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  • 特許-粉末及び混合粉末 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】粉末及び混合粉末
(51)【国際特許分類】
   C03C 8/02 20060101AFI20221214BHJP
   C03C 10/12 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
C03C8/02
C03C10/12
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020506653
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2019010603
(87)【国際公開番号】W WO2019177112
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-10-08
(31)【優先権主張番号】P 2018049498
(32)【優先日】2018-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018205821
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100201226
【弁理士】
【氏名又は名称】水木 佐綾子
(72)【発明者】
【氏名】野上 直嗣
(72)【発明者】
【氏名】岡部 拓人
(72)【発明者】
【氏名】深澤 元晴
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-208256(JP,A)
【文献】特開平11-228173(JP,A)
【文献】特開昭47-004979(JP,A)
【文献】米国特許第03951669(US,A)
【文献】国際公開第2016/084627(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 8/02
C03C 10/12
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnO、Al及びSiOの三成分と不可避的不純物のみからなる粉末であって
前記三成分の含有量は、それぞれ、前記三成分の含有量の合計を基準として、ZnO:17~43モル%、Al:9~20モル%、SiO:48~63モル%であり、
前記粉末全量基準で、結晶相としてβ-石英固溶体を50質量%以上含有する、粉末。
【請求項2】
平均円形度が0.60以上である、請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
Li、Na及びKの含有量が、前記粉末全量基準で、それぞれ100質量ppm未満である、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項4】
ガラス中又は樹脂中に配合されて使用される、請求項1~のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の粉末である第一の粉末と、前記第一の粉末とは異なる第二の粉末と、を含有する混合粉末。
【請求項6】
前記第二の粉末の平均円形度が0.80以上である、請求項に記載の混合粉末。
【請求項7】
前記第一の粉末の含有量が、前記混合粉末全量基準で、10体積%以上である、請求項又はに記載の混合粉末。
【請求項8】
前記第二の粉末が、シリカの粉末又はアルミナの粉末である、請求項のいずれか一項に記載の混合粉末。
【請求項9】
ガラス中又は樹脂中に配合されて使用される、請求項のいずれか一項に記載の混合粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末及び混合粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガラス材料、樹脂材料等の基材の物性又は機能等を向上させることを目的として、様々な粉末状のフィラーが使用されている。例えば、非晶質シリカは、0.5×10-6/℃程度の小さな熱膨張係数を持ち、比較的容易に入手できることから、基材の熱膨張係数を制御するためのフィラーとして用いられている。しかしながら、接合、封着又は封止等に用いられる基材に添加する際には、フィラーの熱膨張係数と基材との熱膨張係数を適合させると共に、熱応力の発生を抑制するために、非晶質シリカより更に小さい熱膨張係数を持つフィラーが望まれている。
