(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】磁場測定装置および磁場測定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 33/26 20060101AFI20221215BHJP
G01N 24/00 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
G01R33/26
G01N24/00 560A
G01N24/00 E
G01N24/00 G
(21)【出願番号】P 2018126541
(22)【出願日】2018-07-03
【審査請求日】2021-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000107804
【氏名又は名称】スミダコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114971
【氏名又は名称】青木 修
(72)【発明者】
【氏名】芳井 義治
(72)【発明者】
【氏名】水落 憲和
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-114563(JP,A)
【文献】特開2016-023965(JP,A)
【文献】特開2017-067650(JP,A)
【文献】特開2004-053327(JP,A)
【文献】特開平02-145974(JP,A)
【文献】国際公開第2013/054718(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0033326(US,A1)
【文献】Victor Acosta, Andrey Jarmola, Lucas Zipp, M. Ledbetter, E. Bauch, et al.,Broadband magnetometry by infrared-absorption detection of diamond NV centers and associated temperature dependence,PROCEEDINGS OF SPIE,米国,2011年02月12日,7948,1 - 8,https://www.spiedigitallibrary.org/conference-proceedings-of-spice
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 33/00-33/26、
19/00-19/32、
33/28-33/64、
G01N 21/62-21/74、
22/00-22/04、
24/00-24/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定交流磁場内に配置される光検出磁気共鳴部材と、
前記光検出磁気共鳴部材にマイクロ波の磁場を印加するコイルと、
前記コイルに前記マイクロ波の電流を導通させる高周波電源と、
前記光検出磁気共鳴部材に光を照射する照射装置と、
前記光検出磁気共鳴部材から発せられる光を検出する受光装置と、
前記被測定交流磁場の所定位相に対する所定の直流磁場測定シーケンスを実行し、前記直流磁場測定シーケンスにおいて、前記高周波電源および前記照射装置を制御し、前記受光装置により検出された前記光の検出光量を特定する測定制御部と、
前記所定位相および前記検出光量に基づいて、前記被測定交流磁場の強度を演算する磁場演算部と、
を備え
、
前記直流磁場測定シーケンスは、ラムゼイパルスシーケンスであること、
を特徴とする磁場測定装置。
【請求項2】
被測定交流磁場内に配置される光検出磁気共鳴部材と、
前記光検出磁気共鳴部材にマイクロ波の磁場を印加するコイルと、
前記コイルに前記マイクロ波の電流を導通させる高周波電源と、
前記光検出磁気共鳴部材に光を照射する照射装置と、
前記光検出磁気共鳴部材から発せられる光を検出する受光装置と、
