(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 23/12 20060101AFI20221215BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20221215BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20221215BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20221215BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20221215BHJP
B62D 137/00 20060101ALN20221215BHJP
【FI】
H02P23/12
B62D6/00
B62D5/04
B62D119:00
B62D101:00
B62D137:00
(21)【出願番号】P 2018074100
(22)【出願日】2018-04-06
【審査請求日】2021-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2017079970
(32)【優先日】2017-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲出 知弘
(72)【発明者】
【氏名】ロバート フックス
(72)【発明者】
【氏名】大野 真
(72)【発明者】
【氏名】東 真康
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特許第5871001(JP,B2)
【文献】国際公開第2016/088718(WO,A1)
【文献】特開2013-128387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 23/12
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00
B62D 119/00
B62D 137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントを駆動するための電動モータを制御するモータ制御装置であって、
前記電動モータの回転角を検出する回転角検出手段と、
前記電動モータのモータトルクの目標値である目標モータトルクを設定する目標モータトルク設定手段と、
前記目標モータトルク設定手段によって設定された目標モータトルクに基づいて前記電動モータのモータトルクをフィードバック制御する制御手段とを含み、
前記目標モータトルク設定手段は、
基本目標トルクを設定する基本目標トルク設定手段と、
前記目標モータトルク設定手段によって設定される目標モータトルクまたは前記電動モータが発生しているモータトルクと、前記回転角検出手段によって検出される回転角とに基づいて、前記プラントに作用する前記電動モータのモータトルク以外の外乱トルクを推定する外乱オブザーバと、
前記基本目標トルク設定手段によって設定された基本目標トルクを、前記外乱オブザーバによって推定された前記外乱トルクによって補正する外乱トルク補償手段と、
前記外乱トルク補償手段による補正後の基本目標トルクに基づいて、前記目標モータトルクを演算する目標モータトルク演算手段とを含
み、
前記電動モータは、車両のステアリングシステム制御に用いられる電動モータである、
モータ制御装置。
【請求項2】
前記外乱オブザーバは、前記目標モータトルク設定手段によって設定される目標モータトルクまたは前記電動モータが発生しているモータトルクと、前記回転角検出手段によって検出される回転角とに基づいて、前記外乱トルクおよび前記プラントの回転角を推定するように構成されており、
前記基本目標トルク設定手段は、
前記プラントの回転角の目標値である目標回転角と、前記外乱オブザーバによって推定される前記プラントの回転角との差を演算する角度偏差演算手段と、
前記角度偏差演算手段によって演算される角度偏差に対して所定のフィードバック演算を行うことにより、前記基本目標トルクを演算する基本目標トルク演算手段とを含む、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記外乱オブザーバは、前記目標モータトルク設定手段によって設定される目標モータトルクまたは前記電動モータが発生しているモータトルクと、前記回転角検出手段によって検出される回転角とに基づいて、前記外乱トルクおよび前記プラントの回転角を推定するように構成されており、
前記基本目標トルク設定手段は、
前記プラントの回転角の目標値である目標回転角と、前記外乱オブザーバによって推定される前記プラントの回転角との差を演算する角度偏差演算手段と、
前記角度偏差演算手段によって演算される角度偏差に対して所定のフィードバック演算を行うことにより、フィードバック制御トルクを演算するフィードバック制御トルク演算手段と、
前記目標回転角の二階微分値に前記プラントの慣性モーメントを乗算することにより、フィードフォワード制御トルクを演算するフィードフォワード制御トルク演算手段と、
前記フィードバック制御トルクに前記フィードフォワード制御トルクを加算することによって、前記基本目標トルクを演算する基本目標トルク演算手段とを含む、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記基本目標トルク設定手段は、
前記プラントの回転角の目標値である目標回転角と、前記回転角検出手段によって検出される回転角から演算される前記プラントの回転角との差を演算する角度偏差演算手段と、
前記角度偏差演算手段によって演算される角度偏差に対して所定のフィードバック演算を行うことにより、前記基本目標トルクを演算する基本目標トルク演算手段とを含む、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記基本目標トルク設定手段は、
前記プラントの回転角の目標値である目標回転角と、前記回転角検出手段によって検出される回転角から演算される前記プラントの回転角との差を演算する角度偏差演算手段と、
前記角度偏差演算手段によって演算される角度偏差に対して所定のフィードバック演算を行うことにより、フィードバック制御トルクを演算するフィードバック制御トルク演算手段と、
前記目標回転角の二階微分値に前記プラントの慣性モーメントを乗算することにより、フィードフォワード制御トルクを演算するフィードフォワード制御トルク演算手段と、
前記フィードバック制御トルクに前記フィードフォワード制御トルクを加算することによって、前記基本目標トルクを演算する基本目標トルク演算手段とを含む、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
ステアリングホイールにトーションバーを介して連結されたステアリングコラムに、操舵力を付与する電動モータを制御するモータ制御装置であって、
前記電動モータの回転角を検出する回転角検出手段と、
前記電動モータのモータトルクの目標値である目標モータトルクを設定する目標モータトルク設定手段と、
前記目標モータトルクに基づいて前記電動モータのモータトルクをフィードバック制御する制御手段とを含み、
前記目標モータトルク設定手段は、
基本目標トルクを設定する基本目標トルク設定手段と、
前記目標モータトルクまたは前記電動モータが発生しているモータトルクと、前記回転角とに基づいて、前記ステアリングコラムに作用する前記電動モータのモータトルク以外の外乱トルクを推定する外乱オブザーバと、
前記ステアリングホイールの振動を抑制するための制振トルクを演算する制振トルク演算手段と、
前記基本目標トルク設定手段によって設定された基本目標トルクを、前記外乱トルクおよび前記制振トルクによって補正する補正手段と、
前記補正手段による補正後の基本目標トルクに基づいて、前記目標モータトルクを演算する目標モータトルク演算手段とを含む、モータ制御装置。
【請求項7】
前記ステアリングホイールに加えられる操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段を含み、
