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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】真空吸引装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20221215BHJP
【FI】
H01L21/68 P
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018192282
(22)【出願日】2018-10-11
(65)【公開番号】P2019096864
(43)【公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2017223992
(32)【優先日】2017-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊地 真哉
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 教夫
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 淳寿
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-311428(JP,A)
【文献】特開2003-001182(JP,A)
【文献】米国特許第06032997(US,A)
【文献】特開平06-244269(JP,A)
【文献】特開2010-153585(JP,A)
【文献】特開平01-319964(JP,A)
【文献】特開平01-319965(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0241298(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、前記基体の主面において線状に延在して前記基体の主面から上方に突出するリブと、3つ以上の前記リブが指定方向に並列されて構成されている複数のリブ群と、前記リブ群において隣り合う一対の前記リブによって画定されている複数の溝と、前記基体に形成されて前記複数の溝のぞれぞれと連通する複数の吸引経路と、を備えている真空吸引装置であって、
前記リブ群を構成する隣り合う一対の前記リブのそれぞれによって画定される前記複数の溝のそれぞれに対して前記基体の主面に開口する開口部を介して前記吸引経路が連通しており、
前記リブ群のなかで、前記複数の溝に対する複数の前記開口部のそれぞれは、平面視で前記基体の中心から半径方向外側に向かって直線状の一列の群になるように配列され、さらに前記開口部の一列の群は前記基体の中心に対して回転対称性を有するように配置されており、
前記リブ群を構成する前記リブの前記指定方向におけるピッチは、前記リブの前記指定方向における幅の1.5倍~1.5倍+3mmの範囲に含まれ、かつ、前記リブ群を構成する前記リブの前記指定方向における幅が0.05~3mmの範囲に含まれていることを特徴とする真空吸引装置。
【請求項2】
請求項1記載の真空吸引装置であって、
前記基体の主面に前記複数のリブ群を備え、前記複数のリブ群のうち一のリブ群によって画定される前記複数の溝のそれぞれと連通する前記吸引経路と、前記複数のリブ群のうち他のリブ群によって画定される前記複数の溝のそれぞれと連通する前記吸引経路とは、相互に独立した吸引経路を構成していることを特徴とする真空吸引装置。
【請求項3】
請求項2記載の真空吸引装置であって、
前記複数のリブ群を構成するリブ群のそれぞれは、同心状に配置されている3つ以上の前記リブとしての3つ以上の環状リブにより構成される環状リブ群であることを特徴とする真空吸引装置。
【請求項4】
請求項3記載の真空吸引装置であって、
複数の前記環状リブ群のうち一の前記環状リブ群の内周側に、他の前記環状リブ群が配置されていることを特徴とする真空吸引装置。
【請求項5】
請求項4項記載の真空吸引装置であって、
前記一の環状リブ群の環状リブと、前記他の環状リブ群の環状リブとが同心状に配置されていることを特徴とする真空吸引装置。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の真空吸引装置であって、
前記基体の主面に垂直な方向から見たときに、前記基体の主面の面積に対する前記リブ群と前記溝が形成される領域の面積の割合が60%以上100%以下であることを特徴とする真空吸引装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置に用いられる、ウエハを吸着保持する真空吸引装置に関する。
