(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】流量制御装置および流量制御方法
(51)【国際特許分類】
G05D 7/06 20060101AFI20221215BHJP
【FI】
G05D7/06 Z
(21)【出願番号】P 2018180516
(22)【出願日】2018-09-26
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】110002893
【氏名又は名称】弁理士法人KEN知財総合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100186750
【氏名又は名称】藤本 健司
(72)【発明者】
【氏名】木村 純
(72)【発明者】
【氏名】篠原 努
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-97759(JP,A)
【文献】国際公開第2012/153455(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 7/00 - 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流通する流路に設けられた制御弁と、
前記流路の前記制御弁の上流側に設けられかつ通過する流体に圧力損失を生じさせる流体抵抗要素と、
前記流体抵抗要素の上流側の流体の圧力を検出する上流側圧力センサと、
前記流体抵抗要素の下流側の流体の圧力を検出する下流側圧力センサと、
前記上流側圧力センサで検出される一次側圧力および下流側圧力センサで検出される二次側圧力に基づいて前記流体抵抗要素を通過する流体の流量を計量する流量計量部と、
前記流量計量部で計量される流量が前記制御弁により制御すべき目標流量に追従するように前記制御弁を制御するフィードバック制御部と、を有する流量制御装置であって、
前記流量計量部は、検出された前記一次側圧力および前記二次側圧力を使用して流量を計量する計量部と、
前記計量部で計量される流量を検出された二次側圧力の時間変化に基づいて算出される補正流量との線形和で補正する補正部と、を有する流量制御装置。
【請求項2】
前記流体は気体である、請求項1に記載の流量制御装置。
【請求項3】
前記補正部は、前記二次側圧力の時間変化量に所定の定数を乗算することにより前記補正流量を算出する、請求項1または2に記載の流量制御装置。
【請求項4】
前記計量部は、少なくとも前記一次側圧力および前記二次側圧力をパラメータとする関数により流量を算出し、又は、前記一次側圧力および前記二次側圧力に流量が対応付けられたマップから流量を決定する、請求項1ないし3のいずれかに記載の流量制御装置。
【請求項5】
前記流体抵抗要素は、オリフィスを含む、請求項1ないし4のいずれかに記載の流量制御装置。
【請求項6】
前記上流側圧力センサの上流側にガスフィルタが設けられている、請求項1ないし5のいずれかに記載の流量制御装置。
【請求項7】
流体に圧力損失を生じさせる流体抵抗要素の上流側の流体の検出圧力である一次側圧力と下流側の流体の検出圧力である二次側圧力に基づいて、前記流体抵抗要素を通過する流体の流量を計量し、
計量される流量が制御弁により制御すべき目標流量に追従するように前記制御弁をフィードバック制御する流量制御方法であって、
検出される前記一次側圧力および前記二次側圧力を使用して前記流体抵抗要素を通過する流体の流量を計量し、
計量された流量を前記二次側圧力の時間変化に基づいて算出される補正流量で補正する、ことを含む流量制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量制御装置および流量制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、流量制御装置による流量制御の応答性を向上することが課題として存在する。すなわち、流量制御装置の目標流量の変更に素早く流量が追従し、かつ流量のオーバーシュートやアンダーシュートをほぼ起こさないことが求められている。