【0003】
非晶質シリカよりも熱膨張係数の小さい材料として、リン酸ジルコニウム、タングステン酸ジルコニウム、マンガン窒化物等の多くの材料が知られている。しかし、これらの材料の比重は大きく、配合後の樹脂材料等も重くなるため、電子部品等への使用は一般的ではない。この欠点を補うために、軽量で熱膨張係数が小さい材料として、特許文献1には、SiO-TiOガラス、LiO-Al-SiO系結晶化ガラス及びZnO-Al-SiO系結晶化ガラスが開示されている。また、特許文献2には、β-ユークリプタイト、β-ユークリプタイト固溶体、β-石英、β-石英固溶体より選択される1種以上の結晶相を有する無機物粉末が開示されている。また、非特許文献1には、Zn0.5AlSi、LiAlSi、LiAlSiOが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平2-208256号公報
【文献】特開2007-91577号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Journalof Materials Science26 p.3051(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、基材中に配合した場合の熱膨張係数の低減効果に優れる粉末、及びこの粉末を用いた混合粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に示す粉末及び混合粉末を提供する。
(1)ZnO、Al及びSiOの三成分を含有し、三成分の含有量は、それぞれ、三成分の含有量の合計を基準として、ZnO:17~43モル%、Al:9~20モル%、SiO:48~63モル%である、粉末。
(2)平均円形度が0.60以上である、(1)に記載の粉末。
(3)粉末全量基準で、結晶相としてβ-石英固溶体を50質量%以上含有する、(1)又は(2)に記載の粉末。
(4)Li、Na及びKの含有量が、粉末全量基準で、それぞれ100質量ppm未満である、(1)~(3)のいずれかに記載の粉末。
(5)ガラス中又は樹脂中に配合されて使用される、(1)~(4)のいずれかに記載の粉末。
(6)(1)~(4)のいずれかに記載の粉末である第一の粉末と、第一の粉末とは異なる第二の粉末と、を含有する混合粉末。
(7)第二の粉末の平均円形度が0.80以上である、(6)に記載の混合粉末。
(8)第一の粉末の含有量が、混合粉末全量基準で、10体積%以上である、(6)又は(7)に記載の混合粉末。
(9)第二の粉末が、シリカの粉末又はアルミナの粉末である、(6)~(8)のいずれかに記載の混合粉末。
(10)ガラス中又は樹脂中に配合されて使用される、(6)~(9)のいずれかに記載の混合粉末。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、基材中に配合した場合の熱膨張係数の低減効果に優れる粉末、及びこの粉末を用いた混合粉末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例2に係る粉末のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
一実施形態に係る粉末は、ZnO、Al及びSiOの三成分を含有する。三成分の含有量は、それぞれ、三成分の含有量の合計を基準として、ZnO:17~43モル%、Al:9~20モル%、SiO:48~63モル%である。
【0012】
ZnOの含有量は、三成分の含有量の合計を基準として、17~43モル%であり、基材の熱膨張係数の低減効果に更に優れる観点から、好ましくは20~40モル%であり、より好ましくは22~39モル%であり、更に好ましくは25~35モル%である。ZnOの含有量は、三成分の含有量の合計を基準として、17~40モル%、17~39モル%、17~35モル%、20~43モル%、20~39モル%、20~35モル%、22~43モル%、22~40モル%、22~35モル%、25~43モル%、25~40モル%、又は25~39モル%であってもよい。
【0013】
Alの含有量は、三成分の含有量の合計を基準として、9~20モル%であり、好ましくは10~19モル%であり、より好ましくは11~18モル%である。Alの含有量は、三成分の含有量の合計を基準として、9~19モル%、9~18モル%、10~20モル%、10~18モル%、11~20モル%、又は11~19モル%であってもよい。
【0014】