前記被測定交流磁場の所定位相に対する所定の直流磁場測定シーケンスを実行し、前記直流磁場測定シーケンスにおいて、前記高周波電源および前記照射装置を制御し、前記受光装置により検出された前記光の検出光量を特定する測定制御部と、
前記所定位相および前記検出光量に基づいて、前記被測定交流磁場の強度を演算する磁場演算部とを備え、
前記測定制御部は、(a)前記被測定交流磁場の所定第1位相に対する前記直流磁場測定シーケンスを実行し、(b)前記被測定交流磁場の所定第2位相に対する前記直流磁場測定シーケンスを実行し、
前記磁場演算部は、前記第1位相、前記第2位相、並びに、前記第1位相および前記第2位相についての前記検出光量から、前記第1位相での磁束密度および前記第2位相での磁束密度の差分に基づく前記被測定交流磁場の強度を演算し、
前記第1位相とπ/2との差の絶対値と、前記第2位相と3π/2との差の絶対値とが、互いに略同一であること、
を特徴とす
る磁場測定装置。
【請求項3】
被測定交流磁場内に配置される光検出磁気共鳴部材と、
前記光検出磁気共鳴部材にマイクロ波の磁場を印加するコイルと、
前記コイルに前記マイクロ波の電流を導通させる高周波電源と、
前記光検出磁気共鳴部材に光を照射する照射装置と、
前記光検出磁気共鳴部材から発せられる光を検出する受光装置と、
前記被測定交流磁場の所定位相に対する所定の直流磁場測定シーケンスを実行し、前記直流磁場測定シーケンスにおいて、前記高周波電源および前記照射装置を制御し、前記受光装置により検出された前記光の検出光量を特定する測定制御部と、
前記所定位相および前記検出光量に基づいて、前記被測定交流磁場の強度を演算する磁場演算部とを備え、
前記測定制御部は、前記被測定交流磁場の所定複数位相に対する前記直流磁場測定シーケンスを実行し、
前記磁場演算部は、前記複数位相の平均値を前記所定位相とし、前記複数位相に対する前記直流磁場測定シーケンスで得られた磁場強度の平均値に基づく前記被測定交流磁場の強度を演算すること、
を特徴とす
る磁場測定装置。
【請求項4】
(a)被測定交流磁場内に配置される光検出磁気共鳴部材と、前記光検出磁気共鳴部材にマイクロ波の磁場を印加するコイルと、前記コイルに前記マイクロ波の電流を導通させる高周波電源と、前記光検出磁気共鳴部材に光を照射する照射装置と、前記光検出磁気共鳴部材から発せられる光を検出する受光装置とを使用して、前記被測定交流磁場の所定位相に対する所定の直流磁場測定シーケンスを実行し、前記直流磁場測定シーケンスにおいて、前記高周波電源および前記照射装置を制御し、前記受光装置により検出された前記光の検出光量を特定し、
(b)前記所定位相および前記検出光量に基づいて、前記被測定交流磁場の強度を演算
し、
前記直流磁場測定シーケンスは、ラムゼイパルスシーケンスであること、
を特徴とする磁場測定方法。
【請求項5】
(a)被測定交流磁場内に配置される光検出磁気共鳴部材と、前記光検出磁気共鳴部材にマイクロ波の磁場を印加するコイルと、前記コイルに前記マイクロ波の電流を導通させる高周波電源と、前記光検出磁気共鳴部材に光を照射する照射装置と、前記光検出磁気共鳴部材から発せられる光を検出する受光装置とを使用して、(a1)前記被測定交流磁場の所定第1位相に対する所定の直流磁場測定シーケンスを実行し、(a2)前記被測定交流磁場の所定第2位相に対する前記直流磁場測定シーケンスを実行し、前記直流磁場測定シーケンスにおいて、前記高周波電源および前記照射装置を制御し、前記受光装置により検出された前記光の検出光量を特定し、
(b)前記第1位相、前記第2位相、並びに、前記第1位相および前記第2位相についての前記検出光量から、前記第1位相での磁束密度および前記第2位相での磁束密度の差分に基づく前記被測定交流磁場の強度を演算し、
前記第1位相とπ/2との差の絶対値と、前記第2位相と3π/2との差の絶対値とが、互いに略同一であること、
を特徴とする磁場測定方法。
【請求項6】
