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特許7194535発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子、およびポリスチレン系樹脂発泡成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子、およびポリスチレン系樹脂発泡成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/16 20060101AFI20221215BHJP
【FI】
C08J9/16 CET
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018162244
(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公開番号】P2020033481
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】中川 拓也
(72)【発明者】
【氏名】矢野 義仁
(72)【発明者】
【氏名】沓水 竜太
(72)【発明者】
【氏名】丸橋 正太郎
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-127612(JP,A)
【文献】特表2010-527390(JP,A)
【文献】国際公開第2015/137363(WO,A1)
【文献】特開2014-118474(JP,A)
【文献】特開2014-080514(JP,A)
【文献】特開2018-090707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00- 9/42
B29C 44/00-44/60;67/20
B29B 7/00-11/14
B29B 13/00-15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素系輻射伝熱抑制剤を含むポリスチレン系樹脂組成物および発泡剤からなる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって、
前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子のアスペクト比が0.95以下であり、且つ真球度が0.970以上であり、
前記アスペクト比および真球度は、以下のとおり算出されるものである、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子
50gの発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の投影図を撮影し、得られた各発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の投影図の周囲長、面積、長径、短径を測定する。得られた各発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の投影図の周囲長及び面積から以下の式に基づき、真球度の平均値を算出する。
【数1】
(S をi番目の粒子の面積(mm )、R をi番目の粒子の周囲長(mm)とする。)
得られた各発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の投影図の長径と短径から以下の式に基づき、アスペクト比の平均値を算出する。
【数2】
(S をi番目の粒子の短径(mm)、l をi番目の粒子の長径(mm)とする。)
【請求項2】
真球度が0.980以上である、請求項1記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項3】
前記炭素系輻射伝熱抑制剤が、ポリスチレン系樹脂組成物100重量%において2~10重量%である、請求項1または2に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項4】
前記炭素系輻射伝熱抑制剤が、グラファイト、グラフェン、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、活性炭、および、膨張黒鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項5】
前記発泡剤が、ペンタン及び/またはブタンを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項6】
前記発泡剤がブタンを含み、前記ブタンがイソブタンを含む、請求項5に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項7】
前記発泡剤がペンタンを含み、前記イソブタンを前記ペンタンおよび前記ブタンの総量100重量%に対して20重量%超50重量%以下含む、請求項6に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項8】
前記発泡剤がペンタンを含み、前記ペンタンがノルマルペンタンおよびイソペンタンの重量比が100/0~60/40である、請求項5~7のいずれか一項に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項9】
前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の真密度が950~1060kg/mである、請求項1~8のいずれか一項に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項10】
前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡させたかさ倍率75cm/g以上85cm/g以下の予備発泡粒子を発泡成形した時における発泡成形体の熱伝導率が0.0330W/m・K以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の予備発泡粒子。
【請求項12】
かさ倍率が75cm/g以上である、請求項11に記載の予備発泡粒子。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか一項に記載の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、または請求項11または12の予備発泡粒子を成形して得られるポリスチレン系樹脂発泡成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、その予備発泡粒子、およびそれを用いた発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂発泡体は、軽量性、断熱性、及び緩衝性等を有するバランスに優れた発泡体であり、従来から食品容器箱、保冷箱、緩衝材、及び住宅等の断熱材として広く利用されている。
【0003】
中でも、近年、地球温暖化等の諸問題に関連し、住宅等建築物の断熱性向上による省エネルギー化が志向されつつあり、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を用いて得られるポリスチレン系樹脂発泡成形体の需要拡大が期待される。そのため、当該ポリスチレン系樹脂発泡体の発泡性や断熱性の向上について種々の検討がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1の発明によれば、輻射伝熱抑制剤を添加した発泡性ポリスチレン系樹脂粒子において、輻射抑制剤含有量に対する臭素系難燃剤に由来する臭素原子含有量の比率である臭素原子含有量/輻射伝熱抑制剤含有量を特定範囲にすることで、断熱性と難燃性を両立することができる。
【0005】
特許文献2の発明によれば、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子中の炭素数4の炭化水素と炭素数5の炭化水素の含有比率が2/98~20/80であることで、難燃性の低下がみられず、環境適合性にも優れた難燃剤を使用していると共に、輻射伝熱抑制剤も含有している為、低い熱伝導率を有する、高い難燃性および断熱性が両立でき、さらには熟成期間を必要としない発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を提供することができる。
【0006】
また、特許文献3では、熱可塑性樹脂発泡性粒子の製造方法であって、ダイの小孔ランド部を通過する際の発泡剤含有溶融樹脂の剪断速度が12000~35000sec-1、且つ樹脂の見かけ溶融粘度が100~700ポイズとなるように押し出すことによって、樹脂粒子の形状が真球状で、機械的強度に優れた発泡成形品を製造できる熱可塑性樹脂発泡性粒子の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-080514号公報
【文献】特開2014-118474号公報
【文献】国際公開第WO2005/028173
