(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】ダンパ機能付き伝動装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/134 20060101AFI20221214BHJP
F16F 15/22 20060101ALI20221214BHJP
F16H 45/02 20060101ALN20221214BHJP
【FI】
F16F15/134 B
F16F15/134 A
F16F15/22 A
F16H45/02 Y
(21)【出願番号】P 2021018259
(22)【出願日】2021-02-08
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000138521
【氏名又は名称】株式会社ユタカ技研
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】薄井 友彦
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-155831(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129885(WO,A1)
【文献】特開2015-190522(JP,A)
【文献】特開2015-098933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/134
F16F 15/22
F16H 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力回転体(60)から出力回転体(80)へ機械的に伝動可能な動力伝達経路(46)に、前記入力回転体(60)及び前記出力回転体(80)間に配置される中間回転体(70)と、その中間回転体(70)及び前記入力回転体(60)間を接続する一次ダンパばね(S1)と、前記中間回転体(70)及び前記出力回転体(80)間を接続する二次ダンパばね(S2)とを備え、前記中間回転体(70)には、ダイナミックダンパばね(S3)を介して慣性回転体(40)が接続されるダンパ機能付き伝動装置において、
前記ダイナミックダンパばね(S3)
が、前記動力伝達経路(46)の非伝動状態で
該ダイナミックダンパばね(S3)に対しプリセット荷重が付与され
るように、前記中間回転体(70)及び前記慣性回転体(41)のうちの何れか一方に支持され
、またその何れか他方と前記ダイナミックダンパばね(S3)との間には、前記非伝動状態で回転方向に隙間(C)が設定され、前記隙間をC[rad ]とし、前記ダイナミックダンパばねの前記プリセット荷重によるトルクをT
p
[Nm]とし、また前記ダイナミックダンパばねのばね剛性をk[Nm/rad]とした場合に、C<T
p
/k が成立するよう前記隙間が設定され、
前記一次ダンパばね(S1)のばね定数(k1)が、前記二次ダンパばね(S2)のばね定数(k2)よりも大きいことを特徴とするダンパ機能付き伝動装置。
【請求項2】
前記一次ダンパばね(S1)のばね定数をk1とし、前記二次ダンパばね(S2)のばね定数をk2としたときに、k1/k2で定義されるばね剛性比が1よりも大きく且つ5以下となっていることを特徴とする、請求項1に記載のダンパ機能付き伝動装置。
【請求項3】
前記一次ダンパばね(S1)及び前記二次ダンパばね(S2)は、前記中間回転体(70)と同心の同一仮想円上に配列されることを特徴とする、請求項1
又は2に記載のダンパ機能付き伝動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動装置、特に入力回転体から出力回転体へ機械的に伝動可能な動力伝達経路に、入力回転体及び出力回転体間に配置される中間回転体と、その中間回転体及び入力回転体間を接続する一次ダンパばねと、中間回転体及び出力回転体間を接続する二次ダンパばねとを備え、中間回転体にはダイナミックダンパばねを介して慣性回転体が接続されるダンパ機能付き伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記ダンパ機能付き伝動装置を、例えばトルクコンバータのロックアップクラッチと出力軸との間の動力伝達に用いるものは、下記特許文献1にも示されるように従来公知であるが、斯かるダンパ機能付き伝動装置に付設される一般的なダイナミックダンパは、狭く限られた入力回転域でしか減衰効果を発揮し得なかった。
【0003】
そこで、ダイナミックダンパばねに対してプリセット荷重を付与することで、ダイナミックダンパの減衰領域を拡張させる技術が既に提案されている(例えば下記特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-115112号公報
【文献】特開2017-155831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが特許文献2のダンパ機能付き伝動装置において、一次ダンパばねが二次ダンパばねよりも低剛性である場合には、例えば加速時に入力回転体に作用するエンジンのトルク変動が、低剛性の一次ダンパばねで少なからず減衰されて中間回転体に伝わることで、ダイナミックダンパの振れ角が小さくなるから、ダイナミックダンパばねへのプリセット荷重付与によるダイナミックダンパの減衰領域の拡大効果が不十分となる不都合が生じる虞れがある。尚、特許文献2の伝動装置では、一次ダンパばねが中間回転体の外周部に配置されており、これが伝動装置の径方向大型化の要因となっている。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、従来装置の上記不都合を簡単な構造で解決可能なダンパ機能付き伝動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、入力回転体から出力回転体へ機械的に伝動可能な動力伝達経路に、前記入力回転体及び前記出力回転体間に配置される中間回転体と、その中間回転体及び前記入力回転体間を接続する一次ダンパばねと、前記中間回転体及び前記出力回転体間を接続する二次ダンパばねとを備え、前記中間回転体には、ダイナミックダンパばねを介して慣性回転体が接続されるダンパ機能付き伝動装置において、前記ダイナミックダンパばねが、前記動力伝達経路の非伝動状態で該ダイナミックダンパばねに対しプリセット荷重が付与されるように前記中間回転体及び前記慣性回転体のうちの何れか一方に支持され、またその何れか他方と前記ダイナミックダンパばねとの間には、前記非伝動状態で回転方向に隙間が設定され、前記隙間をC[rad ]とし、前記ダイナミックダンパばねの前記プリセット荷重によるトルクをT
