(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】磁気浮上装置及びそれを用いた測定装置
(51)【国際特許分類】
H02N 15/00 20060101AFI20221215BHJP
【FI】
H02N15/00
(21)【出願番号】P 2019158501
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2022-08-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】319010365
【氏名又は名称】池添 泰弘
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【氏名又は名称】黒田 泰
(72)【発明者】
【氏名】池添 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 将之
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-65555(JP,A)
【文献】特開2017-51138(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0125118(KR,A)
【文献】特開2006-304470(JP,A)
【文献】特開2002-234901(JP,A)
【文献】SHO, Noriko,ON-CHIP FORMATION AND FUSION OF SPHEROIDS BY LABEL-FREE MAGNETIC CELL MANIPULATION,17th International Conference on Miniaturized Systems for Chemistry and Life Sciences,米国,2013年10月,pp.754-756
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の第1永久磁石を有し、
前記一対の第1永久磁石の各々は、側面と、頂面と、垂直断面で前記側面と前記頂面とを結ぶ角部を面取りする稜線と、を有し、
鉛直方向をZ方向とし、水平面内で直交する方向をX方向及びY方向とし、前記一対の第1永久磁石は、X-Z断面に前記稜線を有し、
前記一対の第1永久磁石の各々は、Y-Z断面で、前記頂面が下向き凸の円弧状に形成され、
前記一対の第1永久磁石は、
Z方向で互いに逆向きに着磁され、かつ、前記側面同士を対面または接触させて並設されて、前記垂直断面で前記一対の第1永久磁石の各々の前記稜線よりも上方に位置する空間に、雰囲気中の媒体に対して反磁性である対象物を磁気浮上させる磁気浮上装置。
【請求項2】
一対の第1永久磁石と、
一対の第2永久磁石と、
を有し、
前記一対の第1永久磁石の各々は、側面と、頂面と、垂直断面で前記側面と前記頂面とを結ぶ角部を面取りする稜線と、を有し、
鉛直方向をZ方向とし、水平面内で直交する方向をX方向及びY方向とし、前記一対の第1永久磁石は、X-Z断面に前記稜線を有し、
前記一対の第2永久磁石は、空間を挟んで前記X方向で対向して配置され
、
前記一対の第1永久磁石は、前記空間の下方に配置され、
前記一対の第2永久磁石の各々は、着磁方向が前記X方向で同じ向きであ
り、
前記一対の第1永久磁石は、Z方向で互いに逆向きに着磁され、かつ、前記側面同士を対面または接触させて並設されて、前記空間に雰囲気中の媒体に対して反磁性である対象物を磁気浮上させる磁気浮上装置。
【請求項3】
請求項1
または2において、
前記一対の第1永久磁石の各々の前記稜線は、前記側面と前記頂面とを結ぶ前記角部を所定の半径に従って面取りする磁気浮上装置。
【請求項4】
請求項
3において、
磁束密度B(T)と、前記磁束密度Bの前記鉛直方向の勾配である∂B/∂Z(T/m)との積であるB×(∂B/∂Z)が、前記半径に依存して変化し、前記対象物の種別に応じて前記半径が設定されている磁気浮上装置。
【請求項5】
請求項
1乃至4のいずれか一項において、
前記対象物は、最大サイズが0.01mm~1mmである磁気浮上装置。
【請求項6】
請求項
5に記載の磁気浮上装置と、
前記磁気浮上装置により浮上された前記対象物を振動させる外力を付与する外力付与部と、
前記対象物の振動を検出して、前記対象物の振動と相関のある前記対象物の属性を測定する測定部と、
を有する測定装置。
【請求項7】
請求項
5に記載の磁気浮上装置と、
前記対象物を浮上させている前記磁気浮上装置を移動可能に支持する支持部と、
外力により移動する前記磁気浮上装置に追従する前記対象物の動きを検出して、前記外力を測定する測定部と、
を有する測定装置。
【請求項8】
請求項
5に記載の磁気浮上装置と、
前記対象物を浮上させている前記磁気浮上装置を移動させる外力を付与する外力付与部と、
前記外力により移動する前記磁気浮上装置に追従する前記対象物の振動を検出して、前記対象物の振動と相関のある、前記対象物の周囲の雰囲気中の前記媒体の属性を測定する測定部と、
を有する測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気浮上装置及びそれを用いた加速度センサー、表面張力センサー等の測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
19世紀前半に、アーンショーが、電場や磁場を利用して物体を静的に浮上させるには、反発力しか使えないことを証明した。ただし、電場を使って反発力を生み出すことは困難である。なぜなら、同じ符号の電荷同士が反発することは良く知られているものの、実際は、物体内に特定の符号(正または負)の電荷をずっと溜めておくことはほぼ不可能で、最終的には物体の持つ電荷はゼロとなり、電場中に置かれた物体には、その誘電率にしたがって正負の電荷に偏りが生じて、結果的に引力が作用することになるからである。
【0003】