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高発泡倍率および高断熱性を両立したポリスチレン系樹脂発泡成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ポリスチレン系樹脂発泡成形体は発泡倍率が高いほど原料である発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の使用量が少なくなることから、ポリスチレン系樹脂発泡成形体の断熱特性を維持しつつ、高発泡化されることが望まれる。しかし、特許文献1および2は難燃性と高断熱性を両立したポリスチレン系樹脂発泡成形体を得る発明であるが、高倍発泡時の発泡性に関しては検討されていない。そのため、発泡性に関しては未だ改善の余地がある。
【0010】
また、特許文献3は、樹脂粒子の形状が真球状で機械的強度に優れた発泡成形品を製造できる熱可塑性樹脂発泡性粒子の製造方法であるが、発泡倍率40倍程度の発泡性が確認されているにすぎず、グラファイト等の輻射伝熱抑制剤が配合された場合における高発泡時の発泡性に関して検討されていない。
【0011】
輻射伝熱抑制剤を含有する発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を製造する方法としては、大別して、スチレン単量体の重合工程において輻射伝熱抑制剤を含有させる方法(以下、「重合法」と称する)と、押出機等の混練設備を用いて予め重合されたポリスチレン系樹脂と輻射伝熱抑制剤を溶融混練する方法とがある(以下「溶融混練法」と称する)。
【0012】
さらに溶融混練法としては、大きく2つの製法に分類される。
【0013】
第一の溶融混練法は、ポリスチレン系樹脂、輻射伝熱抑制剤、その他添加剤を押出機に供給、溶融混練し、発泡剤を前記押出機もしくは、押出機以降の分散設備によって樹脂に溶解、分散させ、小孔を多数有するダイスを通じて、加圧循環水で満たされたカッターチャンバー内に発泡剤含有溶融樹脂を押し出し、押し出し直後から、ダイスと接する回転カッターにより溶融樹脂を切断すると共に加圧循環水により冷却固化することで発泡性スチレン系樹脂粒子を得る方法である。
【0014】
第二の溶融混練法は、ポリスチレン系樹脂、輻射伝熱抑制剤、その他添加剤を押出機で溶融混練し、小孔を有するダイスを通じて樹脂溶融物を押し出し、カッターで切断することによりポリスチレン系樹脂粒子を得た後、該ポリスチレン系樹脂粒子を水中に懸濁させると共に、発泡剤を供給して、発泡剤をポリスチレン系樹脂粒子に含有させることで、発泡性スチレン系樹脂粒子を得る方法である。
【0015】
これらの製造方法のうち、押出混練設備を用いた溶融混練法は、重合法と比較すると初期投資額及び製造の簡便性の観点から優れる。更に、生産性の観点から、第一の溶融混練法は第二の溶融混練法よりも優れる。
【0016】
一方、重合法または第二の溶融混練法で得られる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子はアスペクト比が1に極めて近い値を実現するのに対して、第一の溶融混練法で得られる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子はアスペクト比が1から外れ、歪な形状になりやすい傾向にある。本発明者らが検討を行った結果、第一の溶融混練法で得られるアスペクト比が1から外れている発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、重合法または第二の溶融混練法で得られる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子よりも予備発泡粒子の収縮が生じやすい傾向にあることが判った。
【0017】
上記の理由より、生産コスト面で優れる第一の溶融混練法で得られる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の発泡性については更なる改善が望まれる。
【0018】
本発明者らが上述した課題を解決すべく検討をしたところ、驚くべきことに、一般的にアスペクト比が1に近ければ近いほど発泡性に優れると考えられるところ、アスペクト比が1から若干外れる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であっても、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の真球度を制御することによって、発泡直後のポリスチレン系樹脂予備発泡粒子の収縮を抑制でき、高発泡倍率のポリスチレン系樹脂予備発泡粒子、ひいてはポリスチレン系樹脂発泡成形体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明は、炭素系輻射伝熱抑制剤を含む発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって、アスペクト比が0.95以下であり、真球度が0.970以上である発泡性ポリスチレン系樹脂粒子(以下、「本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子」と称することがある。)に関する。ここで、アスペクト比とは、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の投影図の短径と長径の比である。真球度とは、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の投影図の周囲長と面積の比から求められる値である。アスペクト比と比較して、真球度は発泡性ポリスチレン系樹脂粒子表面の凹凸状態などの影響も考慮できる。尚、アスペクト比及び真球度の詳細な測定方法については後述する。
【0020】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子において、真球度が0.980以上であることが好ましい。
【0021】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子において、前記炭素系輻射伝熱抑制剤が、ポリスチレン系樹脂組成物100重量%において2~10重量%であることが好ましい。
【0022】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子において、前記炭素系輻射伝熱抑制剤が、グラファイト、グラフェン、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、活性炭、および、膨張黒鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子において、前記発泡剤が、ペンタン及び/またはブタンを含むことが好ましい。
【0024】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子において、前記発泡剤がイソブタンを含むことが好ましい。
【0025】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子において、前記発泡剤が、イソブタンをペンタンおよびブタンの総量100重量%に対して20重量%超50重量%以下含むことが好ましい。
【0026】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子において、前記ペンタンがノルマルペンタンおよびイソペンタンの重量比が100/0~60/40であることが好ましい。
【0027】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子において、前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の真密度が950~1060kg/mであることが好ましい。
【0028】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子において、前記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡させたかさ倍率75cm/g以上85cm/g以下の予備発泡粒子を発泡成形した時における発泡成形体の熱伝導率が0.0330W/m・K以下であることが好ましい。
【0029】
本発明の予備発泡粒子は、本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の予備発泡粒子である。
【0030】
本発明の予備発泡粒子において、本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の予備発泡粒子であり、かさ倍率が75cm/g以上であることが好ましい。
【0031】
本発明の発泡成形体は、本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、または本発明の予備発泡粒子を成形して得られるポリスチレン系樹脂発泡成形体である。
【発明の効果】
【0032】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子によれば、高発泡倍率および高断熱性を両立する発泡成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
