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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】共振装置及び共振装置製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/24 20060101AFI20221215BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
H03H9/24 A
B81B3/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021514797
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2019049978
(87)【国際公開番号】W WO2020213213
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2019079391
(32)【優先日】2019-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100126480
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 睦
(72)【発明者】
【氏名】後藤 雄一
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-232943(JP,A)
【文献】国際公開第2016/114237(WO,A1)
【文献】特開2012-156592(JP,A)
【文献】国際公開第2016/159016(WO,A1)
【文献】特開2005-094734(JP,A)
【文献】特開2004-135357(JP,A)
【文献】特開2013-143651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/00- 9/74
B81B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
輪郭振動する振動部と、
前記振動部の少なくとも一部を囲むように形成される保持部と、
第1方向に沿って延在し、前記振動部と前記保持部とを接続する支持部と、を備え、
前記振動部は、前記支持部との間に連結部が形成されるように、前記第1方向に直交する第2方向に沿って延在する貫通孔を含み、
前記貫通孔における前記第2方向の長さは、前記連結部における第1方向の長さより大き
前記連結部における第1方向の長さに対する前記貫通孔における前記第2方向の長さの比率が、6.0以上8.3以下である、
共振子。
【請求項2】
前記振動部は、複数の振動領域であって、各振動領域が隣り合う他の振動領域に対して逆位相で振動する、複数の振動領域を含む、
請求項に記載の共振子。
【請求項3】
前記振動部は、2以上の偶数の前記振動領域を含み、
前記支持部における前記第2方向の中心線は、該支持部が接続された前記振動領域における前記第2方向の中心線からずれている、
請求項に記載の共振子。
【請求項4】
前記支持部が接続された前記振動領域は、前記貫通孔を含み、
前記支持部における前記第2方向の中心線は、該支持部が接続された前記振動領域の前記貫通孔における前記第2方向の中心線に一致している、
請求項又はに記載の共振子。
【請求項5】
前記支持部における前記第2方向の中心線は、該支持部が接続された前記振動領域における変位最小点に一致している、
請求項からのいずれか一項に記載の共振子。
【請求項6】
前記貫通孔は、前記第2方向に沿って配置された複数の孔を含む、
請求項1からのいずれか一項に記載の共振子。
【請求項7】
請求項1からのいずれか一項に記載の共振子と、
蓋体と、を備える、
共振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共振子及び共振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて製造された共振装置が普及している。このデバイスは、例えば共振子を有する下側基板に、上側基板を接合して形成される。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数の振動部が設けられており、かつ輪郭振動の高調波で振動する振動板と、振動板に、支持部の第1の端部が連結されており、支持部の第2の端部につなげられており、かつ振動板を囲むように枠状の基部が設けられており、屈曲振動部を設けるように、基部に、支持部が延びる方向と交叉する方向に延びるスリットが形成されており、屈曲振動部の両端が基部の残りの部分に連ねられており、連ねられている部分が屈曲振動部の固定端とされており、屈曲振動部の支持部の第2の端部に連結されている部分と、屈曲振動部の固定端までの長さが、振動板における固有振動の周波数に対応する該屈曲振動の波長をλとしたとき、λ/4とされている、振動装置が開示されている。