(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】クローディン-18.2-特異的免疫受容体およびT細胞エピトープ
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20221214BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20221214BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20221214BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20221214BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20221214BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20221214BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221214BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20221214BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20221214BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221214BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20221214BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221214BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20221214BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20221214BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20221214BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12N15/861 Z
C12N15/867 Z
C12N5/10
C12N5/0783
A61K31/7088
A61K48/00
A61K35/17 Z
A61P35/00
C07K19/00
C07K16/28
C07K14/705
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021092285
(22)【出願日】2021-06-01
(62)【分割の表示】P 2017559059の分割
【原出願日】2016-05-09
【審査請求日】2021-06-30
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2015/060357
(32)【優先日】2015-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517277340
【氏名又は名称】ビオエンテッヒ・セル・アンド・ジーン・セラピーズ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BIONTECH CELL & GENE THERAPIES GMBH
(73)【特許権者】
【識別番号】513067646
【氏名又は名称】トロン - トランスラティオナレ・オンコロギー・アン・デア・ウニヴェルジテーツメディツィン・デア・ヨハネス・グーテンベルク-ウニヴェルジテート・マインツ・ゲマインニュッツィゲ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】TRON - Translationale Onkologie an der Universitaetsmedizin der Johannes Gutenberg-Universitaet Mainz gemeinnuetzige GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】ウール・シャヒン
(72)【発明者】
【氏名】オズレム・トゥレジ
(72)【発明者】
【氏名】ペトラ・ジモン
(72)【発明者】
【氏名】タナ・オモココ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア・ブライトクロイツ
(72)【発明者】
【氏名】カロリナ・アンナ・ムロツ
(72)【発明者】
【氏名】リーザ・ヘビヒ
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/146672(WO,A1)
【文献】特表2008-508861(JP,A)
【文献】Sahin, U. et al.,"Claudin-18 splice variant 2 is a pan-cancer target suitable for therapeutic antibody development",Clin. Cancer Res.,2008年,Vol. 14,pp. 7624-7634
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
A61K 38/00-39/44
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クローディン-18.2(CLDN18.2)に結合し、CLDN18.2の結合ドメイン、膜貫通ドメイン、およびT細胞シグナル伝達ドメインを含む、キメラ抗原受容体(CAR)をコードするRNAであって、CLDN18.2の結合ドメインが、配列番号23のアミノ酸配列を含むVH(CLDN18.2)および配列番号30のアミノ酸配列を含むVL(CLDN18.2)を含む、RNA。
【請求項2】
CLDN18.2の結合ドメインが、配列番号35のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のRNA。
【請求項3】
キメラ抗原受容体が、新生タンパク質の小胞体への輸送を指示するシグナルペプチドを含む、請求項1または2に記載のRNA。
【請求項4】
キメラ抗原受容体が、配列番号41のアミノ酸配列を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のRNA。
【請求項5】
RNAが、自己複製RNAである、請求項1から4のいずれか一項に記載のRNA。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のRNAを含むかまたはコードする、ベクター。
【請求項7】
(a)アデノウイルス、γ-レトロウイルス、レンチウイルスまたはアルファウイルスからなる群から選択されるウイルスベースのシステム、または(b)トランスポゾンベースのシステムである、請求項6に記載のベクター。
【請求項8】
ベクターがマウス白血病ウイルス(MLV)である、請求項7に記載のベクター。
【請求項9】
クローディン-18.2(CLDN18.2)に結合し、CLDN18.2の結合ドメイン、膜貫通ドメイン、およびT細胞シグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)をコードするRNA、または該RNAを含むベクターを含む組成物であって、CLDN18.2の結合ドメインが、配列番号23のアミノ酸配列を含むVH(CLDN18.2)、および配列番号30のアミノ酸配列を含むVL(CLDN18.2)を含む、組成物。
【請求項10】
クローディン-18.2(CLDN18.2)に結合し、CLDN18.2の結合ドメイン、膜貫通ドメイン、およびT細胞シグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)をコードするRNAを含む細胞であって、CLDN18.2の結合ドメインが、配列番号23のアミノ酸配列を含むVH(CLDN18.2)、および配列番号30のアミノ酸配列を含むVL(CLDN18.2)を含む、細胞。
【請求項11】
非ウイルスベースのDNAトランスフェクション、トランスポゾンベースのシステムまたはウイルスベースのシステムにより得られる、請求項10に記載の細胞。
【請求項12】
CD8+細胞傷害性Tリンパ球またはCD4+Tヘルパーリンパ球である、請求項10または11に記載の細胞。
【請求項13】
請求項1から5のいずれか一項に記載のRNA、請求項6から8のいずれか一項に記載のベクター、または請求項10から12のいずれか一項に記載の細胞、を含む、医薬組成物。
【請求項14】
薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
対象におけるCLDN18.2陽性癌細胞を死滅させるための医薬の製造における、請求項1から5のいずれか一項に記載のRNA、請求項6から8のいずれか一項に記載のベクター、または請求項10から12のいずれか一項に記載の細胞の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、免疫療法に有用な、クローディン-18.2-特異的免疫受容体(T細胞受容体および人工T細胞受容体(キメラ抗原受容体;CAR))およびT細胞エピトープの提供に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
免疫系の進化は、脊椎動物に、自然免疫および適応免疫の2種類の防御に基づく極めて効果的なネットワークをもたらした。
病原体に関連する共通の分子パターンを認識する不変(インバリアント)受容体に依存する進化論的に古い自然免疫系とは対照的に、適応免疫は、B細胞(Bリンパ球)およびT細胞(Tリンパ球)上の高度に特異的な抗原受容体ならびにクローン選択に基づく。
【0003】
B細胞は抗体の分泌によって体液性免疫応答を生じるのに対して、T細胞は認識された細胞の破壊をもたらす細胞性免疫応答に介在する。
T細胞は、ヒトおよび動物における細胞性免疫において中心的役割を果たす。特定の抗原の認識および結合には、T細胞表面上に発現されるT細胞受容体(TCR)が介在する。
【0004】
T細胞のT細胞受容体(TCR)は、主要組織適合複合体(MHC)分子に結合し、標的細胞の表面上に提示される、免疫原性ペプチド(エピトープ)と相互作用することができる。TCRの特異的結合は、T細胞内のシグナルカスケードを誘発し、増殖および成熟したエフェクターT細胞への分化をもたらす。多種の抗原を標的にすることを可能にするためには、T細胞受容体は多様性に富む必要がある。
【0005】
この多様性は、TCRの異なる構造領域をコードする遺伝子の異なる不連続なセグメントの遺伝子再編成によって得られる。TCRは、1つのα鎖および1つのβ鎖または1つのγ鎖および1つのδ鎖から構成される。TCRα/β鎖は、抗原認識に関与するN末端の高度に多型な可変領域と、不変定常領域とから構成される。遺伝子レベルでは、これらの鎖は、可変(V)領域、多様性(D)領域(β鎖およびδ鎖のみ)、連結(J)領域および定常(C)領域の、いくつかの領域に分けられる。ヒトβ鎖遺伝子は、60を超える可変(V)セグメント、2つの多様性(D)セグメント、10を超える連結(J)セグメント、および2つの定常領域セグメント(C)を含む。ヒトα鎖遺伝子は、50を超えるVセグメント、および60を超えるJセグメントを含むが、Dセグメントを含まず、1つのCセグメントを含む。マウスβ鎖遺伝子は、30を超える可変(V)セグメント、2つの多様性(D)セグメント、10を超える連結(J)セグメント、および2つの定常領域セグメント(C)を含む。マウスα鎖遺伝子は、ほぼ100個のVセグメント、60個のJセグメントを含み、Dセグメントを含まず、1つのCセグメントを含む。T細胞の分化中に、1つのV領域遺伝子、1つのD(β鎖およびδ鎖のみ)領域遺伝子、1つのJ領域遺伝子および1つのC領域遺伝子を再編成することにより、特定のT細胞受容体遺伝子が作製される。TCRの多様性は、組換え部位においてランダムなヌクレオチドの導入および/または欠失が起こる不正確なV-(D)-J再編成によって、さらに増幅される。TCR遺伝子座の再編成はT細胞の成熟中にゲノムにおいて起こるので、各成熟T細胞は1つの特異的α/β TCRまたはγ/δ TCRしか発現しない。
【0006】
MHCおよび抗原結合は、TCRの相補性決定領域1、2および3(CDR1、CDR2、CDR3)によって介在される。抗原認識および結合にとって最も重要なβ鎖のCDR3は、再編成されたTCRβ鎖遺伝子のV-D-J接合部によってコードされている。
【0007】
TCRは、TCRα鎖およびβ鎖のヘテロ二量体型複合体、補助刺激受容体(co-receptor)CD4またはCD8ならびにCD3シグナル伝達モジュールを含む、複雑なシグナル伝達機構の一部である(
図1)。CD3鎖が細胞内部に活性化シグナルを伝達するのに対し、TCRα/βヘテロ二量体はもっぱら抗原認識を担っている。従って、TCRα/β鎖の移入は、T細胞を任意の目的抗原にリダイレクト(redirect)する機会を提供する。
【0008】
免疫療法
抗原特異的免疫療法は、感染性疾患または悪性疾患を制御するために、患者における特異的免疫応答を増強または誘導することを目指している。病原体関連抗原および腫瘍関連抗原(TAA)が次々と同定されることで、免疫療法に適した標的が幅広く収集されることになった。これらの抗原に由来する免疫原性ペプチド(エピトープ)を提示する細胞は、能動免疫戦略または受動免疫戦略のいずれかによって特異的に標的化することができる。
【0009】
能動免疫は、患者において、罹患細胞を特異的に認識して死滅させることができる抗原特異的T細胞を誘導し、増殖を活性化する傾向がある。対照的に、受動免疫は、インビトロで増殖され、場合によっては遺伝子改変されたT細胞の養子移入に依存する(養子T細胞療法)。
【0010】
ワクチン接種
腫瘍ワクチンは能動免疫によって内在性腫瘍特異的免疫応答を誘導することを目指している。癌細胞全体、タンパク質、ペプチドまたは免疫化ベクター、例えばRNA、DNAもしくはウイルスベクターなどを含む、異なる抗原フォーマットを、腫瘍ワクチン接種に用いることができ、それらはインビボで直接適用するか、または患者への移入に続いて、DCのパルス処理により、インビトロで適用することができる。
【0011】
治療が誘導する免疫応答を同定することのできる臨床治験の数は、免疫戦略の改善と抗原特異的免疫応答を検出するための方法の改善とにより、着実に増加している(Connerotte, T. et al. (2008). Cancer Res. 68, 3931-3940; Schmitt, M. et al. (2008) Blood 111, 1357-1365; Speiser, D.E. et al. (2008) Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A 105, 3849-3854; Adams, S. et al. (2008) J. Immunol. 181, 776-784)。
しかしながら、ほとんどの場合、検出される免疫応答を臨床転帰と体系的に関連付けることはできない(Curigliano, G. et al. (2006) Ann. Oncol. 17, 750-762; Rosenberg, S.A. et al. (2004) Nat. Med. 10, 909-915)。
それゆえに、腫瘍抗原由来のペプチドエピトープの厳密な定義は、ワクチン接種戦略の特異性および効率の改善だけでなく、さらに免疫モニタリングの方法にも貢献し得る。
【0012】
養子細胞移入(ACT)
ACTに基づく免疫療法は、非免疫レシピエントに移入されるか、または低い前駆体頻度から臨床的に妥当な細胞数までエクスビボで増加させた後に自己宿主に移入される、予め感作されたT細胞による受動免疫の一形態であると広く定義することができる。ACT実験に使用されている細胞タイプは、リンホカイン活性化キラー(LAK)細胞(Mule, J.J. et al. (1984) Science 225, 1487-1489; Rosenberg, S.A. et al. (1985) N. Engl. J. Med. 313, 1485-1492)、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)(Rosenberg, S.A. et al. (1994) J. Natl. Cancer Inst. 86, 1159-1166)、造血幹細胞移植(HSCT)後のドナーリンパ球、ならびに腫瘍特異的T細胞株またはT細胞クローン(Dudley, M.E. et al. (2001) J. Immunother. 24, 363-373; Yee, C. et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A 99, 16168-16173)である。
【0013】
養子T細胞移入は、CMVなどのヒトウイルス感染症に対して治療活性を有することが示されている。CMV感染と内在性潜在ウイルスの再活性化が健常個体では免疫系によって制御されるのに対し、移植レシピエントまたはAIDS患者などの免疫機能が低下した個体では、これが有意に高い罹病率および死亡率をもたらす。
Riddellとその共同研究者らは、養子T細胞療法によるウイルス免疫の再構成を、HLA適合CMV血清陽性移植ドナー由来のCD8+ CMV特異的T細胞クローンを移入した後の免疫抑制患者において実証した(Riddell, S.R. (1992) Science 257, 238-241)。
【0014】
別のアプローチとして、ポリクローナルドナー由来CMVまたはEBV特異的T細胞集団を移植レシピエントに移入して、移入されたT細胞の持続性を高めた(Rooney, C.M. et al. (1998) Blood 92, 1549-1555; Peggs, K.S. et al. (2003) Lancet 362, 1375-1377)。
【0015】
メラノーマの養子免疫療法に関して、Rosenbergとその共同研究者らは、切除した腫瘍から単離され、インビトロで増加させた自己腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の注入と骨髄非破壊的リンパ球枯渇(lymphodepleting)化学療法および高用量IL2との併用に依る、ACTアプローチを確立した。最近公表された臨床試験は、処置を受けた転移性メラノーマ罹患患者に約50%の奏功率をもたらした(Dudley, M.E. et al. (2005) J. Clin. Oncol. 23: 2346-2357)。
【0016】
しかしながら、ACT免疫療法の対象となるには、患者がいくつかの前提を満たさなければならない。患者の腫瘍は切除可能でなければならない。腫瘍は、細胞培養条件下で、生存可能なTILを生成しなければならない。TILは腫瘍抗原に対して反応性でなければならず、インビトロで十分な数まで増加しなければならない。とりわけメラノーマ以外の癌では、そのような腫瘍反応性TILを得ることは困難である。さらに、正常ヒトTリンパ球のインビトロ刺激およびクローン増殖を繰り返すことにより、テロメラーゼ活性が徐々に低下し、テロメアが短縮して、複製老化および移入されたT細胞の持続可能性の低下が起こる(Shen, X. et al. (2007) J. Immunother. 30: 123-129)。
【0017】
遺伝子改変されたT細胞を用いるACT
ACTの限界を克服する一つのアプローチは、短期間のエクスビボ培養中に、所定の特異性を有する腫瘍反応性免疫受容体を発現するように再プログラムされた自己T細胞を、該患者に再注入する、自己T細胞の養子移入である(Kershaw M.H. et al. (2013) Nature Reviews Cancer 13 (8):525-41)。この戦略により、腫瘍反応性T細胞が患者に存在しない場合であっても、ACTを種々の一般的悪性病変に適用することが可能になる。T細胞の抗原特異性はもっぱらTCRα鎖およびβ鎖のヘテロ二量体型複合体に基づいているので、T細胞へのクローン化TCR遺伝子の移入により、それらを任意の目的抗原に対してリダイレクトすることを可能にする。それゆえに、TCR遺伝子治療は、処置選択肢として自己リンパ球による抗原特異的免疫療法を開発するための魅力的な戦略を提供する。TCR遺伝子移入の主な利点は、数日以内に治療量の抗原特異的T細胞が生成する点、および患者の内在性TCRレパートリーには存在しない特異性を導入することが可能になる点である。
【0018】
TCR遺伝子移入が初代T細胞の抗原特異性をリダイレクトするための魅力的な戦略であることは、いくつかのグループが実証している(Morgan, R.A. et al. (2003) J. Immunol. 171, 3287-3295; Cooper, L.J. et al. (2000) J. Virol. 74, 8207-8212; Fujio, K. et al. (2000) J. Immunol. 165, 528-532; Kessels, H.W. et al. (2001) Nat. Immunol. 2, 957-961; Dembic, Z. et al. (1986) Nature 320, 232-238)。
【0019】
ヒトにおけるTCR遺伝子治療の実施可能性は、最近、Rosenbergおよび彼のグループにより、悪性黒色腫の処置に関する臨床治験において実証された。メラノーマ/メラノサイト抗原特異的TCRをレトロウイルスを用いて形質導入した自己リンパ球の養子移入は、処置を受けたメラノーマ患者の最大30%に癌退縮をもたらした(Morgan, R.A. et al. (2006) Science 314, 126-129; Johnson, L.A. et al. (2009) Blood 114, 535-546)。
【0020】
キメラ抗原受容体
キメラ抗原受容体(CAR)は、モノクローナル抗体の一本鎖可変フラグメント(scFv)とT細胞活性化のための1以上のシグナル伝達ドメインからなる細胞内部分を結合させて作製された受容体である。CARは、非MHC拘束性様式で天然抗原を認識し、それゆえに、そのHLAタイプが何であっても全ての個体に使用可能であり、それらはCD4+T細胞ならびにCD8+T細胞において機能する。
【0021】
過去10年間に、種々の細胞表面腫瘍抗原のパネルを標的にして、多数のCARが報告されている。それらの生物学的機能は、第2世代のCARと呼ばれる、三者間(tripartite)受容体(scFv、CD28、CD3ζ)をもたらす共刺激ドメインの組み込みによって劇的に改善された。第3世代のCARは、修飾されたT細胞の増殖能力および持続性を増強するために、OX40および4-1BBなどの共刺激分子のさらなるドメインを包含する(
図2)。
【0022】
抗原特異的免疫療法の標的構造
複数の腫瘍関連抗原(TAA)の発見が、抗原特異的免疫療法の概念の基礎になっている(Novellino, L. et al. (2005) Cancer Immunol. Immunother. 54, 187-207)。TAAは、その遺伝的不安定性のために腫瘍細胞上に発現される異常なタンパク質であり、正常細胞では発現されないか、または発現が限定されている。これらのTAAは、免疫系による悪性細胞の特異的認識につながり得る。
【0023】
自己腫瘍特異的T細胞(van der Bruggen, P. et al. (1991) Science 254, 1643-1647)または循環抗体(Sahin, U. et al. (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 92, 11810-11813)を用いる腫瘍由来cDNA発現ライブラリーのスクリーニング、TAAの分子クローニング、逆免疫学的アプローチ、生化学的方法(Hunt, D.F. et al. (1992) Science 256, 1817-1820)、遺伝子発現解析、またはインシリコ・クローニング戦略(Helftenbein, G. et al. (2008) Gene 414, 76-84)によるTAAの分子クローニングにより、免疫療法的戦略のための標的候補が、かなりの数、もたらされている。TAAは、分化抗原、過剰発現抗原、腫瘍特異的スプライス変異体、変異型(mutated)遺伝子産物、ウイルス抗原、および癌精巣抗原(CTA)を含む、いくつかのカテゴリーに分類される。癌精巣ファミリーは、その発現が精巣および多数の異なる腫瘍体(entities)に制限されているので、極めて有望なTAAのカテゴリーである(Scanlan, M.J. et al. (2002) Immunol. Rev. 188, 22-32)。現在までに、50個を超えるCT遺伝子が報告されており(Scanlan, M.J. et al. (2004) Cancer Immun. 4, 1)、そのうちのいくつかは臨床治験において試験されている(Adams, S. et al. (2008) J. Immunol. 181, 776-784; Atanackovic, D. et al. (2004) J. Immunol. 172, 3289-3296; Chen, Q. et al. (2004) Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A 101, 9363-9368; Connerotte, T. et al. (2008). Cancer Res. 68, 3931-3940; Davis, I.D. et al. (2004) Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A 101, 10697-10702; Jager, E. (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A 97, 12198-12203; Marchand, M. et al. (1999) Int. J. Cancer 80, 219-230; Schuler-Thurner, B. et al. (2000) J. Immunol. 165, 3492-3496)。
【0024】
免疫療法的アプローチのための魅力的な標的構造の数はますます増えているにもかかわらず、所定のHLA拘束性を有する特異的T細胞クローンまたはT細胞株は、そのうちのわずかなものについてしか存在しない(Chaux, P. et al. (1999) J. Immunol. 163, 2928-2936;Zhang, Y. et al. (2002) Tissue Antigens 60, 365-371;Zhao, Y. et al. (2005)J. Immunol. 174, 4415-4423)。
【0025】
クローディンは、上皮と内皮との密着結合部に位置する内在性膜タンパク質である。クローディンは、2つの細胞外ループを有する4つの膜貫通領域、ならびに細胞質中に位置するN末端およびC末端を有すると予測されている。膜貫通タンパク質のクローディン(CLDN)ファミリーは、上皮および内皮の密着結合部の維持において重要な役割を果たしており、細胞骨格の維持および細胞シグナル伝達にも関与している可能性がある。
【0026】
CLDN18は、クローディンファミリーに属し、密着結合部の形成に関与する4つの膜貫通ドメインを有する細胞表面分子である(Tsukita S, Nat Rev Mol Cell Biol 2001; 2:285-93)。ヒトCLDN18遺伝子は、N末端の69アミノ酸が異なり(Niimi T, MolCellBiol 2001;21:7380-90)、第1の細胞外ループを含む、2つのタンパク質アイソフォーム(CLDN18.1およびCLDN18.2)を生じる、2つの代替的な第1エクソンを有する(
図4A)。制限された組織セットの転写プロファイリングにより、これらのアイソフォームは、CLDN18.1が肺組織で主に発現され、一方、CLDN18.2が胃特異性を示す、異なる分化系列決定を有することが示されている。CLDN18.2発現は、胃粘膜の短寿命分化上皮細胞に限られ、胃幹細胞ゾーンおよび他の健康な組織には存在しない。CLDN18.2発現は、胃食道、膵臓および他の癌に関連している(
図4B、C; Sahin U et al., Clin Cancer Res 2008;14:7624-34; Karanjawala ZE et al., Am J Surg Pathol 2008;32:188-96;)。この標的に対する組換えmAbは、現在、第II相臨床治験中であるが、T細胞ベースの治療アプローチの標的としてのCLDN18.2の評価は、未だに明確でない。
【0027】
腫瘍におけるCLDN18.2の高頻度過剰発現は、この分子を、ワクチン療法剤および治療抗体などのCLDN18.2に指向した治療剤の開発のための極めて魅力的な標的とみなす。しかしながら、今まで、HLA-A*2拘束性CLDN18.2 T細胞エピトープおよびT細胞受容体またはCLDN18.2を標的とするCARは記載されておらず、CLDN18.2を発現する癌細胞が、能動的または受動的免疫化アプローチを用いてT細胞を含む免疫療法によってインビボで標的化され得るかどうかは分かっていない。
【発明の概要】
【0028】
本発明の説明
発明の概要
本発明は、特に、罹患細胞などの細胞の表面上に存在するか、または罹患細胞もしくは抗原提示細胞などの表面上に提示されるとき、腫瘍関連抗原CLDN18.2に特異的なT細胞受容体および人工T細胞受容体、ならびにこれらのT細胞受容体により認識されるエピトープ、すなわち、CLDN18.2-T細胞エピトープを含むペプチドに関する。
【0029】
そのようなT細胞受容体または人工T細胞受容体を発現するよう操作されたT細胞の養子移入により、CLDN18.2を発現する癌細胞を特異的に標的化することができ、それにより、癌細胞の選択的破壊をもたらし得る。さらに、本発明により提供されるT細胞エピトープは、CLDN18.2を発現する癌に対するワクチンの設計に有用である。
【0030】
一側面において、本発明は、配列番号2、3、4、5、6および7からなる群より選択されるアミノ酸配列または該アミノ酸配列の変異体を含むペプチドに関する。一態様において、該ペプチドは、100以下、50以下、20以下または10以下のアミノ酸長である。一態様において、ペプチドは、配列番号2、3、4、5、6および7からなる群より選択されるアミノ酸配列または該アミノ酸配列の変異体からなるペプチドを産生するように処理することができる。一態様において、ペプチドは、配列番号2、3、4、5、6および7からなる群より選択されるアミノ酸配列または該アミノ酸配列の変異体からなる。
【0031】
一態様において、ペプチドは、MHCクラスIもしくはクラスII提示ペプチドであり、好ましくはMHCクラスI提示ペプチドであるか、または、細胞内に存在するとき、MHCクラスIもしくはクラスII提示ペプチド、好ましくはMHCクラスI提示ペプチドである、そのプロセシング産物を作製するように処理され得る。好ましくは、該MHCクラスIまたはクラスII提示ペプチドは、所定のアミノ酸配列、すなわち、配列番号2、3、4、5、6および7からなる群より選択されるアミノ酸配列または該アミノ酸配列の変異体に実質的に対応する配列を有する。好ましくは、本発明のペプチドは、クラスI MHCと共にCLDN18.2の提示を特徴とする細胞に関する疾患に対する細胞応答を刺激することができる。
