(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂及びその製造方法並びに使用
(51)【国際特許分類】
C08G 75/0231 20160101AFI20221214BHJP
C08G 75/0259 20160101ALI20221214BHJP
【FI】
C08G75/0231
C08G75/0259
(21)【出願番号】P 2020537658
(86)(22)【出願日】2019-08-23
(86)【国際出願番号】 CN2019102272
(87)【国際公開番号】W WO2020125048
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2020-07-07
(31)【優先権主張番号】201811550730.3
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517223657
【氏名又は名称】浙江新和成股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG NHU CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】No. 418 Dadao West Road, Xinchang Shaoxing, Zhejiang 312500, China
(73)【特許権者】
【識別番号】505072650
【氏名又は名称】浙江大学
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
(73)【特許権者】
【識別番号】518138206
【氏名又は名称】浙江新和成特種材料有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG NHU SPECIAL MATERIALS CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ジロン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ウォユアン
(72)【発明者】
【氏名】イン,ホン
(72)【発明者】
【氏名】フー,バイシャン
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ,グイヤン
(72)【発明者】
【氏名】リアン,ミン
(72)【発明者】
【氏名】チン,グアンデ
(72)【発明者】
【氏名】デン,ハンジュン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,シャンウェイ
(72)【発明者】
【氏名】チゥ,グィシェン
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ケジュン
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/065457(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/046748(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104744698(CN,A)
【文献】特表2016-501975(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057734(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/108270(WO,A1)
【文献】特開2002-265604(JP,A)
【文献】特表2000-508359(JP,A)
【文献】特開2004-244619(JP,A)
【文献】国際公開第2018/147233(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G75/00-75/32
C08G79/00-79/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンスルフィドの一次生成物と下式(1)で表される鎖延長剤をpH9~12の反応系において増粘反応させてなる高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂であって、
MS-L-SM ……(1)
(式中、Mは金属イオンを示し、Lは下記の式(2)で表される2価の連結基を示す。)
-Ar-(-S-Ar-)
n- ……(2)
(式中、Arは置換又は未置換の芳香族基であり、前記nは0以上である。)
前記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物は、硫黄含有化合物とハロゲン化芳香族化合物とを1種以上の塩基性化合物及び1種以上のC
5~C
6の脂肪酸の存在下で反応させた重縮合生成物であり、重量平均分子量が3.0×10
4~5.0×10
4、310℃における溶融粘度が40~150Pa・s、熱安定指数が0.96以上であり、
かつ前記硫黄含有化合物と前記ハロゲン化芳香族化合物との重縮合反応後に単離されたものであり、
前記高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂の重量平均分子量が6.1×10
4以上であり、前記高分子量ポリフェニレンスルフィドは熱安定性指数が0.95以上であり、且つ310℃における溶融粘度が250~950Pa・sであることを特徴とする、高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂。
【請求項2】
Mがアルカリ金属イオンであり、前記高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂が6.1×10
4~10.1×10
4の重量平均分子量、0.96以上の熱安定性指数を有することを特徴とする、請求項1に記載の高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂。
【請求項3】
MがNaイオンであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂。
【請求項4】
前記ハロゲン化芳香族化合物はジハロゲン化芳香族化合物であり、前記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物は溶融又は溶解した形態で使用されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂。
【請求項5】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の窒素含有量が430ppm以下であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂。
【請求項6】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の窒素含有量が420ppm以下であることを特徴とする、請求項5に記載の高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂。
【請求項7】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の窒素含有量が410ppm以下であることを特徴とする、請求項6に記載の高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂。
【請求項8】
Arがアリーレン基であり、nが0~5であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂。
【請求項9】
Arがフェニレン基であることを特徴とする、請求項8に記載の高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂。
【請求項10】
芳香環において、前記-SMは-S-又は-SMに対してパラ位であり、-(-S-Ar-)
n-中、n≧2の場合に、同じ芳香環上のS同士はパラ位であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂。
【請求項11】
硫黄含有化合物及びハロゲン化芳香族化合物を反応物として用い、1種以上の塩基性化合物及び1種以上のC
5~C
6の脂肪酸の存在下で反応させてポリフェニレンスルフィドの一次生成物を得る重縮合反応と、
前記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物と下式(1)で表される鎖延長剤をpH9~12の反応系において増粘反応させて高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂を得る増粘反応とを備え、
MS-L-SM ……(1)
(式中、Mは金属イオンを示し、Lは下記の式(2)で表される2価の連結基を示す。)
-Ar-(-S-Ar-)
n- ……(2)
(式中、Arは置換又は未置換の芳香族基であり、前記nは0以上である。)
前記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物は、重量平均分子量が3.0×10
4~5.0×10
4、310℃における溶融粘度が40~150Pa・s、熱安定指数が0.96以上であり、
かつ前記重縮合反応後に単離されたものであり、
前記高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂の重量平均分子量が6.1×10
4以上であり、前記高分子量ポリフェニレンスルフィドは熱安定性指数が0.95以上であり、且つ310℃における溶融粘度が250~950Pa・sであることを特徴とする、高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項12】
