(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】投射光学系およびプロジェクタ装置
(51)【国際特許分類】
G02B 17/08 20060101AFI20221215BHJP
G02B 13/16 20060101ALI20221215BHJP
G02B 13/18 20060101ALI20221215BHJP
G03B 21/14 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
G02B17/08 A
G02B13/16
G02B13/18
G03B21/14 Z
(21)【出願番号】P 2020528807
(86)(22)【出願日】2019-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2019025073
(87)【国際公開番号】W WO2020008942
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2018127387
(32)【優先日】2018-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227364
【氏名又は名称】株式会社nittoh
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【氏名又は名称】坂野 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】松尾 恭彦
【審査官】殿岡 雅仁
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/068269(WO,A1)
【文献】特開2016-143032(JP,A)
【文献】特開2019-164184(JP,A)
【文献】特開2017-102239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00 - 17/08
G02B 21/02 - 21/04
G02B 25/00 - 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縮小側の第1の像面から拡大側の第2の像面へ光学像を投射する投射光学系であって、
縮小側から拡大側に向かって正レンズおよび負レンズがこの順に個別に配置されてなり、対向面の曲率を同極とする色消しレンズを含
む投射光学系において、
前記色消しレンズを含む屈折光学系によって該屈折光学系内に結像される中間像が結像される位置よりも縮小側の直前位置に、負の屈折力を有する第1のメニスカスレンズおよび正の屈折力を有する第2のメニスカスレンズが、それぞれ前記中間像の側に凸面を向けた状態で、該中間像から縮小側に向かってこの順に配置され、
前記第2のメニスカスレンズよりも縮小側の直前位置に、正の屈折力を有する第3のメニスカスレンズが配置され、
前記負レンズのうち、屈折率が1.7以上で、かつアッベ数が55以下であるレンズについて、光入射面の曲率半径をR、投射光学系の全焦点距離をfとして、以下の式(1)を満足する投射光学系。
3.5≦|R|/|f|・・・・(1)
【請求項2】
前記負レンズの屈折率が1.8以上で、かつ前記アッベ数が40以下であり、
以下の式(2)を満足する請求項1に記載の投射光学系。
4.5≦|R|/|f|・・・・(2)
【請求項3】
前記負レンズの屈折率が1.85以上で、かつ前記アッベ数が35以下であり、
以下の式(3)を満足する請求項1に記載の投射光学系。
5.0≦|R|/|f|・・・・(3)
【請求項4】
前記式(1)を満たす負レンズと共に前記色消しレンズを構成する前記正レンズの出射側の曲率半径をR、投射光学系の全焦点距離をfとして、以下の式(4)を満足する請求項1に記載の投射光学系。
3.5≦|R|/|f|・・・・(4)
【請求項5】
前記正レンズの屈折率を1.75以下とする請求項4に記載の投射光学系。
【請求項6】
前記第2および第3のメニスカスレンズの屈折率およびアッベ数が互いに略等しく、
前記第1、第2および第3のメニスカスレンズの各焦点距離をf1、f2およびf3として、以下の式(5)を満足する請求項
1に記載の投射光学系。
|f1|<|f2|<|f3|・・・・(5)
【請求項7】
光源と、この光源からの光を変調する光変調器と、この光変調器によって変調された光による光学像を投射する請求項1から
