(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】クレーンの自動運転装置及び、自動運転方法
(51)【国際特許分類】
B66C 13/48 20060101AFI20221215BHJP
B66C 13/08 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
B66C13/48 G
B66C13/08 Q
(21)【出願番号】P 2019182285
(22)【出願日】2019-10-02
【審査請求日】2021-09-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(73)【特許権者】
【識別番号】000154901
【氏名又は名称】株式会社北川鉄工所
(74)【復代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100171619
【氏名又は名称】池田 顕雄
(74)【代理人】
【識別番号】110002550
【氏名又は名称】AT特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】蔵元 一成
(72)【発明者】
【氏名】向井 啓通
(72)【発明者】
【氏名】岩下 正剛
(72)【発明者】
【氏名】東 努
(72)【発明者】
【氏名】牧長 良治
(72)【発明者】
【氏名】倉本 奏
(72)【発明者】
【氏名】阿藻 徳彦
(72)【発明者】
【氏名】松田 浩成
(72)【発明者】
【氏名】菜原 周郎
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-183035(JP,A)
【文献】特開2018-095368(JP,A)
【文献】特開2011-006178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/48
B66C 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の始点にて荷を保持した保持部を、
前記始点から上昇させて所定の終点に向けて移動させると共に該終点に向けて降下させ、
前記終点にて前記保持部か
ら前記荷を降ろ
した後、前記保持部を前記始点に戻す搬送動作を駆動装置の駆動により行うクレーンの自動運転装置であって、
前記駆動装置の駆動を
ティーチングプレイバック方式に基づき自動制御することにより、前記クレーンに前記搬送動作を自動で
繰り返し行わせる自動運転制御手段と、
前記保持部の
水平方向の位置情報を取得可能な位置情報取得手段と、
前記自動制御により前記保持部が前記終点に向けて降下する際に、前記位置情報取得手段により取得される前記保持部の
水平方向の位置情報と、予め記憶した前記終点の
水平方向の位置情報との偏差に基づいて前記駆動装置を駆動させることにより、前記保持部の前記終点に対する
水平方向の相対位置を補正する降下時補正制御手段と、を備える
ことを特徴とするクレーンの自動運転装置。
【請求項2】
前記搬送動作
の前記保持部を前記終点から前記始点に戻す動作は、前記荷を放出した前記保持部を、前記終点から上昇させて前記始点に向けて移動させると共に該始点に向けて降下させ、前記保持部を前記始点に着床させる動作をさらに含み、
前記降下時補正制御手段は、前記自動制御により前記保持部が前記始点に向けて降下する際に、前記位置情報取得手段により取得される前記保持部の
水平方向の位置情報と、予め記憶した前記始点の
水平方向の位置情報との偏差に基づいて前記駆動装置を駆動させることにより、前記保持部の前記始点に対する
水平方向の相対位置を補正する
請求項1に記載のクレーンの自動運転装置。
【請求項3】
前記自動制御により前記保持部が前記始点又は前記終点から上昇する際に、予め記憶した前記保持部を上方に向けて直線的に上昇させるのに必要な前記保持部の横方向への移動量に基づいて前記駆動装置を駆動させることにより、前記保持部の上昇軌道を補正する上昇時補正制御手段をさらに備える
請求項2に記載のクレーンの自動運転装置。
【請求項4】
所定の始点にて荷を保持した保持部を、
前記始点から上昇させて所定の終点に向けて移動させると共に該終点に向けて降下させ、
前記終点にて前記保持部か
ら前記荷を降ろ
した後、前記保持部を前記始点に戻す搬送動作を駆動装置の駆動により行うクレーンの自動運転方法であって、
前記駆動装置の駆動を
ティーチングプレイバック方式に基づき自動制御することにより、前記クレーンに前記搬送動作を自動で
繰り返し行わせ、前記自動制御により前記保持部が前記終点に向けて降下する際に、前記保持部の
水平方向の位置情報と前記終点の
水平方向の位置情報との偏差に基づいて前記駆動装置を駆動させることにより、前記保持部の前記終点に対する
水平方向の相対位置を補正する
ことを特徴とするクレーンの自動運転方法。
【請求項5】
前記搬送動作
の前記保持部を前記終点から前記始点に戻す動作は、前記荷を放出した前記保持部を、前記終点から上昇させて前記始点に向けて移動させると共に該始点に向けて降下させ、前記保持部を前記始点に着床させる動作をさらに含み、
前記自動制御により前記保持部が前記始点に向けて降下する際に、前記保持部の
水平方向の位置情報と前記始点の
水平方向の位置情報との偏差に基づいて前記駆動装置を駆動させることにより、前記保持部の前記始点に対する
水平方向の相対位置を補正する
請求項4に記載のクレーンの自動運転方法。
【請求項6】