p
[Nm]とし、また前記ダイナミックダンパばねのばね剛性をk[Nm/rad]とした場合に、C<T
p
/k が成立するように前記隙間が設定され、前記一次ダンパばねのばね定数が、前記二次ダンパばねのばね定数よりも大きいことを第1の特徴とする。
【0008】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記一次ダンパばねのばね定数をk1とし、前記二次ダンパばねのばね定数をk2としたときに、k1/k2で定義されるばね剛性比が1よりも大きく且つ5以下となっていることを第2の特徴とする。
【0010】
また本発明は、第1又は第2の特徴に加えて、前記一次ダンパばね及び前記二次ダンパばねは、前記中間回転体と同心の同一仮想円上に配列されることを第3の特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の特徴によれば、入力回転体及び出力回転体間の動力伝達経路に、中間回転体と、中間回転体及び入力回転体間を接続する一次ダンパばねと、中間回転体及び出力回転体間を接続する二次ダンパばねとを備え、中間回転体にダイナミックダンパばねを介して慣性回転体が接続され、非伝動状態でダイナミックダンパばねに対しプリセット荷重が付与されるように、ダイナミックダンパばねが中間回転体及び慣性回転体のうちの何れか一方に支持されるダンパ機能付き伝動装置において、中間回転体及び慣性回転体のうちの何れか他方とダイナミックダンパばねとの間に、非伝動状態で回転方向に隙間、即ちバックラッシュが設定され、前記隙間をC[rad ]とし、ダイナミックダンパばねのプリセット荷重によるトルクをT
p
[Nm]とし、またダイナミックダンパばねのばね剛性をk[Nm/rad]とした場合に、C<T
p
/k が成立するように前記隙間が設定されるので、これにより、プリセット荷重の付与に加え、上記隙間を追加しただけの簡単な構造で、ダイナミックダンパの減衰領域を拡張させ得るばかりか、その拡張した減衰領域の減衰ピークが入力トルクの大小で大きくずれ動いてばらつくのを抑制可能となる。しかも、一次ダンパばねのばね定数を、二次ダンパばねのばね定数よりも大きくしているので、ダイナミックダンパの振れ角を十分に確保可能となり、これにより、ダイナミックダンパばねに対するプリセット荷重付与によるダイナミックダンパの減衰性能の向上に寄与することができる。それらの結果、減衰領域の拡張機能と、減衰ピークのずれ抑制機能とを両立させた高性能なダイナミックダンパが得られ、これに入力トルクの大小に関係なく高い減衰効果を発揮させることができる。
【0012】
また第2の特徴によれば、一次ダンパばねのばね定数をk1とし、二次ダンパばねのばね定数をk2としたときに、k1/k2で定義されるばね剛性比が1よりも大きく且つ5以下とされるので、ばね剛性比が小さ過ぎて(従ってダイナミックダンパの振れ角が小さくなって)ダイナミックダンパの減衰性能の向上効果が十分でなくなる事態や、ばね剛性比が大き過ぎてダイナミックダンパばねの強度を十分には確保し得なくなる事態の発生が回避可能となる。これにより、ダイナミックダンパの減衰性能を向上させつつ、ダイナミックダンパばねの破損防止、延いては耐久性向上に寄与することができる。
【0014】
また第3の特徴によれば、一次ダンパばね及び二次ダンパばねは、中間回転体と同心の同一仮想円上に配列されるので、一次ダンパばねを二次ダンパばねと同様の径方向位置に配して、伝動装置の径方向大型化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るダンパ機能付き伝動装置を内蔵したトルクコンバータの縦断面図(
図2の1-1線に沿う拡大断面図)
【
図2】
図1の2-2線矢視方向で見た、トルクコンバータの全体断面図
【
図3】トルクコンバータの要部、特に一次・二次ダンパばね及びダイナミックダンパばねの支持部を示す拡大断面図(
図2の3A矢視部に対応する断面図)であって、そのうち(A)は第1実施形態を示し、また(B)は第2実施形態を示す
【
図4】ダイナミックダンパの減衰特性の一例を示すグラフであって、(a)は、ダイナミックダンパばねにプリセット荷重が付与されない場合を示し、(b)はプリセット荷重が付与され且つバックラッシュの無い場合(第1実施形態)を示す
【
図5】ダイナミックダンパの振れ角とエンジン回転数との関係の一例を示すグラフ
【
図6】(a-1)(a-2)は、ダイナミックダンパばねにプリセット荷重が付与され且つバックラッシュの無い場合(第1実施形態)を示すものであって、(a-1)はダイナミックダンパのばね特性を示し、(a-2)は、特にトルク振幅の大小に応じて変化する減衰特性を示す。また(b-1)(b-2)は、ダイナミックダンパばねにプリセット荷重が付与され且つバックラッシュが有る場合(第2実施形態)を示すものであって、(a-1)(a-2)にそれぞれ対応する
【
図7】バックラッシュCと、Tp /kとの大小関係によりダイナミックダンパばねの見做しばね定数がどのように変化するかの一例を示すばね特性図
【
図8】(a-1)~(a-4)は、ダイナミックダンパばねにプリセット荷重が付与されるがバックラッシュの無い場合(第1実施形態)を示すものであって、(a-1)はダイナミックダンパのばね特性を示し、(a-2)はダイナミックダンパの振れ角と見做しばね定数との関係を示す。また(a-3)は、ダイナミックダンパの振れ角と減衰ピーク回転数との関係を示す共振特性図であり、更に(a-4)は、ダイナミックダンパによる減衰率とエンジン回転数との関係を示す減衰特性図である。また(b-1)~(b-4)は、ダイナミックダンパばねにプリセット荷重が付与され且つバックラッシュが有る場合(第2実施形態)を示すものであって、(a-1)~(a-4)にそれぞれ対応する
【
図9】ダイナミックダンパの振れ角の大小とダイナミックダンパによる減衰向上範囲との関係を明らかにするために、
図8の(b-1)~(b-3)と同様の手法で作図したグラフであって、特に
図9(b-1)~(b-3)は振れ角が大きい場合を、また(b-1′)~(b-3′)は振れ角が小さい場合を示す
【
図10】一次・二次ダンパばねの剛性比とダイナミックダンパの振れ角との関係を振動シミュレーションにより求めた結果の一例を示すグラフ
【
図11】ダイナミックダンパの最大振れ角と一次・二次ダンパばねの剛性比との関係を振動シミュレーションにより求めた結果の一例を示すグラフ
【
図12】一次・二次ダンパばねの剛性比とダイナミックダンパの共振特性延いては減衰向上範囲との関係を振動シミュレーションにより求めた結果の一例を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に基づき説明する。