Mがアルカリ金属イオンであり、前記高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂が6.1×10
4~10.1×10
4の重量平均分子量、0.96以上の熱安定性指数を有することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
MがNaイオンであることを特徴とする、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記重縮合反応の反応温度は220~280℃であり、前記硫黄含有化合物は水硫化物から選択され、前記ハロゲン化芳香族化合物はジハロゲン化芳香族化合物であることを特徴とする、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記ハロゲン化芳香族化合物がジクロロ芳香族化合物であることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ハロゲン化芳香族化合物がジクロロベンゼンであることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
全硫黄1.0molに対して、前記塩基性化合物の使用量は1.0~1.02molであり、前記脂肪酸と前記硫黄含有化合物とのモル比が0.8~1.2:1であることを特徴とする、請求項11~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記重縮合反応では、全硫黄1molに対して、前記ハロゲン化芳香族化合物の使用量は1.00~1.02molであり、前記重縮合反応は溶媒の存在下で行われ、且つ全硫黄1molに対して、前記溶媒の使用量は4.2~4.7molであることを特徴とする、請求項11~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記重縮合反応は水含有量が0.5mol/mol全硫黄未満の条件下で行われ、前記重縮合反応の後、さらに分離及び/又は洗浄及び/又は乾燥の工程を含むことを特徴とする、請求項11~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記分離は155~180℃の範囲で行われることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記洗浄は水洗及び/又は酸洗を含み、ろ液中のハロゲンイオンの質量含有量が0.01%以下となるまで洗浄することを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
Arがアリーレン基であり、nが0~5であることを特徴とする、請求項11~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
Arがフェニレン基であることを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
芳香環において、前記-SMは-S-又は-SMに対してパラ位であり、-(-S-Ar-)
n-中、n≧2の場合に、同じ芳香環上のS同士はパラ位であることを特徴とする、
請求項11~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
請求項1~10のいずれか1項に記載の高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂、又は請求項11~24のいずれか1項に記載の方法により得られた高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂を含むことを特徴とする、組成物。
【請求項26】
請求項1~10のいずれか1項に記載の高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂、又は請求項11~24のいずれか1項に記載の方法により得られた高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂、又は請求項25に記載の組成物の、自動車部品、電子/電気装置、化学工業、機械工業における使用。
【請求項27】
請求項1~10のいずれか1項に記載の高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂、又は請求項11~24のいずれか1項に記載の方法により得られた高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂、又は請求項25に記載の組成物を用いて成形してなる製品であって、板材、パイプ材、棒材、繊維、膜又はフィルムを含む、製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子材料分野に属し、高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂に関し、特に高熱安定性を有する直鎖状高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂に関し、また、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(Polyphenylene Sulfide、PPSと略称する)は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、機械的強度、電気的特性、寸法安定性等に優れたエンジニアリングプラスチックである。PPSは、押出成形、射出成形、圧縮成形などの一般的な溶融加工法により、様々な成形品、フィルム、シート、繊維などに成形できるため、電子及び電気装置、自動車部品等の分野で幅広く利用されている。高分子量のポリフェニレンスルフィドは、分子量が高まることにより、性能がより向上し、より広範囲に利用され、より便利に加工利用されることができる。高分子量のポリフェニレンスルフィドは、前処理なしのまま加工成形され、構造材料として使用されることができ、前処理なしのままほかの金属、非金属材料及び高分子材料とブレンドしてプラスチックとして使用されることもでき、さらに、繊維、膜、フィルムに加工して使用されることもできる。例えば、電子及び電気デバイスとして、電気絶縁体、磁気テープ、コンデンサ、プリント回路基板、半田付け可能なPPS絶縁部品、電子装置のシール(絶縁)材等として使用されることができる。
【0003】
数多くの外国特許には、高分子量ポリフェニレンスルフィドの合成方法が報告されている。初期の頃、米国のフィリップス・ペトロリアムは高分子量ポリフェニレンスルフィドを得るために、低分子量のPPS樹脂を熱酸化して架橋させることにより、低い架橋度を有するPPS樹脂を得る方法と、反応中に少量の第3反応モノマー(通常、三官能以上のポリハロゲン芳香族炭化水素が用いられる)を加えることにより、分岐型PPS樹脂を得る方法という2つの方法により樹脂の分子量を高めてみた。しかし、熱酸化して架橋させることにより得られた樹脂を押し出しにより紡糸又は製膜することができず、三官能以上のポリハロゲン芳香族炭化水素を加えて得られた高分子量PPS樹脂も紡糸性に劣っていた。
【0004】
参考文献1には、p-ジクロロベンゼン、硫化ナトリウム及び助剤リン酸ナトリウムを原料とし、及び1,2,4-トリクロロベンゼンを副原料として、N-メチルピロリドン中に高温加圧下で縮合して分岐高分子量ポリフェニレンスルフィドを得る合成方法は記載されているが、この方法では、固有粘度が低く、反応系内の成分が多く、後処理が困難であり、且つ分岐ポリフェニレンスルフィドは流動性が悪く、加工が難しく、結晶度が低下するため、プラスチック及びラミネート材のみに適する。
【0005】
参考文献2では、p-ジクロロベンゼン、硫化ナトリウムを原料とし、N-メチルイミダゾールとN-メチルピロリドンの複合溶媒を用い、触媒と組み合わせて高温加圧下で縮合し、120000~150000の高分子量で、高強度、流動性に優れ、紡糸プロセスに適するポリフェニレンスルフィドを得た。しかし、分岐ポリフェニレンスルフィドは流動性が悪く、加工が難しく、且つ重合中に分岐化剤、増粘剤、造核剤、予備重合触媒、分岐化触媒、共重合触媒等多くの添加剤が添加されたため、ポリマーの後処理として精製が難しく、回収が困難であり、排水、排気ガス、固形廃棄物の取り扱いも困難である。当該特許には、複合溶媒、NaCl及び様々な添加剤の分離又は回収の課題に言及されていない。
【0006】
参考文献3では、アルカリ金属水硫化物又は硫化物及びジハロゲン化芳香族化合物を原料とし、重合助剤及び相分離剤を加え、有機アミド溶媒で脱水及び重合し、且つ後期重合時に多官能性化合物を添加し、溶融粘度が0.1~8000Pa・sである高重合度ポリフェニレンスルフィド樹脂を合成した。後期重合時の相分離剤は、好ましくは低コストで後処理が簡単な水であり、硫黄源1molに対して、この水分量は通常、2~10molであり、好ましくは2.3~7molであり、より好ましくは2.5~5molである。多官能性化合物は好ましくはポリハロゲン化芳香族化合物、芳香族チオール化合物、芳香族カルボン酸及びそれらの誘導体であり、例えば、1,2,4-トリクロロベンゼン、p-ジクロロベンゼン、2,4-ジクロロベンゼンチオール、4,4’-チオジフェニルチオールが挙げられ、1,2,4-トリクロロベンゼンであることが特に好ましい。このプロセスの重合系は水含有量が高く、反応圧力が大幅に高まるため、反応装置への要求が高まる。この特許の実施例では、2,4-ジクロロベンゼンチオールを用いた実施例及び4,4’-チオジフェニルチオールを用いた実施例はそれぞれ1つのみであり、合成されたPPS樹脂の溶融粘度はそれぞれ77Pa・s及び28Pa・sであった。ほかの実施例では、いずれもトリクロロベンゼンのみ使用され、合成されたPPS樹脂の溶融粘度は最大でもわずか109Pa・sであった。この特許の発明内容から、より高い溶融粘度を有するPPSを合成するには、より多くのトリクロロベンゼンを添加することが必要になる一方で、PPSの分岐度が高いため、多くの副作用が生じると推測される。
