(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】インスリン及びインスリン類似体の高純度吸入粒子、並びにそれらの高効率の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/28 20060101AFI20221214BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20221214BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20221214BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20221214BHJP
C07K 14/62 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
A61K38/28
A61K9/14
A61K9/72
A61P3/10
C07K14/62
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021021986
(22)【出願日】2021-02-15
(62)【分割の表示】P 2018535397の分割
【原出願日】2016-01-08
【審査請求日】2021-03-17
(32)【優先日】2016-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509174129
【氏名又は名称】アムファスター ファーマシューティカルズ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー ティン
(72)【発明者】
【氏名】アイリー ボー
(72)【発明者】
【氏名】マリー ツーピン ルオ
(72)【発明者】
【氏名】ジャック ヨンフォン チャン
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/020434(WO,A1)
【文献】Bailey,M.M. et al.,Pure insulin nanoparticle agglomerates for pilmonary delivery.,Langmuir,2008年12月02日,Vol.24, No.23,p.13614-20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロメートルレベルの粒子サイズを有し、定量吸入器により送達される肺医薬製品に適した、高純度吸引インスリンを高効率で調製する方法であって、以下の工程:
(1)酸性溶液中にインスリン原材料を溶解してインスリン溶液を形成する工程
、ここで当該酸性溶液のpHが1.5~3であり、水及び当該酸性溶液の全量基準で10~90体積%の有機溶媒を含有し、そして当該有機溶媒が、メタノール、エタノール又はそれらの混合物を含む;
(2)当該インスリン溶液を緩衝溶液で滴定して
、微小インスリン粒子を含有する懸濁物を形成する工程
、ここで当該滴定がpH3~9で実施される;
(3)当該微小インスリン粒子を、アルコール、ケトン又はそれらの混合物を含有する安定化剤で安定化する工程、ここで当該アルコールは
、エタノール、イソプロパノール又はそれらの組合せを含み、また当該ケトンはアセトンを含み、ここで当該安定化は、インスリン粒子の収量を増大する;
(4)当該微小インスリン粒子を含有する懸濁物を濃縮する工程;
(5)当該懸濁物を溶媒で洗浄し、更に当該懸濁物を濃縮する工程;及び
(6)当該微小インスリン粒子を懸濁物の上清から分離する工程;
を含
み、当該方法が、マイクロメートルレベルの粒子サイズを有するインスリン粒子を提供し、当該インスリン粒子の99体積%が5μm未満の粒子サイズを有し、当該インスリン粒子の体積平均径が1~2μmである、調製方法。
【請求項2】
前記インスリン原材料が、結晶ヒトインスリン、結晶動物インスリン、結晶インスリン類似体、及びそれらのいずれかの混合物からなる群から選択される結晶インスリンを含有する、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記結晶インスリン類似体が、結晶インスリンアスパルト、結晶インスリングラルギン、及びそれらのいずれかの混合物からなる群から選択される、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸性溶液がメタノールを含有する、請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
前記酸性溶液のpHが1.5~2.5である、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記酸性溶液が室温で調製される、請求項
4に記載の方法。
【請求項7】
前記酸性溶液の滴定が、酢酸ナトリウム及び酢酸を含有する緩衝溶液を用いて実施される、請求項
1に記載の方法。
【請求項8】
前記滴定がpH4.5~7.5で実施される、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記滴定が室温で実施される、請求項
7に記載の方法。
【請求項10】
前記安定化剤がエタノールを含有する、請求項
1に記載の方法。
【請求項11】
前記エタノールを含有する安定化剤の体積が、前記インスリン溶液の体積の0.5~2倍である、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記エタノールを含有する安定化剤のpHが中性である、請求項
10に記載の方法。
【請求項13】
前記エタノールを含有する安定化剤の温度が0~25℃である、請求項
10に記載の方法。
【請求項14】
前記インスリン粒子を含有する懸濁物を洗浄する工程が、前記懸濁物をエタノールで洗浄する工程を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項15】
前記エタノールの温度が0~25℃である、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
前記懸濁物が濃縮懸濁物である、請求項
14に記載の方法。
【請求項17】
前記インスリン粒子及びエタノールを含有する濃縮懸濁物、及び当該濃縮懸濁物から調製された乾燥インスリン粒子が、更に加工されて肺医薬製品を形成する状態になっている、請求項
16に記載の方法。
【請求項18】
前記洗浄及び濃縮工程が複数回反復される、請求項
1に記載の方法。
【請求項19】
前記吸引インスリン粒子の収率が、最終産物の全量基準で75重量%以上である、請求項
1に記載の方法。
【請求項20】
前記吸引インスリン粒子の収率が、最終産物の全量基準で85重量%以上である、請求項
1に記載の方法。
【請求項21】
マイクロメートルレベルの粒子サイズを有し、肺医薬製品に適した、高純度吸引インスリンを高効率で調製する方法であって、以下の工程:
(1)酸性溶液中にインスリン原材料を溶解してインスリン溶液を形成する工程
、ここで当該酸性溶液のpHが1.5~3であり、水及び当該酸性溶液の全量基準で10~90体積%の有機溶媒を含有し、そして当該有機溶媒が、メタノール、エタノール又はそれらの混合物を含む;
(2)当該インスリン溶液を緩衝溶液で滴定して
、微小インスリン粒子を含有する懸濁物を形成する工程
、ここで当該滴定がpH3~9で実施される;
(3)当該微小インスリン粒子を、アルコール、ケトン、又はそれらの混合物を含有する安定化剤で安定化する工程、ここでアルコールは、エタノール、イソプロパノール又はそれらの混合物を含む;
(4)当該微小インスリン粒子を含有する懸濁物を濃縮する工程;
(5)当該懸濁物を溶媒で洗浄し、更に当該懸濁物を濃縮する工程;及び
(6)当該微小インスリン粒子を懸濁物の上清から分離する工程;
を含
み、当該方法が、マイクロメートルレベルの粒子サイズを有するインスリン粒子を提供し、当該インスリン粒子の99体積%が5μm未満の粒子サイズを有し、当該インスリン粒子の体積平均径が1~2μmである、調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は一般に高純度のヒトインスリン及び/又はヒトインスリン類似体の肺送達、及び肺送達用のインスリン(例えばヒトインスリン及び/又はヒトインスリン類似体)を製造するための高効率のプロセスに関する。本開示の態様の幾つかの側面は、粒子特性の改善したインスリン粒子(例えばヒトインスリン粒子及び/又はヒトインスリン類似体粒子)を含有する組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