6のいずれか1項に記載の投射光学系とを備えてなるプロジェクタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロジェクタ装置および、それに用いられる投射光学系に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、投射画面を大画面化すると共に、投影空間の縮小化を図ったプロジェクタ装置が種々提案されている。例えば特許文献1には、ライトバルブから投影画面に向かって、つまり縮小側から拡大側に向かって、屈折光学系からなる第1の光学系、反射面を含む第2の光学系を配置してなるプロジェクタ装置用の投射光学系が示されている。この特許文献1に示される投射光学系において、典型的に第1の光学系は、第1および第2の屈折光学系を縮小側から拡大側に向かってこの順に配置して構成され、第2の光学系は、第1の光学系の拡大側に凹面ミラーを配置して構成される。
【0003】
特許文献1に示された投射光学系は、ライトバルブによる像を、第1の光学系により第1、2の光学系の光路上に中間像として結像させ、その中間像を第2の光学系により拡大反射させてスクリーン上に投射する。それにより、投射画面の大画面化および投影空間の縮小化が実現される。また、このような構成の投射光学系は、第1、2の光学系による各ディストーションを相互間で補償して、全体として低減可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した投射光学系においては、第1の光学系に屈折光学系を含むので色収差が生じ得るが、この色収差は、屈折光学系に適宜色消しレンズを設けることにより抑制可能である。ただし、その色消しレンズは、プロジェクタ装置特有の熱発生に対処できるものであることが望まれる。特に最近のプロジェクタ装置は、高輝度化の要求に対応するために光源が高出力化して発熱量も多くなっているため、投射光学系が高温になりやすくなっている。そこで色消しレンズとしては、貼り合わせ部材が熱および光による化学変化で変色、剥離等の損傷を起こしやすい、いわゆる貼り合わせレンズではなく、正の屈折力を有するレンズおよび負の屈折力を有するレンズが個別に配置されてなるものを用いることが望ましい。なお以下では、正の屈折力を有するレンズおよび負の屈折力を有するレンズをそれぞれ、単に正レンズおよび負レンズと称することもある。
【0006】
以上の通り、投射光学系の耐熱性および耐光性を考えると、色消しレンズは、正レンズおよび負レンズが個別に配置されてなるものが好適と言えるが、その種の色消しレンズは別の問題を招きやすいものとなっている。すなわち、そのような色消しレンズにおいては、拡大側に配置されるレンズの光入射面においてフレネル損失(フレネル反射による損失)が生じ得るので、貼り合わせレンズと比べると透過率が低下しがちである。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、色消しレンズにおけるフレネル損失を抑えて透過率の低下を防止し得るプロジェクタ装置、およびプロジェクタ装置用の投射光学系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による投射光学系は、
縮小側の第1の像面から拡大側の第2の像面へ光学像を投射する投射光学系であって、
縮小側から拡大側に向かって正レンズおよび負レンズがこの順に個別に配置されてなり、対向面の曲率を同極とする色消しレンズを含み、
上記負レンズのうち、屈折率が1.7以上で、かつアッベ数が55以下であるレンズについて、光入射面の曲率半径をR、投射光学系の全焦点距離をfとして、以下の式(1)
3.5≦|R|/|f|・・・・(1)
を満足することを特徴とするものである。なお上記の「個別に配置され」とは、正レンズおよび負レンズが互いに完全に離れた状態で配置されていること、あるいは一部は接し、それ以外の部分は離れた、いわゆる当てつけの状態で配置されていることの双方を含むものとする。
【0009】
上記の構成を有する本発明の投射光学系において、特に上記負レンズの屈折率が1.8以上で、かつアッベ数が40以下である場合は、
以下の式(2)
4.5≦|R|/|f|・・・・(2)
を満足していることがより望ましい。
【0010】
さらに、上記構成を有する本発明の投射光学系において、特に上記負レンズの屈折率が1.85以上で、かつアッベ数が35以下である場合は、
以下の式(3)
5.0≦|R|/|f|・・・・(3)
を満足していることがさらに望ましい。
【0011】
また、上記構成を有する本発明の投射光学系においては、式(1)を満たす負レンズと共に色消しレンズを構成する正レンズの出射側の曲率半径をR、投射光学系の全焦点距離をfとして、以下の式(4)
3.5≦|R|/|f|・・・・(4)
を満足することが望ましい。
【0012】
