(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】組電池の評価方法および電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20221215BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20221215BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20221215BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
H01M10/48 A
G01R31/389
G01R31/392
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 Q
(21)【出願番号】P 2019168853
(22)【出願日】2019-09-17
【審査請求日】2021-12-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 共創の場形成支援(産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム)「人と知能機械との協奏メカニズム解明と協奏価値に基づく新しい社会システムを構築するための基盤技術の創出に関する学校法人早稲田大学による研究開発」 委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】逢坂 哲彌
(72)【発明者】
【氏名】戸ヶ崎 徳大
(72)【発明者】
【氏名】横島 時彦
(72)【発明者】
【氏名】内海 和明
(72)【発明者】
【氏名】津田 信悟
(72)【発明者】
【氏名】小熊 泰正
【審査官】下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-179652(JP,A)
【文献】特開2018-159586(JP,A)
【文献】特開2017-187377(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42 - 10/48
H01M 10/52 - 10/667
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
G01R 31/36 - 31/44
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1の電池が直列接続されている組電池に、所定の周波数の複数の電圧の信号が印加されてインピーダンス特性が測定される工程と、
前記組電池の前記インピーダンス特性と、予め記憶されている、前記第1の電池と同じ仕様の第2の電池のデータと、を用いて、前記複数の第1の電池の劣化状態の分布が推定される工程と、を具備し、
前記第2の電池の前記データは、
劣化状態が異なる複数の第2の電池に、それぞれ、前記所定の周波数の複数の電圧の信号が印加されて、それぞれの前記インピーダンス特性が測定される第1の工程と、
前記第1の工程の測定結果をもとに、それぞれの劣化状態において、前記インピーダンス特性が増加しはじめるSOH電圧が、それぞれ算出される第2の工程と、
劣化状態と前記SOH電圧との関係を含む前記第2の電池の前記データが取得される第3の工程と、
前記第2の電池の前記データを記憶する第4の工程と、によって記憶されていることを特徴とする組電池の評価方法。
【請求項2】
組電池の評価方法は、
複数の第1の電池が直列接続されている前記組電池に、予め記憶されているSOH電圧よりも、
0.05V以上0.2V以下、高い電圧の所定の周波数の信号が印加されてインピーダンス特性が測定される工程と、
前記組電池の前記インピーダンス特性と、前記第1の電池と同じ仕様の第2の電池のデータを用いて、前記組電池に、所定の劣化状態よりも劣化している前記第1の電池が含まれていることが推定される工程と、を具備し、
前記第2の電池の前記データは、
前記所定の劣化状態の第2の電池に、複数の電圧の前記所定の周波数の信号が印加されて、それぞれの前記インピーダンス特性が測定される第1の工程と、
前記第1の工程の測定結果をもとに、前記所定の劣化状態において、前記第2の電池のデータである前記インピーダンス特性が増加しはじめる前記SOH電圧が算出される第2の工程と、
前記第2の電池のデータである前記SOH電圧を記憶する第3の工程と、によって取得され記憶されることを特徴とする組電池の評価方法。
【請求項3】
前記第1の工程において、複数の周波数の信号が印加されて、それぞれの前記インピーダンス特性が測定され、
複数の周波数における前記第2の電池の前記データをもとに、推定されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の組電池の評価方法。
