IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士特殊紙業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-密度値調整装置 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】密度値調整装置
(51)【国際特許分類】
   B41F 33/00 20060101AFI20221215BHJP
   B41F 31/02 20060101ALI20221215BHJP
   G01N 9/36 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
B41F33/00 230
B41F31/02 Z
G01N9/36 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018248159
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020104494
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000237787
【氏名又は名称】富士特殊紙業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100198797
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 裕
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 直人
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 達也
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-183211(JP,A)
【文献】特開2000-218766(JP,A)
【文献】特開平07-117233(JP,A)
【文献】特開2015-013227(JP,A)
【文献】特開2007-238756(JP,A)
【文献】特開2001-121679(JP,A)
【文献】特開平06-154570(JP,A)
【文献】特開昭59-189961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 33/00
B41F 31/02
G01N 29/024-29/036
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキを貯えたタンクと、インキを循環させるための循環用チューブポンプと、インキの密度を測定するための密度測定器と、水及びアルコールを含む溶剤を貯えた溶剤タンクと、この溶剤タンクの溶剤を前記タンクへ滴下するための溶剤滴下用チューブポンプと、前記タンク及び前記循環用チューブポンプ及び前記密度測定器を結んで前記タンク内のインキを循環させる循環用チューブと、前記タンク及び前記溶剤滴下用チューブポンプ及び前記溶剤タンクを結ぶ溶剤チューブと、前記タンク内に取り付けられた液温センサと、室内に設置された周囲温度センサと、演算制御部(CPU)を含む電気回路部と、この電気回路部と前記密度測定器及び前記溶剤滴下用チューブポンプ及び前記循環用チューブポンプ及び前記液温センサ及び前記周囲温度センサを結ぶ伝送ケーブルから構成され、
前記タンク内のインキは前記電気回路部からの電気信号を受けた前記循環用チューブポンプにより前記循環用チューブを通して前記密度測定器へ送られ、この密度測定器で測定したインキ密度値が初期インキ密度値から上昇している場合に前記インキ密度値が前記密度測定器から前記電気回路部へ伝送され、前記電気回路部で前記インキ密度値と前記液温センサから伝送された温度情報と前記周囲温度センサから伝送された温度情報に基づいて滴下する溶剤量を決定する演算が実行され、演算結果に基づく溶剤量を示す電気信号が前記電気回路部から前記溶剤滴下用チューブポンプへ伝送され、前記演算結果に基づく量の溶剤が前記溶剤滴下用チューブポンプにより前記溶剤タンクから前記溶剤チューブを通して前記タンク内へ滴下され、前記タンク内のインキの密度値は初期のインキ密度値に維持されること、を特徴とするインキ密度値調整装置。
【請求項2】
前記溶剤はアルコールの含有率が水よりも高いこと、を特徴とする請求項1に記載のインキ密度値調整装置。
【請求項3】