さらに、負レンズが上記(1)式を満たす本発明の投射光学系において、上記正レンズの屈折率を1.75以下とすることがより望ましい。
【0013】
また、上記構成を有する本発明の投射光学系においては、
色消しレンズを含む屈折光学系によって該屈折光学系内に結像される中間像(第1中間像)が結像される位置よりも縮小側の直前位置に、負の屈折力を有する第1のメニスカスレンズおよび正の屈折力を有する第2のメニスカスレンズが、それぞれ上記中間像(第1中間像)の側に凸面を向けた状態で該中間像(第1中間像)から縮小側に向かってこの順に配置されていることが望ましい。
【0014】
なお上記の「直前」とは、中間像形成位置から第1および第2のメニスカスレンズに至るまでの間に、他のレンズが配置されていないことを意味する。これは、以下でも同様とする。
【0015】
上述の第1および第2のメニスカスレンズを有する構成においては、第2のメニスカスレンズよりも縮小側の直前位置に、正の屈折力を有する第3のメニスカスレンズが配置されていることが望ましい。
【0016】
さらに、上述の第1、第2および第3のメニスカスレンズを有する構成においては、
第2および第3のメニスカスレンズの屈折率およびアッベ数が互いに略等しく、
第1、第2および第3のメニスカスレンズの各焦点距離をf1、f2およびf3として、以下の式(5)
|f1|<|f2|<|f3|・・・・(5)
を満足していることが望ましい。なお上記の「略等しく」とは、両者間の差が±5%以内であることを意味する。
【0017】
他方、本発明によるプロジェクタ装置は、光源と、この光源からの光を変調する光変調器と、この光変調器によって変調された光による光学像を投射する投射光学系とを備えたプロジェクタ装置において、投射光学系として上記の本発明による投射光学系が用いられたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明による投射光学系は、色消しレンズを構成する拡大側の負レンズが前記式(1)を満足しているので、この拡大側の負レンズの光入射面におけるフレネル損失を抑えることができる。そこで、フレネル損失に起因する投射光学系の透過率低下を防止することができる。また、色消しレンズを構成するこの負レンズと正レンズとが個別に配置されているので、色消しレンズを貼り合わせレンズとしないことで本来得られる投射光学系の耐熱性および耐光性も、そのまま得られることになる。
【0019】
また、本発明によるプロジェクタ装置は、上述の効果を奏する投射光学系を用いているので、明るい投射像が得られ、さらに耐熱性および耐光性も高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例1の投射光学系のレンズ構成を、主な光束と共に示す断面図
【
図2】実施例1の投射光学系のレンズ構成を示す断面図
【
図3】実施例1の投射光学系を構成する光学要素の基本データを示す図
【
図4】実施例1の投射光学系を構成する光学要素の非球面データを示す図
【
図5】実施例1の投射光学系における各部の焦点距離を示す図
【
図6】実施例1の投射光学系におけるコマ収差を示す図
【
図7】実施例1の投射光学系における球面収差、非点収差および歪曲収差を示す図
【
図8】実施例2の投射光学系のレンズ構成を、主な光束と共に示す断面図
【
図9】実施例2の投射光学系のレンズ構成を示す断面図
【
図10】実施例2の投射光学系を構成する光学要素の基本データを示す図
【
図11】実施例2の投射光学系を構成する光学要素の非球面データを示す図
【
図12】実施例2の投射光学系における各部の焦点距離を示す図
【
図13】実施例2の投射光学系におけるコマ収差を示す図
【
図14】実施例2の投射光学系における球面収差、非点収差および歪曲収差を示す図
【
図15】実施例3の投射光学系のレンズ構成を、主な光束と共に示す断面図
【
図16】実施例3の投射光学系のレンズ構成を示す断面図
【
図17】実施例3の投射光学系を構成する光学要素の基本データを示す図
【
図18】実施例3の投射光学系を構成する光学要素の非球面データを示す図
【
図19】実施例3の投射光学系における各部の焦点距離を示す図
【
図20】実施例3の投射光学系におけるコマ収差を示す図
【
図21】実施例3の投射光学系における球面収差、非点収差および歪曲収差を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る投射光学系の構成を、主な光束と合わせて示す断面図である。
図1に示す構成例は、後述する実施例1の投射光学系の構成と共通である。上記の光束は、軸上光束と最大画角の光束、並びにそれらの中間的な光束である。また