【0017】
先ず、第1実施形態を、
図1,
図2及び
図3(A)を参照しながら説明する。
図1において、ロックアップ機構付きトルクコンバータTCは、ポンプインペラ11と、このポンプインペラ11に対向して配置されるタービンランナ12と、ポンプインペラ11およびタービンランナ12の内周部間に配置されるステータ13とを備え、ポンプインペラ11、タービンランナ12およびステータ13間には、矢印14で示すように作動オイルを循環させる循環回路15が形成される。
【0018】
トルクコンバータTCは、後述するように、ロックアップクラッチLの断・接切換えに基づいて流体伝動と機械伝動を切換可能に構成されており、特に機械伝動を本発明に係るダンパ機能付き伝動装置Tが担う構造となっている。本明細書では、先ず、流体伝動のための構造例について説明する。
【0019】
前記ポンプインペラ11は、椀状のポンプシェル16と、ポンプシェル16の内面に設けられる複数のポンプブレード17と、それらのポンプブレード17を連結するポンプコアリング18と、ポンプシェル16の内周部に例えば溶接によって固定されるポンプハブ19とを有する。そのポンプハブ19には、トルクコンバータTCに作動オイルを供給するオイルポンプ(図示せず)が連動、連結される。
【0020】
またポンプシェル16の外周部には、タービンランナ12を外側から覆う椀状の伝動カバー20が溶接によって結合されており、この伝動カバー20の外周部にボス21が固着され、ボス21には駆動板22が締結される。また駆動板22には、車両用エンジンEのクランクシャフト23が同軸に締結されており、従って、ポンプインペラ11には、車両用エンジンEから回転動力が入力される。
【0021】
前記タービンランナ12は、椀状のタービンシェル24と、タービンシェル24の内面に設けられる複数のタービンブレード25と、それらのタービンブレード25を連結するタービンコアリング26とを有する。タービンシェル24の内周部は、後述するリング板状の出力回転体80を介して出力ハブ29に結合される。
【0022】
車両用エンジンEからの回転動力を図示しないミッションに伝達する出力軸27は、これの中心部を縦通する油路100を有しており、この油路100には、後述するロックアップクラッチLの作動油圧を油路100に対し給排制御可能な不図示の油圧制御回路が接続される。また出力軸27の先端部は、前記伝動カバー20の中心部に連設した有底円筒状の支持筒部20a内に環状空隙49を挟んで受容され、その環状空隙49は上記油路100に常時連通している。
【0023】
出力軸27の外周には、ポンプハブ19から離間し且つ出力回転体80の内周部に溶接した出力ハブ29がスプライン嵌合されると共に、出力ハブ29の側面にニードルスラストベアリング30を介して隣接する円環状のカバーハブ44が、軸受ブッシュ47を介して回転自在に嵌合、支持される。尚、軸受ブッシュ47は、カバーハブ44の内周に固定(例えば圧入)される。
【0024】
カバーハブ44は、放射状に延びる複数の油溝44aを外側面に有しており、その外側面の外周端が伝動カバー20の内周部内面に溶接される。したがって、出力軸27の先端部は、軸受ブッシュ47及びカバーハブ44を介して伝動カバー20に回転自在に支持される。
【0025】
前記ステータ13は、ポンプハブ19および出力ハブ29間に配置されるステータハブ31と、このステータハブ31の外周に設けられる複数のステータブレード32と、それらのステータブレード32の外周を連結するステータコアリング33とを有する。ポンプハブ19とステータハブ31との間にはスラストベアリング34が介装され、また出力ハブ29(直接的にはタービンシェル24)とステータハブ31との間にはスラストベアリング35が介装される。
【0026】
ステータハブ31と、出力ハブ29とともに回転する出力軸27を相対回転自在に囲繞するステータシャフト36との間には、一方向クラッチ37が介設され、ステータシャフト36は、ミッションケース(図示せず)に回転不能に支持される。伝動カバー20およびタービンシェル24間には、前記した循環回路15に連通するクラッチ室38が形成される。そのクラッチ室38には、伝動カバー20の回転動力を入力側に受けるロックアップクラッチLと、このロックアップクラッチLの出力側と出力軸27間を機械的に伝動可能な動力伝達経路46を有するダンパ機能付き伝動装置Tとが配設される。
【0027】
ロックアップクラッチLは、前記したカバーハブ44に軸方向摺動可能且つ油密に嵌合、支持されて伝動カバー20の内面に近接、対向するクラッチピストン43と、伝動カバー20の内面に固着(溶接)したクラッチアウタLoと、クラッチアウタLoに同心状に囲繞され且つ後述する入力回転体60に固定されるクラッチインナLiと、クラッチアウタLo及びクラッチインナLi間に介設される摩擦連結機構Lmとを備える。クラッチアウタLoの内周面には、クラッチピストン43の外周部が軸方向摺動可能且つ油密に嵌合される。
【0028】
摩擦連結機構Lmは、従来周知の多板式摩擦クラッチ機構と同様、クラッチアウタLoに相対回転不能に且つ所定の制限された範囲で軸方向摺動可能に支持される複数の摩擦板及び受圧板と、クラッチインナLiに相対回転不能に且つ軸方向摺動可能に支持される複数の摩擦板とを有する。そして、クラッチピストン43をクラッチオン側、即ち摩擦連結機構Lm側に移動(
図1で右動)させることで、上記摩擦板相互が圧接されてロックアップクラッチLが接続状態となり、またクラッチピストン43を上記と反対側、即ちクラッチオフ側に移動(
図1で左動)させることで摩擦板相互の圧接力が解放されて、ロックアップクラッチLが非接続状態となる。
【0029】
尚、ロックアップクラッチLは、実施形態のような多板式摩擦クラッチに限定されず、種々の摩擦クラッチ、例えば単板式摩擦クラッチも実施可能である。
【0030】
ところで前記クラッチ室38内は、クラッチピストン43によって、タービンランナ12側に在って循環油路15に連通する内側室38aと、伝動カバー20側に在って循環油路15には連通しない外側室38bとに区画される。その内側室38aには、前記した摩擦連結機構Lm及びダンパ機能付き伝動装置Tが収容される。
【0031】
一方、外側室38bは、クラッチピストン43の受圧室として機能し、そこに不図示の油圧制御装置から前記油路100、環状空隙49及び油溝44aを経てクラッチ作動油が導入されると、その作動油でクラッチピストン43を前記クラッチオン側に駆動、保持可能であり、また、クラッチ作動油が外側室38b(クラッチ受圧室)より排出されると、クラッチピストン43は、内側室38aの油圧に押されて前記クラッチオフ側に後退可能となる。
【0032】
