(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物およびそれを成形してなる成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 77/06 20060101AFI20221215BHJP
C08G 69/26 20060101ALI20221215BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20221215BHJP
C08L 71/12 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
C08L77/06
C08G69/26
C08K7/06
C08L71/12
(21)【出願番号】P 2019570717
(86)(22)【出願日】2019-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2019003425
(87)【国際公開番号】W WO2019155982
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2021-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2018020163
(32)【優先日】2018-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三井 淳一
(72)【発明者】
【氏名】西條 健人
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-002005(JP,A)
【文献】特表2017-500418(JP,A)
【文献】米国特許第05504158(US,A)
【文献】中国特許出願公開第106609034(CN,A)
【文献】特開2011-046781(JP,A)
【文献】特開2007-154107(JP,A)
【文献】特開2007-154127(JP,A)
【文献】特開2013-067786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/06
C08G 69/26
C08K 7/06
C08L 71/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半芳香族ポリアミド(A)とポリフェニレンエーテル(B)と
強化材(D)とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、
半芳香族ポリアミド(A)が芳香族ジカルボン酸成分とジアミン成分とを含有し、
芳香族ジカルボン酸成分がテレフタル酸を
50モル%以上含有し、
ジアミン成分が1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミンまたは1,12-ドデカンジアミンを
50モル%以上含有し、
半芳香族ポリアミド(A)とポリフェニレンエーテル(B)との質量比(A/B)が、15/85~85/15であり、
強化材(D)が炭素繊維を含み、
熱可塑性樹脂組成物の融点が290℃以上であり、
熱可塑性樹脂組成物の融点と結晶化温度との差が30℃以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
さらに結晶核剤(C)を含むことを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに相溶化剤(E)を含むことを特徴とする請求項1
または2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
さらに耐衝撃改良剤(F)を含むことを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半芳香族ポリアミドとポリフェニレンエーテルとを含有する熱可塑性樹脂組成物およびそれを成形してなる成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半芳香族ポリアミドとポリフェニレンエーテルとを含有する熱可塑性樹脂組成物は、耐熱性に優れ、低吸水性であることから、自動車の外装材料やエンジンルーム内の材料に広く用いられている。
【0003】
日本国特開昭63-035650号公報には、1,6-ヘキサジアミンをジアミン成分の主成分とする半芳香族ポリアミドとポリフェニレンエーテルとからなる熱可塑性樹脂組成物が開示され、日本国特開2004-083792号公報、国際公開第2005/017041号、日本国特開2013-23672号公報、日本国特開2011-46781号公報には、1,9-ノナンジアミンをジアミン成分の主成分とする半芳香族ポリアミドとポリフェニレンエーテルとからなる熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
【0004】
日本国特開2013-23672号公報には、短時間で結晶化が進行するため、樹脂組成物を構成する熱可塑性ポリアミド樹脂は、融点と結晶化温度の差が40℃以下であることが好ましいと記載されている。しかしながら、具体的には、その差が38℃である熱可塑性ポリアミド樹脂が使用されているにすぎず、樹脂組成物を構成する熱可塑性ポリアミド樹脂は、結晶性が不十分なものであった。
