(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】自動変速機の制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20221214BHJP
F16H 59/68 20060101ALI20221214BHJP
F16H 61/08 20060101ALI20221214BHJP
F16H 61/686 20060101ALI20221214BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/68
F16H61/08
F16H61/686
F16H63/50
(21)【出願番号】P 2021561365
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2020043301
(87)【国際公開番号】W WO2021106759
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2021-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2019216994
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 達也
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-7299(JP,A)
【文献】特開2011-33059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/02
F16H 59/68
F16H 61/08
F16H 61/686
F16H 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに連結された有段変速機構に有する複数の摩擦要素のそれぞれに設けられた変速系ソレノイドを制御し、前記複数の摩擦要素の締結状態を変更することにより複数のギヤ段を切替える変速制御を行う変速機コントロールユニットを備える自動変速機の制御装置であって、
前記変速系ソレノイドが設けられる油圧制御回路に、オイルポンプからの吐出作動油を実ライン圧に調圧するライン圧調圧弁とライン圧ソレノイドを有し、
前記変速機コントロールユニットは、
所定のギヤ段を維持しているインギヤ中であるか変速開始から変速終了までの変速中であるかを判定する変速状況判定部と、
前記変速状況判定部からの判定結果に基づいて前記複数の摩擦要素へのクラッチ指示圧を決め、前記クラッチ指示圧に応じたソレノイド電流に変換して前記変速系ソレノイドを駆動する変速系ソレノイド制御部と、
入力トルクに応じた目標ライン圧に基づいてライン指示圧を決め、決めた前記ライン指示圧に応じたソレノイド電流に変換して前記ライン圧ソレノイドを駆動するライン圧制御部と、
を備え、
前記ライン圧制御部は、前記変速中から前記インギヤ中へ移行するとき、変速終了タイミングを前記ライン指示圧の低下開始タイミングとし、 前記変速系ソレノイド制御部は、前記変速系ソレノイドのうち、締結状態が維持される摩擦要素の前記変速系ソレノイドへ出力する締結クラッチ指示圧を、前記インギヤ中と判定された区間は前記変速中と判定された区間よりも低く
し、
前記インギヤ中と判定された区間における前記締結クラッチ指示圧、及び、前記変速中と判定された区間における前記締結クラッチ指示圧を前記実ライン圧以上という関係が成立する指示圧とし、
前記変速中から前記インギヤ中へ移行により前記締結クラッチ指示圧を低下させるとき、変速終了から遅れ時間を経過したタイミングを、前記締結クラッチ指示圧の低下開始タイミングとする、
自動変速機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された自動変速機の制御装置において、
前記変速系ソレノイド制御部は、前記インギヤ中と判定された区間における前記締結クラッチ指示圧を、前記ライン指示圧にバラツキ要素分を加え、前記インギヤ中の前記締結クラッチ指示圧が前記実ライン圧以上という関係が成立する指示圧とする
自動変速機の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載された自動変速機の制御装置において、
前記ライン圧制御部は、前記変速中と判定された区間における前記ライン指示圧を、前記インギヤ中と判定された区間における前記ライン指示圧に、変速イナーシャトルク分を上乗せした指示圧とし、
前記変速系ソレノイド制御部は、前記変速中と判定された区間における前記締結クラッチ指示圧を、前記変速中と判定された区間における前記ライン指示圧を上回り、前記変速中の前記締結クラッチ指示圧が前記実ライン圧以上という関係が成立する指示圧とする
自動変速機の制御装置。
【請求項4】
エンジンに連結された有段変速機構に有する複数の摩擦要素のそれぞれに設けられた変速系ソレノイドを制御し、前記複数の摩擦要素の締結状態を変更することにより複数のギヤ段を切替える変速制御を行う変速機コントロールユニットを備える自動変速機の制御装置であって、
前記変速機コントロールユニットは、
所定のギヤ段を維持しているインギヤ中であるか変速開始から変速終了までの変速中であるかを判定する変速状況判定部と、
前記変速状況判定部からの判定結果に基づいて前記複数の摩擦要素へのクラッチ指示圧を決め、前記クラッチ指示圧に応じたソレノイド電流に変換して前記変速系ソレノイドを駆動する変速系ソレノイド制御部と、
前記変速状況判定部からの判定結果がダウンシフトによる変速中であるとき、所定のトルクアップ要求許可条件の成立により前記エンジンによるトルクアップ要求を許可するトルクアップ要求部と、
を備え、
前記変速系ソレノイド制御部は、前記変速系ソレノイドのうち、締結状態が維持される摩擦要素の前記変速系ソレノイドへ出力する締結クラッチ指示圧を、前記インギヤ中と判定された区間は前記変速中と判定された区間よりも低くし、
前記トルクアップ要求部は、前記変速系ソレノイドのソレノイド電流値をモニタし、前記変速系ソレノイドのうち何れかのソレノイド電流値が、ソレノイドオフ電流値からライン圧電流値相当までの領域に存在しているというソレノイド電流値条件を、前記トルクアップ要求許可条件に加える、
自動変速機の制御装置。
【請求項5】
エンジンに連結された有段変速機構に有する複数の摩擦要素のそれぞれに設けられた変速系ソレノイドを制御し、前記変速系ソレノイドが設けられる油圧制御回路に、オイルポンプからの吐出作動油を実ライン圧に調圧するライン圧調圧弁とライン圧ソレノイドを有し、前記複数の摩擦要素の締結状態を変更することにより複数のギヤ段を切替える変速制御を行う自動変速機の制御方法であって、
所定のギヤ段を維持しているインギヤ中であるか変速開始から変速終了までの変速中であるかを判定し、
前記判定の結果に基づいて前記複数の摩擦要素へのクラッチ指示圧を決め、前記クラッチ指示圧に応じたソレノイド電流に変換して前記変速系ソレノイドを駆動し、
入力トルクに応じた目標ライン圧に基づいてライン指示圧を決め、決めた前記ライン指示圧に応じたソレノイド電流に変換して前記ライン圧ソレノイドを駆動し、
前記変速中から前記インギヤ中へ移行するとき、変速終了タイミングを前記ライン指示圧の低下開始タイミングとし、
前記変速系ソレノイドのうち、締結状態が維持される摩擦要素の前記変速系ソレノイドへ出力する締結クラッチ指示圧を、前記インギヤ中と判定された区間は前記変速中と判定された区間よりも低くし、
前記インギヤ中と判定された区間における前記締結クラッチ指示圧、及び、前記変速中と判定された区間における前記締結クラッチ指示圧を前記実ライン圧以上という関係が成立する指示圧とし、
前記変速中から前記インギヤ中へ移行により前記締結クラッチ指示圧を低下させるとき、変速終了から遅れ時間を経過したタイミングを、前記締結クラッチ指示圧の低下開始タイミングとする、
自動変速機の制御方法。
【請求項6】
エンジンに連結された有段変速機構に有する複数の摩擦要素のそれぞれに設けられた変速系ソレノイドを制御し、前記複数の摩擦要素の締結状態を変更することにより複数のギヤ段を切替える変速制御を行う自動変速機の制御方法であって、
所定のギヤ段を維持しているインギヤ中であるか変速開始から変速終了までの変速中であるかを判定し、
前記判定の結果に基づいて前記複数の摩擦要素へのクラッチ指示圧を決め、前記クラッチ指示圧に応じたソレノイド電流に変換して前記変速系ソレノイドを駆動し、
