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特許7194404D-ルシフェリン及びD-ルシフェリン誘導体、並びにこれら化合物の前駆体、並びにこれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】D-ルシフェリン及びD-ルシフェリン誘導体、並びにこれら化合物の前駆体、並びにこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 323/58 20060101AFI20221215BHJP
   C07C 319/20 20060101ALI20221215BHJP
   C07B 53/00 20060101ALN20221215BHJP
【FI】
C07C323/58 CSP
C07C319/20
C07B53/00 G
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022547110
(86)(22)【出願日】2022-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2022012857
【審査請求日】2022-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2021046451
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000157119
【氏名又は名称】関東電化工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】松本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】小林 政史
【審査官】小路 杏
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-180191(JP,A)
【文献】特開2019-068817(JP,A)
【文献】特開2007-091695(JP,A)
【文献】特表2012-533654(JP,A)
【文献】特開昭56-016480(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1911917(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
(式中、XはH、OCH又はOHであり、Y、Z及びWはH又はアルキル基、N,N-2置換アミノ基、アルコキシ基、アリール基及びアリールオキシ基からなる群から選ばれる1価の有機基である)
で表されるジアミノジチオエーテル置換体。
【請求項2】
下記式(1):
【化2】
(式中、XはH、OCH又はOHであり、Y、Z及びWはH又はアルキル基、N,N-2置換アミノ基、アルコキシ基、アリール基及びアリールオキシ基からなる群から選ばれる1価の有機基である)
で表されるジアミノジチオエーテル置換体の製造方法であって、
(a)下記式(2):
【化3】
で表されるD-システイン置換体と、下記式(3):
【化4】
(式中、X、Y、Z及びWは前記のとおりである)
で表されるo-アミノベンゼンチオール誘導体とを、塩基の存在下で反応させる工程を含む、方法。
【請求項3】
下記式(4):
【化5】
(式中、XはH、OCH 又はOHであり、Y、Z及びWはH又はアルキル基、N,N-2置換アミノ基、アルコキシ基、アリール基及びアリールオキシ基からなる群から選ばれる1価の有機基である)
で表されるD-ルシフェリン及びD-ルシフェリン誘導体の製造方法であって、
(b)前記式(1)で表されるジアミノジチオエーテル置換体を塩基の存在下で環化させる工程を含む、方法。
【請求項4】
前記式(1)で表されるジアミノジチオエーテル置換体が請求項2に記載の工程(a)で得られたものである、請求項3に記載の前記式(4)で表されるD-ルシフェリン及びD-ルシフェリン誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記式(2)で表されるD-システイン置換体が、テトラクロロエチレンとD-システインとを、塩基の存在下で反応させることにより得られる、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
下記式(1):
【化6】
(式中、XはH、OCH又はOHであり、Y、Z及びWはH又はアルキル基、N,N-2置換アミノ基、アルコキシ基、アリール基及びアリールオキシ基からなる群から選ばれる1価の有機基である)
で表されるジアミノジチオエーテル置換体の製造方法であって、
(c)下記式(5):
【化7】
(式中、X、Y、Z及びWは前記のとおりである)
で表されるアミノチオエーテル誘導体と、D-システインとを、塩基の存在下で反応させる工程を含む、方法。
【請求項7】
前記式(1)で表されるジアミノジチオエーテル置換体が請求項6に記載の工程(c)で得られたものである、請求項3に記載の前記式(4)で表されるD-ルシフェリン及びD-ルシフェリン誘導体の製造方法。
【請求項8】
前記式(5)で表されるアミノチオエーテル誘導体が、下記式(3):
【化8】
(式中、X、Y、Z及びWは前記のとおりである)
で表されるo-アミノベンゼンチオール誘導体と、テトラクロロエチレンとを塩基の存在下で反応させることにより得られる、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記塩基が、NaOH、DBN、トリエチルアミンからなる群から選ばれる、請求項2~8のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D-ルシフェリン及びD-ルシフェリン誘導体を製造する方法、並びにD-ルシフェリン及びD-ルシフェリン誘導体を製造するための原料となる前駆体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
D-ルシフェリン(ホタルルシフェリン)はホタルや甲虫に含まれ、酵素ルシフェラーゼによる生物発光物質である。生物発光は、化学発光に比べて効率が良く、反応による熱損失がほとんどないことが特徴である。生物発光を用いた技術は、大腸菌のATPを検知する衛生検査試薬(キッコーマンバイオケミファ社製)や、ノロウィルスやC型肝炎ウィルスの検出試薬(栄研化学社製)、遺伝子のレポータ―アッセイ(東洋ビーネット社製)等に用いられている。医療研究分野において、がん細胞や幹細胞など、生体イメージング用途や、最近では、D-ルシフェリンの発光波長(560nm)を、生体の窓と呼ばれている近赤外領域(650~900nm)まで長波長化させることで、生体内発光イメージングとして重要なツールとして注目されはじめている。