【0032】
さらなる側面において、本発明は、本発明のペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸および該核酸を含む細胞に関する。核酸は、組換え核酸であり得る。核酸は、プラスミドまたは発現ベクター中に存在してよく、プロモーターと作動可能に連結されていてよい。一態様において、核酸はRNAである。好ましくは、細胞は、該ペプチドを発現する。細胞は、組換え細胞であってよく、コードされたペプチドまたはそのプロセシング産物を分泌可能であり、表面上にそれを発現可能であり、そして好ましくは、該ペプチドまたはそのプロセシング産物に結合し、好ましくは、該ペプチドまたはそのプロセシング産物を細胞表面上に提示する、MHC分子をさらに発現することができ、ことができる。一態様において、細胞は、MHC分子を内因的に発現する。さらなる態様において、細胞は、組換え法でMHC分子および/またはペプチドを発現する。細胞は、好ましくは、非増殖性である。好ましい態様において、細胞は、抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球またはマクロファージである。
【0033】
さらなる側面において、本発明は、本発明のペプチドまたはそのプロセシング産物を提示する細胞に関し、ここで、該プロセシング産物は、好ましくは、所定のアミノ酸配列、すなわち、配列番号2、3、4、5、6および7からなる群より選択されるアミノ酸配列または該アミノ酸配列の変異体を有するペプチドである。一態様において、該細胞は、本発明のペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸を含む細胞である。好ましくは、該細胞は、該ペプチドを産生するように該核酸を発現する。必要に応じで、該細胞は、配列番号2、3、4、5、6および7からなる群より選択されるアミノ酸配列または該アミノ酸配列の変異体からなるペプチドを産生するように該ペプチドをプロセシングする。細胞は、その表面上にMHC分子によりペプチドまたはそのプロセシング産物を提示することができる。一態様において、細胞は、MHC分子を内因的に発現する。さらなる態様において、細胞は、MHC分子を組換え的に発現する。一態様において、細胞にペプチドを添加することにより、細胞のMHC分子にペプチドを負荷(パルスして)させる。細胞は、ペプチドを組換え的に発現し、該ペプチドまたはそのプロセシング産物を細胞表面上に提示し得る。細胞は、好ましくは非増殖性である。好ましい態様において、細胞は、樹状細胞、単球またはマクロファージなどの抗原提示細胞である。
【0034】
さらなる側面において、本発明は、特に、罹患細胞のような細胞の表面上に提示されるとき、本発明のペプチドと反応性である免疫反応性細胞に関する。免疫反応性細胞は、ペプチドを認識するためにインビトロで感作された細胞であってもよい。免疫反応性細胞は、T細胞、好ましくは細胞傷害性T細胞であってもよい。好ましくは、免疫反応性細胞は、特に罹患細胞のような細胞の表面上のMHCのようなMHCに結合したとき、所定のアミノ酸配列に実質的に対応する配列、すなわち、配列番号2、3、4、5、6および7からなる群より選択されるアミノ酸配列または該アミノ酸配列の変異体に結合する。
【0035】
さらなる側面において、本発明は、MHC分子と複合体を形成していてよい本発明のペプチドに結合する結合剤に関する。
【0036】
さらなる側面において、本発明は、MHC分子と複合体を形成していてよい本発明のペプチドに結合し、好ましくは該ペプチドと反応性のT細胞受容体、または該T細胞受容体のポリペプチド鎖である。一態様において、該T細胞受容体のポリペプチド鎖は、T細胞受容体α鎖またはT細胞受容体β鎖である。
【0037】
さらなる側面において、本発明は、T細胞受容体α鎖または該T細胞受容体α鎖を含むT細胞受容体に関し、ここで、該T細胞受容体α鎖は、
(i)配列番号8、10、12、14、16および18からなる群より選択されるT細胞受容体α鎖またはその変異体の少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つ全てのCDR配列を含む、T細胞受容体α鎖、ならびに
(ii)配列番号8、10、12、14、16および18からなる群より選択されるT細胞受容体α鎖配列もしくはそのフラグメント、または該配列もしくはフラグメントの変異体を含むT細胞受容体α鎖
からなる群より選択される。
【0038】
一態様において、該配列番号は、配列番号8、10、14および18からなる群より選択され、該T細胞受容体は、配列番号6のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の変異体を含むペプチドと反応性である。
【0039】
一態様において、該配列番号は、配列番号10、12および14からなる群より選択され、該T細胞受容体は、配列番号7のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の変異体を含むペプチドと反応性である。
【0040】
さらなる側面において、本発明は、T細胞受容体β鎖または該T細胞受容体β鎖を含むT細胞受容体に関し、ここで、該T細胞受容体β鎖は、
(i)配列番号9、11、13、15、17および19からなる群より選択されるT細胞受容体β鎖またはその変異体の少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つ全てのCDR配列を含む、T細胞受容体β鎖、ならびに
(ii)配列番号9、11、13、15、17および19からなる群より選択されるT細胞受容体β鎖もしくはそのフラグメント、または該配列もしくはフラグメントの変異体を含むT細胞受容体β鎖
からなる群より選択される。
【0041】
一態様において、該配列番号は、配列番号9、11、15および19からなる群より選択され、該T細胞受容体は、配列番号6のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の変異体を含むペプチドと反応性である。
【0042】
一態様において、該配列番号は、配列番号11、13および15からなる群より選択され、該T細胞受容体は、配列番号7のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の変異体を含むペプチドと反応性である。
【0043】
さらなる側面において、本発明は、
(I)(i)配列番号xのT細胞受容体α鎖またはその変異体の少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つ全てのCDR配列を含むT細胞受容体α鎖、および
(ii)配列番号x+1のT細胞受容体β鎖またはその変異体の少なくとも1つ、好ましくは2つ、より好ましくは3つ全てのCDR配列を含むT細胞受容体β鎖(ここで、xは、8、10、12、14、16および18からなる群より選択される)
を含むT細胞受容体、および
(II)(i)配列番号xのT細胞受容体α鎖配列もしくはそのフラグメント、または該配列もしくはフラグメントの変異体を含むT細胞受容体α鎖、および
(ii)配列番号x+1のT細胞受容体β鎖配列もしくはそのフラグメント、または該配列もしくはフラグメントの変異体を含むT細胞受容体β鎖(ここで、xは、8、10、12、14、16および18からなる群より選択される)
を含むT細胞受容体
からなる群より選択されるT細胞受容体に関する。
【0044】
一態様において、該xは、8、10、14および18からなる群より選択され、該T細胞受容体は、配列番号6のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の変異体を含むペプチドと反応性である。
【0045】
一態様において、該xは、10、12および14からなる群より選択され、該T細胞受容体は、配列番号7のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の変異体を含むペプチドと反応性である。
【0046】
一態様において、T細胞により発現され、および/またはT細胞上に存在するとき、該T細胞受容体の、癌細胞などの細胞上に提示される上記のCLDN18.2-ペプチドエピトープへの結合は、該T細胞の増殖および/または活性化をもたらし、ここで、該活性化されたT細胞は、好ましくは、細胞毒性因子、例えばパーフォリンおよびグランザイムを放出し、癌細胞の細胞溶解および/またはアポトーシスを開始する。
【0047】
さらなる側面において、本発明は、クローディン-18.2(CLDN18.2)に結合する人工T細胞受容体に関する。一態様において、結合は特異的結合である。
【0048】
一態様において、該CLDN18.2は、癌細胞に発現される。一態様において、該CLDN18.2は、癌細胞上の表面に発現される。一態様において、該人工T細胞受容体は、CLDN18.2の細胞外ドメインに結合するか、またはその細胞外ドメインのエピトープに結合する。一態様において、該人工T細胞受容体は、生細胞の表面上に存在するCLDN18.2の天然エピトープに結合する。一態様において、該人工T細胞受容体は、CLDN18.2の第一の細胞外ループに結合する。一態様において、T細胞によって発現される、および/またはT細胞上に存在するとき、該人工T細胞受容体の、癌細胞などの細胞上に存在するCLDN18.2への結合は、該T細胞の増殖および/または活性化をもたらし、ここで、該活性化されたT細胞は、好ましくは細胞毒性因子、例えばパーフォリンおよびグランザイムを放出し、癌細胞の細胞溶解および/またはアポトーシスを開始する。
【0049】
一態様において、本発明の人工T細胞受容体は、CLDN18.2に対する結合ドメインを含む。一態様において、CLDN18.2の結合ドメインは、該人工T細胞受容体の細胞外ドメインに包含される。一態様において、CLDN18.2の結合ドメインは、CLDN18.2抗体の一本鎖可変フラグメント(scFv)を含む。一態様において、CLDN18.2の結合ドメインは、CLDN18.2に特異性を有する免疫グロブリンの重鎖可変領域(VH)(VH(CLDN18.2))およびCLDN18.2に特異性を有する免疫グロブリンの軽鎖可変領域(VL)(VL(CLDN18.2))を含む。一態様において、該重鎖可変領域(VH)および対応する軽鎖可変領域(VL)は、ペプチドリンカー、好ましくはアミノ酸配列(GGGGS)3を含むペプチドリンカーを介して連結する。一態様において、CLDN18.2の結合ドメインは、配列番号23のアミノ酸配列もしくはそのフラグメント、または該アミノ酸配列もしくはフラグメントの変異体を含むVH(CLDN18.2)を含む。一態様において、CLDN18.2の結合ドメインは、配列番号30のアミノ酸配列もしくはそのフラグメント、または該アミノ酸配列もしくはフラグメントの変異体を含むVL(CLDN18.2)を含む。一態様において、CLDN18.2の結合ドメインは、配列番号23のアミノ酸配列もしくはそのフラグメント、または該アミノ酸配列もしくはフラグメントの変異体を含むVH(CLDN18.2)、ならびに配列番号30のアミノ酸配列もしくはそのフラグメント、または該アミノ酸配列もしくはフラグメントの変異体を含むVL(CLDN18.2)を含む。一態様において、CLDN18.2の結合ドメインは、配列番号35のアミノ酸配列もしくはそのフラグメント、または該アミノ酸配列もしくはフラグメントの変異体を含む。
【0050】
一態様において、CLDN18.2の結合ドメインは、配列番号23に示されるアミノ酸配列もしくはそのフラグメント、または該アミノ酸配列もしくはフラグメントの変異体を含むVH(CLDN18.2)および配列番号30に示されるアミノ酸配列もしくはそのフラグメント、または該アミノ酸配列もしくはフラグメントの変異体を含むVL(CLDN18.2)を含むCLDN18.2の結合ドメインあるいはCLDN18.2に対する抗体と同じかまたは実質的に同じエピトープを認識し、ならびに/あるいは該CLDN18.2-結合ドメインと競合するか、またはCLDN18.2への結合についてCLDN18.2-抗体と競合する。一態様において、該CLDN18.2の結合ドメインは、配列番号35に示されるアミノ酸配列もしくはそのフラグメント、または該アミノ酸配列もしくはフラグメントの変異体を含むCLDN18.2の結合ドメインと同じかまたは実質的に同じエピトープを認識し、ならびに/あるいはCLDN18.2への結合について該CLDN18.2-結合ドメインと競合する。第2の結合ドメインと競合するか、または標的への結合について抗体と競合する結合ドメインは、好ましくは、該第2の結合ドメインまたは抗体に対して拮抗的である。
【0051】
一態様において、本発明の人工T細胞受容体は、膜貫通ドメインを含む。一態様において、膜貫通ドメインは、膜を貫通する疎水性αへリックスである。一態様において、膜貫通ドメインは、CD28膜貫通ドメインまたはそのフラグメントを含む。
【0052】
一態様において、本発明の人工T細胞受容体は、T細胞シグナル伝達ドメインを含む。一態様において、T細胞シグナル伝達ドメインは、細胞内に位置している。一態様において、T細胞シグナル伝達ドメインは、CD3-ζを含み、好ましくはCD3-ζの細胞内ドメインを含み、場合により、CD28と複合体を形成していてよい。一態様において、T細胞シグナル伝達ドメインは、配列番号40のアミノ酸配列もしくはそのフラグメント、または該配列もしくはフラグメントの変異体を含む。
【0053】
一態様において、本発明の人工T細胞受容体は、新生タンパク質の小胞体への輸送を指示するシグナルペプチドを含む。一態様において、シグナルペプチドは、CLDN18.2の結合ドメインに先行する。一態様において、シグナルペプチドは、配列番号37に記載のアミノ酸配列もしくはそのフラグメント、または該配列もしくはフラグメントの変異体を含む。
【0054】
一態様において、本発明の人工T細胞受容体は、CLDN18.2の結合ドメインを膜貫通ドメインに連結するスペーサー領域を含む。一態様において、スペーサー領域は、CLDN18.2の認識を容易にするために、CLDN18.2の結合ドメインが異なる方向に配向するのを可能にする。一態様において、スペーサー領域は、IgG1由来のヒンジ領域を含む。一態様において、スペーサー領域は、配列番号38に記載のアミノ酸配列もしくはそのフラグメント、または該配列もしくはフラグメントの変異体を含む。
【0055】
一態様において、本発明の人工T細胞受容体は、以下の構造を含む:
NH2-シグナルペプチド-CLDN18.2の結合ドメイン-スペーサー領域-膜貫通ドメイン-T細胞シグナル伝達ドメイン-COOH。
【0056】
一態様において、本発明の人工T細胞受容体は、配列番号41に記載のアミノ酸配列もしくはそのフラグメント、または該アミノ酸配列もしくはフラグメントの変異体を含む。
【0057】
上記のT細胞受容体および人工T細胞受容体は、好ましくは、特に、罹患細胞などの細胞の表面上に存在するか、または罹患細胞もしくは抗原提示細胞などの細胞の表面上に提示されるとき、腫瘍関連抗原CLDN18.2に特異的である。
【0058】
本発明のT細胞受容体および人工T細胞受容体は、T細胞などの細胞により発現され、および/またはその表面上に存在し得る。
【0059】
さらなる側面において、本発明は、本発明のT細胞受容体鎖もしくはT細胞受容体または本発明の人工T細胞受容体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸に関する。一態様において、核酸は組換え核酸である。一態様において、核酸は、ベクターの形態またはRNAの形態である。
【0060】
さらなる側面において、本発明は、本発明のT細胞受容体鎖もしくはT細胞受容体または本発明の人工T細胞受容体を含む、および/または本発明のT細胞受容体鎖もしくはT細胞受容体または本発明の人工T細胞受容体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を含む細胞に関する。一態様において、該核酸はRNAであり、好ましくはインビトロで転写されたRNAである。細胞は、本発明のT細胞受容体鎖もしくはT細胞受容体または本発明の人工T細胞受容体を発現する細胞であってよく、および/または本発明のT細胞受容体鎖もしくはT細胞受容体または本発明の人工T細胞受容体をその表面上に有していてよい。一態様において、該細胞は、養子細胞移動に有用な細胞である。細胞は、エフェクターまたは幹細胞であってよく、好ましくは免疫反応性細胞であり得る。免疫反応性細胞は、T細胞、好ましくは細胞傷害性T細胞であり得る。一態様において、免疫反応性細胞は、腫瘍関連抗原CLDN18.2と反応性である。一態様において、該CLDN18.2は、罹患細胞などの細胞の表面上に存在する。一態様において、該CLDN18.2は、罹患細胞または抗原提示細胞などの細胞の表面上に提示され、該免疫反応性細胞は、特にMHCとの関連で提示されるとき、本発明のペプチドと反応性であり、好ましくは所定のアミノ酸配列に実質的に対応する配列、すなわち、配列番号6および7からなる群より選択されるアミノ酸配列または該アミノ酸配列の変異体に結合する。一態様において、該細胞は、内在性TCRの表面発現を欠くか、またはCLDN18.2非関連抗原に特異的である。
【0061】
一態様において、本発明の細胞は、養子細胞移入に用いる前に、抗原特異的増殖および再暴露が行われ、ここで、抗原特異的増殖および再暴露は、好ましくは、CLDN18.2またはそのペプチドフラグメントを提示する自己抗原提示細胞に該細胞を暴露することにより行われ得る。
【0062】
さらなる側面において、本発明は、本発明のT細胞受容体鎖もしくはT細胞受容体または本発明の人工T細胞受容体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸でT細胞を形質導入する工程を含む、免疫反応性細胞の作製方法に関する。
【0063】
さらに、本発明は、一般的に、癌細胞、特にCLDN18.2を発現する癌細胞などの罹患細胞を標的とすることによる疾患の処置法を含む。本方法は、その表面上に腫瘍関連抗原CLDN18.2を発現する、および/または腫瘍関連抗原CLDN18.2を提示する細胞の選択的な排除を提供し、それにより、CLDN18.2を発現しない、および/または提示しない正常細胞への有害作用を最小限にする。従って、治療のための好ましい疾患は、CLDN18.2が発現され、場合によっては提示される疾患、例えば癌疾患、特に本明細書に記載の疾患などである。
【0064】
本発明のペプチド、本発明のペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸または該核酸を含む本発明の細胞が投与されるとき、該処置は、好ましくは、能動免疫化を伴う。好ましくは、CLDN18.2-特異的T細胞は、患者において増殖され、罹患細胞を認識して死滅させることが可能となる。本発明の免疫反応性細胞、本発明のT細胞受容体、本発明の人工T細胞受容体、本発明のT細胞受容体もしくは本発明の人工T細胞受容体をコードするヌクレオチド配列を含む本発明の核酸、または本発明のT細胞受容体もしくは人工T細胞受容体を含む、および/または本発明のT細胞受容体もしくは本発明の人工T細胞受容体をコードするヌクレオチド配列を含む本発明の核酸を含む本発明の細胞が投与されるとき、処置は、好ましくは、受動免疫化を伴う。好ましくは、罹患細胞を認識して死滅させることができ、場合によっては、遺伝子工学的に改変され、および/またはインビトロで増殖された、CLDN18.2-特異的T細胞は、患者に養子移植される。
【0065】
一側面において、本発明は、以下の1以上を含む医薬組成物に関する:
(i)本発明のペプチド;
(ii)本発明の核酸;
(iii)本発明の細胞;
(iv)本発明の免疫反応性細胞;
(v)本発明の結合剤;
(vi)本発明のT細胞受容体;および
(vii)本発明の人工T細胞受容体。
【0066】
本発明の医薬組成物は、薬学的に許容される担体を含んでいてよく、場合により、安定化剤などの1以上のアジュバントを含んでいてよい。医薬組成物は、治療用または予防用ワクチンの形態であってよい。一態様において、医薬組成物は、本明細書に記載の疾患などの癌疾患の処置または予防に使用するためのものである。
【0067】
上記の医薬組成物の投与は、CLDN18.2に対するCD4+ヘルパーT細胞応答および/またはCD8+T細胞応答(その表面上にCLDN18.2を発現する細胞および/またはMHC分子に関してCLDN18.2を提示する細胞を含む)を誘発することができるMHCクラスII提示エピトープを提供し得る。あるいは、またはさらに、上記の医薬組成物の投与は、CLDN18.2に対するCD8+T細胞応答を誘発することができるMHCクラスI提示エピトープを提供することができる。
【0068】
さらなる側面において、本発明は、本発明の医薬組成物を患者に投与することを含む、癌疾患を処置または予防する方法に関する。
【0069】
さらなる側面において、本発明は、治療に使用するための、特に癌の処置または予防に使用するための、本発明のペプチド、本発明の核酸、本発明の細胞、本発明の免疫反応性細胞、本発明の結合剤、本発明のT細胞受容体、または本発明の人工T細胞受容体に関する。
【0070】
別の側面は、本発明の医薬組成物を対象に投与することを含む、対象において免疫応答を誘導するための方法に関する。
【0071】
別の側面は、T細胞を、本発明のペプチド、本発明のペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む本発明の核酸、該核酸を含む本発明の細胞、および/または本発明のペプチドもしくはそのプロセシング産物を提示する本発明の細胞の1以上と接触させることを含む、T細胞を刺激、プライミングおよび/または増殖させるための方法に関する。一態様において、本発明のペプチドは、細胞、例えば抗原提示細胞の表面上に、MHC分子などの分子として提示される。
【0072】
この側面において、本発明は、CLDN18.2特異的T細胞を調製するための方法に関し得る。T細胞は、インビトロまたはインビボで、刺激、プライミングおよび/または増殖され得る。好ましくは、T細胞は、対象から得られたサンプル中に存在する。刺激、プライミングおよび/または増殖させたT細胞は、対象に投与され得て、対象にとって自己、同種異系、同系であり得る。
【0073】
本発明は、対象における免疫応答を誘導するための方法の上記の側面において、またははT細胞を刺激、プライミングおよび/または増殖させるための方法の上記の側面において、対象における癌疾患を処置するための方法に関する。
【0074】
別の側面は、対象において癌細胞を死滅させる方法であって、治療的有効量の本発明のペプチド、本発明の核酸、本発明の細胞、本発明の免疫反応性細胞、本発明の結合剤、本発明のT細胞受容体、または本発明の人工T細胞受容体を対象に提供する工程を含む方法に関する。
【0075】
本明細書に記載の組成物および作用物質(agent)は、好ましくは、CLDN18.2の発現および/またはクラスI MHCと共にCLDN18.2の提示により特徴付けられる疾患、例えば癌疾患に対する細胞性応答、好ましくは細胞傷害性T細胞活性を誘導または促進することができる。
【0076】
一側面において、本発明は、本明細書に記載の処置法における使用のための本明細書に記載の作用物質および組成物を提供する。
【0077】
本明細書に記載の癌疾患の処置は、外科的切除および/または放射線療法および/または従来の化学療法と組み合わせることができる。
【0078】
別の側面において、本発明は、対象における免疫応答を決定するための方法であって、対象から単離された生物学的サンプル中の、本発明のペプチド、または本発明のペプチドもしくはそのプロセシング産物を提示する細胞と反応するT細胞を決定することを含む方法に関する。本方法は、以下の工程を含み得る:
(a)対象から単離されたT細胞を含むサンプルを、
(i)本発明のペプチド;
(ii)本発明のペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む本発明の核酸;および
(iii)該核酸を含む本発明の細胞または本発明のペプチドもしくはそのプロセシング産物を提示する本発明の細胞
の1以上と共にインキュベートすること;および
(b)T細胞の特異的活性化を検出し、そこから該対象における免疫応答の有無を決定すること
を含み得る。
【0079】
本発明は、対象における免疫応答を決定するための方法の上記側面において、対象において癌疾患を診断するための方法に関連し得る。
【0080】
診断方法の一態様において、生物学的サンプルは、組織または臓器が無疾患であるとき、CLDN18.2を細胞が実質的に発現しないような組織または臓器に由来する。
【0081】
一般的に、生物学的サンプル中のT細胞のレベルを対照レベルと比較し、ここでは、該対照レベルからの逸脱が、対象における疾患の存在および/またはステージを示す。対照レベルは、対照サンプル(例えば健常組織または健常対象からのサンプル)において決定されるレベルであるか、または健常対象からの中央値レベルであり得る。該対照レベルからの“逸脱”は、少なくとも10%、20%、または30%、好ましくは少なくとも40%もしくは50%、またはそれ以上の増加などの任意の有意な変化を示す。好ましくは、該生物学的サンプル中のT細胞の存在、または対照レベルと比較して増加している生物学的サンプル中のT細胞の量が、疾患の存在を示す。
【0082】
T細胞は、患者の末梢血、リンパ節、組織サンプル、例えば生検および切除術によって得られるもの、または他の供給源から単離され得る。反応性アッセイは、初代T細胞または他の適当な誘導体で行うことができる。例えばT細胞を融合させてハイブリドーマを作製することができる。T細胞応答性を測定するためのアッセイは、当技術分野において知られており、これには、増殖アッセイおよびサイトカイン放出アッセイが含まれる。
【0083】
反応性T細胞を検出するためのアッセイおよび指標には、IFNγ ELISPOTの使用およびIFNγ 細胞内サイトカイン染色が含まれるが、これらに限定されない。T細胞クローンが特定のペプチドに応答するかどうかを決定するための方法は、当技術分野では、他にも種々知られている。一般的には、ペプチドを、1~3日間に亘って、T細胞の懸濁液に添加する。T細胞の応答は、増殖、例えば標識チミジンの取り込みによって、またはサイトカイン、例えばIL-2の放出によって、測定することができる。放出されたサイトカインの存在の検出には種々のアッセイを利用することができる。T細胞の細胞傷害性アッセイは、抗原に対する特異性を有する細胞傷害性T細胞を検出するために使用することができる。一態様において、細胞傷害性T細胞を、MHCクラスI分子を使って抗原を提示している標的T細胞を殺す能力について試験する。抗原を提示している標的T細胞を標識し、患者サンプルからのT細胞の懸濁液に添加することができる。細胞傷害性は、溶解された細胞からのラベルの放出を定量することによって測定することができる。自発的放出および総放出量に関する対照をアッセイに含めることができる。
【0084】
本発明の一態様において、本明細書に記載の癌は、MHC分子に関して、CLDN18.2を発現する、および/またはCLDN18.2を提示する、癌細胞を含む。本発明の一態様において、罹患細胞は癌細胞である。一態様において、癌細胞などの罹患細胞は、MHC分子に関して、CLDN18.2を発現する、および/またはCLDN18.2を提示する細胞である。一態様において、CLDN18.2の発現は、罹患細胞の表面上である。
【0085】
本発明の一態様において、癌は、腺癌、特に進行した腺癌である。一態様において、癌は、胃癌、食道癌、膵臓癌、非小細胞肺癌(NSCLC)などの肺癌、乳癌、卵巣癌、結腸癌、肝臓癌、頭頸部癌、胆嚢癌およびそれらの転移癌、クルーケンベルグ腫瘍、腹膜播種性転移および/またはリンパ節転移からなる群より選択される。一態様において、癌は、胃癌、食道癌、特に下部食道、食道胃接合部(eso-gastric junction)の癌および胃食道癌からなる群より選択される。一態様において、患者は、HER2/neu陰性患者またはHER2/neu陽性状態であるが、トラスツズマブ治療に適格ではない患者である。
【0086】
本発明の一態様において、癌細胞は、胃癌、食道癌、膵臓癌、非小細胞肺癌(NSCLC)などの肺癌、乳癌、卵巣癌、結腸癌、肝臓癌、頭頸部癌、胆嚢癌およびそれらの転移癌、クルーケンベルグ腫瘍、腹膜播種性転移および/またはリンパ節転移からなる群より選択される癌の癌細胞である。一態様において、癌細胞は、胃癌、食道癌、特に下部食道、食道胃接合部の癌および胃食道癌からなる群より選択される癌の癌細胞である。
【0087】
本発明によれば、CLDN18.2は、好ましくは配列番号1のアミノ酸配列を有する。
【0088】
本発明の他の特徴および利点は、下記の詳細な説明および添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0089】
発明の詳細な説明
本発明を下記で詳細に説明するが、本発明は、本明細書に記載の特定の方法論、プロトコールおよび反応剤(reagent)に限定されるものではなく、変更も可能である。また、本明細書で用いる用語は、特定の態様を説明するためのみ用いられるものであって、本発明の範囲を限定しようとするものではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ規定される。他の定義がない限り、本明細書で用いる技術用語および科学用語は、当業者が一般的に理解している意味と同様の意味を有する。
【0090】
下記に、本発明の構成要素を説明する。これらの要素は特定の態様と共に記載されているが、これらを任意の方法でおよび任意の数で組み合わせてさらなる態様を構成することも可能であることを理解されたい。各種実施例、および好ましい態様は、本発明を明示的に記載された態様に限定するものとして解釈されるべきではない。本説明は、明示的に記載された態様を、任意の数の開示要素および/または好ましい要素と組み合わせた態様を支持し、包含するものであると理解されるべきである。さらに、本願に記載されているすべての要素の変更および組み合わせは、文脈中に別段の記載がない限り、本願の記載により開示されると考えられるべきである。
【0091】
好ましくは、本明細書で用いる用語は、“バイオテクノロジー用語の多言語用語集:(IUPAC Recommendations)”, H.G.W. Leuenberger, B. Nagel, and H. Koelbl, Eds., (1995) Helvetica Chimica Acta, CH-4010 Basel, Switzerlandに記載の通りに定義される。
【0092】
本発明の実施には、特記しない限り、当該分野の文献に説明されている、生化学、細胞生物学、免疫学および組換えDNA技術における常套法を採用するものとする(例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Edition, J. Sambrook et al. eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor 1989を参照のこと)。
【0093】