前記自動制御により前記保持部が前記始点又は前記終点から上昇する際に、前記保持部を上方に向けて直線的に上昇させるのに必要な前記保持部の横方向への移動量に基づいて前記駆動装置を駆動させることにより、前記保持部の上昇軌道を補正する
請求項5に記載のクレーンの自動運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クレーンの自動運転装置及び、自動運転方法に関し、特に、タワークレーンの自動運転に好適な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タワークレーンは、主として、ダム工事、高層建築工事、プラント建設工事等に広く用いられている。この種のタワークレーンは、ジブの旋回・起伏、ワイヤロープの巻上げ・巻下げを適宜に行うことにより、荷を所定の荷取り地点(始点)から荷降し地点(終点)へと搬送する。荷の搬送をオペレータの手動操作により長時間に亘って行うと、長時間に亘って行うことによるオペレータの負荷増加や、単純操作の繰り返しに伴う集中力の欠如等による人為的ミスの誘発を招く可能性がある。
【0003】
このため、タワークレーンを予め設定した搬送経路に従って自動運転することにより、オペレータの負担軽減や人為的ミスの防止を図ることが望まれる。例えば、特許文献1,2には、ティーチングプレイバック方式によりクレーンを自動運転することにより、荷を自動搬送する技術が開示さている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭64-060595号公報
【文献】特開昭61-162491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ティーチングプレイバック方式により荷を繰り返し自動搬送すると、荷の放出(荷重解放)によるクレーンの姿勢変化や、荷の種類変更に伴う荷重変化、風等の外乱の影響を受けて、ティーチングで設定した搬送経路と、プレイバックによる搬送軌道との間に誤差が生じる場合がある。このような誤差が往復に伴い累積されると、搬送軌道が当初の設定経路から大きく外れてしまい、自動運転を継続させられなくなるといった課題がある。
【0006】
本開示の技術は、クレーンを継続的に自動運転可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の装置は、少なくとも荷を保持した保持部を、所定の始点から上昇させて所定の終点に向けて移動させると共に該終点に向けて降下させ、前記保持部から前記終点に前記荷を降ろす搬送動作を駆動装置の駆動により行うクレーンの自動運転装置であって、前記駆動装置の駆動を自動制御することにより、前記クレーンに前記搬送動作を自動で行わせる自動運転制御手段と、前記保持部の位置情報を取得可能な位置情報取得手段と、前記自動制御により前記保持部が前記終点に向けて降下する際に、前記位置情報取得手段により取得される前記保持部の位置情報と、予め記憶した前記終点の位置情報との偏差に基づいて前記駆動装置を駆動させることにより、前記保持部の前記終点に対する相対位置を補正する降下時補正制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、前記搬送動作は、前記荷を放出した前記保持部を、前記終点から上昇させて前記始点に向けて移動させると共に該始点に向けて降下させ、前記保持部を前記始点に着床させる動作をさらに含み、前記降下時補正制御手段は、前記自動制御により前記保持部が前記始点に向けて降下する際に、前記位置情報取得手段により取得される前記保持部の位置情報と、予め記憶した前記始点の位置情報との偏差に基づいて前記駆動装置を駆動させることにより、前記保持部の前記始点に対する相対位置を補正することが好ましい。
【0009】
また、前記自動制御により前記保持部が前記始点又は前記終点から上昇する際に、予め記憶した前記保持部を上方に向けて直線的に上昇させるのに必要な前記保持部の横方向への移動量に基づいて前記駆動装置を駆動させることにより、前記保持部の上昇軌道を補正する上昇時補正制御手段をさらに備えることが好ましい。
【0010】
本開示の方法は、少なくとも荷を保持した保持部を、所定の始点から上昇させて所定の終点に向けて移動させると共に該終点に向けて降下させ、前記保持部から前記終点に前記荷を降ろす搬送動作を駆動装置の駆動により行うクレーンの自動運転方法であって、前記駆動装置の駆動を自動制御することにより、前記クレーンに前記搬送動作を自動で行わせ、前記自動制御により前記保持部が前記終点に向けて降下する際に、前記保持部の位置情報と前記終点の位置情報との偏差に基づいて前記駆動装置を駆動させることにより、前記保持部の前記終点に対する相対位置を補正することを特徴とする。
【0011】
また、前記搬送動作は、前記荷を放出した前記保持部を、前記終点から上昇させて前記始点に向けて移動させると共に該始点に向けて降下させ、前記保持部を前記始点に着床させる動作をさらに含み、前記自動制御により前記保持部が前記始点に向けて降下する際に、前記保持部の位置情報と前記始点の位置情報との偏差に基づいて前記駆動装置を駆動させることにより、前記保持部の前記始点に対する相対位置を補正することが好ましい。
【0012】