【0003】
D-ルシフェリン及び官能基修飾を行ったD-ルシフェリン誘導体の製造はこれまでにいくつか提案されている。特許文献1には、ルシフェラーゼで発光し、かつ発光波長が長波長側にシフトされるようにベンゾチアゾール環の7位に官能基修飾を行ったD-ルシフェリン誘導体が開示されている。特許文献2には、ナフトチアゾール環を有するD-ルシフェリン誘導体を合成したことが開示されており、このルシフェリン誘導体は、長波長で低エネルギー放出型の生物発光物質と位置付けられている。特許文献3には、長波長シフトさせるため、ベンゾチアゾール環の6位の水酸基をアミノ基に変換したD-ルシフェリン誘導体が開示されている。特許文献4には、溶液中におけるD-ルシフェリンを安定化させるため、チアゾール環上に置換基を導入したD-ルシフェリン誘導体が開示されている。
【0004】
D-ルシフェリンは、1961年にWhiteらによってはじめて化学合成された(非特許文献1)。その後、D-ルシフェリン及びその誘導体の合成経路の改善がなされているが、いずれの製造方法においても、2-シアノ-6-ヒドロキシベンゾチアゾールを原料として用いている(特許文献1~3)。
【0005】
2-シアノ-6-ヒドロキシベンゾチアゾールの合成には、酸化剤、還元剤、酸、塩基、有機金属といった様々な化学薬品を利用し、多工程を経て合成され、また、使用する際はシリカゲルカラムクロマトグラフィーで高純度に精製する必要があった。2-シアノ-6-ヒドロキシベンゾチアゾールを用いないD-ルシフェリンの合成方法としては、ベンゾキノンとシステインから直接D-ルシフェリンを合成したという報告があるが、収率は低く工業化には向かない(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-180191(7-置換ルシフェリン誘導体)
【文献】特開2019-68817号広報(長波長ルシフェリン誘導体ナフトチアゾール)
【文献】特開2007-91695号公報(6-アミノ置換ルシフェリン誘導体)
【文献】特表2012-533654(5,5-2置換ルシフェリン誘導体)
【非特許文献】
【0007】
【文献】J.Am.Chem.Soc.,1961,83(10),2402
【文献】Scientific Reports,2016,6,24794
【文献】J.Am.Chem.Soc.,2020,142,16205
【文献】ACS Appl.Mater.Interfaces,2012,4,3788
【文献】J. Labelled Comp Radiopharm,1990,28,209
【文献】J.Am.Chem.Soc.,2012,134,7604
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の目的は、製造工程が多段階であり高価な2-シアノ-6-ヒドロキシベンゾチアゾールを用いないこれまでに前例のないD-ルシフェリン及びD-ルシフェリン誘導体の新しい製造方法を確立することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の態様を含む。
[1]
下記式(1):
【化1】
(式中、XはH、OCH又はOHであり、Y、Z及びWはH又は1価の有機基である)
で表されるジアミノジチオエーテル置換体。
[2]
下記式(1):
【化2】
(式中、XはH、OCH又はOHであり、Y、Z及びWはH又は1価の有機基である)
で表されるジアミノジチオエーテル置換体の製造方法であって、
(a)下記式(2):
【化3】
で表されるD-システイン置換体と、下記式(3):
【化4】
(式中、X、Y、Z及びWは前記のとおりである)
で表されるo-アミノベンゼンチオール誘導体とを、塩基の存在下で反応させる工程を含む、方法。
[3]
下記式(4):
【化5】
(式中、X、Y、Z及びWは前記のとおりである)
で表されるD-ルシフェリン及びD-ルシフェリン誘導体の製造方法であって、
(b)前記式(1)で表されるジアミノジチオエーテル置換体を塩基の存在下で環化させる工程を含む、方法。
[4]
前記式(1)で表されるジアミノジチオエーテル置換体が[2]に記載の工程(a)で得られたものである、[3]に記載の前記式(4)で表されるD-ルシフェリン及びD-ルシフェリン誘導体の製造方法。
[5]
前記式(2)で表されるD-システイン置換体が、テトラクロロエチレンとD-システインとを、塩基の存在下で反応させることにより得られる、[2]に記載の方法。
[6]
下記式(1):
【化6】
(式中、XはH、OCH又はOHであり、Y、Z及びWはH又は1価の有機基である)
で表されるジアミノジチオエーテル置換体の製造方法であって、
(c)下記式(5):
【化7】
(式中、X、Y、Z及びWは前記のとおりである)
で表されるアミノチオエーテル誘導体と、D-システインとを、塩基の存在下で反応させる工程を含む、方法。
[7]
前記式(1)で表されるジアミノジチオエーテル置換体が[6]に記載の工程(c)で得られたものである、[3]に記載の前記式(4)で表されるD-ルシフェリン及びD-ルシフェリン誘導体の製造方法。
[8]
前記式(5)で表されるアミノチオエーテル誘導体が、下記式(3):
【化8】
(式中、X、Y、Z及びWは前記のとおりである)
で表されるo-アミノベンゼンチオール誘導体と、テトラクロロエチレンとを塩基の存在下で反応させることにより得られる、[6]に記載の方法。
[9]
前記塩基が、NaOH、DBN、トリエチルアミンからなる群から選ばれる、[2]~[8]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高価な2-シアノ-6-ヒドロキシベンゾチアゾールを用いないこれまでに前例のない新しい製造方法によって、D-ルシフェリン及びD-ルシフェリン誘導体を製造するための原料となる前駆体を製造することができ、この前駆体を経由してD-ルシフェリン及びD-ルシフェリン誘導体を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(作用)
本発明は、D-ルシフェリン及びD-ルシフェリン誘導体の製造方法に関するが、前駆体となる前記式(1)で表される新規なジアミノジチオエーテル置換体を経由する点が特徴である。式(1)のジアミノジチオエーテル置換体は、比較的に入手が容易な下記式(6):
【化9】
(式中、X、Y、Z及びWは前記のとおりである)
