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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】電池状態推定方法および電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20221215BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20221215BHJP
   H01M 10/615 20140101ALI20221215BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20221215BHJP
   H01M 10/6571 20140101ALI20221215BHJP
   H01M 10/6572 20140101ALI20221215BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
H01M10/48 A
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H01M10/613
H01M10/615
H01M10/625
H01M10/6571
H01M10/6572
H02J7/00 Q
H02J7/00 X
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019168851
(22)【出願日】2019-09-17
(65)【公開番号】P2021048017
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2021-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】逢坂 哲彌
(72)【発明者】
【氏名】戸ヶ崎 徳大
(72)【発明者】
【氏名】横島 時彦
(72)【発明者】
【氏名】内海 和明
(72)【発明者】
【氏名】津田 信悟
(72)【発明者】
【氏名】小熊 泰正
【審査官】下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-117180(JP,A)
【文献】特開2011-158444(JP,A)
【文献】国際公開第2013/115038(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42 - 10/48
H01M 10/52 - 10/667
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
G01R 31/36 - 31/44
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1の電池が直列接続された組電池の、所定の周波数におけるインピーダンス特性が、複数の第1の温度のそれぞれにおいて測定される工程と、
前記組電池の前記複数の第1の温度における前記インピーダンス特性と、予め記憶されている第2の電池のデータと、を用いて、前記複数の第1の電池の充電状態の分布が推定される工程と、を具備し、
前記第2の電池の前記データは、
前記第1の電池と同じ仕様の前記第2の電池の前記周波数における前記インピーダンス特性が、複数の充電状態、および、複数の第2の温度において、測定される第1の工程と、
前記複数の第2の温度のそれぞれにおいて、充電状態の変化に応じて前記インピーダンス特性が変化しはじめる充電状態であるSOC変化点、および、変化しはじめる前の前記インピーダンス特性であるインピーダンス底値と、が取得される第2の工程と、
前記インピーダンス底値と温度との関係を含む前記第2の電池の前記データが取得される第3の工程と、
前記第2の電池の前記データを記憶する第4の工程と、によって取得され記憶されることを特徴とする電池状態推定方法。
【請求項2】
前記第2の電池の前記データが、前記SOC変化点と前記温度との関係を含むことを特徴とする請求項1に記載の電池状態推定方法。
【請求項3】
前記インピーダンス特性が、リアクタンスであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電池状態推定方法。
【請求項4】
前記所定の周波数は、第1の周波数以下、第2の周波数以上であり、
前記第1の周波数は、所定の充電状態の前記第2の電池の複素インピーダンスの周波数特性であるコールコールプロットにおいて拡散抵抗成分がゼロの領域における最も低い周波数であり、
前記第2の周波数は、前記コールコールプロットにおいて前記拡散抵抗成分を含む領域における、リアクタンスが前記第1の周波数と同じである周波数であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電池状態推定方法。
【請求項5】
前記所定の周波数が、10mHz以上500mHz以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電池状態推定方法。
【請求項6】
推定された前記組電池の充電状態の分布に基づいて、前記組電池の前記インピーダンス特性が、前記複数の第1の温度の範囲よりも、狭い範囲の複数の第3の温度において測定される工程と、
前記組電池の前記複数の第3の温度における前記インピーダンス特性と、前記第2の電池のデータとを用いて、前記組電池の充電状態の分布が再度、推定される工程と、をさらに具備することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電池状態推定方法。
【請求項7】
前記第2の電池の前記データを用いて、複数の組電池の分布が推定されることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電池状態推定方法。