また、前記自動制御により前記保持部が前記始点又は前記終点から上昇する際に、前記保持部を上方に向けて直線的に上昇させるのに必要な前記保持部の横方向への移動量に基づいて前記駆動装置を駆動させることにより、前記保持部の上昇軌道を補正することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本開示の技術によれば、クレーンを継続的に自動運転可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係るクレーンを示す模式的な全体構成図である。
【
図2】本実施形態に係るクレーンの自動運転による往路地切り工程を説明する模式図である。
【
図3】本実施形態に係るクレーンの自動運転による往路旋回工程を説明する模式図である。
【
図4】本実施形態に係るクレーンの自動運転による荷降ろし工程を説明する模式図である。
【
図5】本実施形態に係るクレーンの自動運転による復路地切り工程を説明する模式図である。
【
図6】本実施形態に係るクレーンの自動運転による復路旋回工程を説明する模式図である。
【
図7】本実施形態に係るクレーンの自動運転による着床工程を説明する模式図である。
【
図8】本実施形態に係るクレーンに搭載された制御装置及び、関連する周辺構成を示す模式的な機能ブロック図である。
【
図9】本実施形態に係るクレーンによる自動運転(往路)の処理の流れを説明するフローチャートである。
【
図10】本実施形態に係るクレーンによる自動運転(復路)の処理の流れを説明するフローチャートである。
【
図11】本実施形態に係るクレーンの自動運転装置及び自動運転方法の作用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に基づいて、本実施形態に係るクレーンの自動運転装置及び、自動運転方法について説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0016】
[クレーン]
図1は、本実施形態に係るクレーン1を示す模式的な全体構成図である。
【0017】
図1に示すように、クレーン1は、固定式のタワークレーンであって、基礎フレーム2に固定されたマスト(タワー)10と、マスト10に昇降可能に設けられた昇降装置11と、昇降装置11に旋回可能に設けられた旋回体12と、旋回体12に起伏可能に設けられたジブ(ブーム)14とを備えている。なお、クレーン1は、固定式に限定されず、移動式のホイールクレーン等であってもよい。また、クレーン1は、所定の荷を始点から終点に搬送可能なものであれば、例えば、天井クレーン等であってもよい。
【0018】
旋回体12は、旋回装置24の駆動によりマスト10を軸心に回転駆動する。旋回体12には、巻上ワイヤロープ21が巻き回された巻上ウィンチ20及び、起伏ワイヤロープ23が巻き回された起伏ウィンチ22が設けられている。また、旋回体12には、ジブ14を支持する支持フレーム25が設けられている。巻上ウィンチ20、起伏ウィンチ22及び、旋回装置24は、本開示の駆動装置の一例である。
【0019】
巻上ワイヤロープ21の先端には、所定の荷を保持するバケット26(本開示の保持部の一例)が取り付けられている。巻上ウィンチ20を駆動すると、巻上ワイヤロープ21が巻き取られ、又は、送り出されることにより、バケット26が鉛直方向に昇降移動するようになっている。
【0020】
起伏ワイヤロープ23の先端は、ジブ14の先端側に取り付けられている。起伏ウィンチ22を駆動すると、起伏ワイヤロープ23が巻き取られ、又は、送り出されることにより、ジブ14が基端側を支点に起伏作動するようになっている。
【0021】
[搬送動作]
図2~7は、本実施形態に係るクレーン1の自動運転による各動作工程を説明する模式図である。以下では、ダム工事におけるコンクリートの搬送を一例として説明する。
【0022】
なお、
図2~7中に示されたX方向及びY方向は、互いに直交する水平方向(横方向)の軸であり、Z方向は、X軸及びY軸と直交する鉛直方向(縦方向)の軸である。また、始点Aは、搬送対象となるコンクリートCが不図示のトランスファーカー等により運び込まれるバンカー線(荷取り地点)、終点Bは、搬送したコンクリートCを放出するグランドホッパGHが設けられた打設場(荷降ろし地点)をそれぞれ示している。
【0023】
図2に示すように、始点Aでは、バケット26にコンクリートCを投入し、巻上ウィンチ20及び、起伏ウィンチ22を駆動させながら、バケット26を始点A上方の所定の往路旋回開始位置A1まで上昇させる(以下、往路地切り工程という)。ここで、往路旋回開始位置A1は、後述するティーチングにより設定した、クレーン1が往路旋回動作を開始するバケット26のX-Y-Z位置である。
【0024】
往路地切り工程において、バケット26をZ方向へ上昇させる巻上ウィンチ20の駆動は、後述するプレイバック制御により実行される。また、バケット26をX-Y方向へ調整移動する起伏ウィンチ22の駆動は、後述する荷吊り上げ時補正制御により実行される。荷吊り上げ時補正制御は、コンクリートCの荷重によるクレーン1の姿勢変化(例えば、マスト10のバケット26側への倒れ込みや、ジブ14の下方への撓み)に対して、バケット26をZ方向へ略直線的に上昇させるための補正制御である。荷吊り上げ時補正制御の詳細については後述する。
【0025】
図3に示すように、バケット26を往路旋回開始位置A1まで上昇させたならば、旋回装置24や起伏ウィンチ22を駆動してジブ14を旋回起伏させ、ダム堤体D等の障害物を避けながらバケット26を終点B上方の所定の往路旋回停止位置B1まで旋回移動させる(以下、往路旋回工程という)。ここで、往路旋回停止位置B1は、後述するティーチングにより設定した、クレーン1が往路旋回動作を停止するバケット26のX-Y-Z位置である。往路旋回工程において、旋回装置24や起伏ウィンチ22の駆動は、後述するプレイバック制御により実行される。