前記溶剤としてアルコール含有率70%~90%の水溶液を用いたこと、を特徴とする請求項1又は2に記載のインキ密度値調整装置。
【請求項4】
請求項1に係るインキに代えて接着剤溶液を貯えたタンクと、接着剤溶液を循環させるための循環用チューブポンプと、前記接着剤溶液の密度を測定するための密度測定器と、酢酸エチルを含む溶剤を貯えた溶剤タンクと、この溶剤タンクの溶剤を前記タンクへ滴下するための溶剤滴下用チューブポンプと、前記タンク及び前記循環用チューブポンプ及び前記密度測定器を結んで前記タンク内の接着剤溶液を循環させる循環用チューブと、前記タンク及び前記溶剤滴下用チューブポンプ及び前記溶剤タンクを結ぶ溶剤チューブと、前記タンク内に取り付けられた液温センサと、室内に設置された周囲温度センサと、演算制御部(CPU)を含む電気回路部と、この電気回路部と前記密度測定器及び前記溶剤滴下用チューブポンプ及び前記循環用チューブポンプ及び前記液温センサ及び前記周囲温度センサを結ぶ伝送ケーブルから構成され、
前記タンク内の接着剤溶液は前記電気回路部からの電気信号を受けた前記循環用チューブポンプにより前記循環用チューブを通して前記密度測定器へ送られ、この密度測定器で測定した接着剤溶液密度値が初期接着剤溶液密度値から上昇している場合に前記接着剤溶液密度値が前記密度測定器から前記電気回路部へ伝送され、前記電気回路部で前記接着剤溶液密度値と前記液温センサから伝送された温度情報と前記周囲温度センサから伝送された温度情報に基づいて滴下する溶剤量を決定する演算が実行され、演算結果に基づく溶剤量を示す電気信号が前記電気回路部から前記溶剤滴下用チューブポンプへ伝送され、前記演算結果に基づく量の溶剤が前記溶剤滴下用チューブポンプにより前記溶剤タンクから前記溶剤チューブを通して前記タンク内へ滴下され、前記タンク内の接着剤溶液の密度値は初期の接着剤溶液密度値に維持されること、を特徴とする接着剤溶液密度値調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の密度測定器を用いたインキや接着剤溶液の密度値調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インキに用いる溶剤としては油性溶剤が主流であったが、近年では環境負荷等の問題から水性溶剤へと移行している。
【0003】
また、接着剤溶液では、従来よりも溶剤配合比を小さくする、もしくは配合比率を狭い範囲で管理することで、より高い性能を発揮するものが使われるようになってきている。
【0004】
そして、これらインキ及び接着剤溶液の性状管理については、ザーンカップによる人為的な粘度管理や粘度コントローラーにより粘性の安定化を図ることが一般的に行われている。
【0005】
しかし、水性インキでは溶剤成分が水とアルコール類となることで両者の揮発性の差が大きく、また経時や温度などの外部要因によって溶剤中の成分比が変動するため、粘度のみによる管理では成分比の変動を常時把握することは困難である。
【0006】
また、接着剤においても、経時や温度などの外部要因によって接着剤溶液の密度が変化するため、粘度管理のみでは固形分と溶剤比率を安定させて接着剤の性能を維持することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-013227
【文献】特開2007-238756
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は経時や温度などの外部要因によって変化するインキ及び接着剤溶液の濃度を密度値により常時測定し、初期濃度に調整する装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、インキ密度値調整装置において、インキを貯えたタンクと、インキを循環させるための循環用チューブポンプと、インキの密度を測定するための密度測定器と、水及びアルコールを含む溶剤を貯えた溶剤タンクと、この溶剤タンクの溶剤を前記タンクへ滴下するための溶剤滴下用チューブポンプと、前記タンク及び前記循環用チューブポンプ及び前記密度測定器を結んで前記タンク内のインキを循環させる循環用チューブと、前記タンク及び前記溶剤滴下用チューブポンプ及び前記溶剤タンクを結ぶ溶剤チューブと、前記タンク内に取り付けられた液温センサと、室内に設置された周囲温度センサと、演算制御部(CPU)を含む電気回路部と、この電気回路部と密度測定器及び溶剤滴下用チューブポンプ及び循環用チューブポンプ及び液温センサ及び周囲温度センサを結ぶ伝送ケーブルから構成され、前