【背景技術】
【0002】
露光機などの半導体製造装置において、ウエハの均一な吸着のため、例えばウエハを載置する載置面に溝を設け、該溝に設けられた吸引孔から空気を真空引きすることで、載置面に載置したウエハを吸着する真空吸引装置が提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭60-146674号公報
【文献】特開平05-082631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の真空吸引装置は、ウエハを載置する載置面にリング状の溝を同心円状に複数設け、該リング状の溝に吸引経路を接続して吸引することで、載置面にウエハを吸着するものである。
【0005】
特許文献2の真空吸引装置は、基体に上方に突出するリング状のリブを複数設け、該リブの上面である載置面にリブに沿ったリング状の溝を設け、該リング状の溝に吸引経路を接続して吸引することで、載置面にウエハを吸着するものである。
【0006】
ウエハを載置面に載置した状態で溝から吸引することで、ウエハを載置面に吸着できるが、ウエハと載置面の接触により生じるパーティクルの量を抑えつつ、溝の間にウエハが落ち込んで撓まないようにすることが好ましい。
【0007】
しかし、特許文献1の真空吸引装置では、基体の上面を構成する載置面と溝のうち、上面の面積のほとんどは載置面であり、溝の面積が小さいため、ウエハと載置面の接触面積が大きくパーティクルの量が多くなる。
【0008】
また、特許文献2の真空吸引装置では、リング状のリブの上面が載置面となるためウエハと載置面の接触面積は小さくなりパーティクルの量は抑えられるが、リング状のリブとリブとの間隔が大きいため、リブ間にウエハが落ち込んでウエハが撓んでしまう。このリブ間へのウエハの落ち込みを防止するためにリブ間に、吸引孔とは別に、外気と通じる通気孔を設けているため構造が複雑となる。
【0009】
本発明は、以上の点に鑑み、ウエハの撓みを防止するとともにパーティクルの量を抑えることを図り得る簡易な構造の真空吸引装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]上記目的を達成するため、本発明の真空吸引装置は、
基体と、前記基体の主面において線状に延在して前記基体の主面から上方に突出するリブと、3つ以上の前記リブが指定方向に並列されて構成されている複数のリブ群と、前記リブ群において隣り合う一対の前記リブによって画定されている複数の溝と、前記基体に形成されて前記複数の溝のぞれぞれと連通する複数の吸引経路と、を備えている真空吸引装置であって、
前記リブ群を構成する隣り合う一対の前記リブのそれぞれによって画定される前記複数の溝のそれぞれに対して前記基体の主面に開口する開口部を介して前記吸引経路が連通しており、
前記リブ群のなかで、前記複数の溝に対する複数の前記開口部のそれぞれは、平面視で前記基体の中心から半径方向外側に向かって直線状の一列の群になるように配列され、さらに前記開口部の一列の群は前記基体の中心に対して回転対称性を有するように配置されており、
前記リブ群を構成する前記リブの前記指定方向におけるピッチは、前記リブの前記指定方向における幅の1.5倍~1.5倍+3mmの範囲に含まれ、かつ、前記リブ群を構成する前記リブの前記指定方向における幅が0.05~3mmの範囲に含まれていることを特徴とする。
【0011】
かかる構成によれば、真空吸引装置は、基体の主面から上方に突出する3つ以上のリブを指定方向に並列に並べたリブ群を有し、隣り合う一対のリブのそれぞれによって画定される複数の溝のそれぞれに開口部を設けて複数の吸引経路のそれぞれを連通させただけであるので、構造を簡単にすることが可能となる。
【0012】
ところで、リブの指定方向における幅を0.05~3mmとした場合に、ピッチをリブの幅の1.5倍より小さくすると、リブの頂面とウエハの接触面積が大きくなりパーティクルの量が多くなる。ピッチをリブの幅の1.5倍+3mmより大きくすると、リブの頂面とウエハの接触面積が小さくなりパーティクルの量を抑えられるもののリブのピッチが大きくなることで、隣り合うリブとウエハによって画定される空間を排気することによるウエハの当該リブの上端面への接触がさらに隣接するリブの上端面へドミノ状に連鎖的に発生しにくくなるとともに、ウエハがリブ間に落ち込んでしまい局所的な平面度を悪化させてしまう。この点、本発明では、リブの指定方向におけるピッチは、リブの指定方向における幅の1.5倍~1.5倍+3mmの範囲に含まれ、かつ、リブの指定方向における幅が0.05~3mmとしたので、パーティクルの量を抑えつつ、ウエハがリブ間に落ち込まず撓まないようにすることが可能となる。
