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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】能動騒音制御装置
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20221214BHJP
【FI】
G10K11/178 100
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021017934
(22)【出願日】2021-02-08
(65)【公開番号】P2021162848
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2021-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2020062574
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】王 循
(72)【発明者】
【氏名】井上 敏郎
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-006709(JP,A)
【文献】国際公開第2016/151624(WO,A1)
【文献】特開2018-053988(JP,A)
【文献】特開平06-035483(JP,A)
【文献】特開2013-103517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/178
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御点における音圧又は振動を検出した誤差検出器から出力される誤差信号、及び、制御対象周波数に基づいて、制御アクチュエータを制御する能動騒音制御を行う能動騒音制御装置であって、
前記誤差信号から制御対象周波数の信号成分を、実部及び虚部を有する複素数の制御対象信号として抽出する制御対象信号抽出部と、
前記制御対象信号を適応ノッチフィルタである制御フィルタにより信号処理して、前記制御アクチュエータを制御する制御信号を生成する制御信号生成部と、
前記制御対象信号を適応ノッチフィルタである調整フィルタにより信号処理して、推定騒音信号を生成する推定騒音信号生成部と、
前記制御信号を適応ノッチフィルタである二次経路伝達フィルタにより信号処理して、第1推定相殺信号を生成する第1推定相殺信号生成部と、
前記制御対象信号を前記二次経路伝達フィルタにより信号処理して、参照信号を生成する参照信号生成部と、
前記参照信号を前記制御フィルタにより信号処理して、第2推定相殺信号を生成する第2推定相殺信号生成部と、
前記誤差信号、前記第1推定相殺信号及び前記推定騒音信号から第1仮想誤差信号を生成する第1仮想誤差信号生成部と、
前記第2推定相殺信号及び前記推定騒音信号から第2仮想誤差信号を生成する第2仮想誤差信号生成部と、
前記制御対象信号及び前記第1仮想誤差信号に基づいて、前記第1仮想誤差信号の大きさが最小となるように前記調整フィルタの係数を遂次適応更新する調整フィルタ係数更新部と、
前記制御信号及び前記第1仮想誤差信号に基づいて、前記第1仮想誤差信号の大きさが最小となるように前記二次経路伝達フィルタの係数を遂次適応更新する二次経路伝達フィルタ係数更新部と、
前記参照信号及び前記第2仮想誤差信号に基づいて、前記第2仮想誤差信号の大きさが最小となるように前記制御フィルタの係数を遂次適応更新する制御フィルタ係数更新部と、
を有する、能動騒音制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の能動騒音制御装置であって、
前記制御フィルタ係数更新部は、更新後の前記制御フィルタの係数の大きさが所定値よりも大きい場合には、前記制御フィルタの係数の大きさを所定値に補正する、能動騒音制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の能動騒音制御装置であって、
複数の前記制御対象周波数のそれぞれに対して、前記制御対象信号抽出部、前記制御信号生成部及び前記制御フィルタ係数更新部を有する、能動騒音制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御点における音圧又は振動を検出した誤差検出器から出力される誤差信号に基づいて、制御アクチュエータを制御する能動騒音制御を行う能動騒音制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、誤差マイクが検出した制御点の騒音信号に基づいて、騒音信号の振幅と位相を調整することで、スピーカから出力される制御音を生成するフィードバック制御を行うものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-025527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の技術では、スピーカから誤差マイクまでの音の伝達特性として、あらかじめ計測された固定値が用いられているため、伝達特性が変化すると、騒音の増幅や異常音の発生のおそれがある。
