IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ メハリー メディカル カレッジの特許一覧

特許7194441子宮頸管粘液の代用品としてのオクラ抽出物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】子宮頸管粘液の代用品としてのオクラ抽出物
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/14 20060101AFI20221215BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20221215BHJP
   C12N 5/076 20100101ALI20221215BHJP
   A61P 15/02 20060101ALI20221215BHJP
   A61P 15/08 20060101ALI20221215BHJP
   A01N 1/02 20060101ALI20221215BHJP
   A61F 6/04 20060101ALI20221215BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20221215BHJP
   A61K 131/00 20060101ALN20221215BHJP
【FI】
C07K1/14
A61K36/185
C12N5/076
A61P15/02
A61P15/08
A01N1/02
A61F6/04
A61K38/02
A61K131:00
【請求項の数】 40
(21)【出願番号】P 2019535201
(86)(22)【出願日】2017-09-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-21
(86)【国際出願番号】 US2017050978
(87)【国際公開番号】W WO2018052848
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-09-04
(31)【優先権主張番号】62/393,932
(32)【優先日】2016-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519087295
【氏名又は名称】メハリー メディカル カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】アーチボング アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】ベイツ ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】エゼカプ エロチュク
(72)【発明者】
【氏名】サイモン ロリン
(72)【発明者】
【氏名】ヒルドレス ジェームズ
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第01854812(EP,A1)
【文献】中国特許出願公開第102526754(CN,A)
【文献】米国特許第08202558(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/14
A61K 36/185
C12N 5/076
A61P 15/02
A61P 15/08
A01N 1/02
A61F 6/04
A61K 38/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アベルモスクス・エスクレンツスの果実の粘液抽出物を製造する方法であって、(a)重炭酸緩衝化ヒト卵管液および哺乳動物の血清アルブミンの少なくとも1つを含む水性培地中でA.エスクレンツスの果実を抽出して、第1の抽出物を製造すること、(b)前記第1の抽出物から透明な粘液を分離すること、および(c)前記透明な粘液を1mmまたはそれ未満の有効孔径を有する1つまたは複数の孔で濾すことを含む、方法。
【請求項2】
(a)重炭酸緩衝化ヒト卵管液および哺乳動物の血清アルブミンの少なくとも1つを含む水性培地中でA.エスクレンツスの果実を抽出して、第1の抽出物を製造すること、(b)前記第1の抽出物から透明な粘液を分離することという方法の製造物であるアベルモスクス・エスクレンツスの果実の粘液抽出物であって、前記透明な粘液が、以下の特性:少なくとも10cmの牽糸性を有すること、シダ試験に供された時にシダ状化を示すこと、および子宮頸管粘液の代わりに前記透明な粘液を使用する精子粘液透過試験に精液試料を供した時に、前記透明な粘液を透過する精子が前記精液試料中の精子よりも有意に良好な生殖力を指し示すことの少なくとも1つを有する、粘液抽出物。
【請求項3】
前記透明な粘液が、少なくとも10cmの牽糸性を有すること、シダ試験に供された時にシダ状化を示すこと、可視性の緑色の呈色を欠くこと、および子宮頸管粘液の代わりに前記透明粘液を使用する精子粘液透過試験に精液試料を供した時に、前記透明粘液を透過する精子が前記精液試料中の精子よりも有意に良好な生殖力を指し示すことの全ての特性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記抽出が、前記水性培地中でA.前記エスクレンツスの果実を煮沸することを含む、請求項1または3に記載の方法。
【請求項5】
前記抽出が、A.前記エスクレンツスの果実を前記水性培地と4℃の温度で4時間接触させることを含む、請求項1または3に記載の方法。
【請求項6】
前記抽出が、前記水性培地中でA.エスクレンツスの前記果実を煮沸することを含む、請求項2に記載の粘液抽出物。
【請求項7】
前記抽出が、A.前記エスクレンツスの果実を前記水性培地と4℃の温度で4時間接触させることを含む、請求項2に記載の粘液抽出物。
【請求項8】
アベルモスクス・エスクレンツスの果実の粘液抽出物および複数の精子を含む、精子用の貯蔵培地。
【請求項9】
24時間の冷凍後に40%より高い精子運動性を維持するために効果的な濃度の凍結保存剤を含む、請求項8に記載の貯蔵培地。
【請求項10】
グリセロール、クエン酸塩、および卵黄からなる群から選択される凍結保存剤を含み、前記凍結保存剤が24時間の冷凍後に40%より高い精子運動性を維持するために効果的な濃度である、請求項8に記載の貯蔵培地。
【請求項11】
5~25%v/vのグリセロールを含む、請求項8~10のいずれか一項に記載の貯蔵培地。
【請求項12】
10~20%v/vのグリセロールを含む、請求項8~10のいずれか一項に記載の貯蔵培地。
【請求項13】
12~15%v/vのグリセロールを含む、請求項8~10のいずれか一項に記載の貯蔵培地。
【請求項14】
抗菌剤を含む、請求項8~13のいずれか一項に記載の貯蔵培地。
【請求項15】
微生物汚染の可能性を低減させるために効果的な濃度のゲンタマイシンを含む、請求項14に記載の貯蔵培地。
【請求項16】
重炭酸緩衝化ヒト卵管液培地を含む、請求項8~15のいずれか一項に記載の貯蔵培地。
【請求項17】
精液、重炭酸緩衝化ヒト卵管液培地、凍結保存に効果的な濃度のグリセロール、卵黄、および、微生物汚染の可能性を低減させるために効果的な濃度のゲンタマイシンをさらに含む、請求項8~16のいずれか一項に記載の貯蔵培地。
【請求項18】
前記貯蔵培地が凍結保存培地である、請求項8~17のいずれか一項に記載の貯蔵培地。
【請求項19】
請求項8~18のいずれか一項に記載の貯蔵培地を冷凍することを含む、精子を保存する方法。
【請求項20】
コンドームを少なくとも部分的にコーティングするために充分な量のアベルモスクス・エスクレンツスの果実の粘液抽出物と接触した前記コンドームを含む、コーティングされたコンドーム。
【請求項21】
懸濁液が、アベルモスクス・エスクレンツスの果実の粘液抽出物およびその中に懸濁された複数の精子を含む、人工授精用の精子の混合物を提供するための精子の懸濁液の使用。
【請求項22】
