(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】電動機、圧縮機、送風機、及び冷凍空調装置
(51)【国際特許分類】
H02K 1/2706 20220101AFI20221214BHJP
H02K 1/22 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
H02K1/2706
H02K1/22 A
(21)【出願番号】P 2020505564
(86)(22)【出願日】2018-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2018009465
(87)【国際公開番号】W WO2019175927
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-03-03
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116964
【氏名又は名称】山形 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100120477
【氏名又は名称】佐藤 賢改
(74)【代理人】
【識別番号】100135921
【氏名又は名称】篠原 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100083840
【氏名又は名称】前田 実
(72)【発明者】
【氏名】矢部 浩二
【合議体】
【審判長】窪田 治彦
【審判官】長馬 望
【審判官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-2650(JP,A)
【文献】国際公開第2012/132331(WO,A1)
【文献】特開2001-86674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/2706
H02K 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向における第1側にある第1固定子端部と、前記軸方向において前記第1側の反対側である第2側にある第2固定子端部と、径方向に延在するティースと、前記ティースに巻回された巻線とを有する固定子と、
前記軸方向に積層された複数の電磁鋼板、磁石挿入孔、前記第1側にある第1回転子端部、及び前記第2側にある第2回転子端部を有する回転子鉄心と、前記磁石挿入孔に挿入された永久磁石と、前記回転子鉄心に固定されているとともに前記第2側のみで支持された軸と、前記磁石挿入孔の前記第1側を覆う第1端板と、前記磁石挿入孔の前記第2側を覆う第2端板とを有する回転子と
を備え、
前記第1回転子端部は、前記軸方向において前記第1固定子端部から前記第1側に離れて位置しており、
前記第2回転子端部は、前記軸方向において前記第2固定子端部から前記第1側に離れて位置しており、
前記永久磁石から前記第1端板までの距離をD1とし、前記永久磁石から前記第2端板までの距離をD2としたとき、前記距離D1及び前記距離D2の関係は、D1>D2≧0を満たし、
前記複数の電磁鋼板の各々の厚さが0.1mm以上0.25mm以下であり、
前記巻線に印加される電圧を調整するためのキャリア周波数が1kHzから8kHzである
電動機。
【請求項2】
前記回転子鉄心は、径方向における前記回転子鉄心の端部であって且つ前記回転子の磁極中心部に位置する第1部分と、径方向における前記回転子鉄心の端部であって且つ前記回転子の極間部に位置する第2部分とを有し、
前記軸方向に直交する平面において、前記回転子の回転中心から前記第1部分までの距離は、前記回転子の前記回転中心から前記第2部分までの距離よりも長い請求項1に記載の電動機。
【請求項3】
前記第1端板は、前記第1端板の外縁の一部を形成する第1外縁と、周方向において前記第1外縁に隣接している第2外縁とを有し、
前記第1外縁は、径方向において前記第1部分から内側に離れて位置しており、
前記第2外縁は、径方向において前記第2部分から外側に離れて位置している
請求項2に記載の電動機。
【請求項4】
前記回転子鉄心は、前記第1部分を含む第1外周面と、前記第2部分を含む第2外周面とを有し、
前記第1外周面は、前記第2外周面よりも径方向において外側に突出している請求項2又は3に記載の電動機。
【請求項5】
前記ティースは、前記回転子に面するティース先端部を有し、
前記軸方向と直交する平面において、周方向における前記ティース先端部の両端部と前記回転子の回転中心とを通る2直線が成す角度をθ1とし、前記平面において、前記周方向における前記第1外周面の両端と前記回転子の前記回転中心とを通る2直線が成す角度をθ2とすると、
前記電動機はθ1≧θ2を満たす
請求項4に記載の電動機。
【請求項6】
前記回転子鉄心は、径方向において前記磁石挿入孔の外側に形成された孔を有し、前記孔は周方向に延在している請求項5に記載の電動機。
【請求項7】
前記回転子鉄心は、前記孔と前記回転子鉄心の外縁との間に形成された薄肉部を有する請求項
6に記載の電動機。
【請求項8】
径方向における前記永久磁石の幅は、前記径方向における前記磁石挿入孔の幅よりも小さく、
前記永久磁石は、前記磁石挿入孔内において前記径方向における内側に位置している
請求項1から
7のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項9】
前記第1端板は第1固定孔を有し、
前記回転子鉄心は第2固定孔を有し、
前記回転子は、前記第1端板を前記回転子鉄心に固定する固定部材を有し、
前記固定部材は、前記第1固定孔及び前記第2固定孔に挿入されており、
前記固定部材の半径をr1とし、前記第1固定孔の半径をr2とし、前記第2固定孔の半径をr3とし、前記回転子の磁極中心部における前記回転子鉄心の半径をM1とし、前記磁極中心部上の前記第1端板の半径をT1としたとき、
前記電動機は、
(r2+r3)-2×r1≦M1-T1
を満たす
請求項1から
8のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項10】
前記巻線に印加される電圧を昇圧させる昇圧回路をさらに備える請求項1から
9のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項11】
前記固定子は、前記ティースを有する固定子鉄心を有し、
前記回転子の極間部における前記回転子鉄心と前記固定子鉄心との間の空隙は、前記回転子の磁極中心部における前記回転子鉄心と前記固定子鉄心との間の空隙よりも大きい
請求項1から
10のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項12】