ダウンシフトによる変速中であるとき、所定のトルクアップ要求許可条件の成立により前記エンジンによるトルクアップ要求を許可し、
前記変速系ソレノイドのうち、締結状態が維持される摩擦要素の前記変速系ソレノイドへ出力する締結クラッチ指示圧を、前記インギヤ中と判定された区間は前記変速中と判定された区間よりも低くし、
前記変速系ソレノイドのソレノイド電流値をモニタし、前記変速系ソレノイドのうち何れかのソレノイド電流値が、ソレノイドオフ電流値からライン圧電流値相当までの領域に存在しているというソレノイド電流値条件を、前記トルクアップ要求許可条件に加える、
自動変速機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される自動変速機の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
JP2007-205514Aが開示する自動変速機においては、変速指令時以後、解放圧指令値を低下させ、解放圧が所定値まで低下すると解放側変速摩擦要素が解放される。一方、締結圧指令値は、変速指令時に一旦プリチャージ圧まで上昇させた後、プリチャージ圧より低い所定圧に維持され、締結側変速摩擦要素はエンジンブレーキを補償し得る程度に締結される。変速中、解放圧が所定値まで低下して解放側変速摩擦要素が解放されたのを油圧スイッチが検知すると、エンジン出力制御でタービン回転速度(実効ギヤ比)を上昇させて、変速後回転速度(変速後ギヤ比)に一致させる回転合わせが行われる。回転合わせが完了すると、締結圧指令値が最高値に設定され、これに追従して上昇される締結圧により締結側変速摩擦要素が完全締結される。
【発明の概要】
【0003】
しかしながら、上記先行技術にあっては、自動変速機の変速段数が増えるに従いそれらを制御する変速系ソレノイドも増加し、変速系ソレノイドを駆動する電流も増え、燃費が悪化してしまう懸念がある、という課題があった。
【0004】
本発明は、上記課題に着目してなされたもので、所定のギヤ段を維持しているインギヤ中、変速系ソレノイドを駆動するソレノイド電流を低く抑えて電力消費量を削減することにより燃費を向上することを目的とする。
【0005】
上記目的を達成するため、本発明のある形態に係る自動変速機の制御装置は、エンジンに連結された有段変速機構に有する複数の摩擦要素のそれぞれに設けられた変速系ソレノイドを制御し、複数の摩擦要素の締結状態を変更することにより複数のギヤ段を切替える変速制御を行う変速機コントロールユニットを備える。
変速系ソレノイドが設けられる油圧制御回路に、オイルポンプからの吐出作動油を実ライン圧に調圧するライン圧調圧弁とライン圧ソレノイドを有する。
変速機コントロールユニットは、所定のギヤ段を維持しているインギヤ中であるか変速開始から変速終了までの変速中であるかを判定する変速状況判定部と、変速状況判定部からの判定結果に基づいて複数の摩擦要素へのクラッチ指示圧を決め、クラッチ指示圧に応じたソレノイド電流に変換して変速系ソレノイドを駆動する変速系ソレノイド制御部と、入力トルクに応じた目標ライン圧に基づいてライン指示圧を決め、決めたライン指示圧に応じたソレノイド電流に変換してライン圧ソレノイドを駆動するライン圧制御部と、を備える。
ライン圧制御部は、変速中からインギヤ中へ移行するとき、変速終了タイミングをライン指示圧の低下開始タイミングとする。
変速系ソレノイド制御部は、変速系ソレノイドのうち、締結状態が維持される摩擦要素の変速系ソレノイドへ出力する締結クラッチ指示圧を、インギヤ中と判定された区間は変速中と判定された区間よりも低くし、変速中からインギヤ中へ移行により締結クラッチ指示圧を低下させるとき、変速終了から遅れ時間を経過したタイミングを、締結クラッチ指示圧の低下開始タイミングとする。
また、本発明の別の形態に係る自動変速機の制御装置は、エンジンに連結された有段変速機構に有する複数の摩擦要素のそれぞれに設けられた変速系ソレノイドを制御し、複数の摩擦要素の締結状態を変更することにより複数のギヤ段を切替える変速制御を行う変速機コントロールユニットを備える自動変速機の制御装置を備える。 変速機コントロールユニットは、所定のギヤ段を維持しているインギヤ中であるか変速開始から変速終了までの変速中であるかを判定する変速状況判定部と、変速状況判定部からの判定結果に基づいて複数の摩擦要素へのクラッチ指示圧を決め、クラッチ指示圧に応じたソレノイド電流に変換して変速系ソレノイドを駆動する変速系ソレノイド制御部と、変速状況判定部からの判定結果がダウンシフトによる変速中であるとき、所定のトルクアップ要求許可条件の成立によりエンジンによるトルクアップ要求を許可するトルクアップ要求部と、を備える。
変速系ソレノイド制御部は、変速系ソレノイドのうち、締結状態が維持される摩擦要素の変速系ソレノイドへ出力する締結クラッチ指示圧を、インギヤ中と判定された区間は変速中と判定された区間よりも低くし、トルクアップ要求部は、変速系ソレノイドのソレノイド電流値をモニタし、変速系ソレノイドのうち何れかのソレノイド電流値が、ソレノイドオフ電流値からライン圧電流値相当までの領域に存在しているというソレノイド電流値条件を、トルクアップ要求許可条件に加える。
【0006】
上記態様によれば、上記解決手段を採用したため、所定のギヤ段を維持しているインギヤ中、変速系ソレノイドを駆動するソレノイド電流を低く抑えて電力消費量を削減することにより燃費を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施例1の制御装置が適用された自動変速機を搭載するエンジン車を示す全体システム図である。
【
図2】
図2は、自動変速機のギヤトレーンの一例を示すスケルトン図である。
【
図3】
図3は、自動変速機での変速用摩擦要素の各ギヤ段での締結状態を示す締結表図である。
【
図4】
図4は、自動変速機での変速マップの一例を示す変速マップ図である。
【
図5】
図5は、自動変速機のコントロールバルブユニットを示す油圧制御系構成図である。
【
図6】
図6は、変速機コントロールユニットの変速制御部の詳細構成を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、変速制御部にて実行される変速系ソレノイド制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、比較例においてインギヤ中→変速中→インギヤ中へ移行するときのクラッチ/ブレーキF1とクラッチ/ブレーキF2とクラッチ/ブレーキF3(解放クラッチ)とクラッチ/ブレーキF4(締結クラッチ)とライン圧の指示圧特性を示すタイムチャートである。
【
図9】
図9は、実施例1においてインギヤ中→変速中→インギヤ中へ移行するときのクラッチ/ブレーキF1とクラッチ/ブレーキF2とクラッチ/ブレーキF3(解放クラッチ)とクラッチ/ブレーキF4(締結クラッチ)とライン圧の指示圧特性を示すタイムチャートである。
【
図10】
図10は、クラッチ指示圧からクラッチ実圧に至るまでの遷移状況を示すブロック図である。
【
図11】
図11は、インギヤ中の締結クラッチ指示圧(=CLOSEクラッチ指示圧)の決め方を示す説明図である。
【
図12】
図12は、変速中からインギヤ中へ移行するときのライン圧指示圧(=PL指示圧)と締結クラッチ指示圧(=CLOSEクラッチ指示圧)の関係を示す説明図である。
【
図13】
図13は、インギヤ中の締結クラッチ指示圧を低下させることに伴うトルクアップ要求許可条件のMAX指示からの変更を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態に係る自動変速機の制御装置を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0009】
実施例1の制御装置は、前進9速・後退1速のギヤ段を有するシフト・バイ・ワイヤ及びパーク・バイ・ワイヤによる自動変速機を搭載したエンジン車(車両の一例)に適用したものである。以下、実施例1の構成を「全体システム構成」、「自動変速機の詳細構成」、「油圧制御系の詳細構成」、「変速制御部の詳細構成」、「変速制御処理構成」に分けて説明する。
【0010】
[全体システム構成(
図1)]
以下、
図1に基づいて全体システム構成を説明する。エンジン車の駆動系には、