精子粘液透過試験において、子宮頸管粘液の代用としてのアベルモスクス・エスクレンツスの果実の粘液抽出物の使用。
【請求項23】
人工的な膣潤滑性を提供するコンドームの製造のためのアベルモスクス・エスクレンツスの果実の粘液抽出物の使用。
【請求項24】
精液から精子を単離する方法であって、(a)精液試料をアベルモスクス・エスクレンツスの果実の粘液抽出物と接触させること、(b)充分な期間にわたって前記精液試料中の複数の精子によって前記抽出物を透過させて、精子/抽出物の懸濁液を作製すること、および(c)前記精子/抽出物の懸濁液を前記精液試料から分離することを含む、方法。
【請求項25】
前記粘液抽出物が、(a)重炭酸緩衝化ヒト卵管液および哺乳動物の血清アルブミンの少なくとも1つを含む水性培地中でA.エスクレンツスの果実を抽出して、第1の抽出物を製造すること、および(b)前記第1の抽出物から透明な粘液を分離することを含む方法の製造物である、請求項21に記載の使用。
【請求項26】
前記粘液抽出物が、以下の特性:少なくとも10cmの牽糸性を有すること、シダ試験に供された時にシダ状化を示すこと、可視性の緑色の呈色を欠くこと、および子宮頸管粘液の代わりに透明な粘液を使用する精子粘液透過試験に精液試料を供した時に、前記透明な粘液を透過する精子が前記精液試料中の精子よりも有意に良好な生殖力を指し示すことの少なくとも1つを有する、請求項21または25に記載の使用。
【請求項27】
前記有意に良好な生殖力を指し示すことが、正常な形態の比率が有意により高いことである、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
前記有意に良好な生殖力を指し示すことが、前進運動性の比率が有意により高いことである、請求項26または27に記載の使用。
【請求項29】
前記有意に良好な生殖力を指し示すことが、運動性のグレードが有意により高いことである、請求項26~28のいずれか一項に記載の使用。
【請求項30】
前記方法が、前記第1の抽出物を1mmまたはそれ未満の有効孔径を有する1つまたは複数の孔で濾すことを含む、請求項25に記載の使用。
【請求項31】
前記哺乳動物の血清アルブミンが、ウシ血清アルブミンを含む、請求項25に記載の使用。
【請求項32】
前記哺乳動物の血清アルブミンが、ヒト血清アルブミンを含む、請求項25に記載の使用。
【請求項33】
前記粘液抽出物が複数の多糖を含み、かつ、前記粘液抽出物が、前記多糖を加水分解した時に、少なくとも10%mol/molのガラクトース、ウロン酸、およびタンパク質である、請求項1、3~5、19および24のいずれか一項に記載の方法、または、請求項21~23および25~32のいずれか一項に記載の使用。
【請求項34】
前記粘液抽出物が複数の多糖を含み、かつ、前記粘液抽出物が、前記多糖を加水分解した時に、7~28%mol/molのラムノース、12~50%mol/molのガラクトース、14~56%mol/molのウロン酸、および12~48%mol/molのタンパク質を含む、請求項1、3~5、19および24のいずれか一項に記載の方法、または、請求項21~23および25~32のいずれか一項に記載の使用。
【請求項35】
前記粘液抽出物が複数の多糖を含み、かつ、前記粘液抽出物が、前記多糖を加水分解した時に、11.0~16.6%mol/molのラムノース、19.8~29.6%mol/molのガラクトース、22.8~34.2%mol/molのウロン酸、および19.0~28.4%mol/molのタンパク質を含む、請求項1、3~5、19および24のいずれか一項に記載の方法、または、請求項21~23および25~32のいずれか一項に記載の使用。
【請求項36】
前記粘液抽出物が複数の多糖を含み、かつ、前記粘液抽出物が、前記多糖を加水分解した時に、13.8%mol/molのラムノース、24.7%mol/molのガラクトース、28.5%mol/molのウロン酸、および23.7%mol/molのタンパク質を含む、請求項1、3~5、19および24のいずれか一項に記載の方法、または、請求項21~23および25~32のいずれか一項に記載の使用。
【請求項37】
前記粘液抽出物が複数の多糖を含み、かつ、前記粘液抽出物が、前記多糖を加水分解した時に、少なくとも10%mol/molのガラクトース、ウロン酸、およびタンパク質である、請求項2、6および7のいずれか一項に記載の粘液抽出物、請求項8~18のいずれか一項に記載の貯蔵培地、または、請求項20に記載のコンドーム。
【請求項38】
前記粘液抽出物が複数の多糖を含み、かつ、前記粘液抽出物が、前記多糖を加水分解した時に、7~28%mol/molのラムノース、12~50%mol/molのガラクトース、14~56%mol/molのウロン酸、および12~48%mol/molのタンパク質を含む、請求項2、6および7のいずれか一項に記載の粘液抽出物、請求項8~18のいずれか一項に記載の貯蔵培地、または、請求項20に記載のコンドーム。
【請求項39】
前記粘液抽出物が複数の多糖を含み、かつ、前記粘液抽出物が、前記多糖を加水分解した時に、11.0~16.6%mol/molのラムノース、19.8~29.6%mol/molのガラクトース、22.8~34.2%mol/molのウロン酸、および19.0~28.4%mol/molのタンパク質を含む、請求項2、6および7のいずれか一項に記載の粘液抽出物、請求項8~18のいずれか一項に記載の貯蔵培地、または、請求項20に記載のコンドーム。
【請求項40】
前記粘液抽出物が複数の多糖を含み、かつ、前記粘液抽出物が、前記多糖を加水分解した時に、13.8%mol/molのラムノース、24.7%mol/molのガラクトース、28.5%mol/molのウロン酸、および23.7%mol/molのタンパク質を含む、請求項2、6および7のいずれか一項に記載の粘液抽出物、請求項8~18のいずれか一項に記載の貯蔵培地、または、請求項20に記載のコンドーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府により支援された研究または開発に関する陳述
【0002】
本発明は、米国国立衛生研究所によって授与された助成金第U54MD0007593号の下で政府の支援により為された。政府は、本発明においてある特定の権利を有する。
【0003】
この文脈において「政府」はアメリカ合衆国の政府を指す。
【背景技術】
【0004】
子宮頸管粘液と称されることもある子宮頸管液(CF)は、子宮頸管内膜中の腺によって産生される。その特性は月経周期中の様々な時点において著しく変化し、それによりCFは、物体(精子および病原性生物など)による子宮頸部の通過に対する障壁、または精子が透過できる選択的透過性の障壁のいずれかとして機能することができる。子宮頸管内膜中の数百もの線は、1日に20~60mgのCFを産生し、これは排卵の頃に600mgに増加する。CFの粘性は、ムチン濃度の変動に一部起因して変動する。粘性および水含有量は月経周期の間に変動し、CFは約93%の水から構成され、それは中間期に98%に達する。CFは、カルシウム、ナトリウム、およびカリウムなどの電解質;グルコース、アミノ酸、および可溶性タンパク質などの有機成分;亜鉛、銅、鉄、マンガン、およびセレニウムなどの微量元素;遊離脂肪酸;アミラーゼなどの酵素;およびプロスタグランジンを含有する。その粘稠度は、エストロゲンおよびプロゲステロンというホルモンの影響によって決定される。排卵時の中間期-高エストロゲンレベルの期間-において、CFは、精子が子宮に入るのを許容するために希薄であり、また、よりアルカリ性であるので、精子に対してより受容的である。電解質もより多く、それが「シダ状化」パターンを結果としてもたらし、CFが乾燥し、CFが乾燥するにつれて塩が晶出してシダの葉に似たものとなるのを低倍率下で観察することができる。CFは、「牽糸性」として表される伸長性の特徴を有し、これは排卵の頃に最も顕著である。
【0005】