例えば、特許文献1に開示された技術は、流量計によって計量された計量流量が実際に流れている流量と時間的に乖離していることによるフィードバック制御系の不安定化を改善することを課題としている。この課題を解決するために、特許文献1は、オリフィスや層流素子などの流体抵抗要素の上流側と下流側の流体の圧力を検出し、検出した圧力にフィルタリング処理を施し、フィルタリング処理後の圧力に基づいて流量を算出し、算出された流量を使用して制御弁をフィードバック制御する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、フィルタの各定数の決定方法は、試行錯誤により決定する、あるいは、流量制御装置の動作をシミュレーションすることができるソフトウエアを用いて決定する必要があり、容易ではない。
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みてされたものであり、その目的の一つは、検出した圧力にフィルタリング処理を施すことなく、目標流量の変更に素早く流量が追従し、かつ流量のオーバーシュートやアンダーシュートが抑制された流量制御装置および流量制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の流量制御装置は、流体が流通する流路に設けられた制御弁と、
前記流路の前記制御弁の上流側に設けられかつ通過する流体に圧力損失を生じさせる流体抵抗要素と、
前記流体抵抗要素の上流側の流体の圧力を検出する上流側圧力センサと、
前記流体抵抗要素の下流側の流体の圧力を検出する下流側圧力センサと、
前記上流側圧力センサで検出される一次側圧力および下流側圧力センサで検出される二次側圧力に基づいて前記流体抵抗要素を通過する流体の流量を計量する流量計量部と、
前記流量計量部で計量される流量が前記制御弁により制御されるべき目標流量に追従するように前記制御弁を制御するフィードバック制御部と、を有する流量制御装置であって、
前記流量計量部は、検出された一次側圧力および二次側圧力を使用して流量を計量する計量部と、
前記計量部で計量される流量を検出された二次側圧力の時間変化に基づいて算出される補正流量で補正する補正部と、を有する。
【0007】
前記流体は気体である。
【0008】
好適には、前記補正部は、前記二次側圧力の時間変化量に所定の定数を乗算することにより前記補正流量を算出する、ことができる。
【0009】
さらに好適には、前記決定部は、少なくとも一次側圧力および二次側圧力をパラメータとする関数により算出し、又は、一次側圧力および二次側圧力に流量が対応付けられたマップから流量を決定する、ことができる。
【0010】
好適には、前記流体抵抗要素は、オリフィスを含む、構成を採用できる。
【0011】
さらに好適には、前記上流側圧力センサの上流側にガスフィルタが設けられている、構成を採用できる。
【0012】
本発明の流量制御方法は、流体に圧力損失を生じさせる流体抵抗要素の上流側の流体の検出圧力と下流側の流体の検出圧力に基づいて、前記流体抵抗要素を通過する流体の測定流量を決定し、
決定される前記測定流量が目標流量に追従するように前記制御弁をフィードバック制御する流量制御方法であって、
測定流量を決定する際に、検出された一次側圧力および二次側圧力を使用して測定流量を決定し、
決定された測定流量を検出された二次側圧力の時間変化に基づいて算出される補正量で補正する、ことを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、目標流量の変更に素早く制御弁を通過する流体の実流量が追従し、かつ目標流量に対するオーバーシュートやアンダーシュートが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る流量制御装置の概略構成図。
【
図2】計量部で計量される流量の時間遅れの発生原因を説明するための図。
【
図3】目標流量がステップ状に変化した場合の計量部における計量流量Q1と補正後の計量流量Qを示すグラフである。
【
図4】目標流量がステップ状に変化した場合の、本発明の補正を用いなかった場合のフィードバック制御部の応答特性の例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。説明において同様の要素には同一の符号を付して、重複する説明を適宜省略する。
図1に本発明の一実施形態に係る流量制御装置の概略構成を示す。
流量制御装置1は、ガスが流通する流路の上流側から下流側に向かって、ガスフィルタGF、オリフィス5hを画定するオリフィスプレート5および制御弁2が設けられている。オリフィス5hは、流体に圧力損失を生じさせる流体抵抗要素である。流体抵抗要素としては、ノズルや層流素子を用いることもできる。