図1に示すように、エンジン1(走行用駆動源)と、トルクコンバータ2と、自動変速機3と、プロペラシャフト4と、駆動輪5と、を備える。トルクコンバータ2は、締結によりエンジン1のクランク軸と自動変速機3の入力軸INを直結するロックアップクラッチ2aを内蔵する。自動変速機3は、ギヤトレーン3aとパークギヤ3bを内蔵する。自動変速機3には、変速のためのスプールバルブや油圧制御回路やソレノイドバルブ等により構成されるコントロールバルブユニット6が取り付けられている。
【0011】
コントロールバルブユニット6は、ソレノイドバルブとして、摩擦要素毎に6個設けられるクラッチソレノイド20と、それぞれ1個設けられるライン圧ソレノイド21、潤滑ソレノイド22、ロックアップソレノイド23を有する。即ち、合計9個のソレノイドバルブを有する。これらのソレノイドバルブは何れも3方向リニアソレノイド構造であり、変速機コントロールユニット10からの制御指令を受けて調圧作動する。
【0012】
エンジン車の電子制御系には、
図1に示すように、変速機コントロールユニット10(略称:「ATCU」という。)と、エンジンコントロールモジュール11(略称:「ECM」という。)と、CAN通信線70と、を備える。ここで、変速機コントロールユニット10は、センサモジュールユニット71(略称:「USM」という。)からのイグニッション信号によって起動/停止をする。つまり、変速機コントロールユニット10の起動/停止を、イグニッションスイッチによる起動/停止の場合に比べて起動バリエーションが増える「ウェイクアップ/スリープ制御」としている。
【0013】
変速機コントロールユニット10は、コントロールバルブユニット6の上面位置に機電一体に設けられ、ユニット基板にメイン基板温度センサ31と、サブ基板温度センサ32と、を互いに独立性を担保しながら冗長系により備える。即ち、メイン基板温度センサ31とサブ基板温度センサ32は、センサ値情報を変速機コントロールユニット10に送信するが、周知の自動変速機ユニットとは異なり、オイルパン内で変速機作動油(ATF)に直接接触していない温度情報を送信する。この変速機コントロールユニット10は、他にクラッチソレノイド電流センサ12、タービン回転センサ13、出力軸回転センサ14、第3クラッチ油圧センサ15からの信号を入力する。さらに、シフタコントロールユニット18、中間軸回転センサ19、等からの信号を入力する。
【0014】
クラッチソレノイド電流センサ12は、6個のクラッチソレノイド20のそれぞれのソレノイド電流を検出し、モニタ電流信号を変速機コントロールユニット10に送信する。タービン回転センサ13は、トルクコンバータ2のタービン回転速度(=変速機入力軸回転速度)を検出し、タービン回転速度Ntを示す信号を変速機コントロールユニット10に送信する。出力軸回転センサ14は、自動変速機3の出力軸回転速度を検出し、出力軸回転速度No(=車速VSP)を示す信号を変速機コントロールユニット10に送信する。第3クラッチ油圧センサ15は、第3クラッチK3のクラッチ油圧を検出し、第3クラッチ油圧PK3を示す信号を変速機コントロールユニット10に送信する。
【0015】
シフタコントロールユニット18は、運転者によるシフタ181へのセレクト操作により選択されたレンジ位置を判定し、レンジ位置信号を変速機コントロールユニット10に送信する。なお、シフタ181は、モーメンタリ構造であり、操作部181aの上部にPレンジボタン181bを有し、操作部181aの側部にロック解除ボタン181c(N→R時のみ)を有する。そして、レンジ位置として、Hレンジ(ホームレンジ)とRレンジ(リバースレンジ)とDレンジ(ドライブレンジ)とN(d),N(r)(ニュートラルレンジ)を有する。中間軸回転センサ19は、中間軸(インターミディエイトシャフト=第1キャリアC1に連結される回転メンバ)の回転速度を検出し、中間軸回転速度Nintを示す信号を変速機コントロールユニット10に送信する(
図2を参照)。
【0016】
変速機コントロールユニット10では、変速マップ(
図4を参照)上での車速VSPとアクセル開度APOによる運転点(VSP,APO)の変化を監視することで、
1.オートアップシフト(アクセル開度を保った状態での車速上昇による)
2.足離しアップシフト(アクセル足離し操作による)
3.足戻しアップシフト(アクセル戻し操作による)
4.パワーオンダウンシフト(アクセル開度を保っての車速低下による)
5.小開度急踏みダウンシフト(アクセル操作量小による)
6.大開度急踏みダウンシフト(アクセル操作量大による:「キックダウン」)
7.緩踏みダウンシフト(アクセル緩踏み操作と車速上昇による)
8.コーストダウンシフト(アクセル足離し操作での車速低下による)
と呼ばれる基本変速パターンによる変速制御を行う。
【0017】
エンジンコントロールモジュール11は、アクセル開度センサ16、エンジン回転センサ17、等からの信号を入力する。
【0018】
アクセル開度センサ16は、運転者のアクセル操作によるアクセル開度を検出し、アクセル開度APOを示す信号をエンジンコントロールモジュール11に送信する。エンジン回転センサ17は、エンジン1の回転速度を検出し、エンジン回転速度Neを示す信号をエンジンコントロールモジュール11に送信する。
【0019】
エンジンコントロールモジュール11は、双方向に情報交換可能なCAN通信線70を介して変速機コントロールユニット10と接続されている。エンジンコントロールモジュール11には、変速機コントロールユニット10からCAN通信線70を介してトルク制限要求が入力されると、エンジントルクを所定の上限トルクにより制限したトルクとするトルク制限制御部110を有する。また、エンジンコントロールモジュール11には、変速機コントロールユニット10からCAN通信線70を介してトルクアップ要求が入力されると、エンジントルクを上昇させるトルクアップ制御部111を有する。そして、変速機コントロールユニット10から情報リクエストが入力されると、アクセル開度APOやエンジン回転速度Neの情報を変速機コントロールユニット10に出力する。さらに、推定算出によるエンジントルクTeやタービントルクTtの情報を変速機コントロールユニット10に出力する。
【0020】
[自動変速機の詳細構成(
図2~
図4)]
以下、
図2~
図4に基づいて自動変速機3の詳細構成を説明する。自動変速機3は、複数のギヤ段が設定可能なギヤトレーン3a(有段変速機構)と複数の摩擦要素を有するもので、下記の点を特徴とする。
(a) 変速要素として、機械的に係合/空転するワンウェイクラッチを用いていない。
(b) 摩擦要素である第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、第1クラッチK1、第2クラッチK2、第3クラッチK3は、変速時にクラッチソレノイド20によってそれぞれ独立に締結/解放状態が制御される。
(c) 摩擦要素の締結圧制御において締結状態を維持するインギヤ中、クラッチソレノイドに最大圧指令を出力するのではなく、クラッチ滑りを抑えることができる要素入力トルク相当の中間圧指令をクラッチソレノイド20に出力する。
(d) 第2クラッチK2と第3クラッチK3は、クラッチピストン油室に作用する遠心力による遠心圧を相殺する遠心キャンセル室を有する。
【0021】
自動変速機3は、
図2に示すように、ギヤトレーン3aを構成する遊星歯車として、変速機入力軸INから変速機出力軸OUTに向けて順に、第1遊星歯車PG1と、第2遊星歯車PG2と、第3遊星歯車PG3と、第4遊星歯車PG4と、を備えている。
【0022】
第1遊星歯車PG1は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第1サンギヤS1と、第1サンギヤS1に噛み合うピニオンを支持する第1キャリアC1と、ピニオンに噛み合う第1リングギヤR1と、を有する。
【0023】
第2遊星歯車PG2は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第2サンギヤS2と、第2サンギヤS2に噛み合うピニオンを支持する第2キャリアC2と、ピニオンに噛み合う第2リングギヤR2と、を有する。
【0024】
第3遊星歯車PG3は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第3サンギヤS3と、第3サンギヤS3に噛み合うピニオンを支持する第3キャリアC3と、ピニオンに噛み合う第3リングギヤR3と、を有する。
【0025】