周期の他の段階では、プロゲステロンの影響により、CFは、濃く、より酸性である。この「非生殖性」のCFは、精子の子宮への進入に対する障壁として作用する。濃いCFはまた、妊娠初期に病原体が干渉することを防止する。蓋(operculum)と呼ばれるCF栓が妊娠中に子宮頸管の内部に形成される。これは、病原体の進入および子宮液の漏出から子宮を保護する封止を提供する。蓋はまた、抗菌特性を有することも知られている。この栓は、分娩の最初の段階またはその少し前に、子宮頸部が拡張する際に解放される。それは、血液の混じった粘液の排出として見ることができる。
【0006】
CFには多くの潜在的な応用的用途がある。CFは、精子運動性試験において使用される。精子の生存能力を維持するCFの能力は、CFが有用な貯蔵または受精培地である可能性を指し示す。CFの選択的な透過性は、CFが精液から精子を分離するために有用である可能性を指し示す。天然のCFを大量に回収することは難しく、また有用な特性を有するCFは月経周期中のある特定の時点にのみ存在するので、排卵中に存在する「卵白」CFと同様の特性を有する人工的なCFに対する必要性が当該技術分野において存在する。
【発明の概要】
【0007】
予想外なことに、運動性精子を選択的に透過する能力などの、ヒトCFに類似の物理的および生物学的特性を有する、オクラ植物(アベルモスクス・エスクレンツス(Abelmoschus esculentus))の果実からの粘液抽出物を製造できることが発見された。この抽出物には、以下にさらに記載するように、天然のヒトCFと同じ多くの目的のための用途がある。
【0008】
第1の態様では、A.エスクレンツス(A.esculentus)の果実の粘液抽出物が提供され、該粘液抽出物は、(a)水性培地中でA.エスクレンツスの果実を抽出して、第1の抽出物を製造すること、および(b)第1の抽出物から実質的に透明な粘液を分離することを含む方法の製造物であり、該実質的に透明な粘液がCFと類似の特性を有する。そのような特性の例としては、本明細書に開示される試験にしたがって測定された時に少なくとも約10cmの牽糸性であること、シダ試験(fern test)に供された時にシダ状化を示すこと、可視性の緑色の呈色を欠くこと、および、子宮頸管粘液の代わりに透明な粘液を使用する精子粘液透過試験に精液試料を供した時に、透明な粘液を透過する精子が精液試料中の精子よりも有意に良好な生殖力を指し示すことが挙げられる。
【0009】
第2の態様では、精子用の貯蔵培地が提供され、該培地は、アベルモスクス・エスクレンツスの果実の粘液抽出物および複数の精子を含む。
【0010】
第3の態様では、精子を保存する方法が提供され、該方法は、アベルモスクス・エスクレンツスの果実の粘液抽出物および複数の精子を含む冷凍および貯蔵培地を含む。
【0011】
第4の態様では、コーティングされたコンドームが提供され、該コーティングされたコンドームは、該コンドームを少なくとも部分的にコーティングするために充分な量のA.エスクレンツスの果実の粘液抽出物と接触したコンドームを含む。
【0012】
第5の態様では、人工授精の方法が提供され、該方法は、対象に精子の懸濁液を注入することを含み、該懸濁液は、A.エスクレンツスの果実の粘液抽出物およびその中に懸濁された複数の精子を含む。
【0013】
第6の態様では、in vitro受精の方法が提供され、該方法は、第1の態様の抽出物と複数の精子との混合物を未受精卵とin vitroで接触させて受精混合物を作製すること、受精が起こりかつ胚が作られるために充分な期間にわたって受精混合物をインキュベートすること、および胚を対象の子宮に移すことを含む。
【0014】
第7の態様では、人工的な膣潤滑性を提供する方法が提供され、該方法は、対象の膣にA.エスクレンツスの果実の粘液抽出物を塗布することを含む。
【0015】
第8の態様では、A.エスクレンツスの果実の粘液抽出物を製造する方法が提供され、該方法は、水性培地中でA.エスクレンツスの果実を抽出して、第1の抽出物を製造すること、および第1の抽出物から実質的に透明な粘液を分離することを含む。
【0016】
第9の態様では、生存可能な精子を収集するための装置が提供され、該装置は、精液容器および精液容器に接続された中空の細長い導管を含み、中空の細長い導管は、第1の態様の粘液抽出物を含有することを意図するものである。
【0017】
第10の態様では、in vitro受精の方法が提供され、該方法は、第9の態様に記載される装置を用いて精液試料から生存可能な精子をA.エスクレンツスの果実の粘液抽出物中に回収すること、生存可能な精子を未受精卵とin vitroで接触させて受精混合物を作製すること、受精が起こりかつ胚が作られるために充分な期間にわたって受精混合物をインキュベートすること、および胚を対象の子宮に移すことを含む。
【0018】
上記は、請求項の主題の一部の態様の基本的な理解を提供するために単純化された要約を提示するものである。この要約は広範な概要ではない。鍵となるまたは決定的に重要な要素を特定すること、または請求項の主題の範囲を示すことは意図されない。その唯一の目的は、後に提示されるより詳細な説明の前置きとして単純化された形態で一部の概念を提示することである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1A~1D:オクラ果実の抽出。図1A:遠心分離チューブの底部に小穴を設ける。図1B~1C:抽出物の収集。図1D:粘液抽出物の牽糸性の測定。
図2図2A~2B:ヒト子宮頸管粘液(図2A)および粘液抽出物(図2B)のシダ状化パターンの比較。
図3図3A~3B:精液対照中(図3A)および粘液抽出物中(図3B)の精子の形態の比較。
図4】精液対照中に対する粘液抽出物中の正常な形態の精子のパーセンテージ。
図5図5A~5B:生殖力のない患者の精液からの精子による粘液抽出物の透過の欠如。図5Aは精液対照(粘液抽出物なし)を示す。図5Bは、粘液抽出物を含有するキャピラリーから採取した試料を示す。
図6図6A~6D:抽出物中に存在する多糖の提案される構造。置換度および側鎖の長さは個々の画分の間で変動することがある。Ara=アラビノース;Gal=ガラクトース;GalUA=ガラクツロン酸;Glc=グルコース;GlcUA=グルクロン酸;Man=マンノース;Rha=ラムノース。
図7】オクラ粘液中でのゆっくりの冷却の間の精子運動性。
図8】オクラ粘液中での解凍後の精子運動性。
図9】冷凍および解凍されたヒト精子の先体の状態/膜の完全性。
図10】オクラ粘液を添加したHTF中でのヒト精子の増進された寿命。
【発明を実施するための形態】
【0020】
A.定義
別段の定義がなければ、本明細書で使用される全ての用語(科学技術用語など)は、本開示の技術分野の当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。一般に使用される辞典において定義されるような用語は、本明細書の文脈における意味と整合する意味を有するものとして解釈されるべきであり、本明細書で明示的にそのように定義されない限り、理想化されたまたは過度に形式的な意味で解釈されるべきではないことがさらに理解されるであろう。周知の機能または構造は、簡潔性または明確性のために詳細に記載されないことがある。
【0021】
本明細書で使用される学術用語は、特定の実施形態を記載する目的のものに過ぎず、限定することを意図するものではない。本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明確にそうでないと指し示さない限り、複数形も包含することを意図する。
【0022】
様々な特徴または要素を記載するために「第1」、「第2」などの用語が本明細書で使用されるが、これらの特徴または要素はこれらの用語によって限定されるべきではない。これらの用語は、ある特徴または要素を別の特徴または要素から区別するために使用されるに過ぎない。したがって、本開示の教示から離れることなく、下記に議論される第1の特徴または要素は第2の特徴または要素と称してもよく、同様に、下記に議論される第2の特徴または要素は第1の特徴または要素と称してもよい。