前記制振トルク演算手段は、前記操舵トルクに所定の制振ゲインを乗算することによって、制振トルクを演算するように構成されており、
前記基本目標トルク設定手段は、
前記ステアリングコラムの回転角の目標値である目標回転角と、前記外乱オブザーバによって推定される前記ステアリングコラムの回転角または前記回転角検出手段によって検出される回転角から演算される前記ステアリングコラムの回転角との差を演算する角度偏差演算手段と、
前記角度偏差演算手段によって演算される角度偏差に対して比例微分演算を行うことにより、フィードバック制御トルクを演算するフィードバック制御トルク演算手段とを含む、請求項
6に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記比例微分演算に用いられる比例ゲインおよび微分ゲインをそれぞれK
PおよびK
Dとし、前記制振ゲインをK
Rとし、前記トーションバーの剛性をK
tbとし、前記ステアリングホイールの慣性をJ
SWとし、前記ステアリングホイールおよび前記ステアリングコラムの反共振周波数ωaを次式(a)で表すと、
前記比例ゲインK
P、前記微分ゲインK
Dおよび前記制振ゲインK
Rは、次式(b)~(d)で表される、請求項
7に記載のモータ制御装置。
ωa={K
tb・(1/J
SW)}
1/2 …(a)
K
P=ωa
2 …(b)
K
D=4ωa …(c)
K
R=4/J
SW …(d)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、自動運転システム、運転支援システム、ステアバイワイヤシステム、後輪操舵システム等におけるステアリングシステム制御に用いられる電動モータ、さらにはこれらのステアリングシステムの転舵角制御用の電動モータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動運転システム、運転支援システム、ステアバイワイヤシステム、後輪操舵システム等においては、電動モータによって転舵輪の転舵角が制御されている。この種のモータ制御には、目標転舵角と実転舵角との差に応じて、電動モータのモータトルクを制御する舵角フィードバック制御が用いられている。舵角フィードバック制御としては、一般的には、PID制御が用いられる。具体的には、目標転舵角と実転舵角との差の項、当該差の積分項および当該差の微分項にそれぞれ比例ゲイン、積分ゲインおよび微分ゲインが乗算された後、それらの項が加算されることにより目標トルクが演算される。そして、モータトルクが、目標トルクと等しくなるように電動モータが制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のPID制御は、線形な制御アルゴリズムであるため、路面反力トルク(ラック軸側外乱トルク)、ステアリングシステムの摩擦トルク、ステアリング側外乱トルク等の非線形な外乱トルクの変動によって、転舵角制御精度の低下やばらつきが発生する。
この発明の目的は、外乱トルクを補償でき、精度の高いモータ制御が行えるモータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、プラントを駆動するための電動モータ(18)を制御するモータ制御装置であって、前記電動モータの回転角を検出する回転角検出手段(23)と、前記電動モータのモータトルクの目標値である目標モータトルクを設定する目標モータトルク設定手段(42;153)と、前記目標モータトルク設定手段によって設定された目標モータトルクに基づいて前記電動モータのモータトルクをフィードバック制御する制御手段(45,46)とを含み、前記目標モータトルク設定手段は、基本目標トルクを設定する基本目標トルク設定手段(62;62 and 63)と、前記目標モータトルク設定手段によって設定される目標モータトルクまたは前記電動モータが発生しているモータトルクと、前記回転角検出手段によって検出される回転角とに基づいて、前記プラントに作用する前記電動モータのモータトルク以外の外乱トルクを推定する外乱オブザーバ(64)と、前記基本目標トルク設定手段によって設定された基本目標トルクを、前記外乱オブザーバによって推定された前記外乱トルクによって補正する外乱トルク補償手段(65)と、前記外乱トルク補償手段による補正後の基本目標トルクに基づいて、前記目標モータトルクを演算する目標モータトルク演算手段とを含む、モータ制御装置である。なお、括弧内の英数字は後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、むろん、この発明の範囲は当該実施形態に限定されない。
【0006】
この構成によれば、外乱トルクを補償できるので、精度の高いモータ制御が行えるようになる。
請求項2に記載の発明は、前記外乱オブザーバは、前記目標モータトルク設定手段によって設定される目標モータトルクまたは前記電動モータが発生しているモータトルクと、前記回転角検出手段によって検出される回転角(θm)とに基づいて、前記外乱トルク(^Tld)および前記プラントの回転角(^θ)を推定するように構成されており、前記基本目標トルク設定手段は、前記プラントの回転角の目標値である目標回転角(θcmd)と、前記外乱オブザーバによって推定される前記プラントの回転角(^θ)との差を演算する角度偏差演算手段(62A)と、前記角度偏差演算手段によって演算される角度偏差に対して所定のフィードバック演算を行うことにより、前記基本目標トルク(Tfb)を演算する基本目標トルク演算手段(62B)とを含む、請求項1に記載のモータ制御装置である。
【0007】
請求項3に記載の発明は、前記外乱オブザーバは、前記目標モータトルク設定手段によって設定される目標モータトルクまたは前記電動モータが発生しているモータトルクと、前記回転角検出手段によって検出される回転角(θm)とに基づいて、前記外乱トルク(^Tld)および前記プラントの回転角(^θ)を推定するように構成されており、前記基本目標トルク設定手段は、前記プラントの回転角の目標値である目標回転角(θcmd)と、前記外乱オブザーバによって推定される前記プラントの回転角(^θ)との差を演算する角度偏差演算手段(62A)と、前記角度偏差演算手段によって演算される角度偏差に対して所定のフィードバック演算を行うことにより、フィードバック制御トルク(Tfb)を演算するフィードバック制御トルク演算手段(62B)と、前記目標回転角の二階微分値に前記プラントの慣性モーメントを乗算することにより、フィードフォワード制御トルク(Tff)を演算するフィードフォワード制御トルク演算手段(63)と、前記フィードバック制御トルクに前記フィードフォワード制御トルクを加算することによって、前記基本目標トルクを演算する基本目標トルク演算手段(65)とを含む、請求項1に記載のモータ制御装置である。
【0008】
請求項4に記載の発明は、前記基本目標トルク設定手段は、前記プラントの回転角の目標値である目標回転角(θcmd)と、前記回転角検出手段によって検出される回転角から演算される前記プラントの回転角(θ)との差を演算する角度偏差演算手段と、前記角度偏差演算手段によって演算される角度偏差に対して所定のフィードバック演算を行うことにより、前記基本目標トルクを演算する基本目標トルク演算手段とを含む、請求項1に記載のモータ制御装置である。
【0009】
請求項5に記載の発明は、前記基本目標トルク設定手段は、前記プラントの回転角の目標値である目標回転角(θcmd)と、前記回転角検出手段によって検出される回転角(θ)から演算される前記プラントの回転角との差を演算する角度偏差演算手段と、前記角度偏差演算手段によって演算される角度偏差に対して所定のフィードバック演算を行うことにより、フィードバック制御トルクを演算するフィードバック制御トルク演算手段と、前記目標回転角の二階微分値に前記プラントの慣性モーメントを乗算することにより、フィードフォワード制御トルクを演算するフィードフォワード制御トルク演算手段と、前記フィードバック制御トルクに前記フィードフォワード制御トルクを加算することによって、前記基本目標トルクを演算する基本目標トルク演算手段とを含む、請求項1に記載のモータ制御装置である。
【0010】
請求項6に記載の発明は、前記電動モータは、車両のステアリングシステム制御に用いられる電動モータである、請求項1~5のいずれか一項に記載のモータ制御装置である。