第4遊星歯車PG4は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第4サンギヤS4と、第4サンギヤS4に噛み合うピニオンを支持する第4キャリアC4と、ピニオンに噛み合う第4リングギヤR4と、を有する。
【0026】
自動変速機3は、
図2に示すように、変速機入力軸INと、変速機出力軸OUTと、第1連結メンバM1と、第2連結メンバM2と、トランスミッションケースTCと、を備えている。変速により締結/解放される摩擦要素として、第1ブレーキB1と、第2ブレーキB2と、第3ブレーキB3と、第1クラッチK1と、第2クラッチK2と、第3クラッチK3と、を備えている。
【0027】
変速機入力軸INは、エンジン1からの駆動力がトルクコンバータ2を介して入力される軸で、第1サンギヤS1と第4キャリアC4に常時連結している。そして、変速機入力軸INは、第2クラッチK2を介して第1キャリアC1に断接可能に連結している。
【0028】
変速機出力軸OUTは、プロペラシャフト4及び図外のファイナルギヤ等を介して駆動輪5へ変速した駆動トルクを出力する軸であり、第3キャリアC3に常時連結している。そして、変速機出力軸OUTは、第1クラッチK1を介して第4リングギヤR4に断接可能に連結している。
【0029】
第1連結メンバM1は、第1遊星歯車PG1の第1リングギヤR1と第2遊星歯車PG2の第2キャリアC2を、摩擦要素を介在させることなく常時連結するメンバである。第2連結メンバM2は、第2遊星歯車PG2の第2リングギヤR2と第3遊星歯車PG3の第3サンギヤS3と第4遊星歯車PG4の第4サンギヤS4を、摩擦要素を介在させることなく常時連結するメンバである。
【0030】
第1ブレーキB1は、第1キャリアC1の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。第2ブレーキB2は、第3リングギヤR3の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。第3ブレーキB3は、第2サンギヤS2の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。
【0031】
第1クラッチK1は、第4リングギヤR4と変速機出力軸OUTの間を選択的に連結する摩擦要素である。第2クラッチK2は、変速機入力軸INと第1キャリアC1の間を選択的に連結する摩擦要素である。第3クラッチK3は、第1キャリアC1と第2連結メンバM2の間を選択的に連結する摩擦要素である。
【0032】
図3に基づいて、各ギヤ段を成立させる変速構成を説明する。1速段(1st)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第3クラッチK3の同時締結により達成する。2速段(2nd)は、第2ブレーキB2と第2クラッチK2と第3クラッチK3の同時締結により達成する。3速段(3rd)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第2クラッチK2の同時締結により達成する。4速段(4th)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第1クラッチK1の同時締結により達成する。5速段(5th)は、第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第2クラッチK2の同時締結により達成する。以上の1速段~5速段が、ギヤ比が1を超えている減速ギヤ比によるアンダードライブギヤ段である。
【0033】
6速段(6th)は、第1クラッチK1と第2クラッチK2と第3クラッチK3の同時締結により達成する。この第6速段は、ギヤ比=1の直結段である。
【0034】
7速段(7th)は、第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第3クラッチK3の同時締結により達成する。8速段(8th)は、第1ブレーキB1と第1クラッチK1と第3クラッチK3の同時締結により達成する。9速段(9th)は、第1ブレーキB1と第3ブレーキB3と第1クラッチK1の同時締結により達成する。以上の7速段~9速段は、ギヤ比が1未満の増速ギヤ比によるオーバードライブギヤ段である。
【0035】
さらに、1速段から9速段までのギヤ段のうち、隣接するギヤ段へのアップ変速を行う際、或いは、ダウン変速を行う際、
図3に示すように、掛け替え変速により行う構成としている。即ち、隣接するギヤ段への変速は、三つの摩擦要素のうち、二つの摩擦要素の締結は維持したままで、一つの摩擦要素の解放と一つの摩擦要素の締結を行うことで達成される。
【0036】
Rレンジ位置の選択による後退速段(Rev)は、第1ブレーキB1と第2ブレーキB2と第3ブレーキB3の同時締結により達成する。なお、Nレンジ位置及びPレンジ位置を選択したときは、基本的に6個の摩擦要素B1,B2,B3,K1,K2,K3の全てが解放状態とされる。
【0037】
そして、変速機コントロールユニット10には、
図4に示すような変速マップが記憶設定されていて、Dレンジの選択により前進側の1速段から9速段までのギヤ段の切り替えによる変速は、この変速マップに従って行われる。即ち、そのときの運転点(VSP,APO)が
図4の実線で示すアップシフト線を横切るとアップシフト変速要求が出される。又、運転点(VSP,APO)が
図4の破線で示すダウンシフト線を横切るとダウンシフト変速要求が出される。
【0038】
[油圧制御系の詳細構成(
図5)]
以下、
図5に基づいて油圧制御系の詳細構成を説明する。変速機コントロールユニット10によって油圧制御されるコントロールバルブユニット6は、
図5に示すように、油圧源として、メカオイルポンプ61と電動オイルポンプ62を備える。メカオイルポンプ61は、エンジン1によりポンプ駆動され、電動オイルポンプ62は、電動モータ63によりポンプ駆動される。
【0039】
コントロールバルブユニット6は、油圧制御回路に設けられる弁として、ライン圧ソレノイド21とライン圧調圧弁64とクラッチソレノイド20とロックアップソレノイド23を備える。そして、潤滑ソレノイド22と潤滑調圧弁65とブースト切り替え弁66を備える。さらに、P-nP切り替え弁67とパーク油圧アクチュエータ68を備える。
【0040】
ライン圧調圧弁64は、メカオイルポンプ61と電動オイルポンプ62の少なくとも一方からの吐出作動油を、ライン圧ソレノイド21からのバルブ作動信号圧(=ライン指示圧)に基づいて実ライン圧PLに調圧する。
【0041】
ここで、ライン圧ソレノイド21は、変速機コントロールユニット10に有するライン圧制御部100からの制御指令により調圧駆動する。ライン圧制御部100は、ギヤトレーン3aへの入力トルク(駆動トルク、制動トルク)に応じて目標ライン圧を設定する。そして、設定された目標ライン圧に基づいてライン指示圧を決め、決めたライン指示圧に応じたソレノイド電流に変換してライン圧ソレノイド21を駆動する。
【0042】
クラッチソレノイド20は、ライン圧PLを元圧とし、摩擦要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)毎に締結圧や解放圧を制御する変速系ソレノイドである。なお、
図5ではクラッチソレノイド20が1個であるように記載しているが、摩擦要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)毎に6個のソレノイドを有する。ここで、クラッチソレノイド20は、変速機コントロールユニット10に有する変速制御部101からの制御指令により調圧駆動する。
【0043】
ロックアップソレノイド23は、ロックアップクラッチ2aの締結時、ライン圧調圧弁64により作り出されたライン圧PLと調圧余剰油を用い、ロックアップクラッチ2aのクラッチ差圧を制御する。
【0044】
ここで、ロックアップソレノイド23は、変速機コントロールユニット10に有するロックアップ制御部102からの制御指令により調圧駆動する。ロックアップ制御部102は、低車速域に設定された所定車速以上の領域での走行中、完全締結状態を保つクラッチ差圧制御ではなく、ロックアップクラッチ2aの微小スリップを許容するゼロスリップ締結状態を維持するクラッチ差圧制御を、ギヤトレーン3aのギヤ段や変速にかかわらず実行する。
【0045】
潤滑ソレノイド22は、潤滑調圧弁65へのバルブ作動信号圧と、ブースト切り替え弁66への切替え圧とを作り出し、摩擦要素へ供給する潤滑流量を、発熱を抑える適正な流量に調圧する機能を有する。そして、連続変速プロテクション以外のときに摩擦要素の発熱を抑える最低潤滑流量をメカ保証し、最低潤滑流量に上乗せされる潤滑流量分を調整するソレノイドである。