【請求項8】
複数の第1の電池が直列接続された組電池と、
前記組電池の所定の周波数におけるインピーダンス特性を、複数の第1の温度において測定する測定手段と、
前記第1の電池と同じ仕様の第2の電池の、複数の第2の温度のそれぞれにおける、前記所定の周波数における前記インピーダンス特性が充電状態の変化に応じて変化しはじめる前の前記インピーダンス特性であるインピーダンス底値と前記複数の第2の温度との関係を含む前記第2の電池のデータが記憶されている記憶手段と、
前記組電池の前記複数の第1の温度における前記インピーダンス特性と、前記記憶手段が記憶している前記第2の電池の前記データとから、前記組電池の充電状態の分布を推定する演算手段と、を具備し、
前記第2の電池のデータが、前記インピーダンス特性が充電状態の変化に応じて変化しはじめる充電状態であるSOC変化点と前記複数の第2の温度との関係を含むことを特徴とする電池システム。
【請求項9】
複数の第1の電池が直列接続された組電池と、
前記組電池の所定の周波数におけるインピーダンス特性を、複数の第1の温度において測定する測定手段と、
前記第1の電池と同じ仕様の第2の電池の、複数の第2の温度のそれぞれにおける、前記所定の周波数における前記インピーダンス特性が充電状態の変化に応じて変化しはじめる前の前記インピーダンス特性であるインピーダンス底値と前記複数の第2の温度との関係を含む前記第2の電池のデータが記憶されている記憶手段と、
前記組電池の前記複数の第1の温度における前記インピーダンス特性と、前記記憶手段が記憶している前記第2の電池の前記データとから、前記組電池の充電状態の分布を推定する演算手段と、を具備し、
前記所定の周波数は、第1の周波数以下、第2の周波数以上であり、
前記第1の周波数は、所定の充電状態の前記第2の電池の複素インピーダンスの周波数特性であるコールコールプロットにおいて拡散抵抗成分がゼロの領域における最も低い周波数であり、
前記第2の周波数は、前記コールコールプロットにおいて前記拡散抵抗成分を含む領域における、リアクタンスが前記第1の周波数と同じである周波数であることを特徴とする電池システム。
【請求項10】
前記第1の電池の温度を増減する温度調整装置と、
前記温度調整装置を制御する温度制御部と、を更に具備することを特徴とする請求項8または請求項9に記載の電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、複数の電池が直列接続された組電池の充電状態の分布を推定する電池状態推定方法、および、複数の電池が直列接続された組電池の充電状態の分布を推定する電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯機器、電動工具および電気自動車等に二次電池が用いられている。二次電池の中でリチウムイオン電池は、リチウムのイオン化傾向が大きいことから、高電圧、高出力、高エネルギー密度である。リチウムイオン電池は、定置用電源および非常用電源などの大型電源への応用も期待されている。電池は、負荷の仕様の電圧となるように、複数の電池が直列接続された組電池として使用される。
【0003】
二次電池の特性を測定する方法として、交流インピーダンス測定法が知られている。特開2009-97878号公報には、交流インピーダンス法によって取得した電池のコールコールプロットを、等価回路モデルを用いて解析する測定方法が開示されている。
【0004】
特開2018-151194号公報には、組電池の充電状態(SOC:State of Charge)に対してインピーダンスが大きく変化しない領域では、電圧からSOCを推定し、SOCに対してインピーダンスが大きく変化する領域では、インピーダンスを用いてSOCを推定する装置が開示されている。
【0005】
組電池の複数の電池(セル)は同じ仕様にもとづき製造され、同じ条件で使用される。しかし、製造ばらつき、および、わずかな使用環境の相違によって、SOCが異なる電池が含まれていると、組電池の性能が加速度的に劣化するおそれがある。
【0006】
1個の電池(セル)のSOCを評価することは比較的容易である。しかし、組電池に含まれる、それぞれの電池のSOCを評価するには、それぞれの電池に評価のための電線を接続する必要がある。また、組電池の仕様によっては、それぞれの電池に電線を接続できない構造のため、組み立て後は、それぞれの電池のSOCを評価できなかった。
【0007】
組電池に含まれている複数の電池のSOC分布を簡単に推定する評価方法、および、組電池に含まれている複数の電池のSOC分布を簡単に推定できる電池システムの開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-97878号公報
【文献】特開2018-151194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の実施形態は、組電池に含まれている複数の電池のSOC分布を簡単に推定する電池状態推定方法、および、組電池に含まれている複数の電池のSOC分布を簡単に推定できる電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態の電池状態推定方法は、複数の第1の電池が直列接続された組電池の、所定の周波数におけるインピーダンス特性が、複数の第1の温度のそれぞれにおいて測定される工程と、前記組電池の前記複数の第1の温度における前記インピーダンス特性と、予め記憶されている第2の電池のデータと、を用いて、前記複数の第1の電池の充電状態の分布が推定される工程と、を具備し、前記第2の電池の前記データは、前記第1の電池と同じ仕様の前記第2の電池の前記周波数における前記インピーダンス特性が、複数の充電状態、および、複数の第2の温度において、測定される第1の工程と、前記複数の第2の温度のそれぞれにおいて、充電状態の変化に応じて前記インピーダンス特性が変化しはじめる充電状態であるSOC変化点、および、変化しはじめる前の前記インピーダンス特性であるインピーダンス底値と、が取得される第2の工程と、前記インピーダンス底値と温度との関係を含む前記第2の電池の前記データが取得される第3の工程と、前記第2の電池の前記データを記憶する第4の工程と、によって取得され記憶される。
