(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】分散体及び樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20221215BHJP
C08K 5/49 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K5/49
(21)【出願番号】P 2017234480
(22)【出願日】2017-12-06
【審査請求日】2020-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(74)【代理人】
【識別番号】100152607
【氏名又は名称】水島 仁美
(72)【発明者】
【氏名】犬伏 良祐
(72)【発明者】
【氏名】木太 純子
(72)【発明者】
【氏名】阿南 和浩
(72)【発明者】
【氏名】富永 信雄
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-134851(JP,A)
【文献】特開2015-155393(JP,A)
【文献】特開平01-268615(JP,A)
【文献】特開2013-151660(JP,A)
【文献】特開2003-064322(JP,A)
【文献】特開2006-012804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
A61K 8/00-8/99
C09D 11/00-13/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリメチルシルセスキオキサン粒子、有機リン化合物及び有機溶剤を含む分散体であって、
前記有機リン化合物が、下記式(1)で表される有機リン化合物の少なくとも1種を含み、
前記ポリメチルシルセスキオキサン粒子の体積平均粒子径が200nm以下である分散体。
【化1】
上記式(1)中、x、yはそれぞれ独立して1又は2であり、x+yは3であり、R
1は炭素数1~
15の飽
和炭化水素
基であり、mは2~4の整数であり、nは0~30の整数である。
【請求項2】
ポリメチルシルセスキオキサン粒子、有機リン化合物を含む樹脂組成物であって、
前記有機リン化合物が、下記式(1)で表される有機リン化合物の少なくとも1種を含む樹脂組成物。
【化2】
上記式(1)中、x、yはそれぞれ独立して1又は2であり、x+yは3であり、R
1は炭素数1~
15の飽
和炭化水素
基であり、mは2~4の整数であり、nは0~30の整数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリメチルシルセスキオキサン粒子を含む分散体及び樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリシルセスキオキサン粒子は、有機基に由来する可溶性、柔軟性などの性質と、シロキサン結合に由来する耐熱性や硬度などの性質を合わせもつ材料であり、有機的性質と無機的性質を同時に達成できる材料として各種機能性材料の分野で注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、メチルトリアルコキシシランを加水分解するポリメチルシルセスキオキサン微粒子の製造方法であって、0.1μmから1μmの範囲内で平均粒子径を精密に、かつ効率良く制御可能なポリメチルシルセスキオキサン微粒子の製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、ポリシルセスキオキサン微粒子の水分散液は有機物との混合分散性が悪い点を指摘し、ポリシルセスキオキサン微粒子が安定に分散した有機溶媒分散液を製造することを目的として、pH2~9のポリシルセスキオキサン微粒子水分散液中の水分を有機溶媒置換するポリシルセスキオキサン微粒子有機溶媒分散液の製造方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-178357号公報
【文献】WO2006/070846号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリシルセスキオキサン粒子が、各種機能性材料の分野で用いられるためには、各種溶剤での分散性が良好なことに加えて、各種モノマー中での分散性が高いことが要求される場合がある。前述の特許文献1では、分散媒での粒子の分散性については何ら開示されておらず、また前記した特許文献2では、有機溶媒中でのポリシルセスキオキサン粒子の平均粒子径で評価されており、ポリシルセスキオキサン粒子の有機溶媒中での分散性は評価されているが、モノマー中での分散性については検討されていない。
【0007】
そこで、本発明は、ポリシルセスキオキサン粒子の中でも特にポリメチルシルセスキオキサン粒子に着目し、該粒子を有機溶剤中およびモノマー中で良好に分散させるための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成した本発明は以下の通りである。