【0046】
潤滑調圧弁65は、潤滑ソレノイド22からのバルブ作動信号圧によって、摩擦要素とギヤトレーン3aを含むパワートレーン(PT)へクーラー69を介して供給する潤滑流量をコントロールすることができる。そして、潤滑調圧弁65によってPT供給潤滑流量を適正化することでフリクションを低減する。
【0047】
ブースト切り替え弁66は、潤滑ソレノイド22からの切替え圧によって、第2クラッチK2と第3クラッチK3の遠心キャンセル室の供給油量を増加する。このブースト切り替え弁66は、遠心キャンセル室の油量が不足しているシーンで一時的に供給油量を増やすときに使用する。
【0048】
P-nP切り替え弁67は、潤滑ソレノイド22(又はパークソレノイド)からの切替え圧によってパーク油圧アクチュエータ68へのライン圧路を切り替える。Pレンジへの選択時にパークギヤ3bを噛合わせるパークロックと、PレンジからPレンジ以外のレンジへの選択時にパークギヤ3bの噛合を解除するパークロック解除を行う。
【0049】
このように、運転者が操作するシフトレバーと機械的に連結され、Dレンジ圧油路やRレンジ圧油路やPレンジ圧油路等を切り替えるマニュアルバルブを廃止したコントロールバルブユニット6の構成としている。そして、シフタ181によりD,R,Nレンジを選択した際、シフタコントロールユニット18からのレンジ位置信号に基づいて、6個の摩擦要素を独立に締結/解放する制御を採用することで「シフト・バイ・ワイヤ」を達成している。さらに、シフタ181によりPレンジを選択した際、シフタコントロールユニット18からのレンジ位置信号に基づいて、パークモジュールを構成するP-nP切り替え弁67とパーク油圧アクチュエータ68を作動させることで「パーク・バイ・ワイヤ」を達成している。
【0050】
[変速制御部の詳細構成(
図6)]
以下、
図6に基づいて変速機コントロールユニット10の変速制御部101の詳細構成を説明する。変速制御部101は、
図6に示すように、変速状況判定部101aと、変速系ソレノイド制御部101bと、トルクアップ要求部101cと、を備える。
【0051】
変速状況判定部101aは、所定のギヤ段を維持しているインギヤ中であるか変速開始から変速終了までの変速中であるかを判定する。
ここで、インギヤ中であるかは、例えば、変速制御処理において所定のギヤ段を維持する要求があり、且つ、実ギヤ比が各ギヤ段での設定ギヤ比の前後ギヤ比ずれ幅の範囲内にあることで判定する。また、変速開始から変速終了までの変速中であるかは、変速制御処理において変速要求があり、且つ、実ギヤ比が変速前ギヤ段での設定ギヤ比(変速開始)から変速後ギヤ段での設定ギヤ比(変速終了)までの移行区間であることにより判定する。
【0052】
変速系ソレノイド制御部101bは、変速状況判定部101aからの判定結果に基づいて複数の摩擦要素B1,B2,B3,K1,K2,K3へのクラッチ指示圧を決め、クラッチ指示圧に応じたソレノイド電流に変換してクラッチソレノイド20(変速系ソレノイド)を駆動する。この変速系ソレノイド制御部101bは、全てのクラッチソレノイド20のうち、締結状態が維持される摩擦要素のクラッチソレノイド20へ出力する締結クラッチ指示圧を、インギヤ中と判定された区間は変速中と判定された区間よりも低くする。
【0053】
ここで、インギヤ中と判定された区間における締結クラッチ指示圧は、ライン圧制御部100から出力されるライン指示圧にバラツキ要素分を加え、インギヤ中の締結クラッチ指示圧が実ライン圧PL以上という関係が成立する指示圧とする。なお、「バラツキ要素分」とは、バラツキ保障圧、オーバーライド補正圧、オーバーシュート補正圧、クラッチ圧バラツキを加えたものをいう(
図11を参照)。
【0054】
また、変速中と判定された区間における締結クラッチ指示圧は、変速中と判定された区間におけるライン指示圧を上回り、変速中の締結クラッチ指示圧が実ライン圧PL以上という関係が成立する指示圧とする。本実施例での変速中と判定された区間における締結クラッチ指示圧は、最大指示圧(MAX指示圧)により与えている(
図9を参照)。
【0055】
ライン圧制御部100は、変速状況判定部101aからの判定結果に基づいてライン指示圧を設定するというように、変速制御部101とライン圧制御部100は互いに協調制御を行っていている。即ち、ライン圧制御部100は、インギヤ中と判定された区間において、ギヤトレーン3aへの入力トルク(負荷)の大きさに応じてライン指示圧を設定する(
図9を参照)。また、ライン圧制御部100は、変速中と判定された区間において、インギヤ中と判定された区間におけるライン指示圧に、変速イナーシャトルク分を上乗せした指示圧とする(
図9を参照)。
【0056】
そして、ライン圧制御部100と変速系ソレノイド制御部101bは、インギヤ中から変速中へ移行するとき、変速開始タイミングをライン指示圧と締結クラッチ指示圧の上昇開始タイミングとする。さらに、ライン圧制御部100は、変速中からインギヤ中へ移行するとき、変速終了タイミングをライン指示圧の低下開始タイミングとする。しかし、変速系ソレノイド制御部101bは、変速中からインギヤ中へ移行により締結クラッチ指示圧を低下させるとき、変速終了から遅れ時間を経過したタイミングを、締結クラッチ指示圧の低下開始タイミングとする(
図12を参照)。
【0057】
トルクアップ要求部101cは、変速状況判定部101aからの判定結果がダウンシフトによる変速中であるとき、所定のトルクアップ要求許可条件の成立によりエンジン1によるトルクアップ要求を許可する。ここで、トルクアップ要求部101cは、クラッチソレノイド20の各ソレノイド電流値をモニタする。そして、クラッチソレノイド20のうち何れかのソレノイド電流値が、ソレノイドオフ電流値からライン圧電流値相当(ライン圧電流値+オーバーライド補正電流値)までの領域に存在しているというソレノイド電流値条件を、トルクアップ要求許可条件に加える(
図13を参照)。
【0058】
[変速制御処理構成(
図7)]
以下、
図7に基づいて変速機コントロールユニット10の変速制御部101にて実行される変速制御処理構成を説明する。なお、
図7の変速制御処理はイグニッションオンにより開始する。
【0059】
ステップS1では、処理スタート、或いは、S7での架け替え制御の開始、或いは、S14でのイグニッション起動との判断に続き、ギヤトレーン3aにて所定のギヤ段を維持しているインギヤ中であるか否かを判断する。YES(インギヤ中)の場合はステップS2へ進み、NO(変速中)の場合はステップS8へ進む。
【0060】
ステップS2では、S1でのインギヤ中であるとの判断に続き、そのとき選択されているギヤ段に応じて締結が維持される摩擦要素(「締結要素」という。)を決定し、ステップS3へ進む。ここで、例えば、1速ギヤ段が選択されていると、
図3に示すように、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第3クラッチK3を締結要素として決定する。また、2速ギヤ段が選択されていると、
図3に示すように、第2ブレーキB2と第2クラッチK2と第3クラッチK3を締結要素として決定する。
【0061】
ステップS3では、S2での締結要素の決定に続き、締結要素への締結クラッチ指示圧を決定し、ステップS4へ進む。ここで、締結要素への締結クラッチ指示圧は、ライン圧制御部100から出力されるライン指示圧にバラツキ要素分を加えた指示圧とされる。
【0062】
ステップS4では、S3での締結クラッチ指示圧の決定、或いは、S5でのインギヤ中から変速中への移行でないとの判断に続き、インギヤ中の締結クラッチ指示圧の出力制御を実行し、ステップS5へ進む。
【0063】
ステップS5では、S4でのインギヤ中の締結クラッチ指示圧の出力制御に続き、インギヤ中から変速中への移行であるか否かを判断する。YES(インギヤ中から変速中への移行である)の場合はステップS6へ進み、NO(インギヤ中から変速中への移行でない)の場合はステップS4へ戻る。
【0064】
ステップS6では、S5でのインギヤ中から変速中への移行であるとの判断に続き、締結要素のうち変速を開始しても締結が維持される締結クラッチ指示圧を、インギヤ中の締結クラッチ指示圧から変速中の締結クラッチ指示圧(MAX指示圧)へ上昇し、ステップS7へ進む。
【0065】
