(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】ひずみゲージ
(51)【国際特許分類】
G01B 7/16 20060101AFI20221214BHJP
【FI】
G01B7/16 R
(21)【出願番号】P 2021201563
(22)【出願日】2021-12-13
(62)【分割の表示】P 2017220405の分割
【原出願日】2017-11-15
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小笠 洋介
(72)【発明者】
【氏名】湯口 昭代
(72)【発明者】
【氏名】北村 厚
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-111368(JP,A)
【文献】特開平07-086619(JP,A)
【文献】特開2017-101983(JP,A)
【文献】特開平06-123604(JP,A)
【文献】特開平04-302406(JP,A)
【文献】特開平06-300649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00-7/34
G01L 1/00-1/26
5/00-5/28
7/00-23/02
25/00
27/00-27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する基材と、
クロムとニッケルの少なくとも一方を含む材料から形成された抵抗体と、を有し、
前記抵抗体は、前記基材の一方の側に形成された第1抵抗部と、
前記基材の一方の側に前記第1抵抗部を被覆して設けられた絶縁層上に形成された第2抵抗部と、
一対の端子部と、を含み、
前記第1抵抗部と前記第2抵抗部とは、前記絶縁層に設けられたビアホールを介して各々の前記端子部の間を接続するように直列に接続された1つの受感部であるひずみゲージ。
【請求項2】
可撓性を有する基材と、
クロムとニッケルの少なくとも一方を含む材料から形成された抵抗体と、を有し、
前記抵抗体は、前記基材の一方の側に形成された第1抵抗部と、前記基材の他方の側に形成された第2抵抗部と、
一対の端子部と、を含み、
前記第1抵抗部と前記第2抵抗部とは、前記基材に設けられたビアホールを介して各々の前記端子部の間を接続するように直列に接続された1つの受感部であるひずみゲージ。
【請求項3】
前記第1抵抗部と前記第2抵抗部とが直列に接続されてコイル構造を形成している請求項1又は2に記載のひずみゲージ。
【請求項4】
前記抵抗体は、アルファクロムを主成分とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項5】
前記抵抗体は、アルファクロムを80重量%以上含む請求項4に記載のひずみゲージ。
【請求項6】
前記抵抗体は、Cr、CrN、及びCr
2Nを含む膜から形成されている請求項1乃至5の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項7】
前記抵抗体の下層に、金属、合金、又は、金属の化合物から形成された機能層を有する請求項1乃至6の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項8】
前記機能層は、前記抵抗体の結晶成長を促進する機能を有する請求項7に記載のひずみゲージ。
【請求項9】
前記抵抗体に含まれる抵抗部のうち最外層となる抵抗部を被覆する絶縁樹脂層を有する請求項1乃至8の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひずみゲージに関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物に貼り付けて、測定対象物のひずみを検出するひずみゲージが知られている。ひずみゲージは、ひずみを検出する抵抗体を備えており、抵抗体の材料としては、例えば、Cr(クロム)やNi(ニッケル)を含む材料が用いられている。又、抵抗体は、例えば、絶縁樹脂からなる基材上に形成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ひずみゲージの平面形状を大型化せずに抵抗体を高抵抗化することが求められているが、抵抗体の薄型化や細線化で高抵抗化するにはプロセス上の限界に近づきつつある。