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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】電池状態推定方法および電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20221215BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20221215BHJP
   H01M 10/615 20140101ALI20221215BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20221215BHJP
   H01M 10/6571 20140101ALI20221215BHJP
   H01M 10/6572 20140101ALI20221215BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20221215BHJP
   B60L 3/00 20190101ALN20221215BHJP
   B60L 50/60 20190101ALN20221215BHJP
   B60L 58/12 20190101ALN20221215BHJP
   B60L 58/24 20190101ALN20221215BHJP
【FI】
H01M10/48 A
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H01M10/613
H01M10/615
H01M10/625
H01M10/6571
H01M10/6572
H02J7/00 Q
H02J7/00 X
B60L3/00 S
B60L50/60
B60L58/12
B60L58/24
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019168852
(22)【出願日】2019-09-17
(65)【公開番号】P2021048018
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2021-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】逢坂 哲彌
(72)【発明者】
【氏名】戸ヶ崎 徳大
(72)【発明者】
【氏名】横島 時彦
(72)【発明者】
【氏名】内海 和明
(72)【発明者】
【氏名】津田 信悟
(72)【発明者】
【氏名】小熊 泰正
【審査官】下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-117180(JP,A)
【文献】特開2011-158444(JP,A)
【文献】国際公開第2013/115038(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42 - 10/48
H01M 10/52 - 10/667
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
G01R 31/36 - 31/44
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1の電池が直列接続されている組電池の所定の周波数におけるインピーダンス特性が測定される工程と、
前記組電池の前記インピーダンス特性と、予め記憶されている前記第1の電池と同じ仕様の第2の電池のデータと、をもとに、前記複数の第1の電池の充電状態の分布が推定される工程と、を具備し、
前記第2の電池の前記データは、
前記第2の電池の複数の充電状態における前記インピーダンス特性が、前記所定の周波数において測定される第1の工程と、
前記第2の電池の前記インピーダンス特性が、増加しはじめる充電状態であるSOC変化点、および、増加しはじめる前のインピーダンス底値、が算出される第2の工程と、
前記インピーダンス底値含む前記第2の電池の前記データが記憶される第3の工程と、において取得され記憶されていることを特徴とする電池状態推定方法。
【請求項2】
前記第2の電池の前記データが、前記SOC変化点を含むことを特徴とする請求項1に記載の電池状態推定方法。
【請求項3】
前記インピーダンス特性が、リアクタンスであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電池状態推定方法。
【請求項4】
前記所定の周波数は、第1の周波数以下、第2の周波数以上であり、
前記第1の周波数は、所定の充電状態の前記第2の電池の複素インピーダンスの周波数特性であるコールコールプロットにおいて拡散抵抗成分がゼロの領域における最も低い周波数であり、