この振動装置では、屈曲振動部を設けるように基部にスリットを形成することにより、振動板の振動を閉じ込め、振動特性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/006433号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、振動板を囲み、振動板を保持する基部(保持部)にスリット(孔)を形成する場合、スリット(孔)を形成しない場合と比較して、寸法がおおきくなってしまっていた。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、寸法の増大を抑制しつつ、共振子特性を向上させることのできる共振子及び共振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る共振子は、輪郭振動する振動部と、振動部の少なくとも一部を囲むように形成される保持部と、第1方向に沿って延在し、振動部と保持部とを接続する支持部と、を備え、振動部は、支持部との間に連結部が形成されるように、第1方向に直交する第2方向に沿って延在する貫通孔を含み、貫通孔における第2方向の長さは、連結部における第1方向の長さより大きい。
【0008】
本発明の他の一側面に係る共振装置は、前述した共振子と、蓋体と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、寸法の増大を抑制しつつ、共振子特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る共振装置の構造を概略的に示す分解斜視図である。
図2図2は、図1に示した共振子の構造を概略的に示す平面図である。
図3図3は、図2に示した共振子のIII-III線に沿った断面の構成を概略的に示す断面図である。
図4図4は、図3に示した貫通孔の周辺の構成を概略的に示す要部拡大平面図である。
図5図5は、ずれ量がゼロのときの貫通孔におけるX軸方向の長さと連結部28におけるY軸方向の長さとの関係の一例を示すグラフである。
図6図6は、ずれ量が3μmのときの貫通孔におけるX軸方向の長さと連結部におけるY軸方向の長さとの関係の一例を示すグラフである。
図7図7は、ずれ量が5μmのときの貫通孔におけるX軸方向の長さと連結部におけるY軸方向の長さとの関係の一例を示すグラフである。
図8図8は、ずれ量が7.5μmのときの貫通孔におけるX軸方向の長さと連結部におけるY軸方向の長さとの関係の一例を示すグラフである。
図9図9は、支持部におけるX軸方向の中心線と内側の振動領域におけるX軸方向の中心線とのずれ量とその向きとの関係の一例を示すグラフである。
図10図10は、図4に示した貫通孔の周辺の構成の第1変形例を示す要部拡大平面図である。
図11図11は、図4に示した貫通孔の周辺の構成の第2変形例を示す要部拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の構成要素は同一又は類似の符号で表している。図面は例示であり、各部の寸法や形状は模式的なものであり、本発明の技術的範囲を当該実施形態に限定して解するべきではない。
【0012】
<実施形態>
まず、図1を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る共振装置の概略構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る共振装置10の構造を概略的に示す分解斜視図である。
【0013】
図1に示すように、共振装置10は、例えば平たい直方体の輪郭形状を有している。共振装置10は、下側基板11と、上側基板12と、下側基板11及び上側基板12の間に挟み込まれて保持される共振子13と、を備える。なお、下側基板11及び上側基板12は、本発明の「蓋体」の一例に相当する。
【0014】
以下において、共振装置10の各構成について説明する。なお、以下の説明では、共振装置10のうち、上側基板12が設けられている側を上(又は表)、下側基板11が設けられている側を下(又は裏)、とする。
【0015】
共振子13は、MEMS技術を用いて製造されるMEMS振動子である。共振子13は、保持部14と、振動部15と、保持部14と振動部15とを互いに接続する2組の支持部16a、16a及び16b、16bと、を備えている。
【0016】