【0013】
[2]また、本発明の真空吸引装置において、前記基体の主面に前記複数のリブ群を備え、前記複数のリブ群のうち一のリブ群によって画定される前記複数の溝のそれぞれと連通する前記吸引経路と、前記複数のリブ群のうち他のリブ群によって画定される前記複数の溝のそれぞれと連通する前記吸引経路とは、相互に独立した吸引経路を構成していることを特徴とする真空吸引装置。
【0014】
かかる構成によれば、基体の主面に複数のリブ群を備え、一のリブ群によって画定される溝に連通する吸引経路と、他のリブ群によって画定される溝に連通する吸引経路とは、相互に独立した吸引経路を構成している。このため、一のリブ群によって画定される領域を吸引し一の領域のウエハの撓みをなくしてリブの頂面に吸着させた後、他のリブ群によって画定される領域を吸引し他の領域のウエハの撓みをなくしてリブの頂面に吸着させることで、リブ群によって画定される領域毎に順番にウエハを段階的にリブの頂面に吸着させることができ、大きな面積のウエハであっても撓みをなくすことが可能となる。
【0015】
[3]また、本発明の真空吸引装置において、前記複数のリブ群を構成するリブ群のそれぞれは、同心状に配置されている3つ以上の前記リブとしての3つ以上の環状リブにより構成される環状リブ群であることが好ましい。
【0016】
かかる構成によれば、複数のリブ群を構成するリブ群のそれぞれは、同心状に配置される3つ以上のリブとしての3つ以上の環状リブにより構成されているので、中心側のリブから外側のリブに向かって順番に吸着することで、ウエハの撓みを外側に逃がすことが可能となる。
【0017】
[4]また、本発明の真空吸引装置において、複数の前記環状リブ群のうち一の前記環状リブ群の内周側に、他の前記環状リブ群が配置されていることが好ましい。
【0018】
かかる構成によれば、複数の環状リブ群のうち一の環状リブ群の内周側に、他の環状リブ群が配置されているので、中心側のリブ群から外側のリブ群に向かって順番に吸着することで、撓みを外側に逃がしてウエハ全体として撓みを防止することが可能となる。
【0019】
[5]また、本発明の真空吸引装置において、前記一の環状リブ群の環状リブと、前記他の環状リブ群の環状リブとが同心状に配置されていることが好ましい。
【0020】
かかる構成によれば、一の環状リブ群の環状リブと、他の環状リブ群の環状リブとが同心状に配置されていることで、環状リブ全てが同心状に配置されるので構成を簡単にするとともに、中心から外側に向かって順番に吸着させるだけで、ウエハ全体として均一に撓みをなくすことが可能となる。
【0021】
[6]また、本発明の真空吸引装置において、前記複数のリブ群が、前記基体の主面の基準点から見た複数の方位範囲にそれぞれ形成されていることが好ましい。
【0022】
かかる構成によれば、複数のリブ群が、基体の主面の基準点から見た複数の方位範囲にそれぞれ形成されているので、例えばリブを直線状にするなど、リブを配置する設計の自由度を向上させることが可能となる。
【0023】
[7]また、本発明の真空吸引装置において、前記基体の主面に垂直な方向から見たときに、前記基体の主面の面積に対する前記リブ群と前記溝が形成される領域の面積の割合が60%以上100%以下であることが好ましい。
【0024】
かかる構成によれば、基体の主面の全体にリブ群が設けられているので、より一層ウエハ全体を均一に支持して撓みをなくすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第1実施形態に係る真空吸引装置を示す平面図である。
図2図1のII-II線断面図である。
図3】ウエハの合格判定領域を示す図である。
図4図1の真空吸引装置を示す作用図である。
図5】本発明の第2実施形態に係る真空吸引装置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第1実施形態)
以下、図面を用いて本発明の第1実施形態を説明する。図1及び図2に示すように、本発明の第1実施形態に係る真空吸引装置10は、ウエハ1をチャック部11に吸着する装置である。真空吸引装置10は、台部(不図示)に設けられ平面視で円形状を呈するチャック部11と、チャック部11に接続されウエハ1を吸引する吸引部30とを備えている。
【0027】