肺は、吸収可能な表面積が大きい(最大100m2)ため、また非常に又は極度に薄く(例えば約0.1μm~0.2μm)血液供給が良好な、吸収性粘膜を有するため、治療剤(主にペプチドやタンパク質)の非侵襲的投与及び全身送達における肺送達経路の可能性に、注目が集まっている。肺の表面には、非常に薄い肺胞毛細血管及び気管支毛細血管障壁が有るため、ヒトインスリン粒子が対象の血流中に急速に取り込まれる。その速度は、急速に作用するヒトインスリン類似体で達成される速度に類似している。ヒトインスリン類似体は、天然に存在するヒトインスリンと異なるが、ヒトインスリンと同様に人体内で機能しつつ、血糖コントロールに関してより良好な性能を有する、ヒトインスリンの変形である。
【0003】
インスリン製剤は、静脈内注射又は皮下注射によって投与され得る。吸引インスリンは、注射された短期作用インスリンと同様に有効なようである。肺送達技術は、吸引インスリンがそれらが吸収される肺毛細血管に効果的に到達するように開発された。
【0004】
ヒトの肺気道は気管支管を含み、これは肺胞と同様、インスリン透過性である。吸引インスリンは肺胞から吸収され、循環系に入る。吸入喘息医薬は、肺胞に達する前に堆積する。デバイスは、ゆっくりと又は呼吸を介してヒトインスリン粒子を肺胞に送達し、ヒトインスリンは循環系内に放出され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
吸入ヒトインスリンは、I型及び/又はII型糖尿病の患者における食前インスリン送達に使用され得る。その使用は、炎症、痣(bruising)、不安感等の反応によりインスリン注射を忌避する人々に対するインスリン療法の容易な導入を促進する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの態様において、肺送達に適した吸入可能インスリン(例えばヒトインスリン、動物インスリン及び/又はヒトインスリン類似体)を製造する方法は、以下の工程:インスリン材料を酸性溶液(例えば水とメタノールの混合物)に溶解してインスリン溶存溶液を形成する工程;当該インスリン溶存溶液を緩衝溶液を用いて滴定してインスリン粒子を含有する懸濁物を形成する工程;当該インスリン粒子をメタノールを用いて安定化する工程;及びエタノールで洗浄及び濃縮して肺医薬製品に適したマイクロメートルレベルの粒子サイズを有するインスリン粒子を取得する工程、を含む。
【0007】
前記酸性溶液は、水、有機溶媒、例えばメタノール、又はそれらの混合物を含有し得る。
【0008】
前記酸性溶液は、酸性溶液の全体積に対して10~90Vol%の量の有機溶媒を含有し得る。
【0009】
酸性溶液は、酸性溶液の全体積に対して0~90Vol%の量の有機溶媒を含有し得る。
【0010】
前記有機溶媒はアルコールを含有し得る。
【0011】
前記アルコールは、メタノール、エタノール又はそれらの混合物を含有し得る。
【0012】
前記緩衝溶液のpHが3~10であり得る。
【0013】
前記微小インスリン粒子の安定化は、前記懸濁物に安定化剤を添加することを含み得る。
【0014】
前記安定化剤のpHが中性で水に混和するものであり得る。
【0015】
前記安定化剤は、アルコール、ケトン又はそれらの混合物を含有し得る。
【0016】
前記安定化が、微小インスリン粒子の収量を増大させるものであり得る。
【0017】
前記微小インスリン粒子は、pH3~9で調製され得る。
【0018】
前記微小インスリン粒子は、pH4.5~7.5で調製され得る。
【0019】
前記微小インスリン粒子は、体積平均径が約1~2μm(例えば1.2~2qm)の実質的に球形の粒子を含有し得る。
【0020】
前記微小インスリン粒子は、当該微小インスリン粒子の全体積に対して最大で99Vol%の、粒径5μm未満の粒子を含有し得る。
【0021】
前記酸性溶液のpHが1.0~3.0であり得る。例えば、前記酸性溶液のpHが1.8~2.2であり得る。
【0022】
前記酸性溶液のpHが約2で、水及び当該酸性溶液の全体積に対して10Vol%~90Vol%のメタノール、エタノール又はそれらの混合物を含有し得る。
【0023】
前記微小インスリン粒子が実質的に球形で、粒径が5μm未満であり得る。
【0024】
前記微小インスリン粒子が、ヒトインスリン、動物インスリン、インスリン類似体、又はそれらの混合物を含有し得る。
【0025】
前記インスリン類似体は、インスリンアスパルト(insulin aspart)、インスリングラルギン(insulin glargine)及びそれらの混合物からなる群から選択され得る。
【0026】
前記溶解工程、滴定工程、及び/又は安定化工程は、室温で実施され得る。
【0027】
前記インスリン材料は、結晶ヒトインスリン、結晶動物インスリン、結晶インスリン類似体、又はそれらの混合物を含有し得る。
【0028】
前記結晶インスリン類似体は、結晶インスリンアスパルト、結晶インスリングラルギン又はそれらの混合物を含有し得る。
【0029】
本発明の一つの態様において、微小インスリン粒子は、ヒトインスリン、動物インスリン、インスリン類似体、及びそれらの混合物からなる群から選択されるインスリンを含有する実質的に球形の粒子を含有する。
【0030】
取得された吸引インスリン粒子はインスリンの純度が高く(例えば乾燥基準で>98%、例えば乾燥基準上のインスリン粒子の全重量基準で>98重量%)、そして不純物が少なく、例えばインスリンに関連する不純物が乾燥基準で2%未満、例えば乾燥基準上のインスリン粒子の全重量基準で2重量%未満;溶媒不純物の全量が乾燥基準で0.03%未満、例えば乾燥基準上のインスリン粒子の全重量基準で0.03重量%未満(ここで当該溶媒不純物は肺薬物製剤のための共溶媒成分を含まない)、及び非溶媒不純物が乾燥基準で0.3%未満、例えば乾燥基準上のインスリン粒子の全重量基準で0.3重量%未満である。
【0031】
当該開示された方法は高い効率を有する。インスリン粒子の収率は、最終産物の全量基準で75~85重量%、又はそれ以上である。例えば、インスリン粒子の収率は、最終産物の全量基準で75重量%以上(例えば85重量%以上)である。
【0032】
前記実質的に球形の粒子の体積平均径は、約1.2~2μmであり得る。
【0033】
前記微小インスリン粒子の全体積に対して最大で99Vol%の前記実質的に球形の粒子の粒径が5μm未満であり得る。
【0034】
前記インスリン類似体は、インスリンアスパルト、インスリングラルギン又はそれらの混合物を含み得る。
【0035】
本発明の以上の記載は網羅的な要約であることを意味せず、本開示の追加の適切な側面は、以下の詳細な説明を独立して参照することにより、又はそれと本発明の1つ以上の態様が記載され示されている添付の図面及び表と組み合わせて、当業者にとって自明であり得る。
【0036】
添付する図面は、明細書と共に、本発明の態様を例示し、それらの説明と共に、本発明の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は、インスリン及び/又はインスリン類似体を微小化するプロセスの一態様を例示するフローチャートである。
【0038】
【
図2】
図2は、本発明の態様に従い調製された微小ヒトインスリン粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【0039】
【
図3】
図3は、
図2の態様に従い調製された微小ヒトインスリン粒子の粒径分布を図示するグラフである。
【0040】
【
図4】
図4は、本発明の一態様に従い微小化する前及び後のヒトインスリンの純度プロフィールを示すチャートである。
【0041】
【
図5】
図5は、本発明の一態様に従い調製した溶解した微小インスリン粒子の高効率液体クロマトグラフィー(HPLC)クロマトグラフである。
【0042】
【
図6】
図6は、本開示の一態様に従い調製した充填容器から送達されたヒトインスリン粒子のAndersen Cascade Impactor試験のデータを示すチャートである。
【0043】
【
図7】
図7は、本開示の一態様に従い調製した充填容器から送達されたヒトインスリン粒子のAndersen Cascade Impactor試験のデータを示すチャートである。
【0044】
【
図8】
図8は、本発明の一態様に従い調製された微小インスリングラルギン粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【0045】
