(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/12 20060101AFI20221215BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20221215BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20221215BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
B22F9/12 Z
B22F1/14 600
B22F1/00 L
H01B13/00 501Z
(21)【出願番号】P 2018178643
(22)【出願日】2018-09-25
【審査請求日】2021-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2017193892
(32)【優先日】2017-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】織田 晃祐
(72)【発明者】
【氏名】上住 義明
(72)【発明者】
【氏名】坂上 貴彦
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-213524(JP,A)
【文献】特開2016-028176(JP,A)
【文献】国際公開第2017/122902(WO,A1)
【文献】特開昭63-020032(JP,A)
【文献】特開2007-138287(JP,A)
【文献】特表2003-530679(JP,A)
【文献】国際公開第2015/186415(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/122251(WO,A1)
【文献】特開平07-330314(JP,A)
【文献】特表2016-521198(JP,A)
【文献】特表2002-530521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-12/90
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなるコア部と、該コア部の表面に位置し、且つ該金属の化合物からなるシェル部とを有する粒子の製造方法であって、
前記金属の化合物の生成が可能なシェル部形成用ガスを非プラズマ状態で、層流状態のプラズマフレームの周囲に存在させ、その状態下に、該プラズマフレーム内に前記金属からなる粉末原料を供給し、該プラズマフレーム内で該粉末原料をガス化させ、
ガス化した前記粉末原料の冷却によって前記金属の微粒子からなる前記コア部を生成させるとともに、生成した該コア部と前記シェル部形成用ガスとを化学反応させて、該コア部の表面に前記金属の化合物からなる前記シェル部を生成させる、粒子の製造方法。
【請求項2】
前記プラズマフレームの噴射方向に沿って前記シェル部形成用ガスを供給することで、該プラズマフレームの周囲に該シェル部形成用ガスを存在させる請求項1に記載の粒子の製造方法。
【請求項3】
前記プラズマフレームをチャンバーに収容するとともに、該チャンバーの内壁温度以上に加熱した前記シェル部形成用ガスを前記プラズマフレームの周囲に存在させる請求項1又は2に記載の粒子の製造方法。
【請求項4】
フレーム幅に対するフレーム長さの比が3以上である前記プラズマフレームを用いる請求項1ないし3のいずれか一項に記載の粒子の製造方法。
【請求項5】
前記プラズマフレームをチャンバーに収容するとともに、該プラズマフレームを該チャンバー内にのみ存在させ、且つ該チャンバー内に直接に前記シェル部形成用ガスを供給する請求項1ないし4のいずれか一項に記載の粒子の製造方法。
【請求項6】
得られた前記粒子を回収した後、前記シェル部形成用ガスを含有する雰囲気中に更に曝す請求項1ないし5のいずれか一項に記載の粒子の製造方法。
【請求項7】
前記金属が銅である請求項1ないし6のいずれか一項に記載の粒子の製造方法。
【請求項8】
前記金属の化合物が金属酸化物、金属窒化物又は金属炭化物のいずれかである請求項1ないし7のいずれか一項に記載の粒子の製造方法。
【請求項9】
前記金属の化合物が銅酸化物である請求項7に記載の粒子の製造方法。
【請求項10】
前記シェル部形成用ガスが酸素ガスである請求項9に記載の粒子の製造方法。
【請求項11】
直流プラズマ法によって熱プラズマを発生させる装置を用い、DCプラズマトーチから前記プラズマフレームを発生させる、請求項1ないし10のいずれか一項に記載の粒子の製造方法。
【請求項12】