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、ひずみゲージの平面形状を大型化せずに抵抗体を高抵抗化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本ひずみゲージは、可撓性を有する基材と、クロムとニッケルの少なくとも一方を含む材料から形成された抵抗体と、を有し、前記抵抗体は、前記基材の一方の側に形成された第1抵抗部と、前記基材の一方の側に前記第1抵抗部を被覆して設けられた絶縁層上に形成された第2抵抗部と、一対の端子部と、を含み、前記第1抵抗部と前記第2抵抗部とは、前記絶縁層に設けられたビアホールを介して各々の前記端子部の間を接続するように直列に接続された1つの受感部である。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、ひずみゲージの平面形状を大型化せずに抵抗体を高抵抗化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施の形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
【
図2】第1の実施の形態に係るひずみゲージにおいて抵抗部31のパターンを例示する平面図である。
【
図3】第1の実施の形態に係るひずみゲージを例示する断面図である。
【
図4】第1の実施の形態に係るひずみゲージの製造工程を例示する図である。
【
図5】第1の実施の形態の変形例1に係るひずみゲージを例示する平面図である。
【
図6】第1の実施の形態の変形例1に係るひずみゲージにおいて抵抗部33のパターンを例示する平面図である。
【
図7】第1の実施の形態の変形例1に係るひずみゲージを例示する断面図である。
【
図8】第1の実施の形態の変形例2に係るひずみゲージを例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
〈第1の実施の形態〉
図1は、第1の実施の形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図2は、第1の実施の形態に係るひずみゲージにおいて抵抗部31のパターンを例示する平面図である。
図3は、第1の実施の形態に係るひずみゲージを例示する断面図であり、
図1及び
図2のA-A線に沿う断面を示している。
図1~
図3を参照するに、ひずみゲージ1は、基材10と、絶縁層11と、抵抗体30(抵抗部31及び32)と、端子部41とを有している。
【0011】
なお、本実施の形態では、便宜上、ひずみゲージ1において、基材10の抵抗部31及び32が設けられている側を上側又は一方の側、抵抗部31及び32が設けられていない側を下側又は他方の側とする。又、各部位の抵抗部31及び32が設けられている側の面を一方の面又は上面、抵抗部31及び32が設けられていない側の面を他方の面又は下面とする。但し、ひずみゲージ1は天地逆の状態で用いることができ、又は任意の角度で配置することができる。又、平面視とは対象物を基材10の上面10aの法線方向から視ることを指し、平面形状とは対象物を基材10の上面10aの法線方向から視た形状を指すものとする。
【0012】
基材10は、抵抗体30等を形成するためのベース層となる部材であり、可撓性を有する。基材10の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、5μm~500μm程度とすることができる。特に、基材10の厚さが5μm~200μmであると、接着層等を介して基材10の下面に接合される起歪体表面からの歪の伝達性、環境に対する寸法安定性の点で好ましく、10μm以上であると絶縁性の点で更に好ましい。
【0013】
基材10は、例えば、PI(ポリイミド)樹脂、エポキシ樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、ポリオレフィン樹脂等の絶縁樹脂フィルムから形成することができる。なお、フィルムとは、厚さが500μm以下程度であり、可撓性を有する部材を指す。
【0014】
ここで、『絶縁樹脂フィルムから形成する』とは、基材10が絶縁樹脂フィルム中にフィラーや不純物等を含有することを妨げるものではない。基材10は、例えば、シリカやアルミナ等のフィラーを含有する絶縁樹脂フィルムから形成しても構わない。
【0015】
抵抗体30は、基材10上に形成されており、ひずみを受けて抵抗変化を生じる受感部である。抵抗体30は、絶縁層11を介して積層された抵抗部31及び抵抗部32を含んでいる。すなわち、抵抗体30は、抵抗部31及び32の総称であり、抵抗部31及び32を特に区別する必要がない場合には抵抗体30と称する。なお、
図1及び
図2では、便宜上、抵抗部31及び抵抗部32を梨地模様で示している。
【0016】
