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特許7194466船底への衝撃を低減させる船底構造を有する船首バルブ付き船舶
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】船底への衝撃を低減させる船底構造を有する船首バルブ付き船舶
(51)【国際特許分類】
   B63B 1/06 20060101AFI20221215BHJP
【FI】
B63B1/06 A
B63B1/06 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021165161
(22)【出願日】2021-10-07
【審査請求日】2021-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】596059934
【氏名又は名称】運上船舶工業有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000316
【氏名又は名称】特許業務法人ピー・エス・ディ
(72)【発明者】
【氏名】運上 賢逸
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-160221(JP,A)
【文献】実開昭53-132549(JP,U)
【文献】米国特許第5355828(US,A)
【文献】中国実用新案第206797634(CN,U)
【文献】実開平5-94091(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 1/06
B63B 3/38
B63B 3/16- 3/24
B63B 43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船底(5)と、船底の中央部を船底の長さ方向に延びるように船底に取り付けられたボックスキール又はバーキール(6)とを備え、海面との衝突による船底への衝撃を緩和させるように構成された船底構造を有する船首バルブ付き船舶(1)であって、
前記船舶(1)の長さ方向の少なくとも中央部より船首側の前記船底(5)において、前記ボックスキール又はバーキール(6)から、前記船底の前記ボックスキール又はバーキールの取付部(6a2、6b2)から両舷方向に離れた位置(5a、5b)まで、前記ボックスキール又はバーキールの両側面(6a、6b)の少なくとも一部を覆うように取り付けられた緩衝部材(7a、7b)を備えることを特徴とする、船首バルブ付き船舶。
【請求項2】
前記船舶の上甲板の前端位置(2a)が前記船舶の長さ(L)の測度基点であり、
前記緩衝部材(7a、7b)は、前記測度基点から、前記測度基点から船尾側に向かって前記長さの6分の1~4分の1までの範囲にわたって取り付けられた
ことを特徴とする、請求項1に記載の船首バルブ付き船舶。
【請求項3】
前記緩衝部材は、前記測度基点より前方の前記船首バルブ(4)にも設けられている
ことを特徴とする、請求項2に記載の船首バルブ付き船舶。
【請求項4】
前記緩衝部材(7a、7b)は、前記船舶の長さ方向に直交する横断面でみたときに、前記ボックスキール又はバーキール(6)と前記船底(5)との間に直線状に配置された平板である
ことを特徴とする、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の船首バルブ付き船舶。
【請求項5】
前記平板と前記ボックスキール又はバーキールの側面との間の角度は40度から70度である
ことを特徴とする、請求項4に記載の船首バルブ付き船舶。
【請求項6】
前記平板と前記ボックスキール又はバーキールの側面との間の角度は45度から65度である
ことを特徴とする、請求項5に記載の船首バルブ付き船舶。
【請求項7】
前記緩衝部材(7a、7b)は、前記船舶の長さ方向に直交する横断面でみたときに、前記ボックスキール又はバーキール(6)と前記船底(5)との間に、前記ボックスキール又はバーキールの側面側に向かって凸状に配置された屈曲板である
ことを特徴とする、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の船首バルブ付き船舶。
【請求項8】
前記緩衝部材(7a、7b)は、前記緩衝部材(7a、7b)と前記ボックスキール又はバーキール(6)との間に海水を流入させるための1つ又は複数の開口を有する