オリフィス5hの上流側および下流側には、ガスの圧力を検出する上流側圧力センサ31および下流側圧力センサ32が設けられ、上流側圧力センサ31の検出する一次側圧力P1および下流側圧力センサ32の検出する二次側圧力P2は回路部10に入力される。下流側圧力センサ32の下流側には、ガスの温度を検出する温度センサ33が設けられ、温度センサ33が検出する温度Tが回路部10に入力される。
制御弁2は、アクチュエータ3により開閉される。アクチュエータとしては、例えば、ピエゾアクチュエータが用いられるが、これに限定されるわけではない。
【0016】
回路部10は、流量計量部11と、フィードバック制御部12と、ドライバ13とを有する。回路部10は、例えば、プロセッサ、メモリ、入出力回路等のハードウエアと所要のソフトウエアにより実現される。
流量計量部11は、計量部11Aと補正部11Bからなる。
計量部11Aは、上流側圧力センサ31で検出される一次側圧力P1および下流側圧力センサ32で検出される二次側圧力P2に基づいてオリフィス5hを通過するガスの計量流量Q1を決定する。
補正部11Bは、二次側圧力P2の時間変化量に基づいて補正流量Q2を算出し、計量部11Aで計量された計量流量Q1をこの補正流量Q2で補正し、新たな計量流量Qとしてこれをフィードバック制御部12に出力する。なお、流量計量部11の詳細は後述する。
【0017】
フィードバック制御部12は、流量計量部11で計量された計量流量Qが制御弁2により制御されるべき目標流量TAに追従するように制御弁2を制御する制御指令を、ドライバ13を通じてアクチュエータ3に出力する。フィードバック制御部12は、例えば、PID制御を実行する。
【0018】
ここで、制御弁2とオリフィス5hとの間には、
図2に示すように、破線Aで示すように、一定の容積が存在する(以下、流路内容積という。)。このため、計量部11Aで計量されるオリフィス5hを通過する流体の計量流量Q1には、制御弁2を通過するガスの実流量に対して時間遅れが必ず存在する。
図4に、補正流量Q2を使わずに、計量流量Q1=計量流量Qとしてフィードバック制御を行った際に、目標流量TAがステップ状に変化した場合のフィードバック制御部12の流量の応答特性の例を示す。実線(1)が制御弁2を通過するガスの実流量であり、点線(2)が測定される計量流量Q1である。
図4の例では、計量流量Q1が目標流量TAに対しオーバーシュートなく制御されているが、実流量は(1)に示したようにオーバーシュートを生じている。これは、二次側圧力P2が変化した際に流路内容積に圧縮されて溜まるガスの総質量が変化した分が計量流量Q1には算入されていない事に起因する。例えば、制御弁2を開け始めた直後は、制御弁2をガスが流れ始めているにも関わらず一次側圧力P1と二次側圧力P2がほぼ等しいため、計量流量Q1はほぼゼロと算出されてしまう。
このことは、計量流量Q1が制御弁2を流れる実流量に対して遅れを持っている、ともみなせる。遅れを含む系は、一般に制御の応答速度向上が困難だったりハンチングが起きやすかったりする他に、
図4のようにオーバーシュートの原因にもなる。
【0019】
本実施形態では、フィードバック制御系の高応答化を、フィードバック制御部12のパラメータを調整するのではなく、フィードバック制御部12にフィードバックされる計量流量Qを補正部11Bにより制御弁2を通過するガスの実流量に対する計量部11Aで計量される計量流量Q1の時間遅れを補償するように補正することで実現する。
流量計量部11は次式(1),(2),(3)により計量流量Qを求める。なお、tは時間である。Qは、制御弁2を流れるガスの質量流量である。fは流体の種類により決まる関数であり、Q1はオリフィス5hを通過するガスの流量である。Q2は流路内容積内に溜まったガス量の変化分であり、質量保存則から、流入量にあたるQ1と流出量にあたるQの差分((3)式)に等しい。nは流路内容積中に存在する気体粒子の数をmolの単位で表したもの(物質量)である。Tはガスの絶対温度。Cは流路内容積Vに依存する定数であり、C=V0V/Rとして項をまとめたものである。Vは流路内容積の体積、V0は標準状態の気体1molの体積、Rは気体定数である。(2)式の変形には理想気体の方程式PV=nRTを用いた。質量流量であるQ、Q1、Q2は、標準状態における体積流量に換算している。