SiOの含有量は、三成分の含有量の合計を基準として、48~63モル%であり、好ましくは49~62モル%であり、より好ましくは50~62モル%であり、更に好ましくは50~55モル%である。SiOの含有量は、三成分の含有量の合計を基準として、48~62モル%、48~55モル%、49~63モル%、49~55モル%、又は50~63モル%であってもよい。
【0015】
粉末が上述した組成を有することにより、粉末を配合した基材の熱膨張係数を低減させることができる。また、粉末の製造時においては、原料を溶融させやすくすることができ、結晶化を容易にすることもできる。特に、三成分の含有量の合計を基準として、ZnOの含有量が25~35モル%、Alの含有量が11~18モル%、SiOの含有量が50~55モル%の組成を有することにより、粉末を配合した基材の熱膨張係数を更に低減させることができる。
【0016】
粉末は、不可避的不純物であるイオン性不純物を含んでもよいが、耐湿信頼性を向上させ、電子装置類の故障を抑制する観点から、その含有量はできる限り少ない方が好ましい。イオン性不純物としては、Li、Na、K等のアルカリ金属類が挙げられる。本実施形態の粉末においては、Li、Na及びKの含有量の合計が、粉末全量基準で、好ましくは500質量ppm未満であり、より好ましくは300質量ppm未満であり、更に好ましくは200質量ppm未満である。
【0017】
Liの含有量は、粉末全量基準で、好ましくは100質量ppm未満であり、より好ましくは50質量ppm未満であり、更に好ましくは20質量ppm未満である。Naの含有量は、粉末全量基準で、好ましくは100質量ppm未満であり、より好ましくは90質量ppm未満であり、更に好ましくは80質量ppm未満である。Kの含有量は、粉末全量基準で、好ましくは100質量ppm未満であり、より好ましくは70質量ppm未満であり、更に好ましくは40質量ppm未満である。
【0018】
粉末は、熱膨張係数に影響を与えない範囲で、酸化ジルコニウム、酸化チタン等を更に含有していてもよい。基材の熱膨張係数の低減効果に更に優れる観点からは、上述した三成分の含有量は、粉末全量基準で、好ましくは95モル%以上であり、より好ましくは98モル%以上であり、更に好ましくは99モル%以上である。同様の観点から、粉末は、一実施形態において、上述した三成分及び不可避的不純物のみからなっていてよく、上述した三成分のみからなっていてもよい。
【0019】
本実施形態の粉末は、好ましくは、結晶相としてβ-石英固溶体を含有する。粉末は、主結晶としてβ-石英固溶体を含有していてよい。β-石英固溶体の含有量は、粉末全量を基準として、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、更に好ましくは70質量%以上であり、72質量%以上、又は75質量%以上であってもよい。β-石英固溶体の含有量は、できる限り多い方がよい。β-石英固溶体の含有量が上記の範囲であることにより、粉末自体の熱膨張係数が小さくなるため、基材の熱膨張係数を更に低減させることができる。特に、β-石英固溶体の含有量が70質量%以上であると、粉末による基材の熱膨張低減がより効果的なものになる。さらに、基材への粉末の配合量(充填量)を多くすることができるため、基材の熱膨張係数を制御しやすくすることができる。なお、本実施形態における粉末が有するβ-石英固溶体の構造は、xZnO-yAl-zSiOとして表すことができる。結晶相の同定及び含有量の測定は、粉末X線回折測定/リートベルト法により行うことができる。
【0020】
粉末は、β-石英固溶体相以外に、非晶質相を更に含んでもよく、他の結晶相を更に含んでもよい。粉末は、他の結晶相としてウィレマイト相(ZnSiO)を含んでもよい。粉末が、他の結晶相のうち、ガーナイト相(ZnAl)、ムライト相(AlSi13)及びクリストバライト相(SiO)を含む場合には、熱膨張係数が比較的高くなるため、粉末は、好ましくはこれらの結晶相を含まない。
【0021】
粉末の形状は、球状、円柱状、角柱状等であってよいが、好ましくは球状である。粉末が球状であるか否かは、粉末の平均円形度を算出することによって確認することができる。本明細書における平均円形度は、次のようにして求められる。すなわち、電子顕微鏡を用いて撮影した粒子(粉末粒子)の投影面積(S)と投影周囲長(L)を求め、以下の式(1)に当てはめることにより円形度を算出する。そして、一定の投影面積円(100個以上の粒子を含む面積)に含まれる粒子全ての円形度の平均値である。
円形度=4πS/L (1)
【0022】