物体に働く磁気的な力(磁気力)には、磁石に引きつけられる力(引力)と、磁石から遠ざかろうとする力(反発力)の2種類が存在する。鉄やニッケルのような強磁性体、あるいは、遷移金属の塩や酸素ガスなどの常磁性体に対して、磁石は引力を及ぼす。一方、水、プラスチック、陶器、木材、ガラス、その他多くの有機物質などに対して、磁石は反発力を及ぼす。これらは反磁性体と呼ばれる。すなわち、自然界で反発力を生み出すための唯一の系は、磁石(コイルや永久磁石)と反磁性体の組み合わせからなる系のみである。理論的には、反磁性体と磁石との間の反発力を利用すれば、地球上で物体の磁気浮上を実現できるはずである。
【0004】
しかし、反磁性体と磁石の反発力は非常に弱く、反磁性体の磁気浮上を実現するには超強力磁石が必要である。1991年に、E. Beaugnon等が、フランスの強磁場施設でB(磁束密度)=27T(テスラ)もの強磁場を発生させて、世界で初めて反磁性体の磁気浮上に成功した(非特許文献1)。ちなみに、学校の黒板などに使う磁石は強い磁石でも0.1T程度の磁束密度しか発生しない。磁気エネルギーは磁束密度の強度の2乗に比例するので、27Tの磁石のエネルギーと0.1Tの磁石のエネルギーはおよそ73000(=27/(0.1)2)倍である。一般的には、『反磁性体』と呼ばれる物質が存在することすら知られていないが、これは『物体が磁石から反発するような様子を見る機会がないから』と言うこともできる。その理由が、上記のように、普通の磁石が発生する磁場が持つエネルギーと磁気浮上を実現できるほどの磁石が発生する磁場が持つエネルギーが何万倍も違っていて、反磁性体が磁石から反発力を受けている様子を目視で観測できるような状況は自然には存在しないからである。なお、1991年当時、この磁石は、世界最強クラスの超伝導磁石で、2019年現在でも、27Tもの磁場を得るには、ごく限られた強磁場施設を使わなければならない。水は、反磁性体の中でも比較的強い反磁性を持っているので浮上させやすい物質の一つであるが、上のような条件下でのみ磁気浮上が実現される。
【0005】
Beaugnon等の報告の後も、いくつかの強磁場施設で磁気浮上実験がなされたが、いずれにしても、一般の企業・大学の研究者が日常的に使えるような磁石を用いた実験ではない。また、浮上させることが出来る物質も反磁性体と限られていたため、応用的な観点での研究はあまり進まなかった。しかし、1998年に本発明者等が提案した磁気アルキメデスの原理(特許文献1及び非特許文献2)は、周囲媒体を巧みに利用することで、磁気浮上が容易になることを示した。たとえば、水の磁気浮上が普通の超伝導磁石で実現できるようになり、世界で初めて目の前で水が浮く様子を直接観察できるようになった。また、常磁性の溶液を媒体として利用することで、永久磁石程度の弱い磁場でも簡単に磁気浮上をさせることが可能となり、磁気分離や生体材料への応用など様々な研究が世界中で行われるようになった。また、アーンショーの定理によると、磁石に引かれる物質の磁気浮上は不可能だと結論付けられていたが、浮上させたい対象物質よりも媒体の方がより強く磁石に引かれるような物質であれば、対象物質は、その系の中では相対的に反磁性体となるので、磁気浮上が可能であることも示した。すなわち、あらゆる物質の磁気浮上を可能にしたのが、磁気アルキメデスの原理である。その後の磁気浮上や磁気力に関係する研究の多くは、磁気アルキメデスの原理を何らかの形で活用しているものが多い。
【0006】
2004年、Lyuksyutov等は、磁極が向き合う形で対向配置された微細な2つの永久磁石と電極とを使って、直径が20~30μmほどの水を浮上させた実験を報告している(非特許文献3)。ただし、どれくらいの磁気力が発生していたのか、その詳細は書かれていない上に、本当に浮いているのかどうかもよく分からない。また、この構造から明らかだが、電極がなければ、磁石間の隙間に沿った方向に復元力は存在しない。電極形成のためには少なくともリソグラフィーなどの微細加工技術が必要である。また、磁極が対向し強く反発する状態で2つの永久磁石を固定する必要があるため、強磁性体基板に磁石を吸着させて固定しなければならない。
【0007】
2008年、Pigot等は、リソグラフィー技術を用いて、50μm程度の微細なNd-Fe-B磁石のパターンを作り、そこで、ビスマスの小片を磁気浮上させる実験を報告している(非特許文献4)。2つの磁石の磁極の向きは共に鉛直方向上向きで、平行である。上述された非特許文献3と磁極の位置関係は違うが、磁石同士が反発する配置となっていることは同じである。この磁石は、薄膜として基板に付着している。この研究では、磁場分布の解析も行われている。しかし、非特許文献3と同様、微細構造を作製する必要があるため、普通の磁石で同様の実験を実現することは不可能である。この論文本文中にこの技術の応用として、傾斜計や加速度計のことが言及されているものの、実際に作られているわけではない。
【0008】
2015年には、Gunawan等が、接して配置された2つの円柱磁石の隙間で、カーボンのロッドを浮上させることが出来ることを報告した(非特許文献5)。このシステムは、物体の磁化率の測定に使えることを示している。非特許文献3-4に比べるとかなり簡単な構造だが、浮上させやすいカーボンの磁気浮上を実証しているだけで、他の物質の磁気浮上は実現されていない。また、磁石の磁極は水平方向に平行で、引力を及ぼす配置をとっている。
【0009】
2015年、Iida等は、磁気浮上のための磁気力を強くするために、Halbach配置と呼ばれる計9個の磁石の配置方法を利用して、磁石とヨークとの間の空洞部分でカーボンの磁気浮上を実現した(非特許文献6)。計9個の反発する磁石は、二次元的配置を実現するために、金属塊とヨークとで強固に固定されなければならない。
【0010】
2012年には、渡会等が磁気クロマトグラフィーに関する論文を発表している。ここでは、粒子の移動速度を磁気力で制御する方法について議論されており、実験で使用した磁石配置において発生した磁気力が、水の磁気浮上を実現させるに十分な磁気力を持つことを見出している(非特許文献7)。ただし、この報告では、実験データから「水の磁気浮上を実現させる程度の大きさになっている」ということを間接的に評価しているもので、シミュレーションや実測の結果ではなく、実際に浮かせた実験を示したものでもない。ここでの磁石の配置は、N極とS極が向き合う形になっているのでお互い引力を及ぼす配置になっていて、さらに磁極間に鉄の小片を挟むことで磁気力を増強させている。また、鉄の小片の間には隙間があり、その間隔は400μmとなっていて、これまでの論文と同様に、磁石と磁石の間の小さな隙間が磁気力増強に重要であることが想像できる。なお、この実験配置では、Z軸(鉛直上向き方向)の磁気力が水に作用する重力と釣り合うような状況が得られるかもしれないが、この配置のままでは、水平方向に物体が動いて下に落ちると予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Beaugnon, E. & Tournier, R. Nature 349 (1991) 470