【
図9】
図9は、
図8の態様に従い調製された溶解した微小インスリングラルギン粒子のHPLCクロマトグラフである。
【0046】
【
図10】
図10は、本開示の一態様に従い調製した充填容器から送達されたインスリングラルギン粒子のAndersen Cascade Impactor試験のデータを示すチャートである。
【0047】
【
図11】
図11は、本開示の一態様に従い調製した充填容器から送達されたインスリングラルギン粒子のAndersen Cascade Impactor試験のデータを示すチャートである。
【0048】
【
図12】
図12は、本発明の一態様に従い調製された微小インスリンアスパルト粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【0049】
【
図13】
図13は、
図12の態様に従い調製された溶解した微小インスリンアスパルト粒子のHPLCクロマトグラフである。
【0050】
【
図14】
図14は、本開示の一態様に従い調製した充填容器から送達されたインスリングラルギン粒子のAndersen Cascade Impactor試験のデータを示すチャートである。
【0051】
【
図15】
図15は、本開示の一態様に従い調製した充填容器から送達されたインスリングラルギン粒子のAndersen Cascade Impactor試験のデータを示すチャートである。
【0052】
【
図16】
図16は、ジェットミリング法により調製したヒトインスリン粒子の原子間力顕微鏡(AFM)画像である。
【0053】
【
図17】
図17は、実施例2に記載のように調製した微小インスリン粒子の原子間力顕微鏡(AFM)画像である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
下記詳細な説明は、本発明の幾つかの特定の態様の例示のみを目的として提供され、本発明の範囲を限定することを意図しない。当業者にとって他の態様は自明であり得、それらは本発明の範囲内に含まれることを意図する。また、本発明の文脈で、「インスリン」は、広い意味で使用され、ヒト又は動物の治療に使用できる任意の型のインスリン又はインスリン類似体を包含する。例えば、本明細書中、「インスリン」は、天然又は合成ヒトインスリン、天然又は合成動物インスリン、及びインスリン類似体(例えばインスリンアスパルト、インスリングラルギン等)を包含する。
【0055】
肺送達のための吸入可能インスリン粒子を製造する方法の一つの態様は、:インスリン材料(例えば結晶インスリン及び/又は結晶インスリン類似体)を酸性環境中に溶解して(例えば酸性溶液中に溶解してインスリン材料の溶解を促進する)、溶解インスリン溶液を形成する工程;当該溶解インスリン溶液を緩衝溶液で滴定してマイクロメートルレベルの粒子サイズを有するインスリン粒子を含有する懸濁物を形成する工程;及び安定化剤(例えば有機溶媒及び/又は共溶媒)を添加して0~25℃で当該インスリン粒子を安定化する工程(例えば精製及び乾燥前のインスリン粒子の収量を増大させるように);当該懸濁物を濃縮する工程;当該懸濁物を溶媒(例えばエタノール)で2~25℃で洗浄及び濃縮する工程、ここで洗浄/濃縮は複数回され得る;を含む。
【0056】
当該プロセスの態様は室温又はより低い温度で実施され、凍結乾燥、マイクロスフィア、及びジェットミリングプロセス等により導入される高温(インスリンの純度の低下を引き起こし不純物の増大をもたらし得る)の導入を回避又は減少し、特定の化学剤(非溶媒不純物を導入し得る)を回避し、長時間のプロセス(室温でもより多くのインスリンに関連する不純物を生じ得る)を回避し、機械力を回避する。当該プロセスの幾つかの態様は、溶解インスリン溶液及び/又は懸濁物を含む酸性環境にポリマー(例えば取得されたインスリン粒子中に顕著な量のポリマーが存在するように、助剤ポリマー)を添加せずに実施される。
【0057】
本発明の態様は、肺送達に適した高純度の吸引可能なインスリンの生産のためのプロセスを提供する。当該プロセスの態様は、ミリメートル下範囲の粒径であり得る結晶インスリン材料を用いて、特性の改善した、例えばより真球度の高い、又は平滑度が改善した、肺送達用の活性医薬成分(API)として、マイクロメートル範囲の粒径の、吸引可能なインスリン粒子を提供する。本願において、粒径又は粒子の直径(例えば体積平均径)は、他に特定の無い限り、レーザー回折法によって測定され得る。
【0058】
薬物粒子の肺送達は、粒径、粒子の形状、表面の粗さ、溶解度、流動性等の、薬物粒子の特性に影響を受ける。吸引可能なインスリン及び/又はインスリン類似体は活性薬物成分で単なる受動的な担体ではないので、本願の開示は、インスリン及びインスリン類似体を高純度インスリン粒子として微小化しつつ、生物活性を維持し、又は実質的に維持する。
【0059】
上記のように、取得されたインスリン粒子は、肺医薬製品の調製に使用され得る。粒子サイズ以外にも、インスリンの高純度及び不純物の少なさも重要であり得る。
【0060】
粒径(又は空気力学的直径)が5μm未満の粒子は、肺によって吸収される吸引薬物として用いられる。適切な空気力学的直径又は粒径を有する粒子は良好な流動特性を有し、血流内への吸収が改善される、又は肺の肺胞-毛細管表面を介して最適化される、気道下部(気管支及び肺胞領域)内により容易に分散される。一方、大き過ぎる薬物粒子(例えば空気力学的直径又は粒径が5μmを上回る粒子)は、慣性衝突によって喉や気管等の気道上部で殆ど捕捉されてしまう。斯かる大きすぎる粒子は、肺胞のような薄い透過可能な毛細管を有しない気道上部に蓄積して、実質的に吸収されない。蓄積した薬物粒子は、マクロファージの増大を刺激する肺の防御システムを起動する場合がある。マクロファージの刺激又は過剰な刺激は、他の炎症性細胞の集合を引き起こし、やがて二次的な組織損傷、再生及び線維化を生じ得る。
【0061】
薬物粒子のサイズは、肺送達において決定的な役割を有し得る。粒径5μm未満の粒子を製造するために、噴霧乾燥や機械的製粉技術等の多くの単一工程の微小化方法が使用され得て、そのようなプロセスの後、一般にミリメートル範囲の直径を有するインスリン粉末粒子出発材料の直径は、肺送達のためのマイクロメートル範囲の直径になる。
【0062】
しかしながら、インスリン粒子を微小化するプロセスは、インスリン微小化プロセスの過程での高温での熱、長いプロセス、及び/又は助剤ポリマーや特定の化学剤の導入を含み、それらはインスリンの凝集及び活性喪失を引き起こし、その純度を低下し、又はより多くの不純物を導入し、そしてそれらは薬物製造を阻害し得る。加えて、助剤ポリマー及び他の特定の薬剤はプロセシングの過程で製剤の安定化や溶解度の増大を助けるが、助剤ポリマー及び他の特定の薬剤は除去が困難な不純物を導入し得る。
【0063】
インスリン微小粒子を形成するプロセスにおいてポリマーが使用される場合、インスリンの微小粒子が、インスリンの等電点付近のpHで結晶インスリンを溶解することにより形成されることも見出されている。ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)、乳酸グリコール酸コポリマー(PLGA)、あるいは生体接着性メカニズム等の、様々な適切な種類のポリマーが、このプロセスで使用され得る。ポリマーが緩衝溶液中に添加されるとき、それは、結晶インスリンの溶解度を更に増大するのを助ける。しかしながら、添加したポリマーは、このプロセスの後効率的に及び完全に除去され得ない。除去されない残留ポリマーは、薬物の有効性を低下させ、毒性を増大させ、不純度のレベルを増大させる。
【0064】
インスリンを含有するマイクロスフィアの生産に関連する他のプロセスは、インスリンを酸性環境中に溶解するのを助けるために、PVP又はPEG等の助剤ポリマーを導入する。そのようなプロセスによって生産されたマイクロスフィアは、インスリンに有害又はダメージを与え得る、比較的高温にさらされる。そのようなプロセスの最後に、ポリマーを洗い流すための有機溶媒(インスリンの溶解度が低いもの)は、小さなインスリン粒子の凝集化を引き起こし得る。また、上記有機溶媒は、マイクロスフィア中に含有されるインスリン分子を変性させ、ヒトや動物に投与されたときに毒性を有し得る。
【0065】
あるインスリン粒子は、生分解性ポリマー材料を用いてインスリンの均一な微結晶をマイクロカプセル化(例えば界面活性剤により)することによって得られるマイクロスフィアを含有し得る。そのような組成物は、しかしながら、インスリン含量が低く、例えば平均インスリン粒子含量は、インスリン粒子の全重量の僅か0~30%w/wであり得る。