平均円形度は、できる限り大きい方がよく、好ましくは0.60以上であり、より好ましくは0.70以上であり、更に好ましくは0.80以上であり、特に好ましくは0.85以上であり、最も好ましくは0.90以上である。これにより、基材と混合した際の粒子の転がり抵抗が小さくなり、基材の粘度を低減させ、基材の流動性を向上させることができる。特に、平均円形度が0.90以上になると、基材の流動性が一層高くなるため、基材中に粉末を高充填することができ、熱膨張係数の低減が容易なものとなる。
【0023】
粉末の平均粒子径は、特に限定されないが、基材に配合されるフィラーとして使用されることを考慮すると、0.5~100μmであってよく、1~50μmであってもよい。粉末の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により粒度分布を計算し、測定される粒子径の値に相対粒子量(差分%)を乗じて、相対粒子量の合計(100%)で割って求めることができる。なお、%は体積%である。
【0024】
粉末の熱膨張係数は、粉末を配合した基材の熱膨張係数を更に低減させる観点から、できる限り小さい方がよく、好ましくは2×10-6/℃以下であり、より好ましくは1×10-6/℃以下であり、更に好ましくは0.5×10-6/℃以下である。熱膨張係数は、熱機械分析(Thermomechanical Analysis:TMA)により測定することができる。
【0025】
次に、本実施形態の粉末の製造方法を説明する。一実施形態に係る粉末の製造方法は、原料粉末を作製する工程(原料粉末作製工程)と、原料粉末を球状に形成する工程(球状化工程)と、原料粉末を結晶化する工程(結晶化工程)とを備える。製造方法は、好ましくは、原料粉末工程、球状化工程及び結晶化工程をこの順に備える。
【0026】
原料粉末作製工程では、まず、原料を混合し、原料混合物を調製する。原料は、Zn源としての酸化亜鉛等と、Al源としての酸化アルミニウム又は水酸化アルミニウム等と、Si源としての酸化ケイ素(α-石英、クリストバライト、非晶質シリカ等)とであってよい。
【0027】
原料の配合量は、Zn源、Al源及びSi源の原料の合計量を基準として、Zn源:17~43モル%、Al源:9~20モル%、Si源:48~63モル%であってよい。
【0028】
原料粉末作製工程においては、上記の原料以外に、熱膨張係数に影響を与えない範囲で、酸化ジルコニウム、酸化チタン等の一般的な核形成剤を添加してもよい。
【0029】
原料混合物においても、イオン性不純物の含有量はできる限り少ない方が好ましい。原料混合物に含まれるアルカリ金属類の含有量は、耐湿信頼性を向上させ、電子装置類の故障を抑制する観点から、好ましくは500質量ppm以下であり、より好ましくは150質量ppm以下であり、更に好ましくは100質量ppm以下であり、特に好ましくは50質量ppm以下である。
【0030】
原料酸化物の混合方法は、Na、Li又はK等のアルカリ金属類、及びFe等の金属元素が混入しにくい方法であれば特に限定されず、例えば、メノウ乳鉢やボールミル、振動ミル等の粉砕機、各種ミキサー類により混合する方法であってよい。
【0031】
原料粉末作製工程では、次に、原料混合物を白金坩堝、アルミナ坩堝等の容器に入れ、電気炉、高周波炉、イメージ炉等の加熱炉又は火炎バーナーなどで溶融し、その後これらの溶融物を空気中又は水中に取り出して急冷する。これにより、原料ガラスが得られる。得られた原料ガラスを粉砕することで、原料粉末が得られる。原料ガラスの粉砕方法は特に限定されないが、メノウ乳鉢、ボールミル、振動ミル、ジェットミル、湿式ジェットミル等による方法であってよい。粉砕は乾式で行われてよいが、水又はアルコール等の液体と原料粉末とを混合して湿式で行われてもよい。
【0032】
球状化工程では、粉末溶融法により原料粉末を球状化する。粉末溶融法による球状化法は、化学炎、熱プラズマ、縦型管状炉又はタワーキルン中に原料粉末を投入して溶融させ、自身の表面張力により球状化させる方法である。
【0033】
粉末溶融法では、原料ガラスを粉砕した粒子又はスプレードライヤー等により原料粉末を造粒した粒子を所望の粒径分布になるように調整することで、球状化後の粒径分布を調整することが出来る。これらの粒子を、粒子の凝集を抑制しながら化学炎又は熱プラズマ、縦型管状炉又はタワーキルン等の中に投入し、溶融させることによって球状化が行われる。または、溶剤等に分散した原料粉末の分散液を調整し、その液状原料を、ノズル等を用いて化学炎又は熱プラズマ、縦型管状炉又はタワーキルン等の中に噴霧し、分散媒を蒸発させた上で原料粉末を溶融させることによって行われてもよい。
【0034】