【文献】Ikezoe Y., et al., Nature, 393 (1998) 749-750
【文献】Lyuksyutov, I. F. et al., Appl. Phys. Lett. 85(10) (2004) 1817-1819
【文献】Pigot C., et al., IEEE TRANS. MAG., 44(11) (2008) 4521-4524
【文献】Gunawan O., et al., Appl. Phys. Lett. 106 (2015) 062407
【文献】Iida K., et al., Bull. JSME., 2(3) (2015) 14-00559
【文献】Watarai H. and Namba M., J. Chromatogr., 961(1) (2002) 3-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、簡単な構造でありながら対象物を磁気浮上させることができる磁気浮上装置を提供することである。
本発明の他の目的は、簡単な構造でありながら対象物を磁気浮上させ、かつ、水平面内でも力学的平衡を実現することができる磁気浮上装置及びそれを用いた測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)本発明の一態様は、
一対の第1永久磁石を有し、
前記一対の第1永久磁石の各々は、側面と、頂面と、垂直断面で前記側面と前記頂面とを結ぶ角部を面取りする稜線と、を有し、
前記一対の第1永久磁石は、鉛直方向で互いに逆向きに着磁され、かつ、前記側面同士を対面または接触させて並設されて、前記垂直断面で前記一対の第1永久磁石の各々の前記稜線よりも上方の空間に、雰囲気中の媒体に対して相対的に反磁性である対象物を磁気浮上させる磁気浮上装置に関する。
【0015】
本発明の一態様によれば、鉛直方向で互いに逆向きに着磁され、かつ、側面同士を対面または接触させて並設された一対の第1永久磁石は、反平行に引力を及ぼし合い、垂直断面で一対の第1永久磁石の各々の稜線よりも上方に位置する空間に対象物を磁気浮上させる。ここで、雰囲気中の媒体に対して相対的に反磁性である対象物に対して、磁石は反発力を及ぼすので、磁石の磁気力により対象物を浮上させることが原理的に可能である。その磁気浮上に必要な磁気力は、磁束密度B(T)と磁束密度Bの鉛直方向の勾配である∂B/∂Z(T/m)との積であるB×(∂B/∂Z)を含む。本発明の一態様で比較的小型の永久磁石を用いた場合、磁束密度Bは小さくなるが、磁束密度Bの鉛直方向の勾配(∂B/∂Z)を大きく確保することで、強い磁気力が得られる。
【0016】
(2)本発明の一態様(1)では、前記一対の第1永久磁石の各々の前記稜線は、前記側面と前記頂面とを結ぶ前記角部を所定の半径に従って面取りすることができる。ただし、面取りは、複数の異なる曲率半径を用いても良く、あるいは直線を用いても良い。
【0017】
(3)本発明の一態様(2)では、磁束密度B(T)と、前記磁束密度Bの前記鉛直方向の勾配である∂B/∂Z(T/m)との積であるB×(∂B/∂Z)が、前記半径に依存して変化し、前記対象物の種別に応じて前記半径を設定することができる。例えば、密度の大きい、あるいは反磁性の弱い対象物ほど、半径を小さくして磁気力を高めることができる。
【0018】
(4)本発明の一態様(1)~(3)では、
前記鉛直方向をZ方向とし、水平面内で直交する方向をX方向及びY方向とし、前記一対の第1永久磁石は、X-Z断面に前記稜線を有し、
前記一対の第1永久磁石の各々は、Y-Z断面で、前記頂面を下向き凸の円弧状に形成することができる。こうすると、頂面に形成された円弧状部分により形成される磁場によって、水平面内でも対象物が釣り合って安定する力学的平衡を実現することができる。
【0019】
(5)本発明の一態様(1)~(3)では、
前記鉛直方向をZ方向とし、水平面内で直交する方向をX方向及びY方向とし、前記一対の第1永久磁石は、X-Z断面に前記稜線を有し、
前記空間を挟んで前記X方向で対向して配置された一対の第2永久磁石をさらに有し、
前記一対の第2永久磁石の各々は、着磁方向を前記X方向で同じ向きとすることができる。こうすると、一対の第2永久磁石により形成される磁場が加わることによって、水平面内でも対象物が釣り合って安定する力学的平衡を実現することができる。
【0020】
(6)本発明の一態様(4)または(5)では、前記対象物は、最大サイズが0.01mm~1mmとすることができる。装置の小型化を維持する場合、一対の第1永久磁石の稜線に挟まれる空間は比較的狭く、最大サイズ例えば直径が0.01mm~1mmであれば、装置の小型化は維持される。しかも、このようなサイズの粒子を浮上させることで、物理的に束縛されていない平衡状態の粒子に浮上力以外の外力を非接触方式例えば音波等で付与させることもできる。それにより、粒子またはその周囲の媒体の各種測定を実施することが可能となる。
【0021】
(7)本発明の他の態様は、
上述の(6)に記載の磁気浮上装置と、
前記磁気浮上装置により浮上された前記対象物を振動させる外力を付与する外力付与部と、
前記対象物の振動を検出して、前記対象物の振動と相関のある前記対象物の属性を測定する測定部と、
を有する測定装置に関する。
【0022】
本発明の他の態様(7)によれば、物理的に束縛されていない状態の対象物に浮上力以外の外力を付与すると、対象物が変形する。この時、対象物は三次元で力学的平衡状態にある中で、復元力により形状が振動する。そして、対象物の振動と相関のある対象物の属性、例えば対象物である液滴の表面張力、対象物Tである溶液の濃度変化に伴う表面張力、または対象物である液体の粘性等を、測定部により測定することができる。
【0023】