【0007】
現在、硫化ナトリウム法の原料及びプロセスについて、数多くの研究がなされ、数多くの日本特許(例えば、特開2001-261832、特開2002-265604、特開2004-99684、特開2005-54169、特開2006-182993、特開2007-9128、特開2009-57414、特開2010~53335等)、US特許(USP4,286,018)、WO特許(WO2006-059509)及び中国特許(CN200480015430.5)が提出されている。これらの特許では、ポリハロゲン化芳香族化合物、硫化物、溶媒及び重縮合反応助剤の種類や使用量が詳しく検討されている。なかでも、ポリハロゲン化芳香族化合物は通常、1,4-p-ジクロロベンゼン及び1,2,4-トリクロロベンゼンであり、硫化物は通常、含水硫化ナトリウムであり、溶媒は通常、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)であり、重縮合反応助剤は通常、醋酸ナトリウムであるとされている。これらの特許では、プロセス制御についても詳しく記載されており、反応過程として通常、100~230℃の温度範囲で有機溶媒、硫化物、ポリハロゲン化芳香族化合物及び重縮合反応助剤を混合脱水し、且つ200~290℃の温度範囲で重縮合反応を行い、PPS樹脂を製造する。より高い分子量を有するPPSを得るために、多段階で重縮合反応を行う必要があり、得られるPPS樹脂は押出成形に適するとされている。これらの特許では、重縮合反応助剤である醋酸ナトリウムの分離又はリサイクルの課題に言及されていない。
【0008】
また、日本特許(例えば、特開平5-222196、特開平6-157756、特開平7-102065、特開平7-224165、特開平7-292107)では、重縮合反応プロセスとして同様に2段階反応の方法が採用された。高分子量のPPS樹脂を得るために、重縮合反応助剤及びトリクロロベンゼンを添加することに加え、分解の副反応を低減するように、反応釜の気相部分に冷却還流装置を付属させた。
【0009】
また、重合系における水含有量を増えることによりポリフェニレンスルフィド分子量を高める方法もたくさん提案されている。参考文献4には、重縮合反応段階ではH2O/Sモル比が通常1.0より大きく、重縮合反応の後期では、H2O/Sモル比が2.5~7.0となるように水を追加し、且つ反応系の温度を245~290℃に上げて重縮合反応を終了させる必要があるとされている。このようにして、溶融粘度の数値範囲が10~30,000Pa・sである高分子量直鎖状PPSは容易に得られるが、反応圧力が大幅に増加するため、反応装置への要求が一層高まる。
【0010】
参考文献5では、溶融ポリフェニレンスルフィドにアルカリ金属カルボン酸塩及び水を加えて反応させ、鎖を延長し、さらにポリフェニレンスルフィドを析出させてその分子量を高めた。この方法では、直鎖状ポリフェニレンスルフィドの分子量を高めることができ、非直鎖状ポリフェニレンスルフィドの分子量を高めることもできるが、かかる反応は高温高圧の条件かで行われるため、条件が厳しく、設備が複雑であり、コストが高い。
【0011】
参考文献6では、硫化ナトリウム無水物及びp-ジクロロベンゼンを原料とし、リン酸ナトリウムを助剤として用い、2段階反応によりポリマーを合成し、2段階反応が終了した後に、硫化ナトリウムを添加し、反応を継続させ、分子量が45000~51000の範囲である直鎖状高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂を合成した。しかし、硫化ナトリウム無水物は自然発火性物質であるため、保管及び使用時に危険性が大幅に高まる。
【0012】
参考文献7では、硫化ナトリウム及びp-ジクロロベンゼンを原料とし、アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩化物を助剤として用い、複合溶媒系において2段階保温により予備重合及び重縮合を行い、その後に反応釜を減圧させ、重合スラリーをろ過、酸洗及び水洗に供し、ポリフェニレンスルフィド重合体を得、さらに硫化ナトリウム、p-ジクロロベンゼン、複合溶媒、助剤とともに反応釜に加え、260~300℃で数時間重縮合させ、さらに減圧、ろ過、酸洗、水洗、加熱乾燥を経て、溶融粘度が500Pa・s以上であり、分子量が55000~60000である高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂を得た。この特許で使用された複合溶媒はN-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ピリジン、ヘキサメチルホスホリルトリアミン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン又はN-メチルモルホリンから選択されるいずれか2種を配合してなるものであり、溶解性に優れ、塩含有量が低く、分離しやすいが、複合溶媒、NaCl及び助剤の分離又はリサイクルの課題に言及されていない。
【0013】
以上をまとめると、高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂を合成するために、通常、熱架橋処理又はポリハロゲン化芳香族化合物の添加が採用される。文献においてよく使用されているポリハロゲン化芳香族化合物は1,3,5-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン等である。しかし、熱架橋処理法により得られるポリフェニレンスルフィド樹脂は色が濃く、自然な色が要求される用途には適しない。さらに、上記2つの方法により得られる高分子量ポリフェニレンスルフィドは多少分岐を有するため、ポリフェニレンスルフィドの性能が変わり、結果として、その使用が制限される。また、異なる硫黄源を用いることによっても高分子量のポリフェニレンスルフィドを合成できるが、設備が複雑であり、硫黄源の純度が制御不可能であり、プロセス再現性及び安全性が生産要求を満たすことができない。また、重合系における水含有量を増えること、又は重合中に反応モノマーを添加することによりポリフェニレンスルフィドの分子量を高める場合、反応圧力が大幅に増加するため、反応装置への要求が一層高まり、又はポリフェニレンスルフィドのロスが多く、エネルギー消費が多く、プロセスが複雑で制御不可能である。
【0014】
したがって、より簡素化され、より安全でより制御可能なポリフェニレンスルフィド樹脂の合成方法への要求、及びポリフェニレンスルフィド樹脂の利用分野を広くするためにポリフェニレンスルフィド樹脂の分子量をさらに高める要求が依然として存在している。
【0015】
参考文献1:US 3,354,129
参考文献2:CN 201410177091.6
参考文献3:CN 201580060684.7
参考文献4:CN 88108247.3
参考文献5:US 4,748,231
参考文献6:CN 201310142044.3
参考文献7:CN 201510129926.5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明はポリフェニレンスルフィド樹脂を提供し、また、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法及び使用を提供する。さらに、本発明で提供されるポリフェニレンスルフィド樹脂は、従来の技術よりも高い分子量及び優れた熱安定性を有する。また、本発明に記載のポリフェニレンスルフィドの製造方法はより簡単で、生産コストがより低く、より安全である。
【0017】
また、本発明では、ポリフェニレンスルフィドの一次生成物の溶融粘度及び増粘反応における鎖延長剤の使用量を調整することにより、異なる溶融粘度及び分子量を有するポリフェニレンスルフィド樹脂を選択的で制御的に製造することが可能となるため、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂は熱安定性に優れており、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の利用範囲も広くなる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、以下の発明により上記の課題を解決できることを見出した。
【0019】
[1]本発明はまず、ポリフェニレンスルフィドの一次生成物と下式(1)で表される鎖延長剤を増粘反応させてなり、
MS-L-SM ……(1)
(式中、Sは硫黄原子を示し、Mは金属イオン、好ましくはアルカリ金属イオンを示し、Lは芳香族基を含む2価の連結基を示す。)
前記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物は硫黄含有化合物とハロゲン化芳香族化合物との重縮合生成物であり、
前記高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂の重量平均分子量が6.0×104以上であり、好ましくは6.0×104~10.1×104である、高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂を提供する。
【0020】
[2]前記ハロゲン化芳香族化合物はジハロゲン化芳香族化合物であり、前記増粘反応は塩基性条件下で行われ、且つ前記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物は溶融又は溶解した形態で使用される、[1]に記載の高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂。
【0021】
[3]前記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物の310℃における溶融粘度が40~150Pa・sである、[1]又は[2]に記載の高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂。