(a)被測定交流磁場内に配置される光検出磁気共鳴部材と、前記光検出磁気共鳴部材にマイクロ波の磁場を印加するコイルと、前記コイルに前記マイクロ波の電流を導通させる高周波電源と、前記光検出磁気共鳴部材に光を照射する照射装置と、前記光検出磁気共鳴部材から発せられる光を検出する受光装置とを使用して、前記被測定交流磁場の所定位相に対する所定の直流磁場測定シーケンスを実行し、前記直流磁場測定シーケンスにおいて、前記高周波電源および前記照射装置を制御し、前記受光装置により検出された前記光の検出光量を特定し、
(b)前記所定位相および前記検出光量に基づいて、前記被測定交流磁場の強度を演算し、
(c)前記被測定交流磁場の所定複数位相に対する前記直流磁場測定シーケンスを実行し、前記複数位相の平均値を前記所定位相とし、前記複数位相に対する前記直流磁場測定シーケンスで得られた磁場強度の平均値に基づく前記被測定交流磁場の強度を演算すること、
を特徴とする磁場測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場測定装置および磁場測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ある磁気計測装置は、電子スピン共鳴を利用した光検出磁気共鳴(ODMR:Optically Detected Magnetic Resonance)で磁気計測を行っている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ODMRでは、サブレベルの準位と光学遷移準位とをもつ媒質に高周波磁場(マイクロ波)と光をそれぞれサブレベル間の励起と光遷移間の励起のために照射することで、サブレベル間の磁気共鳴による占有数の変化などが光信号により高感度で検出される。通常、基底状態の電子が緑光で励起された後、基底状態に戻る際に赤光を発する。一方、例えば、ダイヤモンド構造中の窒素と格子欠陥(NVC:Nitrogen Vacancy Center)中の電子は、2.87GHz程度の高周波磁場の照射により、光励起により初期化された後では、基底状態中の3つのサブレベルの中で一番低いレベル(ms=0)から、基底状態中のそれより高いエネルギー軌道のレベル(ms=±1)に遷移する。その状態の電子が緑光で励起されると、無輻射で基底状態中の3つのサブレベルの中で一番低いレベル(ms=0)に戻るため発光量が減少し、この光検出より、高周波磁場により磁気共鳴が起こったかどうかを知ることができる。ODMRでは、このような、NVCといった光検出磁気共鳴材料が使用される。
【0004】
そして、NVCを使用した直流磁場の測定方法として、ラムゼイパルスシーケンス(Ramsey Pulse Sequence)を使用した測定方法がある。ラムゼイパルスシーケンスでは、(a)励起光をNVCに照射し、(b)マイクロ波の第1のπ/2パルスをNVCに印加し、(c)第1のπ/2パルスから所定の時間間隔ttでマイクロ波の第2のπ/2パルスをNVCに印加し、(d)測定光をNVCに照射してNVCの発光量を測定し、(e)測定した発光量に基づいて磁束密度を見積もれる。
【0005】
また、NVCを使用した交流磁場の測定方法として、スピンエコーパルスシーケンス(Spin Echo Pulse Sequence)を使用した測定方法がある。スピンエコーパルスシーケンスでは、(a)励起光をNVCに照射し、(b)マイクロ波の第1のπ/2パルスを被測定磁場の位相0度でNVCに印加し、(c)マイクロ波のπパルスを被測定磁場の位相180度でNVCに印加し、(d)マイクロ波の第2のπ/2パルスを被測定磁場の位相360度でNVCに印加し、(e)測定光をNVCに照射してNVCの発光量を測定し、(f)測定した発光量に基づいて磁束密度を見積もれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、スピンエコーパルスシーケンスでは、第1のπ/2パルスとπパルスとの時間間隔、およびπパルスと第2のπ/2パルスとの時間間隔が長くなると、励起光によりスピン状態が揃えられた光検出磁気共鳴材料の電子のスピンが分散しすぎてしまうため、波長の長い低周波の交流磁場を正確に測定することは困難である。
【0008】
