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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】皮膚化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/49 20060101AFI20221215BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20221215BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
A61K8/49
A61Q19/00
A61K8/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018099753
(22)【出願日】2018-05-24
(65)【公開番号】P2019026636
(43)【公開日】2019-02-21
【審査請求日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2017106124
(32)【優先日】2017-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017155274
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】犬丸 未央
(72)【発明者】
【氏名】蘇木 佳彦
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-504891(JP,A)
【文献】特開2016-222642(JP,A)
【文献】特表2003-528122(JP,A)
【文献】特表2005-521709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1a)又は(1b)
【化1】
(式中、R1は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、R2は、水素原子、カルボキシル基、
【化2】
(R5は、炭素数1~4のアルキル基を示し、R6は、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、アミノ酸基、ジペプチド基又はトリペプチド基を示す)を示し、R3及びR4は、同一又は異なって、水素原子又はヒドロキシル基を示し、nは、1、2又は3を示す)
で表される化合物0.01質量%以上5質量%以下、及び水86.53質量%以上99.5質量%以下を含有するpH4.0以上6.5以下の化粧水(pHが7未満である場合に、20℃から25℃の水への溶解性が1重量%未満の芳香族モノスルホン酸を含有する化粧水を除く)
【請求項2】
pHを4.0以上6.5以下にするpH調整剤を含有する請求項1記載の化粧水。
【請求項3】
さらに、多価アルコールを含有する請求項1又は2記載の化粧水。
【請求項4】
多価アルコールが、グリセリン、1,3-プロパンジオール、ソルビトール、1,3-ブチレングリコール、1,2-プロパンジオール、イソプレングリコール、ジプロピレングリコール及び数平均分子量10000以下のポリエチレングリコールから選ばれる1種又は2種以上である請求項3記載の化粧水。
【請求項5】
さらに、水溶性高分子を含有する請求項1~4のいずれか1項記載の化粧水。
【請求項6】
水溶性高分子が、キサンタンガム、チューベロース多糖体、クインスシードガム、ジェランガム、アルギン酸及びその塩、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸及びその塩、カラギーナン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、グアーガム、アガロース、プルラン、ローカストビーンガム、ガラクタン、アラビアガム、タラガム、タマリンドシードガム、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリル酸ジエチル硫酸塩・N,N-ジメチルアクリルアミド・ジメタクリル酸ポリエチレングリコール、カチオン化セルロース、カチオン化グアーガム及びヒドロキシプロピルグアーガムから選ばれる1種又は2種以上である請求項5記載の化粧水。
【請求項7】
一般式(1a)又は(1b)で表される化合物が、エクトインである請求項1~6のいずれか1項記載の化粧水。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