前記DCプラズマトーチにおける前記プラズマフレームの噴出口の周囲に、前記シェル部形成用ガスを噴出する該シェル部形成用ガスの噴出口を1個又は2個以上の複数個配置し、該シェル部形成用ガスの噴出口を通じてシェル部形成用ガス源から該シェル部形成用ガスを供給する、請求項11に記載の粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の微粒子を製造する方法の一つにプラズマを用いた方法が知られている。例えば本出願人は先に、銅微粒子の製造方法として、DCプラズマを使用して原料銅粉を加熱して銅を気化させた後、気化させた銅を冷却することで銅の微粒子を製造する方法を提案した(特許文献1参照)。この方法によれば、微粒であるにもかかわらず結晶子サイズが大きい銅粒子が得られるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/122251号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術によれば、微粒であるとともに、球形度及び結晶性が高い銅粒子が得られる。この銅粒子は例えば焼結材料や電子部品用材料等として有用であると期待されている。かかる銅粒子を初めとする金属粒子に一層の機能を付与するための手段の一つとして、金属粒子の表面に、該金属とは別異の材料からなる被覆層を設けることが知られている。特許文献1に記載の方法は、金属粒子そのものの製造にとどまり、被覆層を有する金属粒子の製造については検討されていない。
【0005】
したがって本発明の課題は、金属粒子の表面に被覆層を有する複合金属粒子を製造するための新規な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、金属からなるコア部と、該コア部の表面に位置し、且つ該金属の化合物からなるシェル部とを有する粒子の製造方法であって、
前記金属の化合物の生成が可能なシェル部形成用ガスを非プラズマ状態で、層流状態のプラズマフレームの周囲に存在させ、その状態下に、該プラズマフレーム内に前記金属からなる粉末原料を供給し、該プラズマフレーム内で該粉末原料をガス化させ、
ガス化した前記粉末原料の冷却によって前記金属の微粒子からなる前記コア部を生成させるとともに、生成した該コア部と前記シェル部形成用ガスとを化学反応させて、該コア部の表面に前記金属の化合物からなる前記シェル部を生成させる、粒子の製造方法を提供することにより前記の課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、金属粒子の表面に均一な厚みを有し、且つ結晶性の高い被覆層を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の製造方法に好適に用いられる装置の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明は、コア部とシェル部とを有する複合粒子の製造方法に係るものである。コア部は金属からなる部位であり、複合粒子の大部分の容積を占める。シェル部はコア部の表面に位置する部位である。シェル部はコア部の表面に直接位置していてもよく、あるいはシェル部とコア部との間には別の部位が介在していてもよい。一般にシェル部はコア部の表面に直接位置している。
【0010】
コア部は金属からなる。コア部を構成する金属は、単体の金属元素からなるか、又は2種以上の金属元素を含む合金からなる。製造の対象とする複合粒子の特性が損なわれない限りにおいて、コア部に、目的とする金属元素以外の不可避不純物が存在することは許容される。コア部を構成する金属元素としては、例えばCu、Si、Ni、Ti、Fe、Co、Cr、Mg、Mn、Mo、W、Ta、In、Zr、Nb、Ge、Sn、Zn、Bi等の遷移金属元素が典型的なものとして挙げられるが、これに限られず、それ以外の金属元素、例えばランタノイド類やアクチノイド類などを用いてもよい。これらの金属元素は1種を単独で用いることもでき、あるいは2種以上を組み合わせた合金として用いることもできる。
【0011】
コア部の表面に位置するシェル部は、コア部を構成する金属の化合物からなる。この化合物としては、例えば、コア部を構成する金属の元素と、非金属元素との化合物が挙げられる。具体的には、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物などが挙げられるが、これらに限られない。
【0012】
コア部とシェル部との組み合わせの例としては、コア部を構成する金属が銅である場合には、シェル部は、酸化銅、亜酸化銅、水酸化銅などの銅酸化物及び銅水酸化物などが挙げられる。
【0013】