で表されるベンゾチアゾール誘導体を加水分解して得られる下記式(3):
【化10】
(式中、X、Y、Z及びWは前記のとおりである)
で表されるアミノベンゼンチオール誘導体と、D-システイン及びテトラクロロエチレンを使用する二段階の新規な硫化反応によって製造できることが本発明者により初めて見出された。式(1)のジアミノジチオエーテル置換体は、硫化反応を行う順番によって以下の2つの合成ルートが見出されている。式(1)の新規なジアミノジチオエーテル置換体は、塩基の存在下で容易に環化させることができ、D-ルシフェリン及びD-ルシフェリン誘導体に変換することができる。
【0012】
以下、本発明の製造方法を詳述する。
(式(1)の前駆体化合物)
式(1)において、Y、Z及びWは、Hの他、反応に影響しない1価の有機基でもよく、例えば、アルキル基、N,N-2置換アミノ基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、などが挙げられる。アルキル基としては、例えば、炭素数1~4のアルキル基、特に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、などが挙げられる。アルコキシ基としては、例えば、炭素数1~4のアルコキシ基、特に、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、t-ブチルオキシ基、などが挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、ナフタセニル基、ペンタセニル基などが挙げられる。アリールオキシ基としては、例えば、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、アントラニルオキシ基、ナフタセニルオキシ基、ペンタセニルオキシ基などが挙げられる。N,N-2置換アミノ基としては、例えば、アミノ基の窒素上に前述した炭素数1~4のアルキル基、アリール基、などの置換基が2つ結合したものが挙げられ、これら2つの置換基は同じものであってよく、違うものであってもよい。より具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、などが挙げられる。
環化反応後にD-ルシフェリンを与える式(1)の前駆体は、XがOHであり、Y、Z及びWがHである。
【0013】
(第1の合成ルート)
第1の合成ルートは、
(a)下記式(2):
【化11】
で表されるD-システイン置換体と、下記式(3):
【化12】
(式中、X、Y、Z及びWは前記のとおりである)
で表されるo-アミノベンゼンチオール誘導体とを、塩基の存在下で反応させる工程を含むルートである。上記の硫化反応(チオエーテル形成反応)の条件は、以下のとおりである。
【0014】
塩基の具体例:アルカリ金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)、4級アンモニウム塩(例えばフッ化テトラブチルアンモニウム)、3級アミン(例えばトリエチルアミン)、有機強塩基(例えばDBN(1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン)、MTBD(7-メチル-1,5,7―トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン))、好ましくは、水酸化ナトリウム、トリエチルアミン、DBN、より好ましくはトリエチルアミンである。
【0015】
溶媒の具体例:極性溶媒、好ましくは、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール、より好ましくは、DMFである。
【0016】
反応温度:-100~200℃、好ましくは、0~100℃、より好ましくは、25~60℃である。
【0017】
その他の条件:o-アミノベンゼンチオール誘導体のモル当量数は、D-システイン置換体に対して0.01~100モル当量、好ましくは0.1~10モル当量、より好ましくは0.5~2モル当量である。
塩基のモル当量数は、D-システイン置換体に対して0.01~100モル当量、好ましくは0.1~10モル当量、より好ましくは1~3モル当量である。
o-アミノベンゼンチオール誘導体は、遊離状態で用いてもよく、塩化水素付加物を用いてもよい。
【0018】
前記式(2)で表されるD-システイン置換体は、例えば、テトラクロロエチレンとD-システインとを、塩基の存在下で反応させることにより得られる。上記の硫化反応(チオエーテル形成反応)の条件は、以下のとおりである。
【0019】
塩基の具体例:アルカリ金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)、4級アンモニウム塩(例えばフッ化テトラブチルアンモニウム)、3級アミン(例えばトリエチルアミン)、有機強塩基(例えばDBN(1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン)、MTBD(7-メチル-1,5,7―トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン))、好ましくは、水酸化ナトリウム、トリエチルアミン、DBN、より好ましくはDBNである。
【0020】
溶媒の具体例:極性溶媒、好ましくは、DMF、NMP、DMSO、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール、より好ましくは、DMSOである。
反応温度:-100~200℃、好ましくは、0~100℃、より好ましくは、25~60℃である。
【0021】
その他の条件:テトラクロロエチレンのモル当量数は、D-システインに対して0.01~100モル当量、好ましくは0.1~10モル当量、より好ましくは1~7モル当量である。
塩基のモル当量数は、D-システインに対して0.01~100モル当量、好ましくは0.1~10モル当量、より好ましくは1~3モル当量である。
D-システインは、遊離状態で用いてもよく、水和、塩化水素付加物を用いてもよい。
【0022】
(第2の合成ルート)
第2の合成ルートは、
(c)下記式(5):
【化13】
(式中、X、Y、Z及びWは前記のとおりである)
で表されるo-アミノチオエーテル置換体と、D-システインとを、塩基の存在下で反応させる工程を含むルートである。上記の硫化反応(チオエーテル形成反応)の条件は、以下のとおりである。
【0023】
