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  • 特許-反芻家畜用飼料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】反芻家畜用飼料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 10/37 20160101AFI20221215BHJP
   A23K 20/163 20160101ALI20221215BHJP
   A23K 50/10 20160101ALI20221215BHJP
【FI】
A23K10/37
A23K20/163
A23K50/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018155846
(22)【出願日】2018-08-22
(65)【公開番号】P2020028254
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】592172574
【氏名又は名称】明治飼糧株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097825
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 久紀
(74)【代理人】
【識別番号】100137925
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 紀一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩下 有宏
(72)【発明者】
【氏名】大谷 喜永
(72)【発明者】
【氏名】島貫 芳浩
(72)【発明者】
【氏名】折橋 毅典
(72)【発明者】
【氏名】目黒 忠人
(72)【発明者】
【氏名】酒井 剣
(72)【発明者】
【氏名】野呂 昌義
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一哉
(72)【発明者】
【氏名】松本 功
(72)【発明者】
【氏名】木戸口 亘
(72)【発明者】
【氏名】池田 敦史
(72)【発明者】
【氏名】大川 史幸
(72)【発明者】
【氏名】及川 涼太
(72)【発明者】
【氏名】乙邉 聡一郎
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-031942(JP,A)
【文献】特開2017-099370(JP,A)
【文献】特開2006-014687(JP,A)
【文献】特開2006-109801(JP,A)
【文献】特開2016-198090(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0004098(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/37
A23K 20/163
A23K 50/10
A23K 40/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペレット形状及び/又は粒状の高タンパク質飼料原料を、加圧蒸煮処理装置により、加圧缶内の温度120~140℃、蒸気圧0.8~2.5kgf/cm、滞留時間5~40分の条件で加圧蒸煮処理することを特徴とする、牛用飼料中のタンパク質成分のルーメンバイパス率及び下部消化器官での消化吸収性の向上方法。
【請求項2】
加圧缶内の温度125~135℃、蒸気圧1.0~2.0kgf/cm、滞留時間10~25分の条件で加圧蒸煮処理することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
高タンパク質飼料原料に糖類及び/又はブラウニング剤を添加して加圧蒸煮処理することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
高タンパク質飼料原料が、脱脂大豆、丸大豆、グアミールコルマ、菜種油粕、コーングルテンミール、綿実油粕、ヒマワリ油粕、亜麻仁粕から選ばれる1以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反芻家畜用飼料の製造方法等に関する。詳細には、タンパク質などのルーメンバイパス率が高く、且つ、第4胃や小腸などの下部消化器官での消化吸収性は高い反芻家畜用飼料の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
牛、羊、山羊のように乳、肉などが商品となる反芻家畜においては、飼育している個体の乳量増加、乳成分向上、体重増加等が、酪農農家や畜産農家にとって常時課題となっている。