【0023】
「本質的になる」という用語は、請求項の発明が、記載された要素に加えて、本開示に記載される意図する目的のために請求項の発明の実行可能性に負に影響しない他の要素(ステップ、構造物、材料、成分など)も含有してよいことを意味する。重要なことに、この用語は、本開示に記載される意図する目的のために請求項の発明の実行可能性に負に影響するような他の要素がたとえ一部の他の目的のために請求項の発明の実行可能性を増進させる可能性があるとしても、そのような他の要素を除外する。
【0024】
「約」(about)および「約」(approximately)という用語は、測定の性質または精度を考慮して、測定された量についての誤差またはばらつきの許容される程度を一般に意味する。誤差またはばらつきの典型的な例示的な程度は、所与の値または値の範囲の20%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内である。生物学的な系の場合、「約」という用語は、誤差の許容される標準偏差、好ましくは所与の値の2倍より大きくないものを指す。本明細書に与えられる数値的な量は、別段の記載がなければ、おおよそのものであり、すなわち、明示的に記載されない場合には「約」という用語を暗示することができる。
【0025】
本明細書で使用される「予防」、「予防する」(prevent)、「予防する」(preventing)、「抑制」、「抑制する」(suppress)および「抑制する」(suppressing)という用語は、病態または状態の臨床症状の起こる可能性または重篤度を低減させるように病態または状態のそのような臨床症状の発症前に開始される一連の行為を指す。起こる可能性または重篤度のそのような低減は絶対的に有用である必要はない。
【0026】
本明細書で使用される「治療」、「治療する」(treat)および「治療する」(treating)という用語は、病態または状態の臨床症状を取り除くまたは低減させるように病態または状態のそのような臨床症状の発症後に開始される一連の行為を指す。そのような治療は絶対的に有用である必要はない。
【0027】
本明細書で使用される「治療を必要とする」および「予防を必要とする」という用語は、患者が治療もしくは予防を必要とするまたはそれから利益を得るであろうという、介護者によって為される判断を指す。この判断は、介護者の専門知識の範疇における様々な要素に基づいて為されるが、該要素としては、本開示の方法または組成物によって治療可能な状態の結果として、患者が病気である、または病気になるであろうという知識が挙げられる。
【0028】
本明細書で使用される「個体」、「対象」または「患者」という用語は、マウス、ラット、他の齧歯動物、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、または霊長目動物、およびヒトなどの哺乳動物を含む任意の動物を指す。該用語は、男性(雄)もしくは女性(雌)または両方を特定することがあり、あるいは男性(雄)または女性(雌)を除外することがある。
【0029】
本明細書で使用される「含む」(comprise)および「含む」(include)などの用語は包含的かつ非排他的なものであり、したがって、「含むが限定されない」を意味すると解釈されるべきである。本明細書で使用される「であってもよい」または「一部の実施形態」などの許可および任意選択の用語もまた、包含的かつ非排他的なものである。
【0030】
B.粘液抽出物およびその製造方法
A.エスクレンツス(本明細書では、その一般的名称であるオクラと称する)の果実の粘液抽出物から作られた人工的なCFが提供される。CFそれ自体と同様に、抽出物には、性的潤滑剤、精子貯蔵培地、補助された生殖手順用の培地、精子透過試験の培地、および抗菌剤などの、生殖および性に関する多くの用途がある。
【0031】
抽出物の包括的実施形態では、抽出物は、(a)水性培地中でオクラ果実を抽出して、第1の抽出物を製造すること、および(b)第1の抽出物から実質的に透明な粘液を分離することを含む方法の製造物である。この文脈において、「実質的に透明」は、巨視的(可視的)粒子が抽出物から除去されていることを意味する。粘液の一部の実施形態は完全に透明であり、すなわち、粘液が裸眼で濁って見えない程度まで粒子画分が除去されている。そのような除去は、当該技術分野において公知の任意の手段によって達成することができる。例えば、実質的に透明な粘液は、第1の抽出物を約1mmまたはそれ未満の直径の1つまたは複数の孔で濾すことによって製造され得る。特定の実施形態では、第1の抽出物は重力下で約1mmの直径の単一の孔に徐々に通され、それにより、実質的に透明な粘液が得られる。他の手段としては、濾過、遠心分離、沈殿(凝集剤ありまたはなし)、およびボルテックス分離が挙げられる。
【0032】
抽出の速度および効率は、果実を2つまたはそれより多くに切断することによって改善され得る。例示的な実施形態では、果実は約1~2mmの厚さのスライスに切断される。任意の切断ステップの前に、種を除去してもよく、もしくはリブ(突出部)を除去してもよく、またはその両方であってもよい(そうすることで、そうしなければ存在する抽出物中の緑色が除去されることが観察されている。とはいえ、この色が抽出物の特性に影響するとは知られていない)。
【0033】
果実の外側表面を抽出前に消毒して、抽出物の微生物汚染の可能性を低減させてもよい。そのような消毒は、エタノール溶液(例えば、水中の70%v/vエタノール)などの化学的消毒剤を使用して行うことができる。エタノールは、毒性が低く、また蒸気分圧が高いため迅速な蒸発を結果としてもたらすという利点を有する。他の化学的消毒剤を使用してもよい。ガンマ放射線または熱と圧力との組合せなどの他の殺菌因子を使用してもよいことが想定される。
【0034】
抽出ステップは、上昇させた温度で実行してもよい。例えば、抽出は、水性培地中で果実を煮沸することによって行われ得る。水(市の水供給からの水など)は、果実を煮沸する時の使用のために特に好適であることが分かっている。煮沸は、抽出を迅速に完了するという利点を有する。あるいは、抽出は、より低い温度で行ってもよい。そのようなより低い温度では、沸騰温度におけるよりも抽出により長い時間がかかることがあるが、より低い温度での抽出は、緑色を有しない抽出物が製造されるという利点を有する。例えば、特定の実施形態では、抽出は4℃で4時間にわたって行われる。抽出の速度を増加させるために攪拌を使用してもよい。より低い温度での抽出はまた、水を用いて行ってもよく、より低い温度での抽出はヒト卵管液(HTF)またはHTF培地を用いて行うことができることも分かっている。HTF培地は、(例えば、米国カリフォルニア州サンタアナのIrvine Scientificから)市販されている合成の規定された培地である。典型的に、HTF培地は、炭酸-CO2緩衝系を使用してpH変動に対して緩衝化され、その場合、本開示において「重炭酸緩衝化HTF培地」と称される。他の種類のHTF培地が利用可能であり、例えば、HEPES緩衝化HTF培地が米国カリフォルニア州サンタアナのIrvine Scientificから入手可能である。粘液のさらなる実施形態では、HTFは、抽出を促進するために、ヒト血清アルブミンなどのアルブミンを含み得る。水性抽出剤の特定の実施形態は、0.5%w/vのヒト血清アルブミンまたはウシ血清アルブミンを含有する。
【0035】
上記の通り、実質的に透明な粘液はCFと類似の特性を有する。そのような特性の例としては、本明細書に開示される試験にしたがって測定された時に少なくとも約10cmの牽糸性であること、シダ試験に供された時にシダ状化を示すこと、可視性の緑色の呈色を欠くこと、および子宮頸管粘液の代わりに透明な粘液を使用する精子粘液透過試験に精液試料を供した時に、透明な粘液を透過する精子が精液試料中の精子よりも有意に良好な生殖力を指し示すことが挙げられる。これらの特性のそれぞれは、それ自体で、粘液に有意な有用性を付与する。