ことを特徴とする、請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の船首バルブ付き船舶。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船首部における船底に対する波の衝撃を低減させる緩衝部材が設けられた船底構造を有する船首バルブ付船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
船首バルブ(球状船首又はバルバス・バウともいう)は、船舶の船首に設けられた球状の突起であり、船首より前方で波を発生させることによって、船首バルブで発生した波と船首の前方で発生した波とを干渉させ、双方の波を打ち消し合うようにして波の発生を抑制することができる。そのため、船首バルブは、船舶に対する波の抵抗を低減させることができ、航行速度及び燃費の向上に有効である。船首バルブは、本来、喫水線の下に水没することで効果が発揮されるものであるが、水没しない小型船においても造波抵抗を減少させ、燃費の向上に有効であることが分かっている。
【0003】
一方、近年は、船舶建造技術の進歩によってアルミニウム合金製の漁船が急速に増加している。アルミニウム合金漁船は、軽量で耐腐食性が高く、メンテナンス負担の軽減やプラスチック使用量の減少による環境負荷の低減が可能である。また、軽量なアルミニウム合金漁船は、エンジンの高性能化及び軽量化の効果も伴って、高速走行と省エネルギーとを両立させることができるようになっている。
【0004】
アルミニウム合金漁船においては、高速化に伴って、船首及び船首近くの一定の範囲の船底に加わる波の衝撃も大きくなっている。荒天時の航行で船が激しく縦揺れ及び横揺れを繰り返すときに、船首船底及び船尾船底が波に叩きつけられて大きな衝撃を受ける現象(パンチング)や、船の落下時の重力と波の盛り上がりによる力との作用によって、船底が水面に衝突して大きな衝撃を受ける現象(スラミング)が発生する。船底の幅方向中央部分には傾斜が平坦な部分があり、パンチングやスラミングによってこの平坦な部分に加わる衝撃は大きく、特に船首から船長の1/8~1/6程度後方の部分が最も激しい衝撃を受けることになる。パンチングやスラミングが発生すると、乗組員や搭載機器類に大きな負担がかからないように減速走行を強いられたり、無理な航行を繰り返すことによって船底の凹みや内部フレームの損傷が生じ、多大な修繕が必要になったりする場合がある。
【0005】
船底に対する波の衝撃を低減させる技術として、例えば特許文献1(特開2018-122711)に記載の技術が提案されている。この技術は、船舶の船尾側の船体形状を、最下端から所定の高さまでの範囲において船体内部側に凸の曲線形状とするものである。この技術を用いた船舶は、船体自体に針路保持機能を持たせて船舶の進路安定性を向上させることができるとともに、船体の縦揺れ等による波の衝撃を低減させることができるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-122711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
小型漁船の多くは、その長さ方向中央部より船首側に多くの荷物を積載できるように設計されている。そのため、荷物を積載する船首側が重く、さらに、積載量を確保するために船底が平坦に近く、かつ船底面積が広い構造のものが多い。特に、時季に左右され短期間で大量の水揚げを行う北海道では、このような構造の小型漁船が多くみられる。こうした小型漁船は、船首近くでも傾斜角度(船体の長さ方向に直交する方向の横断面における船底の水平に対する角度)の小さい船底で波を受け、パンチングやスラミングを発生しやすいため、波による抵抗が大きく、エネルギー損失が大きい。空荷の小型漁船が沖の漁場に向かう場合には、向かい波によってさらに大きな衝撃が船底に加わる。また、特に北海道の海は低温であり、粘度の高い、いわゆる硬い海面であるため、波によって船底に加えられる衝撃がより大きい。
【0008】
船底に対する衝撃は、船首船底の傾斜角度を大きくすれば緩和されるが、傾斜角度を大きくすると、作業時及び航行時の船体姿勢の復原力が低下して船体の傾斜が大きくなるため、作業効率や安全性が低下する。また、小型漁船においては、船体の傾斜が大きくなると、追い波時に船首が前方の波に突き刺さり、横倒しになる現象(ブローチング現象)が発生しやすくなる。さらに、船首船底の傾斜角度を大きくすると、積載量が減少する。そのため、作業効率と積載量を重視する漁船は、船首船底の傾斜角を小さくすることが多い。
したがって、船首船底の傾斜角を小さくしながら、波による衝撃を低減させる船底構造が望まれている。