[1]ポリメチルシルセスキオキサン粒子、有機リン化合物及び有機溶剤を含む分散体。
[2]前記有機リン化合物が、下記式(1)で表される有機リン化合物の少なくとも1種を含む[1]に記載の分散体。
【化1】
上記式(1)中、x、yはそれぞれ独立して1又は2であり、x+yは3であり、R
1は炭素数1~50の飽和又は不飽和炭化水素基、(メタ)アクリロイル基、炭素数6~100の芳香族含有炭化水素基であり、mは2~4の整数であり、nは0~30の整数である。
[3]前記ポリメチルシルセスキオキサン粒子の体積平均粒子径が200nm以下である[1]又は[2]に記載の分散体。
[4]ポリメチルシルセスキオキサン粒子、有機リン化合物を含む樹脂組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の分散体によれば、ポリメチルシルセスキオキサン粒子と共に有機リン化合物が含まれているため、該粒子を有機溶剤中で良好に分散させることができ、このような分散体を用いることで、すなわちポリメチルシルセスキオキサン粒子を有機リン化合物と共に存在させることで、モノマー中においても該粒子を良好に分散させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の分散体は、ポリメチルシルセスキオキサン粒子、有機リン化合物、有機溶剤を含んでおり、有機リン化合物を共に含むことで、ポリメチルシルセスキオキサン粒子を有機溶剤中で分散させることができる。
【0011】
ポリメチルシルセスキオキサン粒子は、[(CH3)SiO1.5)n]で表され、例えば後記するように、CH3Si(OR)3で表されるメチルトリアルコキシシランの加水分解・縮合反応によって形成される。
【0012】
本発明の分散体では、通常、ポリメチルシルセスキオキサン粒子が有機溶剤中でゲル化したり、沈殿したり、凝集したりすることなく分散している。例えば、ポリメチルシルセスキオキサン粒子の有機溶剤中での体積平均粒子径は、例えば200nm以下であり、より好ましくは100nm以下であり、更に好ましくは50nm以下であり、下限は特に限定されないが、例えば10nm以上であり、15nm以上であってもよい。
【0013】
前記有機溶剤としては、アルコール系溶剤;エーテル系溶剤;ケトン系溶剤;炭化水素系溶剤;ハロゲン化炭化水素系溶剤;フェノール等のフェノール系溶剤;エステル系溶剤;等の中から選択できる。
【0014】
前記アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、ペンタノール、メチルブタノール、ネオペンチルアルコール、イソペンチルアルコール、ヘキサノール、2-ヘキサノール、ヘプタノール、2-ヘプタノール、オクタノール、2-オクタノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール等のモノオール系溶剤;エタンジオール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、メチルペンタンジオール、エチルペンタンジオール等のジオール系溶剤;グリセリン、ヘキサントリオール等のトリオール系溶剤;メトキシエタノール、エトキシエタノール、メトキシメトキシエタノール、イソプロポキシエタノール、ブトキシエタノール、イソペンチルオキシエタノール、ヘキシルオキシエタノール、フェノキシエタノール、ベンジルオキシエタノール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、メトキシプロパノール(プロピレングリコールモノメチルエーテル)、エトキシプロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコール等のエーテルアルコール系溶剤;クロロエタノール、クロロプロパンジオール、トリフルオロエタノール等のハロゲン化アルコール系溶剤;ヒドロキシプロピオニトリル;アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、N-ブチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミノアルコール系溶剤;等が挙げられる。
【0015】
前記エーテル系溶剤としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等の脂肪族炭化水素エーテル系溶剤;ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル等の芳香族炭化水素エーテル系溶剤;プロピレンオキシド、フラン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル系溶剤;1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、1、2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、グリセリンエーテル等のポリエーテル系溶剤;等が挙げられる。
【0016】