(8)本発明の他の態様は、
上述の(6)に記載の磁気浮上装置と、
前記対象物を浮上させている前記磁気浮上装置を移動可能に支持する支持部と、
外力により移動する前記磁気浮上装置に追従する前記対象物の動きを検出して、前記外力を測定する測定部と、
を有する測定装置に関する。
【0024】
本発明の他の態様(8)によれば、支持部に加速度や地震等の外力が付与されると、支持部により移動可能に支持された磁気浮上装置が移動する。磁気浮上装置により浮上されて物理的に束縛されていない平衡状態の対象物は、磁気浮上装置の移動に追従して変位する。この対象物の動きを検出することで、位置情報から加速度が求められ、あるいは加速度から地震の大きさを測定することもできる。
【0025】
(9)本発明の他の態様は、
上述の(6)に記載の磁気浮上装置と、
前記対象物を浮上させている前記磁気浮上装置を移動させる外力を付与する外力付与部と、
前記外力により移動する前記磁気浮上装置に追従する前記対象物の振動を検出して、前記対象物の振動と相関のある、前記対象物の周囲の雰囲気中の前記媒体の属性を測定する測定部と、
を有する測定装置に関する。
【0026】
本発明の他の態様(9)によれば、外力付与部により外力が付与されて磁気浮上装置が移動すると、磁気浮上装置により浮上されて物理的に束縛されていない平衡状態の対象物は、磁気浮上装置の移動に追従して移動する。この時、対象物は三次元で力学的平衡状態にある中で、復元力により振動する。この振動の減衰は、対象物の周囲の雰囲気中の媒体の属性例えば粘性に依存する。よって、振動の減衰に基づいて対象物の周囲の雰囲気中の媒体の属性のうち、対象物の振動と相関のある属性を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る磁気浮上装置の正面図である。
【
図2】磁気アルキメデスの原理を説明するための図である。
【
図3】
図1に示す磁気浮上装置のX-Z平面での磁場強度分布を示す図である。
【
図4】
図3に示すX-Z平面での磁場強度分布のうちのZ軸方向の磁場強度分布を示す図である。
【
図5】
図4から算出されるB×(∂B/∂Z)の値を示す図である。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る磁気浮上装置の正面図である。
【
図7】
図7(A)は
図6に示す磁気浮上装置のX-Z平面での磁場強度分布を示す図であり、
図7(B)は水を浮上させる時の液滴の浮上位置(Z=0.05mm)におけるY軸に沿った磁場強度分布を示す図である。
【
図8】水の磁気浮上実験を行った結果を示す図である。
【
図9】稜線を規定するフィレット半径と磁気力との関係を示す図である。
【
図10】
図10(A)~
図10(C)は、本発明の第3実施形態に係る磁気浮上装置の斜視図、正面図、側面図である。
【
図11】
図11(A)は
図10に示す磁気浮上装置のX-Z平面での磁場強度分布を示す図であり、
図11(B)は水を浮上させる時の液滴の浮上位置(Z=0.05mm)におけるY軸に沿った磁場強度分布を示す図である。
【
図12】
図11(A)に示すX-Z平面での磁場強度分布のうちのZ軸方向の磁場強度分布を示す図である。
【
図13】
図12から算出されるB×(∂B/∂Z)の値を示す図である。
【
図14】本発明の第4実施形態に係る測定装置を示す図である。
【
図15】溶液中の界面活性剤濃度と溶液の表面張力との相関を示す特性図である。
【
図16】外力が付与された対象物の振動特性を示す図である。
【
図17】本発明の第5実施形態に係る測定装置を示す図である。
【
図19】本発明の第6実施形態に係る測定装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下の開示において、提示された主題の異なる特徴を実施するための多くの異なる実施形態や実施例を提供する。もちろんこれらは単なる例であり、限定的であることを意図するものではない。さらに、本開示では、様々な例において参照番号および/または文字を反復している場合がある。このように反復するのは、簡潔明瞭にするためであり、それ自体が様々な実施形態および/または説明されている構成との間に関係があることを必要とするものではない。さらに、第1の要素が第2の要素に「接続されている」または「連結されている」と記述するとき、そのような記述は、第1の要素と第2の要素とが互いに直接的に接続または連結されている実施形態を含むとともに、第1の要素と第2の要素とが、その間に介在する1以上の他の要素を有して互いに間接的に接続または連結されている実施形態も含む。また、第1の要素が第2の要素に対して「移動する」と記述するとき、そのような記述は、第1の要素及び第2の要素の少なくとも一方が他方に対して移動する相対的な移動の実施形態を含む。
【0029】
(1)第1実施形態
(1-1)磁気浮上装置
図1は、本発明の第1実施形態に係る磁気浮上装置を示す。
図1において、磁気浮上装置10は、一対の第1永久磁石20A,20Bを有する。一対の第1永久磁石20A,20Bの各々は、例えば市販されている直方体形状であり、頂面21と、側面22と、を有する。
図1のA部拡大図に示すように、一対の第1永久磁石20A,20Bの各々は、垂直断面(
図1のX-Z断面)で、側面22と頂面21とを結ぶ鎖線で示す角部23を面取りする稜線24と、を有する。稜線24は、
図1のA部拡大図に示すように、フィレット半径rで規定することができるが、複数の曲率半径や直線を用いて規定しても良い。
【0030】
図1において、鉛直方向をZ方向とし、水平面内で直交する方向をX方向及びY方向とする。
図1は、磁気浮上装置10をX-Z平面と平行な正面から見た正面図である。
図1に示すように、一対の第1永久磁石20A,20Bは、鉛直方向Zで互いに逆向きに着磁されている。
図1では、第1永久磁石20Aは、上部がS極であり下部がN極であるのに対して、第1永久磁石20Bは、上部がN極であり下部がS極である。このため、一対の第1永久磁石20A,20Bは反平行で引力を及ぼし合っている。
【0031】
一対の第1永久磁石20A,20Bは、側面22,22同士を対面または接触させて並設される。
図1では側面22,22同士を対面させる例を示す一方で、