日本国特開2011-46781号公報においては、融点と結晶化温度の差が33℃以上であるポリアミド樹脂組成物を使用して、成形流動性を向上させることが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、自動車の軽量化の要求にともない、半芳香族ポリアミドとポリフェニレンエーテルとを含有する熱可塑性樹脂組成物は、エンジンルーム内の金属製部品を代替する材料として検討されている。この場合、熱可塑性樹脂組成物は、耐熱性や低吸水性は維持しながらも、特に、高温環境下、具体的には150℃や200℃環境下、においても、強度や弾性率の低下が小さいことが求められている。しかしながら、上記熱可塑性樹脂組成物は、半芳香族ポリアミド樹脂の結晶性が低いために、高温環境下において、強度や弾性率が低下するという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる従来技術を鑑みて、高耐熱性かつ低吸水性であり、高温環境下においても強度や弾性率の低下が抑制された熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、特定の半芳香族ポリアミドとポリフェニレンエーテルとを含有する熱可塑性樹脂組成物が上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
[1]半芳香族ポリアミド(A)とポリフェニレンエーテル(B)と強化材(D)とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、
半芳香族ポリアミド(A)が芳香族ジカルボン酸成分とジアミン成分とを含有し、
芳香族ジカルボン酸成分がテレフタル酸を50モル%以上含有し、
ジアミン成分が1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミンまたは1,12-ドデカンジアミンを50モル%以上含有し、
半芳香族ポリアミド(A)とポリフェニレンエーテル(B)との質量比(A/B)が、15/85~85/15であり、
強化材(D)が炭素繊維を含み、
熱可塑性樹脂組成物の融点が290℃以上であり、
熱可塑性樹脂組成物の融点と結晶化温度との差が30℃以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
[2]さらに結晶核剤(C)を含むことを特徴とする[1]記載の熱可塑性樹脂組成物。
[3]さらに相溶化剤(E)を含むことを特徴とする[1]または[2]記載の熱可塑性樹脂組成物。
[4]さらに耐衝撃改良剤(F)を含むことを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
[5]上記[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高耐熱性かつ低吸水性であり、高温環境下においても強度や弾性率の低下が抑制された熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、半芳香族ポリアミド(A)とポリフェニレンエーテル(B)とを含有する。
【0011】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を構成する半芳香族ポリアミド(A)は、芳香族ジカルボン酸成分とジアミン成分とを含有する。本発明において、半芳香族ポリアミド(A)の芳香族ジカルボン酸成分は、テレフタル酸を主成分とすることが必要であり、ジアミン成分は、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミンまたは1,12-ドデカンジアミンを主成分とすることが必要である。
【0012】
芳香族ジカルボン酸成分におけるテレフタル酸の含有量は、50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、75モル%以上であることがさらに好ましく、95モル%以上であることが特に好ましく、100%であることが最も好ましい。
【0013】
半芳香族ポリアミド(A)におけるテレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸や、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸や、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。
【0014】
半芳香族ポリアミド(A)のジアミン成分における、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミンまたは1,12-ドデカンジアミンの含有量は、50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、75モル%以上であることがさらに好ましく、95モル%以上であることが特に好ましく、100%であることが最も好ましい。
【0015】
半芳香族ポリアミド(A)における、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、または1,12-ドデカンジアミン以外のジアミン成分としては、例えば、1,2-エタンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,13-トリデカンジアミン、1,14-テトラデカンジアミン、1,15-ペンタデカンジアミン等の脂肪族ジアミン成分、シクロヘキサンジアミン等の脂環式ジアミンや、キシリレンジアミン、ベンゼンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。ジアミンは直鎖状であってもよいし、分岐していてもよい。