【請求項4】
前記第2の電池の前記データを用いて、複数の組電池が評価されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の組電池の評価方法。
【請求項5】
前記インピーダンス特性の種類が、リアクタンスであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の組電池の評価方法。
【請求項6】
前記所定の周波数は、第1の周波数以下、第2の周波数以上であり、
前記第1の周波数は、所定の劣化状態の前記第2の電池の複素インピーダンスの周波数特性であるコールコールプロットにおいて拡散抵抗成分がゼロの領域における最も低い周波数であり、
前記第2の周波数は、前記コールコールプロットにおいて前記拡散抵抗成分を含む領域における、リアクタンスが前記第1の周波数と同じである周波数であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の組電池の評価方法。
【請求項7】
前記所定の周波数が、10mHz以上500mHz以下であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の組電池の評価方法。
【請求項8】
複数の第1の電池が直列接続されている組電池と、
前記組電池に所定の周波数の複数の電圧の信号を印加する電源と、
前記複数の信号の電圧、および、前記第1の電池と同じ仕様の第2の電池のデータを記憶しており、前記第2の電池の前記データは、前記第2の電池の劣化状態と、前記第2の電池に印加された前記信号の複数の電圧との関係であるSOH推定データ、を含んでいる記憶手段と、
前記所定の周波数の複数の電圧の前記信号が印加された前記組電池のインピーダンス特性を測定する測定手段と、
前記組電池の前記インピーダンス特性と、前記第2の電池の前記データとに基づき、前記複数の第1の電池の劣化状態の分布を推定する演算手段と、を具備することを特徴とする電池システム。
【請求項9】
複数の第1電池が直列接続されている組電池と、
前記組電池に所定の周波数の所定の電圧の信号を印加する電源と、
前記信号の電圧、および、第1の電池と同じ仕様の第2の電池のデータと、を記憶しており、前記第2の電池の前記データは、前記第2の電池の劣化状態と、前記第2の電池に印加された前記信号の電圧との関係であるSOH推定データ、を含んでいる記憶手段と、
前記所定の電圧よりも
、0.05V以上0.2V以下、高い電圧の前記所定の周波数の信号が印加された前記組電池のインピーダンス特性を測定する測定手段と、
前記組電池の前記インピーダンス特性と、前記第2の電池の前記データとに基づき、前記組電池に、所定の劣化状態よりも劣化している前記第1の電池が含まれていることを推定する演算手段と、を具備することを特徴とする電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、複数の二次電池を含む組電池の評価方法、および、複数の二次電池を含む組電池を有する電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯機器、電動工具および電気自動車等に二次電池が用いられている。二次電池の中でリチウムイオン電池は、リチウムのイオン化傾向が大きいことから、高電圧、高出力、高エネルギー密度である。リチウムイオン電池は、定置用電源および非常用電源などの大型電源への応用も期待されている。電池は、負荷の仕様の電圧となるように、複数の電池が直列接続された組電池として使用される。
【0003】
二次電池の特性を測定する方法として、交流インピーダンス測定法が知られている。特開2009-97878号公報には、交流インピーダンス法によって取得した電池のコールコールプロットを、等価回路モデルを用いて解析する測定方法が開示されている。
【0004】
特開2018-151194号公報には、組電池の充電状態(SOC:State of Charge)に対して大きく変化するパラメータを利用して、充電状態を推定する装置が開示されている。
【0005】
一方、劣化状態(SOH:State of Health)も、電池の重要な特性である。SOHは、(評価電池の放電容量/初期の電池の放電容量)×100、によって示される。SOHが100%であれば電池は全く劣化していない。
【0006】
電池のSOHは、使用に対応して減少する。組電池に含まれている複数の電池(セル)は同じ仕様にもとづき製造されているため、それらのSOHは、理想的には同じように減少するはずであるが、実際には、ばらつき(分布)が生じることがある。例えば、初期特性に影響を与えない程度の製造条件の違い、使用環境における温度分布、電池を固定する拘束治具の圧力分布、または、外部からの衝撃によって、複数の電池のSOHに分布が生じることがある。
【0007】