【0036】
牽糸性は液体の弾力性であり、具体的には、特に排卵の少し前の、子宮頸部の粘液の特徴として測定される。当該技術分野において公知のように、CFの牽糸性は、排卵の少し前に減少する。機能的に、この弾力性は、粘液の潤滑性に寄与する。それはまた、プロスタグランジンなどの、非運動性の精液成分への機械的な障壁も与え、それは精子が入ることを許すが他の成分を除外する選択的な障壁として作用する。この特性は、生殖補助手順用の培地においておよび精子透過試験において使用するための培地として有利である。牽糸性は、ガラスピペットまたはポリプロピレン遠心分離チューブなどの物体と液体の表面を接触させ、液体のレベルより高く物体を上げることによって測定される。粘着した液体の糸が形成され、糸が壊れるまで物体が次第に上げられる。このようにして牽糸性は距離として測定される。透明な粘液の一部の実施形態は、少なくとも約10cmの牽糸性を有する。さらなる実施形態では、透明な粘液は少なくとも約15cmの牽糸性を有する。
【0037】
シダ試験では、液体が蒸発するにつれて結晶化し、低倍率顕微鏡下で見ることができる幹上のシダの葉によく似た微視的構造物を形成するCF中の溶質が検出される。シダ試験は、CF中の羊水の存在の証拠を提供するためによく使用され、また膜の破砕および分娩の始まりを検出するために産科において使用される。シダ状化はCF中の塩化ナトリウムの存在に起因し、これはin vivoではエストロゲンの効果によることが多い。一部の条件下の本明細書に記載される人工的なCFは、シダ試験によって観察した場合にシダ状化を示す。観察されたシダ状化は、月経周期の卵胞期に類似した組成を指し示す。
【0038】
透明な粘液のある特定の実施形態中に透過する精子は、精液試料中の精子よりも有意により良好な生殖力を指し示す。これらの性質は、子宮頸管粘液透過試験(CMPT;精子透過試験とも呼ばれる)を使用して測定することができる。CMPTは、当業者に公知の広く使用されている方法である。本開示において言及される場合、CMPTは、TangらによるHuman Reproduction 14巻:2812~2817頁(1999年)の標準的なプロトコールである。この試験において使用される全ての培地は、37℃に予備平衡化されなければならない。円形横断面のキャピラリーチューブの使用が推奨される。キャピラリーの下端部を子宮頸管粘液、粘液抽出物、または他の培地のプールに浸しながら、上端部に取り付けられた1mLのシリンジおよびプラスチックチューブを使用して吸引することによって各チューブは充填される。上メニスカスがチューブの最上部に近いが最上部にはないように、培地のカラムはチューブ中に吸引される。カラム内に空気の泡が入り込むのを回避するように細心の注意を払うべきである。次いで、チューブの最上部がPLASTICINEで密封され、任意の垂れ下がった培地を下端部から切り離して平らな境界面を作るべきである。約100μLの液化された精液を小さいコニカルプラスチックチューブの底部に置くべきであり、そして子宮頸管粘液または他の培地を含有するキャピラリーチューブをその開端部と共に精液中に入れるべきである。次いで、2つの精液リザーバおよびキャピラリーチューブをWHOのマニュアル(世界保健機関(1999年)WHO Laboratory Manual for the Examination of Human Semen and Sperm-Cervical Mucus Interaction;Cambridge University Press、Cambridge)に示すように顕微鏡のスライド上に置いた後、湿ったスポンジを含有するペトリ皿中にスライドを置いて、湿度を維持し、かつ精液および培地の乾燥を防止する。キャピラリーチューブを水平の配置で60分間インキュベートすることが推奨される。その後に、スライドをペトリ皿から取り出し、20倍の位相コントラスト対物レンズおよび10倍の接眼レンズを用いて明視野照明下でキャピラリーチューブを見る。顕微鏡のステージを調整してキャピラリーの中心軸を含む焦点面を選択するべきであり、またこの倍率において、顕微鏡の視野幅はキャピラリーチューブの内径と概ね等しいものとする。次いでチューブの長さを走査して、精子が到達した精液リザーバからの最長距離を確立する。
【0039】
加えて、粘液は、ヒトCF中に必ずしもその存在が見られない1つまたはそれより多くの特性を有してもよい。例えば、オクラ抽出物は、ある特定の微生物、特にはハリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)に対して抗付着特性を有することが観察されている。結果的に、粘液は、ウイルスおよび微生物に対して抗付着特性を有し得ることが想定される。
【0040】
本明細書で提供される粘液は、高い生存能力を有する精子がそれを選択的に透過するので、CMPTにおけるCFの効果的な代用品として働く。子宮頸管粘液の代わりに透明な粘液の一部の実施形態を使用して精液試料が精子粘液透過試験に供される場合、透明な粘液を透過する精子は、精液試料中の精子と比べて正常な形態の有意により高い比率を有する。子宮頸管粘液の代わりに透明な粘液のさらなる実施形態を使用して精液試料が精子粘液透過試験に供される場合、透明な粘液を透過する精子は、精液試料中の精子と比べて前進運動性の有意により高い比率を有する。子宮頸管粘液の代わりに透明な粘液のまたさらなる実施形態を使用して精液試料が精子粘液透過試験に供される場合、透明な粘液を透過する精子は、精液試料中の精子と比べて運動性の有意により高いグレードを有する。この文脈において、専門医認定の男性病学者などの当業者が標準的な臨床試験を使用して特性が著しくより高いと確認した場合に、該特性は「有意により高い」。
【0041】
いかなる仮定上のモデルによっても縛られることを望まないが、粘液抽出物は4つの主な多糖およびタンパク質を含有すると考えられる。多糖は、ラムノース、ガラクトース、およびウロン酸の単量体が多数を占める。抽出物の一部の実施形態は、7~28%mol/molのラムノース、12~50%mol/molのガラクトース、14~56%mol/molのウロン酸、および12~48%mol/molのタンパク質を含む(モルパーセントは、多糖の加水分解後の全ての糖単量体、ウロン酸、およびタンパク質を合わせたモル濃度で割った特定の小部分のモル濃度を指す)。抽出物のさらなる実施形態は、11.0~16.6%mol/molのラムノース、19.8~29.6%mol/molのガラクトース、22.8~34.2%mol/molのウロン酸、および19.0~28.4%mol/molのタンパク質の1つまたは複数を含む。またさらなる実施形態は、13.8%mol/molのラムノース、24.7%mol/molのガラクトース、28.5%mol/molのウロン酸、および23.7%mol/molのタンパク質の1つまたは複数を含む。抽出物のさらなる実施形態は、0.75~1.5%mol/molのアラビノース、0.4~1.2%mol/molのキシロース、0.45~1.8%mol/molのマンノース、および3.0~12%のグルコースの1つまたは複数をさらに含む。抽出物のまたさらなる実施形態は、図6A~Dに示される構造のいずれか1つを有する1つまたは複数の多糖を含み得る。
【0042】
C.精子用の凍結保存培地
上記の人工的なCFには、精子用の凍結保存培地としての用途がある。凍結保存培地は、上記の人工的なCFの任意の実施形態を含み、かつ複数の精子をさらに含み得る。培地はまた、グリセロール、クエン酸塩、卵黄、および抗菌剤などの1つまたは複数の成分などの、いくつもの有用な凍結保存用成分のいずれかも含み得る。冷凍時に細胞の生存能力を保護するために、当該技術分野において公知の任意の濃度でグリセロールが存在してもよく、そのような濃度の例としては、約5~25%v/v、より具体的には、約10~20%v/v、12%v/v、および15%v/vが挙げられる。クエン酸塩および卵黄を使用してグリセロールの透過の間の細胞への浸透圧ストレスを低減させることができる。抗生物質を使用して試料の微生物汚染の可能性を低減させることができる。そのような成分は、組成物の残余を人工的なCFとした、標準的なグリセロールおよびグリセロール-卵黄凍結保存剤において使用される濃度で使用することができる。