また出力軸27及びステータシャフト36間には入口油路101が画成され、この入口油路101は、ステータシャフト36の横孔から、ステータシャフト36と一方向クラッチ37のインナ部とのスプライン嵌合部(特にスプラインの欠歯部分)を経て、前記した循環油路15及び内側室38aの各内周部に通じる。一方、ポンプハブ19およびステータシャフト36間には、循環回路15の内周部に通じる出口油路102が画成される。それら入口油路101及び出口油路102は、不図示の油循環装置に接続されており、これにより、トルクコンバータTCの作動中は、入口油路101から内側室38a及び循環回路15を経て出口油路102に戻る油の流動が継続され、内側室38a及び循環回路15内は常に油で満たされる。
【0033】
例えば、車両用エンジンEのアイドリング時や極低速運転域では、外側室38b(クラッチ受圧室)にはクラッチ作動油が供給されず、クラッチピストン43は前記クラッチオフ側にある。従って、摩擦連結機構Lmの摩擦板相互が相対回転可能な非圧接状態にあり、ロックアップクラッチLは非接続状態となっている。この状態では、ポンプインペラ11およびタービンランナ12の相対回転は許容されており、車両用エンジンEによってポンプインペラ11が回転駆動されることで、循環回路15内の作動油が、矢印14で示すように、ポンプインペラ11、タービンランナ12、ステータ13の順に循環回路15内を循環し、ポンプインペラ11の回転トルクがタービンランナ12、出力回転体80及び出力ハブ29を介して出力軸27に伝達される。
【0034】
一方、ポンプインペラ11およびタービンランナ12間でトルクの増幅作用が生じている状態では、それに伴う反力がステータ13で負担され、ステータ13は、一方向クラッチ37のロック作用によって固定される。またトルク増幅作用を終えたときに、ステータ13は、ステータ13が受けるトルク方向の反転によって一方向クラッチ37を空転させながらポンプインペラ11およびタービンランナ12とともに同一方向に回転する。
【0035】
このようにしてトルクコンバータTCがカップリング状態となったとき、もしくはカップリング状態に近づいたときには、その状態を検出したセンサの出力に基づいて作動する不図示の油圧制御回路から、クラッチ作動油が出力軸27内の油路100等を経て外側室38b(クラッチ受圧室)に導入される。これにより、クラッチピストン43が伝動カバー20から離れる側(即ち前記クラッチオン側)に押圧されて、摩擦連結機構Lmを摩擦結合状態に切換え、ロックアップクラッチLが接続状態となる。
【0036】
ロックアップクラッチLが接続状態となったときに、車両用エンジンEから伝動カバー20に伝わる回転動力は、ロックアップクラッチLから内側室38a内のダンパ機能付き伝動装置Tを経て出力軸27に機械的に伝達される。その伝動装置Tは、これの動力伝達経路46において、クラッチインナLiに固定される入力回転体60と、その入力回転体60に一次ダンパばねS1を介して接続される中間回転体70と、中間回転体70に二次ダンパばねS2を介して接続される出力回転体80とを備える。
【0037】
而して、入力回転体60、中間回転体70及び出力回転体80は、出力軸27に対し同心状に配置され且つ互いに相対回転可能に構成される。また第1,第2ダンパばねS1,S2は、出力軸27の軸線を中心とした(従って中間回転体70と同心の)同一仮想円上に交互に配列される。
【0038】
入力回転体60は、リング板状に形成される中間回転体70を回転摺動可能に挟む第1,第2支持板61,62をクラッチインナLiと共に固定(より具体的には複数のリベット63でカシメ結合)されて構成される。各リベット63には、両支持板61,62間のスペーサとして機能する円筒のカラー64が嵌合、固定され、そのカラー64は、これが入力回転体60と一体的に回転する際に、中間回転体70の円弧状内周面に沿って移動可能である。
【0039】
第1支持板61の内周端部は、径方向内方側に長く延びていて、出力ハブ29の外周に同心状に嵌合、支持される。更に第1,第2支持板61,62の径方向中間部は、円周方向に延びる円弧状の開口61o,62oを有しており、その開口61o,62oの径方向内,外周縁部がそれぞれ軸方向外側に切り起こされて、第1,第2ダンパばねS1,S2を両側より抱持するばねホルダ部61h,62hを構成する。上記開口61o,62oの周方向両内端縁部は、第1,第2ダンパばねS1,S2の対応する一端部を支持するばね受け60sとして機能する。
【0040】
中間回転体70の内周部には、周方向に間隔をおいて複数の第1ばね受け突起71が径方向内向きに一体に突設され、各々の第1ばね受け突起71の、周方向で両側端面が、一次ダンパばねS1及び二次ダンパばねS2の対応する他端部を支持するばね受け70sとなる。第1ばね受け突起71の根元部分には、一部の前記カラー64と係合可能なストッパ凹部71aが設けられ、そのストッパ凹部71aにカラー64を係合させることで、入力回転体60に対する中間回転体70の相対回転角を所定の制限された範囲内に規制可能である。而して、ストッパ凹部71a及びカラー64は、互いに協働して入力回転体60に対する中間回転体70の相対回転角を規定値以下に規制する第1ストッパ手段を構成し、この第1ストッパ手段によれば、加速時には一次ダンパばねS1の過度の変形が抑制され、また減速時には二次ダンパばねS2の過度の変形が抑制される。
【0041】
出力回転体80の内周部には出力ハブ29が嵌合、固定(例えば溶接)され、またタービンシェル24の内周端寄り中間部が出力回転体80に複数のリベット53で固定される。また出力回転体80の外周部には、周方向に間隔をおいて複数の第2ばね受け突起82が径方向外向きに一体に突設されており、各々の第2ばね受け突起82の、周方向で両側端面が、一次ダンパばねS1及び二次ダンパばねS2の前記一端部を支持するばね受け80sとなる。一部の前記カラー64は、第2ばね受け突起82の外周部に径方向で相互に近接又は当接するように配置され、これにより、中間回転体70を出力回転体80に対し相対回転可能に且つ同心状に保持する。
【0042】
更に出力回転体80の外周部には、周方向で隣り合う第2ばね受け突起82の中間位置で、中間回転体70の第1ばね受け突起71と係合可能な係合凹部83が形成される。その第1ばね受け突起71と係合凹部83との係合により、出力回転体80に対する中間回転体70の相対回転角を所定の制限された範囲内に規制可能である。而して、第1ばね受け突起71及び係合凹部83は、互いに協働して出力回転体80に対する中間回転体70の相対回転角を規定値以下に規制する第2ストッパ手段を構成し、この第2ストッパ手段によれば、加速時には二次ダンパばねS2の過度の変形が抑制され、また減速時には一次ダンパばねS1の過度の変形が抑制される。