抵抗部31は、基材10の上面10a側に所定のパターンで形成された薄膜である。抵抗部31は、抵抗部32と直列に接続され、全体として抵抗体30を形成する。抵抗部31は、基材10の上面10aに直接形成されてもよいし、基材10の上面10aに他の層を介して形成されてもよい。
【0017】
絶縁層11は、基材10の上面10aに、抵抗部31を被覆するように形成されている。絶縁層11の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、5μm~500μm程度とすることができる。絶縁層11の材料は、例えば、基材10の材料として例示した材料の中なら適宜選択することができる。但し、絶縁層11は、基材10と必ずしも同一材料から形成する必要はなく、例えば、基材10がポリイミド樹脂、絶縁層11がエポキシ樹脂等であってもよい。
【0018】
抵抗部32は、絶縁層11の上面11a側に所定のパターンで形成された薄膜である。抵抗部32は、絶縁層11の上面11aに直接形成されてもよいし、絶縁層11の上面11aに他の層を介して形成されてもよい。
【0019】
抵抗部32の一端部は、端子部41の一方と電気的に接続されている。抵抗部32の他端部は、絶縁層11を貫通するビアホール11xを介して、ビアホール11x内に露出する抵抗部31の一端部と電気的に接続されている。抵抗部32の他端部は、例えば、絶縁層11の上面11aからビアホール11xの側壁及びビアホール11x内に露出する抵抗部31の一端部の上面に連続的に形成され、抵抗部31の一端部と電気的に接続される。抵抗部32は、ビアホール11xを充填してもよい。なお、ビアホール11xの位置を、便宜上、
図1では実線の丸で、
図2では破線の丸で示している。
【0020】
抵抗体30(抵抗部31及び抵抗部32)は、例えば、Cr(クロム)を含む材料、Ni(ニッケル)を含む材料、又はCrとNiの両方を含む材料から形成することができる。すなわち、抵抗体30は、CrとNiの少なくとも一方を含む材料から形成することができる。Crを含む材料としては、例えば、Cr混相膜が挙げられる。Niを含む材料としては、例えば、Ni-Cu(ニッケル銅)が挙げられる。CrとNiの両方を含む材料としては、例えば、Ni-Cr(ニッケルクロム)が挙げられる。
【0021】
ここで、Cr混相膜とは、Cr、CrN、Cr2N等が混相した膜である。Cr混相膜は、酸化クロム等の不可避不純物を含んでもよい。
【0022】
抵抗体30の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、0.05μm~2μm程度とすることができる。特に、抵抗体30の厚さが0.1μm以上であると抵抗体30を構成する結晶の結晶性(例えば、α-Crの結晶性)が向上する点で好ましく、1μm以下であると抵抗体30を構成する膜の内部応力に起因する膜のクラックや基材10からの反りを低減できる点で更に好ましい。
【0023】
例えば、抵抗体30がCr混相膜である場合、安定な結晶相であるα-Cr(アルファクロム)を主成分とすることで、ゲージ特性の安定性を向上することができる。又、抵抗体30がα-Crを主成分とすることで、ひずみゲージ1のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。ここで、主成分とは、対象物質が抵抗体を構成する全物質の50質量%以上を占めることを意味するが、ゲージ特性を向上する観点から、抵抗体30はα-Crを80重量%以上含むことが好ましい。なお、α-Crは、bcc構造(体心立方格子構造)のCrである。
【0024】
端子部41は、絶縁層11の上面11a側に形成されている。端子部41は、絶縁層11の上面11aに直接形成されてもよいし、絶縁層11の上面11aに他の層を介して形成されてもよい。端子部41は、ひずみにより生じる抵抗体30の抵抗値の変化を外部に出力するための一対の電極であり、例えば、外部接続用のリード線等が接合される。
【0025】
端子部41の一方は、抵抗部32の一端部と電気的に接続されている。又、端子部41の他方は、ビアホール11yを介して、抵抗部31の他端部と電気的に接続されている。端子部41の他方は、絶縁層11の上面11aからビアホール11yの側壁及びビアホール11y内に露出する抵抗部31の他端部の上面に連続的に形成され、抵抗部31の他端部と電気的に接続される。端子部41は、ビアホール11yを充填してもよい。なお、ビアホール11yの位置を、便宜上、
図1では実線の丸で、
図2では破線の丸で示している。
【0026】
端子部41は、平面視において、抵抗部31及び抵抗部32よりも拡幅して略矩形状に形成されており、端子部41の一方と端子部41の他方との間に、抵抗部31と抵抗部32とがジグザグに折り返しながら延在して直列に接続されている。
【0027】