ケトン系溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン等が挙げられる。
【0017】
前記炭化水素系溶剤としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の飽和脂肪族炭化水素系溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、ナフタレン、シクロヘキシルベンゼン、ジエチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤;シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の飽和脂環式炭化水素系溶剤;等が挙げられる。
【0018】
前記ハロゲン化炭化水素系溶剤としては、塩化メチル、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、塩化エチル等の塩素化脂肪族炭化水素系溶剤;クロロベンゼン、フルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶剤;等が挙げられる。
【0019】
前記エステル系溶剤としては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチル等のギ酸エステル系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、3-メトキシブチルアセテート、酢酸sec-ヘキシル、2-エチルブチルアセテート、2-エチルヘキシルアセテート、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、2-メトキシエチルアセテート、2-エトキシエチルアセテート、2-ブトキシエチルアセテート、2-フェノキシエチルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等の酢酸エステル系溶剤;プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソペンチル等のプロピオン酸エステル系溶剤;γ-ブチロラクトン:エチレングリコールモノアセテート;二酢酸エチレン;エチレングリコールエステル;ジエチレングリコールモノアセテート;炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等の炭酸エステル;乳酸エチル等の乳酸エステル;等が挙げられる。
【0020】
より好ましい有機溶剤は、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、又はアルコール系溶剤であり、特にメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、又はプロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。
【0021】
有機リン化合物は、有機基を有するリン化合物であり、例えば有機基と共に、リン酸基(-O-P(=O)(OH)2)、又はホスホン酸基(-P(=O)(OH)2)を有する化合物が挙げられる。
【0022】
有機リン化合物は、下記式(1)で表される有機リン化合物の少なくとも1種を含むことが好ましい。
【化2】
【0023】
上記式(1)中、x、yはそれぞれ独立して1又は2であり、x+yは3であり、R1は炭素数1~50の飽和又は不飽和炭化水素基、(メタ)アクリロイル基、炭素数6~100の芳香族含有炭化水素基であり、mは2~4の整数であり、nは0~30の整数である。なお、(メタ)アクリロイル基とは、CH2=C(CH3)-CO-*で表されるメタクリロイル基、及びCH2=CH-CO-*で表されるアクリロイル基の総称である。
【0024】
R1は飽和炭化水素基または芳香族含有炭化水素基であることが好ましい。また、R1の炭素数は2以上であることが好ましく、より好ましくは3以上であり、更に好ましくは4以上であり、上限は例えば50以下である。mは2又は3が好ましく、より好ましくは2である。nは15以下が好ましく、より好ましくは12以下である。特に、R1が、炭素数が2以上、15以下の飽和炭化水素基または芳香族含有炭化水素基であり、mが2又は3であり、nが0以上、15以下であることが好ましい。
【0025】
特に、有機リン化合物が、上記式(1)におけるxが1でありyが2である化合物(1-1)(すなわちリン酸モノエステル)と、上記式(1)におけるxが2でありyが1である化合物(1-2)(すなわちリン酸ジエステル)の混合物であることが好ましく、この時、前記化合物(1-1)におけるR1、n、mが、それぞれ前記化合物(1-2)におけるR1、n、mと全て同じであることが好ましい。
【0026】
ポリメチルシルセスキオキサン粒子100質量部に対する有機リン化合物の量は0.5質量部以上であることが好ましく、より好ましくは1.0質量部以上であり、更に好ましくは1.5質量部以上であり、また5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは4.0質量部以下であり、更に好ましくは3.0質量部以下である。