電動機と、
前記電動機によって駆動される圧縮機構と、
前記電動機及び前記圧縮機構を覆うハウジングと
を備え、
前記電動機は、
軸方向における第1側にある第1固定子端部と、前記軸方向において前記第1側の反対側である第2側にある第2固定子端部と、径方向に延在するティースと、前記ティースに巻回された巻線とを有する固定子と、
前記軸方向に積層された複数の電磁鋼板、磁石挿入孔、前記第1側にある第1回転子端部、及び前記第2側にある第2回転子端部を有する回転子鉄心と、前記磁石挿入孔に挿入された永久磁石と、前記回転子鉄心に固定されているとともに前記第2側のみで支持された軸と、前記磁石挿入孔の前記第1側を覆う第1端板と、前記磁石挿入孔の前記第2側を覆う第2端板とを有する回転子と
を有し、
前記第1回転子端部は、前記軸方向において前記第1固定子端部から前記第1側に離れて位置しており、
前記第2回転子端部は、前記軸方向において前記第2固定子端部から前記第1側に離れて位置しており、
前記永久磁石から前記第1端板までの距離をD1とし、前記永久磁石から前記第2端板までの距離をD2としたとき、前記距離D1及び前記距離D2の関係は、D1>D2≧0を満たし、
前記複数の電磁鋼板の各々の厚さが0.1mm以上0.25mm以下であり、
前記巻線に印加される電圧を調整するためのキャリア周波数が1kHzから8kHzである
圧縮機。
【請求項13】
電動機と、
前記電動機によって駆動される羽根と
を備え、
前記電動機は、
軸方向における第1側にある第1固定子端部と、前記軸方向において前記第1側の反対側である第2側にある第2固定子端部と、径方向に延在するティースと、前記ティースに巻回された巻線とを有する固定子と、
前記軸方向に積層された複数の電磁鋼板、磁石挿入孔、前記第1側にある第1回転子端部、及び前記第2側にある第2回転子端部を有する回転子鉄心と、前記磁石挿入孔に挿入された永久磁石と、前記回転子鉄心に固定されているとともに前記第2側のみで支持された軸と、前記磁石挿入孔の前記第1側を覆う第1端板と、前記磁石挿入孔の前記第2側を覆う第2端板とを有する回転子と
を有し、
前記第1回転子端部は、前記軸方向において前記第1固定子端部から前記第1側に離れて位置しており、
前記第2回転子端部は、前記軸方向において前記第2固定子端部から前記第1側に離れて位置しており、
前記永久磁石から前記第1端板までの距離をD1とし、前記永久磁石から前記第2端板までの距離をD2としたとき、前記距離D1及び前記距離D2の関係は、D1>D2≧0を満たし、
前記複数の電磁鋼板の各々の厚さが0.1mm以上0.25mm以下であり、
前記巻線に印加される電圧を調整するためのキャリア周波数が1kHzから8kHzである
送風機。
【請求項14】
室内機と、
前記室内機に接続された室外機と
を備え、
前記室内機及び前記室外機の少なくとも1つは電動機を有し、
前記電動機は、
軸方向における第1側にある第1固定子端部と、前記軸方向において前記第1側の反対側である第2側にある第2固定子端部と、径方向に延在するティースと、前記ティースに巻回された巻線とを有する固定子と、
前記軸方向に積層された複数の電磁鋼板、磁石挿入孔、前記第1側にある第1回転子端部、及び前記第2側にある第2回転子端部を有する回転子鉄心と、前記磁石挿入孔に挿入された永久磁石と、前記回転子鉄心に固定されているとともに前記第2側のみで支持された軸と、前記磁石挿入孔の前記第1側を覆う第1端板と、前記磁石挿入孔の前記第2側を覆う第2端板とを有する回転子と
を有し、
前記第1回転子端部は、前記軸方向において前記第1固定子端部から前記第1側に離れて位置しており、
前記第2回転子端部は、前記軸方向において前記第2固定子端部から前記第1側に離れて位置しており、
前記永久磁石から前記第1端板までの距離をD1とし、前記永久磁石から前記第2端板までの距離をD2としたとき、前記距離D1及び前記距離D2の関係は、D1>D2≧0を満たし、
前記複数の電磁鋼板の各々の厚さが0.1mm以上0.25mm以下であり、
前記巻線に印加される電圧を調整するためのキャリア周波数が1kHzから8kHzである
冷凍空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石を有する電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、冷凍サイクル装置に用いられる高効率密閉型圧縮機内の電動機として、永久磁石埋込型電動機などの永久磁石同期電動機(ブラシレスDCモータともいう)が用いられている。永久磁石同期電動機の回転子の回転子鉄心の内部には永久磁石が配置されている。通常、永久磁石同期電動機の駆動に伴って回転子鉄心に熱が発生する。回転子鉄心に発生した熱が永久磁石に伝わると、永久磁石の温度が上昇し、永久磁石の減磁を引き起こす。その結果、電動機のトルク及び効率が低下するという問題がある。そのため、永久磁石の周囲に冷媒を通過させることにより、永久磁石の温度上昇を低減する回転子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、冷媒を用いて回転子の永久磁石を冷却するため、冷媒が通る経路が詰まった場合、永久磁石を充分に冷却できない。回転子の永久磁石の温度上昇は、永久磁石の減磁を引き起こす。その結果、電動機の効率が低下するという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、回転子の永久磁石の温度上昇を低減することにより、電動機の効率を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電動機は、軸方向における第1側にある第1固定子端部と、前記軸方向において前記第1側の反対側である第2側にある第2固定子端部と、径方向に延在するティースと、前記ティースに巻回された巻線とを有する固定子と、前記軸方向に積層された複数の電磁鋼板、磁石挿入孔、前記第1側にある第1回転子端部、及び前記第2側にある第2回転子端部を有する回転子鉄心と、前記磁石挿入孔に挿入された永久磁石と、前記回転子鉄心に固定されているとともに前記第2側のみで支持された軸と、前記磁石挿入孔の前記第1側を覆う第1端板と、前記磁石挿入孔の前記第2側を覆う第2端板とを有する回転子とを備え、前記第1回転子端部は、前記軸方向において前記第1固定子端部から前記第1側に離れて位置しており、前記第2回転子端部は、前記軸方向において前記第2固定子端部から前記第1側に離れて位置しており、前記永久磁石から前記第1端板までの距離をD1とし、前記永久磁石から前記第2端板までの距離をD2としたとき、前記距離D1及び前記距離D2の関係は、D1>D2≧0を満たし、前記複数の電磁鋼板の各々の厚さが0.1mm以上0.25mm以下であり、前記巻線に印加される電圧を調整するためのキャリア周波数が1kHzから8kHzである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回転子の永久磁石の温度上昇を低減することにより、電動機の効率を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る電動機の構造を概略的に示す平面図である。
