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  • 特許-アルミナ焼結体及び静電チャック 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-13
(45)【発行日】2022-12-21
(54)【発明の名称】アルミナ焼結体及び静電チャック
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/117 20060101AFI20221214BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20221214BHJP
【FI】
C04B35/117
H01L21/68 R
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022119883
(22)【出願日】2022-07-27
【審査請求日】2022-07-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】弁理士法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 希一郎
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-260645(JP,A)
【文献】特開2015-104746(JP,A)
【文献】特開2014-220408(JP,A)
【文献】特公平01-022225(JP,B2)
【文献】特開平05-194024(JP,A)
【文献】特許第6738505(JP,B2)
【文献】特開昭64-042359(JP,A)
【文献】特開平07-082048(JP,A)
【文献】特開2004-099413(JP,A)
【文献】特開2008-024583(JP,A)
【文献】特開2020-180020(JP,A)
【文献】特開平08-169774(JP,A)
【文献】特開平05-238810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
H01L 21/68-21/683
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alの含有率が85質量%以上であるアルミナ焼結体であって、
FeをFe換算で0.7質量%以上6.6質量%以下、TiをTiO換算で1質量%以上5質量%以下、SiをSiO換算で1質量%以上5質量%以下、YをY換算で0.1質量%以上9質量%以下含有し、かつCr、Mn、Co及びNiのそれぞれの酸化物換算値が合計で0.1質量%以下である、アルミナ焼結体。
【請求項2】
前記Fe及び前記Tiの少なくとも一部がFeTiOとなっている、請求項1に記載のアルミナ焼結体。
【請求項3】
Zrを更に含有し、ZrをZrO換算した値、TiをTiO換算した値、及びYをY換算した値の合計が7質量%以下である、請求項1に記載のアルミナ焼結体。
【請求項4】
体積固有抵抗率が1012Ω・cm以下である、請求項1に記載のアルミナ焼結体。
【請求項5】
請求項1からのいずれか一項に記載のアルミナ焼結体を載置板に使用している、静電チャック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ焼結体及びそのアルミナ焼結体を用いた静電チャックに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体製造装置において、回路形成を目的としてシリコンウェーハ上に露光・成膜し、シリコンウェーハをエッチングするためには、対象とするウェーハの平坦度を保ち、かつウェーハに温度分布がつかないように、ウェーハを保持する必要がある。このようなウェーハの保持手段としては機械方式、真空吸着方式、静電吸着方式が提案されている。これらの保持手段のうち、静電吸着方式は静電チャックによりウェーハを保持する方式であり、真空雰囲気下で使用することができるため多用されている。
【0003】
静電チャックには吸着力としてクーロン力を利用する型(クーロン型)と、ジョンセン・ラーベック力を利用する型(ジョンセン・ラーベック型)とがある。後者のジョンセン・ラーベック力は誘電体とウェーハとの界面の小さなギャップに微小電流が流れ、帯電分極して誘起させることによって生じる力である。ジョンセン・ラーベック力を用いて静電チャックとして必要な吸着力を確保するためには、誘電体の体積固有抵抗率が10~1012Ω・cmの範囲内にあることが要件となる。また、静電チャック用の誘電体は光認識を可能とするため黒色又は濃灰色を呈している必要がある。