本明細書および特許請求の範囲を通じて、別途の記載がない限り、用語“~を含む(comprise)”およびその変形表現(“~を含む(comprises)”、“~を含む(comprising)”)は、記載された要素(member)、整数、工程、または要素、整数もしくは工程の群を含むことを意味するが、他の要素、整数、工程、または要素、整数もしくは工程の群を排除するものではないことを意味すると理解されるが、ある態様において、他の要素、整数、工程、または要素、整数もしくは工程の群が排除されてもよく、すなわち、ある主題は、記載された要素、整数、工程、または要素、整数もしくは工程の群を包含してなる。本発明を説明する文脈中(とりわけ、特許請求の範囲の文脈において)用いられる用語“a”、“an”、“the”および類似の表現は、本明細書中他に特記されることなく、または明らかに文脈に矛盾するものでない限り、単数および複数の両方を網羅するものとして解釈する。本明細書中、数値範囲の列挙は、単に、その範囲内の個々の値を個別に参照する簡単な方法として役立つことを意図するものである。本明細書中、他に特記しない限り、個々の値は、本明細書中に個別に引用されるかのように本明細書に組み込まれる。
【0094】
本明細書に記載のすべての方法は、本明細書中他に特記しない限り、または明らかに文脈に矛盾するものでない限り、任意の相応の手順で実施することができる。本明細書に記載されている任意のおよびすべての例または例示表現(例えば、“~のような”)は、単に本発明をよりよく例示するにするためのものであって、特許請求の範囲に記載の本発明の範囲を限定するものではない。本明細書中のいかなる文言も、本発明の実施に必須不可欠な特許請求の範囲に記載されていない要素を示すものとして解釈されるべきではない。
【0095】
本明細書には幾つかの文献を引用している。引用文献(すべての特許、特許出願、科学出版物、製造者の仕様、指示書などを含む)はそれぞれ、上記や下記を問わず、引用により本明細書にその内容全体を包含させる。本明細書中のいかなる文献も、本発明が先行発明の開示前になされていないことを容認するものと解釈されるべきではない。
【0096】
本発明の文脈中、用語“組換え”は、“遺伝子工学によって作られた”ことを意味する。好ましくは、本発明の文脈中、組換え細胞などの“組換え体”は、天然には存在しない。
【0097】
本明細書で用いる用語“天然に存在する”は、対象物が天然にみられるという事実を意味する。例えば、生物(ウイルスを含む)中に存在し、天然の供給源から単離でき、実験室でヒトにより意図的に改変されていないペプチドまたは核酸は、天然に存在するものである。
【0098】
用語“免疫応答”は、抗原に対する統合された身体応答を意味し、好ましくは、細胞性免疫応答または細胞性ならびに体液性免疫応答を意味する。免疫応答は、保護/防御/予防および/または治療的であり得る。
【0099】
“免疫応答を誘発する”とは、特定の抗原に対する免疫応答が誘導前には存在しなかったことを意味し得るが、ある特定の抗原に対する免疫応答が誘導前に一定レベルは存在し、誘導後は該免疫応答が強化されることも意味し得る。従って、“免疫応答を誘導する”には、“免疫応答を強化する”も包含される。好ましくは、対象における免疫応答を誘導した後は、該対象が、癌疾患などの疾患の発症から防御されるか、または免疫応答を誘導することによって該疾患状態が改善される。例えば、ウイルス性疾患を有する患者、またはウイルス性疾患を発症する危険がある対象において、hCMV-pp65などのウイルス抗原に対する免疫応答を誘導することができる。例えば、癌疾患を有する患者、または癌疾患を発症するリスクがある対象において、CLDN18.2などの腫瘍関連抗原に対する免疫応答を誘導することができる。この場合、免疫応答を誘導するとは、対象の疾患状態が改善されること、対象が転移を発症しないこと、または癌疾患を発症するリスクがある対象が癌疾患を発症しないことを意味し得る。
【0100】
“細胞性免疫応答”、“細胞性応答”、“抗原に対する細胞性応答”または類似の用語は、クラスIまたはクラスII MHCによる抗原の提示を特徴とする細胞に向けられた細胞性応答を包含することを意味する。細胞性応答は、‘ヘルパー’または‘キラー’として作用するT細胞またはTリンパ球と呼ばれる細胞に関係する。ヘルパーT細胞(CD4+ T細胞とも呼ばれる)は免疫応答を調節することによって中心的役割を果たし、キラー細胞(細胞傷害性T細胞、細胞溶解性T細胞、CD8+ T細胞またはCTLとも呼ばれる)は、癌細胞などの罹患細胞を死滅させ、さらなる罹患細胞の産生を防止する。
【0101】
用語“抗原”は、免疫応答が産生されるべき、および/または指向されるエピトープを含む作用物質に関する。好ましくは、本発明との関連において抗原とは、場合によってはプロセシング後に、免疫反応(好ましくはその抗原、または該抗原を発現および/もしくは提示する細胞に特異的なもの)を誘導する分子である。抗原は、好ましくは、天然に存在する抗原に対応するか、またはそれに由来する生成物である。そのような天然に存在する抗原は、腫瘍関連抗原を含むか、または腫瘍関連抗原に由来し得る。
【0102】
特に、抗原またはそのペプチドフラグメントは、T細胞受容体により認識可能であるべきである。好ましくは、抗原またはペプチドは、それがT細胞受容体によって認識されるとき、適当な共刺激シグナルの存在下で、その抗原またはペプチドを認識するT細胞受容体を保有するT細胞のクローン拡大を誘導することができる。本発明の態様に関連して、抗原は、好ましくは細胞によって、好ましくは抗原提示細胞および/または罹患細胞によって、MHC分子との関連において提示され、それが、その抗原に対する免疫反応(または抗原を提示する細胞)をもたらし得る。
【0103】
好ましい態様において、抗原は腫瘍関連抗原、すなわち、細胞質、細胞表面および細胞核に由来し得る癌細胞の構成要素、特に、細胞内で、好ましくは大量に産生されるか、または癌細胞上の表面抗原として産生される抗原である。
【0104】
本発明の文脈中、用語“腫瘍関連抗原”または“腫瘍抗原”は、正常な状態では、限られた数の組織および/または臓器において、または特定の発生段階において、特異的に発現するタンパク質に関し、例えば腫瘍関連抗原は、正常な状態では、胃組織、好ましくは胃粘膜において、生殖器官、例えば精巣において、栄養芽層組織、例えば胎盤において、または生殖系列細胞において特異的に発現する場合があり、1以上の腫瘍組織または癌組織において、発現または異常発現される。この文脈において“限られた数”とは、好ましくは、3以下、より好ましくは2以下を意味する。本発明との関連において、腫瘍関連抗原には、例えば、分化抗原、好ましくは細胞タイプ特異的分化抗原、すなわち正常な状態では一定の分化段階にある一定の細胞タイプにおいて特異的に発現するタンパク質、癌/精巣抗原、すなわち正常な状態では精巣および時には胎盤において特異的に発現されるタンパク質、ならびに生殖系列特異的抗原が含まれる。本発明との関連において、腫瘍関連抗原は、好ましくは、癌細胞の細胞表面に付随しており、好ましくは、正常組織では発現しないか、まれにしか発現しない。好ましくは、腫瘍関連抗原または腫瘍関連抗原の異常発現によって、癌細胞が同定される。本発明との関連において、対象、例えば癌に罹患している患者において癌細胞により発現される腫瘍関連抗原は、好ましくは、該対象における自己タンパク質である。好ましい態様において、本発明との関連において、腫瘍関連抗原は、正常な状態では、必須でない組織または臓器、すなわち免疫系による損傷を受けても、対象の死につながらない組織もしくは臓器において、または免疫系が到達できないかほとんど到達できない臓器もしくは身体構造において、特異的に発現する。好ましくは、腫瘍関連抗原のアミノ酸配列は、正常組織において発現する腫瘍関連抗原と癌組織において発現する腫瘍関連抗原との間で同一である。好ましくは、腫瘍関連抗原は、それを発現する癌細胞によって提示される。
【0105】
本発明の種々の側面は、腫瘍関連抗原CLDN18.2を伴い、本発明は、該腫瘍関連抗原を発現し、該腫瘍関連抗原をクラスI MHCと共に提示する、癌細胞に対する抗腫瘍CTL反応の刺激または提供を含み得る。
【0106】
クローディンは、密着結合部の最も重要な構成要素であるタンパク質ファミリーであり、そこで上皮の細胞間の細胞間空間における分子の流れを制御する傍細胞バリアを形成する。クローディンは、N末端およびC末端の両方が細胞質中に位置する、4回膜を貫通する膜貫通タンパク質である。EC1またはECL1と呼ばれる第1の細胞外ループまたはドメインは、平均53アミノ酸からなり、EC2またはECL2と呼ばれる第2の細胞外ループまたはドメインは、約24アミノ酸からなる。CLDN18.2などのクローディンファミリーの細胞表面タンパク質は、種々の起源の腫瘍において発現され、特に、その選択的発現(毒性関連正常組織で発現しない)および細胞膜への局在のために、抗体介在癌免疫療法に関連する標的構造として相応しい。
【0107】
CLDN18.2は、胃粘膜の分化上皮細胞における正常組織で選択的に発現する。CLDN18.2は、膵臓癌、食道癌、胃癌、気管支癌、乳癌、およびENT腫瘍などの種々の起源の癌で発現される。CLDN18.2は、原発腫瘍、例えば胃癌、食道癌、膵臓癌、非小細胞肺癌(NSCLC)などの肺癌、卵巣癌、結腸癌、肝臓癌、頭頸部癌および胆嚢癌、ならびにこれらの転移、その中でも特にクルーケンベルグ腫瘍、腹膜転移およびリンパ節転移などの胃癌転移に対する予防および/または処置のための重要なターゲットである。
【0108】
本明細書で用いる用語“CLDN”は、クローディンを意味し、CLDN18.2を含む。好ましくは、クローディンはヒトクローディンである。
【0109】
用語“CLDN18”は、クローディン18に関連し、クローディン18スプライス変異体1(クローディン18.1(CLDN18.1))およびクローディン18スプライス変異体2(クローディン18.2(CLDN18.2))を含む任意の変異体を含む。
【0110】
用語“CLDN18.2”は、好ましくは、ヒトCLDN18.2に関連し、特に、配列表の配列番号1のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の変異体を含む、好ましくはそれからなるタンパク質に関連する。CLDN18.2の第1の細胞外ループまたはドメインは、好ましくは、配列番号1に示されるアミノ酸配列のアミノ酸27~81を含み、より好ましくは、アミノ酸29~78を含む。CLDN18.2の第2の細胞外ループまたはドメインは、好ましくは、配列番号1に示されるアミノ酸配列のアミノ酸140~180を含む。該第1および第2の細胞外ループまたはドメインは、好ましくは、CLDN18.2の細胞外部分またはドメインを形成する。
【0111】
本発明による“変異体”という用語は、ミュータント(mutant)、スプライス変異体、立体配座(conformation)、アイソフォーム、アレル変異体、種変異体および種ホモログを意味し、特に天然に存在するものを意味する。アレル変異体は、遺伝子の正常配列の変形に関し、その意義は不明であることが多い。完全な遺伝子配列決定を行うと、所与の遺伝子について、しばしば、数多くのアレル変異体が同定される。種ホモログは、所与の核酸またはアミノ酸配列の起源とは異なる種を起源とする核酸またはアミノ酸配列である。用語“変異体”は、翻訳後修飾された変異体および立体配座変異体を包含する。
【0112】
本発明の種々の側面により、好ましくは、CLDN18.2を発現し、好ましくはCLDN18.2の提示によって特徴付けられる癌細胞に対する免疫応答を誘導または決定すること、およびCLDN18.2を発現する細胞を伴う癌疾患を診断、処置または予防することが目的である。好ましくは、免疫応答は、CLDN18.2を発現する、好ましくはクラスI MHCと共にCLDN18.2を提示する、癌細胞に対する抗CLDN18.2 CTL応答の刺激を伴う。
【0113】
本発明により、用語“CLDN18.2を発現する癌”または“CLDN18.2陽性癌”は、好ましくは該癌細胞の表面上にCLDN18.2を発現する癌細胞を含む癌を意味する。あるいは、またはさらに、該CLDN18.2を発現する癌細胞は、MHC分子に関連してCLDN18.2を提示する。MHC分子に関連してCLDN18.2を提示する癌細胞は、T細胞受容体を担持する免疫反応性細胞によって標的化され得るが、一方、表面上にCLDN18.2を発現する癌細胞は、人工T細胞受容体を担持する免疫反応性細胞によって標的化され得る。
【0114】
“細胞表面”は、当技術分野におけるその通常の意味に従って使用され、従って、タンパク質および他の分子による結合にアクセス可能な細胞の外側を含む。
【0115】
CLDN18.2は、それが、細胞の表面に位置し、細胞に添加されたCLDN18.2特異的抗体による結合にアクセス可能であれば、該細胞の表面上に発現される。
【0116】
本発明の文脈中、用語“細胞外部分”または“細胞外ドメイン”は、細胞の細胞外空間に面しており、好ましくは該細胞の外部から、例えば該細胞の外部に位置する抗体などの抗原結合分子によりアクセス可能である、タンパク質などの分子の一部を意味する。好ましくは、この用語は、1以上の細胞外ループまたはドメインもしくはそのフラグメントを意味する。
【0117】
用語“部分”は、断片(fraction)を意味する。アミノ酸配列またはタンパク質などの特定の構造に関して、その“部分”という用語は、該構造の連続的または不連続的断片を示し得る。好ましくは、アミノ酸配列の部分は、該アミノ酸配列のアミノ酸の少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%を含む。好ましくは、部分が不連続断片である場合、該不連続断片は、構造の2、3、4、5、6、7、8個またはそれ以上のパーツから構成され、各パーツはその構造の連続的要素である。例えば、アミノ酸配列の不連続断片は、該アミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8個またはそれ以上の、好ましくは4個以下のパーツから構成されることができ、ここで、各パーツは、好ましくは、該アミノ酸配列の少なくとも5個の連続アミノ酸、少なくとも10個の連続アミノ酸、好ましくは少なくとも20個の連続アミノ酸、好ましくは少なくとも30個の連続アミノ酸を含む。
【0118】
用語“パーツ(part)”および“フラグメント”は、本明細書では互換的に使用され、連続的要素を意味する。例えば、アミノ酸配列またはタンパク質などの構造のパーツとは、該構造の連続的要素を意味する。ある構造の部分、パーツまたはフラグメントは、好ましくは、該構造の1以上の機能的特性を含む。例えば、エピトープ、ペプチドまたはタンパク質の部分、パーツまたはフラグメントは、好ましくは、それが由来するエピトープ、ペプチドまたはタンパク質と免疫学的に等価である。本発明との関連において、アミノ酸配列などの構造の“パーツ”は、好ましくは、その全体構造またはアミノ酸配列の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも96%、少なくとも98%、少なくとも99%を含み、好ましくはそれらからなる。タンパク質配列のパーツまたはフラグメントは、好ましくは、少なくとも6個、特に少なくとも8個、少なくとも12個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも30個、小なくとも50個、または少なくとも100個の連続したアミノ酸の配列を含む。上記の部分、パーツまたはフラグメントは、本明細書において使用する“変異体”という用語に包含される。
【0119】
本発明によれば、発現レベルが胃細胞または胃組織における発現と比較して低い場合、CLDN18.2は、該細胞において実質的に発現されていない。好ましくは、発現レベルは、胃細胞または胃組織における発現の10%未満、好ましくは5%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.1%未満または0.05%未満、あるいはさらにそれ以下である。好ましくは、CLDN18.2は、発現レベルが、胃以外の非癌組織における発現レベルを最大2倍、好ましくは1.5倍超え、好ましくは該非癌組織における発現レベルを超えない場合、細胞内で実質的に発現されていない。好ましくは、CLDN18.2は、発現レベルが検出限界未満である場合、および/または発現レベルが細胞に添加されたCLDN18.2特異的抗体による結合を可能にするには低すぎる場合、細胞において実質的に発現されていない。
【0120】
本発明によれば、CLDN18.2は、発現レベルが胃以外の非癌組織における発現レベルが、好ましくは2倍以上、好ましくは10倍以上、100倍以上、1000倍以上、または10000倍以上である場合、該細胞において発現されている。好ましくは、CLDN18.2は、発現レベルが検出限界を上回る場合、および/または発現レベルが細胞に添加されたCLDN18.2特異的抗体による結合を可能にするのに十分高い場合、細胞内で発現されている。好ましくは、細胞内で発現されるCLDN18.2は、該細胞の表面上に発現または露出されている。
【0121】
“標的細胞”とは、細胞性免疫応答のような免疫応答のための標的の細胞を意味する。標的細胞には、抗原または抗原エピトープを提示する細胞、すなわち抗原に由来するペプチドフラグメントが含まれ、癌細胞のような、任意の望ましくない細胞が含まれる。好ましい態様においては、標的細胞は、好ましくは細胞表面に存在し、および/またはクラスI MHC共に提示されるCLDN18.2を発現する細胞である。
【0122】
用語“エピトープ”は、抗原などの分子中の抗原決定基、すなわち、特にMHC分子との関連で提示されるとき、免疫系、例えば、特にT細胞によって認識される分子の一部またはフラグメントを意味する。腫瘍関連抗原などのタンパク質のエピトープは、好ましくは、該タンパク質の連続または不連続部分を含み、好ましくは5~100、好ましくは5~50、より好ましくは8~30、最も好ましくは10~25のアミノ酸長であり、例えばエピトープは、好ましくは9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24または25アミノ酸長であり得る。特に、本発明の文脈において、エピトープはT細胞エピトープであることが好ましい。
【0123】
“エピトープ”、“抗原フラグメント”、“抗原ペプチド”または“免疫原性ペプチド”などの用語は、本明細書中、互換的に用いられ、好ましくは、抗原の不完全な表現であって、好ましくはその抗原またはその抗原を発現する細胞もしくはその抗原を含む細胞および好ましくはその抗原を提示する細胞に対する免疫応答を誘発し得るものに関する。好ましくは、これらの用語は、抗原の免疫原性部分に関する。好ましくは、これは抗原のうち、特にMHC分子との関連において提示された場合に、T細胞受容体によって認識される(すなわち特異的に結合される)部分である。一定の好ましい免疫原性部分は、細胞の表面上などのMHCクラスIまたはクラスII分子に結合し、従って、MHC結合ペプチドである。本明細書で用いるペプチドは、そのような結合が当技術分野において知られている任意のアッセイを使って検出可能であるならば、MHCクラスIまたはクラスII分子“に結合する”と言われる。
【0124】
好ましくは、配列番号2、3、4、5、6および7からなる群より選択されるアミノ酸配列または該アミノ酸配列の変異体を含む本明細書に記載のペプチドは、免疫応答、好ましくはCLDN18.2またはCLDN18.2の発現を特徴とする細胞(好ましくはCLDN18.2の提示を特徴とする細胞)に対する細胞応答を刺激する能力を有する。好ましくは、かかるペプチドは、クラスI MHCと共にCLDN18.2の提示を特徴とする細胞に対する細胞性応答を刺激する能力を有し、好ましくは、CLDN18.2応答性CTLを刺激する能力を有する。好ましくは、本発明のペプチドは、MHCクラスIおよび/またはクラスII提示ペプチドであるか、またはプロセシングを受けてMHCクラスIおよび/またはクラスII提示ペプチドを生成することができる。好ましくは、MHC分子に結合する配列は、配列番号2、3、4、5、6および7から選択される。
【0125】
抗原ペプチドを直接的に、すなわちプロセシングを受けずに、特に切断されずに、提示させる場合、それは、MHC分子、特にクラスI MHC分子への結合に適した長さを有し、好ましくは7~20アミノ酸長、より好ましくは7~12アミノ酸長、より好ましくは8~11アミノ酸長、特に9または10アミノ酸長である。好ましくは、直接提示させる抗原ペプチドの配列は、配列番号2、3、4、5、6および7から選択される配列に実質的に対応し、好ましくはその配列と完全に同一である。
【0126】
抗原ペプチドを、プロセシング後に、特に切断後に提示させる場合、プロセシングによって生成するペプチドは、MHC分子、特にクラスI MHC分子への結合に適した長さを有し、好ましくは7~20アミノ酸長、より好ましくは7~12アミノ酸長、より好ましくは8~11アミノ酸長、特に9または10アミノ酸長である。好ましくは、プロセシング後に提示させるペプチドの配列は、配列番号2、3、4、5、6および7から選択される配列に実質的に対応し、好ましくはその配列と完全に同一である。したがって、本発明の抗原ペプチドは、一態様において、配列番号2、3、4、5、6および7から選択される配列を含み、抗原ペプチドのプロセシング後に、配列番号2、3、4、5、6および7から選択される配列を構成する。
【0127】
MHC分子によって提示されるペプチドの配列に実質的に対応するアミノ酸配列を有するペプチドは、MHCによって提示されるペプチドのTCR認識にとって、またはMHCへのペプチド結合にとって必須ではない1以上の残基が異なっていてもよい。そのような実質的に対応するペプチドは、好ましくは、抗原特異的CTLなどの抗原特異的細胞性応答を刺激する能力も有する。提示されるペプチドとのアミノ酸配列の相違が、TCR認識には影響を及ぼさないがMHCへの結合の安定性を改善する残基にあるペプチドは、抗原ペプチドの免疫原性を改善する場合があり、本明細書ではこれらを“最適化されたペプチド”と称する。これらの残基のうちどれがMHCまたはTCRへの結合に影響を及ぼす可能性が高いかに関する既存の知識を用いることで、実質的に対応するペプチドを設計するために、合理的なアプローチを使用することができる。結果として得られた機能的なペプチドは、抗原ペプチドであると考えられる。上で議論した配列は、本明細書において用いる用語“変異体”に包含される。
【0128】
“抗原プロセシング”とは、細胞、好ましくは抗原提示細胞によって特異的T細胞に提示するための、抗原の、該抗原のフラグメントであるプロセシング産物への分解(例えばタンパク質の、ペプチドへの分解)およびこれらのフラグメントの1以上の(例えば、結合による)MHC分子との結合を意味する。
【0129】
抗原提示細胞(APC)は、抗原を主要組織適合遺伝子複合体(MHC)との関連においてその表面上に提示する細胞である。T細胞は、そのT細胞受容体(TCR)を用いて、この複合体を認識し得る。抗原提示細胞は、抗原をプロセシングし、それらをT細胞に提示する。
【0130】
プロフェッショナル抗原提示細胞は、極めて効率よく、貪食によって、または受容体介在性エンドサイトーシスによって、抗原を細胞内に取り込み、次いで、MHCクラスII分子に結合した抗原のフラグメントを、その膜上に提示する。T細胞は、抗原提示細胞の膜上の抗原-MHCクラスII分子複合体を認識し、それと相互作用する。次に、追加の共刺激シグナルが抗原提示細胞によって生産され、それがT細胞の活性化をもたらす。共刺激分子の発現は、プロフェッショナル抗原提示細胞の決定的特徴である。抗原提示細胞には、プロフェッショナル抗原提示細胞と非プロフェッショナル抗原提示細胞が含まれる。
【0131】
プロフェッショナル抗原提示細胞の主なタイプは、抗原提示の範囲が最も広く、おそらく最も重要な抗原提示細胞である樹状細胞、マクロファージ、B細胞、および特定の活性化上皮細胞である。
【0132】
非プロフェッショナル抗原提示細胞は、ナイーブT細胞との相互作用に必要なMHCクラスIIタンパク質を構成的には発現せず、これらは、IFNγなどの特定のサイトカインによって非プロフェッショナル抗原提示細胞が刺激された時にのみ発現する。
【0133】
樹状細胞(DC)は、末梢組織において捕捉された抗原をMHCクラスII抗原提示経路およびMHCクラスI抗原提示経路の両方によってT細胞に提示する白血球集団である。樹状細胞が免疫応答の強力な誘導因子(inducer)であり、これらの細胞の活性化が、抗腫瘍免疫の誘導にとって重要なステップであることは、よく知られている。
【0134】
樹状細胞およびその前駆細胞は、末梢血、骨髄、腫瘍浸潤細胞、腫瘍周囲組織浸潤細胞、リンパ節、脾臓、皮膚、臍帯血または何らかの他の適切な組織もしくは体液から得ることができる。例えば、樹状細胞は、末梢血から収穫された単球の培養物にM-CSF、IL-4、IL-13および/またはTNFaなどのサイトカインの組合せを添加することによって、エクスビボで分化させることができる。あるいは、末梢血、臍帯血または骨髄から収穫されたCD34陽性細胞を、GM-CSF、IL-3、TNFα、CD40リガンド、LPS、flt3リガンド、ならびに/または樹状細胞の分化、成熟および増殖を誘導する他の化合物(複数可)の組合せを培養培地に添加することによって、樹状細胞に分化させてもよい。
【0135】
樹状細胞は、便宜上、“未成熟”細胞と“成熟”細胞とに分類され、これを、2つの詳しく特徴づけられた表現型を見分ける簡便な方法として用いることができる。しかしながら、この命名を、可能性のある全ての分化の中間段階を排除するものであると解釈してはならない。
【0136】
未成熟樹状細胞は、高い抗原取り込みおよびプロセシング能力(これはFcγ受容体およびマンノース受容体の高発現と相関する)を有する抗原提示細胞と特徴づけられる。成熟表現型は、一般的には、これらのマーカーの低発現と、クラスIおよびクラスII MHC、接着分子(例えば、CD54およびCD11)および共刺激分子(例えば、CD40、CD80、CD86および4-1 BB)などといったT細胞活性化を担う細胞表面分子の高発現とにより特徴付けられる。
【0137】
樹状細胞成熟とは、その抗原提示樹状細胞がT細胞プライミングにつながるような樹状細胞活性化の状態を意味し、一方、未成熟樹状細胞による提示は免疫寛容をもたらす。樹状細胞成熟は、主として、自然免疫系受容体によって検出される微生物特徴を有する生体分子(細菌DNA、ウイルスRNA、エンドトキシンなど)、炎症誘発性サイトカイン(TNF、IL-1、IFN)、CD40Lによる樹状細胞表面上のCD40のライゲーション、およびストレス性細胞死を起こしている細胞が放出する物質によって引き起こされる。樹状細胞は、骨髄細胞をインビトロで、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)および腫瘍壊死因子アルファなどのサイトカイン類と共に培養することによって誘導することができる。
【0138】
抗原提示細胞または標的細胞などの細胞には、細胞にペプチドを曝露、すなわちパルスすることによって、または提示されるべきペプチドもしくは提示されるべきペプチドを含むタンパク質をコードする核酸、好ましくはRNA、例えば抗原をコードする核酸を、細胞に形質導入することによって、MHCクラスI提示ペプチドを負荷することができる。
【0139】
ある態様において、本発明の医薬組成物は、抗原ペプチドを負荷された抗原提示細胞を含む。この点において、プロトコールは、抗原ペプチドを人工的に提示するような形で操作された樹状細胞のインビトロでの培養/分化に依るものであり得る。遺伝子改変された樹状細胞の生産は、抗原または抗原ペプチドをコードする核酸の、樹状細胞への導入を伴いうる。mRNAによる樹状細胞のトランスフェクションは、強い抗腫瘍免疫を刺激する有望な抗原負荷技術である。そのようなトランスフェクションはエクスビボで行うことができ、その場合は、そのようなトランスフェクト細胞を含む医薬組成物を治療目的に用いることができる。あるいは、樹状細胞または他の抗原提示細胞を標的とする遺伝子送達ビークルを患者に投与して、インビボでトランスフェクションを起こさせてもよい。樹状細胞のインビボおよびエクスビボでのトランスフェクションは、例えば、一般的に、当技術分野において知られている方法、例えばWO97/24447に記載の方法、またはMahvi et al., Immunology and cell Biology 75: 456-460, 1997に記載されている遺伝子銃アプローチなどを使って行うことができる。樹状細胞の抗原負荷は、樹状細胞または前駆細胞を、抗原、DNA(裸のDNAまたはプラスミドベクター内のDNA)またはRNAと共に、または抗原を発現する組換え細菌もしくはウイルス(例えばワクシニア、鶏痘、アデノウイルスまたはレンチウイルスベクター)と共にインキュベートすることによって達成することができる。
【0140】
用語“免疫原性”は、免疫反応を誘導する抗原の相対的効率に関する。
【0141】
本発明との関連において、用語“免疫エフェクター機能”は、免疫系の構成成分によって介在される機能であって、例えば腫瘍細胞の死滅をもたらすもの、または腫瘍の播種および転移の阻害を含む腫瘍成長の阻害および/または腫瘍発生の阻害をもたらすものが含まれる。好ましくは、本発明との関連において、免疫エフェクター機能は、T細胞が介在するエフェクター機能である。そのような機能は、ヘルパーT細胞(CD4+ T細胞)の場合であれば、MHCクラスII分子との関連における抗原または抗原に由来する抗原ペプチドのT細胞受容体による認識、サイトカインの放出、ならびに/またはCD8+ リンパ球(CTL)および/またはB細胞の活性化を含み、CTLの場合であれば、MHCクラスI分子との関連における抗原または抗原に由来する抗原ペプチドのT細胞受容体による認識、MHCクラスI分子との関連において提示された細胞の、すなわちクラスI MHCによる抗原の提示を特徴とする細胞の、例えばアポトーシスもしくはパーフォリン介在性細胞溶解による排除、IFN-γおよびTNF-αなどのサイトカインの生産、および抗原を提示する標的細胞の特異的な細胞溶解的死滅を含む。
【0142】
本発明との関連において、用語“免疫反応性細胞”は、免疫反応中にエフェクター機能を発揮する細胞に関する。“免疫反応性細胞”は、好ましくは、細胞の表面上に発現される抗原または抗原もしくは抗原に由来する抗原ペプチドの提示を特徴とする細胞に結合して、免疫応答に介在する能力を有する。例えば、そのような細胞は、サイトカインおよび/またはケモカインを分泌し、微生物を殺し、抗体を分泌し、感染細胞またはがん性細胞を認識し、場合によってはそのような細胞を排除する。例えば免疫反応性細胞には、T細胞(細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、腫瘍浸潤T細胞)、B細胞、ナチュラルキラー細胞、好中球、マクロファージ、および樹状細胞が含まれる。好ましくは、本発明との関連において、“免疫反応性細胞”は、T細胞、好ましくはCD4+および/またはCD8+ T細胞である。
【0143】
好ましくは、“免疫反応性細胞”は、抗原または抗原に由来する抗原ペプチドを、特にそれが抗原提示細胞または癌細胞などの罹患細胞の表面上などにMHC分子との関連において提示されている場合には、ある程度の特異性を持って認識する。好ましくは、該認識は、抗原または該抗原に由来する抗原ペプチドを認識する細胞が、応答性または反応性であることを可能にする。細胞が、MHCクラスII分子との関連において抗原または抗原に由来する抗原ペプチドを認識する受容体を担持するヘルパーT細胞(CD4+ T細胞)である場合、かかる応答性または反応性は、サイトカインの放出ならびに/またはCD8+ リンパ球(CTL)および/またはB細胞の活性化を伴い得る。細胞がCTLである場合、かかる応答性または反応性は、MHCクラスI分子との関連において提示された細胞、すなわちクラスI MHCによる抗原の提示を特徴とする細胞の、例えばアポトーシスまたはパーフォリン介在性細胞溶解などによる排除を伴い得る。本発明によれば、CTL応答性には、持続的カルシウム流束、細胞分裂、IFN-γおよびTNF-αなどのサイトカインの生産、CD44およびCD69などの活性化マーカーの上方制御、ならびに抗原発現標的細胞の特異的な細胞溶解的死滅が含まれ得る。CTL応答性はまた、CTL応答性を正確に示す人工的レポーターを用いて決定することもできる。抗原または抗原に由来する抗原ペプチドを認識し、応答性または反応性であるそのようなCTLを、本明細書中、“抗原応答性CTL”とも言う。細胞がB細胞である場合、かかる応答性は、免疫グロブリンの放出を伴い得る。
