(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】燻煙加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23B 4/044 20060101AFI20221215BHJP
A23B 4/00 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
A23B4/044 503A
A23B4/00 505Z
(21)【出願番号】P 2019002566
(22)【出願日】2019-01-10
【審査請求日】2021-10-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)平成30年3月26日に平成30年度日本水産学会春季大会講演要旨集、第104頁にて公開 (2)平成30年3月27日に平成30年度日本水産学会春季大会において公開 (3)平成30年5月18日にウェブサイト(http://fish-exp.pref.shizuoka.jp/03research/pdf/2018/h30/h30-05-1.pdf)にて公開 (4)平成30年11月14日に平成30年度 水産利用関係研究開発推進会議 利用加工技術部会研究会 資料、第42・43頁にて公開 (5)平成30年11月15日に平成30年度 水産利用関係研究開発推進会議において公開 (6)平成30年12月28日にウェブサイト(http://fish-exp.pref.shizuoka.jp/07event/data/65th_kakouseminar.pdf)にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】590002389
【氏名又は名称】静岡県
(74)【代理人】
【識別番号】100098936
【氏名又は名称】吉川 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100098888
【氏名又は名称】吉川 明子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 進二
(72)【発明者】
【氏名】高木 毅
(72)【発明者】
【氏名】岡本 一利
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-052654(JP,A)
【文献】特開2011-250735(JP,A)
【文献】特開昭63-164838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温燻乃至熱燻による燻煙工程で食材が加工されてなる燻煙加工食品の製造方法において、
30℃以上の温熱水乃至水蒸気への晒しによる溶解乃至溶出と、冷却及び/または乾燥による皮膜化が可逆的に実現される、食用可能な皮膜原料を使用し、
前記食材の表面に前記皮膜原料を膜化させて皮膜を形成した後に、前記燻煙工程に供された工程済み食品の前記皮膜を溶解乃至溶出させて、前記食材表面から付着した燻煙に含まれる有害成分と共に除去することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載した燻煙加工食品の製造方法において、
燻煙工程として、鰹節を食材とする焙乾工程を実施することを特徴とする製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載した燻煙加工食品の製造方法において、
皮膜原料が、溶解乃至溶出状態から室温で皮膜化することを特徴とする製造方法。
【請求項4】
請求項1から3いずれかに記載した燻煙加工食品の製造方法において、
皮膜原料が、寒天、カラギーナン、ペクチンまたはデンプンを主成分として構成されていることを特徴とする製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載した燻煙加工食品の製造方法において、
皮膜原料が、室温でゲル化するものであることを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燻煙に含まれる有害成分の低減に着目した燻煙加工食品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有害成分の食品表面への付着については従来から問題になっているが、特に、鰹節や燻製品等の燻煙処理が施される加工食品については、炭火調理食品と並んで、発がん性のあるPAHを高濃度に含む可能性が高いと指摘されている。