砂漠などの過酷な環境に生息する微生物が持つ環状アミノ酸誘導体である、エクトインは、保湿作用、フィラグリン遺伝子発現低下の抑制作用、ストレスタンパク質の保護作用、UV誘発性免疫抑制の予防作用等を有することが知られており、主に保湿剤として皮膚外用剤に使用されている(特許文献1~4)。
【0003】
一方、本出願人は、エクトイン及びその誘導体が、単なる保湿効果ではなく、角質細胞にあるケラチンに作用し、ケラチン分散効果、皮膚形状変化抑制効果、ケラチン凝集抑制効果、皮膚形状改善効果を発揮して、乾燥感を改善し、つっぱり感を抑制することを見出し、特許出願した(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-330535号公報
【文献】特開2002-302444号公報
【文献】特表2003-528122号公報
【文献】特表2003-528132号公報
【文献】特開2016-222642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、エクトイン及びその誘導体のケラチン分散効果、並びにつっぱり感抑制効果等の使用感がさらに改善された皮膚化粧料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者等は、エクトインを含有する組成物のケラチン分散効果、及びつっぱり感の抑制等に対する効果を検討してきたところ、エクトインを配合し、そのpHを4.0以上6.5以下に調整することで、ケラチン分散効果が顕著に向上すること、さらにこれに多価アルコール及び/又は水溶性高分子を配合することで、つっぱり感の抑制効果がさらに向上するとともに、潤い感が良好でべたつきの少ない使用感の良好な皮膚化粧料が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、一般式(1a)又は(1b)
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、R1は、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、R2は、水素原子、カルボキシル基、
【0010】
【化2】
【0011】
(R5は、炭素数1~4のアルキル基を示し、R6は、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、アミノ酸基、ジペプチド基又はトリペプチド基を示す)を示し、R3及びR4は、同一又は異なって、水素原子又はヒドロキシル基を示し、nは、1、2又は3を示す)
で表される化合物を含有するpH4.0以上6.5以下の皮膚化粧料を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、さらに多価アルコール及び/又は水溶性高分子を含有する前記皮膚化粧料を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の皮膚化粧料は、優れたケラチン分散効果を有するとともに、肌の乾燥感を改善し、つっぱり感を顕著に抑制し、さらに潤い感が良好で、かつべたつきが少ないという良好な使用感を有する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の皮膚化粧料に含有させる化合物は、一般式(1a)又は(1b)で表されるものである。
一般式(1a)又は(1b)で表される化合物は、光学異性体、ジアステレオマー、ラセミ体、双性イオン、陽イオンの形態で、またはこれらの混合物の形態で、組成物中に存在することができる。
これらのうち、ケラチンの分散性を向上させ、肌のつっぱり感を抑制する観点から、R1がメチル基であり、R2がカルボキシル基であり、R3およびR4が水素原子であり、nが2である化合物、すなわち、(S)-1,4,5,6-テトラヒドロ-2-メチル-4-ピリミジンカルボン酸(エクトイン)が好ましい。
【0015】
本発明の皮膚化粧料中のエクトイン及びその誘導体(一般式(1a)又は(1b)で表される化合物)の含有量は、ケラチンの分散性向上効果、つっぱり感抑制効果、潤い感向上効果、べたつきの抑制の観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.02質量%以上がより好ましく、0.03質量%以上がさらに好ましく、また5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。具体的には、0.01質量%以上5質量%以下が好ましく、0.02質量%以上3質量%以下がより好ましく、0.03質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。
【0016】
