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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】歯科用治療器
(51)【国際特許分類】
   A61C 19/06 20060101AFI20221215BHJP
   A61C 5/40 20170101ALI20221215BHJP
   A61N 1/04 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
A61C19/06 Z
A61C5/40
A61N1/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020078032
(22)【出願日】2020-04-27
(65)【公開番号】P2021171348
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2020-05-29
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】510244396
【氏名又は名称】医療法人とみなが歯科医院
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富永 敏彦
【合議体】
【審判長】内藤 真徳
【審判官】松田 長親
【審判官】倉橋 紀夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-515640(JP,A)
【文献】特開2010-252997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C19/06
A61C19/00
A61C3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
能動針電極と、該能動針電極の電極を通すガイドスリーブと、該電極との間で電流を通すための対極と、前記電極および前記対極との間での通電を制御する通電制御器とからなり、
前記電極の先端部は常態で湾曲しており、
前記ガイドスリーブは、前記電極を人の歯の根管に挿入するために用いられる円筒状の部材であって、歯冠の天面から根管の先端近傍まで到達させる長さと、根管内に挿入できる外径をもち、セラミックス製である
ことを特徴とする歯科治療器。
【請求項2】
前記ガイドスリーブは、基部が太く先端が細いテーパー形状である
ことを特徴とする請求項1記載の歯科治療器
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科治療器に関する。さらに詳しくは、人の歯の根管に電極を挿入する際のガイドとして使うガイドスリーブを用いた歯科用治療器に関する。
【背景技術】
【0002】
人の歯の構造は、図6に示すように、歯冠aと歯根bとからなる。歯冠aは、エナメル質a1、象牙質a2、歯髄a3および歯肉a4からなる。歯根bは1~4本あり、セメント質b5で覆われている。歯根bは、内部に細長い孔である根管b9があり、その内部を血管b7と神経b8が通っている。歯根bは歯槽骨b6にとり囲まれ、歯槽骨b6によって支持されている。また、歯肉a4は歯槽骨b6の上部で歯冠aをとり囲んでいる。
人の歯が虫歯を病み、歯の神経b8に到達した細菌が根管b9を通って歯根周囲に到達すると、歯槽骨b6に病原因子を放出して、骨を溶かし吸収する。これを根尖病変という。図6において、太点線は根尖病変部Cを示している。
【0003】
根尖病変により歯槽骨b6が吸収されていくと、歯は歯槽骨b6による支持力を失って動揺しはじめる。そして、歯槽骨b6が歯根の2/3位まで、あるいは骨吸収が8mm位まで吸収されると、抜歯となるのが、現状の治療法である。
しかしながら、いったん抜歯すると、二度と歯を再生できないので、抜歯しないで治療できれば、その方が好ましい。
【0004】
上記のような根尖病変を治療する従来技術として、本発明者の提案による特許文献1の技術がある。
この従来技術は、通電により発熱する金属製の電極をもつ能動針電極を用いるもので、歯の根管に電極を差し込んで病変部に届かせ加熱する。病変部は加熱されると熱凝固され、歯根周辺の細菌も死滅させることができる。したがって、病変組織を切開する必要がない点で優れている。