【0009】
本発明は、軽量な小型船舶に求められる船型及び性能を損なうことなく、船底におけるパンチング及びスラミングを低減させ、船体、乗務員及び機器類への衝撃及び負担を軽減させることができる船底構造を有する船首バルブ付き船舶を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、船底と、船底の中央部を船底の長さ方向に延びるように船底に取り付けられたボックスキール又はバーキールとを備え、海面との衝突による船底への衝撃を緩和させるように構成された船底構造を有する船首バルブ付き船舶を提供する。本発明に係る船舶は、船舶の長さ方向の少なくとも中央部より船首側の船底に緩衝部材を備えるものである。緩衝部材は、ボックスキール又はバーキールから、船底のボックスキール又はバーキールの取付部から両舷方向に離れた位置まで、ボックスキール又はバーキールの両側面の少なくとも一部を覆うように取り付けられる。
【0011】
一実施形態において、緩衝部材は、測度基点から、測度基点から船尾側に向かって船舶の長さの6分の1~4分の1までの範囲にわたって取り付けられることが好ましい。ここで、船舶の長さ(L)の測度基点は、船舶の上甲板の前端位置である。別の実施形態においては、緩衝部材は、測度基点より前方の船首バルブにも設けられていることが好ましい。
【0012】
一実施形態において、緩衝部材は、船舶の長さ方向に直交する横断面でみたときに、ボックスキール又はバーキールと船底との間に直線状に配置された平板であることが好ましい。別の実施形態において、緩衝部材は、船舶の長さ方向に直交する横断面でみたときに、ボックスキール又はバーキールと船底との間に、ボックスキール又はバーキールの側面側に向かって凸状に配置された屈曲板とすることもできる。
【0013】
一実施形態において、平板とボックスキール又はバーキールの側面との間の角度は40度から70度であることが好ましく、45度から65度であることがより好ましく、60度であることが最も好ましい。
【0014】
一実施形態において、緩衝部材は、緩衝部材とボックスキール又はバーキールとの間に海水を流入させるための1つ又は複数の開口を有するものとすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、船首バルブ付き船舶のボックスキール又はバーキールから両舷の船底板に向かって緩衝部材が設けられる。すなわち、本発明に係る船首バルブ付き船舶は、船舶の長さ方向に直交する横断面でみたときに、緩衝部材と船底とを3辺とする三角形が船舶の船底から下方に突出する船底構造を有する。したがって、航行中に船舶の船底が海面に衝突するときには、三角形の下端(すなわち、ボックスキール又はバーキールの下端)が船底より先に海面に着水し、三角形の2つの辺(すなわち、緩衝部材の表面)に沿って後方に流れる水流が形成される。この水流は、船底に向かう流れのクッションとして機能するため、船底に加わる波の衝撃を低減させる。また、長さ方向中央線付近の平坦な船底は、上記の三角形の内部に隠れるため、船底の平坦部分の面積が減少し、その減少に応じて船底に加わる衝撃を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1(a)】本発明の一実施形態による船底構造を有する漁船の船体全体の側面図である。
図1(b)】本発明の一実施形態による船底構造を有する漁船を示し、緩衝部材が設けられた部分を含む船体前部の側面図である。
図2】本発明の一実施形態による船底構造を有する漁船の横断面を示す図であり、図1(b)の矢視AAにおける船底部分の拡大断面である。
図3(a)】本発明の一実施形態による船底構造を有する漁船の船底における水の流れを示す図であり、緩衝部材が設けられた部分を含む船体前部を船底方向からみたときの水の流れを示す。
図3(b)】本発明の一実施形態による船底構造を有する漁船の船底における水の流れを示す図であり、船底を船首方向からみたときの水の流れを示す。
図4】本発明の別の実施形態による船底構造を有する漁船の横断面を示す図であり、図1(b)のAA矢視断面と同じ位置に対応する断面である。
図5】本発明の別の実施形態による船底構造を有する漁船の図であり、緩衝部材に海水の流入口及び流出口が設けられた状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態による船底構造を有する船首バルブ付き小型漁船(以下、単に漁船という)を示す図である。図1(a)は船体全体の側面図、図1(b)は緩衝部材が設けられた部分を含む船体前部の側面図である。また、図2は、図1(b)の矢視AAにおける船底部分の拡大断面を示す。なお、以下の説明においては、小型漁船を例として説明するが、本発明は、当然のことながら他の船舶においても利用可能である。