[発泡性ポリスチレン系樹脂粒子]
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、炭素系輻射伝熱抑制剤を含む発泡性ポリスチレン系樹脂粒子であって、ポリスチレン系樹脂粒子中に炭素系輻射伝熱抑制剤および発泡剤を含有させたものである。
【0034】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、真球度0.970以上であり、かつ、アスペクト比が0.95以下である。一般的にはアスペクト比が上記範囲であると発泡後の収縮が生じやすくなるが、真球度が上記範囲を満たすことにより、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を高倍率発泡した場合においても得られる予備発泡粒子において予備発泡直後の収縮が抑制され、養生後に所望の発泡倍率まで回復しうる。また、本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は収縮が抑制されるため、予備発泡粒子を高温で養生する必要がなくなり、更に養生後の倍率管理が容易となる。
【0035】
本発明におけるアスペクト比とは、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の投影図の短径、及び長径から以下の式によって算出される。
アスペクト比 =(短径)/(長径)
第一の溶融混練法の特徴から、アスペクト比は0.95以下である。一方、真球度0.970以上を満たすために、アスペクト比は0.75以上であることが好ましい。
【0036】
本発明における真球度とは、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の投影図の周囲長と面積から以下の式によって算出される。
真球度 = 4×π×(面積)/(周囲長)
収縮抑制の観点から、真球度は0.970以上であることが好ましく、更に0.980以上であることがより好ましい。真球度が0.980以上であると、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造から時間が経過して揮発分が低下した状態でも高倍率まで回復することができる。尚、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子のアスペクト比及び真球度の詳細な測定方法については後述する。
【0037】
(ポリスチレン系樹脂)
ポリスチレン系樹脂としては、スチレン単独重合体(ポリスチレンホモポリマー)のみならず、本発明の効果を損なわない範囲で、スチレンと共重合可能な他の単量体又はその誘導体とスチレンとの共重合体であっても良い。これらは一種のみであってもよいし、2種以上を組みあせて使用してもよい。ただし、後述する臭素化ポリスチレン・ブタジエン共重合体は除く。
【0038】
スチレンと共重合可能な他の単量体又はその誘導体としては、例えば、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、トリクロロスチレン等のスチレン誘導体;ジビニルベンゼン等の多官能性ビニル化合物;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル化合物;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;ブタジエン等のジエン系化合物又はその誘導体;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物;N-メチルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-(2)-クロロフェニルマレイミド、N-(4)-ブロモフェニルマレイミド、N-(1)-ナフチルマレイミド等のN-アルキル置換マレイミド化合物等があげられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
本発明で用いられるポリスチレン系樹脂としては、比較的安価で、特殊な方法を用いずに低圧の水蒸気等で発泡成形ができ、断熱性、難燃性、緩衝性のバランスに優れることから、スチレンホモポリマーを含むことが好ましい。
【0040】
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲であれば、ポリスチレン系樹脂を主成分としながら、他の樹脂を併用してもよい。他の樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂など、上述のスチレンと共重合可能な他の単量体又はその誘導体の単独重合体や、それらの共重合体が挙げられる。耐衝撃吸収性や耐熱性の観点から、例えば、ジエン系ゴム強化ポリスチレン、アクリル系ゴム強化ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル系樹脂等をブレンドすることもできる。
【0041】
(炭素系輻射伝熱抑制剤)
本発明においては、炭素系輻射伝熱抑制剤を発泡性ポリスチレン系樹脂粒子に含有させることにより、高い断熱性を有するポリスチレン系樹脂発泡成形体が得られる。ここで、炭素系輻射伝熱抑制剤とは、近赤外又は赤外領域(例えば、800~3000nm程度の波長域)の光を反射、散乱又は吸収する特性を有する炭素材料をいう。
【0042】
炭素系輻射伝熱抑制剤としては、例えば、黒鉛(グラファイト)、グラフェン、カーボンブラック、膨張黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー等が挙げられるが、中でもポリスチレン系樹脂中への分散性とコストの点からグラファイトが好ましい。
【0043】
グラファイトとしては、例えば、鱗片状黒鉛、土状黒鉛、球状黒鉛、人造黒鉛等が挙げられる。なお、本明細書において、「鱗片状」という用語は、鱗状、薄片状又は板状のものをも包含する。これらの黒鉛は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。これらの中でも、輻射伝熱抑制効果が高い点から、鱗片状黒鉛を主成分とする黒鉛混合物が好ましく、鱗片状黒鉛がより好ましい。高発泡化、断熱性、および成形性の観点から、グラファイトの平均粒径が1~9μmであることが好ましく、2~6μmであることがより好ましい。グラファイトは平均粒径が小さいほど製造コストが高くなる。平均粒径1μm未満のグラファイトは粉砕のコストを含む製造コストが高いため、非常に高価であり発泡性ポリスチレン系樹脂粒子のコストが高くなる傾向がある。一方、平均粒径が9μmを超えると、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子から予備発泡粒子及びポリスチレン系樹脂発泡成形体を製造する際にセル膜が破れやすくなるため、高発泡化が難しくなったり、成形容易性が低下したり、ポリスチレン系樹脂発泡成形体の圧縮強度が低下したりする傾向がある。ここでいう、グラファイトの平均粒径は、JIS Z8825-1に準拠したMie理論に基づきレーザー回折・散乱法により算出されるD50粒径を指す。
【0044】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子における炭素系輻射伝熱抑制剤の含有量は、ポリスチレン系樹脂組成物100重量%において2~10重量%であることが好ましい。目的とする発泡倍率に制御しやすいと共に、熱伝導率低減効果等のバランスの点から、3~7重量%であることがより好ましく、3~6重量%がさらに好ましい。炭素系輻射伝熱抑制剤の含有量が2重量%以上であれば熱伝導率低減効果が十分であり、一方、10重量%以下であれば、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子から予備発泡粒子及びポリスチレン系樹脂発泡成形体を製造する際にセル膜が破れにくくなるため、高発泡化がし易くなり、発泡倍率の制御が容易になる。
【0045】
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲であれば、炭素系輻射伝熱抑制剤の他に、他の輻射伝熱抑制剤を添加してもよい。公知の輻射伝熱抑制剤であれば特に限定されないが、例えば、アルミニウム系化合物、亜鉛系化合物、マグネシウム系化合物、チタン系化合物、熱線反射剤、硫酸金属塩、アンチモン系化合物、金属酸化物、熱線吸収剤、金属粒子等が挙げられる。
【0046】
(発泡剤)
本発明で用いられる発泡剤は、特に限定されないが、発泡性と製品ライフのバランスが良く、実際に使用する際に高倍率化しやすい観点から、炭素数3~6の炭化水素が望ましく、更に望ましくは炭素数4~5の炭化水素である。発泡剤の炭素数が3以上であると揮発性が低くなり、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子にした場合に発泡剤が逸散しにくくなるため、実際に使用する際に発泡工程で発泡剤が十分に残り、十分な発泡力を得ることが可能となり、高倍率化が容易となるため好ましい。また、炭素数が6以下であると、発泡剤の沸点が高すぎないため、予備発泡時の加熱で十分な発泡力を得やすく、高発泡化が易しい傾向となる。炭素数3~6の炭化水素としては、例えばプロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、シクロペンタン、ノルマルヘキサン、又はシクロヘキサン等の炭化水素が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