PAHは、多環芳香族炭化水素類(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons)の略称で、木材を燃焼した際に生成する化学成分であり、既に、EUや台湾・中国・韓国等では、食品に含まれるPAH濃度の上限が数値規制されており、これらの国々へ燻煙処理が施された加工食品を輸出する際のネックとなっている。
【0003】
一方、国内では今のところ上記のような規制は行われていないが、国のレギュラトリーサイエンス研究推進計画の中で、PAHは行政措置(規制)検討の必要性が高い物質に位置づけられており、計画書では製造事業者が実行可能な低減技術の開発が必要と明記されている。
【0004】
これに対して種々の対策が模索されているが、そのうちの一つが、特許文献1で記載のように、低温発煙によりPAHの生成を抑えた燻煙を用いる方法である。
このPAH低減方法は燻煙中におけるPAHの発生を抑制するもので、根本的な解決方法であるためその効果も大きい。
而して、国内で代表的な燻煙加工食品である鰹節については、高温発煙による焙乾工程を経ることで独特の香りや風味が生まれており、上記の低温発煙方法では、風味や香りを再現することが難しい。
また、低温発煙には、一定温度(425℃)以下で発煙を行う専用の発煙装置が必要であるが、鰹節等の伝統食品の製造業者には家内工業的なものが多いことから、風味等を再現し易くなっていたとしても、発煙装置の導入にはコスト負担の痛みを強いることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、鰹節のような燻煙加工食品についても製造業者が実際に容易に採用できるよう、従来品の風味等の品質、製造方法を大きく変えること無く、比較的簡易にPAH濃度を低減できる方法を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、試行錯誤の結果、風味や香りの強さは成分の付着量に比例するわけではなく、食品によっては付着量が閾値を超えれば、十分な風味等を感じられることに気付き、その上で、一時的に皮膜を形成し、燻煙工程中にその皮膜にPAHの一部を付着させることにより食材への付着量を減らすことを思い付き、膨大な皮膜の素材候補から、食しても安全であること、皮膜の形成及び除去を容易に行うことができること、燻煙工程では安定した皮膜として存在できること、そして、被覆対象となる食材の風味等の品質を有意的に損なわないものであることを満たすものを選別する基準を見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の請求項1の発明は、温燻乃至熱燻による燻煙工程で食材が加工されてなる燻煙加工食品の製造方法において、30℃以上の温熱水乃至水蒸気への晒しによる溶解乃至溶出と、冷却及び/または乾燥による皮膜化が可逆的に実現される、食用可能な皮膜原料を使用し、前記食材の表面に前記皮膜原料を膜化させて皮膜を形成した後に、前記燻煙工程に供された工程済み食品の前記皮膜を溶解乃至溶出させて、前記食材表面から付着した燻煙に含まれる有害成分と共に除去することを特徴とする製造方法である。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載した燻煙加工食品の製造方法において、燻煙工程として、鰹節を食材とする焙乾工程を実施することを特徴とする製造方法である。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載した燻煙加工食品の製造方法において、皮膜原料が、溶解乃至溶出状態から室温で皮膜化することを特徴とする製造方法である。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1から3のいずれかに記載した燻煙加工食品の製造方法において、皮膜原料が、寒天、カラギーナン、ペクチンまたはデンプンを主成分として構成されていることを特徴とする製造方法である。
【0014】