前記第2の周波数は、前記コールコールプロットにおいて前記拡散抵抗成分を含む領域における、リアクタンスが前記第1の周波数と同じ周波数であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電池状態推定方法。
【請求項5】
前記所定の周波数が、10mHz以上500mHz以下であることを特徴とする請求項4に記載の電池状態推定方法。
【請求項6】
前記第2の電池の前記データが、複数の温度における前記データを含んでいることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電池状態推定方法。
【請求項7】
前記第2の電池の前記データを用いて、複数の組電池の分布が推定されることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電池状態推定方法。
【請求項8】
複数の第1の電池が直列接続された組電池と、
前記第1の電池と同じ仕様の第2の電池の所定の周波数におけるインピーダンス特性が充電状態の変化に応じて変化しはじめる前の前記インピーダンス特性であるインピーダンス底値を含む、前記第2の電池のデータが記憶されている記憶手段と、
前記組電池の前記所定の周波数における前記インピーダンス特性を測定する測定手段と、
前記組電池の前記インピーダンス特性と、前記記憶手段が記憶している前記第2の電池の前記データとから、前記組電池に含まれる前記複数の第1の電池の充電状態の分布を推定する演算手段と、を具備し、
前記記憶手段に、前記第2の電池の前記インピーダンス特性が充電状態の変化に応じて変化しはじめる充電状態であるSOC変化点が記憶されていることを特徴とする電池システム。
【請求項9】
前記インピーダンス特性が、リアクタンスであることを特徴とする請求項8に記載の電池システム。
【請求項10】
複数の第1の電池が直列接続された組電池と、
前記第1の電池と同じ仕様の第2の電池の所定の周波数におけるインピーダンス特性が充電状態の変化に応じて変化しはじめる前の前記インピーダンス特性であるインピーダンス底値を含む、前記第2の電池のデータが記憶されている記憶手段と、
前記組電池の前記所定の周波数における前記インピーダンス特性を測定する測定手段と、
前記組電池の前記インピーダンス特性と、前記記憶手段が記憶している前記第2の電池の前記データとから、前記組電池に含まれる前記複数の第1の電池の充電状態の分布を推定する演算手段と、を具備し、
前記所定の周波数は、第1の周波数以下、第2の周波数以上であり、
前記第1の周波数は、所定の充電状態の前記第2の電池の複素インピーダンスの周波数特性であるコールコールプロットにおいて拡散抵抗成分がゼロの領域における最も低い周波数であり、
前記第2の周波数は、前記コールコールプロットにおいて前記拡散抵抗成分を含む領域における、リアクタンスが前記第1の周波数と同じ周波数であることを特徴とする電池システム。
【請求項11】
前記所定の周波数が、10mHz以上500mHz以下であることを特徴とする請求項10に記載の電池システム。
【請求項12】
前記第2の電池の前記データが、複数の温度における前記データを含んでいることを特徴とする請求項8から請求項11のいずれか1項に記載の電池システム。
【請求項13】
前記組電池の温度を調整する温度調整手段と、
前記温度調整手段を制御する温度制御手段と、を更に具備することを特徴とする請求項12に記載の電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、組電池に含まれている複数の電池の充電状態の分布を推定する電池状態推定方法、および、組電池に含まれている複数の電池の充電状態の分布を推定する電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯機器、電動工具および電気自動車等に二次電池が用いられている。二次電池の中でリチウムイオン電池は、リチウムのイオン化傾向が大きいことから、高電圧、高出力、高エネルギー密度である。リチウムイオン電池は、定置用電源および非常用電源などの大型電源への応用も期待されている。電池は、負荷の仕様の電圧となるように、複数の電池が直列接続された組電池として使用される。
【0003】
二次電池の特性を測定する方法として、交流インピーダンス測定法が知られている。特開2009-97878号公報には、交流インピーダンス法によって取得した電池のコールコールプロットを、等価回路モデルを用いて解析する測定方法が開示されている。
【0004】
特開2018-151194号公報には、組電池の充電状態(SOC:State of Charge)に対してインピーダンスが大きく変化しない領域では、電圧からSOCを推定し、SOCに対してインピーダンスが大きく変化する領域では、インピーダンスを用いてSOCを推定する装置が開示されている。