なお、抵抗部32と端子部41とは便宜上別符号としているが、両者は同一工程において同一材料により一体に形成することができる。端子部41の上面を、端子部41よりもはんだ付け性が良好な金属で被覆してもよい。
【0028】
抵抗部32を被覆し端子部41を露出するように絶縁層11の上面11aにカバー層60(絶縁樹脂層)を設けても構わない。カバー層60を設けることで、抵抗体30に機械的な損傷等が生じることを防止できる。又、カバー層60を設けることで、抵抗体30を湿気等から保護することができる。なお、カバー層60は、端子部41を除く部分の全体を覆うように設けてもよい。
【0029】
カバー層60は、例えば、PI樹脂、エポキシ樹脂、PEEK樹脂、PEN樹脂、PET樹脂、PPS樹脂、複合樹脂(例えば、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂)等の絶縁樹脂から形成することができる。カバー層60は、フィラーや顔料を含有しても構わない。カバー層60の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、2μm~30μm程度とすることができる。
【0030】
図4は、第1の実施の形態に係るひずみゲージの製造工程を例示する図であり、
図3に対応する断面を示している。
【0031】
ひずみゲージ1を製造するためには、まず、
図4(a)に示す工程では、基材10を準備し、基材10の上面10aに
図2に示す平面形状の抵抗部31を形成する。抵抗部31の材料や厚さは、前述の通りである。
【0032】
抵抗部31は、例えば、抵抗部31を形成可能な原料をターゲットとしたマグネトロンスパッタ法により成膜し、フォトリソグラフィによってパターニングすることで形成できる。抵抗部31は、マグネトロンスパッタ法に代えて、反応性スパッタ法や蒸着法、アークイオンプレーティング法、パルスレーザー堆積法等を用いて成膜してもよい。
【0033】
ゲージ特性を安定化する観点から、抵抗部31を成膜する前に、下地層として、基材10の上面10aに、例えば、コンベンショナルスパッタ法により膜厚が1nm~100nm程度の機能層を真空成膜することが好ましい。なお、機能層は、機能層の上面全体に抵抗部31を形成後、フォトリソグラフィによって抵抗部31と共に
図2に示す平面形状にパターニングされる。
【0034】
本願において、機能層とは、少なくとも上層である抵抗部(抵抗部31や抵抗部32)の結晶成長を促進する機能を有する層を指す。機能層は、更に、基材10等に含まれる酸素や水分による上層である抵抗部の酸化を防止する機能や、基材10等と上層である抵抗部との密着性を向上する機能を備えていることが好ましい。機能層は、更に、他の機能を備えていてもよい。
【0035】
基材10を構成する絶縁樹脂フィルムは酸素や水分を含むため、特に抵抗部31がCrを含む場合、Crは自己酸化膜を形成するため、機能層が抵抗部31の酸化を防止する機能を備えることは有効である。
【0036】
機能層の材料は、少なくとも上層である抵抗部31の結晶成長を促進する機能を有する材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、Cr(クロム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ni(ニッケル)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Si(シリコン)、C(炭素)、Zn(亜鉛)、Cu(銅)、Bi(ビスマス)、Fe(鉄)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)からなる群から選択される1種又は複数種の金属、この群の何れかの金属の合金、又は、この群の何れかの金属の化合物が挙げられる。
【0037】
上記の合金としては、例えば、FeCr、TiAl、FeNi、NiCr、CrCu等が挙げられる。又、上記の化合物としては、例えば、TiN、TaN、Si3N4、TiO2、Ta2O5、SiO2等が挙げられる。
【0038】
機能層は、例えば、機能層を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にAr(アルゴン)ガスを導入したコンベンショナルスパッタ法により真空成膜することができる。コンベンショナルスパッタ法を用いることにより、基材10の上面10aをArでエッチングしながら機能層が成膜されるため、機能層の成膜量を最小限にして密着性改善効果を得ることができる。
【0039】