記タンク内のインキは電気回路部からの電気信号を受けた前記循環用チューブポンプにより前記循環用チューブを通して前記密度測定器へ送られ、この密度測定器で測定したインキ密度値が初期のインキ密度値から上昇している場合に前記インキ密度値が密度測定器から電気回路部へ伝送され、前記電気回路部で前記インキ密度値と液温センサから伝送された温度情報と周囲温度センサから伝送された温度情報に基づいて滴下する溶剤量を決定する演算が実行され、前記電気回路部から演算結果に基づく溶剤量を示す電気信号が前記溶剤滴下用チューブポンプへ伝送され、前記演算結果に基づく量の溶剤が前記溶剤滴下用チューブポンプにより前記溶剤タンクから前記溶剤チューブを通して前記タンク内へ滴下され、前記タンク内のインキの密度値は初期のインキ密度値に維持されることを特徴とするものである。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のインキ密度値調整装置において、前記溶剤はアルコールの含有率が水よりも高いことを特徴とするものである。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載のインキ密度値調整装置において、前記溶剤として、アルコール含有率70%~90%の水溶液を用いたことを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、接着剤溶液密度値調整装置において、請求項1に係るインキに代えて接着剤溶液を貯えたタンクと、前記接着剤溶液を循環させるための循環用チューブポンプと、前記接着剤溶液の密度を測定するための密度測定器と、酢酸エチルを含む溶剤を貯えた溶剤タンクと、この溶剤タンクの溶剤を前記タンクへ滴下するための溶剤滴下用チューブポンプと、前記タンク及び前記循環用チューブポンプ及び前記密度測定器を結んで前記タンク内の接着剤溶液を循環させる循環用チューブと、前記タンク及び前記溶剤滴下用チューブポンプ及び前記溶剤タンクを結ぶ溶剤チューブと、前記タンク内に取り付けられた液温センサと、室内に設置された周囲温度センサと、演算制御部(CPU)を含む電気回路部と、この電気回路部と密度測定器及び溶剤滴下用チューブポンプ及び循環用チューブポンプ及び液温センサ及び周囲温度センサを結ぶ伝送ケーブルから構成され、前記タンク内の接着剤溶液は電気回路部からの電気信号を受けた前記循環用チューブポンプにより前記循環用チューブを通して前記密度測定器へ送られ、この密度測定器で測定した接着剤溶液密度値が初期の接着剤溶液密度値から上昇している場合に前記測定値情報が密度測定器から電気回路部へ伝送され、前記電気回路部で前記測定値情報と液温センサから伝送された温度情報と周囲温度センサから伝送された温度情報に基づいて滴下する溶剤量を決定する演算が実行され、前記電気回路部から演算結果に基づく溶剤量を示す電気信号が前記溶剤滴下用チューブポンプへ伝送され、前記演算結果に基づく量の溶剤が前記溶剤滴下用チューブポンプにより前記溶剤タンクから前記溶剤チューブを通して前記タンク内へ滴下され、前記タンク内の接着剤溶液の密度値は初期の接着剤溶液密度値に維持されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1~3に係る発明によると、経時や温度などの外部要因によって変化するインキの密度値を常時測定し、その密度値に変化が生じた場合に、水とアルコール混合液(溶剤)の滴下及び密度値測定を繰り返し行い、初期のインキ密度値を維持することで、安定した水性グラビア印刷を行えるようになる。
【0014】
また、請求項4に係る発明によると、経時や温度などの外部要因によって変化する固形分10%以下の接着剤溶液の密度値を常時測定し、その密度値に変化が生じた場合に、溶剤の滴下及び密度値測定を繰り返し行い、初期の接着剤溶液密度値を維持することで、安定した固形分の接着剤溶液の塗布が行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】密度値調整装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、表及び図に基づいて本発明の実施例を説明する。
なお、本実施例はインキを使用する場合のものであるが、インキに代えて接着剤溶液を使用する場合は滴下する溶剤として酢酸エチルを含む溶剤を用いることで対応でき、本装置における各構成の作用はインキを使用する場合と略同様である。
【実施例1】
【0017】