ステップS7では、S6でのMAX指示圧への上昇に続き、締結要素のうち変速を開始すると解放される要素(解放クラッチ)へのクラッチ指示圧を低下し、変速を開始すると新たに締結される要素(締結クラッチ)へのクラッチ指示圧を上昇する架け替え制御を開始し、ステップS1へ戻る。
【0066】
ステップS8では、S1での変速中であるとの判断、或いは、S11での変速中からインギヤ中への移行でないとの判断に続き、変速中の締結クラッチ指示圧(MAX指示圧)の出力制御を実行し、ステップS9へ進む。
【0067】
ステップS9では、S8での変速中の締結クラッチ指示圧の出力制御に続き、エンジン1によるトルクアップ要求許可条件が成立であるか否かを判断する。YES(トルクアップ要求許可条件成立)の場合はステップS10へ進み、NO(トルクアップ要求許可条件不成立)の場合はステップS11へ進む。
ここで、「トルクアップ」とは、例えば、エンジン1への燃料カットによるコースト走行中、コーストダウンシフトの要求があるとき、コーストダウンシフトの変速進行を速やかに行うように燃料リカバー制御を行い、エンジン1の回転速度を上げることをいう。そして、トルクアップ要求許可条件については、インギヤ中の締結クラッチ指示圧を低下させたことに伴い、クラッチソレノイド20のうち何れかのソレノイド電流値が、ソレノイドオフ電流値からライン圧電流値にオーバーライド補正電流値を加えた加算電流値までの領域に存在しているというソレノイド電流値条件が加えられる。
【0068】
ステップS10では、S9でのトルクアップ要求許可条件成立との判断に続き、トルクアップ要求を、変速機コントロールユニット10からエンジンコントロールモジュール11のトルクアップ制御部111へ出力し、ステップS11へ進む。
【0069】
ステップS11では、S9でのトルクアップ要求許可条件不成立との判断、或いは、S10でのトルクアップ要求の出力に続き、変速中からインギヤ中への移行であるか否かを判断する。YES(変速中からインギヤ中への移行である)の場合はステップS12へ進み、NO(変速中からインギヤ中への移行でない)の場合はステップS8へ戻る。
【0070】
ステップS12では、S11での変速中からインギヤ中への移行であるとの判断に続き、遅れ時間を経過したか否かを判断する。YES(遅れ時間経過)の場合はステップS13へ進み、NO(遅れ時間未経過)の場合はステップS12の判断を繰り返す。ここで、「遅れ時間」は、ライン圧ソレノイド21で実ライン圧PLを低下させる調圧作動に必要な時間以上となる時間に設定される。
【0071】
ステップS13では、S12での遅れ時間経過との判断に続き、変速後のギヤ段で締結される摩擦要素への締結クラッチ指示圧の低下を開始し、ステップS14へ進む。
【0072】
ステップS14では、S13での締結クラッチ指示圧の低下開始に続き、イグニッション起動停止であるか否かを判断する。YES(イグニッション起動停止)の場合はエンドへ進み、NO(イグニッション起動中)の場合はステップS1へ戻る。
【0073】
次に、「比較例と課題解決方策」について説明する。そして、実施例1の作用を、「変速制御処理作用」、「実施例1の特徴作用」に分けて説明する。
【0074】
[比較例と課題解決方策(
図8、
図9)]
図8は、締結が維持される摩擦要素へのクラッチ指示圧の出力技術の比較例である。比較例では、
図8に示すように、時刻t1での変速開始前のギヤ段におけるインギヤ中、クラッチ/ブレーキF1とクラッチ/ブレーキF2とクラッチ/ブレーキF3への締結クラッチ指示圧をMAX指示圧とする。そして、時刻t1から時刻t2までの変速中、締結状態が維持されるクラッチ/ブレーキF1とクラッチ/ブレーキF2への締結クラッチ指示圧をMAX指示圧とし、クラッチ/ブレーキF3を解放クラッチとし、クラッチ/ブレーキF4を締結クラッチとして架け替え制御を行う。さらに、時刻t2での変速終了後のギヤ段におけるインギヤ中、クラッチ/ブレーキF1とクラッチ/ブレーキF2とクラッチ/ブレーキF4への締結クラッチ指示圧をMAX指示圧とする。
【0075】
このように、
図8に示す比較例にあっては、インギヤ中、締結状態が維持される3個の摩擦要素への変速系ソレノイドに対し、締結クラッチ指示圧としてMAX指示圧を与えるようにしている。このため、変速系ソレノイドを駆動する電流も増え、燃費が悪化してしまう懸念がある。特に、実施例1の場合には、変速段数が9速段で変速系ソレノイドの数が6個であるというように、自動変速機の変速段数が増えるに従いそれらを制御する変速系ソレノイドも増加し、変速系ソレノイドを駆動する電流も増えることで、燃費が悪化してしまう、という課題があった。そして、エンジン車の場合、環境に対する影響を軽減するためにも可能な限り燃費性能を改善したい、という要求がある。
【0076】
本発明者は、上記課題や上記要求に対する解決策を検証した結果、
(A) インギヤ中に締結クラッチ指示圧としてMAX指示圧を与えると、実ライン圧とクラッチ指示圧との乖離幅が大きく、インギヤ中にクラッチ指示圧を低下させることが可能である。
(B) 一方、変速中に締結クラッチ指示圧をインギヤ中と同じレベルまで低下させると、イナーシャトルクが作用する変速過渡期において、クラッチ必要油圧を確保できない懸念がある。
(C) 締結クラッチ指示圧を決める際、インギヤ中か変速中かで状況や要求が全く異なるため、インギヤ区間と変速区間により切り分けて決める必要がある。
という点に着目した。
【0077】
上記着目点に基づいて、本開示の変速機コントロールユニット10は、所定のギヤ段を維持しているインギヤ中であるか変速開始から変速終了までの変速中であるかを判定する変速状況判定部101aと、変速状況判定部101aからの判定結果に基づいて複数の摩擦要素B1,B2,B3,K1,K2,K3へのクラッチ指示圧を決め、クラッチ指示圧に応じたソレノイド電流に変換してクラッチソレノイド20を駆動する変速系ソレノイド制御部101bと、を備える。変速系ソレノイド制御部101bは、クラッチソレノイド20のうち、締結状態が維持される摩擦要素のクラッチソレノイドへ出力する締結クラッチ指示圧を、インギヤ中と判定された区間は変速中と判定された区間よりも低くする、という解決手段を採用した。
【0078】
即ち、
図9に示すように、時刻t1での変速開始前のギヤ段におけるインギヤ中、クラッチ/ブレーキF1とクラッチ/ブレーキF2とクラッチ/ブレーキF3への締結クラッチ指示圧がMAX指示圧より低く実ライン圧PLより高い指示圧とされる。そして、時刻t1から時刻t2までの変速中、締結状態が維持されるクラッチ/ブレーキF1とクラッチ/ブレーキF2への締結クラッチ指示圧が、実ライン圧PLより高い指示圧(例えば、MAX指示圧)とされ、クラッチ/ブレーキF3を解放クラッチとし、クラッチ/ブレーキF4を締結クラッチとして架け替え制御が行われる。さらに、時刻t2での変速終了後のギヤ段におけるインギヤ中、クラッチ/ブレーキF1とクラッチ/ブレーキF2とクラッチ/ブレーキF4への締結クラッチ指示圧がMAX指示圧より低く実ライン圧PLより高い指示圧とされる。
【0079】
このように、クラッチソレノイド20のうち、締結状態が維持される摩擦要素のクラッチソレノイドへ出力する締結クラッチ指示圧が、インギヤ中と判定された区間は変速中と判定された区間よりも低くされる。つまり、時刻t1前のインギヤ中と判定された区間は、MAX指示圧より矢印A分だけ締結クラッチ指示圧が低くされ、時刻t2後のインギヤ中と判定された区間は、MAX指示圧より矢印B分だけ締結クラッチ指示圧が低くされる。このため、インギヤ中と判定された区間において、クラッチソレノイド20を駆動するソレノイド電流が、締結クラッチ指示圧をMAX指示圧にする場合に比べて低く抑えられる。よって、変速中以外(加速、定常、減速、停車)における電力消費量がソレノイド電流の低下分により削減され、電力消費量の削減がエンジン1の燃費を向上に繋がる。
【0080】
この結果、所定のギヤ段を維持しているインギヤ中、クラッチソレノイド20を駆動するソレノイド電流を低く抑えて電力消費量を削減することにより燃費を向上することができることになる。加えて、変速中、締結状態のままの摩擦要素に供給される油圧は、インギヤ中(非変速中)より高くなるので、締結状態を維持する摩擦要素とその他の摩擦要素を供給電流から判別しやくなる。このため、クラッチソレノイド20に供給されるソレノイド電流により摩擦要素の状態を判定して他の制御を行う場合、クラッチソレノイド20の状態を容易に判定することができる。
【0081】
[変速制御処理作用(