【0005】
組電池に含まれている複数の電池(セル)は同じ仕様にもとづき製造され、同じ条件で使用される。しかし、製造ばらつき、および、僅かな使用環境の相違によって、SOCが異なる電池が含まれていると、組電池の性能が加速度的に劣化するおそれがある。
【0006】
1個の電池(セル)のSOCを評価することは比較的容易である。しかし、組電池に含まれる、それぞれの電池のSOCを評価するには、それぞれの電池に評価のための電線を接続する必要がある。また、組電池の仕様によっては、それぞれの電池に電線を接続できない構造のため、組み立て後は、それぞれの電池のSOCを評価できなかった。
【0007】
このため、組電池に含まれている複数の電池のSOC分布を簡単に推定する電池状態推定方法、および、組電池に含まれている複数の電池のSOC分布を簡単に推定できる電池システムの開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-97878号公報
【文献】特開2018-151194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の実施形態は、組電池に含まれている複数の電池のSOC分布を簡単に推定する電池状態推定方法、および、組電池に含まれている複数の電池のSOC分布を簡単に推定できる電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態の電池状態推定方法は、複数の第1の電池が直列接続されている組電池の所定の周波数におけるインピーダンス特性が測定される工程と、前記組電池の前記インピーダンス特性と、予め記憶されている前記第1の電池と同じ仕様の第2の電池のデータと、をもとに、前記複数の第1の電池の充電状態の分布が推定される工程と、を具備し、前記第2の電池の前記データは、前記第2の電池の複数の充電状態におけるインピーダンス特性が、前記所定の周波数において測定される第1の工程と、前記第2の電池の前記インピーダンス特性が、増加しはじめる充電状態であるSOC変化点、および、増加しはじめる前のインピーダンス底値、が算出される第2の工程と、前記インピーダンス底値含む前記第2の電池の前記データが記憶される第3の工程と、において取得され記憶されている。
【0011】
別の実施形態の電池システムは、複数の第1の電池が直列接続された組電池と、前記第1の電池と同じ仕様の第2の電池の所定の周波数におけるインピーダンス特性が充電状態の変化に応じて変化しはじめる前の前記インピーダンス特性であるインピーダンス底値を含む、前記第2の電池のデータが記憶されている記憶手段と、前記組電池の前記所定の周波数における前記インピーダンス特性を測定する測定手段と、前記組電池の前記インピーダンス特性と、前記メモリが記憶している前記第2の電池の前記データとから、前記組電池に含まれる前記複数の第1の電池の充電状態の分布を推定する演算手段と、を具備し、前記記憶手段に、前記第2の電池の前記インピーダンス特性が充電状態の変化に応じて変化しはじめる充電状態であるSOC変化点が記憶されている。
別の実施形態の電池システムは、複数の第1の電池が直列接続された組電池と、前記第1の電池と同じ仕様の第2の電池の所定の周波数におけるインピーダンス特性が充電状態の変化に応じて変化しはじめる前の前記インピーダンス特性であるインピーダンス底値を含む、前記第2の電池のデータが記憶されている記憶手段と、前記組電池の前記所定の周波数における前記インピーダンス特性を測定する測定手段と、前記組電池の前記インピーダンス特性と、前記記憶手段が記憶している前記第2の電池の前記データとから、前記組電池に含まれる前記複数の第1の電池の充電状態の分布を推定する演算手段と、を具備し、前記所定の周波数は、第1の周波数以下、第2の周波数以上であり、前記第1の周波数は、所定の充電状態の前記第2の電池の複素インピーダンスの周波数特性であるコールコールプロットにおいて拡散抵抗成分がゼロの領域における最も低い周波数であり、前記第2の周波数は、前記コールコールプロットにおいて前記拡散抵抗成分を含む領域における、リアクタンスが前記第1の周波数と同じ周波数である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態によれば、組電池に含まれている複数の電池のSOC分布を簡単に推定する電池状態推定方法、および、組電池に含まれている複数の電池のSOC分布を簡単に推定できる電池システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態の電池システムの構成図である。
図2】実施形態の推定方法を説明するためのフローチャートである。
図3】第2の電池のリアクタンスとSOCとの関係を示すグラフである。
図4】組電池のリアクタンスとSOCとの関係を示すグラフである。