【0016】
半芳香族ポリアミド(A)は、必要に応じて、カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸等のω-アミノカルボン酸を含有してもよい。
【0017】
半芳香族ポリアミド(A)の具体例としては、例えば、ポリアミド10T、ポリアミド11T、ポリアミド12Tが挙げられる。
【0018】
半芳香族ポリアミド(A)は、モノカルボン酸成分を構成成分として含有することが好ましい。モノカルボン酸を含有することにより、半芳香族ポリアミドは、末端の遊離アミノ基量を低く保つことが可能となり、熱を受けた際の、熱劣化や酸化劣化によるポリアミドの分解や変色が抑えられ、また末端が疎水性となるため、低吸水性となる。その結果、得られる熱可塑性樹脂組成物は、耐熱性や低吸水性が向上する。
【0019】
モノカルボン酸成分の含有量は、半芳香族ポリアミド(A)を構成する全モノマー成分に対して0.3~4.0モル%であることが好ましく、0.3~3.0モル%であることがより好ましく、0.3~2.5モル%であることがさらに好ましく、0.8~2.5モル%であることが特に好ましい。モノカルボン酸成分の含有量が0.3~4.0モル%であると、半芳香族ポリアミド(A)は、重合時に分子量分布が小さくなり、成形加工時の離型性が向上し、成形加工時においてガスの発生量が抑制される。一方、モノカルボン酸成分の含有量が4.0モル%を超えると、半芳香族ポリアミド(A)は、機械的特性が低下する場合がある。なお、本発明において、モノカルボン酸の含有量は、半芳香族ポリアミド(A)中のモノカルボン酸の残基、すなわち、モノカルボン酸から末端の水酸基が脱離したものが占める割合をいう。
【0020】
モノカルボン酸成分は、分子量が140以上のモノカルボン酸が好ましく、分子量が170以上のモノカルボン酸がより好ましい。半芳香族ポリアミド(A)は、分子量が140以上のモノカルボン酸を含有することにより、離型性が向上し、成形加工時の温度においてガスの発生量を抑制することができ、また成形流動性が向上する。
【0021】
モノカルボン酸成分としては、脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸が挙げられる。中でも、半芳香族ポリアミド由来成分の発生ガス量を減少させ、金型汚れを低減させ、離型性を向上させることができることから、脂肪族モノカルボン酸が好ましい。分子量が140以上の脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、カプリル酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸が挙げられ、分子量が140以上の脂環族モノカルボン酸としては、例えば、4-エチルシクロヘキサンカルボン酸、4-へキシルシクロヘキサンカルボン酸、4-ラウリルシクロヘキサンカルボン酸が挙げられ、分子量が140以上の芳香族モノカルボン酸としては、例えば、4-エチル安息香酸、4-へキシル安息香酸、4-ラウリル安息香酸、1-ナフトエ酸、2-ナフトエ酸およびそれらの誘導体が挙げられる。モノカルボン酸成分は、単独で用いてもよいし、併用してもよい。また、分子量が140以上のモノカルボン酸と分子量が140未満のモノカルボン酸を併用してもよい。なお、本発明において、モノカルボン酸の分子量は、原料のモノカルボン酸の分子量を指す。
【0022】
本発明における半芳香族ポリアミド(A)は、従来から知られている加熱重合法や溶液重合法の方法を用いて製造することができる。工業的に有利である点から、加熱重合法が好ましく用いられる。加熱重合法としては、芳香族ジカルボン酸成分と、ジアミン成分とから反応生成物を得る工程(i)と、得られた反応生成物を重合する工程(ii)とからなる方法が挙げられる。
【0023】
工程(i)としては、例えば、ジカルボン酸粉末を、予めジアミンの融点以上、かつジカルボン酸の融点以下の温度に加熱し、この温度のジカルボン酸粉末に、ジカルボン酸の粉末の状態を保つように、実質的に水を含有させずに、ジアミンを添加する方法が挙げられる。別の方法としては、溶融状態のジアミンと固体のジカルボン酸とからなる懸濁液を攪拌混合し、混合液を得た後、最終的に生成する半芳香族ポリアミドの融点未満の温度で、ジカルボン酸とジアミンの反応による塩の生成反応と、生成した塩の重合による低重合物の生成反応とをおこない、塩および低重合物の混合物を得る方法が挙げられる。この場合、反応をさせながら破砕をおこなってもよいし、反応後に一旦取り出してから破砕をおこなってもよい。工程(i)としては、反応生成物の形状の制御が容易な前者の方が好ましい。
【0024】
工程(ii)としては、例えば、工程(i)で得られた反応生成物を、最終的に生成する半芳香族ポリアミドの融点未満の温度で固相重合し、所定の分子量まで高分子量化させ、半芳香族ポリアミドを得る方法が挙げられる。固相重合は、重合温度180~270℃、反応時間0.5~10時間で、窒素等の不活性ガス気流中でおこなうことが好ましい。
【0025】