【
図2】電動機の構造を概略的に示す部分断面図である。
【
図5】xz平面における回転子と固定子との位置関係を示す図である。
【
図6】xy平面における回転子と固定子鉄心との位置関係を示す図である。
【
図7】第1端板の構造を概略的に示す平面図である。
【
図8】回転子2の構造を概略的に示す平面図である。
【
図9】
図8における線C9-C9に沿った断面図である。
【
図11】電動機における駆動系の構成の一例を示すブロック図である。
【
図12】電動機の駆動中における回転子の状態の一例を示す図である。
【
図13】電動機における電磁鋼板の厚さと回転子に生じる鉄損の大きさとの関係を示すグラフである。
【
図14】本発明の実施の形態2に係る圧縮機の構造を概略的に示す断面図である。
【
図15】本発明の実施の形態3に係る空気調和機の構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
各図に示されるxyz直交座標系において、z軸方向(z軸)は、電動機1の軸26の軸線A1と平行な方向を示し、x軸方向(x軸)は、z軸方向(z軸)に直交する方向を示し、y軸方向(y軸)は、z軸方向及びx軸方向の両方に直交する方向を示す。軸線A1は、回転子2の回転中心である。軸線A1と平行な方向は、「回転子2の軸方向」又は単に「軸方向」ともいう。径方向は、軸線A1と直交する方向である。
【0010】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る電動機1の構造を概略的に示す平面図である。矢印C1は、軸線A1を中心とする固定子3の周方向である。矢印C1は、軸線A1を中心とする回転子2の周方向も示す。回転子2及び固定子3の周方向は、単に「周方向」ともいう。
図2は、電動機1の構造を概略的に示す部分断面図である。
図2において、回転子2の外観、xz平面における固定子3の断面がそれぞれ示されている。
図2における上側(すなわち、+z側)を第1側、下側(すなわち、-z側)を第2側とそれぞれ呼ぶ。
【0011】
電動機1は、回転子2と、固定子3と、軸受け4とを有する。電動機1は、例えば、永久磁石埋込型電動機である。
【0012】
図2に示されるように、固定子3は、固定子鉄心31と、軸方向における第1側にある第1固定子端部31aと、軸方向における第2側にある第2固定子端部31bと、固定子鉄心31(具体的には、ティース311)に巻回された巻線32とを有する。例えば、固定子鉄心31と巻線32との間にはインシュレータが配置される。
図1に示される固定子3では、固定子鉄心31から巻線32が外されている。
【0013】
第1固定子端部31aは、第1側における固定子鉄心31の端部であり、第2固定子端部31bは、第2側における固定子鉄心31の端部である。
【0014】
図1に示されるように、固定子鉄心31は、径方向に延在する少なくとも1つのティース311と、周方向に延在するヨーク312とを有する。
図1に示される例では、固定子鉄心31は、複数のティース311(具体的には、6つのティース311)を有する。
【0015】
固定子鉄心31は、環状に形成されている。固定子鉄心31は、複数の電磁鋼板を軸方向に積層することにより形成されている。複数の電磁鋼板の各々は、予め定められた形状に打ち抜かれている。
【0016】
図3は、回転子2の構造を概略的に示す側面図である。
図3に示される破線は、固定孔206及び固定孔274の内壁を示す。
図4は、回転子2の構造を概略的に示す断面図である。
図4では、第1端板27aは回転子鉄心20から外されている。
回転子2は、径方向における固定子3の内側に回転可能に配置されている。回転子2は、回転子鉄心20と、少なくとも1つの永久磁石220と、軸26と、第1端板27aと、第2端板27bと、少なくとも1つの固定部材28とを有する。回転子2の回転軸は、軸線A1と一致する。
【0017】
回転子鉄心20は、軸方向に積層された複数の電磁鋼板201と、少なくとも1つの磁石挿入孔202と、軸孔203と、少なくとも1つの孔204と、少なくとも1つの薄肉部205と、少なくとも1つの固定孔206(第2固定孔ともいう)と、第1側にある第1回転子端部21aと、第2側にある第2回転子端部21bとを有する。回転子鉄心20は、略円筒形状である。
【0018】
第1回転子端部21aは、軸方向における第1側の端部である。第2回転子端部21bは、軸方向における第2側の端部である。
【0019】
図3に示されるように、第1端板27aは、磁石挿入孔202の第1側を覆っている。第2端板27bは、磁石挿入孔202の第2側を覆っている。固定部材28は、回転子鉄心20の固定孔206及び第1端板27a及び第2端板27bの固定孔274に挿入されている。固定部材28は、第1端板27a及び第2端板27bを回転子鉄心20に固定する。これにより、第1端板27a及び第2端板27bが回転子鉄心20に固定されている。
【0020】
複数の電磁鋼板201の各々の厚さは0.1mm以上0.25mm以下である。各電磁鋼板201は、予め定められた形状に打ち抜きで形成されている。少なくとも1つの磁石挿入孔202、軸孔203、少なくとも1つの孔204、少なくとも1つの薄肉部205、及び少なくとも1つの固定孔206は、複数の電磁鋼板201に形成されている。軸孔203は、軸方向と直交する平面、すなわち、xy平面における電磁鋼板201の中心に形成されている。
【0021】
図4に示される例では、複数の磁石挿入孔202(具体的には、4つの磁石挿入孔202)が周方向に配列されている。
図4に示される例では、磁石挿入孔202の数は、回転子2の磁極の数と同じである。
【0022】
永久磁石220は、磁石挿入孔202に挿入されている。永久磁石220は、例えば、希土類磁石である。ただし、永久磁石220は、希土類磁石に限定されない。径方向における永久磁石220の幅は、径方向における磁石挿入孔202の幅よりも小さい。
【0023】
図4に示されるように、永久磁石220は、磁石挿入孔202内において径方向における内側に位置している。したがって、磁石挿入孔202の内壁と径方向における永久磁石220の外側の表面との間には空隙が形成されている。この空隙には、油又は冷媒が存在していてもよい。
【0024】
少なくとも1つの孔204は、径方向において磁石挿入孔202の外側に形成されている。