【0005】
しかるに、上記従来技術のように、歯の根管に電極を差し込む場合、円滑に行えるようにすると医師にとっても患者にとっても負担が軽減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4469015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、歯科用治療器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明の歯科治療器は、能動針電極と、該能動針電極の電極を通すガイドスリーブと、該電極との間で電流を通すための対極と、前記電極および前記対極との間での通電を制御する通電制御器とからなり、前記電極の先端部は常態で湾曲しており、前記ガイドスリーブは、前記電極を人の歯の根管に挿入するために用いられる円筒状の部材であって、歯冠の天面から根管の先端近傍まで到達させる長さと、根管内に挿入できる外径をもち、セラミックス製であることを特徴とする。
第2発明の歯科治療器は、第1発明において、前記ガイドスリーブは、基部が太く先端が細いテーパー形状であることを特徴とする
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、つぎの効果を奏する。
a)電極をガイドスリーブを用いて歯の根管に差し込み、対極を人の口に取付け通電制御器から通電すると、能動針電極と対極との間に電流が流れる。それにより、電極における絶縁被覆層の無い先端部のみを発熱させることができ、根管病変部や炎症性肉芽組織が熱凝固・殺菌され従来の化学的・機械的治療によって治療不可能な根尖病変を改善することができる。
b)先端部から湾曲した電極であっても、円筒状のガイドスリーブの内壁に接触すると、先端部が真直ぐに近い形状になるので、根管内への電極の挿入が容易に行え、かつ電極を回転させやすいので、医師にも患者にも治療上の負担を軽減できる。セラミックス製であることにより、ガイドスリーブに耐熱性と絶縁性を与えることができる。
第2発明によれば、スリーブがテーパー形状であるので歯の根管内に挿入しやすく、しかも基部が太いので電極の挿入が容易である
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るガイドスリーブ5の説明図である。
図2】能動針電極Aの説明図である。
図3】本発明で用いられる歯科治療器Bの説明図である。
図4】能動針電極Aとガイドスリーブ5と電極1の挿入途中を示す説明図である。
図5】能動針電極Aとガイドスリーブ5と電極1の使用状態説明図である。
図6】人の歯の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の一実施形態に係る歯科治療器を構成するガイドスリーブ5を、図1に基づき説明する。
本発明におけるガイドスリーブ5は、歯科治療用、とくに後述する能動針電極Aの電極1(長さが20~40mm、直径が0.10~0.20mm位の大きさの針状金属)を人の歯の根管に挿入するために用いられる案内部材である。
【0012】
そこで、まず、ガイドスリーブ5の使用対象である能動針電極Aの基本構成を、図2に基づき説明する。同図において、1は電極、2はハンドル部、3は絶縁被覆層であり、この3部材で能動針電極Aが構成されている。
電極1は、通電により発熱する金属針であって、無負荷で先端部1aが湾曲した形状の超弾性合金からなる。
ハンドル部2は、医療従事者が能動針電極Aを取り扱いしやすくするために電極1の基部に形成されている。
絶縁被覆層3は絶縁剤を用いた被覆層であって電極1の大部分(先端部1aを除いた部分)の外面を被覆している。なお、絶縁被覆層3の無い電極1であっても、本発明のガイドスリーブ5の使用対象に含まれる。
【0013】
上記の電極1の挿通を案内するガイドスリーブ5は、円筒状の部材であって、歯冠の天面から根管の先端近傍まで到達させる長さと、根管内に挿入できる外径をもつスリーブである。
スリーブ5の長さL5は、12~27mmが好ましく、とくに20mm位が好ましい。20mmより短いと全歯種に対応できないという不具合が生じ、27mmより長いと操作性がわるいという不具合がある。上記範囲内であると、電極1を歯冠の天面から根管に挿入して根管の先端近傍まで到達させることができ、しかも効率的であり、かつ汎用性がある。