工程(i)および工程(ii)の反応装置としては、特に限定されず、公知の装置を用いればよい。工程(i)と工程(ii)を同じ装置で実施してもよいし、異なる装置で実施してもよい。
【0026】
半芳香族ポリアミド(A)の製造において、重合の効率を高めるため重合触媒を用いてもよい。重合触媒としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸またはそれらの塩が挙げられる。重合触媒の添加量は、通常、半芳香族ポリアミド(A)を構成する全モノマーに対して、2.0モル%以下であることが好ましい。
【0027】
本発明に用いるポリフェニレンエーテル(B)は、下記式(1)で表される繰り返し構造単位を含有する単独重合体または共重合体である。
【0028】
【0029】
式中、Oは酸素原子を表し、R1、R2、R3およびR4は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、第一級または第二級のC1~C7アルキル基、フェニル基、C1~C7ハロアルキル基、C1~C7アミノアルキル基、C1~C7アルコキシ基、またはハロアルコキシ基(ただし、少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子を隔てている)を表す。
【0030】
ポリフェニレンエーテルとしては、例えば、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-フェニル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレンエーテル)が挙げられ、さらに2,6-ジメチルフェノールと他のフェノール類との共重合体等のポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。中でも、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、2,6-ジメチル-1,4-フェノールと2,3,6-トリメチル-1,4-フェノールとの共重合体が好ましい。2,6-ジメチル-1,4-フェノールと2,3,6-トリメチル-1,4-フェノールとの共重合体において、ポリフェニレンエーテル共重合体全量を100質量%としたときの2,3,6-トリメチル-1,4-フェノールに由来する構造単位の含有量は、10~30質量%であることが好ましく、15~25質量%であることがより好ましく、20~25質量%であることがさらに好ましい。
【0031】
ポリフェニレンエーテル(B)は、不飽和カルボン酸またはその誘導体等により変性されていてもよい。不飽和カルボン酸の具体例としては、無水マレイン酸等が挙げられる。
【0032】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、半芳香族ポリアミド(A)とポリフェニレンエーテル(B)の質量比(A/B)が、15/85~85/15であることが必要であり、20/80~80/20であることが好ましく、40/60~60/40であることがより好ましい。質量比が前記範囲内であることにより、熱可塑性樹脂組成物は、耐熱性、低吸水性、高温下での機械的特性といった物性と、成形性といった加工性とのバランスに優れたものとなる。
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、融点が290℃以上であることが必要であり、300℃以上であることが好ましく、305℃以上であることがさらに好ましく、310℃以上であることが特に好ましい。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、融点と結晶化温度との差が30℃以下であることが必要であり、28℃以下であることが好ましく、25℃以下であることがさらに好ましい。
融点と結晶化温度は、示差走査熱量計により測定できる。融点そのもの、あるいは融点と結晶化温度との差は、樹脂組成物の結晶性を表す指標であり、樹脂組成物は、融点が高いほど、あるいは融点と結晶化温度との差が小さいほど、高結晶性であると言える。樹脂組成物は、高結晶性であると、成形時の降温過程での結晶化が速く、得られる成形体も結晶化度が高くなる。すなわち、低吸水性、高耐熱性であり、高温下において高強度や高弾性率である成形体が得やすくなる。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、樹脂組成物の結晶性が向上し、樹脂組成物の吸水率が低下し、耐熱性や高温下での機械的特性が向上することから、結晶核剤(C)を含有することが好ましい。
結晶核剤(C)としては、例えば、タルク、シリカ、グラファイト、窒化ホウ素等の無機微粒子、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛等の金属酸化物が挙げられる。中でも、タルク、シリカ、窒化ホウ素等の無機微粒子が好ましく、特にタルクが好ましい。
結晶核剤の平均粒子径は、0.1~10μmであることが好ましく、0.1~5μmであることがより好ましく、0.5~3μmであることがさらに好ましい。
【0035】
熱可塑性樹脂組成物における結晶核剤(C)の含有量は、0~5.0質量%であることが好ましく、0.2~2.0質量%であることがより好ましい。結晶核剤(C)は、含有量が5.0質量%を超えると、結晶性を向上させる効果が飽和し、熱可塑性樹脂組成物の機械的特性を低下させる場合がある。