【0026】
図4に示すように、バケット26を往路旋回停止位置B1まで移動させたならば、巻上ウィンチ20、起伏ウィンチ22及び、旋回装置24を駆動し、バケット26を終点Bに設置されたグランドホッパGHに向けて降下させる(以下、荷降ろし工程という)。この際、バケット26は、グランドホッパGH内の底部から所定の高さ位置で停止させてもよく、或は、グランドホッパGHの底部に着床させてもよい。
【0027】
荷降ろし工程において、バケット26をZ方向へ降下させる巻上ウィンチ20の駆動は、後述するプレイバック制御により実行される。また、バケット26をX-Y方向へ調整移動させる起伏ウィンチ22及び、又は旋回装置24の駆動は、後述する荷降ろし時補正制御により実行される。荷降ろし時補正制御は、バケット26のグランドホッパGHに対するX-Y方向の相対位置を補正して、バケット26をグランドホッパGHの枠内に確実に収めるための補正制御である。荷降ろし時補正制御の詳細については後述する。
【0028】
図5に示すように、バケット26からコンクリートCを放出したならば、巻上ウィンチ20及び、起伏ウィンチ22を駆動させながら、バケット26を終点B上方の所定の復路旋回開始位置B2まで上昇させる(以下、復路地切り工程という)。ここで、復路旋回開始位置B2は、後述するティーチングにより設定した、クレーン1が復路旋回動作を開始するバケット26のX-Y-Z位置である。
【0029】
復路地切り工程において、バケット26をZ方向へ上昇させる巻上ウィンチ20の駆動は、後述するプレイバック制御により実行される。また、バケット26をX-Y方向へ調整移動する起伏ウィンチ22の駆動は、後述する荷重解放時補正制御により実行される。荷重解放時補正制御は、コンクリートCの放出(荷重解放)によるクレーン1の姿勢変化(例えば、マスト10のバケット26とは反対側への反りや、ジブ14の上方への反り)に対して、バケット26をZ方向へ略直線的に上昇させるための補正制御である。荷重解放時補正制御の詳細については後述する。
【0030】
図6に示すように、バケット26を復路旋回開始位置B2まで上昇させたならば、旋回装置24や起伏ウィンチ22を駆動してジブ14を旋回起伏させ、ダム堤体D等の障害物を避けながらバケット26を始点A上方の所定の復路旋回停止位置A2まで旋回移動させる(以下、復路旋回工程という)。ここで、復路旋回停止位置A2は、後述するティーチングにより設定した、クレーン1が復路旋回動作を停止するバケット26のX-Y-Z位置である。復路旋回工程において、旋回装置24や起伏ウィンチ22の駆動は、後述するプレイバック制御により実行される。
【0031】
図7に示すように、バケット26を復路旋回停止位置A2まで移動させたならば、巻上ウィンチ20、起伏ウィンチ22及び、旋回装置24を駆動し、バケット26を始点Aに設置された台座Pに向けて降下させ、バケット26を台座P上に着床させる(以下、着床工程という)。
【0032】
着床工程において、バケット26をZ方向へ降下させる巻上ウィンチ20の駆動は、後述するプレイバック制御により実行される。また、バケット26をX-Y方向へ調整移動する起伏ウィンチ22及び、又は旋回装置24の駆動は、後述する着床時補正制御により実行される。着床時補正制御は、バケット26の台座Pに対するX-Y方向の相対位置を補正して、バケット26を台座Pの上面に確実に着床させるための補正制御である。着床時補正制御の詳細については後述する。
【0033】
以降、上述の
図2~7に示す各動作工程を連続的に実行することにより、コンクリートCを始点Aから終点Bに向けて繰り返し自動搬送する。
【0034】
[制御装置]
図8は、本実施形態に係るクレーン1に搭載された制御装置100及び、関連する周辺構成を示す模式的な機能ブロック図である。
【0035】
図8に示すように、クレーン1には、クレーン1の各種状態量を取得するセンサ類や装置類50~53が搭載されている。
【0036】
旋回角取得エンコーダ50は、旋回装置24による旋回体12の旋回角、すなわち、ジブ14の旋回角を取得する。起伏角取得エンコーダ51は、起伏ウィンチ22の回転数からジブ14の起伏角を取得する。昇降位置取得エンコーダ52は、巻上ウィンチ20の回転数からバケット26の昇降位置を取得する。バケット位置取得装置53(位置取得手段)は、例えば、GNSS(Global Navigation Satellite System)又は、GPS(Global Positioning System)であって、ジブ14の先端部に取り付けられており、当該先端部の鉛直方向下方にあるバケット26の位置情報(X-Y位置)を取得する。これらセンサ類や装置類50~53により取得される各種状態量は、制御装置100に送信される。
【0037】
制御装置100は、例えば、コンピュータ等の演算を行う装置であり、互いにバス等で接続されたCPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入力ポート、出力ポート等を備え、プログラムを実行する。
【0038】
また、制御装置100は、プログラムの実行により、手動操作制御部110、ティーチング記憶部120、プレイバック制御部130、荷吊り上げ時補正制御部140、荷降ろし時補正制御部150、荷重解放時補正制御部160及び、着床時補正制御部170を備える装置として機能する。これら各機能要素は、本実施形態では一体のハードウェアである制御装置100に含まれるものとして説明するが、これらのいずれか一部を別体のハードウェアに設けることもできる。