複数の電池にSOH分布があり、劣化している電池、すなわち、他の電池よりも、SOHが小さい電池が含まれていると、組電池の性能が加速度的に劣化する。組電池に組み立てる前に、それぞれの電池のSOHを、評価することは比較的容易である。しかし、複数の電池を組電池に組み立てる工程においてSOH分布の原因が発生するおそれもある。
【0008】
組電池に含まれる、それぞれの電池のSOHを評価するには、それぞれの電池に評価のための電線を接続する必要がある。また、組電池の仕様によっては、電線を接続できない構造のため、組み立て後は、それぞれの電池のSOHを評価できなかった。
【0009】
組電池に含まれている複数の電池のSOH分布を、組電池を分解したり改造したりすることなく簡単に推定する評価方法、および、組電池に含まれている複数の電池のSOH分布を簡単に推定できる電池システムの開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2009-97878号公報
【文献】特開2018-151194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の実施形態は、含まれている複数の電池のSOH分布を簡単に推定できる組電池の評価方法、および、組電池に含まれている複数の電池のSOH分布を簡単に推定できる電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態の組電池の評価方法は、複数の第1の電池が直列接続されている組電池に、所定の周波数の複数の電圧の信号が印加されてインピーダンス特性が測定される工程と、前記組電池の前記インピーダンス特性と予め記憶されている前記第1の電池と同じ仕様の第2の電池のデータとを用いて、前記複数の第1の電池の劣化状態の分布が推定される工程と、を具備し、前記第2の電池の前記データは、劣化状態が異なる複数の第2の電池に、それぞれ、前記所定の周波数の複数の電圧の信号が印加されて、それぞれの前記インピーダンス特性が測定される第1の工程と、前記第1の工程の測定結果をもとに、それぞれの劣化状態において、前記インピーダンス特性が増加しはじめるSOH電圧が、それぞれ算出される第2の工程と、劣化状態と前記SOH電圧との関係を含む前記第2の電池の前記データが取得される第3の工程と、前記第2の電池の前記データを記憶する第4の工程と、によって取得され記憶されている。
【0013】
別の実施形態の電池システムは、複数の第1の電池が直列接続されている組電池と、前記組電池に所定の周波数の複数の電圧の信号を印加する電源と、前記複数の信号の電圧、および、前記第1の電池と同じ仕様の第2の電池のデータを記憶しており、前記第2の電池の前記データは、前記第2の電池の劣化状態と、前記第2の電池に印加された前記信号の複数の電圧との関係であるSOH推定データ、を含んでいる記憶手段と、前記所定の周波数の前記信号が印加された前記組電池のインピーダンス特性を測定する測定手段と、前記組電池の前記インピーダンス特性と、前記第2の電池の前記データとに基づき、前記複数の第1の電池の劣化状態の分布を推定する演算手段と、を具備する。
別の実施形態の電池システムは、複数の第1電池が直列接続されている組電池と、前記組電池に所定の周波数の所定の電圧の信号を印加する電源と、前記信号の電圧、および、第1の電池と同じ仕様の第2の電池のデータと、を記憶しており、前記第2の電池の前記データは、前記第2の電池の劣化状態と、前記第2の電池に印加された前記信号の電圧との関係であるSOH推定データ、を含んでいる記憶手段と、前記所定の電圧よりも、0.05V以上0.2V以下、高い電圧の前記所定の周波数の信号が印加された前記組電池のインピーダンス特性を測定する測定手段と、前記組電池の前記インピーダンス特性と、前記第2の電池の前記データとに基づき、前記組電池に、所定の劣化状態よりも劣化している前記第1の電池が含まれていることを推定する演算手段と、を具備する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態によれば、含まれている複数の電池のSOH分布を簡単に推定できる組電池の評価方法、および、組電池に含まれている複数の電池のSOH分布を簡単に推定できる電池システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】実施形態の評価方法を説明するためのフローチャートである。
【
図3】電圧とインピーダンス特性との関係を示す図である。
【
図5】SOH電圧とSOHとの関係(SOH推定データ)を示す図である。
【
図6】組電池の電圧とインピーダンス特性との関係を示す図である。
【
図7】変形例1の組電池に印加する電圧を説明するための図である。
【
図8】変形例2を説明するための第2の電池のコールコールプロットの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<電池システムの構成>