【0022】
[4]前記高分子量ポリフェニレンスルフィドは熱安定性指数が0.95以上であり、好ましくは0.96以上であり、且つ310℃における溶融粘度が250~950Pa・sである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂。
【0023】
[5]前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の窒素含有量が430ppm以下であり、好ましくは420ppm以下であり、より好ましくは410ppm以下である、[1]~[4]のいずれか1項に記載の高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂。
【0024】
[6]前記式(1)中の-L-として、下記の式(2)で表される構造である、[1]~[5]のいずれか1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂。
-Ar-(-S-Ar-)n- ……(2)
(式中、Arは置換又は未置換の芳香族基であり、好ましくはアリーレン基であり、より好ましくはフェニレン基であり、前記nは0以上であり、好ましくは0~5である。)
【0025】
[7]芳香環において、前記-SMは-S-又は-SMに対してパラ位であり、-(-S-Ar-)n-中、n≧2の場合に、同じ芳香環上のS同士はパラ位である、[6]に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂。
【0026】
[8]本発明はさらに、重量平均分子量が6.0×104以上であり、好ましくは6.0×104~10.1×104であり、
熱安定性指数が0.95以上であり、好ましくは0.96以上であり、
310℃における溶融粘度が250~950Pa・sである、高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂を提供する。
【0027】
[9]さらに、本発明は、硫黄含有化合物及びハロゲン化芳香族化合物を反応物として用い、ポリフェニレンスルフィドの一次生成物を得る重縮合反応と、
前記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物と下式(1)で表される鎖延長剤を増粘反応させて高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂を得る増粘反応とを備え、
MS-L-SM ……(1)
(式中、Mは金属イオン、好ましくはアルカリ金属イオン、より好ましくはNaイオンを示し、Lは芳香族基を含む2価の連結基を示す。)
前記高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂の重量平均分子量が6.0×104以上であり、好ましくは6.0×104~10.1×104である、高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法を提供する。
【0028】
[10]前記重縮合反応の反応温度は220~280℃であり、前記反応は塩基性化合物、脂肪酸から選択される1種以上の重縮合助剤の存在下で行われ、前記硫黄含有化合物は水硫化物から選択され、前記ハロゲン化芳香族化合物はジハロゲン化芳香族化合物であり、好ましくはジクロロ芳香族化合物であり、より好ましくはジクロロベンゼンである、[9]に記載の方法。
【0029】
[11]全硫黄1.0molに対して、前記塩基性化合物の使用量は1.0~1.02molであり、前記脂肪酸は中鎖・短鎖脂肪酸から選択される1種以上であり、且つ前記脂肪酸と前記硫黄含有化合物とのモル比が0.8~1.2:1である、[10]に記載の方法。
【0030】
[12]前記重縮合反応では、全硫黄1molに対して、前記ハロゲン化芳香族化合物の使用量は1.00~1.02molであり、前記重縮合反応は溶媒の存在下で行われ、且つ全硫黄1molに対して、前記溶媒の使用量は4.2~4.7molである、[9]~[11]のいずれか1項に記載の方法。
【0031】
[13]前記重縮合反応は水含有量が0.5mol/mol全硫黄未満の条件下で行われ、前記重縮合反応の後、さらに分離及び/又は洗浄及び/又は乾燥の工程を含み、好ましくは、前記分離は155~180℃の範囲で行われる、[9]~[12]のいずれか1項に記載の方法。
【0032】
[14]前記洗浄は水洗及び/又は酸洗を含み、ろ液中のハロゲンイオンの質量含有量が0.01%以下となるまで洗浄する、[13]に記載の方法。
【0033】
[15]前記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物は重量平均分子量が3.0×104~5.0×104であり、310℃における溶融粘度が40~150Pa・sであり、熱安定性指数が0.96以上である、[9]~[14]のいずれか1項に記載の方法。
【0034】
[16]前記高分子量ポリフェニレンスルフィドは熱安定性指数が0.95以上であり、好ましくは0.96以上であり、且つ310℃における溶融粘度が250~950Pa・sである、[9]~[15]のいずれか1項に記載の方法。
【0035】
[17]前記式(1)中の-L-として、下記の式(2)で表される構造である、[9]~[16]のいずれか1項に記載の方法。
-Ar-(-S-Ar-)n- ……(2)
(式中、前記-Ar-は置換又は未置換の芳香族基であり、好ましくはフェニレン基であり、前記nは0以上であり、好ましくは0~5である。)
【0036】
[18]芳香環において、前記-SMは-S-又は-SMに対してパラ位であり、-(-S-Ar-)n-中、n≧2の場合に、同じ芳香環上のS同士はパラ位である、[17]に記載の方法。
【0037】
[19]さらに、本発明は、[1]~[8]のいずれか1項に記載の高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂、又は[9]~[18]のいずれか1項に記載の方法により得られた高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂を含む、組成物を提供する。
【0038】
[20][1]~[8]のいずれか1項に記載の高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂、又は[9]~[18]のいずれか1項に記載の方法により得られた高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂、又は[19]に記載の組成物の、自動車部品、電子/電気装置、化学工業、機械工業における使用。
【0039】
[21][1]~[8]のいずれか1項に記載の高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂、又は[9]~[18]のいずれか1項に記載の方法により得られた高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂、又は[19]に記載の組成物を用いて成形してなる製品であって、板材、パイプ材、棒材、繊維、膜又はフィルムを含む、製品。
【発明の効果】
【0040】
本発明の高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂及びその製造方法並びに使用は、下記の優れた効果を有する。
【0041】
1)本発明はメルカプト基含有金属芳香族化合物を鎖延長剤として用い、メルカプト基金属部分をポリフェニレンスルフィドの一次生成物のハロゲン末端基と反応させて高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂を得、その分子構造がポリフェニレンスルフィドの一次生成物と類似しており、直鎖状ポリフェニレンスルフィド樹脂の優れた性能を保持することができる。
【0042】
2)本発明で提供される高分子量のポリフェニレンスルフィド樹脂は、熱安定性指数が0.95以上、重量平均分子量が6.0×104~10.0×104、310℃における溶融粘度が250~950Pa・sとなるため、直接に押出、射出、圧延に用いられ、幅広く利用されることができる。
【0043】
3)本発明で提供されるポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融粘度は制御可能なものである。製造時に、まずポリフェニレンスルフィドの一次生成物を合成し、予備精製を行い、次にポリフェニレンスルフィドの一次生成物の溶融粘度及び鎖延長剤の使用割合を調整し、ポリフェニレンスルフィドの一次生成物の合成時に系におけるほかの副生成物による次の増粘反応への影響を無くすことにより、その後の利用時の関連パラメータ要求を満たすようにポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融粘度及び分子量に対する制御を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明に係る高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂及びその製造方法並びに使用について詳しく説明する。なお、特に断りのない限り、本発明で使用される単位名称はすべて当業界で一般的に使用される国際単位名称である。また、本発明では、後述する数値点又は数値範囲はいずれも工業的に許容される誤差を含むものと理解されるべきである。
【0045】
本発明における物性及び特性の測定方法は以下のとおりである。
【0046】
流動性(溶融粘度)
本発明に記載の流動性は溶融粘度で示される。
【0047】
本発明の実施の形態では、重合パラメータ及び温度曲線への調整により、ポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融粘度を適切な範囲に制御することができる。また、末端基への調整も溶融粘度にある程度の影響を与える。
【0048】