【0027】
また、ポリメチルシルセスキオキサン粒子100質量部に対する有機溶剤の量は150質量部以上であることが好ましく、より好ましくは200質量部以上であり、更に好ましくは250質量部以上であり、また2000質量部以下が好ましく、より好ましくは1000質量部以下であり、更に好ましくは600質量部以下である。
【0028】
ポリメチルシルセスキオキサン粒子の製造方法は、例えば、CH3Si(OR)3[式中、Rは炭素数1~6のアルキル基を表す。]で表される化合物(以下、「化合物(A)」という場合がある)の加水分解物、水及びアニオン性界面活性剤(s1)を含む加水分解液(a)と、水及びアニオン性界面活性剤(s2)を含む析出液(b)とを混合する工程を含む。加水分解液(a)と析出液(b)のいずれにもアニオン性界面活性剤が含まれていることにより、加水分解液(a)と析出液(b)とを混合する際に反応液を均一に混合することが容易となり、前記化合物(A)の加水分解物の縮合反応が均一に進みやすくなる。
【0029】
加水分解液(a)は、さらに酸触媒を含むことが好ましい。加水分解液(a)に酸触媒が含まれることで、化合物(A)及びその加水分解物の加水分解反応の制御が容易となる。
【0030】
また、化合物(A)と、水と、必要に応じて用いる酸触媒とを混合して、予備加水分解液を調製する工程と、該予備加水分解液とアニオン性界面活性剤(s1)とを混合して加水分解液(a)を調製する工程とにより製造することが好ましい。予め予備加水分解液を調製し、この予備加水分解液とアニオン性界面活性剤(s1)とを混合することで、アニオン性界面活性剤(s1)による加水分解反応への影響が抑制され、得られるポリメチルシルセスキオキサン粒子の粒子径の制御が容易となる。
【0031】
化合物(A)を加水分解すると、化合物(A)に含まれる-ORが順次-OHに変換され、生成した-OH同士が縮合してSi-O-Si結合が生じる。これらの加水分解・縮合反応は、並行して進行する場合があり、加水分解液(a)の調製時の温度や時間を適切な範囲に制御することで、加水分解液(a)と析出液(b)とを混合する際に、化合物(A)の加水分解・縮合反応の程度を適切な範囲に制御することが容易となる。
【0032】
析出液(b)は、水及びアニオン性界面活性剤(s2)と、必要に応じて塩基触媒を含む。析出液(b)に塩基触媒を用いることで、縮合反応の速度を高めることができる。
【0033】
上記加水分解液(a)と、析出液(b)とを混合することにより、化合物(A)の加水分解物に含まれる-Si-OH基(シラノール基)の縮合反応が進行してSi-O-Si結合が形成され、ポリメチルシルセスキオキサン粒子を得ることができる。加水分解液(a)と析出液(b)の両方にアニオン性界面活性剤が含まれているため、混合の当初から均一に混合することが容易となり、縮合反応が均等に進むためか、粒子径の均一なポリメチルシルセスキオキサン粒子を得ることが可能となる。さらに化合物(A)の加水分解物の脱水縮合を促進する観点から、加水分解液(a)を全量添加した後に熟成を行うことが好ましい。上記した製造方法によって得られるポリメチルシルセスキオキサン粒子は、反応液中、つまり水中に分散して存在しており、ポリメチルシルセスキオキサン粒子の水分散体(c)を得ることができる。水分散体(c)におけるポリメチルシルセスキオキサン粒子の体積平均粒子径は、例えば200nm以下であり、より好ましくは100nm以下であり、更に好ましくは50nm以下であり、下限は特に限定されないが、例えば10nm以上であり、15nm以上であってもよい。
【0034】
加水分解液(a)と析出液(b)の混合方法としては特に限定されず、1)加水分解液(a)及び析出液(b)を調製したのち、加水分解液(a)を一括添加、連続滴下、或いはノズルなどを介して前記析出液(b)に送入する方法、2)加水分解液(a)及び析出液(b)を調製したのち、析出液(b)を一括添加、連続滴下、或いはノズルなどを介して加水分解液(a)に送入する方法など任意の方法を適用することができるが、前記1)がより好ましい。
【0035】
得られたポリメチルシルセスキオキサン粒子の水分散体(c)と、有機リン化合物と、有機溶剤とを混合し、減圧蒸留などによって水分を除去するとともに、水分除去に伴って析出した前記界面活性剤を濾過などにより除去することで、ポリメチルシルセスキオキサン粒子、有機リン化合物、有機溶剤を含む分散体を得ることができる(以下、溶剤分散体(d)とよぶ)。また溶剤分散体(d)は、水分散体(c)を限外濾過膜により濾過しながら有機リン化合物を含む有機溶剤を添加することで調製してもよい。
【0036】
水分散体(c)と有機リン化合物と有機溶剤の混合手順は限定されないが、予め有機リン化合物と有機溶剤を混合した液を調製しておき、この混合液に水分散体(c)を加えることが好ましい。
【0037】
また、水分散体(c)を乾燥させて得られるポリメチルシルセスキオキサン粒子の粉体に有機リン化合物を含む有機溶剤を加え、分散させることにより溶剤分散体(d)を調製してもよい。
【0038】