【0144】
本発明によれば、用語“免疫反応性細胞”は、適当な刺激によって免疫細胞(例えば、T細胞、特にTヘルパー細胞、または細胞溶解性T細胞)へと成熟することができる細胞も包含する。免疫反応性細胞には、CD34+造血幹細胞、未熟および成熟T細胞ならびに未熟および成熟B細胞が含まれる。抗原を認識する細胞溶解性細胞またはTヘルパー細胞の生産が望まれるとき、免疫反応性細胞を、抗原または抗原ペプチドを提示している細胞と、細胞溶解性T細胞およびTヘルパー細胞の生産、分化および/または選択に有利な条件下で接触させる。抗原に曝露された時のT細胞前駆体の、細胞溶解性T細胞への分化は、免疫系のクローン選択と同様である。
【0145】
“リンパ球様細胞”は、場合によっては好適な修飾後に、例えばT細胞受容体の移入後に、細胞性免疫応答などの免疫応答を生じる能力を有する細胞、またはそのような細胞の前駆細胞であり、これには、リンパ球、好ましくはTリンパ球、リンパ芽球、および形質細胞が含まれる。リンパ球様細胞は、本明細書に記載の免疫反応性細胞であり得る。好ましいリンパ球様細胞は、T細胞受容体の内在性発現を欠き、細胞表面にそのようなT細胞受容体を発現するように修飾され得るT細胞である。
【0146】
用語“T細胞”および“Tリンパ球”は、本明細書中、互換的に用いられ、これには、Tヘルパー細胞(CD4+T細胞)および細胞溶解性T細胞を含む細胞傷害性T細胞(CTL、CD8+ T細胞)が含まれる。
【0147】
T細胞は、リンパ球として知られている白血球細胞群に属し、細胞介在性免疫において中心的な役割を果たしている。これらは、その細胞表面上にT細胞受容体(TCR)と呼ばれる特別な受容体が存在することで、B細胞およびナチュラルキラー細胞などの他のリンパ球タイプとは区別され得る。胸腺は、T細胞のT細胞成熟を担う主要臓器である。T細胞にはいくつかの異なるサブセットが発見されており、それぞれが独特な機能を有している。
【0148】
Tヘルパー細胞は、数ある機能の中でも、B細胞の形質細胞への成熟ならびに細胞傷害性T細胞およびマクロファージの活性化を含む免疫学的過程において、他の白血球細胞を支援する。これらの細胞は、その表面にCD4タンパク質を発現するので、CD4+ T細胞としても知られている。ヘルパーT細胞は、抗原提示細胞(APC)の表面上に発現されたMHCクラスII分子によってペプチド抗原を提示されると、活性型になる。ひとたび活性化されると、それらは迅速に分裂し、能動免疫応答を調節または支援するサイトカインと呼ばれる小さなタンパク質を分泌する。
【0149】
細胞傷害性T細胞は、ウイルス感染細胞および腫瘍細胞を破壊し、移植拒絶とも関連付けられている。これらの細胞は、その表面にCD8糖タンパク質を発現するので、CD8+ T細胞としても知られている。これらの細胞は、身体のほぼ全ての細胞の表面上に存在するMHCクラスIと会合した抗原に結合することによって、その標的を認識する。
【0150】
ほとんどのT細胞は、数個のタンパク質の複合体として存在するT細胞受容体(TCR)を有する。実際のT細胞受容体は、2つの別個のペプチド鎖から構成され、これらのペプチド鎖は、独立したT細胞受容体アルファおよびベータ(TCRαおよびTCRβ)遺伝子から生産され、α-TCR鎖およびβ-TCR鎖と呼ばれる。γδT細胞(ガンマデルタT細胞)は、異なるT細胞受容体(TCR)をその表面上に担持するT細胞の小さなサブセットを表す。ただし、γδT細胞では、TCRが1本のγ鎖と1本のδ鎖で構成されている。このグループのT細胞は、αβT細胞よりも、はるかに少ない(全T細胞の2%)。
【0151】
T細胞受容体の構造は、組み合わされた抗体アームの軽鎖および重鎖と定義される領域である、免疫グロブリンFabフラグメントによく似ている。TCRの各鎖は、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであり、1つのN-末端可変(V)ドメイン、1つの定常(C)ドメイン、膜貫通/細胞膜貫通領域、およびC末端の短い細胞質テールを有する。
【0152】
本発明によれば、用語“T細胞受容体の可変領域”は、TCR鎖の可変ドメインに関する。
【0153】
TCRα鎖およびβ鎖の両方の可変ドメインは、どちらも3つの超可変領域または相補性決定領域(CDR)を有するのに対し、β鎖の可変領域は、通常は抗原と接触せず、それゆえにCDRとはみなされない、さらにもう1つの超可変性領域(HV4)を有している。CDR3は、プロセシングされた抗原の認識を担う主なCDRであるが、α鎖のCDR1も、抗原性ペプチドのN末端部分と相互作用することが示されており、他方、β鎖のCDR1はペプチドのC末端部分と相互作用する。CDR2はMHCを認識すると考えられている。β鎖のCDR4は、抗原認識に参加するとは考えられていないが、スーパー抗原と相互作用することが示されている。
【0154】
本発明によれば、“CDR配列の少なくとも1つ”という用語は、好ましくは、少なくともCDR3配列を意味する。“T細胞受容体鎖のCDR配列”という用語は、好ましくは、T細胞受容体のα鎖またはβ鎖のCDR1、CDR2およびCDR3に関する。
【0155】
TCRドメインの定常ドメインは、システイン残基がジスルフィド結合を形成している短い連結(connecting)配列からなり、2本の鎖の間の結合を形成している。
【0156】
全てのT細胞は、骨髄中の造血幹細胞から派生する。造血幹細胞に由来する造血前駆細胞は、胸腺に集合し、細胞分裂によって増殖して、未成熟胸腺細胞の大きな集団を作製する。最初期の胸腺細胞は、CD4もCD8も発現せず、それゆえに二重陰性(CD4-CD8-)細胞と分類される。これらは、その発生が進むにつれて二重陽性胸腺細胞(CD4+CD8+)になり、最終的には単一陽性(CD4+CD8-またはCD4-CD8+)胸腺細胞に成熟して、次いで、胸腺から末梢組織へと放出される。
【0157】
T細胞の活性化における最初のシグナルは、別の細胞上の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)によって提示された短いペプチドへのT細胞受容体の結合によって与えられる。これが、そのペプチドに特異的なTCRを有するT細胞だけが活性化されることを、保証する。パートナー細胞は、通常はプロフェッショナル抗原提示細胞(APC)であり、ナイーブ応答の場合は、通常は樹状細胞であるが、B細胞およびマクロファージも重要なAPCである。MHCクラスI分子によってCD8+ T細胞に提示されるペプチドは8~10アミノ酸長であり;MHCクラスII分子の結合溝(binding cleft)の末端は開いているので、MHCクラスII分子によってCD4+ T細胞に提示されるペプチドはそれより長い。
【0158】
T細胞は、一般的に、標準的な方法を用いて、インビトロまたはエクスビボで調製することができる。例えばT細胞は、市販の細胞分離システムを用いることで、患者などの哺乳動物の骨髄、末梢血または骨髄もしくは末梢血の画分内に存在し得る(またはそこから単離され得る)。あるいは、T細胞は、血縁関係にあるヒトもしくは血縁関係のないヒト、非ヒト動物、細胞株または培養物に由来してもよい。“T細胞を含むサンプル”は、例えば末梢血単核細胞(PBMC)であり得る。
【0159】
T細胞は、抗原、ペプチド、核酸および/または抗原を発現する抗原提示細胞(APC)によって刺激され得る。そのような刺激は、抗原、ペプチドおよび/または抗原もしくはペプチドを提示する細胞に特異的なT細胞を産生させるのに十分な条件下および十分な時間で、行われる。
【0160】
CD4+またはCD8+ T細胞の特異的活性化は、さまざまな方法で検出することができる。特異的T細胞活性化を検出するための方法には、T細胞の増殖、サイトカイン(例えば、リンフォカイン)の産生、または細胞溶解活性の生成を検出することが含まれる。CD4+ T細胞の場合、特異的T細胞活性化を検出するための好ましい方法は、T細胞の増殖の検出である。CD8+ T細胞の場合、特異的T細胞活性化を検出するための好ましい方法は、細胞溶解活性の生成の検出である。
【0161】
CD8+ T細胞株を産生させるために、抗原を産生する核酸をトランスフェクトした抗原提示細胞、好ましくは自己抗原提示細胞を、刺激細胞として使用することができる。
【0162】
T細胞受容体(TCR)鎖をコードするRNAなどの核酸を、T細胞または溶解能を有する他の細胞などのリンパ球様細胞に導入することができる。好適な態様において、TCRα鎖およびβ鎖を抗原特異的T細胞株からクローニングし、それらを養子T細胞療法に用いる。この点において、本発明は、本明細書に記載のCLDN18.2またはCLDN18.2ペプチドに特異的なT細胞受容体を提供する。一般に、本発明のこの側面は、MHCとの関連において提示されたCLDN18.2ペプチドを認識するか、またはCLDN18.2ペプチドに結合するT細胞受容体に関する。T細胞受容体、例えば本発明により提供されるT細胞受容体のα鎖およびβ鎖をコードする核酸は、発現ベクターなどの別個の核酸分子上に含まれていてもよいし、あるいは単一の核酸分子であってもよい。したがって、用語“T細胞受容体をコードする核酸”とは、同じ核酸分子上の、または好ましくは異なる核酸分子上の、T細胞受容体鎖をコードする核酸分子に関する。
【0163】
用語“ペプチドと反応する免疫反応性細胞”とは、それがペプチドを認識したとき、特にそのペプチドが、抗原提示細胞または癌細胞などの罹患細胞の表面上などに、MHC分子との関連において提示されている場合、上記のような免疫反応性細胞のエフェクター機能を発揮する免疫反応性細胞に関する。
【0164】
用語“ペプチドと反応するT細胞受容体”とは、免疫反応性細胞上に存在するとき、ペプチドを、特にそのペプチドが抗原提示細胞または癌細胞などの罹患細胞の表面上などに、MHC分子との関連において提示されている場合、免疫反応性細胞が上記のような免疫反応性細胞のエフェクター機能を発揮するような形で認識する、T細胞受容体に関する。
【0165】
用語“抗原反応性T細胞”または類似語は、抗原がMHC分子との関連において、例えば抗原提示細胞または癌細胞などの罹患細胞の表面上に提示されている場合、その抗原を認識し、上記のようなT細胞のエフェクター機能を発揮する、T細胞に関する。
【0166】
用語“抗原特異的リンパ球様細胞”は、特に、抗原特異的T細胞受容体と共に供されたとき、その抗原を、MHC分子との関連において、例えば抗原提示細胞または癌細胞などの罹患細胞の表面上に提示される場合、認識し、好ましくは上記のようなT細胞のエフェクター機能を発揮する、リンパ球様細胞に関する。T細胞および他のリンパ球様細胞は、その細胞が、抗原を発現するか、および/または抗原ペプチドを提示する標的細胞を殺す場合、その抗原に対して特異的であるとみなされる。T細胞特異性は、さまざまな標準的技術のいずれかを用いて、例えばクロム放出アッセイまたは増殖アッセイにおいて、評価することができる。あるいは、リンフォカイン(インターフェロン-γなど)の合成を測定することもできる。
【0167】
用語“主要組織適合遺伝子複合体”およびその略語“MHC”には、MHCクラスI分子およびMHCクラスII分子が包含され、これは、全ての脊椎動物に見いだされる遺伝子の複合体に関する。MHCタンパク質またはMHC分子は、免疫反応におけるリンパ球と抗原提示細胞または罹患細胞との間のシグナル伝達にとって重要であり、ここでは、MHCタンパク質またはMHC分子がペプチドに結合し、T細胞受容体による認識のために、それらを提示する。MHCによってコードされるタンパク質は、細胞の表面に発現され、自己抗原(細胞自身に由来するペプチドフラグメント)と非自己抗原(例えば、侵入した微生物のフラグメント)をどちらも、T細胞に提示する。
【0168】
MHC領域は、3つのサブクラス、クラスI、クラスII、およびクラスIIIに分類される。MHCクラスIタンパク質は、α鎖およびβ2-ミクログロブリン(MHCの一部ではなく、15番染色体によってコードされている)を含んでいる。これらは抗原フラグメントを細胞傷害性T細胞に提示する。ほとんどの免疫系細胞において、特に抗原提示細胞において、MHCクラスIIタンパク質はα鎖およびβ鎖を含んでおり、これらは、抗原フラグメントをTヘルパー細胞に提示する。MHCクラスIII領域は、補体成分およびサイトカインをコードするものなど、他の免疫構成要素をコードしている。
【0169】
ヒトでは、細胞表面上の抗原提示タンパク質をコードするMHC領域中の遺伝子が、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子と呼ばれている。しかしながら、MHCという略語がHLA遺伝子産物を意味するために用いられることが多い。HLA遺伝子には、9つのいわゆる古典的MHC遺伝子が含まれる:HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DPA1、HLA-DPB1、HLA-DQA1、HLA-DQB1、HLA-DRAおよびHLA-DRB1。
【0170】
本発明の全ての側面の好ましい態様では、MHC分子がHLA分子である。
【0171】
“抗原の提示を特徴とする細胞”、“抗原を提示する細胞”、“細胞によって提示された抗原”、“提示された抗原”または類似の表現は、それが発現する抗原または該抗原に由来するフラグメントを、例えば抗原のプロセシングによるなどして、MHC分子との関連において、特にMHCクラスI分子との関連において、提示している癌細胞などの罹患細胞または抗原提示細胞などの細胞を意味する。同様に、用語“抗原の提示を特徴とする疾患”は、抗原の提示、特にクラスI MHCによる抗原の提示を特徴とする細胞が関与する疾患を表す。細胞による抗原の提示は、抗原をコードするRNAなどの核酸を、その細胞にトランスフェクトすることによって達成することができる。
【0172】
“提示される抗原のフラグメント”または類似の表現は、そのフラグメントが、例えば抗原提示細胞に直接添加されたとき、MHCクラスIまたはクラスII、好ましくはMHCクラスIによって提示され得ることを意味する。一態様において、フラグメントは、抗原を発現する細胞によって自然に提示されるフラグメントである。
【0173】
いくつかの治療法は、クラスI MHCと共に抗原を提示する罹患細胞の溶解をもたらす、患者の免疫系の反応に基づいている。これに関連して、例えば抗原ペプチドとMHC分子との複合体に特異的な自己細胞傷害性Tリンパ球を、疾患を有する患者に投与することができる。インビトロでのそのような細胞傷害性Tリンパ球の生産は知られている。T細胞を分化させる方法の一例は、WO-A-9633265に見いだすことができる。一般的には、血球などの細胞を含むサンプルを患者から採取し、それらの細胞を、前記複合体を提示し、かつ細胞傷害性Tリンパ球の増殖を引き起こし得る細胞(例えば、樹状細胞)と接触させる。標的細胞はCOS細胞などのトランスフェクト細胞であり得る。これらのトランスフェクト細胞は、その表面上に所望の複合体を提示し、細胞傷害性Tリンパ球と接触させたとき、その増殖を刺激する。次に、クローン増殖された自己細胞傷害性Tリンパ球を患者に投与する。
【0174】
細胞傷害性Tリンパ球を選択するための別の方法では、細胞傷害性Tリンパ球の特異的クローンを得るために、MHCクラスI分子/ペプチド複合体の蛍光性テトラマーを使用する(Altman et al.(1996), Science 274:94-96; Dunbar et al. (1998), Curr. Biol. 8:413-416, 1998)。
【0175】
さらにまた、所望の複合体を提示する細胞(例えば、樹状細胞)を、高い親和性を有する特異的細胞傷害性Tリンパ球の増殖をもたらし得る健常個体または他の種(例えば、マウス)の細胞傷害性Tリンパ球と組み合わせることもできる。これら増殖された特異的Tリンパ球の高親和性T細胞受容体をクローニングして、場合によってはさまざまな程度にヒト化し、そうして得られたT細胞受容体を、次に、遺伝子移入によって、例えばレトロウイルスベクターを用いて、患者のT細胞に形質導入する。次に、これらの遺伝子改変Tリンパ球を用いて、養子移入を行うことができる(Stanislawski et al.(2001), Nat Immunol. 2:962-70; Kessels et al. (2001), Nat Immunol. 2:957-61)。
【0176】
細胞傷害性Tリンパ球は、それ自体公知の方法により、インビボで作製可能である。一つの方法では、MHCクラスI/ペプチド複合体を発現する非増殖性細胞を用いる。本発明で用いる細胞は、通常複合体を発現するもの、例えば照射された腫瘍細胞であるか、または複合体(すなわち、抗原性ペプチドおよび提示MHC分子)の提示に必要な遺伝子の一方もしくは両方がトランスフェクトされた細胞であり得る。別の好ましい形態は、例えばリポソーム移入またはエレクトロポレーションなどによって細胞中に導入することができる組換えRNAの形態の抗原の導入である。その結果得られる細胞は、目的の複合体を提示し、自己細胞傷害性Tリンパ球によって認識され、次いでその自己細胞傷害性Tリンパ球が増殖する。
【0177】
同様の効果は、抗原または抗原ペプチドを、インビボでの抗原提示細胞への組込みを可能にするために、アジュバントと組み合わせることによって達成することができる。抗原または抗原ペプチドは、タンパク質、DNA(例えばベクター内にあるもの)、またはRNAとして表すことができる。抗原はプロセシングされることでMHC分子のペプチドパートナーを産生し得るが、そのフラグメントは、さらなるプロセシングを受ける必要なく、提示され得る。後者は、これらがMHC分子に結合することができる場合には、特にそうである。完全な抗原が樹状細胞によってインビボでプロセシングされるような投与形態は、これが、効果的な免疫応答に必要なTヘルパー細胞応答も生じ得るために、好ましい(Ossendorp et al., Immunol Lett. (2000), 74:75-9; Ossendorp et al. (1998), J. Exp. Med. 187:693-702)。一般的には、有効量の腫瘍関連抗原を、例えば皮内注射によって患者に投与することができる。しかし、注射をリンパ節に節内的に行うこともできる(Maloy et al. (2001), Proc Natl Acad Sci USA 98:3299-303)。
【0178】
本発明によれば、用語“人工T細胞受容体”は、用語“キメラT細胞受容体”および“キメラ抗原受容体(CAR)”と同義である。
【0179】
これらの用語は、T細胞などの免疫エフェクター細胞へのモノクローナル抗体の特異性のような任意の特異性を与える、操作された受容体に関する。このようにして、養子細胞移入のために多数の癌特異的T細胞を産生することができる。従って、人工T細胞受容体は、例えばT細胞の自身のT細胞受容体の代わりに、またはそれに加えて、T細胞上に存在してよい。そのようなT細胞は、標的細胞の認識のための抗原のプロセシングおよび提示を必ずしも必要とせず、好ましくは標的細胞上に存在する任意の抗原を特異的に認識することができる。好ましくは、該人工T細胞受容体は、細胞の表面上に発現される。本発明の目的のために、人工T細胞受容体を含むT細胞は、本明細書で用いる用語“T細胞”に包含される。
【0180】
一態様において、モノクローナル抗体に由来する一本鎖可変フラグメント(scFv)を、CD3-ζ膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインに融合させる。そのような分子は、標的細胞上のその抗原標的のscFvによる認識に応答してゼータシグナルの伝達をもたらし、標的抗原を発現する標的細胞の死滅をもたらす。用いられ得る抗原認識ドメインには、とりわけ、T細胞受容体(TCR)αおよびβ単鎖が含まれる。実際に、高親和性で所与の標的に結合するほとんどのものは、抗原認識ドメインとして使用することができる。
【0181】
抗原認識に続いて、受容体がクラスター化し、シグナルが細胞に伝達される。この点において、“T細胞シグナル伝達ドメイン”は、抗原が結合された後にT細胞へ活性化シグナルを伝達するドメイン、好ましくは細胞内ドメインである。最も一般的に使用される細胞内ドメイン成分は、CD3-ζである。
【0182】
キメラ抗原受容体を発現するCAR-操作されたT細胞を用いる養子細胞移植療法は、CAR修飾されたT細胞が事実上あらゆる腫瘍抗原を標的とするように操作され得ることから、有望な抗腫瘍治療薬である。例えば、患者のT細胞は、患者の腫瘍細胞上の抗原に対して特異的に指向されたCARを発現するように遺伝子操作され、次いで、患者に注入され得る。
【0183】
本発明によれば、人工T細胞受容体は、上記のようなT細胞受容体の機能を置き換えることができ、特に、細胞溶解活性のような反応性を上記のようにT細胞などの細胞に与えることができる。しかしながら、上記のようなT細胞受容体の抗原ペプチド-MHC複合体への結合とは対照的に、人工T細胞受容体は、抗原、特に細胞表面上に発現される抗原に結合し得る。
【0184】
T細胞表面糖タンパク質CD3-ζ鎖は、ヒトにおいて、CD247遺伝子によってコードされているタンパク質である。CD3-ζと、T細胞受容体α/βおよびγ/δヘテロ二量体ならびにCD3-γ、-δおよび-εは共に、T細胞受容体-CD3複合体を形成する。ζ鎖は、抗原認識をいくつかの細胞内シグナル伝達経路と組み合わせるのに重要な役割を果たす。用語“CD3-ζ”は、好ましくは、ヒトCD3-ζに関し、特に、配列表の配列番号40のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の変異体を含む、好ましくはそれからなるタンパク質に関する。
【0185】
CD28(分化に関するクラスター群(Cluster of Differentiation)28)は、T細胞活性化に必要な共刺激シグナルを提供するT細胞上に発現される分子の1つである。CD28は、CD80(B7.1)およびCD86(B7.2)の受容体である。T細胞受容体(TCR)に加えてCD28による刺激は、種々のインターロイキン(特に、IL-6)の産生のためにT細胞への強力な共刺激シグナルを提供することができる。用語“CD28”は、好ましくは、ヒトCD28に関し、特に、配列表の配列番号39のアミノ酸配列または該アミノ酸配列の変異体を含む、好ましくはそれからなるタンパク質に関する。
【0186】
本発明によれば、CARは、一般的に、3つのドメインを含み得る。
第1のドメインは、CLDN18.2を認識し、結合する結合ドメインである。
第2のドメインは、共刺激ドメインである。共刺激ドメインは、標的部分へのCARの結合の際に細胞傷害性リンパ球の増殖および生存を増強するために働く。共刺激ドメインの同一性は、それがCARによる標的部分の結合の際に細胞増殖および生存を増強する能力を有する点でのみ制限される。好適な共刺激ドメインには、CD28、CD137(4-1BB)、腫瘍壊死因子(TNF)受容体ファミリーのメンバー、CD134(OX40)、TNFR-受容体のスーパーファミリーのメンバー、およびCD278(ICOS)、活性化T細胞上に発現されるCD28-スーパーファミリー共刺激分子が含まれる。当業者は、本発明に悪影響を及ぼすことなく、これらの特記された共刺激ドメインの配列変異体を用いることができ、ここで、該変異体は、それらがモデル化されるドメインと同じか、または同様の活性を有することを理解し得る。このような変異体は、それらが由来するドメインのアミノ酸配列と少なくとも約80%の配列同一性を有し得る。本発明のいくつかの態様において、CAR構築物は、2つの共刺激ドメインを含む。特定の組み合わせは、4つの記載されたドメインの全ての可能性のある変形を含むが、特定の例には、CD28+CD137(4-1BB)およびCD28+CD134(OX40)が含まれる。
【0187】
第3のドメインは、活性化シグナル伝達ドメイン(または、T細胞シグナル伝達ドメイン)である。活性化シグナル伝達ドメインは、CARのCLDN18.2への結合の際に細胞傷害性リンパ球を活性化する働きをする。活性化シグナル伝達ドメインの同一性は、それがCARによるCLDN18.2の結合の際に、選択された細胞傷害性リンパ球の活性化を誘導する能力を有する点でのみ制限される。好適な活性化シグナル伝達ドメインには、T細胞CD3[ζ]鎖およびFc受容体[γ]が含まれる。当業者は、本発明に悪影響を及ぼすことなく、これらの記載された活性化シグナル伝達ドメインの配列変異体を用いることができ、ここで、該変異体が、それらがモデル化されるドメインと同じか、または同様の活性を有することを理解し得る。このような変異体は、それらが由来するドメインのアミノ酸配列と少なくとも約80%の配列同一性を有し得る。
【0188】
本発明のCARは、3つのドメインを、融合タンパク質の形態で含み得る。かかる融合タンパク質は、一般的に、N末端からC末端方向に連結された、結合ドメイン、1以上の共刺激ドメイン、および活性化シグナル伝達ドメインを含み得る。しかしながら、本発明のCARは、この配置に限定されず、他の配置も許容可能であり、結合ドメイン、活性化シグナル伝達ドメイン、および1以上の共刺激ドメインを含む。結合ドメインがCLDN18.2に結合するために自由でなければならないため、融合タンパク質における結合ドメインの配置は、一般的に、細胞の外部上の領域のディスプレイが達成されるようなものであり得ることが理解され得る。同様に、共刺激および活性化シグナル伝達ドメインは、細胞傷害性リンパ球の活性および増殖を誘導するのに働くため、融合タンパク質は、一般的に、細胞の内部にこれら2つのドメインをディスプレイする。CARは、融合タンパク質の細胞表面への適切な輸送を確実にするシグナルペプチド、融合タンパク質タンパク質が完全な膜タンパク質として維持されることを確実にする膜貫通ドメイン、および結合ドメイン柔軟性を与え、かつCLDN18.2への強力な結合を可能にするヒンジドメイン(またはスペーサー領域)などの、さらなるエレメントを含んでいてよい。
【0189】
本発明のCARシステムに関連して用いられる細胞は、好ましくはT細胞、特に好ましくは細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、およびリンホカイン活性化キラー(LAK)細胞から選択される、細胞傷害性リンパ球である。活性化すると、これらの細胞傷害性リンパ球の各々が標的細胞の破壊を誘発する。例えば、細胞傷害性T細胞は、以下の手段のいずれかまたは両方によって標的細胞の破壊を引き起こす。第1に、活性化すると、T細胞は、パーフォリン、グランザイム、およびグラニュライシンなどの細胞毒素を放出する。パーフォリンおよびグラニュライシンは、標的細胞に孔を形成し、グランザイムは細胞に入り、そして細胞のアポトーシス(プログラム細胞死)を誘導する細胞質におけるカスパーゼカスケードを誘導する。第2に、T細胞と標的腫瘍細胞との間のFas-Fasリガンド相互作用を介してアポトーシスを誘導することができる。細胞傷害性リンパ球は、好ましくは自己細胞であるが、異種細胞または同種細胞を用いることもできる。
【0190】
本発明によれば、対照サンプルまたは対照生物などの“対照”は、ある試験サンプルまたは試験生物から、本発明の方法において得られた結果を相関させ、比較するために用いることができる。一般的には、対照生物は健常生物、特に癌疾患などの疾患を罹患していない生物である。“対照値”または“対照レベル”は、十分に多数の対照を測定することにより、対照から実験的に決定することができる。好ましくは、対照値は、少なくとも2、好ましくは少なくとも3、好ましくは少なくとも5、好ましくは少なくとも8、好ましくは少なくとも12、好ましくは少なくとも20、好ましくは少なくとも30、好ましくは少なくとも50、または好ましくは少なくとも100個の対照を測定することによって決定される。
【0191】
本発明によれば、用語“結合剤”には、標的に対する結合能力を有する全ての化合物が包含される。好ましくは、そのような結合剤は、標的に対する少なくとも1つの結合ドメインを含む。この用語には、ナノボディ、アフィボディー、アンチカリン、DARPin、ノボディー、アビマー、および微生物を含むが、これらに限定されない標的に対する結合能力を有する、抗体および抗体フラグメント、二重特異性または多重特異性分子、キメラ抗原受容体(CAR)ならびに全ての人工結合分子(足場)などの分子が含まれる。一態様において、該結合は特異的結合である。
【0192】
用語“免疫グロブリン”は、免疫グロブリンスーパーファミリーのタンパク質、好ましくは抗体またはB細胞受容体(BCR)などの抗原受容体に関する。免疫グロブリンは、特徴的な免疫グロブリン(Ig)フォールドを有する構造ドメイン、すなわち免疫グロブリンドメインを特徴とする。この用語は、膜結合型免疫グロブリン、ならびに可溶性免疫グロブリンを包含する。膜結合型免疫グロブリンは、表面免疫グロブリンまたは膜免疫グロブリンとも呼ばれ、一般的にはBCRの一部である。可溶性免疫グロブリンは、一般的に抗体と呼ばれる。免疫グロブリンは一般的に、数本の鎖、一般的には、ジスルフィド結合によって連結された2本の同一な重鎖と2本の同一な軽鎖とを含む。これらの鎖は、主として、VL(可変軽鎖)ドメイン、CL(定常軽鎖)ドメイン、ならびにCH(定常重鎖)ドメインCH1、CH2、CH3およびCH4などの免疫グロブリンドメインから構成される。哺乳動物免疫グロブリン重鎖には5つのタイプ、すなわちα、δ、ε、γ、およびμがあり、これらは、異なる抗体クラス、すなわちIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMを構成する。可溶性免疫グロブリンの重鎖とは対照的に、膜または表面免疫グロブリンの重鎖は、膜貫通ドメインと、そのカルボキシ末端にある短い細胞質ドメインとを含む。哺乳動物では、2タイプの軽鎖、すなわちラムダおよびカッパがある。免疫グロブリン鎖は可変領域と定常領域を含む。定常領域は、免疫グロブリンの異なるアイソタイプ(ここでは、可変部分が高度に多様であり、抗原認識を構成する)内で、本質的に保存されている。
【0193】
用語“抗体”は、ジスルフィド結合によって相互に連結された少なくとも2本の重(H)鎖と2本の軽(L)鎖を含む糖タンパク質を意味する。用語“抗体”には、モノクローナル抗体、組換え抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体およびキメラ抗体が含まれる。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書中、VHと略す)と重鎖定常領域とから構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書中、VLと略す)と軽鎖定常領域とから構成される。VH領域およびVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性領域と、それらの間に挿入された、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域とに、さらに細分され得る。各VHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって以下の順序で配置された、3つのCDRと4つのFRから構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含んでいる。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えばエフェクター細胞)および古典的補体系の第1成分(C1q)を含む、宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合に介在し得る。