【0005】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、伝達特性が変化した場合であっても良好な消音性能を確保することができる能動騒音制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様は、制御点における音圧又は振動を検出した誤差検出器から出力される誤差信号、及び、制御対象周波数に基づいて、制御アクチュエータを制御する能動騒音制御を行う能動騒音制御装置であって、前記誤差信号から制御対象周波数の信号成分を、実部及び虚部を有する複素数の制御対象信号として抽出する制御対象信号抽出部と、前記制御対象信号を適応ノッチフィルタである制御フィルタにより信号処理して、前記制御アクチュエータを制御する制御信号を生成する制御信号生成部と、前記制御対象信号を適応ノッチフィルタである調整フィルタにより信号処理して、推定騒音信号を生成する推定騒音信号生成部と、前記制御信号を適応ノッチフィルタである二次経路伝達フィルタにより信号処理して、第1推定相殺信号を生成する第1推定相殺信号生成部と、前記制御対象信号を前記二次経路伝達フィルタにより信号処理して、参照信号を生成する参照信号生成部と、前記参照信号を前記制御フィルタにより信号処理して、第2推定相殺信号を生成する第2推定相殺信号生成部と、前記誤差信号、前記第1推定相殺信号及び前記推定騒音信号から第1仮想誤差信号を生成する第1仮想誤差信号生成部と、前記第2推定相殺信号及び前記推定騒音信号から第2仮想誤差信号を生成する第2仮想誤差信号生成部と、前記制御対象信号及び前記第1仮想誤差信号に基づいて、前記第1仮想誤差信号の大きさが最小となるように前記調整フィルタの係数を遂次適応更新する調整フィルタ係数更新部と、前記制御信号及び前記第1仮想誤差信号に基づいて、前記第1仮想誤差信号の大きさが最小となるように前記二次経路伝達フィルタの係数を遂次適応更新する二次経路伝達フィルタ係数更新部と、前記参照信号及び前記第2仮想誤差信号に基づいて、前記第2仮想誤差信号の大きさが最小となるように前記制御フィルタの係数を遂次適応更新する制御フィルタ係数更新部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、伝達特性が変化した場合であっても良好な消音性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】能動騒音制御の概要を説明する図である。
図2】能動騒音制御装置のブロック図である。
図3】制御対象信号抽出部のブロック図である。
図4図4Aはゲイン特性を示すグラフである。図4Bは位相特性を示すグラフである。
図5】車室内のドラミングノイズの音圧レベルを示すグラフである。
図6】車室内のドラミングノイズの音圧レベルを示すグラフである。
図7】能動騒音制御装置のブロック図である。
図8】能動騒音制御の概要を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔第1実施形態〕
図1は、能動騒音制御装置10において実行される能動騒音制御の概要を説明する図である。
【0010】
路面から受ける力により車輪が振動し、この振動がサスペンションを介して車体に伝わり、車室14内にロードノイズが発生する。ロードノイズは、特に、車室14のような閉空間の音響共鳴特性によって励起される40~50Hz程度にピークを有し、一定の帯域幅を持つ狭帯域成分は、ドラミングノイズとも呼ばれる「ゴー」という篭った音を発生させ、乗員に不快感を与えやすい。
【0011】
本実施形態の能動騒音制御装置10は、車両12の車室14内に設けられたスピーカ16から相殺音を出力させて、車室14内のドラミングノイズを消音する。能動騒音制御装置10は、車室14内のシート20のヘッドレスト20aに設けられたマイクロフォン22から出力される誤差信号eに基づいて、スピーカ16に相殺音を出力させるための制御信号u0を生成する。誤差信号eは、相殺音とドラミングノイズとが合成された相殺誤差騒音を検出したマイクロフォン22から相殺誤差騒音に応じて出力される信号である。スピーカ16は本発明の制御アクチュエータに相当し、マイクロフォン22は本発明の誤差検出器に相当する。
【0012】
図2は、能動騒音制御装置10のブロック図である。以下では、ドラミングノイズを騒音と記載することがある。また、スピーカ16からマイクロフォン22までの伝達経路を以下では二次経路と称することがある。
【0013】
能動騒音制御装置10は、制御対象信号抽出部26、制御信号生成部28、第1推定相殺信号生成部30、推定騒音信号生成部32、参照信号生成部34、第2推定相殺信号生成部36、調整フィルタ係数更新部38、二次経路伝達フィルタ係数更新部40及び制御フィルタ係数更新部42を有している。
【0014】
能動騒音制御装置10は、図示しない演算処理装置及びストレージを有している。演算処理装置は、例えば、中央処理装置(CPU)、マイクロプロセッシングユニット(MPU)等のプロセッサ、及び、ROMやRAM等の非一時的又は一時的な有形のコンピュータ可読記録媒体からなるメモリを有している。ストレージは、例えば、ハードディスク、フラッシュメモリ等の非一時的な有形のコンピュータ可読記録媒体である。
【0015】
制御対象信号抽出部26、制御信号生成部28、第1推定相殺信号生成部30、推定騒音信号生成部32、参照信号生成部34、第2推定相殺信号生成部36、調整フィルタ係数更新部38、二次経路伝達フィルタ係数更新部40及び制御フィルタ係数更新部42は、ストレージに記憶されているプログラムにしたがって、演算処理装置で演算処理が行われることにより実現される。