図1のA部拡大図では、側面22,22同士が接触される場合を示し、この接触面を一対の第1永久磁石20A,20Bの境界面25とも称する。なお、
図1において、Z=0は鉛直方向で頂面21と同一高さである位置を示す。磁気浮上装置10は、
図1のA部拡大図で示すように垂直断面(
図1のX-Z断面)において、一対の第1永久磁石20A,20Bの各々の稜線24よりも上方に位置する空間K、特に空間K内のうち境界面25の上方延長線上に、雰囲気中の媒体に対して相対的に反磁性である対象物T(
図1では図示せず)を磁気浮上させる。
【0032】
(1-2)浮上に必要な磁気力及び磁気アルキメデスの原理
対象物Tに作用する重力はZ軸に平行で、その向きは鉛直下向き(負の符号を持つことになる)であり、単位体積当たりの力-ρg(N/m
3)と表すことができる。ここで、ρは物体の密度(kg/m
3)で、gは重力加速度(m/s
2)である。また、物体に作用する磁気力のZ軸成分は、式(1)の右辺で表される。ここで、χは対象物Tの体積磁化率(無次元)、μ
0は真空の透磁率(H/m)、B(T)は磁束密度の「大きさ」である(ベクトルではないので、向きは持たない)。磁束密度Bは場所の関数となっていて、∇(ナブラ)が微分を表す演算子としたとき、(χ/μ
0)(B∇B)zは式(1)の右辺と同じことである。式(1)の右辺中の(∂B/∂Z)は、磁束密度Bの鉛直方向Zでの勾配を示す。よって、磁気浮上のための条件は次の式(1)のようになる。
【数1】
【0033】
ここで、対象物Tは、雰囲気中の媒体に対して反磁性である。反磁性体は、体積磁化率χが負の物質のことであるが、磁場が反磁性体に対して作用する力が小さいのは、体積磁化率χの大きさが非常に小さい(~10
-6)からである。普通の強磁性体で体積磁化率χを定義すると、1より大きいのが普通であるから、反磁性体の体積磁化率χがいかに小さいかがわかる。また、式(1)から、磁気力の大きさが、磁束密度の大きさBと、その勾配(∂B/∂Z)の積に比例することが分かる。したがって、ある磁石が発生する磁気力は、磁石の周辺のB×(∂B/∂Z)の最大値(絶対値)を見れば、その磁石で磁気浮上が可能かどうか判断できる。代表的な反磁性体を浮上させるためのB×(∂B/∂Z)の大きさをまとめたものが表1である。
【表1】
【0034】
一般に、(∂B/∂Z)の大きさは、発生する磁束密度Bの最大値(超電導磁石のようなコイルであればコイルの中心磁束密度、永久磁石であれば磁極表面の磁束密度)が大きいほど大きいので、強い磁場を発生する磁石の方が発生する磁気力も大きい。ただし、磁気力を表す式が2つの量であるBと(∂B/∂Z)との積を含むことから、原理的には、磁束密度が小さい(Bが小さい)ところでも、磁束密度の勾配(∂B/∂Z)を非常に大きくすることができれば、結果的に強い磁気力を得られる。本実施形態では、磁束密度の勾配(∂B/∂Z)を大きくしている。
【0035】
上述の議論は、磁気浮上装置10が配置される雰囲気の媒体の効果を無視しているが、磁気アルキメデスの原理では、媒体の効果を考慮することにより、磁気浮上の条件式は式(2)のように変化する。
【数2】
【0036】
ここで、
図2に示すように、Δρは浮上させる対象物Tの密度ρ1から周囲媒体の密度ρ2を引いた値であり、Δχは浮上させる対象物Tの磁化率χ1から周囲媒体の磁化率χ2を引いた値である。
【0037】
単純な磁気浮上の式(1)と比べれば、式(2)ではρがΔρになり、χがΔχに変わっているが、この効果は非常に大きい。磁気アルキメデスの原理を使うことによって、磁気浮上の条件が緩和されるからである。その理由について説明する。
【0038】
式(2)を変形した式(3)を示す。
【数3】
式(3)は、磁気浮上に必要なB×(∂B/∂Z)の値が磁化率や密度を用いてどのように表されるかを示したものである。必要なB×(∂B/∂Z)の値が大きければ大きいほど巨大な磁石が必要になってくるので、必要なB×(∂B/∂Z)の値が小さい方が磁気浮上は簡単な構造になる。式(3)の右辺のΔρやΔχは、製作者の都合で制御できるパラメーターであり、Δρは小さい方がよく、Δχは大きい方がよいことになる。一方、単純な磁気浮上の式(2)には製作者の都合で変更できる物性値は存在しないため、巨大なB×(∂B/∂Z)の値を持つ磁石を探す、ということ以外に解決策がない。
【0039】
浮上させる対象物Tが固体であれば、対象物Tの密度のほとんどが103~104kg/m3の範囲内にあり、液体であれば、対象物Tはどれも103kg/m3程度である。特に、有機物の固体を対象物Tとして浮上させる場合、媒体として液体を使い、かつ、媒体の成分をうまく調整することによって、Δρを限りなくゼロに近づけることができる。例えば、密度ρが103kg/m3程度であるプラスチック材料を空気中で磁気浮上させるために必要なB×(∂B/∂Z)は、1500T2/mほどであるが、Δρを1kg/m3程度(密度の1000分の1)にしてしまえば、磁気浮上に必要なB×(∂B/∂Z)も1000分の1となり、1.5T2/mとなる。つまり、永久磁石でも磁気浮上が可能となる。
【0040】
常磁性の媒体を使用すれば、Δχを大きくできる。例えば、空気が媒体であるときに比べ、酸素ガスを媒体とした時の方が、Δχは大きい。したがって、酸素ガスを媒体にすると、市販の磁石でも水の磁気浮上が可能になる。また、MnやGdなどの、常磁性イオンを含む溶液を媒体に使用すれば、Δχを大きくできると同時に、Δρを小さくでき、二重のメリットを享受できる。したがって、磁気アルキメデスの原理を用いた磁気浮上は、常磁性溶液を使うものが好適である。また、常磁性の媒体を使うことで、浮上させたい対象物Tが常磁性であったとしても、媒体よりも相対的に反磁性であれば磁気浮上ができることになり、あらゆる物質を対象物Tとして磁気浮上させることが可能である。
【0041】
(1-3)磁場強度分布
図3に、
図1の構造を有する磁気浮上装置10で発生するX-Z平面での、
図1のA部の磁場強度分布を示す。磁場強度分布が測定された磁気浮上装置10では、一対の第1永久磁石20A,20Bの稜線24は、0.6mmのフィレット半径で面取りされているものを用いた。一対の第1永久磁石20A,20Bは、反平行に引力を及ぼしあっている。Z=0の辺りでは、磁力線が右の磁石20Bから左の磁石20Aに向かって通っていて、稜線24,24間を含む空間Kで非常に磁場が強い領域が形成される。Z軸上の磁場分布は、