【0194】
本明細書で用いる用語“モノクローナル抗体”は、単一分子組成の抗体分子の調製物を意味する。モノクローナル抗体は、単一の結合特異性および親和性を示す。一態様において、モノクローナル抗体は、不死化細胞に融合された、例えばマウスのような非ヒト動物から得られたB細胞を含むハイブリドーマによって産生される。
【0195】
本明細書で用いる用語“組換え抗体”には、以下のような、組換え手段によって調製、発現、生成もしくは単離されたすべての抗体が含まれる:(a)免疫グロブリン遺伝子またはそれから調製されたハイブリドーマに対してトランスジェニックまたはトランス染色体の、動物(例えば、マウス)から単離された抗体、(b)当該抗体を発現するように、例えばトランスフェクトーマから形質転換された、宿主細胞から単離された抗体、(c)組換え抗体ライブラリー、コンビナトリアル抗体ライブラリーから単離された抗体、および(d)免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを伴う他の手段によって調製、発現、生成、単離された抗体。
【0196】
本明細書で用いる用語“ヒト抗体”は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むものを意図する。ヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基(例えば、インビトロでランダムに、もしくは部位特異的に導入された変異、またはインビボでの体細胞変異により同導入された変異)を含んでもよい。
【0197】
用語“ヒト化抗体”は、実質的に非ヒト種からの免疫グロブリンに由来する抗原結合部位を有する分子を意味し、分子の残りの免疫グロブリン構造は、ヒト免疫グロブリンの構造および/または配列に基づく。抗原結合部位は、定常ドメインに融合された完全な可変ドメイン、または、可変ドメイン内の好適なフレームワーク領域に移植された相補性決定領域(CDR)のみのいずれであってもよい。抗原結合部位は、野生型であるか、または1以上のアミノ酸置換によって修飾されていてもよく、例えば、よりヒト免疫グロブリンに類似するように修飾されていてよい。ヒト化抗体のいくつかの形態は、すべてのCDR配列を保持する(例えば、マウス抗体からの6つのCDRをすべて含むヒト化マウス抗体)。他の形態は、元の抗体に対して変更された1以上のCDRを有している。
【0198】
用語“キメラ抗体”は、重鎖および軽鎖のアミノ酸配列のそれぞれの一部分が、特定の種に由来するか、または特定のクラスに属する抗体の対応する配列に相同であるが、一方、前記鎖の残りのセグメントは、別の対応する配列に相同である、それらの抗体を意味する。一般的に、軽鎖および重鎖の両方の可変領域は、1つの哺乳動物種に由来する抗体の可変領域と類似しており、一方、定常部分は別の種に由来する抗体の配列と相同である。そのようなキメラ形態の1つの明らかな利点は、可変領域が、非ヒト宿主生物から容易に入手可能なB細胞またはハイブリドーマを用いて、例えばヒト細胞調製物等に由来する定常領域と組み合わせて容易に現在公知の供給源に由来することができることである。一方、可変領域は調製の容易さという利点を有し、特異性は供給源によって影響されないが、ヒトの定常領域である場合、非ヒト供給源からの定常領域であるときより、抗体が注入されるときに、ヒト対象から免疫反応を誘導されにくい。しかし、定義はこの特定の例に限定されない。
【0199】
抗体は、マウス、ラット、ウサギ、モルモットおよびヒトなどの異なる種に由来してもよいが、これらに限定されない。
【0200】
本明細書に記載の抗体には、IgA1またはIgA2などのIgA、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgE、IgM、およびIgD抗体が含まれる。種々の態様において、抗体はIgG1抗体であり、より具体的には、IgG1、κまたはIgG1、λアイソタイプ(すなわち、IgG1、κ、λ)、IgG2a抗体(例えば、IgG2a、κ、λ)、IgG2b抗体(例えば、IgG2b、κ、λ)、IgG3抗体(例えば、IgG3、κ、λ)、またはIgG4抗体(例えば、IgG4、κ、λ)である。
【0201】
本明細書に記載の抗体は、好ましくは単離されている。本明細書で用いる“単離抗体”は、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を意味することを意図する(例えば、CLDN18.2に特異的に結合する単離抗体は、CLDN18.2以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。しかしながら、ヒトCLDN18.2のエピトープ、アイソフォームまたは変異体に特異的に結合する単離抗体は、例えば、他の種(例えば、CLDN18.2種の相同体)由来の他の関連抗原に対して交差反応性を有し得る。さらに、単離抗体は、他の細胞性物質および/または化学物質を実質的に含まなくてよい。本発明の一態様において、“単離された”モノクローナル抗体の組合せは、異なる特異性を有し、明確に定義された組成物または混合物中に組み合わされる抗体に関する。
【0202】
用語、抗体の“抗原結合部分”(もしくは、単に“結合部分”)または抗体の“抗原結合フラグメント”(もしくは、単に“結合フラグメント”)または類似の用語は、抗原に特異的に結合する能力を有する1以上の抗体のフラグメントを意味する。抗体の抗原結合機能は、全長抗体のフラグメントにより行われることができることが示されてきた。抗体の“抗原結合部分”という用語内に、結合フラグメントを含む例としては、(i)Fabフラグメント、VL、VH、CLおよびCHドメインからなる一価のフラグメント;(ii)F(ab')2フラグメント、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントを含む二価フラグメント;(iii)VHおよびCHドメインからなるFdフラグメント;(iv)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント、(v)VHドメインからなるdAbフラグメント(Ward et al., (1989) Nature 341: 544-546);(vi)単離された相補性決定領域(CDR)、ならびに(vii)必要に応じて合成リンカーにより連結されてもよい2つ以上の単離したCDRの組み合わせ、を含む。さらに、Fvフラグメントの2つのドメインであるVLおよびVHは、別々の遺伝子によってコードされるが、これらは、VLおよびVH領域が組み合わさって一価の分子を形成する単一のタンパク質鎖として作製することができる合成リンカーにより、組換え法を用いて連結することができる(一本鎖Fv(scFv)として知られている。例えば、Bird et al. (1988) Science 242: 423-426; および、 Huston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-5883を参照のこと)。このような一本鎖抗体も、抗体の“抗原結合フラグメント”という用語に含まれるものとする。さらなる例は、(i)免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドに融合される結合ドメインポリペプチド、(ii)ヒンジ領域に融合された免疫グロブリン重鎖CH2定常領域、および(iii)前記CH2定常領域に融合された免疫グロブリン重鎖CH3定常領域を含む、結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質である。結合ドメインポリペプチドは、重鎖可変領域または軽鎖可変領域であってもよい。結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質は、更に、US2003/0118592およびUS2003/0133939に開示されている。これらの抗体フラグメントは、当業者に公知の従来技術を用いて得られ、フラグメントは無傷抗体と同一の方法により有用性についてスクリーニングされる。
【0203】
本発明によれば、用語“CLDN18.2に対する結合ドメイン”には、好ましくは、CLDN18.2抗体、すなわち、CLDN18.2対して向けられた抗体、好ましくはCLDN18.2に特異的である抗体の、抗原結合部分が含まれ、好ましくはそれに関する。
【0204】
用語“結合ドメイン”は、本発明に関連して、所与の標的構造/抗原/エピトープに結合/相互作用する抗体の構造を特徴づける。したがって、本発明による結合ドメインは、“抗原-相互作用部位”を示す。
【0205】
本発明の目的のための本明細書に記載の抗体および抗体フラグメントなどの抗体の誘導体は、用語“抗体”に包含される。
【0206】
抗体は、従来のモノクローナル抗体法、例えば、Kohler and Milstein, Nature 256: 495 (1975)の標準的な体細胞ハイブリダイゼーション技術を含む、種々の技術によって産生することができる。体細胞ハイブリダイゼーション法が好ましいが、原則として、モノクローナル抗体を産生するための他の技術、例えば、B-リンパ球のウイルス性または発癌性形質転換あるいは抗体遺伝子のライブラリーを用いたファージディスプレイ技術を用いることができる。
【0207】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを調製するための好ましい動物系はマウス系である。マウスにおけるハイブリドーマ産生は非常によく確立された方法である。融合用の免疫化脾細胞の単離のための免疫化プロトコールおよび技術は、当該分野で知られている。融合パートナー(例えば、マウス骨髄腫細胞)および融合手順もまた知られている。
【0208】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを調製するための他の好ましい動物はラットおよびウサギ系である(例えば、Spieker-Polet et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 92:9348 (1995), see also Rossi et al., Am. J. Clin. Pathol. 124: 295 (2005)に記載)。
【0209】
抗体を産生するために、マウスを、記載の通りに、担体に結合した抗原配列に由来するペプチド、すなわち、抗体が指向される配列、組換え的に発現した抗原またはそのフラグメントの濃縮調製物、および/または、抗原を発現する細胞で免疫化することができる。あるいは、マウスを、抗原またはそのフラグメントをコードするDNAで免疫化することができる。抗原の精製もしくは濃縮調製物を用いた免疫化によっても抗体が生じない場合、マウスは、免疫応答を促進するために、抗原を発現する細胞、例えば細胞株で免疫化することもできる。
【0210】
免疫反応を、尾静脈または後眼窩採血によって得られる血漿および血清サンプルについて、免疫化プロトコールの過程に亘って観察することができる。免疫グロブリンの十分な力価を有するマウスを融合のために用いることができる。特異的抗体を分泌するハイブリドーマの割合を高めるため、マウスに対し、屠殺し、脾臓を摘出する3日前に、抗原発現細胞を腹腔内または静脈内にブーストさせることができる。
【0211】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを産生するために、免疫化したマウスから得られた脾臓細胞およびリンパ節細胞を、単離し、マウス骨髄腫細胞株のような適当な不死化細胞株と融合することができる。得られたハイブリドーマを抗原特異的抗体の産生のためにスクリーニングすることができる。次いで、個々のウェルを抗体分泌ハイブリドーマ用のELISAによってスクリーニングすることができる。抗原発現細胞を用いた免疫蛍光法およびFACS分析によって、抗原に対する特異性を有する抗体を同定することができる。抗体分泌ハイブリドーマを、再配置して、再スクリーニングすることができ、仮に、モノクローナル抗体に対してまだ陽性である場合、限界希釈によってサブクローニングすることができる。そして、安定なサブクローンを、特徴付け用の組織培養培地中でインビトロで培養し、抗体を産生することができる。
【0212】
抗体および他の結合剤の抗原を結合する能力を、標準結合アッセイ(例えば、ELISA、ウェスタンブロット、免疫蛍光およびフローサイトメトリー分析)を用いて決定することができる。
【0213】
抗体および抗体の誘導体は、抗体フラグメントなどの結合ドメインを提供するために、特にVLおよびVH領域を提供するために、有用である。
【0214】
人工T細胞受容体内に存在し得るCLDN18.2の結合ドメインは、CLDN18.2に結合する能力を有し、すなわち、CLDN18.2中に存在するエピトープ、好ましくはCLDN18.2の細胞外ドメイン内に位置するエピトープ、特に第1の細胞外ループ、好ましくはCLDN18.2のアミノ酸位置29~78に位置するエピトープに結合する能力を有する。特定の態様において、CLDN18.2の結合ドメインは、CLDN18.1条に存在しない、CLDN18.2上のエピトープに結合する。最も好ましくは、CLDN18.2の結合ドメインは、CLDN18.2以外のCLDNタンパク質上に存在しない、CLDN18.2上のエピトープに結合する。
【0215】
CLDN18.2の結合ドメインは、好ましくはCLDN18.2に結合するが、CLDN18.1には結合しない。好ましくは、CLDN18.2の結合ドメインは、CLDN18.2に特異的である。好ましくは、CLDN18.2の結合ドメインは、細胞表面に発現されるCLDN18.2に結合する。特に好ましい態様において、CLDN18.2の結合ドメインは、生細胞の表面上に存在するCLDN18.2の天然エピトープに結合する。
【0216】
好ましい態様において、CLDN18.2の結合ドメインは、配列番号20、21、22、23、24および25からなる群より選択されるアミノ酸配列もしくはそのフラグメント、または該アミノ酸配列もしくはフラグメントの変異体を含む、重鎖可変領域(VH)を含む。
【0217】
好ましい態様において、CLDN18.2の結合ドメインは、配列番号26、27、28、29、30、31、32、33および34からなる群より選択されるアミノ酸配列もしくはそのフラグメント、または該アミノ酸配列もしくはフラグメントの変異体を含む、軽鎖可変領域(VL)を含む。
【0218】
特定の好ましい態様において、CLDN18.2の結合ドメインは、以下の可能性のある(i)~(ix)より選択される重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)の組合せを含む:
(i)VHが、配列番号20のアミノ酸配列もしくはそのフラグメントを含み、VLが、配列番号27のアミノ酸配列もしくはそのフラグメントを含む、
(ii)VHが、配列番号21のアミノ酸配列もしくはそのフラグメントを含み、VLが、配列番号26のアミノ酸配列もしくはそのフラグメントを含む、
(iii)VHが、配列番号22のアミノ酸配列もしくはそのフラグメントを含み、VLが、配列番号28のアミノ酸配列もしくはそのフラグメントを含む、
(iv)VHが、配列番号24のアミノ酸配列もしくはそのフラグメントを含み、VLが、配列番号31のアミノ酸配列もしくはそのフラグメントを含む、
(v)VHが、配列番号23のアミノ酸配列もしくはそのフラグメントを含み、VLが、配列番号30のアミノ酸配列もしくはそのフラグメントを含む、
(vi)VHが、配列番号25のアミノ酸配列もしくはそのフラグメントを含み、VLが、配列番号29のアミノ酸配列もしくはそのフラグメントを含む、
(vii)VHが、配列番号25のアミノ酸配列もしくはそのフラグメントを含み、VLが、配列番号32のアミノ酸配列もしくはそのフラグメントを含む、
(viii)VHが、配列番号25のアミノ酸配列もしくはそのフラグメントを含み、VLが、配列番号33のアミノ酸配列もしくはそのフラグメントを含む、
(ix)VHが、配列番号25のアミノ酸配列もしくはそのフラグメントを含み、VLが、配列番号34のアミノ酸配列もしくはそのフラグメントを含む。
【0219】
特に好ましい態様において、CLDN18.2の結合ドメインは、重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)の以下の組合せを含む:
VHが、配列番号23のアミノ酸配列もしくはそのフラグメントを含み、VLが、配列番号30もしくはそのフラグメントを含む。
【0220】
さらに特に好ましい態様において、CLDN18.2の結合ドメインは、重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)の以下の組合せを含む:
VHが配列番号21のアミノ酸配列もしくはそのフラグメントを含み、VLが、配列番号26のアミノ酸配列もしくはそのフラグメントを含む。
【0221】
好ましい態様において、CLDN18.2の結合ドメインは、(i)以下の配列:TRSWRGNSFDY、を含むCDR3を含むVH、および/または(ii)以下の配列:QNDYSYPFT、を含むCDR3を含むVL、を含む。
【0222】
好ましい態様において、CLDN18.2の結合ドメインは、
(i)以下の相補性決定領域CDR1、CDR2およびCDR3のセットを含むVH:
CDR1:GYTFTSYW、CDR2:IYPSDSYT、CDR3:TRSWRGNSFDY
および/または
(ii)以下の相補性決定領域CDR1、CDR2およびCDR3のセットを含むVL:
CDR1:QSLLNSGNQKNY、CDR2:WAS、CDR3:QNDYSYPFT
を含む。
【0223】
好ましい態様において、CLDN18.2の結合ドメインは、以下の相補性決定領域CDR1、CDR2およびCDR3のセットをそれぞれ含むVHおよびVLの組合せを含む:
VH:CDR1:GYTFTSYW、CDR2:IYPSDSYT、CDR3:TRSWRGNSFDY、VL:CDR1:QSLLNSGNQKNY、CDR2:WAS、CDR3:QNDYSYPFT。
【0224】
好ましくは、本明細書に記載の重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)の組合せは、一本鎖Fv(scFv)に配置される。
【0225】
用語“フラグメント”は、特に、1以上の相補性決定領域(CDR)を意味し、好ましくは、重鎖可変領域(VH)の少なくともCDR3可変領域および/または軽鎖可変領域(VL)の少なくともCDR3可変領域である。一態様において、該1以上の相補性決定領域(CDR)は、相補性決定領域CDR1、CDR2およびCDR3のセットから選択される。特に好ましい態様において、用語“フラグメント”は、重鎖可変領域(VH)の、および/または軽鎖可変領域(VL)の、相補性決定領域CDR1、CDR2およびCDR3を意味する。
【0226】
一態様において、本明細書に記載の1以上のCDR、CDRのセットまたはCDRのセットの組み合わせを含むCLDN18.2の結合ドメインは、それらの間のフレームワーク領域と共に該CDRを含む。好ましくは、その部分はまた、第1および第4のフレームワーク領域のいずれかまたは両方の少なくとも約50%を含み、該50%は、第1のフレームワーク領域のC末端の50%および第4のフレームワーク領域のN末端の50%である。組換えDNA技術によって作製された結合剤の構築は、本発明の可変領域を、免疫グロブリン重鎖、他の可変ドメイン(例えば、二重特異性抗体の産生において)またはタンパク質標識を含むさらなるタンパク質配列に結合するためのリンカーの導入を含む、クローニングまたは他の操作工程を容易にするために導入されたリンカーによってコードされる可変領域へのN末端またはC末端残基の導入をもたらし得る。
【0227】
一態様において、本明細書に記載の1以上のCDR、CDRのセットまたはCDRのセットの組合せを含むCLDN18.2の結合ドメインは、ヒト抗体フレームワーク中に該CDRを含む。
【0228】
一態様において、本発明のCLDN18.2の結合ドメインは、明細書に記載のCLDN18.2の結合ドメイン(本明細書に記載の重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)の組合せを含む抗体など)と同じか、または実質的に同じエピトープを認識する、すなわちそれに結合する、および/またはCLDN18.2との結合について該CLDN18.2の結合ドメインと競合する、CLDN18.2の結合ドメインに関する。
【0229】
本発明による用語“結合”は、好ましくは、特異的結合に関する。
【0230】
本発明によると、T細胞受容体または抗体などの作用物質は、所定の標的に対する有意な親和性を有し、標準アッセイにより該所定の標的に結合する場合、当該所定の標的に結合することができる。多くの場合、“親和性”または“結合親和性”は、平衡解離定数(KD)によって測定される。好ましくは、“有意な親和性”という用語は、10-5M以下、10-6M以下、10-7M以下、10-8M以下、10-9M以下、10-10M以下、10-11M以下、または10-12M以下の解離定数(KD)で所定の標的に結合することを意味する。
【0231】
作用物質は、標的に対して有意な親和性を有しておらず、有意に結合しておらず、特に、標準アッセイで該標的を検出可能に結合しない場合、(実質的に)標的に結合しない。好ましくは、作用物質は、濃度が2μg/ml以上、好ましくは10μg/ml以上、より好ましくは20μg/ml以上、特に50μg/ml以上または100μg/ml以上で存在する場合、該標的に検出可能に結合しない。好ましくは、作用物質は、それが結合できる所定の標的に対して結合するためのKDより少なくとも10倍、100倍、103倍、104倍、105倍、または106倍大きいKDで当該標的に結合する場合は、標的に対する有意な親和性を有さない。例えば、作用物質が結合できる標的に結合するためのKDが、10-7Mであれば、有意な親和性を有さない抗体を標的に結合するためのKDは、少なくとも10-6M、10-5M、10-4M、10-3M、10-2M、または10-1Mであり得る。
【0232】
作用物質は、それが他の標的に(実質的に)結合することができなくても、すなわち、それが他の標的に対する有意な親和性を有しておらず、標準アッセイにより有意に他の標的に結合しなくても、それが該所定の標的に結合することが可能である場合、所定の標的に対して特異的である。本発明によると、作用物質は、それがCLDN18.2に結合することは可能であるが、他の標的に(実質的に)結合することは可能でない場合、CLDN18.2に対して特異的である。好ましくは、作用物質は、他の標的に対する親和性および結合性が、CLDN18.2に無関係なタンパク質、例えばウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、ヒト血清アルブミン(HSA)またはMHC分子もしくはトランスフェリン受容体もしくは他の任意の特定のポリペプチドなどの非クローディン膜貫通タンパク質に対する親和性または結合性を有意に超えない場合は、CLDN18.2に対して特異的である。好ましくは、作用物質は、それが標的に非特異的標的に結合するためのKDより少なくとも10倍、100倍、103倍、104倍、105倍、または106倍低いKDで当該標的に結合する場合、所定の標的に対して特異的である。例えば、特異的標的への抗体の結合のためのKDが10-7Mである場合、非特異的標的に結合するためのKDは、少なくとも10-6M、10-5M、10-4M、10-3M、10-2M、または10-1Mである。
【0233】
標的に対する作用物質の結合は、好適な方法により実験的に決定することができる:例えば、Berzofskyの、基本免疫学における“抗体-抗原相互作用”、Paul,W.E.編、Raven Press New York, N Y (1984), Kuby, Janis Immunology, W. H. Freeman and Company New York, N Y (1992)、および本明細書に記載の方法を参照のこと。親和性は、例えば、平衡透析法によるか、BIAcore2000装置を用いて製造者により概説された一般手順を用いることによるか、放射性標識された標的抗原を用いた放射免疫測定法によるか、または当業者に知られている別の方法により、従来の技術を用いて容易に決定することができる。親和性データは、例えば、Scatchard et al., Ann N.Y. Acad. ScL, 51:660 (1949)の方法によって分析することができる。測定された特定の抗体-抗原相互作用の親和性は、異なる条件下、例えば、塩濃度、pHなどで測定した場合は変化し得る。従って、親和性および他の抗原結合パラメーター、例えば、KD、IC50の測定は、好ましくは、抗体および抗原の標準化溶液、および標準化された緩衝液を用いて行われる。
【0234】
本明細書に記載のペプチドおよびタンパク質作用物質は、インビトロまたはインビボで、該作用物質をコードするRNAなどの核酸の形態および/または該作用物質をコードするRNAなどの核酸を含む宿主細胞の形態で提供される得ることが理解されるべきである。特に、非ウイルスベースのDNAトランスフェクション、トランスポゾンベースのシステムおよびウイルスベースのシステムを含む種々の方法が、CAR構築物をT細胞に導入するために用いられ得る。非ウイルスベースのDNAトランスフェクションは、挿入突然変異誘発のリスクが低い。トランスポゾンベースのシステムは、組み込み要素を含まないプラスミドよりも効率的に導入遺伝子を組み込むことができる。ウイルスベースのシステムには、γ-レトロウイルスおよびレンチウイルスベクターの使用が包含される。γ-レトロウイルスは比較的生産し易く、効率的かつ永久的にT細胞に形質導入し、初代ヒトT細胞における組込みの観点から安全であることが予備的に証明されている。レンチウイルスベクターもまた、T細胞に効率的かつ永久的に形質導入するが、製造コストがより高い。また、レトロウィルスベースのシステムより潜在的に安全である。
【0235】
本明細書に記載のペプチドおよびタンパク質作用物質は、該作用物質をコードするRNAなどの核酸を投与すること、および/または該作用物質をコードするRNAなどの核酸を含む宿主細胞を投与することにより、患者に送達され得る。患者に投与されたとき、核酸は、裸の形態でか、またはリポソームもしくはウイルス粒子の形態のような適切な送達ビヒクル中に、または宿主細胞内に存在し得る。提供された核酸は、持続的な様式で長時間にわたって作用物質を産生して、治療用タンパク質について少なくとも部分的に観察される不安定性を緩和することができる。核酸が宿主細胞内に存在することなく患者に投与される場合、それは、好ましくは、患者の細胞に取り込まれて、該核酸によってコードされる作用物質を発現する。核酸が宿主細胞内に存在している間に患者に投与される場合、それは、好ましくは、患者内の宿主細胞によって発現されて、該核酸によってコードされる作用物質を産生する。
【0236】
本明細書で用いる用語“核酸”は、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、組換え産生体および化学合成分子などのDNAおよびRNAを含むことを意図する。核酸は、一本鎖または二本鎖であり得る。RNAには、インビトロで転写されたRNA(IVT RNA)または合成RNAが含まれる。本発明により、核酸は、好ましくは、単離された核酸である。
【0237】
核酸は、ベクター中に含まれ得る。本明細書で用いる用語“ベクター”には、プラスミドベクター、コスミドベクター、ラムダファージなどのファージベクター、アデノウイルスベクターもしくはバキュロウイルスベクターなどのウイルスベクター、または細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、もしくはP1人工染色体(PAC)などの人工染色体を含む、当業者に知られているベクターが含まれる。該ベクターには、発現ベクターならびにクローニングベクターが含まれる。発現ベクターは、プラスミドならびにウイルスベクターを含み、一般的に、所望のコード配列と、作動可能に連結されたコード配列の特定宿主生物(例えば細菌、酵母、植物、昆虫、または哺乳動物)またはインビトロ発現系における発現に必要な適当なDNA配列とを含む。クローニングベクターは、一般に、任意の所望のDNAフラグメントを操作し増幅するために使用され、該所望のDNAフラグメントの発現に必要な機能的配列を欠いていてもよい。
【0238】
本発明の文脈中、用語“RNA”は、リボヌクレオチド残基を含む分子に関し、好ましくは、全体的にまたは実質的にリボヌクレオチド残基からなる。“リボヌクレオチド”は、β-D-リボフラノシル基の2’位にヒドロキシル基を有するヌクレオチドに関する。この用語は、二本鎖RNA、一本鎖RNA、部分精製されたRNAなどの単離されたRNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、組換え生産されたRNA、ならびに天然に存在するRNAとは1以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換および/または改変によって異なっている改変RNAを包含する。そのような改変には、例えばRNAの末端への、または内部への、例えばRNAの1以上のヌクレオチドにおける、非ヌクレオチド物質の付加を含み得る。RNA分子中のヌクレオチドは、非標準的ヌクレオチド、例えば非天然ヌクレオチドもしくは化学合成ヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドもまた含むことができる。これらの改変RNAは、類縁体または天然RNAの類縁体と呼ぶことができる。
【0239】
本発明によれば、用語“RNA”には、“メッセンジャーRNA”を意味する“mRNA”が含まれ、好ましくはこれに関し、また、DNAを鋳型として生産され得る、ペプチドまたはタンパク質をコードする“転写物”に関する。mRNAは通常、5'-非翻訳領域(5’-UTR)、タンパク質またはペプチドコード領域、および3'-非翻訳領域(3’-UTR)を含む。mRNAは、細胞内およびインビトロで限られた半減期を有する。好ましくは、mRNAは、DNA鋳型を用いて、インビトロ転写によって生産される。本発明の一態様において、RNAは、インビトロ転写によって得られるか、または化学合成される。インビトロ転写法は、当御者に知られている。例えば、市販の種々のインビトロ転写キットがある。
【0240】