【0016】
制御対象信号抽出部26は、制御対象周波数f0及び誤差信号eに基づいて制御対象信号xr、xiを生成する。制御対象信号抽出部26は、誤差信号eから制御対象周波数f0の信号成分を、実部と虚部を有する複素数の制御対象信号xr、xiとして抽出する。
【0017】
図3は、制御対象信号抽出部26のブロック図である。制御対象信号抽出部26は、余弦信号発生器26a、正弦信号発生器26b、抽出信号生成部26c、加算器26d及び抽出フィルタ係数更新部26eを有している。
【0018】
余弦信号発生器26aは、制御対象周波数f0の余弦信号である基準信号bc(=cos(2πf0t))を生成する。正弦信号発生器26bは、制御対象周波数f0の正弦信号である基準信号bs(=sin(2πf0t))を生成する。ここで、tは時刻を示す。
【0019】
抽出信号生成部26cでは、抽出フィルタAとしてSANフィルタが用いられている。抽出フィルタAは、後述する抽出フィルタ係数更新部26eにおいて係数(A0+iA1)が更新されることにより最適化される。
【0020】
抽出信号生成部26cは、基準信号bc、bsに基づいて制御対象信号xr、xiを生成する。抽出信号生成部26cは、第1抽出フィルタ26c1、第2抽出フィルタ26c2、第3抽出フィルタ26c3、第4抽出フィルタ26c4、加算器26c5及び加算器26c6を有している。
【0021】
第1抽出フィルタ26c1は、抽出フィルタAの係数の実部であるフィルタ係数A0を有している。第2抽出フィルタ26c2は、抽出フィルタAの係数の虚部であるフィルタ係数A1を有している。第3抽出フィルタ26c3は、抽出フィルタAの係数の実部であるフィルタ係数A0を有している。第4抽出フィルタ26c4は、抽出フィルタAの係数の虚部の極性を反転させたフィルタ係数-A1を有している。
【0022】
第1抽出フィルタ26c1においてフィルタ処理された基準信号bcと、第2抽出フィルタ26c2においてフィルタ処理された基準信号bsとが、加算器26c5において加算されて制御対象信号xrが生成される。第3抽出フィルタ26c3においてフィルタ処理された基準信号bsと、第4抽出フィルタ26c4においてフィルタ処理された基準信号bcとが、加算器26c6において加算されて制御対象信号xiが生成される。
【0023】
誤差信号eは、加算器26dに入力される。抽出信号生成部26cで生成された制御対象信号xrは、加算器26dに入力される。誤差信号eと制御対象信号xrとが加算器26dにおいて加算されて、仮想誤差信号e0が生成される。
【0024】
抽出フィルタ係数更新部26eは、基準信号bc、bs及び仮想誤差信号e0に基づいてフィルタ係数A0、A1を更新する。抽出フィルタ係数更新部26eは、適応アルゴリズム(例えば、Filtered-X LMSアルゴリズム(Least Mean Square))に基づいて、仮想誤差信号e0が最小となるようにフィルタ係数A0、A1の係数の更新を行う。抽出フィルタ係数更新部26eは、第1抽出フィルタ係数更新部26e1及び第2抽出フィルタ係数更新部26e2を有している。
【0025】
第1抽出フィルタ係数更新部26e1及び第2抽出フィルタ係数更新部26e2は、次の式に基づいてフィルタ係数A0、A1を更新する。式中のnは時間ステップ(n=0、1、2、…)を示し、μ0及びμ1はステップサイズパラメータを示す。
【数1】
【0026】
抽出フィルタ係数更新部26eにおいて、フィルタ係数A0、A1の更新が繰り返されることによって、抽出フィルタAが最適化される。抽出フィルタAの係数の更新式は四則演算で構成されており、畳み込み演算が含まれないため、フィルタ係数A0、A1の更新処理による演算負荷を抑制できる。
【0027】
図2に戻り、制御信号生成部28は、制御対象信号xr、xiに基づいて制御信号u0、u1を生成する。制御信号生成部28は、第1制御フィルタ28a、第2制御フィルタ28b、第3制御フィルタ28c、第4制御フィルタ28d、加算器28e及び加算器28fを有している。
【0028】
制御信号生成部28では、制御フィルタWとしてSANフィルタが用いられている。制御フィルタWは、制御対象信号xrに対するフィルタW0、制御対象信号xiに対するフィルタW1を有している。後述する制御フィルタ係数更新部42において、フィルタW0の係数W0、及び、フィルタW1の係数W1とが更新されることにより、制御フィルタWが最適化される。
【0029】
第1制御フィルタ28aは、フィルタ係数W0を有している。第2制御フィルタ28bは、フィルタ係数W1を有している。第3制御フィルタ28cは、フィルタ係数-W0を有している。第4制御フィルタ28dは、フィルタ係数W1を有している。
【0030】
第1制御フィルタ28aにおいて補正された制御対象信号xrと、第2制御フィルタ28bにおいて補正された制御対象信号xiとが、加算器28eにおいて加算されて制御信号u0が生成される。第3制御フィルタ28cにおいて補正された制御対象信号xiと、第4制御フィルタ28dにおいて補正された制御対象信号xrとが、加算器28fにおいて加算されて制御信号u1が生成される。
【0031】
制御信号u0は、デジタル-アナログ変換器17によりアナログ信号に変換されてスピーカ16に出力される。スピーカ16は制御信号u0に基づいて制御され、スピーカ16から相殺音が出力される。