図5】第2の電池のレジスタンスとSOCとの関係を示すグラフである。
図6】第2の電池のインピーダンスの絶対値|Z|とSOCとの関係を示すグラフである。
図7】変形例1を説明するための第2の電池のコールコールプロットの一例である。
図8図7の部分拡大図である。
図9】変形例2の電池システムの構成図である。
図10】変形例2の推定方法を説明するためのフローチャートである。
図11】第2の電池のZBと温度との関係を示すグラフである。
図12】第2の電池のTSOCと温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<電池システムの構成>
図1に示すように、実施形態の電池システム1は、複数の第1の電池10が直列接続されている組電池20と、CPU30と、電源40と、温度検出手段である温度センサ29Aと、を具備する。組電池20および電源40は図示しない負荷(モーター等)と接続されている。
【0015】
第1の電池10は、例えば、リチウムイオンを吸蔵/放出する正極と、電解質と、セパレータと、リチウムイオンを吸蔵/放出する負極と、からなる単位セルを有するリチウムイオン二次電池である。正極は例えばリチウムコバルト酸化物を含有している。負極は例えば炭素材料を含有している。セパレータは例えばポリオレフィンからなる。電解質は例えばLiPF6を環状および鎖状カーボネートに溶解した電解質である。第1の電池10は、多孔質等からなるセパレータの内部に電解質が充填された構造であってもよい。
【0016】
図1では、4個の第1の電池10が直列接続されている組電池20を例示しているが、後述するように、組電池20が含む第1の電池10の数は特に制限がない。
【0017】
電源40は、組電池20に測定信号を印加する。CPU30は、記憶手段であるメモリ31と、コントローラ32と、測定手段である測定回路33と、演算手段である演算回路34と、を含む。メモリ31は、電池システム1の制御データを記憶している。制御データは、後述する第2の電池(不図示)のデータを含んでいる。第2の電池と第1の電池10とは同じ仕様である。
【0018】
制御手段であるコントローラ32は、電池システム1の全体を制御する。測定回路33は所定の温度の組電池20の所定の周波数におけるインピーダンス特性を測定する。演算回路34は組電池20に含まれている第1の電池10の充電状態(SOC)の分布を推定する。
【0019】
なお、メモリ31と、コントローラ32と、測定回路33と、演算回路34と、は独立した回路でもよいし、これらは、プログラムにもとづきCPU30が行う機能でもよい。電池システム1が別体の他のシステムの一部として使用されている場合等において、他のシステムのCPUを、CPU30として用いてもよい。他のシステムは、複数の電池システム1が共通に用いるクラウドシステムでもよい。温度調整装置29、温度制御部32Aおよびセンサ29Aも、複数の組電池20の共通でもよい。例えば、複数の組電池20が所定の温度に調整された恒温槽に配置される。
【0020】
後述するように、電池システム1のメモリ31に記憶されている第2の電池のデータは、測定周波数と温度とを含む測定条件、第2の電池のSOC変化点TSOC、および、コンスタントゾーンにおけるインピーダンス特性であるインピーダンス底値ZB、を含む(図3参照)。第2の電池のデータは、複数の電池システム1の共通データであり、それぞれの電池システム1を製造する前に取得される。第2の電池のデータを用いて、複数の組電池20のSOC分布が推定される。
【0021】
それぞれの電池システム1は、第2の電池のデータを取得する機能を有している必要は無い。
【0022】
電池システム1では、測定回路33が測定したインピーダンス特性と、メモリ31が記憶している第2の電池のデータとから、組電池20の充電状態の分布を演算回路34が推定する。
【0023】
電池システム1は、第2の電池のデータを用いることによって、組電池20のSOC分布を簡単に推定できる、
【0024】
なお、後述するように、メモリ31に記憶される第2の電池のデータには、SOC変化点TSOCが含まれていなくともよい。
【0025】
<電池システム1の動作>
図2のフローチャートにそって、電池システム1による推定方法について説明する。
【0026】
<ステップS10~S30>第1の工程(第2の電池の測定工程)
ステップS10では、第1の電池10と同じ仕様の第2の電池(不図示)の所定の測定周波数、所定の温度におけるインピーダンス特性が、複数の充電状態(SOC)において測定される。
【0027】
測定周波数は、SOCに対してインピーダンス特性が大きく変化する周波数、例えば、100mHzである。測定周波数は、予め、複数のSOCの第2の電池のインピーダンス特性の周波数依存性にもとづき設定される。
【0028】