本発明は、ODMRを利用して低周波の交流磁場を正確に測定する磁場測定装置および磁場測定方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る磁場測定装置は、被測定交流磁場内に配置される光検出磁気共鳴部材と、光検出磁気共鳴部材にマイクロ波の磁場を印加するコイルと、コイルにマイクロ波の電流を導通させる高周波電源と、光検出磁気共鳴部材に光を照射する照射装置と、光検出磁気共鳴部材から発せられる光を検出する受光装置と、被測定交流磁場の所定位相に対する所定の直流磁場測定シーケンスを実行し、その直流磁場測定シーケンスにおいて、高周波電源および照射装置を制御し、受光装置により検出された光の検出光量を特定する測定制御部と、所定位相および検出光量に基づいて、被測定交流磁場の強度を演算する磁場演算部とを備える。さらに、以下の(A)、(B)、および(C)のうちの少なくとも1つの特徴を有する。(A)上述の直流磁場測定シーケンスは、ラムゼイパルスシーケンスである。(B)測定制御部は、被測定交流磁場の所定第1位相に対する直流磁場測定シーケンスを実行し、被測定交流磁場の所定第2位相に対する直流磁場測定シーケンスを実行し、磁場演算部は、第1位相、第2位相、並びに、第1位相および第2位相についての検出光量から、第1位相での磁束密度および第2位相での磁束密度の差分に基づく被測定交流磁場の強度を演算し、第1位相とπ/2との差の絶対値と、第2位相と3π/2との差の絶対値とが、互いに略同一である。(C)測定制御部は、被測定交流磁場の所定複数位相に対する直流磁場測定シーケンスを実行し、磁場演算部は、複数位相の平均値を所定位相とし、その複数位相に対する直流磁場測定シーケンスで得られた磁場強度の平均値に基づく被測定交流磁場の強度を演算する。
【0010】
本発明に係る磁場測定方法は、(a)被測定交流磁場内に配置される光検出磁気共鳴部材と、光検出磁気共鳴部材にマイクロ波の磁場を印加するコイルと、コイルにマイクロ波の電流を導通させる高周波電源と、光検出磁気共鳴部材に光を照射する照射装置と、光検出磁気共鳴部材から発せられる光を検出する受光装置とを使用して、被測定交流磁場の所定位相に対する所定の直流磁場測定シーケンスを実行し、その直流磁場測定シーケンスにおいて、高周波電源および照射装置を制御し、受光装置により検出された光の検出光量を特定し、(b)所定位相および検出光量に基づいて、被測定交流磁場の強度を演算する。さらに、以下の(A)、(B)、および(C)のうちの少なくとも1つの特徴を有する。(A)上述の直流磁場測定シーケンスは、ラムゼイパルスシーケンスである。(B)被測定交流磁場の所定第1位相に対する直流磁場測定シーケンスを実行し、被測定交流磁場の所定第2位相に対する直流磁場測定シーケンスを実行し、第1位相、第2位相、並びに、第1位相および第2位相についての検出光量から、第1位相での磁束密度および第2位相での磁束密度の差分に基づく被測定交流磁場の強度を演算し、第1位相とπ/2との差の絶対値と、第2位相と3π/2との差の絶対値とが、互いに略同一である。(C)前記被測定交流磁場の所定複数位相に対する前記直流磁場測定シーケンスを実行し、前記複数位相の平均値を前記所定位相とし、前記複数位相に対する前記直流磁場測定シーケンスで得られた磁場強度の平均値に基づく前記被測定交流磁場の強度を演算する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ODMRを利用して低周波の交流磁場を正確に測定する磁場測定装置および磁場測定方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る磁場測定装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、実施の形態1に係る磁場測定装置の動作について説明するタイミングチャートである。
【
図3】
図3は、実施の形態2に係る磁場測定装置の動作について説明するタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