チャック部11は、基体13と、該基体13の主面14において線状に延在して基体13の主面14から上方に突出するリブ15と、複数のリブ15が等間隔に指定方向に並列に構成されているリブ群20と、該リブ群20において隣り合う一対のリブ15によって画定されている溝16とを備えている。ここで、指定方向とは、平面視で中心から径方向外側への向きとする。
【0028】
基体13の主面14には、複数のリブ群20が備えられている。複数のリブ群20をそれぞれ、第1のリブ群20a、第2のリブ群20b、第3のリブ群20c、第4のリブ群20d及び第5のリブ群20e(符号a~eは、第1~第5の部位を区別するための符号とする。以下同様。)とする。
【0029】
複数のリブ群20を構成するリブ群20のそれぞれは、同心状に配置されている複数のリブ15としての複数の環状リブにより構成される環状リブ群である。複数のリブ群(以下、環状リブ群という)20のうち一の環状リブ群20の内周側に、他の環状リブ群20が配置されている。そして、一の環状リブ群20のリブ(以下、環状リブという)15とが同心状に配置されている。
【0030】
また、溝16は、底を構成する基体の主面14と、環状に延出し且つ主面14から突出している2つの立壁部17とからなる。環状リブ15は、径方向で内側面を成す立壁部17と径方向で外側面を成す立壁部17の上端を繋ぐように形成されウエハ1(図1参照)が載置される上端面18とからなる。
【0031】
環状リブ群20を構成する環状リブ15の指定方向におけるピッチLは、環状リブ15の指定方向における幅Wの1.5倍~1.5倍+3mmの範囲に含まれ、かつ、環状リブ群20を構成する環状リブ15の指定方向における幅Wが0.05~3mmの範囲に含まれているものとする。ここで、ピッチLは、リブ15の指定方向における幅の中央から、隣り合うリブ15の指定方向における幅の中央までの距離とする。
【0032】
なお、実施形態ではリブ15の指定方向におけるピッチLの範囲及びリブ15の幅Wの範囲を環状リブ15のものとしたが、これに限定されず、リブ15の指定方向におけるピッチLの範囲及びリブ15の幅Wの範囲は、環状ではないリブ15であっても同様である。
【0033】
また、リブ群20は等間隔(等ピッチL)に指定方向に並列された複数のリブ15から構成されているものとしたが、これに限定されず、リブ群20は異なる間隔(異なるピッチL)で指定方向に並列された複数のリブ15から構成されているものとしてもよい。つまり、リブ群で比較すると、ピッチLが異なっていてもよい、ただし、リブ群のなかでは、ピッチは等間隔である。さらには、実施形態では、複数のリブ15のそれぞれの指定方向における幅Wを同じ幅にしたが、これに限定されず、複数のリブ15のぞれぞれの指定方向における幅Wを異なる幅としてもよい。
【0034】
また、一のリブ群20を構成するリブ15は複数としたが、3つ以上であればよく、5つ、10以上等であっても差し支えない。環状リブ群20である場合も同様に、環状リブ群20は同心状に配置されている複数の環状リブ15により構成されているものとしたが、環状リブは3つ以上であればよく、5つ、10以上等であっても差し支えない。
【0035】
また、実施形態では、環状リブ群20は、同心状の複数の環状リブ15から構成されているものとしたが、これに限定されず、外側の環状リブ15の内側にこれよりも小さい外形の環状リブ15配置され、この内側にさらに小さい外形の環状リブ15が配置され、このように繰り返して多重環状に環状リブ15が配置されていれば、複数の環状リブ15は同心状に配置されていなくても差し支えない。
【0036】
また、実施形態では、溝16を構成する立壁部17を主面14から垂直に且つ一直線に立ち上がる一面で形成したが、これに限定されず、立壁部17は傾斜面、内側に凹む曲面、外側に膨らむ曲面、段付き面であってもよい。換言すると、リブ15の横断面が、矩形状、台形状、半円状、段付きの凸形状等であってもよい。リブ15の横断面が半円状の場合は、上端面18が平面にならず、ウエハ1と線接触となるような線状となってもよい。
【0037】
立壁部17と上端面18との接続部分は、面取り、糸面取り、曲面R等が形成されていてもよい。
【0038】
また、基体13の主面14に垂直な方向から見たときに、基体13の主面14の面積に対するリブ群20と溝16が形成される領域の面積の割合は、60%以上100%以下である。このように、基体13の主面14の全体にリブ群20が設けられている。なお、リブ群20と溝16とが形成される領域の面積は、主面14の面積の100%であることが望ましいが、隣り合うリブ群20の間に溝16が形成されない領域が形成されていてもよい。ただし、隣り合うリブ群20の間に溝16が形成されない領域が大きくなりすぎてリブ群20と溝16が形成される領域の面積が主面14の面積の60%未満になると、ウエハ1を平面矯正する基体13の平面矯正能力が低下する虞がある。