【0032】
第1推定相殺信号生成部30は、制御信号u0、u1に基づいて推定相殺信号y1^を生成する。推定相殺信号y1^は、本発明の第1推定相殺信号に相当する。第1推定相殺信号生成部30は、第1二次経路伝達フィルタ30a、第2二次経路伝達フィルタ30b及び加算器30cを有している。
【0033】
第1推定相殺信号生成部30では、二次経路伝達フィルタC^としてSANフィルタが用いられている。後述する二次経路伝達フィルタ係数更新部40において、二次経路伝達フィルタC^の係数(C0^+iC1^)が更新されることにより二次経路の音の伝達特性C(以下、二次経路伝達特性C)が二次経路伝達フィルタC^として同定される。
【0034】
第1二次経路伝達フィルタ30aは、二次経路伝達フィルタC^の係数の実部であるフィルタ係数C0^を有している。第2二次経路伝達フィルタ30bは、二次経路伝達フィルタC^の係数の虚部であるフィルタ係数C1^を有している。第1二次経路伝達フィルタ30aにおいて補正された制御信号u0と、第2二次経路伝達フィルタ30bにおいて補正された制御信号u1とが、加算器30cにおいて加算されて推定相殺信号y1^が生成される。推定相殺信号y1^は、マイクロフォン22に入力される相殺音yに相当する信号の推定信号である。
【0035】
推定騒音信号生成部32は、制御対象信号xr、xiに基づいて推定騒音信号d^を生成する。推定騒音信号生成部32は、第1調整フィルタ32a、第2調整フィルタ32b及び加算器32cを有している。
【0036】
推定騒音信号生成部32では、調整フィルタPとしてSANフィルタが用いられている。後述する調整フィルタ係数更新部38において、調整フィルタPの係数(P0+iP1)が更新されることにより調整フィルタPが最適化される。
【0037】
第1調整フィルタ32aは、調整フィルタPの係数の実部であるフィルタ係数P0を有している。第2調整フィルタ32bは、調整フィルタPの係数の虚部の極性を反転させたフィルタ係数-P1を有している。第1調整フィルタ32aにおいて補正された制御対象信号xrと、第2調整フィルタ32bにおいて補正された制御対象信号xiとが、加算器32cにおいて加算されて推定騒音信号d^が生成される。推定騒音信号d^は、マイクロフォン22に入力される騒音dに相当する信号の推定信号である。
【0038】
参照信号生成部34は、制御対象信号xr、xiに基づいて参照信号r0、r1を生成する。参照信号生成部34は、第3二次経路伝達フィルタ34a、第4二次経路伝達フィルタ34b、第5二次経路伝達フィルタ34c、第6二次経路伝達フィルタ34d、加算器34e及び加算器34fを有している。
【0039】
参照信号生成部34では、二次経路伝達フィルタC^としてSANフィルタが用いられている。第3二次経路伝達フィルタ34aは、二次経路伝達フィルタC^の係数の実部であるフィルタ係数C0^を有している。第4二次経路伝達フィルタ34bは、二次経路伝達フィルタC^の係数の虚部を反転させたフィルタ係数-C1^を有している。第5二次経路伝達フィルタ34cは、二次経路伝達フィルタC^の係数の実部であるフィルタ係数C0^を有している。第6二次経路伝達フィルタ34dは、二次経路伝達フィルタC^の係数の虚部であるフィルタ係数C1^を有している。
【0040】
第3二次経路伝達フィルタ34aにおいて補正された制御対象信号xrと、第4二次経路伝達フィルタ34bにおいて補正された制御対象信号xiとが、加算器34eにおいて加算されて参照信号r0が生成される。第5二次経路伝達フィルタ34cにおいて補正された制御対象信号xiと、第6二次経路伝達フィルタ34dにおいて補正された制御対象信号xrとが、加算器34fにおいて加算されて参照信号r1が生成される。
【0041】
第2推定相殺信号生成部36は、参照信号r0、r1に基づいて推定相殺信号y2^を生成する。推定相殺信号y2^は、本発明の推定相殺信号に相当する。第2推定相殺信号生成部36は、第5制御フィルタ36a、第6制御フィルタ36b及び加算器36cを有している。
【0042】
第2推定相殺信号生成部36では、制御フィルタWとしてSANフィルタが用いられている。後述する制御フィルタ係数更新部42において、制御フィルタWの係数W0、W1が更新されることにより、制御フィルタWが最適化される。
【0043】
第5制御フィルタ36aは、フィルタ係数W0を有している。第6制御フィルタ36bは、フィルタ係数W1を有している。
【0044】
第5制御フィルタ36aにおいて補正された参照信号r0と、第6制御フィルタ36bにおいて補正された参照信号r1とが、加算器36cにおいて加算されて推定相殺信号y2^が生成される。推定相殺信号y2^は、マイクロフォン22に入力される相殺音yに相当する信号の推定信号である。
【0045】
アナログ-デジタル変換器44は、マイクロフォン22から出力された誤差信号eをアナログ信号からデジタル信号に変換する。
【0046】
誤差信号eは、加算器46に入力される。推定騒音信号生成部32で生成された推定騒音信号d^は、反転器48により極性が反転されて、加算器46に入力される。第1推定相殺信号生成部30で生成された推定相殺信号y1^は、反転器50により極性が反転されて、加算器46に入力される。加算器46において、仮想誤差信号e1が生成される。加算器46は本発明の第1仮想誤差信号生成部に相当し、仮想誤差信号e1は本発明の第1仮想誤差信号に相当する。