保持部14は、振動部15の少なくとも一部を囲むように形成されている。具体的には、保持部14は、図1の直交座標系におけるXY平面に沿って、例えば矩形の枠状に広がっている。保持部14は、X軸に平行に延びる1組の長辺の枠体14a、14aと、Y軸に平行に延びてその両端で枠体14a、14aの両端にそれぞれ接続される1組の短辺の枠体14b、14bと、を備えている。
【0017】
振動部15は、保持部14の内側に配置されており、保持部14と同様に、例えばXY平面に沿って矩形に広がっている。振動部15は、X軸方向に沿って互いに平行に延びる長尺の第1辺及び第2辺を有している。振動部15の第1辺及び第2辺は、それぞれ枠体14a、14aに略平行に延びている。
【0018】
1組の支持部16a、16a及び1組の支持部16b、16bは、それぞれ、Y軸に略平行な一直線上で延びて枠体14a、14aと振動部15とを互いに接続する。
【0019】
下側基板11は、XY平面に沿って平板状に広がっている。下側基板11の上面には、例えば平たい直方体形状の凹部17が形成されている。凹部17は、振動部15の振動空間の一部を形成する。
【0020】
上側基板12は、下側基板11と同様に、XY平面に沿って平板状に広がっている。上側基板12の下面には、例えば平たい直方体形状の凹部18が形成されている。凹部18は、振動部15の振動空間の一部を形成する。この振動空間では、気密に封止されて真空状態が維持される。下側基板11及び上側基板12は、例えばシリコン(Si)基板を用いて形成されている。
【0021】
次に、図2から図4を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る共振子の概略構成について説明する。図2は、図1に示した共振子13の構造を概略的に示す平面図である。図3は、図2に示したIII-III線に沿った断面の構成を概略的に示す断面図である。図4は、図3に示した貫通孔27の周辺の構成を概略的に示す要部拡大平面図である。
【0022】
図2に示すように、振動部15は、所定の方向、つまり、X軸方向に配列される4つの振動領域15a~15dを備えている。各振動領域15a~15dは、図2では点線で仕切られている。本実施形態では、各振動領域15a~15dは、X軸方向においてそれぞれ同一の幅を有しており、かつ、Y軸方向においてそれぞれ同一の長さを有している。すなわち、各振動領域15a~15dは、X軸方向に4等分された領域を規定している。
【0023】
前述したように、振動部15は、2組の支持部16a、16a及び16b、16bによって保持部14に支持されている。一方の1組の支持部16a、16aが、外側の振動領域15aよりも内側の振動領域15bと枠体14a、14aとを互いに接続している。他方の1組の支持部16b、16bが、外側の振動領域15dよりも内側の振動領域15cと枠体14a、14aとを互いに接続している。
【0024】
図3に示すように、振動部15は、シリコン(Si)酸化膜21と、シリコン(Si)酸化膜21上に積層された活性層、つまり、シリコン(Si)層22と、シリコン(Si)層22上に積層された圧電薄膜23と、圧電薄膜23の下面に形成された、例えば1つの下側電極膜24と、圧電薄膜23の上面に形成された複数の上側電極膜25と、から形成されている。なお、シリコン(Si)酸化膜21は、圧電薄膜23の上面及び下面の少なくとも一方に形成されてもよい。
【0025】
シリコン(Si)酸化膜21は、共振子13の周波数温度特性を補正するための膜であり、例えばSiOを用いて形成される。シリコン(Si)酸化膜21は、シリコン(Si)層22の表面の酸化や、化学気相蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)によって、シリコン(Si)層22の表面に形成される。また、シリコン(Si)酸化膜21には、SiOに代えて、Si層(a及びbは正の整数)の適宜の組成を含む酸化ケイ素材料を用いてもよい。
【0026】
シリコン(Si)層22は、縮退状態であるn型のシリコン(Si)半導体から形成されており、n型ドーパントとしてP(リン)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)等を含む。縮退したn型シリコン(Si)の抵抗値は、例えば16mΩ・cm未満であり、より好ましくは1.2mΩ・cm以下である。
【0027】
下側電極膜24は、すべての振動領域15a~15dにまたがって形成されており、すべての振動領域15a~15dで共通の電極となっている。この下側電極膜24は浮き電極として形成されている。上側電極膜25は、各振動領域15a~15dに1つ形成されている。下側電極膜24及び上側電極膜25は、結晶構造が体心立法構造である金属が用いられている。具体的には、下側電極膜24及び上側電極膜25は、Mo(モリブデン)、タングステン(W)等を用いて形成される。なお、振動領域15a~15dに対して1つの下側電極膜24に代えて、振動領域15a~15dのそれぞれに対して1つの下側電極膜24が形成されてもよい。