【0011】
別の実施形態の電池システムは、複数の第1の電池が直列接続された組電池と、前記組電池の所定の周波数におけるインピーダンス特性を、複数の第1の温度において測定する測定手段と、前記第1の電池と同じ仕様の第2の電池の、複数の第2の温度のそれぞれにおける、前記所定の周波数における前記インピーダンス特性が充電状態の変化に応じて変化しはじめる前の前記インピーダンス特性であるインピーダンス底値と前記複数の第2の温度との関係を含む前記第2の電池のデータが記憶されている記憶手段と、前記組電池の前記複数の第1の温度における前記インピーダンス特性と、前記記憶手段が記憶している前記第2の電池の前記データとから、前記組電池の充電状態の分布を推定する演算手段と、を具備し、第2の電池のデータが、前記インピーダンス特性が充電状態の変化に応じて変化しはじめる充電状態であるSOC変化点と前記複数の第2の温度との関係を含む
別の実施形態の電池システムは、複数の第1の電池が直列接続された組電池と、前記組電池の所定の周波数におけるインピーダンス特性を、複数の第1の温度において測定する測定手段と、前記第1の電池と同じ仕様の第2の電池の、複数の第2の温度のそれぞれにおける、前記所定の周波数における前記インピーダンス特性が充電状態の変化に応じて変化しはじめる前の前記インピーダンス特性であるインピーダンス底値と前記複数の第2の温度との関係を含む前記第2の電池のデータが記憶されている記憶手段と、前記組電池の前記複数の第1の温度における前記インピーダンス特性と、前記記憶手段が記憶している前記第2の電池の前記データとから、前記組電池の充電状態の分布を推定する演算手段と、を具備し、前記所定の周波数は、第1の周波数以下、第2の周波数以上であり、前記第1の周波数は、所定の充電状態の前記第2の電池の複素インピーダンスの周波数特性であるコールコールプロットにおいて拡散抵抗成分がゼロの領域における最も低い周波数であり、前記第2の周波数は、前記コールコールプロットにおいて前記拡散抵抗成分を含む領域における、リアクタンスが前記第1の周波数と同じである周波数である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態によれば、組電池に含まれている複数の電池のSOC分布を簡単に推定する電池状態推定方法、および、組電池に含まれている複数の電池のSOC分布を簡単に推定できる電池システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態の電池システムの構成図である。
図2】実施形態の推定方法を説明するためのフローチャートである。
図3】第2の電池の45℃におけるリアクタンスとSOCとの関係を示すグラフである。
図4】第2の電池の25℃におけるリアクタンスとSOCとの関係を示すグラフである。
図5】第2の電池の0℃におけるリアクタンスとSOCとの関係を示すグラフである。
図6】第2の電池の-20℃におけるリアクタンスとSOCとの関係を示すグラフである。
図7】第2の電池の温度とインピーダンス底値との関係を示すグラフである。
図8】第2の電池の温度とSOC変化点との関係を示すグラフである。
図9】実施形態の推定方法を説明するための、図7および図8をもとに作成された図である。
図10】第2の電池のレジスタンスZ`とSOCとの関係を示すグラフである。
図11】第2の電池のインピーダンス絶対値|Z|とSOCとの関係を示すグラフである。
図12】実施形態の変形例の推定方法を説明するためのフローチャートである。
図13】実施形態の変形例の推定方法を説明するための図である。
図14】実施形態の推定方法を説明するための図である。
図15】第2の電池のコールコールプロットの一例である。
図16図15の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<電池システムの構成>
図1に示すように、実施形態の電池システム1は、複数の第1の電池(電池セル)10が直列接続されている組電池20と、温度調整装置29と、CPU30と、電源40と、を具備する。組電池20および電源40は図示しない負荷(モーター等)と接続されている。
【0015】
第1の電池10は、例えば、リチウムイオンを吸蔵/放出する正極と、電解質と、セパレータと、リチウムイオンを吸蔵/放出する負極と、からなる単位セルを有するリチウムイオン二次電池である。正極は例えばリチウムコバルト酸化物を含有している。負極は例えば炭素材料を含有している。セパレータは例えばポリオレフィンからなる。そして電解質は例えばLiPF6を環状および鎖状カーボネートに溶解した電解質である。第1の電池10は、多孔質等からなるセパレータの内部に電解質が充填された構造であってもよい。
【0016】
図1は、4個の第1の電池10が直列接続されている組電池20を例示している。後述するように、組電池20が含む第1の電池10の数に特に制限はない。
【0017】
電源40は、組電池20に測定信号を印加する。CPU30は、記憶手段であるメモリ31と、制御手段であるコントローラ32と、測定手段である測定回路33と、演算手段である演算回路34と、を含む。メモリ31は、電池システム1の制御データを記憶している。制御データは後述する第2の電池(不図示)のデータを含んでいる。第2の電池と第1の電池10とは同じ仕様である。