【0047】
推定騒音信号生成部32で生成された推定騒音信号d^は、加算器52に入力される。第2推定相殺信号生成部36で生成された推定相殺信号y2^は、加算器52に入力される。加算器52において、仮想誤差信号e2が生成される。加算器52は本発明の第2仮想誤差信号生成部に相当し、仮想誤差信号e2は本発明の第2仮想誤差信号に相当する。
【0048】
調整フィルタ係数更新部38は、制御対象信号xr、xi及び仮想誤差信号e1に基づいてフィルタ係数P0、P1を更新する。調整フィルタ係数更新部38は、適応アルゴリズム(例えば、Filtered-X LMSアルゴリズム)に基づいて、仮想誤差信号e1が最小となるようにフィルタ係数P0、P1の係数の更新を行う。調整フィルタ係数更新部38は、第1調整フィルタ係数更新部38a及び第2調整フィルタ係数更新部38bを有している。
【0049】
第1調整フィルタ係数更新部38a及び第2調整フィルタ係数更新部38bは、次の式に基づいてフィルタ係数P0、P1を更新する。式中のμ2及びμ3はステップサイズパラメータを示す。
【数2】
【0050】
調整フィルタ係数更新部38において、フィルタ係数P0、P1の更新が繰り返されることによって、調整フィルタPが最適化される。調整フィルタ係数更新部38では、調整フィルタPの係数の更新式は四則演算で構成されており、畳み込み演算が含まれないため、フィルタ係数P0、P1の更新処理による演算負荷を抑制できる。
【0051】
二次経路伝達フィルタ係数更新部40は、制御信号u0、u1及び仮想誤差信号e1に基づいてフィルタ係数C0^、C1^を更新する。二次経路伝達フィルタ係数更新部40は、適応アルゴリズム(例えば、Filtered-X LMSアルゴリズム)に基づいて、仮想誤差信号e1が最小となるようにフィルタ係数C0^、C1^の更新を行う。二次経路伝達フィルタ係数更新部40は、第1二次経路伝達フィルタ係数更新部40a及び第2二次経路伝達フィルタ係数更新部40bを有している。
【0052】
第1二次経路伝達フィルタ係数更新部40a及び第2二次経路伝達フィルタ係数更新部40bは、次の更新式に基づいてフィルタ係数C0^、C1^を更新する。式中のμ4及びμ5はステップサイズパラメータを示す。
【数3】
【0053】
第1二次経路伝達フィルタ係数更新部40a及び第2二次経路伝達フィルタ係数更新部40bは、更に、上記の更新式(3)で求めたフィルタ係数C0^、C1^を次の補正式により正規化処理を行う。
【0054】
【数4】
ここで、|C^|は、二次経路伝達フィルタC^の大きさであり、上記の更新式(3)で更新後のフィルタ係数C0^、C1^を用いて、次の式より求められる。
【数5】
【0055】
また、|C^|として、上記の更新式(3)で更新後のフィルタ係数C0^、C1^の絶対値のうち、大きい方を用いてもよい。
【数6】
【0056】
二次経路伝達フィルタ係数更新部40において、フィルタ係数C0^、C1^の更新が繰り返されることによって、二次経路伝達特性Cが二次経路伝達フィルタC^として同定される。二次経路伝達フィルタ係数更新部40では、フィルタ係数C0^、C1^の更新式は四則演算で構成されており、畳み込み演算が含まれないため、フィルタ係数C0^、C1^の更新処理による演算負荷を抑制できる。
【0057】
制御フィルタ係数更新部42は、参照信号r0、r1及び仮想誤差信号e2に基づいてフィルタ係数W0、W1を更新する。制御フィルタ係数更新部42は、適応アルゴリズム(例えば、Filtered-X LMSアルゴリズム)に基づいて、仮想誤差信号e2が最小となるようにフィルタ係数W0、W1の更新を行う。制御フィルタ係数更新部42は、第1制御フィルタ係数更新部42a及び第2制御フィルタ係数更新部42bを有している。
【0058】
第1制御フィルタ係数更新部42a及び第2制御フィルタ係数更新部42bは、次の式に基づいてフィルタ係数W0、W1を更新する。式中のμ6及びμ7はステップサイズパラメータを示す。
【数7】
【0059】
制御フィルタ係数更新部42において、フィルタ係数W0、W1の更新が繰り返されることによって、制御フィルタWが最適化される。制御フィルタ係数更新部42では、フィルタ係数W0、W1の更新式は四則演算で構成されており、畳み込み演算が含まれないため、フィルタ係数W0、W1の更新処理による演算負荷を抑制できる。
【0060】
[実験結果]
本発明者等は、能動騒音制御による車両12の走行時に車室14内で発生するドラミングノイズの消音性能に関する実験を行った。以下にその実験結果を示す。以下の各実験では、図4Aに太線で示すゲイン特性及び図4Bに太線で示す位相特性を有する二次経路伝達特性Cの下で行われる。ただし、事前に測定された二次経路伝達特性Cの測定値C^は、図4Aに細線で示すゲイン特性及び図4Bに細線で示す位相特性であるとする。すなわち、本発明者等は、二次経路伝達特性Cを測定したときには細線で示す特性であったが、その後、能動騒音制御時には太線で示す特性に変化した状態を想定して、以下の各実験が行われた。
【0061】
〈実験(1)〉
実験(1)では、能動騒音制御がオフの状態で、車両12を停止状態から加速させたときの車室14内のドラミングノイズの音圧レベルの測定が行われる。
【0062】
〈実験(2)〉