【0003】
反芻家畜の乳量増加、乳成分向上、体重増加等のためには、飼育環境の手入れ・清潔化なども重要な要素ではあるが、多くの場合はエサとなる飼料の摂食量増加が求められる。しかし、牧草などの繊維質が主体の粗飼料に代えて、デンプンやタンパク質含量が高く反芻家畜が好んで摂食する濃厚飼料を多く与えすぎると、濃厚飼料は非常に発酵しやすいため、反芻家畜のルーメン(第1胃)内において異常発酵が起こりやすく、ルーメン内環境が酸性化し、微生物による発酵効率の低下などを引き起す。また、大量のメタンガスが発生し、反芻家畜の食欲を低下させる。
【0004】
このように、飼料中のタンパク質やアミノ酸などの多くはルーメン内微生物により消費されるため、単に飼料摂食量を増加させるのは好ましくない。反芻家畜の成長や泌乳等の生産性を高めるには、不足する代謝タンパク質(MP)を補い且つエネルギー効率を高めるために、主に下部消化管(第4胃や小腸など)で吸収されるルーメンバイパスタンパク質(ルーメン非分解性タンパク質)を含む飼料の給与が求められる。
【0005】
なお、現状でも、ルーメンバイパス性を有し、かつ反芻動物の小腸で酸性もしくは中性アミノ酸を高濃度で放出して泌乳牛の乳量生産を促すことができる飼料(特許文献1)や、ルーメンバイパス性を向上し、第4胃での消化および吸収性が高い飼料組成物(特許文献2)などが知られているが、当業界では、簡便且つ効率的な、タンパク質などのルーメンバイパス率が高く、且つ、第4胃や小腸などの下部消化器官での消化吸収性は高い反芻家畜用飼料の製造方法等の開発が引き続き望まれていると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-125217号公報
【文献】特開2008-136447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、タンパク質などのルーメンバイパス率が高く、且つ、第4胃や小腸などの下部消化器官での消化吸収性は高い反芻家畜用飼料の製造方法等の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究の結果、反芻家畜用飼料製造に際し、ペレット形状及び/又は粒状の高タンパク質飼料原料を、加圧蒸煮処理装置により、加圧缶内の温度120~140℃、蒸気圧0.8~2.5kgf/cm、滞留時間5~40分の条件で加圧蒸煮処理する工程を経る方法により飼料を製造することで、タンパク質成分のルーメンバイパス率が高く、且つ、下部消化器官での消化吸収性は高い反芻家畜用飼料を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)ペレット形状及び/又は粒状の高タンパク質飼料原料を、加圧蒸煮処理装置により、加圧缶内の温度120~140℃、蒸気圧0.8~2.5kgf/cm、滞留時間5~40分の条件で加圧蒸煮処理する工程を経ることを特徴とする、タンパク質成分(タンパク質、ペプチド、アミノ酸)のルーメンバイパス率が高く且つ下部消化器官(第4胃、小腸など)での消化吸収性は高い反芻家畜用飼料の製造方法。
(2)加圧缶内の温度125~135℃、蒸気圧1.0~2.0kgf/cm、滞留時間10~25分の条件で加圧蒸煮処理する工程を経ることを特徴とする、(1)に記載の方法。
(3)高タンパク質飼料原料に糖類及び/又はブラウニング剤を添加してから加圧蒸煮処理する工程を経ることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)高タンパク質飼料原料が、脱脂大豆、丸大豆、グアミールコルマ、菜種油粕、コーングルテンミール、綿実油粕、ヒマワリ油粕、亜麻仁粕から選ばれる1以上である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の方法。
(5)牛用飼料を製造する方法である、(1)~(4)のいずれか1つに記載の方法。
(6)ペレット形状及び/又は粒状の高タンパク質飼料原料を、加圧蒸煮処理装置により、加圧缶内の温度120~140℃、蒸気圧0.8~2.5kgf/cm、滞留時間5~40分の条件で加圧蒸煮処理することを特徴とする、反芻家畜用飼料中のタンパク質成分(タンパク質、ペプチド、アミノ酸)のルーメンバイパス率及び下部消化器官(第4胃、小腸など)での消化吸収性の向上方法。
(7)加圧缶内の温度125~135℃、蒸気圧1.0~2.0kgf/cm、滞留時間10~25分の条件で加圧蒸煮処理することを特徴とする、(6)に記載の方法。
(8)高タンパク質飼料原料に糖類及び/又はブラウニング剤を添加して加圧蒸煮処理することを特徴とする、(6)又は(7)に記載の方法。
(9)高タンパク質飼料原料が、脱脂大豆、丸大豆、グアミールコルマ、菜種油粕、コーングルテンミール、綿実油粕、ヒマワリ油粕、亜麻仁粕から選ばれる1以上である、(6)~(8)のいずれか1つに記載の方法。