図2は、
図1の投射光学系の構成を、光束を除いて詳しく示す断面図である。
図1および
図2において、光変調器の画像表示面1側が縮小側、レンズ光学系の最終レンズL23側が拡大側である。
【0022】
この投射光学系は、例えばプロジェクタ装置に搭載されて、DMD、透過型液晶表示装置、あるいは反射型液晶表示装置等の光変調器(ライトバルブ)に表示された画像情報をスクリーンへ投射するものとして使用可能である。
図1では、プロジェクタ装置に搭載される場合を想定して、色合成部または照明光分離部に用いられるプリズム2と、このプリズム2の縮小側の面に位置する光変調器の画像表示面1も合わせて図示している。プロジェクタ装置においては、図示外の光源から発せられ、画像表示面1で画像情報を与えられた光束が、プリズム2を介して図示の投射光学系に入射され、この投射光学系内の屈折光学系により中間像が結像される。そして、上記光束はプリズム3を介してミラー4に入射され、上記中間像がミラー4によって反射されて不図示のスクリーン上に拡大投射される。なおプリズム3はガラスブロックとも称されるものであり、その作用については例えば再表2016-68269号公報に記載がなされている。
【0023】
図2に明示されるように、この投射光学系はより詳しくは、光軸Zに沿って縮小側から拡大側に向かって順に配された複数のレンズL1~L17から構成され、第1の像面1上の画像を第1中間像51として結像させる第1屈折系G1と、同様に配された複数のレンズL18~L23から構成され、プリズム3とミラー4との間に第2中間像52を結像させる第2屈折系G2とを有している。第1屈折系G1および第2屈折系G2は、屈折光学系を含む第1の光学系10を構成する。さらにこの投射光学系は、上記第2中間像52を反射、拡大させる、正の屈折力を有するミラー4を有する。このミラー4は、反射光学系を含む第2の光学系20を構成する。なお、レンズL11とレンズL12との間には、視野絞り(フレアカッタ)Stが配置されている。図示されている視野絞りStは必ずしも大きさや形状を厳密に表すものではなく、光軸Z上の位置を示すものである。
【0024】
上述のように、屈折光学系を含む第1の光学系10と、反射光学系を含む第2の光学系20とからなる投射光学系によれば、投射画面の大画面化および投影空間の縮小化が実現される。また、このような構成の投射光学系は、第1の光学系10、第2の光学系20による各ディストーションを相互間で補償して、全体として低減できるものとなる。
【0025】
第1の光学系10は、後述するように複数の色消しレンズを含んでいる。それらの色消しレンズはいずれも、多くの色消しレンズと同様に、正レンズと負レンズとから構成されている。特に本実施形態では、先に述べたプロジェクタ装置における熱発生に対処するために、貼り合わせレンズは適用しないで、正レンズと負レンズとが個別に配置されてなる色消しレンズが適用されている。以下、これらの色消しレンズについて詳しく説明する。
【0026】
ここでは、
図1および
図2に示す正レンズL2と負レンズL3とから構成された色消しレンズを例に取って説明する。これらの正レンズL2および負レンズL3は、縮小側から拡大側に向かってこの順に個別に配置されている。より詳しくは、正レンズL2と負レンズL3とは、一例として微小間隔を置いて互いに離して配置されている。ここで負レンズL3は後述する通り、屈折率が1.7以上で、アッベ数が55以下である。そしてこの負レンズL3の光入射面の曲率半径R=-63.65mmであり、投射光学系の全焦点距離f=-7.24mmである(
図5参照)。よって、|R|/|f|=8.80である。なお、曲率半径Rと全焦点距離fの符号については後に詳述する。
【0027】
したがって、この負レンズL3に関しては、前述した
3.5≦|R|/|f|・・・・(1)
式が満足されている。それにより、先に説明した通り、この拡大側の負レンズL3の光入射面におけるフレネル損失を抑えることができる。そこで、フレネル損失に起因する投射光学系の透過率低下を防止することができる。また、この負レンズL3と縮小側の正レンズL2とが個別に配置されているので、投射光学系の耐熱性および耐光性も良好なものとなる。
【0028】
なお、上記(1)式が満足される場合、特に負レンズL3の屈折率が1.8以上で、アッベ数が40以下であるならば、前述した
4.5≦|R|/|f|・・・・(2)
式を満足していると、上記のフレネル損失を抑えて投射光学系の透過率低下を防止する効果がより顕著になる。負レンズL3は上記の式(2)も満足しているので、上記の効果をより顕著に奏するものとなる。
【0029】