粉末溶融法において、化学炎とは、可燃性ガスをバーナーで燃焼することにより発生する炎をいう。可燃性ガスとしては、原料粉末の融点以上の温度が得られれば良く、例えば、天然ガス、プロパンガス、アセチレンガス、液化石油ガス(LPG)、水素等を用いることができる。支燃性ガスとしての空気、酸素等を可燃性ガスと併用してもよい。化学炎の大きさ、温度等の条件は、バーナーの大きさ、可燃性ガスと支燃性ガスの流量によって調整することができる。
【0035】
結晶化工程では、原料粉末を高温で加熱して結晶化させる。結晶化する際の装置としては、所望の加熱温度が得られればいずれの加熱装置を使用してもよいが、例えば、電気炉、ロータリーキルン、プッシャー炉、ローラーハースキルン等を用いることができる。
【0036】
加熱結晶化する温度(結晶化温度)は、好ましくは750~900℃である。加熱温度を750℃以上とすることにより、結晶化の時間を短縮し、十分な結晶化がなされることによりβ-石英固溶体相の含有量を高めることができる。そのため、粉末が配合された基材の熱膨張係数をより低減させることができる。結晶化温度が900℃以下であることにより、β-石英固溶体相以外の結晶相、例えばガーナイト相、クリストバライト相、ウィレマイト相等が生成しにくくなり、粉末が配合された基材の熱膨張係数をより低減させることができる。
【0037】
加熱時間(結晶化時間)は、好ましくは1~24時間である。加熱時間が1時間以上であることにより、β-石英固溶体相への結晶化が十分に行われ、粉末が配合された基材の熱膨張係数をより低減させることができる。加熱時間が24時間以下であることにより、コストを抑えることができる。結晶化工程を経ることにより、本実施形態に係る粉末を得ることができる。
【0038】
結晶化工程で得られた粉末は、複数の粒子が凝集した凝集体となっていることがある。凝集体自体を粉末として利用してもよいが、必要に応じて凝集体を解砕してから、これを粉末としてもよい。凝集体の解砕方法は特に限定されないが、メノウ乳鉢、ボールミル、振動ミル、ジェットミル、湿式ジェットミル等による方法であってよい。解砕は乾式で行われてもよいが、水又はアルコール等の液体と混合して湿式で行われてもよい。湿式による解砕では、解砕後に乾燥することで本実施形態の粉末が得られる。乾燥方法は特に限定されないが、加熱乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、超臨界二酸化炭素乾燥等であってよい。
【0039】
粉末の製造方法においては、他の実施形態において、所望の平均粒子径が得られるように粉末を分級する工程、カップリング剤を用いた表面処理工程を更に備えてもよい。表面処理が施されることにより、基材への配合量(充填量)を更に高めることができる。表面処理に用いるカップリング剤は、好ましくはシランカップリング剤である。カップリング剤は、チタネートカップリング剤又はアルミネート系カップリング剤等であってもよい。
【0040】
上述の粉末と、上述の粉末とは組成が異なる粉末を用いて、混合粉末を得ることができる。すなわち、一実施形態に係る混合粉末は、上述の粉末からなる第一の粉末と、第一の粉末とは異なる第二の粉末と、を含有する。上述の粉末と第二の粉末を混合することにより、基材に配合した場合の熱膨張係数、熱伝導率、充填率等をより容易に調整することができる。
【0041】
第二の粉末としては、シリカ、アルミナ等の無機酸化物の粉末が挙げられる。シリカ又はアルミナとしては、より純度の高いものが好ましい。シリカの熱伝導率は小さいため、第二の粉末としてシリカを用いた場合、基材の熱膨張係数をより一層低減させることができる。また、第二の粉末としてアルミナを用いた場合、基材の熱伝導率を容易に調整することができる。
【0042】
粉末の形状は、上述した粉末(第一の粉末)と同様であってよく、好ましくは球状である。第二の粉末の平均円形度は、上述した粉末(第一の粉末)と同様の観点から、できる限り大きい方がよく、好ましくは0.80以上であり、より好ましくは0.85以上であり、更に好ましくは0.90以上である。第二の粉末の平均円形度は、上述した粉末(第一の粉末)における平均円形度と同様の方法により算出される。
【0043】
第二の粉末の平均粒子径(メディアン径(D50))は、0.01μm以上、0.05μm以上、又は0.1μm以上であってよく、また、好ましくは3μm以下であり、より好ましくは2μm以下であり、更に好ましくは1μm以下である。これにより、混合粉末を配合した基材の粘度を小さくすることができる。第二の粉末の平均粒子径(メディアン径(D50))は、0.01~3μm、0.05~3μm、0.1~3μm、0.01~2μm、0.05~2μm、0.1~2μm、0.01~1μm、0.05~1μm、又は0.1~1μmであってもよい。