図1に示すように、実施形態の電池システム1は組電池20と、CPU30と、電源40と、を具備する。組電池20は、複数の第1の電池10(以下、「電池10」ともいう。)が直列接続されている。組電池20および電源40は図示しない負荷(モーター等)と接続されている。
【0017】
第1の電池10は、リチウムイオンを吸蔵/放出する正極と、電解質と、セパレータと、リチウムイオンを吸蔵/放出する負極と、からなる単位セルを有するリチウムイオン二次電池である。正極はリチウムコバルト酸化物を含有している。負極は炭素材料を含有している。セパレータはポリオレフィンからなる。そして電解質はLiPF6を環状および鎖状カーボネートに溶解した電解質である。第1の電池10は、多孔質等からなるセパレータの内部に電解質が充填された構造であってもよい。
【0018】
CPU30は、記憶手段であるメモリ31と、制御手段であるコントローラ32と、測定手段である測定回路33と、演算手段である演算回路34と、を含む。メモリ31は、後述する第2の電池のデータを含む電池システム1の制御データを記憶している。コントローラ32は、電池システム1を制御する。測定回路33は組電池20のインピーダンス特性を測定する。演算回路34は、測定回路33が測定したインピーダンス特性から組電池20に含まれている複数の第1の電池10の劣化状態分布(SOH分布)等を推定する。電源40は、組電池20に測定信号を印加する。温度検出手段である温度センサ29Aは組電池20の温度を検出する。
【0019】
なお、メモリ31と、コントローラ32と、測定回路33と、演算回路34と、は独立した回路でもよいし、これらはプログラムにもとづきCPU30が行う機能でもよい。また、電池システム1が別体の他のシステムの一部として使用されている場合等において、他のシステムのCPUをCPU30として用いてもよい。他のシステムは、複数の電池システム1が共通に用いるクラウドシステムでもよい。
【0020】
<電池システムの動作>
図2のフローチャートにそって、電池システム1による評価方法について説明する。
【0021】
<ステップS10>第1の工程(第2の電池測定工程)
第1の電池10と同じ仕様の第2の電池(不図示)は、例えば、充放電試験によって所望のSOHとなる。
【0022】
SOHが異なる第2の電池に、所定の温度において所定の周波数の複数の電圧の異なる、例えば正弦波の交流信号が印加されて、それぞれのSOHにおけるインピーダンス特性が測定される。
【0023】
所定の測定周波数は、SOHに対してインピーダンス特性が大きく変化する周波数、例えば、100mHzである。測定周波数は、予め、複数のSOHの第2の電池のインピーダンス特性の周波数依存性にもとづき設定される。
【0024】
具体的には、異なるSOHの第2の電池のインピーダンス特性の周波数特性を、それぞれ測定し、SOHに対する変化率の周波数依存性を算出し、最も大きい変化率 (ΔSOH/Δf ; f:周波数)の周波数を測定周波数とする。
【0025】
図3では、SOH100%、SOH93%、SOH78%の第2の電池のインピーダンスの虚数成分-Z``(以下、「リアクタンス」ともいう。)の電圧依存性を示している。周波数は100mHzである。
【0026】
<ステップS20>第2の工程(SOH電圧算出工程)
第2の電池は、いずれのSOHにおいても、リアクタンスは、電圧が高くなると、ほぼ一定の最小値であるインピーダンス底値ZBから増加する。そして、SOHが小さい、すなわち、劣化していると、第2の電池のリアクタンスが増加しはじめる電圧(以下、「SOH電圧VU」ともいう。)が小さくなる。
【0027】
第1の工程の測定結果をもとに、それぞれのSOHの第2の電池において、リアクタンスが増加しはじめるSOH電圧VUがそれぞれ算出される。
【0028】
例えば、
図4に示すように、SOH電圧VUは、リアクタンスの増加率が、5%/V以下の領域(コンスタントゾーン)の値を近似した直線(インピーダンス底値ZB)と、リアクタンスの増加率が10%/V以上となった領域(変化ゾーン)の値を近似した直線との、交点から取得される。
【0029】
SOH電圧VUの取得には、各種の方法を用いることができる。例えば、SOH電圧VUは、リアクタンスがインピーダンス底値ZBよりも、ΔZだけ大きいSOCでもよい。ΔZは例えばインピーダンス底値ZBの1%以上100%以下である。ΔZはリアクタンスの絶対値によって設定されてもよい。
【0030】
<ステップS30>第3の工程(SOH/VU関係取得工程)
図5に示すような、SOHとSOH電圧VUとの関係であるSOH推定データが取得される。SOH/VU関係は、
図5のグラフをもとに、近似式として取得されてもよいし、表として取得されてもよい。
【0031】
<ステップS40>第4の工程(第2の電池のデータの記憶工程)
SOH推定データおよび測定条件(電圧、測定周波数、温度)等を含む、第2の電池のデーがメモリ31に記憶される。