また炭化水素以外の発泡剤も使用してもよい。例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル類、メタノール、エタノール等のアルコール類、炭酸ガス、窒素、水等が使用可能である。これら発泡剤は1種類のみを単独で使用してよいし、2種以上を混合して使用してもよい。また、上記炭化水素と併用してもよい。
【0048】
より高倍率化しやすい観点から、ブタンとペンタンを併用するのがより好ましい。
【0049】
ブタンとしては、より高倍発泡しやすい観点から、イソブタンを用いることが好ましい。さらに、ペンタンおよびブタンの総量100重量%において、イソブタンが20重量%超50重量%以下含まれることが好ましい。予備発泡直後の収縮抑制による高倍率化と生産安定性の観点から、イソブタンは25重量%~45重量%がより好ましく、25重量%~40重量%がさらに好ましく、25重量%~30重量%が特に好ましい。前記イソブタンが20重量%超であれば、高倍率化しやすく、一方、50重量%以下であれば、溶融混練法で製造する場合において、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子作製時の発泡を抑制することができ、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の採取が安定化する。
【0050】
ペンタンとしては、コストの点でノルマルペンタンおよび/又はイソペンタンを使用することが好ましい。尚、予備発泡後の収縮抑制と発泡成形体の難燃性能とのバランスを鑑みると、ノルマルペンタンとイソペンタンの重量比(ノルマルペンタン/イソペンタン)は100/0~60/40であることが好ましく、98/2~60/40がより好ましく、98/2~70/30がさらに好ましい。
【0051】
本発明における発泡剤の添加量は、ポリスチレン系樹脂組成物100重量部に対して、4~10重量部であることが好ましく、4.5~9重量部であることがより好ましく、5~8重量部であることがさらに好ましい。発泡剤の添加量が4重量部以上では、発泡力が十分あり高発泡化し易くなり、高倍率のポリスチレン系樹脂発泡成形体を製造し易くなる。また、発泡剤の量が10重量部以下であれば難燃性能が悪化し難くなると共に、ポリスチレン系樹脂発泡成形体を製造する際の製造時間(成形サイクル)が短くなるため、製造コストを抑えることができる。
【0052】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、ポリスチレン系樹脂、炭素系輻射伝熱抑制剤及び発泡剤を含有し、必要に応じて、難燃剤、熱安定剤、ラジカル発生剤、造核剤及びその他の添加剤よりなる群から選ばれる少なくとも1種の任意成分を含有してもよい。
【0053】
(難燃剤)
本発明で用いることができる難燃剤としては、特に限定されず、従来からポリスチレン系樹脂発泡成形体に用いられる公知の難燃剤をいずれも使用できるが、その中でも、難燃性付与効果が高い臭素系難燃剤が好ましい。本発明で用いることができる臭素系難燃剤としては、例えば、2,2-ビス[4-(2,3-ジブロモ-2-メチルプロポキシ)-3,5-ジブロモフェニル]プロパン(別名:テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル))、2,2-ビス[4-(2,3-ジブロモプロポキシ)-3,5-ジブロモフェニル]プロパン(別名:テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル))等の臭素化ビスフェノール系化合物、臭素化スチレン・ブタジエンブロック共重合体、臭素化ランダムスチレン・ブタジエン共重合体、臭素化スチレン・ブタジエングラフト共重合体等の臭素化ブタジエン・ビニル芳香族炭化水素共重合体(例えば、特表2009-516019号公報に開示されている)、テトラブロモシクロオクタン等が挙げられる。これら臭素系難燃剤は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0054】
難燃剤は、目的とする発泡倍率に制御しやすいと共に、炭素系輻射伝熱抑制剤添加時の難燃性等のバランスの点から、ポリスチレン系樹脂組成物100重量%において難燃剤は0.5~6重量%である範囲で含有されることが好ましく、1~4重量%であることがより好ましい。難燃剤含有量が0.5重量%以上であると、難燃性付与効果が小さくならず、6重量%以下である、得られるポリスチレン系樹脂発泡成形体の強度が低下し難い。
【0055】
(熱安定剤)
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子においては、さらに、熱安定剤を併用することによって、製造工程における難燃剤の分解による難燃性の悪化及び発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の劣化を抑制することができる。
【0056】
本発明における熱安定剤は、用いられるポリスチレン系樹脂の種類、発泡剤の種類及び含有量、炭素系輻射伝熱抑制剤の種類及び含有量、難燃剤の種類及び含有量等に応じて、適宜組み合わせて用いることができる。
【0057】
本発明で用いられる熱安定剤としては、難燃剤含有混合物の熱重量分析における重量減少温度を任意に制御できる点から、ヒンダードアミン化合物、リン系化合物、エポキシ化合物が望ましい。熱安定剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。なお、これらの熱安定剤は、後述するように耐光性安定剤としても使用できる。
【0058】
熱安定剤は、目的とする発泡倍率に制御しやすいと共に、炭素系輻射伝熱抑制剤添加時の難燃性等のバランスの点から、ポリスチレン系樹脂組成物100重量%において熱安定剤は0.5~3重量%であることが好ましい。0.5重量%以上であると難燃剤の分解が生じ難く、難燃性付与効果が小さくならず、3重量%以下であると得られるポリスチレン系樹脂発泡成形体の強度が低下し難い。
【0059】
(その他の添加剤)
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子には、上述の添加剤のほかに、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、ラジカル発生剤、加工助剤、耐光性安定剤、造核剤、発泡助剤、帯電防止剤、顔料等の着色剤よりなる群から選ばれる1種以上のその他添加剤を含有していてもよい。ラジカル発生剤としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、又はポリ-1,4-イソプロピルベンゼン等が挙げられる。加工助剤としては、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、流動パラフィン等が挙げられる。耐光性安定剤としては、前述したヒンダードアミン類、リン系安定剤、エポキシ化合物の他、フェノール系抗酸化剤、窒素系安定剤、イオウ系安定剤、ベンゾトリアゾール類等が挙げられる。造核剤としては、シリカ、ケイ酸カルシウム、ワラストナイト、カオリン、クレイ、マイカ、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、タルク等の無機化合物、メタクリル酸メチル系共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂等の高分子化合物、ポリエチレンワックス等のオレフィン系ワックス、メチレンビスステアリルアマイド、エチレンビスステアリルアマイド、ヘキサメチレンビスパルミチン酸アマイド、エチレンビスオレイン酸アマイド等の脂肪酸ビスアマイド等が挙げられる。発泡助剤としては、大気圧下での沸点が200℃以下である溶剤を望ましく使用でき、例えば、スチレン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル等が挙げられる。なお、帯電防止剤及び着色剤としては、各種樹脂組成物に用いられるものを特に限定なく使用できる。これらの他の添加剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0060】
本発明のポリスチレン系樹脂予備発泡粒子の平均セル径は、350μm以下となることが好ましく、80μm~350μmであることがより好ましく、100μm~300μmであることがさらに好ましく、130μm~280μmが特に好ましい。平均セル径を350μm以下にすることにより、予備発泡粒子中に存在するセル数が増加し、輻射熱が小さくなり、熱伝導率が良好になる。
【0061】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、輸送効率と保管スペースの観点から、真密度が950~1060kg/mであることが好ましく、1000~1055kg/mであることがより好ましく、1010~1050kg/mがさらに好ましく、1010~1040kg/mが特に好ましい。