図1に示すように、本願に係るインキ配合比維持管理装置は、インキを貯えたタンク6と、インキを循環させるための循環用チューブポンプ2と、インキの密度値を測定するための密度測定器3と、水及びアルコールを含む溶剤を貯えた溶剤タンク5と、この溶剤タンク5の溶剤をタンク6へ滴下するための溶剤滴下用チューブポンプ1と、タンク6及び循環用チューブポンプ2及び密度測定器3を結ぶ循環チューブ9と、タンク6及び溶剤滴下用チューブポンプ1及び溶剤タンク5を結ぶ溶剤チューブ10と、タンク6内に取り付けられた液温センサ7と、室内に設置された周囲温度センサ8と、演算制御部(CPU)を含む電気回路部4と、電気回路部4と密度測定器3,溶剤滴下用チューブポンプ1,循環用チューブポンプ2,液温センサ7,周囲温度センサ8を結ぶ伝送ケーブル11から構成されている。
【0018】
そして、表2に示すように、インキの温度が低下するにつれてインキ密度は上昇することから、本装置の作用は次のようになる。
【0019】
タンク6内に貯留された濃度59%の墨色インキ850g(初期インキ密度値:1000kg/m)は、電気回路部4からの電気信号を受けた循環用チューブポンプ2により循環チューブ9を通して密度測定器3へ送られ、密度測定器3で振動が与えられることによりインキ密度値が測定(インキ密度値:1001kg/m)された後、循環チューブ9を通してタンク6に戻り、これを繰り返すことにより本装置内で循環される。
【0020】
そして、密度測定器3における測定値(インキ密度値:1001kg/m)が初期インキ密度値(1000kg/m)から上昇していると、この測定値情報が密度測定器3から電気回路部4へ伝送される。
【0021】
次に、電気回路部4は、密度測定器3から伝送された測定値情報と液温センサ7から伝送された温度情報(インキ温度:26度)と周囲温度センサ8から伝送された温度情報(気温:25度)に基づいて演算を実行する。
【0022】
そして、電気回路部4の演算結果により滴下する溶剤量(10g)が決定され、溶剤量を示す電気信号が電気回路部4から溶剤滴下用チューブポンプ1へ伝送される。
【0023】
次に、溶剤量を示す電気信号を受けた溶剤滴下用チューブポンプ1により溶剤タンク5内の溶剤(溶剤量:10g)は溶剤チューブ10を通してタンク6内へ滴下されてタンク6内のインキ(インキ密度値:1001kg/m)が希釈され、タンク6内のインキの密度は初期の密度(インキ密度値:1000kg/m)に維持される。
【0024】
なお、本実施例に係る溶剤に含まれる水:アルコールの比率は4:6から5:5であり、水よりもアルコールの比率が高いのが一般的である。
また、経時的に水性インキは水よりもアルコールの方が揮発性が高いため、水:アルコールの比率を3:7から1:9とした溶剤が用いられる場合もある。
【0025】
以下の条件によりインキ濃度と密度値測定によって得られた結果を表1~4に示す。
【0026】
〈原料〉
・水性インキ:東洋インキ株式会社製 JW303アクワエコール 23黄、121
紅、39藍、92墨
・水性インキ希釈溶剤:東洋インキ株式会社製 AQ682溶剤N
・AC剤:三井化学株式会社製 タケラック A-3210、タケネート A-
3075
・AC剤希釈溶剤:東洋インキ株式会社製 酢酸エチル
〈密度測定〉
・Anton-Paar社製 L-Dens3300密度センサを使用してインキの密度
を測定する。
インキ原液500gに希釈溶剤を加えて攪拌しながら、チューブポンプを使用して、イ
ンキを密度センサに常時注入し、密度が安定した時の測定値を読み取る。
〈温度測定〉
・2本の熱電対を使用して1本は周囲温度を、もう1本はインキ中に入れて液中温度を測
定する。
【0027】
表1は黄色、赤色、藍色、墨色の各インキのインキ濃度の上昇にともなうインキ密度の変化を測定した結果を示す表である。
【表1】
【0028】
表2は濃度81%、濃度67%、濃度46%の墨色インキの温度上昇にともなうインキ密度の変化を測定した結果を示す表である。
【表2】
【0029】
表3は濃度5%、濃度7%、濃度10%の各AC(アンカーコート)剤の温度上昇にともなう各AC剤密度の変化を測定した結果を示す表である。
【表3】
【0030】
表4はAC(アンカーコート)剤の濃度上昇にともなうAC剤密度の変化を測定した結果を示す表である。
【表4】
【符号の説明】
【0031】
1 溶剤滴下用チューブポンプ
2 循環用チューブポンプ
3 密度測定器
4 電気回路部
5 滴下溶剤
6 インキ・接着剤タンク
7 液温センサ
8 周囲温度センサ
9 循環チューブ
10 溶剤チューブ
11 伝送ケーブル
図1