【0039】
手動操作制御部110は、オペレータによる操作装置200の操作量に応じた作動指示信号を巻上ウィンチ20、起伏ウィンチ22及び、旋回装置24に送信し、これらを駆動させることにより、クレーン1を旋回・起伏・巻上げ・巻下げ作動させる手動操作制御を実施する。
【0040】
ティーチング記憶部120は、ティーチング実行ボタン210がON操作された状態で、オペレータが操作装置200を操作すると、当該操作に応じて手動操作制御部110から巻上ウィンチ20、起伏ウィンチ22及び、旋回装置24へ送信される作動指示信号を記憶する。具体的には、ティーチング記憶部120は、オペレータによる操作装置200の操作量に応じたクレーン1の旋回・起伏・巻上げ・巻下げの各動作の経路(X-Y-Z位置)と速度とを所定時間ごとに格納する。ティーチング記憶部120によるこれら経路及び速度の格納は、ティーチング実行ボタン210がOFF操作されると終了する。
【0041】
プレイバック制御部130は、本開示の自動運転制御手段の一例であって、プレイバック実行ボタン220がON操作されると、ティーチング記憶部120に格納されている旋回・起伏・巻上げ・巻下げの経路及び速度に応じた指示信号を巻上ウィンチ20、起伏ウィンチ22及び、旋回装置24に送信し、これらを駆動させることにより、クレーン1を自動運転させるプレイバック制御を実施する。プレイバック制御は、プレイバック実行ボタン220がOFF操作されるか、或は、不図示の緊急停止ボタンがON操作されると停止する。
【0042】
本実施形態において、プレイバック制御は、往路地切り工程(
図2参照)における巻上ウィンチ20の駆動、往路旋回工程(
図3参照)における旋回装置24及び起伏ウィンチ22の駆動、荷降ろし工程(
図4参照)における巻上ウィンチ20の駆動、復路地切り工程(
図5参照)における巻上ウィンチ20の駆動、復路旋回工程(
図6参照)における旋回装置24及び起伏ウィンチ22の駆動、着床工程(
図7参照)における巻上ウィンチ20の駆動に適用される。
【0043】
荷吊り上げ時補正制御部140は、本開示の上昇時補正制御手段の一例であって、往路地切り工程において、コンクリートCの荷重によるマスト10の倒れ込みやジブ14の撓みに対して、バケット26が水平方向(X-Y方向)に大きく振れることなく、始点Aから鉛直方向(Z方向)へ略直線的に上昇するように、ジブ14を適宜に起伏させる(基本的には、ジブ14を起こす)ことにより、バケット26の上昇軌道を補正する荷吊り上げ時補正制御を実施する。
【0044】
具体的には、制御装置100のメモリには、予め実験或はシミュレーション等により作製した、バケット26の上昇位置と、バケット26を鉛直方向に略直線的に上昇させるのに必要なジブ14の起伏角との関係を規定したマップM1(グラフ又は数値データ)が格納されている。荷吊り上げ時補正制御部140は、往路地切り工程において、プレイバック制御による巻上ウィンチ20の駆動(巻上げ)が開始されると、マップM1からバケット26の上昇位置に応じたジブ14の起伏角を読み取ると共に、読み取った起伏角に基づいて起伏ウィンチ22を逐次駆動させるフィードフォワード制御を実行する。バケット26の現在の上昇位置は、昇降位置取得エンコーダ52により取得すればよい。
【0045】
このように、往路地切り工程において、コンクリートCの荷重によるクレーン1の姿勢変化を考慮した荷吊り上げ時補正制御を行うことにより、バケット26は始点Aから往路旋回開始位置A1に向けて鉛直方向に略直線的に上昇するようになる。
【0046】
なお、マップM1の個数は1個に限定されず、吊り荷の荷重毎に複数のマップM1を備えてもよい。この場合は、クレーン1の不図示の荷重センサにより取得される荷の荷重に応じて、複数のマップM1から最適なマップを適宜に選択するように構成すればよい。また、荷吊り上げ時補正制御は、フィードフォワード制御のみに限定されず、往路旋回開始位置A1と、バケット位置取得装置53により取得されるバケット26の現在位置との偏差に基づいて起伏ウィンチ22を駆動するフィードバック制御と組み合わせて行ってもよい。
【0047】
荷降ろし時補正制御部150は、本開示の降下時補正制御手段の一例であって、荷降ろし工程において、バケット26の水平方向(X-Y方向)位置がグランドホッパGHの枠内から外れている場合に、起伏ウィンチ22及び、又は旋回装置24を駆動して、バケット26のグランドホッパGHに対する水平方向(X-Y方向)の相対位置を補正することにより、バケット26をグランドホッパGHの枠内に収める荷降ろし時補正制御を実施する。
【0048】
具体的には、制御装置100のメモリには、水平方向(X-Y方向)におけるグランドホッパGHの枠内位置が目標荷降ろし位置として予め格納されている。荷降ろし時補正制御部150は、バケット26が往路旋回停止位置B1に到達すると、バケット位置取得装置53から入力されるバケット26の現在の水平方向位置(X-Y位置)と目標荷降ろし位置とを比較し、これらの偏差を求める。そして、荷降ろし時補正制御部150は、求めた偏差が所定の閾値(バケット26がグランドホッパGHの枠内に収まる値)を超えている場合には、偏差が当該閾値以下となるように起伏ウィンチ22及び、又は旋回装置24を逐次駆動させるフィードバック制御(例えば、PID制御)を実行する。
【0049】