図4に示される例では、複数の孔204(具体的には、8つの孔204)が回転子鉄心20に形成されている。各孔204は、周方向に延在している。孔204以外の孔が回転子鉄心20に形成されていてもよい。この場合、孔204は、極間部に最も近い孔である。
【0025】
少なくとも1つの薄肉部205は、孔204と回転子鉄心20の外縁との間に形成されている。
図4に示される例では、複数の薄肉部205(具体的には、8つの薄肉部205)が回転子鉄心20に形成されている。各薄肉部205は、周方向に延在している。
【0026】
軸26は、xy平面における回転子2の中心部に形成された軸孔203に挿入されている。軸26は、回転子鉄心20(具体的には、軸孔203)に固定されているとともに第2側のみで回転可能に支持されている。具体的には、軸26は、第2側において、軸受け4によって回転可能に支持されている。
【0027】
回転子鉄心20は、さらに、回転子2の磁極中心部に位置する第1部分20aと、回転子2の極間部に位置する第2部分20bと、第1部分20aを含む外周面20c(第1外周面ともいう)と、第2部分20bを含む外周面20d(第2外周面ともいう)とを有する。
【0028】
xy平面において、第1部分20aは、径方向における回転子鉄心20の端部である。同様に、xy平面において、第2部分20bは、径方向における回転子鉄心20の端部である。第1部分20a及び第2部分20bは、回転子鉄心20の外縁の一部を形成する。
【0029】
磁極中心部は、回転子2において磁極中心線B1が通る部分である。破線で示される磁極中心線B1は、xy平面において、永久磁石220の中心及び回転子2の回転中心を通る直線である。
【0030】
極間部は、回転子2において極間線B2が通る部分である。破線で示される極間線B2は、xy平面において、互いに隣接する2つの永久磁石220の中間点及び回転子2の回転中心を通る直線である。
【0031】
外周面20cは、外周面20dよりも径方向において外側に突出している。xy平面において、回転子2の回転中心から第1部分20aまでの距離は、回転子2の回転中心から第2部分20bまでの距離よりも長い。言い換えると、磁極中心部における回転子鉄心20の半径M1は、極間部における回転子鉄心20の半径M2よりも大きい。したがって、第2部分20bから固定子鉄心31までの最短距離は、第1部分20aから固定子鉄心31までの最短距離よりも大きい。言い換えると、極間部における回転子鉄心20と固定子鉄心31との間の空隙は、磁極中心部における回転子鉄心20と固定子鉄心31との間の空隙よりも大きい。
【0032】
図5は、xz平面における回転子2と固定子3との位置関係を示す図である。
図5では、回転子2及び固定子3の断面構造が示されている。
図5に示されるように、第1回転子端部21aは、軸方向において第1固定子端部31aから第1側に離れて位置しており、第2回転子端部21bは、軸方向において第2固定子端部31bから第1側に離れて位置している。
【0033】
永久磁石220から第1端板27aまでの軸方向における距離をD1とし、永久磁石220から第2端板27bまでの軸方向における距離をD2としたとき、距離D1及び距離D2の関係は、D1>D2≧0を満たす。永久磁石220から第1端板27aまでの距離が一定ではない場合、距離D1は、永久磁石220から第1端板27aまでの最短距離である。同様に、永久磁石220から第2端板27bまでの距離が一定ではない場合、距離D2は、永久磁石220から第2端板27bまでの最短距離である。
【0034】
図6は、xy平面における回転子2と固定子鉄心31との位置関係を示す図である。
図6には、回転子2の一部及び固定子鉄心31の一部が示されている。
【0035】
ティース311は、本体部311aと、ティース先端部311bとを有する。端部311cは、周方向におけるティース先端部311bの端部である。本体部311aは、径方向に延在している。ティース先端部311bは、周方向に延在しており、回転子2(具体的には、回転子鉄心20)に面している。
【0036】
各孔204は、ティース先端部311bの端部311cと軸線A1(すなわち、回転子2の回転中心)とを通る直線L1上に位置している。同様に、各薄肉部205は、周方向におけるティース先端部311bの端部311cと軸線A1とを通る直線L1上に位置している。
【0037】
軸方向と直交する平面、すなわち、xy平面において、ティース先端部311bの両端部311cと回転子2の回転中心とを通る2直線L1が成す角度をθ1とし、xy平面において、周方向における外周面20cの両端と回転子2の回転中心とを通る2直線L2が成す角度をθ2とすると、電動機1はθ1≧θ2を満たす。
【0038】
図7は、第1端板27aの構造を概略的に示す平面図である。第2端板27bの構造も
図7に示される第1端板27aの構造と同じである。
第1端板27aは、第1端板27aのxy平面における外縁の一部を形成する外縁271(第1外縁ともいう)と、周方向において外縁271に隣接している外縁272(第2外縁ともいう)と、軸26が通る軸孔273と、少なくとも1つの固定孔274(第1固定孔ともいう)と、第1端板27aは、少なくとも1つの磁石固定部275とを有する。
【0039】
図7に示される例では、複数の外縁271(具体的には、4つの外縁271)、複数の外縁272(具体的には、4つの外縁272)、複数の固定孔274(具体的には、4つの固定孔274)、及び複数の磁石固定部275(具体的には、5つの磁石固定部275)が第1端板27aに形成されている。回転子2の磁極中心部上の第1端板27aの半径T1は、回転子2の極間部上の第1端板27aの半径T2よりも大きい。第1端板27a及び第2端板27bは、例えば、非磁性体で形成されている。
【0040】
図8は、回転子2の構造を概略的に示す平面図である。
図8において、回転子鉄心20の構造は破線で示されており、第1端板27aの構造は実線で示されている。
第1端板27aの外縁271の一部は、回転子2の磁極中心部上に位置し、第1端板27aの外縁272の一部は、回転子2の極間部上に位置している。
【0041】
第1端板27aの外縁271は、径方向において回転子鉄心20の外周面20cから内側に離れて位置している。第1端板27aの外縁272は、径方向において回転子鉄心20の外周面20dから外側に離れて位置している。具体的には、磁極中心部上において、第1端板27aの外縁271は、径方向において回転子鉄心20の第1部分20aから内側に離れて位置している。極間部上において、第1端板27aの外縁272は、径方向において回転子鉄心20の第2部分20bから外側に離れて位置している。
【0042】
図9は、
図8における線C9-C9に沿った断面図である。
磁石固定部275は、永久磁石220の位置を固定する。磁石固定部275は、例えば、ばね特性を持つ突起である。例えば、