【0039】
次に吸引部30について説明する。
吸引部30は、環状リブ群20を構成する隣り合う一対の環状リブ15のそれぞれによって画定される複数の溝16のそれぞれに対して基体13の主面14に開口する複数の開口部31と、基体13に形成され複数の開口部31のそれぞれを介して複数の溝16のそれぞれと連通する複数の吸引経路32と、複数の開口部31のそれぞれから複数の吸引経路32のそれぞれに吸引される空気の流れを制御する複数の吸引制御弁33と、複数の吸引経路32の空気を吸引する吸引ポンプ34と、該吸引ポンプ34及び複数の吸引制御弁33の作動を制御する制御部35とを備えている。
【0040】
複数の吸引経路32をそれぞれ、第1の吸引経路32a、第2の吸引経路32b、第3の吸引経路32c、第4の吸引経路32d及び第5の吸引経路32eとする。複数の吸引制御弁33をそれぞれ、第1の吸引制御弁33a、第2の吸引制御弁33b、第3の吸引制御弁33c、第4の吸引制御弁33d及び第5の吸引制御弁33e(符号a~eは、第1~第5の部位を区別するための符号とする。以下同様。)とする。
【0041】
複数のリブ群20のうち一のリブ群20によって画定される溝16と連通する吸引経路32と、複数のリブ群20のうち他のリブ群20によって画定される溝16と連通する吸引経路32とは、相互に独立した吸引経路32を構成している。
【0042】
具体的には、第1のリブ群20aによって画定される溝16には、第1の吸引経路32aが連通し、該第1の吸引経路32aの吸引は第1の吸引制御弁33aによって制御される。第2のリブ群20bによって画定される溝16には、第2の吸引経路32bが連通し、該第2の吸引経路32bの吸引は第2の吸引制御弁33bによって制御される。第3のリブ群20cによって画定される溝16には、第3の吸引経路32cが連通し、該第3の吸引経路32cの吸引は第3の吸引制御弁33cによって制御される。第4のリブ群20dによって画定される溝16には、第4の吸引経路32dが連通し、該第4の吸引経路32dの吸引は第4の吸引制御弁33dによって制御される。第5のリブ群20eによって画定される溝16には、第5の吸引経路32eが連通し、該第5の吸引経路32eの吸引は第5の吸引制御弁33eによって制御される。
【0043】
なお、実施形態では、複数の吸引経路32のそれぞれに吸引制御弁33をそれぞれ設けることで相互に独立した吸引経路32を構成したが、これに限定されず、複数の吸引経路32のそれぞれに吸引ポンプ34それぞれ設けることで相互に独立した吸引経路32としてもよく、複数の吸引経路32が相互に独立した吸引経路32を構成していれば形態は問わない。
【0044】
また、一のリブ群20のなかで、複数の溝16間の複数の開口部31のそれぞれは、平面視で円形の基体13に対して中心から半径方向外側に向かって直線状の一列の群になるように配列され、さらに開口部31の一列の群を中心に対して回転対称性を有するように4か所配置されている。
【0045】
具体的には、一のリブ群20のなかで、開口部31の一列の群は、開口部31を10個並べられ、第1のリブ群20aの開口部31の列から、隣り合う第2のリブ群20bの開口部31の列までの中心角はθ1である。第2のリブ群20bの開口部31の列から、隣り合う第3のリブ群20cの開口部31の列までの中心角はθ2である。第3のリブ群20cの開口部31の列から、隣り合う第4のリブ群20dの開口部31の列までの中心角はθ3である。第4のリブ群20dの開口部31の列から、隣り合う第5のリブ群20eの開口部31の列までの中心角はθ4である。中心角θ1、θ2、θ3、θ4は、同じ角度であり、実施形態では、15°に設定されており、平面視で、開口部31の一列の群がそれぞれ同じ周方向にずれるように配置されている。
【0046】
なお、実施形態では、一列の群の開口部31の数は10個としたが、これに限定されず、一列の群の開口部31の数は、5個や15個等複数であればよい。また、一の開口部31の列から隣り合う開口部31の列までの中心角θ1、θ2、θ3、θ4を15°としたがこれに限定されず、10°や20°でもよく、さらには、中心角θ1、θ2、θ3、θ4の値を、徐々に大きくなる設定や、それぞれ異なるように設定にしても差し支えない。また、開口部31が中心から外径方向に向かって渦巻き状に配列されてもよい。