【0014】
前記ガイドスリーブ5は、基部が太く先端が細いテーパー状である。
スリーブ5の基端部の外径d1は、0.6~1.0mmが好ましく、とくに0.8mm位が好ましい。内径d2は、0.5~0.9mmが好ましく、とくに0.7mm位が好ましい。スリーブ5の先端部の外径d3は、0.25~0.45mmが好ましく、とくに0.35mm位が好ましい。内径d4は、0.15~0.35mmが好ましく、とくに0.25mm位が好ましい。このような寸法であると、後述する電極1(直径が0.10~0.20mm)を挿通しやすくなる。
【0015】
上記のガイドスリーブ5では、基端部の内壁d2が大きいので電極1の先端部1aが常態で湾曲していても、挿入しやすくなる。
図1に示すガイドスリーブ5はテーパー形状のものであるが、基端部と先端部が同径のストレート形状のものも、とくに制限なく使用でき、本発明に含まれる。
【0016】
ガイドスリーブ5の材質は、とくに制限なく種々のものを利用できる。
スリーブ5自体に耐熱性、耐摩耗性および絶縁性を付与するには、セラミックスが好ましい。また、セラミックスとしては、アルミナ、ジルコニア、チタン酸バリウムなどの酸化物系が好ましい。このようにガイドスリーブ5自体に絶縁性を付与した場合は、電極1自体が絶縁性をもたなくてもよいので、絶縁被覆層3の無い電極1の使用が可能である。
【0017】
一方、後述するように、電極1に絶縁被覆層3を設けて絶縁性を付与した場合は、スリーブ自体に絶縁性が無くてもよいので、スリーブ材としてステンレス鋼などの金属を利用できる。ステンレス鋼は耐食性が高いので、マルテンサイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼、析出硬化系ステンレス鋼などを利用するのが好ましい。ステンレス鋼を含む金属は、成形加工性に優れているので肉厚を薄く直径を細かく加工でき、機械的強度が高く折れにくいので扱いやすい。
【0018】
つぎに、ガイドスリーブ5と共に用いられる能動針電極Aの詳細を説明する。
電極1は超弾性合金製である。超弾性合金は、外力を加えると変形するが、外力を除くと母相に逆変態し元の形に戻る金属である。超弾性合金としては、チタンニッケル合金が一般的であるが、これに限らず、種々の合金を用いることができる。
電極1の先端部1aは外力を加えない状態では、図1の点線で示すように、湾曲している。ただし、外力を加えると真直ぐになる。真直ぐにする外力は小さい力でよく、たとえば歯の根管内を通すときに根管の内壁から受ける力で真直ぐに曲げられる程度でよい。なお、ここでいう「真直ぐ」とは、幾何学的な真直を意味するものではなく、多少湾曲していても根管内を通せる程度に直線に近い形状を含む意味である。
【0019】
電極1の長さL1は、20.0~40.0mmの範囲が好ましく、30.0mm位が最も好ましい。この長さであると、歯の根管を通し、歯根周囲まで深く、電極1の先端部1aを届かすことができる。一方、20.0mmより短いと歯根周囲まで届かず歯の再生治療を行うことができない。逆に40.0mmより長いと、電極1の湾曲、破折などの問題を生じ、扱いにくくなる。
【0020】
電極1の先端部1aの長さL1aは、1~3mm位が好ましいが、この寸法に限られない。
このように加熱部位を狭い範囲に限定すると、歯根上方を不要に加熱することなく、小さな電力で根尖病変部を加熱し、病原因子を加熱凝固・殺菌させることができる。
【0021】
電極1の直径は、0.10~0.20mmが好ましく、0.15mm位が最も好ましい。この直径であると、ガイドスリーブ5に無理なく通すことができる。0.10mmより外径が小さいと剛性が低くなり、折れやすく、扱いにくくなる。逆に0.20mmより大きいと、根管を通しにくかったり、操作性が悪い。
【0022】
電極1の形状は、基部から先端まで断面が円形のままの針状を例示できる。また、その針形状は、テーパー形状とストレート形状のいずれも採用できる。さらに、各針状は、スパイラル形状にしてもよい。
【0023】
テーパー形状の電極1は、基部が太く先端が細いので、ガイドスリーブ5への挿入が容易であり、しかも、基部が太いので折損なども生じにくい。テーパーは、1/100~6/100が好ましく、とくに2/100位が適当である。