【0004】
このような特性を具備する誘電体として特許文献1には、チタニア0.8~3質量%、炭化ホウ素を0.2~1質量%含有させたアルミナ系誘電体及びその製造方法が開示されている。しかし、特許文献1の製造方法では焼成をホットプレスやHIP、ガス圧焼成等加圧条件にて行うこととなっており、また焼成雰囲気は還元雰囲気又は真空中となっているため高価な設備が必要となる。静電チャック用の誘電体は消耗品であり、ユーザーより低価格での交換用素材の提供を求められている。
【0005】
一方、大気雰囲気焼成でのアルミナ焼結体の黒色化には、Cr、Mn、Co又はNiを添加する方法が主に用いられている。例えば特許文献2には、Cr、Mn、Fe及びCoOから選ばれる3種又は4種を配合し、大気雰囲気中にて焼成する方法が開示されている。また、特許文献3には、Mn等を添加し大気雰囲気中にて焼成する方法が開示されている。しかし、Cr、Mn、Co、Niは高価であり、更には生体や環境に対し悪影響を与えることが知られている。
そこで近年はこれら元素を使用しない黒色化の方法が検討されており、例えば特許文献4や特許文献5には、アルミナにチタニア及び酸化鉄を配合し、大気雰囲気下にて焼成可能な黒色アルミナの製造方法が開示されている。しかし、これらの方法では体積固有抵抗率がジョンセン・ラーベック型静電チャック用の誘電体の要件である10~1012Ω・cmの範囲内にまでは低下しない。
【0006】
アルミナ焼結体の体積固有抵抗率を低下させるための製造方法はこれまでに多数提案されているが、そのほとんどは上記特許文献1のように不活性雰囲気又は還元雰囲気での焼成であり、特別な設備が必要となる。また大気雰囲気下での焼成例もいくつかは存在するが、上記特許文献2、3のようにCr、Mn、Co、Niといった生体及び環境負荷の高い元素を添加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6738505号公報
【文献】特開平05―238810号公報
【文献】特許第4248833号公報
【文献】特開2020―180020号公報
【文献】特許第4994092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上に鑑み本発明が解決しようとする課題は、大気雰囲気下で焼成可能で、生体及び環境負荷の高い元素を実質的に含まず、黒色又は濃灰色を呈し、かつ低抵抗なアルミナ焼結体及びそのアルミナ焼結体を用いた静電チャックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが、アルミナ焼結体における上述の課題、すなわち(1)大気雰囲気下で焼成可能であること、(2)生体及び環境負荷の高い元素を実質的に含まないこと、(3)黒色又は濃灰色を呈すること、(4)低抵抗であること、という4つの課題を同時に解決するために試験及び研究を重ねた結果、Fe、Ti、Si及びYをそれぞれ酸化物換算で特定量ずつ含有させることが有効であるとの知見を得、本発明に想到するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一観点によれば次のアルミナ焼結体が提供される。
Alの含有率が85質量%以上であるアルミナ焼結体であって、
FeをFe換算で0.7質量%以上6.6質量%以下、TiをTiO換算で1質量%以上5質量%以下、SiをSiO換算で1質量%以上5質量%以下、YをY換算で0.1質量%以上9質量%以下含有し、かつCr、Mn、Co及びNiのそれぞれの酸化物換算値が合計で0.1質量%以下である、アルミナ焼結体。
【0011】
また、本発明の他の観点によれば、上記本発明のアルミナ焼結体を載置板に使用している静電チャックが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、大気雰囲気下で焼成可能で、生体及び環境負荷の高い元素を実質的に含まず、黒色又は濃灰色を呈し、かつ低抵抗なアルミナ焼結体及びそのアルミナ焼結体を用いた静電チャックを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態であるアルミナ焼結体を載置板に使用した静電チャックの構成例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のアルミナ焼結体は、その主成分としてAlを85質量%以上含有する。Alの含有率が85質量%未満であると、硬度や強度が高く、容積安定性等にも優れているといった元来アルミナ焼結体が具備する優れた特性が損なわれる。特に硬度が低くなると、静電チャックに使用する際に要求されるプラズマ耐性が低下し、その結果、十分な耐用性が得られなくなる。Alの含有率は90質量%以上であることが好ましい。