【0066】
本願の態様の側面は、上記困難を克服し、肺医薬製品のための高純度インスリン粒子を製造することに関する。インスリン又はインスリン類似体を製造する方法の態様は、以下の4つの動作を含む。
【0067】
1つ目の動作は、酸性環境中にインスリン材料(例えば結晶インスリン又はインスリン類似体)を溶解することで、インスリン材料の溶解を促進して、真のインスリン溶液を形成する。酸性環境は、酸性溶液を含み得る。例えば、酸性環境は、水、有機溶媒(例えばメタノール等のアルコール)、又はそれらの混合物を含む酸性溶液を含み得る。
【0068】
酸性環境中でのインスリンの挙動は、インスリンを溶解するのに利用され得る。幾つかの態様において、良好な溶解条件を提供するために、酸性環境のpHは、約1.0~3.0、例えば1.5~2.5(例えば1.8~2.5)とされる。
【0069】
2つ目の動作は、懸濁物の状態に達するまで(例えば懸濁物が取得されるまで)、溶解インスリン溶液を緩衝溶液で滴定することである。溶解インスリン溶液の滴定は、溶解インスリンの沈殿を引き起こし、当該沈殿は、適切な粒子サイズ及び形状を有しており、懸濁物を形成する。インスリンが沈殿すると、溶解インスリン溶液は、透明又は実質的に透明な溶液が白色に乳濁した懸濁物に変化する(例えばこの懸濁物は微小インスリン粒子を含有する)。
【0070】
3つ目の動作は、安定化剤(例えば有機溶媒、エタノール)を加えることにより微小インスリン粒子を安定化し、インスリン粒子の収量を増大させることである。
【0071】
安定化剤は、0~25℃の室温又はそれよりも低い温度で添加され得る。使用される安定化剤(例えば有機溶媒、任意で共溶媒)は、インスリンの種類によって異なり、下記で更に記載される。そして、当該懸濁物は、濃縮され得る。
【0072】
4つ目の動作として、前記インスリン粒子の濃縮懸濁物が、0~25℃の室温又はそれよりも低い温度で、同一の溶媒(例えば同じ種類の溶媒)で洗浄され得る。この洗浄/濃縮は、複数回実施され得る。
【0073】
上記プロセスは、高純度のインスリン粒子を生成し得る。取得された吸引インスリン粒子はインスリンの純度が高く(例えば乾燥基準で>98%、例えば乾燥基準上のインスリン粒子の全重量基準で>98重量%)、そして不純物が少なく、例えばインスリンに関連する不純物が乾燥基準で2%未満、例えば乾燥基準上のインスリン粒子の全重量基準で2重量%未満;溶媒不純物の全量が乾燥基準で0.03%未満、例えば乾燥基準上のインスリン粒子の全重量基準で0.03重量%未満(ここで当該溶媒不純物は肺薬物製剤のための共溶媒成分を含まない)、及び非溶媒不純物が乾燥基準で0.3%未満、例えば乾燥基準上のインスリン粒子の全重量基準で0.3重量%未満である。本明細書中、他の言及が無い限り、「乾燥基準」は、持って行かれる量の中に存在する水又は他の揮発性物質をと共に当然の許容(due allowance)が用いられる場合、参照される成分(例えばインスリン粒子やインスリン)が使用前に乾燥している必要が無いことを示す。
【0074】
前記方法は高い効率を有し、マイクロメートルレベルの粒子サイズを有するインスリン粒子を生成する収量は75~85%又はそれ以上である(例えば最終産物の全重量基準で75%以上、又は85%以上)。
【0075】
取得されるインスリンの純度が高く、他の不純物の含有レベルが低いため、取得されるインスリン粒子は、肺医薬製品の更なる加工に使用され得る。例えば、(i)直接、又は乾燥後に、定量吸引(metered dose inhalation)(MDI)製品用の推進剤(HFA134a又は227)及び他の製剤成分を添加する。又は(ii)乾燥後に、乾燥粉末吸引製品用の担体(例えばラクトース)と混合する。
【0076】
本願の態様の側面は、他のプロセスと比較して、高純度の吸引インスリン粒子を高効率で製造し得る;という特徴を有する。
【0077】
本願に斯かる肺送達用のインスリン及びインスリン類似体の吸引用粒子を室温で製造する新規プロセスの態様は、下記の4つの主要な工程:ミリメートル下範囲の粒径のインスリン原材料を酸性溶媒に溶解して真の溶液を得る第1の工程;適切な条件(pH、濃度、混合時間等)で滴定することにより適切な粒子サイズのインスリン粒子を生成する第2の工程;生成したインスリン粒子を溶媒(例えばエタノール)を用いて安定化し、0~25℃で濃縮する第3の工程;及び最後に任意で0~25℃の溶媒で洗浄し、濃縮する第4の工程;を含む。
【0078】
第1の工程において、インスリン材料は、水と極性で低分子量で水混和性の有機溶媒を含有する酸性環境(例えば酸性溶液)中に溶解され得る。メタノール及び/又はエタノールは、インスリンの当初の溶解度を調整するために、溶液の全体積に対して最大90Vol%(vol%)の量で、溶液中で使用され得る。例えば、メタノール及び/又はエタノールは、好ましくはおよそ90vol%(酸性溶液の全体積に対して)の量で酸性溶液中に含まれ得るが、0%超で最大90vol%の任意の量が想定され、使用され得る。
【0079】
酸性溶液は、撹拌プレートの頂部に置かれ得る。溶液が完全に又はほぼ完全に清澄するまで、例えば40~200回転/分(rpm)の定常、連続、又は実質的に連続の撹拌が全体で利用される。
【0080】
第2の工程において、撹拌速度は、例えば30~100rpmに下げられ得る。溶解インスリン溶液は、酢酸ナトリウム/酢酸等の緩衝溶液で滴定され、又はゆっくり滴定されて、溶解インスリン溶液が透明又は実質的に透明な溶液から乳白色の懸濁物に変化することにより、次第にインスリンの沈殿が見えるようになり、次第に適切な粒子サイズに成長する。
【0081】
インスリン及び/又はインスリン類似体の粒子は、pH3~9、例えばpH4.5~7.5で生成され得る。緩衝溶液は、同一のpH範囲を有するように調製され得る。
【0082】
第3の工程において、中性のpHを有し温度0~25℃の水混和性の安定化剤が利用される。安定化剤の例として、アルコール及び/又はケトンが有る。例えば、アルコールは、エタノール又はその混合物を含み得る。安定化剤は、微小インスリン粒子を安定化させる。安定化された懸濁物は濃縮され得る。
【0083】
第4の工程において、濃縮された懸濁物は、0~25℃のエタノール等の溶媒で洗浄され、更に濃縮され得る。斯かる洗浄/濃縮は複数回反復され得る。
【0084】
取得されたインスリン粒子は、肺医薬製品の更なる加工に使用され得る。例えば、(i)直接、又は乾燥後に、定量吸引(metered dose inhalation)(MDI)製品用の推進剤(HFA134a又は227)及び他の製剤成分を添加する。又は(ii)乾燥後に、乾燥粉末吸引製品用の担体(例えばラクトース)と混合する。
【0085】
図1は、インスリン及び/又はインスリン類似体を室温で微小化する方法の一態様を例示するプロセスフローチャートである。
図1において、インスリンを微小化するプロセス100の態様は、インスリン材料の溶解102、インスリンの沈殿(例えば滴定により)による懸濁物の形成安定化104、インスリンの分離/安定化106、及びインスリンの洗浄及び濃縮108を含む。
【0086】
本開示の態様は、例示を目的とする実施例を参照して記載される。しかしながら、本願は、ここに記載される実施例によって限定されない。
【実施例】
【0087】
実施例1 90Vol%メタノール溶液中の吸引可能なインスリン粒子の調製
70mgの生合成ヒトインスリン(即ちAmphastar France Pharmaceuticals, S.A.S.より)材料の粉末を、40mlバイアル中で、pH1.9で酸性溶液の全体積に対して90Vol%のメタノール及び10Vol%の水を含有する酸性溶液7.7ml中に溶解した。このバイアルを撹拌プレートの頂部に置き、得られた溶液を、溶液が完全に溶解し又は実質的に透明になって真のインスリン溶液を形成するまで定常的に撹拌した。そして撹拌をより低速にし(例えば回転速度約75rpm)、pH5.64の1.75mlの0.1M酢酸ナトリウム/酢酸(NaAc/HAc)緩衝溶液(250ml溶液中に1.825gのNaAc及び0.165gの酢酸が溶解している)を滴下して、溶解インスリン溶液をゆっくり滴定した。透明な溶解インスリン溶液は、微小インスリン粒子を含有する乳濁した黄色の懸濁物に変化した。滴定が終了又は実質的に終了した後、約10mLのエタノール(pH無調整エタノール)が懸濁物に添加された。粒子を安定化し収量を高めるため、更に30分間撹拌を継続した。微小インスリン粒子を、固体として懸濁物の上澄から遠心分離し、取得された固体をエタノールで2回洗浄して、メタノールと塩を除去した。この固体を室温で真空乾燥した。