但し、これは、機能層の成膜方法の一例であり、他の方法により機能層を成膜してもよい。例えば、機能層の成膜の前にAr等を用いたプラズマ処理等により基材10の上面10aを活性化することで密着性改善効果を獲得し、その後マグネトロンスパッタ法により機能層を真空成膜する方法を用いてもよい。
【0040】
機能層の材料と抵抗部31の材料との組み合わせは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、機能層としてTiを用い、抵抗部31としてα-Cr(アルファクロム)を主成分とするCr混相膜を成膜することが可能である。
【0041】
この場合、例えば、Cr混相膜を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にArガスを導入したマグネトロンスパッタ法により、抵抗部31を成膜することができる。或いは、純Crをターゲットとし、チャンバ内にArガスと共に適量の窒素ガスを導入し、反応性スパッタ法により、抵抗部31を成膜してもよい。
【0042】
これらの方法では、Tiからなる機能層がきっかけでCr混相膜の成長面が規定され、安定な結晶構造であるα-Crを主成分とするCr混相膜を成膜できる。又、機能層を構成するTiがCr混相膜中に拡散することにより、ゲージ特性が向上する。例えば、ひずみゲージ1のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。なお、機能層がTiから形成されている場合、Cr混相膜にTiやTiN(窒化チタン)が含まれる場合がある。
【0043】
なお、抵抗部31がCr混相膜である場合、Tiからなる機能層は、抵抗部31の結晶成長を促進する機能、基材10に含まれる酸素や水分による抵抗部31の酸化を防止する機能、及び基材10と抵抗部31との密着性を向上する機能の全てを備えている。機能層として、Tiに代えてTa、Si、Al、Feを用いた場合も同様である。
【0044】
このように、抵抗部31の下層に機能層を設けることにより、抵抗部31の結晶成長を促進することが可能となり、安定な結晶相からなる抵抗部31を作製できる。その結果、ひずみゲージ1において、ゲージ特性の安定性を向上することができる。又、機能層を構成する材料が抵抗部31に拡散することにより、ひずみゲージ1において、ゲージ特性を向上することができる。
【0045】
次に、
図4(b)に示す工程では、基材10の上面10aに、抵抗部31を被覆する絶縁層11を形成する。絶縁層11の材料や厚さは、前述の通りである。絶縁層11は、例えば、基材10の上面10aに、抵抗部31を被覆するように半硬化状態の熱硬化性の絶縁樹脂フィルムをラミネートし、加熱して硬化させて作製することができる。絶縁層11は、基材10の上面10aに、抵抗部31を被覆するように液状又はペースト状の熱硬化性の絶縁樹脂を塗布し、加熱して硬化させて作製してもよい。
【0046】
絶縁層11を形成後、絶縁層11を貫通し抵抗部31の一端部の上面を露出するビアホール11x、及び絶縁層11を貫通し抵抗部31の他端部の上面を露出するビアホール11yを形成する。ビアホール11x及び11yは、例えば、レーザ加工法により形成できる。絶縁層11として感光性の樹脂を用い、フォトリソグラフィによりビアホール11x及び11yを形成してもよい。或いは、予めビアホール11x及び11yを形成した絶縁樹脂フィルムをラミネートし、加熱して硬化させて、ビアホール11x及び11yを有する絶縁層11を形成してもよい。
【0047】
次に、
図4(c)に示す工程では、絶縁層11の上面11aに、抵抗部32及び端子部41を形成する。抵抗部32は、絶縁層11の上面11aからビアホール11xの側壁及びビアホール11x内に露出する抵抗部31の一端部の上面に連続的に形成され、抵抗部31の一端部と電気的に接続される。抵抗部32は、ビアホール11xを充填してもよい。同様に、端子部41は、絶縁層11の上面11aからビアホール11yの側壁及びビアホール11y内に露出する抵抗部31の他端部の上面に連続的に形成され、抵抗部31の他端部と電気的に接続される。端子部41は、ビアホール11yを充填してもよい。
【0048】
抵抗部32及び端子部41の材料や厚さは、前述の通りである。抵抗部32及び端子部41は、抵抗部31と同様の方法により形成できる。抵抗部31と同様の理由により、抵抗部32及び端子部41を成膜する前に、下地層として、絶縁層11の上面11aに、例えば、コンベンショナルスパッタ法により膜厚が1nm~100nm程度の機能層を真空成膜することが好ましい。なお、機能層は、機能層の上面全体に抵抗部32及び端子部41を形成後、フォトリソグラフィによって抵抗部32及び端子部41と共に
図1に示す平面形状にパターニングされる。
【0049】