実施の形態1.
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係る磁場測定装置の構成を示す図である。
図1に示す磁場測定装置は、光検出磁気共鳴部材1を備える。この実施の形態では、光検出磁気共鳴部材1は、NVCを有するダイヤモンドなどの板材であって、支持板1aに固定されている。この光検出磁気共鳴部材1は、被測定交流磁場内に配置される。
【0016】
また、
図1に示す磁場測定装置は、コイル2、高周波電源3、照射装置4、および受光装置5を備える。
【0017】
コイル2は、光検出磁気共鳴部材1にマイクロ波の磁場を印加する。マイクロ波の周波数は、光検出磁気共鳴部材1の種類に応じて設定される。例えば、光検出磁気共鳴部材1が、NVCを有するダイヤモンドである場合、コイル2は、2.87GHz程度のマイクロ波磁場を印加する。高周波電源3は、コイル2にマイクロ波の電流(つまり、上述のマイクロ波の磁場を生成するための電流)を導通させる。
【0018】
照射装置4は、光検出磁気共鳴部材1に光(所定波長の励起光と所定波長の測定光)を照射する。受光装置5は、測定光の照射時において光検出磁気共鳴部材1から発せられる蛍光を検出する。
【0019】
さらに、
図1に示す磁場測定装置は、演算処理装置11を備える。演算処理装置11は、例えばコンピュータを備え、プログラムをコンピュータで実行して、各種処理部として動作する。この実施の形態では、演算処理装置11は、測定制御部21および磁場演算部22として動作する。
【0020】
測定制御部21は、被測定交流磁場の所定位相に対する所定の直流磁場測定シーケンスを実行し、その直流磁場測定シーケンスにおいて、高周波電源3および照射装置4を制御し、受光装置5により検出された蛍光の検出光量を特定する。例えば、照射装置4は、レーザーダイオードなどを光源として備え、受光装置5は、フォトダイオードなどを受光素子として備え、測定制御部21は、受光素子の出力信号に対して増幅などを行って得られる受光装置5の出力信号に基づいて、上述の検出光量を特定する。
【0021】
この実施の形態では、上述の所定の直流磁場測定シーケンスとして、ラムゼイパルスシーケンスが適用される。ただし、これに限定されるものではない。
【0022】
また、被測定交流磁場の測定タイミングとしての上述の所定位相は、例えば、被測定交流磁場と同期していることが既知である外部交流信号の位相に基づいて特定される。例えば、外部交流信号に起因する物理現象によって被測定交流磁場が発生している場合、被測定交流磁場は、外部交流信号に同期していることがある。したがって、測定制御部21は、その外部交流信号を監視し、測定タイミングとしての上述の所定位相のタイミングに合わせて、上述の直流磁場測定シーケンスを実行する。
【0023】
あるいは、例えば、予測される被測定交流磁場の周期より十分短い時間間隔で上述の直流磁場測定シーケンスを繰り返し実行し、複数回の直流磁場測定シーケンスで得られた磁場強度(磁束密度)の時間的変化に基づいて、被測定交流磁場の位相0度または位相180度のタイミングおよび周期を特定し、特定した位相0度または位相180度および周期のタイミングから、測定タイミングとしての上述の所定位相を特定するようにしてもよい。
【0024】
磁場演算部22は、上述の所定位相および検出光量に基づいて、被測定交流磁場の強度(ここでは、磁束密度の振幅)を演算する。
【0025】
例えば、磁場演算部22は、次式に従って、検出光量から磁束密度を計算する。
【0026】
S=[(a+b)/2]+[(a-b)/2]×cos(γ・B・tt)
【0027】
ここで、Sは、検出光量であり、Bは、磁束密度であり、a,bは、定数であり、ttは、2つのπ/2パルスの間の時間間隔(自由歳差運動時間)であり、γは、磁気回転比(定数)である。なお、aおよびbは、Bまたはttを変化させたときのSの最大値および最小値であり、例えば実験で、既知で一定のBに対して、ttを変化させたときのSを測定することで、特定可能である。なお、aは、B=0としたときの検出光量として求めてもよい。