【0024】
絶縁被覆層3の長さは、電極1の長さL1から先端部L1aの部分を除いたものである。
絶縁被覆層3を構成する絶縁剤は市販の絶縁コーティング剤をとくに制限なく使用できる。代表的には、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、シリコン、パリレン(日本パリレン合同会社の登録商標)などの各樹脂がある。
【0025】
絶縁被覆層3は、電極1の先端部1aを除いた部分(治療中は歯の内部に挿入される部分)で通電・発熱しないようにし、根尖病変部Cに進入した先端部1aのみで発熱させるために用いられている。
【0026】
つぎに、上記した能動針電極Aを用いた歯科治療器Bを説明する。
図3において、10は対極であって電極1との間で電流を流すために使用される。対極10の形状は任意であって、板状や棒状のものが特に制約なく使用される。対極10を治療する歯と同側の口角に引っ掛けるためフック11が用いられるが、フック11の形状も任意である。また、フック以外の任意の器具を用いてもよい。
一方、電極1の根元には、通電線を固定するクリップ12が止められる。そして、対極10とクリップ12との間には通電線を介して通電制御器13が接続されている。
なお、図3に示す電極1は絶縁被覆層3を有するものであるが、図の煩雑を避けるため符号3は記入していない。
【0027】
通電制御器13は、直流または交流の電源に接続して、能動針電極Aに通電する機器であって、公知の電気回路で構成されている。この通電制御器13を用いて、能動針電極Aと対極10に通電すると、断面積の小さい電極1で発熱し、その熱が電極1の先端部1aから病変部に伝えられる。
治療時には、電極1における先端部1aの発熱温度は100℃以上にするのが好ましい。
【0028】
通電波形については、連続波よりトーンバースト波を用いるのが好ましい。連続波の電流を流すと組織は切開されるが、断続波形であるトーンバースト波を流すと組織は熱凝固するからである。本明細書にいうトーンバースト波とは、半波方形型の波形であり、各波形が断続したものをいう。
【0029】
本発明のガイドスリーブ5および歯科治療器Bを用いた歯科治療方法を、図4および図5に基づき説明する。
図4において、Tは歯、b9は根管、Cは根尖病変部である。図示のごとく、まずガイドスリーブ5を歯Tの根管b9に差し込み、ついでこのガイドスリーブ5内に電極1が差し込まれる。電極1は絶縁被覆層3を形成したものである。ゆえに、ガイドスリーブ5はセラミックス製のものであっても、金属製のものであってもよい。なお、歯冠aには必要に応じ歯科治療器具でガイドスリーブ5を挿入するための孔が突孔される。
【0030】
電極1の先端部1aは常態では湾曲している(図2参照)が、電極1が細く湾曲しやすいことから、ガイドスリーブ5内への挿入中はガイドスリーブ5の内壁に当たって湾曲具合は矯正される。また、電極1自体が充分な長さを有しているので、電極1の先端部1aをガイドスリーブ5の奥深く差し込むことができ、かつ根尖部より先に届かせることができる。
【0031】
図5は、電極1の先端部1aが根尖部から下に突き出た状態を示している。本発明の電極1は細長く柔らかいので、根管b9から根尖孔を通過させて根尖外に突き出し、根尖病変部Cまで届かせることができる。この状態では、外力が除荷されているので、電極1の先端部1aが元戻りに湾曲して根尖部の外面に接触する。この状態で、ハンドル部2を手で回転させると電極1はガイドスリーブ5内で回転し、電極1の先端部1aも回転して根尖部外面にこびりついた細菌bcをそぎ落とすことができる。
【0032】
ついで、図3に示す通電制御器13により通電すると、口の中の水分を介して電極1の先端部1a→根尖病変部C→歯根膜腔→歯肉→頬粘膜→対極10と電流が流れる。このとき、電極1の発熱している先端部1aを根尖部の外周に沿って回すと、歯根外表面全体を能率よく加熱することができる。これにより、根尖病変部C膿や炎症性肉芽組織が加熱され、熱凝固・殺菌する。
そして、ガイドスリーブ5があると電極1を回転しやすいので、治療時間も短縮でき、医師と患者への負担を軽くできる。
【符号の説明】
【0033】
A 能動針電極
1 電極
3 絶縁被覆層
5 ガイドスリーブ
B 歯科治療器

図1
図2
図3
図4
図5
図6