本発明に記載の高熱安定性直鎖状高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂の流動性をより正確に示すために、前記溶融粘度を下記の測定方法により測定する。
【0049】
本発明においては、Dynisco社製LCR7001キャピラリーレオメーターによりポリフェニレンスルフィドの溶融粘度を測定する。測定時に、まずポリマー試料を装置に導入し、温度を310℃に設定し、5min保持した後、せん断速度1216sec-1で溶融粘度を測定する。
【0050】
熱安定性
本発明の熱安定性は、熱安定性指数で示される。
【0051】
ポリフェニレンスルフィド樹脂では、末端基の窒素含有量は樹脂の熱安定性に重要な影響を与える。末端基の窒素含有量は、ポリフェニレンスルフィドの一次生成物を製造する重縮合反応における反応溶媒の副反応によるものである。重縮合反応では、脂肪酸を重縮合助剤とし、特にC5~C6の脂肪酸を重縮合助剤とすることによって、末端基の窒素含有量を効果的に低減し、ポリフェニレンスルフィドの一次生成物及びポリフェニレンスルフィド樹脂の熱安定性を顕著に向上させることができる。
【0052】
本発明に記載の高熱安定性直鎖状高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂の熱安定性をより正確に示すために、前記熱安定性指数を下記の測定方法により測定する。
【0053】
本発明においては、Dynisco社製LCR7001キャピラリーレオメーターによりポリフェニレンスルフィドの溶融粘度を測定する。測定時に、まずポリマー試料を装置に導入し、温度を310℃に設定し、一定の時間保持した後、せん断速度1216sec-1で溶融粘度を測定する。
【0054】
ポリマー試料を310℃で5min保持した後、せん断速度1216sec-1で溶融粘度を測定し、MV1とする。ポリマー試料を310℃で30min保持した後、せん断速度1216sec-1で溶融粘度を測定し、MV2とする。MV2/MV1は熱安定性を示すものであり、この比の値が大きいほど、ポリマーの熱安定性が良い。
【0055】
重量平均分子量
本発明に記載の重量平均分子量はサイズ排除クロマトグラフィーの1つであるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)である。以下、GPCの測定条件を示す。
【0056】
装置:PL GPC220
カラム:Plgel Mixed-B
溶離液:1-クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
予備恒温槽温度:240℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:100μL
【0057】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態において、高分子量のポリフェニレンスルフィド樹脂、特に直鎖状高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂を提供する。本発明のいくつかの好ましい実施形態において、前記高分子量ポリフェニレンスルフィドはポリフェニレンスルフィドの一次生成物と鎖延長剤を増粘反応させてなるものである。前記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物は硫黄含有化合物とハロゲン化芳香族化合物との重縮合生成物である。
【0058】
鎖延長剤
本発明では、下式(1)で表されるメルカプト基含有金属芳香族化合物を鎖延長剤として用いる。
MS-L-SM ……(1)
式中、Mは金属イオンを示し、好ましくはアルカリ金属イオンであり、典型的にはナトリウムイオン及び/又はカリウムイオンである。
Lは芳香族基を含む2価の連結基を示し、前記芳香族基は炭素数6~30の芳香族炭化水素基を示す。本発明の効果を損なわない範囲で、これら芳香族炭化水素基は任意の置換基を有していてもよい。本発明のいくつかの好ましい実施形態において、芳香族基はフェニレン基、ビフェニレン基であってもよい。
【0059】
本発明の他のいくつかの好ましい実施形態において、前記式(1)で表される鎖延長剤は式(2)で表される構造を有してもよい。
-Ar-(-S-Ar-)n- ……(2)
式中、Arは置換又は未置換の芳香族基であり、好ましくはアリーレン基であり、さらに好ましくはフェニレン基であり、前記nは0以上であり、好ましくは0~5である。
【0060】
本発明の好ましい実施形態において、n=0の場合に、上記式(1)中のMS-又は-SMは芳香族基においてパラ位であり、典型的には、フェニレン基においてパラ位である。式(2)中、n≧1の場合に、同じ芳香族基上(例えば、フェニレン基上)の-S-同士はパラ位である。
【0061】
前記式(1)中のメルカプト基含有金属芳香族化合物は1分子鎖当たり、フェニレン基を1~6個含み、前記式(2)で表される構造は1分子鎖当たり、n値が0~5である。
【0062】
前記式(1)で表されるメルカプト基含有金属芳香族化合物は、ハロゲン化、特に臭素化芳香族化合物とM1HSを塩基性化合物及び有機溶媒の存在下で、一定の温度で反応させて形成されることができる。
【0063】
上記M1は式(1)中のMと同一でも異なっていてもよく、金属イオンから選択され、好ましくはアルカリ金属イオンから選択され、特に好ましくはナトリウムイオン又はカリウムイオンから選択される。前記塩基性化合物は、金属イオンから形成された塩基性化合物から選択されることができ、好ましくはアルカリ金属イオンから形成された塩基性化合物であり、さらに好ましくはアルカリ金属の水酸化物である。前記有機溶媒は特に限定されることはないが、合成の収率の観点から、極性有機溶媒を選択することができ、典型的には、NMP又はDMFから選択される1種又は2種である。
【0064】
式(1)又は式(2)で表される鎖延長剤の合成について、本発明のいくつかの好ましい実施形態において、ハロゲン化、特に臭素化芳香族化合物とM1HSで表される水硫化物をカップリング反応させることができる。典型的には、前記臭素化芳香族化合物はp-ジブロモベンゼン又は4,4’-ジブロモジフェニルスルフィドである。ハロゲン化芳香族化合物1molに対して、M1HSの使用量は1.16~2.0molであり、塩基性化合物の使用量は1.16~2.0molである。
【0065】
上記式(1)又は式(2)で表されるメルカプト基含有金属芳香族化合物の合成反応では、反応温度を190~220℃とし、反応時間を1~3時間とする。前記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物100gに対して、前記ハロゲン化芳香族化合物の使用量は0.01~0.24molである。
【0066】
本発明では、メルカプト基含有金属芳香族化合物を鎖延長剤として用い、鎖延長剤の-SM末端基とポリフェニレンスルフィドの一次生成物のハロゲン末端基を反応させることにより、後続の生成物においてポリフェニレンスルフィドの一次生成物と類似する分子鎖構造を形成する。そのうち、ポリフェニレンスルフィドの一次生成物の溶融粘度を比較的低い範囲に、重縮合中にハロゲン源及び硫黄源の割合を比較的高い範囲に制御することができる。これにより、合成されたポリフェニレンスルフィドの一次生成物はハロゲン末端基の割合が多く、ポリフェニレンスルフィド樹脂の熱安定性の向上に有利であり、後に前記鎖延長剤上の-SM末端基との反応にも有利であり、溶融粘度及び分子量を高めることができる。
【0067】
本発明の実施形態では、最終のポリフェニレンスルフィド樹脂製品の溶融粘度及び分子量に対する異なる要求に応じて、ポリフェニレンスルフィドの一次生成物の溶融粘度及び鎖延長剤の添加割合の調整により制御することができる。
【0068】
ポリフェニレンスルフィドの一次生成物
本発明では、硫黄含有化合物とハロゲン化芳香族化合物との重縮合反応によりポリフェニレンスルフィドの一次生成物を得る。
【0069】
本発明で使用される硫黄含有化合物は、原則として特に限定されることはないが、例えば、当業界で一般的に使われている硫黄単体、アルカリ金属の硫化物、アルカリ金属の水硫化物等が挙げられる。さらに、本発明の発明者は、熱安定性を併せ持つ観点から、例えば、ポリフェニレンスルフィド構造中の-S-S-の存在により熱安定性が低下する恐れを低減させるために、本発明の好ましい実施形態において、硫黄含有化合物として、アルカリ金属の水硫化物が好ましいことを見出した。また、前記アルカリ金属も原則として特に限定されることはないが、後処理が便利という点から、ナトリウムが好ましい。つまり、前記硫黄含有化合物がNaHSであることが好ましい。
【0070】
前記ハロゲン化芳香族化合物は、上記鎖延長剤の合成で使用されるハロゲン化芳香族化合物と同一でも異なっていてもよく、いくつかの好ましい実施形態において、ジハロゲン化芳香族化合物を使用でき、典型的にはジブロモ芳香族化合物又はジクロロ芳香族化合物であり、典型的にはジクロロベンゼンを使用できる。本発明のいくつかの好ましい実施形態において、重縮合反応により得られる前記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物の310℃における溶融粘度は40~150Pa・sである。
【0071】
高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂
本発明に記載の高分子量ポリフェニレンスルフィドは、硫黄含有化合物とハロゲン化芳香族化合物との重縮合生成物であるポリフェニレンスルフィドの一次生成物を、さらに鎖延長剤と増粘反応させてなるものである。本発明に記載の高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂は、重量平均分子量が6.0×104以上であり、好ましくは6.0×104~10.0×104であり、熱安定性指数が0.95以上であり、好ましくは0.96以上であり、且つ310℃における溶融粘度が250~950Pa・sである。
【0072】