【0043】
精子を保存する方法において凍結保存剤を使用することができる。方法は、複数の精子と組み合わせて凍結保存剤を含む組成物を提供すること、および組成物を冷凍することを伴う。方法の一部の実施形態では、組成物は約-10℃またはそれ未満の温度で冷凍され、さらなる実施形態では、組成物は-40℃またはそれ未満の温度で冷凍され、またさらなる実施形態では、温度は、約-80°、-100°、-140°、-160°、-180°、もしくは-190℃、またはそれ未満である。上記に開示される凍結保存剤の任意の実施形態を使用することができる。方法は、必要に応じて組成物を解凍することをさらに含み得る。
【0044】
D.使用方法
抽出物および凍結保存培地を使用する様々な方法が提供される。
【0045】
1つのそのような方法は、複数の精子と合わせた上記の抽出物または貯蔵培地の任意の実施形態を使用する補助された生殖方法である。補助された生殖方法の第1の包括的実施形態はin vitro受精方法であり、該方法は、上記の抽出物または貯蔵培地の任意の実施形態と複数の精子との混合物を未受精卵とin vitroで接触させて受精混合物を作製すること、受精が起こりかつ胚が作られるために充分な期間にわたって受精混合物をインキュベートすること、および胚を対象の子宮に移すことを含む。当該技術分野において公知のin vitro受精の任意の変形を使用することができる。第2の包括的実施形態は人工授精の方法であり、該方法は、上記の抽出物または貯蔵培地の任意の実施形態との複数の精子の混合物を提供すること、および混合物を対象の子宮に入れることを含む。当該技術分野において公知の人工授精の任意の変法を使用することができる。
【0046】
生殖補助方法の別の包括的実施形態は、以下に記載される装置を用いて精液からの生存可能な精子をA.エスクレンツスの果実の粘液抽出物中に回収すること、精子を未受精卵とin vitroで接触させて受精混合物を作製すること、受精が起こりかつ胚が作られるために充分な期間にわたって受精混合物をインキュベートすること、および胚を対象の子宮に移すことを含む。方法はまた、例えば遠心洗浄によって、抽出物を精子から分離することを含んでもよい。
【0047】
別のそのような方法は膣潤滑性を提供する方法であり、該方法は、上記の抽出物の任意の実施形態を対象に塗布することを含む。追加の成分としては、追加の潤滑剤(グリセリンおよびセルロースエーテルなど)、ゲル化剤、保湿剤(カラギーナンなど)、香味物質、芳香剤、殺菌剤、殺精子剤、および抗ウイルス剤を挙げることができる。方法の一部の実施形態は、生殖を減じない潤滑性を提供することを意図するものであってよく、その場合、特に殺精子剤は割愛される。抽出物は、直接的にまたはコンドームなどの介在する構造物上のいずれかで、対象の性器に塗布される。例えば、抽出物は、膣または陰茎に塗布され得る。
【0048】
E.精子透過試験およびキット
オクラ粘液を透過する能力を測定することによって精子の運動性を測定する試験が提供される。試験は、精液試料を粘液のオクラ抽出物に接触させること、ある期間にわたっておおよそ生理的な温度で試料をインキュベートすること、および精液試料が導入された場所からの先頭の精子の距離を測定することを含む。試験は、ガラススライドとカバーガラスとの境界面によって形成された表面などのガラス表面上で実行することができる。精子を閉じ込めるための経路または「トラック」を形成してもよく、それにより、集団が移動した距離の容易な測定が増進される。インキュベーション条件は、精子運動性試験の間に典型的に使用される任意のものであってよく、特定の実施形態では、インキュベーションは、空気とCO2との5%v/vの混合物下、37℃で実行される。精液試料は、基準距離に基づいて正常な運動性または正常以下の運動性として分類することができる。基準距離は、試験時に対象試料を使用することによって確立されてもよいし、または、以前に確立された標準基準を使用してもよい。精液試料の分類は、中心傾向の測定およびばらつきの測定を組み込んだ統計試験にしたがって行うことができ、そのような試験としては、スチューデントのt検定、分散分析、および信頼限界が挙げられる。
【0049】
F.コーティングされたコンドーム
コーティングされたコンドームが提供され、該コーティングされたコンドームは、該コンドームを少なくとも部分的にコーティングするために充分な量の上記の抽出物の任意の実施形態と接触したコンドームを含む。コンドームの一部の実施形態は、抽出物によって完全にコーティングされている。コンドームのさらなる実施形態は、少なくともその外側表面が抽出物でコーティングされている。コンドームは、当該技術分野において好適なものとして公知の任意の材料、例えば、ラテックス、ポリウレタン、ポリイソプレン、羊腸、およびニトリルゴムで構築され得る。
【0050】
コンドームの一部の実施形態では、コンドームは、上記の膣潤滑剤の任意の実施形態によってコーティングされている。
【0051】
G.生存可能な精子を収集するための装置
生存可能な精子を収集するための装置が提供され、該装置は、精液容器、および、精液容器に接続された、または液体連通した、中空の細長い導管を含み、中空の細長い導管は、上記の抽出物の任意の実施形態を含有することを意図するものである。複数の精子を含有する試料を精液容器中に入れ、運動性精子が抽出物を透過するために充分な期間にわたって抽出物と接触したままにする。下記の実施例においてより詳細に説明するように、抽出物は、形態的に正常かつ運動性の精子に対して選択的に透過性であることが観察されている。
【0052】
装置の一部の実施形態は、精子が通過しないように中空の細長い導管の端部を可逆的に閉じるように配置されたバルブを含む。バルブの一部の実施形態は、任意の粒子の通過を防止し、閉じられた時に水密のシールを作る。バルブのさらなる実施形態は、ある特定の有効直径より大きい粒子の通過を防止するように構成されている。(開いている時に)バルブからの材料を受け入れるための収集容器を配置してもよい。
【0053】
H.実施例1:粘液抽出物の製造方法
8”×8”のアルミニウム箔シートを70%エタノールで滅菌し、KIMWIPESなどのタスクワイプで拭いて乾燥させた。6個のオクラ果実を穏やかな石鹸溶液で充分に洗浄した後、水道水(5×500mL)、その後にDI水(1×500mL)で充分にすすぎ、70%エタノール中に予め浸したタスクワイプで拭いて滅菌した。オクラ果実上のエタノールフィルムを乾燥させた後(15~20分)、果実を滅菌されたアルミニウム箔上に置き、滅菌された外科用メスの刃を用いてオクラのスライス(1~2mm)を調製した。10グラムのスライスしたオクラ果実部分を、15、20、または25mLのHTF重炭酸溶液(0.5%のヒト血清アルブミンを含有する緩衝化ヒト卵管液[HTF]中の25mMのNa2CO3)を含有する3つの50mL遠心チューブのそれぞれに入れた。抽出チューブを組織ロッカー/シェーカーで4℃で4時間にわたって振とうした。各抽出遠心分離チューブを反転させ、底部を70%エタノールワイプで滅菌した。予備加熱した18G針を使用して、約1.0mmの孔径(液体が抜けるのを可能とするために充分に大きいが、オクラ種子が抜けるのを防止するために充分に小さい-図1A)の小穴をチューブの底部の中心に作った。各抽出チューブをキャップを外した別の50mL遠心分離チューブの上で反転させた(キャップ側が上)(図1B)。抽出チューブのキャップを緩めて、透明な抽出されたオクラ粘液が重力により収集チューブ中に落ちるようにした(図1C)。抽出された粘液は透明であり、クロロフィル色素を欠いていた。