【0044】
第二の粉末の平均粒子径(メディアン径(D50))は、同様の観点から、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは20μm以上であり、更に好ましくは30μm以上であり、100μm以下、90μm以下、又は80μm以下であってもよい。第二の粉末の平均粒子径(メディアン径(D50))は、10~100μm、20~100μm、30~100μm、10~90μm、20~90μm、30~90μm、10~80μm、20~80μm、又は30~80μmであってもよい。
【0045】
混合粉末中の第二の粉末の含有量は、混合粉末全量基準で、好ましくは90体積%以下であり、より好ましくは70体積%以下であり、更に好ましくは50体積%以下であり、特に好ましくは40体積%以下である。これにより、基材の熱膨張係数をより効果的に低減させることができる。第二の粉末の含有量は、0.1体積%以上であってよく、好ましくは1体積%以上である。混合粉末中の第二の粉末の含有量は、混合粉末全量基準で、0.1~90体積%、1~90体積%、0.1~70体積%、1~70体積%、0.1~50体積%、1~50体積%、0.1~40体積%、又は1~40体積%であってもよい。
【0046】
混合粉末中の第一の粉末の含有量は、基材の熱膨張係数を効果的に低減させる観点から、混合粉末全量基準で、好ましくは10体積%以上であり、より好ましくは30体積%以上であり、更に好ましくは50体積%以上であり、特に好ましくは60体積%以上である。混合粉末中の第一の粉末の含有量は、混合粉末全量基準で、例えば、99.9体積%以下であってよく、好ましくは99体積%以下である。混合粉末中の第一の粉末の含有量は、混合粉末全量基準で、10~99.9体積%、10~99体積%、30~99.9体積%、30~99体積%、50~99.9体積%、50~99体積%、60~99.9体積%、又は60~99体積%であってもよい。
【0047】
混合粉末中の第一の粉末及び第二の粉末の合計量は、混合粉末全量基準で、90体積%以上、92体積%以上、又は95体積%以上であってよい。混合粉末は、第一の粉末及び第二の粉末のみからなっていてもよい。
【0048】
混合粉末は、第一の粉末及び第二の粉末とは組成が異なる他の粉末を更に含有してもよい。第二の粉末がシリカの粉末である場合、他の粉末はアルミナの粉末であってよい。第二の粉末がアルミナの粉末である場合、他の粉末はシリカの粉末であってよい。他の粉末は、例えば、酸化亜鉛、酸化チタニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の粉末であってもよい。混合粉末が他の粉末を含有する場合、他の粉末の含有量は、混合粉末全量基準で、例えば0.1~10体積%であってよい。
【0049】
本実施形態の粉末又は混合粉末は、基材中に配合されて使用されてよい。基材は、一実施形態においてガラスであってよい。ガラスの種類としては、PbO-B-ZnO系、PbO-B-Bi系、PbO-V-TeO系、SiO-ZnO-M O系(M Oはアルカリ金属酸化物)、SiO-B-M O系、またはSiO-B-MO系(MOはアルカリ土類金属酸化物)等の組成を有するガラスが挙げられる。
【0050】
基材は、他の実施形態において樹脂であってもよい。樹脂の種類としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリアミド(ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル-エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂等が挙げられる。基材は、これらの樹脂の混合物であってもよい。
【0051】
基材中における粉末の配合量(充填量)は、目標とする熱膨脹係数等の物性に応じて適宜選択される。粉末の配合量は、粉末添加後の基材全量を基準として、30~95体積%であってよく、好ましくは40~90体積%である。
【0052】
混合粉末を基材中に配合する場合、混合方法としては、基材中で第一の粉末及び第二の粉末を混合してもよいし、予め第一の粉末及び第二の粉末を混合してから基材中に配合してもよい。
【0053】
本実施形態の粉末又は混合粉末を基材に配合することにより、粉末又は混合粉末配合後の基材の粘度を低くすることができる。本実施形態の粉末又は混合粉末を配合した基材は、低粘度であるため流動性がよく、成形性に優れている。また、本実施形態の粉末又は混合粉末を配合する際には、配合量(充填率)を大きくすることもできる。