実験(2)では、特開2007-025527号公報にて開示されている手法により能動騒音制御が行われている状態で、車両12を停止状態から加速させたときの車室14内の騒音の音圧レベルの測定が行われる。本実験では、事前に測定された測定値C^において、ドラミングノイズの制御対象周波数46Hzの成分の音圧が1/2(音圧レベルで6dB低減)となるように設定されている。
【0063】
〈実験(3)〉
実験(3)では、本実施形態の能動騒音制御装置10により能動騒音制御が行われている状態で、車両12を停止状態から加速させたときの車室14内のドラミングノイズの音圧レベルの測定が行われる。実験(3)では、二次経路伝達フィルタC^の初期値を測定値C^とし、制御フィルタWの初期値を測定値C^の逆数(1/C^)とした。
【0064】
≪実験(1)~(3)の結果の対比≫
図5は、実験(1)~(3)で測定された車室14内のドラミングノイズの音圧レベルを示すグラフである。
【0065】
実験(1)では、46Hzを中心とした周波数成分を有するドラミングノイズが発生していることが分かる。実験(2)、(3)では、制御対象周波数を46Hzとして、能動騒音制御を行う。
【0066】
事前に測定された測定値C^は、実際の二次経路伝達特性Cに対して、46Hzにおいて160度の位相変化が生じている。実際の二次経路伝達特性Cに対する測定値C^の乖離が原因となり、実験(2)では46Hz付近において4dB程度、ドラミングノイズが増幅されている。
【0067】
実験(3)では、二次経路伝達フィルタC^が随時更新されるため、二次経路伝達フィルタC^は実際の二次経路伝達特性Cの変化に追従でき、46Hz付近では8dB程度、ドラミングノイズが消音されている。
【0068】
[作用効果]
乗員の耳元(制御点)において、スピーカ16から出力された相殺音を、ドラミングノイズとは逆位相の音となるように調整することにより、ドラミングノイズを消音することができる。このような調整が行われるためには、スピーカ16から制御点までの音の伝達特性C(二次経路伝達特性C)が精度高く推定される必要がある。従来では、あらかじめ測定された二次経路伝達特性Cの測定値C^を用いて能動騒音制御が行われていた。しかし、二次経路伝達特性Cが変化した場合には、測定値C^は変化後の二次経路伝達特性Cと乖離する。そのため、制御点において、スピーカ16から出力された相殺音を、ドラミングノイズと逆位相の音となるように調整することができず、騒音増幅や異常音発生のおそれがある。
【0069】
そこで、本実施形態の能動騒音制御装置10では、能動騒音制御中に、二次経路伝達フィルタ係数更新部40により二次経路伝達フィルタ係数C0^、C1^の更新が行われ、二次経路伝達特性Cが二次経路伝達フィルタC^として同定される。これにより、二次経路伝達特性Cが変化した場合であっても、二次経路伝達フィルタC^は二次経路伝達特性Cの変化に追従して変化することが可能となる。したがって、二次経路伝達特性Cが変化した場合でも、能動騒音制御装置10は消音性能を確保することができる。
【0070】
二次経路伝達フィルタC^は、スピーカ16からマイクロフォン22までの音の伝達特性Cの推定値に相当する。そのため、二次経路伝達フィルタC^の大きさは、制御対象周波数f0の設定によって変化する。
【0071】
二次経路伝達フィルタC^の大きさが小さい周波数帯に制御対象周波数f0が設定された場合には、制御フィルタWの更新に用いられる参照信号r0、r1の大きさが小さくなり、制御フィルタWの収束が遅くなる。さらに、二次経路伝達フィルタC^の更新には、制御フィルタWの出力である制御信号u0、u1が用いられるため、二次経路伝達フィルタC^自身の収束も遅くなる。
【0072】
一方、二次経路伝達フィルタC^の大きさが大きい周波数帯に制御対象周波数f0が設定された場合には、制御フィルタW及び二次経路伝達フィルタC^の収束は速くなるが、毎回の更新量が大きくなるため、能動騒音制御が不安定になりやすい傾向がある。
【0073】
そこで、本実施形態では、二次経路伝達フィルタ係数更新部40において、二次経路伝達フィルタ係数C0^、C1^を正規化する。これにより、二次経路伝達フィルタC^の大きさに関わらず、制御フィルタW及び二次経路伝達フィルタC^の収束速度を一定にすることができる。
【0074】
〔第2実施形態〕
本実施形態の能動騒音制御装置10は、制御フィルタ係数更新部42における制御フィルタWの処理が第1実施形態と一部異なる。他の構成及び処理等については、第2実施形態は第1実施形態と同様である。
【0075】
第1制御フィルタ係数更新部42a及び第2制御フィルタ係数更新部42bは、次の更新式に基づいてフィルタ係数W0、W1を更新する。式中のμ6及びμ7はステップサイズパラメータを示す。
【数8】
【0076】
第1制御フィルタ係数更新部42a及び第2制御フィルタ係数更新部42bは、更に、上記の更新式で求めたフィルタ係数W0、W1を次の補正式により振幅制限処理を行う。
【数9】
ここで、|W|は、制御フィルタ係数の大きさであり、次の式より求められる。
【数10】
【0077】
また、|W|として、フィルタ係数W0、W1の絶対値のうち、大きい方を用いてもよい。これにより、計算量を低減することができる。
【数11】
【0078】
Wlimは、適切な正数に設定される。具体的な消音量を設定して、能動騒音制御を行いたい場合には、以下のフィードバック制御の感度関数に基づいてWlimが設定されてもよい。式中のEは誤差信号eの周波数特性、Dは騒音dの周波数特性である。