(10)牛用飼料のルーメンバイパス率及び下部消化器官での消化吸収性の向上方法である、(6)~(9)のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、タンパク質、ペプチド、アミノ酸等のルーメンバイパス率が高く、且つ、第4胃や小腸などの下部消化器官での消化吸収性は高い反芻家畜用飼料を簡便且つ効率的に製造することができ、この飼料を反芻家畜に給与することで、乳生産性が向上し、乳成分(乳品質)も向上し、個体の成長も増進することができる。例えば、飼料の約70~80%がルーメンをバイパスし、腸で吸収されるので(小腸可消化率:約90~96%)、給与したタンパク質を乳牛に高転化できる。
そのうえ、吸収されずに無駄になるタンパク質が少ないので、糞尿の量を抑制することができ、乳牛の胃腸への負担を少なくすることができ、全体として乳牛に対するストレス軽減効果も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1で加圧蒸煮処理した脱脂大豆の非分解性タンパク質(UIP)率を表すグラフである。左側のグラフが、左端が加圧蒸煮処理していないもの(未処理)、これ以外は、加圧缶内の蒸気圧1.5kgf/cm、滞留時間を20分に固定し、加圧缶内の温度を横軸に示した値で処理したもののUIP率(相対値)、右側のグラフが、左端が加圧蒸煮処理していないもの(未処理)、これ以外は、加圧缶内の蒸気圧1.5kgf/cm、温度を125℃に固定し、加圧缶内の滞留時間を横軸に示した時間で処理したもののUIP率(相対値)を示す。
図2】実施例2で製造した各種反芻家畜用飼料及び市販飼料の、試験管内でのプロテアーゼを使った消化試験の結果(UIP率)を示す。
図3】実施例2で製造した各種反芻家畜用飼料及び市販飼料の、フィステル牛・ナイロンバックによるルーメンバイパス率測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明では、タンパク質成分のルーメンバイパス率が高く且つ下部消化器官での消化吸収性は高い反芻家畜用飼料を製造するが、その原料としては、タンパク質成分を多く含有する高タンパク質飼料原料(例えば、粗タンパク(CP)15%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上)を用い、脱脂大豆(大豆粕)、丸大豆、グアミールコルマ、菜種油粕、コーングルテンミール、綿実油粕、ヒマワリ油粕、亜麻仁粕などが好適なものとして例示される。
【0014】
そして、この高タンパク質飼料原料の1つ乃至2つ以上を混合し、ペレット形状及び/又は粒状とする。この形状加工については、押し出し成型などの定法により行えば良く、特段限定はされない。なお、丸大豆は粒状であるため、これはそのまま用いても良い。なお、成型時の加工特性を考慮し、粒状のトウモロコシ、大麦などの飼料原料を高タンパク質飼料原料と併用して用いても良い。
例えば、丸棒型ペレットの場合、直径4~12mm、長さ5~40mmとすることができるが、これのみに限定されるものではなく、ペレット状飼料製造の定法にしたがって、形状、大きさを定めればよい。
【0015】
次に、このペレット形状及び/又は粒状の高タンパク質飼料原料を、加圧蒸煮処理装置(High Pressure Steaming Equipment)を用いて加圧蒸煮処理する。条件は、加圧缶内の温度120~140℃、好ましくは125~135℃、蒸気圧0.8~2.5kgf/cm、好ましくは1.0~2.0kgf/cm、滞留時間5~40分、好ましくは10~25分が示され、連続式でもバッチ式でもどちらでも処理することが出来る。
【0016】
この加圧蒸煮処理は、通常は澱粉のα化を目的とすることが一般的であるが、本発明では、効率良く飼料中のタンパク質と糖のメイラード反応を促進し(タンパク質を変性し)、これによりルーメン内微生物やタンパク質分解酵素による消化率を抑制し且つ下部消化器官での消化吸収性を向上することができるのが特徴である。
【0017】
なお、メイラード反応を促進するために、加圧缶に高タンパク質飼料原料入れる際などに、この原料に対して糖類(例えばブドウ糖)やブラウニング剤(例えばメイローズ)を粉のまま混合、あるいは溶解液にして数%程度(10%未満)の割合で添加することもできる。これにより、上記の所定の範囲内において、加圧缶滞留時間の短縮又は低い温度帯での処理が可能となる。
【0018】
加圧蒸煮処理装置は、通常は粒状の原料を対象とするため、脱脂大豆などの粉状の原料をそのまま処理する際には熱のかかり方を安定させるのが難しいのが一般的である。本発明では、加圧蒸煮処理前に原料をペレット状や粒状に成型しておくことで、加圧蒸煮処理時の流動性が高まり、熱のかかり方が安定し、生産能力を高めることができる。さらに、ペレット状や粒状の方が反芻家畜に給与しやすいという利点もある。