本製造方法を行うときの条件にもよるが、製造された複合粒子においては、シェル部はコア部の全域を被覆しており、コア部の表面が露出しない状態であることが好ましい。また、シェル部の厚みは均一であることが好ましい。複合粒子の具体的な用途にもよるが、本製造方法によれば、シェル部の厚みは、複合粒子の粒径に対して好ましくは0.9%以上21.0%以下の範囲で設定が可能であり、更に好ましくは2.1%以上13.0%以下の範囲で設定が可能である。
【0014】
また、複合粒子の具体的な用途にもよるが、本製造方法によれば、シェル部の厚みは、好ましくは0.45nm以上50nm以下の範囲で設定が可能であり、好ましくは1nm以上50nm以下の範囲で設定が可能であり、更に好ましくは3nm以上33nm以下の範囲で設定が可能である。
【0015】
一方、コア部の粒径は、好ましくは50nm以上750nm以下の範囲で設定が可能であり、更に好ましくは80nm以上380nm以下の範囲で設定が可能である。
【0016】
シェル部の厚み及びコア部の粒径は、複合粒子を対象とした透過型電子顕微鏡(TEM)観察で測定できる。シェル部の厚みは、TEM観察によって、1個の複合粒子について2箇所以上の位置でシェル部の厚みを測定し、その操作を100個以上の複合粒子を対象として行い、その算術平均値を算出することで求められる。コア部の粒径は、TEM観察によって、コア部の最大横断長を測定し、その操作を100個以上の複合粒子を対象として行い、その算術平均値を算出することで求められる。
【0017】
シェル部及びコア部を備えた複合粒子の全体の粒径は、本製造方法によれば、好ましくは51nm以上800nm以下の範囲で設定が可能であり、更に好ましくは83nm以上413nm以下の範囲で設定が可能である。複合粒子の粒径は、TEM観察によって、複合粒子の最大横断長を測定し、その操作を100個以上の複合粒子を対象として行い、その算術平均値を算出することで求められる。
【0018】
図1には、本発明の製造方法に好適に用いられるプラズマ装置が模式的に示されている。同図に示すプラズマ装置1は、直流プラズマ(以下「DCプラズマ」とも言う。)法によって熱プラズマを発生させる装置である。プラズマ装置1は、粉末供給装置2、チャンバー3、DCプラズマトーチ4、回収ポット5、粉末供給ノズル6、ガス供給装置7及び圧力調整装置8を備えている。
【0019】
同図に示すプラズマ装置1においては、粉末原料は、粉末供給装置2から粉末供給ノズル6を通してDCプラズマトーチ4内部に供給される。粉末原料は、目的とする複合粒子のコア部を構成する金属からなる。プラズマトーチ4には、ガス供給装置7から、プラズマ発生用のガスが供給されてプラズマフレームが発生するようになっている。チャンバー3は、プラズマトーチ4から発生したプラズマフレームを収容するように、プラズマトーチ4の直下に配置されている。プラズマ装置1のチャンバー3の内部は、圧力調整装置8によって粉末供給ノズル6よりも相対的に陰圧が保持されるように制御され、それによってプラズマフレームを安定して発生し得るようになっている。
【0020】
熱プラズマ発生用のガス(以下「プラズマガス」とも言う。)の種類に特に制限はなく、粉末原料を構成する金属の種類に応じ、これまで知られている各種のガスを適切に選択して用いることができる。例えば粉末原料が銅からなり、銅のコア粒子を生成させたい場合には、プラズマガスとしてアルゴンガスと窒素ガスとの混合ガスや、アルゴンガスと窒素ガスとヘリウムガスとの混合ガスを用いることができる。かかる混合ガスを使用すると、窒素(2原子分子)ガスによって、より大きな振動エネルギー(熱エネルギー)を粉末原料の粒子に付与することができ、凝集状態を均一にできるので、粒度分布が一層シャープな微粒子を得ることができるという利点がある。
【0021】
プラズマガスとして、アルゴンガスと窒素ガスとの混合ガスを使用する場合、粒度分布のシャープな微粒子を得る観点から、プラズマガスにおけるアルゴンガスと窒素ガスとの割合は流量比で99:1~10:90であることが好ましく、99:1~50:50であることが更に好ましく、95:5~50:50であることが一層好ましく、95:5~60:40であることが更に一層好ましく、95:5~80:20であることが最も好ましい。特に、プラズマガスにおけるアルゴンガスと窒素ガスとの割合が流量比で99:1~50:50、特に95:5~50:50のように、窒素ガスよりもアルゴンガスの流量の方が多い比率内で調整することが、プラズマフレームの減退を防止する観点から好ましい。
【0022】