本発明の皮膚化粧料は、そのpHが4.0以上6.5以下である。当該化粧料のpHを4.0以上6.5以下に調整することにより、pHが7.0の場合に比べて、ケラチン分散性が顕著に向上し、肌のつっぱり感の抑制効果も向上する。また、pHを4.0以上とすることにより、肌に負担をかけることなく、使用感に優れた皮膚化粧料が得られる。より好ましいpHは4.5以上6.5以下であり、さらに好ましいpHは4.5以上6.0以下である。
【0017】
本発明の皮膚化粧料のpHを4.0以上6.5以下とするには、前記エクトイン又はその誘導体に加えて、pHを4.0以上6.5以下とするpH調整剤及び水を含有するのが好ましい。皮膚化粧料のpHを当該範囲に調整するpH調整剤としては、酸、アルカリ又はこれらの混合物が用いられ、緩衝液を用いてもよい。緩衝液としては、例えば酢酸緩衝液(酢酸+酢酸ナトリウム)、リン酸緩衝液(リン酸+リン酸ナトリウム)、クエン酸リン酸緩衝液(クエン酸+リン酸ナトリウム)、トリス緩衝液、クエン酸緩衝液(クエン酸+クエン酸ナトリウム)等が挙げられる。
【0018】
水の含有量は、ケラチンの分散性を向上させる観点、肌のつっぱり感を抑制する観点、潤い感を向上させる観点及びべたつきを抑制する観点から、皮膚化粧料中に20質量%以上99.9質量%以下が好ましく、25質量%以上99.7質量%以下がより好ましく、30質量%以上99.5質量%以下がさらに好ましい。
【0019】
本発明の皮膚化粧料は、さらに多価アルコール及び水溶性高分子から選ばれる1種又は2種以上を含有させることにより、肌のつっぱり感がさらに抑制され、潤い感が顕著に向上し、さらにべたつき感が抑制される。これらの肌のつっぱり感の抑制効果、潤い感の向上効果、べたつき感の抑制効果は、pHを4.0~6.5に調整した点と、多価アルコール及び/又は水溶性高分子を配合した点により発現されるものと考えられる。
【0020】
多価アルコールとしては、グリセリン、1,3-プロパンジオール、ソルビトール、1,3-ブチレングリコール、1,2-プロパンジオール、イソプレングリコール、ジプロピレングリコール及び数平均分子量10000以下のポリエチレングリコールから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。このうち、肌のつっぱり感の抑制、潤い感の向上、べたつきの抑制の観点から、グリセリン、1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール及び数平均分子量10000以下のポリエチレングリコールから選ばれる1種又は2種以上がより好ましい。
【0021】
多価アルコールの含有量は、肌のつっぱり感の抑制の観点、潤い感の向上効果の観点及びべたつきの抑制の観点から、皮膚化粧料中に0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましく、また30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。具体的な含有量の範囲としては、0.1質量%以上30質量%以下が好ましく、0.5質量%以上25質量%以下がより好ましく、1質量%以上20質量%以下がさらに好ましい。
【0022】
水溶性高分子としては、キサンタンガム、チューベロース多糖体、クインスシードガム、ジェランガム、アルギン酸及びその塩、ペクチン、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸及びその塩、カラギーナン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、グアーガム、アガロース、プルラン、ローカストビーンガム、ガラクタン、アラビアガム、タラガム、タマリンドシードガム、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリル酸ジエチル硫酸塩・N,N-ジメチルアクリルアミド・ジメタクリル酸ポリエチレングリコール、カチオン化セルロース、カチオン化グアーガム及びヒドロキシプロピルグアーガムから選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
これらのうち、肌のつっぱり感の抑制、潤い感の向上、べたつきの抑制の観点から、キサンタンガム、チューベロース多糖体、プルラン、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体及びヒドロキシプロピルグアーガムから選ばれる1種又は2種以上がより好ましい。
【0023】