請求項7に記載の発明は、ステアリングホイール(2)にトーションバー(10)を介して連結されたステアリングコラム(9,21)に、操舵力を付与する電動モータ(18)を制御するモータ制御装置であって、前記電動モータの回転角を検出する回転角検出手段(23)と、前記電動モータのモータトルクの目標値である目標モータトルクを設定する目標モータトルク設定手段(42A)と、前記目標モータトルクに基づいて前記電動モータのモータトルクをフィードバック制御する制御手段(45,46)とを含み、前記目標モータトルク設定手段は、基本目標トルクを設定する基本目標トルク設定手段(62;62 and 63)と、前記目標モータトルクまたは前記電動モータが発生しているモータトルクと、前記回転角とに基づいて、前記ステアリングコラムに作用する前記電動モータのモータトルク以外の外乱トルクを推定する外乱オブザーバ(64)と、前記ステアリングホイールの振動を抑制するための制振トルクを演算する制振トルク演算手段(160,161)と、前記基本目標トルク設定手段によって設定された基本目標トルクを、前記外乱トルクおよび前記制振トルクによって補正する補正手段(65)と、前記補正手段による補正後の基本目標トルクに基づいて、前記目標モータトルクを演算する目標モータトルク演算手段とを含む、モータ制御装置である。
【0011】
この構成によれば、外乱トルクを補償できるので、精度の高いモータ制御が行えるようになる。また、この構成によれば、自動操舵時等においてステアリングホイールの慣性とトーションバーにより発生する捩り振動を抑制することが可能となる。
請求項8に記載の発明は、前記ステアリングホイールに加えられる操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段(12)を含み、前記制振トルク演算手段は、前記操舵トルクに所定の制振ゲインを乗算することによって、制振トルクを演算するように構成されており、前記基本目標トルク設定手段は、前記ステアリングコラムの回転角の目標値である目標回転角と、前記外乱オブザーバによって推定される前記ステアリングコラムの回転角または前記回転角検出手段によって検出される回転角から演算される前記ステアリングコラムの回転角との差を演算する角度偏差演算手段(62A)と、前記角度偏差演算手段によって演算される角度偏差に対して比例微分演算を行うことにより、フィードバック制御トルクを演算するフィードバック制御トルク演算手段(62)とを含む、請求項7に記載のモータ制御装置である。
【0012】
請求項9に記載の発明は、前記比例微分演算に用いられる比例ゲインおよび微分ゲインをそれぞれKPおよびKDとし、前記制振ゲインをKRとし、前記トーションバーの剛性をKtbとし、前記ステアリングホイールの慣性をJSWとし、前記ステアリングホイールおよび前記ステアリングコラムの反共振周波数ωaを次式(a)で表すと、前記比例ゲインKP、前記微分ゲインKDおよび前記制振ゲインKRは、次式(b)~(d)で表される、請求項8に記載のモータ制御装置である。
【0013】
ωa={Ktb・(1/JSW)}1/2 …(a)
KP=ωa2 …(b)
KD=4ωa …(c)
KR=4/JSW …(d)
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るモータ制御装置が適用された電動パワーステアリングシステムの概略構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、ECUの電気的構成を説明するためのブロック図である。
【
図3】
図3は、目標自動操舵トルク設定部の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、電動パワーステアリングシステムの物理モデルの構成例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、外乱トルク推定部の構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、デュアルピニオンタイプの電動パワーステアリングシステムの概略構成を示す模式図である。
【
図7】
図7は、ステアバイワイヤシステムの概略構成を示す模式図である。
【
図8】
図8は、転舵モータの制御回路の構成を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、
図3に示される目標自動操舵トルク設定部の変形例を示すブロック図である。
【
図10】
図10Aは、外乱トルク補償部導入後の外乱トルクに依存しない2慣性のモデルであって、制振トルクがフィードバックされるモデルを示す模式図であり、
図10Bは、
図10Aと等価なモデルを示す模式図である。
【
図11】
図11は、自動運転モード時の電動パワーステアリングシステムのフィードバック制御系の構成を示す制御ブロック図であり、
図10と等価な制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るモータ制御装置が適用された電動パワーステアリングシステムの概略構成を示す模式図である。
この電動パワーステアリングシステム(EPS:electric power steering)1は、コラム部に電動モータと減速機とが配置されているコラムタイプEPSである。
【0016】
電動パワーステアリングシステム1は、車両を操向するための操舵部材としてのステアリングホイール(ハンドル)2と、このステアリングホイール2の回転に連動して転舵輪3を転舵する転舵機構4と、運転者の操舵を補助するための操舵補助機構5とを備えている。ステアリングホイール2と転舵機構4とは、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して機械的に連結されている。
【0017】
ステアリングシャフト6は、ステアリングホイール2に連結された入力軸8と、中間軸7に連結された出力軸9とを含む。入力軸8と出力軸9とは、トーションバー10を介して相対回転可能に連結されている。
トーションバー10の近傍には、トルクセンサ12が配置されている。トルクセンサ12は、入力軸8および出力軸9の相対回転変位量に基づいて、ステアリングホイール2に加えられるステアリング側外乱トルクTdを検出する。この実施形態では、トルクセンサ12によって検出されるステアリング側外乱トルクTdは、例えば、左方向への操舵のためのトルクが正の値として検出され、右方向への操舵のためのトルクが負の値として検出され、その絶対値が大きいほどステアリング側外乱トルクの大きさが大きくなるものとする。
【0018】
転舵機構4は、ピニオン軸13と、転舵軸としてのラック軸14とを含むラックアンドピニオン機構からなる。ラック軸14の各端部には、タイロッド15およびナックルアーム(図示略)を介して転舵輪3が連結されている。ピニオン軸13は、中間軸7に連結されている。ピニオン軸13は、ステアリングホイール2の操舵に連動して回転するようになっている。ピニオン軸13の先端には、ピニオン16が連結されている。
【0019】
ラック軸14は、車両の左右方向に沿って直線状に延びている。ラック軸14の軸方向の中間部には、ピニオン16に噛み合うラック17が形成されている。このピニオン16およびラック17によって、ピニオン軸13の回転がラック軸14の軸方向移動に変換される。ラック軸14を軸方向に移動させることによって、転舵輪3を転舵することができる。
【0020】
ステアリングホイール2が操舵(回転)されると、この回転が、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して、ピニオン軸13に伝達される。そして、ピニオン軸13の回転は、ピニオン16およびラック17によって、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。
操舵補助機構5は、操舵補助力(アシストトルク)を発生するための電動モータ18と、電動モータ18の出力トルクを増幅して転舵機構4に伝達するための減速機19とを含む。減速機19は、ウォームギヤ20と、このウォームギヤ20と噛み合うウォームホイール21とを含むウォームギヤ機構からなる。減速機19は、伝達機構ハウジングとしてのギヤハウジング22内に収容されている。