【0028】
具体的には、磁場演算部22は、被測定交流磁場が正弦波であると仮定して、検出光量を得た位相での正弦波の値と正弦波の波高値との比率に基づいて、検出光量から得られる磁場強度(磁束密度)から、被測定交流磁場の強度(磁束密度の振幅)を演算する。
【0029】
例えば、正規化された正弦波の場合、波高値(つまり位相90度での値)は1であり、位相80度での値は0.985である。したがって、例えば、上述の所定位相が80度であれば、検出光量から得られた磁場強度(磁束密度)を0.985で除算すれば、被測定交流磁場の強度(磁束密度の振幅)が得られる。また、上述の所定位相を90度としてもよく、その場合、上述の比率は1であるので、検出光量から得られる磁場強度(磁束密度)が、被測定交流磁場の強度(磁束密度の振幅)とされる。
【0030】
さらに、実施の形態1では、測定制御部21は、(a)被測定交流磁場の所定第1位相に対する所定の直流磁場測定シーケンスを実行し、その直流磁場測定シーケンスにおいて、高周波電源3および照射装置4を制御し、受光装置5により検出された光の検出光量を特定し、(b)被測定交流磁場の所定第2位相に対する所定の直流磁場測定シーケンスを実行し、その直流磁場測定シーケンスにおいて、高周波電源3および照射装置4を制御し、受光装置5により検出された光の検出光量を特定する。そして、磁場演算部22は、上述の第1位相、上述の第2位相、およびそれぞれの検出光量から、第1位相での磁束密度(正値)および第2位相での磁束密度(負値)を演算し、第1位相での磁束密度(正値)および第2位相での磁束密度(負値)の差分に基づく被測定交流磁場の強度を演算する。
【0031】
このとき、第1位相P1とπ/2(つまり、90度)との差の絶対値と、第2位相P2と3π/2(つまり、270度)との差の絶対値とが、互いに略同一となるように、第1位相および第2位相が設定される。なお、第1位相は、0度から180度までのいずれかであり、第2位相は、180度から360度までのいずれかである。つまり、被測定交流磁場が正弦波であると仮定すると、このように第1位相および第2位相が設定されると、第1位相での磁場強度の絶対値および第2位相での磁場強度の絶対値が互いに略同一となる。このような2つの位相での被測定交流磁場の向きは互いに逆になり磁場強度(つまり、磁束密度の絶対値)は略同じになるため、それらの平均値を使用することで、定常的な磁気ノイズ(例えば地磁気など)の影響が除去される。
【0032】
例えば、第1位相での被測定交流磁場の磁束密度をB0とし、第2位相での被測定交流磁場の磁束密度を-B0とし、定常的な磁気ノイズをBnoiseとすると、第1位相で測定される磁束密度B1は、B0+Bnoiseとなり、第2位相で測定される磁束密度B2は、-B0+Bnoiseとなるため、両者の差分は、2B0となる。したがって、磁場演算部22は、その差分の1/2を被測定交流磁場の強度として演算する。
【0033】
例えば、第1位相が90度とされ第2位相が270度とされ、その場合、第1位相での磁束密度と第2位相での磁束密度との差分の2分の1が被測定交流磁場の強度とされる。また、例えば、第1位相が80度とされ第2位相が260度とされる場合、第1位相での磁束密度および第2位相での磁束密度との差分の2分の1から、上述の比率に基づいて被測定交流磁場の強度が特定される。
【0034】
次に、実施の形態1に係る磁場測定装置の動作について説明する。
図2は、実施の形態1に係る磁場測定装置の動作について説明するタイミングチャートである。
【0035】
例えば
図2に示すように、測定制御部21は、ラムゼイパルスシーケンスに従って、(a)まず、照射装置4で、所定波長の励起光を光検出磁気共鳴部材1に照射して、光検出磁気共鳴部材1の電子スピンの状態を揃え、(b)その後、コイル2および高周波電源3で、第1のπ/2パルスのマイクロ波磁場を光検出磁気共鳴部材1に印加し、(c)その後、所定の時間間隔tt経過後、コイル2および高周波電源3で、第2のπ/2パルスのマイクロ波磁場を光検出磁気共鳴部材1に印加し、(d)その後、照射装置4で、射影測定用の測定光を照射するとともに、光検出磁気共鳴部材1の発する蛍光を受光装置5で受光しその受光光量(検出光量)を検出する。