水溶性高分子の含有量は、肌のつっぱり感の抑制の観点、潤い感の向上効果の観点及びべたつき抑制の観点から、皮膚化粧料中に0.001質量%以上が好ましく、0.003質量%以上がより好ましく、0.005質量%以上がさらに好ましく、また5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。具体的な含有量の範囲としては、0.001質量%以上5質量%以下が好ましく、0.003質量%以上3質量%以下がより好ましく、0.005質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。
また水溶性高分子として、キサンタンガム、プルラン、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体又はヒドロキシプロピルグアーガムを含有する場合、好適な含有量の範囲としては、0.005質量%以上5質量%以下が好ましく、0.01質量%以上3質量%以下がより好ましく、0.02質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。
また水溶性高分子としてチューベロース多糖体を含有する場合、好適な含有量の範囲としては、0.001質量%以上0.5質量%以下が好ましく、0.003質量%以上0.4質量%以下がより好ましく、0.005質量%以上0.3質量%以下がさらに好ましい。
【0024】
本発明の皮膚化粧料は、さらに、ケラチンの分散性を向上させる観点、肌のつっぱり感の抑制、潤い感の向上、べたつきの抑制の観点から、界面活性剤を含有することが好ましく、通常の化粧料に用いられる界面活性剤で、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤等を含有することができる。このうち、アニオン界面活性剤及び非イオン界面活性剤から選ばれる1種又は2種以上を含有することが好ましく、特に非イオン界面活性剤を含有するのがより好ましい。
非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレン(硬化)ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリンアルキルエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルグリコシド、アルキルグリセリルエーテル変性シリコーン、ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体等のポリオキシアルキレン変性シリコーン等が挙げられる。これらの中では、前記観点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体から選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0025】
これらの界面活性剤、特に非イオン界面活性剤の含有量は、皮膚化粧料中に、肌のつっぱり感の抑制、潤い感の向上、べたつきの抑制の観点から、0.01質量%以上3質量%以下が好ましく、0.05質量%以上2質量%以下がより好ましく、0.07質量%以上1.5質量%以下が好ましい。
【0026】
本発明の皮膚化粧料は、さらに、油剤、紫外線防御剤、美白剤、殺菌剤、制汗剤、保湿剤、清涼剤、各種植物抽出物、香料、着色剤等を含有することができる。これらの各剤は、各剤としての用途に限られず、目的に応じて他の用途、例えば、制汗剤を香料として含有したり、他の用途との併用として、例えば、制汗剤と香料としての効果を奏するものとして含有することができる。
【0027】
本発明の皮膚化粧料は、通常の方法により製造することができる。例えば、水に他の成分を添加し、必要に応じて加熱して、混合撹拌した後、冷却して、化粧料を得ることができる。
【0028】
本発明の皮膚化粧料は、皮膚、好ましくは頭皮を除く皮膚、より好ましくは顔、身体、手足等のいずれかに塗布することにより、使用することができる。
また、本発明の皮膚化粧料は、ケラチンの分散性を向上させる観点、肌のつっぱり感の抑制、潤い感の向上、べたつきの抑制の観点から、化粧水、クリーム、又は乳液の形態であるのが好ましい。さらに、本発明の皮膚化粧料は、シート基材に含浸させてフェイスマスク等のシート状化粧料として用いることもできる。特に、本発明の皮膚化粧料は、エクトイン及び/又はその誘導体を有効成分として含有するケラチン分散剤として用いるのが好ましい。
【0029】
本発明のシート状化粧料は、シート基材に本発明の皮膚化粧料を含浸させることにより得ることができる。皮膚化粧料をシート基材に含浸させる方法に制限はなく、例えば、スプレーやエアーガン等を用いて皮膚化粧料をシート基材に噴霧して含浸させる方法や、スリット型のノズル等を用いて皮膚化粧料を直接シート基材に塗布して含浸させる方法等がある。本発明のシート状化粧料中の皮膚化粧料の含浸率は、使用感を高め、塗布時の感触を良好にする観点から、シート基材100質量部に対し、好ましくは20~1500質量部であり、より好ましくは50~1000質量部である。