【0021】
ウォームギヤ20は、電動モータ18によって回転駆動される。また、ウォームホイール21は、出力軸9に一体回転可能に連結されている。ウォームホイール21は、ウォームギヤ20によって回転駆動される。
電動モータ18によってウォームギヤ20が回転駆動されると、ウォームホイール21が回転駆動され、ステアリングシャフト6にモータトルクが付与されるとともにステアリングシャフト6(出力軸9)が回転する。そして、ステアリングシャフト6の回転は、中間軸7を介してピニオン軸13に伝達される。ピニオン軸13の回転は、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。すなわち、電動モータ18によってウォームギヤ20を回転駆動することによって、電動モータ18による操舵補助や転舵輪3の転舵が可能となる。電動モータ18には、電動モータ18のロータの回転角を検出するための回転角センサ23が設けられている。
【0022】
減速機19に加えられるトルクとしては、電動モータ18によるモータトルクと、モータトルク以外の外乱トルクとがある。モータトルク以外の外乱トルクTldには、ステアリング側外乱トルクTdと、路面反力トルク(ラック軸側外乱トルク)Tlsと、減速機19に発生する摩擦トルクTf等が含まれる。ステアリング側外乱トルクTdは、運転者によってステアリングホイール2に加えられる力、ステアリング慣性によって発生する力等によって、ステアリングホイール2側から減速機19に加えられるトルクである。路面反力トルクTlsは、タイヤに発生するセルフアライニングトルク、サスペンションやタイヤホイールアライメントによって発生する力、ラックアンドピニオン機構の摩擦力等によって、転舵輪3側からラック軸14を介して減速機19に加えられるトルクである。
【0023】
車両には、車速Vを検出するための車速センサ24、車両の進行方向前方の道路を撮影するCCD(Charge Coupled Device)カメラ25、自車位置を検出するためのGPS(Global Positioning System)26および道路形状や障害物を検出するためのレーダー27が搭載されている。車両には、さらに、地図情報を記憶した地図情報メモリ28および自動操舵モードの設定およびその解除を行うための自動操舵モードスイッチ29が搭載されている。
【0024】
CCDカメラ25、GPS26、レーダー27、地図情報メモリ28および自動操舵モードスイッチ29は、自動支援制御や自動運転制御を行うための自動運転制御用ECU(ECU:Electronic Control Unit)201に接続されている。自動運転制御用ECU201は、CCDカメラ25、GPS26およびレーダー27によって得られる情報および地図情報を元に、周辺環境認識、自車位置推定、経路計画等を行い、操舵や駆動アクチュエータの制御目標値の決定を行う。また、自動運転制御用ECU201は、自動操舵モードスイッチ29からの入力信号に基づいて、自動操舵モードの設定および解除を指示する。
【0025】
この実施形態では、自動運転制御用ECU201は、自動操舵のための目標舵角θcmdaを設定するとともに、自動操舵モードスイッチ29の操作に応じたモード切替信号(自動操舵モード設定信号または自動操舵モード解除信号)を生成する。この実施形態では、自動操舵制御は、例えば、目標軌道に沿って車両を走行させるためのレーンキープ制御(運転支援制御の一種)である。目標舵角θcmdaは、車両を目標軌道に沿って自動走行させるための舵角(操舵角または転舵角)の目標値である。このような目標舵角θcmdaを設定する処理は、周知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0026】
自動運転制御用ECU201によって設定される目標舵角θcmdaならびに自動運転制御用ECU201によって生成されるモード切替信号は、車載ネットワークを介して、後述するステアリング制御用ECU202に与えられる。
トルクセンサ12によって検出されるステアリング側外乱トルクTd、回転角センサ23の出力信号、車速センサ24によって検出される車速Vは、ステアリング制御用ECU202に入力される。ステアリング制御用ECU202は、これらの入力信号および自動運転制御用ECU201から与えられる情報に基づいて、電動モータ18を制御する。
【0027】
ステアリング制御用ECU202は、自動運転制御用ECU201によって自動操舵モード設定信号が与えられると、自動操舵制御を行う自動制御モードに従って電動モータ18を制御する。また、自動運転制御用ECU201によって自動操舵モード解除信号が与えられると、ステアリング制御用ECU202は、自動操舵制御を解除して、手動操舵制御(アシスト制御)を行う手動操舵モード(アシスト制御モード)に従って電動モータ18を制御する。手動操舵モードとは、トルクセンサ12によって検出されるステアリング側外乱トルクTdと、車速センサ24によって検出される車速Vとに基づいて、運転者による操舵を補助するための操舵補助力(アシストトルク)を電動モータ18から発生させる制御モードである。
【0028】
なお、ステアリング制御用ECU202は、自動運転制御用ECU201からのモード切替信号に従って制御モードを切り替える他、自動操舵モード時には、運転者のステアリング操作(操舵操作)による介入動作があったときに、自動操舵モードから手動操舵モードへと制御モードを切り替える機能(オーバーライド機能)を備えている。
図2は、ステアリング制御用ECU202の電気的構成を説明するためのブロック図である。
【0029】
ステアリング制御用ECU202は、マイクロコンピュータ40と、マイクロコンピュータ40によって制御され、電動モータ18に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)31と、電動モータ18に流れる電流(以下、「モータ電流I」という)を検出するための電流検出回路32とを備えている。
マイクロコンピュータ40は、CPUおよびメモリ(ROM、RAM、不揮発性メモリなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、目標アシストトルク設定部41と、目標自動操舵トルク設定部42と、モード切替部(目標トルク切替部)43と、目標モータ電流演算部44と、電流偏差演算部45と、PI制御部46と、PWM(Pulse Width Modulation)制御部47とを含む。
【0030】
目標アシストトルク設定部41は、アシストトルクの目標値である目標アシストトルクTm1を設定する。目標アシストトルク設定部41は、トルクセンサ12によって検出されるステアリング側外乱トルクTdと車速センサ24によって検出される車速Vとに基づいて、目標アシストトルクTm1を設定する。目標アシストトルクTm1は、ステアリング側外乱トルクTdの正の値に対しては正をとり、ステアリング側外乱トルクTdの負の値に対しては負をとる。そして、目標アシストトルクTm1は、ステアリング側外乱トルクTdの絶対値が大きくなるほど、その絶対値が大きくなるように設定される。また、目標アシストトルクTm1は、車速センサ24によって検出される車速Vが大きいほど、その絶対値が小さくなるように設定される。
【0031】
目標自動操舵トルク設定部42は、自動操舵モード時における電動モータ18のモータトルクの目標値である目標自動操舵トルクTm2を設定する。目標自動操舵トルク設定部42の詳細については、後述する。
モード切替部43には、目標アシストトルクTm1と、目標自動操舵トルクTm2と、自動運転制御用ECU201からのモード切替信号と、トルクセンサ12によって検出されるステアリング側外乱トルクTdとが入力される。モード切替部43は、自動運転制御用ECU201からのモード切替信号に従って制御モードを切り替える。また、制御モードが自動操舵モードに設定されているときに、例えば、トルクセンサ12によって検出されるステアリング側外乱トルクTdの絶対値|Td|が所定のトルク閾値以上となると、モード切替部43は、制御モードを手動操舵モードに切り替える。
【0032】