【数12】
【0079】
|S|<1の場合、E<Dとなるため、消音できることが示される。例えば、騒音dを6dB消音したい場合には、次のようになる。
【数13】
【0080】
よって、事前に測定した測定値C^を用いて、Wlim=|1/C^|とすれば、消音量を6dB程度にすることができる。
【0081】
また、第1制御フィルタ係数更新部42a及び第2制御フィルタ係数更新部42bは、上記の更新式で求めたフィルタ係数W0、W1を次の補正式により振幅制限処理を行ってもよい。式中のηは減衰係数(0<η<1)を示す。
【数14】
【0082】
[実験結果]
本発明者等は、能動騒音制御による車両12の走行時に車室14内で発生するドラミングノイズの消音性能に関する実験を行った。以下にその実験結果を示す。以下の各実験では、図4Aに太線で示されるゲイン特性及び図4Bに太線で示される位相特性を有する二次経路伝達特性Cの下で行われる。ただし、事前に測定された二次経路伝達特性Cの測定値C^は、図4Aに細線で示すゲイン特性及び図4Bに細線で示す位相特性であるとする。
【0083】
〈実験(4)〉
実験(4)では、本実施形態の能動騒音制御装置10により能動騒音制御が行われている状態で、車両12を停止状態から加速させたときの車室14内の騒音の音圧レベルの測定が行われる。実験(4)では、二次経路伝達フィルタC^の初期値を測定値C^とし、制御フィルタWの初期値を測定値C^の逆数(1/C^)とした。また、ドラミングノイズの消音量が6dBとなるように、Wlim=|1/C^|に設定されている。
【0084】
≪実験(1)、(3)、(4)の結果の対比≫
図6は、実験(1)、(3)、(4)で測定された車室14内の騒音の音圧レベルを示すグラフである。
【0085】
実験(1)では、46Hzを中心とした周波数成分を有するドラミングノイズが発生していることが分かる。実験(3)、(4)では、制御対象周波数を46Hzとして、能動騒音制御を行う。
【0086】
実験(3)では、二次経路伝達フィルタC^が随時更新されるため、二次経路伝達フィルタCは実際の二次経路伝達特性Cの変化に追従でき、46Hz付近では8dB程度、ドラミングノイズが消音されている。しかし、46Hzから離れた帯域の25~40Hz、
57~62Hzにおいて、ウォータベッド効果と呼ばれる騒音増幅が発生している。特に、35Hz及び58Hz付近のピークが目立つ。これは、フィードバック制御では、制御対象周波数f0を中心とする狭帯域のみに対して消音できるように回路特性を合わせようとするが、制御対象周波数f0から離れた帯域では、回路特性と理想特性との間の誤差が生じるためである。
【0087】
実験(4)では、制御対象周波数f0である46Hz付近の消音量を6dB程度にすることで、35Hz及び58Hz付近のウォータベッド効果による騒音増幅が緩和されている。図6に示されるように、能動騒音制御後のドラミングノイズは、目立つようなピークが存在せず、全域の周波数にわたってフラットな特性を有している。
【0088】
[作用効果]
本実施形態の能動騒音制御装置10では、制御フィルタ係数更新部42は、更新式により更新後の制御フィルタWの係数W0、W1の大きさが所定値Wlimよりも大きい場合には、フィルタ係数W0、W1の大きさを所定値Wlimに補正する。これにより、制御対象周波数f0から外れた周波数帯における騒音増大を抑制することができる。
【0089】
〔第3実施形態〕
第1実施形態及び第2実施形態の能動騒音制御装置10は、1つの制御対象周波数f0の周波数成分のドラミングノイズを消音する。第3実施形態の能動騒音制御装置10では、n個の制御対象周波数f0~fn-1の周波数成分のドラミングノイズを消音する。
【0090】
図7は能動騒音制御装置10のブロック図である。図7では、図2に示される制御信号生成部28、第1推定相殺信号生成部30、推定騒音信号生成部32、参照信号生成部34及び第2推定相殺信号生成部36がまとめられて信号生成部60として示されている。また、図7では、図2に示される調整フィルタ係数更新部38、二次経路伝達フィルタ係数更新部40及び制御フィルタ係数更新部42がまとめられてフィルタ係数更新部62として示されている。
【0091】
信号生成部60の制御信号生成部28、第1推定相殺信号生成部30、推定騒音信号生成部32、参照信号生成部34及び第2推定相殺信号生成部36で行われる処理は、第1実施形態又は第2実施形態と同様である。フィルタ係数更新部62の調整フィルタ係数更新部38、二次経路伝達フィルタ係数更新部40及び制御フィルタ係数更新部42で行われる処理は、第1実施形態又は第2実施形態と同様である。
【0092】
本実施形態の能動騒音制御装置10は、制御対象周波数f0~fn-1のそれぞれに応じて、制御対象信号抽出部26、信号生成部60及びフィルタ係数更新部62が設けられている。各信号生成部60で生成された制御信号u0が加算器64で加算されて、制御信号uとしてスピーカ16に出力される。
【0093】
[作用効果]
本実施形態の能動騒音制御装置10では、制御対象周波数f0~fn-1のそれぞれに応じて、制御対象信号抽出部26、信号生成部60及びフィルタ係数更新部62が設けられている。これにより、複数の制御対象周波数f0~fn-1のドラミングノイズを消音できる。
【0094】
[変形例1]