さらに、上記(1)式が満足される場合、特に負レンズL3の屈折率が1.85以上で、アッベ数が35以下であるならば、前述した
5.0≦|R|/|f|・・・・(3)
式を満足していると、上記のフレネル損失を抑えて投射光学系の透過率低下を防止する効果がよりさらに顕著になる。負レンズL3は上記の式(3)も満足しているので、上記の効果をよりさらに顕著に奏するものとなる。
【0030】
そこで、光源と、この光源からの光を変調する光変調器と、この光変調器によって変調された光による光学像を投射する投射光学系とを備えてなるプロジェクタ装置において、本実施形態による投射光学系が用いられた場合は、明るい投射像が得られ、さらにプロジェクタ装置の耐熱性および耐光性も高いものとなる。
【0031】
次に、本発明の投射光学系の実施例について説明する。まず、実施例1の投射光学系について説明する。実施例1の投射光学系の構成は、先に説明した通り、
図1および
図2の断面図に示されている。なお
図1、2と、それらの図に対応した、実施例2を示す
図8、9、並びに実施例3を示す
図15、16においては、光変調器の画像表示面1側が縮小側、第2屈折系G2の最終レンズL23(実施例1)あるいはL24(実施例2、3)側が拡大側である。
【0032】
実施例1の投射光学系は、縮小側から順に、第1屈折系G1および第2屈折系G2からなる第1の光学系10と、反射光学系を含む第2の光学系20とを配置して構成されている。実施例1では、第1屈折系G1は一例として17枚のレンズL1~L17から構成され、第2屈折系G2は一例として6枚のレンズL18~L23から構成されている。
【0033】
実施例1の投射光学系について、構成要素の基本データを
図3に、非球面係数に関するデータを
図4に、そして各部の焦点距離を
図5に示す。以下では、それらの図中の記号の意味について、実施例1のものを例にとって説明するが、実施例2および3についても基本的に同様である。
【0034】
図3の基本データにおいて、面番号No.の欄には最も縮小側の構成要素の面を1番目として拡大側に向かうに従い順次増加する面番号を示している。曲率半径Rの欄には各面の曲率半径を示している。曲率半径Rの符号は、面形状が縮小側に凸の場合を正、拡大側に凸の場合を負としている。面間隔Diの欄には面番号=iの面と面番号=i+1の面との光軸Z上の間隔を示す。焦点距離fは、正の屈折力を有する場合を正、負の屈折力を有する場合を負としている。以上の曲率半径R、面間隔Diおよび焦点距離f、並びに有効径の単位はmmである。「R/7.24」の欄には、曲率半径Rを投射光学系全体の焦点距離(
図5参照)で除した値を示す。なお
図5に示す焦点距離は後述のように正負の符号を有するものであるが、ここでは、符号は無視した絶対値を示す。また、ndの欄には各光学要素のd線(波長587.6nm)に対する屈折率を示し、νdの欄には各光学要素のd線に対するアッベ数を示す。
図3には、光変調器の画素表示面1である第1の像面、プリズム2、結像される中間像、プリズム3、ミラー4、投射スクリーン上の位置となる第2の像面も含めて示している。第1の像面、第2の像面については、面間隔Diの欄にそれぞれ「OBJ」、「IMG」と表記している。中間像については、面番号No.の欄に(Image)の表記をすると共に、備考欄に
図2中の番号「51」、「52」を記入して示している。非球面形状の面は、面番号No.の欄に*の表記を付して示し、非球面の曲率半径は近軸の曲率半径の数値を示している。
【0035】
図4に示す非球面係数に関するデータには、非球面の面番号と、非球面に関する非球面係数を示す。非球面の形状は、Xを光軸方向の座標、Yを光軸と垂直方向の座標、光の進行方向を正、Rを近軸曲率半径とすると、
図4に示した係数K、A3、A4、A6、A8、A10、およびA12を用いて次式で表わされる。なお、「en」は、「10のn乗」を意味する。
X=(1/R)Y
2/[1+{1-(1+K)(1/R)
2Y
2}1/2]
+A3Y
3+A4Y
4+A6Y
6+A8Y
8+A10Y
10+A12Y
12
【0036】
図5には、第1屈折系G1、第2屈折系G2、および第2屈折系G2とミラー4とを合わせた系の焦点距離を示す。それらの焦点距離は、正の屈折力を有する場合を正、負の屈折力を有する場合を負として示し、単位はmmである。
【0037】
なお、
図3~
図5に示す数値データには、適宜所定の桁でまるめた値も示してある。
【0038】
図3に示す基本データにおいては、前述した負レンズL3と同様に、その縮小側に配された正レンズと共に色消しレンズを構成して、前記式(1)を満足する負レンズについて、背景を濃くして明示している。この実施例1では、先に述べた通り負レンズL3が式(1)~(3)の全てを満足している。それに加えて、負レンズL6、L8、L10、L13およびL17も式(1)を満足しており、特に負レンズL6およびL8は、式(2)と(3)も満足し、また負レンズL17は式(2)も満足している。