制御モードが手動操舵モードに設定されているときには、モード切替部43は、目標アシストトルク設定部41によって設定される目標アシストトルクTm1を、目標モータトルクTmとして出力する。制御モードが自動操舵モードに設定されているときには、モード切替部43は、目標自動操舵トルク設定部42によって設定される目標自動操舵トルクTm2を、目標モータトルクTmとして出力する。
【0033】
目標モータ電流演算部44はモード切替部43によって設定された目標モータトルクTmを電動モータ18のトルク定数Ktで徐算することにより、目標モータ電流Icmdを演算する。
電流偏差演算部45は、目標モータ電流演算部44によって得られた目標モータ電流Icmdと電流検出回路32によって検出されたモータ電流Iとの偏差ΔI(=Icmd-I)を演算する。
【0034】
PI制御部46は、電流偏差演算部45によって演算された電流偏差ΔIに対するPI演算(比例積分演算)を行うことにより、電動モータ18に流れるモータ電流Iを目標モータ電流Icmdに導くための駆動指令値を生成する。PWM制御部47は、前記駆動指令値に対応するデューティ比のPWM制御信号を生成して、駆動回路31に供給する。これにより、駆動指令値に対応した電力が電動モータ18に供給されることになる。
【0035】
制御モードが手動操舵モードに設定されているときには、目標アシストトルクTm1が目標モータトルクTmとして設定されるので、目標アシストトルクTm1に応じたモータトルクが電動モータ18から発生するように、電動モータ18が制御される(手動操舵制御)。一方、制御モードが自動操舵モードに設定されているときには、目標自動操舵トルクTm2が目標モータトルクTmとして設定されるので、目標自動操舵トルクTm2に応じたモータトルクが電動モータ18から発生するように、電動モータ18が制御される(自動操舵制御)。
【0036】
図3は、目標自動操舵トルク設定部42の構成を示すブロック図である。
目標自動操舵トルク設定部42は、目標舵角θcmdaに基づいて目標自動操舵トルクTm2を演算する。目標自動操舵トルク設定部42は、ローパスフィルタ(LPF)61と、フィードバック制御部62と、フィードフォワード制御部63と、外乱トルク推定部64と、トルク加算部65と、第1減速比徐算部66と、減速比乗算部67と、回転角演算部68と、第2減速比徐算部69とを含む。以下において、目標自動操舵トルク設定部42によって演算される目標自動操舵トルクTm2を、説明の便宜上、「目標自動操舵トルクTm」という場合がある。
【0037】
減速比乗算部67は、第1減速比徐算部66によって演算される目標自動操舵トルクTm(Tm2)に減速機19の減速比Nを乗算することにより、目標自動操舵トルクTmを出力軸9(ウォームホイール21)に作用するトルクN・Tmに換算する。
回転角演算部68は、回転角センサ23の出力信号に基づいて、電動モータ18のロータ回転角θmを演算する。第2減速比徐算部69は、回転角演算部68によって演算されるロータ回転角θmを減速比Nで徐算することにより、ロータ回転角θmを出力軸9の回転角(実舵角)θに換算する。
図1の実施形態においては、出力軸9の回転角(操舵角)を「舵角」という。
【0038】
ローパスフィルタ61は、自動運転制御用ECU201から与えられる目標舵角θcmdaに対してローパスフィルタ処理を行う。ローパスフィルタ処理後の目標舵角θcmdは、フィードバック制御部62およびフィードフォワード制御部63に与えられる。
フィードバック制御部62は、外乱トルク推定部64によって演算される舵角推定値^θを、ローパスフィルタ処理後の目標舵角θcmdに近づけるために設けられている。フィードバック制御部62は、角度偏差演算部62AとPD制御部62Bとを含む。角度偏差演算部62Aは、ローパスフィルタ処理後の目標舵角θcmdと、外乱トルク推定部64によって演算される舵角推定値^θとの偏差Δθ(=θcmd-^θ)を演算する。なお、角度偏差演算部62Aは、ローパスフィルタ処理後の目標舵角θcmdと、第2減速比徐算部69によって演算される実舵角θとの偏差(θcmd-θ)を、角度偏差Δθとして演算するようにしてもよい。
【0039】
PD制御部62Bは、角度偏差演算部62Aによって演算される角度偏差Δθに対してPD演算(比例微分演算)を行うことにより、フィードバック制御トルクTfbを演算する。フィードバック制御トルクTfbは、トルク加算部65に与えられる。
フィードフォワード制御部63は、電動パワーステアリングシステム1の慣性による応答性の遅れを補償して、制御の応答性を向上させるために設けられている。フィードフォワード制御部63は、角加速度演算部63Aと慣性乗算部63Bとを含む。角加速度演算部63Aは、ローパスフィルタ処理後の目標舵角θcmdを2階微分することにより、目標角加速度d
2θcmd/dt
2を演算する。慣性乗算部63Bは、角加速度演算部63Aによって演算された目標角加速度d
2θcmd/dt
2に、電動パワーステアリングシステム1の慣性Jを乗算することにより、フィードフォワードトルクTff(=J・d
2θcmd/dt
2)を演算する。慣性Jは、例えば、後述する電動パワーステアリングシステム1の物理モデル(
図4参照)から求められる。フィードフォワードトルクTffは、慣性補償値として、トルク加算部65に与えられる。
【0040】
外乱トルク推定部64は、プラント(制御対象(モータ駆動対象))に外乱として発生する非線形なトルク(外乱トルク:モータトルク以外のトルク)を推定して補償するために設けられている。外乱トルク推定部64は、プラントの目標値である目標操舵トルクN・Tm(=Tcmd)と、プラントの出力である実舵角θとに基づいて、外乱トルク(外乱負荷)Tld、実舵角θおよび舵角微分値(角速度)dθ/dtを推定する。外乱トルクTld、実舵角θおよび舵角微分値(角速度)dθ/dtの推定値を、それぞれ^Tld、^θおよびd^θ/dtで表す。外乱トルク推定部64によって演算された外乱トルク推定値^Tldは、外乱トルク補償値としてトルク加算部65に与えられる。外乱トルク推定部64によって演算された舵角推定値^θは、角度偏差演算部62Aに与えられる。外乱トルク推定部64の詳細については、後述する。
【0041】
トルク加算部65は、フィードバック制御トルクTfbにフィードフォワードトルクTffを加算した値から外乱トルク推定値^Tldを減算することにより、目標操舵トルクTcmd(=Tfb+Tff-^Tld)を演算する。これにより、慣性および外乱トルクが補償された目標操舵トルク(出力軸9に対する目標トルク)が得られる。これにより、精度の高いモータ制御(舵角制御)が行われるようになる。この実施形態では、フィードバック制御トルクTfbにフィードフォワードトルクTffを加算した値が基本目標トルクとなる。
【0042】
目標操舵トルクTcmdは第1減速比徐算部66に与えられる。第1減速比徐算部66は、目標操舵トルクTcmdを減速比Nで徐算することにより、目標自動操舵トルクTm(Tm2)を演算する。この目標自動操舵トルクTm(Tm2)がモード切替部43(
図2参照)に与えられる。
外乱トルク推定部64について詳しく説明する。外乱トルク推定部64は、電動パワーステアリングシステム1の物理モデルを使用して、外乱トルク推定値^Tld、舵角推定値^θおよび角速度推定値d^θ/dtを演算する外乱オブザーバから構成されている。
【0043】
図4は、電動パワーステアリングシステム1の物理モデルの構成例を示す模式図である。
この物理モデル71は、出力軸9および出力軸9に固定されたウォームホイール21を含むステアリングコラム(プラント)72を含む。ステアリングコラム72には、ステアリングホイール2からトーションバー10を介してステアリング側外乱トルクTdが与えられるとともに、転舵輪3側から路面反力トルクTlsが与えられる。さらに、ステアリングコラム72には、ウォームギヤ20を介してモータトルクN・Tmが与えられるとともに、ウォームホイール21とウォームギヤ20との間の摩擦によって摩擦トルクTfが与えられる。
【0044】
ステアリングコラム72の慣性をJとすると、物理モデル71の慣性についての運動方程式は、次式(1)で表される。
【0045】
【0046】
