bに示すような整合候補毎の個別形式でもよい。なお、図6Bに示したマトリックスは、各作業位置を色別表示により視覚化している。また、先行作業との順序距離も視覚化して表示している。この場合、対角線に近いほど、先行作業との順序距離が近いことを意味している。対角線右上に1が存在しないことは、順序制約の違反がないことを示している。
【0055】
(8)候補数
設定した候補数(n)の作業順序が得られるまで、上述した各ステップが繰り返しなされる(ステップS8)。これにより、例えば、表6に示す一覧表が完成される。
【0056】
複数の整合候補は、例えば、評価値に基づいてソート表示されてもよい。また、整合候補が多数あるとき、所定の観点でグループ分けして、各グループ毎に代表的な整合候補が示されてもよい。
【0057】
以上のように提示される多数の作業順序を利用することにより、全体的に最適または最適に近い生産工程の設計、検討等を効率的に行えるようになる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6A
図6B
図7