図4に示す通りであり、Z=0の辺りで磁場の勾配が非常に急峻になっていて、1mmの変化で磁場強度は約1T減少していることから、磁場の勾配(∂B/∂Z)が1000T/mのオーダーになっていることが分かる。
【0042】
磁気力の指標となるB×(∂B/∂Z)の分布は
図5に示すとおりである。
図5において、Z=0付近でB×(∂B/∂Z)の絶対値は約1500T
2/mである。表1からこの値は、水の磁気浮上を可能にする大きさであることが分かる。なお、雰囲気の媒体の効果を考慮した磁気アルキメデスの原理を使うと、1500T
2/mの磁気力は1000分の1となって1.5T
2/mとなり、永久磁石でも磁気浮上が可能となることが分かる。
【0043】
(2)第2実施形態
(2-1)磁気浮上装置
図6は、本発明の第2実施形態に係る磁気浮上装置を示す。
図6において、磁気浮上装置30は、一対の第1永久磁石20A,20Bに加えて、一対の第2永久磁石40A,40Bを有する。
図6においても、鉛直方向をZ方向とし、水平面内で直交する方向をX方向及びY方向とし、一対の第1永久磁石20A,20Bは、
図1と同様にX-Z断面に稜線24,24を有する。
【0044】
図6では、空間Kを挟んでX方向で対向して配置された一対の第2永久磁石40A,40Bをさらに有する。一対の第2永久磁石40A,40Bの各々は、着磁方向をX方向で同じ向きとしている。つまり、第2永久磁石40Aは左端がS極で右端がN極であり、第2永久磁石40Bも同様に左端がS極で右端がN極である。
【0045】
第1実施形態では、Z方向でのつり合いは実現されるが、完全に非接触で磁気浮上を実現させるには、X-Y面内でも力学的平衡である必要がある。そのために、一対の第1永久磁石20A,20Bに、一対の第2永久磁石40A,40Bを追加している。
【0046】
(2-2)磁場強度分布
図7(A)は、X-Z平面の断面図での、
図6のA部の磁場強度分布を示す。
図7(A)でも、
図3と同様に、稜線24,24間を含む空間Kで非常に磁場が強い領域が形成されるので、対象物Tが磁気浮上する。また、一対の第2永久磁石40A,40Bの作る磁力線は、一対の第1永久磁石20A,20Bが作る磁力線とは逆向きであり、磁力線同士が打ち消しあって、非常に磁場が強い領域のすぐ上の領域に磁場が弱い部分が形成される。
図7(B)は、X-Z平面の断面図での磁場強度分布を示す。ここで、Y=0の位置は、一対の第2磁石40A,40BのY方向の幅の中心位置である。Y=0の位置付近に磁場が弱い部分が形成される。反磁性体は、磁場が強いところから弱いところへ向かって力を受ける(磁石から反発力を受ける)性質があるので、対象物Tは磁場が弱いところに落ち着き、X-Y面内でも力学的平衡となる。それにより、完全な磁気浮上が実現される。
【0047】
図6に示す磁気浮上装置30で、水の磁気浮上実験を行った結果を
図8に示す。実験では、水に超音波を印加して霧を発生させ、その霧が集まって大きくなっていく様子を撮影したものが
図8である。
図8から分かるように、直径0.5mmほどの水滴を容易に浮かすことができる。
【0048】
(2-3)稜線を規定する半径の影響
B×(∂B/∂Z)の分布は、一対の第1永久磁石20A,20Bの稜線24を規定する
図1に示すフィレット半径rに依存する。
図9に示すように、フィレット半径が0.6mm以下だと、B×(∂B/∂Z)の絶対値が1500T
2/mよりも大きくなり、水の磁気浮上が可能である。しかし、フィレット半径が0.8mmでは、B×(∂B/∂Z)の絶対値が1100T
2/mであるので、水の磁気浮上は不可能である。したがって、フィレット半径が小さいほど強い磁気力を得られるが、フィレット半径が小さいと対象物Tが浮く領域が狭くなるので、目的に合わせて磁石を選択すればよい。
【0049】
(3)第3実施形態
(3-1)磁気浮上装置
図10(A)~
図10(C)は、本発明の第3実施形態に係る磁気浮上装置を示す。
図10(A)~
図10(C)において、磁気浮上装置50は、一対の第1永久磁石60A,60Bを有する。よって、磁気浮上装置50は、第2実施形態で必要としていた一対の第2永久磁石40A,40Bを有していない。一対の第1永久磁石60A,60Bは、第1実施形態の一対の第1永久磁石20A,20Bと共通の構造を有する。第1実施形態の側面22、頂面21、稜線24及び境界面25と共通する構造として、一対の第1永久磁石60A,60Bの各々は側面61、頂面62、稜線64及び境界面65を有する(
図11(A)も参照)。
【0050】
一対の第1永久磁石60A,60Bの各々は、
図10(C)に示すように、Y-Z断面で、頂面62が下向き凸の円弧状に形成されている。底面66も頂面62と相似形で円弧状に形成しても良い。このような形状の一対の第1永久磁石60A,60Bもまた、市販されているものを利用できる。一例として磁石60A,60Bのサイズは、外径が8.7mm、内径が3.0mm、厚みが9.0mmで、円弧の中心角は90°である。ここでは、立体の稜線部のフィレット半径を0.6mmに設定してある
【0051】
(3-2)磁場強度分布
図11(A)は磁気浮上装置50のX-Z平面の断面図での磁場強度分布を示し、
図12は
図11(A)のZ方向での磁場強度分布を示す。第1、第2実施形態と同様に、一対の第1永久磁石60A,60Bが作る磁場は、X-Z断面で稜線64、64の上方に位置する空間で磁場強度が非常に強くなっており、その周辺では急激減衰していることがわかる。
図11(B)は、X-Z平面の断面図での磁場強度分布を示す。ここで、Y=0の位置は、一対の第1磁石60A,60BのY方向の幅の中心位置である。
図11(B)でも、
図7(B)と同様に、Y=0の位置付近に磁場が弱い部分が形成される。対象物Tは磁場が弱いところに落ち着くので、X-Y面内でも力学的平衡となる。それにより、完全な磁気浮上が実現される。
【0052】
図11(A)に示すX-Z平面での磁場強度分布のうち、Z軸方向の磁場強度分布を
図12に示し、
図12から算出されるB×(∂B/∂Z)の値を
図13に示す。