【0028】
圧電薄膜23は、印加された電圧を振動に変換する圧電体の薄膜である。圧電薄膜23は、結晶構造がウルツ鉱型六方晶構造を持つ材質から形成されており、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)、酸化亜鉛(ZnO)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)等の窒化物や酸化物を主成分とすることができる。なお、窒化スカンジウムアルミニウムは、窒化アルミニウムにおけるアルミニウムの一部がスカンジウムに置換されたものであり、スカンジウムの代わりにマグネシウム(Mg)及びニオブ(Nb)やマグネシウム(Mg)及びジルコニウム(Zr)等の2元素で置換されていてもよい。
【0029】
また、圧電薄膜23は、シリコン(Si)層22に対してc軸、つまり、その厚さ方向(Z軸方向)に沿って配向している。
【0030】
各上側電極膜25には、隣り合う上側電極膜25とは逆位相になるように、厚さ方向に交番電界が印加される。そのため、各振動領域15a~15dが機械的に結合し、それによって振動部15は、全体として高調波で輪郭振動する。すなわち、振動部15には、X軸方向において、振動部15が伸びている状態と振動部15が縮んでいる状態とを繰り返す幅拡がりモードの振動が生じる。
【0031】
なお、本明細書において、「輪郭振動」とは、拡がり振動、幅方向(X軸方向)の寸法が変化する幅拡がり振動、及び長さ方向(Y軸方向)に伸縮する振動の総称として用いるものとする。
【0032】
図2に示すように、振動部15は、4つの貫通孔27を含んでいる。各貫通孔27は、支持部16a、16a及び支持部16b、16bに対応する位置に設けられている。換言すれば、支持部16a、16aが接続された振動領域15b及び支持部16b、16bが接続された振動領域15cは、貫通孔27を含んでいる。各貫通孔27は、Z軸方向に振動部15を貫通しており、X軸方向に沿って延在している。また、各貫通孔27は、例えばX軸方向に長尺で延びる矩形の輪郭を有している。
【0033】
図4に示すように、振動部15において、貫通孔27と支持部16aとの間には、連結部28が形成される。連結部28は、Y軸方向に直交するX軸方向に長尺で延びている。
【0034】
このように、振動部15が、支持部16a、16a及び支持部16b、16bとの間に連結部28が形成されるように、X軸方向に沿って延在する貫通孔27を含むことにより、貫通孔を保持部や、保持部と振動部との間に設ける場合と比較して、共振子13の寸法を維持することが可能となる。従って、共振子13の寸法の増大を抑制することができる。
【0035】
ここで、振動部15の振動が連結部28に伝達されると、振動は連結部28において主にY軸方向における屈曲振動に変換される。図4に一点鎖線で示す連結部28と振動部15との間の界面が、当該屈曲振動の固定端になるため、連結部28における屈曲振動は、この界面で反射して、振動を連結部28に閉じ込める。その結果、振動部15の振動が、支持部16aを通じて枠体14aに伝達することを効果的に抑制することができる。
【0036】
貫通孔27は、平面視において、X軸方向の長さSLと、長さSLより小さいY軸方向の長さSwと、を有している(長さSL>長さSw)。連結部28は、X軸方向の長さが貫通孔27おけるX軸方向の長さSLと略同一であり、Y軸方向の長さSdを有している。貫通孔27におけるX軸方向の長さSLは、連結部28におけるY軸方向の長さSdより大きい。
【0037】
より詳細には、貫通孔27におけるX軸方向の長さSLは、連結部28におけるY軸方向の長さSdに対して十分に大きいことが好ましい。
【0038】
なお、図4に示した貫通孔27以外の貫通孔についても、支持部16a又は支持部16b、16bとの間に連結部28が形成されており、同様の構成であるため、図示及びその説明を省略する。
【0039】
ここで、図5を参照しつつ、振動部に含まれる貫通孔及び連結部の効果について説明する。なお、図5においては、後述するずれ量Spはゼロ(なし)として説明する。図5は、ずれ量Spがゼロのときの貫通孔27におけるX軸方向の長さSLと連結部28におけるY軸方向の長さSdとの関係の一例を示すグラフである。図5において、横軸は、連結部28におけるY軸方向の長さSdに対する貫通孔27におけるX軸方向の長さSLの比率SL/Sdである。縦軸は、電気機械結合係数k及びQ値Qを用いて表され、共振子特性の指標となる値kQである。図5における各プロットの比率SL/Sdは、小さい方から順に、5.0、6.7、8.3である。また、図5では、比較のために、貫通孔がない場合(孔無し)における値kQを破線及び白丸で示している。