このように、荷降ろし工程において、バケット26の水平方向位置とグランドホッパGHの枠位置との偏差に基づいて、バケット26の水平方向位置を適宜に調整する荷降ろし時補正制御を行うことにより、バケット26は終点Bに設けられたグランドホッパGHの枠内に確実に収められるようになる。
【0050】
なお、荷降ろし時補正制御は、プレイバック制御を中断し、プレイバック制御による巻上ウィンチ20の駆動(巻下げ)が開始される前に実行してもよく、或は、プレイバック制御を中断することなく、プレイバック制御による巻上ウィンチ20の駆動(巻下げ)と並行して実行してもよい。また、バケット位置取得装置53は、GNSSに限定されず、ジブ14の先端位置を取得可能な他の公知のセンサ類を用いてもよく、或は、予め設定したクレーン1の所定の基準位置に対するジブ14の現在の旋回角及び、起伏角から、ジブ14の先端部に相当するバケット26のX-Y方向位置を推定演算するように構成してもよい。
【0051】
荷重解放時補正制御部160は、本開示の上昇時補正制御手段の一例であって、復路地切り工程において、コンクリートCの放出によるマスト10の反りやジブ14の反りに対して、バケット26が水平方向(X-Y方向)に大きく振れることなく、終点Bから鉛直方向(Z方向)へ略直線的に上昇するように、ジブ14を適宜に起伏させる(基本的には、ジブ14を倒す)ことにより、バケット26の上昇軌道を補正する荷重解放時補正制御を実施する。
【0052】
具体的には、制御装置100のメモリには、予め実験或はシミュレーション等により作製した、バケット26の上昇位置と、バケット26を鉛直方向に略直線的に上昇させるのに必要なジブ14の起伏角との関係を規定したマップM2(グラフ又は数値データ)が格納されている。荷重解放時補正制御部160は、復路地切り工程において、プレイバック制御による巻上ウィンチ20の駆動(巻上げ)が開始されると、マップM2からバケット26の上昇位置に応じたジブ14の起伏角を読み取ると共に、読み取った起伏角に基づいて起伏ウィンチ22を逐次駆動させるフィードフォワード制御を実行する。バケット26の現在の上昇位置は、昇降位置取得エンコーダ52により取得すればよい。
【0053】
このように、復路地切り工程において、コンクリートCの放出によるクレーン1の姿勢変化を考慮した荷重解放時補正制御を行うことにより、バケット26は終点Bから復路旋回開始位置B2に向けて鉛直方向に略直線的に上昇するようになる。
【0054】
なお、マップM2の個数は1個に限定されず、吊り荷の荷重毎に複数のマップM2を備えてもよい。この場合は、クレーン1の不図示の荷重センサにより取得される荷の荷重に応じて、複数のマップM2から最適なマップを適宜に選択するように構成すればよい。また、荷重解放時補正制御は、フィードフォワード制御のみに限定されず、復路旋回開始位置B2と、バケット位置取得装置53により取得されるバケット26の現在位置との偏差に基づいて起伏ウィンチ22を駆動するフィードバック制御と組み合わせて行ってもよい。
【0055】
着床時補正制御部170は、本開示の降下時補正制御手段の一例であって、着床工程において、バケット26の水平方向(X-Y方向)位置が台座Pの座面から外れている場合に、起伏ウィンチ22及び、又は旋回装置24を駆動して、バケット26の台座Pに対する水平方向(X-Y方向)の相対位置を補正することにより、バケット26を台座Pの座面に確実に着床させる着床時補正制御を実施する。
【0056】
具体的には、制御装置100のメモリには、水平方向(X-Y方向)における台座Pの座面位置が目標着床位置として予め格納されている。着床時補正制御部170は、バケット26が復路旋回停止位置A2に到達すると、バケット位置取得装置53から入力されるバケット26の現在の水平方向(X-Y位置)位置と目標着床位置とを比較し、これらの偏差を求める。そして、着床時補正制御部170は、求めた偏差が所定の閾値(バケット26が台座Pの座面に着床できる値)を超えている場合には、偏差が当該閾値以下となるように起伏ウィンチ22及び、又は旋回装置24を逐次駆動させるフィードバック制御(例えば、PID制御)を実行する。
【0057】
このように、着床工程において、バケット26の水平方向位置と台座Pの座面位置との偏差に基づいて、バケット26の水平方向位置を適宜に調整する着床時補正制御を行うことにより、バケット26は始点Aに設けられた台座Pの座面に確実に着床するようになる。
【0058】
なお、着床時補正制御は、プレイバック制御を中断し、プレイバック制御による巻上ウィンチ20の駆動(巻下げ)が開始される前に実行してもよく、或は、プレイバック制御を中断することなく、プレイバック制御による巻上ウィンチ20の駆動(巻下げ)と並行して実行してもよい。また、バケット位置取得装置53は、GNSSに限定されず、ジブ14の先端位置を取得可能な他の公知のセンサ類を用いてもよく、或は、予め設定したクレーン1の所定の基準位置に対するジブ14の現在の旋回角及び、起伏角から、ジブ14の先端部に相当するバケット26のX-Y方向位置を推定演算するように構成してもよい。
【0059】
[自動運転の処理フロー]
次に、
図9,10に基づいて、本実施形態に係るクレーン1の自動運転による処理フローを説明する。
【0060】
図9に示すように、ステップS100では、プレイバック実行ボタン220がON操作されているか否かを判定する。プレイバック実行ボタン220がON操作されている場合(Yes)、本制御はステップS110の処理に進む、一方、プレイバック実行ボタン220がON操作されていない場合(No)、本制御は終了する。