図13において、Z=0は境界面25の上端を示し、Z=0の付近で、表1に示す水の磁気浮上に必要なB×(∂B/∂Z)の値(絶対値)を優に超えており、対象物Tとしての水の磁気浮上が実現されることが分かる。また、
図13から、対象物Tとしてのビスマスまたはカーボンの磁気浮上が実現されることも分かる。
【0053】
(4)第4実施形態
(4-1)測定装置
図14は、本発明の第4実施形態として、第2実施形態または第3実施形態に示す磁気浮上装置30(50)を用いた測定装置を示す。測定装置100は、対象物Tを浮上させる磁気浮上装置30(50)と、磁気浮上装置30(50)により浮上された対象物Tを振動させる外力を付与する外力付与部110と、対象物Tの振動を検出して、対象物Tの振動と相関のある対象物Tの属性を測定する測定部120と、を有する。以下では、測定される対象物Tの属性として、対象物Tである液滴の表面張力、対象物Tである溶液の濃度変化に伴う表面張力、または対象物Tである液体の粘性について説明する。
【0054】
測定部120は、例えば、光源121、ハーフミラー122、検出器123、データーロガー装置124、高速フーリエ変換部(FFT)125及び演算部126を有することができる。また、特に対象物Tの形状例えば液滴の半径が未知である場合には、対象物Tを撮影する、好ましくはレンズ付きまたは顕微鏡付きカメラ130を設けることもできる。
【0055】
(4-2)表面張力の測定
対象物Tである液滴が磁気浮上装置30(50)により宙に浮いているときに、外力付与部110が対象物Tに例えば音波を付与すれば、対象物Tは真球と楕円球との間で変形しながら振動する。この時、対象物Tの重心は三次元で力学的平衡状態にある中で、対象物Tは表面張力を復元力として振動する。そのときの振動数fは、次の式(4)のように表される。
【数4】
式(4)中、σは対象物Tである液滴の表面張力、Rは液滴の半径、ρは液滴の密度、L はモード(自然数)を表している。半径0.2mmの球状の水滴が浮いているときに、式(4)に、L=2、R=0.2mm、σ=72.8mN/m、ρ=998kg/m
3(20℃)を代入すれば、振動数fは、f=1.36kHzとなる。逆に言えば、液滴の振動数fを調べれば、対象物Tである液滴の表面張力σを算出することができる。
【0056】
液滴の半径Rは、カメラ130により撮影された液滴の直径からを求めることができる。光源121からハーフミラー122を通してLED光などを液滴に照射し、その反射光をフォトダイオードなどの検出器123で検出する。振動成分を有するデータをデジタル処理して記憶するデーターロガー装置124に取り込み、取り込んだデータをFFT解析部125で高速フーリエ変換することによってピーク周波数fを求める。演算部126は、求められた周波数f、モードL、液滴の密度ρ及び半径Rを上述の式(4)に代入して、表面張力σを演算することができる。
【0057】
(4-3)溶液の濃度変化に伴う表面張力の測定
本実施形態では、対象物Tは、純粋な液体だけではなく、例えば界面活性剤を含む水溶液等であっても良い。磁気浮上装置30(50)は、非常に小さな水滴を浮かすことができる。浮上された水溶液中の溶媒の成分が蒸発するにつれて、溶液の濃度が上昇する。本実施形態では、それを利用して、一滴の水滴から、界面活性剤の濃度変化に伴う表面張力測定を行うことができる。本実施形態により測定されるサンプルの量は、わずか1μLにも満たない量で測定可能である。
【0058】
例えば、上述の水滴が、溶媒の水の蒸発によって半径Rが5分の1になって(それによって界面活性剤の濃度が125倍になる)、表面張力の大きさが半分になったとする(一般的にその程度の変化である)。このとき、L=2のモードの周波数は10.7kHzになるはずである。液滴の直径等の最大サイズは、0.01mm~1mm程度を想定しているが、拡大機能の付いたカメラ130や顕微鏡に付属したカメラ130を使えば、簡単に液滴のサイズを検出できる。
【0059】
一般に、界面活性剤の表面張力は、濃度が増えるに従って下がる傾向がある。これは、単調な変化ではないので、単純ではなく、
図15のようになる。界面活性剤の濃度を徐々に上げていったときに、表面張力が下がり始めて、ある一定の値に落ち着くまでの濃度変化はおよそ2桁である。したがって、液体の半径が1桁変わる間、すなわち濃度が3桁変わる間に表面張力を測定すれば、表面張力の濃度変化は十分に追跡できることになる。
【0060】
従って、表面張力の濃度依存性を測定するには、すべての濃度の溶液を調整して、それぞれについて表面張力を測定しなければならず、非常に面倒である。また、表面張力は、ほんの少し不純物があると、濃度依存性が変化するので、正確なデータを得るためには、再結晶などの精製プロセスを経て得られた純度の高いサンプルを用いて測定することが望ましいが、その際、当然、サンプルの量は減るので、大量の試料を準備して実験しなければならない。その点、本実施形態は、わずか一滴の水滴から界面活性剤の濃度変化に伴う表面張力測定を行うことができるという利点を有する。
【0061】
(4-4)液体の粘性の測定
対象物Tである液滴が磁気浮上装置30(50)により宙に浮いているときに、外力付与部110が対象物Tに外力、好ましくは物理的に非接触な方式での外力例えば音波を付与すれば、対象物Tは
図16の通りに振動する。
図16中の振動の減衰は、対象物Tである液体の粘性によるもので、時刻t=0のときの振幅をAとし、減衰時間をτとすると、減衰する振幅yは次の式(5)で表される。式(5)中のωは、ω=2πfである。
【数5】
式(5)の時刻tと振幅yとの関係は、
図14に示す測定装置100で求められる。ここで、時刻tと対応付けて、振動する対象物Tからの反射光が検出器123にて受光される。よつて、FFT解析部125では、時刻t毎の振幅yを求めることができる。
【0062】
一方、式(5)の復元力をバネ定数kとし、対象物Tである液滴の質量をm、粘性をηとし、半径をrとすると、次の微分方程式(6)が成立する。
【数6】
式(6)から、下記の式(7)が成立する。
【数7】
図14の演算部126は、この式(7)に、既知の質量m、カメラ130での測定により求められる半径r、上記の通りの演算で求められたτをそれぞれ代入することで、粘性ηを求めることができる。なお、式(7)から、粘性ηが大きいほど減衰時間τが短くなることが分かる。
【0063】
(5)第5実施形態