具体的には、異なるSOCの第2の電池のインピーダンス特性の周波数特性を、それぞれ測定し、SOCに対するインピーダンス特性の変化率の周波数依存性を算出し、最も大きい変化率(ΔZ/Δf ; Z:インピーダンス、f:周波数)の周波数を測定周波数とする。
【0029】
例えば、SOCを0%~100%に変化させながら、振幅5mV、周波数100mHzの交流正弦波信号を、充電中または放電中の第2の電池に印加する。測定するSOCの数は、1%毎、すなわち0%~100%を測定する場合には101個であることが好ましいが、5%毎、すなわち21個程度でもよい。推定するSOC範囲に応じて、測定するSOC範囲を限定してもよい。
【0030】
なお、第2の電池のSOCと電圧との関係が予め取得されている場合には、SOCに変えて電圧を用いてもよい。例えば、第2の電池を負荷に接続し、放電しながらインピーダンス特性を測定してもよい。もちろん、充電しながら、インピーダンス特性を測定してもよい。例えば、第2の電池の電圧は、SOC100%では、4.20Vであり、SOC0%では、3.00Vである。
【0031】
温度は、電池が劣化しない温度範囲、例えば、-20℃以上60℃以下の任意の温度である。後述するように、温度によってSOC分布推定の基準値が変化する。本実施形態では温度は、0℃である。
【0032】
インピーダンス特性としては、実数成分(レジスタンス)Z`、虚数成分(リアクタンス)-Z``、位相角θ、および絶対値|Z|のうち、少なくともいずれかである。本実施形態では、インピーダンス特性はリアクタンスである。
【0033】
図3に、第2の電池のリアクタンス(-Z``)とSOCとの関係の一例(温度0℃)を示す。SOCが45%以上80%以下の範囲(コンスタントゾーン)では、リアクタンスは、ほぼ一定である。一方、SOCが45%以下の範囲(変化ゾーン)では、リアクタンスは大きく増加している。SOCが80%以上の範囲(変化ゾーン)でも、リアクタンスは増加している。すなわち、リアクタンスとSOCとの関係は、SOC中央値(50%)近傍において、リアクタンスが、一定の最小値であるインピーダンス底値ZBとなる、いわゆるバスタブ型である。
【0034】
<ステップS40>第2の工程(TSOC、底値ZB取得)
インピーダンス底値ZBおよびSOC変化点TSOCが取得される。本実施形態では、SOC変化点は、SOCの変化に応じてインピーダンス特性が変化する、低SOC側(SOC≦50%)のSOCである。
【0035】
リアクタンスがSOCの変化に応じて変化しはじめる前、すなわちコンスタントゾーンのSOCがインピーダンス底値ZBである。インピーダンス底値ZBは、リアクタンスの最小値でもよいし、例えば、図3において、SOCが45%超80%未満の領域(コンスタントゾーン)の値を近似した直線のy切片から取得されてもよい。
【0036】
SOC変化点TSOCは、コンスタントゾーンと変化ゾーンとの境界のSOCである。SOC変化点(TSOC)の取得には、各種の方法を用いることができる。図3に示す例では、TSOCは、リアクタンスがインピーダンス底値ZBの105%となったSOCである37%である。
【0037】
SOC変化点TSOCは、リアクタンスがインピーダンス底値ZBよりも、ΔZだけ大きいSOCであり、ΔZは例えばインピーダンス底値ZBの1%以上100%以下である。ΔZはリアクタンスの値で設定されてもよい。さらに、SOC変化点TSOCは、変化ゾーンを近似した直線と、コンスタントゾーンを近似した直線との交点から取得してもよい。
【0038】
<ステップS50>第3の工程(記憶工程)
測定条件、および、SOC変化点TSOC、および、インピーダンス底値ZB、を含む第2の電池のデータが、電池システム1のメモリ31に記憶される。
【0039】
複数の第2の電池に対してステップS10~S40の処理が行われ、複数の第2の電池のデータが平均化されて、平均化されたデータが、それぞれの電池システム1において用いられても良い。
【0040】
<ステップS60>組電池測定工程
組電池20に含まれる複数の第1の電池10のSOC分布を推定するために、コントローラ32の制御によって、電源40がメモリ31に記憶されている条件の測定信号を所定温度の組電池20に印加し、組電池20のリアクタンスが測定回路33によって測定される。電源40は、第2の電池のデータが測定されたときと同じ周波数の測定信号を、第2の電池のデータが測定されたときと略同じ温度の組電池20に印加する。
【0041】
なお、第2の電池の測定値との整合のため、組電池20に印可される測定信号の振幅は、組電池20に含まれる第1の電池10の数に応じて設定される。例えば、組電池20が20個の第1の電池10を含む場合には、組電池20の測定信号の振幅は、第2の電池の測定信号の20倍とする。
【0042】