【0043】
ところで、本発明に係るダンパ機能付き伝動装置Tには、中間回転体70に連動連結されるダイナミックダンパDDが付設される。このダイナミックダンパDDは、慣性回転体40と、それに固定(例えばリベット48で結合)される慣性重錘Wと、慣性回転体40及び中間回転体70間に介装されて周方向に間隔をおいて配置される複数のダイナミックダンパばねS3とを備える。慣性回転体40は、中間回転体70を相互間に回転摺動可能に挟み且つ内周が入力回転体60の第1,第2支持板61,62外周に回転可能に同心嵌合する第1,第2保持板41,42を有する。第1,第2保持板41,42の相互間は、複数のリベット48で結合される。
【0044】
第1,第2保持板41,42は、慣性回転体40の周方向に延びる円弧状の開口41o,42oを有しており、その開口41o,42oの径方向外周縁部がそれぞれ軸方向外側に切り起こされて、ダイナミックダンパばねS3を両側より抱持するばねホルダ部41h,42hを構成する。上記開口41o,42oの周方向両内端縁部は、ダイナミックダンパばねS3の対応する両端部に係合する第1ばね受け面40sとして機能する。そのばね受け面40sに対応して中間回転体70にも複数の円弧状開口70oが設けられ、その開口70oの周方向両内端縁部は、ダイナミックダンパばねS3の対応する両端部を支持する第2ばね受け面72sとして機能する。
【0045】
また第1保持板41の内面には、中間回転体70の外周部に設けた径方向外向きの複数の回り止め突起70tとそれぞれ係合可能な複数の係合凹部41aが形成される。その回り止め突起70tを係合凹部41aに係合させることで、中間回転体70に対する慣性回転体40の相対回転角を所定の制限された範囲内に規制可能である。而して、回り止め突起70t及び係合凹部41aは、互いに協働して中間回転体70に対する慣性回転体40の相対回転角を規定値以下に規制する第3ストッパ手段を構成し、これによりダイナミックダンパばねS3の過度の変形が抑制される。
【0046】
また特に第1実施形態では、ロックアップクラッチLが非接続状態(即ち動力伝達経路46が非伝動状態)にある場合に、
図3(A)で明らかなように、ダイナミックダンパばねS3を圧縮した状態(即ちダイナミックダンパばねS3に対し所定のプリセット荷重、即ち予圧が付与された状態)で、ダイナミックダンパばねS3の両端部が前記した第1,第2ばね受け面40s,72sの何れとも当接(より具体的には圧接)状態にある。この場合、慣性回転体40の周方向で相対向する第1ばね受け面40sの相互間の長さをaとし、また相対向する第2ばね受け面72sの相互間の長さをbとし、ダイナミックダンパばねS3の自由状態での長さをsとすれば、s>a=bの関係を満たすように各々の長さa,b,sが設定される。
【0047】
これに対し、
図3(B)に例示した第2実施形態では、ロックアップクラッチLが非接続状態(即ち動力伝達経路46が非伝動状態)にある場合に、ダイナミックダンパばねS3の両端部が前記第1,第2ばね受け面40s,72sの何れか一方(図示例では第2ばね受け面72s)に、ダイナミックダンパばねS3を圧縮した状態(即ちダイナミックダンパばねS3に対し所定のプリセット荷重、即ち予圧が付与された状態)でそれぞれ当接し、またその何れか他方(図示例では第1ばね受け面40s)と、ダイナミックダンパばねS3の両端部との間には、バックラッシュ即ち回転方向に所定の隙間C(即ち
図3(B)で、a-bに相当)が設定される。即ち、この第2実施形態では、上記した長さa,b,sが、s>a>bの関係を満たすように設定される。
【0048】
しかも第2実施形態では、後述するように上記隙間をC[rad ]とし、ダイナミックダンパばねS3のプリセット荷重によるトルク
をTp [Nm]とし、またダイナミックダンパばねS3のばね剛性をk[Nm/rad]とした場合に、C<Tp /k が成立するよう隙間Cが設定される。また前記隙間をC[mm]とし、またダイナミックダンパばねS3のプリセット時の圧縮長さ即ちプリセット量(
図3(B)でs-b)に相当)をZ[mm]とした場合に、0.1Z<C<0.5Z の関係を成立させるような隙間Cに設定されることが望ましい。
【0049】
また以上説明した第1,第2実施形態において、一次ダンパばねS1のばね定数をk1とし、二次ダンパばねS2のばね定数をk2としたときに、k1がk2よりも大きく設定(望ましくは、後述するようにk1/k2で定義されるばね剛性比が1よりも大きく且つ5以下の範囲内に設定)される。
【0050】
次に、上記した第1,第2実施形態の作用について、
図4~
図12も併せて参照して、説明する。
【0051】
トルクコンバータTCにおいて、ロックアップクラッチLが接続状態となった場合には、前述のようにエンジンEから伝動カバー20に伝わる回転動力が、ロックアップクラッチLから実施形態のダンパ機能付き伝動装置Tの動力伝達経路46を経て、出力軸27に機械的に伝達される。このとき、エンジンEの加速運転時又は減速運転時における回転変動により生じる振動は、伝動装置Tが具備する一次ダンパばねS1及び二次ダンパばねS2並びにダイナミックダンパDDで減衰、抑制される。
【0052】
この場合、特にダイナミックダンパDDでは、慣性回転体40がダイナミックダンパばねS3の弾性変形を伴って振動して、動力伝達経路46(即ちダイナミックダンパDDを除く主振動系)の振動エネルギを代替吸収できるため、その主振動系の振動に対する減衰効果が、ダイナミックダンパDD(即ち副振動系)の固有振動数に対応した減衰ピーク回転数NeP 付近で特に高められる。
【0053】
ところで、ダイナミックダンパDDの減衰ピーク回転数NeP [rpm ]は、ダイナミックダンパばねS3のばね定数をk[Nm/rad]、慣性回転体40のイナーシャ(慣性モーメント)をI[kgm2]としたときに、次の式で表されることが知られている。
NeP =A√(k/I) ……………(1)
この場合、Aは、60/(2π×エンジン次数)、即ち定数であるため、減衰ピーク回転数NeP は、ばね定数kとイナーシャIとで決まる。そして、横軸をエンジンの回転数[rpm ]とし、また縦軸を振動減衰率[dB]としたグラフでダイナミックダンパDDによる減衰効果の一例を示すと、例えば、
図4のようになる。尚、振動減衰率[dB]は、入力側の振動の最大振幅をA1、出力側の振動の最大振幅をA2としたときに、(A2-A1)/A1で定義されるものであって、
図4の縦軸で下方に行くほど減衰効果が大きいことを示す。
【0054】
ところで
図4(a)の実線は、ダイナミックダンパばねS3にプリセット荷重が付与されない場合の一例であり、また、