【0018】
コントローラ32は、電池システム1の全体を制御するとともに、組電池20の温度を、温度センサ29Aを含む温度調整装置29を用いて制御する温度制御部32Aを含んでいる。温度検出手段である温度センサ29Aは温度調整装置29とは別体でもよい。測定回路33は組電池20のインピーダンス特性を測定する。演算回路34は組電池20のSOC分布を推定する。
【0019】
メモリ31と、コントローラ32と、測定回路33と、演算回路34と、は独立した回路でもよいし、これらはプログラムにもとづきCPU30が行う機能でもよい。また、電池システム1が別体の他のシステムの一部として使用されている場合等において、他のシステムのCPUを、CPU30として用いてもよい。他のシステムは、複数の電池システム1が共通に用いるクラウドシステムでもよい。
【0020】
発明者は、インピーダンス特性がSOCに対して大きくは変化しない領域(コンスタントゾーン)から大きく変化する領域(変化ゾーン)に移行するSOCであるSOC変化点(TSOC)が、温度に大きく依存することを見出した。
【0021】
電池システム1のメモリ31に記憶されている第2の電池のデータは、測定条件、第2の電池のSOC変化点(TSOC)と温度との関係、および、コンスタントゾーンにおけるインピーダンス特性であるインピーダンス底値(ZB)と温度との関係、を含む。第2の電池のデータは、複数の電池システム1の共通データであり、電池システム1を製造する前に取得される。第2の電池のデータを用いて、複数の組電池20の充電状態の分布が推定される。それぞれの電池システム1は第2の電池のデータを取得する機能を有している必要は無い。
【0022】
電池システム1では、測定回路33が測定したインピーダンス特性と、メモリ31が記憶している第2の電池のデータとから、演算回路34が、組電池20の充電状態の分布(SOC分布)を推定する。なお、第2の電池のデータは、SOC変化点と温度との関係を含んでいなくともよい。
【0023】
電池システム1は、SOC変化点の温度依存性を利用して、組電池20のSOC分布を簡単に推定する。
【0024】
<電池システムの動作>
図2のフローチャートにそって、電池システム1による電池状態推定方法について説明する。なお、以下では、4個の第1の電池10が直列接続されている組電池20を含む電池システム1を例に説明する。
【0025】
<ステップS10~S30>第1の工程(第2の電池の測定工程)
ステップS10では、第1の電池10と同じ仕様の第2の電池(不図示)の複数の第2の温度における所定の周波数のインピーダンス特性が、複数の充電状態(SOC)において、それぞれ測定される。
【0026】
例えば、第2の電池のインピーダンス特性がSOCを0%~100%に変化させながら、複数の第2の温度のひとつである45℃において測定される。例えば、振幅5mV、周波数100mHzの、正弦波の交流信号が、充電中または放電中の第2の電池に印加され、電圧が測定される。
【0027】
第2の電池のSOCと電圧との関係は予め取得されている。例えば、第2の電池の電圧は、SOC100%では4.20Vであり、SOC0%では3.00Vである。
【0028】
測定するSOC(電圧)の数は、1%毎、すなわち0%~100%を測定する場合には101個であることが好ましいが、5%毎、すなわち21個程度でもよい。また後述するように推定するSOC範囲に応じて、測定するSOC範囲を限定してもよい。
【0029】
測定周波数100mHzは、SOCに対してインピーダンス特性が大きく変化する周波数である。測定周波数は、予め、複数のSOCの第2の電池のインピーダンス特性の周波数依存性にもとづき設定される。
【0030】
具体的には、異なるSOCの第2の電池のインピーダンス特性の周波数特性を、それぞれ測定し、SOCに対するインピーダンス特性の変化率の周波数依存性を算出し、最も大きい変化率(ΔZ/Δf ; Z:インピーダンス、f:周波数)の周波数を測定周波数とする。
【0031】
インピーダンス特性としては、実数成分(レジスタンス)Z`、虚数成分(リアクタンス)Z``、位相角θ、および絶対値|Z|のうち、少なくともいずれかである。所定の温度に第2の電池を維持するためには、例えば、恒温槽を用いる。
【0032】
図3に、45℃における第2の電池のリアクタンスとSOCとの関係を示す。SOCが30%以上90%以下の範囲(コンスタントゾーン)では、リアクタンスは、ほぼ一定である。SOCが30%以下の範囲(変化ゾーン)では、リアクタンスは大きく増加している。SOCが90%以上の範囲(変化ゾーン)でも、リアクタンスは増加している。すなわち、リアクタンスとSOCとの関係は、SOC中央値(50%)近傍において、リアクタンスが、一定の最小値であるインピーダンス底値ZBとなる、いわゆるバスタブ型である。
【0033】
ステップS20では、予め設定されている複数の充電状態(SOC)および複数の第2の温度における測定が全て終了している場合(Yes)には、ステップS40に移行する。測定が終了していない場合(No)には、ステップS30において、SOCまたは第2の温度が変更される。
【0034】
図4は、25℃における第2の電池のリアクタンスとSOCとの関係を示す。図5は、0℃における第2の電池のリアクタンスとSOCとの関係を示す。図6は、-20℃における第2の電池のリアクタンスとSOCとの関係を示す。いずれの温度においてもリアクタンスとSOCとの関係は、バスタブ型である。
【0035】
第2の温度の数は、最低2つであるが、組電池20のSOC推定のときに、広いSOC範囲をカバーするためには、3つ以上が好ましく、4つ以上が特に好ましい。第2の温度の数に上限は特にないが、例えば、200以下である。ステップS10~S30は、第1の電池10のSOCを推定するための基礎データを取得する工程であるため、多くの温度において測定を行っても、組電池20の充電状態の分布の推定時間に影響を及ぼすことはない。