【0088】
図2は、実施例1に記載の方法で製造した吸引可能なヒトインスリンAPIを示す走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。本願において、全てのSEM画像は、JEOL CarryScope JCM-5700 SEM装置を用いて取得された。
図3は、実施例1に記載のようにして調製された吸引可能なインスリンAPI(微小インスリン)の粒径分布を図示するグラフである。
図2及び3から、実施例1に記載のようにして調製された吸引可能なインスリンAPI(微小インスリン)の粒径は、肺送達に適しており、例えば粒径5μm未満であると結論付けられた。例えば、
図3に見られるように、実施例1の微小インスリンの平均粒径D50は2μm未満であった。D50は、試料の全体積に対して、試料の50vol%がそれより小さい粒径を有し、試料の50vol%がそれより大きい粒径を有する、最大の粒径である。
【0089】
実施例2 90Vol%メタノール溶液中での吸引可能なインスリン粒子の調製
1gの生合成ヒトインスリンAPI粉末(即ちAmphastar France Pharmaceuticals S.A.S.製組換えインスリン)を、遠心スターラーとスターラーバーを有する400mlビーカー中で、pH約1.9で酸性溶液の全体積に対して90Vol%のメタノール及び10Vol%の水を含有する酸性溶液110ml中に溶解した。得られた溶液を、溶液が完全に溶解し又は実質的に透明になって真のインスリン溶液を形成するまで撹拌した。そして撹拌をより低速にし(例えば回転速度約50rpm)、pH5.64の25mlの0.1M酢酸ナトリウム/酢酸(NaAc/HAc)緩衝溶液を滴下して、溶解インスリン溶液を滴定した。透明な溶解インスリン溶液は、微小インスリン粒子を含有する乳濁した黄色の懸濁物に変化した。滴定が終了した後、約135mLのエタノール(中性エタノール)が懸濁物に添加され、粒子を安定化し収量を高めるため、更に30分間撹拌を継続した。
【0090】
微小インスリン粒子を、Spectrum Lab at Rancho Dominguez, CAの500kD改変ポリエーテルスルホン膜を用いた限外濾過によって固体として懸濁物の上澄から濃縮した。まずこの混合物を5~10mlに濃縮し、これを100mlエタノールで3回洗浄して、メタノールと塩を除去した。この懸濁物の最終体積は5~10mlである。濃縮した懸濁物を室温で2.5時間真空乾燥した。産物の重量を用いて回収率を計算した。粒径は、レーザー回折粒径分析器(即ちJEOL CarryScope JCM-5700 SEM装置)を用いて解析した。
【0091】
上記手順は、微小インスリンのバッチごとに4回反復した。
【0092】
表1は、実施例2に記載の4つのバッチ産物における回収率の再現性を示す。表2に見られるように、実施例2の回収率は86%を超える。
【表1】
【0093】
表2は、実施例2のバッチにおいて生産された微小ヒトインスリン粒子の粒径分布の再現性を示す。表2から、実施例2に関して記載されるように調製された微小インスリンの粒径は、例えば5μm未満で肺送達に適していると結論された。例えば、表2に見られるように、実施例2の微小インスリンにおいて、平均粒径D50は1.54μmで、平均粒径D10は0.75μmで、平均粒径D90は3.04μmで、これは、肺送達に適している。D50は、試料の全体積に対して、試料の50vol%がそれより小さい粒径を有し、試料の50vol%がそれより大きい粒径を有する、最大の粒径である。D10は、試料の全体積に対して、試料の10vol%がそれより小さい粒径を有する、最大の粒径である。D90は、試料の全体積に対して、試料の90vol%がそれより小さい粒径を有する、最大の粒径である。
【表2】
【0094】
加工前後のインスリンの化学的安定性を、United States Pharmacopeia (USP)のChapter<621>に記載の高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)及びヒトインスリンモノグラフのための不純物試験に使用されるUSP法によって試験した。
図4は、実施例2に記載の微小化プロセス前後のインスリンの不純物プロフィールを示す。
図4に示すように、インスリンダイマー、高分子量タンパク質、A-21デサミドインスリン又は微小化プロセスの過程でのインスリン中の関連する化合物等の、不純物の量に、顕著な変化は無かった。
【0095】
図5は、実施例2に記載のように調製された溶解インスリン粒子の高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)クロマトグラフを示す。
図5のHPLCクロマトグラフは、微小インスリンの保持時間が元のインスリン材料のものと比べて統計的に有意な変化を示さないことを示す。この微小インスリン粒子の解析からの証拠は、インスリンの化学的完全性が、微小化プロセスの過程で維持され、又は実質的に維持されることを示唆する。
【0096】
微小インスリン粒子の粒径分布は、Sympatec Gmbh製レーザー回折CUVETTE CUV-50ML/USを使用して評価された。微小インスリン粒子は、エタノール媒体(エタノール溶液)中で試験された。データは、表2に示すように、4つの全てのバッチの体積平均径の平均が1.79μmであることを示す。
【0097】
図6は、それぞれ1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFA 134A)、1,1,1,2,3,3,3,-へプタフルオロプロパン(HFA 227)、又はHFA 134A及びHFA 227の混合物を含有する推進剤を利用した3つの定量吸入器によって供給されたヒトインスリン(実施例2に記載のようにして生産されたAPI)のAndersen Cascade Impactor試験を示すチャートである。定量吸入器は、実施例11に記載のようにして調製された。
図6に示すデータから、3つの異なる推進剤(HFA 134A、HFA 227、並びにHFA 134A及びHFA 227の混合物)が、実施例2に記載のようにして生産された微小ヒトインスリンに利用されたとき、同等の結果を提供したと結論付けられた。
【0098】
図7は、3つの異なる推進剤(それぞれHFA 134a、HFA 227、並びにHFA 134A及びHFA 227の混合物)を利用したによって供給されたヒトインスリン(実施例2に記載のようにして生産されたAPI)の3つの異なるステージ分類でのAndersen Cascade Impactor解析結果を示すチャートである。定量吸入器は、実施例11に記載のようにして調製された。
図7に示すデータから、3つの異なる推進剤が、実施例2に記載のようにして生産されたインスリンの肺送達用の微小ヒトインスリンに利用されたとき、同等の結果を提供したと結論付けられた。
【0099】
実施例3 100Vol%水溶液中の吸引可能なインスリン粒子の調製方法
吸引可能なヒトインスリン粒子は、pH2.0の約100vol%精製水溶液(精製水とpHが2になるのに十分な量の酸を含有する溶液)を90vol%メタノール含有酸性溶液に代えて使用した以外、実施例1に記載のものと同様に調製された。得られたヒトインスリン粒子の粒径分布は、実施例2に記載のようにして解析された。粒径分布解析の結果は、吸引可能なヒトインスリン粒子の粒径が平均2.01μmであることを示した。上記のように、実施例1に記載のように調製された吸引可能なヒトインスリン粒子の粒径D50は2μm未満で、実施例2に記載のようにして調製された4バッチの吸引可能なヒトインスリン粒子(これらも90vol%メタノールを含有する酸性溶液を使用して調製された)の体積平均径の平均は1.79μmであった。従って、溶媒の組成(例えばメタノール対水)は、生産される微小ヒトインスリンのサイズを変化させ得ることが示される。
【0100】
実施例4 低メタノール濃度溶液中での吸引可能なヒトインスリン粒子の調製方法
吸引可能なヒトインスリン粒子は、pH約2.0の50vol%メタノール(他の50vol%として水とHClを含有する)、又は10vol%メタノール(他の90vol%として水とHClを含有する)を、ヒトインスリン材料を溶解するのに使用される90vol%メタノール含有酸性溶液に代えて使用した以外、実施例1に記載のものと同様に調製された。
【0101】