【0040】
図5に示すように、貫通孔27におけるY軸方向の長さSwを、2μmから5μmまで変化させた。その結果、共振子特性において、貫通孔におけるY軸方向の長さSwの影響は、少ないことが分かる。一方、5以上の比率SL/Sdでは、貫通孔がない場合と比較して、値kQが大きくなっており、共振子特性を向上できることが分かる。
【0041】
このように、貫通孔27におけるX軸方向の長さSLが、連結部28におけるY軸方向の長さSdより大きいことにより、振動部15が振動したときに連結部28が変形しやすくなり、振動部15の振動を閉じ込めることができる。従って、振動部15から保持部14への振動の伝達を抑制することができ、共振子13の共振子特性を向上させることできる。
【0042】
図2に示すように、各組の支持部16a、16a及び16b、16bにおいて、X軸方向の中心線L1は、内側の振動領域15b、15cにおけるX軸方向の中心線L2から、各々外側に向かって互いに離れる方向にずれて配置されている。
【0043】
前述したように、振動領域15bの両側には振動領域15a、15cが隣り合い、振動領域15cの両側には振動領域15b、15dが隣り合っている。本発明の発明者らは、内側の振動領域15b、15cでは、それぞれ隣り合う両側の振動領域の変位の影響を受けることによって、振動領域15b、15cの実際の変位最小点(歪み最大点)が、本来の変位最小点(歪み最大点)があるとされる振動領域15b、15cのX軸方向の中心線L2上から、それぞれ振動部15の内側及び外側に向かってずれることを見出した。
【0044】
よって、各組の支持部16a、16a及び16b、16bのそれぞれにおいて、X軸方向の中心線L1は、内側の振動領域15b、15cにおけるX軸方向の中心線L2から、各々内側もしくは外側に向かって互いにずれていることが好ましい。
【0045】
同様に、内側の振動領域15b、15cの貫通孔27におけるX軸方向の中心線は、振動領域15b、15cにおけるX軸方向の中心線L2から、各々内側もしくは外側に向かって互いにずれていることが好ましい。この場合、各組の支持部16a、16a及び16b、16bのX軸方向の中心線L1は、内側の振動領域15b、15cの貫通孔27におけるX軸方向の中心線に一致する。
【0046】
その結果、各組の支持部16a、16a及び16b、16bのX軸方向の中心線L1が、振動部15の内側もしくは外側、つまり、実際の変位最小点に向かってずらされて、実際の変位最小点に位置合わせされることが好ましい。これにより、支持部16a、16bによって支持されることによる振動領域15b、15cの振動の損失を、最小限に抑えることができる。
【0047】
また、内側の振動領域15b、15cにおいて、上側電極膜25のX軸方向の中心線が振動部15の内側もしくは外側、つまり、実際の変位最小点に向かってずらされて、上側電極膜25が実際の歪み最大点を中心に形成されることが好ましい。これにより、振動部15の振動効率を高めることができ、共振子13の共振子特性をさらに向上させることができる。
【0048】
ここで、図6から図8を参照しつつ、支持部におけるX軸方向の中心線が振動領域におけるX軸方向の中心線からずれている効果について説明する。なお、図6から図8においては、中心線L1と中心線L2とのずれを図4に示すずれ量Spを用いて表す。図6は、ずれ量Spが3μmのときの貫通孔27におけるX軸方向の長さSLと連結部28におけるY軸方向の長さSdとの関係の一例を示すグラフである。図7は、ずれ量Spが5μmのときの貫通孔におけるX軸方向の長さSLと連結部28におけるY軸方向の長さSdとの関係の一例を示すグラフである。図8は、ずれ量Spが7.5μmのときの貫通孔27におけるX軸方向の長さSLと連結部28におけるY軸方向の長さSdとの関係の一例を示すグラフである。図6から図8において、横軸は、連結部28におけるY軸方向の長さSdに対する貫通孔27におけるX軸方向の長さSLの比率SL/Sdである。縦軸は、共振子特性の指標となる値kQである。なお、図6から図8における各プロットの比率SL/Sdは、小さい方から順に、5.0、6.7、8.3である。また、図6から図8では、比較のために、貫通孔がない場合の値kQを破線及び白丸で示している。
【0049】
図6から図8に示すように、各貫通孔27におけるY軸方向の長さSwを、2μmから5μmまで変化させた。その結果、共振子特性において、ずれ量Spが大きいほど共振子特性が向上する傾向であることが分かる。
【0050】
このように、支持部16a、16bにおけるX軸方向の中心線L1が、支持部16a、16bが接続された内側の振動領域15b、15cにおけるX軸方向の中心線L2からずれていることにより、共振子13の共振子特性をさらに向上させることができる。