【0032】
ステップS10~S30は、複数の電池システム1の評価方法の前工程に相当する。これに対して、以下において説明するステップS50~S60は、それぞれの電池システム1の評価方法の後工程である。予めメモリ31に記憶されている第2の電池のデータを用いて、複数の組電池20が評価される。それぞれの電池システム1は第2の電池のデータを取得する機能を有している必要は無い。
【0033】
なお、複数の第2の電池のSOH/VU関係を取得し、複数のSOH/VU関係をもとに、メモリ31に記憶する第2の電池のデータが作成されてもよい。
【0034】
<ステップS50>組電池測定
複数の第1の電池10が直列接続された組電池20が作製され、電池システム1に組み込まれる。そして、組電池20に含まれる複数の電池10のSOH分布を評価するために、コントローラ32の制御によって、組電池20に、電源40から、複数の電圧の交流信号が印加されて、測定回路33によって、インピーダンス特性であるリアクタンスが測定される。
【0035】
電源40は、第2の電池のデータが測定されたときと同じ周波数の交流信号を、第2の電池のデータが測定されたときと同じ温度の組電池20に印加する。
【0036】
電池のインピーダンス特性は温度の影響をうける。このため、電池システム1は、温度センサ29Aが測定した温度が、例えば、第2の電池の温度±5℃、である場合に、充電状態の分布を推定する。なお、温度センサ29Aは、他のシステムとの共用センサであってもよい。複数の組電池20が、温度センサ29Aを有する室内に配置されていてもよい。
【0037】
なお、第2の電池の測定値との整合のため、組電池20に印可される測定信号の振幅は、組電池20に含まれる第1の電池10の数に応じて設定される。組電池20が20個の第1の電池10を含む場合には、組電池20の測定信号の振幅は、第2の電池の測定信号の20倍とする。
【0038】
複数の第1の電池10が直列接続された組電池20のリアクタンスは、複数の第1の電池10のリアクタンスの合計値となる。
【0039】
<ステップS60>SOH分布推定
第4の工程の測定結果をもとに、予めメモリ31に記憶されているSOH推定データ(第2の電池のデータ)を用いて、組電池20に含まれる複数の第1の電池10のSOH分布が推定される。
【0040】
図6は、4つの第1の電池10が直列接続された組電池20のリアクタンスの電圧依存性の一例を示している。組電池20のインピーダンス底値は、第1の電池10のインピーダンス底値ZBの4倍である。
【0041】
組電池20のリアクタンスが、所定の電圧においてのみ上昇する場合には、組電池20に含まれる複数の第1の電池10のSOHが同じと推定される。
【0042】
これに対して、
図6に示す組電池20のリアクタンスは、電圧V1(3.93V)から増加しはじめているため、組電池20には、SOH78%の第1の電池10が含まれていると推定される。電圧V2(4.00V)から、リアクタンス増加率が上昇しているため、組電池20には、SOH85%の第1の電池10が含まれていると推定される。また、電圧V3(4.06V)から、リアクタンス増加率が更に上昇しているため、組電池20には、SOH93%の第1の電池10が含まれていると推定される。電圧V4(4.10V)から、リアクタンス増加率が更に上昇しているため、組電池20には、SOH100%の第1の電池10が含まれていると推定される。
【0043】
すなわち、組電池20は、SOH78%、85%、93%、100%の4つの第1の電池10を含むことが推定される。
【0044】
以上の説明のように、実施形態の組電池の評価方法によれば、組電池20に含まれている複数の第1の電池10のSOH分布を簡単に推定できる。また、実施形態の電池システムは、組電池20に含まれている複数の第1の電池10のSOH分布を簡単に推定できる。
【0045】
図6に示す組電池20のリアクタンスは、増加率が急上昇している変化点(変曲点)が4つあった。このため、4つの第1の電池10のぞれぞれのSOHが推定できた。変化点が1つ、例えば、電圧V4だけあり、そのリアクタンスの変化が、
図3に示した第2の電池のリアクタンスの、ほぼ4倍であれば、組電池20の4つの第1の電池10はほぼ同じSOH(100%)であると推定される。
【0046】
変化点が2つあり、電圧V1においてリアクタンス増加率が上昇し、次に電圧V4においてリアクタンス増加率が上昇した場合には、組電池20は、SOH95%の第1の電池10とSOH100%の第1の電池10を含むと推定される。さらに、それぞれの電圧における増加率から、それぞれのSOHの第1の電池10の数を推定できる。
【0047】