【0018】
漁船の船体1は、図1に示されるように船体の長さがLであり、船体の長さLは、参照番号2で示される位置にある上甲板2の前端位置2aが測度基点となる。船首3の下部には、船首バルブ4が設けられている。船首バルブ4は、上甲板2より下方において上甲板2より前方に突出している。船底5の長さ方向に直交する方向(幅方向)の中央部には、船底5の長さ方向に延びるボックスキール又はバーキール(以下、キール6という)が設けられている。
【0019】
本実施形態においては、船首バルブ4から船尾方向の所定の位置まで、緩衝部材7が船底5に設けられる。緩衝部材7は、船体1の長さ方向に延びる長さを有する板状体である右舷板7a及び左舷板7bから構成される。右舷板7aは、図2に示されるように、一方の長辺7a1がキール6の側面6aの最下端6a1に固定され、他方の長辺7a2が船底5におけるキール6の取付部6a2から右舷方向に離れた位置5aに固定される。同様に、左舷板7bは、一方の長辺7b1がキール6の側面6bの最下端6b1に固定され、他方の長辺7b2が船底5におけるキール6の取付部6b2から左舷方向に離れた位置5bに固定される。すなわち、船体1の長さ方向に直交する横断面でみたときに、船底5を底辺とし、右舷板7a及び左舷板7bを他の2辺とする下向きの略三角形が、船底5から突出するように形成される。
【0020】
長辺7a1、7b1が固定される位置は、キール6の最下端6a1、6b1であることが好ましいが、これに限定されるものではない。長辺7a1、7b1の位置は、最下端6a1、6b1より取付部6a2、6b2方向に移動した位置であってもよく、最下端6a1、6b1の近傍からキール6の高さ方向中央部付近までのいずれかの位置とすることもできる。この位置に長辺7a1、7b1を固定することによって、キール6の側面6a、6bの全部又は一部を緩衝部材7によって覆い、後述するような水の流れを生成させることができる。また、長辺7a2、7b2が固定される船底5の位置5a、5bは、船底5の幅方向中央部分にある平坦部51より外側であることが好ましい。この位置に長辺7a2、7b2を固定するように緩衝部材7を設けることによって、特に波の衝撃が大きくなる平坦部51を緩衝部材7の内部に隠すことができる。
【0021】
右舷板7a及び左舷板7bとキール6の側面6a、6bとの間の角度θは、40度から70度であることが好ましく、45度から65度であることがより好ましく、60度であることが最も好ましい。角度θが小さすぎると、後述されるような水の流れが生成されず、船底への衝撃を緩和させることができない。角度θが大きすぎると、右舷板7a及び左舷板7bそのものに対する波の衝撃が大きくなるため、結果として船体への衝撃を緩和させることができない。
【0022】
右舷板7a及び左舷板7bは、船首バルブ4の底部4aから、測度基点2aから船尾方向に向かってL/4の位置までの範囲に、連続的に設けられることが好ましい。すなわち、船首バルブ4からL/4の位置までのキール6の両側面6a及び6bが隠れるように、右舷板7a及び左舷板7bが配置されることが好ましい。
【0023】
右舷板7a及び左舷板7bは、船首バルブ4の底部4aにおいては、それぞれの上辺である長辺7a2及び長辺7b2が、当該底部4aの形状に一致するように曲線状に形成される。また、それぞれの下辺である長辺7a1及び長辺7b1は、船首バルブ4の先端方向に向かって曲線状に上昇し(図1(b)において7a11で示される部分)、それらの先端が長辺7a2及び長辺7b2の先端と接して、船首バルブ4の底部4aと滑らかに連なるように形成される。さらに、右舷板7a及び左舷板7bは、測度基点2aから船尾方向に向かって概ねL/4の位置において、それぞれの下辺である長辺7a1及び長辺7b1が船尾方向に向かって曲線的又は直線的に上昇し(図1(b)において7a12で示される部分)、長辺7a1及び長辺7b1の後端と長辺7a2及び長辺7b2の後端とが接するように形成される。
【0024】