【実施例
【0054】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
(原料粉末作製工程)
表1に示すように、酸化亜鉛、酸化アルミニウム及び二酸化ケイ素をそれぞれ原料として、これらの原料を振動ミキサー(Resodyn社製、低周波共振音響ミキサーLab RAM II)で混合した。この混合物100gを白金坩堝に入れ、電気炉で加熱し溶融させた。このとき、溶融時の電気炉の炉内温度を1600℃とし、1600℃での保持時間を30分間とした。溶融後、坩堝ごと水没させ急冷することにより、原料ガラスを得た。原料ガラスを白金坩堝から回収し、ボールミルにより平均粒径5μmとなるように粉砕して、原料粉末を得た。
【0056】
(球状化工程)
得られた原料粉末を、キャリアガス(酸素)により、LPGと酸素ガスによって形成された高温火炎中に投入して、粉末溶融法による球状化処理を行った。
【0057】
(結晶化工程)
球状化処理後の粉末を粉砕した後アルミナ坩堝に入れ、空気雰囲気下、電気炉を用いて、結晶化時の電気炉の炉内温度を800℃とし、800℃での保持時間を1時間として結晶化させた。これにより、実施例1に係る粉末を得た。
【0058】
[実施例2~7]
原料の配合量を表1に示した組成とし、更に、結晶化工程において、電気炉を用いて、電気炉の炉内温度を800℃とし、800℃での保持時間を4時間として結晶化させた以外は、実施例1と同様の方法で実施例2~7に係る粉末を得た。
【0059】
[実施例8]
実施例1の方法において、球状化工程を行わず、かつ、結晶化工程において、電気炉を用いて、電気炉の炉内温度を800℃とし、800℃での保持時間を4時間として結晶化させた以外は、実施例1と同様の方法で実施例8に係る粉末を得た。
【0060】
[実施例9]
(混合工程)
実施例8と同様の方法で得た粉末を第一の粉末とし、第二の粉末として球状シリカ(FB-40R(D50=40μm)、デンカ株式会社製)を用いた。第二の粉末を、第一の粉末に対して50体積%となるように混合して、実施例9に係る混合粉末を得た(混合粉末全量基準での第二の粉末の含有量:33体積%)。
【0061】
[実施例10]
(混合工程)
実施例2で得た粉末を第一の粉末とし、第二の粉末として球状シリカ(SFP-30M(D50=0.3μm)、デンカ株式会社製)を用いた。第二の粉末を、第一の粉末に対して25体積%となるように混合して、実施例9に係る混合粉末を得た(混合粉末全量基準での第二の粉末の含有量:20体積%)。
【0062】
[比較例1~5]
原料の配合量を表2に示した組成とし、更に、結晶化工程において、電気炉を用いて、電気炉の炉内温度を800℃とし、800℃での保持時間を4時間として結晶化させた以外は、実施例1と同様の方法で比較例1~5に係る粉末を得た。
【0063】
[比較例6]
原料の配合量を表2に示した組成とした以外は、実施例1と同様の方法で比較例6に係る粉末を得た。
【0064】
[比較例7]
原料の配合量を表2に示した組成とした以外は、実施例8と同様の方法で比較例7に係る粉末を得た。
【0065】
[比較例8]
比較例2と同様の方法で第一の粉末を作製し、実施例10と同様の方法で第二の粉末を混合して、比較例8に係る混合粉末を得た。
【0066】
結晶化粉末の各特性を、以下の方法で評価した。各評価結果を表1~2に示す。
【0067】
[結晶相の同定]
結晶化後の粉末に含まれる結晶相の同定、及び含有量の定量は、粉末X線回折測定/リートベルト法により行った。使用装置には、試料水平型多目的X線回折装置(リガク社製、RINT-UltimaIV)を用い、X線源をCuKα、管電圧40kV、管電流40mA、スキャン速度5.0°/min、2θスキャン範囲10°~80°の条件で測定した。実施例2の粉末のX線回折パターンを図1に示す。結晶相の定量分析には、リートベルト法ソフトウェア(MDI社製、統合粉末X線ソフトウェアJade+9.6)を使用した。β-石英固溶体相の含有量b(質量%)は、NIST製X線回折用標準試料であるα-アルミナ(内標準物質)を50質量%(添加後の試料全量基準)となるように結晶化粉末に添加した試料をX線回折測定し、リートベルト解析で得られたβ-石英固溶体の割合a(質量%)を用いて、下記の式(2)により算出した。なお、得られた粉末のβ-石英固溶体の結晶構造は、従来技術(例えば、Journal of Non-Crystalline Solids 351 149(2005))を参考に、Zn/2AlSi3-x(x=1)としてリートベルト解析した。結晶相の定量分析は全ての実施例及び比較例について行い、結果を表1~表2に示す。