組電池20が含む第1の電池10の数は、特に制限はないが、10個以上であれば所望の電圧が得られ、100個以下であればSOH分布の推定が容易である。第1の電池10の数が多い場合には、リアクタンス増加率が最大の変化点におけるSOHが複数の第1の電池10のSOH中心値であり、それよりも低い電圧における変化点、または、想定されるSOHよりも低い電圧における変化点があれば、SOH中心値よりも小さなSOHの第1の電池10が含まれると推定される。
【0048】
第1の電池10は、リチウムイオン電池に限られるものではなく、例えばリチウムポリマー電池、または、リチウム硫黄電池でもよい。また、第1の電池10は、電解質が固体電解質である全固体電池でもよい。また、第1の電池10は、隣り合う電池(セル)が、正極と負極とが共通の集電体を有するバイポーラ電池でもよい。また、第1の電池10は、電解質が固体電解質であるバイポーラ全固体電池でもよい。また、複数の組電池20が並列に接続されていてもよい。
【0049】
電池システム1では、インピーダンス特性の種類は、リアクタンスであり、測定周波数は100mHzであった。しかし、インピーダンス特性の種類、測定周波数、印加電圧等の測定条件は、組電池20の仕様によって適宜、選択可能である。
【0050】
インピーダンス特性としては、実数成分(レジスタンス)Z`、虚数成分(リアクタンス)-Z``、位相角θ、および絶対値|Z|のうち、少なくともいずれかである。測定周波数は高いほど短時間での測定が可能であるが、インピーダンス特性の増加が顕著ではなくなる。このため、測定周波数は10mHz以上500mHz以下であることが好ましい。印加電圧は、評価対象のSOH電圧以上であればよい。
【0051】
複数の測定周波数を用いることによって、1つの周波数による測定よりも、精度の高い測定が可能である。例えば、周波数50mHz、100mHz、150mHzにおいて、それぞれの工程を行い、劣化状態(SOH)とSOH電圧との関係が顕著な周波数による測定結果を組み合わせることで測定精度が向上する。
【0052】
<変形例>
以下に説明する変形例1、2の電池システム1A、1Bおよび組電池の評価方法は、実施形態の電池システム1および組電池の評価方法と類似し同じ機能を有するため、同じ機能の構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0053】
<変形例1>
組電池20は、1つだけでもSOHが小さい第1の電池10を含んでいると特性が劣化する。本変形例では、組電池20に他の第1の電池よりも劣化している第1の電池10が含まれていることを実施形態よりも簡単に推定する。
【0054】
ステップS10(第1の工程)においては、所定のSOHの第2の電池に、複数の電圧の所定の周波数の交流信号が印加されてインピーダンス特性が測定される。ここで、所定のSOHは組電池20の仕様から、含まれていてはならない最も高いSOHである。例えば、SOH95%未満の第1の電池10が組電池20に含まれていないことを保証するためには、SOH95%の第2の電池10が測定される。
【0055】
ステップS20(第2の工程)においては、所定の劣化状態、すなわち、SOH95%において、インピーダンス特性が増加しはじめるSOH電圧が算出される。
【0056】
ステップS30(第3の工程)は不要である。
【0057】
ステップS40(第4の工程)においては、メモリ31に第2の電池のデータとして、所定のSOHにおけるSOH電圧VUが記憶される。
【0058】
そして、ステップS50においては、第2の電池と同じ仕様の複数の第1の電池が直列接続されている組電池20に、SOH電圧VUよりも、僅かに高い所定電圧(VU+ΔV)の交流信号が電源40から印加されて、測定回路33によってインピーダンス特性が測定される。
【0059】
図7に示すようにSOH電圧がVUの場合、リアクタンスが、ΔZだけ大きくなる、(VU+電圧差ΔV)の所定電圧の信号が印加される。すでに説明したように、インピーダンス底値ZBのk個(kは整数)の第1の電池10が直列接続された組電池20のリアクタンスは、SOH電圧よりも小さい電圧では、SOH分布がなければ、(kZB)である。例えば、SOH電圧よりも、電圧差ΔVが0.1V高い所定電圧の信号が組電池20に印加される。
【0060】
そして、ステップ60においては、組電池20のリアクタンスが、所定値(kZB)以上の場合に、組電池20に、少なくとも所定の劣化状態(SOH95%)よりも劣化している第1の電池10が含まれていることが推定される。
【0061】
組電池20のリアクタンスが、(kZB+ΔZ)の場合には、劣化している第1の電池10が含まれていることが推定される。印加する所定電圧(VU+ΔV)の電圧差ΔVは、小さい程、所定の劣化状態に近い第1の電池10が含まれていることを推定可能であるが、測定誤差を考慮して、(kZB)と((kZB)+ΔZ)とが識別可能な値に設定される。例えば、電圧差ΔVは、0.05V以上0.2V以下が好ましい。
【0062】
<変形例2>
すでに説明したように、最適の測定周波数を決定するには、SOHが異なる複数の第2の電池のインピーダンス特性の周波数依存性を、それぞれ測定する必要があった。