【0036】
第2の温度は、広いSOC範囲をカバーするために、室温(25℃)よりも低い温度と高い温度とを含むことが好ましい。本実施形態では、図3図6に示したように、第2の温度は、45℃、25℃、0℃、-20℃の4つである。
【0037】
<ステップS40>第2の工程(ZBおよびTSOC取得)
それぞれの第2の温度におけるリアクタンスが充電状態の変化に応じて変化しはじめる前のリアクタンスであるインピーダンス底値ZBが取得される。インピーダンス底値ZBは、リアクタンスの最小値でもよいし、例えば、図3において、SOC30%以上50%以下の領域(コンスタントゾーン)の値を近似した直線から取得されてもよい。
【0038】
次に、それぞれの第2の温度におけるSOC変化点(TSOC)が取得される。コンスタントゾーンと変化ゾーンとの境界がSOC変化点である。本実施形態では、SOC変化点は、SOCの変化に応じてインピーダンス特性が変化する2つの変化ゾーンのうちの低SOC側(SOC≦50%)のSOCである。
【0039】
例えば、図3(45℃)において、SOC変化点(TSOC)は、リアクタンスの傾きが所定値である0.001(Ω/%)以上となったSOCであり、その値は9%である。SOC変化点の取得方法として、SOC5%以下の領域(変化ゾーン)の値を近似した直線と、SOC30%以上50%以下の領域(コンスタントゾーン)の値を近似した直線との交点のSOCである5.5%を用いてもよい。
【0040】
SOC変化点(TSOC)の取得には、各種の方法を用いることができる。例えば、SOC変化点TSOCは、リアクタンスがインピーダンス底値ZBよりも、ΔZだけ大きいSOCでもよい。ΔZは例えばインピーダンス底値ZBの1%以上100%以下である。ΔZはリアクタンスの絶対値によって設定されてもよい。
【0041】
図3図6に示すリアクタンスは、変化ゾーンにおいてリアクタンスが増加している。しかし、インピーダンス特性の種類によっては、変化ゾーンにおいてインピーダンス特性が減少することもある。
【0042】
<ステップS50>第3の工程(温度とインピーダンス底値ZBとの関係取得)
図7に示すインピーダンス底値ZBと温度との関係が図3図6から取得される。また、図8に示すようなSOC変化点(TSOC)と温度との関係も取得される。
【0043】
これらの関係は、数式として取得されてもよいし、表として取得されてもよい。後述するように、測定点と測定点との間を近似して用いることができるため、これらの関係は数式として取得されることが好ましい。すなわち、これらの関係は、実際に測定された温度におけるデータだけで構成されているわけではない。
【0044】
<ステップS60>第4の工程(第2の電池のデータ記憶)
すでに説明したように、ステップS10~S50において取得された第2の電池のデータ(SOC変化点と温度との関係、および、インピーダンス底値と温度との関係)は、複数の電池システム1の共通データである。すなわち、複数の電池システム1を生産するにあたって、第2の電池のデータが取得され、それぞれのメモリ31に記憶される。
【0045】
複数の第2の電池に対してステップS10~S50の処理が行われ、取得された複数の第2の電池のデータが例えば平均化され、メモリ31に記憶されてもよい。
【0046】
<ステップS70~S90>組電池の測定工程
組電池20に含まれる複数の第1の電池10は、いずれも第2の電池と同じ仕様であるが、それぞれのSOCは未知である。例えば、電池システム1によって組電池20は出荷検査される。
【0047】
組電池20に含まれる複数の第1の電池10のSOC分布を推定するために、複数の第1の温度における組電池20のリアクタンスが測定される。電源40は、第2の電池のデータが測定されたときと同じ周波数の交流信号を組電池20に、印加する。
【0048】
第2の電池の測定値との整合のため、組電池20に印可される測定信号の振幅は、組電池20に含まれる第1の電池10の数に応じて設定される。例えば、組電池20が20個の第1の電池10を含む場合には、組電池20の測定信号の振幅は、第2の電池の測定信号の20倍とする。
【0049】
温度制御部32Aが、センサ29Aが検出する組電池20の温度が所定の第1の温度となるように温度調整装置29を制御する。温度調整装置29は、例えば、ヒーターおよびペルチェ素子を有する。組電池20の温度が、複数の第1の温度のうちの1つである、例えば、45℃となるように、温度調整装置29が温度制御部32Aによって制御される。温度調整装置29、温度制御部32Aおよびセンサ29Aは、複数の組電池20の共通でもよい。例えば、複数の組電池20が所定の温度に調整された恒温槽に配置される。
【0050】
ステップS70において、第1の温度における測定が行われる。ステップS80では、予め設定されている複数の第1の温度における測定が全て終了した場合(Yes)には、ステップS100に移行する。測定が終了していない場合(No)では、ステップS90において、温度が別の第1の温度に変更される。そして、再び、ステップS70において、組電池20のリアクタンスが測定される。
【0051】
複数の第1の温度のうちの最低温度である-20℃以下に冷却されている組電池20を、最高温度である45℃以上の環境に放置して、組電池20の温度が上昇することを利用して、複数の第1の温度におけるリアクタンスを測定してもよい。45℃以上に加温した組電池20を-20℃以下の環境に放置して測定してもよい。温度制御部32Aおよび温度調整装置29は、本発明の必須構成要素ではない。
【0052】
第1の温度の数は第2の温度の数と同じでも良い。ただし、処理時間短縮のため、第1の温度の数は、第2の温度の数よりも少ないことが好ましい。例えば、第2の温度の数が101であっても、第1の温度の数は10以下であることが好ましい。