【0030】
本発明のシート状化粧料を構成するシート基材としては、特に限定されず、皮膚化粧料を含浸可能なシート状の支持体である。シート基材としては、織布又は不織布が好ましい。シート基材は、積層体(すなわち、積層シート)であってもよく、例えば、織布の積層体、不織布の積層体、織布と不織布の積層体等であってもよい。シート基材は、使用感の向上、加工のし易さ等の観点から、不織布を含むシート基材であることが好ましく、より好ましくは不織布である。不織布としては、スパンボンド不織布、スパンレース不織布、サーマルボンド不織布、ニードルパンチ不織布、スティッチボンド不織布等が挙げられる。
【0031】
織布や不織布を構成する繊維としては、特に限定されず、例えば、天然繊維、合成繊維、半天然繊維等が挙げられる。天然繊維としては、綿、パルプ、シルク、セルロース、麻、リンター、カボック等が挙げられる。合成繊維としては、ナイロン繊維、ポリエステル繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維等)、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維(例えば、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維等)等が挙げられる。半天然繊維としては、レーヨン、アセテート等が挙げられる。これらの繊維は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。また、2種以上の繊維からなる混紡繊維を用いてもよい。
【0032】
またシート基材の目付は、特に限定されないが、本発明のシート状化粧料の使用感を向上させる観点から、10~150g/m2が好ましく、より好ましくは15~110g/m2である。
【0033】
シート基材は、織布や不織布等の種類に応じて、公知の製造方法により製造することができる。
【0034】
本発明において、角層のケラチン分散効果は、例えば、IRスペクトルにより評価することができ、(1)測定対象の角層のIRスペクトル(スペクトル1)を測定し、(2)前記角層を40%以上75%以下の重水湿度下で7分以上40分以下処理し、(3)重水処理後の角層のIRスペクトル(スペクトル2)を測定し、(4)IRスペクトル中のアミドIの強度に対するアミドIIの強度について、スペクトル1とスペクトル2の比を指標として評価することができる。
この評価方法では、次の4工程を行う。
(1)測定対象の角層のIRスペクトル(スペクトル1)を測定する。
(2)前記角層を40%以上75%以下の重水湿度下で7分以上40分以下処理する。
(3)重水処理後の角層のIRスペクトル(スペクトル2)を測定する。
(4)IRスペクトル中のアミドIの強度に対するアミドIIの強度について、スペクトル1とスペクトル2の比を求める。
【0035】
工程(1)における測定対象の角層は、ヒトの角層であり、ヒトの皮膚から採取した角層である。皮膚から角層を採取するには、角層を粘着し得る樹脂フィルムを用いてテープストリッピングする手段、好ましくは樹脂フィルムの粘着面を皮膚に適用する手段が好適である。より好ましくは、1500~1700cm-1の光を95%以上透過し、角層を粘着し得る樹脂を用いて、皮膚から採取した角層を用いる。ここで、1500~1700cm-1の光を95%以上透過することは、アミド結合に相当する1500~1700cm-1にIRスペクトルの吸収ピークを実質的に示さないことを意味する。用いる樹脂フィルムは、このような波長の赤外線を95%以上透過するのが、角層のIRスペクトル中のアミドI及びアミドIIのピークを検出する点で好ましい。1500~1700cm-1の光の透過率は97%以上が好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
また、樹脂フィルムとしては、ヒトの角層を粘着して採取する必要性から、角層を選択的に粘着し得る樹脂フィルムが好ましい。角層を粘着し得る樹脂フィルムの粘着力は、JISC2107-11(2011年)に基づき測定される粘着力が0.1~1N/mmの範囲にあるものが、ヒトの皮膚の角層を選択的に採取できる点で好ましい。
このような樹脂フィルムとしては、フッ素系ポリマーを80質量%以上含有する粘着テープが好ましく、フッ素系ポリマーを80~100質量%含有する粘着テープがより好ましい。このような粘着テープの市販品としては、ニトフロン(登録商標)テープ(日東電工社製、粘着力:0.21N/mm(=3.9N/19mm))、アズフロンテープ(アズワン社製、粘着力:0.32N/mm(=8N/25mm))が挙げられる。