【0036】
なお、時間間隔ttにおいては、外部磁場(ここでは被測定交流磁場)の磁束密度の時間積分に比例して電子スピンの向きが変化するため、検出光量から、外部磁場(ここでは被測定交流磁場)の磁束密度が導出可能となっている。
【0037】
さらに、π/2パルスの時間幅twは、電子スピンをπ/2だけ回転させる時間(数十ナノ秒程度)とされ、当該光検出磁気共鳴部材1のラビ振動の周期などから予め特定される。また、励起光の照射時間および測定光の照射時間は、それぞれ数マイクロ秒から数十マイクロ秒程度である。また、上述の時間間隔ttは、数百マイクロ秒以下とされる。また、励起光照射と第1のπ/2パルスとの時間間隔、および第2のπ/2パルスと励起光照射との時間間隔は、それぞれ、短いほど良い。
【0038】
その際、測定制御部21は、被測定交流磁場の第1位相P1が上述の第1のπ/2パルスおよび上述の第2のπ/2パルスとの間の期間、つまり、上述の時間間隔tt内となるように(例えば時間間隔ttの中心となるように)、励起光の照射、第1のπ/2パルスおよび第2のπ/2パルスの印加、並びに測定光の照射および検出光量の測定を行う。
【0039】
このようにして、第1位相P1に対して実行された測定シーケンスによって位相P1についての検出光量が得られ、磁場演算部22は、この検出光量に対応する磁束密度を演算する。また、同様にして第2位相P2に対して実行された測定シーケンスによって位相P2についての検出光量が得られ、磁場演算部22は、この検出光量に対応する磁束密度を演算する。
【0040】
ここでは、第1位相P1は略90度とされ、第2位相P2は略270度とされる。そして、磁場演算部22は、第1位相P1での磁束密度と第2位相P2での磁束密度との差分の2分の1を、被測定交流磁場の磁束密度の振幅として計算する。
【0041】
なお、第1位相P1および第2位相が略90度および略270度ではない場合には、上述のように、第1位相P1および第2位相P2の値に応じて、上述の比率に基づいて、この差分の2分の1から、被測定交流磁場の磁束密度の振幅を計算すればよい。また、第1位相P1および第2位相P2のうちの一方での測定シーケンスを省略し、1つの位相での検出光量から被測定交流磁場の磁束密度の振幅を計算するようにしてもよい。
【0042】
また、特定された被測定交流磁場の強度は、データとして図示せぬ記憶装置に記憶されたり、外部装置に送信されたり、表示装置で表示されたりするようにしてもよい。
【0043】
さらに、通常、上述の1測定シーケンスの長さは、被測定交流磁場の半周期以下とされる。約1kHz以下(特に、約100Hz以下)の低周波数の交流磁場が測定対象とされる。つまり、半周期が1測定シーケンスより短い高周波数の交流磁場は測定対象にはされない。
【0044】
なお、上述のスピンエコーシーケンスの場合、電子スピンのデコヒーレントの時間が1ミリ秒程度であるため、被測定交流磁場の周波数が約1kHzである場合には、通常、正確な磁場強度の測定が困難である。
【0045】
以上のように、上記実施の形態1によれば、コイル2は、被測定交流磁場内に配置される光検出磁気共鳴部材1にマイクロ波の磁場を印加する。高周波電源3は、コイル2にマイクロ波の電流を導通させる。照射装置4は、光検出磁気共鳴部材1に光を照射する。受光装置5は、光検出磁気共鳴部材1から発せられる光を検出する。そして、測定制御部21は、被測定交流磁場の所定位相に対する所定の直流磁場測定シーケンスを実行し、その直流磁場測定シーケンスにおいて、高周波電源3および照射装置4を制御し、受光装置5により検出された光の検出光量を特定する。磁場演算部22は、その所定位相および検出光量に基づいて、被測定交流磁場の強度を演算する。
【0046】
これにより、ODMRを利用して低周波の交流磁場が正確に測定される。
【0047】
実施の形態2.