図4(b)の実線は、プリセット荷重が付与された場合で比較的大きいトルクが入力されたときの一例である。そして、後者の方が前者よりも、高い減衰効果を発揮し得る減衰領域が拡がるが、その理由を次に簡単に説明する。
【0055】
即ち、エンジンから回転動力を受けて加振される主振動系の振動周波数f(以下、単に加振周波数という)は、エンジン回転数の増加に応じて概ね比例的に増加することが知られており、一方、ダイナミックダンパDDの減衰ピーク回転数NeP は、前記(1)式で明らかなようにばね定数kとイナーシャIのみに依存し、これらが不変であればエンジン回転数に関係なく一定である。またダイナミックダンパDDの振れ角θ[rad ]は、ダイナミックダンパDDへの入力トルクTのトルク振幅をTwとしたときに、次の式で表されることが知られている。尚、トルク振幅Twは、入力トルクと略比例する。
θ=Tw/(4π2 ・I・f2 ) ……………(2)
この式(2)によれば、振れ角θは、仮にトルク振幅Twが一定であれば、
図5に示すように加振周波数fの増加(従って加振周波数fに略比例するエンジン回転数の増加)に伴い二次関数的に減少するよう変化する。
【0056】
また、
図6(a-1)は、ダイナミックダンパばねS3にプリセット荷重によるトルクTp [Nm]が付与される場合のダイナミックダンパDDのばね特性の一例を示すグラフであり、横軸をダイナミックダンパDDの振れ角θ[rad ]とし、縦軸を入力トルクT[Nm]としている。この場合、ダイナミックダンパばねS3のばね定数をkとすれば、見做しばね定数(即ちプリセット荷重付与時の見掛けのばね定数)k′は、
k′=k+Tp /θ ………(3)
となる。即ち、見做しばね定数k′は、
図6(a-1)のグラフの各プロット点p1~p4と原点とを結ぶ仮想直線の勾配に相当し、その勾配からも振れ角θが小さくなるほどに見做しばね定数k′が増大することが判る。
【0057】
このように振れ角θが小さいほど見做しばね定数k′が大きくなる一方で、振れ角θは、前述のようにエンジン回転数の増加に伴い二次関数的に減少(
図5参照)することから、結局、振れ角θが小さい(従ってエンジン回転数が高い)ほど見做しばね定数k′は大きくなる傾向となる。従って、この見做しばね定数k′を用いて前記(1)式で演算したダイナミックダンパDDの減衰ピーク回転数NeP は、見做しばね定数k′が大きいほど高回転側に発生する。その結果、
図4(b)で明らかなように、ダイナミックダンパばねS3にプリセット荷重を付与することにより、付与しない場合よりも減衰領域を拡げることができる。
【0058】
ところで第1実施形態(
図3(A)を参照)のように、ダイナミックダンパばねS3に単にプリセット荷重を付与しただけでは、トルク振幅Twが小さくなるほど減衰ピークが高回転側へ大きくずれるため、狙いとする回転域(例えば自動車用エンジンでは、常用回転域である1000~1500rpm )で高い減衰効果が得られにくくなる。
【0059】
即ち、ダイナミックダンパDDの振れ角θ[rad ]は、前記(2)式からも明らかなようにトルク振幅Twの関数でもあって、このトルク振幅Twの大小によっても見做しばね定数k′が変動し、この変動に伴い減衰ピーク回転数NeP も変動する。そのため、例えば、トルク振幅Twが小さくなるほど振れ角θが小さくなって見做しばね定数k′が更に増大していくことで減衰ピーク回転数NeP が高回転側に発散する傾向がある。その発散の様子は、
図6(a-2)に例示した、振動減衰率とエンジン回転数との相関グラフからも明らかであり、この図のラインL1~L4は、
図6(a-1)の各プロット点p1~p4に対応した見掛けばね定数k′が、トルク振幅Twが小さくなるのに応じて更に増大したときに、減衰ピーク回転数NeP が高回転側に大きくずれる一例を示す。
【0060】
それに対して第2実施形態(
図3(B)を参照)では、ダイナミックダンパばねS3にプリセット荷重、即ち予圧を付与するように、中間回転体70及び慣性回転体40のうちの何れか一方(第2実施形態では中間回転体70の第2ばね受け面72s)にダイナミックダンパばねS3の両端部が支持され、またその何れか他方(第2実施形態では慣性回転体40の第1ばね受け面40s)と、ダイナミックダンパばねS3との間に、バックラッシュ即ち回転方向の隙間Cが設定される。これにより、第2実施形態では、第1実施形態と比べて、ダイナミックダンパDDの減衰領域を拡張させ得るばかりか、その拡張した減衰領域の減衰ピークがトルク振幅Tw(従って入力トルク)の大小でずれ動くのを効果的に抑制可能となる。次に、その効果が得られる理由を説明する。
【0061】
図6(b-1)は、上記隙間Cを特設した場合のダイナミックダンパばねS3のばね特性の一例を示しており、隙間Cが特設されたことで、見做しばね定数k′は、
図6(b-1)の各プロット点p1′~p4′と原点とを結ぶ仮想直線の勾配となる。また、
図6(b-2)は、上記隙間Cを特設した場合の振動減衰率と入力回転数との相関の一例を示しており、この図のラインL1′~L4′は、各プロット点p1′~p4′に対応した見掛けばね定数k′が、トルク振幅Twが小さくなるのに応じて更に増大したときに、減衰ピーク回転数NeP がどのように変動するかを示している。
【0062】
この
図6(b-1)からも明らかなように第2実施形態では、トルク振幅Twが小さくなって振れ角θが小さく(即ちエンジン回転数が大きく)なればなる程、見做しばね定数k′が大きくなるものの、隙間Cを特設したことで、振れ角θが当該隙間Cに対応した振れ角よりも小さくなると見做しばね定数k′は減少する側に転じる。これにより、トルク振幅Twが小さくなると、減衰ピーク回転数NeP は、
図6(b-2)に示すように高回転側に一旦移動した後、低回転側に反転、収束していく。従って、トルク振幅Twの大小に因る減衰ピークのばらつきを小さくすることができる効果が得られる。
【0063】
但し、この効果は、隙間C[rad ]と、プリセット荷重によるトルクTp [Nm]と、ダイナミックダンパばねDDのばね定数k[Nm/rad]とが、C<Tp /k の条件式(4)を満たす場合に限られる。この場合のダイナミックダンパばねS3のばね特性の一例が
図7(a)で示され、またC=Tp /kの場合のばね特性の一例が
図7(b)で示され、更にC>Tp /kの場合のばね特性の一例が
図7(c)で示される。
【0064】
而して、
図7(a)の場合は、振れ角θが小さくなるほど見做しばね定数k′(即ち点線の勾配)が高くなって、減衰領域が拡がる効果がある一方、
図7(b)の場合は、振れ角θに関係なく見做しばね定数k′は同一となって、減衰領域が拡がる効果は得られず、また
図7(c)の場合は、振れ角θが小さいほど見做しばね定数k′は減少するため、これまた減衰領域が拡がる効果は期待できないことが判る。