抵抗部32及び端子部41を形成後、必要に応じ、絶縁層11の上面11aに、抵抗部32を被覆し端子部41を露出するカバー層60を設けることで、ひずみゲージ1が完成する。カバー層60は、例えば、絶縁層11の上面11aに、抵抗部32を被覆し端子部41を露出するように半硬化状態の熱硬化性の絶縁樹脂フィルムをラミネートし、加熱して硬化させて作製することができる。カバー層60は、絶縁層11の上面11aに、抵抗部32を被覆し端子部41を露出するように液状又はペースト状の熱硬化性の絶縁樹脂を塗布し、加熱して硬化させて作製してもよい。
【0050】
このように、抵抗体30を、絶縁層11を介して積層された抵抗部31及び抵抗部32を含む多層構造とすることにより、ひずみゲージ1の平面形状を拡大することなく、抵抗体30を高抵抗化することができる。又、抵抗体30を高抵抗化することにより、ひずみゲージ1の消費電力を低減できる。すなわち、高抵抗の抵抗体30を備えた低消費電力で小型のひずみゲージ1を実現できる。
【0051】
又、ひずみゲージ1は小型であるため、抵抗体30が高抵抗であっても、外部からの高周波の影響を受けにくい。
【0052】
又、例えば、抵抗部31と抵抗部32が同一平面上で直列に接続されていると、ひずみゲージの平面形状が大きくなるため、測定対象物の平均的なひずみしか測定できない。ひずみゲージ1では、抵抗体30を複数の抵抗部が積層された多層構造とすることにより高抵抗化しており、平面形状は拡大していないため(抵抗体が1層の抵抗部のみを有する場合と同様の平面形状であるため)、測定対象物の比較的狭い範囲のひずみを測定することができる。
【0053】
又、ひずみゲージ1は小型であるため、同一のシートからの取り数を拡大することが可能となり、生産性を向上することができる。
【0054】
〈第1の実施の形態の変形例1〉
第1の実施の形態の変形例1では、第1の実施の形態とは抵抗部のパターンが異なるひずみゲージの例を示す。なお、第1の実施の形態の変形例1において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0055】
図5は、第1の実施の形態の変形例1に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図6は、第1の実施の形態の変形例1に係るひずみゲージにおいて抵抗部33のパターンを例示する平面図である。
図7は、第1の実施の形態の変形例1に係るひずみゲージを例示する断面図であり、
図5及び
図6のB-B線に沿う断面を示している。
図5~
図7を参照するに、ひずみゲージ1Aは、抵抗部31及び抵抗部32を含む抵抗体30が、抵抗部33及び抵抗部34を含む抵抗体30Aに置換された点が、ひずみゲージ1(
図1~
図3等参照)と相違する。
【0056】
抵抗部33は、所定間隔を空けて並置された7本のパターンを有している。又、抵抗部34は、所定間隔を空けて並置された6本のパターンを有している。又、抵抗部33の各パターンは、抵抗部34の各パターンの長手方向に対して傾斜する部分を有している。
【0057】
抵抗部34の各パターンの両端部は、絶縁層11を貫通するビアホール11xを介して、平面視で重複する位置にある抵抗部33の各パターンと電気的に接続されている。なお、ビアホール11xの位置を、便宜上、
図5では実線の丸で、
図6では破線の丸で示している。
【0058】
端子部41は、絶縁層11を貫通するビアホール11yを介して、ビアホール11y内に露出する抵抗部33の両端部と電気的に接続されている。なお、ビアホール11yの位置を、便宜上、
図5では実線の丸で、
図6では破線の丸で示している。
【0059】
抵抗部34の各パターンの両端部をビアホール11xを介して平面視で重複する位置にある抵抗部33の各パターンと電気的に接続し、端子部41をビアホール11yを介して抵抗部33の両端部と電気的に接続することにより、一対の端子部41間に、立体的な1本のパターンであるコイル構造が形成される。なお、抵抗部33及び抵抗部34の有するパターンの本数は、必要に応じて適宜決定することができる。
【0060】
このように、各抵抗部のパターンは、直列に接続されて1本の抵抗体となれば、どのような形態としても構わない。コイル構造をなす抵抗体30Aのパターンでは、パターンの折り返し部がなくなり、直線的なパターンのみの構造となるため、抵抗体30のように折り返し部を有するパターンと比べて、疲労によりパターンが断線するおそれを低減できる。
【0061】
〈第1の実施の形態の変形例2〉
第1の実施の形態の変形例2では、第1の実施の形態とは積層構造が異なるひずみゲージの例を示す。なお、第1の実施の形態の変形例2において、既に説明した実施の形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0062】