塩基の具体例:アルカリ金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)、4級アンモニウム塩(例えばフッ化テトラブチルアンモニウム)、3級アミン(例えばトリエチルアミン)、有機強塩基(例えばDBN(1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン)、MTBD(7-メチル-1,5,7―トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン))、好ましくは、水酸化ナトリウム、トリエチルアミン、DBN、より好ましくはDBNである。
【0024】
溶媒の具体例:極性溶媒、好ましくは、DMF、NMP、DMSO、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール、より好ましくは、DMSOである。
【0025】
反応温度:-100~200℃、好ましくは、0~100℃、より好ましくは、25~60℃である。
【0026】
その他の条件:o-アミノチオエーテル置換体のモル当量数は、D-システインに対して0.01~100モル当量、好ましくは0.1~10モル当量、より好ましくは1~10モル当量である。
塩基のモル当量数は、D-システインに対して0.01~100モル当量、好ましくは0.1~10モル当量、より好ましくは0.5~3モル当量である。
D-システインは、遊離状態で用いてもよく、水和・塩化水素付加物を用いてもよい。
【0027】
前記式(5)で表されるアミノチオエーテル置換体は、例えば、下記式(3):
【化14】
(式中、X、Y、Z及びWは前記のとおりである)
で表されるo-アミノベンゼンチオール誘導体と、テトラクロロエチレンとを塩基の存在下で反応させることにより得られる。上記の硫化反応(チオエーテル形成反応)の条件は、以下のとおりである。
【0028】
塩基の具体例:アルカリ金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)、4級アンモニウム塩(例えばフッ化テトラブチルアンモニウム)、3級アミン(例えばトリエチルアミン)、有機強塩基(例えばDBN(1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン)、MTBD(7-メチル-1,5,7―トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン))、好ましくは、水酸化ナトリウム、トリエチルアミン、DBN、より好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0029】
溶媒の具体例:極性溶媒、好ましくは、DMF、NMP、DMSO、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール、より好ましくは、DMSOである。
【0030】
反応温度:-100~200℃、好ましくは、0~100℃、より好ましくは、25~60℃である。
【0031】
その他の条件:テトラクロロエチレンのモル当量数は、o-アミノベンゼンチオール誘導体に対して0.01~100モル当量、好ましくは0.1~10モル当量、より好ましくは0.5~5モル当量である。
塩基のモル当量数は、o-アミノベンゼンチオール誘導体に対して0.01~100モル当量、好ましくは0.1~10モル当量、より好ましくは1~3モル当量である。
o-アミノベンゼンチオール誘導体は、遊離状態で用いてもよく、塩化水素付加物を用いてもよい。
【0032】
本発明の方法を行う上で重要な原料である前記式(3)で表されるo-アミノベンゼンチオール誘導体は、例えば、比較的に入手が容易な下記式(6):
【化15】
(式中、X、Y、Z及びWは前記のとおりである)
で表されるベンゾチアゾール誘導体を加水分解して得られる。この加水分解反応は、アルカリ性条件下で加熱すること、例えば、水酸化カリウム水溶液中で加熱還流することにより容易に行うことができる。
【0033】
(前駆体の環化反応)
本発明の最終目的化合物である下記式(4):
【化16】
(式中、X、Y、Z及びWは前記のとおりである)
で表されるD-ルシフェリン及びD-ルシフェリン誘導体は、第1のルート又は第2のルートで得られた前記式(1)で表されるジアミノジチオエーテル置換体を塩基の存在下で環化させる工程によって得ることができる。あるいは、前記式(2)で表されるD-システイン置換体と、前記式(3)で表されるo-アミノベンゼンチオール誘導体を塩基の存在下で反応させ、前記式(1)で表されるジアミノジチオエーテル置換体を単離せずにそのままの反応条件下で反応を継続させ、環化させる工程、又は前記式(5)で表されるアミノチオエーテル誘導体と、D-システインを塩基の存在下で反応させ、前記式(1)で表されるジアミノジチオエーテル置換体を単離せずにそのままの反応条件下で反応を継続させ、環化させる工程によっても得ることができる。上記の環化反応の条件は、以下のとおりである。
【0034】
塩基の具体例:アルカリ金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)、4級アンモニウム塩(例えばフッ化テトラブチルアンモニウム)、3級アミン(例えばトリエチルアミン)、有機強塩基(例えばDBN(1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン)、MTBD(7-メチル-1,5,7―トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン))、好ましくは、水酸化ナトリウム、トリエチルアミン、DBN、より好ましくはトリエチルアミンである。
【0035】
溶媒の具体例:極性溶媒、好ましくは、DMF、NMP、DMSO、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、より好ましくは、DMFである。
反応温度:-100~200℃、好ましくは、0~100℃、より好ましくは、25~60℃である。
【0036】
その他の条件:塩基のモル当量数は、ジアミノジチオエーテル置換体に対して0.01~100モル当量、好ましくは0.1~10モル当量、より好ましくは1~3モル当量である。
【0037】
第1のルート又は第2のルートの反応から前記環化反応は、いずれも塩基の存在下で行うことができ、これら反応を連続的に行い最終目的物を生成することが可能である。そのような一連の反応を連続的に行うための反応条件は、以下のとおりである。
【0038】