【0063】
しかし、変形例2の電池システム1Bでは、1つの第2の電池のインピーダンス特性の周波数依存性を測定するだけ、最適の測定周波数を決定することもできる。
【0064】
本変形例の電池状態推定方法では、以下に説明するようにコールコールプロットの解析工程によって、測定周波数を決定する
【0065】
<複素インピーダンス測定工程>
本変形例の推定方法では、測定周波数を決定するために、第1のSOHの第2の電池の複素インピーダンス(レジスタンスZ`およびリアクタンス-Z``)の周波数特性が測定される。
【0066】
ここで、第1のSOHは、SOH推定の基準としたい2つのSOHのうちの、リアクタンスが小さいSOHである。例えば、SOH20%が第1のSOHであり、SOH10%が第2のSOHである。
【0067】
第1のSOHと第2のSOHとの差は、5%以上20%以下であることが好ましい。前記範囲内であれば、推定精度が高い。
【0068】
複素インピーダンスの周波数特性の測定では、例えば、振幅5mVの正弦波信号が、周波数を高周波(1kHz)から低周波(10mHz)に変化しながら、第2の電池に印加される。
【0069】
図8は、第2の電池の複素インピーダンスの周波数特性を示すコールコールプロットである。コールコールプロットは、横軸がインピーダンスの実数成分(レジスタンスZ`)であり縦軸がインピーダンスの虚数成分(リアクタンス-Z``)である。正極と負極とを有する二次電池のコールコールプロットは、負極反応に相当する高周波領域の半円と、正極反応に相当する低周波領域の半円と、拡散抵抗成分に相当する傾き45度の直線と、に分解できる。
【0070】
<第1の周波数の取得>
図9は、
図8の部分拡大図である。
図9に示すように、コールコールプロットにおいて拡散抵抗成分に相当する傾き45度の直線とリアクタンスがゼロの直線との交点、すなわち、拡散抵抗成分がゼロとなる点Oが算出される。そして、点OのレジスタンスZ`と同じレジスタンスZ`となるコールコールプロットの測定点Aの周波数が、第1の周波数f1として取得される。なお、測定点Aは拡散抵抗成分がゼロとなる最も低い周波数である。
【0071】
図9に示す例では、点Oのインピーダンス実数成分Z`は、45mΩであり、同じレジスタンスZ`となる点Aの第1の周波数f1は、610mHzである。
【0072】
<第2の周波数の取得>
コールコールプロットにおいて、拡散抵抗成分を含む領域において、リアクタンスが、第1の周波数f1と同じである周波数が、第2の周波数f2として取得される。拡散抵抗成分を含む領域は、言い替えれば、第1の周波数f1よりも低周波の領域である。
【0073】
図9に示す例では、点Aのリアクタンスは、6.8mΩであり、同じリアクタンスとなる点Bの第2の周波数f2は、40mHzである。
【0074】
<測定周波数決定>
第1の周波数f1以下第2の周波数f2以上の範囲の測定周波数Fが決定される。例えば、コールコールプロットの第1の周波数f1の点と第2の周波数f2の点とを結ぶ直線の中点Cのリアクタンスとなる周波数が測定周波数Fとして決定される。
図8に示したコールコールプロットでは、100mHzが測定周波数Fとして決定される。
【0075】
なお、
図8から明らかなように、測定周波数Fの範囲f1-f2は、正極反応に相当する低周波領域の半円の範囲である。すなわち、本変形例では、二次電池の正極反応におけるリアクタンスの変化をもとにSOHが推定される。
【0076】
測定周波数Fが前記範囲であれば、リアクタンスの変化率が大きい。例えば、リアクタンスの変化率((Z10-Z20)/Z20)は、第1の周波数f1においては620%であり、第2の周波数f2においては、680%であり、100mHzにおいては1100%であった。
【0077】
なお、従来の方法では、SOH10%の電池およびSOH20%の電池のリアクタンスの周波数特性を、それぞれ測定し、さらに、SOHに対するリアクタンスの変化率の周波数依存性を取得し、変化率の最大値となる周波数が算出される。従来の方法では、周波数125mHzにおいて、変化率は最大値1150%となった。
【0078】
本変形例では、SOH20%の電池のリアクタンスの周波数特性を測定するだけで、従来の方法に匹敵するインピーダンス変化率が得られている。
【0079】
本変形例は、適切な測定周波数を含む第2の電池のデータを用いることによって、第1の電池10のSOHを精度良く容易に推定できる。
【0080】
本発明は、上述した実施形態等に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変、構成要素の組み合わせ等が可能である。
【符号の説明】
【0081】
1、1A、1B…電池システム
10…電池
20…組電池
31…メモリ
32…コントローラ
33…測定回路
34…演算回路
40…電源