【0065】
即ち、減衰ピークのばらつきを小さくするために隙間Cを特設しても、その隙間Cが上記式(4)の条件を満たさなければ(換言すれば、振れ角θが小さくなるほど見做しばね定数k′が高くなる設定としなければ)、ダイナミックダンパDDによる減衰領域を十分には拡張できず、従って、ダイナミックダンパDDによる減衰性能向上効果を確保し得なくなる。
【0066】
以上説明したように、ダイナミックダンパばねS3にプリセット荷重を付与することでダイナミックダンパDDの減衰領域を拡張できる効果が得られ、またそのプリセット荷重の付与に加えて前記隙間Cを特設にしたことで、拡張した減衰領域がトルク振幅Twの大小でずれ動くのを抑制できる効果が得られるが、その現象は、次のような説明でも明らかである。
【0067】
先ず、プリセット荷重付与だけの場合(即ち第1実施形態)のダイナミックダンパばねS3の特性は、例えば
図8(a-1)に示すように、縦軸をダイナミックダンパDDの振れ角θとし、また横軸を入力トルクTとしたグラフでも表される。そして、このばね特性から、振れ角θ毎の見做しばね定数k′をプロットして、振れ角θと見做しばね定数k′との相関を表す
図8(a-2)のようなグラフを作成する。この(a-2)のグラフでは、見做しばね定数k′は振れ角θがゼロに近づくにつれて発散していることが判る。
【0068】
次いで、
図8(a-2)に示す振れ角θと見做しばね定数k′との相関と、前記式(1)とに基づいて、
図8(a-2)の横軸を減衰ピーク回転数NeP に変換した
図8(a-3)のようなダイナミックダンパの共振特性図を作成する。この(a-3)の共振特性図は、振れ角θと減衰ピーク回転数NeP との相関を示すものであるから、その相関ラインで得た減衰ピーク回転数NeP の分布に基づいて
図8(a-4)のような減衰特性図が作成可能である。そして、この減衰特性図からは、トルク振幅Twが小さくなるほどに減衰ピーク回転数NeP がより高回転側に発生する(即ち高回転側に大きくずれる)ことが判る。
【0069】
これに対し、プリセット荷重付与に加えて、前記隙間Cを設けた場合(即ち第2実施形態)のダイナミックダンパばねS3の特性は、例えば
図8(b-1)に示すように、縦軸をダイナミックダンパDDの振れ角θとし、また横軸を入力トルクTとしたグラフで表される。そして、このばね特性から、振れ角θ毎の見做しばね定数k′をプロットして、振れ角θと見做しばね定数k′との相関を表す
図8(b-2)のようなグラフを作成する。この(b-2)のグラフでは、見做しばね定数k′は振れ角θがゼロに近づく手前で収束していることが判る。
【0070】
次いで、
図8(b-2)に示す振れ角θと見做しばね定数k′との相関と、前記式(1)とに基づいて、
図8(b-2)の横軸を減衰ピーク回転数NeP に変換した
図8(b-3)のようなダイナミックダンパの共振特性図を作成する。この(b-3)の共振特性図は、振れ角θと減衰ピーク回転数NeP との相関を示すものであるから、その相関ラインで得た減衰ピーク回転数NeP の分布に基づいて
図8(b-4)のような減衰特性図が作成可能である。そして、この減衰特性図からは、トルク振幅Twが小さくなった場合でも、減衰ピーク回転数NeP の高回転側への大きなずれ(即ちトルク振幅Twによる減衰ピークの変化)が抑制され、減衰性能の向上効果が発揮されることが判る。
【0071】
次に
図9を参照して、ダイナミックダンパDDの振れ角θの大小で、ダイナミックダンパDDによる減衰効果の向上範囲がどのように変化するかを説明する。即ち、
図9は、第2実施形態において、ダイナミックダンパの振れ角θと、入力トルクT、見做しばね定数および減衰ピーク回転数との各相関を示す
図8(b-1)~(b-3)に相当するグラフであり、特に左側の(b-1)~(b-3)は振れ角θが大きい場合を示し、また右側の(b-1′)~(b-3′)は振れ角θが小さい場合を示す。これらグラフの比較、特にダイナミックダンパの共振特性図である(b-3)と(b-3′)の比較からも、振れ角θが大きい場合のダイナミックダンパによる減衰効果の向上範囲は、振れ角θが小さい場合の減衰効果の向上範囲よりも広いことが明らかである。
【0072】
更に第1実施形態のダンパ機能付き伝動装置を振動モデルとしたものにおいて、一次ダンパばねS1のばね定数をk1とし、二次ダンパばねS2のばね定数をk2としたときのばね剛性比k1/k2と、ダイナミックダンパDDの振れ角θとの関係を振動シミュレーションにより求めた結果を
図10に示す。この場合、シミュレーションに当たり、各例の振動モデルの諸元は、一般的な自動車を参考にして設定している。また、このシミュレーションで実施例としてはばね剛性比が3のものを、また比較例1としてはばね剛性比が1のものを、また比較例2としてはばね剛性比が1/3のものをそれぞれ示す。また表1は、振動シミュレーションで用いた上記諸元の一例であり、特に一次ダンパばね及び二次ダンパばねの合成ばね定数は一定となるよう調整した。
【0073】
【0074】
而して、
図10は、横軸をエンジン回転数、縦軸をダイナミックダンパDDの振れ角θとしたグラフであり、上記シミュレーションの結果で得たばね剛性比k1/k2とダイナミックダンパDDの振れ角θの相関関係を示す。
図10でも明らかなように、ばね剛性比k1/k2(即ち一次ダンパばねのばね剛性)が高ければ高いほど、ダイナミックダンパの振れ角θが大きくなることが判る。これは、一次ダンパばねS1のばね剛性が高いほど、入力回転体60に作用するエンジンEのトルク変動が減衰されずに中間回転体70(延いてはダイナミックダンパDD)に伝わるためである。そして、上記振れ角θが大きくなれば、ダイナミックダンパばねS3へのプリセット荷重付与によるダイナミックダンパDDの減衰性能の向上効果(即ち減衰領域の拡大効果)が有効に発揮される。
【0075】
これに対し、ばね剛性比k1/k2が低ければ低いほど、上記振れ角θが小さくなり、特にばね剛性比k1/k2が1以下、即ち小さくなり過ぎると、エンジンEのトルク変動が相当量減衰されてダイナミックダンパDDに伝わるため、ダイナミックダンパばねS3へのプリセット荷重付与によるダイナミックダンパDDの減衰性能の向上効果(即ち減衰領域の拡大効果)が十分には発揮されなくなる。
【0076】
また
図11は、
図10に関わるシミュレーションと同様の振動シミュレーションにより求めた、入力トルク振幅Twが大・中・小の場合のばね剛性比k1/k2と、ダイナミックダンパの最大振れ角θMAX との関係を示したものである。この
図11でも明らかなように、ばね剛性比k1/k2が5を超えると、特にトルク振幅Twが大の場合にダイナミックダンパの最大振れ角θMAX が大きくなり過ぎるため、ダイナミックダンパばねS3の強度を十分に確保することが困難となる虞れがある。