電池のインピーダンス特性は温度の影響をうける。このため、電池システム1は、温度検出手段である温度センサ29Aが測定した温度が、例えば、第2の電池の温度±5℃、である場合に、充電状態の分布を推定する。なお、温度センサ29Aは、他のシステムとの共用センサであってもよい。
【0043】
<ステップS70>組電池20のSOC分布の推定工程
組電池20のリアクタンスと、メモリ31に記憶されている第2の電池のデータ(TSOC、ZB)と、から組電池20のSOC分布が演算回路34によって推定される。
【0044】
ここで、組電池20のリアクタンスは、直列接続されているk個(kは整数)の第1の電池10のリアクタンスの加算値となる。このため、図3に示した第2の電池のインピーダンス底値ZBに対して、図4に示す、k個の第1の電池10を含む組電池20のインピーダンス底値は、kZBとなる。
【0045】
そして、図4のA領域のように、組電池20のリアクタンスが、インピーダンス底値ZBの、ほぼk倍(kZB)であれば、組電池20には、SOCが推定基準値(TSOC)である37%以下の第1の電池10が含まれていないと推定される。これに対して、B領域のように、組電池20のリアクタンスが、インピーダンス底値ZBのk倍超であれば、組電池20には、SOCが推定基準値である37%以下の第1の電池10が含まれていると推定される。
【0046】
なお、組電池20に、ある推定基準値をもとにした場合に、他の第1の電池10とは、異なる第1の電池10が含まれていないことを推定するためには、メモリ31にはSOC変化点(TSOC)は記憶されていなくともよい。ただし、TSOCも記憶されているメモリ31を含む電池システム1では、推定基準値のSOCがTSOCであることが明確である。
【0047】
組電池20が含む第1の電池10の数は、特に制限はないが、10個以上であれば所望の電圧が得られ、100個以下であればSOC分布の推定が容易である。
【0048】
以上の説明では、SOCが50%以下の場合、すなわち、SOC変化点の範囲が、60%以下の場合の推定方法であった。しかし、同じようにSOCが50%超のSOCを推定することもできる。高SOC範囲を推定するには、図5等に示したバスタブ型曲線の右側(高SOC範囲)のコンスタントゾーンと変化ゾーンとの境界をSOC変化点として用いる。低SOC範囲における第2の電池のデータと、高SOC範囲における第2の電池のデータとが、メモリ31に記憶されていてもよい。
【0049】
すでに説明したように、ステップS10~ステップS50は、電池システム1の製造工程で行われる複数の電池システム1の共通工程である。さらに、ステップS60、S70が組電池20の工場等で行われる検査工程の場合には、CPU30および電源40等も、複数の組電池20の共通構成であり、検査後に良品と推定された組電池20が出荷される。
【0050】
なお、第1の電池10は、リチウムイオン電池に限られるものではなく、例えばリチウムポリマー電池、または、リチウム硫黄電池でもよい。また、第1の電池10は、電解質が固体電解質である全固体電池でもよい。また、第1の電池10は、隣り合う電池(セル)が、正極と負極とが共通の集電体を有するバイポーラ電池でもよい。また、第1の電池10は、電解質が固体電解質であるバイポーラ全固体電池でもよい。
【0051】
また、本実施形態では、インピーダンス特性は、リアクタンスであり、測定周波数は100mHzであった。しかし、インピーダンス特性の種類、測定周波数、および印加電圧等の測定条件は、電池の仕様によって適宜、選択可能である。
【0052】
すでに説明したように、インピーダンス特性として、リアクタンスに替えて、SOCとの関係がバスタブ型である、レジスタンスZ`(図5)、インピーダンスの絶対値|Z|(図6)、または、位相角θ(不図示)を用いることもできる。ただし、インピーダンス特性に対するSOCの変化が最も顕著であるために、インピーダンス特性として、リアクタンスを使うことが好ましい。
【0053】
なお、複数の周波数を用いることによって、単一周波数を用いた測定よりも、精度の高い測定が可能である。例えば、周波数50mHz、100mHz、150mHzにおいて、それぞれの工程を行い、それらの測定結果を組み合わせることで測定精度が向上する。
【0054】
<実施形態の変形例>
実施形態の変形例の電池システム1A、1Bおよび変形例の電池状態推定方法は、実施形態の電池システム1および実施形態の電池状態推定方法と類似し同じ効果を有しているため、同じ機能の構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0055】
<変形例1>
すでに説明したように、最適の測定周波数を決定するには、SOCが異なる複数の第2の電池のインピーダンス特性の周波数依存性を、それぞれ測定する必要があった。
【0056】