【0061】
ステップS110では、プレイバック制御による巻上ウィンチ20の駆動(巻上げによるバケット26のZ方向への上昇)及び、荷吊り上げ時補正制御による起伏ウィンチ22の駆動(ジブ14の起伏によるバケット26のX-Y方向への調整移動)を実行する(往路地切り工程)。
【0062】
ステップS120では、バケット26が往路旋回開始位置A1に到達したか否かを判定する。バケット26が往路旋回開始位置A1に到達したか否かは、各種エンコーダ50,51,52により取得されるクレーン1の状態量に基づいて判定すればよい。バケット26が往路旋回開始位置A1に到達している場合(Yes)、本制御はステップS130の処理に進む。一方、バケット26が往路旋回開始位置A1に到達していない場合(No)、本制御はステップS110の処理に戻される。
【0063】
ステップS130では、プレイバック制御による旋回装置24及び、起伏ウィンチ22の駆動を実行し、バケット26を往路旋回停止位置B1に向けて旋回移動させる(往路旋回工程)。
【0064】
ステップS140では、バケット26が往路旋回停止位置B1に到達したか否かを判定する。バケット26が往路旋回停止位置B1に到達したか否かは、各種エンコーダ50,51,52により取得されるクレーン1の状態量に基づいて判定すればよい。バケット26が往路旋回停止位置B1に到達している場合(Yes)、本制御はステップS150の処理(荷降ろし工程)に進む。一方、バケット26が往路旋回停止位置B1に到達していない場合(No)、本制御はステップS130の処理に戻される。
【0065】
ステップS150では、バケット位置取得装置53から入力されるバケット26の現在の水平方向位置(X-Y位置)と、グランドホッパGHの枠内位置である目標荷降ろし位置との偏差が、所定の閾値(バケット26がグランドホッパGHの枠内に収まる値)を超えているか否かを判定する。
【0066】
偏差が閾値を超えている場合(Yes)、本制御はステップS160に進み、プレイバック制御による巻上ウィンチ20の駆動(巻下げによるバケット26のZ方向への降下)及び、荷降ろし時補正制御による起伏ウィンチ22と旋回装置24の駆動(ジブ14の起伏・旋回によるバケット26のX-Y方向への調整移動)を実行する。一方、偏差が閾値を超えていない場合(No)、本制御はステップS170に進み、プレイバック制御による巻上ウィンチ20の駆動(巻下げによるバケット26のZ方向への降下)のみを実行する。
【0067】
ステップS180では、バケット26からコンクリートCがグランドホッパGHに放出されたか否かを判定する。コンクリートCが放出されたか否かは、クレーン1に設けられた不図示の荷重センサに基づいて判定すればよい。コンクリートCが放出された場合(Yes)、本制御は
図10に示すステップS200に進む。
【0068】
図10に示すように、ステップS200では、プレイバック制御による巻上ウィンチ20の駆動(巻上げによるバケット26のZ方向への上昇)及び、荷重解放時補正制御による起伏ウィンチ22の駆動(ジブ14の起伏によるバケット26のX-Y方向への調整移動)を実行する(復路地切り工程)。
【0069】
ステップS210では、バケット26が復路旋回開始位置B2に到達したか否かを判定する。バケット26が復路旋回開始位置B2に到達したか否かは、各種エンコーダ50,51,52により取得されるクレーン1の状態量に基づいて判定すればよい。バケット26が復路旋回開始位置B2に到達している場合(Yes)、本制御はステップS220の処理に進む。一方、バケット26が復路プレイバック旋回開始位置B2に到達していない場合(No)、本制御はステップS200の処理に戻される。
【0070】
ステップS220では、プレイバック制御による旋回装置24及び、起伏ウィンチ22の駆動を実行し、バケット26を復路旋回停止位置A2に向けて旋回移動させる(復路旋回工程)。
【0071】
ステップS230では、バケット26が復路旋回停止位置A2に到達したか否かを判定する。バケット26が復路旋回停止位置A2に到達したか否かは、各種エンコーダ50,51,52により取得されるクレーン1の状態量に基づいて判定すればよい。バケット26が復路旋回停止位置A2に到達している場合(Yes)、本制御はステップS240(着床工程)の処理に進む。一方、バケット26が復路旋回停止位置A2に到達していない場合(No)、本制御はステップS220の処理に戻される。
【0072】
ステップS240では、バケット位置取得装置53から入力されるバケット26の現在の水平方向位置(X-Y位置)と、台座Pの座面位置である目標着床位置との偏差が、所定の閾値(バケット26が台座Pの座面に着床できる値)を超えているか否かを判定する。
【0073】
偏差が閾値を超えている場合(Yes)、本制御はステップS250に進み、プレイバック制御による巻上ウィンチ20の駆動(巻下げによるバケット26のZ方向への降下)及び、着床時補正制御による起伏ウィンチ22と旋回装置24の駆動(ジブ14の起伏・旋回によるバケット26のX-Y方向への調整移動)を実行する。一方、偏差が閾値を超えていない場合(No)、本制御はステップS260に進み、プレイバック制御による巻上ウィンチ20の駆動(巻下げによるバケット26のZ方向への降下)のみを実行する。
【0074】
ステップS270では、バケット26が台座Pの座面に着床したか否かを判定する。バケット26が台座Pの座面に着床したか否かは、クレーン1に設けられた不図示の荷重センサに基づいて判定すればよい。バケット26が台座Pの座面に着床した場合(Yes)、本制御は