プラズマガスをDCプラズマトーチ4に供給してプラズマフレームを発生させたら、プラズマフレームの周囲に、コア部を構成する金属の化合物の生成が可能なシェル部形成用ガスを、非プラズマ状態で存在させる。「非プラズマ状態」とは、該シェル部形成用ガスがイオンと電子とに分離しておらず、分子の状態そのままになっていることである。また、「コア部を構成する金属の化合物の生成が可能なシェル部形成用ガス」とは、例えば金属の化合物が金属酸化物である場合には、該金属酸化物の生成が可能な化合物のガスのことであり、その具体例としては酸素ガスや水と酸素の混合ガスが挙げられる。金属の化合物が金属窒化物である場合には、例えば窒素ガスが挙げられる。また、金属の化合物が金属炭化物である場合には、例えば、CO2ガス及びCH4ガスなどが挙げられる。
【0023】
DCプラズマトーチ4でプラズマフレームを発生させるときには、該プラズマフレームを層流状態にすることが、その周囲に存在させる前記のシェル部形成用ガスを安定的に非プラズマ状態にさせ得る観点から有利であることが本発明者の検討の結果判明した。プラズマフレームを層流状態にすることで、その周囲に存在させる前記のシェル部形成用ガスがプラズマフレーム内に取り込まれにくくなり、該シェル部形成用ガスのプラズマ化が効果的に抑制される。これとは対照的に、プラズマフレームが乱流状態である場合には、プラズマフレームの周囲に存在させる前記のシェル部形成用ガスが、乱流状態のプラズマフレーム中に取り込まれやすくなり、該シェル部形成用ガスが容易にプラズマ化してしまう。また、プラズマフレームを層流状態にすることで、該プラズマフレーム内に供給した粉末原料が、プラズマフレーム中で瞬時に蒸発気化し、プラズマフレーム内で十分なエネルギーを獲得することができるので、プラズマ尾炎部に向けて核形成、凝集及び凝縮が生じ、コア部、とりわけサブミクロンオーダーのコア部を首尾よく形成できるという利点もある。
【0024】
上述の利点を一層顕著なものとする観点から、層流状態で太く長いプラズマフレームを発生させることが有利である。プラズマフレームが層流状態であるか否かは、プラズマフレームを、フレーム幅が最も太く観察される側面から観察したときに、フレーム幅に対するフレーム長さの比(以下「フレームアスペクト比」とも言う。)が3以上であるか否かによって判断することができる。フレームアスペクト比が3以上であればそのプラズマフレームは層流状態と判断でき、3未満であれば乱流状態と判断できる。
【0025】
層流状態で太く長いプラズマフレームを発生させるためには、プラズマ出力及びプラズマガスの流量を調整することが好ましい。かかる観点から、プラズマ装置1のプラズマ出力は2kW以上40kW以下であることが好ましく、4kW以上30kW以下であることが更に好ましい。プラズマガスの流量は、0.1L/min以上22L/min以下であることが好ましく、特に0.5L/min以上18L/min以下であることが更に好ましい。
【0026】
前記と同様の観点から、プラズマガスとして上述の窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを用いる場合には、且つプラズマ出力(A)に対する、アルゴンガス流量(B)と窒素ガス流量(C)との和の比、すなわち計算式(B+C)/Aから算出された値(単位:L/(min・kW))が、0.50以上2.00以下とすることが好ましく、0.70以上1.70以下とすることが更に好ましく、0.75以上1.50以下とすることが一層好ましい。プラズマ発生の条件をこのように設定することで、粉末原料のガス化に必要な流速を得ることができる。また、プラズマフレームを安定した層流状態に保持することができる。
【0027】
前記のシェル部形成用ガスを非プラズマ状態で、層流状態のプラズマフレームの周囲に存在させるためには、プラズマフレームの噴射方向に沿って該シェル部形成用ガスを供給することが有利であることが、本発明者の検討の結果判明した。例えば
図1に示すとおり、DCプラズマトーチ4におけるプラズマフレームの噴出口の周囲に、1個又は2個以上の複数個のシェル部形成用ガスの噴出口9aを配置し、噴出口9aを通じてシェル部形成用ガス源9bからシェル部形成用ガスを供給することができる。特にプラズマトーチ4によって発生したプラズマフレームを
図1に示すとおりチャンバー3内にのみ存在させ、且つチャンバー3内に直接にシェル部形成用ガスを供給することが、該シェル部形成用ガスのプラズマ化を効果的に防止する観点から有利である。
【0028】
前記のシェル部形成用ガスを非プラズマ状態で、層流状態のプラズマフレームの周囲に存在させたら、その状態下に、該プラズマフレーム内に、コア部を構成する金属からなる粉末原料を供給する。粉末原料は、プラズマフレーム内で高温に曝されてガス化する。粉末原料は、プラズマフレーム内への噴射性の観点から、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50が3μm以上30μm以下であることが好ましく、5μm以上15μm以下であることが更に好ましい。粉末原料を構成する粒子の形状は、樹枝状、棒状、フレーク状、キュービック状、及び球状ないし略球状など特に制限されるものではない。プラズマトーチへの供給効率を安定化する観点からは、球状ないし略球状であることが好ましい。