船体1の船底5にこのような緩衝部材7を設けることによって、船底5において図3(a)及び図3(b)に示されるような水の流れが形成される。すなわち、航行中に船体1の船底5が海面に衝突するときには、キール6の最下端6a1、6b1に固定された緩衝部材7の長辺7a1、7b1が船底5より先に海面に着水し、その後に船底5が着水する。緩衝部材の長辺7a1、7b1が着水してから船底5が着水するまでの間、右舷板7a及び左舷板7bの表面に沿って斜め後方への海水の流れf1が生成される。この流れf1は、船底5に向かう波f2の水圧に対するクッションとして機能し、船底5に加わる波の衝撃を低減させる。また、船底5の平坦部51が緩衝部材7の内部に隠れているため、船底5において平坦に近い部分の面積が減少し、その面積減少の割合に応じて、船底5に加わる衝撃を低減させることができる。これに対して、本発明に係る緩衝部材7が設けられていない船体では、波f2の水圧が船底の、特に平坦に近い部分に直接作用するため、船底及び船体に大きな衝撃が加わる。
【0025】
本実施形態においては、緩衝部材7は、船首バルブ4の底部4aから、測度基点2aから船尾方向に向かってL/4の位置までの範囲にわたって設けられるが、これに限定されるものではなく、緩衝部材7の後端がL/4の位置より船首側に位置する(すなわち、緩衝部材7を短くする)ように設けてもよく、後端がL/4の位置より船尾側(好ましくは船体の概ね中央部までの範囲)に位置する(すなわち、緩衝部材7を長くする)ように設けてもよい。また、船首バルブ4の底部4aには緩衝部材7を設けず、船首バルブ4の後方から、測度基点2aから船尾方向に向かってL/4の位置までの範囲にのみ設けてもよい。ただし、パンチングやスラミングによって最も激しい衝撃を受ける位置、すなわち、船底5の測度基点2aからL/8~L/6程度までの範囲には、少なくとも、緩衝部材7が設けられている必要がある。すなわち、緩衝部材7は、船首バルブ4の後方から、測度基点2aからL/6の位置までの範囲にわたって少なくとも設けられ、船首バルブ4の底部4aにもさらに設けられることがより好ましく、船首バルブ4の底部4aから、測度基点2aからL/4の位置までの範囲にわたって設けられることが最も好ましい。
【0026】
本実施形態においては、緩衝部材7は、図2に示されるように、キール6の最下端6a1、6b1と船底5との間に直線状に配置された平板(右舷板7a及び左舷板7b)であるが、緩衝部材7の形状はこれ限定されるものではない。緩衝部材7は、航行中に着水したときに、図3に示されるように緩衝部材の表面に沿って斜め後方への流れf1が生成される形状であればよい。例えば、緩衝部材7は、図4に示されるように、船体1の長さ方向に直交する横断面でみたときに、キール6の最下端6a1、6b1と船底5との間に設けられた、キール6の側面6a、6b側に向かって凸状に配置された屈曲板とすることができる。
【0027】
本実施形態においては、緩衝部材7は、右舷板7a及び左舷板7bとキール6との間の閉空間を形成するように取り付けられている。しかし、緩衝部材7による閉空間が所定の容積(1m)を超えると、船体の容積(トン数)として加算されることになる。また、閉空間が多くなると船底の浮力が増大し、船体の安定性が低下する要因となる。したがって、船体の許可総トン数に余裕がない場合や、船底の浮力を増大させたくない場合には、図5に示されるように、緩衝部材7とキール6との間に海水を流入させるための前方開口71及び/又は後方開口72を緩衝部材7に設けることが好ましい。前方開口71及び/又は後方開口72は、右舷板7a及左舷板7bのそれぞれに1つずつ設けることも、複数個を設けることもできる。前方開口71を設けた場合は、流入した海水が排出されるように後方開口72を設けることが好ましい。
【符号の説明】
【0028】
1 船体
2 上甲板
2a 測度基点
3 船首
4 船首バルブ
4a 底部
5 船底
51 平坦部
5a 右舷板取付位置
5b 左舷板取付位置
6 キール
6a、6b 側面
6a1、6b1 最下端
6a2、6b2 取付部
7 緩衝部材
7a 右舷板
7a1、7a2 長辺
7b 左舷板
7b1、7b2 長辺
71 前方開口
72 後方開口
L 船体の長さ
f1、f2 海水の流れ

【要約】
【課題】 軽量な小型船舶に求められる船型及び性能を損なうことなく、船底におけるパンチング及びスラミングを低減させ、船体、乗務員及び機器類への衝撃及び負担を軽減させることができる船底構造を有する船首バルブ付き船舶を提供する。
【解決手段】 本船舶は、船舶の長さ方向の少なくとも中央部より船首側の船底に緩衝部材を備える。緩衝部材は、ボックスキール又はバーキールから、船底のボックスキール又はバーキールの取付部から両舷方向に離れた位置まで、ボックスキール又はバーキールの両側面の少なくとも一部を覆うように取り付けられる。
【選択図】 図1(a)
図1(a)】
図1(b)】
図2
図3(a)】
図3(b)】
図4
図5