【0036】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、機械的特性が向上することから、強化材(D)を含有することが好ましい。
強化材(D)としては、繊維状強化材が挙げられる。繊維状強化材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、アスベスト繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ケナフ繊維、竹繊維、麻繊維、バガス繊維、高強度ポリエチレン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、セラミックス繊維、玄武岩繊維が挙げられる。
中でも、機械的特性の向上効果が高く、半芳香族ポリアミド(A)との溶融混練時の加熱温度に耐え得る耐熱性を有し、入手しやすいことから、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維が好ましい。ガラス繊維の具体例としては、例えば、日東紡社製「CS3G225S」、日本電気硝子社製「T-781H」が挙げられ、炭素繊維の具体例としては、例えば、東邦テナックス社製「HTA-C6-NR」が挙げられる。
繊維状強化材は、単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0037】
繊維状強化材の繊維長、繊維径は、特に限定されないが、繊維長は0.1~7mmであることが好ましく、0.5~6mmであることがより好ましい。繊維状強化材の繊維長が0.1~7mmであることにより、成形性に悪影響を及ぼすことなく、樹脂組成物を補強することができる。
また、繊維径は3~20μmであることが好ましく、5~13μmであることがさらに好ましい。繊維径が3~20μmであることにより、溶融混練時に折損することなく、樹脂組成物を効率よく補強することができる。
繊維状強化材の断面形状としては、例えば、円形、長方形、楕円、それ以外の異形断面が挙げられ、中でも、円形が好ましい。
【0038】
本発明においては、強化材(D)として、繊維状強化材のほかに、針状強化材、板状強化材を用いてもよい。特に繊維状強化材と、針状強化材や板状強化材を併用することにより、成形体の反りを小さくしたり、難燃試験時の耐ドリップ性を向上させたりすることができる。針状強化材としては、例えば、ウォラストナイト、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硫酸マグネシウムウィスカが挙げられる。板状強化材としては、例えば、マイカ、ガラスフレークが挙げられる。
【0039】
強化材(D)は、シランカップリング剤で表面処理されたものであるか、シランカップリング剤が分散した集束剤により表面処理されたものであることが好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、ビニルシラン系、アクリルシラン系、エポキシシラン系、アミノシラン系のシランカップリング剤が挙げられ、半芳香族ポリアミド(A)と強化材(D)との密着効果を得やすいことから、アミノシラン系のシランカップリング剤が好ましい。
【0040】
熱可塑性樹脂組成物における強化材(D)の含有量は、0~60質量%であることが好ましく、機械的強度が向上することから、1~50質量%であることがより好ましい。中でも、従来の半芳香族ポリアミドを用いた場合と比べて、曲げ強度や曲げ弾性率の向上効果が大きくなることから、15~50質量%であることがさらに好ましい。強化材(D)は、含有量が60質量%を超えると、樹機械的特性の向上効果が飽和し、それ以上の向上効果が見込めないばかりでなく、熱可塑性樹脂組成物は、流動性が極端に低下するために、成形体を得ることが困難になる場合がある。
【0041】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、半芳香族ポリアミド(A)とポリフェニレンエーテル(B)の相溶性が向上することから、相溶化剤(E)を含有してもよい。相溶化剤は、公知のものを用いることできる。相溶化剤(E)としては、半芳香族ポリアミドおよび/またはポリフェニレンエーテルと化学的または物理的に相互作用する多官能化合物等が挙げられる。多官能化合物としては、例えば、クエン酸、マレイン酸、イタコン酸およびそれらの無水物が挙げられる。中でも、無水マレイン酸、クエン酸がより好ましい。
【0042】
熱可塑性樹脂組成物における相溶化剤(E)の含有量は、0.01~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがより好ましく、0.1~2質量%であることがさらに好ましい。
【0043】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性の低下を補うことができることから、耐衝撃改良剤(F)を含有してもよい。耐衝撃改良剤(F)は、公知のものを用いることができる。耐衝撃改良剤(F)としては、例えば、芳香族ビニル化合物および/または共役ジエン化合物を主体とするブロックを少なくとも1個含むブロック共重合体や該ブロック共重合体の水素添加物が挙げられる。芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンが挙げられ、共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、1,3-ペンタジエンが挙げられる。これらの芳香族ビニル化合物および/また共役ジエン化合物は2種以上併用してもよい。