請求項5の発明は、請求項4に記載した燻煙加工食品の製造方法において、皮膜原料が、室温でゲル化するものであることを特徴とする製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の皮膜を利用した製造方法によれば、従来の製造設備や製造方法を大幅に変えることなく、従来品と同様な風味等の品質を有意的に維持しながら、PAHの食材への付着量を確実に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例で実施した皮膜形成効果を確認するための試験方法のイメージ説明図である。
【
図2】
図1の試験方法で寒天皮膜を利用した場合のPAH低減効果を示すグラフである。
【
図3】
図1の試験方法でデンプン皮膜を利用した場合のPAH低減効果を示すグラフである。
【
図4】鰹節を本発明の方法(寒天皮膜を使用)で実際に製造した場合の、各段階における食材の状態を示す写真である。
【
図5】
図4に続く、各段階における食材の状態を示す写真である。
【
図6】
図5に続く、各段階における食材の状態を示す写真である。
【
図7】鰹節を従来の皮膜を使用せず、湯通しもしない方法で実際に製造した場合の削り節の状態を示す写真である。
【
図8】
図4~7の実施例において、雌節と雄節とで区別したときのPAH低減効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態に係る製造方法について、手順に従って説明する。
【0018】
先ず、原材料について説明する。
(食材)
一般的な燻煙工程では、燻煙雰囲気の温度によって、冷燻、温燻、熱燻と分かれており、燻煙加工食品の種類に応じて使い分けられているが、本発明が適用できる食材としては、後述するように皮膜の特徴的な利用を前提としていることから、それにより品質に影響を受けないもの、すなわち温燻乃至熱燻による燻煙工程で加工される予定のものである。
具体的には、燻煙工程後に温熱水による洗浄工程のある加熱ハム・ソーセージや削り易くするための蒸気処理(軟化処理)を行う節類(鰹節、さば節など)が適している。また、温水につけても大きな品質変化がない、茹で卵、ナッツ類、たくわん(いぶりがっこ)等、肉類以外にも応用が可能である。
【0019】
(皮膜原料)
本発明が適用できる皮膜原料は、
(1)食しても安全であること:、且つ
(2)皮膜化が可能なこと:
を前提として、更に、製造対象が燻煙加工食品であることを鑑みて、
(3)燻煙工程の前後では皮膜の形成及び除去を容易に行うことができること、燻煙工程中は安定した皮膜として存在できること:
の条件を全て満たすものである。
そして、好ましくは、
(4)食材の風味等に影響を与えないものであることである。
【0020】
上記(2)の「皮膜化」は、<1>一定の(濃度及び温度)条件下で実現された可溶化状態で、食品表面に付着する粘性と流動性を有すること、<2>流動性が低下すると、食品表面に固化定着することを意味する。なお、皮膜については、上記食品の表面を隙間なく完全に被覆することまでは要求されていない。特に、食材が鰹節の場合には、燻煙工程では水分の除去も意図されていることから、むしろ食材全体が完全に封止されるような皮膜は好ましくない。
【0021】
上記(3)は、具体的には、30℃以上の温熱水乃至水蒸気への晒しによる溶解乃至溶出と、冷却及び/または乾燥による皮膜化が可逆的に実現されるものであることを意味する。すなわち、食材表面に定着固化した皮膜が30℃以上の温熱水乃至水蒸気への晒しにより再び溶解乃至溶出することを意味する。対象となる皮膜原料の種類やグレードにもよるが概して溶解温度が30℃以上であることから、下限を30℃と設定している。また、溶媒を水にしたのは完成品たる燻煙加工食品の呈味に影響を与えないためである。
好ましくは、室温で皮膜化するものである。作業性の便宜からである。
更に、より好ましくは、溶解乃至溶出状態から室温で皮膜化する途中でゲル化するものである。途中でゲル化することで固着性が発現し、皮膜がより強力に食材表面に定着するからである。
【0022】
候補として、食品素材である寒天、カラギーナン、ペクチン及びデンプン(オブラート)が先ず挙げられる。カラギーナンは、寒天の主成分であり食品添加物として入手が容易なものである。ペクチンは、カラギーナンと同じ植物性増粘多糖類で、同じ性質をもっている。
これらは、上記(1)、(2)を満足する。
これらは、上記(3)を満足する。更に、いずれも、好ましいことに、室温で皮膜化することから、室温までの冷却で済むので冷蔵庫などの設備を必要とせず、扱い易くなっている。