図8は、第1の実施の形態の変形例2に係るひずみゲージを例示する断面図であり、
図3に対応する断面を示している。
図8を参照するに、ひずみゲージ1Bは、絶縁層11を有していない点が、ひずみゲージ1(
図1~
図3等参照)と相違する。
【0063】
ひずみゲージ1Bにおいて、抵抗部31は、基材10の下面10b側に所定のパターン(例えば、
図2と同様のパターン)で形成されている。抵抗部31は、抵抗部32と直列に接続され、全体として抵抗体30を形成する。抵抗部31は、基材10の下面10bに直接形成されてもよいし、基材10の下面10bに他の層を介して形成されてもよい。
【0064】
抵抗部32は、基材10の上面10a側に所定のパターン(例えば、
図1と同様のパターン)で形成されている。抵抗部32は、基材10の上面10aに直接形成されてもよいし、基材10の上面10aに他の層を介して形成されてもよい。
【0065】
第1の実施の形態と同様に、抵抗部32の一端部は、端子部41の一方と電気的に接続されている。抵抗部32の他端部は、基材10を貫通するビアホール10xを介して、ビアホール10x内に露出する抵抗部31の一端部と電気的に接続されている。抵抗部32の他端部は、例えば、基材10の上面10aからビアホール10xの側壁及びビアホール10x内に露出する抵抗部31の一端部の上面に連続的に形成され、抵抗部31の一端部と電気的に接続される。抵抗部32は、ビアホール10xを充填してもよい。
【0066】
端子部41は、基材10の上面10a側に形成されている。端子部41は、基材10の上面10aに直接形成されてもよいし、基材10の上面10aに他の層を介して形成されてもよい。なお、抵抗部32と端子部41とは便宜上別符号としているが、両者は同一工程において同一材料により一体に形成することができる。端子部41の上面を、端子部41よりもはんだ付け性が良好な金属で被覆してもよい。
【0067】
第1の実施の形態と同様に、端子部41の一方は、抵抗部32の一端部と電気的に接続されている。又、抵抗部32の他端部は、ビアホール10xを介して、抵抗部31の一端部と電気的に接続されている。又、抵抗部31の他端部は、ビアホール10yを介して、端子部41の他方と電気的に接続されている。
【0068】
なお、端子部41の他方は、基材10の上面10aからビアホール10yの側壁及びビアホール10y内に露出する抵抗部31の他端部の上面に連続的に形成され、抵抗部31の他端部と電気的に接続される。端子部41は、ビアホール10yを充填してもよい。
【0069】
抵抗部31、抵抗部32、及び端子部41の材料や厚さ、作製方法、下地層として機能層を成膜すると好適である点等は、第1の実施の形態と同様である。
【0070】
抵抗部32を被覆し端子部41を露出するように基材10の上面10aにカバー層61(絶縁樹脂層)を設け、抵抗部31を被覆するように基材10の下面10bにカバー層62(絶縁樹脂層)を設けても構わない。カバー層61及び62を設けることで、抵抗体30に機械的な損傷等が生じることを防止できる。又、カバー層61及び62を設けることで、抵抗体30を湿気等から保護することができる。なお、カバー層61は、端子部41を除く部分の全体を覆うように設けてもよい。カバー層61及び62の材料や厚さは、例えば、カバー層60と同様とすることができる。なお、カバー層61とカバー層62を異なる材料から形成してもよいし、カバー層61とカバー層62を異なる厚さに形成してもよい。
【0071】
このように、基材10の上下面に抵抗部を設け、基材10を貫通するビアホールを介して直列に接続してもよい。この場合には、絶縁層11の形成を省略することができる。なお、第1の実施の形態の変形例1を第1の実施の形態の変形例2と同様に変形することも可能である。
【0072】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0073】
例えば、抵抗体30や30Aを構成する抵抗部は2層には限定されず、3層以上としてもよい。この場合には、絶縁層と抵抗部とを交互に積層し、絶縁層を介して隣接する抵抗部同士を、絶縁層に設けられたビアホールを介して直列に接続すればよい。これにより、ひずみゲージの平面形状を拡大することなく、抵抗体30や30Aを更に高抵抗化することができる。
【符号の説明】
【0074】
1、1A、1B ひずみゲージ、10 基材、10a、11a 上面、10b 下面、10x、10y、11x、11y ビアホール、11 絶縁層、30、30A 抵抗体、31、32、33、34 抵抗部、41 端子部、60、61、62 カバー層