【0044】
熱可塑性樹脂組成物における耐衝撃改良剤(F)の含有量は、2~25質量%であることが好ましく、5~20質量%であることがより好ましく、5~15質量%であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、安定剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、炭化抑制剤等の添加剤をさらに含有してもよい。
着色剤としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック等の顔料、ニグロシン等の染料が挙げられる。安定剤としては、例えば、ヒンダートフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、光安定剤、銅化合物からなる熱安定剤、アルコール類からなる熱安定剤が挙げられる。難燃剤としては、例えば、臭素系難燃剤、ホスフィン酸金属塩からなるリン系難燃剤、ホスファゼン化合物からなる難燃剤が挙げられる。難燃助剤としては、例えば、錫酸亜鉛、硼酸亜鉛、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンやアンチモン酸ナトリウム等の金属塩が挙げられる。炭化抑制剤は、耐トラッキング性を向上させる添加剤であり、例えば、金属水酸化物、ホウ酸金属塩等の無機物が挙げられる。
【0046】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造する方法としては、半芳香族ポリアミド(A)、ポリフェニレンエーテル(B)および必要に応じて添加される結晶核剤(C)、強化材(D)やその他添加剤等を配合して、溶融混練する方法が好ましい。
【0047】
溶融混練法としては、ブラベンダー等のバッチ式ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ヘリカルローター、ロール、一軸押出機、二軸押出機等を用いる方法が挙げられる。
【0048】
熱可塑性樹脂組成物を様々な形状に加工する方法としては、例えば、溶融混合物をストランド状に押出しペレット形状にする方法や、溶融混合物をホットカット、アンダーウォーターカットしてペレット形状にする方法や、シート状に押出しカッティングする方法、ブロック状に押出し粉砕してパウダー形状にする方法が挙げられる。
【0049】
本発明の成形体は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものである。
熱可塑性樹脂組成物を成形して成形体を製造する方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、焼結成形法が挙げられる。中でも、機械的特性、成形性の向上効果が大きいことから、射出成形法が好ましい。
【0050】
射出成形機としては、特に限定されず、例えば、スクリューインライン式射出成形機やプランジャ式射出成形機が挙げられる。射出成形機のシリンダー内で加熱溶融された熱可塑性樹脂組成物は、ショットごとに計量され、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化された後、成形体として金型から取り出される。射出成形時に樹脂組成物を加熱溶融する温度は、半芳香族ポリアミド(A)の融点(Tm)以上であることが好ましく、(Tm+50℃)未満であることがより好ましい。
【0051】
成形時の金型温度は、特に限定されないが、150~230℃の間に設定すると、成形時の結晶化が特に進行しやすく、結晶化度の高い熱可塑性樹脂組成物を含有する成形体を得ることができ、ひいては高耐熱性や低吸水性に優れた成形体を得ることができる。なお、熱可塑性樹脂組成物の加熱溶融時には、十分に乾燥された熱可塑性樹脂組成物ペレットを用いることが好ましい。含有する水分量が多いと、射出成形機のシリンダー内で熱可塑性樹脂組成物が発泡し、最適な成形体を得ることが困難となることがある。射出成形に用いる樹脂組成物ペレットの水分率は、0.3質量%未満であることが好ましく、0.1質量%未満であることがより好ましい。
【0052】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、高耐熱性かつ低吸水性であり、高温環境下での強度や弾性率の低下が抑制されているため、自動車部品、電気電子部品、雑貨、産業機器部品等広範な用途の成形体成形用樹脂として使用することができる。
自動車部品としては、例えば、サーモスタット部材、インバータのIGBTモジュール部材、インシュレーター、モーターインシュレーター、エキゾーストフィニッシャー、パワーデバイス筐体、ECU筐体、PCU筐体、モーター部材、コイル部材、ケーブルの被覆材、車載用カメラ筐体、車載用カメラレンズホルダー、車載用コネクタ、エンジンマウント、インタークーラー、ベアリング リテーナー、オイルシールリング、チェーンカバー、ボールジョイント、チェーンテンショナー、スターターギア、減速機ギア、トランスミッションギア、電動パワーステアリングギア、車載用リチウムイオン電池トレー、車載用高電圧ヒューズの筐体、自動車用ターボチャージャーインペラ等が挙げられる。