【0062】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡させて10℃で24時間養生した時に予備発泡粒子の揮発分が4.5%~5.8%であることが好ましく、4.5%~5.4%であることがより好ましく、4.6%~5.2%であることがさらに好ましい。ここで、予備発泡粒子の揮発分は、予備発泡粒子を150℃で30分加熱前後の質量変化量を、当該加熱前の予備発泡粒子質量で除した比を指し、当該揮発分が低いほど予備発泡粒子のセル内圧が低下し、収縮が生じやすくなることを意味する。
【0063】
上記予備発泡粒子の揮発分が4.5%~5.8%を満たすことにより、予備発泡粒子の内圧が高くなり、予備発泡粒子のかさ倍率を75倍以上と高倍発泡させた場合においても収縮を抑制することが可能であり、ポリスチレン系樹脂発泡成形体の表面美麗性が良化する。
【0064】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡し、養生したかさ倍率75倍以上の予備発泡粒子を発泡成形してポリスチレン系樹脂発泡成形体とした時に熱伝導率λが0.0330W/m・K以下であることが好ましい。ポリスチレン系樹脂発泡成形体の熱伝導率λが0.0330W/m・K以下であると、壁や屋根などの断熱材として用いる際に発泡成形体の厚みを薄くでき、グラスウール等の他の断熱材と同等にコストを抑えることができる。
【0065】
[発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の製造方法]
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、公知の溶融混練法で得られることができ、具体的には、ポリスチレン系樹脂、炭素系輻射伝熱抑制剤および発泡剤を押出機で溶融混練し(溶融混練工程)、溶融混練物を押出機先端に取り付けられた小孔を有するダイスを通じて加圧循環水で満たされたチャンバー内に押出し(押出工程)、押出直後の溶融混練物を回転カッターにより切断すると共に、加圧循環水により冷却固化する(冷却工程)ことにより製造することができる(以下、「本発明の製法」と称することがある。)
本発明の製法においては、ポリスチレン系樹脂と各種成分との分散性の観点から、予め、二軸の攪拌機を備えた(例えばバンバリーミキサー等)混練装置を用いてポリスチレン系樹脂と各種成分とを荷重をかけて混練して混練物を作製し、得られた混練物とポリスチレン系樹脂とを押出機に投入して溶融混練した後、粒子状に切断することが好ましい。
【0066】
本発明の製法の好ましい一形態としては、、ポリスチレン系樹脂及び炭素系輻射伝熱抑制剤を、例えばバンバリーミキサー等の二軸の攪拌機を備えた混練装置により混練してマスターバッチを作製し、作製したマスターバッチと新たなポリスチレン系樹脂と、発泡剤と、必要に応じて難燃剤等その他の成分とを押出機で溶融混練し、得られた樹脂溶融物を押出機先端に取り付けられた小孔を有するダイスを通して加圧循環水で満たされたカッターチャンバー内に押出し、押出直後から回転カッターにより切断すると共に、加圧循環水により冷却固化する。この際、押出機での溶融混練は単独の押出機を使用する場合、押出機を複数連結する場合、押出機とスタティックミキサーやスクリューを有さない攪拌機など第二の混練装置を併用する場合があり、適宜選択することができる。
【0067】
ポリスチレン系樹脂及び炭素系輻射伝熱抑制剤を、二軸の攪拌機を備えた混練装置、例えば荷重をかけた状態で樹脂の混練が可能なインテンシブミキサー、インターナルミキサー、又はバンバリーミキサー等、により混練してマスターバッチを作製することが好ましい。この場合、マスターバッチの濃度は特に限定されないが、炭素系輻射伝熱抑制剤の濃度20重量%~80重量%で作製することが、混練性とコストとのバランスから好ましい。作製したマスターバッチ、ポリスチレン系樹脂、発泡剤、必要に応じて、難燃剤、熱安定剤、他の添加剤を第1の押出機及び必要に応じて押出機に付随する第2の混練装置で溶融混練し、得られた樹脂溶融物を所定の温度に冷却した後、小孔を有するダイスを通じて、加圧循環水で満たされたカッターチャンバー内に押出す。この押出直後から、回転カッターにより切断してペレット化すると共に、得られたペレット(樹脂粒子)を加圧循環水により冷却固化して発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得ることができる。なお、難燃剤、熱安定剤等の他の添加剤についても、同様に、予め、ポリスチレン系樹脂と他の添加剤とのマスターバッチを作製して、押出機等に投入するようにしても構わない。
【0068】
押出機の溶融混練部の設定温度は、100℃~250℃が好ましい。また、押出機にポリスチレン系樹脂及び各種成分を供給してから溶融混練終了までの押出機内滞留時間が10分以下であることが好ましい。押出機の溶融混練部での設定温度が250℃以下、及び/又は溶融混練終了までの押出機内滞留時間が10分以下であれば、難燃剤を添加した場合に難燃剤の分解を生じることなく、所望の難燃性を得ることができ、所望の難燃性を付与する為に難燃剤を過剰に添加する必要もない。一方、押出機の溶融混練部での設定温度が100℃以上であると、押出機の負荷が大きくならず押出が安定になり、添加する成分の分散性が良好になる。
【0069】
ダイスに導入される直前の溶融混練物の樹脂温度としては、基材樹脂のガラス転移点(以下、Tg)に対して、Tg+50℃以上、Tg+90℃未満であることが好ましい。基材樹脂がスチレンホモポリマーの場合、150℃を超え、190℃未満であることが好ましい。基材樹脂がスチレンホモポリマーの場合、ダイスに導入される直前の溶融混練物の樹脂温度が190℃以上であると、ダイスでの樹脂切断時の樹脂温度が高くなることによって、発泡性スチレン系樹脂粒子の形状の歪が大きくなる恐れがあり、さらに210℃を超えるとカッターでの切断時にカッターに樹脂が巻きつきやすくなるため、切断が非常に困難になる恐れがある。一方、ダイスに導入される直前の溶融混練物の樹脂温度が150℃以下であると、押出された溶融樹脂の粘度が高くなり、小孔詰まりが発生しやすく、実質小孔開口率の低下が起きる恐れがある。
【0070】
加圧循環水の水圧は、0.7MPa~1.5MPaであることが好ましく、0.75~1.4MPaであることがより好ましい。水圧が0.7MPa以上であれば、発泡を抑制でき、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の真密度が高くなり、発泡倍率の低下や輸送効率の低下が生じにくくなる。一方、水圧が1.5MPa以下であることにより、水圧によって回転カッターが押し戻されず、押出された溶融樹脂が回転カッターに巻きつくことがなく、安定生産できる。
【0071】
本発明で用いられるダイスは特に限定されないが、例えば、直径0.3mm~2.0mm、望ましくは0.4mm~1.0mmの小孔を有するものが挙げられる。
【0072】
加圧循環水に押出された溶融樹脂を切断する切断装置としては、特に限定されないが、例えば、ダイリップに接触する回転カッターで切断されて小球化され、遠心脱水機まで移送されて脱水・集約される装置、等が挙げられる。
【0073】
本発明の製法において、得られる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子のアスペクト比および真球度は、溶融樹脂温度、冷却水の水温および水圧、せん断速度等を適宜制御することによって、制御することができる。
【0074】
[ポリスチレン系樹脂発泡成形体]
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、特に限定されないが、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を所定の発泡倍率に発泡させて予備発泡粒子とし、この予備発泡粒子を用いて成形を行なう予備発泡法により、ポリスチレン系樹脂発泡成形体を製造することができる。
【0075】
ポリスチレン系樹脂発泡成形体は発泡倍率が高いほど原料である発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の使用量が少なくなることから、本発明によれば、高発泡倍率のポリスチレン系樹脂発泡成形体をより安価に製造することができる。なお、グラファイトを含有させた従来の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子において高倍率発泡は困難であった。しかし、本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子及び本発明の製造方法で得られる発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の真球度を制御することによって、大きな収縮を伴わず高倍率発泡が可能となり、軽量で取扱性が良く、かつより安価な断熱材を供給することができる。