さらに好ましい実施形態において、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂の窒素含有量が430ppm以下であり、好ましくは420ppm以下であり、より好ましくは410ppm以下である。
【0073】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態において、ポリフェニレンスルフィドの一次生成物を得る重縮合反応と、高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂を得る増粘反応とを備える、高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法が開示される。
【0074】
重縮合反応
本発明では、重縮合反応によりポリフェニレンスルフィドの一次生成物を得る。上記<第1の実施形態>と同じように、前記重縮合反応は硫黄含有化合物及びハロゲン化芳香族化合物を反応物として用いる。前記硫黄含有化合物は水硫化物から選択され、好ましくは硫化水素ナトリウム又は硫化水素カリウムであり、より好ましくは硫化水素ナトリウムである。前記ハロゲン化芳香族化合物は上記鎖延長剤の合成で使用されるハロゲン化芳香族化合物と同一でも異なっていてもよい。一部の好ましい実施の形態において、ジハロゲン化芳香族化合物を使用でき、典型的にはジブロモ芳香族化合物又はジクロロ芳香族化合物であり、典型的にはジクロロベンゼンを使用できる。
【0075】
前記重縮合反応の反応温度は220~280℃であり、好ましくは240~270℃である。本発明の好ましい実施形態において、前記重縮合反応は、塩基性化合物、脂肪酸から選択される1種以上の重縮合助剤の存在下で行われる。
【0076】
前記塩基性化合物は特に制限されることはないが、上述した塩基性化合物を使用できる。前記塩基性化合物は、金属イオンから形成された塩基性化合物から選択されることができ、好ましくはアルカリ金属イオンから形成された塩基性化合物であり、さらに好ましくはアルカリ金属の水酸化物であり、典型的には、水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムである。前記塩基性物質の添加方法は特に制限されることはないが、直接添加されることができ、水溶液の形態で添加されることもできる。
【0077】
本発明の好ましい実施形態において、脂肪酸を縮合反応助剤の1つとして使用する場合、ポリフェニレンスルフィドの一次生成物中の窒素含有末端基の形成を効果的に抑制できる。前記脂肪酸は、当業界でよく使用されている脂肪酸であればよい。本発明の好ましい実施形態において、中鎖・短鎖脂肪酸から選択される1種以上、即ち炭素鎖の炭素数が12以下である脂肪酸を使用でき、さらに好ましくはC5~C6の脂肪酸から選択される1種以上を使用する。関連研究によれば、窒素含有末端基は反応系における極性溶媒(例えばNMP等の高沸点溶媒)が関与する副反応に由来するものである。末端基の窒素含有量を低減することによって、ポリフェニレンスルフィドの一次生成物の熱安定性を効果的に向上させることができる。さらに、前記C5~C6の脂肪酸は、ヘキサン酸、ペンタン酸、イソペンタン酸、2-エチルブタン酸及びこれらの任意配合比での混合物であることが好ましい。
【0078】
本発明の好ましい実施形態において、重縮合助剤として、1種以上の前記塩基性化合物及び1種以上の前記脂肪酸を併用する。
【0079】
重縮合反応では、硫黄含有化合物及びハロゲン化芳香族化合物の使用量について、本発明の好ましい実施形態において、全硫黄1.0molに対して、ハロゲン化芳香族化合物の使用量は1.00~1.02molである。重縮合反応における前記重縮合助剤の使用量について、全硫黄1.0molに対して、前記塩基性物質の合計使用量は1.00~1.02molであり、前記脂肪酸と硫黄含有化合物とのモル比は0.8~1.2:1である。
【0080】
本発明の好ましい実施形態において、前記重縮合反応は溶媒の存在下で行われ、前記溶媒は好ましくは極性有機溶媒であり、例えばNMP、DMFから選択される1種以上であり、さらに好ましくはNMPである。本発明では前記有機溶媒の存在は、前記重縮合反応に良好な反応場所を提供することができ、脱水又は水分離反応により反応系における水をできる限り除去することもできる。前記重縮合反応における反応溶媒の使用量について、いくつかの好ましい実施形態において、全硫黄1.0molに対して、前記溶媒は合計で4.2~4.7molである。
【0081】
前記重縮合反応では、反応系における水含有量を制御することが必要であり、通常、硫黄含有化合物に対して脱水処理を行うことにより、重縮合反応系における水含有量を0.5mol/mol全硫黄未満に制御する。塩基性物質及び脂肪酸を重縮合助剤として用いる場合、まず塩基性物質及び脂肪酸を脱水処理し、次に硫黄含有化合物を加えて二次脱水することが好ましい。このようにして、硫黄含有化合物の長時間の脱水条件下での分解及び副反応による硫黄元素のロスを低減することができる。
【0082】
本発明のいくつかの好ましい実施の形態において、前記重縮合反応の終了後に、さらに、前記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物に対する後処理を含む。本発明の好ましい実施形態において、重縮合反応の後、反応系を155~180℃まで降温させ、且つこの温度下で後続の分離処理を行う。このような温度は従来の温度より高い理由は、分子量が低いポリフェニレンスルフィドの一次生成物に比較的多くの窒素元素が含まれ、本発明者は上記温度下で処理すると、分子量が比較的高いポリフェニレンスルフィドの一次生成物をできる限り析出させ、反応が不十分で分子量が低いポリフェニレンスルフィドの一次生成物を反応溶液中にそのまま残し、最終的に生成物における窒素の含有量を低減でき、また、分子量が低いポリフェニレンスルフィドの一次生成物における窒素末端基による次の鎖延長剤の増粘反応への影響も排除し得ることを見出したからである。前記分離処理は沈殿、ろ過等の方法を含むことができ、好ましくはろ過の方法を採用する。ろ過の方法について、本発明では特に限定されることはないが、ろ過効率を高めるために、減圧下で重縮合反応系をろ過し、ポリフェニレンスルフィドの一次生成物を得ることができる。
【0083】
前記重縮合反応生成物の後処理工程はさらに、洗浄及び乾燥等の1種以上を含む。場合によって、前記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物はケーキとして得ることができる。前記洗浄は酸洗及び水洗を含み、洗浄は遊離ハロゲンイオンをできる限り除去するまで行われ、例えば生成物ケーキを洗浄したろ液中のハロゲンイオン、特に塩素イオンの残留質量比が0.01%以下となるまで行われることができる。前記酸洗とは、塩酸、硫酸、リン酸、好ましくは塩酸でケーキを洗浄することを意味する。脂肪酸1.0molに対して、前記酸洗時の酸使用量が1.1~1.2molである。
【0084】
いくつかの典型的な実施形態において、上記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物の製造は具体的に、
工程1)溶媒に塩基性化合物及び脂肪酸を加え、脱水処理し、
工程2)硫黄含有化合物を工程1)で得られた脱水液に加え、二次脱水し、
工程3)パラジハロゲン化芳香族化合物を加え、重縮合反応を行い、反応溶液を得、
工程4)反応溶液を降温させて分離し、洗浄し、加熱乾燥させ、前記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物を得ることを含む。
【0085】
上記工程1)、工程2)における脱水、二次脱水の温度は180~250℃である。反応系における水含有量が0.5mol/mol全硫黄未満になるまで二次脱水する。
【0086】
増粘反応
本発明では、前記増粘反応は前記ポリフェニレンスルフィドの一次生成物と下式(1)で表される鎖延長剤を増粘反応させてなるものである。
MS-L-SM …(1)
式中、Mは金属イオン、好ましくはアルカリ金属イオンを示し、Lは芳香族基を含む2価の連結基を示す。上記式(1)の本発明に適用可能な具体的な形態は、<第1の実施形態>に開示された内容とは同じである。前記増粘反応では、より高い分子量を有するポリフェニレンスルフィド生成物を得る観点から、本発明の好ましい実施形態において、ポリフェニレンスルフィドの一次生成物は溶融又は溶解した形態で使用されることができる。
【0087】
いくつかの好ましい実施形態において、本発明に記載の増粘反応は溶媒の存在下で行われる。前記溶媒は上記重縮合反応で使用される溶媒と同一でも異なっていてもよく、好ましくはNMP及び/又はDMFであり、より好ましくはNMPである。
【0088】
前記増粘反応は塩基性条件下で行われ、反応系においてpHを9~12に制御し、好ましくは9.5~11に制御する。前記増粘反応のpHは塩基性化合物を加えることにより調整される。前記塩基性化合物は上記重縮合反応における塩基性化合物と同一でも異なっていてもよく、好ましくは水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムであり、より好ましくは水酸化ナトリウムである。反応溶媒の合計使用量は特に限定されることはないが、通常、ポリフェニレンスルフィドの一次生成物の質量の3~6倍である。
【0089】
前記増粘反応の反応温度が250~280℃であり、好ましくは260~280℃である。本発明のいつくかの好ましい実施形態において、増粘反応の昇温速度が1.0~3.0℃/minであってもよい。温度が設定温度又は所望の反応温度になったとき、反応系を保温し、好ましい実施形態において、保温時間を1~3時間とする。
【0090】