【0047】
また、上記配置に限定されず、一のリブ群20のなかで、開口部31の一列の群が回転対称性を有するように配置しなくてもよい。また、一のリブ群20のなかで、開口部31の一列の群は4か所に限定されず1か所、3か所、5か所でもよく、さらには一のリブ群20のなかで複数の溝16のそれぞれを一括して吸引できれば、複数の開口部31のそれぞれを分散して配置してもよい。
【0048】
また、図1では便宜上、一のリブ群20のなかで、複数の開口部31から構成される一つの一列の群に吸引経路32を繋げているが、一のリブ群20の全ての開口部31に一の吸引経路32が接続されているものとする。
【0049】
次に環状リブ15の指定方向におけるピッチLと、環状リブ15の指定方向における幅Wの関係について説明する。発明者らは以下の試験を行い、表1及び図3に示すグラブの結果を得た。
【0050】
真空吸引装置10では、基体13を、直径φ320mm、厚み6mmのセラミックス焼結体とし、基体13の主面14に設けた環状リブ15の最外周の内側の半径を149mmとし、環状リブ15の高さを300μmとする。環状リブ15を同心円状に配置し、環状リブ15間の溝16に開口部31(吸引孔)を複数設けて1つのグループとして、該1つのグループ毎に吸引できるように吸引経路31を接続する。1つの周回の溝16には複数の開口部31を等間隔に配置し、リブ15の上端面18を、表面粗さ(算術平均粗さ)Ra0.1μmに研磨する。
【0051】
評価方法は、レーザ干渉計を使用し、ウエハ1吸着時の平面度を計測する。ウエハ1は、12インチシリコンウエハであり、無負荷の静置状態で平面度が約5mmに大きく沿っているものを使用する。平面度が、1μm未満(表1では、〇と表記)である場合を、合格(平面矯正可能)と定義する。パーティクル数は、トプコンテクノハウス社製のウエハ表面検査装置WM-10を用いエリプソメトリー法によって、ウエハ1裏面の0.4μm以上のサイズのパーティクル数を測定し、300個未満を合格と定義する。
【0052】
下表1は、以上の試験結果を示している。
【0053】
【表1】
【0054】
この表を参照すると、実施例1~実施例6が、平面度とパーティクル数がともに合格となっていることが判る。比較例1、比較例3、比較例5は、平面度は合格であるが、パーティクル数が多いため不合格である。比較例2、比較例4、比較例6は、パーティクル数は合格であるが、平面度が1μm以上であるため不合格である。
【0055】
この結果を踏まえて、実施例1~実施例6及び比較例1~比較例6を、横軸をリブ幅W、縦軸をピッチLとするグラフにプロットすると、図3に示すグラフとなる。
【0056】
図3に示すように、実施例1~実施例6と比較例1~比較例6との間に、直線状の上限式及び下限式を引くことができる。上限式は(L=1.5W+3)と示され、下限式は(L=1.5W)と示される。これらの上限式及び下限式より、環状リブ15の指定方向におけるピッチLは、環状リブ15の指定方向における幅Wの1.5倍~1.5倍+3mmの範囲に含まれ、かつ、環状リブ群20を構成する環状リブ15の指定方向における幅Wが0.05~3mmの範囲に含まれていることで、パーティクルの量を抑えつつ、ウエハ1がリブ15間に落ち込まず撓まないようにすることができる。
【0057】
次に以上に述べた真空吸引装置10の作用を説明する。
図4Aに示すように、ウエハ1は、全体として円盤状であり、チャック部11に吸着される前の状態では、完全に平坦な形状ではなく、若干波打ち形状を呈している。真空吸引装置10の上端面18に吸引しない状態でウエハ1を載置すると、一部が上端面18に接触し、一部が上端面18から浮いた状態となる。吸引ポンプ34を作動させ、第1のリブ群20aに連通する第1の吸引制御弁33aを開く。すると矢印(1)のように、第1のリブ群20aの溝16内の空気が吸引され、ウエハ1が第1のリブ群20aを構成するリブ15の上端面18に吸着される。
【0058】
次に第2のリブ群20bに連通する吸引制御弁33bを開く。すると図4Bに示すように、第2のリブ群20bの溝16内の空気が吸引され、ウエハ1が第2のリブ群20bを構成するリブ15の上端面18に吸着される。すなわち吸着のメカニズムは次のようになる。
【0059】
大きく撓んだウエハ1の一部が第1のリブ群20aの溝16に吸引される。このとき、リブ15のピッチLが小さいためにリブ15とウエハ1の接触によって囲まれる部分の容積が小さく、その空間はすぐに排気され、初期吸引力は局所的に大きくなる。
【0060】