図9に示すステップS100の処理に戻され、以降、プレイバック実行ボタン220がOFF操作されるまで、本制御は上述の各処理を繰り返し実行する。
【0075】
[作用効果]
次に、
図11に基づいて、本実施形態に係るクレーン1の自動運転装置及び自動運転方法の作用効果を、比較例を用いながら説明する。
【0076】
図11(A)は、本実施形態を説明する図であり、
図11(B)は、比較例を説明する図である。これらの図において、符号α
1、α
2、α
nは、プレイバック制御による自動搬送の繰り返しに伴うバケット26の始点Aに対する着床位置の一例を示している。また、符号β
1、β
2、β
nは、プレイバック制御による自動搬送の繰り返しに伴うバケット26の終点Bに対する荷降ろし位置の一例を示している。なお、何れの図においても、旋回工程の搬送軌道は、簡略化のため破線で直線的に示されている。
【0077】
図11(B)に示す比較例は、始点Aにおいて、荷吊り上げ時補正制御及び、着床時補正制御を行わず、且つ、終点Bにおいて、荷降ろし時補正制御及び、荷重解放時補正制御を行わない自動運転の一例である。この場合、プレイバックによる自動搬送を連続的に繰り返すと、荷吊り上げ時のコンクリートCの荷重に伴うクレーン1の姿勢変化、荷降ろし時のコンクリートCの放出(荷重解放)に伴うクレーン1の姿勢変化、コンクリートCの種類変更に伴う荷重変化、或は、ティーチング時とプレイバック時の風等の外乱変化の影響によって、着床位置α
1、α
2、α
n及び、荷降ろし位置β
1、β
2、β
nに誤差が生じるようになる。このような誤差が累積されると、プレイバックによる搬送軌道が当初の設定軌道から次第に大きくずれるようになり、自動搬送を継続させられなくなるといった課題がある。
【0078】
これに対し、
図11(A)に示す本実施形態の自動運転装置及び、自動運転方法によると、始点Aにおいては、荷吊り上げ時補正制御及び、着床時補正制御が実行され、終点Bにおいては、荷降ろし時補正制御及び、荷重解放時補正制御が実行される。すなわち、始点AからコンクリートCをバケット26と一体に吊り上げる際は、荷吊り上げ時補正制御によってバケット26がクレーン1の姿勢変化の影響を受けることなく略直線的に上昇し、終点Bにバケット26を降ろす際は、荷降ろし時補正制御によってバケット26がグランドホッパGHの枠内に確実に収められ、コンクリートCを放出したバケット26を終点Bから吊り上げる際は、荷重解放時補正制御によってバケット26がクレーン1の姿勢変化の影響を受けることなく略直線的に上昇し、始点Aにバケット26を着床する際は、着床時補正制御によってバケット26が台座Pの上面に確実に着床するように構成されている。
【0079】
これにより、プレイバック制御による自動搬送を繰り返しても、着床位置α1、α2、αnを始点Aの所望の定位置(台座Pの座面上)に維持でき、さらには、荷降ろし位置β1、β2、βnを終点Bの所望の定位置(グランドホッパGHの枠内)に維持できるようになり、誤差に伴う搬送軌道のずれを効果的に抑止することが可能になる。また、プレイバック制御による搬送軌道のずれが抑止されることで、クレーン1の自動運転を継続して行うことができ、サイクルタイムの短縮、さらには、ダム工事の工期短縮を図ることも可能になる。また、クレーン1の自動運転が可能になることで、手動操作によるオペレータの負担増加や人為的ミスの誘発を防止でき、熟練オペレータの不足等にも対応することが可能になる。
【0080】
[その他]
なお、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜に変形して実施することが可能である。
【0081】
例えば、上記実施形態の制御装置100に、往路旋回工程や復路旋回工程におけるバケット26の横振れ(荷振れ)を、例えば、フィードフォワード制御により抑制する荷振れ抑制機能をさらに追加して構成してもよい。
【0082】
また、バケット位置取得装置53は、ジブ14の先端部に設けられるものとして説明したが、バケット26に取り付けて、バケット26のX-Y方向位置を直接的に取得するように構成してもよい。
【0083】
また、クレーン1の自動運転制御は、ティーチングプレイバック方式に限定されず、巻上ウィンチ20、起伏ウィンチ22、旋回装置24の駆動を自動制御することにより、バケット26を予め設定した所定の搬送経路で移動可能な他の方式の自動運転制御を用いてもよい。
【0084】
また、本開示の適用は、ダム工事におけるコンクリートCの搬送に限定されず、プラント建設工事等の他の現場、或は、コンクリートC以外の他の搬送物の自動搬送にも広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 クレーン
2 基礎フレーム
10 マスト
11 昇降装置
12 旋回体
14 ジブ
20 巻上ウィンチ(駆動装置)
21 巻上ワイヤロープ
22 起伏ウィンチ(駆動装置)
23 起伏ワイヤロープ
24 旋回装置(駆動装置)
26 バケット(保持部)
50 旋回角取得エンコーダ
51 起伏角取得エンコーダ
52 昇降位置取得エンコーダ
53 バケット位置取得装置(位置取得手段)
100 制御装置
130 プレイバック制御部(自動運転制御手段)
140 荷吊り上げ時補正制御部(上昇時補正制御手段)
150 荷降ろし時補正制御部(降下時補正制御手段)
160 荷重解放時補正制御部(上昇時補正制御手段)
170 着床時補正制御部(降下時補正制御手段)