【0039】
負レンズが上記(1)から(3)式を満たす上述の色消しレンズにおいて、上記(1)式を満たす負レンズと共に色消しレンズを構成する正レンズの出射側の曲率半径をR、投射光学系の全焦点距離をfとして、
3.5≦|R|/|f|・・・・(4)
を満足させることで、正レンズから出射する光の出射角を小さくすることができる。これにより、負レンズに入射する光のフレネル反射を抑えることができる。この場合、正レンズの屈折率を1.75以下とすることで、正レンズから出射する光の出射角をより小さくすることができる。
【0040】
また、上記(2)式を満たす負レンズと共に色消しレンズを構成する正レンズの出射側の曲率半径をR、投射光学系の全焦点距離をfとして、
4.0≦|R|/|f|・・・・(6)
を満足させることで、正レンズから出射する光の出射角をより小さくすることができる。これにより、負レンズに入射する光のフレネル反射を抑えることができる。この場合、正レンズの屈折率を1.70以下とすることで、正レンズから出射する光の出射角をさらに小さくすることができる。
【0041】
またさらに、上記(3)式を満たす負レンズと共に色消しレンズを構成する正レンズの出射側の曲率半径をR、投射光学系の全焦点距離をfとして、
5.0≦|R|/|f|・・・・(7)
を満足させることで、正レンズから出射する光の出射角をよりさらに小さくすることができる。これにより、負レンズに入射する光のフレネル反射を抑えることができる。この場合、正レンズの屈折率を1.60以下とすることで、正レンズから出射する光の出射角をさらに小さくすることができる。
【0042】
実施例1では、負レンズL3、L6、L8、L10、L13およびL17が式(1)を満たし、正レンズL2、L5、L7、L9、L12およびL16について式(4)を満足させている。正レンズL2、L5、L7、L9、L12およびL16の屈折率は1.75以下である。
【0043】
また、負レンズL3、L6、L8およびL17が式(2)を満たし、正レンズL2、L5、L7およびL16について式(6)を満足させている。レンズL2、L5、L7およびL16の屈折率は1.70以下である。
【0044】
また、負レンズL3、L6、L8が式(3)を満たし、正レンズL2、L5およびL7について式(7)を満足させている。正レンズL2、L5およびL7の屈折率は1.60以下である。
【0045】
以上、実施例1の説明で述べた各データの記号、意味、記載方法は、特に断りがない限り以下の実施例のものについても同様であるので、以下では重複説明を省略する
【0046】
次に、実施例1の投射光学系における収差について
図6および
図7を参照して説明する。
図6には、5通りの像高における各横収差図を示している。同図に示されるように、コマ収差は良好に補正されており、鮮明な像をスクリーン投写可能である。なお、コマ収差は、波長620.0nm、波長546.0nm、波長450.0nmに関する収差をそれぞれ短破線、実線、長破線で示し、タンジェンシャル光線(T)およびサジタル光線(S)の収差をそれぞれ示している。
【0047】
図7には、実施例1の投射光学系の各収差図を示す。各収差図は左から順に、球面収差、非点収差、歪曲収差(ディストーション)を示す。球面収差図では、波長620.0nm、波長546.0nm、波長450.0nmに関する収差をそれぞれ短破線、実線、長破線で示す。非点収差図では、サジタル方向、タンジェンシャル方向の波長546.0nmに関する収差をそれぞれ実線、鎖線で示しており、それぞれ(S)、(T)の表記を付している。歪曲収差図では、波長546.0nmに関する収差を実線で示す。同図に示されるように、球面収差、非点収差、歪曲収差も良好に補正されている。
【0048】
次に、実施例2の投射光学系について説明する。実施例2の投射光学系は、
図8および
図9の断面図に示される通り、縮小側から順に、第1屈折系G1および第2屈折系G2を含む第1の光学系10と、反射光学系を含む第2の光学系20とを配置して構成されている。第1屈折系G1は一例として18枚のレンズL1~L18から構成され、第2屈折系G2は一例として6枚のレンズL19~L24から構成されている。この実施例2では、第1屈折系G1において第1中間像51が結像され、プリズム3とミラー4との間に第2中間像52が結像される。第2中間像52は、ミラー4を含む第2の光学系20によって反射、拡大して投射される。なお、レンズL9とレンズL10との間と、レンズL11とレンズL12との間には、それぞれ視野絞り(フレアカッタ)Stが配置されている。図示されている視野絞りStは必ずしも大きさや形状を厳密に表すものではなく、光軸Z上の位置を示すものである。