塩基の具体例:アルカリ金属水酸化物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)、4級アンモニウム塩(例えばフッ化テトラブチルアンモニウム)、3級アミン(例えばトリエチルアミン)、有機強塩基(例えばDBN(1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン)、MTBD(7-メチル-1,5,7―トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン))、好ましくは、水酸化ナトリウム、トリエチルアミン、DBN、より好ましくはトリエチルアミンである。
【0039】
溶媒の具体例:極性溶媒、好ましくは、DMF、NMP、DMSO、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、より好ましくは、DMFである。
反応温度:-100~200℃、好ましくは、0~100℃、より好ましくは、25~60℃である。
【0040】
その他の条件:塩基のモル当量数は、o-アミノベンゼン誘導体とD-システインの合計モル当量数に対して0.01~100モル当量、好ましくは0.1~10モル当量、より好ましくは2~6モル当量である。
【0041】
この一連の反応で用いる塩基と溶媒は共通のものを使用することができるため、ひとつの反応器を用いて、順次反応試薬を投入することで中間体であるジアミノジチオエーテル置換体を単離することなく、一連の硫化反応と環化反応による最終目的物に誘導することができる。すなわち、テトラクロロエチレンとD-システインおよびo-アミノベンゼン誘導体を順次反応させてジアミノジチオエーテル置換体に誘導し、そのまま環化反応させてD-ルシフェリン及びD-ルシフェリン誘導体を得ることができる。このように、本発明によれば、式(1)の新規な前駆体を経由することによってD-ルシフェリン及びD-ルシフェリン誘導体の製造プロセスを比較的簡易なものとすることができる。
【0042】
(反応装置)
反応装置は一般の有機合成に用いられるものが使用できる。
【実施例
【0043】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら例に限定されるものではない。以下に示す実施例において用いた試薬のうち、テトラクロロエチレンは関東電化工業株式会社製のものを使用した。2-アミノ-5-メトキシベンゼンチオールは、非特許文献3(J.Am.Chem.Soc.,2020,142,16205.)に示される方法で製造した。2-アミノ-5-ヒドロキシベンゼンチオールおよび2-アミノ-5-ヒドロキシベンゼンチオール置換体は、非特許文献4(ACS Appl.Mater.Interfaces,2012,4,3788.)に示される、メトキシ基の脱メチル化反応を引用して、対応する2-アミノ-5-メトキシベンゼンチオールおよび2-アミノ-5-メトキシベンゼンチオール置換体から製造した。D-システイン置換体は、非特許文献5(J.Labelled Comp Radiopharm,1990,28,209)に示される方法で製造した。その他の試薬や溶媒は、Aldrich、東京化成、富士フイルム和光純薬、佐々木化学薬品、ナカライテスク、関東化学などの化学品製造会社から入手した。リサイクル型HPLCは日本分析工業社のJAIGEL―1HとJAIGEL―2Hを装着したLC-9201、LC―9110 NEXTまたはLC―9210NEXTを使用した。分析はHRMS(Thermo Fisher Scientific EXACTIVE Plus)、NMR(バリアン社製MERCURY 300と日本電子社製JNM―ECS 400)を使用した。HPLC分析は島津製作所社製のポンプ LC20AD、検出器 SPD―M40A(254nmで検出)、カラムオーブン CTO―20A、オートサンプラー SIL―20ACHTから構成される装置にて実施した。また使用したカラムはL-Column2ODS 3μm(4.6mmφ× 250mm)、溶離液は、超純水(Wako)0.01%酢酸含有とアセトニトリル(Wako)0.01%酢酸含有を用いて分析を行った。
【0044】
(実施例1)2-アミノ-5-メトキシベンゼンチオールの製造(非特許文献3:J.Am.Chem.Soc.,2020,142,16205)
【化17】
(式中、Meはメチル基を表す。)
ガラス製フラスコに、2-アミノ-6-メトキシベンゾチアゾール 2.96g、16.4 mmolと、23%KOH水溶液 12mLを加え、還流下で24時間反応させた。加熱を止め、室温に戻した後、6M HCl水溶液 10mLでpH4~5に調整した。桐山ロートでろ過を行い、固体を蒸留水で洗浄した。固体を減圧乾燥させ、カラムクロマトグラフィーで2回精製して、2-アミノ-5-メトキシベンゼンチオールを1.36g、2-アミノ-6-メトキシベンゾチアゾールに対して収率53%で得た。
H NMR(300MHz、CDCl) δ 3.61(s、3H)、3.86-4.30(br、s、2H)、6.692(d、J=3.0Hz、1H)、6.693(d、J=8.7Hz、1H)、6.81(dd、J=8.7Hz、3.0Hz、1H).
13C NMR (75MHz、CDCl) δ 55.7、116.6、119.2、119.3、120.0、142.6、151.8.
HRMS (ESI、positive) calcd for C10NOS[M+H]156.0478; found 156.0470.
【0045】
(実施例2)2-アミノ-5-ヒドロキシベンゼンチオールの製造(非特許文献4:ACS Appl.Mater.Interfaces,2012,4,3788)
【化18】
(式中、Meはメチル基を表す。)
ガラス製フラスコに、2-アミノ-5-メトキシベンゼンチオール 315.8mg、2.0mmolを入れ、CHCl7mLに溶解させた。その後、-78℃のアセトン・ドライアイスバスに浸して、BBr(1M CHCl溶液 7mL)を滴下した。滴下終了後30分撹拌を続け、その後室温まで昇温した後、終夜で反応させた。メタノール 10mLを反応溶液に滴下して、反応を停止した後にCHClを蒸発させて反応溶液を濃縮した。クロロホルムとメタノールで析出した固体を除去後、液体を濃縮して、2-アミノ-5-ヒドロキシベンゼンチオールを定量的に得た。
H NMR(400MHz、CDOD) δ 6.74(dd、J=8.4、2.8Hz、1H)、7.01(d、J=2.8Hz、1H)、7.22(d、J=8.4Hz、1H)
HRMS (ESI、positive) calcd for CNOS [M+H] 142.0321; found 142.0322.