表3は、実施例1、3及び4に記載のように微小化されたヒトインスリン粒子の粒径分布データを示す。
【表3】
【0102】
従って、ヒトインスリン(生材料)を溶解するのに用いられる出発溶媒(例えばメタノール溶液対水)や溶媒濃度(例えば酸性溶液の全体積に対するメタノール濃度10vol%、50vol%又は90vol%)が微小ヒトインスリン粒子の粒径に影響し得ることが結論付けられた。
【0103】
実施例5 10Vol%エタノール溶液中の吸引可能なヒトインスリン粒子の調製方法
吸引可能なヒトインスリン粒子は、10vol%エタノール(他の90vol%として水とHClを含有する)を、インスリンを溶解するために使用される90vol%メタノール含有酸性溶液に代えて使用した以外、実施例1に記載のものと同様に調製された。得られた吸引可能なヒトインスリン粒子の粒径分布は、実施例2に記載のようにして解析された。粒径分布解析の結果は、吸引可能なヒトインスリン粒子の体積平均径が1.36μmであることを示した。
【0104】
実施例6 pHの異なる90Vol%メタノール溶液を利用したヒトインスリンを吸引可能な粒子に微小化する方法
吸引可能なヒトインスリン粒子は、pH5.64の緩衝溶液に代えてpH3~9のNaOHを含有する一揃いの緩衝溶液を使用した以外、実施例1に記載のものと同様に調製された。得られた吸引可能なヒトインスリン粒子の粒径分布は、実施例2に記載のようにして解析された。NaOHは、溶液のpHを調製するのにも使用された。粒径分布解析の結果及び滴定後の対応する緩衝溶液のpHを表4に示す。表4に示すデータから、pH3~9の緩衝溶液の利用は、微小化プロセスの態様に適していると結論付けられた。取得されたデータは、前記粒子の全体積基準で99Vol%以上が粒径5qm未満であることを示す。従って、当該微小化インスリン粒子は、微小化インスリン粒子の全体積基準で99Vol%以上(例えば99~100Vol%)の粒径5qm未満の粒子を含有し得る。これらの態様において、微小化インスリン粒子は、微小化インスリン粒子の全体積基準で最大99Vol%の粒径5qm未満の粒子を含有し得る。
【表4】
【0105】
実施例7 イソプロピルアルコール共溶媒を利用した吸引可能なヒトインスリン粒子の調製方法
吸引可能なヒトインスリン粒子は、滴定が完了又は実質的に完了した後に懸濁物に添加されるエタノールに代えてイソプロピルアルコールを使用した以外、実施例1に記載のものと同様に調製された。得られた吸引可能なヒトインスリン粒子の粒径分布は、実施例2に記載のようにして解析された。粒径分布解析の結果は、吸引可能なヒトインスリン粒子の体積平均径が1.27μmであったことを示した。
【0106】
実施例8 アセトン共溶媒を利用した吸引可能なヒトインスリン粒子の調製方法
吸引可能なヒトインスリン粒子は、滴定が完了又は実質的に完了した後に懸濁物に添加されるエタノールに代えてアセトンを使用した以外、実施例1に記載のものと同様に調製された。得られた吸引可能なヒトインスリン粒子の粒径分布は、実施例2に記載のようにして解析された。粒径分布解析の結果は、吸引可能なヒトインスリン粒子の体積平均径が1.32μmであったことを示した。
【0107】
実施例9 インスリングラルギン類似体を吸引可能な粒子に微小化する方法
インスリングラルギンは、長期作用性のヒトインスリン類似体である。ここで用いられるインスリングラルギンは、市販のインスリングラルギン(LANTUS(登録商標))を限外濾過して取得された。このインスリングラルギンは、洗浄及び凍結乾燥してから使用された。70mgの洗浄及び凍結乾燥したインスリングラルギンを、pH約2.2で酸性溶液の全体積に対して90vol%のメタノール及び10Vol%の水を含有する酸性溶液7.7ml中に溶解した。インスリングラルギンが完全に溶解した後、pH6.9のリン酸緩衝溶液1.75mlを滴下して溶解インスリングラルギン溶液を滴定した。この溶液に10mlのエタノールが添加された。以上の溶解、滴定及びエタノール添加は、定常(実質的に連続)撹拌下で実施された。透明な溶解インスリングラルギン溶液は、微小インスリングラルギン粒子を含有する乳濁物となる。この微小インスリングラルギン粒子は、分離、洗浄及び乾燥された。この微小インスリングラルギン粒子の粒径分布は、実施例2に記載のレーザー回折試験を使用して解析された。粒子分布解析は、微小インスリングラルギン粒子の体積平均径が2.27μmであることを示した。
図8は、微小インスリングラルギン粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図9は、溶解した微小インスリングラルギン粒子のHPLCクロマトグラフである。
図9に示すHPLCの結果の保持時間は、微小化プロセスの過程でインスリングラルギンの化学的特性が変化しなかった(又は実質的に変化しなかった)ことを示す。
図10及び11は、推進剤としてHFA 134Aを使用する定量吸入器から送達されたインスリングラルギン粒子のAndersen Cascade Impactor試験の結果を示すチャートである。定量吸入器は、実施例11に記載のようにして調製された。
図10及び11に示す試験結果は、インスリンの肺送達において、一定又は実質的に一定のパターンを示した。
【0108】
実施例10 インスリンアスパルト類似体を吸引可能な粒子に微小化する方法
インスリンアスパルトは、即効性のインスリン類似体である。ここで用いられるインスリンアスパルトは、NovoLog(登録商標)(Novo Nordisk, Bagsvaerd, Denmark)を限外濾過して取得された。限外濾過されたインスリンアスパルトは、洗浄及び凍結乾燥してから使用された。70mgの洗浄及び凍結乾燥したインスリンアスパルトを、pH約2.2の酸性水溶液7.7ml中に溶解して、インスリンアスパルトを含有する溶解インスリン溶液を形成した。インスリンアスパルトが完全に溶解した後、pH5.64の酢酸緩衝溶液4.2mlを滴下して溶解インスリンアスパルト溶液を滴定した。この溶液に78mlのエタノールを添加して、懸濁液を取得した。以上の溶解、滴定及びエタノール添加を定常(実質的に連続)撹拌下で実施して、洗浄前に粒子を安定化させた。透明な溶解インスリンアスパルト溶液は、微小インスリンアスパルト粒子を含有する乳濁物となった。この微小インスリンアスパルト粒子は、分離、洗浄及び乾燥された。この微小インスリンアスパルト粒子の粒径分布は、実施例2に記載のレーザー回折試験を使用して解析された。粒子分布解析は、微小インスリンアスパルト粒子の体積平均径が2.72μmであることを示した。
図12は、微小インスリンアスパルト粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図13は、溶解した微小インスリンアスパルト粒子のHPLCクロマトグラフである。
図13に示すHPLCの結果の保持時間は、微小化プロセスの過程でインスリンアスパルトの化学的特性が変化しなかった(又は実質的に変化しなかった)ことを示す。
【0109】
図14及び15は、推進剤としてHFA 134Aを使用する定量吸入器から送達されたインスリンアスパルト粒子のAndersen Cascade Impactor試験の結果を示すチャートである。定量吸入器は、実施例11に記載のようにして調製された。
図14及び15に示す試験結果は、インスリンの肺送達において、一定又は実質的に一定のパターンを示した。
【0110】
実施例11 インビトロAndersen Cascade Impactor試験のための定量吸入器の調製
定量吸入器(MDI)は、以下のプロセスに従い調製された。適当な量の微小ヒトインスリンAPI(例えば微小ヒトインスリン粒子又は微小ヒトインスリン類似体粒子)及びエタノールを吸入器キャニスター内に充填した。キャニスターの内容物を、を用いて超音波エネルギーを適用することによって5分間混合して、均一又は実質的に均一な懸濁物とした。HFA 134A、HFA 227又はそれらの混合物等の異なる推進剤を添加して、キャニスターを、適切なバルブを締めることにより密封した。
【0111】
微小ヒトインスリン(例えば微小ヒトインスリン粒子又は微小ヒトインスリン類似体粒子)は、有効成分として定量吸入器(MDI)に充填された。吸入器内のヒトインスリン又はインスリン類似体の濃度は、3mg/gであった。
図7、
図11及び
図15に示すAndersen Cascade Impactorデータは、レーザー回折粒径分析器を用いて観察された粒径分布結果と良く対応している。ここで示すAndersen Cascade Impactorデータにおいて、放出された用量は、Andersen Cascade Impactor上に堆積したヒトインスリン又はインスリン類似体のパーセンテージを示す。