本発明の一態様において、RNAは、自己複製RNA、例えば一本鎖自己複製RNAである。一態様において、自己複製RNAは、センス鎖(positive sense)の一本鎖RNAである。一態様において、自己複製RNAは、ウイルスRNAまたはウイルスRNA由来のRNAである。一態様において、自己複製RNAは、アルファウイルスゲノムRNAであるか、またはアルファウイルスゲノムRNA由来である。一態様において、自己複製RNAは、ウイルス遺伝子発現ベクターである。一態様において、ウイルスは、セムリキ森林ウイルスである。一態様において、自己複製RNAは、本明細書に記載の作用物質をコードする1以上のトランスジーン、少なくとも1つのトランスジーンを含む。一態様において、RNAがウイルスRNAまたはウイルスRNA由来である場合、トランスジーンは、構造タンパク質をコードするウイルス配列のようなウイルス配列を部分的または完全に置換し得る。一態様において、自己複製RNAは、インビトロで転写されたRNAである。
【0241】
本発明で用いるRNAの発現および/または安定性を増加させるために、発現されたペプチドまたはタンパク質の配列を修飾する、好ましくは改変することなく修飾することができる。
【0242】
本明細書で用いるRNAに関して、用語“修飾”には、RNAに天然に存在しないRNAの修飾が含まれる。
【0243】
本発明の一態様において、本発明で用いるRNAは、キャップされていない5’-三リン酸を有さない。かかるキャップされていない5’-三リン酸の除去は、RNAをホスファターゼで処理することによって達成することができる。
【0244】
本発明のRNAは、その安定性を増加させ、および/または細胞傷害性を低下させるために、改変された天然または合成リボヌクレオチドを有し得る。例えば、一態様において、本発明で用いるRNAにおいて、5-メチルシチジンは、シチジンについて、部分的にまたは完全に、好ましくは完全に置換される。あるいは、またはさらに、一態様において、本発明で用いるRNAにおいて、シュードウリジンは、ウリジンについて、部分的にまたは完全に、好ましくは完全に置換される。
【0245】
一態様において、用語“修飾”は、5’-capまたは5’-capアナログを有するRNAを提供することに関する。用語“5’-cap”は、RNA分子の5’末端に見出されるキャップ構造を意味し、一般的に、異常な5’から5’-三リン酸結合を介してmRNAに連結されたグアノシンヌクレオチドからなる。一態様において、このグアノシンは、7位でメチル化される。用語“従来の5’-cap”は、天然に存在するRNA 5’-cap、好ましくは7-メチルグアノシンキャップ(m7G)を意味する。本発明の文脈において、用語“5’-cap”には、RNAキャップ構造に似ており、好ましくはインビボおよび/または細胞中で、RNAに結合したとき、それを安定化する能力を有するように修飾された、5’-capアナログが含まれる。
【0246】
5’-capまたは5’-capアナログを有するRNAを提供することは、該5’-capまたは5’-capアナログの存在下でのDNA鋳型のインビトロ転写により達成することができ、ここで、該5’-capは、作製されたRNA鎖に転写と共に組み込まれるか、または例えば、インビトロ転写によってRNAが作製され、5’-capは、キャッピング酵素、例えばワクシニアウイルスのキャッピング酵素を用いて転写後にRNAに結合され得る。
【0247】
RNAは、さらなる修飾を含み得る。例えば、本発明で用いるRNAのさらなる修飾は、天然に存在するポリ(A)テールの伸長もしくは切断、または該RNAのコード領域に関連しないUTRの導入、例えば、α2-グロビン、α1-グロビン、β-グロビン、好ましくはβ-グロビン、より好ましくはヒトβ-グロビンなどのグロビン遺伝子に由来する1以上、好ましくは2つのコピーの3’-UTRの挿入などの、5’-もしくは3’-非翻訳領域(UTR)の改変であり得る。
【0248】
従って、本発明で用いるRNAの安定性および/または発現を増加させるために、それは、好ましくは10~500長、より好ましくは30~300、さらにより好ましくは65~200長、とりわけ100~150長のアデノシン残基の、ポリ-A配列と共に存在するように修飾されていてよい。とりわけ好ましい態様において、ポリ-A配列は、約120個のアデノシン残基を有する。加えて、2以上の3’-非翻訳領域(UTR)のRNA分子の3’-非翻訳領域への組み込みにより、翻訳効率の向上をもたらし得る。1つの特定の態様において、3’-UTRは、ヒトβ-グロビン遺伝子に由来する。
【0249】
用語、RNAの“安定性”は、RNAの“半減期”に関連する。“半減期”は、分子の活性、量または数の半分を除去するのに必要な時間に関する。本発明の文脈において、RNAの半減期は、該RNAの安定性を示す。RNAの半減期は、RNAの“発現の持続時間”に影響し得る。長い半減期を有するRNAが長時間発現され得ることが期待され得る。
【0250】
本発明の文脈において、用語“転写”は、DNA配列内の遺伝暗号がRNAに転写される過程に関する。次いで、RNAはタンパク質に翻訳され得る。本発明によれば、用語“転写”は“インビトロ転写”を含み、ここで、用語“インビトロ転写”は、RNA、特にmRNAが、無細胞系において、好ましくは適当な細胞抽出物を用いて、インビトロで合成される過程に関する。好ましくは、転写産物の生成には、クローニングベクターが適用される。これらのクローニングベクターは、一般に、転写ベクターとして設計され、本発明によれば、用語“ベクター”に包含される。
【0251】
本発明によれば、用語“翻訳”は、メッセンジャーRNAの鎖がアミノ酸の配列のアセンブリを指示してペプチドまたはタンパク質を作製することによる、細胞のリボソームにおける過程に関する。
【0252】
核酸は、本発明によれば、単独で、または相同(homologous)であっても非相同(heterologous)であってもいよい他の核酸と組み合わされて存在してよい。好ましい態様において、核酸は、該核酸に関して相同であっても非相同であってもよい発現制御配列に、機能的に連結される。用語“相同”は、その核酸が天然で機能的に連結されていることを意味し、用語“非相同”は、その核酸が天然では機能的に連結されていないことを意味する。
【0253】
核酸および発現制御配列は、それらが、該核酸の発現または転写が該発現制御配列の制御下または影響下にあるような形で互いに共有結合によって互いに連結されているならば、それらは互いに“機能的に”連結している。核酸が機能的タンパク質に翻訳されるものである場合は、発現制御配列がコード配列に機能的に連結されていることにより、該発現制御配列の誘導により、コード配列のフレームシフトを引き起こすことなく、または該コード核酸が所望のタンパク質もしくはペプチドに翻訳されなくなることもなく、該核酸の転写をもたらす。
【0254】
用語“発現制御配列”または“発現制御エレメント”は、本発明によれば、プロモーター、リボソーム結合部位、エンハンサー、および遺伝子の転写またはmRNAの翻訳を調節する他の制御エレメント(要素)を含む。本発明の特定の態様では、発現制御配列を調節することができる。発現制御配列の正確な構造は、種または細胞タイプに応じて異なりうるが、一般的には、例えばTATA簿ックス、キャッピング配列、CAAT配列などといった、それぞれ転写および翻訳の開始に関与する5’-非転写配列ならびに5’-および3’-非翻訳配列を含む。より具体的には、5’-非転写発現制御配列は、機能的に連結された核酸の転写制御のためのプロモーター配列を含むプロモーター領域を含む。発現制御配列は、エンハンサー配列または上流のアクティベーター配列もまた含み得る。
【0255】
本明細書で用いる用語“発現”は、最も広義として用いられ、RNAおよび/またはペプチドもしくはタンパク質の、例えば転写および/または翻訳による産生を含む。RNAに関して、用語“発現”または“翻訳”は、特に、ペプチドまたはタンパク質の産生に関する。また、核酸の部分発現も含まれる。さらに、発現は、一時的であっても、安定的であってもよい。本発明によれば、用語、発現はまた、“正常ではない発現”または“異常な発現”を含む。
【0256】
“正常ではない発現”または“異常な発現”とは、本発明によれば、発現が、任意のタンパク質、例えば腫瘍抗原の正常ではないまたは異常な発現に関連する疾患を有さない対象における状態を、対照と比較して、変化する、好ましくは増加することを意味する。発現の増加は、少なくとも10%、特に少なくとも20%、少なくとも50%または少なくとも100%、またはそれ以上の増加を意味する。一態様において、発現は、罹患組織においてのみ見いだされ、健康な組織における発現は抑制される。
【0257】
用語“特異的に発現”は、本質的に、特異組織または臓器でのみタンパク質が発現されることを意味する。例えば、胃粘膜で特異的に発現される腫瘍抗原は、該タンパク質が胃粘膜で優先的に発現され、他の組織では発現されないか、または他の組織もしくは臓器タイプでは有意な程度には発現されないことを意味する。よって、胃粘膜の細胞でのみ特に発現され、精巣などの他の組織では非常に少ない量が発現されるタンパク質は、胃粘膜の細胞で特異的に発現される。ある態様においては、腫瘍抗原が特異的に2以上の組織タイプまたは臓器、例えば、2つまたは3つの組織タイプまたは臓器で、しかし好ましくは3つを超えない互いに異なる組織または臓器タイプにおいて、正常条件下に特異的に発現されることもある。このような場合、該腫瘍抗原はこれらの臓器で特異的に発現される。例えば、腫瘍抗原が正常条件下で、好ましくは肺および胃においてほぼ等しい程度で発現されるとき、該腫瘍抗原は、肺および胃で特異的に発現される。
【0258】
本発明により、用語“~をコードする核酸”は、核酸が適当な環境、好ましくは細胞内に存在するとき、発現され得て、それがコードするタンパク質またはペプチドを生産することを意味する。
【0259】
本発明のある側面は、本明細書に記載の作用物質をコードするRNAなどの核酸でインビトロでトランスフェクトされ、そして好ましくは低い前駆体頻度から臨床的に意味のある細胞数までエクスビボで増殖後に、患者などのレシピエントに移入された、宿主細胞の養子移入に関する。本発明の処置に用いる宿主細胞は、処置されるレシピエントに対いて自己、同種異系または同系であり得る。
【0260】
用語“自己”は、同じ対象に由来するものを記載するために用いられる。例えば、“自己移植”とは、同じ対象に由来する組織または臓器の移植を意味する。そのような手法は、そうでなければ拒絶をもたらす免疫学的障壁を克服するため、有利である。
【0261】
用語“同種異系”は、同じ種の異なる個体に由来するものを記載するために用いられる。1つまたは複数の遺伝子座の遺伝子が同一でない場合、2以上の個体は、互いに同種異系であると言われる。
【0262】
用語“同系”は、同一の遺伝子型を有する個体または組織、すなわち同一の双子もしくは同一の近交系の動物、またはそれらの組織に由来するものを記載するために用いられる。
【0263】
用語“異種”は、複数の異なる要素からなるものを記載するために用いられる。一例として、ある個体の骨髄を異なる個体に移すことは、異種移植を構成する。異種遺伝子は、対象以外の供給源に由来する遺伝子である。
【0264】
用語“トランスフェクション”は、核酸、特にRNAの、細胞への導入に関する。本発明の目的のために、用語“トランスフェクション”はまた、細胞への核酸の導入またはかかる細胞による核酸の取り込みを含み、ここで、該細胞は、対象、例えば患者に存在し得る。従って、本発明により、本明細書に記載の核酸のトランスフェクションのための細胞は、インビトロまたはインビボで存在し得て、例えば細胞は、患者の臓器、組織および/または生体の一部を形成し得る。本発明により、トランスフェクションは、一時的であっても、安定的であってもよい。トランスフェクションの幾つかの用途では、トランスフェクトされた遺伝物質が一時的にしか発現されない場合も十分である。トランスフェクション過程で導入された核酸は、通常、核ゲノムに組み込まれないため、外来核酸は、有糸分裂によって希釈されるかまたは分解される。核酸のエピソーム増幅を可能にする細胞は、希釈率を大きく低下させる。トランスフェクトされた核酸が実際に細胞およびその娘細胞のゲノムに残っていることが望ましい場合、安定なトランスフェクションが行われなければならない。RNAは、それがコードするタンパク質を一時的に発現するように細胞にトランスフェクトされ得る。
【0265】
本発明により、核酸を細胞に導入、すなわち移入またはトランスフェクションするのに有用な技術を用いることができる。好ましくは、RNAは、標準的な技術によって細胞にトランスフェクトされる。そのような技術には、エレクトロポレーション、リポフェクションおよびマイクロインジェクションが含まれる。本発明の1つの特に好ましい態様において、RNAは、エレクトロポレーションにより細胞に導入される。
【0266】
エレクトロポレーションまたは電気透過処理(electropermeabilization)は、外部から印加された電場によって引き起こされる細胞原形質膜の電気伝導度および透過性の有意な増加に関する。これは、分子生物学では、通常、細胞中に何らかの物質を導入する方法として使用される。
【0267】
本発明により、本発明によれば、タンパク質またはペプチドをコードする核酸の細胞への導入により、該タンパク質またはペプチドの発現がもたらされることが好ましい。
【0268】
本発明の用語“ペプチド”は、オリゴペプチドおよびポリペプチドを含み、ペプチド結合によって共有結合的に連結された2以上、好ましくは3以上、好ましくは4以上、好ましくは6以上、好ましくは8以上、好ましくは9以上、好ましくは10以上、好ましくは13以上、好ましくは16以上、好ましくは21以上、および最大で好ましくは8、10、20、30、40または50の、特に100個のアミノ酸を含む物質を意味する。“タンパク質”という用語は、大きなペプチドを意味し、好ましくは、100を上回るアミノ酸残基を有するペプチドを意味するが、一般的には、用語“ペプチド”および“タンパク質”は同義であり、本明細書においては互換的に用いられる。
【0269】
本発明により、ペプチドは、天然アミノ酸および非天然アミノ酸を含み得る。一態様において、ペプチドは、単に、天然アミノ酸を含む。
【0270】
本発明により、用語“非天然アミノ酸”とは、20種の天然アミノ酸とは異なる構造を有するアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸は天然アミノ酸と類似の構造を有するため、非天然アミノ酸は、所定の天然アミノ酸の誘導体または類縁体として分類され得る。
【0271】
好ましくは、本明細書に記載のタンパク質およびペプチドは、単離されている。用語“単離されたタンパク質”または“単離されたペプチド”は、タンパク質またはペプチドが天然環境から分離されていることを意味する。単離されたタンパク質またはペプチドは、本質的に精製された状態であり得る。用語“本質的に精製された”とは、該タンパク質またはペプチドが、天然でまたはインビボで会合している他の物質を本質的に含まないことを意味する。
【0272】
特定のアミノ酸配列に関して本明細書に記載の教示は、例えば配列表に示されているものは、該特定の配列と機能的に等価な配列、例えば特定のアミノ酸配列の性質と同一のまたは類似する性質を示すアミノ酸配列をもたらす、該特定の配列の改変体にも関するように解釈すべきである。重要な性質の一つは、ペプチドのMHC分子および/もしくはT細胞受容体への結合を保つこと、またはT細胞受容体のその標的への結合を保つこと、またはT細胞のエフェクター機能を持続させることである。好ましくは、ある特定の配列に関して改変された配列は、それがT細胞受容体中の特定の配列を置換するとき、標的への該T細胞受容体の結合を保持し、好ましくは本明細書に記載のT細胞受容体の機能またはT細胞受容体を保有するT細胞の機能を保つ。
【0273】
例えば、配列表に示す配列を、1以上、好ましくは全ての遊離システイン残基を除くように、特に、システイン残基を、システイン以外のアミノ酸、好ましくはセリン、アラニン、スレオニン、グリシン、チロシン、ロイシンまたはメチオニン、最も好ましくはアラニンまたはセリンで置換することによって除去するように、修飾することができる。
【0274】
特に、標的に結合する能力を失わずにCDR配列、超可変領域および可変領域の配列を修飾することができることは、当業者には理解され得る。例えば、CDR配列は、本明細書に明記する抗体の該領域と同一であるか、または高度に相同である。“高度に相同”とは、1~5、好ましくは1~4、例えば1~3または1もしくは2個の置換がCDRにおいてなされることが企図される。加えて、超可変領域および可変領域は、本明細書に具体的に開示される領域と実質的な相同性を示すように改変され得る。
【0275】
ペプチド“変異体”は、所定のペプチドの免疫原性を保持し得る(例えば、T細胞株またはT細胞クローンと反応する変異体の能力が、所定のペプチドに対して実質的に減少しない)。言い換えると、T細胞株またはT細胞クローンと反応する変異体の能力は、所定のペプチドに対して増強されても、または変化しなくてもよく、または所与のペプチドに対して50%未満、好ましくは20%未満減少してもよい。
【0276】
変異体は、MHC分子に結合するその能力を評価することによって同定され得る。1つの好ましい態様では、変異体ペプチドが、MHC分子に結合する変異体ペプチドの能力が所与のペプチドと比較して増加するような修飾を有する。MHC分子に結合する変異体ペプチドの能力は、所与のペプチドの能力と比較して、少なくとも2倍、好ましくは少なくとも3倍、4倍、または5倍増加し得る。従って、任意の好ましい態様において、ペプチドは、T細胞株またはT細胞クローンと反応する能力が無修飾ペプチドの能力よりも統計的に大きくなるように免疫原性部分内の1~3アミノ酸残基が置換されている変異体を含む。そのような置換は、好ましくは、ペプチドのMHC結合部位内に位置する。好ましい置換は、MHCクラスIまたはクラスII分子への結合を増加させる。任意の変異体は、保存的置換を含む。
【0277】
本発明による用語“変異体”にはまた、ミュータント、スプライス変異体、コンフォメーション、アイソフォーム、アレル変異体、種変異体および種ホモログ、特に天然に存在するものも包含される。アレル変異体は、遺伝子の正常配列における変化に関し、その意義は不明であることが多い。完全な遺伝子配列決定を行うと、所与の遺伝子について、しばしば、数多くのアレル変異体が同定される。種ホモログは、所与の核酸またはアミノ酸配列の起源とは異なる種を起源とする核酸またはアミノ酸配列である。用語“変異体”は、翻訳後修飾された変異体およびコンフォメーション変異体を包含する。
【0278】
本発明の目的に関して、アミノ酸配列の“変異体”は、アミノ酸挿入変異体、アミノ酸付加変異体、アミノ酸欠失変異体および/またはアミノ酸置換変異体が含まれる。タンパク質のN末端および/またはC末端に欠失を含むアミノ酸欠失変異体は、N末端および/またはC末端切断変異体とも呼ばれる。
【0279】
アミノ酸挿入変異体は、特定のアミノ酸配列中に、1つまたは2つ以上のアミノ酸の挿入を含む。挿入を有するアミノ酸配列変異体の場合、1以上のアミノ酸残基が、アミノ酸配列中の特定の部位に挿入されるが、ランダム挿入とその結果生じる産物の適当なスクリーニングも可能である。
【0280】
アミノ酸付加変異体は、1以上のアミノ酸、例えば1、2、3、5、10、20、30、50またはそれ以上のアミノ酸の、アミノ末端および/またはカルボキシ末端融合物を含む。
【0281】
アミノ酸欠失変異体は、配列からの1以上のアミノ酸の除去、例えば1、2、3、5、10、20、30、50またはそれ以上のアミノ酸の除去を特徴とする。欠失はタンパク質のどの位置にあってもよい。
【0282】
アミノ酸置換変異体は、配列中の少なくとも1つの残基が除去され、その代わりに別の残基が挿入されていることを特徴とする。修飾が、相同タンパク質またはペプチド間で保存されていないアミノ酸配列中の位置にあること、かつ/またはアミノ酸が、類似する性質を有する別のアミノ酸で置換されることが、好ましい。好ましくは、タンパク質変異体におけるアミノ酸変化は、保存的アミノ酸変化、すなわち同じように荷電しているアミノ酸または同じように非荷電であるアミノ酸の置換である。保存的アミノ酸変化は、側鎖同士が関連しているアミノ酸のファミリーの1つの置換を伴う。天然に存在するアミノ酸は、一般に、次の4つのファミリーに分類される:酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸)、塩基性アミノ酸(リジン、アルギニン、ヒスチジン)、無極性アミノ酸(アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、および非荷電極性アミノ酸(グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、スレオニン、チロシン)。フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンは、まとめて芳香族アミノ酸と分類される場合もある。
【0283】
好ましくは、所与のアミノ酸配列と該所与のアミノ酸配列の変異体であるアミノ酸配列との間の類似性、好ましくは同一性の程度は、少なくとも約60%、65%、70%、80%、81%、82%、83%、84%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%であり得る。類似性および同一性の程度は、好ましくは、対照アミノ酸配列の全長の少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%または約100%であるアミノ酸領域について与えられる。例えば、対象アミノ酸配列が200アミノ酸からなる場合、類似性または同一性の程度は、好ましくは、少なくとも約20、少なくとも約40、少なくとも約60、少なくとも約80、少なくとも約100、少なくとも約120、少なくとも約140、少なくとも約160、少なくとも約180、または約200個のアミノ酸、好ましくは連続アミノ酸配列について与えられる。好ましい態様において、類似性または同一性の程度は、対照アミノ酸配列の全長について与えられる。配列類似性、好ましくは配列同一性を決定するためのアラインメントは、当技術分野において知られているツールで、好ましくは最適配列アラインメントを用いて、例えばAlignを用いて、標準的設定で、好ましくはEMBOSS::needle、Matrix:Blosum62、Gap Open 10.0、Gap Extend 0.5を使って、行うことができる。
【0284】
“配列類似性”は、同一であるかまたは保存的アミノ酸置換に相当するアミノ酸の割合を示す。2つのアミノ酸配列の間の“配列同一性”は、それらの配列間で同一であるアミノ酸の割合を示す。
【0285】
用語“同一性パーセンテージ”は、最適アラインメント後に得られる、比較しようとする2つの配列間で同一であるアミノ酸残基のパーセンテージを表するものとし、このパーセンテージは純粋に統計的であって、2つの配列間の相違はそれらの全長にわたってランダムに分布する。2つのアミノ酸配列の間の配列比較は、従来どおり、それらを最適にアラインメントした後にこれらの配列を比較することによって実施され、該比較は、配列類似性を有する局所領域を同定し、比較するために、セグメントで、または“比較ウインドウ”で、実施される。比較のための配列の最適アラインメントは、手作業で行われる他、Smith and Waterman, 1981, Ads App. Math. 2, 482の局所相同性アルゴリズムによって、Neddleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48, 443の局所相同性アルゴリズムによって、Pearson and Lipman, 1988, Proc. Natl Acad. Sci. USA 85, 2444の類似性検索法によって、またはこれらのアルゴリズムを用いたコンピュータプログラムによって(Wisconsin Genetics Software Package(Genetics Computer Group、575 Science Drive, Madison, Wis)におけるGAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST NおよびTFASTA)によって作成することもできる。
【0286】
同一性パーセンテージは、比較される2つの配列間で同一な位置の数を決定し、その数を比較した位置の数で割り、これら2つの配列間の同一性パーセンテージが得られるように、得られた結果に100を掛けることによって算出される。
【0287】
相同なアミノ酸配列は、本発明によれば、少なくとも40%、特に少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%のアミノ酸残基の同一性を示す。
【0288】
本明細書に記載のアミノ酸配列変異体は、当業者により、例えば組換えDNA操作によって、容易に調製され得る。置換、付加、挿入または欠失を有するタンパク質およびペプチドを調製するためのDNA配列の操作は、例えばSambrook et al. (1989)に、詳述されている。さらに、本明細書に記載のペプチドおよびアミノ酸変異体は、既知のペプチド合成技術を利用して、例えば固相合成法および類似の方法によって、容易に調製することができる。
【0289】
本発明は、本明細書に記載のペプチドまたはタンパク質の誘導体を包含し、それらは用語“ペプチド”および“タンパク質”に含まれる。本発明によれば、タンパク質およびペプチドの“誘導体”は、タンパク質およびペプチドの修飾型である。そのような修飾には化学的修飾が含まれ、そのような修飾は、炭水化物、脂質および/またはタンパク質もしくはペプチドなどの、タンパク質またはペプチドに関連する任意の分子の、1つまたは複数の置換、欠失、および/または付加を含む。一態様において、タンパク質またはペプチドの“誘導体”には、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、パルミトイル化、ミリストイル化、イソプレニル化、脂質化、アルキル化、誘導体化、保護基/ブロッキング基の導入、タンパク質加水分解的切断または抗体への結合もしくは他の細胞性リガンドへの結合によってもたらされる、修飾された類縁体が含まれる。用語“誘導体”はまた、該タンパク質およびペプチドの全ての機能的化学等価物にも及ぶ。好ましくは、修飾ペプチドは、増加した安定性および/または増加した免疫原性を有する。
【0290】
ペプチドの模倣物も含まれる。そのような模倣物は、1以上のアミノ酸模倣物に連結されたアミノ酸を含んでもよいし(すなわち、ペプチド内の1以上のアミノ酸が、アミノ酸模倣物で置き換えられていてもよいし)、もっぱら非ペプチド模倣物であってもよい。アミノ酸模倣物は、コンフォメーションがアミノ酸に似ていて、それゆえに、例えばT細胞株またはT細胞クローンと反応する能力を実質的に減少させることなく、アミノ酸の代わりに用いることができるような化合物である。非ペプチド模倣物は、アミノ酸を含有せず、ペプチドに似た全体的コンフォメーションを有していて、それゆえに、例えばT細胞株またはT細胞クローンと反応する能力が所与のペプチドの能力と比較して実質的に減少しないような化合物である。
【0291】
本発明により、アミノ酸配列、ペプチドまたはタンパク質の変異体、誘導体、修飾型、フラグメント、パーツまたは部分は、好ましくは、それぞれ、それが由来するアミノ酸配列、ペプチドまたはタンパク質の機能的性質を有する。すなわち、それは機能的に等価である。一態様において、アミノ酸配列、ペプチドまたはタンパク質の変異体、誘導体、修飾型、フラグメント、パーツまたは部分が、それぞれ、それが由来するアミノ酸配列、ペプチドまたはタンパク質と免疫学的に等価である。一態様において、機能的特性が免疫学的特性である。
【0292】
ある特定の性質は、MHC分子との複合体を形成し、それが好適な場合には、好ましくは細胞傷害性細胞またはTヘルパー細胞を刺激することによって、免疫応答を生じさせる能力である。
【0293】
用語“免疫学的に等価”とは、免疫学的に等価な分子、例えば免疫学的に等価なアミノ酸配列が、例えば体液性免疫応答および/または細胞性免疫応答の誘導、誘導される免疫反応の強さおよび/または持続時間、あるいは誘導される免疫反応の特異性などの免疫学的効果のタイプに関して、同じかまたは本質的に同じ免疫学的性質を示し、かつ/または同じかまたは本質的に同じ免疫学的効果を発揮することを意味する。本発明との関連において、用語“免疫学的に等価”は、好ましくは、免疫処置に使用されるペプチドもしくはペプチド変異体の免疫学的効果または性質に関して使用される。例えばアミノ酸配列は、対象の免疫系に曝露された時に、該アミノ酸配列が、対照アミノ酸配列と反応する特異性を有する免疫反応を誘導するのであれば、該対照アミノ酸配列と免疫学的に等価である。
【0294】
用語“由来する”は、本発明によれば、特定のエンティティ、特に特定の配列が、それが由来する物体、特に生物または分子中に存在することを意味する。アミノ酸配列の場合、とりわけ特定の配列領域の場合、“由来する”は、特に、関連するアミノ酸配列が、それが存在しているアミノ酸配列に由来することを意味する。
【0295】
用語“細胞”または“宿主細胞”は、好ましくは、無傷の細胞、すなわち、酵素、細胞小器官(オルガネラ)、または遺伝物質などのその正常な細胞内構成要素を放出していない、無傷の膜を有する細胞である。無傷の細胞は、好ましくは、生細胞、すなわちその正常な代謝機能を果たす能力を有する生きている細胞である。好ましくは、該用語は、本発明によれば、外因性の核酸によるトランスフェクションを受けることができる細胞に関する。好ましくは、外因性の核酸でトランスフェクションされ、レシピエントに移入された細胞は、レシピエント中で該核酸を発現できる。用語“細胞”は、本発明によれば、細菌細胞を包含し;他の有用な細胞は、酵母細胞、真菌細胞または哺乳動物細胞である。好適な細菌細胞には、大腸菌、プロテウス属およびシュードモナス属の菌株などのグラム陽性菌株、ならびにバチルス属、ストレプトミセス属、ブドウ球菌およびラクトコッカス属の菌株などのグラム陰性細菌株由来の細胞が含まれる。好適な真菌細胞には、トリコデルマ(Trichoderma)、ニューロスポラ(Neurospora)、およびアスペルギルス(Aspergillus)種由来の細胞が含まれる。好適な酵母細胞には、サッカロミケス属(例えば、サッカロマイセス・セレビシエ)、シゾサッカロミケス(例えば、シゾサッカロミセス・ポンベ)、ピキア(例えば、ピキア・パストリスおよびピキア・メタノリカ)およびハンゼヌラの種の細胞が含まれる。好適な哺乳動物細胞としては、例えば、CHO細胞、BHK細胞、HeLa細胞、COS細胞、293 HEKなどが挙げられる。しかしながら、両生類細胞、昆虫細胞、植物細胞、および異種タンパク質の発現のために当該分野で使用される他の細胞も同様に使用することができる。ヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ヤギおよび霊長動物由来の細胞などの哺乳動物細胞は、養子移入のために特に好ましい。細胞は、多数の組織型に由来し、初代細胞および免疫系の細胞などの細胞株、特に樹状細胞およびT細胞などの抗原提示細胞、造血幹細胞などの幹細胞および間葉系細胞幹細胞および他の細胞型が挙げられる。抗原提示細胞は、その表面上に主要組織適合複合体との関連で抗原を提示する細胞である。T細胞は、そのT細胞受容体(TCR)を用いてこの複合体を認識し得る。
【0296】
核酸分子を含む細胞は、好ましくは、その核酸がコードするペプチドまたはタンパク質を発現する。
【0297】