【0015】
本発明のアルミナ焼結体は主成分であるAlに加えて、FeをFe換算で0.7質量%以上6.6質量%以下、TiをTiO換算で1質量%以上5質量%以下、SiをSiO換算で1質量%以上5質量%以下、YをY換算で0.1質量%以上9質量%以下含有する。
【0016】
Feの含有率(Fe換算値のことをいう。以下同じ。)が0.7質量%未満であると黒色又は濃灰色(以下、総称して「黒色系」という。)を呈さなくなる、すなわち黒色系化が不十分となり、併せて低抵抗化が不十分となる。一方、Feの含有率が6.6質量%を超えると、機械的特性、特に硬度が低下する。Feの含有率は1.9質量%以上3.3質量%以下であることが好ましい。
また、Tiの含有率(TiO換算値のことをいう。以下同じ。)が1質量%未満であると黒色系化が不十分となると共に、低抵抗化が不十分となる。一方、Tiの含有率が5質量%を超えると、機械的特性、特に硬度が低下する。Tiの含有率は1.5質量%以上3質量%以下であることが好ましい。
詳細は後述するが、本発明のアルミナ焼結体においてFe及びTiの少なくとも一部はFeTiOとなっており、このFeTiOが黒色系化に寄与していると考えられる。
【0017】
また、Siの含有率(SiO換算値のことをいう。以下同じ。)が1質量%未満であると低抵抗化が不十分となる。一方、Siの含有率が5質量%を超えると、機械的特性、特に硬度が低下する。Siの含有率は1.2質量%以上3質量%以下であることが好ましい。
また、Yの含有率(Y換算値のことをいう。以下同じ。)が0.1質量%未満であると低抵抗化が不十分となる。一方、Yの含有率が9質量%を超えると、黒色系化が不十分となると共に、機械的特性、特に硬度が低下する。Yの含有率は0.9質量%以上4.5質量%以下であることが好ましい。
【0018】
このようにFe、Ti、Si及びYをそれぞれ酸化物換算で特定量ずつ含有させることによって、初めて上述の4つの課題を同時に解決することができる。
【0019】
本発明のアルミナ焼結体はZrを更に含有することができる。Zrを含有させることで、Ti及びYの含有率を低減しつつ上述の4つの課題を同時に解決することができる。具体的には、ZrをZrO換算した値、TiをTiO換算した値、及びYをY換算した値の合計を7質量%以下とすることができる。これにより、焼成時にチタン酸アルミニウム等の副生物が過剰に生成されることを抑制でき、機械的特性を向上させることができる。また、上記合計を7質量%以下とすることで、相対的にAlの含有率を増加させることができ、この点からも機械的特性を向上させることができる。
【0020】
本発明のアルミナ焼結体は、生体及び環境負荷の高い元素であるCr、Mn、Co及びNiを実質的に含まない。ここで、「実質的に含まない」とは、Cr、Mn、Co及びNiを黒色系化等のために積極的には使用しないということであり、これら元素の含有率が0であることまでをいうものではなく、不純物レベルでの含有は許容される。実際、アルミナ焼結体の製造に使用する原料中に不純物としてCr、Mn、Co又はNiが含まれていることがあり、その場合、アルミナ焼結体はこれら元素を不純物レベルで含有することになる。ここで、「不純物レベル」の目安としては、「Cr、Mn、Co及びNiのそれぞれの酸化物換算値が合計で0.1質量%以下」である。
【0021】
本発明のアルミナ焼結体は、アルミナ原料、酸化鉄原料、酸化チタン原料、シリカ原料及びイットリア原料、また必要に応じてジルコニア原料を、本発明で規定する各元素の酸化物換算の含有率となるように配合した配合物を混合、成形後、大気雰囲気下で焼成することにより得ることができる。焼成温度は1300℃以上1500℃以下とすることができる。具体的には、本発明のアルミナ焼結体は相対密度95%以上となるまで焼成させることにより得られる。なお、上述のFeTiOは、大気雰囲気下での焼成過程で生成する。
また、ジルコニア原料を使用する場合、一般的なジルコニア原料にはY等の安定化成分が含まれるが、本発明のアルミナ焼結体において各元素の酸化物換算の含有率にはY等の安定化成分の含有率も合算される。
【0022】
図1に、本発明の一実施形態であるアルミナ焼結体を載置板に使用した静電チャックの構成例を模式的に示している。同図に示す静電チャックはジョンセン・ラーベック型の静電チャックであり、ウェーハ等の試料を載置する載置板1と、この載置板と一体化される基板2と、これら載置板1と基板2との間に設けられた内部電極3と、この内部電極3に給電するために基板2を貫通するように設けられた給電部4とを備え、載置板1に本発明の一実施形態であるアルミナ焼結体を使用している。
【0023】