【0046】
(実施例3)D-システイン置換体の製造(非特許文献5:J. Labelled Comp Radiopharm,1990,28,209)
【化19】
ガラス製フラスコに、D-システイン塩酸塩一水和物 0.86g、4.9mmol、DMSO 10mL、DBN 1.60g、12.9mmolを加え、室温下で45分間撹拌した後、テトラクロロエチレン 5.38g、32.4mmolを加え、さらに室温下で30分間撹拌した。蒸留水 40mLを加え、反応を停止させた後、酢酸でpH4に調整した。-10.9℃の恒温槽の中で冷却し、1時間撹拌した。ろ過によりD-システイン置換体をD-システイン塩酸塩一水和物に対して83%の収率で得た。
H NMR(400MHz,DO/NaOH) δ 2.98(dd,J=13.8,6.6Hz,1H),3.10(dd、J=13.8、5.0 Hz、1H)、3.26(dd、J=7.0、5.0Hz、1H).
HRMS (ESI, negative) calcd for CClNOS [M-H] 247.9112; found 247.9106.
【0047】
(実施例4)2-アミノベンゼンチオール置換体1Aの製造
【化20】
ガラス製フラスコに、DMSO 4mL、テトラクロロエチレン 1.678g、10.1mmol、NaOH 0.1187g、3.0mmol、2-アミノベンゼンチオール 0.249g、1.9mmolを加え、室温下で2時間反応させた。蒸留水5mLを加えて反応を停止させた後、ジエチルエーテル(EtO)(15mL×3)で抽出を行い、有機層を飽和食塩水(15mL×3)で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、ろ過を行った。ろ液を濃縮後、カラムクロマトグラフィーで精製して2-アミノベンゼンチオール置換体(新規化合物1A)を215.8mg、2-アミノベンゼンチオールに対して収率45%で得た。
H NMR (300MHz、CDCl) δ 4.31(br、s、2H)、6.70-6.80(m、2H)、7.20-7.28(m、1H)、7.42(dd、J=7.8、1.2Hz、1H).
HRMS (ESI、positive) calcd for CNClS [M+H] 253.9359; found 253.9355.
【0048】
(実施例5) 2-アミノ-5-メトキシベンゼンチオール置換体1Bの製造
【化21】
(式中、Meはメチル基を表す。)
ガラス製フラスコに、DMF 20mL、テトラクロロエチレン 4.68g、28.2mmol、NaOH 0.57g、14.3mmol、2-アミノ-5-メトキシベンゼンチオール 1.11g、7.2mmolを加えて、室温下で一晩反応させた。蒸留水 20mLを加えて反応を停止させた後、酢酸エチル(AcOEt)(40mL×3)で抽出した後、水(40mL×2)、飽和食塩水(40mL×1)で有機層を洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた。ろ過の後、有機層を濃縮し、カラムクロマトグラフィーで精製し、2-アミノ-5-メトキシベンゼンチオール置換体(新規化合物1B)を0.33g、2-アミノ-5-メトキシベンゼンチオールに対して収率16%で得た。
H NMR (300MHz、CDCl) δ 3.76(s、3H)、4.02(br、s、2H)、6.73(d、J=8.7Hz、1H)、6.88(dd、J=8.7、3.0Hz、1H)、6.97(d、J=3.0Hz、1H).
13C NMR (75MHz、CDCl) δ 55.9、112.9、116.5、116.7、119.3、121.0、127.1、143.2、152.1.
HRMS (ESI、positive) calcd for CONClS [M+H]283.9465; found 283.9460.
【0049】
(実施例6) 2-アミノ-5-ヒドロキシベンゼンチオール置換体1Cの製造(非特許文献4:ACS Appl.Mater.Interfaces,2012,4,3788)
【化22】
(式中、Meはメチル基を表す。)
ガラス製フラスコに、2-アミノ-5-メトキシベンゼンチオール置換体1B 263.3mg、0.93mmolをCHCl 5mLに溶解させ、-30℃の恒温槽で撹拌した。1M BBr/CHCl溶液 3mmol、3mLを滴下した。滴下終了後、-30℃で30分撹拌し、その後室温まで昇温した後、終夜で撹拌を続けた。メタノール 10mLを加え反応を停止し、濃縮し、メタノールとEtOで再沈殿を行った。固体を回収し、真空乾燥させたところ、2-アミノ-5-ヒドロキシベンゼンチオール置換体(新規化合物1C)を222.2mg、2-アミノ-5-メトキシベンゼンチオール置換体1Bに対して88%で得た。
H NMR (400MHz、CDOD) δ 6.99(dd、J=8.8、2.8Hz、1H)、7.05(d、J=2.8Hz、1H)、7.35(d、J=8.8Hz、1H).
HRMS (ESI、negative) calcd for CClNOS [M-H] 267.9163; found 267.9160.
【0050】
(実施例7) ジアミノジチオエーテル置換体2Bの製造
【化23】
(式中、Meはメチル基を表す。)
ガラス製フラスコに、D―システイン塩酸塩1水和物 88.1mg、0.5mmol、DMSO 1mL、DBN 157.3mg、1.3mmolを加え、室温下で50分間撹拌させた後、2-アミノ-5-メトキシベンゼンチオール置換体1B 141.8mg、0.5mmolを加え、室温下で30分撹拌させた。蒸留水 4mLを加え反応を停止させ、酢酸でpH4に調整した。食塩を加えた氷浴(-8℃)に反応器を浸して、2時間撹拌し、ろ過によりジアミノジチオエーテル置換体(新規化合物2B)を143.3mg、2-アミノ-5-メトキシベンゼンチオール置換体1Bに対して収率78%で得た。
H NMR (400MHz、DO/NaOH) δ 2.88(dd、J=13.8、7.4Hz、1H)、3.14(dd、J=13.8、4.6Hz、1H)、3.21(dd、J=7.2、4.4Hz、1H)、3.54(s、3H)、6.69(d、J=9.2Hz、1H)、6.77(dd、J=8.8、2.8Hz、1H)、6.85(d、J=2.8Hz、1H).