細胞は、組換え細胞であってもよく、コードされているペプチドまたはタンパク質を分泌してもよく、それを表面上に発現してもよく、好ましくはさらに、該ペプチドもしくはタンパク質またはそのプロセシング産物に結合するMHC分子を発現してもよい。一態様において、細胞はMHC分子を内在性に発現する。さらなる態様において、細胞は、MHC分子および/またはペプチドもしくはタンパク質またはそのプロセシング産物を、組換え的に発現する。細胞は、好ましくは、非増殖性である。好ましい態様において、細胞は抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球またはマクロファージである。
【0298】
用語“クローン拡大(clonal expansion)”は、特異的なエンティティが増倍される過程を意味する。本発明との関連において、この用語は、好ましくは、リンパ球が抗原によって刺激され、増殖し、該抗原を認識する特異的リンパ球が増幅される、免疫学的応答との関連において使用される。好ましくは、クローン拡大は、リンパ球の分化につながる。
【0299】
抗原発現に関連する疾患は、生物学的サンプル中のペプチドと特異的に反応するT細胞の存在に基づいて検出することができる。特定の方法では、患者から単離されたCD4+および/またはCD8+ T細胞を含む生物学的サンプルを、本発明のペプチド、そのようなペプチドをコードする核酸、および/またはそのようなペプチドの少なくとも免疫原性部分を発現し、かつ/または提示する抗原提示細胞と共にインキュベートし、該T細胞の特異的活性化の有無を検出する。好適な生物学的サンプルには、単離されたT細胞が含まれるが、これに限定されない。例えばT細胞は、患者から、常套的な技術によって(例えば、末梢血リンパ球のFicoll/Hypaque密度勾配遠心分離などによって)単離することができる。CD4+ T細胞の場合、活性化は、好ましくは、T細胞の増殖を評価することによって検出される。CD8+ T細胞の場合、活性化は、好ましくは、細胞溶解活性を評価することによって検出される。無疾患対象と比較して少なくとも2倍高い増殖レベルおよび/または少なくとも20%高い細胞溶解活性レベルは、その対象における抗原発現に関連する疾患の存在を示す。
【0300】
本明細書で用いる“低減する”または“阻害する”は、レベルの全体的低下、好ましくは5%以上、10%以上、20%以上、より好ましくは50%以上、最も好ましくは75%以上の全体的低下を引き起こす能力を意味する。用語“阻害する”または類似の表現は、完全な阻害または本質的に完全な阻害、すなわちゼロへの低減または本質的にゼロへの低減が含まれる。
【0301】
“増加する”または“強化する”などの用語は、好ましくは、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも100%程度の増加または強化に関する。
【0302】
本明細書に記載の作用物質、組成物および方法は、疾患、例えばCLDN18.2を発現し、好ましくはMHC分子と関連してCLDN18.2を提示する、罹患細胞の存在により特徴付けられる疾患を有する対象を処置するために用いることができる。処置し、かつ/または予防することができる疾患の例には、CLDN18.2を発現する全ての疾患が包含される。特に好ましい疾患は癌疾患である。
【0303】
本明細書に記載の作用物質、組成物および方法は、本明細書に記載の疾患を予防するための予防接種またはワクチン接種にも使用することができる。
【0304】
用語“正常組織”または“正常状態”は、健常組織、または健常対象における状態、すなわち非病理学的状態を意味し、ここで“健常”とは、好ましくは、非癌性を意味する。
【0305】
用語“疾患”は、個体の身体に影響を与える異常な状態を意味する。疾患は、しばしば特定の症状および兆候に関連する病状として解釈される。疾患は、元来、感染性疾患などの外部原因に起因する要因、または自己免疫疾患などの内的機能障害によって引き起こされ得る。ヒトでは、“疾患”はしばしば、疼痛、機能不全、苦痛、社会的問題、または罹患している個人の死亡、または該個人と接触している人にとっての同様の問題を引き起こす、あらゆる状態を意味するために、より広範に用いられる。この広い意味では、傷害、身体障害(disability)、障害、症候群、感染症、単発症状、逸脱行動、ならびに構造および機能上の異型変異型を含むことがあるが、他の状況および目的ではこれらは区別可能なカテゴリーと考えられる。疾患は通常、物理的にだけでなく、感情的にも個人に影響を与え、多くの疾患に罹患しながら生活することは、人生観や人格を変える可能性ある。本発明によれば、用語“疾患”には、癌、特に本明細書に記載の癌の形態が含まれる。癌または特定の形態の癌に対する本明細書中のいずれの言及も、その癌の転移を含む。好ましい態様において、本発明により処置される疾患は、MHC分子に関してCLDN18.2を発現する細胞および場合によってはCLDN18.2を提示する細胞を含む。
【0306】
“CLDN18.2を発現する細胞に関する疾患”または類似の表現は、本発明により、CLDN18.2が、罹患組織または臓器の細胞で発現されることを意味する。一態様において、罹患組織または臓器の細胞におけるCLDN18.2の発現は、健康な組織または臓器における状態と比較して増加する。増加は、少なくとも10%、特に少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも500%、少なくとも1000%、少なくとも10000%またはさらにそれ以上を意味する。一態様において、発現は、罹患組織においてのみ見いだされ、健康な組織における発現は抑制される。本発明により、CLDN18.2を発現する細胞に関する疾患には、癌疾患が含まれる。さらに、本発明によれば、癌疾患は、好ましくは、癌細胞がCLDN18.2を発現するものである。
【0307】
用語“癌疾患”または“癌”は、一般的に、無制御の細胞増殖により特徴付けられる個体における生理学的状態を意味するか、または説明する。癌の例には、癌腫、リンパ腫、芽腫、肉腫、および白血病が含まれるが、これらに限定されない。より具体的には、かかる癌の例には、骨腫瘍、血液の癌、肺癌、肝臓癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚または眼内の黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門領域の癌、胃癌、結腸癌、乳癌、前立腺癌、子宮癌、性器および生殖器の癌腫、ホジキン病、食道癌、小腸の癌、内分泌系の癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎の癌、軟部肉腫、膀胱癌、腎臓癌、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)の新生物、神経外胚葉癌、脊髄軸腫瘍、神経膠腫、髄膜腫、および下垂体腺腫が含まれる。本発明による用語“癌”はまた、癌転移を含む。好ましくは、“癌疾患”は、CLDN18.2を発現する細胞により特徴付けられ、かつ癌細胞はCLDN18.2を発現する。
【0308】
罹患細胞は、好ましくは、CLDN18.2を発現する細胞であり、ここで、該CLDN18.2は、好ましくは、膜貫通タンパク質として該細胞の表面上に存在し、および/またはMHC IなどのMHCと関連して該細胞により提示される。CLDN18.2を発現する細胞は、好ましくは、癌細胞であり、好ましくは本明細書に記載の癌の細胞である。
【0309】
一態様において、癌疾患は、退形成、侵襲性、および転移という性質を特徴とする悪性疾患である。悪性腫瘍とは、悪性病変が、その増殖において自己限定的でなく、隣接組織に侵入する能力を有し、遠隔組織に伝播する(転移する)能力も有し得るのに対し、良性腫瘍はこれらの性質をいずれも有さないという点で、非がん性良性腫瘍と対比させることができる。
【0310】
一態様において、本発明の癌は、CLDN18.2を発現する癌細胞に関する。一態様において、癌はCLDN18.2陽性である。一態様において、CLDN18.2の発現は、細胞の表面で起こる。一態様において、癌細胞の少なくとも50%、好ましくは60%、70%、80%または90%は、CLDN18.2陽性であり、および/または癌細胞の少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%は、CLDN18.2の細胞表面発現について陽性である。一態様において、癌細胞の少なくとも95%または少なくとも98%は、CLDN18.2陽性である。一態様において、癌細胞の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%は、CLDN18.2の細胞表面発現について陽性である。
【0311】
一態様において、CLDN18.2を発現する癌、CLDN18.2を発現する癌細胞を含む癌またはCLDN18.2陽性の癌は、胃癌、食道癌、膵臓癌、非小細胞肺癌(NSCLC)などの肺癌、卵巣癌、結腸癌、肝臓癌、頭頸部癌、および胆嚢癌ならびにそれらの転移、特に胃癌転移癌、例えばクルーケンベルグ腫瘍、腹膜播種性転移およびリンパ節転移からなる群より選択される。一態様において、癌は、腺癌、特に進行した腺癌である。特に好ましい癌疾患は、胃、食道、膵管、胆管、肺および卵巣の腺癌である。一態様において、癌は、胃癌、食道癌、特に下部食道、食道胃接合部の癌および胃食道癌からなる群より選択される。特に好ましい態様において、癌は、転移性、難治性または再発性の進行胃食道癌などの胃食道癌である。
【0312】
本発明によれば、用語“腫瘍”または“腫瘍疾患”は、細胞(新生物細胞または腫瘍細胞と呼ばれる)の異常増殖によって形成された腫脹または病変を意味する。“腫瘍細胞”は、急激でかつ無制御な細胞増殖によって増殖する異常細胞であり、新しい増殖停止を開始する刺激後に増殖し続ける。腫瘍は、構造的組織、および、正常組織との機能的な共同作用の部分的または完全な欠如を示し、通常は、良性、前癌状態または悪性のいずれかの異質な組織塊を形成する。
【0313】
本発明により、“癌腫”は、上皮細胞に由来する悪性腫瘍である。この群は、乳癌、前立腺癌、肺癌および結腸癌の一般的な形態を含む最も一般的な癌を表す。
【0314】
“腺癌”は、腺組織に起源を有するがんである。この組織は、上皮組織として知られる、さらに大きな組織カテゴリーの一部でもある。上皮組織には、皮膚、腺、ならびに身体の腔および臓器を裏打ちする他の種々の組織が含まれる。上皮は、発生学的には、外胚葉、内胚葉および中胚葉に由来する。腺癌と分類されるためには、細胞が分泌性を有する限り、該細胞が腺の一部である必要は必ずしもない。この形態の癌腫はヒトを含む高等哺乳動物において発生し得る。高分化型腺癌はそれらが由来する腺組織に似る傾向があるが、低分化型はそうではない。病理学者は、生検からの細胞を染色することによって、その腫瘍が腺癌であるか、または他のタイプの癌であるかを決定することができる。腺癌は、体内での腺の遍在性ゆえに、身体の多くの組織に生じ得る。各腺は同じ物質を分泌するわけではないが、細胞に外分泌機能がある限り、それは腺性であるとみなされ、その悪性形態は、それゆえに腺癌と呼ばれる。悪性腺癌は他の組織に侵入し、転移するのに十分な時間が与えられれば、しばしば転移する。卵巣腺癌は最も一般的なタイプの卵巣癌腫である。これには、漿液性および粘液性腺癌、明細胞腺癌ならびに類内膜腺癌が含まれる。
【0315】
リンパ腫および白血病は、造血(血液形成)細胞に由来する悪性疾患である。
【0316】
芽細胞性腫瘍または芽細胞腫は、未熟組織または胚性組織に似た腫瘍(通常は悪性)である。これらの腫瘍の多くは、小児に最もよく見られる。
【0317】
“転移”とは、その元の部位から身体の別の部分への癌細胞の伝播を意味する。転移の形成は、とても複雑な過程であり、原発性腫瘍からの悪性細胞の脱離、細胞外マトリックスの侵襲、体腔および脈管に入るための内皮基底膜の貫入、および血液によって輸送された後の、標的器官の浸潤に依存する。最後に、標的部位における新たな腫瘍の成長は、血管形成に依存する。腫瘍の転移はしばしば原発性腫瘍の除去後にも起こるが、これは、腫瘍細胞または腫瘍構成要素が残存していて、転移能を発生させ得るからである。一態様において、用語“転移”は、本発明によれば、“遠隔転移”に関し、これは、原発性腫瘍および所属リンパ節系から遠く離れた転移に関する。一態様において、用語“転移”は、本発明によれば、リンパ節転移に関する。
【0318】
続発性腫瘍または転移性腫瘍の細胞は、元の腫瘍における細胞に似ている。これは、例えば、卵巣癌が肝臓に転移した場合、続発性腫瘍は異常な肝細胞ではなく異常な卵巣細胞で構成されることを意味する。肝臓における腫瘍は、その場合、肝臓がんではなく転移性卵巣癌と呼ばれる。
【0319】
再燃(relapse)または再発(recurrence)は、ある人が、過去に罹患した状態に再び罹患したときに起こる。例えば、ある患者が腫瘍疾患を患い、該疾患の処置を成功裏に終了し、そして再び該疾患を発症した場合、該新たに発症した疾患は、再燃または再発とみなされ得る。しかしながら、本発明によれば、腫瘍疾患の再燃または再発は、もとの腫瘍疾患の部位でも起こりうるものの、必ずしも、もとの腫瘍疾患の部位で起こるとは限らない。従って、例えば、ある患者が卵巣腫瘍を患い、処置を受けて成功を収めたことがある場合、再燃または再発は卵巣腫瘍の発生である場合も、卵巣とは異なる部位での腫瘍の発生である場合もあり得る。腫瘍の再燃または再発には、腫瘍がもとの腫瘍の部位に発生する状況だけでなく、もとの腫瘍の部位とは異なる部位に発生する状況も含まれる。好ましくは、患者が処置を受けたもとの腫瘍は原発性腫瘍であり、もとの腫瘍の部位とは異なる部位にある腫瘍は、続発性または転移性腫瘍である。
【0320】
用語“処置”または“治療的処置”は、健康状態を改善する、および/または個体の寿命を延長する(増加させる)、あらゆる処置に関する。該処置は、個体における疾患を排除し、個体における疾患の発症を停止または遅延させ、個体における疾患の発症を阻害または遅延させ、個体における症状の頻度または重症度を低下させ、および/または現在罹患しているか、もしくは以前に罹患していた個体における再発を低下させ得る。
【0321】
用語“予防的処置”または“予防処置”は、個体において疾患が生じるのを予防することを意図した処置に関する。用語“予防的処置”または“予防処置”は、本明細書中、互換的に用いられる。
【0322】
用語“個体”および“対象”は、本明細書中、互換的に用いられる。それらは、疾患または障害(例えば、癌)に罹患し得るか、または罹患しやすいが、疾患または障害を有していても有していなくてもよい、ヒト、非ヒト哺乳動物または他の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマまたは哺乳動物)を意味する。多くの態様において、個体はヒトである。特記しない限り、用語“個体”および“対象”は、特定の年齢を示すものではなく、従って、成人、高齢者、子供および新生児を包含する。本発明の好ましい態様において、“個体”または“対象”は“患者”である。用語“患者”は、本発明によれば、処置の対象、特に罹患対象を意味する。
【0323】
“リスクを有する”とは、一般的な集団と比較して、疾患、特に癌の発生の可能性が通常よりも高いことが確認されている対象、すなわち患者を意味する。加えて、疾患、特に癌に罹患していたか、または現在罹患している対象は、対象が疾患の再発を繰り返すように、疾患の発症のリスクが高い対象である。癌に罹患していたか、または現在罹患している対象もまた、高い癌転移のリスクを有する。
【0324】
用語“免疫療法”は、特定の免疫反応に関与する治療に関連する。
【0325】
本発明の文脈では、“保護する”、“予防する”、“予防的”、“予防の”または“保護の”のような用語は、対象の疾患の発生および/または伝播の、予防もしくは処置またはその両方に関連し、特に対象が疾患を発症する可能性を最小化するか、または疾患の発生を遅延することに関連する。例えば、上記のように、腫瘍のリスクを有する個人は、腫瘍の予防のための療法の候補者となりうる。
【0326】
免疫療法の予防的施行、例えば本発明の作用物質または組成物の予防的投与は、好ましくは、疾患の発生からレシピエントを保護する。免疫療法の治療的施行、例えば本発明の作用物質または組成物の治療的投与は、疾患の進行/成長の阻害につながり得る。これは、疾患の進行/成長の減速、特に、好ましくは疾患の排除につながる、疾患の進行の中断を含む。
【0327】
免疫療法は、本明細書に記載の作用物質が、好ましくはCLDN18.2を発現する細胞を患者から除去するように機能する種々の技法を何れでも用いて行うことができる。そのような除去は、CLDN18.2またはCLDN18.2を発現するか、もしくはMHC分子に関連してCLDN18.2を提示する細胞に特異的な患者の免疫応答を強化または誘導した結果として起こり得る。
【0328】
ある態様において、免疫療法は、能動免疫療法であってよく、この場合、処置は、免疫応答修飾作用物質(本明細書に記載のペプチドおよび核酸など)を投与して、罹患細胞に対して反応するように内在性宿主免疫系をインビボで刺激することに依る。
【0329】
他の態様において、免疫療法は、受動免疫療法であってよく、この場合、処置は、直接的または間接的に抗腫瘍効果に介在することができ、かつ必ずしも無傷な宿主免疫系に依存しない、確立された腫瘍免疫反応性を有する作用物質(例えば、エフェクター細胞)の送達を伴う。エフェクター細胞の例には、Tリンパ球(例えば、CD8+ 細胞傷害性Tリンパ球およびCD4+ Tヘルパーリンパ球)、および抗原提示細胞(例えば、樹状細胞およびマクロファージ)が含まれる。養子免疫療法のために、本明細書に記載のCLDN18.2ペプチドに特異的なT細胞受容体およびCLDN18.2に特異的な人工T細胞受容体を、エフェクター細胞に移入することができる。
【0330】
上述のように、免疫療法用に十分な数の細胞を作製するために、本明細書に記載するような免疫反応性ペプチドを使って、抗原特異的T細胞培養を迅速に拡大することができる。特に、抗原提示細胞、例えば樹状細胞、マクロファージ、単球、線維芽細胞および/またはB細胞に、免疫反応性ペプチドをパルスするか、当技術分野においてよく知られている標準技術を用いて1以上の核酸をトランスフェクトすることができる。治療に使用するための培養エフェクター細胞は、増殖可能であり、広く分布していること、およびインビボで長期間生存可能でなければならない。IL-2を補足した抗原で繰り返し刺激することにより、培養エフェクター細胞を、インビボで増殖させ、かなりの数を長期間生き残らせることが可能であることは、研究によって示されている(例えば、Cheever et al. (1997), Immunological Reviews 157, 177を参照のこと)。
【0331】
あるいは、本明細書に記載のペプチドを発現する核酸を、患者から採取した抗原提示細胞に導入し、同じ患者に移植し戻すためにエクスビボでクローン増殖させてもよい。
【0332】
トランスフェクト細胞は、当技術分野において知られる手段を用いて、好ましくは静脈内、腔内、腹腔内または腫瘍内投与により滅菌された形態で、患者に再導入することができる。
【0333】
本明細書に記載の方法は、ペプチドまたはペプチドを発現する抗原提示細胞胞に応答して活性化された自己T細胞の投与を伴い得る。そのようなT細胞は、CD4+および/またCD8+であってよく、上記の通りに増殖させることができる。T細胞は、疾患の発生を阻害するのに有効な量で対象に投与され得る。
【0334】
用語“免疫化(immunization)”または“ワクチン接種”は、治療的または予防的理由で免疫応答を誘導するという目的をもって、対象を処置する過程を意味する。
【0335】
用語“インビボ”は、対象内の状況に関する。
【0336】
本発明によれば、“サンプル”は、本発明に従って有用である任意のサンプル、特に体液を含む組織サンプルおよび/または細胞サンプルなどの生物学的サンプルであってよく、パンチ生検を含む組織生検や、血液、気管支吸引液、喀痰、尿、糞便または他の体液の採取などの、従来の方法で得ることができる。本発明によれば、用語“サンプル”にはまた、加工されたサンプル、例えば生物学的サンプルの画分もしくは単離物、例えば核酸およびペプチド/タンパク質単離物なども含まれる。
【0337】
本明細書に記載の化合物および作用物質は、任意の好適な医薬組成物の形態で投与され得る。
【0338】
本発明の医薬組成物は、好ましくは、滅菌されており、有効量の本明細書に記載の作用物質を含み、本明細書に記載の通り、要すれば、所望の反応または所望の効果が生じるように、さらに作用物質を含んでもよい。
【0339】
医薬組成物は通常、均一な剤形で提供され、それ自体公知の方法で調製することができる。医薬組成物は、例えば、溶液または懸濁液の形態であってもよい。
【0340】
医薬組成物は、好ましくは薬学的に許容される、塩、緩衝物質、防腐剤、担体、希釈剤および/または添加物を含み得る。用語“薬学的に許容される”は、医薬組成物の活性成分の作用と相互作用しない物質の非毒性を意味する。
【0341】
薬学的に許容されない塩は、薬学的に許容される塩を調製するために使用することができ、本発明に包含される。この種の薬学的に許容される塩には、以下の酸から調製されるものが含まれるが、これらに限定されない:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸など。薬学的に許容される塩はまた、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩としても調製することができる。
【0342】
医薬組成物に用いるのに適する緩衝物質には、酢酸塩、クエン酸塩、ホウ酸塩およびリン酸塩が含まれる。
【0343】
医薬組成物に用いるのに適する防腐剤には、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベンおよびチメロサールが含まれる。
【0344】
注射用製剤には、リンガー乳酸塩のような薬学的に許容される添加物が含まれ得る。
【0345】
用語“担体”は、適用を容易にする、増強する、または可能にするために活性成分がそこに組み合わされる、天然のまたは合成の有機または無機成分を意味する。本発明によれば、用語“担体”にはまた、患者への投与に適する1以上の適合性の固形または液状の充填剤、希釈剤または封入物質が含まれる。
【0346】
非経腸投与用の可能性のある担体物質は、例えば、滅菌水、リンゲル溶液、リンゲル乳酸塩、滅菌塩化ナトリウム溶液、ポリアルキレングリコール、水素化ナフタレン、特に、生体適合性ラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマーまたはポリオキシエチレン/ポリオキシ-プロピレンコポリマーである。
【0347】
本明細書で用いる用語“添加物”は、医薬組成物中に存在し得て、例えば担体、結合剤、滑沢剤、増粘剤、界面活性剤、防腐剤、乳化剤、緩衝剤、香味剤、または着色剤などの活性成分ではない、全ての物質を示すことを意図する。
【0348】
本明細書に記載の作用物質および組成物は、従来の経路、例えば、注射または点滴を含む非経腸投与によって投与することができる。投与は、好ましくは、非経腸的、例えば静脈内、動脈内、皮下、皮内または筋肉内にできる。
【0349】
非経腸投与用に適する組成物は、通常、好ましくはレシピエントの血液と等張である、活性化合物の滅菌水性または非水性調製物を含む。適合性担体および適合性溶媒の例は、リンゲル液および等張塩化ナトリウム溶液である。加えて、通常は滅菌された固定油が、溶液または懸濁媒体として使用される。
【0350】
本明細書に記載の作用物質および組成物は、有効量で投与される。“有効量”とは、単独で、またはさらなる用量と共に、所望の反応または所望の効果を達成する量を意味する。特定の疾患または特定の状態を処置する場合、所望の反応とは、好ましくは、その疾患の経過の阻害に関する。これは、疾患の進行を遅延させること、特に疾患の進行を中断することまたは逆転させることを含む。疾患または病状の処置における所望の反応は、該疾患または該病状の発症の遅延または予防でもあり得る。
【0351】
本明細書に記載の有効量の作用物質または組成物は、治療される状態、疾患の重症度、患者の年齢、生理学的状態、サイズおよび体重を含む患者の個々のパラメーター、治療期間、併用療法(存在する場合)のタイプ、特定の投与経路および同様の要因に依存し得る。従って、本明細書に記載の作用物質の投与量は、さまざまな上記パラメーターに依存し得る。患者における反応が初回用量では不十分な場合は、より高い用量(または、異なる、より局所的な投与経路によって効果的に達成される、より高い用量)を用いることができる。
【0352】
本明細書に記載の作用物質および組成物は、患者に、例えばインビボで投与されて、本明細書に記載の障害などの種々の障害を処置または予防し得る。好ましい患者には、本明細書に記載の作用物質および組成物を投与することによって治療または改善され得る障害を有するヒト患者が含まれる。これには、CLDN18.2の発現を特徴とする細胞に関連する障害が含まれる。
【0353】
例えば、一態様において、本明細書に記載の作用物質は、CLDN18.2を発現する癌細胞の存在を特徴とする癌疾患、例えば本明細書に記載のような癌疾患を有する患者を治療するために使用することができる。
【0354】
本明細書に記載の医薬組成物および処置法は、本明細書に記載の疾患を予防するための免疫化またはワクチン接種のために使用することもできる。
【0355】
本発明の医薬組成物は、1以上のアジュバントのような補充免疫増強物質(supplementing immunity-enhancing substance)と共に投与することができ、その有効性をさらに高めるため、好ましくは免疫刺激の相乗効果を達成するために、1以上の免疫増強物質を含み得る。用語“アジュバント”は、免疫応答を延長または強化または加速する化合物に関する。この点で、様々な種類のアジュバントに応じて、種々のメカニズムが可能である。例えば、DCの成熟を可能にする化合物、例えばリポ多糖またはCD40リガンドは、第1のクラスの適切なアジュバントを形成する。一般的に、“危険シグナル”(LPS、GP96、dsRNAなど)またはGM-CSFなどのサイトカインのタイプの免疫系に影響を及ぼす作用物質は、免疫応答を、制御された方法で強化することおよび/または影響を受けることを可能にするアジュバントとして使用することができる。本明細書中、要すればCpGオリゴデオキシヌクレオチドを使用することもできるが、上記で説明した特定の状況下で生じるそれらの副作用を考慮する必要がある。特に好ましいアジュバントは、モノカイン、リンホカイン、インターロイキンまたはケモカインなどのサイトカイン類、例えばIL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12、IFNα、IFNγ、GM-CSF、LT-α、または増殖因子、例えばhGHである。さらに公知のアジュバント類は、水酸化アルミニウム、フロイントアジュバントまたはMontanide(登録商標)などの油であり、最も好ましくは、Montanide(登録商標)ISA51である。Pam3Cysなどのリポペプチドもまた、本発明の医薬組成物におけるアジュバントとしての使用に適している。
【0356】
医薬組成物は、局所的または全身的に、好ましくは全身的に投与することができる。
【0357】
用語“全身投与”は、薬剤(作用物質)が有意な量で個体の体内に広く分配され、所望の効果を発揮するような薬剤の投与を意味する。例えば、作用物質は、血液中で所望の効果を発揮し得て、および/または血管系に介在して作用の所望の部位に到達し得る。一般的な全身投与経路には、作用物質を血管系に直接導入する投与、または作用物質が吸着され、血管系に入り、血液に介在して1以上の所望の作用部位に運ばれる、経口、肺、または筋肉内投与が含まれる。
【0358】
本発明によれば、全身投与は非経腸投与によるものであることが好ましい。用語“非経腸投与”は、作用物質が腸を通過しないような該作用物質の投与を意味する。用語“非経腸投与”には、静脈内投与、皮下投与、皮内投与または動脈内投与が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0359】
投与はまた、例えば経口的、腹腔内または筋肉内に行うことができる。
【0360】
本明細書に記載の作用物質および組成物は、単独で使用するか、または外科手術、放射線照射、化学療法および/または骨髄移植(自己、同系、同種異系または無関係)などの従来の治療レジメンと組み合わせて使用することができる。
【0361】
本発明を図面および以下の実施例によって詳しく説明するが、これらは例示を目的として使用されているに過ぎず、限定を意図していない。これらの説明と実施例とにより、当業者は、本発明に同様に包含されるさらなる態様に到達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0362】
【
図1】
図1:TCR-CD3複合体の図。細胞質内CD3免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)を、円柱で示す(出典元:“The T cell receptor facts book”, MP Lefranc, G Lefranc, 2001)。
【
図2】
図2:CARの連続世代の設計。異なる世代のCAR(1G、第1世代、2G、第2世代、3G、第3世代)の概略図。第1世代は細胞外scFvおよび細胞質CD3ζ鎖/ZAP70介在細胞毒性を含み、第2世代はさらにCD28/PI3Kによる増殖を促進し、第3世代はさらに4-1BBまたはOX40/TRAFにより細胞生存を維持する(Casucci, M. et al. (2011) 2: 378-382)。
【
図3】
図3:CLDN18.2に対するT細胞のリダイレクションのための異なる受容体フォーマットの模式図。左:CLDN18.2特異的scFvフラグメント、IgG1由来スペーサードメイン、CD28共刺激部位およびCD3ζシグナル伝達ドメインからなる第2世代のCAR(CAR-28ζ);中:scFvとマウスTCRβ鎖の定常ドメインとの結合およびマウスTCRα鎖の定常ドメインの共発現に基づく新規CARフォーマット(CAR/Cα);右:TCRα/β鎖からなるマウスTCR(mu、マウスTCR)。
【
図4】
図4:ヒト組織のパネルにおけるCLDN18.1およびCLDN18.2転写物のプロファイリング。A、CLDN18遺伝子座のゲノム構造(上)。四角で囲って示すエクソンは、CLDN18.1(E1.1)またはCLDN18.2(E1.2)それぞれに固有のものである;下、CLDN18変異体のエクソン組成;アーチ、2つの細胞外ドメイン;矢印、RT-PCRに用いたプライマー。B、エンドポイントRT-PCRによる、正常ヒト組織(N)、原発腫瘍試料、および腫瘍細胞株における、CLDN18アイソフォームの比較分析。C、リアルタイムPCRによる、正常ヒト組織(N)、原発腫瘍試料、および腫瘍細胞株における定量化(Sahin U et al., Clin Cancer Res 2008;14:7624-34)。
【
図5】
図5:IFNy-ELISPOTアッセイにより分析した、CLDN18.2由来ペプチドに対する免疫化したHLA-A*02-トランスジェニックマウス由来の脾臓細胞のエキソビボ反応性。特定のアルゴリズムを適用してCLDN18.2の最初の80アミノ酸について、HLA-A*02 CLDN18.2特異的結合ペプチドを予測した(Rammensee H. et al. (1999) Immunogenetics 50, 213-9)。CLDN18.2-免疫化HLA-A*02-トランスジェニックマウスの脾臓細胞を、CLDN18.2ペプチドプールまたは予測されたHLA-A*02-結合CLDN18.2-由来ペプチドCLDN18.2-A2-1-6に対する反応性について分析した。陽性対照:PMA-処理した脾臓細胞;陰性対照:無関係なペプチドプール(HIV-gag)、無関係な9マー(nonamer)のペプチド(PLAC1-31-39)。