特に、寒天を使用した場合には、ゲル化能による固着性の発現を利用して、燻煙工程でも食材への定着に影響されない強力な皮膜を造り出すことができる。
デンプンはゲル化能を有さないが、デンプン糊として十分な粘着性を有し、室温まで冷却した後に乾燥することで、ある程度の定着性を確保できる。
これらは、上記(4)を満足する。特に、寒天、デンプンは、無味無臭に近いことからも好ましい。
【0023】
上記の他に、同様の素材であるゼラチンが候補として挙げられる。
上記(1)、(2)を満足し、更に、上記(3)も満足する。室温でも皮膜化は可能であるが、ゼラチンの強力なゲル化能は、寒天と異なり、冷蔵したときに発現するものである。しかし、寒天との併用であれば室温でもゲル化する。例えば、10%ゼラチンに、1.5%寒天を25%混ぜると、室温でもゲル化してゼラチン由来の強固な粘着性を利用できることが確認されている。また、冷蔵を許容すれば、デンプンとの併用で、デンプンの優れた造膜性を生かした皮膜を製造することができる。
上記(4)も満足する。特に、寒天と同様に、無味無臭に近いことからも好ましい。
【0024】
食用の皮膜は従来から使用されており、上記(1)、(2)を満足する皮膜原料は、種々のものがあるが、上記(3)を満足するものとなると、かなりものが適用されなくなる。
本発明が適用されない皮膜原料としては、例えば、カラギーナンと同じ植物性多糖類のマンナン(こんにゃく成分)がある。マンナンはゲル化するが、30℃以上の温熱水乃至水蒸気へ晒しても再び溶解乃至溶出することはない。海藻成分のアルギン酸もカルシウムイオンによりゲル化するが、再び溶解乃至溶出するためにはクエン酸溶液等の酸溶液が必要であり、鰹節等の燻製加工食品の呈味に影響を与え候補となり得ない。
【0025】
次に、皮膜の形成工程・除去工程とその間の燻煙工程について説明する。
≪皮膜形成工程≫
食材の外面に皮膜を形成する。
皮膜原料として寒天等の市販商品を入手し、30℃以上の温熱水乃至水蒸気に晒して溶解乃至溶出状態とする。
対象となる皮膜原料の種類やグレードによって溶解温度は異なるので、具体的には、少なくともその皮膜原料の溶解を実現できる温度以上の温熱水に晒すことが必要となる。
但し、被覆は液状で実施するのが現実的であることから、通常は、溶解温度またはそれ以上の温熱水に溶解して皮膜液として使用する。
【0026】
皮膜液の濃度については、高いほど冷却及び/または乾燥する際に、粘着性が高まり、食材表面に強固に接着することが可能となるが、流動性の低下により食材表面に被覆する操作性が大きく低下する。一方、低いほど食材表面に被覆し易くなるが、組成物の含有量が少なくなるので、その分だけ厚く被覆する必要があり、被覆操作を繰り返すことになる。
従って、実施する際には、作業のやり易さと作業時間とを考慮した上で最適な選択をする必要がある。因みに、それぞれ容易に入手でき且つ単独使用可能な寒天、デンプンについては、試験の結果0.5~10%の濃度範囲が最適な範囲であることが確認されている。
なお、皮膜液の被覆する際の温度については、固化温度よりやや高めに維持し、その一方で、食材を予め冷却しておくことで被覆効率を上げることができる。
【0027】
上記のように調整した皮膜液で、食材表面を被覆する。
被覆の方法としては、食材を被覆できれば特に限定されないが、食材を皮膜液に浸したり、食材に皮膜液を直接噴霧したりすることが考えられる。
浸す場合には、例えば、液槽(浸漬槽)にベルトコンベア等を利用して潜らせながら移送することで、食材を順次連続的に処理でき、結果として大量処理が容易に可能となる。この液槽は、皮膜を除去する際にも利用できることから、共用すれば、皮膜の形成及び除去用の設備の導入負担を減らすことができる。
【0028】
次に、冷却及び/または乾燥により、被覆した皮膜液を皮膜化(固化)させて、食材表面に定着させる。
濃縮固化が実現されれば、冷却だけでも、乾燥だけでも、あるいは両方を並行または順次実施してもよい。但し、厳密に言えば強制的に冷却すれば乾燥も自然に進行し、強制的に乾燥すれば冷却も自然に進行することから、上記の冷却及び/または乾燥は強制手段として採用するものを意味している。
乾燥の方法としては、自然乾燥の他、風乾燥、乾燥機を使った熱乾燥等、通常の方法が使用可能である。
【0029】
≪燻煙工程≫
燻煙工程は、温燻、または熱燻であり、従来と全く同様に行える。