(5-1)測定装置
図17は、本発明の第5実施形態として、第2実施形態または第3実施形態に示す磁気浮上装置30(50)を用いた測定装置を示す。測定装置200は、磁気浮上装置30(50)と、対象物Tを浮上させている磁気浮上装置30(50)を移動可能に支持する支持部210と、外力により移動する磁気浮上装置30(50)に追従する対象物Tの動きを検出して、外力を測定する測定部220と、を有する。
【0064】
支持部210は、基台211と、昇降盤212とを含む。基台211は、鉛直方向Zで伸縮する弾性体例えばバネ213を介して昇降盤212を支持する。昇降盤212は、
図18に示すように平面視で枠部に形成され、枠部の内側に弾性体例えばバネ214,215を介して磁気浮上装置30(50)を支持する。バネ214はX方向に伸縮し、バネ215はY方向に伸縮する。よって、基台211に外力が作用すると、磁気浮上装置30(50)は三次元X,Y,Z座標で変位する。磁気浮上装置30(50)により浮上した対象物Tは、磁気浮上装置30(50)の変位に追従して変位する。
【0065】
図17に示す測定部220は、
図14と同様に、光源221、ハーフミラー222、検出器223等を含むことができ、検出器223より後段は図示を省略している。検出器223より後段には、例えば、対象物Tの移動軌跡を記録するデーターロガー装置と、対象物Tの移動軌跡から加速度や地震の大きさを演算する演算部とを設けることができる。
図17に示す測定部220は、X軸測定部を示しているが、同様にして、Y軸測定部及びZ軸測定部を設け、直交三軸検出器を有することができる。測定部220は、所定時間毎に変位する対象物Tの重心のX,Y,Z座標位置を特定する。つまり、基台211に加速度や地震等の外力が作用した時の対象物Tの位置を追跡する。測定部220は、例えば所定時間毎に変位する対象物の移動軌跡から加速度を演算することができる。あるいは、測定部220は、三軸X,Y,Z方向の加速度から、既知の手法により地震波形を作成したり、震度を算出することができる。測定部220は、三軸加速度検出器に代えて、所定時間毎に変位する対象物Tの重心のX,Y,Z座標位置を記録する例えばビデオカメラ230を設けることができる。
【0066】
(5-2)加速度または震度の測定
磁気浮上装置30(50)は、対象物Tを浮上させ、かつ、水平面内でも力学的平衡を実現するので、磁気浮上装置30(50)に対して浮上する対象物Tの相対位置は一義的に定まる。このことは磁気浮上装置30(50)が移動しても変わらない。よって、
図17に示す基台211が地震等の外力によって変位した時、磁気浮上装置30(50)により浮上した対象物Tも磁気浮上装置30(50)の変位に追従して変位する。従って、対象物Tの移動を追跡して、その移動軌跡が記録されれば、基台211に作用する外力の加速度の大きさ、三軸加速度から地震の大きさを測定することができる。
【0067】
なお、ゆっくりとした動きのセンシングと速い動きのセンシングとでは、測定装置として応答の異なるものを使う場合がある。一つの解決策は磁場分布を変えることであり、これは単に磁石のサイズや配置を変えればよい。他の解決策として、浮上させる対象物Tの質量やサイズを変えることによっても、測定装置の応答を変化させることができる。
【0068】
(6)第6実施形態
(6-1)測定装置
図19は、本発明の第6実施形態として、第2実施形態または第3実施形態に示す磁気浮上装置30(50)を用いた測定装置を示す。測定装置300は、対象物Tを浮上させる磁気浮上装置30(50)と、磁気浮上装置30(50)に外力を付与して磁気浮上装置30(50)を移動させる外力付与部310と、磁気浮上装置30(50)の移動に伴う対象物Tの振動を検出して、対象物Tの振動と相関のある、対象物Tの周囲の雰囲気中の媒体の属性を測定する測定部320と、を有する。外力付与部310は、打撃等の接触外力により磁気浮上装置30(50)を振動させるもので良い。
【0069】
図19に示す測定部320は、
図14と同様に、光源321、ハーフミラー322、検出器323等を含むことができ、検出器323より後段は図示を省略している。検出器323の後段には、
図14と同様に、データーロガー装置、FFT解析部及び演算部を設けることができる。また、特に対象物Tの形状例えば液滴の半径が未知である場合には、対象物Tを撮影する、好ましくはレンズ付きまたは顕微鏡付きカメラ330を設けることもできる。
【0070】
(6-2)雰囲気媒体の粘性の測定
本実施形態では、第4実施形態のように対象物Tが外力によって変位する方式、または第5実施形態と同様に磁気浮上装置30(50)が外力付与部310からの外力によって変位する方式のどちらでもよい。例えば、対象物Tを浮上させた状態で、磁気浮上装置30(50)が動いた場合、その動きに追随して、浮上した対象物Tが動く。この時、対象物Tは三次元で力学的平衡状態にある中で、復元力により振動する。
【0071】
この対象物Tの振動の減衰は、対象物Tの周囲の雰囲気中の媒体の属性例えば粘性に依存する。よって、振動の減衰に基づいて対象物の周囲の雰囲気中の媒体の属性のうち、対象物の振動と相関のある属性を測定することができる。媒体の振動に関しても、上述した式(5)(6)(7)が適用できる。ここで、対象物Tが変形するが重心位置は変わらないような振動では、対象物T内部の粘性が振動に影響を及ぼすので、対象物Tの粘性を知ることができた。一方、対象物Tの形を変えずに、対象物Tの重心位置を変えるような振動では、対象物Tの周囲の媒体が振動に影響を及ぼすので、周囲媒体の粘性を知ることができる。
【0072】
本測定装置を用いれば、非常に少量のガスで測定装置全体を満たすだけで、そのガスの粘性を測定することができる。なお、周囲媒体は、液体であっても良い。
【符号の説明】
【0073】
10…磁気浮上装置、20A,20B…一対の第1永久磁石、21…側面、22…頂面、23…角部、24…稜線、25…境界面、30…磁気浮上装置、40A,40B…一対の第2永久磁石、50…磁気浮上装置、60A,60B…一対の第1永久磁石、100…測定装置、110…外力付与部、120…測定部、200…測定装置、210…支持部、220…測定部、300…測定装置、310…外力付与部、320…測定部、K…空間、T…対象物