【
図6】
図6:インビトロ再刺激後のHLA-A*02-トランスジェニックマウスからのCLDN18.2-特異的マウスCD8+T細胞のフローサイトメトリーソーティング。単一のCD8+/CD137+T細胞を、CLDN18.2重複ペプチドプールを有する脾臓細胞の再刺激後に単離した。対照:無関係のペプチドプールで再刺激した脾臓細胞(HIV-gag)。
【
図7】
図7:CLDN18.2-免疫マウスのCD8+T細胞から単離したTCRの特異性試験。HLA-A*02-陽性健常ドナーのCD8+T細胞を、TCR-α/β鎖RNAを用いてトランスフェクトし、CLDN18.2オーバーラップ15マーペプチド(=CLDN18.2プール)またはCLDN18.2-由来HLA-A*02結合ペプチド(CLDN18.2-A2-4、CLDN218.2-A2-5、CLDN18.2-A2-6)でパルスしたK562-A2細胞の認識についてIFNγ-ELISPOTにより試験した。陰性対照:無関係なペプチドプール(HIV-gag)、無関係な9マーのペプチド(PLAC1-31-39);陽性対照:SEB。
【
図8】
図8:ヒト前活性化CD8+T細胞上のCLDN18.2-およびCLDN6-特異的CARの細胞表面発現。CD8+T細胞をOKT3で予め活性化し、20μgのCAR-RNAをトランスフェクトした。エレクトロポレーションの20時間後、細胞を、それぞれCLDN18.2-CARおよびCLDN6-CARに特異的な、PE-コンジュゲート抗CD8抗体およびイディオタイプ特異的フロロクロムコンジュゲート抗体で染色した。細胞を単一のCD8+Tリンパ球でゲーティング(gate)した。
【
図9】
図9:CLDN18.2-CARによって介在されるCLDN18.2を発現する標的細胞の特異的溶解。予め活性化したCD8+T細胞に20μgのCAR RNAをトランスフェクトし、漸増E:T比(30:1、10:1、3:1)を用いてCLDN18.2-CARのいずれかをコードするRNAを用いてトランスフェクトした自己未成熟樹状細胞(iDC)と共に20時間共培養した。陰性対照:CLND6-特異的CARでトランスフェクトした、またはCAR RNAなし(=モック)でトランスフェクトしたT細胞、CLDN6-RNAでトランスフェクトしたiDC。特異的溶解を、4時間共培養後のルシフェラーゼベースの細胞毒性アッセイによって分析した。
【
図10】
図10:イディオタイプ特異的抗体の添加によるCLDN18.2を発現する標的細胞のCLDN18.2-CAR介在溶解の特異的阻害。予め活性化したCD8+T細胞に20μgのCAR RNAをトランスフェクトし、30:1のE:T比を用いてCLDN18.2-またはCLDN6-RNAのいずれかでトランスフェクトした自己iDCと共に20時間共培養した。標的細胞を添加する前に1時間、エフェクターT細胞を、2μg/mlのイディオタイプ特異的抗体で、またはそれなしで、予めインキュベートした。特異的溶解を、4時間共培養後のルシフェラーゼベースの細胞毒性アッセイによって分析した。
【
図11】
図11:CLDN18.2-CAR T細胞のインビトロでの抗原特異的増殖。CD8
+T細胞を、CLDN18.2-CARのいずれかをコードするRNAまたはRNAなし(モック)でエレクトロポレーションし、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)で標識した。CAR T細胞を、CLDN18.2のいずれかをコードするIVT-RNA 5μgまたは対照抗原CLDN9もしくはCLDN6でトランスフェクトしたiDCと共培養した。96時間共培養後、細胞を採取し、CFSE蛍光をフローサイトメトリーで分析した。細胞をCD8
+生存単一リンパ球でゲーティング(gate)した。
【
図12】
図12:ワクチン接種後のマウスにおけるCLDN18.2-CAR T細胞のインビボでの抗原特異的活性化。BALB/c-マウスに、5x10
6 CLDN18-2-CAR-effLuc-GFP形質導入T細胞を移植した。ACTの24時間後に、マウスを、25μgのCLDN18.2 RNAまたはCtrl RNAを含むRNA
(F12-Lip)を静脈内注射によりワクチン接種した。(A)蛍光色素結合抗体を用いたフローサイトメトリーによるT細胞の形質導入効率の測定。(B)マウスにおけるインビボでの発光強度を、ワクチン接種の48時間後に測定した。色のついていない画像は、グレースケールの比較用写真(reference photo)に重ね合わされた光の強さ(黒、最低強度;白から濃い灰色、最も強い強度)を表す。
【実施例】
【0363】
実施例
本明細書で用いる技術および方法は本明細書に記載されているか、またはそれ自体公知の方法で実施され、例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Edition (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Yに記載のような方法で実施される。キットおよび反応剤の使用を含むすべての方法は、特に指示がない限り、製造者の情報に従って行われる。
【0364】
実施例1:材料および方法
細胞株および反応剤
HLA-A*0201(Britten, C.M. et al. (2002), J. Immunol. Methods 259, 95-110)を安定にトランスフェクトされたヒト慢性骨髄性白血病細胞株K562(Lozzio, C.B. & Lozzio, B.B (1975), Blood 45, 321-334)(例えば、K562-A2と呼ばれる)を、TCR検証アッセイのために、標準条件下で培養した。初代ヒト新生児包皮線維芽細胞株CCD-1079Sk(ATCC受託番号CRL-2097)を、製造者の指示に従って培養した。
【0365】
末梢血単核細胞(PBMC)、単球および樹状細胞(DC)
PBMCを、バフィーコートからFicoll-Hypaque(Amersham Biosciences, Uppsala, Sweden)密度勾配遠心分離により単離した。HLAアレル型をPCR標準法により決定した。単球を、抗CD14マイクロビーズ(Miltenyi Biotech, Bergisch-Gladbach, Germany)を用いて濃縮した。未成熟DC(iDC)を、Kreiter et al. (2007), Cancer Immunol. Immunother., CII, 56, 1577-87に記載の通り、サイトカイン添加培養培地中で5日間、単球を分化させることにより得た。
【0366】
ペプチドおよび刺激細胞へのペプチドのパルス刺激
クローディン-18.2またはHIV-gagの配列に対応する11個のアミノ酸重複を有するN末端およびC末端の遊離15マーのペプチドのプール(抗原ペプチドプールと呼ばれる)を、標準固相化学(JPT GmbH, Berlin, Germany)により合成し、最終濃度0.5mg/mlとなるようにDMSOで希釈した。9マーのペプチドを、PBS中10%DMSO中で再構成した。パルス刺激のために、刺激細胞を、異なるペプチド濃度を用いて培養培地中で37℃にて1時間インキュベートした。
【0367】
RNAのインビトロでの転写(IVT)のためのベクター
全ての構築物は、既述のpST1-sec-insert-2βgUTR-A(120)-Sap1プラスミド(Holtkamp, S. et al. (2006), Blood 108, 4009-4017)の変異体である。マウスTCR鎖をコードするプラスミドの作製のために、マウスTCR-α、-β1および-β2定常領域をコードするcDNAを、商業的プロバイダから注文し、類似性に基づいてクローニングした(それぞれ、GenBank受託番号M14506、M64239およびX67127)。特定のV(D)J PCR産物を、かかるカセットに導入して、完全長TCR鎖を産生した(pST1-マウスTCRαβ-2βgUTR-A(120)と称する)。
完全長CLDN18.2、CLDN18.2 aa1-80およびCLDN6抗原を、既報の通り、pST1プラスミド中のMHCクラスI輸送シグナル(MITD)に連結させてクローニングした(Kreiter, S. et al. (2008), J. Immunol. 180, 309-318)。
【0368】
インビトロで転写された(IVT)RNAの作製および細胞への導入
IVT RNAの作製を既報の通り実施し(Holtkamp, S. et al. (2006), Blood 108, 4009-4017)、予冷した4-mm gap滅菌エレクトロポレーションキュベット(Bio-Rad Laboratories GmbH, Munich, Germany)中、X-VIVO15培地(Lonza, Basel, Switzerland)中に懸濁した細胞に添加した。エレクトロポレーションを、Gene-Pulser-II装置(Bio-Rad Laboratories GmbH, Munich, Germany)を用いて実施した(T細胞:450V/250μF;K562-A2:200V/300μF)。
【0369】
IVT RNAを用いたHLA A2.1/DR1マウスの結節内免疫化によるT細胞のインビボプライミング
A2/DR1マウス(Pajot A. et al. (2004), Eur. J. Immunol. 34, 3060-69)のT細胞を、抗原をコードするIVT RNAを用いた反復的節内免疫化により、目的の抗原に対してインビボでプライミングした(Kreiter S. et al. (2010), Cancer Research 70, 9031-40)。節内免疫化のために、マウスをキシラジン/ケタミンで麻酔した。鼠径部リンパ節を外科的に露出させ、極細針(31G、BD Biosciences)を付けた使い捨て0.3 ml注射器を用いて、リンゲル液およびRnaseフリー水に希釈した10μL RNA(20μg)をゆっくり注射し、創部を閉じた。6回の免疫化サイクル後にマウスを屠殺し、脾臓細胞を単離した。
【0370】
脾臓細胞の取得
脾臓を滅菌条件下で切離した後、それらをPBS含有ファルコンチューブに移した。脾臓を鉗子で機械的に破壊し、セルストレーナー(40μm)で細胞懸濁液を得た。脾細胞をPBSで洗浄し、遠心分離し、赤血球溶解用の低張緩衝液に再懸濁した。室温(RT)で5分間インキュベートした後、20~30mlの培地またはPBSを添加することによって反応を停止させた。脾臓細胞を遠心分離し、PBSで2回洗浄した。
【0371】
CD137染色後の抗原特異的CD8+T細胞の単一細胞選別
抗原特異的再刺激のために、免疫化A2/DR1マウスからの脾臓細胞2.5x106個/ウェルを24ウェルプレートに播種し、目的の抗原または対照抗原をコードする重複ペプチドのプールをパルス処理した。24時間のインキュベーション後に、細胞を収穫し、FITCコンジュゲート抗CD3抗体、PEコンジュゲート抗CD4抗体、PerCP-Cy5.5コンジュゲート抗CD8抗体およびDylight-649コンジュゲート抗CD137抗体で染色した。選別はBD FACS Ariaフローサイトメーター(BD Biosciences)で行った。CD137、CD3およびCD8に関して陽性な細胞を選別し、フィーダー細胞としてヒトCCD-1079Sk細胞を含む96ウェルV底プレート(Greiner Bio-One)に、1ウェル当たり1細胞を取得し、4℃で遠心分離し、直ちに-80℃で保存した。
【0372】
選別された細胞からのRNA抽出、SMART法に基づくcDNA合成および非特異的増幅
選別されたT細胞から、RNeasy Micro Kit(Qiagen, Hilden, Germany)を用いて、供給者の指示に従って、RNAを抽出した。cDNA合成のために鋳型スイッチプロトコールを用いた:ミント逆転写酵素(Evrogen JSC)を、第1鎖合成反応のプライミングのためのオリゴ(dT)-T-primer longおよびオリゴ(riboG)配列を導入するTS-short(Eurofins Genomic)と組み合わせて、逆転写酵素のターミナルトランスフェラーゼ活性および鋳型スイッチによる伸長型鋳型の作製を可能にした(Matz, M. et al. (1999)Nucleic Acids Res. 27, 1558-1560)。製造者の指示に従って合成された第1鎖cDNAを、200μM dNTPの存在下での、5U PfuUltra Hotstart High-Fidelity DNAポリメラーゼ(Agilent Technologies)および0.48μMプライマーTS-PCRプライマーによる21サイクルの増幅に供した(サイクル条件:95℃で2分、94℃で30秒、65℃で30秒、72℃で1分、72℃で6分間の最終伸長)。TCR遺伝子の増幅の成功を、マウスTCR-β定常領域特異的プライマーでコントロールし、強いバンドが検出された場合にのみ、引き続きクローン型特異的マウスVα-/Vβ-PCRを行った。
【0373】
TCR増幅用のPCRプライマーの設計
マウスTCRコンセンサスプライマーを設計するために、ImMunoGeneTics(IMGT)データベース(http://www.imgt.org)に列挙されている全てのマウスTCR-Vβおよび-Vα遺伝子を、それぞれの対応するリーダー配列と共に、BioEdit Sequence Alignment Editor(例えば、http://www.bio-soft.net)でアラインメントした。最大3つの縮重塩基、40-60%のGC含量、および3’末端にGまたはCを有する24~27bp長のフォワードプライマーを、可能な限り多くのリーダー配列にアニールするように設計し、稀な制限酵素部位およびコザック配列を特徴とする15bpの5’伸長部を設けた。リバースプライマーは、定常領域遺伝子の第1エクソンにアニールするように設計され、プライマーmTRACex1_asはCαのアミノ酸24~31に対応する配列に結合し、mTRBCex1_asはCβ1およびCβ2中のアミノ酸(aa)8~15に結合する。どちらのオリゴヌクレオチドも5’リン酸基を有するように合成した。プライマーを、同一のアニーリング温度を有する2~6個のフォワードオリゴのプールにまとめた。
【0374】
V(D)J配列のPCR増幅およびクローニング
単離されたT細胞に由来する予め増幅したcDNA6μlを、0.6μM mVα-/mVβ-特異的オリゴプール、0.6μM mCα-またはmCβ-オリゴ、200μM dNTPおよび5U PfuUltra II Fusion HS DNAポリメラーゼの存在下で、40サイクルのPCRに供した(Agilent;サイクル条件:95℃で1分、94℃で30秒、アニーリング温度で30秒、72℃で30秒、72℃で3分間の最終伸長)。Qiagenのキャピラリー電気泳動システムを用いてPCR産物を分析した。470-550bpにバンドを有するサンプルを、アガロースゲルでサイズ分画し、バンドを切り出し、Gel Extractionキット(Qiagen, Hilden, Germany)を用いて精製した。mTRBCex1_asおよびmTRBCex1_asプレイマーがそれぞれ、マウスにおけるTCR定常領域遺伝子Cβ1およびCβ2の両方に合致するので、配列解析を行い、V(D)Jドメインおよびβ定常領域の両方の配列を明らかにした。DNAを消化し、完全なマウスTCR-α/β鎖のための適当なバックボーンを含むIVTベクター中にクローニングした。
【0375】
フローサイトメトリー分析
トランスフェクトされたTCR遺伝子の細胞表面発現を、TCR β鎖の適当な可変領域ファミリーまたは定常領域に対する蛍光色素-コンジュゲート抗TCR抗体(Beckman Coulter Inc., Fullerton, USA)をCD3、CD8またはCD4に対する抗体(BD Biosciences)と組み合わせて用いて、フローサイトメトリーで分析した。トランスフェクションされたCARの細胞表面発現を、それぞれのCAR構築物に含まれるscFvフラグメントを認識する蛍光色素-結合イディオタイプ特異的抗体(Ganymed Pharmaceuticals)を用いて分析した。フローサイトメトリー分析を、FACS CANTO IIフローサイトメーターでFACS Divaソフトウェア(BD Biosciences)を用いて行った。
【0376】
ルシフェラーゼ細胞傷害性アッセイ
細胞介在性細胞傷害を評価するために、51Cr放出法の代替法および最適化法として、バイオルミネセンスに基づくアッセイを用いた。標準的なクロム放出アッセイとは対照的に、このアッセイでは、共インキュベーション後の生存可能なルシフェラーゼ発現標的細胞の数を計算することによって、エフェクター細胞の溶解活性を測定する。標的細胞に、ホタルPhotinus pyralisのホタル・ルシフェラーゼ(EC 1.13.12.7)をコードするルシフェラーゼ遺伝子を安定にまたは一過性にトランスフェクトした。ルシフェラーゼは、ルシフェリンの酸化を触媒する酵素である。この反応はATP依存的であり、2段階で起こる:
ルシフェリン+ATP→ルシフェリルアデニレート+PP
i
ルシフェリルアデニレート+O
2
→オキシルシフェリン+AMP+光。
【0377】
標的細胞を、白色96ウェルプレート(Nunc, Wiesbaden, Germany)に、1ウェルあたり104細胞の濃度で播種し、100μlの最終容量で、種々の細胞数のTCRトランスフェクトT細胞と共培養した。3時間後に、50μlのD-ルシフェリン(BD Biosciences)含有反応ミックス(ルシフェリン(1μg/μl)、HEPES緩衝液(50mM、pH)、アデノシン5’-トリホスファターゼ(ATPase、0.4mU/μl、Sigma-Aldrich, St. Louis, USA)を細胞に添加した。反応ミックスへのATPaseの添加により、死細胞から放出されたルシフェラーゼから生じる発光が減少した。
【0378】
4時間の総インキュベーション時間後に、生細胞によって放射される生物発光を、Tecan Infinite 200リーダー(Tecan, Crailsheim, Germany)を用いて測定した。2% Triton-X 100の添加によって誘導される完全な細胞溶解後に得られる発光値に対して、標的細胞のみによって放出された発光との関係で、殺細胞活性を計算した。データ出力の単位はカウント毎秒(CPS)とし、特異的溶解パーセントは以下のように計算した:
(1-(CPSexp-CPSmin)/(CPSmax-CPSmin)))*100。
【0379】
最大発光(最大カウント毎秒、CPSmax)を、エフェクターなしで標的細胞をインキュベートした後に評価し、最小発光(CPSmin)を、完全な溶解のために界面活性剤Triton-X-100で標的を処理した後に評価した。
【0380】
ELISPOT(酵素結合免疫スポットアッセイ)
マイクロタイタープレート(Millipore, Bedford, MA, USA)に、抗ヒトIFNγ抗体1-D1k(Mabtech, Stockholm, Sweden)を室温で一晩、または抗マウスIFNy抗体AN18(Mabtech)を4℃で一晩、コーティングし、2%ヒトアルブミン(CSL Behring, Marburg, Germany)またはマウス培養培地でブロッキングした。エレクトロポレーションの24時間後に、マウス設定では1ウェル当たり5x105の脾細胞、ヒト設定においては2~5×104/ウェルの抗原提示刺激細胞を、0.3-3x105/ウェルのTCR-トランスフェクトCD4+またはCD8+エフェクター細胞と共に、トリプリケートで播種した。プレートを、一晩(37℃、5%CO2)インキュベートし、PBS中0.05% Tween 20で洗浄し、最終濃度1μg/mlの抗ヒトIFNγビオチン化mAB 7-B6-1(Mabtech)または抗マウスIFNγビオチニル化mAb R4-6A2(Mabtech)と共に、37℃で2時間インキュベートした。アビジン結合西洋ワサビペルオキシダーゼH(Vectastain Elite Kit;Vector Laboratories、Burlingame、USA)をウェルに添加し、室温で1時間インキュベートし、3-アミノ-9-エチルカルバゾール(Sigma, Deisenhofen, Germany)で発色させた。
【0381】
FSE(カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル)増殖アッセイ
CD8+T細胞をCAR RNAでトランスフェクトし、約20時間後に、0.8μMのCFSEで標識した。標識したT細胞を洗浄し、RNA-トランスフェクトした自己由来iDC(E:T比=10:1)と共に培養した。共培養の4日後、細胞を収集し、細胞分裂後の娘細胞内のCFSE蛍光の漸進的な半減に基づいてフローサイトメトリーにより増殖を分析した。
【0382】
動物
BALB/cマウスをJavier Labから購入した。月齢(8週齢)および性別(メス)適合動物を、実験を通して使用した。コンジェニック系統BALB/c-Thy1.1マウスを、BioNTech AG(Germany)の動物施設で飼育した。
【0383】
レトロウイルス遺伝子操作および養子T細胞移植のためのCAR T細胞の調製
BALB/c-Thy1.1マウスの脾細胞を単離し、5ng/mLのrh IL-7および10ng/mLのrh IL-15(both Miltenyi)の存在下で、2μg/mLの可溶性抗CD3(eBioscience)および1μg/mLの可溶性抗CD28(Novus Biosciences)によって予め活性化させた。予活性化の24時間後および48時間後に、T細胞を、RetroNectin法(Takara)を用いてCLDN18.2-CAR-effLuc-GFPをコードするトリシストロン性ベクターでレトロウイルス的(MLV-E)に形質導入した。その後、形質導入したT細胞を、5ng/mL rh IL-7および10ng/mL rh IL-15の存在下で3日間増殖させ、次いで、マウスに養子移植する前に、Ficoll-Paque PREMIUM(1.084)を用いてフィコール分離した。
【0384】
マウス実験
5x106 CLDN18.2 CAR形質導入BALB/c-Thy1.1+ T細胞を、BALB/cマウスに静脈内注射(i.v.)した。次いで、マウスを、養子T細胞移植(ACT)の24時間後に、F12:RNA比が1.3:2のRNA(Lip)でワクチン接種した。全身生物発光撮像を行った。
【0385】
インビボ生物発光イメージング(BLI)
CLDN18.2-CAR-effLuc-GFPで形質導入されたT細胞の増殖を、IVIS発光イメージングシステム(Caliper Life Sciences)を用いるインビボ生物発光イメージングによって評価した。簡潔には、D-ルシフェリン(80mg/kg体重; Perkin Elmer)の水溶液の注射の5分後に、放出された光子を定量した(1分間の積分時間)。動物内のルシフェラーゼ発現細胞にからの透過光の強度を、グレースケール画像として表し、黒は最も弱い強度であり、白色から暗灰色が最も強い生物発光シグナルである。マウスのグレースケール対照画像を、LED低照度照明下で得た。Living Image 4.0ソフトウェアを用いて画像を重ね合わせた。
【0386】
実施例2:クローディン-18.2に特異的な高親和性HLA-A*02-制限マウスTCRの単離
本発明者らは、CLDN18.2のaa 1-80をコードするIVT-RNAを用いる反復結節内免疫化によるA2/DR1マウスにおけるCLDN18.2の免疫原性の可能性を確認した。ヒトCLDN18遺伝子は、N末端の69アミノ酸が異なる2つのタンパク質アイソフォーム(CLDN18.1およびCLDN18.2)を生じる、2つの代替第1エクソンを有する(
図4A)。CLDN18.1は正常組織でも、とりわけ肺で発現されるため、本発明者らは、CLDN18.2特異的T細胞反応性を排他的に誘導するために、CLDN18.2のN末端部分のみを用いた。本発明者らは、これらのマウスの脾細胞を、CLDN18.2特異的T細胞の単離およびその後の対応するTCR遺伝子のクローニングに使用した。免疫化したマウスからの脾細胞を、CLDN18.2特異的T細胞の誘導の成功について分析し、IFNγ-ELISPOTアッセイによりエキソビボでの予測されたHLA-A*02結合CLDN18.2ペプチドに対するそれらの反応性を分析した(
図5)。
【0387】
3匹すべてのマウスにおいて、RNA免疫化によって有意な頻度のCLDN18.2特異的T細胞を誘導することができたが、T細胞反応性は、HLA-A*0201に結合すると予測された2つのCLDN18.2ペプチド(CLDN18.2-A2-5および-CLDN18.2-A2-6)に注目した。
CLDN18.2特異的T細胞の単離のために、免疫化したマウスの脾細胞をインビトロで再刺激し、CD137の活性化誘導上昇制御に基づいてフローサイトメトリーにより単一細胞を単離した(
図6)。
【0388】
3つ全ての免疫化A2/DR1マウスからCLDN18.2-特異的CD8+T細胞を回収することができ、合計6つのCLDN18.2-特異的TCRを単一ソーティングしたマウスT細胞からクローニングした。
TCRを免疫学的検証アッセイに供したところ、6つ全てのCLDN18.2-TCRが、以前にエキソビボでのELISPOT分析により同定された、2つのHLA-A*0201-拘束性エピトープ CLDN18.2 aa7-15(CLDN18.2-A2-5)およびCLDN18.2 aa8-16(CLDN18.2-A2-6)の一方または両方を認識したことが明らかとなった(
図7)。
【0389】
実施例3:クローディン-18.2-特異的CARの作製およびインビトロでの検証
本発明者らは、CD3ζおよびCD28のそれぞれのシグナル伝達および共刺激部分を含むCLDN18.2を標的とする第2世代のCARを作製した。CD28細胞内ドメインにおけるlck結合部分の欠失は、CAR連結に際してIL2分泌を抑制し、調節性T細胞の誘導を防止する(Kofler D.M. et al., (2011) Molecular Therapy 19 (4), 760-767)。CARの細胞外部分におけるIgG1 Fc‘スペーサー’ドメインの改変は、 ‘オフターゲット’の活性化および自然免疫応答の意図しない開始を回避する(Hombach A. et al., (2010) Gene Therapy 17, 1206-1213)。
【0390】
CLDN18.2-CAR T細胞によるCLDN18.2を発現する標的細胞の特異的溶解を分析するために、ルシフェラーゼベースの細胞毒性アッセイを実施した。CD8+T細胞を予め活性化させ、CLDN18.2-CARまたは対照としてのCLDN6-特異的CARのいずれかをコードするIVT-RNAでトランスフェクトした。CARの表面発現を、フローサイトメトリーによる蛍光色素結合抗体による染色後に確認した(
図8)。両方のCARは、CD8+T細胞の表面上でよく発現されていた。CARをトランスフェクトしたT細胞を、異なるエフェクター対標的比を用いてCLDN18.2-またはCLDN6-RNAのいずれかでトランスフェクトした自己iDCと共に培養し、特異的溶解を共培養の4時間後に計算した(
図9)。CLDN18.2-CARおよびCLDN6-CARの両方は、それぞれCLDN18.2およびCLDN6を発現するiDCの特異的溶解に介在した。iDCがそれぞれの対照抗原を発現するとき、溶解は観察されなかった。
【0391】
分析するために、CLDN18.2を発現する標的細胞のCLDN18.2-CAR-介在性溶解が、イディオタイプ特異的抗体の添加によって阻害され得る場合、CAR T細胞を、標的細胞との共培養が開始される前に、CLDN18.2-CARに含まれるscFvフラグメントに特異的に結合する抗体と共に、またはそれなしで、予めインキュベートして、ルシフェラーゼベースの細胞傷害アッセイを用いて溶解を分析した(
図10)。
CLDN18.2を発現する標的細胞のCLDN18.2-CAR-介在溶解は、CLDN18.2-CARのその標的抗原への結合を阻止することにより、30:1の高E:T比でさえも効率的に阻害することができた。CLDN6-CAR介在溶解の阻害は観察されず、抗体のCLDN18.2-CARへの選択的結合を確認することはできなかった。この実験は、一方では、CLDN18.2-CARにより介在される溶解が専らCARのCLDN18.2特異性に依存し、他方では、CLDN18.2-CAR検出に用いられるイディオタイプ特異的抗体が、原則として、重篤な有害事象の場合にはインビボでCLDN18.2-CAR T細胞の阻害に適用可能であることを確認した。
【0392】
CAR操作されたT細胞の抗腫瘍効果のための本質的な前提条件は、患者において増殖し続けるそれらの能力である。分析するために、CLDN18.2-CAR T細胞が、iDCにおいて異所的に発現されるCLDN18.2に応答して効率的に増殖する場合、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)ベースのインビトロ共培養アッセイを実施した。CLDN18.2-CARをコードするIVT-RNAでトランスフェクトしたCD8
+T細胞を、CFSEで標識し、CLDN18.2または対照抗原CLDN9もしくはCLDN6のいずれかをコードするIVT-RNAでトランスフェクトした自己iDCと共培養した。CARの表面発現を、蛍光色素結合抗イディオタイプ特異的抗体を用いるフローサイトメトリーによって分析した(
図11A)。共培養の4日後、CFSE-標識したCAR-トランスフェクトCD8
+T細胞の抗原特異的増殖をフローサイトメトリーにより分析した。CLDN18.2に応答して約86%のCD8
+T細胞のCLDN18.2-CAR介在性増殖が観察されたが、対照抗原をトランスフェクトされたiDC(CLDN9、CLDN6)に応答するCAR T細胞のバックグラウンド増殖のみが観察された(
図11B)。これらのデータは、ヒトiDCにおける異所的CLDN18.2発現により、CLDN18.2-CAR T細胞の効率的な抗原特異的活性化および増殖が達成され得ることを確認する。
【0393】
CLDN18.2-CARがインビボでCARを有するT細胞の抗原特異的活性化および増殖に介在する能力を、同系マウスモデルで調べた。インビボで養子移入されたCAR-T細胞の運命を追うために、ウイルスT2A配列によって分離されたCLDN18.2-CARの下流のルシフェラーゼ(effLuc)およびeGFPレポーター遺伝子をコードするトリシストロンレトロウイルスベクターを用いた。
【0394】
ナイーブ型BALB/cマウスに、CLDN18.2-CAR形質導入マウスT細胞を移植した。移植の日に、形質導入されたT細胞上のCLDN18.2-CAR発現を、eGFPレポーター発現と組み合わせた蛍光色素結合抗イディオタイプ特異的抗体を用いたフローサイトメトリーによって評価した。CLDN18.2-CARは、約36%のCD8
+および約45%のCD4
+T細胞で高度に発現されていた(
図12A)。対いで、移植したマウスを、CLDN18.2または対照(Ctrl)抗原のいずれかをコードするIVT-RNAで処理した。mRNAワクチン接種の2日後に対照RNAで処理したマウスと比較して、CLDN18.2 RNAにおいて強い発光増加が観察され、同族抗原に応答してCLDN18.2-CAR T細胞の有意な活性化および増殖が示された(
図12B)。これらのデータは、T細胞におけるCLDN18.2 CARの機能および抗原特異性をインビボで明らかに示した。
【0395】
【配列表】