HRMS (ESI、negative) calcd for C1213ClS2 [M-H] 366.9750; found 366.9750.
【0051】
(実施例8)ジアミノジチオエーテル置換体2Cの製造
【化24】
ガラス製フラスコに、D-システイン塩酸塩1水和物 70.9mg、0.4mmolを加え、DMSO 1mLに溶解させた。これにDBN 124.9mg,1.0mmolを加え45分間撹拌した。これに2-アミノ-5-ヒドロキシベンゼンチオール置換体(新規化合物1C) 108.8mg、0.40mmolを加え、30分間撹拌させた後、水 4mLを加え反応を停止した。酢酸でpH4に調整して、食塩を加えた氷浴(-9℃)で冷却して固体を析出させ、ろ過と真空乾燥により固体のジアミノジチオエーテル置換体(新規化合物2C)を69.2mg、2-アミノ-5-ヒドロキシベンゼンチオール置換体1Cに対して50%の収率で得た。
H NMR (400MHz、DO/NaOH) δ 2.91(dd、J=13.8、7.4Hz、1H)、3.08-3.21(m、1H)、3.25(dd、J=7.4、4.6Hz、1H)、6.41-6.48(m、1H)、6.52(dd、J=10.2、2.6Hz、1H)、6.58(dd、J=8.4、3.6Hz、1H).
HRMS (ESI、negative) calcd for C1111Cl[M-H] 352.9594; found 352.9592.
また同時に、ジアミノジチオエーテル置換体(新規化合物2C)が分子内で環化反応して生成するD-ルシフェリン3Cの存在もあわせて確認した。
HRMS (ESI、negative) calcd for C11 [M-H] 278.9904; found 278.9901.
【0052】
(実施例9)D-ルシフェリン誘導体3Aの製造
【化25】
(式中、Etはエチル基を表す。)
ガラス製フラスコに、DMF 2mL、S-(1,2,2-トリクロロビニル)-D-システイン(実施例1で得られたD-システイン置換体)246.0mg、0.98mmolを加え、撹拌を開始した後、EtN 118.1mg、1.2mmolを加え40℃に加熱して、2-アミノベンゼンチオール 63.2mg、0.51mmolを加え、40℃に加熱した状態で一晩反応させた。加熱終了後、室温まで戻し、蒸留水 4mLを加えた後、1M塩酸でpH3に調整して、酢酸エチル(4mL×3)で抽出し、飽和食塩水(4mL×1)で洗浄した。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過し、反応液からエバポレーターで溶媒を除去し、D-ルシフェリン誘導体(3A)を得た。本反応では、中間にジアミノジチオエーテル置換体(新規化合物2A)を形成する工程を経ることによって得られると考えられる。
HRMS (ESI、negative) calcd for C11 [M-H] 262.9954; found 262.9949.
【0053】
(実施例10)D-ルシフェリン誘導体3Bの製造
【化26】
(式中、Meはメチル基、Etはエチル基を表す。)
ガラス製フラスコに、DMF 2mL、S-(1,2,2-トリクロロビニル)-D-システイン(実施例1で得られたD-システイン置換体)249.7mg、1.0mmolを加え、撹拌を開始した後、EtN 133.6mg、1.3mmolを加え40℃に加熱して、2-アミノ-5-メトキシベンゼンチオール 77.6mg、0.5mmolを加え、40Cに加熱した状態で一晩反応させた。
加熱終了後、室温まで戻し、1M NaOH水溶液 4mLを加えて反応を停止した。
酢酸エチル(4mL×1)で抽出し、1M NaOH水溶液(4mL×2)および蒸留水(4mL×1)で洗浄した。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過で、エバポレーターで溶媒除去して、ジアミノジチオエーテル置換体(新規化合物2B)及びD-ルシフェリン誘導体(3B)をHRMSで確認した。本反応では、中間にジアミノジチオエーテル置換体(新規化合物2B)を形成する工程を経ることによって得られると考えられる。
ジアミノジチオエーテル置換体(新規化合物2B)
HRMS (ESI、negative) calcd for C1213Cl [M-H] 366.9750; found 366.9739.
D-ルシフェリン誘導体(3B)
HRMS (ESI、negative) calcd for C12[M-H] 293.0060; found 293.0053.
【0054】
(実施例11)D-ルシフェリン3Cの製造
【化27】
(式中、Etはエチル基を表す。)
ガラス製フラスコにアルミホイルを巻き、暗所にした。S-(1,2,2-トリクロロビニル)-D-システイン 250.7mg、1.0mmol、DMF 2mL、EtN 0.5mL、2-アミノ-5-ヒドロキシベンゼンチオール 75.6mg、0.54mmolを加え室温で5時間反応させた。蒸留水 4mLを加え、反応を停止した。1M HCl水溶液で反応液をpH3に調整して、AcOEt (20mL×3)で抽出して、硫酸ナトリウムで乾燥させた。ろ過後、ろ液を濃縮してD-ルシフェリン(3C)を得た。(実施例8)においては、前駆体であるジアミノジチオエーテル置換体2Cの他に、次の反応すなわちジアミノジチオエーテル置換体2Cが分子内で環化することによって得られるD-ルシフェリン(3C)も併せて得られたことから、(実施例11)記載の本反応では、D-ルシフェリン(3C)は中間にジアミノジチオエーテル置換体(新規化合物2C)を形成する工程を経ることによって得られると考えられる。
HRMS (ESI、negative) calcd for C11 [M-H] 278.9904; found 278.9902.