d2θ/dt2は、ステアリングコラム72の加速度である。Nは、減速機19の減速比である。Tldは、ステアリングコラム72に与えられるモータトルク以外の外乱トルクを示している。ここでは、外乱トルクTldは、ステアリング側外乱トルクTd、摩擦トルクTfおよび路面反力トルクTlsの和として示されているが、実際には、外乱トルクTldはこれら以外のトルクを含んでいる。
【0047】
図4の物理モデル71に対する状態方程式は、次式(2)で表わされる。
【0048】
【0049】
前記式(2)において、xは、状態変数ベクトルである。前記式(2)において、u1は、既知入力ベクトルである。前記式(2)において、u2は、未知入力ベクトルである。前記式(2)において、yは、出力ベクトル(測定値)である。前記式(2)において、Aは、システム行列である。前記式(2)において、B1は、第1入力行列である。前記式(2)において、B2は、第2入力行列である。前記式(2)において、Cは、出力行列である。前記式(2)において、Dは、直達行列である。
【0050】
前記状態方程式を、未知入力ベクトルu2を状態の1つとして含めた系に拡張する。拡張系の状態方程式(拡張状態方程式)は、次式(3)で表される。
【0051】
【0052】
前記式(3)において、xeは、拡張系の状態変数ベクトルであり、次式(4)で表される。
【0053】
【0054】
前記式(3)において、Aeは、拡張系のシステム行列である。前記式(3)において、Beは、拡張系の既知入力行列である。前記式(3)において、Ceは、拡張系の出力行列である。
前記式(3)の拡張状態方程式から、次式(5)の方程式で表される外乱オブザーバ(拡張状態オブザーバ)が構築される。
【0055】
【0056】
式(5)において、^xeはxeの推定値を表している。また、Lはオブザーバゲインである。また、^yはyの推定値を表している。^xeは、次式(6)で表される。
【0057】
【0058】
^θはθの推定値であり、^TldはTldの推定値である。
外乱トルク推定部64は、前記式(5)の方程式に基づいて状態変数ベクトル^xeを演算する。
図5は、外乱トルク推定部64の構成を示すブロック図である。
外乱トルク推定部64は、入力ベクトル入力部81と、出力行列乗算部82と、第1加算部83と、ゲイン乗算部84と、入力行列乗算部85と、システム行列乗算部86と、第2加算部87と、積分部88と、状態変数ベクトル出力部89とを含む。
【0059】
減速比乗算部67(
図3参照)によって演算される目標操舵トルクN・Tmは、入力ベクトル入力部81に与えられる。入力ベクトル入力部81は、入力ベクトルu1を出力する。
積分部88の出力が状態変数ベクトル^xe(前記式(6)参照)となる。演算開始時には、状態変数ベクトル^xeとして初期値が与えられる。状態変数ベクトル^xeの初期値は、たとえば0である。
【0060】
システム行列乗算部86は、状態変数ベクトル^xeにシステム行列Aeを乗算する。出力行列乗算部82は、状態変数ベクトル^xeに出力行列Ceを乗算する。
第1加算部83は、第2減速比徐算部69(
図3参照)によって演算された実舵角θである出力ベクトル(測定値)yから、出力行列乗算部82の出力(Ce・^xe)を減算する。つまり、第1加算部83は、出力ベクトルyと出力ベクトル推定値^y(=Ce・^xe)との差(y-^y)を演算する。ゲイン乗算部84は、第1加算部83の出力(y-^y)にオブザーバゲインL(前記式(5)参照)を乗算する。
【0061】
入力行列乗算部85は、入力ベクトル入力部81から出力される入力ベクトルu1に入力行列Beを乗算する。第2加算部87は、入力行列乗算部85の出力(Be・u1)と、システム行列乗算部86の出力(Ae・^xe)と、ゲイン乗算部84の出力(L(y-^y))とを加算することにより、状態変数ベクトルの微分値d^xe/dtを演算する。積分部88は、第2加算部87の出力(d^xe/dt)を積分することにより、状態変数ベクトル^xeを演算する。状態変数ベクトル出力部89は、状態変数ベクトル^xeに基づいて、外乱負荷推定値^Tld、舵角推定値^θおよび角速度推定値d^θ/dtを演算する。
【0062】
一般的な外乱オブザーバは、前述の拡張状態オブザーバとは異なり、プラントの逆モデルとローパスフィルタとから構成される。プラントの運動方程式は、次式(7)で表される。
【0063】
【0064】
したがって、プラントの逆モデルは、次式(8)となる。
【0065】
【0066】
一般的な外乱オブザーバへの入力は、J・d2θ/dt2およびTmであり、実舵角θの2階微分値を用いるため、回転角センサ23のノイズの影響を大きく受ける。これに対して、前述の実施形態の拡張状態オブザーバでは、モータトルク入力から推定される舵角推定値^θと実舵角θとの差(y-^y)に応じて、積分型で外乱トルクを推定するため、微分によるノイズ影響を低減できる。
【0067】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。例えば、前述の実施形態では、この発明をコラムタイプEPSの自動操舵制御に適用した場合の例を示したが、この発明は、コラムタイプ以外のEPSの自動操舵制御にも適用することができる。
例えば、この発明によるモータ制御装置は、
図6に示すような、デュアルピニオンタイプの電動パワーステアリングシステムの自動操舵制御にも適用することができる。
【0068】
図6において、
図1と対応する各部には、
図1と同じ符号を付して示す。
図6の電動パワーステアリングシステム1Aは、デュアルピニオンタイプの電動パワーステアリングシステムである。この電動パワーステアリングシステム1Aでは、ラック軸14の軸方向の第1端部側に、ピニオン軸13(以下、「第1ピニオン軸13」という)のピニオン16(以下、「第1ピニオン16」という)に噛み合うラック17(以下「第1ラック17」という)が形成されている。ステアリングホイール2が操舵(回転)されると、この回転が、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して、第1ピニオン軸13に伝達される。そして、第1ピニオン軸13の回転は、第1ピニオン16および第1ラック17によって、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。
【0069】
操舵補助機構5は、電動モータ18と、減速機19と、第2ピニオン軸91と、第2ピニオン92と、第2ラック93とを含む。第2ピニオン軸91は、ステアリングシャフト6とは分離して配置されている。減速機19は、電動モータ18の出力軸に一体的に回転可能に連結されたウォームギヤ(図示略)と、このウォームギヤと噛み合い、第2ピニオン軸91に一体的に回転可能に連結されたウォームホイール(図示略)とからなる。第2ピニオン92は、第2ピニオン軸91の先端に連結されている。第2ラック93は、ラック軸14の軸方向の第1端部とは反対の第2端部側に形成されている。第2ピニオン92は、第2ラック93に噛み合っている。電動モータ18には、そのロータの回転角を検出するための回転角センサ23が設けられている。
【0070】
電動モータ18が回転駆動されると、電動モータ18の回転が減速機19を介して第2ピニオン軸91に伝達される。第2ピニオン軸91の回転は、第2ピニオン92および第2ラック93によって、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。
図6のステアリング制御用ECU202の電気的構成は、
図1のステアリング制御用ECU202の電気的構成(
図2参照)と同様である。ただし、
図6の電動パワーステアリングシステム1Aでは、プラント(モータ駆動対象)は、第2ピニオン軸91および第2ピニオン軸91に固定されたウォームホイールから構成される。減速比Nとしては、
図6の減速機19の減速比が用いられる。
【0071】
また、この発明によるモータ制御装置は、
図7に示すようなステアバイワイヤシステムの転舵モータの制御装置にも適用することができる。
図7において、
図1と対応する各部には、
図1と同じ符号を付して示す。
ステアバイワイヤシステム1Bは、ステアリングホイール2と、転舵輪3を転舵するための転舵機構4と、ステアリングホイール2に連結されたステアリングシャフト6とを含む。ただし、ステアリングシャフト6は、転舵機構4に機械的に連結されていない。
【0072】