【0054】
図1Dに示すように、定規を収集チューブの横に置き、破壊前の各粘液糸の長さを測定した。この測定は、粘液抽出物の伸長性または牽糸性に対応した。粘液の抽出効率は、オクラ粘液を抽出するために使用したHTF重炭酸塩の量に対する回収された粘液の量に基づき、調製物間で有意に異ならなかった(30~36%)。牽糸性(伸長性)は調製物間で類似していた(19cmより大きい)。粘液抽出物のシダ状化パターンは、調製物間で類似しており、月経周期の卵胞期に観察されるパターンを反映したものであった(図2A~2Bを参照)。粘液抽出物を5週間およびそれより長く-80℃で貯蔵した。
【0055】
I.実施例2:粘液抽出物を使用した精子透過試験
本出願において使用した精子透過試験プロトコールは上掲のTangら(1999年)の改変方法である。別段の特定がなければ、全ての培地は37℃に予備平衡化した。長さ75mmおよび内径1.1mmの非処理Kimble円形横断面キャピラリーチューブ(Fisher Scientific、PA)を使用した。キャピラリーの下端部をA.エスクレンツス粘液(100μL)または同等の体積の対照培地(5%ヒト血清アルブミンを含有する重炭酸緩衝化HTF)に浸しながら上端部に取り付けた1mLのツベルクリンシリンジおよびプラスチックチューブを使用した吸引によって各チューブを充填した。カラム内に空気の泡が入り込まないように注意しながら、上メニスカスがチューブの最上部から1~2cmとなるようにA.エスクレンツス粘液または対照培地の約6.0cmのカラムをチューブ中に吸引した。各チューブの最上部をPLASTICINEなどの粘土で密封し、任意の垂れ下がった培地を下端部から切り離して平らな境界面を作った。約100μLの液化された精液を小さいコニカルプラスチックチューブの底部に置き、そしてA.エスクレンツス粘液または対照培地を含有するキャピラリーチューブをその開端部と共に精液中に入れた。異なるドナーからの精液試料を用いてこの調製を5回繰り返した。WHOのマニュアル(WHO、1999年)に実証される通りに、2つの精液リザーバおよびキャピラリーチューブを顕微鏡のスライドに取り付けた。次いで、スライドをペトリ皿中に置き、加湿空気中5% CO2の雰囲気下37℃で60分間水平の配置でインキュベートした。
【0056】
1時間後、200倍の倍率で位相差顕微鏡を用いてキャピラリーチューブを見ることによって、対照および粘液抽出物試料について精子の運動性を決定した。有意な平均数の精子(200倍の倍率下で25±3個より多い精子)が粘液抽出物を透過し、精液との相互作用の開始の1時間以内に約45mm(遊走距離)移動したのに対し、対照調製物では10±4個の精子であった。
【0057】
粘液抽出物中の回収されたヒト精子の前進運動性の決定
粘液抽出物中の約10μLの分離された運動性精子を、0.5%のヒト血清アルブミン(HSA)および20mMのHEPESを含有する190μLのヒト卵管液(HTF)培地(HTF-HEPES;pH、7.4)中に希釈した各キャピラリーチューブから取り出し、結果として得られた溶液の滴を顕微鏡のスライド上に置いた。位相差顕微鏡を用いて精子運動性のパーセンテージを手動で定量化した。精子は、ある点から別の点へと直線状に動いた場合に前進運動性であると考えた。異なる視野中の100個の細胞に対して実験用カウンターを用いて有資格の臨床男性病学者によって各試料について2回、前進運動性の精子のパーセンテージを決定し、平均化した。2回のカウントのそれぞれが10%異なっていない場合、カウントは正確であると認めた。0~4の尺度での運動のグレードを主観的に決定した。対照の場合(それぞれ2.5~3.0、47.7%)と比較した、粘液抽出物を透過した精子のグレードおよび前進運動性のパーセンテージはそれぞれ3.5~4.0および86.8%であった。生殖力の評価を受けている患者(N=5)からの精子を使用して上記手順を実行し、彼らの精子が粘液抽出物を透過するかどうかを判定した。図5は、粘液抽出物を透過しなかった非生殖性患者からの精子を示す。これらのデータは、粘液抽出物が精子の機能を試験するためにCFを代用できることを示唆する。
【0058】
粘液抽出物中の回収されたヒト精子の形態の決定
有資格の臨床男性病学者によって、粘液抽出物中の精子の精子形態評価を実行した。ヒト精子およびマッチさせた精液(対照;N=5/群)を含有するそれぞれ約10μLの非希釈の粘液抽出物の羽状(Feathered)の塗抹標本をエタノールで洗浄したガラススライド上に調製し、ダストフリーのチャンバー中で乾燥させた。その後に、塗抹標本を固定し、改変したパパニコロウ染色キット(Spermac、Stain Enterprises、南アフリカ)中の試薬を製造者の説明書にしたがって用いて染色し、スケーラーを備えた位相差顕微鏡を用い、クルーガー厳密判定基準(Kruger strict criteria)を使用して精子の形態を評価した。頭部が滑らかな楕円形状を有し、頭部の面積の約40~70%を構成する明瞭な先体を有する場合に、精子は正常であると考えた。形態的に、正常であると考えられるためには、精子頭部は5.0~6.0μMの長さおよび2.5~3.5μMの幅でなければならない。加えて、精子は、頸部、中片部、または尾部の欠陥がなく、かつ頭部の大きさの半分より大きい細胞質小滴が無い場合に正常であると考えた。どちらとも言えない形態の全ての精子を異常であると考えた。スライドを図3に示す。粘液抽出物試料中の正常な形態の精子の平均パーセンテージは、精液試料(対照;図4を参照)中よりもはるかに大きい。
【0059】
J.実施例3:解凍後の精子の寿命および生存能力
方法
オクラ粘液の抽出:新鮮なオクラを当地の食料雑貨店で購入し、上記の通りに粘液を抽出した。
【0060】
精液および処理:正常な精液試料についてのWHOの基準(1.5~5.0mLの量、7.2~8.2のpH、40%またはそれより高い運動性、濃度=20×1000万個/mL)を満たす廃棄された匿名の精液試料をオクラ粘液を用いる冷凍プロトコールにおいて使用した。各精液試料を半分に分けて、12%のグリセロール(体積/体積)および10μgのゲンタマイシン/ml(Irvine Scientific、Santa Ana、CA)を含有するTEST-Yolkバッファーからなる従来の冷凍培地中またはオクラ粘液の存在下で冷凍した。オクラ粘液の存在下での冷凍用に指定された精液試料の各半分を、25mMの重炭酸ナトリウム(HTF緩衝液)および30%のオクラ抽出物からの25%のオクラ粘液(体積/体積)を含有する同等の体積のヒト卵管液(HTF)緩衝液で希釈した。残りの半分は、HTF培地のみで同様に希釈した。その後に、各希釈した精液試料に同等の体積のTEST-Yolkバッファーを滴下して加え、均一な懸濁液になるまで穏やかに混合し、6.0%(体積/体積)の最終グリセロール濃度、調製物の冷凍の準備ができた最終のオクラ希釈=12.5%(体積/30%の抽出物の体積)とし、氷上に約15時間置いた。各試料を冷凍条件に供する前に、冷却したTEST-Yolkで増量した10μLの精液試料を取り出し、透明なガラススライド上に置き、カバーガラスで覆い、室温(37℃)に温めた後に、位相差顕微鏡および実験室カウンターを用いて精子運動性のパーセンテージの冷却後の評価を実行した。次いで、冷却したTEST-Yolkで増量した精液試料を液体窒素(LN)蒸気相での冷凍に30分間供し、その後にLNに浸して貯蔵した。試料を少なくとも24時間LN貯蔵状態のままとした後、解凍した。試料を室温に解凍した後、凍結保存された精子の細胞質から細胞透過性凍結保護剤(グリセロール)を溶出するために2つの温かい(37℃)HTF緩衝液で希釈した。冷凍および解凍されたヒト精子を位相差顕微鏡観察に供して上記の通りに各試料の運動性の状態を決定した。
【0061】