図9に示されるように、第1端板27aの一部を永久磁石220に向けて折り曲げることにより、ばね特性を持つ突起を形成することができる。
図9に示される例では、永久磁石220の位置は、磁石固定部275で固定されている。この場合、距離D1及び距離D2の関係は、D1>D2且つD2=0を満たす。
【0043】
図10は、第2端板27bの他の例を示す図である。
第2端板27bは、永久磁石220の位置を固定する磁石固定部275を有してもよい。
図10に示される例では、永久磁石220の位置は、第1端板27aの磁石固定部275及び第2端板27bの磁石固定部275で固定されている。この場合、軸方向における第1端板27aの磁石固定部275の長さは、第2端板27bの磁石固定部275よりも長い。これにより、距離D1及び距離D2の関係は、D1>D2>0を満たす。
【0044】
永久磁石220が磁石固定部275で軸方向において固定されているので、電動機1の駆動中において、永久磁石220が軸方向にずれることを防止することができ、固定子3に流入する軸方向における磁束のばらつきを低減することができる。これにより、電動機1の効率を改善することができる。さらに、磁石挿入孔202又は永久磁石220の軸方向における寸法の誤差がある場合でも、磁石固定部275は、ばね特性を持っているので、その誤差を吸収することができる。
【0045】
回転子鉄心20の固定孔206、第1端板27aの固定孔274、及び固定部材28は、xy平面において円形である。xy平面において、固定部材28の半径をr1とし、固定孔274の半径をr2とし、固定孔206の半径をr3とし、磁極中心部における回転子鉄心20の半径をM1とし、磁極中心部上の第1端板27aの半径をT1としたとき、これらの関係は、r1<r2、r1<r3、且つM1>T1を満たす。
【0046】
さらに、電動機1は、(r2+r3)-2×r1≦M1-T1を満たす。
【0047】
図11は、電動機1における駆動系の構成の一例を示すブロック図である。
電動機1は、巻線32に電圧を印加するインバータ7と、巻線32に印加される電圧を昇圧させる昇圧回路8(コンバータともいう)とをさらに有する。電動機1が駆動するときに、巻線32に印加される電圧を調整するためのキャリア周波数は、例えば、1kHzから8kHzである。キャリア周波数は、インバータ7によって制御されてもよく、インバータ7の外部の制御装置によって制御されてもよい。
【0048】
本実施の形態に係る電動機1の効果を以下に説明する。
一般に、永久磁石同期電動機が駆動するとき、固定子(具体的には、巻線)に電圧が印加され、固定子から磁力が発生する。固定子からの磁力には高調波(高調波成分ともいう)が含まれているため、回転子の回転と同期しない高調波が存在する。この高調波には、巻線に通電するときに生じる電流歪みを起因として発生する高調波と、固定子のティース間に形成される空間であるスロットに起因する高調波が含まれる。回転子の回転と同期しない高調波は、回転子(具体的には、永久磁石)における磁束を変化させ、その結果、回転子に鉄損が発生する。この鉄損は、回転子の表面に発生し、発熱を引き起こす。この熱が回転子鉄心を通して永久磁石に伝わると、永久磁石の温度が上昇する。
【0049】
一般に、電動機の出力を高めるために、回転子の永久磁石として希土類磁石が用いられている。希土類磁石の温度が上昇すると、磁力及び保磁力の低下を引き起こし、その結果、電動機の出力及び効率の低下を引き起こす。したがって、永久磁石の温度はできるだけ低いことが望ましい。
【0050】
ディスプロシウムの含有量が少ない希土類磁石は、熱の影響を受けやすいため、ディスプロシウムの含有量が少ない希土類磁石を用いた電動機では、回転子における温度上昇を低減する必要がある。特に、ディスプロシウムを含まない永久磁石の保磁力は低いため、ディスプロシウムの含有量が少ない希土類磁石を用いた電動機では、温度上昇をできるだけ低減する必要がある。したがって、永久磁石においてディスプロシウムの含有量が重量比で4%以下であるとき、永久磁石の温度上昇を低減することが重要である。逆に言えば、永久磁石の温度を低減することができる技術を用いることにより、回転子の永久磁石として、ディスプロシウムの含有量が重量比で0%から4%の永久磁石を用いることができる。
【0051】
図12は、電動機1の駆動中における回転子2の状態の一例を示す図である。
図12において、回転子2と固定子3との間の空隙に示される矢印は、固定子3からの磁束の流れを示す。
【0052】
一般に、回転子の軸が軸方向における一方で回転可能に支持されている場合、電動機の駆動中において軸が傾きやすい。回転子の軸が傾いた場合、回転子と固定子との間の空隙が狭くなる領域が発生する。回転子と固定子との間の空隙が狭い場合、回転子鉄心に流入する磁束の密度が大きくなるため、回転子鉄心は固定子からの磁力の高調波の影響を受けやすい。その結果、回転子鉄心の表面における鉄損が増加する。したがって、回転子の軸が軸方向における一方で回転可能に支持されている場合、鉄損を起因とする回転子鉄心の発熱が大きい。
【0053】
電動機1では、回転子2の軸26が軸方向における一端側のみで支持されており、第1回転子端部21aは、軸方向において第1固定子端部31aから第1側に離れて位置しており、第2回転子端部21bは、軸方向において第2固定子端部31bから第1側に離れて位置している。このような構造を持つ電動機1は、例えば、ロータリー圧縮機の電動機として用いられる。
【0054】
ロータリー圧縮機の電動機に電動機1を適用した場合、第1回転子端部21a及び第2回転子端部21bが、軸方向において第1固定子端部31a及び第2固定子端部31bから第1側にそれぞれ離れて位置しているので、電動機1内において軸方向に吸引力が発生する。これにより、圧縮機内において冷媒を圧縮するための隙間を管理することができる。
【0055】
図12に示されるように、第1回転子端部21a及び第2回転子端部21bが、軸方向において第1固定子端部31a及び第2固定子端部31bから第1側にそれぞれ離れて位置しているとき、軸方向における回転子2の一端側に流入する固定子3からの磁束が増加する。
図12に示される例では、回転子2の第2側に流入する固定子3からの磁束が増加する。この場合、固定子3からの磁力の高調波成分が大きく、回転子2の第2側における磁束密度が増加するため、回転子2の第2側における鉄損が増加する。その結果、回転子2の温度が上昇するという問題がある。特に、回転子2の第2側における温度が上昇しやすいという問題がある。
【0056】
本実施の形態に係る電動機1において、距離D1及び距離D2の関係は、D1>D2≧0を満たす。これにより、第1側の永久磁石220の量を減らすことができ、固定子3に面する永久磁石220の面積を増加させることができる。その結果、永久磁石220の磁力を効率的に使用することができ、回転子2の磁力を高めることができる。