ステアリングシャフト6は、ステアリングホイール2に連結された入力軸8と、入力軸8に連結されたトーションバー10と、トーションバー10に連結された出力軸9とを含む。出力軸9には、減速機121を介して反力モータ122が連結されている。反力モータ122は、ステアリングホイール2に操舵反力(操舵方向と反対方向のトルク)を付与するための電動モータである。減速機121は、反力モータ122の出力軸に一体的に回転可能に連結されたウォーム軸(図示略)と、このウォーム軸と噛み合い、出力軸9に一体的に回転可能に連結されたウォームホイール(図示略)とを含むウォームギヤ機構からなる。反力モータ122には、反力モータ122の回転角を検出するための回転角センサ123が設けられている。
【0073】
転舵機構4は、転舵軸としてのラック軸14と、ラック軸14に転舵力を付与するための転舵アクチュエータ130とを含む。ラック軸14の各端部には、タイロッド15およびナックルアーム(図示略)を介して転舵輪3が連結されている。
転舵アクチュエータ130は、
図6の操舵補助機構5と同様な構成を有している。つまり、転舵アクチュエータ130は、転舵モータ18と、減速機19と、ピニオン軸91と、ピニオン92と、ラック93とを含む。ピニオン軸91は、ステアリングシャフト6とは、分離して配置されている。減速機19は、転舵モータ18の出力軸に一体的に回転可能に連結されたウォーム軸(図示略)と、このウォーム軸と噛み合い、ピニオン軸91に一体的に回転可能に連結されたウォームホイール(図示略)とを含むウォームギヤ機構からなる。
【0074】
ピニオン92は、ピニオン軸91の先端に連結されている。ラック93は、ラック軸14の端部に設けられている。ピニオン92は、ラック93に噛み合っている。転舵モータ18には、転舵モータ18の回転角を検出するための回転角センサ23が設けられている。
自動運転制御用ECU201は、自動操舵のための目標舵角(目標転舵角)θcmdaを演算するとともに、自動操舵モードスイッチ29の操作に応じたモード切替信号(自動操舵モード設定信号または自動操舵モード解除信号)を生成する。自動運転制御用ECU201によって演算される目標舵角θcmdaおよび自動運転制御用ECU201によって生成されるモード切替信号は、ステアリング制御用ECU203に与えられる。 回転角センサ23,123の出力信号および車速センサ24によって検出される車速Vは、ステアリング制御用ECU203に入力される。ステアリング制御用ECU203は、これらの入力信号と自動運転制御用ECU201から与えられる情報に基づいて、反力モータ122および転舵モータ18を制御する。つまり、ステアリング制御用ECU203は、反力モータ122のモータ制御回路と、転舵モータ18のモータ制御回路とを含んでいる。
【0075】
反力モータ122のモータ制御回路は、マイクロコンピュータによって構成される反力モータ制御部(図示略)と、反力モータ制御部によって制御され、反力モータ122に電力を供給する駆動回路(図示略)と、反力モータ122に流れるモータ電流を検出する電流検出部(図示略)とを備えている。反力モータ制御部は、例えば、回転角センサ123の出力に基づいて演算される操舵角θh(ステアリングホイール2の回転角)と車速センサ24によって検出される車速Vとに基づいて目標操舵角を設定する。そして、操舵角θhが目標操舵角と等しくなるように、反力モータ122の駆動回路を制御する。
【0076】
図8は、転舵モータ18のモータ制御回路を示している。
転舵モータ18のモータ制御回路は、マイクロコンピュータによって構成される転舵モータ制御部141と、転舵モータ制御部141によって制御され、転舵モータ18に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)142と、転舵モータ18に流れるモータ電流を検出する電流検出回路143とを備えている。
【0077】
転舵モータ制御部141は、目標舵角設定部151と、モード切替部152と、目標モータトルク演算部153と、目標モータ電流演算部154と、電流偏差演算部155と、PI制御部156と、PWM制御部157とを含む。
目標舵角設定部151は、例えば、回転角センサ123の出力に基づいて演算される操舵角θhと車速センサ24によって検出される車速Vとに基づいて手動操舵モード時用の目標操舵角を演算し、この目標操舵角から手動操舵モード時用の転舵輪3の転舵角(例えば、ピニオン軸91の回転角)の目標値である目標舵角θcmdbを設定する。この目標舵角θcmdbは、モード切替部152に与えられる。
【0078】
モード切替部152には、自動運転制御用ECU201によって演算される目標舵角θcmdaが与えられる。モード切替部152は、自動運転制御用ECU201から与えられるモード切替信号に基づいて、制御モードを切り替える。制御モードが手動操舵モードに設定されているときには、モード切替部152は、目標舵角設定部151によって設定される目標舵角θcmdbを、目標舵角θcmdcとして出力する。制御モードが自動操舵モードに設定されているときには、モード切替部152は、自動運転制御用ECU201によって設定される目標舵角θcmdaを、目標舵角θcmdcとして出力する。
【0079】
目標モータトルク演算部153は、モード切替部152から出力される目標舵角θcmdcに基づいて、転舵モータ18のモータトルクの目標値である目標モータトルクTmを演算する。目標モータトルク演算部153の構成は、
図3の目標自動操舵トルク設定部42の構成と同様である。減速比Nとしては、転舵アクチュエータ130内の減速機19の減速比が用いられる。
【0080】
目標モータ電流演算部154は、目標モータトルク演算部153によって設定された目標モータトルクTmを転舵モータ18のトルク定数Ktで徐算することにより、目標モータ電流Icmdを演算する。電流偏差演算部155は、目標モータ電流演算部154によって得られた目標モータ電流Icmdと電流検出回路143によって検出されたモータ電流Iとの偏差ΔI(=Icmd-I)を演算する。
【0081】
PI制御部156は、電流偏差演算部155によって演算された電流偏差ΔIに対するPI演算(比例積分演算)を行うことにより、転舵モータ18に流れるモータ電流Iを目標モータ電流Icmdに導くための駆動指令値を生成する。PWM制御部157は、前記駆動指令値に対応するデューティ比のPWM制御信号を生成して、駆動回路142に供給する。これにより、駆動指令値に対応した電力が転舵モータ18に供給されることになる。これにより、目標モータトルクTmに応じたモータトルクが転舵モータ18から発生するように、転舵モータ18が制御される。この結果、手動操舵モード時には、転舵輪3の転舵角が、目標舵角設定部151によって設定される目標舵角θcmdbに近づくように制御される。一方、自動操舵モード時には、転舵輪3の転舵角が、自動運転制御用ECU201によって設定される目標舵角θcmdaに近づくように制御される。
【0082】
また、この発明によるモータ制御装置は、後輪操舵システムの転舵角制御にも適用することができる。また、この発明によるモータ制御装置は、転舵角制御だけではなく、ステアリングシステム制御に用いられる電動モータの制御(例えば、ステアリングホイールの角度制御等)にも適用することができる。
さらにこの発明は、角度フィードバック制御以外のフィードバック制御によって電動モータを制御する場合にも、適用可能である。
【0083】
前述の実施形態では、目標自動操舵トルク設定部42および目標モータトルク演算部153は、フィードフォワード制御部63を備えているが、フィードフォワード制御部63を省略してもよい。この場合には、フィードバック制御部62によって演算されるフィードバック制御トルクTfbが基本目標トルクとなる。
前述の全ての実施形態において、外乱トルク推定部64は、目標モータトルク(目標自動操舵トルクTm2)と実舵角θ(プラントの回転角θ)とに基づいて外乱トルク^Tldを推定しているが、電動モータ18が発生しているモータトルクを取得するモータトルク取得部を設け、このモータトルク取得部で取得したモータトルクを目標モータトルクTm2の代わりに用いてもよい。
【0084】
図9は、
図3に示される目標自動操舵トルク設定部42の変形例を示すブロック図である。