上記高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法では、前記増粘反応の終了後に、さらに後処理工程を含むことができる。後処理の方法について、特に限定されることはないが、当業界の一般的な後処理の方法を採用できる。例えば、ろ過分離して生成物ケーキを得ることができる。ケーキをさらに洗浄により精製することができ、いくつかの好ましい実施形態において、ケーキをろ液のpHが6~8になるまで複数回水洗し、洗浄後のケーキを加熱乾燥させ、高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂完成品を得る。
【0091】
前記のとおり、本発明では、ポリフェニレンスルフィド樹脂の溶融粘度及び分子量に対する異なる要求に応じて、ポリフェニレンスルフィドの一次生成物の溶融粘度及び鎖延長剤の添加割合への調整により制御することができる。本発明に記載の高分子量のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法は制御手段が簡単であり、制御性が高い。
【0092】
<第3の実施形態>
本発明の第3の実施形態において、<第1実施の形態>に係る高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂及び<第2実施の形態>に係る製造方法により得られた高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂を含む、組成物を提供する。
【0093】
この樹脂組成物において、異なる使用目的により含まれる別の樹脂成分については、特に限定されることはないが、ポリフェニレンスルフィド樹脂との相溶性に優れる様々なエンジニアリングプラスチックや一般の樹脂等が挙げられる。
【0094】
また、上記樹脂組成物はさらに、工業上の様々な要求を満たすように、例えば難燃剤、耐候剤、充填剤等様々な助剤成分を、必要に応じて添加することができる。
【0095】
<第4の実施形態>
本発明の第4の実施形態において、本発明に記載の高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂の使用を提供する。本発明に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂及びそれを含む組成物は、従来のものよりも高い分子量及び改良された溶融粘度を有する。
【0096】
本発明に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂又はその組成物は、自動車部品、電子/電気装置、化学工業、機械工業等の利用分野に用いられる。特に様々な板材、パイプ材、棒材の製造、また、繊維、膜、フィルムの製造等にも用いられる。
【0097】
前記板材、パイプ材、棒材は、様々な形状及びプロセスの要求を満たすように、金属のように切削、研磨、ポリッシュ、穴あけ等機械的加工が行われることができる。
【0098】
前記繊維、膜、フィルム等は、ウェビング製品、高強度絹糸、耐食ろ過材、電気絶縁体、磁気テープ、コンデンサ、プリント回路基板等高強度、耐温、耐食、電気絶縁の利用分野に用いられる。
【実施例】
【0099】
以下、実例を挙げて本発明をより詳しく説明する。ただし、本発明はこれらの実例に限定されるものではない。
【0100】
本発明における物性及び特性の測定方法は以下のとおりである。
【0101】
(1)溶融粘度の測定方法
本発明においては、Dynisco社製LCR7001キャピラリーレオメーターによりポリフェニレンスルフィドの溶融粘度を測定する。測定時に、まずポリマー試料を装置に導入し、温度を310℃に設定し、5min保持した後、せん断速度1216sec-1で溶融粘度を測定する。
【0102】
(2)熱安定性の測定方法
ポリマー試料を310℃で5min保持した後、せん断速度1216sec-1で溶融粘度を測定し、MV1とする。同じポリマー試料を310℃で30min保持した後、せん断速度1216sec-1で溶融粘度を測定し、MV2とする。MV2/MV1は熱安定性を示すものであり、この比の値が大きいほど、ポリマーの熱安定性が良い。
【0103】
(3)窒素含有量の測定方法
微量硫黄・窒素分析装置を用いてポリフェニレンスルフィドの窒素含有量を測定する。
【0104】
(4)重量平均分子量の測定方法
ゲル浸透クロマトグラフィーによりポリフェニレンスルフィドの重量平均分子量を測定する。
【0105】
(5)全硫黄量
実施例では、脱水前の全硫黄量は供給されたNaHSにおける硫黄含有量であり、脱水後の全硫黄量は、供給されたNaHSにおける硫黄含有量から脱水によって低減された硫黄含有量を引いた量である。つまり、
[脱水前の全硫黄量]=[供給されたNaHS硫黄含有量]
[脱水後の全硫黄量]=[供給されたNaHS硫黄含有量]-[脱水によって低減された硫黄含有量]
【0106】
(6)塩基性化合物の合計使用量
実施例では塩基性化合物としてNaOHを用いた。したがって、塩基性化合物の合計使用量は全NaOH量である。
【0107】
全NaOH量は、供給されたNaOHから、助剤の反応に必要なNaOHを引いた後、脱水によって生成されたNaOHを足した和である。つまり、
[全NaOH量]=[供給されたNaOH]-[助剤の反応に必要なNaOH]+[脱水によって生成されたNaOH]
【0108】
合成例(ポリフェニレンスルフィドの一次生成物の製造)
ポリフェニレンスルフィドの一次生成物(以下、PPS-1、PPS-2、PPS-3と略称する)の合成過程は下記のとおりである。
【0109】
a.PPS-1の製造
150Lの反応釜に、N-メチルピロリドン(以下、NMPと略称する)29.93Kg(300.0mol)、40%水酸化ナトリウム水溶液17.90Kg(179mol)及びヘキサン酸9.28Kg(80.0mol)を加え、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、1.0℃/minの速度で、90℃まで昇温させ、3時間保温した。保温後、1.0℃/minの速度で180℃まで昇温させ、10.78Kgの水溶液(水分含有量98.50%)を除去し、130℃まで降温させた。50%硫化水素ナトリウム11.22Kg(100.0mol)、NMP 4.96Kg(50.0mol)を加え、同じ撹拌速度で、0.7℃/minの速度で200℃まで昇温させ、7.52Kgの水溶液(水分含有量91.01%)を除去し、脱水後、140℃まで降温させた。このとき、反応系における全硫黄量は99.0molであり、水分含有量は38.28molであり、全NaOH/全硫黄のモル比は1.01であった。
【0110】
上記反応釜に、p-ジクロロベンゼン(以下、PDCBと略称する)14.85Kg(101.0mol)、NMP 9.23Kg(92.52mol)を加え、PDCB/全硫黄のモル比は1.02であった。約1時間かけて220℃まで昇温させ、3時間保温した。さらに1.2℃/minの速度で260℃まで昇温させ、2時間保温し続けた。保温後、約2時間かけて180℃まで降温させた。釜内の物質を遠心ろ過して遠心脱水させ、ケーキを30.0Kgの180℃ NMPでリンスし、遠心脱水させ、さらに35.04Kgの10%塩酸溶液(塩酸含有量96.0mol)でリンスし、遠心脱水させた。ろ液を合わせ、共沸蒸留によりヘキサン酸9.22Kgを回収し、減圧蒸留によりNMP溶媒73.26Kgを回収した。
【0111】
上記リンスしたケーキを脱イオン水で複数回洗浄し、洗浄後のケーキを加熱乾燥させることで、PPS-1を得、質量収率は93.6%であり、溶融粘度は47Pa・sであり、窒素含有量は410ppmであり、熱安定性は0.973であり、重量平均分子量は3.2×104であった。
【0112】
b.PPS-2の製造
150Lの反応釜に、NMP 29.93Kg(300.0mol)、50%水酸化ナトリウム水溶液15.79Kg(197.4mol)及びペンタン酸10.20Kg(100.0mol)を加え、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、2.0℃/minの速度で、120℃まで昇温させ、1時間保温した。保温後、2.0℃/minの速度で200℃まで昇温させ、8.01Kgの水溶液(水分含有量98.12%)を除去し、120℃まで降温させた。50%硫化水素ナトリウム11.22Kg(100.0mol)、NMP 3.57Kg(36.0mol)を加え、同じ撹拌速度で、1.0℃/minの速度で250℃まで昇温させ、7.68Kgの水溶液(水分含有量92.07%)を除去し、脱水後、160℃まで降温させた。このとき、反応系における全硫黄量は98.7molであり、水分含有量は20.88molであり、全NaOH/全硫黄のモル比は1.00であった。
【0113】
上記反応釜に、PDCB 14.65Kg(99.66mol)、NMP 13.24Kg(133.6mol)を加え、PDCB/全硫黄のモル比は1.01であった。約1.5時間かけて240℃まで昇温させ、0.5時間保温し、さらに1.5℃/minの速度で280℃まで昇温させ、4時間保温した。保温後、約1時間かけて160℃まで降温させた。釜内の物質を遠心ろ過して遠心脱水させ、ケーキを30.0Kgの160℃ NMPでリンスし、遠心脱水させ、さらに40.15Kgの10%塩酸溶液(塩酸含有量110.0mol)でリンスし、遠心脱水させた。ろ液を合わせ、共沸蒸留によりペンタン酸10.15Kgを回収し、減圧蒸留によりNMP溶媒75.9Kgを回収した。
【0114】
上記リンスしたケーキを脱イオン水で複数回洗浄し、洗浄後のケーキを加熱乾燥させることで、PPS-2を得、質量収率は94.3%であり、溶融粘度は90Pa・sであり、窒素含有量は390ppmであり、熱安定性は0.983であり、重量平均分子量は4.1×104であった。
【0115】
c.PPS-3の製造