【0057】
永久磁石220が第2端板27bに接触しているとき(すなわち、D2=0)、固定子3に面する永久磁石220の面積が最も大きいので、回転子2の磁力を最も有効に使用することができる。ただし、回転子2の第2側における永久磁石220の量を多くすることにより、永久磁石220の第2側の温度が上昇しやすい。したがって、回転子2の第2側における永久磁石220の量を多くするとともに、永久磁石220の温度上昇を低減させることが望ましい。
【0058】
図13は、電動機1における電磁鋼板201の厚さと回転子2に生じる鉄損の大きさとの関係を示すグラフである。
図13に示されるように、電磁鋼板201の厚さが0.25mmより大きいとき、鉄損が著しく増加する。一般に、電磁鋼板の鉄損には、ヒステリシス損及び渦電流損が含まれる。固定子3からの磁力の高調波を起因とする鉄損を低減するためには、渦電流損を低減することが有効である。電磁鋼板201の厚さが0.25mm以下では、鉄損、特に、渦電流損を低減することができる。ただし、電磁鋼板201の厚さが0.1mmよりも小さいとき、電磁鋼板201の打ち抜き加工が困難である。したがって、電磁鋼板201の厚さは、0.1mm以上0.25mm以下であることが望ましい。
【0059】
本実施の形態に係る電動機1では、回転子2の第2側に流入する固定子3からの磁束が増加するため、永久磁石220の第2側の温度が上昇しやすく、減磁特性が悪化しやすい。永久磁石220として大きい保磁力を持つ磁石を用いることで減磁特性を改善することもできる。本実施の形態に係る電動機1では、大きい保磁力を持つ磁石を用いずに、電磁鋼板201の厚さを、0.1mm以上0.25mm以下に設定することにより、回転子2に生じる鉄損を低減することができ、鉄損を起因とする発熱を低減することができる。その結果、永久磁石220の温度上昇を低減することができる。
【0060】
角度θ2(
図6)が大きい程、回転子2と固定子3との間の空隙が狭い領域を周方向に長くすることができ、これにより、永久磁石220の磁束を効率的に固定子3に流入させることができる。しかしながら、固定子鉄心31から回転子鉄心20までの距離が短いとき、固定子鉄心31からの磁力の高調波の影響が大きくなるため、回転子鉄心20における鉄損が増加する。本実施の形態に係る電動機1では、角度θ1及びθ2の関係は、θ1≧θ2を満たす。これにより、固定子3からの磁力の高調波の影響を低減することができる。その結果、永久磁石220の磁力を効率的に固定子3に流入させることができ、回転子鉄心20の表面に生じる鉄損を低減することができる。
【0061】
回転子鉄心20の孔204(
図4)は、周方向に延在している。これにより、回転子鉄心20の外周面から電磁鋼板201を通して永久磁石220までの経路を長くすることができる。その結果、回転子鉄心20の外周面で発生した熱が永久磁石220に伝わりにくくなるので、永久磁石220の温度上昇を低減することができる。さらに、回転子鉄心20に孔204が形成されているので、回転子鉄心20の表面積を増加させることができ、回転子鉄心20及び永久磁石220の熱を孔204から回転子2の外部へ放出しやすくすることができる。
【0062】
回転子鉄心20の孔204は、周方向におけるティース先端部311bの端部311cと軸線A1(すなわち、回転子2の回転中心)とを通る直線L1上に位置している。これにより、ティース先端部311bの構造及び2つのティース311間のスロットの構造を起因とする磁力の高調波を低減することができ、回転子2における鉄損を低減することができる。
【0063】
永久磁石220は、磁石挿入孔202内において径方向における内側に位置している。したがって、磁石挿入孔202の内壁と径方向における永久磁石220の外側の表面との間には空隙が形成されている。これにより、回転子鉄心20の外周面で発生した熱が永久磁石220に伝わりにくい。その結果、永久磁石220の温度上昇を低減することができる。
【0064】
極間部上の第1端板27aの半径T2は、極間部における回転子鉄心20の半径M2よりも大きい。言い換えると、外縁272は、径方向において回転子鉄心20の第2部分20bから外側に離れて位置している。すなわち、回転子鉄心20の第2部分20bから外側に突き出た第1端板27aの体積を増加させることができる。これにより、極間部における回転子鉄心20の熱を、第1端板27aを通して放出することができる。その結果、極間部における回転子鉄心20から永久磁石220に伝わる熱を低減することができる。
【0065】
磁極中心部上の第1端板27aの半径T1は、磁極中心部における回転子鉄心20の半径M1よりも小さい。言い換えると、外縁271は、径方向において回転子鉄心20の第1部分20aから内側に離れて位置している。これにより、第1端板27aが固定子鉄心31に接触することを防ぎ、磁極中心部における回転子鉄心20から固定子鉄心31までの距離を狭くすることができる。その結果、回転子2からの磁束を効率的に固定子鉄心31に流入させることができる。
【0066】
xy平面において、回転子鉄心20に対する第1端板27aのずれ量は、(r2-r1)+(r3-r1)=(r2+r3)-2×r1で表される。ここで、固定部材28と第1端板27aの固定孔274との間の最大移動量はr2-r1で表され、固定部材28と回転子鉄心20の固定孔206との間の最大移動量はr3-r1で表される。
【0067】
したがって、電動機1が(r2+r3)-2×r1≦M1-T1を満たすとき、第1端板27aが固定部材28と固定孔206及び274との隙間によってずれた場合でも、第1端板27aの外縁271が、径方向において回転子鉄心20の第1部分20aから内側に離れて位置するように、第1端板27aを回転子鉄心20に取り付けることができる。この形状にすることで、第1端板27aが回転子2の径方向外側に飛び出すことがなくなる。そのため、固定子3と回転子2との間の径方向の幅を回転子2の外周面20c及び20dで決めることができる。したがって、固定子3と回転子2との間の径方向の幅を回転子2の偏芯、軸26のたわみ、及び形状のバラツキなどを考慮した最小の寸法に設定することができる。この条件の下で、極間部上の第1端板27aの半径T2を極間部における回転子鉄心20の半径M2よりも大きくすることにより、回転子鉄心20の第2部分20bから外側に突き出た第1端板27aの体積を増加させることができる。これにより、極間部における回転子鉄心20の熱を、第1端板27aを通して回転子2の外部へ放出することができる。その結果、極間部における回転子鉄心20から永久磁石220に伝わる熱を低減することができる。
【0068】