【0020】
【0021】
(1)式の関数fは、ガス種によって変わるが、圧力の微分や積分を含まず、現在の圧力のみから計算される。一次側圧力P1、二次側圧力P2を変えながら実験的に測定した流量を基に近似関数を作ることによって求められる。近似の方法は、例えば折れ線近似である。
(2)式の補正流量Q2は、下流側圧力センサ32の検出する二次側圧力P2(t)の一次微分から計算される。
計量流量Qは、計量流量Q1と補正流量Q2の線形和により計算される。
定数Cは、制御弁2にある流量が流れる状態から、急に制御弁2を閉じた時に、計量流量Q=0になるように上式(3)を解くことにより求めることができる。
【0022】
ここで、(3)式の校正は、関数fについては流量一定の状態、即ちP2の時間変化がなくQ2=0の状態で校正され、定数Cは流量一定の状態から制御弁2を閉にした時の二次側圧力P2の時間変化から校正される構成を採用できる。すなわち、(3)式により計量流量Qを算出するので、校正が容易になり、製品の製造時間短縮につながる。
【0023】
補正流量Q2は、ガスの絶対温度Tの時間変化が下流側圧力P2の時間変化に比べて十分小さいと仮定した場合には、次式(4)により近似できる。
【0024】
【0025】
図3に補正部11Bによる補正の効果を示す。
図4と同様に目標流量TAはステップ状に変化する。(2)が計量部11Aで測定される計量流量Q1である。(1)は制御弁を流れる実流量であり、補正後の計測流量Qにほぼ等しい。流量測定の遅れが小さくなり、制御の不安定化やオーバーシュートの発生を防止したままで、より高応答なフィードバック制御のパラメータを選択する事ができる。
【0026】
本実施形態によれば、補正部11Bにより流路内容積Vによる応答の遅れが補償されるため、フィードバック制御系の応答性が改善される。従来の流量制御装置の設計思想では、流路内容積Vを小さくすることで測定の遅れを抑制してきたが、その制約が緩和され設計自由度が高まる。
本実施形態によれば、制御弁2の動作に伴って発塵が発生する場合であっても、オリフィス5hが制御弁2の一次側(上流側)にあるので、オリフィス5hにパーティクルが詰まって測定精度に影響を及ぼす事を抑制できる。
本実施形態によれば、上記の(1)式の関数fにより計量流量Q1を求め、それとは別に二次側圧力P2の時間微分を計算している。これにより、定常流(流量が一定)の条件で校正された関数f(P1,P2,T)の精度を損なうことなく、制御系の応答速度を向上することができる。また、理想気体の式と質量保存則から成り立つ近似である。式の次数を低く抑えられ、リアルタイムの計算に有利である。
【0027】
本実施形態では、流体抵抗要素としてオリフィス5hを用いたが、層流素子等の他の流体抵抗要素を用いることができる。しかし、オリフィスプレート5を用いることで、オリフィス5hと制御弁2との間の流路内容積Vを正確に区画できる。これにより、上記(1)式の計算式が使える範囲を広くする事ができる。厳密にいえば、より高い周波数の一次側圧力P1および二次側圧力P2まで(1)式で近似できる。
【0028】
本実施形態によれば、ガスフィルタGFを設けたことにより、圧力変動(特に高い周波数の圧力変動)が一次側圧力P1に及ぼす影響を低減するとともに、オリフィス5hのつまりを抑制できる。
【0029】
上記実施形態では、計量流量Q1を関数fから算出する場合を例示したが、一次側圧力P1および二次側圧力P2に流量が対応付けられたマップを予め作成しておき、この、マップから流量を決定することも可能である。
上記実施形態では、連続時間の変数を用いて補正の方法を説明したが、流量計量部11やフィードバック制御部12のフィルタ処理は、公知のデジタルフィルタの構成法を用いて離散時間の変数に対する処理として実装されていても良いし、アナログフィルタ回路によって実装されていても良い。
【符号の説明】
【0030】
1 :流量制御装置
2 :制御弁
3 :アクチュエータ
5 :オリフィスプレート
5h :オリフィス
10 :回路部
11 :流量計量部
11A :計量部
11B :補正部
12 :フィードバック制御部
13 :ドライバ
31 :上流側圧力センサ
32 :下流側圧力センサ
33 :温度センサ
C :定数
GF :ガスフィルタ
P1 :一次側圧力
P2 :二次側圧力
Q :計量流量
Q1 :計量流量
Q2 :補正流量
T :絶対温度
TA :目標流量
V :流路内容積
f :関数