【0076】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、公知の予備発泡工程、例えば、水蒸気によって10~110倍に発泡させて予備発泡粒子とし(予備発泡工程)、必要に応じて一定時間養生させた後、公知の成形機を用い、予備発泡粒子を水蒸気によって成形されてポリスチレン系樹脂発泡成形体が作製される。使用される金型の形状により、複雑な形の型物成形体やブロック状の成形体を得ることができる。
【0077】
(予備発泡工程)
予備発泡工程は、予備発泡機を用い、従来の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の予備発泡と同様にして実施できる。
【0078】
予備発泡機としては公知のものを使用でき、例えば、撹拌装置を備え、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子が収容される缶と、該缶の下方に設置され、水蒸気を該缶に供給する蒸気チャンバーと、予備発泡粒子排出口とを備えた予備発泡機が用いられる。
【0079】
水蒸気投入時の缶内圧力(ケージ圧)は特に限定されないが、好ましくは0.001~0.15MPa、より好ましくは0.01~0.10MPa、さらに好ましくは0.03~0.08MPaである。缶内圧力が0.001MPa以上であると、高発泡倍率を得る場合に、予備発泡における水蒸気投入時間を500秒以下にすることができる。缶内圧力が0.15MPa以下であると、水蒸気の圧力を高くすることが必要なくなり、ブロッキング現象の発生数が低下し、予備発泡収率が高くなる。
【0080】
また、予備発泡工程は、連続法及びバッチ法のいずれでも行なうことができる。
【0081】
連続法は、缶内への発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の供給、及び缶上部に設けられた排出口からの予備発泡粒子の排出を連続的に行なう方法である。予備発泡粒子の発泡倍率は、例えば、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の缶内への時間当たりの投入量(重量)を適宜選択することにより調整できる。連続法の場合は缶内へ発泡性ポリスチレン系樹脂粒子が供給されてから予備発泡粒子が排出されるまでの予備発泡機缶内での滞留時間を水蒸気投入時間とする。
【0082】
また、バッチ法は、缶内に所定量の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を入れ、これを所定の発泡倍率に予備発泡させた後に水蒸気の供給を停止し、次いで必要に応じて空気を缶内に吹き込んで予備発泡粒子を冷却及び乾燥し、缶内から取り出す方法である。予備発泡粒子の発泡倍率は、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子のバッチあたりの缶内への投入量(重量)を適宜選択することにより調整できる。バッチ法は、投入された発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を所定容積まで予備発泡させる方法であることから、バッチ当りの投入量を減らすほど、得られる予備発泡粒子の発泡倍率は高くなる。
【0083】
また、予備発泡直後の予備発泡粒子は養生を行う方が良い。予備発泡時は発泡粒子内に水蒸気が存在するが、発泡後の冷却工程において水蒸気が水に凝縮するため予備発泡直後の予備発泡粒子内部は減圧状態となる。減圧状態では予備発泡粒子の強度が低く、収縮が容易に生じる場合があるため、予備発泡粒子内部を空気と置換し、大気圧に戻す養生工程が有効となる。
【0084】
養生時の温度は特に限定されないが、好ましくは5~80℃、より好ましくは10~70℃、さらに好ましくは23~60℃である。養生温度が5℃以上であると、減圧状態であった予備発泡粒子内部に空気が導入され易くなり、発泡粒子内部が大気圧に戻り易くなる。養生温度が80℃以下であると、予備発泡粒子に存在する発泡剤が逸散し難くなり、発泡力が低下せず、成形体の表面美麗性が低下しない。
【0085】
本発明の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡させて予備発泡粒子を得る場合、予備発泡粒子のかさ倍率が75倍以上であることが好ましく、かさ倍率80倍以上がより好ましい。上記予備発泡粒子のかさ倍率が75倍以上であることで、上記予備発泡粒子を成形してなるポリスチレン系樹脂発泡成形体の密度が低下し、より軽量化されたポリスチレン系樹脂発泡成形体の作製が可能となる。また、かさ倍率を高くすることで使用する樹脂量を削減できるためコストダウンにも繋がる。
【0086】
本発明のポリスチレン系樹脂発泡成形体は、例えば、床、壁、屋根等に用いられる建築用断熱材、魚等の水産物を輸送する箱や野菜等の農産物を輸送する箱等の農水産箱、浴室用断熱材及び貯湯タンク断熱材のような各種用途に使用できる。
【実施例
【0087】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例における各物性・特性の測定方法及び評価方法は以下のとおりである。
【0088】
(発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の真球度・アスペクト比)
・ 測定装置;
Retsch Technology製 CAMSIZER P4
(2)設定条件;
フィーダーとファネルパラメーターを次の条件に設定した。
・前方へ高速で動かすときのコントロールレベル:55
・前方へ高速で動かすときの最大時間[秒]:60
・測定開始時のレベル:50
・最大コントロールレベル:75
・目標カバーエリア[%]:0.5
・フィーダの幅[mm]:60
・ガイダンスシートを使用
また以下の条件のとき、測定データとして採用した。
・ベーシックカメラのカバーエリア[%] < 3
・ズームカメラのカバーエリア[%] < 5
但し、撮影した投影図から次の条件を満たす粒子については、測定データから除外した。
・Convexity ≧ 0.99
粒子同士が重なって投影図測定箇所に落下した場合、各粒子の形状を正確に評価できないため、フィーダー及びファネルパラメータを上記条件に設定した。また、多量の粒子が同時に落下してしまうと、同様に各粒子形状の正確な評価ができない可能性がある。このことから、設定したカバーエリア以上の粒子が落ちたときは、その投影図・データを除外した。
更に、埃などの微小異物を影響を除外するため、Convexity(表面凹凸度)が0.99以上のデータは除外して解析を実施した。
【0089】
(3)測定方法;
約50gの発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の投影図を上記のように設定したCAMSIZER P4によって撮影し、得られた各発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の投影図の周囲長、面積、長径、短径を測定した。得られた各発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の投影図の周囲長及び面積から以下の式に基づき、真球度の平均値を算出した。
【0090】
【数1】
【0091】
但し、Sをi番目の粒子の面積(mm)、Rをi番目の粒子の周囲長(mm)とする。
【0092】
また、得られた各発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の投影図の長径と短径から以下の式に基づき、アスペクト比の平均値を算出した。
【0093】
【数2】
【0094】
但し、Sをi番目の粒子の短径(mm)、lをi番目の粒子の長径(mm)とする。
【0095】
(発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の粒重量)
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子100粒の重量を測定し、以下の式に基づき、粒重量を算出した。
【0096】
粒重量(mg/粒)=発泡性ポリスチレン系樹脂粒子100粒の重量(mg)/100
【0097】
(発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の真密度)
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を測定試料としてW(kg)採取し、この測定試料をエタノールが入ったメスシリンダー内に自然落下させ、その質量(kg)と体積(m)を測定し、以下の式に基づき、真密度を測定した。
【0098】
真密度(kg/m)=測定試料の重量(W)/測定試料の体積(V)。
【0099】
(発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の揮発分)
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の揮発分は製造後7日後、及び製造後15日後の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を対象として測定した。
【0100】
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を測定試料としてW(g)採取し、この測定試料をアルミ容器に投入し、150℃の恒温槽で30分加熱し、加熱前後の質量変化から揮発分を算出した。