極間部における回転子鉄心20と固定子鉄心31との間の空隙は、磁極中心部における回転子鉄心20と固定子鉄心31との間の空隙よりも大きい。これにより、固定子3の空間高調波を低減することができるので、極間部における回転子鉄心20の表面に発生する鉄損を低減することができる。その結果、永久磁石220の極間部側の温度上昇を低減することができる。
【0069】
巻線32に印加される電圧を調整するためのキャリア周波数が大きいとき、巻線32に印加される電圧、すなわち、電動機1を駆動するための電圧を緻密に調整することができ、磁力の高調波成分を低減することができる。電動機1では、巻線32に印加される電圧のキャリア周波数は、例えば、1kHzから8kHzである。これにより、電動機1を駆動するための電圧を緻密に調整することができ、磁力の高調波成分を低減することができる。
【0070】
一般に、キャリア周波数が大きくなるほどスイッチング損失が多くなり、電動機の効率が低下する。電動機1におけるキャリア周波数が1kHzから8kHzのとき、固定子3からの磁力の高調波及びスイッチング損失を低減した状態で、電動機1を駆動するための電圧を緻密に調整することができる。ただし、キャリア周波数が1kHzから8kHzの範囲では、固定子3からの磁力の高調波を起因とする鉄損を十分に小さくすることができない。しかしながら、本実施の形態に係る電動機1では、キャリア周波数が1kHzから8kHzの範囲でも、本実施の形態で説明した構成を備えているので、回転子鉄心20の表面に生じる鉄損を低減することができる。
【0071】
電動機1は、巻線32に印加される電圧を昇圧させる昇圧回路8をさらに有する。一般に、昇圧回路を用いると電圧が大きくなるため、回転数が低い状態で電動機を駆動する場合、電圧の変調率が小さくなる。変調率が小さいと電動機を駆動する電流の歪みが大きくなり、電流による磁力の高調波成分が増加する。その結果、回転子に発生する鉄損が増加する。しかしながら、本実施の形態に係る電動機1では、昇圧回路8を用いた場合でも、上述の構成を備えているので、回転子鉄心20の表面に生じる鉄損を低減することができる。
【0072】
電動機の負荷の脈動が大きく、回転子の位置を検出するセンサを搭載していない電動機において、本実施の形態に係る電動機1の特徴はより効果的である。一般に、回転子の位置を検出するセンサを用いた電動機は、回転子の位置を把握することができるので、電動機の負荷の脈動が大きくても一定の回転数で駆動するように回転子を制御することができる。しかしながら、回転子の位置を検出するセンサを搭載していない電動機では、回転子が一定の回転数で駆動するように制御することが難しい。
【0073】
例えば、回転子の位置を検出するセンサを搭載していない電動機では、固定子からの磁力の基本波が回転子と同期していない状態が発生するため、固定子からの磁力の基本波を起因とする鉄損が回転子鉄心の表面に発生する。その結果、回転子の温度が上昇し、永久磁石の温度上昇を引き起こす。本実施の形態に係る電動機1は、本実施の形態で説明した構成を有するので、電動機1が回転子の位置を検出するセンサを搭載していない場合であっても、永久磁石220の温度上昇を低減することができる。
【0074】
電動機の負荷の脈動に関し、電動機のトルクの最小値と最大値との比が20%以上であるとき、回転子の位相に対して固定子からの磁束を適切な位置に流れない状態が発生しやすくなる。この現象は、電動機のトルクの最小値と最大値との比が50%以上であるとき、更に顕著に発生する。一般に、空気調和機の圧縮機内の電動機では、負荷の脈動が大きい。例えば、ロータリー圧縮機内の電動機では、トルクの最小値と最大値との比が50%以上発生することがある。したがって、圧縮機内の電動機として電動機1を用いるとき、本実施の形態に係る電動機1の特徴はより効果的である。
【0075】
以上に説明したように、電動機1では、第1回転子端部21aは、軸方向において第1固定子端部31aから第1側に離れて位置しており、第2回転子端部21bは、軸方向において第2固定子端部31bから第1側に離れて位置している。さらに、軸26は、回転子鉄心20(具体的には、軸孔203)に固定されているとともに第2側のみで回転可能に支持されている。このような条件の下、電動機1は、本実施の形態で説明した構成を有するので、回転子2の永久磁石220の温度上昇を低減させることができ、電動機の効率を改善することができる。
【0076】
実施の形態2.
本発明の実施の形態2に係る圧縮機6について説明する。
図14は、実施の形態2に係る圧縮機6の構造を概略的に示す断面図である。
【0077】
圧縮機6は、電動要素としての電動機60と、ハウジングとしての密閉容器61と、圧縮要素としての圧縮機構62とを有する。本実施の形態では、圧縮機6は、ロータリー圧縮機である。ただし、圧縮機6は、ロータリー圧縮機に限定されない。
【0078】
電動機60は、実施の形態1に係る電動機1である。本実施の形態では、電動機60は、永久磁石埋込型電動機であるが、これに限定されない。
【0079】
密閉容器61は、電動機60及び圧縮機構62を覆う。密閉容器61の底部には、圧縮機構62の摺動部分を潤滑する冷凍機油が貯留されている。
【0080】
圧縮機6は、さらに、密閉容器61に固定されたガラス端子63と、アキュムレータ64と、吸入パイプ65と、吐出パイプ66とを有する。
【0081】
圧縮機構62は、シリンダ62aと、ピストン62bと、上部フレーム62c(第1のフレーム)と、下部フレーム62d(第2のフレーム)と、上部フレーム62c及び下部フレーム62dにそれぞれ取り付けられた複数のマフラ62eとを有する。圧縮機構62は、さらに、シリンダ62a内を吸入側と圧縮側とに分けるベーンを有する。圧縮機構62は、電動機60によって駆動される。
【0082】
電動機60は、圧入又は焼き嵌めで密閉容器61内に固定されている。圧入及び焼き嵌めの代わりに溶接で固定子3を密閉容器61に直接取り付けてもよい。
【0083】
電動機60の固定子3の巻線には、ガラス端子63を介して電力が供給される。
【0084】
電動機60の回転子(具体的には、軸26の一端側)は、上部フレーム62c及び下部フレーム62dの各々に備えられた軸受けによって回転自在に支持されている。
【0085】
ピストン62bには、軸26が挿通されている。上部フレーム62c及び下部フレーム62dには、軸26が回転自在に挿通されている。上部フレーム62c及び下部フレーム62dは、シリンダ62aの端面を閉塞する。アキュムレータ64は、吸入パイプ65を介して冷媒(例えば、冷媒ガス)をシリンダ62aに供給する。
【0086】
次に、圧縮機6の動作について説明する。アキュムレータ64から供給された冷媒は、密閉容器61に固定された吸入パイプ65からシリンダ62a内へ吸入される。インバータの通電によって電動機60が回転することにより、軸26に嵌合されたピストン62bがシリンダ62a内で回転する。これにより、シリンダ62a内で冷媒の圧縮が行われる。