b=100a/(100-a) (2)
【0068】
[ZnO、Al、SiOの分析及び不純物の定量]
ZnO、Al、SiOの分析(含有量の分析)及び不純物の定量は、誘導結合プラズマ発光分光分析により行った。分析装置としては、ICP発光分光分析装置(SPECTRO社製、CIROS-120)を用いた。ZnO、Al、SiOの分析では、粉末0.01gを白金坩堝に秤り取り、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム及びホウ酸を混合した融剤にて融解後、更に塩酸を加えて溶解することで測定溶液を作製した。不純物の分析では、粉末0.1gを白金坩堝に秤り取り、フッ酸及び硫酸を用い、200℃で加圧酸分解することにより測定溶液を作製した。
【0069】
[平均円形度]
粉末をカーボンテープで試料台に固定後、オスミウムコーティングを行い、走査型電子顕微鏡(日本電子社製、JSM-7001F SHL)で撮影した倍率500~5000倍、解像度2048×1356ピクセルの画像をパソコンに取り込んだ。この画像を、画像解析装置(日本ローパー社製、Image-Pro Premier Ver.9.3)を使用し、粒子(粉末粒子)の投影面積(S)と粒子の投影周囲長(L)を算出してから、下記の式(1)より円形度を算出した。100個以上の粒子が含まれる任意の投影面積円における各粒子の円形度を求め、その平均値を平均円形度とした。
円形度=4πS/L (1)
【0070】
[第一の粉末の平均粒子径]
レーザー回折式粒度分布測定装置(ベックマンコールター社製、LS 13 320)を用いて平均粒子径の測定を行った。ガラスビーカーに50cmの純水と、得られた粉末0.1gとを入れ、超音波ホモジナイザー(BRANSON社製、SFX250)で1分間、分散処理を行った。分散処理を行った粉末の分散液をレーザー回折式粒度分布測定装置にスポイトで一滴ずつ添加し、所定量添加してから30秒後に測定を行った。レーザー回折式粒度分布測定装置内のセンサで検出した粒子による回折/散乱光の光強度分布のデータから粒度分布を計算した。平均粒子径は測定される粒子径の値に相対粒子量(差分%)を乗じて、相対粒子量の合計(100%)で割って求めた。なお、ここでの%は体積%である。
【0071】
[粘度]
粉末(混合粉末の場合、第一の粉末と第二の粉末の合計)が全体の50体積%になるように、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、JER828)と混合し、遊星式撹拌機(シンキー社製、「あわとり練太郎AR-250」、回転数2000rpm)にて混練し、樹脂組成物を作製した。得られた樹脂組成物を、レオメーター(日本シイベルヘグナー社製、MCR-300)を用いて下記条件にて粘度を測定した。
プレート形状:円形平板25mmφ
試料厚み:1mm
温度:25±1℃
剪断速度:1s-1
【0072】
[樹脂組成物の熱膨張係数]
ビスマレイミド(ケイ・アイ化成株式会社製)及びアリルノボラック型フェノール樹脂(明和化成株式会社製)を質量比がビスマレイミド:アリルノボラック型フェノール樹脂=1:0.9で混合した樹脂組成物を用意した。各実施例及び比較例で得られた粉末又は混合粉末が全体の60体積%になるように、粉末又は混合粉末と樹脂組成物とを混合して160℃で溶融し、210℃で5時間硬化した後、樹脂組成物の熱膨張係数をTMA装置(ブルカー・エイエックスエス社製、TMA4000SA)にて評価した。測定条件としては、昇温速度を3℃/min、測定温度を-10℃~280℃、雰囲気を窒素雰囲気とし、得られた結果から20℃~200℃の熱膨張係数を算出した。なお、粉末又は混合粉末を混合しない状態での樹脂組成物の熱膨張係数は、49×10-6/℃であった。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
実施例1~10の粉末又は混合粉末を含有する樹脂組成物は、比較例1~8の粉末又は混合粉末を含有する樹脂組成物と比較して、熱膨張係数がより低く抑えられるという結果になった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の粉末又は混合粉末は、ガラス、樹脂等の基材に充填した場合に、基材の熱膨張係数を低くすることができるフィラーとして利用可能である。また、本発明の粉末又は混合粉末を含有する基材は、低粘度、高流動性を有するため、高充填できるフィラーとして利用可能である。
図1