【0101】
揮発分(%)={(W1―W2)/W1}×100
ここで、W1を加熱前の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の質量(g)とし、W2を加熱後の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の質量(g)とする。
【0102】
(予備発泡粒子の測定)
以下に示す予備発泡粒子は製造後7日後の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡させて得られた予備発泡粒子と製造後15日後の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡させて得られた予備発泡粒子を対象として測定した。
【0103】
(予備発泡粒子のかさ倍率)
予備発泡粒子を各々測定試料としてW(g)採取し、この測定試料をメスシリンダー内に自然落下させた後にメスシリンダーをたたき試料の見掛け体積V(cm)を一定とし、その質量(g)と体積(cm)を測定し、以下の式に基づき、かさ倍率を測定した。
【0104】
かさ倍率(cm/g)=測定試料の体積(V)/測定試料の重量(W)
【0105】
尚、予備発泡粒子において、予備発泡機から予備発泡粒子が排出された後5~10分以内に測定したかさ倍率を発泡直後のかさ倍率と定義する。
更に、発泡直後のかさ倍率の測定後、10℃で24時間養生した後の予備発泡粒子のかさ倍率を養生後のかさ倍率と定義する。
なお、ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子のかさ倍率「倍」は慣習的に「cm/g」でも表されている。
【0106】
(養生後の予備発泡粒子揮発分)
上記の10℃で24時間養生した後の予備発泡粒子を対象として測定を行った。10℃で24時間養生した後の予備発泡粒子を測定試料としてW(g)採取し、この測定試料をアルミ容器に投入し、150℃の恒温槽で30分加熱し、加熱前後の質量変化から揮発分を算出した。
揮発分(%)={(W3―W4)/W3}×100
ここで、W3を加熱前の予備発泡粒子の質量(g)とし、W4を加熱後の予備発泡粒子の質量(g)とする。
【0107】
(ポリスチレン系樹脂発泡成形体の測定)
以下の測定では、製造後7日後の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡させて得られた予備発泡粒子を発泡成形した成形体と、製造後15日後の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡させて得られた予備発泡粒子を発泡成形した成形体とを対象とした。
【0108】
(ポリスチレン系樹脂発泡成形体の発泡倍率)
成型金型から取り出したポリスチレン系樹脂発泡成形体を30℃で24時間乾燥させた後、発泡成形体の重量(g)を測定すると共に、ノギスを用いて、縦寸法、横寸法、厚さ寸法を測定した。測定された各寸法からポリスチレン系樹脂発泡成形体の体積(cm)を計算し、下記計算式に従って発泡倍率を算出した。
【0109】
発泡倍率(cm/g)=試験片体積(cm)/試験片重量(g)
なお、ポリスチレン系樹脂発泡成形体の発泡倍率「倍」は慣習的に「cm/g」でも表されている。
【0110】
(ポリスチレン系樹脂発泡成形体の熱伝導率)
一般的に熱伝導率の測定平均温度が大きい方が熱伝導率の値は大きくなることが知られており、断熱性を比較するためには測定平均温度を定める必要がある。本明細書では発泡プラスチック保温材の規格であるJIS A9511:2006Rで定められた23℃を基準に採用している。
【0111】
ポリスチレン系樹脂発泡成形体の中層部から、長さ300mm×幅300mm×25mmのスキンなし試験片を切り出した。試験片を60℃にて48時間静置し、さらに、23℃にて24時間静置した後、熱伝導率測定装置(英弘精機(株)製、HC-074)を用いて、JIS A1412-2:1999に準拠して熱流計法にて平均温度23℃、温度差20℃で熱伝導率を測定した。
【0112】
(ポリスチレン系樹脂発泡成形体の平均セル径)
(1)観察条件
装置:キーエンス社製 DIGITAL MICROSCOPE VHX-900
(2)測定条件
ポリスチレン系樹脂発泡成形体をカミソリで切削し、その断面をキーエンス社製 DIGITAL MICROSCOPEを用いて、観察倍率100倍で写真を撮影した。その断面の1000μm×1000μm四方の範囲内に存在するセル数をカウントした。そのセル数を用い、以下の式に基づき、平均セル径を算出した。
平均セル径(μm)=2×{1000μm×1000μm/(セル数×円周率)}0.5
以下に、実施例及び比較例で用いた原材料を示す。
【0113】
(スチレン系樹脂)
(A)スチレンホモポリマー[PSジャパン(株)製、680]
(グラファイト)
(B)グラファイト[(株)丸豊鋳材製作所製、鱗片状黒鉛SGP-40B]
(臭素系難燃剤)
(C)2,2-ビス[4-(2,3-ジブロモ-2-メチルプロポキシ)-3,5-ジブロモフェニル]プロパン[第一工業製薬(株)製、SR-130、臭素含有量=66重量%]
【0114】
(熱安定剤)
(D1)テトラキス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジルオキシカルボニル)ブタン[(株)ADEKA製 LA-57]
(D2)ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト[(株)ADEKA製 PEP-36]
【0115】
(発泡剤)
(E1)ノルマルペンタン[和光純薬工業(株)製、試薬品]
(E2)イソペンタン[和光純薬工業(株)製、試薬品]
(E3)イソブタン[三井化学(株)製]
【0116】
(その他添加剤)
(F)エチレンビスステアリン酸アミド[日油(株)製、アルフローH-50S]
【0117】
(製造例1)(グラファイトマスターバッチ(G))
バンバリーミキサーに、ポリスチレン系樹脂(A)49重量部、グラファイト(B)50重量部、エチレンビスステアリン酸アミド(F)1重量部を投入して、5kgf/cmの荷重をかけた状態で加温冷却を行わずに20分間溶融混練した。この際、樹脂温度を測定したところ180℃であった。ルーダーに供給して先端に取り付けられた小穴を有するダイスを通して吐出250kg/hrで押出されたストランド状の樹脂を30℃の水槽で冷却固化させた後、切断してマスターバッチ(G)を得た。マスターバッチ(G)中のグラファイト含有量は50重量%であった。
【0118】
(製造例2)(臭素系難燃剤と熱安定剤との混合物のマスターバッチ(H))
二軸押出機に、ポリスチレン系樹脂(A)を供給して溶融混練した後、押出機途中より臭素系難燃剤(C)、安定剤(D1)及び(D2)の混合物を供給して、さらに溶融混練した。ただし、各材料の重量比率は、(A):(C):(D1):(D2)=70:28.5:0.6:0.9、(A)+(C)+(D1)+(D2)=100重量%とした。押出機先端に取り付けられた小穴を有するダイスを通して、吐出300kg/hrで押出されたストランド状の溶融物を20℃の水槽で冷却固化させた後、切断して臭素系難燃剤と熱安定剤との混合物のマスターバッチ(H)を得た。このとき押出機の設定温度は170℃で実施した。
【0119】
(参考例1)
[ポリスチレン系樹脂粒子の作製]
ポリスチレン系樹脂(A)、マスターバッチ(H)、及び、グラファイトマスターバッチ(G)を、それぞれブレンダーに投入して、10分間ブレンドし、樹脂混合物を得た。各材料の重量比は、(A):(H):(G)=83.65:8.35:8.00、(A)+(H)+(G)=100重量%であった。得られた樹脂混合物を口径40mmの同方向2軸押出機に供給し、設定温度190℃、スクリュ回転数230rpmで溶融混練し、押出機先端に取り付けられた直径1.4mmの小穴が30穴設けられたダイスを通じて、吐出量70kg/時間で押出されたストランド状の樹脂を20℃の水槽で冷却固化させた後、ストランドカッターで切断し、スチレン系樹脂粒子を得た。この時の押出機先端での樹脂温度は220℃であった。
【0120】
[発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の作製]
次いで,容積が6Lの撹拌装置付きオートクレーブに,得られたスチレン系樹脂粒子100重量部に対して脱イオン水200重量部、リン酸三カルシウム1重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.03重量部、塩化ナトリウム1重量部を投入し圧力容器を密閉した。その後1時間で105℃まで加温し、発泡剤として混合ペンタン(ノルマルペンタン80%とイソペンタン20%の混合物)7重量部及びイソブタン1.5重量部を30分間かけて圧力容器内に添加した後、115℃まで10分かけて昇温し、そのまま4時間保持した。保持後室温まで冷却し、オートクレーブから発泡剤の含浸された樹脂粒子を取り出し、塩酸での酸洗、水洗し、遠心分離機で脱水後、気流乾燥機で樹脂粒子表面に付着している水分を乾燥させた。得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の粒重量は1.5mg/粒、アスペクト比は0.985、真球度は0.988であった。得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子100重量部に対して、ステアリン酸亜鉛0.08重量部をドライブレンドした後、10℃で保管した。