150Lの反応釜に、NMP 29.93Kg(300.0mol)、50%水酸化ナトリウム水溶液17.6Kg(220mol)及びイソペンタン酸12.28Kg(120.0mol)を加え、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、1.5℃/minの速度で100℃まで昇温させ、2時間保温した。保温後、1.5℃/minの速度で190℃まで昇温させ、8.93Kgの水溶液(水分含有量97.84%)を除去し、110℃まで降温させた。50%硫化水素ナトリウム11.22Kg(100.0mol)、NMP 2.97Kg(30.0mol)を加え、同じ撹拌速度で、1.5℃/minの速度で180℃まで昇温させ、7.35Kgの水溶液(水分含有量90.46%)を除去し、脱水後、150℃まで降温させた。このとき、反応系における全硫黄量は99.0molであり、水分含有量は45.85molであり、全NaOH/全硫黄のモル比は1.02であった。
【0116】
上記反応釜に、PDCB 14.55Kg(99.0mol)、NMP 9.42Kg(95.0mol)を加え、PDCB/全硫黄のモル比は1.00であった。約1時間かけて230℃まで昇温させ、2時間保温した。さらに1.0℃/minの速度で270℃まで昇温させ、3時間保温した。保温後、約1時間かけて155℃まで降温させた。釜内の物質を遠心ろ過して遠心脱水させ、ケーキを30.0Kgの155℃ NMPでリンスし、遠心脱水させ、さらに50.37Kgの10%塩酸溶液(塩酸含有量138.0mol)でリンスし、遠心脱水させた。ろ液を合わせ、共沸蒸留によりイソペンタン酸12.24Kgを回収し、減圧蒸留によりNMP溶媒70.56Kgを回収した。
【0117】
上記リンスしたケーキを脱イオン水で複数回洗浄し、洗浄後のケーキを加熱乾燥させることで、PPS-3を得、質量収率は93.5%であり、溶融粘度は143Pa・sであり、窒素含有量は380ppmであり、熱安定性は0.987であり、重量平均分子量は4.9×104であった。
【0118】
実施例(高分子量ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造)
実施例1
10Lの反応釜に、p-ジブロモベンゼン0.1mol、NaHS 0.2mol、50%NaOH水溶液0.2mol及びNMP 2000gを加え、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、急速で190℃まで昇温させ、3時間保温した。保温後、160℃まで降温させ、平均でフェニレン基を1個含む鎖延長剤を合成した。PPS-1 1000g及びNMP 1000gを加え、さらに50%NaOH溶液で反応系のpHを9.5に調整し、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、1.0℃/minの速度で260℃まで昇温させ、3時間保温した。保温後、約1時間かけて160℃まで降温させた。釜内の物質を遠心ろ過して遠心脱水させ、ケーキを脱イオン水複数回洗浄し、洗浄後のケーキを加熱乾燥させることで、白色のポリフェニレンスルフィド樹脂を得、質量収率は98.7%であり、溶融粘度は250Pa・sであり、窒素含有量は420ppmであり、熱安定性は0.965であり、重量平均分子量は6.1×104であった。
【0119】
実施例2
10Lの反応釜に、p-ジブロモベンゼン2.4mol、NaHS 2.8mol、50%NaOH水溶液2.8mol及びNMP 2000gを加え、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、急速で220℃まで昇温させ、2時間保温した。保温後、160℃まで降温させ、平均でフェニレン基を6個含む鎖延長剤を合成した。PPS-1 1000g及びNMP 2000gを加え、さらに50%NaOH溶液で反応系のpHを11に調整し、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、1.5℃/minの速度で280℃まで昇温させ、2時間保温した。保温後、約2時間かけて140℃まで降温させた。釜内の物質を遠心ろ過して遠心脱水させ、ケーキを脱イオン水複数回洗浄し、洗浄後のケーキを加熱乾燥させることで、白色のポリフェニレンスルフィド樹脂を得、質量収率は98.3%であり、溶融粘度は450Pa・sであり、窒素含有量は430ppmであり、熱安定性は0.961であり、重量平均分子量は7.6×104であった。
【0120】
実施例3
10Lの反応釜に、p-ジブロモベンゼン0.9mol、NaHS 1.2mol、50%NaOH水溶液1.2mol及びNMP 3000gを加え、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、急速で220℃まで昇温させ、1時間保温した。保温後、160℃まで降温させ、平均でフェニレン基を3個含む鎖延長剤を合成した。PPS-1 1000g及びNMP 2000gを加え、さらに50%NaOH溶液で反応系のpHを10.5に調整し、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、1.5℃/minの速度で270℃まで昇温させ、1時間保温した。保温後、約1.5時間かけて150℃まで降温させた。釜内の物質を遠心ろ過して遠心脱水させ、ケーキを脱イオン水複数回洗浄し、洗浄後のケーキを加熱乾燥させることで、白色のポリフェニレンスルフィド樹脂を得、質量収率は98.5%であり、溶融粘度は405Pa・sであり、窒素含有量は420ppmであり、熱安定性は0.963であり、重量平均分子量は7.3×104であった。
【0121】
実施例4
10Lの反応釜に、4,4’-ジブロモジフェニルスルフィド0.1mol、NaHS 0.2mol、50%NaOH水溶液0.2mol及びNMP 2000gを加え、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、急速で220℃まで昇温させ、1時間保温した。保温後、160℃まで降温させ、平均でフェニレン基を2個含む鎖延長剤を合成した。PPS-2 1000g及びNMP 1000gを加え、さらに50%NaOH溶液で系のpHを10に調整し、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、1.0℃/minの速度で260℃まで昇温させ、3時間保温した。保温後、約1時間かけて160℃まで降温させた。釜内の物質を遠心ろ過して遠心脱水させ、ケーキを脱イオン水複数回洗浄し、洗浄後のケーキを加熱乾燥させることで、白色のポリフェニレンスルフィド樹脂を得、質量収率は98.7%であり、溶融粘度は447Pa・sであり、窒素含有量は410ppmであり、熱安定性は0.969であり、重量平均分子量は7.6×104であった。
【0122】
実施例5
10Lの反応釜に、p-ジブロモベンゼン1.2mol、NaHS 1.5mol、50%NaOH水溶液1.5mol及びNMP 2000gを加え、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、急速で220℃まで昇温させ、1時間保温した。保温後、160℃まで降温させ、平均でフェニレン基を4個含む鎖延長剤を合成した。PPS-2 1000g及びNMP 1000gを加え、さらに50%NaOH溶液で反応系のpHを10.5に調整し、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、1.0℃/minの速度で270℃まで昇温させ、1時間保温した。保温後、約1時間かけて160℃まで降温させた。釜内の物質を遠心ろ過して遠心脱水させ、ケーキを脱イオン水複数回洗浄し、洗浄後のケーキを加熱乾燥させることで、白色のポリフェニレンスルフィド樹脂を得、質量収率は98.7%であり、溶融粘度は646Pa・sであり、窒素含有量は390ppmであり、熱安定性は0.976であり、重量平均分子量は8.7×104であった。
【0123】
実施例6
10Lの反応釜に、p-ジブロモベンゼン0.2mol、NaHS 0.4mol、50%NaOH水溶液0.4mol及びNMP 3000gを加え、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、急速で200℃まで昇温させ、3時間保温した。保温後、160℃まで降温させ、平均でフェニレン基を1個含む鎖延長剤を合成した。PPS-3 1000g及びNMP 2000gを加え、さらに50%NaOH溶液で反応系のpHを11に調整し、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、1.5℃/minの速度で280℃まで昇温させ、2時間保温した。保温後、約2時間かけて140℃まで降温させた。釜内の物質を遠心ろ過して遠心脱水させ、ケーキを脱イオン水複数回洗浄し、洗浄後のケーキを加熱乾燥させることで、白色のポリフェニレンスルフィド樹脂を得、質量収率は98.3%であり、溶融粘度は950Pa・sであり、窒素含有量は390ppmであり、熱安定性は0.971であり、重量平均分子量は10.1×104であった。
【0124】
対比例
10Lの反応釜に、4,4’-ジブロモジフェニルスルフィド0.1mol、NaHS 0.2mol、50%NaOH水溶液0.2mol及びNMP 2000gを加え、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、急速で220℃まで昇温させ、1時間保温した。保温後、160℃まで降温させ、平均でフェニレン基を2個含む鎖延長剤を合成した。PPS-2 1000g及びNMP 1000gを加え、さらに50%NaOH溶液で反応系のpHを8.5に調整し、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、1.0℃/minの速度で260℃まで昇温させ、3時間保温した。保温後、約1時間かけて160℃まで降温させた。釜内の物質を遠心ろ過して遠心脱水させ、ケーキを脱イオン水複数回洗浄し、洗浄後のケーキを加熱乾燥させることで、白色のポリフェニレンスルフィド樹脂を得、質量収率は98.5%であり、溶融粘度は182Pa・sであり、窒素含有量は410ppmであり、熱安定性は0.973であり、重量平均分子量は5.4×104であった。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明は工業的に高分子量のポリフェニレンスルフィド樹脂を製造することができる。