図9において、前述の
図3の各部に対応する部分には
図3と同じ符号を付して示す。
この目標自動操舵トルク設定部42Aは、
図3に示される目標自動操舵トルク設定部42に比べて、制振トルク演算部160が設けられている点が異なっている。制振トルク演算部160は、自動制御モード時におけるステアリングホイール2の振動を抑制するための制振トルクを演算する。制振トルク演算部160は、この変形例では、乗算部161から構成されている。乗算部161は、トルクセンサ12によって検出される自動運転中(手放し状態)のステアリングホイール慣性トルク(以下、操舵トルク)に予め設定された制振ゲインK
R(K
R>1)を乗算して、制振トルクK
R・Tdを演算する。
【0085】
図9では、PD制御部62Bの構成がより具体的に示されている。sは微分演算子である。
図9において、PD制御部62Bは、比例ゲイン乗算部171と、微分演算部172と、微分ゲイン乗算部173と、加算部174とを含んでいる。比例ゲイン乗算部171は、角度偏差演算部62Aによって演算される角度偏差Δθ(=θcmd-^θ)に比例ゲインK
Pを乗算する。
【0086】
微分演算部172は、角度偏差Δθの時間微分値dΔθ/dtを演算する。微分ゲイン乗算部173は、微分演算部172によって演算された微分値dΔθ/dtに微分ゲインKDを乗算する。加算部174は、比例ゲイン乗算部171の乗算結果KP・Δθと、微分ゲイン乗算部173の乗算結果KD・dΔθ/dtとを加算することにより、フィードバック制御トルクTfbを演算する。
【0087】
トルク加算部65は、フィードバック制御トルクTfbとフィードフォワードトルクTffと制振トルク(KR・Td)とを加算した値から、外乱トルク推定値^Tldを減算することにより、目標操舵トルクTcmd(=Tfb+Tff+KR・Td-^Tld)を演算する。この実施形態では、フィードバック制御トルクTfbにフィードフォワードトルクTffを加算した値が基本目標トルクとなる。
【0088】
目標操舵トルクTcmdは第1減速比徐算部66に与えられる。第1減速比徐算部66は、目標操舵トルクTcmdを減速比Nで徐算することにより、目標自動操舵トルクTm(Tm2)を演算する。この目標自動操舵トルクTm(Tm2)がモード切替部43(
図2参照)に与えられる。
この目標自動操舵トルク設定部42Aにおいても前述の目標自動操舵トルク設定部42と同様に、ステアリングコラムに外乱として発生する非線形な外乱トルク(モータトルク以外のトルク)が補償される。このため、自動制御モード時の電動パワーステアリングシステム1は、
図10Aに示すように、外乱トルクに依存しない2慣性(ステアリングホイール2の慣性J
SWおよびステアリングコラム181の慣性J
C)のモデルとして取り扱うことが可能となる。ステアリングコラム181は、出力軸9およびウォームホイール21を含む。
【0089】
図10Aにおいて、10はトーションバーを示している。
図10Aにおいて、θ(実舵角θ)は、ステアリングコラム181の回転角(以下、コラム角度θという)であり、θ
SWは、ステアリングホイール2の回転角(以下、ステアリング角度θ
SWという)である。また、
図10Aにおいて、K
tbは、トーションバー10の剛性(以下、トーションバー剛性K
tbという)であり、Tdは、操舵トルク(トーションバートルク)であり、K
R・Tdは制振トルクであり、Nは、減速機19の減速比であり、Tmは、目標モータトルクである。以下において、ステアリングホイール2の慣性J
SWをステアリング慣性J
SWといい、ステアリングコラム181の慣性J
Cをコラム慣性J
Cという場合がある。
【0090】
図11は、自動運転モード時の電動パワーステアリングシステムのフィードバック制御系の構成を示す制御ブロック図である。ただし、説明の便宜上、フィードバック制御部にフィードバックされる舵角は、外乱トルク推定部64によって演算される舵角推定値^θではなく、第2減速比徐算部69によって演算される実舵角θ(コラム角度θ)としている。
【0091】
ローパスフィルタ処理後の目標舵角θcmdとコラム角度θとの偏差に対するPD制御によって、フィードバック制御トルクTfbが生成される。フィードバック制御トルクTfbに制振トルク(K
R・Td)が加算される。この加算値(Tfb+K
R・Td)は、コラム角度θの角加速度(以下、コラム角加速度d
2θ/dt
2という)を表す。
このコラム角加速度d
2θ/dt
2にコラム慣性J
Cを乗算した値に応じたモータトルクN・Tmが、電動モータ18からステアリングコラム181(
図10A参照)に与えられる。このモータトルクN・Tmにコラム慣性J
Cの逆数を乗算し、その乗算結果を2階積分した値が、コラム角度θとしてフィードバックされる。
【0092】
このコラム角度θとステアリング角度θSWとの差にトーションバー剛性Ktbを乗算した値が、操舵トルクTdとなる。この操舵トルクTdに制振ゲインKRを乗算した値が、制振トルクとして、フィードバックされる。この操舵トルクTdにステアリング慣性JSWの逆数を乗算し、その乗算結果を2階積分した値が、ステアリング角度θSWとしてフィードバックされる。
【0093】
図9の目標自動操舵トルク設定部42Aでは、制振トルク演算部160が設けられているので、自動制御モード時のステアリングホイール2の振動を抑制することができる。具体的には、自動制御モード時にトーションバー10とステアリング慣性J
SWにより発生する捩り振動を抑制することができる。この点についてより具体的に説明する。
図10Aに示される2慣性モデルにおいて、制振トルクK
R・Tdがフィードバックされないとすると、共振周波数ωrおよび反共振周波数ωaは、それぞれ次式(9),(10)で表される。
【0094】
ωr=[K
tb・{(1/J
SW)+1}]
1/2 …(9)
ωa={K
tb・(1/J
SW)}
1/2 …(10)
図9の目標自動操舵トルク設定部42Aでは、制振トルクK
R・Tdがフィードバックされるので、コラム慣性J
Cを仮想的に1/K
Rにすることができる。つまり、
図10Aに示されるモデルは、
図10Bに示されるモデルと等価となる。したがって、
図10Aに示される2慣性モデルの共振周波数ωrは、次式(11)のようになる。
【0095】
ωr=[K
tb・{(1/J
SW)+K
R}]
1/2 …(11)
これにより、共振周波数ωrを高くすることができるから、自動操舵モード時における振動を抑制できる。
以下、比例ゲインK
P、微分ゲインK
Dおよび制振ゲインK
Rの設定方法について説明する。これらのゲインは、
図11に示される目標舵角θcmdからステアリング角度θ
SWまでの伝達係数を用いて、安定性と応答性が両立できるような値に設定される。具体的には、前記式(10)の反共振周波数ωaを用いて、比例ゲインK
P、微分ゲインK
Dおよび制振ゲインK
Rは、次式(12)~(14)で示される値に設定される。
【0096】
K
P=ωa
2 …(12)
K
D=4ωa …(13)
K
R=4/J
SW …(14)
制振トルク演算部160としては、自動制御モード時のステアリングホイール2の振動を抑制するための制振トルクを演算できるものであれば、
図9に記載されている制振トルク演算部160以外のものであってもよい。
【0097】
図9の目標自動操舵トルク設定部42Aにおいて、フィードフォワード制御部63を省略してもよい。その場合には、基本目標トルクは、フィードバック制御トルクTfbのみからなる。
その他、この発明は、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0098】
1,1A…電動パワーステアリング装置、1B…ステアバイワイヤシステム、3…転舵輪、4…転舵機構、18…電動モータ、42,42A…目標自動操舵トルク設定部、61…ローパスフィルタ(LPF)、62…フィードバック制御部、63…フィードフォワード制御部、64…外乱トルク推定部(外乱オブザーバ)、65…トルク加算部、151…目標舵角設定部、153…目標モータトルク演算部、160…制振トルク演算部、161…制振ゲイン乗算部、171…比例ゲイン乗算部、172…微分演算部、173…微分ゲイン乗算部、174…加算部、201…自動運転制御用ECU、202,203…ステアリング制御用ECU