【0055】
(実施例12)D-ルシフェリン誘導体3Bの製造
【化28】
(式中、Meはメチル基を表す。)
ガラス製フラスコに、D-システイン塩酸塩一水和物 70.4mg、0.4mmol、DMSO 1mL、DBN 126.6mg、1.0mmolを加えて45分間、室温で撹拌した後、2-アミノ-5-メトキシベンゼンチオール置換体(新規化合物1B) 114.6mg、0.4mmolを加えて一晩撹拌させた。蒸留水 4mLを加えて一晩撹拌させた後、ろ過して固体(92.6mg)を得た。
固体を水とアセトニトリルによる逆相HPLC分析したところ、非特許文献6(J.Am.Chem.Soc.,2012,134,7604)にて別途合成した標品の化合物3Bと同じ保持時間にピークを示し、化合物3Bの存在を確認した。またHRMS分析によっても、化合物3Bと化合物2Bの存在を確認した。
D-ルシフェリン誘導体3B
HRMS (ESI、negative) calcd for C12 [M-H] 293.0060; found 293.0062.
ジアミノジチオエーテル置換体2B
HRMS (ESI、negative) calcd for C1213Cl [M-H] 366.9750; found 366.9752.
【0056】
(実施例13)D-ルシフェリン3Cの製造
【化29】
ガラス製フラスコに、D-システイン塩酸塩一水和物 70.4mg、0.4mmol、DMSO 1mL、DBN 182.4mg、1.5mmolを加えて45分間、室温で撹拌した後、2-アミノ-5-ヒドロキシベンゼンチオール置換体(新規化合物1C) 108.3mg、0.4mmolを加えて二晩撹拌させた。蒸留水 4mLを加えて一晩撹拌させた後、1M NaOH水溶液でpH11に調整した後、ジエチルエーテル(EtO)(10mL×3)で洗浄した。その後、水層を1M HCl水溶液でpH3に調整し、酢酸エチル(AcOEt)(10mL×5)で抽出した。この時に、不溶解物をろ過で取り除いた後、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた。ろ過により乾燥剤の硫酸ナトリウムを取り除き、ろ液をエバポレーターで濃縮して固体(20.1mg)を得た。
固体を水とアセトニトリルによる逆相HPLC分析したところ、非特許文献6(J.Am. Chem.Soc.,2012,134,7604)にて別途合成した標品の化合物3Cと同じ保持時間にピークを示し、化合物3Cの存在を確認した。またHRMS分析によっても、化合物3Cの存在を確認した。同時に、HRMS分析(positive)ではジアミノジチオエーテル置換体(新規化合物2C)の存在を確認した。
D-ルシフェリン3C
HRMS (ESI、negative) calcd for C11 [M-H] 278.9904; found 278.9903.
ジアミノジチオエーテル置換体(新規化合物2C)
HRMS (ESI、positive) calcd for C1112ClNa [M+Na] 376.9559; found 376.9579.
【0057】
(実施例14)2-アミノ-5-ヒドロキシベンゼンチオール置換体1Cの製造
【化30】
ガラスフラスコに、DMSO 2mL、テトラクロロエチレン 829.6mg、5.0mmol、NaOH 123.3mg、3.1mmol、4-アミノ-3-メルカプトフェノール 77.5mg、0.55mmolを加えて25分間反応させた。蒸留水を4mL加え反応を停止させ、反応液をエバポレーターで濃縮した。得られた濃縮物をメタノールに溶解させてろ過後、エバポレーターで濃縮した。得られた濃縮物を少量のメタノールに溶解させ、EtOとヘキサンの混合溶液に沈殿させた。沈殿物をろ過後、ろ液をエバポレーターで濃縮し、カラムクロマトグラフィーで精製し、2-アミノ-5-ヒドロキシベンゼンチオール置換体(新規化合物1C)を5.9mg、4-アミノ-3-メルカプトフェノールに対して収率4%で得た。
H NMR (300MHz、CDCl) δ 6.69(d、J=8.1、1H)、6.81(dd、J=8.9、2.9Hz、1H)、6.94(d、J=3.0Hz、1H).
HRMS (ESI、negative) calcd for CClNOS [M-H] 267.9163; found 267.9160.
【0058】
本発明のD-ルシフェリン及びD-ルシフェリン誘導体の製造方法は、新規な合成ルートに基づくので、反応中間体の中には新規化合物が含まれる。例えば、下記D-システイン置換体は既知化合物であるが、他の2つの一般式に属する中間体1A、1B、1C、2A、2B、2Cは出願人が調査した限り新規化合物である。(下記式中、Meはメチル基を示す。)
【化31】
【要約】
製造工程が多段階であり高価な2-シアノ-6-ヒドロキシベンゾチアゾールを用いないこれまでに前例のないD-ルシフェリン及びD-ルシフェリン誘導体の新しい製造方法を確立すること。
D-ルシフェリン及びD-ルシフェリン誘導体の製造方法において、前駆体となる下記式(1):
【化1】
(式中、XはH、OCH又はOHであり、Y、Z及びWはH又は1価の有機基である)で表される新規なジアミノジチオエーテル置換体を経由することによって上記課題を達成する。