【0053】
<ステップS100>組電池20のSOC分布の推定工程
組電池20の複数の第1の温度におけるリアクタンスと、メモリ31に記憶されている第2の電池のデータ(図7図8)と、から、演算回路34によって、組電池20のSOC分布が推定される。
【0054】
図9の下部の点線は図7に示した温度と第2の電池のインピーダンス底値ZBとの関係を示すグラフである。直列接続された4個の第2の電池のインピーダンス底値ZBは、実線に示すように、4ZBとなる。図9の上部は図8に示した温度とSOC変化点TSOCとの関係を示すグラフである。
【0055】
図9の下部のグラフの黒円は、組電池20のリアクタンス(-Z``)の一例を示している。組電池20のリアクタンスは、-20℃および0℃ではインピーダンス底値ZB20よりも大きく、25℃および45℃ではインピーダンス底値ZB20とほぼ同じである。
【0056】
図9の上部のグラフから、温度0℃におけるTSOCは38%であり、温度25℃におけるTSOCは20%である。このため、組電池20には、SOCが20%未満の第1の電池だけでなく、SOCが38%未満20%以上の第1の電池が含まれていることが推定される。
【0057】
これに対して、例えば、組電池20のリアクタンスが、25℃以下ではインピーダンス底値ZB20よりも大きく、45℃ではインピーダンス底値ZB20と、ほぼ同じである場合には、組電池20には、SOCが10%未満の第1の電池だけでなく、SOCが20%未満10%以上の第1の電池が含まれていることが推定される。
【0058】
組電池20が含む第1の電池10の数は、特に制限はないが、10個以上であれば所望の電圧が得られ、100個以下であればSOC分布の推定が容易である。多くの第1の電池10を含む組電池20は、インピーダンス底値ZB20が大きくなる。そして、そのインピーダンス底値ZB20よりも、さらに大きいリアクタンスとなる温度をもとに、SOC分布が推定される。
【0059】
組電池20に基準値外のSOCの第1の電池10が含まれていることを推定するだけであれば、メモリ31には第2の電池のSOC変化点と温度との関係が記憶されていなくともよい。ただし、SOC変化点と温度との関係が記憶されているメモリ31を含む電池システム1では、基準値がTSOCであることが明確である。
【0060】
以上の説明では、SOCが50%以下の場合、すなわち、SOC変化点の範囲が、60%以下の場合の推定方法であった。しかし、同じようにSOCが50%超のSOCを推定することもできる。高SOC範囲を推定するには、図5等に示したバスタブ型曲線の右側(高SOC範囲)のコンスタントゾーンと変化ゾーンとの境界をSOC変化点として用いる。低SOC範囲における第2の電池のデータと、高SOC範囲における第2の電池のデータとが、メモリ31に記憶されていてもよい。
【0061】
第1の電池10は、リチウムイオン電池に限られるものではなく、例えばリチウムポリマー電池、または、リチウム硫黄電池でもよい。第1の電池10は、電解質が固体電解質である全固体電池でもよい。第1の電池10は、隣り合う電池(セル)が、正極と負極とが共通の集電体を有するバイポーラ電池でもよい。第1の電池10は、電解質が固体電解質であるバイポーラ全固体電池でもよい。複数の組電池20が並列に接続されていてもよい。
【0062】
本実施形態では、インピーダンス特性は、リアクタンスであり、測定周波数は100mHzであった。しかし、インピーダンス特性の種類、周波数、および印加電圧等の測定条件は、電池の仕様によって適宜、選択可能である。
【0063】
すでに説明したように、インピーダンス特性として、リアクタンスに替えて、SOCとの関係がバスタブ型である、レジスタンスZ`(図10)、インピーダンス絶対値|Z|(図11)、または、位相角θ(不図示)を用いることもできる。ただし、温度に対するTSOCの変化が最も顕著であるために、インピーダンス特性として、リアクタンスを使うことが好ましい。
【0064】
インピーダンス特性の測定周波数は高いほど短時間での測定が可能であるが、インピーダンス特性の変化が顕著ではなくなる傾向があり。このため、周波数は10mHz以上500mHz以下であることが好ましい。
【0065】
複数の周波数を用いることによって、単一周波数を用いた測定よりも精度の高い測定が可能である。例えば、周波数50mHz、100mHz、150mHzにおいて、それぞれの工程を行い、温度に対するTSOCの変化が顕著な周波数による測定結果を組み合わせることで測定精度が向上する。
【0066】
<変形例>
変形例の電池状態推定方法および電池システム1Aは、実施形態の電池状態推定方法および電池システム1と類似しており、同じ効果を有しているので同じ機能の構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0067】
実施形態の電池状態推定方法を用いて推定されるSOC範囲は、複数の第1の温度の数が少ない場合等には、広い範囲であり精度が高くない場合がある。精度を高くするために、第1の温度の数を増加すると、推定時間が長くなる。
【0068】
これに対して、変形例の推定方法では、第1の温度での測定結果に基づき、第1の温度の温度範囲よりも狭い第3の温度範囲において測定することによって、推定時間の増加を最小限としながらも、推定されるSOC範囲の精度を高めること、言い替えれば、推定されるSOC範囲を狭い範囲に絞り込むことができる。
【0069】
変形例の電池状態推定方法のフローチャートを図12に示す。
【0070】
<ステップS10-S100>SOC範囲推定サブルーチン
すでに説明したステップS10-S100の処理が行われる。
【0071】
<ステップS110>(SOC範囲は所望の精度?)