更に、前記溶剤分散体(d)を重合性単量体(モノマー)と混合し、ポリメチルシルセスキオキサン粒子、有機リン化合物、モノマーを含む樹脂組成物を得ることができ、ポリメチルシルセスキオキサン粒子をモノマー中で分散させることができる。前記溶剤分散体(d)に含まれていた有機溶剤は減圧乾燥などによって除去してもよい。上記モノマーを含む組成物は、硬化性組成物に該当する。該硬化性組成物は、硬化後は、樹脂組成物を構成し、このような硬化性組成物も本発明の樹脂組成物に含まれる。樹脂組成物中のポリメチルシルセスキオキサン粒子の濃度は、例えば30質量%以上であり、好ましくは35質量%以上であり、更に好ましくは40質量%以上であり、また70質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましく、60質量%以下が更に好ましい。
【0039】
前記モノマーとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等のトリメチロールプロパンポリ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0040】
前記樹脂組成物(硬化後の硬化性組成物を含む)には、ポリメチルシルセスキオキサン粒子、有機リン化合物及び樹脂以外の他の添加成分を配合してもよい。かかる添加成分としては、例えば、硬化剤、硬化促進剤、着色剤、離型剤、反応性希釈剤、可塑剤、安定化剤、難燃助剤、架橋剤などを挙げることができる。
【0041】
樹脂組成物(硬化後の硬化性組成物を含む)の形状は特に制限されず、例えば、板、シート、フィルム、繊維などの成型材料としてもよい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0043】
後記する実施例及び比較例の測定および評価は以下の方法で行った。
【0044】
(1)ポリメチルシルセスキオキサン粒子の体積平均粒子径および粒径変化率の測定
得られたポリメチルシルセスキオキサン粒子の水分散体と有機溶剤分散体を濃厚系粒径アナライザー(大塚電子社製、「FPAR-1000」)にて測定し、体積平均粒子径を求めた。また、上記測定機により得られた体積平均粒子径を用いて、水分散体のポリメチルシルセスキオキサン粒子の体積平均粒子径と、有機溶剤分散体のポリメチルシルセスキオキサン粒子の体積平均粒子径の粒径変化率を下記式により求めた。
粒径変化率(%)=100×(有機溶剤分散体のポリメチルシルセスキオキサン粒子の体積平均粒子径/水分散体のポリメチルシルセスキオキサン粒子の体積平均粒子径)
【0045】
(2)モノマー分散性評価
ポリメチルシルセスキオキサン粒子の有機溶剤分散体に対して、重合性単量体であるジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬社製、KAYARAD DPHA)、あるいはトリメチロールプロパントリアクリレート(サートマー社製、SR351S)を粒子濃度が50質量%となるように混合し、PETフィルム上に塗工して80℃の真空乾燥機で溶剤を揮発させた。得られた塗膜の濁度を、下記の基準にて評価することでモノマー分散性を評価した。
◎:全体的に透明
○:やや白みがかった透明
△:部分的に白化
×:全体的に白化
【0046】
実施例1
攪拌機、温度計、滴下口および冷却機を備えたガラス製の反応釜に、脱イオン水100.6質量部、および10%酢酸水溶液を0.21質量部加え、室温で撹拌しながらメチルトリメトキシシラン(以下、「MTMS」と称する)100.6質量部を50分かけて滴下口より添加し、MTMSの加水分解を行った。MTMS滴下終了後に、アニオン性界面活性剤の水溶液として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩(日本乳化剤社製、ニューコール(登録商標)1305-SN)の20%水溶液を9.54質量部添加し、MTMSの加水分解液(a)を得た。
【0047】
他方、上記反応釜とは異なる攪拌機、温度計、滴下口および冷却機を備えたガラス製の反応釜に、脱イオン水686.6質量部および25%アンモニア水3.18質量部を加え、室温下で撹拌したのち、アニオン性界面活性剤の水溶液として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩(日本乳化剤社製、ニューコール(登録商標)1305-SN)の20%水溶液を10.32質量部加えてさらに室温で均一になるように撹拌し、析出液(b)とした。
【0048】
次いで、前記析出液(b)を室温にて撹拌しながら、この析出液(b)に前記加水分解液(a)を滴下口より60分かけて滴下したところ、ポリメチルシルセスキオキサン粒子が析出し、さらに加水分解液を全量滴下した後、室温にて30分撹拌し、反応液を60℃に昇温して60℃で1時間熟成を行い、その後反応溶液を冷却して300メッシュで濾過を行い、ポリメチルシルセスキオキサン粒子が分散した水分散体(c)を得た。
【0049】