【0087】
冷媒は、マフラ62eを通り、密閉容器61内を上昇する。圧縮された冷媒には、冷凍機油が混入されている。冷媒と冷凍機油との混合物は、回転子鉄心に形成された風穴36を通過する際に、冷媒と冷凍機油との分離が促進され、これにより、冷凍機油が吐出パイプ66へ流入するのを防止できる。このようにして、圧縮された冷媒が、吐出パイプ66を通って冷凍サイクルの高圧側へと供給される。
【0088】
圧縮機6の冷媒として、R410A、R407C、又はR22等を用いることができる。ただし、圧縮機6の冷媒は、これらに限られない。例えば、圧縮機6の冷媒として、GWP(地球温暖化係数)が小さい冷媒等を用いることができる。
【0089】
GWPが小さい冷媒の代表例として、以下の冷媒がある。
【0090】
(1)組成中に炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素は、例えば、HFO-1234yf(CF3CF=CH2)である。HFOは、Hydro-Fluoro-Olefinの略称である。Olefinは、二重結合を1つ持つ不飽和炭化水素のことである。HFO-1234yfのGWPは、4である。
【0091】
(2)組成中に炭素の二重結合を有する炭化水素は、例えば、R1270(プロピレン)である。R1270のGWPは3であり、HFO-1234yfのGWPよりも小さいが、R1270の可燃性は、HFO-1234yfの可燃性よりもよい。
【0092】
(3)組成中に炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素及び組成中に炭素の二重結合を有する炭化水素の少なくとも1つを含む混合物は、例えば、HFO-1234yfとR32との混合物である。HFO-1234yfは、低圧冷媒のため、圧損が大きくなり、冷凍サイクル(特に、蒸発器において)の性能が低下しやすい。そのため、高圧冷媒であるR32又はR41等との混合物を使用することが望ましい。
【0093】
実施の形態2に係る圧縮機6によれば、実施の形態1で説明した効果を有する。
【0094】
さらに、電動機60として実施の形態1に係る電動機1を用いることにより、電動機60の効率を改善することができ、その結果、圧縮機6の効率を改善することができる。
【0095】
実施の形態3.
本発明の実施の形態3に係る空気調和機50(冷凍空調装置又は冷凍サイクル装置ともいう)について説明する。
図15は、本発明の実施の形態3に係る空気調和機50の構成を概略的に示す図である。
【0096】
実施の形態3に係る空気調和機50は、送風機(第1の送風機)としての室内機51と、冷媒配管52と、冷媒配管52を介して室内機51に接続された送風機(第2の送風機)としての室外機53とを備える。
【0097】
室内機51は、電動機51a(例えば、実施の形態1に係る電動機1)と、電動機51aによって駆動されることにより、送風する送風部51bと、電動機51a及び送風部51bを覆うハウジング51cとを有する。送風部51bは、例えば、電動機51aによって駆動される羽根51dを有する。例えば、羽根51dは、電動機51aの軸(例えば、軸26)に固定されており、気流を生成する。
【0098】
室外機53は、電動機53a(例えば、実施の形態1に係る電動機1)と、送風部53bと、圧縮機54と、熱交換器(図示しない)とを有する。送風部53bは、電動機53aによって駆動されることにより、送風する。送風部53bは、例えば、電動機53aによって駆動される羽根53dを有する。例えば、羽根53dは、電動機53aの軸(例えば、軸26)に固定されており、気流を生成する。圧縮機54は、電動機54a(例えば、実施の形態1に係る電動機1)と、電動機54aによって駆動される圧縮機構54b(例えば、冷媒回路)と、電動機54a及び圧縮機構54bを覆うハウジング54cとを有する。圧縮機54は、例えば、実施の形態2で説明した圧縮機6である。
【0099】
空気調和機50において、室内機51及び室外機53の少なくとも1つは、実施の形態1で説明した電動機1を有する。具体的には、送風部の駆動源として、電動機51a及び53aの少なくとも一方に、実施の形態1で説明した電動機1が適用される。さらに、圧縮機54の電動機54aとして、実施の形態1で説明した電動機1を用いてもよい。
【0100】
空気調和機50は、例えば、室内機51から冷たい空気を送風する冷房運転、又は温かい空気を送風する暖房運転等の運転を行うことができる。室内機51において、電動機51aは、送風部51bを駆動するための駆動源である。送風部51bは、調整された空気を送風することができる。
【0101】
実施の形態3に係る空気調和機50によれば、電動機51a及び53aの少なくとも一方に、実施の形態1で説明した電動機1が適用されるので、実施の形態1で説明した効果と同じ効果を得ることができる。これにより、空気調和機50の効率を改善することができる。
【0102】
さらに、送風機(例えば、室内機51)の駆動源として、実施の形態1に係る電動機1を用いることにより、実施の形態1で説明した効果と同じ効果を得ることができる。これにより、送風機の効率を改善することができる。実施の形態1に係る電動機1と電動機1によって駆動される羽根(例えば、羽根51d又は53d)とを有する送風機は、送風する装置として単独で用いることができる。この送風機は、空気調和機50以外の機器にも適用可能である。
【0103】
さらに、圧縮機54の駆動源として、実施の形態1に係る電動機1を用いることにより、実施の形態1で説明した効果と同じ効果を得ることができる。これにより、圧縮機54の効率を改善することができる。
【0104】
実施の形態1で説明した電動機1は、空気調和機50以外に、換気扇、家電機器、又は工作機など、駆動源を有する機器に搭載できる。
【0105】
以上に説明した各実施の形態における特徴は、互いに適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0106】
1,51a,53a,54a,60 電動機、 2 回転子、 3 固定子、 4 軸受け、 6 圧縮機、 8 昇圧回路、 20 回転子鉄心、 20a 第1部分、 20b 第2部分、 20c 外周面(第1外周面)、 20d 外周面(第2外周面)、 21a 第1回転子端部、 21b 第2回転子端部、 26 軸、 27a 第1端板、 27b 第2端板、 31 固定子鉄心、 31a 第1固定子端部、 31b 第2固定子端部、 50 空気調和機、 51 室内機(送風機)、 53 室外機(送風機)、 201 電磁鋼板、 202 磁石挿入孔、 220 永久磁石、 311 ティース、 311a 本体部、 311b ティース先端部。