第1実施形態~第3実施形態の能動騒音制御装置10は、車両12の車室14内に設けられたスピーカ16から相殺音を出力させて騒音を消音する。これに対して、エンジン18を支持するエンジンマウントに設けられたアクチュエータ70により、エンジン18の振動を相殺する相殺振動を出力するようにしてもよい。
【0095】
図8は、能動騒音制御装置10において実行される能動騒音制御の概要を説明する図である。
【0096】
能動騒音制御装置10は、車室14内のシート20のヘッドレスト20aに設けられたマイクロフォン22から出力される誤差信号eに基づいて、アクチュエータ70に相殺振動を出力させるための制御信号u0を生成する。この場合、二次経路はアクチュエータ70からマイクロフォン22までの伝達経路を示す。
【0097】
[変形例2]
能動騒音制御装置10に、能動騒音制御の初期収束を向上させるために、制御フィルタW及び二次経路伝達フィルタC^の適切な初期値を保持し、設定する手段が設けられてもよい。
【0098】
能動騒音制御装置10のメモリのROMに制御フィルタWの係数W0、W1の初期値及び二次経路伝達フィルタC^の係数C0^、C1^の初期値を保持するための領域が設けられる。能動騒音制御開始時にはROMから、制御フィルタWの係数W0、W1及び二次経路伝達フィルタC^の係数C0^、C1^に初期値が読み込まれ、適応更新が開される。
【0099】
二次経路伝達フィルタC^の初期値は、制御対象周波数f0において、事前に測定された測定値C^が設定されてもよい。制御フィルタWの初期値は、測定された測定値C^の逆数(1/C^)が設定されてもよい。
【0100】
能動騒音制御終了時に、制御が終了した原因とシステムパラメータの設定に応じて、メモリのROMに保持されている制御フィルタWの係数W0、W1の初期値及び二次経路伝達フィルタC^の係数C0^、C1^の初期値を書き換えてもよい。初期値の書き換えは、能動騒音制御が正常に終了した場合であって、且つ、システムパラメータとして「書き換え可」と設定されている場合のみ実施される。能動騒音制御が発散により終了した場合、又は、システムパラメータとして「書き換え不可」と設定されている場合には、初期値の書き換えは実施されない。
【0101】
〔実施形態から得られる技術的思想〕
上記実施形態から把握しうる技術的思想について、以下に記載する。
【0102】
制御点における音圧又は振動を検出した誤差検出器(22)から出力される誤差信号号、及び、制御対象周波数に基づいて、制御アクチュエータ(16、70)を制御する能動騒音制御を行う能動騒音制御装置(10)であって、前記誤差信号から制御対象周波数の信号成分を、実部及び虚部を有する複素数の制御対象信号として抽出する制御対象信号抽出部(26)と、前記制御対象信号を適応ノッチフィルタである制御フィルタにより信号処理して、前記制御アクチュエータを制御する制御信号を生成する制御信号生成部(28)と、前記制御対象信号を適応ノッチフィルタである調整フィルタにより信号処理して、推定騒音信号を生成する推定騒音信号生成部(32)と、前記制御信号を適応ノッチフィルタである二次経路伝達フィルタにより信号処理して、第1推定相殺信号を生成する第1推定相殺信号生成部(30)と、前記制御対象信号を前記二次経路伝達フィルタにより信号処理して、参照信号を生成する参照信号生成部(34)と、前記参照信号を前記制御フィルタにより信号処理して、第2推定相殺信号を生成する第2推定相殺信号生成部(36)と、前記誤差信号、前記第1推定相殺信号及び前記推定騒音信号から第1仮想誤差信号を生成する第1仮想誤差信号生成部(46)と、前記第2推定相殺信号及び前記推定騒音信号から第2仮想誤差信号を生成する第2仮想誤差信号生成部(52)と、前記制御対象信号及び前記第1仮想誤差信号に基づいて、前記第1仮想誤差信号の大きさが最小となるように前記調整フィルタの係数を遂次適応更新する調整フィルタ係数更新部(38)と、前記制御信号及び前記第1仮想誤差信号に基づいて、前記第1仮想誤差信号の大きさが最小となるように前記二次経路伝達フィルタの係数を遂次適応更新する二次経路伝達フィルタ係数更新部(40)と、前記参照信号及び前記第2仮想誤差信号に基づいて、前記第2仮想誤差信号の大きさが最小となるように前記制御フィルタの係数を遂次適応更新する制御フィルタ係数更新部(42)と、を有する。
【0103】
上記の能動騒音制御装置であって、前記制御フィルタ係数更新部は、更新後の前記制御フィルタの係数の大きさが所定値よりも大きい場合には、前記制御フィルタの係数の大きさを所定値に補正してもよい。
【0104】
上記の能動騒音制御装置であって、複数の前記制御対象周波数のそれぞれに対して、前記制御対象信号抽出部、前記制御信号生成部及び前記制御フィルタ係数更新部を有してもよい。
【符号の説明】
【0105】
10…能動騒音制御装置 16…スピーカ(制御アクチュエータ)
22…マイクロフォン(誤差検出器) 26…制御対象信号抽出部
28…制御信号生成部 30…第1推定相殺信号生成部
32…推定騒音信号生成部 34…参照信号生成部
36…第2推定相殺信号生成部 38…調整フィルタ係数更新部
40…二次経路伝達フィルタ係数更新部 42…制御フィルタ係数更新部
46…加算器(第1仮想誤差信号生成部) 52…加算器(第2仮想誤差信号生成部)
70…アクチュエータ(制御アクチュエータ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8