続いて、有機リン化合物であるアルキルリン酸エステル(SC有機化学社製、Phoslex A-4)0.15質量部に対して、有機溶剤としてメチルイソブチルケトン(以下、MIBKと称する)45.0質量部を加えて室温下で撹拌した後、上記水分散体(c)100.0質量部を加え、撹拌回転数100rpmで室温にて撹拌した。十分に混合し、温度60℃、圧力225torr(約0.03MPa)の減圧条件下にて水分が3%以下になるまで減圧蒸留をおこなうと、前記界面活性剤が析出した。濾過することにより固形分濃度20%の透明なポリメチルシルセスキオキサン粒子の有機溶剤分散体(以下、溶剤分散体(d)と称する)を得た。溶剤分散体(d)の固形分濃度の測定は以下の通りである。
【0050】
固形分濃度の測定
ポリメチルシルセスキオキサン粒子の有機溶剤分散体を2gアルミカップに入れ、110℃に加熱したホットプレートで1時間加熱乾燥し、有機溶剤を蒸発させ固形物を得た。乾燥前後の質量より、固形分濃度(%)を下記式に従って算出した。
固形分濃度(%)
=[乾燥後の固形物の質量(g)]/[ポリメチルシルセスキオキサン粒子の有機溶剤分散体質量(g)]×100
【0051】
また、上記Phoslex A-4は、下記式で表される二種の化合物の混合物である。
【0052】
【0053】
実施例2
有機リン化合物を、アルキルリン酸エステル(SC有機化学社製、Phoslex A-13)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、溶剤分散体(d)を得た。なお、Phoslex A-13は、下記式で表される二種の化合物の混合物である。
【0054】
【0055】
実施例3
有機リン化合物を、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル(第一工業製薬社製、プライサーフA208F)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、溶剤分散体(d)を得た。なお、プライサーフA208Fは、下記式で表され、Rfがいずれも炭素数8のアルキル基である二種の化合物の混合物である。式中のnは非公開であるが1H-NMRを用いて分析したところ、nは約3であった。
【0056】
【0057】
実施例4
有機リン化合物を、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル(第一工業製薬社、プライサーフA208B)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、溶剤分散体(d)を得た。なお、プライサーフA208Bは、下記式で表され、Rbがいずれも炭素数12のアルキル基(ラウリル基)である二種の化合物の混合物である。式中のnは非公開であるが、1H-NMRを用いて分析したところ、nは約3であった。
【0058】
【0059】
比較例1
有機リン化合物を用いないこと以外は実施例1と同様の方法により溶剤分散体(d)を得た。
【0060】
比較例2
有機溶剤をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMEAと称する)に変更した以外は、比較例1と同様の方法により溶剤分散体(d)を得た。
【0061】
比較例3
有機溶剤をプロピレングリコールモノメチルエーテル(以下、PGMEと称する)に変更した以外は、比較例1と同様の方法により溶剤分散体(d)を得た。
【0062】
上記実施例及び比較例について、上記した(1)、(2)の方法で評価した結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
ポリメチルシルセスキオキサン粒子と共に有機リン化合物を含む溶剤分散体(d)を用いた実施例1~4では、水分散体におけるポリメチルシルセスキオキサン粒子の体積平均粒子径に対する有機溶剤分散体におけるポリメチルシルセスキオキサン粒子の体積平均粒子径の変化率が低く抑えられており(120%以下、より好ましくは110%以下、更に好ましくは100%以下)、有機溶剤中での分散性が良好であると共に、モノマー中での分散性も良好である。
【0065】
一方、有機リン化合物を含まなかった比較例1では、前記した体積平均粒子径の変化率が非常に大きく、実施例1~4と同じ有機溶剤中での分散性が著しく悪化したと共に、モノマー中での分散性も劣っていた。また、有機リン化合物を含まなかった比較例2、3も、モノマー中での分散性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の分散体は、有機溶剤中での分散性が良好である。このため、例えば、ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等の各種フィルムのアンチブロッキング剤や滑り性付与剤;各種フィルム、成型体など高分子材料のコーティング剤、あるいはコーティング剤用の添加剤;各種樹脂の粘度、チクソ性、粘弾性、或いは強度などの改質剤;半導体用封止材、液晶用シール材、LED発光素子用封止材等の各種電子部品用封止材;層間絶縁膜;光拡散フィルム、光拡散板、導光板、防眩フィルム等の光拡散剤;白色体質顔料等の化粧品用添加剤;歯科材料等の、シリカ粒子や有機樹脂粒子などの公知の用途への適用が可能である。