電気・電子部品としては、例えば、コネクタ、ECUコネクタ、メインテンロックコネクタ、モジュラージャック、リフレクタ、LEDリフレクタ、スイッチ、センサー、ソケット、ピンソケット、コンデンサー、ジャック、ヒューズホルダー、リレー、コイルボビン、ブレーカー、回路部品、電磁開閉器、ホルダー、カバー、プラグ、携帯用パソコンやワープロ等の電気・電子機器の筐体部品、インペラ、掃除機インペラ、抵抗器、可変抵抗器、IC、LEDの筐体、カメラ筐体、カメラ鏡筒、カメラレンズホルダー、タクトスイッチ、照明用タクトスイッチ、ヘアアイロン筐体、ヘアアイロン櫛、全モールド直流専用小型スイッチ、有機ELディスプレイスイッチ、3Dプリンタ用の材料、モーター用ボンド磁石用の材料が挙げられる。
雑貨としては、例えば、トレー、シート、結束バンドが挙げられる。
産業機器部品としては、例えばインシュレーター類、コネクタ類、ギア類、スイッチ類、モーター類、センサー、インペラ、プラレールチェーンが挙げられる。
これらの用途の中でも、自動車のエンジンルームに使用する部品等に特に好適に用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0054】
1.測定方法
熱可塑性樹脂組成物および成形体の特性は、以下の方法により測定、評価した。
【0055】
(1)融点および結晶化温度
示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 DSC-7型)を用い、昇温速度20℃/分で360℃まで昇温した後、360℃で5分間保持し、降温速度20℃/分で25℃まで降温し、さらに25℃で5分間保持後、再び昇温速度20℃/分で昇温した。2回目の昇温時に観測された吸熱ピークのトップを融点とし、降温時に観測された発熱ピークのトップを結晶化温度とした。
【0056】
(2)密度
得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを十分に乾燥した後、射出成形機(ファナック社製 S2000i-100B型)を用いて、シリンダー温度(融点+15℃)、金型温度130℃、成形サイクル35秒の条件で射出成形し、ダンベル試験片を作製した。
得られたダンベル試験片を用いて、ISO1183に準拠して密度を測定した。
【0057】
(3)荷重たわみ温度
上記(3)で得られたダンベル試験片を用いて、ISO75-1,2に準拠して荷重1.8MPaにおける荷重たわみ温度を測定した。
【0058】
(4)吸水率
得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを十分に乾燥した後、射出成形機(日本製鋼所社製 J35-AD)を用いて、シリンダー温度(融点+15℃)、金型温度140℃、成形サイクル25秒の条件で、20mm×20mm×0.5mmの試験片を成形した。
得られた試験片を、ISO1110に準拠して、温度70℃、相対湿度62%の条件で吸湿処理をおこない、吸湿処理前後の質量から、下記式を用いて算出した。
吸水率[%]=(吸湿後の質量-吸湿前の質量)/(吸湿前の質量)×100
【0059】
(5)曲げ強度、曲げ弾性率
上記(2)で得られたダンベル試験片を用いて、23℃雰囲気下にて、ISO178に準拠して曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。同様に、150℃、200℃雰囲気下にても、曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。
150℃、200℃雰囲気下での曲げ強度を、それぞれ、23℃雰囲気下での曲げ強度で割って、150℃、200℃における曲げ強度保持率を算出した。
同様に、150℃、200℃雰囲気下での曲げ弾性率を、それぞれ、23℃雰囲気下での曲げ弾性率で割って、150℃、200℃における曲げ弾性率保持率を算出した。
【0060】
(6)シャルピー衝撃強度
上記(2)で得られたダンベル試験片から短冊状試験片を切り出して、ノッチを付けた後、23℃雰囲気下にて、ISO179-1eAに準拠してノッチ付きシャルピー衝撃強度を測定した。
【0061】
2.原料
実施例および比較例で用いた原料を以下に示す。
【0062】
(1)ポリアミド
・半芳香族ポリアミド(A-1)
ジカルボン酸成分として粉末状のテレフタル酸(TPA)4.81kgと、モノカルボン酸成分としてステアリン酸(STA)0.15kgと、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物9.3gとを、リボンブレンダー式の反応装置に入れ、窒素密閉下、回転数30rpmで撹拌しながら170℃に加熱した。その後、温度を170℃に保ち、かつ回転数を30rpmに保ったまま、液注装置を用いて、ジアミン成分として100℃に加温した1,10-デカンジアミン(DDA)5.04kgを、2.5時間かけて連続的(連続液注方式)に添加し反応生成物を得た。なお、原料モノマーのモル比は、TPA:DDA:STA=49.3:49.8:0.9(原料モノマーの官能基の当量比率は、TPA:DDA:STA=49.5:50.0:0.5)であった。
続いて、得られた反応生成物を、同じ反応装置で、窒素気流下、250℃、回転数30rpmで8時間加熱して重合し、半芳香族ポリアミドの粉末を作製した。