図7)]
変速制御処理作用を
図7のフローチャートに基づいて説明する。まず、インギヤ中、S1→S2→S3→S4→S5へと進み、S5においてインギヤ中から変速中への移行ではないと判断されている間、S4→S5へと進む流れが繰り返される。S2では、そのとき選択されているギヤ段に応じて締結が維持される締結要素が決定される。S3では、締結要素への締結クラッチ指示圧が決定される。S4では、インギヤ中の締結クラッチ指示圧の出力制御が実行される。
【0082】
S5においてインギヤ中から変速中への移行であると判断されると、S5からS6→S7→S1→S8へと進む。S6では、締結要素のうち変速を開始しても締結が維持される締結クラッチ指示圧が、インギヤ中の締結クラッチ指示圧から変速中の締結クラッチ指示圧(MAX指示圧)へ上昇させる制御が開始される。S7では、締結要素のうち、そのときの変速での解放クラッチへのクラッチ指示圧を低下し、締結クラッチへのクラッチ指示圧を上昇する架け替え制御が開始される。S8では、変速中の締結クラッチ指示圧(MAX指示圧)の出力制御が実行される。
【0083】
変速中の締結クラッチ指示圧の出力制御の実行している場合、トルクアップ要求許可条件が不成立であり、且つ、変速中からインギヤ中への移行ではない間は、S8→S9→S11へと進む流れが繰り返される。そして、トルクアップ要求許可条件が成立すると、S8→S9→S10→S11へと進み、S10では、トルクアップ要求が、変速機コントロールユニット10からエンジンコントロールモジュール11のトルクアップ制御部111へ出力される。
【0084】
S11において変速中からインギヤ中への移行であると判断されると、S11からS12へ進み、S12では、遅れ時間を経過したか否かが判断される。遅れ時間未経過と判断されている間は、インギヤ中への移行であるにもかかわらず、変速中の締結クラッチ指示圧の出力制御の実行が維持される。そして、遅れ時間経過と判断されると、S12からS13→S14へと進む。S13では、変速後のギヤ段で締結される摩擦要素への締結クラッチ指示圧の低下が開始される。S14では、イグニッション起動停止であるか否かが判断される。イグニッション起動中の場合はステップS1へ戻り、再度、上記インギヤ中処理と変速中処理が行われる。イグニッション起動停止になると、S14からエンドへと進み、変速制御処理を終了する。
【0085】
[実施例1の特徴作用(
図10~
図13)]
実施例1では、ライン圧制御部100において、入力トルクに応じた目標ライン圧に基づいてライン指示圧を決め、決めたライン指示圧に応じたソレノイド電流に変換してライン圧ソレノイド21を駆動する。そして、変速系ソレノイド制御部101bにおいて、インギヤ中と判定された区間における締結クラッチ指示圧を、ライン指示圧にバラツキ要素分を加え、インギヤ中の締結クラッチ指示圧が実ライン圧PL以上という関係が成立する指示圧としている。
【0086】
まず、クラッチ指示圧からクラッチ実圧に至るまでの遷移状況を述べると、
図10に示すように、クラッチ指示圧→目標ソレノイド電流→ソレノイド実電流→ソレノイド駆動→スプール駆動→クラッチ実圧となる。このうち、「スプール駆動」は、クラッチ実圧が元圧となる実ライン圧PL未満であると、クラッチソレノイド20でスプール位置を変えて調圧駆動する。しかし、クラッチ実圧が元圧となる実ライン圧PL以上であると、クラッチソレノイド20でスプール位置を変えないで非調圧状態(フルストローク)を継続し、スプール駆動はしない。
【0087】
よって、インギヤ中と判定された区間における締結クラッチ指示圧(インギヤ中のCLOSEクラッチ指示圧)を、
図11に示すように、ライン圧制御部100から出力されるライン指示圧(PL指示圧)にバラツキ要素分を加えたものとする。つまり、バラツキ要素分として、指示油圧に対するバラツキ保障圧、エンジン回転速度に対するオーバーライド補正圧、油圧周波数に対するオーバーシュート補正圧、ファイナルテストによるクラッチ圧バラツキを想定する。これにより、PL指示圧にバラツキ要素分を加えたインギヤ中のCLOSEクラッチ指示圧は、実ライン圧PL以上という関係が成立する指示圧になる。このように、インギヤ中の締結クラッチ指示圧を、CLOSEクラッチ指示圧≧実ライン圧PLという関係が成立する指示圧とすることで、インギヤ中にクラッチソレノイド20がスプール位置を変えない非調圧状態を継続し、インギヤ中における摩擦要素の締結状態を安定して維持することができる。
【0088】
実施例1では、ライン圧制御部100において、変速中と判定された区間におけるライン指示圧を、インギヤ中と判定された区間におけるライン指示圧に、変速イナーシャトルク分を上乗せした指示圧とする。そして、変速系ソレノイド制御部101bは、変速中と判定された区間における締結クラッチ指示圧を、変速中と判定された区間におけるライン指示圧を上回り、変速中の締結クラッチ指示圧が実ライン圧PL以上という関係が成立する指示圧としている。
【0089】
即ち、変速中の場合、変速中と判定された区間におけるライン指示圧(インギヤ中のライン指示圧に変速イナーシャトルク分を上乗せした指示圧)に、インギヤ中と同様に、バラツキ要素分を加えるという考え方とする。しかし、変速中と判定された区間におけるライン指示圧そのものが高くなるし、バラツキ要素分を加える演算処理を必要とするため、実施例1における変速中と判定された区間における締結クラッチ指示圧を、例えば、比較例と同様にMAX指示圧により与えている。これにより、変速中の締結クラッチ指示圧は、
図9に示すように、実ライン圧PL以上という関係が成立する指示圧になる。このように、変速中の締結クラッチ指示圧を、締結クラッチ指示圧(MAX指示圧)≧実ライン圧PLという関係が成立する指示圧とすることで、変速中にクラッチソレノイド20がスプール位置を変えない非調圧状態を継続し、変速中における摩擦要素の締結状態を安定して維持することができる。なお、変速中と判定された区間における締結クラッチ指示圧をMAX指示圧により与えると、バラツキ要素分を加える演算処理を省略できる。
【0090】
実施例1では、ライン圧制御部100において、変速中からインギヤ中へ移行するとき、変速終了タイミングをライン指示圧の低下開始タイミングとする。そして、変速系ソレノイド制御部101bにおいて、変速中からインギヤ中へ移行により締結クラッチ指示圧を低下させるとき、変速終了から遅れ時間DTを経過したタイミングを、締結クラッチ指示圧の低下開始タイミングとする。
【0091】
即ち、締結クラッチ指示圧を変速中指示圧からインギヤ中指示圧に低下させるとき、
図12の上部に示すように、ライン指示圧の低下開始タイミングで締結クラッチ指示圧を低下させるとする。この場合、ライン指示圧の低下に対して実ライン圧PL(PL実圧)は、油圧応答遅れにより緩やかな勾配にて低下するため、インギヤ中指示圧に向かって一気に低下させたクラッチソレノイド20がスプール位置を変える調圧状態になってしまう。
【0092】
これに対し、変速中からインギヤ中への移行により締結クラッチ指示圧を低下させるとき、
図12の下部に示すように、変速終了から遅れ時間DTを経過したタイミングを、締結クラッチ指示圧の低下開始タイミングとしている。このため、締結クラッチ指示圧を変速中指示圧からインギヤ中指示圧に向かって低下させるとき、クラッチソレノイド20がスプール位置を変えない非調圧状態を継続することができる。
【0093】
実施例1では、変速機コントロールユニット10に、変速状況判定部101aからの判定結果がダウンシフトによる変速中であるとき、所定のトルクアップ要求許可条件の成立によりエンジン1によるトルクアップ要求を許可するトルクアップ要求部101cを備える。そして、トルクアップ要求部101cは、各クラッチソレノイド20のソレノイド電流値をモニタし、クラッチソレノイド20のうち何れかのソレノイド電流値が、ソレノイドオフ電流値からライン圧電流値相当までの領域に存在しているというソレノイド電流値条件を、トルクアップ要求許可条件に加えている。
【0094】
即ち、比較例では、締結が維持される摩擦要素への締結クラッチ指示圧をMAX指示圧としている。よって、トルクアップ要求許可条件を、
図13の上部に示すように、各クラッチソレノイドへのソレノイド電流をモニタし、何れかのクラッチソレノイドへの電流がMAX電流以外であることにより変速中であることを特定し、トルクアップ要求許可条件としていた。しかし、本技術のように、インギヤ中の締結クラッチ指示圧をMAX指示圧より低圧にする制御を実施すると、インギヤ中を含めて常時、トルクアップ要求許可条件が成立してしまい、トルクアップ要求を許可することになる。