ステップS10-S100(SOC範囲推定サブルーチン)において推定されたSOC範囲が所望の精度であるかどうかが、コントローラ32によって判定される。例えば、SOCが20%未満の第1の電池だけでなく、SOCが38%未満20%以上の第1の電池が含まれているとの推定されたSOC分布が、所望の精度を満たしていないと判断される(No)と、工程はステップS120に移行する。
【0072】
<ステップS120>第3の温度の設定
リアクタンスが、インピーダンス底値ZB20よりも大きくなった温度と、それよりも高い温度との間に、複数の第1の温度が設定される。すなわち、図13に示すように、第1の温度の範囲TW1よりも狭い温度範囲TW2の複数の第3の温度がコントローラ32によって再設定される。
【0073】
例えば、複数の第3の温度として、0℃と25℃との間に、5℃、10℃、15℃、20℃が再設定される。
【0074】
<ステップS130~S150>第1の電池の再測定工程
ステップS70~ステップS90と同じように、複数の第3の温度における組電池20のインピーダンス特性(リアクタンス)が測定回路33によって測定される。
【0075】
<ステップS160>組電池のSOC分布の再推定工程
ステップS100と同じように、組電池20の複数の第3の温度におけるリアクタンスと、第2の電池のデータと、から第1の電池10のSOC範囲が演算回路34によって推定される。
【0076】
例えば、図13の下部のグラフに黒円で示されている組電池20のリアクタンスは、15℃以下ではインピーダンス底値ZB20よりも大きく、20℃以上ではインピーダンス底値ZB20と、ほぼ同じである。
【0077】
図13の上部のグラフから、組電池20には、SOCが23%未満の第1の電池だけでなく、SOCが27%未満23%以上の第1の電池が含まれていることが推定される。
【0078】
ステップS160において推定されるSOCの閾値範囲は、27%~23%であり、ステップS90(第5の工程)において推定された閾値範囲38%~20%よりも精度が高い。
【0079】
ステップS110において、SOC範囲が所望の精度を満たしている場合(Yes)には、処理が終了する。もし、SOC範囲が未だ所望の精度を満たしていないと判断される(No)と、工程は再び、ステップS120に移行する。この場合に再々設定される温度範囲が、再設定された第3の温度の範囲(TW2)よりも更に狭くなる。
【0080】
以上の説明では、所定のSOCを基準とし、基準から外れた第1の電池10の有無を推定する例を示した。さらに詳細な測定および解析によって、さらに詳細な分布を推定することもできる。
【0081】
例えば、図14において黒円で示されている組電池20のリアクタンスは、温度T1~T2の間で、インピーダンス底値ZB20よりも大きくなっている。言い替えれば、傾きが変化する変化点(変曲点)がある。このため、組電池20には、SOCが範囲Aの第1の電池10が含まれていることが推定される。さらに、インピーダンス底値ZB20から、ΔZ1増加していることから、ΔZ1と第2の電池1個の場合のインピーダンス底値ZBからのインピーダンス増加量との比較によって、範囲AのSOCの第1の電池10の数も推定できる。
【0082】
リアクタンスの温度依存性には、温度T3~T4の間に、再び、リアクタンスが急上昇している変化点がある。このため、組電池20には、SOCが範囲Bの第1の電池10が含まれていることが推定される。さらに、変曲点においてΔZ2増加していることから、ΔZ2と第2の電池1個の場合のインピーダンス増加量との比較によって、範囲BのSOCの第1の電池10の数も推定できる。
【0083】
<周波数の決定方法>
すでに説明したように、最適の測定周波数を決定するには、SOCが異なる複数の第2の電池のインピーダンス特性の周波数依存性を、それぞれ測定する必要があった。
【0084】
1つの第2の電池のインピーダンス特性の周波数依存性を測定するだけでも、最適の測定周波数を決定することもできる。
【0085】
<複素インピーダンス測定工程>
本方法では、測定周波数を決定するために、所定の充電状態である第1のSOCの第2の電池の複素インピーダンス(レジスタンスZ`およびリアクタンスZ``)の周波数特性が測定される。
【0086】