【0048】
実施の形態2に係る磁場測定装置は、被測定交流磁場の変化が緩やかである場合(つまり、被測定交流磁場が10Hz以下(例えば2Hz)の低周波数を有する場合)には、1つの位相Piに対して、複数の直流磁場測定シーケンス(実施の形態1と同様の直流磁場測定シーケンス)を実行し、その1つの位相での被測定交流磁場の強度を導出する。その際、複数の直流磁場測定シーケンスが実行される位相Pij(j=1,・・・,n)の平均値が上述の1つの位相Piとなるように、複数の直流磁場測定シーケンスが実行され、複数の直流磁場測定シーケンスでそれぞれ得られた磁場強度の平均値が、その1つの位相での磁場強度とされる。
【0049】
したがって、実施の形態2では、測定制御部21は、被測定交流磁場の所定複数位相Pijに対する所定の直流磁場測定シーケンスを実行し、各直流磁場測定シーケンスにおいて、高周波電源3および照射装置4を制御し、受光装置5により検出された光の検出光量を特定する。そして、実施の形態2では、磁場演算部22は、上述の複数位相Pijの平均値を、測定点としての1つの位相Piとし、上述の複数位相Pijでの磁場強度の平均値に基づいて、被測定交流磁場の強度とする。
【0050】
図3は、実施の形態2に係る磁場測定装置の動作について説明するタイミングチャートである。例えば
図3に示すように、1つの測定点の位相Piに対して(
図3ではi=1)、測定制御部21は、n回(n>1)の測定シーケンス(ここでは、ラムゼイパルスシーケンス)を実行する。これにより、磁場演算部22によって、n回の測定シーケンスの位相Pij(j=1,・・・,n)に対応する磁場強度Bijが得られる。磁場演算部22は、それらの磁場強度Bijの平均値を計算し、その位相Piでの磁場強度Biとする。
【0051】
このようにして、実施の形態2では、1つの位相Piに対して複数の直流磁場測定シーケンスSq1~Sqnが実行される。例えば、実施の形態1のように、2つの位相P1,P2での磁場強度が測定される場合、2つの位相P1,P2のそれぞれに対して、上述のようなn回の直流磁場測定シーケンスが実行される。
【0052】
なお、例えば
図3に示すように、上述の複数位相Pijが、単調増加区間(位相0度~90度の区間および位相270度~360度の区間)と単調減少区間(位相90度~180度の区間および位相180度~270度の区間)の両方に跨がる場合、(a)上述の複数位相のうち、単調増加区間に属する位相Pijについて上述の位相平均値および磁場強度平均値を計算し、その位相平均値に対応する上述の比率に基づいて、磁場強度平均値から位相90度での磁場強度を演算し、(b)単調減少区間に属する位相Pijについて上述の位相平均値および磁場強度平均値を計算し、その位相平均値に対応する上述の比率に基づいて、磁場強度平均値から位相90度での磁場強度を演算し、(c)単調増加区間に属する位相に対応する、位相90度での磁場強度と単調減少区間に属する位相に対応する、位相90度での磁場強度との平均値を、被測定交流磁場の強度としてもよい。
【0053】
なお、実施の形態2に係る磁場測定装置のその他の構成および動作については実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
【0054】
以上のように、上記実施の形態2によれば、測定制御部21は、被測定交流磁場の所定複数位相Pijに対する所定の直流磁場測定シーケンスを実行し、各直流磁場測定シーケンスにおいて、高周波電源3および照射装置4を制御し、受光装置5により検出された光の検出光量を特定し、磁場演算部22は、上述の複数位相Pijの平均値を、1つの測定点としての1つの位相Piとし、上述複数位相Pijについての検出光量から上述の複数位相Pijでの磁場強度をそれぞれ演算し、上述の複数位相Pijでの磁場強度の平均値に基づいて、被測定交流磁場の強度とする。
【0055】
これにより、各位相Piでの磁場強度がより正確に測定され、ODMRを利用して低周波の交流磁場が正確に測定される。
【0056】
なお、上述の実施の形態に対する様々な変更および修正については、当業者には明らかである。そのような変更および修正は、その主題の趣旨および範囲から離れることなく、かつ、意図された利点を弱めることなく行われてもよい。つまり、そのような変更および修正が請求の範囲に含まれることを意図している。
【0057】
例えば、上記実施の形態1,2では、一例として、被測定交流磁場の波形を正弦波と仮定しているが、その代わりに、被測定交流磁場の波形が他の波形(三角波、のこぎり波など)であることが既知である場合には、そのような他の波形と仮定してもよい。つまり、その場合には、他の波形の形状に基づいて、上述の比率を導出すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、例えば、磁気測定装置および磁気測定方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 光検出磁気共鳴部材
2 コイル
3 高周波電源
4 照射装置
5 受光装置
21 測定制御部
22 磁場演算部