【0121】
[予備発泡粒子の作製]
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を作製し、10℃で保管してから15日後に発泡性ポリスチレン系樹脂粒子250gを大開工業(株)製バッチ式予備発泡機に投入し、0.1MPaの水蒸気を予備発泡機に導入して発泡させた。予備発泡直後のかさ倍率は80cm/gであった。その後、10℃で24時間養生した後の予備発泡粒子のかさ倍率は81cm/gであった。
【0122】
[ポリスチレン系樹脂発泡成形体の作製]
養生後の予備発泡粒子を、発泡スチロール用成形機[ダイセン工業(株)製、KR-57]に取り付けた型内成形用金型(長さ400mm×幅400mm×厚み50mm)内に充填して、0.06MPaの水蒸気を導入して型内発泡させた後、金型に水を噴霧して冷却した。ポリスチレン系樹脂発泡成形体が金型を押す圧力が0.01MPa(ゲージ圧力)なるまでポリスチレン系樹脂発泡成形体を金型内に保持した後に、ポリスチレン系樹脂発泡成形体取り出し、30℃にて24時間乾燥させ、ポリスチレン系樹脂発泡成形体を得た。得られたポリスチレン系樹脂発泡体の発泡倍率は81cm/gであった。
【0123】
作製された発泡性ポリスチレン系樹脂粒子、予備発泡粒子、および、ポリスチレン系樹脂発泡成形体について、各種特性を上述の測定方法および評価方法により測定および評価した。測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0124】
(実施例1)
[発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の作製]
ポリスチレン系樹脂(A)、マスターバッチ(H)、及び、グラファイトマスターバッチ(G)を、それぞれブレンダーに投入して、10分間ブレンドし、樹脂混合物を得た。各材料の重量比は、(A):(H):(G)=83.65:8.35:8.00((A)+(H)+(G)=100重量%)であった。
【0125】
得られた樹脂混合物を口径40mmの同方向2軸押出機(第1押出機)と口径90mmの単軸押出機(第2押出機)を直列に連結したタンデム型二段押出機へ供給し、口径40mm押出機の設定温度190℃、回転数230rpmにて溶融混練した。口径40mm押出機(第1押出機)の途中から、上記樹脂混合物100重量部に対して、混合ペンタン[ノルマルペンタン(E1)80重量%とイソペンタン(E2)20重量%の混合物]を5.2重量部及びイソブタン(E3)を2.5重量部圧入し、合計7.7重量部の発泡剤を添加した。その後、200℃に設定された継続管を通じて、口径90mm押出機(第2押出機)に供給した。
【0126】
口径90mm押出機(第2押出機)にて樹脂温度を159℃まで溶融樹脂を冷却した後、250℃に設定した第2押出機の先端に取り付けられた直径0.65mm、ランド長5.0mmの小孔を78個有するダイスから、吐出量76kg/時間で、温度65℃及び1.4MPaの加圧循環水中に押出した。押出された溶融樹脂は、ダイスに接触する6枚の刃を有する回転カッターを用いて、2100rpmの条件にて切断・小粒化され、遠心脱水機に移送されて、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を得た。得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の粒重量は1.6mg/粒、アスペクト比は0.918、真球度は0.988であった。得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子100重量部に対して、ステアリン酸亜鉛0.08重量部をドライブレンドした後、30℃で保管した。
【0127】
[予備発泡粒子の作製]
発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を作製し、30℃で保管してから7日後に参考例1と同様に発泡性ポリスチレン系樹脂粒子250gを大開工業(株)製バッチ式予備発泡機に投入し、0.1MPaの水蒸気を予備発泡機に導入して発泡させた。予備発泡直後のかさ倍率は77cm/gであった。その後、10℃で24時間養生した後の予備発泡粒子のかさ倍率は83cm/gであった。
【0128】
更に、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子のビーズライフを確認するため、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を作製し、30℃で保管してから15日後に発泡性ポリスチレン系樹脂粒子250gを大開工業(株)製バッチ式予備発泡機に投入し、0.1MPaの水蒸気を予備発泡機に導入して発泡させた。予備発泡直後のかさ倍率は75cm/gであった。その後、10℃で24時間養生した後の予備発泡粒子のかさ倍率は80cm/gであった。
【0129】
[ポリスチレン系樹脂発泡成形体の作製]
参考例1と同様の処理を行い、ポリスチレン系樹脂発泡成形体を作製した。参考例1と同様に評価し、その測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0130】
(実施例2)
[ポリスチレン系樹脂粒子の作製]において、口径90mm押出機(第2押出機)にて168℃まで溶融樹脂の温度を冷却した以外は、実施例1と同様の処理によりポリスチレン系樹脂発泡成形体を作製した。実施例1と同様に評価し、その測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0131】
(実施例3)
[ポリスチレン系樹脂粒子の作製]において、口径90mm押出機(第2押出機)にて177℃まで溶融樹脂の温度を冷却した以外は、実施例1と同様の処理によりポリスチレン系樹脂発泡成形体を作製した。実施例1と同様に評価し、その測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0132】
(実施例4)
[ポリスチレン系樹脂粒子の作製]において、口径90mm押出機(第2押出機)にて182℃まで溶融樹脂の温度を冷却した以外は、実施例1と同様の処理によりポリスチレン系樹脂発泡成形体を作製した。実施例1と同様に評価し、その測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0133】
(実施例5)
[ポリスチレン系樹脂粒子の作製]において、口径90mm押出機(第2押出機)にて186℃まで溶融樹脂の温度を冷却した以外は、実施例1と同様の処理によりポリスチレン系樹脂発泡成形体を作製した。実施例1と同様に評価し、その測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0134】
(比較例1)
[ポリスチレン系樹脂粒子の作製]において、口径90mm押出機(第2押出機)にて190℃まで溶融樹脂の温度を冷却した以外は、実施例1と同様の処理によりポリスチレン系樹脂発泡成形体を作製した。実施例1と同様に評価し、その測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0135】
【表1】
【0136】
表1に示される各実施例の結果より、実施例1~5で得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、真球度が0.970以上であり、製造後7日後の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡させてえられた予備発泡粒子の養生後のかさ倍率は、いずれも80倍以上の高倍率を達成できている。また真球度が0.980以上である実施例1、2では、製造後15日後の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子を予備発泡させてえられた予備発泡粒子の養生後のかさ倍率も80倍以上の高倍率を達成できている。一方、真球度が0.970未満である比較例1は、予備発泡粒子の収縮が顕著であり、また、養生後のかさ倍率は80倍未満と発泡性に劣っていることが明らかである。
また、実施例1~5で得られた発泡性ポリスチレン系樹脂粒子は、参考例1の発泡性ポリスチレン系樹脂粒子のアスペクト比よりも小さいものの、予備発泡粒子の収縮は抑えられ、同等の発泡性を有することが明らかである。つまり、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子のアスペクト比が0.95以下であっても、発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の真球度を本発明の要件を満たすように制御することによって、高い発泡倍率と、低い熱伝導率、即ち、高い断熱性能とを両立するポリスチレン系樹脂発泡成形体を与えうるポリスチレン発泡性スチレン系樹脂粒子が提供できることが判る。