【0051】
また、支持部16a、16bにおけるX軸方向の中心線L1が、支持部16a、16bが接続された内側の振動領域15b、15cの貫通孔27におけるX方向の中心線に一致していることにより、共振子13の共振子特性をさらに向上させることができる。
【0052】
また、図5と同様に、5以上の比率SL/Sdでは、貫通孔がない場合と比較して、共振子特性を向上できることが分かる。特に、比率SL/Sdが6以上であるときに、共振子特性の向上が顕著である。
【0053】
このように、連結部28におけるY軸方向の長さSdに対する貫通孔27におけるX軸方向の長さSLの比率SL/Sdが6以上であることにより、共振子13の共振子特性をさらに向上させることができる。
【0054】
次に、図9を参照しつつ、支持部におけるX軸方向の中心線と振動領域におけるX軸方向の中心線とのずれの向きについて説明する。なお、図9においては、中心線L1が中心線L2から振動部15の内側にずれている場合のずれ量Spを正の値、中心線L1が中心線L2から振動部15の外側にずれている場合のずれ量Spを負の値とする。図9は、支持部16a、16bにおけるX軸方向の中心線L1と内側の振動領域15b、15cにおけるX軸方向の中心線L2とのずれ量Spとその向きとの関係の一例を示すグラフである。図9において、横軸はずれ量Spであり、縦軸は共振子特性の指標となる値kQである。
【0055】
図9に示すように、ずれ量Spがゼロ、つまり、支持部16a、16bにおけるX軸方向の中心線L1が内側の振動領域15b、15cにおけるX軸方向の中心線L2に一致しているときに、共振子特性が最も低下している。一方、ずれ量Spが正の値、つまり、支持部16a、16bにおけるX軸方向の中心線L1が内側の振動領域15b、15cにおけるX軸方向の中心線L2から振動部15の内側にずれているとき、並びに、ずれ量Spが負の値、つまり、支持部16a、16bにおけるX軸方向の中心線L1が内側の振動領域15b、15cにおけるX軸方向の中心線L2から振動部15の外側にずれているときの両方において、共振子特性が向上している。よって、中心線L1と中心線L2とのずれの向きによらず、共振子特性が向上する傾向であることが分かる。
【0056】
本実施形態では、4つの振動領域15a~15dを含む振動部15を、2組の支持部16a、16a及び16b、16bによって支持する例を示したが、これに限定されるものではない。例えば、4つの振動領域15a~15dを含む振動部15は、4組の支持部によって支持されてもよい。この場合、各組の支持部は、振動領域15a~15dのそれぞれを枠体14a、14aに接続する。また、振動部15の各振動領域15a~15dに、各組の支持部との間に連結部28を形成するように、8つの貫通孔27が設けられる。
【0057】
また、本実施形態では、振動部15が4つの振動領域15a~15dを含む例を示したが、これに限定されるものではなない。例えば、振動部15は、X軸方向に配列される5つの振動領域を含んでいてもよい。この場合、振動領域15bと振動領域15cとの間、つまり、振動部15におけるX軸方向の中央に、振動領域が追加される。また、振動部15は、1組の支持部16a、16aによって支持され、当該支持部16a、16aは、追加された中央の振動領域に接続する。また、当該振動領域に、1組の支持部16a、16aとの間に連結部28を形成するように、2つの貫通孔27が設けられる。
【0058】
さらに、本実施形態では、各貫通孔27が、1つの孔であり、平面視において矩形状の形状を有する例を示したが、これに限定されるものではない。例えば、各貫通孔27は、矩形以外の形状であってもよいし、複数の孔で構成されていてもよい。
【0059】
(第1変形例)
図10は、図4に示した貫通孔27の周辺の構成の第1変形例を示す要部拡大平面図である。なお、第1変形例において、図4に示した貫通孔27と同一の構成については、同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。また、同様の構成による同様の作用効果については、逐次言及しない。
【0060】
図10に示すように、貫通孔27Aは、平面視における形状が矩形状ではなく、X軸方向に長尺で延びる楕円形状である。貫通孔27Aと支持部16aとの間には、連結部28Aが形成される。連結部28Aは、Y軸方向に直交するX軸方向に長尺で延びている。連結部28Aと振動部15との間の界面は、図10において一点鎖線で示されている。
【0061】
(第2変形例)
図11は、図4に示した貫通孔27の周辺の構成の第2変形例を示す要部拡大平面図である。なお、第2変形例において、図4に示した貫通孔27と同一の構成については、同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。また、同様の構成による同様の作用効果については、逐次言及しない。