【0095】
これに対し、ソレノイド電流値条件を、クラッチソレノイド20のうち何れかのソレノイド電流値が、
図13の下部に示すように、ソレノイドオフ電流値からライン圧電流値相当(ライン圧電流値+オーバーライド補正電流値)までの領域(OK領域)に存在しているという条件とした。これによって、インギヤ中は、ソレノイド電流がライン圧電流値相当からMAX電流値までの間の領域(NG領域)になることで、トルクアップ要求許可条件が不成立になる。一方、変速中は、解放クラッチのソレノイド電流がライン圧電流値相当以下に低下することで、トルクアップ要求許可条件が成立になる。このため、インギヤ中の締結クラッチ指示圧をMAX指示圧より低圧にする制御を実施しながら、インギヤ中のときにトルクアップ要求許可条件を不成立とし、変速中のときにトルクアップ要求許可条件を成立させることができる。
【0096】
以上述べたように、実施例1の自動変速機3の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を奏する。
【0097】
(1) エンジン1に連結された有段変速機構(ギヤトレーン3a)に有する複数の摩擦要素B1,B2,B3,K1,K2,K3のそれぞれに設けられた変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20a,20b,20c,20d,20e,20f)を制御し、複数の摩擦要素の締結状態を変更することにより複数のギヤ段を切替える変速制御を行う変速機コントロールユニット10を備える自動変速機3の制御装置であって、
変速機コントロールユニット10は、
所定のギヤ段を維持しているインギヤ中であるか変速開始から変速終了までの変速中であるかを判定する変速状況判定部101aと、
変速状況判定部101aからの判定結果に基づいて複数の摩擦要素B1,B2,B3,K1,K2,K3へのクラッチ指示圧を決め、クラッチ指示圧に応じたソレノイド電流に変換して変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20)を駆動する変速系ソレノイド制御部101bと、を備え、
変速系ソレノイド制御部101bは、変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20)のうち、締結状態が維持される摩擦要素の変速系ソレノイドへ出力する締結クラッチ指示圧を、インギヤ中と判定された区間は変速中と判定された区間よりも低くする。
このため、所定のギヤ段を維持しているインギヤ中、変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20)を駆動するソレノイド電流を低く抑えて電力消費量を削減することにより燃費を向上することができる。
【0098】
(2) 変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20)が設けられる油圧制御回路に、オイルポンプ61,62からの吐出作動油を実ライン圧PLに調圧するライン圧調圧弁64とライン圧ソレノイド21を有し、
変速機コントロールユニット10に、入力トルクに応じた目標ライン圧に基づいてライン指示圧を決め、決めたライン指示圧に応じたソレノイド電流に変換してライン圧ソレノイド21を駆動するライン圧制御部100を備え、
変速系ソレノイド制御部101bは、インギヤ中と判定された区間における締結クラッチ指示圧を、ライン指示圧にバラツキ要素分を加え、インギヤ中の締結クラッチ指示圧が実ライン圧PL以上という関係が成立する指示圧とする。
このため、インギヤ中に変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20)がスプール位置を変えない非調圧状態を継続し、インギヤ中における摩擦要素の締結状態を安定して維持することができる。
【0099】
(3) ライン圧制御部100は、変速中と判定された区間におけるライン指示圧を、インギヤ中と判定された区間におけるライン指示圧に、変速イナーシャトルク分を上乗せした指示圧とし、
変速系ソレノイド制御部101bは、変速中と判定された区間における締結クラッチ指示圧を、変速中と判定された区間におけるライン指示圧を上回り、変速中の締結クラッチ指示圧が実ライン圧PL以上という関係が成立する指示圧とする。
このため、変速中に変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20)がスプール位置を変えない非調圧状態を継続し、変速中における摩擦要素の締結状態を安定して維持することができる。
【0100】
(4) ライン圧制御部100は、変速中からインギヤ中へ移行するとき、変速終了タイミングをライン指示圧の低下開始タイミングとし、
変速系ソレノイド制御部101bは、変速中からインギヤ中へ移行により締結クラッチ指示圧を低下させるとき、変速終了から遅れ時間TDを経過したタイミングを、締結クラッチ指示圧の低下開始タイミングとする。
このため、締結クラッチ指示圧を変速中指示圧からインギヤ中指示圧に向かって低下させるとき、変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20)がスプール位置を変えない非調圧状態を継続することができる。
【0101】
(5) 変速機コントロールユニット10に、変速状況判定部101aからの判定結果がダウンシフトによる変速中であるとき、所定のトルクアップ要求許可条件の成立によりエンジン1によるトルクアップ要求を許可するトルクアップ要求部101cを備え、
トルクアップ要求部101cは、変速系ソレノイド(クラッチソレノイド20)のソレノイド電流値をモニタし、変速系ソレノイドのうち何れかのソレノイド電流値が、ソレノイドオフ電流値からライン圧電流値相当までの領域に存在しているというソレノイド電流値条件を、トルクアップ要求許可条件に加える。
このため、インギヤ中の締結クラッチ指示圧をMAX指示圧より低圧にする制御を実施しながら、インギヤ中のときにトルクアップ要求許可条件を不成立とし、変速中のときにトルクアップ要求許可条件を成立させることができる。
【0102】
以上、本発明の実施形態に係る自動変速機の制御装置を実施例1に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0103】
実施例1では、変速系ソレノイド制御部101bとして、インギヤ中と判定された区間における締結クラッチ指示圧を、ライン指示圧にバラツキ要素分を加えて決める例を示した。しかし、変速系ソレノイド制御部としては、インギヤ中の締結クラッチ指示圧を、締結クラッチ指示圧≧実ライン圧という関係が成立する指示圧とする例であれば、バラツキ要素分を加える決め方に限られず、例えば、実ライン圧を監視し、実ライン圧を上回る締結クラッチ指示圧を随時決定する例等としても良い。
【0104】
実施例1では、変速系ソレノイド制御部101bとして、変速中と判定された区間における締結クラッチ指示圧を、変速中と判定された区間におけるライン指示圧を上回るようにMAX指示圧により与える例を示した。しかし、変速系ソレノイド制御部としては、変速中の締結クラッチ指示圧を、締結クラッチ指示圧≧実ライン圧という関係が成立する指示圧とする例であれば、例えば、MAX指示圧より少し低い値により与える例としても良い。
【0105】
実施例1では、自動変速機として、6個の摩擦要素を有し、3個の摩擦要素の締結により前進9速後退1速を達成する自動変速機3の例を示した。しかし、自動変速機としては、2個の摩擦要素の締結により複数の前進段や後退段を達成する例としても良いし、4個の摩擦要素の締結により複数の前進段や後退段を達成する例としても良い。また、自動変速機としては、前進9速後退1速以外の有段ギヤ段を持つ自動変速機の例としても良いし、ベルト式無段変速機と多段変速機とを組み合わせた副変速機付き無段変速機としても良い。
【0106】
実施例1では、エンジン車に搭載される自動変速機3の制御装置の例を示した。しかし、エンジン車に限らず、ハイブリッド車等のようにエンジンを搭載した車両の自動変速機の制御装置としても適用することが可能である。
【0107】
本願は、2019年11月29日付けで日本国特許庁に出願した特願2019-216994号に基づく優先権を主張し、その出願の全ての内容は、参照により本明細書に組み込まれる。