【0049】
実施例2の投射光学系について、構成要素の基本データを
図10に、非球面係数に関するデータを
図11に、そして各部の焦点距離を
図12に示す。
【0050】
図10の基本データにおいて、「R/7.48」の欄には、曲率半径Rを投射光学系全体の焦点距離(
図12参照)で除した値を示す。この焦点距離は、
図3におけるのと同様に絶対値を示している。
【0051】
図10に示す基本データにおいても、前述した式(1)を満足する負レンズについて、背景を濃くして明示している。この実施例2では、負レンズL3、L6、L8、L13およびL18が式(1)を満足しており、特に負レンズL3、L6およびL8は式(2)と(3)も満足し、また負レンズL18は式(2)も満足している。
【0052】
また、実施例2においては、負レンズL3、L6、L8、L13およびL18が式(1)を満たし、正レンズL2、L5、L7、L12およびL17について式(4)を満足させている。正レンズL2、L5、L7、L12およびL17の屈折率は1.75以下である。
【0053】
また、負レンズL3、L6、L8およびL18が式(2)を満たし、正レンズL2、L5、L7およびL17について式(6)を満足させている。レンズL2、L5、L7およびL17の屈折率は1.70以下である。
【0054】
また、負レンズL3、L6、L8が式(3)を満たし、正レンズL2、L5およびL7について式(7)を満足させている。正レンズL2、L5およびL7の屈折率は1.60以下である。
【0055】
さらに、実施例2では、屈折光学系である第1の光学系10によって該第1の光学系10内に結像される第1中間像51が結像される位置よりも縮小側の直前位置に、負の屈折力を有する第1のメニスカスレンズ(負レンズL18)および正の屈折力を有する第2のメニスカスレンズ(正レンズL17)が、それぞれ第1中間像51の側に凸面を向けた状態で、第1中間像51から縮小側に向かってこの順に配置されている。
【0056】
以上のように負の第1メニスカスレンズL18の縮小側に正の第2メニスカスレンズL17を配置することにより、負の第1メニスカスレンズL18の凹面に入射する光線の入射角を小さくすることができる。そこで、この凹面における光の反射を低減させて、フレネル損失を低下させることが可能になる。また、第1中間像51の直前に、組み合わせたときに同心同球のコンセントリックに近い形状となるレンズを配置することにより、球面収差、コマ収差、像面湾曲等の幾何収差を増大させることなく、第2屈折系G2で発生する倍率色収差と逆の位相の倍率色収差を、第1屈折系G1において発生させることができる。コンセントリックに近い形状は、例えば、曲率半径の差が20%以内であることが好ましい。さらに、負の第1メニスカスレンズL18および正の第2メニスカスレンズL17が、光軸近くよりも周辺で互いに離れる形状となるように両レンズL18、L17の曲率半径を定めたことにより、軸外光のアッパー光線のコマ収差を効果的に補正可能となる。
【0057】
またこの実施例2では、正の第2メニスカスレンズL17よりも縮小側の直前位置に、正の屈折力を有する第3のメニスカスレンズ(正レンズL16)が配置されている。このように正の第2メニスカスレンズL17の直前位置に、正パワーの第3メニスカスレンズL16を配置することにより、テレセントリック性をプラス(光線束が縮小側に傾斜する方向)とすることができる。これにより、製造が難しい部品である非球面の負メニスカスレンズL15をより小径のものとすることができ、その製造を容易化できる。
【0058】
さらにこの実施例2では、第1のメニスカスレンズL18、第2のメニスカスレンズL17および第3のメニスカスレンズL16の各焦点距離をf1、f2およびf3とすると、それらは各々-93.30mm、154.05mm、184.55mmであって、前述した式(5)
|f1|<|f2|<|f3|・・・・(5)
を満足している。また、第2のメニスカスレンズL17と第3のメニスカスレンズL16は共通の硝材から形成されて、屈折率およびアッベ数が互いに等しいものとなっている。
【0059】
第1のメニスカスレンズL18と第2のメニスカスレンズL17は、組み合わせたときに、外側の面同士が同心同球のコンセントリック形状となっていることが、倍率色収差の観点から好ましい。また、それら2枚のメニスカスレンズL18、L17の合成焦点距離は-212.7mmであるが、このように負の値である方が、第3のメニスカスレンズL16の屈折力を強めることができるので、製造が難しい部品である非球面の負メニスカスレンズL15をより小径のものとすることができる。