【0062】
図11に示すように、貫通孔27Bは、1つの孔ではなく、複数の孔で構成されている。各孔は、X軸方向に沿って互いに離間して配置されている。
【0063】
貫通孔27BにおけるY軸方向の長さSwは、各孔の直径と略同一であり、貫通孔27BにおけるX軸方向の長さSLは、複数の孔におけるX軸方向の一端(左端)から他端(右端)までの距離である。貫通孔27Bと支持部16aとの間には、連結部28Bが形成される。連結部28Bは、Y軸方向に直交するX軸方向に長尺で延びている。連結部28BおけるY軸方向の長さSdは、振動部15の外周と当該外周に最も近い孔の一端(上端)との間の距離である。連結部28Bと振動部15との間の界面は、図11において一点鎖線で示されている。
【0064】
以上、本発明の例示的な実施形態について説明した。本発明の一実施形態に係る共振子は、振動部は、支持部との間に連結部が形成されるように、X軸方向に沿って延在する貫通孔を含む。これにより、貫通孔を保持部や、保持部と振動部との間に設ける場合と比較して、共振子の寸法を維持することが可能となる。従って、共振子の寸法の増大を抑制することができる。また、貫通孔におけるX軸方向の長さは、連結部におけるY軸方向の長さより大きい。これにより、振動部が振動したときに連結部が変形しやすくなり、振動部の振動を閉じ込めることができる。従って、振動部から保持部への振動の伝達を抑制することができ、共振子の共振子特性を向上させることできる。
【0065】
また、前述した共振子において、連結部におけるY軸方向の長さに対する貫通孔におけるX軸方向の長さの比率は、6以上である。これにより、共振子の共振子特性をさらに向上させることができる。
【0066】
また、前述した共振子において、振動部は、複数の振動領域であって、各振動領域が隣り合う他の振動領域に対して逆位相で振動する、複数の振動領域を含む。これにより、共振子特性が向上した、高調波で輪郭振動する共振子を容易に実現することができる。
【0067】
また、前述した共振子において、支持部におけるX軸方向の中心線は、当該支持部が接続された内側の振動領域におけるX軸方向の中心線からずれている。これにより、共振子13の共振子特性をさらに向上させることができる。
【0068】
また、前述した共振子において、支持部におけるX軸方向の中心線は、支持部が接続された内側の振動領域の貫通孔におけるX方向の中心線に一致している。これにより、共振子の共振子特性をさらに向上させることができる。
【0069】
また、前述した共振子において、支持部におけるX軸方向の中心線は、支持部が接続された振動領域における変位最小点に一致している。これにより、支持部によって支持されることによる振動領域の振動の損失を、最小限に抑えることができる。
【0070】
また、前述した共振子において、貫通孔は、X軸方向に沿って配置された複数の孔を含む。この場合であっても、貫通孔が1つの孔であるときと同様の効果を得ることができる。
【0071】
本発明の一実施形態に係る共振装置は、前述した共振子と、蓋体と、を備える。これにより、寸法の増大を抑制しつつ、共振子特性を向上させる共振装置を容易に実現することができる。
【0072】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更/改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。すなわち、各実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、実施形態が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、実施形態は例示であり、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせが可能であることは言うまでもなく、これらも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0073】
10…共振装置、11…下側基板、12…上側基板、13…共振子、14…保持部、14a,14b…枠体、15…振動部、15a,15b,15c,15d…振動領域、16a,16b…支持部、17,18…凹部、21…シリコン(Si)酸化膜、22…シリコン(Si)層、23…圧電薄膜、24…下側電極膜、25…上側電極膜、27,27A,27B…貫通孔、28,28A,28B…連結部、k…電気機械結合係数、L1,L2…中心線、Q…Q値、Sd…長さ、SL…長さ、Sw…長さ、Sp…ずれ量。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11