【0029】
プラズマフレーム内でガス化した粉末原料は、プラズマ流に搬送されプラズマ尾炎部に向かうに連れて冷却される。それによって、該粉末原料を構成する金属の核形成、凝集及び凝縮が生じ、該金属の微粒子からなるコア部が生成する。このようにして生成したコア部は一般に球状ないし略球状の形状をしている。
【0030】
生成した金属の微粒子、つまりコア部は、プラズマフレームから離脱し、該プラズマフレーム周囲に存在する前記のシェル部形成用ガスと接触する。換言すれば、コア部は、プラズマフレーム内に存在している間はシェル部形成用ガスと接触していない。プラズマフレームから離脱したコア部は、比較的高温を維持した状態になっていることから、該シェル部形成用ガスと接触することで、該シェル部形成用ガスと容易に化学反応する。その結果、コア部は、その内部が金属である状態を維持しつつ、その表面が該金属の化合物に変化し、該化合物からなるシェル部が生成する。コア部とシェル部形成用ガスとの接触は気相中において均一に起こるので、該接触によって生じるシェル部は均一な厚みをもってコア部の表面を満遍なく被覆することになる。しかも生成したシェル部を構成する化合物はその結晶性が高くなる。
【0031】
シェル部を構成する金属と前記のシェル部形成用ガスとの化学反応を一層首尾よく生じさせ、結晶性が高く且つ均一なシェル部を得る観点から、プラズマ装置1のチャンバー3の内壁温度以上に加熱した該シェル部形成用ガスをプラズマフレームの周囲に存在させることが好ましい。こうすることで、シェル部形成用ガスの温度が一層均一となり、コア部とシェル部形成用ガスとが一層均一に反応することとなるので、一層均一な厚みを有し、且つ一層結晶性の高いシェル部を生成させることができる。
【0032】
このようにして生成した複合粒子は、チャンバー3に放出された後、回収ポット5内に蓄積回収される。回収された複合粒子は、必要に応じ、シェル部形成用ガスを含有する雰囲気中に更に曝すことが好ましい。この場合、粗大粒子を除去するための篩処理や所定の粒度分布とするための解砕処理を、シェル部形成用ガスを含有する雰囲気中で行っても良い。これによって、コア部とシェル部形成用ガスとの反応が促進され、一層均一な厚みを有するシェル部を形成することが可能になる。シェル部形成用ガスを含有する雰囲気としては、該シェル部形成用ガスそのもの、及び該シェル部形成用ガスと不活性ガスとの混合ガスなどを用いることができる。不活性ガスとしては、例えば窒素ガスやアルゴンガスを用いることができる。
【0033】
得られた複合粒子を分級して、コンタミネーションとして存在する粗大凝集粒子や異物の除去を行ってもよい。分級のためは、適切な分級装置を用いて、目的とする粒度が中心となるように、粗粉や微粉を分離するようにすればよい。
【0034】
このようにして製造された複合粒子は、コア部の金属とシェル部の金属化合物との組み合わせに応じて種々の用途に用いられる。例えばコア部が銅であり、シェル部が銅酸化物である場合の複合銅粒子は、導電材料又はボンディング材料として、粉末の状態又はペースト等の組成物の状態で好適に用いられる。具体的には、積層セラミックコンデンサの内部電極及び外部電極、インダクタやレジスター等のチップ部品の電極、単板コンデンサ電極、タンタルコンデンサ電極、樹脂多層基板の導体回路、セラミック(LTCC)多層基板の導体回路、フレキブルプリント基板(FPC)の導体回路、アンテナスイッチモジュール回路、PAモジュール回路や高周波アクティブフィルター等のモジュール回路、電磁遮蔽フィルム、結晶型太陽電池表面電極及び背面引き出し電極、導電性接着剤、EMIシールド、RF-ID、PCキーボード等のメンブレンスイッチ、異方性導電膜(ACF/ACP)、電子部品や半導体の接合部材、並びに回路修復用ペースト等の導電材として用いられる。
また例えば、コア部がケイ素であり、シェル部がケイ素酸化物である場合の複合ケイ素粒子、及びコア部がスズであり、シェル部がスズ酸化物である場合の複合スズ粒子は、リチウム二次電池の負極活物質材料として用いられる。
【0035】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば
図1に示すプラズマ装置1においては、シェル部形成用ガスを、DCプラズマトーチ4におけるプラズマフレームの噴出口の周囲に設けられた噴出口9aから噴出させるようにしてあるが、シェル部形成用ガスの噴出口9aを設ける位置はこれに限られず、チャンバー3における他の位置、例えばチャンバー3の側面にシェル部形成用ガスの噴出口を設けてもよい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0037】
〔実施例1〕
本実施例では、
図1に示すDCプラズマ装置1を用いて下記に従い銅のコア部が銅酸化物のシェル部で被覆された複合銅粒子を製造した。
粉末原料として銅粉(粒径10μm、球状)を用いた。この銅粉を、10g/分の供給量で、粉末供給ノズル6を通じてDCプラズマトーチ4に供給した。プラズマガスとしては、窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを用いた。窒素ガスの流量は0.7L/分に設定し、アルゴンガスの流量は13.0L/分に設定した。アルゴンガスの流量(B)と窒素ガスの流量(C)との比は95:5であった。また、プラズマ出力(A)は10.0kWに設定した。したがって(B+C)/A=1.37(L/(min・kW))であった。生成したプラズマフレームについて、フレーム幅が最も太く観察される側面から該プラズマフレームを写真撮影し、画像を二値化してフレーム幅に対するフレーム長さの比であるフレームアスペクト比を測定した。その結果、フレームアスペクト比は4であり、プラズマフレームは層流であることが確認された。
シェル部を生成させるためのシェル部形成用ガスとして酸素ガスを用いた。酸素ガスは、DCプラズマ装置1におけるチャンバー3の上部の位置であって、且つプラズマトーチ4のプラズマ噴出口の周囲に設けられたシェル部形成用ガス噴出口9aからチャンバー3内に供給した。酸素ガスの供給の流量は0.025L/分に設定した。酸素ガスは、チャンバー3の内壁面の温度である100℃以上の温度、すなわち100℃に加熱した状態でプラズマフレームの周囲に供給した。
このようにして得られた複合粒子を回収ポット5に蓄積した。回収された複合粒子を、酸素ガスと窒素ガスとの混合ガス雰囲気下で、目開き150μmの篩にかけて粗大粒子を除去した。このようにして、目的とする複合銅粒子を得た。
【0038】
〔実施例2〕
表1に示す条件を採用した以外は実施例1と同様にして複合銅粒子を得た。
【0039】
〔比較例1〕
表1に示す条件を採用した以外は実施例1と同様にして複合銅粒子を得た。生成したプラズマフレームは乱流であり、フレームが左右に揺れた不安定な状態であった。
【0040】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた複合銅粒子について、その粒径、コア部の粒径、シェル部の厚みを上述の方法で測定した。また、以下の方法で塗膜の10点平均粗さRzを測定した。それらの結果を以下の表2に示す。
【0041】
〔塗膜の10点平均粗さRz〕
実施例及び比較例で得られた複合銅粒子20gと、エチルセルロースポリマー(日新化成株式会社製 品名:エトセル)0.3gと、テルピネオール3.7gとを秤量し、ヘラで予備混練した後、自転・公転真空ミキサー(シンキー社製、ARE-500)を用いて、攪拌モード(1000rpm×1分間)と脱泡モード(2000rpm×30秒間)を1サイクルとした処理を2サイクル行い、ペースト化した。このペーストを、更に3本ロールミルを用いて合計5回処理することで更に分散混合を行い、ペーストを調製した。
このように調整したペーストを、アプリケーターを用い、ギャップを35μmに設定してスライドガラス基板上に塗布した。その後、窒素オーブンを用い、150℃で10分間にわたり加熱乾燥し塗膜を作製した。得られた塗膜について、表面粗さ計(TOKYO SEIMITSU製SURFCOM 480B-12)を用いて、10点平均粗さRz(μm)を測定した。なお、10点平均粗さRzは、JIS B0601-1982に準拠して測定されたものである。
【0042】
【0043】
【0044】
表1及び表2に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた複合銅粒子は、比較例の複合銅粒子に比べて塗膜の10点平均粗さRzが低くなることが判る。この理由は、各実施例で得られた複合銅粒子は、比較例の複合銅粒子に比べてシェル部の形成が均一に行われており、且つシェル部の結晶性が高いことに起因して、複合銅粒子同士の凝集が起こりにくいためであると考えられる。
【符号の説明】
【0045】
1 プラズマ装置
2 粉末供給装置
3 チャンバー
4 DCプラズマトーチ
5 回収ポット
6 粉末供給ノズル
7 ガス供給装置
8 圧力調整装置
9a シェル部形成用ガス噴出口
9b シェル部形成用ガス源