【0060】
図13に示される通り、この実施例2でもコマ収差は良好に補正されている。また、
図14に示されるように、球面収差、非点収差、歪曲収差も良好に補正されている。
【0061】
次に、実施例3の投射光学系の構成について説明する。実施例3の投射光学系は、
図15および
図16の断面図に示される通り、縮小側から順に、第1屈折系G1および第2屈折系G2を含む第1の光学系10と、反射光学系を含む第2の光学系20とを配置して構成されている。第1屈折系G1は一例として18枚のレンズL1~L18から構成され、第2屈折系G2は一例として6枚のレンズL19~L24から構成されている。この実施例3では、第1屈折系G1において第1中間像51が結像され、プリズム3とミラー4との間に第2中間像52が結像される。第2中間像52は、ミラー4を含む第2の光学系20によって反射、拡大して投射される。
【0062】
なお、レンズL91とレンズL10との間には、縮小側から拡大側に向かって順に、視野絞り(フレアカッタ)絞りSt、開口絞りSt、視野絞りStが配置されている。図示されている各絞りStは必ずしも大きさや形状を厳密に表すものではなく、光軸Z上の位置を示すものである。
【0063】
実施例3の投射光学系について、構成要素の基本データを
図17に、非球面係数に関するデータを
図18に、そして各部の焦点距離を
図19に示す。
【0064】
図17の基本データにおいて、「R/7.44」の欄には、曲率半径Rを投射光学系全体の焦点距離(
図19参照)で除した値を示す。この焦点距離は、
図3におけるのと同様に絶対値を示している。
図17では、各絞りStに相当する面の面番号の欄において、備考欄に「St」の表示をしている。
【0065】
図17に示す基本データにおいても、前述した式(1)を満足する負レンズについて、背景を濃くして明示している。この実施例3では、負レンズL3、L6、L8、L11、L13およびL18が式(1)を満足しており、特に負レンズL3およびL6は式(2)と(3)も満足し、また負レンズL18は式(2)も満足している。
【0066】
また、実施例3においては、負レンズL3、L6、L8、L13およびL18が式(1)を満たし、正レンズL2、L5、L7、L12およびL17について式(4)を満足させている。正レンズL2、L5、L7、L12およびL17の屈折率は1.75以下である。
【0067】
また、負レンズL3、L6、L8およびL18が式(2)を満たし、正レンズL2、L5、L7およびL17について式(6)を満足させている。レンズL2、L5、L7およびL17の屈折率は1.70以下である。
【0068】
また、負レンズL3、L6、L8が式(3)を満たし、正レンズL2、L5およびL7について式(7)を満足させている。正レンズL2、L5およびL7の屈折率は1.60以下である。
【0069】
また実施例3では実施例2と同様に、第1中間像51が結像される位置よりも縮小側の直前位置に、負の第1メニスカスレンズL18および正の第2メニスカスレンズL17が、それぞれ第1中間像51の側に凸面を向けた状態で、第1中間像51から縮小側に向かってこの順に配置されている。この構成により実施例2におけるのと同様の効果を奏することができる。
【0070】
さらに実施例3では、第1のメニスカスレンズL18と第2のメニスカスレンズL17の合成焦点距離は-148.4mmであり、このように負の値となっていることにより、実施例2におけるのと同様の効果を奏することができる。
【0071】
図20に示される通り、この実施例3でもコマ収差は良好に補正されている。また、
図21に示されるように、球面収差、非点収差、歪曲収差も良好に補正されている。
【0072】
以上、実施形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明の投射光学系は、上記実施例のものに限られるものではなく種々の態様の変更が可能であり、例えば各レンズの曲率半径、面間隔、屈折率、アッベ数を適宜変更することが可能である。
【0073】
また、本発明のプロジェクタ装置も、例えば、用いられるライトバルブや、光束分離または光束合成に用いられる光学部材について種々の態様の変更が可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 光変調器の画像表示面
2、3 プリズム
4 ミラー
10 第1の光学系
20 第2の光学系
51 第1中間像
52 第2中間像
G1 第1屈折系
G2 第2屈折系
L1~L24 レンズ