【0019】
加圧蒸煮処理後の飼料は、冷却後にそのまま反芻家畜用飼料として使用することもできるが、必要に応じて、更にフレーク状に加工(圧扁)する工程を行うこともできる。例えば、丸大豆などの粒状の原料の場合は、加圧蒸煮処理後、ロールでフレーク状にすることができる。
【0020】
本発明の対象となる動物は、その乳、肉などが商品となる反芻家畜である。例えば、乳牛(特にホルスタイン種、ジャージー種など)、肉牛(和牛など)、羊、山羊などがより好適な対象動物として例示される。
【0021】
なお、本発明において「タンパク質成分」とは、タンパク質(糖タンパク質などの修飾タンパク質も含む)、ペプチド(タンパク加水分解物なども含む)、アミノ酸を意味する。また、反芻家畜の「下部消化器官」とは、第4胃、十二指腸、小腸などを意味する。
【0022】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内においてこれらの様々な変形が可能である。
【実施例1】
【0023】
まず、以下の方法により、本発明に係る反芻家畜用飼料を製造した。
【0024】
脱脂大豆を試料とし、これを実験用オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)により、加圧缶内の蒸気圧1.5kgf/cmとし、加圧缶内の滞留時間を20分に固定して温度105℃、115℃、120℃、125℃、130℃、135℃の各条件、及び、加圧缶内の温度を125℃に固定して滞留時間5分、10分、15分、20分、25分、30分の各条件で加圧蒸煮処理を行った。その後、乾燥・冷却し各種バイパスタンパク性反芻家畜用飼料を得た。また別に、加圧蒸煮処理を行わない(未処理)ものをコントロールとした。
【0025】
これらの飼料について、in vitro酵素処理による非分解性タンパク質(UIP;Undegraded Intake Protein)率の測定を以下の方法で行った。
【0026】
まず、各試料を粉砕機で1mm粉砕したものを三角フラスコに0.3~1.0gはかり、ここにホウ酸リン酸緩衝液(pH6.7)40mLを加え、39℃、1時間振とう(130rpm)してプレインキュベーションした。その後、ホウ酸リン酸緩衝液で0.33units/mLに調製したタンパク分解酵素液10mLを添加し、39℃で18時間振とうした。そして、ガラス製るつぼ(フォス・ジャパン株式会社製品)とレーヨンペーパー(三紳工業株式会社製品)を組み合わせた濾過ユニットを事前に乾燥及び計量を行っておき、これとCold Extraction Unit 1021(フォス・ジャパン株式会社製品)を用い、酵素処理液を全量濾過した。蒸留水で残渣物を良く洗った後、濾過ユニットごと乾燥させ、計量した。計量後、レーヨンペーパー上に残った乾燥残渣の粗タンパク質を燃焼式タンパク測定装置(ゲルハルトジャパン株式会社製品)で測定し、下記の計算式にてUIP率を算出した。
【0027】
A;ガラス製るつぼ+レーヨンペーパーの重量(g)
B;計量した試料の重量(g)
C;酵素処理・濾過後の試料を含むガラス製るつぼ+レーヨンペーパーの重量(g)
D;試料の粗タンパク質含量(%)
E;酵素処理・濾過後の試料の粗タンパク質含量(%)
(UIP率計算式)
((C-A)×E)÷(B×D)×100=全タンパク質に占める非分解性タンパク質の割合%
【0028】
この結果を図1に示した。この結果から、脱脂大豆ペレットを125℃・20分以上の高圧蒸気処理条件で加圧蒸煮処理することで、飼料のUIP率がほぼ上限に達することが明らかとなった。
【実施例2】
【0029】
まず、以下の方法により、本発明に係る反芻家畜用飼料を製造した。
【0030】
脱脂大豆をペレット化したものを、加圧蒸煮処理装置により、加圧缶内の蒸気圧1.5kgf/cm、温度130℃、滞留時間20分の条件で加圧蒸煮処理を行った。その後、乾燥・冷却し各種バイパスタンパク性(BP)脱脂大豆を得た。
【0031】
これらの飼料及び参考品として市販バイパス脱脂大豆製品X、Y、Zについて、in vitro酵素処理による非分解性タンパク質(UIP)の測定、及び、in situルーメン内タンパク質有効分解率(ED)の測定を行った。なお、測定は、可能であれば複数検体の測定を行い、また、UIP率は実施例1と同様の方法で、ED測定は以下の方法で行った。
【0032】