【0112】
本願プロセスの態様によって微小化されたヒトインスリン粒子の形状及び表面の粗さ(又は滑らかさ)は、かなり適切又は好ましいものである(例えば肺送達において適切又は好ましい)。ジェットミリングによる微小化は、粒子をミリメートルサイズ範囲からより小さいマイクロメートルサイズ範囲に挽き潰す通常の方法である。ジェットミリングプロセスは、高速ガス流による粒子同士の頻繁な衝突とミリングチャンバーの壁との衝突を含む。ジェットミリングにより生産される微小粒子は、ガス流の循環動作及び遠心力によってチャンバーから抽出される。これらの機械力は、比較実施例1に記載するように、肺送達にとって好ましくない又は不適切であり得る、微小化粒子の表面及び形状へのダメージを生じ得る。
【0113】
実施例12.医薬的利用に適した高純度微小化吸引インスリン粒子
1グラムの生合成ヒトインスリンAPI粉末(即ちAmphastar France Pharmaceuticals S.A.S.製組換えインスリン)を、遠心スターラーとスターラーバーを有する400mlビーカー中で、pH約1.9で90Vol%のメタノール及び10Vol%の水を含有する酸性溶液110ml中に溶解した。得られた溶液を、溶液が完全に溶解し又は実質的に透明になって真のインスリン溶液を形成するまで撹拌した。そして撹拌をより低速にし(例えば回転速度約50rpm)、pH5.64の25mlの0.1MNaAc/HAc緩衝溶液を滴下して、溶解インスリン溶液を滴定した。透明な溶解インスリン溶液は、微小インスリン粒子を含有する乳濁した黄色の懸濁物に変化した。滴定が終了した後、約135mLのエタノール(pH無調整)が懸濁物に添加され、粒子を安定化し収量を高めるため、更に30分間撹拌を継続した。
【0114】
微小インスリン粒子を限外濾過によって懸濁物の上澄みから分離し、固体をエタノールで2回洗浄して、メタノールと塩を除去した。これらの洗浄及び濃縮プロセスは、溶媒不純物の含量が高い場合、反復され得る。当該固体は、室温で真空乾燥された。これらのインスリンの洗浄プロセス及び濃縮は、上記実施例2に関連して記載されたように実施された。得られた微小インスリンの粒子サイズはVMDが1.61qmである。
【0115】
同一のプロセスを用いて、純度及び不純度の試験のため、0.5gのバッチでもっと多くのインスリン粒子を生成した。
【0116】
3つのバッチのインスリン粒子の純度及び不純度プロフィールが試験され、乾燥基準で下記表5に列挙される(例えば、結果は、乾燥基準でのインスリン粒子の全重量に対する重量%として示される。
【表5】
【0117】
表5のデータは3つの全てのロットを示す:
・取得されたインスリン粒子の純度は98%を上回った(例えばインスリン粒子中のインスリンの純度は、乾燥基準でのインスリン粒子の全重量に対し98重量%を上回る);
・最終産物中のA21デサミド(desamido)含量は0.40%未満であり(例えば乾燥基準でのインスリン粒子の全重量に対し0.40重量%)、微小化インスリンに関連する成分の含量はおよそ1.1%であり(例えば乾燥基準でのインスリン粒子の全重量に対し1.1重量%)、USP基準の2重量%を下回った;
・ヒトインスリン中の高分子量タンパク質はおよそ0.3%であり(例えば乾燥基準でのインスリン粒子の全重量に対し0.3重量%)、USP基準の1重量%を下回った;
・メタノール溶媒不純物の量は0.009%以下であった(例えば乾燥基準でのインスリン粒子の全重量に対し0.009重量%);
・酢酸塩非溶媒不純物(酢酸塩)の量は0.07%以下であった(例えば乾燥基準でのインスリン粒子の全重量に対し0.07重量%);
・得られたインスリン粒子の純度は98%超である(例えばインスリン粒子のインスリン純度が乾燥基準でのインスリン粒子の全重量に対し98重量%超)。
【0118】
実施例13.微小化吸引用インスリン粒子中の亜鉛含量の調整
70mgの生合成ヒトインスリン(即ちAmphastar France Pharmaceuticals S.A.S.製組換えインスリン)原材料粉末を、40mlバイアル中で、pH約1.9で90体積%のメタノール及び10体積%の水を含有する酸性溶液7.7ml中に溶解した。当該バイアルを撹拌プレート上に乗せ、溶液が完全に溶解し又は実質的に透明になって真のインスリン溶液を形成するまでゆっくり撹拌した。そして撹拌をより低速にし(例えば回転速度約75rpm)、pH5.64の1.75mlの0.1M酢酸ナトリウム/酢酸(NaAc/HAc)緩衝溶液を滴下して、溶解インスリン溶液を滴定した。透明な溶解インスリン溶液は、微小インスリン粒子を含有する乳濁した黄色の懸濁物に変化した。滴定が終了又は実質的に終了した後、約10mLのエタノールが懸濁物に添加され、粒子を安定化し収量を高めるため、更に30分間撹拌を継続した。微小インスリン粒子を、固体として懸濁物の上澄から遠心分離し、取得された固体をエタノールで2回洗浄して、メタノールと塩を除去した。この固体を室温で真空乾燥した。
【0119】
微小インスリンの亜鉛含量は、上記プロセスの過程で顕著に変化しない:
・上記プロセス前のインスリン中の亜鉛含量は0.39%であり(例えば生合成ヒトインスリン粒子の全重量に対し0.39重量%)、
・上記プロセス後のインスリン中の亜鉛含量は0.42%である(例えば乾燥基準でのインスリン粒子の全重量に対し0.42重量%)。
【0120】
従って、本開示の態様において、出発材料としてHuman Insulin USPが使用された場合、微小化粒子中の亜鉛含量は1%未満(例えば乾燥基準でのインスリン粒子の全重量に対し1重量%未満)かつ0.3%超(例えば乾燥基準でのインスリン粒子の全重量に対し0.3重量%超)であり得る。
【0121】
実施例14.高い回収率を有するインスリン微小化プロセス
1グラムの生合成ヒトインスリンAPI粉末(即ちAmphastar France Pharmaceuticals S.A.S.製組換えインスリン)を、遠心スターラーとスターラーバーを有する400mlビーカー中で、pH約1.9で90Vol%のメタノール及び10Vol%の水を含有する酸性溶液110ml中に溶解した。得られた溶液を、溶液が完全に溶解し又は実質的に透明になって真のインスリン溶液を形成するまで撹拌した。そして撹拌をより低速にし(例えば回転速度約50rpm)、pH5.64の25mlの0.1MNaAc/HAc緩衝溶液を滴下して、溶解インスリン溶液を滴定した。透明な溶解インスリン溶液は、微小インスリン粒子を含有する乳濁した黄色の懸濁物に変化した。滴定が終了した後、2~8℃の約135mLのエタノールが懸濁物に添加され、粒子を安定化し収量を高めるため、更に30分間2~8℃で撹拌を継続した。
【0122】
微小インスリン粒子を限外濾過によって懸濁物の上澄みから分離し、固体をエタノールで2回洗浄して、メタノールと塩を除去した。当該固体は、室温で真空乾燥された。0.92グラムの質量のインスリンが取得された。このプロセスによるインスリンの回収率は92%である(例えばインスリン粒子の収率は、最終産物の全重量基準で92重量%であった)。
【0123】
実施例15.MDI製剤および配合に適合したインスリン微小化プロセス
1グラムの生合成ヒトインスリンAPI粉末(即ちAmphastar France Pharmaceuticals S.A.S.製組換えインスリン)を、遠心スターラーとスターラーバーを有する400mlビーカー中で、pH約1.9で90Vol%のメタノール及び10Vol%の水を含有する酸性溶液110ml中に溶解した。得られた溶液を、溶液が完全に溶解し又は実質的に透明になって真のインスリン溶液を形成するまで撹拌した。そして撹拌をより低速にし(例えば回転速度約50rpm)、pH5.64の25mlの0.1MNaAc/HAc緩衝溶液を滴下して、溶解インスリン溶液を滴定した。透明な溶解インスリン溶液は、微小インスリン粒子を含有する乳濁した黄色の懸濁物に変化した。滴定が終了した後、2~8℃の約135mLのエタノールが懸濁物に添加され、洗浄前に粒子サイズを安定化し収量を高めるため、更に30分間2~8℃で撹拌を継続した。
【0124】
微小インスリン粒子を、Spectrum Lab at Rancho Dominguez, Californiaの500kD改変ポリエーテルスルホン膜を用いた限外濾過によって懸濁物の上澄から濃縮した。このインスリン粒子の懸濁物を5~10mlに濃縮し、これを100mlエタノールで3回洗浄して、メタノールや塩等の不純物を除去した。
【0125】