しかし、変形例1の電池システム1Aでは、1つの第2の電池のインピーダンス特性の周波数依存性を測定するだけ、最適の測定周波数を決定することもできる。
【0057】
本変形例の電池状態推定方法では、以下に説明するようにコールコールプロットの解析工程によって、測定周波数を決定する
【0058】
<複素インピーダンス測定工程>
本変形例の推定方法では、測定周波数を決定するために、第1のSOCの第2の電池の複素インピーダンス(レジスタンスZ`およびリアクタンス-Z``)の周波数特性が測定される。
【0059】
ここで、第1のSOCは、SOC推定の基準としたい2つのSOCのうちの、リアクタンスが小さいSOCである。例えば、低SOC範囲の変化ゾーンのSOC推定を行う場合には、SOC20%が第1のSOCであり、SOC10%が第2のSOCである。
【0060】
第1のSOCと第2のSOCとの差は、5%以上20%以下であることが好ましい。前記範囲内であれば、推定精度が高い。
【0061】
複素インピーダンスの周波数特性の測定では、例えば、振幅5mVの交流正弦波信号が、周波数を高周波(1kHz)から低周波(10mHz)に変化しながら、第2の電池に印加される。
【0062】
図7は、第2の電池の複素インピーダンスの周波数特性を示すコールコールプロットである。コールコールプロットは、横軸がインピーダンスの実数成分(レジスタンスZ`)であり縦軸がインピーダンスの虚数成分(リアクタンス-Z``)である。正極と負極とを有する二次電池のコールコールプロットは、負極反応に相当する高周波領域の半円と、正極反応に相当する低周波領域の半円と、拡散抵抗成分に相当する傾き45度の直線と、に分解できる。
【0063】
<第1の周波数の取得>
図8は、図7の部分拡大図である。図8に示すように、コールコールプロットにおいて拡散抵抗成分に相当する傾き45度の直線とリアクタンスがゼロの直線との交点、すなわち、拡散抵抗成分がゼロとなる点Oが算出される。そして、点OのレジスタンスZ`と同じレジスタンスZ`となるコールコールプロットの測定点Aの周波数が、第1の周波数f1として取得される。なお、測定点Aは拡散抵抗成分がゼロとなる最も低い周波数である。
【0064】
図8に示す例では、点Oのインピーダンス実数成分Z`は、45mΩであり、同じレジスタンスZ`となる点Aの第1の周波数f1は、610mHzである。
【0065】
<第2の周波数の取得>
コールコールプロットにおいて、拡散抵抗成分を含む領域において、リアクタンスが、第1の周波数f1と同じである周波数が、第2の周波数f2として取得される。拡散抵抗成分を含む領域は、言い替えれば、第1の周波数f1よりも低周波の領域である。
【0066】
図8に示す例では、点Aのリアクタンスは、6.8mΩであり、同じリアクタンスとなる点Bの第2の周波数f2は、40mHzである。
【0067】
<測定周波数決定>
第1の周波数f1以下第2の周波数f2以上の範囲の周波数Fが決定される。例えば、コールコールプロットの第1の周波数f1の点と第2の周波数f2の点とを結ぶ直線の中点Cのリアクタンスとなる周波数が測定周波数Fとして決定される。図8に示したコールコールプロットでは、100mHzが測定周波数Fとして決定される。
【0068】
なお、図7から明らかなように、測定周波数Fの範囲f1-f2は、正極反応に相当する低周波領域の半円の範囲である。すなわち、本変形例では、二次電池の正極反応におけるリアクタンスの変化をもとにSOCが推定される。
【0069】
測定周波数Fが前記範囲であれば、リアクタンスの変化率が大きい。例えば、リアクタンスの変化率((Z10-Z20)/Z20)は、第1の周波数f1においては620%であり、第2の周波数f2においては、680%であり、100mHzにおいては1100%であった。
【0070】
なお、従来の方法では、SOC10%の電池およびSOC20%の電池のリアクタンスの周波数特性を、それぞれ測定し、さらに、SOCに対するリアクタンスの変化率の周波数依存性を取得し、変化率が最大値となる周波数が算出される。従来の方法では、周波数125mHzにおいて、変化率は最大値1150%となった。
【0071】
本変形例では、SOCが20%の電池のリアクタンスの周波数特性を測定するだけで、従来の方法に匹敵するインピーダンス変化率が得られている。
【0072】
本変形例は、適切な測定周波数を含む第2の電池のデータを用いることによって、第1の電池10のSOCを精度良く容易に推定できる。
【0073】
<変形例2>
実施形態の変形例2の電池システム1Bの構成を図9に示す。電池システム1Bおよび電池システム1Bによる電池状態推定方法は、電池システム1および電池システム1による電池状態推定方法と類似し同じ効果を有しているので、同じ機能の構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0074】