次に初期吸引力により撓んでいるウエハ1が変形し、ウエハ1の初期吸引されたリブ15に接触している部分と、隣接するリブ15の直上に位置するウエハ1の間隔が減少する。その結果、隣接するリブ15とウエハ1に囲まれた空間が排気され、ウエハ1がリブ15に接触して吸着される。
【0061】
隣接するリブで上記の作用が繰り返し発生し、環状リブ15において、半径方向にドミノ状にウエハ1がリブ15の上端面18に吸着され、伝播する。
【0062】
以上に述べた真空吸引装置10は次の効果を有する。
真空吸引装置10は、基体13の主面14から上方に突出する3つ以上のリブ15を等間隔に指定方向に並列に並べたリブ群20を有し、隣り合う一対のリブ15のそれぞれによって画定される複数の溝16のそれぞれに開口部31を設けて吸引経路32を連通させただけであるので、構造を簡単にできる。
【0063】
さらに、一のリブ群20によって画定される領域を吸引し一の領域のウエハ1の撓みをなくしてリブ15の上端面(頂面)18に吸着させた後、他のリブ群20によって画定される領域を吸引し他の領域のウエハ1の撓みをなくしてリブ15の上端面18に吸着させることで、リブ群20によって画定される領域毎に順番にウエハ1をドミノ状にリブの上端面18に吸着させることができ、大きな面積のウエハ1であっても撓みをなくすことができる。
【0064】
さらに、複数のリブ群20を構成するリブ群20のそれぞれは、同心状に配置される3つ以上のリブ15としての3つ以上の環状リブ15により構成されているので、中心側のリブ15から外側のリブ15に向かって順番に吸着することで、ウエハ1の撓みを外側に逃がすことができる。
【0065】
さらに、複数の環状リブ群20のうち一の環状リブ群20の内周側に、他の環状リブ群20が配置されているので、中心側のリブ群20から外側のリブ群20に向かって順番に吸着することで、撓みを外側に逃がしてウエハ1全体として撓みを防止することができる。
【0066】
さらに、一の環状リブ群20の環状リブ15と、他の環状リブ群20の環状リブ15とが同心状に配置されていることで、環状リブ15全てが同心状に配置されるので構成を簡単にするとともに、中心から外側に向かって順番に吸着させるだけで、ウエハ1全体として均一に撓みをなくすことができる。
【0067】
(第2実施形態)
次に本発明の第2実施形態を説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については、説明を省略し、符号を流用するものとする。
【0068】
図5に示すように、複数のリブ群20が、基体13の主面14(図2参照)の基準点Aから見た複数の方位範囲にそれぞれ形成されている。
【0069】
具体的には、主面14は、平面視で基準点(中心)Aから見た6つの隣り合う扇形状の方位範囲にそれぞれ区画され、区画された6つの領域のそれぞれにリブ群20が配置されている。6つのリブ群20の領域は、扇形状の中心角が60°にそれぞれ設定され、第1のリブ群20a~第6のリブ群20fの領域で構成されている。
【0070】
第1のリブ群20aが配置される領域は、開口部31が基準点(中心)Aから半径方向に19個直線上に並んだ列を2列有している。これら開口部31の2つの列によって、第1のリブ群20aが配置される領域は、さらに第1領域20a1、第2領域20a2、第3領域20a3の3つの扇形状の領域に分けられる。
【0071】
第1領域20a1は、一方の開口部31の列と他方の開口部31の列との間の領域である。第1領域20a1の中心角は30°に設定されている。
【0072】
第2領域20a2は、第1のリブ群20a全体の領域である扇形状の一方の半径と、隣り合う一方の開口部31の列との間の領域である。第2領域20a2の中心角は15°に設定されている。
【0073】
第3領域20a3は、第1のリブ群20a全体の領域である扇形状の他方の半径と、隣り合う他方の開口部31の列との間の領域である。第3領域20a3の中心角は15°に設定されている。
【0074】
次に第1のリブ群20aのリブ15の形状について説明する。
第1領域20a1では、一方の開口部31の列と他方の開口部31の列との中間線と平行に、基準点(中心)Aから扇形状の弧まで2本のリブ15が形成され、これら2本のリブ15と平行に、複数の開口部31それぞれの基準点A側から残りのリブ15が形成されている。
【0075】
第2領域20a2では、第1のリブ群20a全体の領域である扇形状の一方の半径と平行に、基準点(中心)Aから扇形状の弧まで1本のリブ15が形成され、この一本のリブ15と平行に、複数の開口部31それぞれの基準点A側から残りのリブ15が形成されている。