【0036】
用いる樹脂フィルムの粘着力により、1回のテープストリッピングにより採取できる角層の層数がほぼ定まるので、複数回テープストリッピングしその樹脂フィルムを重ねて測定することにより、複数の層までの保湿状態や化粧料の浸透性を評価することができる。例えば1回のテープストリッピングで採取できる角層が1~2層の樹脂フィルムを用いた場合は、3回テープストリッピングを行うことにより、3~6層程度までの角層を評価することができる。
【0037】
角層のIRスペクトルは、角層の透過光のIRスペクトルを測定することが好ましい。前記のように、1500~1700cm-1の光の透過度の高い樹脂フィルムを用いて採取した角層を試料として用いるため、透過光のIRスペクトルを測定することができる。このように透過光のIRスペクトルを測定するため、角層の表層だけでなく、角層全体のケラチン分散効果等を評価することが可能となる。
IRスペクトルの測定は、通常のFT-IRを用いることができる。
【0038】
工程(2)においては、前記角層を40%以上75%以下の重水湿度下で7分以上40分以下処理する。工程(2)においては、前記重水湿度の気相で処理することができる。重水湿度は、十分に重水素置換させつつ過剰に重水素置換がされることを抑制してアミドIIを評価の対象とする観点から、重水湿度は、40%以上であり、好ましくは42%以上であり、より好ましくは45%以上であり、そして75%以下であり、好ましくは73%以下であり、より好ましくは70%以下であり、測定精度の向上の観点から、さらに好ましくは65%以下であり、よりさらに好ましくは60%以下である。また、同様の観点から重水湿度は40~75%であり、42~73%が好ましく、45~70%がより好ましく、45~65%がさらに好ましく、45~60%がよりさらに好ましい。
また、重水による処理時間は、過剰な重水素置換を抑制しつつアミドIIによる評価を可能とする程度の重水素置換とする観点から、7分以上であり、好ましくは8分以上であり、より好ましくは9分以上であり、そして40分以下であり、好ましくは35分以下であり、より好ましくは30分以下であり、測定精度の向上の観点から、さらに好ましくは25分以下である。また、同様の観点から重水処理時間は、7分~40分であり、好ましくは8~35分であり、より好ましくは9~30分であり、さらに好ましくは9~25分である。
【0039】
ここで処理条件は、常温下で前記の重水湿度下中に角層試料を静置するのが好ましい。角層試料がテープストリッピングしたものである場合には、角層を含むテープをそのまま前記重水湿度下中に静置すればよい。即ち、テープ上の薄い角層試料であることから気相で重水処理を行うことができる。なお、常温とは、5℃~35℃であり、好ましくは15℃~30℃である。
【0040】
工程(3)では、重水処理後の角層のIRスペクトル(スペクトル2)を測定する。工程(3)のIRスペクトル測定は、工程(1)と同様の条件で行うのが望ましい。IRスペクトルの測定条件としては、温度25℃、湿度40~60%の環境で行い、角層を重水処理してから測定するまでの時間は、より正確な測定値を得る観点から、10分以内が好ましく、5分以内が好ましく、3分以内がより好ましく、1分以内がよりさらに好ましい。
【0041】
前記条件の重水処理により、角層構成成分と相互作用している水が多い場合と、少ない場合とでは、重水で置換される水素の量が相違するため、アミド結合のN-Hに由来するアミドIIのピークは大きく変化する。従って、重水処理前後の主にアミドIIのピークの強度変化を測定することにより、角層構成成分と相互作用している水の量、すなわち角層中で保湿作用に関与している水分量を正確に測定できる。
【0042】
工程(4)では、IRスペクトル中のアミドIの強度に対するアミドIIの強度について、スペクトル1とスペクトル2の比を指標として、角層ケラチンの分散性を評価する。
すなわち、スペクトル1におけるアミドIの強度に対するアミドIIの強度の比と、スペクトル2におけるアミドIの強度に対するアミドIIの強度の比とを対比することにより、角層ケラチンの分散性を評価できる。
【0043】
ここで、角層ケラチンの分散性を評価するには、予め多くのヒトの角層のデータを取得しておき、測定時の数値と対比することによって評価することができる。また、被測定者の過去のデータと比較することによっても評価できる。
【0044】