電池システム1Bは、温度制御手段である温度制御部32Aを含んでいる。温度制御部32Aは、温度センサ29Aを含む温度調整手段である温度調整装置29を用いて、組電池20の温度を制御する、センサ29Aは温度調整装置29と別体でもよい。
【0075】
電池のインピーダンス特性は温度の影響を受けるために、SOC変化点(TSOC)も、温度によって変化する。
【0076】
電池システム1Bは、組電池20に含まれる複数の第1の電池のSOC分布を、所望のSOCを推定基準値として推定できる。
【0077】
<電池システム1Bの動作>
図10のフローチャートにそって、電池システム1Bによる電池状態推定方法について説明する。
【0078】
<ステップS110~S130>第1の工程(第2の電池の測定)
ステップS110では、第1の電池10と同じ仕様の第2の電池(不図示)の複数の第1の温度におけるインピーダンス特性が、複数の充電状態(SOC)において、それぞれ測定される。
【0079】
例えば、第2の電池のインピーダンス特性が、SOCを所定範囲、例えば、0%~100%に変化させながら、複数の第1の温度のひとつである45℃において測定される。所定温度に第2の電池を維持するためには、例えば、恒温槽を用いる。
【0080】
ステップS120では、予め設定されている複数の第1の温度における測定が全て終了している場合(Yes)には、ステップS130に移行する。測定が終了していない場合(No)には、ステップS30において、第1の温度が、例えば25℃に変更される。
【0081】
第1の温度の数は、最低2つであるが、より広いSOC範囲をカバーするためには、3つ以上が好ましく、4つ以上が特に好ましい。
【0082】
<ステップS140>第2の工程(TSOC、ZB取得)
図11図12に示す、インピーダンス底値ZBおよびSOC変化点(TSOC)と、温度(第1の温度)との関係が取得される。
【0083】
<ステップS150>第3の工程(第2の電池のデータ記憶)
ZBおよびTSOCと温度との関係を含む第2の電池のデータが、メモリ31に記憶される。これらの関係、図11、12のグラフをもとにした、近似式として記憶されてもよいし、表として記憶されてもよい。
【0084】
<ステップS160>温度設定
本実施形態では、SOC分布を推定する基準となる推定基準値に応じて温度が設定される。例えば、SOC10%未満の第1の電池10が含まれているかどうかを推定する場合には、図12に示したTSOCと温度との関係を用いて、温度は、42℃に設定される。同様にSOC30%を基準SOCとする場合には、温度は10℃に設定される。
【0085】
そして、温度制御部32Aが、センサ29Aが検出する組電池20の温度が、所定の温度となるように温度調整装置29を制御する。言い替えれば、組電池20の温度が、温度調整装置29が温度制御部32Aによって制御される。温度調整装置29は、例えば、ヒーターおよびペルチェ素子を有する。なお、複数の組電池20のSOC推定を行う場合には、複数の組電池20を所定温度の1つの恒温槽または恒温室に配置してもよい。
【0086】
<ステップS170>組電池の測定
組電池20に含まれる複数の第1の電池10のSOC分布を推定するために、組電池20のリアクタンスが測定される。
【0087】
<ステップS180>組電池20のSOC分布の推定
すでに説明したように、例えば、温度が42℃の組電池20のリアクタンスが、図11に示したZBと温度との関係を用いて取得される。インピーダンス底値ZBのk倍以下であれば、組電池20には、SOCがTSOCである10%以下の第1の電池10が含まれていないと推定される。これに対して、組電池20のリアクタンスが、インピーダンス底値ZBのk倍超であれば、組電池20には、SOCが10%以下の第1の電池10が含まれていると推定される。
【0088】
変形例2の電池システム1Bおよび電池状態推定方法によれば、所望のSOCを基準とする充電状態の分布を推定できる。
【0089】
なお、温度制御機能を有していない電池システムであっても、第2の電池のデータが、複数の温度におけるデータを含んでいてもよい。組電池20のSOC分布を推定するときに、温度センサ29Aが検出した温度に最も近い温度において測定された第2の電池のデータを、組電池20の推定に用いることができる。
【0090】
本発明は、上述した実施形態等に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変、例えば、実施形態の構成要素の組み合わせ等が可能である。
【符号の説明】
【0091】
1、1A、1B…電池システム
10…第1の電池
20…組電池
31…メモリ
32…コントローラ
33…測定回路
34…演算回路
40…電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12