解凍後の運動性精子の先体の状態および寿命:解凍後の精子運動性の評価の後、対照およびオクラ粘液に曝露された試料を勾配(ISOLATE、Irvine Scientific;80%)遠心分離に供して非運動性精子から運動性精子を分離した。その後に、運動性精子を低温(-20℃)の90%エタノール中で透過処理し、FITC結合レクチン(Vector Labs、Burlingame、CA)で染色した。FITCレクチン染色後、精子を落射蛍光顕微鏡観察に供した。先体の領域において緑色の一様な蛍光を有する精子を先体が無傷であり、したがって膜への損傷を欠いていると考えた。細胞の赤道領域に蛍光を有する精子を先体が反応し、したがって持続した膜損傷を有すると考えた。
【0062】
オクラ粘液中の非冷凍ヒト精子の寿命:液化した新たに射精されたヒト精液試料を20mM HEPESおよび0.5% BSAを含有するHTF(HTF-HEPES;pH 7.4)で洗浄した後、高度に運動性の細胞を回収する目的で上記の通りに各精子懸濁液を連続勾配の洗浄に供した。高度に運動性の細胞の各試料を2つに分け、加湿したインキュベーター中の空気中、5% CO2の雰囲気中で18時間、HTF緩衝液またはHTF緩衝液+25%オクラ粘液(体積[HTF緩衝液中の30%オクラ粘液]/体積[HTF緩衝液])中で培養した。
【0063】
結果
予備冷凍期間(PF)の間、塩基性冷凍緩衝液(対照;PF対照;FB)中で冷却した精子は、オクラ粘液を添加した冷却した塩基性冷凍緩衝液(PF OK)中または未加工精液(RS)中の精子と比べて運動性の平均パーセンテージの有意な低減を持続させた(p<0.02)。さらに、塩基性冷凍緩衝液へのオクラ粘液の添加は、RSにおいて観察されたものと類似の運動性比率のパーセンテージを維持した。(異なる上の文字を有するグラフは統計的に異なる;図7;異なる上の文字を有するグラフは統計的に異なる)。抽出されたアベルモスクス・エスクレンツス粘液(EAEM)中でのヒト精液の冷凍は、FBと比べて解凍後の運動性精子集団のパーセンテージを増加させた(P<0.03;図8;異なる上の文字を有するグラフは統計的に異なる)。図9は、冷凍および解凍された精子の顕微鏡像を示す。
【0064】
この観察は、子宮内人工授精(IUI)などの利用可能な生殖補助技術(ART)の有効性を増加させるために、EAEM中での冷凍後により多くの解凍後の運動性精子を回収できることを示唆する。興味深いことに、EAEM中で冷凍された精液試料中の精子は、解凍の8時間後に、FB中で冷凍された精子(23.5+4.1%)と比べてより高い(P<0.05)運動性のパーセンテージ(35.3+3.4%)を有した。
【0065】
培地を冷凍したにもかかわらず、勾配遠心分離を介して回収された高度に運動性の精子は、膜の完全性を維持した。これは、EAEM中で冷凍された細胞の間で観察される運動性のより高いパーセンテージに基づいてより多くの運動性精子が回収されるのであれば、EAEM中での冷凍は有意な数の運動性精子の収集を促進できることを示唆する。
【0066】
オクラ粘液を添加したHTF緩衝液中で18時間培養された連続勾配遠心分離を介して回収された高度に運動性の精子(92.4±8%)は、HTF緩衝液のみの中で培養された対応物よりも運動性精子のより高いパーセンテージを有した(P<0.05;図10)(異なる上の文字を有するグラフは統計的に異なる)。この実験の結果は、オクラ粘液の存在下での精子の培養は、長期間にわたって運動性のままにより多くの精子を保護する。HTFのみの中で培養された対応物よりもより多くの細胞において寿命を維持するオクラ粘液の能力は、問題を抱えた子宮頸部を有する女性においてより多くの細胞を運動性状態に維持する潜在能力をオクラ粘液が有することを指し示す。
【0067】
K.実施例4:ヒト精子/オクラ粘液透過試験
オクラ粘液が精子透過を測定するための効果的な培地として機能するかどうかを判定するための試験を実行した。顕微鏡のスライドを70%エタノールで洗浄し、タスクワイプで充分に拭いて乾燥させた。その後に、両面テープを透明なガラススライドに適用し、約50×2mmを覆わないままにして長手方向のストリップとした(「精子ローン」(sperm lawn))。その後にカバーガラスを適用し、穏やかに押して空気の泡を取り除き、カバーガラスを堅固に固定した。その後、上記の通りに抽出したオクラ粘液をガラススライドの10°の角度の覆われていない側に安定的に適用して、空気の泡なしで粘液が精子ローンに進入するのを可能にした。粘液を載せたスライドを100×20mmのFALCON式のポリスチレン非発熱性ペトリ皿(Corning,Inc.、Corning、NY)に置き、37℃および5.0% CO2の雰囲気の加湿インキュベーター中に約45分置いて、粘液が動かないようにした(定常状態の獲得)。その後に、カバーガラスの縁部のすぐ手前に、10μLの精液を注意深くオクラ粘液中に置き、上記の通りに30分間インキュベートした。インキュベーション後、調製物を200倍の倍率での位相差顕微鏡観察に供して、粘液の精子透過性、指骨(2つの物質間の境界面を作る、オクラ粘液中への精液の指状突起)の形成、および載せたゾーンからの精子ローンでの移動距離について観察した。
【0068】
全ての調製物は指骨を発達させた。しかしながら、常態についてのWHOの基準を満たさない精液試料(N=5)中の精子は、ゼロまたは乏しい変化および移動距離(平均=1.75±0.8cm)を有し、指骨の先端からの第1の顕微鏡視野(F1)における運動性精子の数は7細胞を示し、F2では10細胞を示し、F3では9細胞を示した。常態についてのWHOの基準を満たす精液中の精子は、変化および精子ローン中の移動距離においてより優れていた(P<0.05)。正常な試料(N=7)中の精子が移動した平均距離は30分で4.23±0.05cmであった。正常な精液試料中の精子についてF1、F2、およびF3は、それぞれ48細胞、45細胞、および39細胞であった。
【0069】
含意するもの:この研究で為された観察は、上記の調製物が代替的な子宮頸管粘液キットとして利用される潜在能力を有することを指し示す。上記の通りのオクラ粘液を載せたスライドは、調製し、スナップ凍結し、かつ、必要な時に使用して、上記の通りに加湿チャンバー中で解凍した後に、精液の適用、上記の通りのインキュベーション、および、指骨形成、オクラ粘液中への精子の移行、指骨および移動距離からの顕微鏡視野における運動性精子の数の評価を行うことができる。
【0070】
L.結論
本発明の開示された実施形態の任意の所与の要素は、単一の構造、単一のステップ、単一の物質などにおいて具現化してもよいことが理解されるべきである。同様に、開示された実施形態の所与の要素は、複数の構造、ステップ、物質などにおいて具現化してもよい。
【0071】
以上の記載は、本開示の方法、機械、製造、組成物、および他の教示を例を挙げて説明し、記述するものである。さらに、本開示は、開示された方法、機械、製造、組成物、および他の教示のある特定の実施形態のみを示し、記述するものであり、上述したように、本開示の教示は、様々な他の組合せ、改良、および環境で使用することができ、かつ、当業者の技術および/または知識に相応して、本明細書に表現された教示の範囲内で変更または改良できることが理解されるべきである。本明細書に上記される実施形態はさらに、本開示の方法、機械、製造、組成物、および他の教示の実施において知っているある特定の最良の形態を説明することを意図し、また、当業者が本開示の教示を、そのような、または他の、実施形態で、および、特定の応用または用途によって必要とされる様々な改良と共に利用できるようにすることを意図する。したがって、本開示の方法、機械、製造、組成物、および他の教示は、本明細書に開示されるまさにその実施形態および実施例に限定されることを意図しない。本明細書における任意のセクションの見出しは、37 C.F.R.§1.77の示唆に合致するためにのみ、またはそうでなければ、組織だった列を提供するためにのみ、提供されるものである。これらの見出しは、本明細書に記載される発明を限定しまたは特徴付けるものではない。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
図9
図10