【0077】
従って、
図10及び
図11に示すシミュレーション結果からも、ダイナミックダンパの減衰性能の向上効果を確保しつつダイナミックダンパばねの破損防止延いては耐久性向上を図る上では、ばね剛性比k1/k2を1よりも大きく且つ5以下に設定することが望ましいと言える。
【0078】
さらに
図12は、
図10・
図11に関わる前記シミュレーションと諸元を同じくした実施例(ばね剛性比3)及び比較例1(ばね剛性比1)を、第2実施形態(即ち予圧Tp及び隙間C有り)の振動モデルとしてシミュレーションした結果を示す。この
図12で左側グラフは実施例の、また右側グラフは比較例1のシミュレーション結果であって、各グラフの上段・下段の横軸は、エンジン回転数(共振特性の場合は減衰ピーク回転数)を示しており、また上段縦軸はダイナミックダンパの振れ角θを、また下段縦軸はダイナミックダンパによる減衰率をそれぞれ示す。
【0079】
而して、
図12の上段各図は、
図10のグラフに実施例及び比較例1のダイナミックダンパの共振特性図を重ねて描いたものであり、一方、
図12の下段各図は、対応するダイナミックダンパの減衰性能のシミュレーション結果(減衰特性)を上段各図と並べて表示したものであって、参考にダイナミックダンパ無しの場合の性能も併記した。この
図12の上段各図において、共振特性のラインとダイナミックダンパの振れ角のラインとが一致もしくは近接した回転域に着目すると、それは、実施例(ばね剛性比3)の方が比較例1(ばね剛性比1)よりも広範囲に拡がっており、その広い回転域に対応して
図12の下段各図の減衰率が下側に(即ち減衰性能が高い側に)広範囲に張り出していることが判る。これにより、ばね剛性比が大きい実施例では、ダイナミックダンパの振れ角θが十分確保されて減衰向上範囲が広くなるのに対し、ばね剛性比が小さい比較例1では、振れ角θが少なくなって減衰向上範囲が狭くなっていることが明らかである。
【0080】
以上説明したように、実施形態のトルクコンバータTC、特にロックアップクラッチLと出力軸27との間を機械的に伝動するダンパ機能付き伝動装置Tは、入力回転体60及び出力回転体80間に介装された中間回転体70と、その中間回転体70及び入力回転体60間を接続する一次ダンパばねS1と、中間回転体70及び出力回転体80間に介装された二次ダンパばねS2と、中間回転体70にダイナミックダンパばねS3を介して接続される慣性回転体40とを具備していて、非伝動状態でダイナミックダンパばねS3に対しプリセット荷重が付与され、しかも一次ダンパばねS1のばね定数が二次ダンパばねS2のばね定数よりも大きく設定されている。
【0081】
これにより、実施形態の前述の作用説明からも明らかなように、ダイナミックダンパDDの振れ角を十分に確保可能となって、ダイナミックダンパばねS3へのプリセット荷重付与によるダイナミックダンパの減衰性能を向上させることができる。
【0082】
また実施形態の伝動装置Tでは、一次ダンパばねS1のばね定数をk1とし、二次ダンパばねS2のばね定数をk2としたときに、k1/k2で定義されるばね剛性比が1よりも大きく且つ5以下とされている。これにより、そのばね剛性比が小さ過ぎて(従ってダイナミックダンパDDの振れ角が小さくなって)、ダイナミックダンパばねS3へのプリセット荷重付与によるダイナミックダンパDDの減衰性能の向上効果が不十分となる事態や、剛性比が大き過ぎてダイナミックダンパばねS3の強度を十分には確保し得なくなる事態の発生が回避可能となる。したがって、ダイナミックダンパDDの減衰性能を向上させつつ、ダイナミックダンパばねS3の破損防止、延いては耐久性向上が図られる。
【0083】
また特に第2実施形態の伝動装置Tでは、動力伝達経路46の非伝動状態で、ダイナミックダンパばねS3が、これにプリセット荷重を付与するように中間回転体70の第2ばね受け面72sに両端支持され、また慣性回転体40の第1ばね受け面40sとダイナミックダンパばねS3との間に回転方向に隙間C、即ちバックラッシュが設定されている。これにより、第1実施形態と比べ上記隙間Cを追加しただけの簡単な構造で、ダイナミックダンパDDの減衰領域を拡張可能となるばかりか、その拡張した減衰領域の減衰ピークが入力トルクの大小で大きくずれ動いてばらつくのを抑制可能となる。その結果、減衰領域の拡張機能と、減衰ピークのずれ抑制機能とを両立させた高性能なダイナミックダンパDDが得られ、これに入力トルクの大小に関係なく高い減衰効果を発揮させることが可能となる。
【0084】
更に実施形態の一次ダンパばねS1及び二次ダンパばねS2は、中間回転体70と同心の同一仮想円上に配列される。これにより、一次ダンパばねS1を二次ダンパばねS2と同様の径方向位置に配して、ダンパ機能付き伝動装置Tの径方向大型化を抑制することができる。
【0085】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0086】
例えば、前記実施形態では、本発明のダンパ機能付き伝動装置として、ロックアップ機構付きトルクコンバータTCに内蔵されてロックアップクラッチLの接続状態でエンジンEから出力軸27側への機械伝動を担う伝動装置Tを例示したが、本発明のダンパ機能付き伝動装置は、トルクコンバータTC以外の種々の機械装置の動力伝達装置に適用してもよい。
【0087】
また前記第2実施形態では、ロックアップクラッチLが非接続状態(即ち動力伝達経路46が非伝動状態)にある場合に、ダイナミックダンパばねS3にプリセット荷重を付与すべく、中間回転体70及び慣性回転体40のうち前者70の第2ばね受け面72sにダイナミックダンパばねS3の両端部が支持され、またその後者40の第1ばね受け面40sとダイナミックダンパばねS3との間に、バックラッシュ即ち回転方向の隙間Cが設定されるものを示した。これに対し、第2実施形態の変形例(図示せず)では、上記場合にダイナミックダンパばねS3にプリセット荷重を付与すべく、中間回転体70及び慣性回転体40のうち後者40の第1ばね受け面40sにダイナミックダンパばねS3の両端部が支持され、またその前者70の第2ばね受け面72sとダイナミックダンパばねS3との間に、バックラッシュ即ち回転方向の隙間Cが設定されてもよい。そして、この変形例も、第2実施形態と基本的に同様の作用効果を達成可能である。
【符号の説明】
【0088】
C・・・・・・隙間
DD・・・・・ダイナミックダンパ
S1,S2・・一次ダンパばね,二次ダンパばね
S3・・・・・ダイナミックダンパばね
T・・・・・・ダンパ機能付き伝動装置
40・・・・・慣性回転体
46・・・・・動力伝達経路
60・・・・・入力回転体
70・・・・・中間回転体
80・・・・・出力回転体