ケラチンの分散に関しては、ケラチンが凝集しているとケラチン間の距離が狭まり、-NH基の水素が水素結合あるいは他の分子間結合(疎水結合等)に関与しているものが多くなり(水素重水素交換反応におけるアミドIIのピークの変化量が小さい)、ケラチンが分散しているとそうした分子間結合に関与している-NH基が少なくなる(水素重水素交換反応におけるアミドIIのピークの変化量が大きい)と考えられる。従って、重水素処理によるアミドIIのピーク変化の度合いが、ケラチンの分散性の指標になる。
【実施例
【0045】
実施例1~4、比較例1
表1に示す組成の皮膚化粧料を製造し、ケラチン分散効果を評価したところ、表1に示すように、pH7.0の場合に比べて、pH4.0~6.5の範囲でケラチン分散効果が顕著に向上することが判った。
【0046】
(製造方法)
25℃にて、全成分を混合し、20分間撹拌して、化粧料を得た。
【0047】
(評価方法)
(1)ケラチン分散効果:
ヒト皮膚(TRANSKINTM Frozen dermatomed human skin BIOPREDIC International社製)をアセトン:エーテル=1:1の混合溶媒に20分浸漬した後、混合溶媒を除去し、次いで、水に20分浸漬させた(「アセトン/エーテル+水処理」)。その後、水を除去し、このヒト皮膚に粘着性のテープ(アズフロンテープ;アズワン社製、TF15-02、粘着力:0.32N/mm(=8N/25mm)、厚さ0.08mm)を貼り付け、テープの粘着面に角層を採取し、表1記載の化粧料に20分浸漬させた。浸漬後、化粧料をティッシュで押さえて吸収させ、テープ上に採取した角層を窒素気流雰囲気下に3分間静置することにより、乾燥させた。その後、乾燥させた角層のIRスペクトルを測定した(スペクトル1)。次いで、その角層を50%重水湿度下に10分間静置し(50%重水湿度のデシケーター内に静置し)、重水処理を実施した。重水処理後、再度IRスペクトルを測定した(スペクトル2)。
取得したスペクトル1、2を、アミドIを標準ピークとして補正して、補正スペクトル1、2を得た。次に、解析対象ピークとしてアミドII(ケラチン由来)に検出されるピークを用い、補正スペクトル1、2における吸収強度を読み取った。[{(重水置換後の吸光強度-重水置換前の吸光強度)/重水置換前の吸光強度}×100]を計算し、解析対象ピークの吸光強度変化率を求めた。求めた吸光強度変化率の値を、角層を重水処理したときの角層構成成分への重水素置換率(D化率)の目安として、各種化粧料間で比較した。その結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
実施例5~12
(製造方法)
25℃にて、全成分を混合し、20分間撹拌して、化粧水を得た。
【0050】
(評価方法)
表2に示す組成の化粧水を製造し、肌のつっぱり感のなさ、潤い感及びべたつきのなさを評価した。結果を表2に示す。
【0051】
(1)塗布後の肌のつっぱり感のなさ:
専門パネラー5名により、洗浄後の手の甲に各化粧水0.1gを適用し、1秒間に1回転、手の甲全体に円を描くように30秒間マッサージした。マッサージ終了3分後、ツッパリ感のなさについて、基準を9段階に分け、明らかにツッパリ感がないと判断した場合を5、明らかにツッパリ感があると判断した場合を1と評価し、5人の平均点で示した。
【0052】
(2)塗布後の肌の潤い感:
専門パネラー5名により、洗浄後の手の甲に各化粧水0.1gを適用し、1秒間に1回転、手の甲全体に円を描くように30秒間マッサージした。潤い感について、基準を9段階に分け、明らかに潤っていると判断した場合を5、明らかに潤っていないと判断した場合を1と評価し、5人の平均点で示した。
【0053】
(3)塗布後の肌のべたつきのなさ:
専門パネラー5名により、洗浄後の手の甲に各化粧水0.1gを適用し、1秒間に1回転、手の甲全体に円を描くように30秒間マッサージした。べたつきのなさについて、基準を9段階に分け、明らかにべたつきがないと判断した場合を5、明らかにべたつきがあると判断した場合を1と評価し、5人の平均点で示した。
【0054】
【表2】
【0055】
表2より、エクトインを含有するpH4.0~6.5の皮膚化粧料は肌のつっぱり感のなさ、及びべたつきのなさにおいて優れており、使用感のよい化粧料であった。さらに、多価アルコール及び/又は水溶性ポリマーを含有する皮膚化粧料は、肌のつっぱり感のなさ、潤い感、及びべたつきのなさがさらに向上していた。
【0056】
実施例13(化粧水)
【0057】
【表3】
【0058】
実施例14(クリーム)
【0059】
【表4】
【0060】
実施例15(美容液)
【0061】
【表5】
【0062】
実施例16(シート状化粧料)
下記組成の皮膚化粧料を不織布(綿)に含浸させてシート状化粧料(フェイスマスク)を得た。
【0063】
【表6】