その後、得られた半芳香族ポリアミドの粉末を、二軸混練機を用いてストランド状とし、ストランドを水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングして半芳香族ポリアミド(A-1)ペレットを得た。
【0063】
・半芳香族ポリアミド(A-2)~(A-5)、(A-7)
樹脂組成を表1に示すように変更した以外は、半芳香族ポリアミド(A-1)と同様にして、半芳香族ポリアミドペレットを得た。
【0064】
・半芳香族ポリアミド(A-6)
樹脂組成を表1に示すように変更することと、得られた反応生成物を、窒素気流下、240℃、回転数30rpmで12時間加熱して重合すること以外は、半芳香族ポリアミド(A-1)の製造方法と同様の操作をおこなって半芳香族ポリアミド(A-6)ペレットを得た。
【0065】
上記半芳香族ポリアミド(A-1)~(A-7)の樹脂組成と特性値を表1に示す。
【0066】
【0067】
・脂肪族ポリアミド(A-8):ポリアミド66(ユニチカ社製 A125J)、融点260℃
【0068】
(2)ポリフェニレンエーテル
・B-1:ポリ-2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル(SABIC社製 ノリルPPO640)
【0069】
(3)結晶核剤
・C-1:タルク(日本タルク社製 SG-2000)、平均粒径1μm
(4)強化材
・D-1:炭素繊維(東邦テナックス社製 HTA-C6-NR)、平均繊維長6mm
・D-2:ガラス繊維(日東紡社製 CS3G225S)、平均繊維長3mm
(5)相溶化剤(E)
・E-1:無水マレイン酸(試薬)
(6)耐衝撃改良剤
・F-1:水添ブロック共重合体(旭化成ケミカルズ社製 タフテックH1272)
【0070】
実施例1
半芳香族ポリアミド(A-1)58.65質量部、ポリフェニレンエーテル(B-1)10.35質量部、結晶核剤(C-1)1.0質量部をドライブレンドし、ロスインウェイト式連続定量供給装置(クボタ社製 CE-W-1型)を用いて計量し、スクリュー径26mm、L/D50の同方向二軸押出機(東芝機械社製 TEM26SS型)の主供給口に供給して、溶融混練をおこなった。途中、サイドフィーダーより強化材(D-1)30.0質量部を供給し、さらに溶融混練をおこなった。ダイスからストランド状に引き取った後、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングして熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。押出機のバレル温度設定は、((A-1)の融点-5~+15℃)、スクリュー回転数250rpm、吐出量30kg/hとした。
【0071】
実施例2~10、12~13、15~17、比較例1~20、参考例1~2
熱可塑性樹脂組成物の組成を表2、4に示すように変更した以外は、実施例1と同様の操作をおこなって樹脂組成物のペレットを得た。
【0072】
熱可塑性樹脂組成物の樹脂組成とその特性を表2~5に示す。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
実施例1~10、12~13、15~17の樹脂組成物は、半芳香族ポリアミドとして、ポリアミド10T、11T、12Tを含有するため、ポリアミド9T、6Tを含有する場合よりも、吸水率が低く、荷重たわみ温度が高く、耐熱性に優れ、また、150℃および200℃の高温環境下においても曲げ強度や曲げ弾性率の低下が抑制されていた。
実施例2、5~7において、樹脂組成物は、結晶核剤を含有した方が、吸水性が低く、荷重たわみ温度、高温時の曲げ強度、高温時の曲げ弾性率が高く、耐熱性に優れていた。
実施例2、8~10において、樹脂組成物は、半芳香族ポリアミドとして、ジカルボン酸成分とジアミン成分とがそれぞれ1種類であるホモポリマーを含有した方が、吸水率が低く、荷重たわみ温度が高く、高温時の曲げ強度、高温時の曲げ弾性率が高くなった。
実施例2、12~13において、樹脂組成物は、強化材の含有量が多いほど、荷重たわみ温度、高温時の曲げ強度、高温時の曲げ弾性率が高く、耐熱性に優れていた。
実施例13、参考例2において、樹脂組成物は、ガラス繊維よりも炭素繊維を含有した方が、荷重たわみ温度、高温時の曲げ強度、高温時の曲げ弾性率が高く、耐熱性に優れていた。
実施例2、15、16において、樹脂組成物は、相溶化剤を含有した方が、曲げ強度が高くなった。
実施例2、17において、樹脂組成物は、耐衝撃改良剤を含有した方が、シャルピー衝撃強度が高くなった。
【0078】
比較例1、2の樹脂組成物は、半芳香族ポリアミド(A)とポリフェニレンエーテル(B)の質量比(A/B)が、15/85~85/15を外れて、半芳香族ポリアミドの含有量が多かったため、吸水率が高いものであり、また、質量比(A/B)が15/85~85/15の範囲内である実施例1~3と比べて、150℃および200℃における曲げ強度保持率や曲げ弾性率保持率が低いものであった。
比較例3、4の樹脂組成物は、半芳香族ポリアミド(A)とポリフェニレンエーテル(B)の質量比(A/B)が、15/85~85/15を外れて、ポリフェニレンエーテルの含有量が多かったため、粘度が高すぎて溶融混練ができなかった。
比較例5~20の樹脂組成物は、半芳香族ポリアミド(A)の構成や含有量が本発明で規定する要件を満たしていないため、150℃および200℃の高温環境下において、曲げ強度や曲げ弾性率が低下するものであり、また、吸水率も高いものであった。