ナイロンバッグ(10cm×20cm、目開き53μmサンプルバッグBG1020/三紳工業株式会社製品)に各試料(2mmスクリーン粉砕)をそれぞれ約5gずつ入れ、封をした後、ナイロンバッグをルーメンカニューレ装着ホルスタイン種去勢牛4頭のルーメン内に留置した。各ナイロンバッグを3、6、12、24、48時間後に回収し、流水でよく洗浄後、60℃で48時間乾燥させ、残渣の乾物重量を測定し、乾物消化率を算出した。残渣の一部は粗タンパク質分析に供し、各時間の粗タンパク質の消化率を算出した。また、各時間、各個体の粗タンパク質消化率からルーメン内の分解パラメータを算出した。分解パラメータを算出するモデル式(漸近線)は下記のものを用いた。
【0033】
(1)P=a+b×(1-e-ct
(2)P=A+B×(1-e-c(t-t0)
(3)t0=(1÷c)×log[b÷(a+b-A)]
ここで、Pは、ルーメン内留置t時間における分解率、a又はAが可溶性画分、b又はBが実質分解性画分、cがb(B)の分解速度定数およびt0がラグタイム(b(B)が分解を始めるまでの時間)を示す。また、Aは流水洗浄によるロス(ルーメン内に投入しないナイロンバッグを洗浄した後の減量)である。A≦aの場合、測定したデータを式(1)に当てはめa、b、cを算出する。しかし、A>aの場合、式(3)を用いてラグタイム(t0)を計算し、その後式(2)を用いてa、b、cを算出する。
各飼料の有効分解率(ED)は上記の分解パラメータと飼料の第一胃通過速度定数(k)から次式(4)で計算可能である。
【0034】
(4)ED(%)=a+b×c÷(c+k)
なお、kは高泌乳牛における定数0.08/時間を用い有効分解率を算出した。
また、飼料のルーメンバイパス率は次式(5)により求められる。
【0035】
(5)ルーメンバイパス率(%)=100-ED
【0036】
これらの結果を図2及び3に示した。これらの結果から、UIP率及びルーメンバイパス率はいずれも高い順から市販品X、本発明品(BP脱脂大豆)、市販品Z、市販品Y、未処理脱脂大豆となることが明らかとなった。
【0037】
以上の結果から、本発明品の反芻家畜用飼料が高いUIP率及びルーメンバイパス率を有することが示された。
【0038】
次のようにして下部消化管での消化率の測定を行った。
ナイロンバッグ(10cm×20cm、目開き53μmサンプルバッグBG1020/三紳工業株式会社製品)に各飼料(2mmスクリーン粉砕)をそれぞれ約5g×2個ずつ入れ、封をした後、ナイロンバッグをルーメンカニューレ装着ホルスタイン種去勢牛のルーメン内に留置した。各飼料の入ったナイロンバッグ2つずつを16時間後に回収し、流水でよく洗浄後、その内1つは60℃で48時間乾燥させ、残渣の乾物重量を測定し、乾物消化率を算出した。また、残渣の一部は粗タンパク質分析に供し、第一胃内での粗タンパク質の消化率を算出した。
【0039】
また、残ったナイロンバッグは流水で洗浄の後、よく水を切り、500mL容の試験管内に移し、そこへペプシン(Sigma P-7000)を1g/Lの割合で含むpH1.9、0.1規定の塩酸溶液を300mL加えて、39℃で1時間培養した。これにより反芻家畜の第四胃を模した消化を行った。
【0040】
1時間の培養の後、ナイロンバッグを取り出し流水でよく洗浄し、水を切った後、新たな試験管へ移し、そこへパンクレアチン(Sigma P-7545)を1.5g/Lの割合で含むpH7.8の0.25mol/Lのリン酸緩衝液を300mL加えて、39℃で24時間培養した。これにより反芻家畜の十二指腸を模した消化を行った。24時間後、ナイロンバッグを回収し、残渣の乾物重量および粗タンパク質含量を測定した。
【0041】
下部消化管、すなわち第四胃および十二指腸におけるタンパク質消化率は、〈(第一胃内における非消化タンパク質量)-(消化試験における最終の残渣のタンパク質量)/(第一胃内における非消化タンパク質量)×100〉として求めた。また、第一胃内で分解されず下部消化管で消化されるタンパク質の割合は、〈(第一胃内におけるタンパク質の非消化率)×(下部消化管におけるタンパク質消化率)/100〉として求めた。
上記の結果を表1に示した(なお、市販品X、Y、Zは図2、3と同一のものである)。
【0042】
(表1)
【0043】
表1に示したように、本発明品は高いルーメンバイパス率を有しており、かつ下部消化管で消化されるタンパク質量を高めることが出来る。
【0044】
なお、本発明を要約すれば次のとおりである。
【0045】
すなわち、本発明は、タンパク質などのルーメンバイパス率が高く、且つ、第4胃や小腸などの下部消化器官での消化吸収性は高い反芻家畜用飼料の製造方法等を提供することを目的とする。
【0046】
そして、ペレット形状及び/又は粒状の高タンパク質飼料原料を、加圧蒸煮処理装置により、加圧缶内の温度120~140℃、蒸気圧0.8~2.5kgf/cm、滞留時間5~40分の条件で加圧蒸煮処理する工程を経る方法により飼料を製造することで、タンパク質成分のルーメンバイパス率が高く、且つ、下部消化器官での消化吸収性は高い反芻家畜用飼料を得ることができる。
図1
図2
図3