第1のSOCは、SOC推定の基準となる2つのSOC(第1のSOCおよび第2のSOC)のうちの、リアクタンスが小さいSOCである。例えば、低SOC範囲の変化ゾーンのSOC推定を行う場合には、SOC20%が第1のSOCであり、SOC10%が第2のSOCである。
【0087】
第1のSOCと第2のSOCとの差は、5%以上20%以下であることが好ましい。前記範囲内であれば、推定精度が高い。
【0088】
複素インピーダンスの周波数特性の測定では、例えば、振幅5mVの交流信号が、周波数を高周波(1kHz)から低周波(10mHz)に変化しながら、第2の電池に印加される。
【0089】
図15は、第2の電池の複素インピーダンスの周波数特性を示すコールコールプロットである。コールコールプロットは、横軸がインピーダンスの実数成分(レジスタンスZ`)であり縦軸がインピーダンスの虚数成分(リアクタンス-Z``)である。正極と負極とを有する二次電池のコールコールプロットは、負極反応に相当する高周波領域の半円と、正極反応に相当する低周波領域の半円と、拡散抵抗成分に相当する傾き45度の直線と、に分解できる。
【0090】
<第1の周波数の取得>
図16は、図15の部分拡大図である。図16に示すように、コールコールプロットにおいて拡散抵抗成分に相当する傾き45度の直線とリアクタンスがゼロの直線との交点、すなわち、拡散抵抗成分がゼロとなる点Oが算出される。そして、点OのレジスタンスZ`と同じレジスタンスZ`となるコールコールプロットの測定点Aの周波数が、第1の周波数f1として取得される。なお、測定点Aは拡散抵抗成分がゼロとなる最も低い周波数である。
【0091】
図16に示す例では、点Oのインピーダンス実数成分Z`は、45mΩであり、同じレジスタンスZ`となる点Aの第1の周波数f1は、610mHzである。
【0092】
<第2の周波数の取得>
コールコールプロットにおいて、拡散抵抗成分を含む領域において、リアクタンスが、第1の周波数f1と同じである周波数が、第2の周波数f2として取得される。拡散抵抗成分を含む領域は、言い替えれば、第1の周波数f1よりも低周波の領域である。
【0093】
図16に示す例では、点Aのリアクタンスは、6.8mΩであり、同じリアクタンスとなる点Bの第2の周波数f2は、40mHzである。
【0094】
<測定周波数決定>
第1の周波数f1以下第2の周波数f2以上の範囲の周波数Fが決定される。例えば、コールコールプロットの第1の周波数f1の点と第2の周波数f2の点とを結ぶ直線の中点Cのリアクタンスとなる周波数が測定周波数Fとして決定される。図16に示したコールコールプロットでは、100mHzが測定周波数Fとして決定される。
【0095】
図15から明らかなように、周波数Fの範囲f1-f2は、正極反応に相当する低周波領域の半円の範囲である。すなわち、本変形例では、二次電池の正極反応におけるリアクタンスの変化をもとにSOCが推定される。
【0096】
周波数Fが前記範囲であれば、リアクタンスの変化率が大きい。例えば、リアクタンスの変化率((Z10-Z20)/Z20)は、第1の周波数f1においては620%であり、第2の周波数f2においては、680%であり、100mHzにおいては1100%であった。
【0097】
従来の方法では、SOC10%の電池およびSOC20%の電池のリアクタンスの周波数特性を、それぞれ測定し、さらに、SOCに対するリアクタンスの変化率の周波数依存性を取得し、変化率が最大値となる周波数が算出される。従来の方法では、周波数125mHzにおいて、変化率は最大値1150%となった。
【0098】
本方法では、例えば、SOC20%の電池のリアクタンスの周波数特性を測定するだけで、従来の方法に匹敵するインピーダンス変化率が得られている。
【0099】
本方法では、適切な測定周波数を含む第2の電池のデータを用いることによって、第1の電池10のSOCを精度良く容易に推定できる。
【0100】
本発明は、上述した実施形態等に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変、構成要素の組み合わせ等が可能である。
【符号の説明】
【0101】
1、1A…電池システム
10…第1の電池
20…組電池
29…温度調整装置
29A…温度センサ
31…メモリ
32…コントローラ
32A…温度制御部
33…測定回路
34…演算回路
40…電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16