定量吸入器、又はMDI製品(肺用製品)は、取得されたインスリン粒子に合わせて容易に加工及び配合され得る。
【0126】
比較実施例1 ジェットミリングによるヒトインスリン粒子の調製
ヒトインスリン粒子は、N2圧力75PSI及び供給速度約1g/分のグラインドを用いるジェットミリングによって調製された。
図16は、ジェットミリング法によって微小化されたヒトインスリン粒子の原子間力顕微鏡(AFM)画像である。
図16の画像に見られるように、ジェットミリングによって調製されるヒトインスリン粒子は、粗く不規則(又は不均一)な外観を有している。
【0127】
図17は、実施例2に記載のようにして微小化された吸引可能なヒトインスリン粒子のAFM画像である。ここで開示するプロセスの態様は、室温で実施され、機械力及び/又は熱を含まない(又は実質的に機械力及び/又は熱を含まない)ため、微小ヒトインスリン粒子は、ヒト肺送達により適した又はより好ましい形状及び表面を有する。
【0128】
一つの態様において、肺医薬製品用の高純度吸引インスリン材料は:マイクロメートルレベルの粒子サイズのインスリン粒子であって、以下の特性:(i)当該インスリン粒子の純度が乾燥基準で96重量%を下回らない(例えばインスリンが乾燥基準でインスリン粒子の全重量基準で96重量%以上の量でインスリン粒子中に存在する);(ii)任意で、当該インスリン粒子中の亜鉛の量が乾燥基準で1重量%を超えず0.3重量%を下回らない(例えば乾燥基準でインスリン粒子の全重量基準で1重量%を超えず0.3重量%を下回らない;(iii)当該インスリン粒子中のインスリンに関連する不純物の全量が2重量%を超えない(例えば乾燥基準でインスリン粒子の全重量基準で2重量%を超えない);(iv)当該インスリン粒子中の溶媒に関連する不純物の全量が、前記肺医薬製品中の共溶媒製剤成分を含まず、0.03重量%を上回らない(例えば乾燥基準でインスリン粒子の全重量基準で0.03重量%を上回らない);及び当該インスリン粒子中の溶媒に関連しない不純物の全量が0.3重量%を上回らない(例えば乾燥基準でインスリン粒子の全重量基準で0.3重量%を上回らない);を有するもの;を含有する。更に、前記インスリン粒子は、下記の特性の何れか又は全てを有し得る。
【0129】
前記微小インスリン粒子は、ヒトインスリン、動物インスリン、インスリン類似体及びそれらのいずれかの混合物からなる群から選択されるインスリンを含有し得る。
【0130】
前記インスリン類似体は、インスリンアスパルト、インスリングラルギン、及びそれらのいずれかの混合物からなる群から選択されるインスリンを含有し得る。
【0131】
前記インスリン粒子は、実質的に球形であり(例えば一般的に球形である)、粒子サイズが5μm未満であり得る。
【0132】
前記微小インスリン粒子の全体積に基づいて99体積%の前記インスリン粒子が5μm未満の粒子サイズの粒子を含有し得る。
【0133】
前記インスリン粒子は、体積平均径(例えばD50)が1~2μmである実質的に球形(例えば一般的に球形である)の粒子を含有し得る。
【0134】
一つの態様において、本発明は、マイクロメートルレベルの粒子サイズを有し、肺医薬製品に適した、高純度吸引インスリンを高効率で調製する方法であって、当該方法は、以下の工程:(1)酸性溶液中にインスリン原材料を溶解してインスリン溶液を形成する工程;(2)当該インスリン溶液を緩衝溶液で滴定して、マイクロメートルレベルの粒子サイズを有するインスリン粒子(例えば微小インスリン)を含有する懸濁物を形成する工程;(3)当該インスリン粒子(例えば微小インスリン粒子)を溶媒で安定化する工程;(4)当該インスリン粒子(例えば微小インスリン粒子)を含有する懸濁物を濃縮する工程;及び当該懸濁物を溶媒で洗浄し、更に当該懸濁物を濃縮する工程、を含み、ここで当該洗浄及び濃縮した微小インスリン粒子を含有する懸濁物は、肺医薬製品を形成する更なるプロセスに供され、そして当該方法は、マイクロメートルレベルの粒子サイズを有するインスリン粒子をもたらし(例えば提供し)、ここでインスリン粒子(例えば微小インスリン粒子)の99%(例えば99体積%)が5μm未満の粒子サイズを有し、当該インスリン粒子(例えば微小インスリン粒子)の体積平均径(例えばD50)が約1μm~2qmであり、ここで当該インスリン粒子の純度が乾燥基準で96重量%を下回らず(例えば乾燥基準でインスリン粒子の全重量基準で当該インスリン粒子中のインスリンの量が乾燥基準で96重量%を下回らない);任意で当該インスリン粒子中の亜鉛の量が1重量%を上回らず(例えば乾燥基準でインスリン粒子の全重量基準で1重量%を上回らない)、0.3重量%を下回らず(例えば乾燥基準でインスリン粒子の全重量基準で);当該インスリン粒子中の全てのインスリンに関連する不純物の全量が2重量%を上回らず(例えば乾燥基準でインスリン粒子の全重量基準で2重量%を上回らない);当該インスリン粒子中の溶媒に関連する不純物の全量が、前記肺医薬製品中の共溶媒製剤成分を含まず、0.03重量%を上回らず(例えば乾燥基準でインスリン粒子の全重量基準で0.03重量%を上回らない);そして当該インスリン粒子中の溶媒に関連しない不純物の全量が0.3重量%を上回らない(例えば乾燥基準でインスリン粒子の全重量基準で0.3重量%を上回らない)。当該方法は、更に、以下の何れか又は全てを含み得る。
【0135】
前記インスリン原材料は、結晶ヒトインスリン、結晶動物インスリン、結晶インスリン類似体(例えば結晶ヒトインスリン類似体)、及びそれらのいずれかの混合物からなる群から選択される結晶インスリンを含有し得る。
【0136】
前記結晶インスリン類似体は、結晶インスリンアスパルト、結晶インスリングラルギン、及びそれらのいずれかの混合物からなる群から選択され得る。
【0137】
前記酸性溶液は、水及びメタノールを含有し得る。
【0138】
前記酸性溶液は、当該酸性溶液の全量基準で10~90体積%の量のメタノールを含有し得る。
【0139】
前記酸性溶液のpHは、1~3であり得る。
【0140】
前記酸性溶液のpHは、1.5~2.5であり得る。
【0141】
前記酸性溶液は、室温で調製され得る。
【0142】
前記酸性溶液の滴定は、酢酸ナトリウム及び酢酸を含有する緩衝溶液を用いて実施される。
【0143】
前記滴定は、pH3~9で実施され得る。
【0144】
前記滴定は、pH4.5~7.5で実施され得る。
【0145】
前記滴定は、室温で実施され得る。
【0146】
前記安定化は、前記懸濁物にエタノールを含有する安定化剤を添加する工程を含み得る。
【0147】
前記エタノールを含有する安定化剤の体積は、前記インスリン溶液(例えば溶解インスリン溶液)の体積の0.5~2倍であり得る。
【0148】
前記エタノールを含有する安定化剤のpHは中性であり得る。
【0149】
前記エタノールを含有する安定化剤の温度は、0~25℃であり得る。
【0150】
幾つかの態様において、前記エタノールを含有する安定化剤を添加する工程は、インスリン粒子の収量を増大させる。
【0151】
前記インスリン粒子を含有する懸濁物を洗浄する工程は、前記懸濁物をエタノールで洗浄する工程を含み得る。
【0152】
前記エタノールの温度は、0~25℃であり得る。
【0153】
前記懸濁物は、濃縮懸濁物であり得る。
【0154】
幾つかの態様において、前記インスリン粒子及びエタノールを含有する濃縮懸濁物、及び当該濃縮懸濁物から調製された乾燥インスリン粒子は、更に加工されて肺医薬製品を形成する状態になっている。
【0155】
前記洗浄及び濃縮工程は複数回(例えば数回)反復され得る。
【0156】
前記吸引インスリン粒子の収率は、75%以上であり得る(例えば、前記吸引インスリン粒子の収率は、例えば乾燥基準で最終産物の全量基準で75重量%以上であり得る)。
【0157】
前記吸引インスリン粒子の収率は、85重量%以上であり得る(例えば、前記吸引インスリン粒子の収率は、最終産物の全量基準で85重量%以上であり得る)。
【0158】
本発明は幾つかの態様に関連して記載されているが、本発明は、開示されている態様に限定されず、一方、請求項に記載の発明及びその均等物の精神及び範囲内に含まれる、様々な改変及び均等な変更を包含することを意図すると理解されたい。本文及び請求項全体において、「約」及び「実質的に」という用語は、程度の用語ではなく近似の用語として使用され、当業者が理解するように、測定値、有効数字及び相互置換性に関連する内在的な変化を反映する。また、本明細書及び請求項全体において、「約」が付されていない数値も、他の言及の無い限り、その用語によって修飾されているものと理解されたい。