【0076】
第3領域20a3では、第1のリブ群20a全体の領域である扇形状の他方の半径と平行に、基準点(中心)Aから扇形状の弧まで1本のリブ15が形成され、この一本のリブ15と平行に、複数の開口部31それぞれの中心側から残りのリブ15が形成されている。
【0077】
全体として、第1領域20a1のリブ15の一方の端点と、第2領域20a2のリブ15の一方の端点が、開口部31の基準点A側で連結され、リブ15平面視でV字状となるように形成されている。また、第1領域20a1のリブ15の一方の端点と、第3領域20a3のリブ15の一方の端点が、開口部31の基準点A側で連結され、リブ15が平面視でV字状となるように形成されている。そして、平面視でV字状に形成された複数のリブ15が、基準点A側から外径方向に間隔をおいて連続するように配置されている。
【0078】
なお、第2のリブ群20b~第6のリブ群20fにおいても、領域及びリブ15の形状は同様である。また、チャック部11及び吸引部30の構成、作用は第1実施形態と同様である。
【0079】
なお、リブ15の基準点(中心)Aと反対側の端点は、円周状のリブ15a(最外周リブ)が設けられ、リブ15と最外周のリブ15aとウエハ1によって画定される空間が排気されることによってウエハ1が吸引され、リブ15及び最外周のリブ15aの上端面18に接触する。
【0080】
第2実施形態の構成であれば、中心対称ではないウエハ1(図2参照)であっても、初めに吸引される角度方向の吸引領域より周方向に順次ウエハ1が吸着される。
さらに、リブ群20毎に独立して吸引を制御することによりウエハ1を揺動させ、大きく撓んだウエハ1に対し吸引に適切な個所から吸引を開始でき、ウエハ1の平面度矯正が容易になる。
【0081】
さらに、複数のリブ群20が、基体13の主面14の基準点Aから見た複数の方位範囲にそれぞれ形成されているので、例えばリブ15を直線状にするなど、リブ15を配置する設計の自由度を向上させることができる。
【0082】
なお、第2実施形態では、一のリブ群20を2列分の開口部31及び2列分の開口部31のそれぞれの中心側から延びるリブ15で構成したが、これに限定されず、一のリブ群20を1列分の開口部31及び1列分の開口部31のそれぞれの中心側から延びるリブ15で構成してもよく、さらには、3列分や4列分の開口部31及びそれら開口部31のそれぞれの中心側から延びるリブ15で構成しても差し支えない。
【0083】
また、第1実施形態では、リブ群20を第1のリブ群20a~第5のリブ群20eまでの5つのリブ群20としたが、これに限定されず、リブ群20は3つや8つなど、ウエハ1のサイズに合わせて適宜変更しても差し支えない。また、実施形態1では、各リブ群20の半径方向の幅を均等にしたが、これに限定されず、リブ群20毎に半径方向の幅を変えても差し支えない。
【0084】
また、第2実施形態では、リブ群を第1のリブ群20a~第6のリブ群20fまでの6つのリブ群20としたが、これに限定されず、リブ群20は3つ、8つや12ケなど、ウエハ1のサイズに合わせて適宜変更しても差し支えない。
【0085】
実施形態では、一列の開口部31の数を19としたが、これに限定されず、15個、25個、30個等、複数あれば差し支えない。さらには、実施形態では、リブ群20毎の基準点Aから見た方位範囲の大きさを均等にしたが、リブ群20毎に基準点Aから見た方位範囲の大きさを変えてもよい。
【0086】
なお、リブ15が上端面18を有する形状である場合は上端面18の幅を幅Wとし、リブ15の横断面が半円状の場合、半円状のリブ15のうちウエハ1と接触することとなる部分の幅を幅Wとする。また、1本のリブ15の幅が一定でない場合、リブ15の最小幅となる部分の幅を幅Wとする。また、1つのリブ群20を構成する3つ以上のリブ15がある場合、これらの複数のリブ15うち最小幅のリブ15の幅を幅Wとする。
【0087】
なお、複数のリブ群20が、一のリブ群20と、当該一のリブ群20を構成するリブ15とピッチL及び幅Wの少なくとも異なるリブ15によって構成される他のリブ群20を備える場合において、一のリブ群20によって画定される溝16に連通する吸引経路32と他のリブ群20によって画定される溝16に連通する吸引経路32とが相互に接続されていてもよい。
【符号の説明】
【0088】
10… 真空吸引装置
13… 基体
14… 主面
15… リブ(環状リブ)
16… 溝
20、20a~20f… リブ群(環状リブ群)
31… 開口部
32、32a~32e… 吸引経路
W… リブ幅
L… ピッチ
図1
図2
図3
図4
図5