このように、本発明のアルミナ焼結体をジョンセン・ラーベック型の静電チャックの載置板として使用する場合、その体積固有抵抗率は上述の通り10~1012Ω・cmの範囲内にあることが要件となる。したがって本発明のアルミナ焼結体をジョンセン・ラーベック型の静電チャックの載置板として使用する場合、上記配合物の配合割合等を調整することで、体積固有抵抗率が上記範囲内になるようにする。なお、ジョンセン・ラーベック型の静電チャックの載置板として使用する場合の体積固有抵抗率は、1×1011Ω・cm超1×1012Ω・cm以下の範囲内であることが好ましく、5×10Ω・cm超1×1011Ω・cm以下の範囲内であることがより好ましい。
一方、本発明のアルミナ焼結体は、ジョンセン・ラーベック型の静電チャックの載置板以外の用途、例えば半導体製造装置において静電気を除去するための部材として使用することもできる。このような用途においても低抵抗化が必要であり、具体的には体積固有抵抗率が1012Ω・cm以下であることが好ましい。なお、体積固有抵抗率の下限値については特に限定されないが、本発明のアルミナ焼結体においてはAlの含有率が85質量%以上であり、また、低抵抗化に寄与するFe、Ti、Si及びYの含有率の上限値も規定されていることから、体積固有抵抗率の下限値は自ずと決まる。具体的には、10Ω・cm程度が下限値となる。
【実施例
【0024】
アルミナ原料、酸化鉄原料、酸化チタン原料、シリカ原料、イットリア原料、ジルコニア原料及びその他原料を表1に示す各例の酸化物換算値の含有率となるように配合して配合物を得、各例の配合物をそれぞれ混合、成形、焼成して、各例のアルミナ焼結体を得た。得られたアルミナ焼結体について、FeTiOの有無、体積固有抵抗率、色調判定、ビッカース硬度の評価を行った。ここで、上記の「その他原料」とはCr、Mn、Co及びNiのうち少なくとも1種を含む原料であり、実施例11にのみ使用した。また、焼成は大気雰囲気下で1350~1450℃の温度範囲にて行った。
【0025】
各評価項目の評価方法は以下の通りである。
FeTiOの有無はCu-Kα線による粉末X線回折によりFeTiOのピークを確認することで評価した。
体積固有抵抗率は三端子法で測定した(印加電圧1000V、室温)。評価は、体積固有抵抗率が5×10Ω・cm超1×1011Ω・cm以下を◎(優)、1×1011Ω・cm超1×1012Ω・cm以下を○(良)、1×1012Ω・cm超を×(不良)とした。
色調判定は目視にて行った。
ビッカース硬度は、JIS Z2244に基づき測定した(加圧力1kgf)。評価は、ビッカース硬度(HV)が1350以上を○(良)、1350未満を×(不良)とした。
【0026】
【表1】
【0027】
表1中、実施例1~12はいずれも本発明の範囲内にあるアルミナ焼結体であり、良好な評価結果が得られた。なかでも本発明の好ましい範囲内にある実施例9~11では、特に良好な評価結果が得られた。なお、表1の評価には表れていないが、実施例1~12のうち、Alの含有率が90質量%以上である実施例1、3、9~11は、他の実施例に比べてビッカース硬度が高い傾向にあった。
【0028】
比較例1はFeを含有しない例であり、FeTiOが生成されず色調が白色のままであると共に、低抵抗化が不十分であった。一方、比較例2はFeの含有率が本発明の上限値を上回る例であり、十分な硬度が得られなかった。
【0029】
比較例3はTiを含有しない例であり、FeTiOが生成されず色調が白色のままであると共に、低抵抗化が不十分であった。一方、比較例4はTiの含有率が本発明の上限値を上回る例であり、十分な硬度が得られなかった。
【0030】
比較例5はSiを含有しない例であり、低抵抗化が不十分であった。一方、比較例6はSiの含有率が本発明の上限値を上回る例であり、十分な硬度が得られなかった。
【0031】
比較例7はYを含有しない例であり、低抵抗化が不十分であった。一方、比較例8はYの含有率が本発明の上限値を上回る例であり、黒色系化が不十分であると共に、十分な硬度が得られなかった。
【符号の説明】
【0032】
1 載置板
2 基板
3 内部電極
4 給電部
【要約】
【課題】大気雰囲気下で焼成可能で、生体及び環境負荷の高い元素を実質的に含まず、黒色又は濃灰色を呈し、かつ低抵抗なアルミナ焼結体及びそのアルミナ焼結体を用いた静電チャックを提供する。
【解決手段】Alの含有率が85質量%以上であるアルミナ焼結体であって、FeをFe換算で0.7質量%以上6.6質量%以下、TiをTiO換算で1質量%以上5質量%以下、SiをSiO換算で1質量%以上5質量%以下、YをY換算で0.1質量%以上9質量%以下含有する。このアルミナ焼結体を静電チャックにおいて載置板1に使用する。
【選択図】図1
図1