そのため、特に新たな設備・作業を導入する必要は無い。
なお、食材が鰹節の場合には、焙乾工程となる。
この段階で、燻煙に含まれる成分の一部が、PAHを含めて皮膜に付着される。
【0030】
≪皮膜除去工程≫
燻煙工程に供された皮膜付きの食材から皮膜を除去する。
30℃以上で皮膜原料の溶解温度またはそれ以上に保った温熱水へ晒す、例えば浸して洗浄することで、皮膜原料は溶解しながら食材表面から離れていく。食材が熱に強いものであれば、高温の水蒸気に晒せば溶出して、同様に食材表面から離れていく。
溶解乃至溶出した液状の皮膜原料には、付着した成分がそのまま取り込まれており、皮膜原料共々食材表面から、このようにして分離され除去される。
【0031】
鰹節の場合は、燻煙工程後の節(荒節)を製品として削り節業者に販売する場合が多い。削り節業者は綺麗な削り花を得るため、削る直前に水蒸気等で節を加熱することから、この工程と上記の皮膜除去工程を兼ねることができる。
【0032】
加熱ハム・ソーセージの場合、表面の汚れを落とすため、燻煙工程後に製品を温水または熱水シャワー等で洗浄する工程があり、この工程と上記の皮膜除去工程を兼ねることができる。
【0033】
(最終製品)
以上の工程を経て製造した燻煙加工食品では、PAH付着量は、従来の皮膜を利用しない方法で製造したものより、1/2~1/3程度まで低減できることが確認されている。
一方、風味や香りについては、従来の皮膜を利用しない方法で製造したものに遜色ないレベルとの評価が得られている。
【実施例】
【0034】
[実際の鰹節製造におけるPAH付着量の低減効果]
図1のイメージ図に準じた方法で、実際の鰹節の製造方法による試験区(本発明の方法)と対照区(既存の方法)とでPAH付着量を比較した。PAH分析はこの分野での常法(クロマトグラフ法)による。
食材はほぼ同じ形状となるように、2.5kg前後のカツオを4節(雄節+雌節)に分割して同じ1尾の左右を試験区(右)と対照区(左)として鰹節にした。皮膜の形成及び除去以外は、通常の製造法に準じ、鰹節を製造した。焙乾工程は、従来の燃焼発煙(450℃)により、燻付けを毎日8時間で12日間にわたって、通算96時間実施した。
図2、
図3のグラフに示すように、寒天皮膜でも、デンプン皮膜でも、PAH低減効果が数値的に出ていた。
【0035】
図4~
図6は、鰹節を本発明の方法(寒天皮膜を使用)で実際に製造した場合の、各段階における食材の状態を示す写真である。
図7は、鰹節を従来の皮膜を使用せず、湯通しもしない方法で実際に製造した場合の削り節の段階の状態を示す写真である。
図6の削り節が
図7の削り節と同様な色味を呈していることが確認された。
図8のグラフに示すように、雌節と雄節を区別しても、PAHの低減効果に差が出なかった。
【0036】
[官能評価]
図4~
図5に示すように製造した皮膜節(試験区)と、皮膜を使用せず、湯通しもしない方法で実際に製造した場合の従来節(荒節)と、従来節(本枯節)とをモニターに官能評価してもらったところ、以下の結果が得られた。
本枯節は、荒節の表面を削り、黴付けを施すことにより独特の熟成香を有するものであり、表面削り・黴付けに手間がかかるため、鰹節全体の生産量の5%にも満たない。
皮膜節における皮膜除去は、本枯節における荒節の表面削りに類似することから、皮膜節は、本枯節と同様に刺激臭が抑えられる一方で適度な燻煙臭が維持されている。但し、香気臭は若干劣っていた。この評価は、敢えて違いについて言及してもらった結果であり、総合評価では、皮膜節は荒節と同等の製品として取り扱えるとのお墨付きが得らえた。
【0037】
【産業上の利用可能性】
【0038】
燻煙加工食品におけるPAHは海外で規制対象となっており、国内に置いても将来的に規制が検討されていることから、その低減技術を産業界は強く求めている。一方、これまでに実用化された低減技術は発煙温度を大きく下げるため、従来の製造条件を大きく変え、食品の風味等の品質を変化させてしまうほか、設備の導入に大きなコストを伴う。一方、本発明は、劇的ではないものの一定の低減効果が、従来の製造方法、品質を大きく変えること無く見込めることから、技術導入に際してのハードルが低い。さらに従来の製造ライン・方法に一部設備・工程を追加するだけで実施可能であることから、技術レベルと導入コストの両面で、国のレギュラトリーサイエンス研究推進計画の中で求められている、製造事業者が実行可能な低減技術に合致する。